説明

航空機のジェットエンジンのナセルと該ナセルを備える航空機

バイパス比が大きな航空機のジェットエンジン(10)のナセルとして、長手方向の軸線(X)を有するジェットエンジンが中に設置されていて、そのジェットエンジンを中心としてその少なくとも一部のまわりを同心円状に取り囲む壁部(24)を備えており、そのジェットエンジンとで流体の内部流の環状ダクト(26)を規定し、ナセル壁部の下流端にはある断面の流出用通路を有する構成のナセルにおいて、このナセルが、命令によってナセル壁部の一部(24b)を移動させることで流出用通路の断面を変化させる手段(40)を備えていて、この移動により、長手方向に延びる少なくとも1つの開口部(28)をナセル壁部に作り出すことと、このナセルが、流れの一部で流出流である部分がその少なくとも1つの開口部を通って自然に流出しないようにするため、少なくとも1つの開口部(28)の長手方向に延びている部分の少なくとも一部に沿って延びる流体バリア(fi)を形成する装置(30)を備えることを特徴とするナセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変筒体を有するシステムを備える航空機のジェットエンジン用ナセルに関する。
【背景技術】
【0002】
可変筒体を有するシステムは、そもそもは軍用機の用途で開発された。
このシステムにより、タービンエンジンの熱力学的性能を著しく改善することができる。
これまで、定期航空機に取り付けられたタービンエンジンには可変筒体を有するシステムが取り付けられていない。
というのも、可変筒体を備える従来のシステムは、断面を変化させねばならない筒体の周辺部に直接関係するサイズ上の制約が非常に厳しいからである。
ところで定期航空機に取り付けられたタービンエンジンは、バイパス比がほぼ4〜8と大きく、筒体の直径が比較的大きくなることを特徴とする。
【0003】
このような理由で、定期航空機に可変筒体を有する従来のシステムを統合すると、ジェットエンジンのナセルの複雑さと重量が著しく増大し、しかも推力システムの空気力学的品質が低下する危険性がある。これは受け入れられない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、バイパス比が大きな航空機のジェットエンジンのナセルとして、長手方向の軸線を有するジェットエンジンが中に設置されていて、そのジェットエンジンを中心としてその少なくとも一部のまわりを同心円状に取り囲む壁部を備えており、そのジェットエンジンとで流体の内部流の環状ダクトを規定し、ナセル壁部の下流端にはある断面の流出用通路を有する構成のナセルにおいて、このナセルが、命令によってナセル壁部の一部を移動させることで流出用通路の断面を変化させる手段を備えていて、この移動により、長手方向に延びる少なくとも1つの開口部をナセル壁部に作り出すことと、このナセルが、流れの一部で流出流である部分がその少なくとも1つの開口部を通って自然に流出しないようにするため、少なくとも1つの開口部の長手方向に延びている部分の少なくとも一部に沿って延びる流体バリア(fi)を形成する装置を備えることを特徴とするナセルを目的とする。
【0005】
ナセル壁部の一部を移動させて流出用通路の断面を変化させることにより、バイパス比が大きな、それどころか非常に大きなタービンエンジンにおいて可変断面を有する筒体が簡単かつ容易に実現される。
【0006】
さらに、流体制御装置により、壁部に設けられた開口部を内部流の一部(流出流)が自然に通過するのを制限、それどころか阻止することが簡単にできる。というのも、流体制御装置は、開口部の中に、または開口部の入口近くに、流体の制御された流れの形態になった障壁を生成させるからである。この流体スクリーンは、開口部の長手方向の延長部に沿って長手方向に延びている。この流体バリアが存在することで、環状ダクトの中で流体の内部流を一定方向に誘導する。
【0007】
したがって、作り出された開口部を通ってナセルから出ていく流出流が生じることはありえない(しかしいくつかの場合の重要ではない非常に少量の流れは別である)。したがって本発明のおかげで流体の内部流のほぼすべてがジェットエンジンの推力に寄与し、しかもそれが直接的になされる。したがって本発明により、可変筒体を有するシステムを備えるジェットエンジンの効率を、可変筒体のメカニズムによって作り出される開口部から流出流の全体が出ていく可変筒体を有するシステムを備えるジェットエンジンと比べて大きくすることができる。
【0008】
この流出流がほとんど発生しないようにすることで、流体バリアのない可変筒体を有するシステムだけを備えるジェットエンジンと比べて空気力学的損失が著しく小さくなる。すなわち乱流現象がほとんどなくなり、そのことによって抗力が小さくなる。したがって推力システムの空気力学的性能が改善される。
【0009】
バイパス比が大きなタービンエンジンでは、ファンの直径は非常に大きいため、流出用通路で生じる可能性のある断面変化が十分に大きくなり、ファンの挙動に大きな影響を与える。したがって各飛行段階における推力システムの効率が大きくなる。
【0010】
さらに、可変筒体を有するシステムを定期航空機に取り付けられるタービンエンジンに合わせると、低速での飛行段階(離陸、着陸進入、着陸)において、タービンエンジンの下流で空気を排出する速度を小さくすることができる。するとそれに付随する音波の発生が同様に少なくなる。これは、騒音に関する制約が定期航空機に関してますます厳しくなっている現在の航空機の業界において決定的な1つの利点である。
したがって可変筒体を有するシステムは、バイパス比が大きな、それどころか非常に大きなタービンエンジンに統合されたとき、空気力学的性能と熱力学的性能に関して純粋な利点となる。
【0011】
1つの特徴によれば、流体バリアを形成する装置は、少なくとも1つの開口部に直角に高エネルギー流体を注入する手段を備えている。
この流体制御装置は単純かつ効果的である。なぜなら流体を注入する固定手段の助けを借りていて、利用されるエネルギーはナセルそのものに由来する(例えばジェットエンジンからの加圧空気)からである。
【0012】
注入される流体の熱力学的パラメータと空気力学的パラメータのうちの少なくとも1つにより、流出流を向かわせる方向と、この流れの量を制御することができる。
同じ1つまたは複数の熱力学的パラメータと空気力学的パラメータを用い、流出流の方向を制御するとともに、そのようにして方向を制御される流出流の量を制御できることに注意されたい。
【0013】
一般に、流体制御装置の効率(流体制御装置なしの状態での全流出に対する制御された流出の割合)は、注入される高エネルギー流体の空気力学的特性(速度、乱流の割合など)と熱力学的特性(圧力、温度、流量など)の関数である。
【0014】
一実施形態では、ナセルは、内部流の少なくとも一部を制御された状態で取り出し、少なくとも1つの開口部を通じてナセルの外にその少なくとも一部の内部流を流出させる流体制御装置も備えている。
したがってナセルは、機能が異なっていて同時には機能しない2つの流体制御装置を備えている。一方は、流出流の全体または一部が少なくとも1つの開口部を通過するのを妨げ、他方は、内部流の一部を制御されたやり方で取り出し、制御された方向に沿って(上流に向かって、または横断方向に、または下流に向かって)流出させる。
【0015】
1つの特徴によれば、一部を制御された状態で取り出す流体制御装置は、流体の内部流の中に高エネルギーの流体を注入する手段を備えている。
1つの特徴によれば、注入手段は、少なくとも1つの開口部の上流および/または下流に設けられている。
1つの特徴によれば、注入手段がナセル壁部の内面および/または外面に設けられていて、環状ダクトの外周部を規定している。
【0016】
注入手段がナセル壁部の内面と外面に設けられていると、流体流を二重に制御することができる。すなわち壁部の外面から注入された流体による制御された流れは開口部の中に流体バリアを形成し、内面から注入された流体による制御された流れは、推力を逆転させる流体システムを実現する。
しかし壁部の内面から作用する制御された第2の流れも、少なくとも1つの開口部に直角な流体バリアを形成するのに利用できることに注意されたい。
【0017】
1つの特徴によれば、流体バリアを形成する装置は、ナセル壁部の内面に設けられた注入手段に隣接して配置されていて注入された流体を偏向させる少なくとも1つの可動式偏向部材を、少なくとも1つの開口部の中の少なくとも一部に備えている。
偏向部材は、注入された流体流を偏向させ、壁部の内面とほぼ平行な方向を向けるのに役立つ。壁部とは独立したこの偏向部材がないと、注入された流体流は、注入手段の開放端の接線方向を向いた平面に張り付くであろう。
【0018】
制御された状態で注入されてこのように方向づけられた流れは、少なくとも1つの開口部に直角に、内部流の外縁部を流れる流体バリアを形成する。
より詳細には、流体は、少なくとも1つの開口部の上流に位置する領域から注入される。
【0019】
1つの特徴によれば、少なくとも1つの偏向部材が、少なくとも1つの開口部の上流領域である領域を塞ぎ、下流領域である領域を開放されたままの状態にする。
注入されて偏向部材によってこのように向きを変えられた流体流は、この偏向部材とほぼ平行な軌跡をたどり、開口部の上流領域に垂直に(すなわち偏向部材に沿ってと開口部の下流領域に沿って)流れるため、内部流に対してこの領域を隠す。
【0020】
1つの特徴によれば、少なくとも1つのその偏向部材は、ナセル壁部の可動部の繰り抜きの中に収容することができる。
この配置により、引っ込んだ状態でナセルの内部に空気力学的動作線を得ることができて、推力システムの空気力学的抗力が制限される。
【0021】
注入手段が少なくとも1つの開口部の下流に設けられているときには、その注入手段は、例えばナセル壁部の外面に設けられて、その少なくとも1つの開口部の長手方向延長部に沿って流体バリアを作り出すことができる。
【0022】
1つの特徴によれば、流体制御装置は、高エネルギーの流体を注入する少なくとも1つの噴流ノズルを備えている。
1つの特徴によれば、その少なくとも1つの注入用噴流ノズルは、円形または半円形である。
1つの特徴によれば、その少なくとも1つの注入用噴流ノズルは、ナセル壁部に少なくとも一部が設けられた流体誘導路に通じている。
1つの特徴によれば、流体の注入は、連続的に、またはパルス式に行なわれる。
【0023】
1つの特徴によれば、流体制御装置は、注入手段の開放端に接するように設けられた湾曲面を備えていて、注入された流体を少なくとも1つの開口部の方に向ける。
湾曲面(凸面)により、この面の接線方向に注入される高エネルギーの流体噴流を偏向させることができる。
【0024】
注入手段がナセル壁部の外面に設けられていると、流体は環状ダクトに向かって注入され、流出流の全体または一部が通過することが阻止されることに注意されたい。
1つの特徴によれば、環状ダクトの内部において、ジェットエンジンは外面を持ち、ナセル壁部の移動可能な部分は内面を持つため、その壁部が移動したときにその外面と内面が協働して流出用通路の断面を変化させる。
【0025】
1つの特徴によれば、ナセル壁部の移動可能な部分はこの壁部の下流部であり、そこにはこの壁部の後縁が含まれる。この下流部は、環状ダクトに沿って長手方向に下流に向かう並進移動により、いかなる開口部も作られない第1の位置と、開口部が作り出される第2の位置の間を移動できる。
【0026】
並進移動する筒体・システムは、複雑さ、重量、空気力学的抗力の点で、バイパス比が大きいジェットエンジンに組み込むのに最も障害が少ないシステムである。確かに、このシステムを利用すると、筒体の運動は、ジェットエンジンの軸線に沿ったナセル後部の単なる並進運動になる。さらに、ナセルの内部と外部の空気力学的な流れは、引っ込められた位置ではほとんど乱されない。
【0027】
本発明は、少なくとも2つのナセルを備えていて、それぞれのナセルが、ナセルに関して上に簡単に説明した少なくとも1つの側面に合致している航空機も目的とする。
【0028】
他の特徴と利点は、添付の図面を参照して行なう単なる例示としての以下の説明に現われるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による航空機の全体概略図である。
【図2】第1の実施形態による航空機のナセルの縦断概略図である。
【図3】図2の流体制御装置の部分拡大概略図である。
【図4】ナセル壁部の後部を移動させる機構が引っ込んだ状態の概略図である。
【図5】ナセル壁部の後部を移動させる機構が引き出された状態の概略図である。
【図6】第2の実施形態による航空機のジェットエンジンのナセル壁部の縦断面の一部を示す(図3と同様の)概略図である。
【図7】図6に示した実施形態の別の動作モードを示している。
【図8a】第3の実施形態のナセルの1つの動作モードを示す縦断面図である。
【図8b】第3の実施形態のナセルの1つの動作モードを示す斜視図である。
【図8c】第3の実施形態のナセルの1つの動作モードを示す部分拡大図である。
【図9a】第3の実施形態のナセルの別の動作モードを示す縦断面図である。
【図9b】第3の実施形態のナセルの別の動作モードを示す斜視図である。
【図9c】第3の実施形態のナセルの別の動作モードを示す部分拡大図である。
【図10a】第3の実施形態のナセルのさらに別の動作モードを示す縦断面図である。
【図10b】第3の実施形態のナセルのさらに別の動作モードを示す斜視図である。
【図10c】第3の実施形態のナセルのさらに別の動作モードを示す部分拡大図である。
【図11】第4の実施形態によるナセル壁部の(図6および図7と同様の)部分縦断概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に全体を参照番号10で示したように、商用航空機(定期航空機)は、その航空機の主翼の下に固定されたジェットエンジン用ナセル12を複数個備えている。
例えば航空機10には2つのジェットエンジン用ナセルがあってそれぞれ1つの翼11、13に固定されているが、航空機のいろいろなモデルでは複数のジェットエンジン用ナセルを同じ1つの翼に固定することができる。
さらに、ジェットエンジン用ナセルを胴体に直接固定することも考えられる。その場合、ジェットエンジン用ナセルは胴体の両側に、または胴体後方の上部に固定される。
【0031】
図2には、本発明によるナセル12の1つを縦断面の概略図として示してある。
ナセルの内部に設置されていて縦軸Xを持つジェットエンジン14は、上流側(図の左側)にある入口にシャフト18を有するタービンエンジン16を備えていて、そのシャフトにはファン22の羽根20が取り付けられている。タービンエンジンは、ターボファンエンジンでバイパス比が大きい(比が5以上)タイプである。
本発明は、非常に大きな(10に近い)バイパス比を持つタービンエンジンにも適用されることに注意されたい。
【0032】
ナセル12はジェットエンジン14をそのジェットエンジンの上流部において取り囲んでいるのに対し、ジェットエンジンの下流部は、ナセルの下流部から突起している。その様子を図2に部分的に示してある。
より詳細には、ナセル12は、ジェットエンジンを中心としてそのまわりを同心円状に取り囲む壁部24を有する。その結果として壁部とジェットエンジンで環状ダクト26が形成され、そのダクトを流体(ここでは空気)が流れる。
【0033】
図2からわかるように、ナセルの入口に到着する空気(矢印Fで表示)はナセルの内部に侵入する。すると第1の流束(一次流という)がタービンエンジン16の中に侵入して燃焼に関与し、シャフト18を駆動し、したがってファン22を回転させる。この一次流はその後エンジンのジェットノズル17によって排出され、タービンエンジンの推進力の一部となる。
羽根によって推力を与えられた空気の第2の流束(二次流という)は環状ダクト26を通過し、ナセルの下流部26aから排出される。したがってこの二次流が推進システムの推進力の大部分を構成する。
【0034】
ナセルの壁部24は2つの部分からなることに注意することが重要である。すなわち、タービンエンジンの前部の空気力学的カウリングを実現している上流部24aと、ナセル壁部の後縁を含んでいて、固定された第1の部分に対して長手方向に(X方向に沿って)並進移動できる下流部24bである。
図2からわかるように、下流部24bは、引っ込んだ第1の状態がこの図の上部に示してある。この状態では環状ダクト26への内部流Fiがナセル壁部によって導かれてこのダクトを通過し、開放された下流端26aに到達する。この状態は、本発明が実施されない飛行段階で利用される。
【0035】
タービンエンジン16は、ダクト26に沿って下流端26aに近づくにつれて直径が大きくなる外面16aを有することに注意されたい(図2の上部)。タービンエンジンの外面16aの形状は、頂部が上流を向いた円錐の一部に似ている(円錐台形)。
【0036】
下流部24bの内面のほうは、下流端26aに近い部分ではダクトに沿ってその下流端まで直径が小さくなっていく。内面のこの部分25の形状は、頂部が下流を向いた円錐の一部に似ている。
ナセル壁部の下流部24bは、(例えば操縦席から送られる信号に基づく)命令によって移動する。引っ込んだ第1の状態から図2の下部に示した引き出された第2の状態へと、(例えば壁部24aに軸線Xに平行に取り付けた油圧ジャッキの作用によって)連続的に、または不連続に並進移動する。
【0037】
引き出された第2の状態では、径方向または環状の開口部28が壁部24に作り出される。この開口部は、上流部24aと下流部24bの間の位置で環状ダクト26の外周部に設けられていて、縦軸に平行に長手方向のあるサイズを有する。
ナセル壁部の下流部24bは、それぞれ独立に移動可能な複数の半環状部分(リングの一部の形状)で構成し、その複数の半環状部分が集まって完全なリングが形成されるようにできることに注意されたい。
【0038】
したがってそれぞれの半環状部分が下流に向かって移動すると、ナセル壁部にさまざまな半環状開口部が形成される。
この移動は、ジェットノズルの内部において、下流部24bの内面と、その内面と向かい合うタービンエンジン16の外面とによって規定される流出用通路の断面を変えることを目的としている。
【0039】
例えば下流部24bが後方に移動すると(図2の下部)、流体流を排出する通路の断面が下流端26aにおいて大きくなる。すなわち、下流部24bの壁部の内面の部分25と、タービンエンジンの外面のうちで直径が最大の領域の下流に位置する領域16bの間に、末広ノズルが形成される。その結果、内部流の膨張率が変化し、最大推力が誘起される。
【0040】
ナセル壁部の上流部24aと下流部24bは、互いに接触することになる端部領域(接続領域)が相補的な形状になっているため、これら2つの部分で構成されるシステムは、互いに接触しているときにはつながっていることに注意されたい(図2の上部)。
例えば上流部24aと下流部24bは、互いに向かい合った端部領域に、それぞれ曲率がほぼ逆の形状の2つの面を有する。すなわち上流部24aの端面24cは凸形状であるのに対し、下流部24bの端面24dは凹形状である(図2と図3)。
【0041】
図2の下部と図3に示してあるように、端面24cと端面24dが離れたとき、その2つの端面によって開口部28が形成される。
端面24dは、上流部24aと下流部24bの接続部において下流部24bの外面につながる。
下流部24bは、端面24dから後縁を形成する尖った点24eに近づくにつれて薄くなっていくことに注意されたい。
【0042】
さらに、補助装置がないと、ダクト26の中を流れる流体の内部流Fiのわずかな部分が、開口部28の径方向に自然に流出する可能性があろう。
流れのこの部分を流出流と名づける。
この流出流の全体または一部を阻止するための流体バリアを作るため、流体制御装置30がナセルの壁部に設けられている。
【0043】
図2からわかるように(そして図3により詳細に示してあるように)、流体制御装置30は、例えばナセル壁部の固定された上流部24aの中、すなわち開口部28の上流で上流部24aと下流部24bの接続領域に設けられる。
流体制御装置30は、ナセル壁部の上流部24aの外面31に設けられている。
流体制御装置30は、ナセルの可動部材が移動して可変断面式筒体の断面を変化させるとき、環状ダクトに向けて高エネルギー流体を開口部28に直角に注入することのできる手段を備えている。
【0044】
流体のこの注入は、上流部24aの外面31のほぼ接線方向になされる。
より詳細には、流体制御装置30は、上流部24aの端面24c近くに高エネルギー流体の誘導路を備えている。その流体は、例えば、ジェットエンジンから来る加圧された空気である。
流体のためのその誘導路は、タービンエンジン16の加圧空気源または空気エネルギー発生補助装置(例えば圧縮機)に通じる部分(図示せず)を備えている。
【0045】
誘導路は環状部32も備えており、その一部を図2と図3に断面図として示してある。環状部32は開口部28の周辺部へと延びており、トーラスの1つまたは複数の弧状部分の形態、または完全な1つのトーラスの形態にされて、ナセル壁部の上流部の外面31に設けられている。
【0046】
流体制御装置30はさらに、環状部32に通じていて端面24cが始まる場所に出口がある1つまたは複数の注入用噴流ノズル34を備えている。
そのため上流から開口部28の中に高エネルギー流体を注入することができ、この流体が、内部流Fiが開口部に近づくのを阻止する、または制限する流体バリアfiを形成する(図3)。
この流体バリアは開口部28の長手方向の全長に沿って延びているため、内部流Fiが開口部から流出するとしたら利用するであろうほぼ全スペースを占める。
図3では、注入された流体は、内部流Fiと同じ方向に流れる。
【0047】
湾曲面35が、注入用噴流ノズル34の出口に、この噴流ノズルの接線方向に設けられていて、端面24cを構成する。この面は、例えば半円形である。
誘導路がトーラス状区画(トーラスの弧状部分)または完全な1つのトーラスの形態にされていると、噴流ノズルは、そのトーラス状区画(半環状噴流ノズル)または完全な1つのトーラス(環状噴流ノズル)の全長にわたって延びるスリットの形態を取れることに注意されたい。
同じ1つのトーラス状区画または完全なトーラスに関し、対象とするそのトーラス状区画または完全なトーラスに別々の複数の注入用噴流ノズルが分布しているようにすることもできる。
【0048】
図2と図3からわかるように、環状部32からの加圧流体は、注入用噴流ノズル34により、ジェットの形態で、開口部の中に、外面31の接線方向に導入される。
このようにして注入されたジェットは、湾曲面35から離そうとする遠心力が壁部とジェットの間に現われる圧力低下と釣り合っている限り、噴流ノズルから湾曲面35の接線方向に沿った所定の方向に出ていき、この面の形状にぴたりと一致する(図3)。
【0049】
図3からわかるように、注入用噴流ノズル34を通じて注入されるジェットは、湾曲面35によって方向が変化し、環状ダクト26の方を向く。
注入用噴流ノズル34から注入される流体のエネルギーの寄与により、注入される流体噴流の方向を制御することができる。
ジェットの向きは、流体の熱力学的パラメータと空気力学的パラメータ(すなわち、圧力および/または温度および/または流量および/または速度および/または乱流の割合など)のうちの少なくとも1つの関数として変化する。
【0050】
流体制御装置によって注入されて開口部の入口を長手方向に延びる流体噴流を利用すると、開口部を通過する流出流の発生を妨げつつ、空気力学的誘導力によって流体の内部流Fiが開口部28の位置でナセル壁部の内面にほぼ平行に流れるように誘導することができる。
内部流Fiは、周辺部でこのようにして誘導され、ナセル壁部に径方向の開口部が存在していないかのようにして開放端部26aに至る。
【0051】
流体バリア(流体の制御された流れ)は、上流部24aの延長部に位置していて開口部28を閉じる一種の人工壁を構成する。
このようにして、本発明により、可変筒体を有するシステムを備えているが流体バリアはないナセルで得られるであろう直接的なジェットの推力と比べ、直接的なジェットの推力を大きくすることができる。
【0052】
好ましいことに内部流Fiのほぼすべてがジェットエンジンの全推力に寄与するため、並進移動する可変筒体の推力の全体的効率を大きくすることができる。
例えば誘導用流体の流量と圧力を大きくすると、流体噴流は、湾曲面35に張り付くとともに、一般に端面24cの全体またはほぼ全体にも張り付く。
【0053】
熱力学的パラメータと空気力学的パラメータのうちの1つだけ(例えば流量)を変化させることで、効果的な流体バリアを構成できることに注意されたい。
例えば隔膜タイプの構成を利用して注入用噴流ノズルの出口にある注入用オリフィスのサイズを変化させることで、注入速度を変化させ、したがって注入する流体の流量を変化させることができる。
さらに、流体制御装置が作動しているとき、流体の注入は、連続流で実現してもよいし、注入される流体の消費を制限するためにパルス流で実現してもよい。
【0054】
本発明の装置の機能と関係する空気力学的な力は、主として、ナセル壁部に環状に配置された流体制御装置30に集中することに注意する必要がある。その結果、伝わる力をナセル構造の中によりうまく分布させ、したがってナセル構造の形状と重量を最適化することができる。
さらに、流体制御装置をナセルの壁部と一体化しても、ナセルの内面と外面の音響処理にほとんど影響しない。
【0055】
なぜなら、図2の上部に示した引っ込んだ状態では、本発明の流体制御装置だと、ナセル壁部の内面と外面のほぼ全体に音響コーティングを施すことができるからである。
さらに、流体制御装置30のサイズは比較的小さいため、ナセルの中に統合することが容易である。
開口部28の上流に流体制御装置30が位置することで、この流体制御装置が特に効果的な流体バリアを簡単に形成できることに注意されたい。
【0056】
図4に、ナセル壁部の下流部24bを並進移動によって移動させる手段の一実施形態を示してある。
上流部24a内で流体制御装置30が存在しない領域に設けられた内側収容部には、例えば空気圧または油圧タイプの複動ジャッキ40が収容されている。
ジャッキの固定部42または本体は収容部の奥に固定されているのに対し、ジャッキの可動部44またはシャフトは、下流部24bに固定されている。
この図では、下流部24bは並進移動しておらず、引っ込んだ状態の上流部24aに接している(引っ込んだジャッキ)。
【0057】
図5では、ジャッキのシャフト44を外に出す命令を受けて下流部24bが引き出されているため、ナセルの壁部に、上流部24aと下流部24bの接続部から始まる開口部28が作り出される。
このタイプのジャッキを例えば上流部24aの周囲に複数個設けると下流部が効果的に並進移動することに注意されたい。
【0058】
本発明は、並進移動タイプではない可変断面筒体を有する、バイパス比が大きな、または非常に大きなタービンエンジンにも適用される。
このようなタービンエンジンに取り付けられた可変断面筒体は、航空機のさまざまな動作段階(巡航飛行、低速飛行)に合わせることが可能であることに注意されたい。
【0059】
可変筒体を有するシステムを大きなバイパス比を持つタービンエンジンに統合すると、そのタービンエンジンの熱力学的性能が著しく改善される。
なぜなら、定期航空機に取り付けられていてバイパス比が非常に大きい(10に近い)タービンエンジンでは、タービンエンジンの全推力に主として寄与するファンの圧縮比は小さいからである(約1.4)。その結果、航空機の飛行速度(音速)に対するこのファンの空気力学的性能の感度が向上する。
【0060】
可変筒体を有するシステムが取り付けられていなくてバイパス比が非常に大きいタービンエンジンの場合には、ファンに関して選択される空気力学的動作線は、巡航飛行中の空気力学的効率と、低速飛行でのエンジンの不規則運動(エンジンが完全である上で有害な非定常現象)の間の妥協の産物である。
それに対して可変筒体を有するシステムが取り付けられていてバイパス比が非常に大きいタービンエンジンの場合には、筒体の出口の断面がファンの機能領域に合っているため、このような妥協は不要である。したがって飛行中の各段階におけるタービンエンジンの効率は大きくなる。
【0061】
第2の実施形態によれば、図6と図7は、図3と同様、ナセル壁部の上流部50aの構造を示しており、ナセル壁部の下流部50bが後方に並進移動することで1つまたは複数の径方向の開口部(そのうちの1つの開口部28だけを示してある)が作り出される。
これらの図面では、ナセル壁部の上流部50aに、図2および図3の流体制御装置30とは異なる流体制御装置52が組み込まれている。
【0062】
この第2の実施形態では、ナセルの他の要素は、図2および図3を参照して説明したのと同じである。
流体制御装置52は、実際には流れを制御する二重システムであり、図2および図3の流体制御装置30と同じ流体バリアを形成する第1の流体制御装置54と、第1の流体制御装置とは独立で、ここで考えている例では別の機能を保証する第2の流体制御装置56を備えている。その別の機能についてはあとで説明する。
【0063】
これら2つの流体制御装置は、下流部50bが図2の上部に示した引っ込められた位置にあるときのその下流部50bとの接続領域の近くに設けられている。
したがって第1の流体制御装置54により、この流体制御装置がなければ発生して開口部28を通過するであろう空気力学的流出を制限しつつ、それどころか阻止しつつ、ダクト26での内部流Fiの空気力学的流れを制御することができる。
【0064】
第2の流体制御装置56は、ナセル壁部の中に配置され、環状ダクト26の外側の境界を定めている上流部50aの内面50cに位置している。
ナセルの可動部材(例えば下流部50b)が引き出されているとき、この第2の流体制御装置が作動すると、この第2の流体制御装置により、推力を逆転させる機能を保証しつつ内部流Fiの空気力学的流れを制御することができる。
【0065】
したがって流体の流れを制御するこの二重システムは、移動する追加の部材を介入させることなく異なる2つの機能(流出の制限と、“推力の逆転”)を保証しているため、補助の制御装置が不要になる。
より詳細には、流体制御装置56は、ある量の内部流、すなわち内部流の一部をダクト26から取り出すことの制御と、径方向の開口部28によってナセルの外にそれを制御された状態で排出することが想定されている。
【0066】
そうするため、流体制御装置56は、内部流Fiの中に高エネルギー流体を注入することができる。
流体のこの注入は、流れの方向を変えるべき領域内で、すなわち上流部24aの後縁のわずかに上流で、内面50cのほぼ接線方向になされる。
【0067】
より詳細には、流体制御装置50cは、流体の誘導路を備えている。流体は、例えばジェットエンジンからの加圧された空気である。
流体のこの誘導路は、タービンエンジン16の加圧空気源に通じる部分(図示せず)と、環状部58(図7に断面図として一部を図示)を備えている。この環状部58は、流体制御装置30または54と同様にして実現される。
【0068】
流体制御装置56は、環状部58に通じていて内面50cに出口がある1つまたは複数の注入用噴流ノズル60をさらに備えている。そのため開口部28の近くでダクト26の内部流Fiの中に高エネルギー流体を注入することができる(図7)。
上流部50aの後縁とこの上流部の端面を構成している湾曲面62が、注入用噴流ノズル60の出口に、この噴流ノズルの接線方向に設けられている。図6と図7の縦断面図によれば、この湾曲面は例えば半円形である。
【0069】
図6と図7からわかるように、誘導路によって運ばれる加圧流体は、注入用噴流ノズル60により、ジェット64の形態で、内面50cの接線方向に沿って内部流Fiの中(より詳細には、その周辺部)に注入されるため、この流れの一部が制御された状態で変化する。
このように注入されたジェットは、後縁から離そうとする遠心力が壁部とジェットの間に現われる圧力低下と釣り合っている限り、図7に示したように噴流ノズルから湾曲した後縁の接線方向に沿って所定の方向に出ていき、この後縁の形状にぴたりと一致する。
したがって注入された流体噴流は湾曲面62によって向きを変えられる。
平衡が破れると、流れの中に注入されたジェットは後縁から離れ、分離点において、輪郭の後方終了点を形成する。
【0070】
図7からわかるように、流体の内部流Fiの一部F'iは、注入されたジェットの作用によって軌跡が変化する。
注入用噴流ノズル60によって注入された流体のエネルギーの寄与により、分離点の位置を制御することができる。
ジェットが湾曲面62から離れる点の位置を変えることにより、注入される流体噴流の方向が制御されることに注意されたい。
したがって湾曲面62上のどの領域でジェットが離れるかに応じ、取り出された流れの一部F'iが異なる方向を向く。
【0071】
流体噴流が離れるこの点、すなわちジェットの方向は、流体の熱力学的パラメータと空気力学的パラメータのうちの少なくとも1つ(例えば圧力および/または温度および/または流量および/または速度および/または乱流率など)の関数として変化する。
例えば誘導流体の流量と圧力を大きくすると、流体噴流が湾曲面62に長い距離にわたって張り付き、取り出された流れFiは、図7の方向F1に沿ってナセルの上流へと向きを変える(推力の逆転)。
【0072】
取り出された量の流体の向きが矢印F2とほぼ同じである、すなわち長手方向の流れFiに対して径方向である場合には、その取り出された流れの直接的な推力が消える。
さらに、内部流Fiから取り出された量の流れが矢印F3で示した方向、すなわちナセルの下流を向いている場合には、その取り出された流れによって生じる直接的な推力が小さくなる。
【0073】
熱力学的パラメータと空気力学的パラメータのうちの1つだけ(例えば流量)を変えることで、取り出された量の流れに作用を与えうることに注意されたい。
例えば隔膜タイプの構成を利用して注入用噴流ノズルの出口にある注入用オリフィスのサイズを変化させることで、注入速度を変化させ、したがって注入する流体の流量を変化させることができる。
さらに、流体の注入は、連続流で行なうこと、または注入される流体の消費を制限するためにパルス流で行なうことができる。
【0074】
推力システムの推力ベクトルを逆転させる、または打ち消す、または小さくすることのできる効果的なシステムは、航空機の所定の飛行段階において、図7に示したようにナセル壁部の下流部を並進移動させることによって実現される。このようにすると、ナセルの側部において、環状ダクト26の中を流れる二次流Fiと大気の間に1つまたは複数の開口部28ができる。
【0075】
ナセル壁部の下流部50bが後方に移動したとき、二次流が出る噴流ノズルはもはや推力ベクトルの発生に適した条件を満たしていないことに注意することが重要である。
なぜならそのとき噴流ノズルは末広ノズルを形成し、亜音速流である二次流は、ナセルから出るときにエネルギーを失うからである。
【0076】
推力を逆転させる、または打ち消す、または小さくする本発明の装置は、単一の可動部材がナセル壁部の下流部であるため、公知のシステムよりも単純である。そのためこの装置の運動学が著しく単純になる。
【0077】
本発明の装置の動作と結び付いている空気力学的な力は、ナセル壁部に環状に設けられた流体制御装置に主として集中する。そのため伝えるべき力をナセルの構造によりよく分散させることができ、したがってナセルのいくつかの部分を必要以上に大きくせずに済む。
さらに、流体制御装置によって下流部50bが周囲の流れから隠れる傾向がある。そのため下流部を必要以上に大きくせずに済む。
【0078】
さらに、流体制御装置をナセル壁部に組み込んでもナセルの内面と外面の音響処理にほとんど影響がない。
なぜなら図2の上部に示した引っ込んだ位置では、本発明の流体制御装置だと、ナセル壁部の内面と外面のほぼ全体に音響コーティングを施すことが可能だからである。
さらに、流体制御装置のサイズは比較的小さい。そのためナセルの中に統合することが容易である。
【0079】
図8a、図8b、図8c、図9a、図9b、図9c、図10a、図10b、図10cは、本発明の第3の実施形態の異なる2つの動作モードを示している。
図8a、図8b、図8cは、図2のタイプの航空機のジェットエンジンのナセル80のいろいろな図である。すなわち縦断面図(図8a)、斜視図(図8b)、部分拡大図(図8c)である。
【0080】
図8a〜図8cでは、可変筒体を有するシステムが引っ込められているのに対し、図9a〜図9cと図10a〜図10cでは引き出されている。
図9a〜図9cでは、流体バリアを形成する流体制御装置が作動して可動式の誘導部材と協働し、流出流の形成を制限する、それどころか阻止する。
図10a〜図10cでは、可動式の誘導部材が移動し終わってもはや流体制御装置と関係しておらず、流体制御装置は、図7の流体制御装置56のように、内部流Fiの少なくとも一部を制御された状態で取り出す機能を保証する。
【0081】
図8a〜図8c、図9a〜図9c、図10a〜図10cに示したナセルは、以下の要素が存在している点が図2のナセルと異なっている。
− 流体制御装置82が、図7の流体制御装置56のようにしてナセル壁部の上流部86aの内面84に設けられていて、ナセルの固定部材と可動部材の間に位置する領域で内部流Fiの空気力学的流れを制御する。
− 可動式の1つまたは複数の偏向部材88(空気力学的偏向板)が、流体制御装置82(図9a〜図9c)と協働するように、またはナセル壁部の可動式下流部86b(図8a〜図8cと図10a〜図10c)と協働するようにされている。偏向部材88の形状はこの目的に合うようにされている。
【0082】
ナセルの可動部材(下流部86bと偏向部材88)は少なくとも1つの自由度を持っていてタービンエンジンの軸線に沿って並進運動し、特に、噴流ノズルの位置に流束の外側空気力学的カウリングおよび/または内側空気力学的カウリングを形成する。
上流部86aとは独立した偏向部材88は、例えば環状形態の空気力学的フラップまたは偏向板であり、この可動部材は、内部流Fiの周辺部に設けるため、ナセル壁部の上流部と下流部の内面の延長線上に位置している。
単一の部材の代わりに、それぞれがリングの一部の形状をした複数の偏向部材を用いることができる。
【0083】
図8a〜図8cに示した位置では、偏向部材88は引っ込められていて、ナセルの下流部86と同様、ナセルの固定された上流部86aに接している。
そもそもこの下流部86bは、フラップ88が存在するにもかかわらず固定部86aと接触できるような構成にされている。
この点に関し、下流部86bの上流部の固定された上流部86aと向かい合った位置には、繰り抜き86cがある。この繰り抜き86cにより、下流部86bは、中にフラップ88が収容されるほぼ円錐台形に繰り抜かれた形状となっている。繰り抜かれたこの上流側端部は下流部86bの前縁86dを構成し、上流部86aに接する。
したがって可動式の偏向部材88と下流部86bは、空気力学的動作線が形成されるようにしてナセルの固定された上流部に接している。
【0084】
可変筒体の機構が利用される飛行段階の間、ナセルの可動部材の一部、すなわち下流部86bが長手方向の並進移動によって後方に移動し(図9a〜図9c)、噴流ノズルの断面を変化させる。
この移動によってナセルの側部に1つまたは複数の径方向の開口部ができる。なおこの実施形態では1つの開口部90だけである。
【0085】
ナセルの他方の可動部、すなわち偏向部材88のほうは、図8a〜図8cの引っ込められた位置に留まり、ナセル壁部の固定された上流部86aに接している。より詳細には、偏向部材88は、流体制御装置82の注入手段94(注入用噴流ノズル)の開放端の接線方向に設けられた湾曲面92に接した状態に配置される。
この湾曲面は、図7の湾曲面62と同じである。
【0086】
図9a〜図9cに示してあるように、下流部86bが後方に移動すると、形成された開口部90の中に偏向部材88が位置して上流領域を塞ぐ。この開口部で偏向部材88と下流部86bの間に位置する下流領域が開放される。
下流部86bが移動すると、例えば光センサーによって例えば流体制御装置82が作動する。
【0087】
しかしこの作動は、可変筒体の機構を作動させる命令によって離れたところ(例えば管制塔)から制御することができる。
例えば注入手段から出る高エネルギー流体のジェット96は、図7の湾曲面62上のジェット64のように湾曲面92に張り付くのではなく、偏向部材88によって長手方向を向くようにされる。
【0088】
偏向部材88はジェット96を環状ダクト26の中で誘導し、このジェットは、偏向部材88を越えて、すなわちいかなる物質的な障害もない開口部の領域内で、ほぼ長手方向の軌跡をたどる。
このようにして開口部を通過する望ましくない流れ(流出流)を制限する、それどころか抑えることにより、開口部90に垂直な内部流Fiの空気力学的流れを制御する。
【0089】
実際、偏向部材88だけで内部流Fiに対する障害物を形成しているため、この内部流の一部が環状開口部90の上流領域を通って流出することが阻止される。
さらに、偏向部材の接線方向に流体を注入することにより、一般に、開口部90の位置での空気力学的流れを制御し、内部流Fiの一部がこの開口部から自然に出ていこうとする傾向を空気力学的誘導によって制限することができる。
【0090】
より詳細には、注入される流体噴流96は、開口部90に沿って長手方向に延びている。このジェットは内部流Fiを径方向の開口部の全長にわたって(すなわちこの開口部でガイドとなる偏向部材88が位置する上流領域に沿ってと、開放されている下流領域に沿って)誘導する。
この実施形態では、注入されるジェットは、図3と図6のように開口部の内部に侵入することなく開口部の入口に沿って進む。
【0091】
したがってジェット96は、内部流Fiを取り囲む開口部90に直角な環状の流体バリアを形成し、偏向部材88はこのジェットのガイド用支持体として機能する。
偏向部材88は径方向の開口部90の全長を占めることはできないことに注意されたい。なぜならそのようなサイズにすると、図10a〜図10cに示した“推力の逆転”機能が損なわれるだろうからであろう。
【0092】
制御システムのおかげでナセルの可動部材は連続的または不連続に移動することに注意されたい。一例として、下流部86bは、モーター制御システムによって制御される油圧タイプの1つまたは複数の直線的なジャッキを用いて作動させることができる。偏向部材88に関しても、モーター制御システムによって制御される油圧タイプの1つまたは複数の直線的なジャッキを用いて作動させることができる。これらの制御装置は、可動部材の構造的に補強された領域と、ナセルの固定構造フレームに固定することができる。
【0093】
図10a〜図10cは、ナセルの“推力の逆転”動作を示している。これは、このようなナセルを備える航空機が所定の飛行段階で利用するモードである。
この動作モードの命令が出されると、ナセル壁部の下流部86bはさらにナセルの後方に向かって並進移動し、偏向部材88も下流に並進移動する。偏向部材は湾曲面92から離れ、この下流部86bと合体して繰り抜き86cに収まる。
【0094】
したがって開口部90よりも長い径方向の開口部98が作り出され、一方の側は固定された上流部86aの端部の湾曲面92によって、他方の側は可動式の下流部86bと偏向部材88によって境界が定められる。
例えば開口部90の軸方向の長さは約50〜200mmの範囲に含まれるのに対し、開口部98の軸方向の長さは約450〜600mmの範囲に含まれる。
偏向部材88は、内部空気力学的動作線を改善する目的で開口部98の内部へと延びる凹形状の径方向延長部を備えていて、下流部86bと偏向部材88の集合体に図2の凹面24dと同様の端面を与える。
【0095】
可動部材は図10cに示した離れた位置にあるため、流体制御装置82が作動し、図7の流体制御装置56と同じようにして内部流Fiの一部F'iを制御された状態で取り出す装置のように振る舞い、制御されたジェット100を発生させる。
このようにして、望む目的の通り、推力システムの推力ベクトルを逆転させる、または打ち消す、または小さくすることが実現する。
開口部の上流位置でナセル壁部の内面に設けられている高エネルギー流体の注入手段と、この手段の下流にある偏向部材とが存在していることで、単一の注入システムを用いて2つの機能を果たせることに注意されたい。
【0096】
図11は最後の実施形態を示しており、ジェットエンジンのナセルは、流体制御装置以外は図2に示したものと同じである。
実際には、図11では、流体バリアf'iを形成する流体制御装置110は、下流部112bの中に統合されている。下流部112bは、図4と図5に示した移動手段と同様の移動手段の作用を受けて固定された上流部112aから離れているため、上流部112aと下流部112bの相補的な端面の間に1つまたは複数の開口部ができる。
【0097】
流体制御装置110は、下流部112bの外面112c上の前縁(端面)の位置に設けられる。
流体制御装置110は、注入用噴流ノズル118の開放端の接線方向に配置された湾曲面116を備えている。
噴流ノズル118は、注入する高エネルギー流体の誘導路に通じていて、その誘導路の一部12aが下流部112bの内部へと延びている。
【0098】
流体が、ジェットの形態で連続的に、またはパルス式に開口部114の中に注入され、接線方向の湾曲面116のおかげでそのジェットは制御された状態で環状ダクト26の方に向かい、まず湾曲面116の一部に従い、所定の離脱点に至る。
このようにして表面から離れたジェットは、内部流Fiに逆らって進みながら壁部の上流部112aに向かい、その上流部112aの端面112dをかすめ、次いで開口部から出て外部空気流Aに合流する。
このようにして、流体の制御された流れが、開口部114の中に、長手方向の延長部全体に沿って確立し、開口部の位置に流体バリアf'iを形成する。そのため流出流がその開口部を通過することが制限される、それどころか阻止される。
【0099】
本発明のこの第4の実施形態によるナセルは、図2〜図5のナセルと同じ利点を有する。
図3と図11で形成される流体バリアは、どちらかと言えば、開口部の入口に近い側、すなわち開口部で内部流Fiが位置する側に局在している。したがって流体バリアは開口部の中に侵入することができず、内部流を誘導する流体の壁のように振る舞う。
【0100】
変形例として、航空機のジェットエンジンのナセルは、内部流を制御された状態で取り出すための図10a〜図10cの流体制御装置82のタイプの流体制御装置を有する固定上流壁と、流体バリアを形成するための図11の流体制御装置110のタイプの流体制御装置を有する可動下流壁を備えることができる。
したがって異なる2つの機能が、高エネルギー流体を制御された状態で注入するだけで、追加の可動部材なしに保証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイパス比が大きな航空機のジェットエンジン(10)のナセルであって、
長手方向の軸線(X)を有するジェットエンジンが中に設置されていて、
ジェットエンジンを中心としてその少なくとも一部のまわりを同心円状に取り囲む壁部(24)を備えており、
ジェットエンジンと協働して流体の内部流の環状ダクト(26)を規定し、
ナセル壁部の下流端にはある断面の流出用通路を有する、
ナセルにおいて、
命令によってナセル壁部の一部(24b)を移動させることで流出用通路の断面を変化させる手段(40)であって、移動により、長手方向に延びる少なくとも1つの開口部(28)をナセル壁部に作り出す、手段と、
流れの一部で流出流である部分がその少なくとも1つの開口部を通って自然に流出しないようにするため、少なくとも1つの開口部(28)の長手方向に延びている部分の少なくとも一部に沿って延びる流体バリア(fi)を形成する装置(30)とを、
を具備する、ことを特徴とするナセル。
【請求項2】
前記流体バリアを形成する装置が、少なくとも1つの開口部に直角に高エネルギー流体を注入する手段(34)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のナセル。
【請求項3】
さらに、流体の内部流の少なくとも一部を制御された状態で取り出し、少なくとも1つの開口部(28;98)を通じてナセルの外に流出させる流体制御装置(56;82)を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載のナセル。
【請求項4】
前記流体制御装置が、流体の内部流の中に、高エネルギーの流体を注入する手段(60)を備える、ことを特徴とする請求項3に記載のナセル。
【請求項5】
前記注入手段が、少なくとも1つの開口部(28;98)の上流および/または下流に設けられている、ことを特徴とする請求項2または4に記載のナセル。
【請求項6】
前記注入手段がナセル壁部の内面(50c)および/または外面(31;112c)に設けられていて、環状ダクト(26)の外周部を規定している、ことを特徴とする請求項2、4、5のいずれか1項に記載のナセル。
【請求項7】
前記流体バリアを形成する装置が、ナセル壁部の内面に設けられた注入手段に隣接して配置されていて注入された流体を偏向させる少なくとも1つの可動式偏向部材(88)を、少なくとも1つの開口部(28)の中の少なくとも一部に備える、ことを特徴とする請求項6に記載のナセル。
【請求項8】
前記偏向部材(88)が、前記開口部の上流領域である領域を塞ぎ、下流領域である領域を開放されたままの状態にする、ことを特徴とする請求項7に記載のナセル。
【請求項9】
前記注入手段が、高エネルギーの流体を注入する少なくとも1つの噴流ノズル(34;60)を備える、ことを特徴とする請求項2から8のいずれか1項に記載のナセル。
【請求項10】
注入手段(34;94;60;118)の開放端に接するように設けられた湾曲面(35;62;92;116)を具備し、注入された流体を少なくとも1つの開口部(28;98;114)の方に向ける、ことを特徴とする請求項2から9のいずれか1項に記載のナセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−514987(P2010−514987A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544423(P2009−544423)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/FR2007/002176
【国際公開番号】WO2008/102079
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(506355257)エアバス フランス (117)