説明

船体にウォータジェット推進装置を取付ける方法

【課題】従来のウォータジエット型船舶における船尾フランジの支持面のボーリング作業の困難性を改善する。
【解決手段】船台に搭載された船舶の船尾部に固定されている船尾フランジの取付面の駆動軸の軸芯に対する傾度誤差を測定し、船尾フランジに接合されるトランサム短管80のフランジ81の粗材の厚みを設計上の厚みと傾度誤差分の厚みの合計の厚みを含むように形成し、トランサム短管のフランジを船台とは別の機械工場内で前記傾度誤差に合わせた傾度に切削する機械加工し、機械加工されたトランサム短管を船台上の船舶の船尾フランジに取付けて組立てる。トランサム短管のフランジの取付面を機械工場内で加工するので効率的で精度よく加工することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータジェット推進型の船舶の船体に対してウォータジェット推進装置を取付ける方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船体の船尾部にウォータジェット推進装置を設けた船舶、例えば、ウォータジェット型アルミ船においては、船体の後方あるいは中央部にエンジンを配置し、このエンジンより船尾部の推進装置を構成しているインペラまでの間に駆動軸を使用して駆動する方法が採用されている。
【0003】
例えば、ウォータジェット推進船において船体の中央部に設けた主機関と船体の船尾部に配置された導水管内に設けたインペラとの間の距離が長いことと、主機関の回転数が高すぎてインペラの回転と適合しないことから、主機関とインペラとの間に軸受と減速機とを設け、これらの機器の間を第一の動力伝達軸で連結し、前記減速機とインペラとの間を第二の動力伝達軸で連結し、前記軸受で第一の動力の伝達軸の撓みを防止し、前記第二の動力伝達軸を伝達トルクに合わせて第一の動力伝達軸より太くした装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、ウォータジェット推進船の船体トランサムと、トランサムフランジとをボルトで連結する構造が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−146291号公報
【特許文献2】特開2003−112690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載された発明にはウォータジェット推進船において、主機関とインペラとの間に軸受と減速機とを配置して第一の動力伝達軸の撓みを防止する構造を提案しているが、主機関から軸受を介して減速機に至る第一の動力伝達軸や前記減速機とポンプ装置のインペラとの間を連結する第二の動力伝達軸との一連の軸芯を合わせる手段については全く教示していない。
【0007】
また、特許文献2には船体トランサムと、トランサムフランジとの取付構造が記載されているが、この特許文献に記載された発明においては船体トランサムのフランジ面を加工してトランサムフランジを取付ける方法が開示されているに過ぎない。したがって、この加工方法では特殊な切削装置を準備して加工しなければならず、ウォータジェット推進船の建造コストが高価にならざるを得ない。
【0008】
図2は、ウォータジェット型のアルミ船の要部を示しており、船体1の船底の前方に向けて導水管3の吸引口3aを開口し、その後部にポンプ装置のインペラ4とノズル5を配置し、更にその後部に操舵装置6を配置している。そして前記インペラ4とエンジン2との間を駆動軸7で連結している。
【0009】
そして前記インペラ4は、図4に示すようにインペラケーシング9内に収容された状態で船尾端1aに取り付けられているトランサム短管8の軸芯(見通し線L)を合わせながら前記インペラケーシング9が嵌入されて固定される。
【0010】
図3は、船尾端1aに設けられた船尾フランジ11にトランサム短管8を固定するとともに導水管3の後端部と前記トランサム短管8の筒部とをフランジで連結した状態を示している。前記トランサム短管8には図4に示すように操舵装置6、ノズル5、インペラ4を収容するインペラケーシング9などで構成されるウォータジェット推進装置10が一体的に形成されており、前記トランサム短管8に前記インぺラケーシング9を嵌合して固定される。
【0011】
図2および図4に示されているように、インペラ4はインペラケーシング9内に収容され、その羽根の先端とインペラケーシング9の内周面との間には僅かな間隙が形成されている。この間隙は機種とサイズによって異なるが、一般的に軸芯に対してトランサム短管の取付角度は「±0.1〜0.15度」ずれるとインペラ4とインペラケーシング9は接触し、大きな振動を発生するとともに所定のポンプ性能を発揮できないという問題がある。
【0012】
従って、図4に示すように駆動軸7に対してインペラ4の回転面が直交するように取付けられ、更にインペラケーシング9のフランジ9aの表面とトランサム短管8のフランジ8aの表面とが平行して対面して正確に固定される必要がある。
【0013】
しかし、現実にはインペラケーシング9の内面とインペラ4との位置関係に偏心誤差などがあり、正確に組み立てることができないことが多い。従って、通常は、図5に示すように船尾端1aに直接固定されている船尾フランジ11の取付面11aの“傾度”(駆動軸の軸芯に直交する円板状の面に対する取付面11aの傾斜状態)を調整するために傾度調整代「A」を設けている。
【0014】
船尾端1aに船尾フランジ11を固定した段階で、この船尾フランジ11が持つ誤差を前記傾度調整代Aの範囲内でボーリングしてその取付面11aを調整する必要がある。
【0015】
しかし、船尾端1aに固定されている船尾フランジ11の取付面11aの傾斜を正確にボーリングするためには、その準備段階で船尾フランジ11の後部の全円周にわたって測定した位置、その位置に対応する傾度などを測定した上で、そのデータに基づいて、縦方向に立った状態の面を切削できる特殊なボーリング装置を使用し、しかも、かなりの時間をかけて切削加工しなければならない。
【0016】
従って、例えば、直径1m程度の船尾フランジ11を現地加工すると、少なくとも500万円ないしそれ以上の費用と作業時間を必要とするという問題があった。
【0017】
本発明は、前記従来技術のおける船尾フランジの取付け面の調整加工に多大な時間と費用を必要とするという問題を解消することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するための本発明は次のように構成されている。
【0019】
船台に搭載されている船体の底部に導水管の吸引口を接続する開口を形成し、前記船体船尾部に船尾フランジを設け、この船尾フランジにトランサム短管を固定し、
前記導水管の吸引口を前記開口に接続し、該導水管の後端を前記トランサム短管の筒部に固定し、前記船体に内に設けたエンジンなどの駆動装置に接続された駆動軸を前記トランサム短管内に延長し、この駆動軸にインペラを固定したウォータジェット型船の建造工程において、
前記駆動軸の軸芯に対する前記船尾フランジの取付面の傾度誤差を測定する測定工程と、
前記船尾フランジに接合されるフランジと筒部からなるトランサム短管を形成する前記フランジの粗材の厚みを設計上の厚みと傾度誤差分の厚みの合計の厚みを含むように形成する準備工程と、
前記トランサム短管の粗材のフランジの取付面を、前記船台とは別の工場内で前記傾度誤差に合わせた傾度に切削する機械加工工程と、
前記機械加工されたトランサム短管を、前記船台上の前記船尾フランジの取付面に組付ける組立工程とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、船体の船尾部に固定されている船尾フランジの取付面が、駆動軸の軸芯に直交する面に対して有する誤差、つまり「傾度誤差」を測定しておく。
【0021】
そして船台とは別の機械工場においてトランサム短管のフランジ粗材の前記船尾フランジと接合する取付面を、切削装置で前記船尾フランジの傾度誤差に合せるように正確に切削加工するものである。
【0022】
周知のように機械工場には大型の切削装置やクレーンなどの荷役設備や運搬設備が設けてあり、トランサム短管のような大型のものでも容易に移送し所定の位置に固定し、切削加工することができる。
【0023】
本発明を適用するために、トランサム短管のフランジ粗材を前記傾度誤差に合わせて切削する必要があるので、船尾フランジの取付面の傾度誤差分の厚みを加えた厚さのフランジに形成しておく必要がある。
【0024】
本発明は、船台とは別の機械工場において船台上に搭載されている船体の船尾ブランジの傾度誤差に対応してトランサム短管のフランジの取付面を切削するのであるから、この取付面の機械加工の精度と切削作業効率を格段に向上させることができる。
その結果、従来の船台上において切削し、組立てる方法に比較して生産効率が上昇し、製作コストを大幅に低減することができる。
【0025】
以上の如く、本発明は船台上の船体の組立作業と、船台とは別の機械工場での切削作業が連携して行われるので、効率化は勿論、工程管理が容易になり、安全性と効率性の高い、船体にウォータジェット推進装置を取付ける方法を提供することができる。
【0026】
ウォータジェット型の船体の船尾に固定されている船尾フランジの取面に、その円周方向に駆動軸の軸芯(見通し線)に対する誤差(2枚の円板状の取付面の側面から見て合致しない状態)が発生しているので、予めこの傾度誤差を測定し、この傾度誤差を考慮してトランサム短管の前記調整代を利用して船台とは別の工場、特に機械工場において前記傾度誤差を補正するので、その加工は正確にしかも簡単にできるのでウォータジェット推進装置を船尾部に、廉価で取付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は本発明の実施例に係るトランサム短管80の側面図であり、このトランサム短管80のフランジ81を通常の厚さ「F」と、トランサム短管傾度調整代「A1」を加えた厚さ「T」、あるいはそれより若干厚めに形成している点に特徴がある。
【0028】
そして第1の加工工程においては、図3に示すように船体1の船尾端1aに固定されている船尾フランジ11の取付面Sの軸心(見通し線L)に対する傾度を、その船尾フランジ11の全円周にわたって測定し、その測定した位置と、その箇所における誤差(前記見通し線Lに対する誤差)とを測定してこれらからなる「傾度誤差」を測定しておく。なお、前記見通し線Lの測定(軸芯の測定)には、レーザー光線を利用する方法が適しているが、ピアノ線を利用して測定することも可能である。
【0029】
次の工程は、船台とは別の工場において、その切削設備であるフライス盤等を使用して前記「傾度誤差」を打ち消すように、前記船体に固定されている船尾フランジ11の取付け表面Sを基準として測定したデータ(傾度誤差)に基づいて、トランサム短管80のフランジ81の傾度調整代「A1」を切削する。
【0030】
このように、図1に示されている傾度調整代「A1」の部分を工場内の機械設備で切削すると、このトランサム短管80の中心線L1は正規の所(図3、図4の中心線Lに相当する。)に存在することになる。
【0031】
従って、前記図3に描かれている船尾フランジ11の部分に、前記のようにして傾度が調整されたトランサム短管80を取り付けることによって船尾フランジ11の中心線Lとトランサム短管80の中心線L1(図1)とが一致することとなる。
【0032】
この状態となると、前記のように、インぺラケーシング9とその内部のインペラ4とが同心状に保持されることになり、そのインペラの先端の回転面と、前記インペラケーシング9の内面との間隙を一定に保持することができ、ポンプ性能を最高に保持できるウォータジェット推進装置を船尾部に据え付けることができるのである。
【0033】
本発明においては、船台とは別の工場内においてトランサム短管80のフランジ81の取付面(トランサム短管80の傾度調整代82)を切削することによって駆動軸7の軸芯に合わせてトランサム短管80の軸芯を合わせることが可能となる。
【0034】
したがって、従来の工程においては、直立状態で固定されている船尾フランジ11(図3、図5)の取付面11aを切削していた困難を伴う工程を必要としたが、本発明においては被加工物であるトランサム短管80(粗材)を単体で取扱うことができるので、工場内において通常の工作機械を使用して正確に軸芯を合わせることができるので、前記の一連の加工・取り付け作業を、極めて簡単に、かつ、廉価(従来の約10分の1)で完成することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るトランサム短管の側面図である。
【図2】ウォータジェット推進装置を装備したアルミ船の船尾部の概略断面図である。
【図3】船尾部構造を示す断面図である。
【図4】ウォータジェット推進装置を船尾部に固定する状態を示す説明図である。
【図5】従来の船尾フランジとトランサム短管とを示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 船体
1a 船尾端
3 導水管
3a 吸水口
4 インペラ
5 ノズル
6 操舵装置
7 駆動軸
8 従来のトランサム短管
9 インペラケーシング
10 ウォータジェット推進装置
11 船尾フランジ
11a 取付面
80 トランサム短管(本発明の)
81 フランジ
82 トランサム短管傾度調整代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船台に搭載されている船体の底部に導水管の吸引口を接続する開口を形成し、前記船体船尾部に船尾フランジを設け、この船尾フランジにトランサム短管を固定し、
前記導水管の吸引口を前記開口に接続し、該導水管の後端を前記トランサム短管の筒部に固定し、前記船体に内に設けたエンジンなどの駆動装置に接続された駆動軸を前記トランサム短管内に延長し、この駆動軸にインペラを固定したウォータジェット型船の建造工程において、
前記駆動軸の軸芯に対する前記船尾フランジの取付面の傾度誤差を測定する測定工程と、
前記船尾フランジに接合されるフランジと筒部からなるトランサム短管を形成する前記フランジの粗材の厚みを,設計上の厚みと傾度誤差分の厚みの合計の厚みを含むように形成する準備工程と、
前記トランサム短管の粗材のフランジの取付面を、前記船台とは別の工場内で前記傾度誤差に合わせた傾度に切削する機械加工工程と、
前記機械加工されたトランサム短管を、前記船台上の船体の船尾フランジの取付面に組付ける組立工程とからなることを特徴とする船体にウォータジェット推進装置を取付ける方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148769(P2012−148769A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54682(P2012−54682)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【分割の表示】特願2007−192191(P2007−192191)の分割
【原出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)