説明

船外機の操舵装置および船外機

【課題】船内のブラケットのチルト軸周りの構造を単純化し、ステアリング装置の複雑な取付け作業を簡素化すると共に、ブラケット周辺のスペースを広くした操舵装置および船外機を提供する。
【解決手段】船舶の船尾板に取り付けられたスイベルブラケット30と、上記スイベルブラケット30のスイベル軸31に回転可能に取り付けられた船外機と、上記船外機に設けられ、前記船外機をスイベル軸周りに回転させる駆動手段(電動モータ16)とを有する。上記船外機は船外機本体35を有し、上記駆動手段は上記船外機本体35のカウリング40内部に設けられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機の操舵装置およびこの操舵装置を備えた船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機の操舵装置は、クランプブラケットを介して船体の船尾板に設けられた船外機をスイベル軸廻りに左右に回動させて船舶の推進方向を決定するようになっている。このような船外機の操舵装置の駆動装置として電動モータを用いた操舵装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に記載の操舵装置は、ラックピニオン機構の直線動作をリンク機構を介して回転動作に変えてスイベルブラケットを回動させ、このスイベルブラケットの回動により船外機本体を操舵する。この操舵装置では、ラックピニオン機構のピニオン回転の駆動源として電動モータを用いている。この電動モータ及びラックピニオン機構は、船外機と船尾板を連結するブラケットに取り付けられ、船尾板の内側(船内側)に設けられている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の操舵装置は、クランプブラケットやスイベルブラケットからなるブラケットに取付け用のボス・ステー類を設けなければならず、構造が複雑化し、またブラケットサイズも大きくなり船体への取付け作業が複雑である。加えて上記操舵装置は、ブラケットへの取付けの際やチルトアップした時の他の部材との干渉を防止するため、船内のブラケット周辺のスペースを広く占有する。
【0004】
【特許文献1】特許第2959044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術を考慮したものであって、船内のブラケットのチルト軸周りの構造を単純化し、ステアリング装置の複雑な取付け作業を簡素化すると共に、ブラケット周辺のスペースを広くした操舵装置および船外機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、船舶の船尾板に取り付けられたスイベルブラケットと、上記スイベルブラケットのスイベル軸に回転可能に取り付けられた船外機と、上記船外機に設けられ、前記船外機をスイベル軸周りに回転させる駆動手段と、を有する船外機の操舵装置であって、上記船外機は船外機本体を有し、上記駆動手段は上記船外機本体のカウリング内部に設けられるものである。
【0007】
請求項2に記載した発明に係る船外機の操舵装置は、請求項1に記載した船外機の操舵装置において、前記駆動手段は回転駆動軸を有し、この回転駆動軸の端部に駆動用のギヤを有し、上記スイベルブラケットのスイベル軸には上記駆動用のギヤに噛み合う固定ギヤが設けられるものである。
【0008】
請求項3に記載した発明に係る船外機の操舵装置は、請求項1または請求項2に記載した船外機の操舵装置において、上記駆動手段は電動アクチュエータを有するものである。
請求項4に記載した発明に係る船外機は、請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載した操舵装置を備えているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船外機をスイベル軸周りに回転させる駆動手段を、船内のブラケット側でなく船尾板の外側の船外機そのものに設けたことにより、操舵装置が船尾板の内側に配置されない。したがって、操舵装置による船内占有スペースがなくなる。これにより、実質上船尾板の内側の船内スペースが広がるとともにブラケットのチルト軸周りの構造が簡素化される。
【0010】
また、本発明によれば、上記駆動手段を船外機本体のカウリング内部に設けたため、操舵装置が船尾板の内側に配置されない。したがって、操舵装置による船内占有スペースがなくなる。これにより、実質上船内スペースが広がるとともに、ブラケットのチルト軸周りの構造が簡素化される。また、船外機本体に駆動手段を内蔵させたことで駆動手段自体も船外機本体のカウリングによってカバーされ、被水の可能性も低減される。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、スイベルブラケットのスイベル軸には駆動手段に協働する固定ギヤを設けたため、コンパクトな構成で回転対象としての船外機本体の回転が達成される。また操舵装置としては部品点数も少なくなり、コスト面、組立て性で有利である。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、駆動手段は電動アクチュエータを有することにより、操舵装置としてコンパクト化が可能になる。なお、電動アクチュエータは、電動モータあるいは電動油圧シリンダなど、電動駆動部を有する駆動装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の参考となる船外機を備えた小型船舶の全体平面図である。船体1の船尾板2にクランプブラケット3を介してスイベルブラケット4が取り付けられる。スイベルブラケット4は図面に垂直方向に延びるスイベル軸5を備え、船外機6がスイベル軸5(ステアリング軸)周りに回転可能に取り付けられる。船外機6は、スイベル軸5周りに回転可能に取り付けられたステアリングブラケット7と、ステアリングブラケット7の一端に固定された船外機本体8とによって構成される。
【0014】
船体1側では運転席にハンドル9が設けられ、ハンドル軸10の根元にハンドル制御部11が備わり、内部にハンドル操作角センサー12及び反トルクモータ13が設けられる。ハンドル制御部11は信号ケーブル14を介して船外機6側のコントローラ15に接続され、コントローラ15は後述する駆動手段としての電動モータ16(図2)に接続される。反トルクモータ13は、ハンドル9を回転操作したときに、船体側から受ける外力に応じた反力をハンドルに付与して操船者にハンドル操作感覚を与えるためのものである。
【0015】
図2及び図3は、本発明の参考となる船外機の操舵装置17を説明するものであって、図2はその操舵装置の平面図、図3は縦断面図である。
【0016】
クランプブラケット3は、船尾板2に距離をおいて嵌合する1対のクランプ部材18、19と、クランプ部材18,19同士を連結するチルト軸20とによって構成される。スイベルブラケット4は、その船体側端部によりチルト軸20に対して回転可能に装着される。スイベルブラケット4は船外機本体8側に突出するように形成され、その先端部分にはさらに上述したスイベル軸5が下方に突出して形成される。クランプブラケット3には油圧チルトシリンダ(不図示)が装着され、船外機本体8をスイベルブラケット4と共にチルト軸20周りに回動させ必要時に船外機をチルトアップする。
【0017】
この参考例によればスイベル軸5は筒状に形成され、その内部に、ステアリングブラケット7の軸部21が回転可能に挿入される。ステアリングブラケット7の軸部21もスイベル軸5と同様に中空化されており、その内部には電動モータ16が収納される。
【0018】
図3に示すように、ステアリングブラケット7はチルト軸20側に開口して断面コの字状に形成されており、この凹部22には、駆動手段の一要素として、電動モータ16の回転を減速するための減速ギヤ23が回転可能に取り付けられる。減速ギヤ23は、モータ出力軸24先端に固定された駆動ギヤ25と噛合する大径ギヤ部26と、スイベルブラケット4に固定された固定ギヤ27と噛合する小径ギヤ部28とから構成されている。
【0019】
固定ギヤ27は、スイベル軸5及びモータ出力軸24の軸心Oを中心として図2に示すように円弧状に形成され、減速ギヤ23の小径ギヤ部28に対面する側にのみギヤを備えた円弧状ラックギヤとして構成される。
【0020】
固定ギヤ27がスイベルブラケット4側に固定されているのに対し、これに噛合する減速ギヤ23を備えるステアリングブラケット7は、スイベルブラケット4のスイベル軸5に対して回転可能である。したがって、コントローラ12からのモータ駆動信号によって電動モータ16が回転しその出力軸24の端部の駆動ギヤ25が回転すると、これに応じて減速ギヤ23が回転する。これにより、減速ギヤ23の小径ギヤ部28は固定ギヤ27上を回転しながら移動することとなり、これによりステアリングブラケット7及び軸部21は上述した軸心O廻りに回動する。
【0021】
前述したように、ステアリングブラケット7は、減速ギヤ23の反対側部分において船外機本体8を固定している。従って上述したステアリングブラケット7の回転により、船外機本体8がステアリング軸O周りに回動する。これにより船体1が操舵される。
【0022】
このように、この参考例によれば、駆動手段を構成する電動モータ16や減速ギヤ23を、船尾板2の船外側でスイベルブラケット4に装備させたため、船尾板2の船内側に操舵装置取付けのための複雑な構造を必要としない。したがって操舵装置17自体はチルト軸20周りの船内側スペースを占有することがなくなり、船内スペースが広がるとともに船体1内の他の部材との干渉もない。また、これによりスイベルブラケット4に操舵装置の取付構造が不要になり、スイベルブラケット4の構造が簡素化する。この電動モータ16や減速ギヤ23は、ステアリングブラケット7とのユニット化により、船外機本体8の取付けに際し、減速ギヤ23とスイベルブラケット4側の固定ギヤ27を係合させるだけでよく、取り付け作業も格段に簡素化する。加えて、外観上、電動モータ16はステアリングブラケット7の軸部21によってカバーされることにもなり、被水の可能性も低減される。当然、軸部21へのモータ内蔵化により駆動手段としての省スペース化が達成されることは言うまでもない。
【0023】
図4及び図5は、本発明に係る船外機の操舵装置29を説明するものであって、図4はその操舵装置29の平面図、図5は縦断面図である。尚、この実施例において先の参考例の操舵装置17を構成する要素と同一の構成要素は同一番号を付すこととする。
【0024】
この実施例においては、上記参考例と同様に、スイベルブラケット30は、その船体側端部によりクランプブラケット3のチルト軸20に対して回転可能に装着される。スイベルブラケット30は船外機本体8側に突出するように形成され、図5に示すように、その途中で下方に屈曲し、先端部分にスイベル軸31を備える。
【0025】
上記参考例と異なり、スイベルブラケット30のスイベル軸31は中実体として形成され、船外機32がスイベル軸31周りに回転可能に取り付けられる。本実施例では、船外機32はスイベル軸31周りに回転可能に取り付けられたステアリングブラケット33及びサポートブラケット34と、これらブラケット33,34の一端に固定された船外機本体35とによって構成される。
【0026】
スイベル軸31の軸方向上下には、ステアリングブラケット33及びサポートブラケット34を回転可能に支持する軸部36,37が設けられる。尚、各ブラケット33,34と両軸部36,37との間には、スイベルブラケット30に対する船外機本体35の回転を円滑ならしめるためボールベアリング38,39がそれぞれ介装される。
【0027】
スイベル軸31の上方に位置する軸部36は、船外機本体35のカウリング(エンジンカバー)40を貫通してその内部に突出し、その先端には固定ギヤ41が固定される。固定ギヤ41は、スイベル軸31の軸心Oを中心とする円形ギヤとして形成される。
【0028】
上記参考例と異なり、電動モータ16は船外機本体35のカウリング40の内部に設置される。図4(平面視)において、船外機本体35の長手軸線Lに対しモータ出力軸24の軸線Mが平行でかつ軸線Mが前出の固定ギヤ41の接線方向に延びる。このような位置関係でモータ出力軸24先端に設けられたウォームギヤ42(請求項でいう駆動用のギヤ)が固定ギヤ41と噛合するように、カウリング40のベース43に固定される。
【0029】
固定ギヤ41がスイベル軸31に固定されているのに対し、これに噛合するウォームギヤ42を備える電動モータ16が固定された船外機本体35は、ステアリングブラケット33、サポートブラケット34を介しスイベルブラケット30のスイベル軸31に対して回転可能である。したがって、コントローラ12からのモータ駆動信号によって電動モータ16が回転すると、モータ出力軸24先端のウォームギヤ42は固定ギヤ41の外周上を周方向に移動する。図4中の二点鎖線及び実線で示す電動モータ16は、モータ駆動によって電動モータ16そのものがスイベル軸31周りで変位し、これにより船外機本体35がスイベル軸31の軸心O廻りに回動した状態を示すものである。
【0030】
このように、本発明の実施例によれば、操舵装置29自体は船外機本体35のカウリング内部に設けられるため、船内スペースが広がるとともにチルト軸20周りのスペースを占有することなく、船体1内の他の部材との干渉もない。さらに電動モータ16や固定ギヤ41を、船外機本体35内部に収納させたため、これらの要素のみならずその噛合部分も、本体35のカウリング40によってカバーされ、被水の可能性も低減される。またスイベルブラケット30のスイベル軸31に固定ギヤ41を設けたため、操舵装置29としては部品点数も少なくなり、コスト面、組立て性で有利である。
【0031】
また、電動モータ16は船外機本体35に内蔵されることで、船外機本体35の取付けに際し、電動モータ16側のウォームギヤ42とスイベルブラケット30側の固定ギヤ41を係合させるだけでよく、取り付け作業も格段に簡素化する。
【0032】
本発明による船外機の操舵装置は上記実施例で示された構造に限定されるものではない。なお、上記参考例に関連し、電動モータ16は、船外機本体8に連結されたステアリングブラケット7に内蔵されているが、船外機本体8自体にステアリングブラケット7に相当するものを装備させ電動モータ16を船外機本体8に内蔵させるようにしてもよい。またさらに、上記参考例では電動モータ16と固定ギヤ27間に減速ギヤ23を介在させてモータ回転を減速させたが、高トルク・低速回転可能なモータを使用すれば減速ギヤを介さなくともよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の利用例として、例えば船尾板に固定されるクランプブラケットのチルト軸周囲の船体側に複雑な機構や各種部材を配置するような船外機を備えた船舶に対し、有効に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の参考になる船外機の操舵装置が適用される船舶の平面図である。
【図2】本発明の参考になる船外機の操舵装置の平面図である。
【図3】本発明の参考になる船外機の操舵装置の縦断面図である。
【図4】本発明による実施例としての船外機の操舵装置の平面図である。
【図5】本発明による実施例としての船外機の操舵装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1:船体、2:船尾板、3:クランプブラケット、
4:スイベルブラケット、5:スイベル軸、6:船外機、
7:ステアリングブラケット、8:船外機本体、9:ハンドル、
10:ハンドル軸、11:ハンドル制御部、
12:ハンドル操作角センサー、13:反トルクモータ、
14:信号ケーブル軸部、15:コントローラ、
16:電動モータ(駆動手段)、17:操舵装置、
18:クランプ部材、19:クランプ部材、20:チルト軸、
21:軸部、22:凹部、23:減速ギヤ(駆動手段)、
24:モータ出力軸、25:駆動ギヤ、26:大径ギヤ部、
27:固定ギヤ、28:小径ギヤ部、29:操舵装置、
30:スイベルブラケット、31:スイベル軸、32:船外機、
33:ステアリングブラケット、34:サポートブラケット、
35:船外機本体、36:軸部、37:軸部、
38:ボールベアリング、39:ボールベアリング、
40:カウリング、41:固定ギヤ、42:ウォームギヤ、
43:ベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船尾板に取り付けられたスイベルブラケットと、
上記スイベルブラケットのスイベル軸に回転可能に取り付けられた船外機と、
上記船外機に設けられ、前記船外機をスイベル軸周りに回転させる駆動手段と、を有する船外機の操舵装置であって、上記船外機は船外機本体を有し、
上記駆動手段は上記船外機本体のカウリング内部に設けられることを特徴とする船外機の操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の船外機の操舵装置において、前記駆動手段は回転駆動軸を有し、この回転駆動軸の端部に駆動用のギヤを有し、
上記スイベルブラケットのスイベル軸には上記駆動用のギヤに噛み合う固定ギヤが設けられることを特徴とする船外機の操舵装置 。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の船外機の操舵装置において、上記駆動手段は電動アクチュエータを有することを特徴とする船外機の操舵装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載の操舵装置を備えた船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−12767(P2009−12767A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273033(P2008−273033)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【分割の表示】特願2004−91812(P2004−91812)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)