説明

船尾管軸受

【課題】軸受におけるプロペラ側の端部の局部面圧の増加を防止することができる船尾管軸受を提供する。
【解決手段】先端にプロペラが設けられたプロペラ軸5を支持する管状の軸受7を有し、この軸受7のプロペラ側の内周面にプロペラ軸5の自重による傾きに合わせた自重傾斜面11が形成された船尾管軸受1において、自重傾斜面11のプロペラ側に、自重傾斜面11よりも傾きの大きい傾斜面13を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に適用される船尾管軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶のプロペラ軸を支持する船尾管軸受としては、先端にプロペラが取り付けられたプロペラ軸を支持する管状の軸受を有し、この軸受のプロペラ側に、曲率中心を軸受の軸中心から外して設定したテーパボーリング及びスロープボーリングとのいずれか一方又は双方によって形成された軸受面を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この船尾管軸受では、曲率中心を軸受の軸中心から外して設定された軸受面により、プロペラ軸の自重による重力方向荷重と船舶旋回時の流体力に起因する水平方向荷重との両荷重に同時に対応している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2004−98719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような船尾管軸受では、軸受に設けられた軸受面のプロペラ側の端部にプロペラ軸との局部面圧の増加が確認されており、この局部面圧の増加に対する有効な対策がとられていなかった。
【0006】
そこで、この発明は、軸受におけるプロペラ側の端部の局部面圧の増加を防止することができる船尾管軸受の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、本発明の発明者は、軸受におけるプロペラ側での局部面圧の増加が、操舵時にプロペラが受ける水などの変動外力によってプロペラ軸がさらに曲げられ、プロペラ軸と軸受のプロペラ側の端部との接触圧が増加することによって引き起こされるということを確認した。そこで、本発明は、以下のような手段とした。
【0008】
請求項1記載の発明は、先端にプロペラが設けられたプロペラ軸を支持する管状の軸受を有し、この軸受の前記プロペラ側の内周面に前記プロペラ軸の自重による傾きに合わせた自重傾斜面が形成された船尾管軸受であって、前記自重傾斜面の前記プロペラ側には、前記自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この船尾管軸受では、自重傾斜面のプロペラ側に自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面が設けられているので、プロペラ軸がさらに曲げられたとしても、傾斜面でプロペラ軸を受けることができ、軸受のプロペラ側の端部において局部面圧が増加することを抑制することができる。
【0010】
従って、このような船尾管軸受では、軸受におけるプロペラ側の端部の局部面圧の増加を防止することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の船尾管軸受であって、前記自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面の傾斜は、操舵時に前記プロペラが受ける変動外力による前記プロペラ軸の変形の内容に基づいて設定されていることを特徴とする。
【0012】
この船尾管軸受では、自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面の傾斜が操舵時にプロペラが受ける変動外力によるプロペラ軸の変形の内容に基づいて設定されているので、様々な操舵時のプロペラ軸の変形を自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面によって受けることができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の船尾管軸受であって、前記自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面の前記軸受における周方向の範囲は、前記プロペラ軸の変形の重力方向の成分と水平方向の成分との比によって設定されていることを特徴とする。
【0014】
この船尾管軸受では、自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面の軸受における周方向の範囲がプロペラ軸の変形の重力方向の成分と水平方向の成分との比によって設定されているので、重力方向と水平方向との合成荷重による軸受の周方向におけるプロペラ軸の変形を自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面によって受けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軸受におけるプロペラ側の端部の局部面圧の増加を防止することができる船尾管軸受を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る船尾管軸受の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る船尾管軸受の拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る船尾管軸受の軸受の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る船尾管軸受の軸受の正面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図4を用いて本発明の実施の形態に係る船尾管軸受について説明する。
【0018】
本実施の形態に係る船尾管軸受1は、船舶の船尾に設けられ、図1に示すような先端に船舶の推力を発生するプロペラ3が設けられたプロペラ軸5を支持する軸受7を有する。このようなプロペラ軸5は、軸受7によって片持ちに支持されており、先端に設けられたプロペラ3が大重量であるので、軸受7のプロペラ3側に大きな偏荷重が発生している。また、プロペラ軸5は、プロペラ3が流体による大きな外力を受ける操舵時及び荒天時に図1の矢印で示すような曲げモーメントによっても変形が大きくなり、軸受7のプロペラ3側の端部の局部面圧が増加してしまう。そこで、軸受7には、このような荷重への対策が施されている。
【0019】
図2〜図4に示すように、軸受7は、管状に形成され、内周面にプロペラ軸5を支持する軸受面9が設けられている。この軸受面9のプロペラ3(船尾)側には、自重傾斜面11と傾斜面13とが設けられている。
【0020】
自重傾斜面11は、軸受7の周方向において、重力方向の垂線に対して上下の位置及び垂線に直交する直交方向の左右の位置がそれぞれXだけ重力方向に傾斜するように設定されている。この自重傾斜面11の傾斜量を示すXは、プロペラ3とプロペラ軸5との自重によるプロペラ軸5の傾きに合わせて設定されている。
【0021】
この自重傾斜面11は、比較的プロペラ軸5の変形が緩やかである船舶の停止時や低速時に自重によって変形したプロペラ軸5と当接してプロペラ軸5を支持する。この自重傾斜面11により、従来のように、プロペラ軸5が自重によって変形しても安定して支持することができる。このような自重傾斜面11のプロペラ3側には、傾斜面13が設けられている。
【0022】
傾斜面13は、軸受7の周方向において、重力方向の位置にYだけ重力方向に傾斜するように設定され、軸受7に対する軸方向長さLdが自重傾斜面11の軸方向長さLwよりも短く設定されている。この傾斜面13の傾斜量を示すYは、最大限に舵を切ったときにプロペラ3が流体から受ける変動外力によってプロペラ軸5が最大に変形したときのプロペラ軸5の傾きに合わせて設定されている。
【0023】
また、傾斜面13の軸受7における周方向の範囲は、プロペラ軸5の変形の重力方向の成分と水平方向の成分との比によって設定されている。この範囲は、最大限に舵を切ったときにプロペラ軸5が重力方向の垂線から左右に最大に変形したときに傾斜面13がプロペラ軸5を支持可能となるように設定されている。なお、ここでは、重力方向の垂線において軸受7の軸中心から左右に30°、合計で60°となるように設定されているが、用いるプロペラ3やプロペラ軸5に合わせて設定すればよい。
【0024】
この傾斜面13は、プロペラ3が流体による大きな外力を受ける船舶の操舵時や荒天時に大きく変形したプロペラ軸5と当接してプロペラ軸5を支持する。この傾斜面13により、プロペラ3が受ける変動外力によってプロペラ軸5が大きく変形しても安定して支持することができる。
【0025】
なお、図3に示す軸受7では、傾斜面13よりもプロペラ3(船尾)側に傾斜面13よりも傾斜が大きな傾斜面が設けられているが、これは傾斜面13によってプロペラ軸5を支持したときに、プロペラ軸5と軸受7との当接を回避するために設けられたものであり、この部分に傾斜面13を設けてもよい。
【0026】
また、プロペラ軸5は、プロペラ3の回転と舵を切る方向とによっても、重力方向側だけでなく、重力方向と反対側に変形することもある。このため、例えば、重力方向と反対側に位置する自重傾斜面11のプロペラ3側に、変形したプロペラ軸5と当接する傾斜面を設けてもよい。
【0027】
このような船尾管軸受1では、自重傾斜面11のプロペラ3側に自重傾斜面11よりも傾きの大きい傾斜面13が設けられているので、プロペラ軸5がさらに曲げられたとしても、傾斜面13でプロペラ軸5を受けることができ、軸受7のプロペラ3側の端部において局部面圧が増加することを抑制することができる。
【0028】
従って、このような船尾管軸受1では、軸受7におけるプロペラ3側の端部の局部面圧の増加を防止することができる。
【0029】
また、傾斜面13の傾斜が操舵時にプロペラ3が受ける変動外力によるプロペラ軸5の変形の内容に基づいて設定されているので、様々な操舵時のプロペラ軸5の変形を傾斜面13によって受けることができる。
【0030】
さらに、傾斜面13の軸受7における周方向の範囲がプロペラ軸5の変形の重力方向の成分と水平方向の成分との比によって設定されているので、重力方向と水平方向との合成荷重による軸受7の周方向におけるプロペラ軸5の変形を傾斜面13によって受けることができる。
【0031】
なお、本発明の実施の形態に係る船尾管軸受では、傾斜面が自重傾斜面に対して1段だけとなっているが、これに限らず、例えば、傾斜面よりもプロペラ側にプロペラ軸と当接しない空きの傾斜面を設け、この空きの傾斜面よりもプロペラ側にプロペラ軸の変形によって当接する傾斜面を設けるなど、傾斜面を多段に設けてもよい。但し、傾斜面を多段に設ける場合には、プロペラ軸と当接する際に当接部が線接触とならずに面接触となるようにすることが好ましい。
【符号の説明】
【0032】
1…船尾管軸受
3…プロペラ
5…プロペラ軸
7…軸受
11…自重傾斜面
13…傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にプロペラが設けられたプロペラ軸を支持する管状の軸受を有し、この軸受の前記プロペラ側の内周面に前記プロペラ軸の自重による傾きに合わせた自重傾斜面が形成された船尾管軸受であって、
前記自重傾斜面の前記プロペラ側には、前記自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面が設けられていることを特徴とする船尾管軸受。
【請求項2】
請求項1記載の船尾管軸受であって、
前記自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面の傾斜は、操舵時に前記プロペラが受ける変動外力による前記プロペラ軸の変形の内容に基づいて設定されていることを特徴とする船尾管軸受。
【請求項3】
請求項2記載の船尾管軸受であって、
前記自重傾斜面よりも傾きの大きい傾斜面の前記軸受における周方向の範囲は、前記プロペラ軸の変形の重力方向の成分と水平方向の成分との比によって設定されていることを特徴とする船尾管軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−180888(P2012−180888A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43828(P2011−43828)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】