船外機のステアリング装置
【課題】転舵性及び操作性等に優れ、小型コンパクト化を有効に実現する船外機のステアリング装置を提供する。
【解決手段】エンジンケース内にエンジンを収容すると共に、エンジンケース外部にエンジンによって駆動される推進機15を備える。エンジンケースの所定部位に装架されたスイベルブラケット39により、推進機15をステアリング軸Sのまわりに回動可能に支持し、推進機15を駆動するドライブシャフト60とステアリング軸Sの中心を一致させる。
【解決手段】エンジンケース内にエンジンを収容すると共に、エンジンケース外部にエンジンによって駆動される推進機15を備える。エンジンケースの所定部位に装架されたスイベルブラケット39により、推進機15をステアリング軸Sのまわりに回動可能に支持し、推進機15を駆動するドライブシャフト60とステアリング軸Sの中心を一致させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機における特にステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶もしくは舟艇の推進機関あるいは推進システムの主なものとして船外機、船内外機及び船内機等がある。このうち船外機はアウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジン、その捕機類、駆動系のギアやシャフト及びスクリュー等が一体化して構成されており、一般には船体船尾のトランサムボードに搭載される。典型的には小型の舟艇等に搭載され、ステアリング機能とチルティング機能を有している。
【0003】
また、船内外機は、小型船舶等の推進機関の設置方法として、インボードエンジン・アウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジンを船内船尾部に搭載すると共に減速ギア、前後進クラッチ及びプロペラ等を一体化してなるドライブユニットをトランサムボードの外部に配置したものである。
【0004】
これらの舟艇が海上あるいは水上で実走行する際、操舵性は極めて重要であり、操舵するためのステアリング装置において様々な工夫がなされている。例えば特許文献1に記載の船外機は一対のクランプブラケット部で船体に固定され、クランプブラケット間をスルーチューブ(チルト軸)を介してスイベルブラケットが支持される。船外機本体は、スイベルブラケット上のステアリング軸を中心にステアリングするようになっている。ステアリングすると横方向に揚力(舵力)が発生するが、この力はクランプブラケット経由で船体に伝えられる。
【0005】
また、特許文献2に記載の小型船外機では、ドライブ軸とステアリング軸を一致させている。従って、操舵角を大舵角に設定、操舵可能であり、なかには360度も操舵可能なものもある。
また、特許文献3に記載の船内外機では、チルト軸及びステアリング軸をドライブシャフトの自在継ぎ手(ユニバーサルジョイント)の中心においている。
また、特許文献4に記載のものは、シードライブと呼ばれる方式であり、スイベルブラケット上に大出力の船外機をステアリング軸とドライブ軸を一致させる形で搭載することで、大舵角を与えることができる。
更に、特許文献5に記載のものは、PODと呼ばれる形式で、ドライブ軸とステアリング軸が一致するので、大舵角を得ることができ、通常360度程度の舵角となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−2294号公報
【特許文献2】特開2003−205892号公報
【特許文献3】特許第3038606号公報
【特許文献4】特許第3046398号公報
【特許文献5】特開2007−230510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、クランプブラケットは船体に対して片持ち固定である。このためトリム(チルト)すると、揚力(舵力)中心が船体から後方に離れるので、クランクブラケットがハの字上に開き気味となる。このような理由から船外機は大きな揚力(舵力)を発生させることができないという問題があった。また、トリム(チルト)角もスラスト状態では大きくできないという問題があった。更に、同様な理由から舵が効き難く、小回り性能が良くないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載のものでは、ステアリング軸受部でエンジンをマウントしており、具体的にはそのマウントゴムがステアリング軸受外側にある。このためエンジン振動が船体に伝わり易いという問題があった。また、ステアリング軸受のスパンが短いため、小さな推進力には耐え得るが、大型船外機等の場合のように大きな推進力には適用できないという問題があった。
また、特許文献3に記載のものでは、自在継ぎ手の折曲げ角には制限があるため、チルト角及びステアリング角とも船外機より小さくなる。従って、舵が効き難く、小回り性能が悪いという問題があった。
【0009】
また、特許文献4に記載のものでは、船外機エンジン部分が水面に対し低い位置となるため、エンジンが被水し易く信頼性及び耐食性を維持するのが難しいという問題がある。また、船外機の重心から遠く離れた位置にチルト軸があるため、大きなチルト装置が必要となり、あるいは慣性質量が大きくなるので、流木等の衝突時に大きな衝撃力が発生する等の問題であった。
更に、特許文献4に記載のものでは、浅瀬を考慮しない大型船舶専用であるため、舟艇に応用しようとすると障害物(海底を含む)と衝突した際、衝撃吸収機構がないため大きなダメージを受けるという問題があった。
【0010】
更にまた、この種の船外機等において、ドライブ軸とステアリング軸が一致しているので、大舵角を与えることができるが、揚力(舵力)を支えるのはステアリング軸から遠く離れたジンバル面(トランサムボードへの取付け面)であるため、大きな舵力を与えることができず、結果として高速での小回りができないという問題があった。
また、ステアリング軸とドライブ軸が一致しているため、大舵角を与えることができるが、ステアリング軸(ドライブ軸)がボート進行方向と直交していないため、舵力の横方向成分が小さく、高速旋回はできない。
更に、エンジンが高い位置に配置されるため被水性で有利であり、なお船体への取付けも船外機と同様簡単なものがあるが、ドライブ軸がユニバーサルジョイント結合であるので、ステアリング角及びチルト角とも大きく取れないという問題がある。
【0011】
本発明はかかる実情に鑑み、転舵性及び操作性等に優れ、小型コンパクト化を有効に実現する船外機のステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の船外機のステアリング装置は、エンジンケース内にエンジンを収容すると共に、エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、前記エンジンケースの所定部位に装架されたスイベルブラケットにより、前記推進機をステアリング軸のまわりに回動可能に支持し、前記推進機を駆動するドライブシャフトと前記ステアリング軸の中心を一致させたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の船外機のステアリング装置において、前記ドライブシャフトは前記スイベルブラケット内でスイベル垂直軸方向に回転自在に支持され、前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが、前記スイベルブラケットに回転可能に支持されると共に、その下端に前記推進機が一体に結合することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の船外機のステアリング装置において、前記スイベルブラケットの上部付近にステアリング駆動用アクチュエータを備え、前記ドライブシャフトハウジングの下部を延出させて前記推進機との結合延出部を形成し、前記アクチュエータの作動により前記結合延出部を回動付勢するようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の船外機のステアリング装置において、前記ステアリング軸まわりの可動部材として実質的に、前記推進機と前記ドライブシャフトハウジングのみを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステアリング軸とドライブシャフトを一致させることで、ステアリング角を大きくしながら、ステアリング装置自体は小型且つコンパクトな構成にすることができる。また、本発明のステアリング装置によれば、操作性に優れると共に高い転舵性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る船外機を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示す斜視図である。
【図2】本発明の船外機の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の船外機の外観を示す後面図である。
【図4】本発明の船外機の外観を示す側面図である。
【図5】本発明の船外機の外観を示す前面図である。
【図6】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の構成例を示す斜視図である。
【図7】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の主要構成の分解斜視図である。
【図8】本発明の船外機のエンジンユニットの構成及び配置例を示す斜視図である。
【図9】本発明の船外機の吸排気系の構成及び配置例を示す斜視図である。
【図10】本発明の船外機の動力伝達機構の構成及び配置例を示す斜視図である。
【図11】本発明の船外機のフレームの構成及び配置例を示す斜視図である。
【図12】本発明の船外機のエンジンケースにおけるケースカバー開成状態を示す斜視図である。
【図13】本発明の船外機におけるスイベルブラケットのガイド機構まわりを示す部分斜視図である。
【図14】本発明の船外機の動力伝達系における構成例を示す縦断面図である。
【図15】本発明の船外機のステアリング装置の構成例を示す縦断面図である。
【図16】本発明の船外機のステアリング装置の駆動部まわりの断面図である。
【図17】本発明の船外機のステアリング装置における舟艇直進時の後方斜視図及び側面図である。
【図18】図17(b)のX方向矢視図及びY方向矢視図である。
【図19】本発明の船外機のステアリング装置における舟艇左旋回時の後方斜視図及び側面図である。
【図20】図19(b)のX方向矢視図及びY方向矢視図である。
【図21】本発明の船外機のステアリング装置における舟艇右旋回時の後方斜視図及び側面図である。
【図22】図21(b)のX方向矢視図及びY方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明における船外機のステアリング装置の好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る船外機10を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示している。この例では船舶は典型的には中小型とし、船体1の後部にトランサムボード2(船尾板)有するものとする。船外機10は図示のようにトランサムボード2を利用して搭載される。なお、以下で参照する各図の要所において、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。また、必要に応じて船体の左右方向(船幅方向)をそれぞれ矢印L、矢印Rにより示す。
【0019】
ここで先ず本実施形態に係る船体1において、図1のように船体1の底部に船床3が敷設され、この船床3の後端にトランサムボード2が配置される。船床3の中央部付近において操縦席4が設けられ、操縦席4にはハンドル5を始めとする操縦に必要な装置及び機器類、計器類等が配設される。船外機10は動力、推進機、転舵装置及びチルト装置等が一体的に装備され、所謂オールインワンタイプとして構成され、船体1側に燃料タンク、バッテリ等の通常の備品があれば運転可能である。
【0020】
なお、船舶としてこの図示例のものに限定されず、その他トランサムボードの後側に船外機搭載用のブラケット等を具備した船体もあり、つまり船体の船尾に船尾板又はこれに相当する部位もしくは部材を有するタイプのものに対して、本発明の船外機10は有効に適用可能である。
【0021】
図2〜図5は船外機10の外観を示し、図2は船外機10の斜視図、図3は後面図、図4は側面図及び図5は前面図である。船外機10は樹脂製エンジンケース100を有し、このエンジンケース100内部に後述する動力源であるエンジンユニットを収容すると共に、エンジンケース100の後部下方にスクリュー(プロペラ)を配置し、エンジンユニットによってスクリューを回転駆動する。エンジンケース100は船外機10の外観を構成する外装部材としても機能し、全体として一体感のある外観を呈している。
【0022】
エンジンケース100は図1をも参照して、船体1の船尾部(典型的にはトランサムボード2とする)と略同一の幅を有する筐体として構成される。この例ではエンジンケース100の基本的な形態は概略直方体とし、該直方体の長手方向が船幅方向としている。エンジンケース100はエンジンユニット及びその周辺部品もしくは部材を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口101a(図12参照)を覆うケースカバー102とを有する。
【0023】
エンジンケース100内に収容されるエンジンユニット及びその周辺部品等について説明する。本発明の船外機10はそのパワーユニットとして内燃機関を主動力とし、これを作動させて推進機を駆動する。図6は船外機10におけるエンジンケース100内部の構成例を示し、図7はエンジンケース100内の主要構成の分解斜視図である。エンジンケース100内において、パワーユニットを構成するエンジンユニット11が、コンパクト且つ重量バランス良く配置収容される。この実施形態では2基のエンジンユニット11を有し、その筐体の長手方向が船幅方向としたエンジンケース100の左右に、一対のエンジンユニット11がセンタ振分けで配置される。各エンジンユニット11には、吸気系12及び排気系13が接続されると共に、それぞれの出力端(クランクシャフト)に動力伝達機構14が連結される。動力伝達機構14はエンジンユニット11の後側にて左右方向中央部で推進機15と結合し、これらの船外機構成部材が図7のようにフレーム16上に搭載支持される。
【0024】
更に具体的に説明すると、エンジンユニット11において、この例では水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンを使用する。なお、エンジン気筒数等は必要に応じて適宜変更可能であり、この例に限定されるものではない。図8を参照して、エンジンユニット11においてクランクケース17、シリンダブロック18、シリンダヘッド19及びシリンダヘッドカバー20が順次重なるように一体的に結合し、最下部にオイルパン21が付設される。各エンジンユニット11のクランクシャフトは船幅方向(左右方向)に沿って配置され、その軸端に結合するエンジン出力軸が左右両外側に位置するように配置され、即ち右側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は右側に、左側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は左側となるように配置される。
【0025】
次に吸気系12において、図6に示すようにエンジンユニット11相互間に単一のエアクリーナ22が配置される。一方、図8に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側にそれぞれインテークマニホールド23が結合し、これらのインテークマニホールド23とエアクリーナ22との間がそれぞれインテークパイプ24を介して接続される。エアクリーナ22の前面部からエンジンケース100前部の船体1側まで吸気管25が延出し(図9参照)、その先端の空気取込み口から空気を取り込むようになっている。空気取込み口は、船体1において波、しぶき及び雨等に曝されることがない部屋もしくはスペースに設置される。図8に示されるように各エンジンユニット11において、単一の吸気管25から複数(この例では4つ)のインテークマニホールド23に分岐する。
【0026】
排気系13において、図7等に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側にそれぞれエキゾーストマニホールド26が結合し、それらは単一のエキゾーストパイプ27に接続する。エキゾーストパイプ27には排気ホース28が接続され、排気ホース28にはマフラ29が接続される。このマフラ29には排気ホース30が接続され、この排気ホース30に取り付けられた排気出口31から排気ガスが排出されるようになっている。
【0027】
マフラ29は、エンジンケース100のケース本体101の下面外側に設置される。この場合、マフラ29及び排気ホース30等はケース本体101の下面から実質的に突出しないように配置されると共に、ケース本体101の後面左右両側の下部付近に配置された排気出口31から左右バランス良く水中に排気される。
【0028】
動力伝達機構14はエンジンユニット11の出力を推進機15へと伝達する。動力伝達機構14において、左右のエンジンユニット11のエンジン出力軸には図10に示されるように減速機32が連結される。減速機32のケーシング33内に回転自在に軸支されたギア群を有し、その出力軸にタイロッド34が連結される。左右のタイロッド34は相互に同心且つ水平で左右方向に配置され、左右中央部で中間減速機35と連結する。各タイロッド34は両端でそれぞれユニバーサルジョイント36,37を介して、減速機32及び中間減速機35と連結する。
【0029】
本実施形態において中間減速機35は、それぞれタイロッド34に連結する一対の入力側ベベルギアとこれらの入力側ベベルギアに噛合する出力側ベベルギアとを含む。出力側ベベルギアは、ドライブシャフトケース38内のドライブシャフトと連結し、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及びスイベルブラケット39が、相互に一体的に結合する。ドライブシャフトは中間減速機35から下方へ延出する。これらのスイベルブラケット39等はベアリング40を介して、後述するようにケース本体101に回動可能に支持される。
【0030】
推進機15は図10等に示されるように、ドライブシャフトケース38の下方に配置される。推進機15は、プロペラ駆動用のギアを内蔵するギアケース41を含み、全体としてフィン状を呈する。ギアケース41の後端部にはプロペラ42が装架される。ドライブシャフトはドライブシャフトケース38内を通って更に下方へ延出し、ギアケース41内まで延設される。ギアケース41内には最終減速機が構成され、この最終減速機を介してプロペラ42を回転駆動することができる。
【0031】
更に、推進機15に対するチルト機構及びステアリング機構を備えている。これらについての詳細な説明はここでは省略するが、先ずチルト機構により、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及び推進機15全体がチルト軸のまわりに上下方向に回動可能である。チルト軸Tはタイロッド34と同軸に設定され、図10の矢印Aで示すように推進機15はチルト軸Tのまわりにチルト動作することができる。なお、チルト機構において所謂、パワートリムチルト(PTT)等と称する駆動装置を備え、電動油圧式のチルト機構が構成されるものであってよい。
【0032】
また、ステアリング機構により、図10の矢印Bで示すように推進機15はステアリング軸Sのまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である(ヨーイング)。このステアリング機構において、例えば電動油圧式に油圧駆動されるステアリングシリンダを有し、油圧ポンプを油圧源としてステアリングロッドに沿って往復動させることで推進機15が左右方向に回動、即ちステアリング動作することができる。
【0033】
上述した船外機10の主要構成部材は図6のようにフレーム16上に搭載支持される。フレーム16は鋼管等の材料を用いて、図11に示されるようにエンジンケース100を構成する筐体の直方体に略沿った外形となるように形成される。フレーム16の所定部位にはエンジンユニット11を搭載支持するための複数のエンジンマウント43が配設され、これらのエンジンマウント43を介してエンジンユニット11がフレーム16上に取り付けられる。また、フレーム16の後部には、前述したスイベルブラケット39等を支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取り付けられる。
【0034】
更に、フレーム16の前面部には複数のトランサムボルト45が前方に向けて取り付けられる。フレーム16にはエンジンユニット11を始めとする船外機構成部材が搭載されるが、それらを搭載したフレーム16はエンジンケース100内に収容される。トランサムボルト45はそのようなエンジンケース100のケース本体101の前面部を貫通してトランサムボード2に締結され、これによりエンジンケース100全体をトランサムボード2に締着固定することができる。なお、ケース本体101から突出するトランサムボルト45にはシールもしくはパッキン等が装着され、水密性が確保される。
【0035】
前述のようにエンジンケース100は、エンジンユニット11やその周辺部品を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口101aを覆うケースカバー102とを有する。ケース本体101に対してケースカバー102が閉じることでエンジンケース100内は実質的に密閉空間となり、高い水密性が確保される。この場合、船外機10の構成部材はフレーム16によって支持され、フレーム16はエンジンユニット11を保持すると共に推進機15の推進力や操舵力を受け持ち、即ちエンジンケース100自体にはそれらの負荷荷重がかからない。また、エンジンケース100は図1に示されるように船外機10の外装部材としても機能し、船外機10に搭載されて全体として一体感の外観を呈する。
【0036】
図2〜図4等に示されるようにケース本体101の後面側において、その後面部から底面部へかけての領域において、船幅方向中央部にはケース本体101の内方へ凹むように形成された凹部103が設けられている。この凹部103まわりには、推進装置を構成する推進機15やそのチルト及びステアリング機構等が配設される。凹部103はケース本体101の後面側から前方へ向けて形成されるが、チルト機構及びステアリング機構あるいはそれらの周辺機器や部材等がチルトあるいはステアリング動作する際にケース本体101と干渉しないように必要且つ十分な間隙が設けられている。
【0037】
前述したように船体1側には燃料タンク、バッテリ等の備品が配備され、これらの備品と船外機10とが接続もしくは連結される。この場合、図5に示すようにケーシング101の前面部とトランサムボード2との間で穴を共あけするかたちで、複数の貫通孔104が形成されている。即ち、エンジンに燃焼用空気を供給するための吸気管25を挿通させるための貫通孔104A、燃料タンクからエンジンに燃料を供給するための燃料パイプを挿通させるための貫通孔104B、エンジンケース100内を換気するための換気空気用筒体を通すための貫通孔104C等が形成される。更に、エンジンケース100内の装置もしくは機器類又は部材と船体1側の操縦装置との間を、電気的(制御信号等を含む)あるいは機械的に接続するコード又はケーブル類を挿通させるための貫通孔104Dが形成される。なお、これらの貫通孔104には吸気管25等の実装時に水密保持手段(シール等)が施される。
【0038】
ケースカバー102はエンジンケース100の上面部を構成するが、図2あるいは図3に示されるようにケース本体101の後部上端付近にてヒンジ105を介して回動可能に結合する。図12のようにケースカバー102をヒンジ105のまわりに回動させて開成することで、エンジンケース100内部が開放され、これにより露呈したエンジンケース100内部のエンジンユニット11等に自由にアクセス可能となる。ケースカバー102を開けて内部の点検等を容易に行うことができ、この種の作業の利便性を向上することができる。
【0039】
ケース本体101とケースカバー102の閉合部もしくは合せ面には、図12に示されるようにシール106が敷設され、ケースカバー102をケース本体101に対して閉めることでエンジンケース100の高い水密性が確保・保持される。この場合、シール106は、ケース本体101及びケースカバー102の合せ面に沿って全周に亘って敷設される。そして、ケースカバー102が閉まった際にはケース本体101の閉合部との間に挟着され、これによりエンジンケース100に対する高い水密性が得られる。また、ケースカバー102をケース本体101に対して閉じた際、ケースカバー102をその閉合状態に固定保持する図12に示されるようなロック機構107を有している。
【0040】
また、ケースカバー102をその開き状態に保持可能な保持機構を有し、図12のようにケース本体101に対してケースカバー102を開いた状態に保持することができる。保持機構の具体的構成において、図12のようにケース本体101の開口部101a付近に油圧ダンパ108が配置される。この油圧ダンパ108は、ケースカバー102とフレーム16との間に結合される。ここで図11を参照して、フレーム16の上部後方において左右一対の支持アーム16aを備え、各油圧ダンパ108の一端が、自在軸受109を介して支持アーム16aに連結支持される。油圧ダンパ108の他端は同様に、自在軸受を介してケースカバー102の裏側に連結される。
【0041】
前述したようにエンジンユニット11はエンジンマウント43を介して、フレーム16に搭載支持される。ここで、フレーム16は具体的には図11に示されるように左右のサイドフレーム46、船幅方向で凹部103に略対応するインナフレーム47、前部のフロントフレーム48、後部のリヤフレーム49、上部のアッパフレーム50及び下部のロアフレーム51等を含み、パイプ材及び板材、更には厚肉部により構成される。これらの部材は溶接、ボルト結合等によって組み合わされ、相互に結合される。
【0042】
ケース本体101の後面側に形成された凹部103に対応して、ケース本体101内側のフレーム16も凹状に形成される。この場合、リヤフレーム49やロアフレーム51の凹部103対応する部位を下方に延長し、あるいは斜めに傾斜させることで、図11から分かるようにトラス構造を有する。図13等を参照してスイベルブラケット39の下部において、その左右両側には推進機15がチルト動作する際にケース本体101側に接触するようにしたパッド52が付設される。一方、フレーム16のトラス構造部位には、パッド52に対応するパッド53が付設される。これらのパッド52,53を設けることで、推進機15を左右両側からガイドするようにしている。
【0043】
前述したようにスイベルブラケット39はベアリング40を介して、フレーム16に回動可能に支持される。また、フレーム16の後部には図11に示したように、スイベルブラケット39を回動可能に支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取付支持される。フレーム16の後部中央には、メインブラケット44を取り付けるための一対のドーナツ状フランジ部54が設けられている。図11においてはケース本体101は図示されていないが、メインブラケット44とフランジ部54の間に挟まれるようにケース本体101、より具体的には凹部103の側壁が介在する。
【0044】
メインブラケット44は平面視(図11等)でコ字状に形成され、コ字の左右両辺部にベアリング40を装着するベアリングハウジング55(軸受部)を有する。このようにメインブラケット44は左右のベアリングハウジング55を含めて、全体としてコ字状に一体成形されるので、高い剛性でスイベルブラケット39を支えることができる。従って、急旋回や旋回中のチルト(トリム)操作が滑らかに且つ短い時間で行えるようになる。
【0045】
ここで、図14はスイベルブラケット39を介して支持される、中間減速機35から推進機15へと至る動力伝達経路に沿った構成例を示している。スイベルブラケット39の左右両肩部には、チルト軸Tと同軸とした中空円筒状のチルト懸架部56が形成されている。このチルト懸架部56にはベアリング40が装着され、ベアリング40が更に上述のように両側からベアリングハウジング55内に嵌着される。このようにスイベルブラケット39はチルト懸架部56にて、ベアリング40を介してチルト軸Tのまわりに回動可能に支持され、これによりスイベルブラケット39全体が円滑にチルト動作することができる。
【0046】
また、各チルト懸架部56の内部にはチルト軸Tと同軸に、中間減速機35に対する一対の入力軸57がベアリング58を介して回転自在に支持される。入力軸57の一端側には、ユニバーサルジョイント37を介してタイロッド34が連結される。また、各入力軸57の他端側には、ピニオンギアであるベベルギア59が取り付けられる。一方、スイベルブラケット39と一体的に結合するドライブシャフトケース38内にはドライブシャフト60が回転可能に挿通支持されており、ドライブシャフト60の上端に取り付けられたベベルギア61がベアリング62を介して回転自在に支持される。ベベルギア61は、相互に対向配置されたベベルギア59双方に噛合する。このように中間減速機35において、タイロッド34から入力軸57へ入力された動力は、ベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。
【0047】
ドライブシャフト60は更に、推進機15内部を貫通してギアケース41まで延出し、その下端には、ピニオンギアであるベベルギア63が取り付けられる。ギアケース41内にはプロペラ42を取り付けたプロペラシャフト64が回転可能に支持されており、このプロペラシャフト64に取り付けられたベベルギア65がベベルギア63と噛合する。前述のようにギアケース41内のベベルギア63及びベベルギア65により最終減速機66が構成され、このように中間減速機35から最終減速機66へ至る動力伝達系を経てプロペラ42が回転させるようになっている。
【0048】
更に、ドライブシャフトケース38内には図14を参照して、ドライブシャフト60と同軸なドライブシャフトハウジング67が回転自在に支持され、このドライブシャフトハウジング67内をドライブシャフト60が貫通する。ドライブシャフトハウジング67の下部にはロアケース68が結合する。なお、ロアケース68の下部にはギアケース41が設けられている。ドライブシャフト60の下端は、ベアリング69を介してロアケース68に回転自在に支持される。
【0049】
ドライブシャフトハウジング67は概して筒状に形成され、その上端と下端付近にてそれぞれベアリング70,71を介してドライブシャフトケース38、即ちスラストブラケット39に回転可能に支持される。ドライブシャフトハウジング67は前述のようにロアケース68が一体的に結合し、図14に示されるステアリング装置200の作動によりドライブシャフトハウジング67及びロアケース68がステアリング軸Sのまわりに回動してステアリング動作が行われる。更に、ドライブシャフトハウジング67の上端には、スラスト受け72が配置される。また、スラスト受け72の上下にはベアリング73,74が装着されると共に、ドライブシャフトハウジング67の下部付近にはベアリング75が装着され、これらのスイベル垂直軸スラストベアリングによりスラスト方向荷重を受けるようにしている。
【0050】
上記の場合、上述した船外機10の構成部材の他に、エンジンユニット11の冷却配管系、チルト機構及びステアリング機構の駆動用の油圧配管系あるいは部材相互間等で電気信号もしくは電力等を授受するための電気信号線又はコード類等がエンジンケース100内の適所に引き回されると共に、船外機10の運転に必要な補機類が配設される。そして、これらの配管系等を介して、あるいは補機類が作動して、船外機10の適正な運転が遂行される。
【0051】
ここで、本発明の船外機10の基本的作動において、エンジンケース100の内部に並置された2基のエンジンユニット11の出力は動力伝達機構14を経て、エンジンケース100の外部に配置された推進機15へと伝達される。より具体的にはエンジンユニット11が始動すると、その動力は先ず減速機32へ入力され、次にその出力端からユニバーサルジョイント36を介してタイロッド34へ伝達される。エンジン動力は更に、タイロッド34から中間減速機35へ伝達されるが、中間減速機35において入力軸57からベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。ドライブシャフト60の駆動力はギアケース41内の最終減速機66において、ベベルギア63及びベベルギア65を介してプロペラシャフト64、更にプロペラ42へと伝達され、これによりプロペラ42が回転する。
【0052】
さて図15は、ステアリング装置200まわりの構成例を示している。先ず、上述のようにスイベルブラケット39の中央部にはドライブシャフトケース38内に筒状のドライブシャフトハウジング67が配置され、その上部に減速機35が配置される。ドライブシャフトハウジング67の下部には推進機15のケーシングを構成するロアケース68が結合するが、ロアケース68の上部を覆うようにドライブシャフトハウジング67の下端から後方へ延出部67aが延出し、この延出部67aにてロアケース68と結合する。延出部67aはドライブシャフトハウジング67と一体にステアリング軸Sのまわりに回動可能に支持され、従ってロアケース68、即ち推進機15も延出部67aと伴にステアリング軸Sのまわりに右左旋可能となる。
【0053】
本実施形態のステアリング装置200において、その駆動源として油圧シリンダを使用する。図2及び図3等を参照して、スイベルブラケット39の後側上部付近に油圧シリンダ201が水平配置される。具体的には図15及び図16のようにドライブシャフトケース38の上部付近で後方へ突設されたステー202には、左右水平方向に延設された固定ロッド203が挿通支持される。固定ロッド203の両端部に取り付けたアーム204を介して、固定ロッド203と平行に固定シャフト205が配置される。この固定シャフト205に油圧シリンダ201がスライド可能に装着される。固定シャフト205の中央部には油圧シリンダ201内部を仕切る固定式ピストン206が設けられており、ピストン206の両側に油圧シリンダ201の圧力室207A,207Bが形成される。これらの圧力室207A,207Bにはステアリング操作の際に所定圧力の油圧の作動油が供給されるようになっている。
【0054】
油圧シリンダ201にはその両端部に取り付けたブラケット208を介して、スイベルアーム209が付設される。スイベルアーム209はその支軸210により各ブラケット208とピン結合し、支軸210のまわりに回動可能である。ここで、ドライブシャフトケース38の後側で平行に、ステアリングサブシャフト211を支持するためのハウジング212が配置される。ステアリングサブシャフト211はハウジング212内で回転可能に支持され、その上下端部にそれぞれステアリングレバー213,214が取り付けられる。上側のステアリングレバー213は連結ピン215を介してスイベルアーム209とピン結合し、油圧シリンダ201が固定シャフト205に沿って往復動するのに対応して、ステアリングレバー213はスイベルアーム209を介して、ステアリングサブシャフト211のまわりに右又は左に回動する。
【0055】
下側のステアリングレバー214は連結ピン216を介してスイベルアーム217とピン結合する。ドライブシャフトハウジング67の延出部67a上には、連結ピン218を介して相互に折曲可能に結合するステアリングアーム219A,219Bからなるステアリングアーム219が配置される。上側のステアリングアーム219Aは支軸220を介してスイベルアーム217とピン結合する。上下のそれぞれステアリングレバー213,214は同期回動し、この回動によりスイベルアーム217等を介して延出部67a、従ってロアケース68、推進機15が右又は左に旋回する。
【0056】
次に、本発明によるステアリング装置200の作用等について説明する。先ず、船外機10を転舵せず、即ち舟艇が直線走行する場合、ステアリング装置200は図17に示すように中立状態とし、推進機15及びプロペラ42が真っ直ぐ後方を向いている。このとき左右の圧力室207A,207Bの油圧バランスが均衡していることで、図18(a)のように油圧シリンダ201は固定シャフト205の軸方向中央部に位置する。また、上下のステアリングレバー213,214は共に後方を向く。
【0057】
また、船外機10を左に転舵し即ち舟艇が左方へ旋回する場合、ステアリング装置200は図19に示すように左に回動し、推進機15及びプロペラ42が船体1に対して左後方を向いている。このとき左側の圧力室207Bが右側の圧力室207Aよりも高圧になり、図20のように油圧シリンダ201は固定シャフト205の軸方向に沿って左方へ移動すると共に、上側のステアリングレバー213は左に回動する。なお、ステアリングレバー213の回動に伴い固定シャフト205との距離が変化する、即ち図20(a)のように固定シャフト205から離間する。この場合、油圧シリンダ201自体がブラケット208を介して固定シャフト205のまわりに回転することで、ステアリングレバー213に対して不要な拘束負荷等を及ぼすことなく円滑作動を保証し、かかる距離変化に有効に対応する。
【0058】
ステアリングレバー213は左に回動することで、ステアリングサブシャフト211を介して下側のステアリングレバー214も図20(b)のように左に回動する。そして、ステアリングレバー214の回動によりスイベルアーム217を介してロアケース68、従って推進機15が左に旋回する。なお、ステアリング軸Sとステアリングリンク系の軸即ちステアリングサブシャフト211の軸とは相互に離間している。このためドライブシャフトハウジング67の作用点とステアリングサブシャフト211と間の距離は、上記のようにステアリング角が変わることで変化する。このような変化に対して、相互に折曲可能に結合するステアリングアーム219A,219Bが垂直方向に適宜折れ曲がることで有効に対応することができる。
【0059】
更に、船外機10を右に転舵し即ち舟艇が右方へ旋回する場合、ステアリング装置200は図21に示すように右に回動し、推進機15及びプロペラ42が船体1に対して右後方を向いている。このとき右側の圧力室207Aが左側の圧力室207Bよりも高圧になり、図22のように油圧シリンダ201は固定シャフト205の軸方向に沿って右方へ移動すると共に、上側のステアリングレバー213は右に回動する。そして、ステアリングレバー213が右に回動することで、ステアリングサブシャフト211を介して下側のステアリングレバー214も図22(b)のように右に回動し、これにより推進機15が右に旋回する。
【0060】
なお、船外機10を右に転舵する場合にも、上述のように油圧シリンダ201自体がブラケット208を介して固定シャフト205のまわりに回転し、あるいはステアリングアーム219A,219Bが垂直方向に適宜折れ曲がる。これらによりステアリング装置200の円滑作動が保証される。
【0061】
上述のように本発明において、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸を一致させることで、ステアリング角を大きくしながら、ステアリング装置200はドライブシャフト60の周辺部材、特にスイベルブラケット39の外側部材によって構成される。従ってドライブシャフト60、ラジアル軸受、スラスト軸受及びオイルシール等を含む多数の部品もしくは部材が集中するスイベルブラケット39内部の構造を複雑にすることなく従来型船外機と同程度にシンプルな構造にできる。
【0062】
また、300馬力クラスの従来の大型船外機のステアリング角度は高々、±30度程度であるのに対し、本発明のステアリング装置200では±40度と大きくできる。つまりステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸を共有したことで、従来の小型船外機のようにステアリング角度に実質的に制限をなくすることができる。なお、ステアリング角を大きくするとそのままでは、ドライブシャフトハウジング67の延出部67aが、エンジンケース100の凹部103と干渉する場合がある。このため実機ではステアリング角度を±30度程度とすることが好ましいが、ドライブシャフトハウジング67の位置をエンジンケース100下端よりも下げることで、両者の干渉を回避し、より大きなステアリング角を得ることができる。
【0063】
また、ステアリング装置200において、転舵の際に方向を変える可動部材は実質的にドライブシャフトハウジング67とロアケース68だけである。従って、スターンドライブよりも大きなステアリング角を持つ従来の大型船外機のステアリング角よりも大きな角度を確保しながら、従来の船外機のようにエンジンを一体的にステアリングしないので、ヨー方向(ステアリング角方向)の慣性モーメントを小さくでき、急転舵等の際の操作荷重を減らすことができた。更に、スイベルブラケット39の下部において、高剛性のフレーム16(特にリヤフレーム49やロアフレーム51でなるトラス構造)で横方向荷重を受けるようにしたことので、急転舵や大舵角による急旋回を可能とし、走行性能を大幅に向上することができる。
【0064】
ここで更に、本発明の特徴的な作用効果について説明すると先ず、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸を一致させることで、ステアリング角の制限がなくなり、転舵性能を向上することができる。なお、船内機の場合、基本的にステアリングは舵で行うので、転舵性能は好ましくない。船内外機及び大型船外機の場合、ステアリング軸とドライブ軸が一致しないので、ステアリング角が限定されるため転舵性能は同様に好ましいものではない。
【0065】
この転舵性能に関して、具体的に説明すると、例えば転舵時にギアケース41に発生する揚力は略ドライブシャフト60の軸上(全長の前から1/3程度)に中心を持つ。この場合ステアリング軸Sに対して、「揚力×(ステアリング中心〜揚力中心間距離)」のステアリングモーメントが発生する。ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸が一致すると、ステアリングモーメントは略ゼロになる。従って、ステアリング駆動力が小さくて済み、装置構成をコンパクトにすることができる。ちなみに、一般の船外機ではエンジン自体もステアリングされるので、ステアリング慣性モーメントが大きくなり、大きなステアリング入力が必要になる。本発明のステアリング装置200では小さなステアリング入力で足りるため、軽く操作できる等の利点がある。
【0066】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態において入力軸57やドライブシャフト60等の複数の回転軸を支持する複数のベアリングもしくは軸受を用いるが、その数量や形式等はそれらの回転軸に付与される荷重の大きさや種類等に応じて適宜選択し得る。
【符号の説明】
【0067】
1 船体、2 トランサムボード、3 船床、6 貫通孔、7 船底、10 船外機、11 エンジンユニット、12 吸気系、13 排気系、14 動力伝達機構、15 推進機、16 フレーム、17 クランクケース、18 シリンダブロック、19シリンダヘッド、20 シリンダヘッドカバー、21 オイルパン、22 エアクリーナ、23 インテークマニホールド、24 インテークパイプ、25 吸気管、26 エキゾーストマニホールド、27 エキゾーストパイプ、28 排気ホース、29 マフラ、30 排気ホース、31 排気出口、32 減速機、33 ケーシング、34 タイロッド、35 中間減速機、36,37 ユニバーサルジョイント、38 ドライブシャフトケース、39 スイベルブラケット、40 ベアリング、41 ギアケース、42 プロペラ、43 エンジンマウント、44 メインブラケット、45 トランサムボルト、46 サイドフレーム、47 インナフレーム、48 フロントフレーム、49 リヤフレーム、50 アッパフレーム、51 ロアフレーム、52,53 パッド、54 フランジ部、55 ベアリングハウジング、56 チルト懸架部、57 入力軸、58 ベアリング、59 ベベルギア、60 ドライブシャフト、61 ベベルギア、62 ベアリング、63 ベベルギア、64 プロペラシャフト、65 ベベルギア、66 最終減速機、67 ドライブシャフトハウジング、68 ロアケース、69,70,71 ベアリング、72 スラスト受け、100 エンジンケース、101 ケース本体、102 ケースカバー、103 凹部、104 貫通孔、105 ヒンジ、106 シール、107 ロック機構、108 油圧ダンパ、109 自在軸受、200 ステアリング装置、201 油圧シリンダ、203 固定ロッド、205 固定シャフト、206 固定式ピストン、207A,207B 圧力室、209 スイベルアーム、211 ステアリングサブシャフト、213,214 ステアリングレバー、217 スイベルアーム、219 ステアリングアーム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機における特にステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶もしくは舟艇の推進機関あるいは推進システムの主なものとして船外機、船内外機及び船内機等がある。このうち船外機はアウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジン、その捕機類、駆動系のギアやシャフト及びスクリュー等が一体化して構成されており、一般には船体船尾のトランサムボードに搭載される。典型的には小型の舟艇等に搭載され、ステアリング機能とチルティング機能を有している。
【0003】
また、船内外機は、小型船舶等の推進機関の設置方法として、インボードエンジン・アウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジンを船内船尾部に搭載すると共に減速ギア、前後進クラッチ及びプロペラ等を一体化してなるドライブユニットをトランサムボードの外部に配置したものである。
【0004】
これらの舟艇が海上あるいは水上で実走行する際、操舵性は極めて重要であり、操舵するためのステアリング装置において様々な工夫がなされている。例えば特許文献1に記載の船外機は一対のクランプブラケット部で船体に固定され、クランプブラケット間をスルーチューブ(チルト軸)を介してスイベルブラケットが支持される。船外機本体は、スイベルブラケット上のステアリング軸を中心にステアリングするようになっている。ステアリングすると横方向に揚力(舵力)が発生するが、この力はクランプブラケット経由で船体に伝えられる。
【0005】
また、特許文献2に記載の小型船外機では、ドライブ軸とステアリング軸を一致させている。従って、操舵角を大舵角に設定、操舵可能であり、なかには360度も操舵可能なものもある。
また、特許文献3に記載の船内外機では、チルト軸及びステアリング軸をドライブシャフトの自在継ぎ手(ユニバーサルジョイント)の中心においている。
また、特許文献4に記載のものは、シードライブと呼ばれる方式であり、スイベルブラケット上に大出力の船外機をステアリング軸とドライブ軸を一致させる形で搭載することで、大舵角を与えることができる。
更に、特許文献5に記載のものは、PODと呼ばれる形式で、ドライブ軸とステアリング軸が一致するので、大舵角を得ることができ、通常360度程度の舵角となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−2294号公報
【特許文献2】特開2003−205892号公報
【特許文献3】特許第3038606号公報
【特許文献4】特許第3046398号公報
【特許文献5】特開2007−230510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、クランプブラケットは船体に対して片持ち固定である。このためトリム(チルト)すると、揚力(舵力)中心が船体から後方に離れるので、クランクブラケットがハの字上に開き気味となる。このような理由から船外機は大きな揚力(舵力)を発生させることができないという問題があった。また、トリム(チルト)角もスラスト状態では大きくできないという問題があった。更に、同様な理由から舵が効き難く、小回り性能が良くないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載のものでは、ステアリング軸受部でエンジンをマウントしており、具体的にはそのマウントゴムがステアリング軸受外側にある。このためエンジン振動が船体に伝わり易いという問題があった。また、ステアリング軸受のスパンが短いため、小さな推進力には耐え得るが、大型船外機等の場合のように大きな推進力には適用できないという問題があった。
また、特許文献3に記載のものでは、自在継ぎ手の折曲げ角には制限があるため、チルト角及びステアリング角とも船外機より小さくなる。従って、舵が効き難く、小回り性能が悪いという問題があった。
【0009】
また、特許文献4に記載のものでは、船外機エンジン部分が水面に対し低い位置となるため、エンジンが被水し易く信頼性及び耐食性を維持するのが難しいという問題がある。また、船外機の重心から遠く離れた位置にチルト軸があるため、大きなチルト装置が必要となり、あるいは慣性質量が大きくなるので、流木等の衝突時に大きな衝撃力が発生する等の問題であった。
更に、特許文献4に記載のものでは、浅瀬を考慮しない大型船舶専用であるため、舟艇に応用しようとすると障害物(海底を含む)と衝突した際、衝撃吸収機構がないため大きなダメージを受けるという問題があった。
【0010】
更にまた、この種の船外機等において、ドライブ軸とステアリング軸が一致しているので、大舵角を与えることができるが、揚力(舵力)を支えるのはステアリング軸から遠く離れたジンバル面(トランサムボードへの取付け面)であるため、大きな舵力を与えることができず、結果として高速での小回りができないという問題があった。
また、ステアリング軸とドライブ軸が一致しているため、大舵角を与えることができるが、ステアリング軸(ドライブ軸)がボート進行方向と直交していないため、舵力の横方向成分が小さく、高速旋回はできない。
更に、エンジンが高い位置に配置されるため被水性で有利であり、なお船体への取付けも船外機と同様簡単なものがあるが、ドライブ軸がユニバーサルジョイント結合であるので、ステアリング角及びチルト角とも大きく取れないという問題がある。
【0011】
本発明はかかる実情に鑑み、転舵性及び操作性等に優れ、小型コンパクト化を有効に実現する船外機のステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の船外機のステアリング装置は、エンジンケース内にエンジンを収容すると共に、エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、前記エンジンケースの所定部位に装架されたスイベルブラケットにより、前記推進機をステアリング軸のまわりに回動可能に支持し、前記推進機を駆動するドライブシャフトと前記ステアリング軸の中心を一致させたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の船外機のステアリング装置において、前記ドライブシャフトは前記スイベルブラケット内でスイベル垂直軸方向に回転自在に支持され、前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが、前記スイベルブラケットに回転可能に支持されると共に、その下端に前記推進機が一体に結合することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の船外機のステアリング装置において、前記スイベルブラケットの上部付近にステアリング駆動用アクチュエータを備え、前記ドライブシャフトハウジングの下部を延出させて前記推進機との結合延出部を形成し、前記アクチュエータの作動により前記結合延出部を回動付勢するようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の船外機のステアリング装置において、前記ステアリング軸まわりの可動部材として実質的に、前記推進機と前記ドライブシャフトハウジングのみを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステアリング軸とドライブシャフトを一致させることで、ステアリング角を大きくしながら、ステアリング装置自体は小型且つコンパクトな構成にすることができる。また、本発明のステアリング装置によれば、操作性に優れると共に高い転舵性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る船外機を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示す斜視図である。
【図2】本発明の船外機の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の船外機の外観を示す後面図である。
【図4】本発明の船外機の外観を示す側面図である。
【図5】本発明の船外機の外観を示す前面図である。
【図6】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の構成例を示す斜視図である。
【図7】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の主要構成の分解斜視図である。
【図8】本発明の船外機のエンジンユニットの構成及び配置例を示す斜視図である。
【図9】本発明の船外機の吸排気系の構成及び配置例を示す斜視図である。
【図10】本発明の船外機の動力伝達機構の構成及び配置例を示す斜視図である。
【図11】本発明の船外機のフレームの構成及び配置例を示す斜視図である。
【図12】本発明の船外機のエンジンケースにおけるケースカバー開成状態を示す斜視図である。
【図13】本発明の船外機におけるスイベルブラケットのガイド機構まわりを示す部分斜視図である。
【図14】本発明の船外機の動力伝達系における構成例を示す縦断面図である。
【図15】本発明の船外機のステアリング装置の構成例を示す縦断面図である。
【図16】本発明の船外機のステアリング装置の駆動部まわりの断面図である。
【図17】本発明の船外機のステアリング装置における舟艇直進時の後方斜視図及び側面図である。
【図18】図17(b)のX方向矢視図及びY方向矢視図である。
【図19】本発明の船外機のステアリング装置における舟艇左旋回時の後方斜視図及び側面図である。
【図20】図19(b)のX方向矢視図及びY方向矢視図である。
【図21】本発明の船外機のステアリング装置における舟艇右旋回時の後方斜視図及び側面図である。
【図22】図21(b)のX方向矢視図及びY方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明における船外機のステアリング装置の好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る船外機10を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示している。この例では船舶は典型的には中小型とし、船体1の後部にトランサムボード2(船尾板)有するものとする。船外機10は図示のようにトランサムボード2を利用して搭載される。なお、以下で参照する各図の要所において、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。また、必要に応じて船体の左右方向(船幅方向)をそれぞれ矢印L、矢印Rにより示す。
【0019】
ここで先ず本実施形態に係る船体1において、図1のように船体1の底部に船床3が敷設され、この船床3の後端にトランサムボード2が配置される。船床3の中央部付近において操縦席4が設けられ、操縦席4にはハンドル5を始めとする操縦に必要な装置及び機器類、計器類等が配設される。船外機10は動力、推進機、転舵装置及びチルト装置等が一体的に装備され、所謂オールインワンタイプとして構成され、船体1側に燃料タンク、バッテリ等の通常の備品があれば運転可能である。
【0020】
なお、船舶としてこの図示例のものに限定されず、その他トランサムボードの後側に船外機搭載用のブラケット等を具備した船体もあり、つまり船体の船尾に船尾板又はこれに相当する部位もしくは部材を有するタイプのものに対して、本発明の船外機10は有効に適用可能である。
【0021】
図2〜図5は船外機10の外観を示し、図2は船外機10の斜視図、図3は後面図、図4は側面図及び図5は前面図である。船外機10は樹脂製エンジンケース100を有し、このエンジンケース100内部に後述する動力源であるエンジンユニットを収容すると共に、エンジンケース100の後部下方にスクリュー(プロペラ)を配置し、エンジンユニットによってスクリューを回転駆動する。エンジンケース100は船外機10の外観を構成する外装部材としても機能し、全体として一体感のある外観を呈している。
【0022】
エンジンケース100は図1をも参照して、船体1の船尾部(典型的にはトランサムボード2とする)と略同一の幅を有する筐体として構成される。この例ではエンジンケース100の基本的な形態は概略直方体とし、該直方体の長手方向が船幅方向としている。エンジンケース100はエンジンユニット及びその周辺部品もしくは部材を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口101a(図12参照)を覆うケースカバー102とを有する。
【0023】
エンジンケース100内に収容されるエンジンユニット及びその周辺部品等について説明する。本発明の船外機10はそのパワーユニットとして内燃機関を主動力とし、これを作動させて推進機を駆動する。図6は船外機10におけるエンジンケース100内部の構成例を示し、図7はエンジンケース100内の主要構成の分解斜視図である。エンジンケース100内において、パワーユニットを構成するエンジンユニット11が、コンパクト且つ重量バランス良く配置収容される。この実施形態では2基のエンジンユニット11を有し、その筐体の長手方向が船幅方向としたエンジンケース100の左右に、一対のエンジンユニット11がセンタ振分けで配置される。各エンジンユニット11には、吸気系12及び排気系13が接続されると共に、それぞれの出力端(クランクシャフト)に動力伝達機構14が連結される。動力伝達機構14はエンジンユニット11の後側にて左右方向中央部で推進機15と結合し、これらの船外機構成部材が図7のようにフレーム16上に搭載支持される。
【0024】
更に具体的に説明すると、エンジンユニット11において、この例では水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンを使用する。なお、エンジン気筒数等は必要に応じて適宜変更可能であり、この例に限定されるものではない。図8を参照して、エンジンユニット11においてクランクケース17、シリンダブロック18、シリンダヘッド19及びシリンダヘッドカバー20が順次重なるように一体的に結合し、最下部にオイルパン21が付設される。各エンジンユニット11のクランクシャフトは船幅方向(左右方向)に沿って配置され、その軸端に結合するエンジン出力軸が左右両外側に位置するように配置され、即ち右側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は右側に、左側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は左側となるように配置される。
【0025】
次に吸気系12において、図6に示すようにエンジンユニット11相互間に単一のエアクリーナ22が配置される。一方、図8に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側にそれぞれインテークマニホールド23が結合し、これらのインテークマニホールド23とエアクリーナ22との間がそれぞれインテークパイプ24を介して接続される。エアクリーナ22の前面部からエンジンケース100前部の船体1側まで吸気管25が延出し(図9参照)、その先端の空気取込み口から空気を取り込むようになっている。空気取込み口は、船体1において波、しぶき及び雨等に曝されることがない部屋もしくはスペースに設置される。図8に示されるように各エンジンユニット11において、単一の吸気管25から複数(この例では4つ)のインテークマニホールド23に分岐する。
【0026】
排気系13において、図7等に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側にそれぞれエキゾーストマニホールド26が結合し、それらは単一のエキゾーストパイプ27に接続する。エキゾーストパイプ27には排気ホース28が接続され、排気ホース28にはマフラ29が接続される。このマフラ29には排気ホース30が接続され、この排気ホース30に取り付けられた排気出口31から排気ガスが排出されるようになっている。
【0027】
マフラ29は、エンジンケース100のケース本体101の下面外側に設置される。この場合、マフラ29及び排気ホース30等はケース本体101の下面から実質的に突出しないように配置されると共に、ケース本体101の後面左右両側の下部付近に配置された排気出口31から左右バランス良く水中に排気される。
【0028】
動力伝達機構14はエンジンユニット11の出力を推進機15へと伝達する。動力伝達機構14において、左右のエンジンユニット11のエンジン出力軸には図10に示されるように減速機32が連結される。減速機32のケーシング33内に回転自在に軸支されたギア群を有し、その出力軸にタイロッド34が連結される。左右のタイロッド34は相互に同心且つ水平で左右方向に配置され、左右中央部で中間減速機35と連結する。各タイロッド34は両端でそれぞれユニバーサルジョイント36,37を介して、減速機32及び中間減速機35と連結する。
【0029】
本実施形態において中間減速機35は、それぞれタイロッド34に連結する一対の入力側ベベルギアとこれらの入力側ベベルギアに噛合する出力側ベベルギアとを含む。出力側ベベルギアは、ドライブシャフトケース38内のドライブシャフトと連結し、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及びスイベルブラケット39が、相互に一体的に結合する。ドライブシャフトは中間減速機35から下方へ延出する。これらのスイベルブラケット39等はベアリング40を介して、後述するようにケース本体101に回動可能に支持される。
【0030】
推進機15は図10等に示されるように、ドライブシャフトケース38の下方に配置される。推進機15は、プロペラ駆動用のギアを内蔵するギアケース41を含み、全体としてフィン状を呈する。ギアケース41の後端部にはプロペラ42が装架される。ドライブシャフトはドライブシャフトケース38内を通って更に下方へ延出し、ギアケース41内まで延設される。ギアケース41内には最終減速機が構成され、この最終減速機を介してプロペラ42を回転駆動することができる。
【0031】
更に、推進機15に対するチルト機構及びステアリング機構を備えている。これらについての詳細な説明はここでは省略するが、先ずチルト機構により、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及び推進機15全体がチルト軸のまわりに上下方向に回動可能である。チルト軸Tはタイロッド34と同軸に設定され、図10の矢印Aで示すように推進機15はチルト軸Tのまわりにチルト動作することができる。なお、チルト機構において所謂、パワートリムチルト(PTT)等と称する駆動装置を備え、電動油圧式のチルト機構が構成されるものであってよい。
【0032】
また、ステアリング機構により、図10の矢印Bで示すように推進機15はステアリング軸Sのまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である(ヨーイング)。このステアリング機構において、例えば電動油圧式に油圧駆動されるステアリングシリンダを有し、油圧ポンプを油圧源としてステアリングロッドに沿って往復動させることで推進機15が左右方向に回動、即ちステアリング動作することができる。
【0033】
上述した船外機10の主要構成部材は図6のようにフレーム16上に搭載支持される。フレーム16は鋼管等の材料を用いて、図11に示されるようにエンジンケース100を構成する筐体の直方体に略沿った外形となるように形成される。フレーム16の所定部位にはエンジンユニット11を搭載支持するための複数のエンジンマウント43が配設され、これらのエンジンマウント43を介してエンジンユニット11がフレーム16上に取り付けられる。また、フレーム16の後部には、前述したスイベルブラケット39等を支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取り付けられる。
【0034】
更に、フレーム16の前面部には複数のトランサムボルト45が前方に向けて取り付けられる。フレーム16にはエンジンユニット11を始めとする船外機構成部材が搭載されるが、それらを搭載したフレーム16はエンジンケース100内に収容される。トランサムボルト45はそのようなエンジンケース100のケース本体101の前面部を貫通してトランサムボード2に締結され、これによりエンジンケース100全体をトランサムボード2に締着固定することができる。なお、ケース本体101から突出するトランサムボルト45にはシールもしくはパッキン等が装着され、水密性が確保される。
【0035】
前述のようにエンジンケース100は、エンジンユニット11やその周辺部品を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口101aを覆うケースカバー102とを有する。ケース本体101に対してケースカバー102が閉じることでエンジンケース100内は実質的に密閉空間となり、高い水密性が確保される。この場合、船外機10の構成部材はフレーム16によって支持され、フレーム16はエンジンユニット11を保持すると共に推進機15の推進力や操舵力を受け持ち、即ちエンジンケース100自体にはそれらの負荷荷重がかからない。また、エンジンケース100は図1に示されるように船外機10の外装部材としても機能し、船外機10に搭載されて全体として一体感の外観を呈する。
【0036】
図2〜図4等に示されるようにケース本体101の後面側において、その後面部から底面部へかけての領域において、船幅方向中央部にはケース本体101の内方へ凹むように形成された凹部103が設けられている。この凹部103まわりには、推進装置を構成する推進機15やそのチルト及びステアリング機構等が配設される。凹部103はケース本体101の後面側から前方へ向けて形成されるが、チルト機構及びステアリング機構あるいはそれらの周辺機器や部材等がチルトあるいはステアリング動作する際にケース本体101と干渉しないように必要且つ十分な間隙が設けられている。
【0037】
前述したように船体1側には燃料タンク、バッテリ等の備品が配備され、これらの備品と船外機10とが接続もしくは連結される。この場合、図5に示すようにケーシング101の前面部とトランサムボード2との間で穴を共あけするかたちで、複数の貫通孔104が形成されている。即ち、エンジンに燃焼用空気を供給するための吸気管25を挿通させるための貫通孔104A、燃料タンクからエンジンに燃料を供給するための燃料パイプを挿通させるための貫通孔104B、エンジンケース100内を換気するための換気空気用筒体を通すための貫通孔104C等が形成される。更に、エンジンケース100内の装置もしくは機器類又は部材と船体1側の操縦装置との間を、電気的(制御信号等を含む)あるいは機械的に接続するコード又はケーブル類を挿通させるための貫通孔104Dが形成される。なお、これらの貫通孔104には吸気管25等の実装時に水密保持手段(シール等)が施される。
【0038】
ケースカバー102はエンジンケース100の上面部を構成するが、図2あるいは図3に示されるようにケース本体101の後部上端付近にてヒンジ105を介して回動可能に結合する。図12のようにケースカバー102をヒンジ105のまわりに回動させて開成することで、エンジンケース100内部が開放され、これにより露呈したエンジンケース100内部のエンジンユニット11等に自由にアクセス可能となる。ケースカバー102を開けて内部の点検等を容易に行うことができ、この種の作業の利便性を向上することができる。
【0039】
ケース本体101とケースカバー102の閉合部もしくは合せ面には、図12に示されるようにシール106が敷設され、ケースカバー102をケース本体101に対して閉めることでエンジンケース100の高い水密性が確保・保持される。この場合、シール106は、ケース本体101及びケースカバー102の合せ面に沿って全周に亘って敷設される。そして、ケースカバー102が閉まった際にはケース本体101の閉合部との間に挟着され、これによりエンジンケース100に対する高い水密性が得られる。また、ケースカバー102をケース本体101に対して閉じた際、ケースカバー102をその閉合状態に固定保持する図12に示されるようなロック機構107を有している。
【0040】
また、ケースカバー102をその開き状態に保持可能な保持機構を有し、図12のようにケース本体101に対してケースカバー102を開いた状態に保持することができる。保持機構の具体的構成において、図12のようにケース本体101の開口部101a付近に油圧ダンパ108が配置される。この油圧ダンパ108は、ケースカバー102とフレーム16との間に結合される。ここで図11を参照して、フレーム16の上部後方において左右一対の支持アーム16aを備え、各油圧ダンパ108の一端が、自在軸受109を介して支持アーム16aに連結支持される。油圧ダンパ108の他端は同様に、自在軸受を介してケースカバー102の裏側に連結される。
【0041】
前述したようにエンジンユニット11はエンジンマウント43を介して、フレーム16に搭載支持される。ここで、フレーム16は具体的には図11に示されるように左右のサイドフレーム46、船幅方向で凹部103に略対応するインナフレーム47、前部のフロントフレーム48、後部のリヤフレーム49、上部のアッパフレーム50及び下部のロアフレーム51等を含み、パイプ材及び板材、更には厚肉部により構成される。これらの部材は溶接、ボルト結合等によって組み合わされ、相互に結合される。
【0042】
ケース本体101の後面側に形成された凹部103に対応して、ケース本体101内側のフレーム16も凹状に形成される。この場合、リヤフレーム49やロアフレーム51の凹部103対応する部位を下方に延長し、あるいは斜めに傾斜させることで、図11から分かるようにトラス構造を有する。図13等を参照してスイベルブラケット39の下部において、その左右両側には推進機15がチルト動作する際にケース本体101側に接触するようにしたパッド52が付設される。一方、フレーム16のトラス構造部位には、パッド52に対応するパッド53が付設される。これらのパッド52,53を設けることで、推進機15を左右両側からガイドするようにしている。
【0043】
前述したようにスイベルブラケット39はベアリング40を介して、フレーム16に回動可能に支持される。また、フレーム16の後部には図11に示したように、スイベルブラケット39を回動可能に支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取付支持される。フレーム16の後部中央には、メインブラケット44を取り付けるための一対のドーナツ状フランジ部54が設けられている。図11においてはケース本体101は図示されていないが、メインブラケット44とフランジ部54の間に挟まれるようにケース本体101、より具体的には凹部103の側壁が介在する。
【0044】
メインブラケット44は平面視(図11等)でコ字状に形成され、コ字の左右両辺部にベアリング40を装着するベアリングハウジング55(軸受部)を有する。このようにメインブラケット44は左右のベアリングハウジング55を含めて、全体としてコ字状に一体成形されるので、高い剛性でスイベルブラケット39を支えることができる。従って、急旋回や旋回中のチルト(トリム)操作が滑らかに且つ短い時間で行えるようになる。
【0045】
ここで、図14はスイベルブラケット39を介して支持される、中間減速機35から推進機15へと至る動力伝達経路に沿った構成例を示している。スイベルブラケット39の左右両肩部には、チルト軸Tと同軸とした中空円筒状のチルト懸架部56が形成されている。このチルト懸架部56にはベアリング40が装着され、ベアリング40が更に上述のように両側からベアリングハウジング55内に嵌着される。このようにスイベルブラケット39はチルト懸架部56にて、ベアリング40を介してチルト軸Tのまわりに回動可能に支持され、これによりスイベルブラケット39全体が円滑にチルト動作することができる。
【0046】
また、各チルト懸架部56の内部にはチルト軸Tと同軸に、中間減速機35に対する一対の入力軸57がベアリング58を介して回転自在に支持される。入力軸57の一端側には、ユニバーサルジョイント37を介してタイロッド34が連結される。また、各入力軸57の他端側には、ピニオンギアであるベベルギア59が取り付けられる。一方、スイベルブラケット39と一体的に結合するドライブシャフトケース38内にはドライブシャフト60が回転可能に挿通支持されており、ドライブシャフト60の上端に取り付けられたベベルギア61がベアリング62を介して回転自在に支持される。ベベルギア61は、相互に対向配置されたベベルギア59双方に噛合する。このように中間減速機35において、タイロッド34から入力軸57へ入力された動力は、ベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。
【0047】
ドライブシャフト60は更に、推進機15内部を貫通してギアケース41まで延出し、その下端には、ピニオンギアであるベベルギア63が取り付けられる。ギアケース41内にはプロペラ42を取り付けたプロペラシャフト64が回転可能に支持されており、このプロペラシャフト64に取り付けられたベベルギア65がベベルギア63と噛合する。前述のようにギアケース41内のベベルギア63及びベベルギア65により最終減速機66が構成され、このように中間減速機35から最終減速機66へ至る動力伝達系を経てプロペラ42が回転させるようになっている。
【0048】
更に、ドライブシャフトケース38内には図14を参照して、ドライブシャフト60と同軸なドライブシャフトハウジング67が回転自在に支持され、このドライブシャフトハウジング67内をドライブシャフト60が貫通する。ドライブシャフトハウジング67の下部にはロアケース68が結合する。なお、ロアケース68の下部にはギアケース41が設けられている。ドライブシャフト60の下端は、ベアリング69を介してロアケース68に回転自在に支持される。
【0049】
ドライブシャフトハウジング67は概して筒状に形成され、その上端と下端付近にてそれぞれベアリング70,71を介してドライブシャフトケース38、即ちスラストブラケット39に回転可能に支持される。ドライブシャフトハウジング67は前述のようにロアケース68が一体的に結合し、図14に示されるステアリング装置200の作動によりドライブシャフトハウジング67及びロアケース68がステアリング軸Sのまわりに回動してステアリング動作が行われる。更に、ドライブシャフトハウジング67の上端には、スラスト受け72が配置される。また、スラスト受け72の上下にはベアリング73,74が装着されると共に、ドライブシャフトハウジング67の下部付近にはベアリング75が装着され、これらのスイベル垂直軸スラストベアリングによりスラスト方向荷重を受けるようにしている。
【0050】
上記の場合、上述した船外機10の構成部材の他に、エンジンユニット11の冷却配管系、チルト機構及びステアリング機構の駆動用の油圧配管系あるいは部材相互間等で電気信号もしくは電力等を授受するための電気信号線又はコード類等がエンジンケース100内の適所に引き回されると共に、船外機10の運転に必要な補機類が配設される。そして、これらの配管系等を介して、あるいは補機類が作動して、船外機10の適正な運転が遂行される。
【0051】
ここで、本発明の船外機10の基本的作動において、エンジンケース100の内部に並置された2基のエンジンユニット11の出力は動力伝達機構14を経て、エンジンケース100の外部に配置された推進機15へと伝達される。より具体的にはエンジンユニット11が始動すると、その動力は先ず減速機32へ入力され、次にその出力端からユニバーサルジョイント36を介してタイロッド34へ伝達される。エンジン動力は更に、タイロッド34から中間減速機35へ伝達されるが、中間減速機35において入力軸57からベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。ドライブシャフト60の駆動力はギアケース41内の最終減速機66において、ベベルギア63及びベベルギア65を介してプロペラシャフト64、更にプロペラ42へと伝達され、これによりプロペラ42が回転する。
【0052】
さて図15は、ステアリング装置200まわりの構成例を示している。先ず、上述のようにスイベルブラケット39の中央部にはドライブシャフトケース38内に筒状のドライブシャフトハウジング67が配置され、その上部に減速機35が配置される。ドライブシャフトハウジング67の下部には推進機15のケーシングを構成するロアケース68が結合するが、ロアケース68の上部を覆うようにドライブシャフトハウジング67の下端から後方へ延出部67aが延出し、この延出部67aにてロアケース68と結合する。延出部67aはドライブシャフトハウジング67と一体にステアリング軸Sのまわりに回動可能に支持され、従ってロアケース68、即ち推進機15も延出部67aと伴にステアリング軸Sのまわりに右左旋可能となる。
【0053】
本実施形態のステアリング装置200において、その駆動源として油圧シリンダを使用する。図2及び図3等を参照して、スイベルブラケット39の後側上部付近に油圧シリンダ201が水平配置される。具体的には図15及び図16のようにドライブシャフトケース38の上部付近で後方へ突設されたステー202には、左右水平方向に延設された固定ロッド203が挿通支持される。固定ロッド203の両端部に取り付けたアーム204を介して、固定ロッド203と平行に固定シャフト205が配置される。この固定シャフト205に油圧シリンダ201がスライド可能に装着される。固定シャフト205の中央部には油圧シリンダ201内部を仕切る固定式ピストン206が設けられており、ピストン206の両側に油圧シリンダ201の圧力室207A,207Bが形成される。これらの圧力室207A,207Bにはステアリング操作の際に所定圧力の油圧の作動油が供給されるようになっている。
【0054】
油圧シリンダ201にはその両端部に取り付けたブラケット208を介して、スイベルアーム209が付設される。スイベルアーム209はその支軸210により各ブラケット208とピン結合し、支軸210のまわりに回動可能である。ここで、ドライブシャフトケース38の後側で平行に、ステアリングサブシャフト211を支持するためのハウジング212が配置される。ステアリングサブシャフト211はハウジング212内で回転可能に支持され、その上下端部にそれぞれステアリングレバー213,214が取り付けられる。上側のステアリングレバー213は連結ピン215を介してスイベルアーム209とピン結合し、油圧シリンダ201が固定シャフト205に沿って往復動するのに対応して、ステアリングレバー213はスイベルアーム209を介して、ステアリングサブシャフト211のまわりに右又は左に回動する。
【0055】
下側のステアリングレバー214は連結ピン216を介してスイベルアーム217とピン結合する。ドライブシャフトハウジング67の延出部67a上には、連結ピン218を介して相互に折曲可能に結合するステアリングアーム219A,219Bからなるステアリングアーム219が配置される。上側のステアリングアーム219Aは支軸220を介してスイベルアーム217とピン結合する。上下のそれぞれステアリングレバー213,214は同期回動し、この回動によりスイベルアーム217等を介して延出部67a、従ってロアケース68、推進機15が右又は左に旋回する。
【0056】
次に、本発明によるステアリング装置200の作用等について説明する。先ず、船外機10を転舵せず、即ち舟艇が直線走行する場合、ステアリング装置200は図17に示すように中立状態とし、推進機15及びプロペラ42が真っ直ぐ後方を向いている。このとき左右の圧力室207A,207Bの油圧バランスが均衡していることで、図18(a)のように油圧シリンダ201は固定シャフト205の軸方向中央部に位置する。また、上下のステアリングレバー213,214は共に後方を向く。
【0057】
また、船外機10を左に転舵し即ち舟艇が左方へ旋回する場合、ステアリング装置200は図19に示すように左に回動し、推進機15及びプロペラ42が船体1に対して左後方を向いている。このとき左側の圧力室207Bが右側の圧力室207Aよりも高圧になり、図20のように油圧シリンダ201は固定シャフト205の軸方向に沿って左方へ移動すると共に、上側のステアリングレバー213は左に回動する。なお、ステアリングレバー213の回動に伴い固定シャフト205との距離が変化する、即ち図20(a)のように固定シャフト205から離間する。この場合、油圧シリンダ201自体がブラケット208を介して固定シャフト205のまわりに回転することで、ステアリングレバー213に対して不要な拘束負荷等を及ぼすことなく円滑作動を保証し、かかる距離変化に有効に対応する。
【0058】
ステアリングレバー213は左に回動することで、ステアリングサブシャフト211を介して下側のステアリングレバー214も図20(b)のように左に回動する。そして、ステアリングレバー214の回動によりスイベルアーム217を介してロアケース68、従って推進機15が左に旋回する。なお、ステアリング軸Sとステアリングリンク系の軸即ちステアリングサブシャフト211の軸とは相互に離間している。このためドライブシャフトハウジング67の作用点とステアリングサブシャフト211と間の距離は、上記のようにステアリング角が変わることで変化する。このような変化に対して、相互に折曲可能に結合するステアリングアーム219A,219Bが垂直方向に適宜折れ曲がることで有効に対応することができる。
【0059】
更に、船外機10を右に転舵し即ち舟艇が右方へ旋回する場合、ステアリング装置200は図21に示すように右に回動し、推進機15及びプロペラ42が船体1に対して右後方を向いている。このとき右側の圧力室207Aが左側の圧力室207Bよりも高圧になり、図22のように油圧シリンダ201は固定シャフト205の軸方向に沿って右方へ移動すると共に、上側のステアリングレバー213は右に回動する。そして、ステアリングレバー213が右に回動することで、ステアリングサブシャフト211を介して下側のステアリングレバー214も図22(b)のように右に回動し、これにより推進機15が右に旋回する。
【0060】
なお、船外機10を右に転舵する場合にも、上述のように油圧シリンダ201自体がブラケット208を介して固定シャフト205のまわりに回転し、あるいはステアリングアーム219A,219Bが垂直方向に適宜折れ曲がる。これらによりステアリング装置200の円滑作動が保証される。
【0061】
上述のように本発明において、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸を一致させることで、ステアリング角を大きくしながら、ステアリング装置200はドライブシャフト60の周辺部材、特にスイベルブラケット39の外側部材によって構成される。従ってドライブシャフト60、ラジアル軸受、スラスト軸受及びオイルシール等を含む多数の部品もしくは部材が集中するスイベルブラケット39内部の構造を複雑にすることなく従来型船外機と同程度にシンプルな構造にできる。
【0062】
また、300馬力クラスの従来の大型船外機のステアリング角度は高々、±30度程度であるのに対し、本発明のステアリング装置200では±40度と大きくできる。つまりステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸を共有したことで、従来の小型船外機のようにステアリング角度に実質的に制限をなくすることができる。なお、ステアリング角を大きくするとそのままでは、ドライブシャフトハウジング67の延出部67aが、エンジンケース100の凹部103と干渉する場合がある。このため実機ではステアリング角度を±30度程度とすることが好ましいが、ドライブシャフトハウジング67の位置をエンジンケース100下端よりも下げることで、両者の干渉を回避し、より大きなステアリング角を得ることができる。
【0063】
また、ステアリング装置200において、転舵の際に方向を変える可動部材は実質的にドライブシャフトハウジング67とロアケース68だけである。従って、スターンドライブよりも大きなステアリング角を持つ従来の大型船外機のステアリング角よりも大きな角度を確保しながら、従来の船外機のようにエンジンを一体的にステアリングしないので、ヨー方向(ステアリング角方向)の慣性モーメントを小さくでき、急転舵等の際の操作荷重を減らすことができた。更に、スイベルブラケット39の下部において、高剛性のフレーム16(特にリヤフレーム49やロアフレーム51でなるトラス構造)で横方向荷重を受けるようにしたことので、急転舵や大舵角による急旋回を可能とし、走行性能を大幅に向上することができる。
【0064】
ここで更に、本発明の特徴的な作用効果について説明すると先ず、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸を一致させることで、ステアリング角の制限がなくなり、転舵性能を向上することができる。なお、船内機の場合、基本的にステアリングは舵で行うので、転舵性能は好ましくない。船内外機及び大型船外機の場合、ステアリング軸とドライブ軸が一致しないので、ステアリング角が限定されるため転舵性能は同様に好ましいものではない。
【0065】
この転舵性能に関して、具体的に説明すると、例えば転舵時にギアケース41に発生する揚力は略ドライブシャフト60の軸上(全長の前から1/3程度)に中心を持つ。この場合ステアリング軸Sに対して、「揚力×(ステアリング中心〜揚力中心間距離)」のステアリングモーメントが発生する。ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸が一致すると、ステアリングモーメントは略ゼロになる。従って、ステアリング駆動力が小さくて済み、装置構成をコンパクトにすることができる。ちなみに、一般の船外機ではエンジン自体もステアリングされるので、ステアリング慣性モーメントが大きくなり、大きなステアリング入力が必要になる。本発明のステアリング装置200では小さなステアリング入力で足りるため、軽く操作できる等の利点がある。
【0066】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態において入力軸57やドライブシャフト60等の複数の回転軸を支持する複数のベアリングもしくは軸受を用いるが、その数量や形式等はそれらの回転軸に付与される荷重の大きさや種類等に応じて適宜選択し得る。
【符号の説明】
【0067】
1 船体、2 トランサムボード、3 船床、6 貫通孔、7 船底、10 船外機、11 エンジンユニット、12 吸気系、13 排気系、14 動力伝達機構、15 推進機、16 フレーム、17 クランクケース、18 シリンダブロック、19シリンダヘッド、20 シリンダヘッドカバー、21 オイルパン、22 エアクリーナ、23 インテークマニホールド、24 インテークパイプ、25 吸気管、26 エキゾーストマニホールド、27 エキゾーストパイプ、28 排気ホース、29 マフラ、30 排気ホース、31 排気出口、32 減速機、33 ケーシング、34 タイロッド、35 中間減速機、36,37 ユニバーサルジョイント、38 ドライブシャフトケース、39 スイベルブラケット、40 ベアリング、41 ギアケース、42 プロペラ、43 エンジンマウント、44 メインブラケット、45 トランサムボルト、46 サイドフレーム、47 インナフレーム、48 フロントフレーム、49 リヤフレーム、50 アッパフレーム、51 ロアフレーム、52,53 パッド、54 フランジ部、55 ベアリングハウジング、56 チルト懸架部、57 入力軸、58 ベアリング、59 ベベルギア、60 ドライブシャフト、61 ベベルギア、62 ベアリング、63 ベベルギア、64 プロペラシャフト、65 ベベルギア、66 最終減速機、67 ドライブシャフトハウジング、68 ロアケース、69,70,71 ベアリング、72 スラスト受け、100 エンジンケース、101 ケース本体、102 ケースカバー、103 凹部、104 貫通孔、105 ヒンジ、106 シール、107 ロック機構、108 油圧ダンパ、109 自在軸受、200 ステアリング装置、201 油圧シリンダ、203 固定ロッド、205 固定シャフト、206 固定式ピストン、207A,207B 圧力室、209 スイベルアーム、211 ステアリングサブシャフト、213,214 ステアリングレバー、217 スイベルアーム、219 ステアリングアーム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンケース内にエンジンを収容すると共に、エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、
前記エンジンケースの所定部位に装架されたスイベルブラケットにより、前記推進機をステアリング軸のまわりに回動可能に支持し、前記推進機を駆動するドライブシャフトと前記ステアリング軸の中心を一致させたことを特徴とする船外機のステアリング装置。
【請求項2】
前記ドライブシャフトは前記スイベルブラケット内でスイベル垂直軸方向に回転自在に支持され、前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが、前記スイベルブラケットに回転可能に支持されると共に、その下端に前記推進機が一体に結合することを特徴とする請求項1に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項3】
前記スイベルブラケットの上部付近にステアリング駆動用アクチュエータを備え、前記ドライブシャフトハウジングの下部を延出させて前記推進機との結合延出部を形成し、前記アクチュエータの作動により前記結合延出部を回動付勢するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項4】
前記ステアリング軸まわりの可動部材として実質的に、前記推進機と前記ドライブシャフトハウジングのみを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項1】
エンジンケース内にエンジンを収容すると共に、エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、
前記エンジンケースの所定部位に装架されたスイベルブラケットにより、前記推進機をステアリング軸のまわりに回動可能に支持し、前記推進機を駆動するドライブシャフトと前記ステアリング軸の中心を一致させたことを特徴とする船外機のステアリング装置。
【請求項2】
前記ドライブシャフトは前記スイベルブラケット内でスイベル垂直軸方向に回転自在に支持され、前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが、前記スイベルブラケットに回転可能に支持されると共に、その下端に前記推進機が一体に結合することを特徴とする請求項1に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項3】
前記スイベルブラケットの上部付近にステアリング駆動用アクチュエータを備え、前記ドライブシャフトハウジングの下部を延出させて前記推進機との結合延出部を形成し、前記アクチュエータの作動により前記結合延出部を回動付勢するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項4】
前記ステアリング軸まわりの可動部材として実質的に、前記推進機と前記ドライブシャフトハウジングのみを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の船外機のステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−236561(P2012−236561A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108250(P2011−108250)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
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