船舶の推進装置とそれを備えた船舶
【課題】フィン付きのプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される船舶の推進装置及びそれを備えた船舶において、従来技術のフィン付きのプロペラボスキャップを使用した船舶の推進装置とそれを備えた船舶よりも、推進器効率を高めると共に、工作性を高め、軽量化された船舶の推進装置とそれを備えた船舶を提供する。
【解決手段】プロペラボスキャップ5Aに設けたフィン6をプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aを端面で形成するか、又は、後端部5aの形状を周縁部からプロペラボスキャップ5Aの全長Lcの20%の範囲内に収めると共に、全長Lcをキャップ前端部の直径Dcfの0.28倍〜0.76倍とし、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを、プロペラボスキャップ5Aの前端部5fの直径Dcfの0.35倍〜0.95倍とする。
【解決手段】プロペラボスキャップ5Aに設けたフィン6をプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aを端面で形成するか、又は、後端部5aの形状を周縁部からプロペラボスキャップ5Aの全長Lcの20%の範囲内に収めると共に、全長Lcをキャップ前端部の直径Dcfの0.28倍〜0.76倍とし、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを、プロペラボスキャップ5Aの前端部5fの直径Dcfの0.35倍〜0.95倍とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュープロペラを使用する船舶の推進装置とそれを備えた船舶に関し、更に詳細には、スクリュープロペラのボスに取り付けるプロペラボスキャップにフィンを設けて、スクリュープロペラの推進性能を向上させる船舶の推進装置とそれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の多くはその推進器としてスクリュープロペラを使用しており、その推進器効率等のプロペラ特性を向上することは、燃費の向上に大きく貢献することになる。そのため、プロペラの翼数、翼の形状、展開面積、ピッチ角、スキュー角等、プロペラの翼に関する研究がなされてきており、様々な翼形状が開発されてきている。
【0003】
このプロペラ特性の向上のために、図12〜図15に示すような、プロペラボス2の近傍において、プロペラボスキャップ5の後流におけるハブ渦を減少させることによって推進器効率を高める整流フィン付ボスキャップ5が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この整流フィン付ボスキャップ5では、ボスキャップ5に取り付けるフィン6の個数(図12では4個)を各プロペラブレード(プロペラ翼)3の個数(図12では4個)と等しくする。また、図15に示すように、フィン6の角度αに関しては、プロペラブレード3の根部の幾何学的ピッチ角εに対して、(−20°≦α−ε≦+30°)の関係を有している。フィン6の長さ方向に関しては、フィン6の前縁はプロペラブレード3の根部の後縁とプロペラ前後方向に等しいか又はこの後縁よりも後方とする(b≧0)。また、隣接するプロペラブレード3の根部の隙間の位置に設ける(a>0)。更に、図13及び図14に示すように、フィン6のキャップ5本体の軸線からの最大直径(2r)はボス2のキャップ取付け端部2aの直径Dbaより大で、かつ、プロペラ直径(2R)の33%以下としている。
【0005】
この整流フィン付きボスキャップ5の作用効果としては、整流フィンはそれ自体では推力を発生せず、ボスキャップの後流におけるハブ渦の発生を減少する整流板の作用をし、この整流作用により、ボスキャップ後流のハブ渦が拡散されてプロペラ翼面上の渦による誘導抗力が減少し、その結果、トルクを増大させることなく、プロペラ特性(推進器効率)の大幅な向上がもたれされるとされている。
【0006】
また、この整流フィン等の、プロペラハブ(プロペラボス)からの渦を消去するハブ渦消去装置を有する船舶のプロペラにおいて、ハブ渦消却装置がその機能を十分に出し切るようにしてプロペラのトータル的な効率を高め、併せて強度面でも有利性を得ることを目的として、プロペラにおける翼根部のピッチ若しくはキャンバーを、プロペラの中間部のピッチ若しくはキャンバーに比べて大きくしたハブ渦消去装置を有する船舶のプロペラが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
一方、フィン付きのプロペラボスキャップによる推進器効率の向上を更に図ることができるのではないかと、本発明者らは考えて、様々な発想を基に工夫したフィン付きプロペラボスキャップを使用した水槽実験を行い、推進器効率を更に向上できる、次のようなスクリュープロペラを使用する船舶の推進装置とそれを備えた船舶に到達した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−121716号公報
【特許文献2】特許第3491890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フィン付きのプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される船舶の推進装置及びそれを備えた船舶において、従来技術のフィン付きのプロペラボスキャップを使用した船舶の推進装置とそれを備えた船舶よりも、推進器効率を高めると共に、工作性を高め、軽量化された船舶の推進装置とそれを備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための船舶の推進装置は、スクリュープロペラのプロペラボスの後側に取り付けるプロペラボスキャップにフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、前記プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、このプロペラボスキャップの全長をキャップ前端部の直径の0.28倍〜0.76倍とし、このプロペラボスキャップのキャップ後端部の直径を、このキャップ前端部の直径の0.35倍〜0.95倍として構成される。
【0011】
プロペラの推進効率は、プロペラボスキャップの全長がキャップ前端部の直径の0.28倍〜0.76倍、好ましくは0.34倍〜0.68倍、最も好ましくは0.50倍で、かつ、キャップ後端部の直径がキャップ前端部の直径の0.35倍〜0.95倍、好ましくは、0.42倍〜0.85倍、最も好ましくは0.65倍であるので、上記の構成により、プロペラボスキャップのキャップ本体を最適な形状して、推進器効率を高めることができる。それと共に、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成したので工作し易くなる。また、後端側に先細り形状の回転体の先端部が無くなるため、その分軽量化できる。
【0012】
スクリュープロペラのプロペラボスのプロペラ翼の後側にフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、前記フィンの根部の前端と前記フィンの根部の後端の距離を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.28倍〜0.76倍とし、このフィンの根部の後ろにおける直径を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.35倍〜0.95倍として構成される。この構成により、上記と同様な効果を得ることができる。
【0013】
また、上記の船舶の推進装置において、前記プロペラボスキャップをプロペラ回転軸を回転軸とする回転体で形成すると共に、この回転体の母線を直線にして、このプロペラボスキャップを円錐台形状に形成する。この構成により、プロペラボスキャップの形状が単純な形状になるので、工作性が良く、製造コストを低減できる。
【0014】
また、上記の目的を達成するための船舶は、上記の船舶の推進装置を備えて構成される。これにより、推進効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の船舶の推進装置によれば、フィン付きプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される推進装置において、プロペラボスキャップのキャップ本体を最適な形状とすることにより、推進器効率を高めることができる。それと共に、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成したので工作し易くなる。また、後端側に先細り形状の回転体の先端部が無くなるため、その分軽量化できる。
【0016】
また、本発明の船舶の推進装置を備えた船舶によれば、推進器効率の高い船舶の推進装置を使用するので推進効率の向上を図ることができる。また、推進装置が僅かであるが軽量化されるので、その分推進軸及び推進軸の支持構造を軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における船舶の推進装置の構成を示す船舶の後方から見た図である。
【図2】図1の船舶の推進装置の側面図である。
【図3】プロペラボスキャップの側断面が台形の形状を示す模式的な側面図である。
【図4】プロペラボスキャップの側断面が滑らかな曲線の形状を示す模式的な側面図である。
【図5】船舶の推進装置における「キャップ長さ/キャップ前端部径」と推進器効率のアップ率との関係を示す図である。
【図6】船舶の推進装置における「キャップ後端部径/キャップ前端部径」と推進器効率のアップ率との関係を示す図である。
【図7】プロペラボスの表面上におけるプロペラ翼の根部の配置を示す図である。
【図8】断面台形のプロペラボスキャップと従来技術のプロペラボスキャップの表面上におけるフィンの根部の配置を示す図である。
【図9】円筒形状のプロペラボスキャップと拡散型のプロペラボスキャップの表面上におけるフィンの根部の配置を示す図である。
【図10】円筒形状のプロペラボスキャップを示す模式的な側面図である。
【図11】拡散型のプロペラボスキャップを示す模式的な側面図である。
【図12】従来技術における船舶の推進装置の構成を示す船舶の後方から見た図である。
【図13】図12の船舶の推進装置の側面図である。
【図14】従来技術におけるプロペラボスキャップの形状を示す側面図である。
【図15】従来技術におけるプロペラ翼とフィンの位置関係を示す側面図である。
【図16】フィンの取り付け角度を示す側面図である。
【図17】フィンのレーキ角度を示す後方から見た図16のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る船舶の推進装置とそれを備えた船舶の実施の形態について説明する。なお、図1〜図4、図10〜図15は分かり易いように、プロペラボス、プロペラ翼、プロペラボスキャップ、フィン等の形状や寸法を変えて示しており、これらの形状や寸法は実際のものとは異なる。また、図3、図4、図10、図11、図14、図15では、見易くするためと、作図や説明の都合上で、見えて当然のプロペラ翼やフィンを省いて示してある。
【0019】
図1及び図2に示すように、この実施の形態の船舶の推進装置1Aは、プロペラボス(プロペラハブ)2とこのプロペラボス2に装着されたプロペラ翼3と、プロペラボス2の後端に接続されたプロペラボスキャップ(プロペラハブキャップ)5Aと、このプロペラボスキャップ5Aに設けたフィン6とからなるスクリュープロペラで構成される。
【0020】
このフィン6は、スクリュープロペラ1Aのプロペラボス2の後側に取り付けるプロペラボスキャップ5Aに設けられると共に、このフィン6はプロペラ翼3の間の後方に配置される。つまり、プロペラ軸Pcの後方向から見たときに、フィン6の根部の前端は、プロペラ翼3の根部の後端同士の間に配置される。また、側面から見たときには、フィン6の根部の前端は、プロペラ翼3の根部の後端より後方に配置される。このフィン6は、正負のキャンバーを有して形成してもよいが、工作上の簡便性と製作コストの削減の面からは、平板形状が最適である。また、このフィン6は、正負のレーキ角をもって取り付けられても良い。このフィン6の形状や配置に関しては周知の技術を使用する。
【0021】
そして、この実施の形態においては、プロペラボスキャップ5Aを次のように形成する。先ず、プロペラボスキャップ5Aを、プロペラ回転軸Pcを回転軸とする回転体で形成する。この回転体は、側面5bに関しては、回転体の母線を滑らかな曲線又は直線で形成すると共に、後方に向かって先細りする形状で形成される。また、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aは端面で形成される。
【0022】
図3に示すように、プロペラボスキャップ5Aの外周面5bを形成する回転体の母線を直線とする場合には、プロペラボスキャップ5Aの形状は円錐台となり、非常に製造し易くなる。
【0023】
また、図4に示すように、母線を滑らかな曲線とする場合でも、前方から後方に向かって滑らかに先細りする形状とし、好ましくは、プロペラ回転軸Pcに垂直な断面において、円錐台の形状からの偏差を0%から20%以内とする。
【0024】
つまり、前端部5fにおける1.2Dcfの点と後端部5aにおける1.2Dcaを結ぶ線分L1よりも小さく、かつ、前端部5fにおける1.0Dcfの点と後端部5aにおける1.0Dcaを結ぶ線分L2よりも大きく形成する。言い換えれば、前端部5fにおける1.2Dcfと後端部5aにおける1.2Dcaで形成する円錐台よりも内側で、前端部5fにおける1.0Dcfと後端部5aにおける1.0Dcaで形成する円錐台よりも外側になるように、即ち、図4の斜線部内になるように、プロペラボスキャップ5Aの外形を形成する。このプロペラボスキャップ5Aの後端部5aを端面で形成する。
【0025】
また、このプロペラボスキャップ5Aの全長Lcをキャップ前端部の直径Dcfの0.28倍〜0.76倍、好ましくは0.34倍〜0.68倍、最も好ましくは0.50倍とし、このプロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを、このプロペラボスキャップ5Aの前端部5fの直径Dcfの0.35倍〜0.95倍、好ましくは、0.42倍〜0.85倍、最も好ましくは0.65倍とする。なお、この前端部5fの直径Dcfは、キャップのフランジ径に相当する。
【0026】
また、図3及び図4に示すように、プロペラボスキャップ5Aの前端部5fの端面は、プロペラボス2の後端面2aに接合する関係から平面形状に形成される。一方、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの端面は、図3に示すように、工作上の観点から平面で形成することが好ましいが、図4に示すように、平面に近い円錐又は回転体等で形成してもよい。この場合でも、後端部5aの周縁部5aoと中心部5acとの前後方向の距離Lcaは、プロペラボスキャップ5Aの全長Lcの20%以内とする。
【0027】
次に、本発明においては、プロペラボスキャップ5Aの全長Lcをキャップ前端部の直径Dcfの0.28倍〜0.76倍、好ましくは0.34倍〜0.68倍、最も好ましくは0.50倍としているが、このことに関して説明する。図5にキャップ長さ(プロペラボスキャップの全長)Lcを変更して行ったプロペラの水槽試験の結果を示す。横軸を「キャップ長さ/キャップ前端部の直径(Lc/Dcf)」で示し、縦軸を、推進器効率のアップ率で示す。
【0028】
アップ率ゼロの元のプロペラボスキャップ5Aは通常の後端側が先細りして順次径が小さくなり最後端でゼロとなる回転体で形成されており、Lc/Dcfを0.80としている。これをアップ率の元(アップ率ゼロ)とし、図3の円錐形状で後端部の端面を平面で形状したプロペラボスキャップ5Aを装着した場合の推進器効率をアップ率で示している。なお、このプロペラボスキャップ5Aに取り付けるフィン6は平板形状としており、キャップ長さ/キャップ前端部の直径(Lc/Dcf)を変化させる場合は、フィン6の長さはキャップの長さに比例した長さとしている。
【0029】
図5から分かるように、プロペラ前進率J(=V/nDp、Vは前進速度、nはプロペラ回転数、Dpはプロペラ直径)をプロペラ設計点のプロペラ前進率とした実験で、Lc/Dcfが0.28倍〜0.76倍の場合にアップ率1.4%で、0.34倍〜0.68倍の場合にアップ率1.8%で、0.50倍の場合に最も大きなアップ率であることが分かる。本発明ではこれらの実験結果を基にLc/Dcfを0.28倍〜0.76倍の範囲Z1にしている。
【0030】
次に、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを前端部5fの直径Dcfの0.35倍〜0.95倍、好ましくは、0.42倍〜0.85倍、最も好ましくは0.65倍とすることに関して説明する。図6に、キャップ長さLcをLc/Dcf=0.71と一定にした状態で、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを変更してプロペラボスキャップ5Aの形状を変化させて行った実験結果を示す。横軸を「キャップ後端部径/キャップ前端部径(Dca/Dcf)」で示し、縦軸を、推進器効率のアップ率で示す。
【0031】
この図6から、プロペラボスキャップ5Aの形状は、その後端部5aの直径Dcaがその前端部の直径Dcfよりも小さい方が良いことが分かると共に、その比率Dca/Dcfにも最適な範囲があることが分かる。つまり、このプロペラ前進率Jをプロペラ設計点のプロペラ前進率とした実験で、Dca/Dcfが0.35倍〜0.95倍の場合にアップ率1.0%で、0.42倍〜0.85倍でアップ率1.2%で、0.65倍でアップ率1.5%の最も大きなアップ率があることが分かる。本発明ではこれらの実験結果を基にDca/Dcfを0.35倍〜0.95倍の範囲Z2にしている。
【0032】
また、フィン6のプロペラ特性に対する影響を調べるために、フィン6に作用する力を実験で計測したところ、プロペラ翼3に作用する推力TpとトルクQpに対して、フィン6とプロペラボスキャップ5Aに推力Tfがフィン6にトルクQfが小さいながらも作用し、全体としての推力TtとトルクQtが改善されていることが分かっている。
【0033】
更に、数値流体力学計算(CFD(Computational Fluid Dynamics)計算)により、プロペラボスキャップ5Aの後方では、バブ渦が拡散して静圧が上昇し、その結果、この静圧がプロペラボスキャップ5Aの後端部5aの端面を押す力となり、全体としての推力Ttの改善に役立っていることが分かっている。このことから、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの端面が平面又は平面に近い形状であっても、全体としての推力Ttの改善に役立つことが分かる。
【0034】
このプロペラボスキャップ5Aの形状と推進器効率との関係について考えてみると、プロペラ翼3を通過した流れは、縮流されて後方に流れる。このことは、プロペラボスキャップ5Aのある部分では流れの方向がプロペラ軸Pcと平行な同一円筒面上を向いている訳ではなく、キャップフランジ2aから後方では徐々にプロペラ回転軸Pcに向かって小さくなる方向になっていることを意味している。従って、プロペラボスキャップ5Aの側面5bの表面を流れる流れは、この流れの影響を受けることになる。そのため、プロペラボスキャップ5Aの側面5bの形状は、この縮流に沿うように、後端側に縮径する形状にすることがより適している。
【0035】
また、フィン6の取り付け角度(図15のα)やキャンバーに関して考える。図7にプロペラ翼3の根部における翼の形状とキャンバー(Camber)を示す。これと比べるために、図8に、台形キャップの展開形状とプロペラボスキャップ5Aの表面上におけるフィン6の根部の形状を示す。平板のフィン6が、図3に示すような側断面が台形のプロペラボスキャップ5Aに取り付けた場合をA(丸印)で示す。また、図14に示すような従来技術のプロペラボスキャップ5Aに取り付けられた場合をB(菱形)で示す。
【0036】
このプロペラボスキャップ5Aの表面を展開した展開図上でフィン6の根部の形状を見ると、図7に示すプロペラ翼3の根部における翼のキャンバー(Camber)と比べて、図8に示す展開図上では、A,B共に、逆方向のキャンバーが付いている。なお、図7のεの線は、プロペラ翼3の根部におけるピッチ角度(図15のε)を示す線である。
【0037】
図8のαの線は、フィン6の取り付け角度(図15のα)を示す線である。この図8では、フィン6の根部における形状の大部分はこのα線上にあり、プロペラ後流でフィン表面上の流れはこの線上に沿って流れる。フィン6に沿った流れはα線上から図8のように、プロペラ翼3とは逆向きのキャンバーに沿って流れることとなり、このような場合には、フィン6が発生するトルクQfはプロペラ翼3が発生するトルクQpとは逆向きでトルクQpを打ち消す方向に発生する。
【0038】
一方、フィン6が発生する推進力はプロペラ翼3が発生する推力Tpとは逆向きに発生するが、フィン6がハブ渦を拡散してキャップ後方の静圧を上昇させることによりキャップ端部5aの端面を押す力となって、結果としてキャップ5Aとフィン6が発生する推力Tfがプロペラ翼3が発生する推力Tp方向に働き推進器効率の向上をもたらす。
【0039】
図9に示す展開図上に、図10に示すような円筒形状のプロペラボスキャップ5Cの場合をC(丸印)で示し、図11に示すような後端側に拡大していく拡散型のプロペラボスキャップ5Dの場合をD(菱形)で示す。図9に示すように、これらの場合C,Dでは、αの線よりピッチ角度が大きくなってしまい、プロペラ翼3と同じ方向にキャンバーが付くような形状となっている。このような場合には、フィン6が発生するトルクQfはプロペラ翼3が発生するトルクQpと同じ方向、即ち、全体としてのトルクQtを増加する方向に発生し、推進器効率の向上への寄与は小さい。
【0040】
このように、プロペラボスキャップ5Aの形状は、フィン6の取り付け角度が同じであっても、プロペラボスキャップ5Aの表面におけるフィン6の根部に対する流れに関して影響を与えることが分かる。
【0041】
フィン6の取り付け角度として、従来技術のフィン付きのプロペラボスキャップ5と同様に、図16と図17に示すようなレーキ角γを付けても良い。図17は、フィン6のレーキ角γが0で取り付けられた場合と正の角度(+γ)あるいは負の角度(−γ)で取り付けられた場合を示したものである。
【0042】
本発明の船舶の推進装置を備えた船舶は、上記の船舶の推進装置1Aを備えて構成される。この船舶によれば、上記の船舶の推進装置1Aを使用するので推進効率の向上を図ることができる。また、推進装置1Aが僅かであるが軽量化されるので、その分推進軸及び推進軸の支持構造を軽量化できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の船舶の推進装置は、フィン付きプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される推進装置において、推進器効率を高めることができ、それと共に、工作し易くなり、軽量化できるため、船舶の推進装置として利用できる。
【0044】
また、本発明の船舶の推進装置を備えた船舶は、推進効率の向上を図ることができ、推進装置の軽量化による推進軸及び推進軸の支持構造の軽量化ができるので、数多くの船舶として利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1、1A 船舶の推進装置
2 プロペラボス
2a プロペラボスの後端面
3 プロペラ翼
4 プロペラ回転軸
5、5A、5C、5D プロペラボスキャップ
5a プロペラボスキャップの後端部
5ao 後端部の周縁部
5ac 後端部の中心部
5b プロペラボスキャップの外周面
5f 前端部
6 フィン
Dba プロペラボスのキャップ取り付け端部の直径
Dca プロペラボスキャップの後端部の直径
Dcf プロペラボスキャップの前端部の直径
Dp プロペラ直径
Lc プロペラボスキャップの全長(キャップ長さ)
Lca 後端部の周縁部と中心部との前後方向の距離
Pc プロペラ軸
Qf フィンが発生するトルク
Qp プロペラ翼が発生するトルク
Qt 推進装置が発生するトルク
Tf フィンとキャップが発生する推力
Tp プロペラ翼が発生する推力
Tt 推進装置が発生する推力
α フィンの取り付け角度
γ フィンの取り付けレーキ角度
ε プロペラ翼根部のピッチ角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュープロペラを使用する船舶の推進装置とそれを備えた船舶に関し、更に詳細には、スクリュープロペラのボスに取り付けるプロペラボスキャップにフィンを設けて、スクリュープロペラの推進性能を向上させる船舶の推進装置とそれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の多くはその推進器としてスクリュープロペラを使用しており、その推進器効率等のプロペラ特性を向上することは、燃費の向上に大きく貢献することになる。そのため、プロペラの翼数、翼の形状、展開面積、ピッチ角、スキュー角等、プロペラの翼に関する研究がなされてきており、様々な翼形状が開発されてきている。
【0003】
このプロペラ特性の向上のために、図12〜図15に示すような、プロペラボス2の近傍において、プロペラボスキャップ5の後流におけるハブ渦を減少させることによって推進器効率を高める整流フィン付ボスキャップ5が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この整流フィン付ボスキャップ5では、ボスキャップ5に取り付けるフィン6の個数(図12では4個)を各プロペラブレード(プロペラ翼)3の個数(図12では4個)と等しくする。また、図15に示すように、フィン6の角度αに関しては、プロペラブレード3の根部の幾何学的ピッチ角εに対して、(−20°≦α−ε≦+30°)の関係を有している。フィン6の長さ方向に関しては、フィン6の前縁はプロペラブレード3の根部の後縁とプロペラ前後方向に等しいか又はこの後縁よりも後方とする(b≧0)。また、隣接するプロペラブレード3の根部の隙間の位置に設ける(a>0)。更に、図13及び図14に示すように、フィン6のキャップ5本体の軸線からの最大直径(2r)はボス2のキャップ取付け端部2aの直径Dbaより大で、かつ、プロペラ直径(2R)の33%以下としている。
【0005】
この整流フィン付きボスキャップ5の作用効果としては、整流フィンはそれ自体では推力を発生せず、ボスキャップの後流におけるハブ渦の発生を減少する整流板の作用をし、この整流作用により、ボスキャップ後流のハブ渦が拡散されてプロペラ翼面上の渦による誘導抗力が減少し、その結果、トルクを増大させることなく、プロペラ特性(推進器効率)の大幅な向上がもたれされるとされている。
【0006】
また、この整流フィン等の、プロペラハブ(プロペラボス)からの渦を消去するハブ渦消去装置を有する船舶のプロペラにおいて、ハブ渦消却装置がその機能を十分に出し切るようにしてプロペラのトータル的な効率を高め、併せて強度面でも有利性を得ることを目的として、プロペラにおける翼根部のピッチ若しくはキャンバーを、プロペラの中間部のピッチ若しくはキャンバーに比べて大きくしたハブ渦消去装置を有する船舶のプロペラが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
一方、フィン付きのプロペラボスキャップによる推進器効率の向上を更に図ることができるのではないかと、本発明者らは考えて、様々な発想を基に工夫したフィン付きプロペラボスキャップを使用した水槽実験を行い、推進器効率を更に向上できる、次のようなスクリュープロペラを使用する船舶の推進装置とそれを備えた船舶に到達した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−121716号公報
【特許文献2】特許第3491890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フィン付きのプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される船舶の推進装置及びそれを備えた船舶において、従来技術のフィン付きのプロペラボスキャップを使用した船舶の推進装置とそれを備えた船舶よりも、推進器効率を高めると共に、工作性を高め、軽量化された船舶の推進装置とそれを備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための船舶の推進装置は、スクリュープロペラのプロペラボスの後側に取り付けるプロペラボスキャップにフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、前記プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、このプロペラボスキャップの全長をキャップ前端部の直径の0.28倍〜0.76倍とし、このプロペラボスキャップのキャップ後端部の直径を、このキャップ前端部の直径の0.35倍〜0.95倍として構成される。
【0011】
プロペラの推進効率は、プロペラボスキャップの全長がキャップ前端部の直径の0.28倍〜0.76倍、好ましくは0.34倍〜0.68倍、最も好ましくは0.50倍で、かつ、キャップ後端部の直径がキャップ前端部の直径の0.35倍〜0.95倍、好ましくは、0.42倍〜0.85倍、最も好ましくは0.65倍であるので、上記の構成により、プロペラボスキャップのキャップ本体を最適な形状して、推進器効率を高めることができる。それと共に、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成したので工作し易くなる。また、後端側に先細り形状の回転体の先端部が無くなるため、その分軽量化できる。
【0012】
スクリュープロペラのプロペラボスのプロペラ翼の後側にフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、前記フィンの根部の前端と前記フィンの根部の後端の距離を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.28倍〜0.76倍とし、このフィンの根部の後ろにおける直径を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.35倍〜0.95倍として構成される。この構成により、上記と同様な効果を得ることができる。
【0013】
また、上記の船舶の推進装置において、前記プロペラボスキャップをプロペラ回転軸を回転軸とする回転体で形成すると共に、この回転体の母線を直線にして、このプロペラボスキャップを円錐台形状に形成する。この構成により、プロペラボスキャップの形状が単純な形状になるので、工作性が良く、製造コストを低減できる。
【0014】
また、上記の目的を達成するための船舶は、上記の船舶の推進装置を備えて構成される。これにより、推進効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の船舶の推進装置によれば、フィン付きプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される推進装置において、プロペラボスキャップのキャップ本体を最適な形状とすることにより、推進器効率を高めることができる。それと共に、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成したので工作し易くなる。また、後端側に先細り形状の回転体の先端部が無くなるため、その分軽量化できる。
【0016】
また、本発明の船舶の推進装置を備えた船舶によれば、推進器効率の高い船舶の推進装置を使用するので推進効率の向上を図ることができる。また、推進装置が僅かであるが軽量化されるので、その分推進軸及び推進軸の支持構造を軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における船舶の推進装置の構成を示す船舶の後方から見た図である。
【図2】図1の船舶の推進装置の側面図である。
【図3】プロペラボスキャップの側断面が台形の形状を示す模式的な側面図である。
【図4】プロペラボスキャップの側断面が滑らかな曲線の形状を示す模式的な側面図である。
【図5】船舶の推進装置における「キャップ長さ/キャップ前端部径」と推進器効率のアップ率との関係を示す図である。
【図6】船舶の推進装置における「キャップ後端部径/キャップ前端部径」と推進器効率のアップ率との関係を示す図である。
【図7】プロペラボスの表面上におけるプロペラ翼の根部の配置を示す図である。
【図8】断面台形のプロペラボスキャップと従来技術のプロペラボスキャップの表面上におけるフィンの根部の配置を示す図である。
【図9】円筒形状のプロペラボスキャップと拡散型のプロペラボスキャップの表面上におけるフィンの根部の配置を示す図である。
【図10】円筒形状のプロペラボスキャップを示す模式的な側面図である。
【図11】拡散型のプロペラボスキャップを示す模式的な側面図である。
【図12】従来技術における船舶の推進装置の構成を示す船舶の後方から見た図である。
【図13】図12の船舶の推進装置の側面図である。
【図14】従来技術におけるプロペラボスキャップの形状を示す側面図である。
【図15】従来技術におけるプロペラ翼とフィンの位置関係を示す側面図である。
【図16】フィンの取り付け角度を示す側面図である。
【図17】フィンのレーキ角度を示す後方から見た図16のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る船舶の推進装置とそれを備えた船舶の実施の形態について説明する。なお、図1〜図4、図10〜図15は分かり易いように、プロペラボス、プロペラ翼、プロペラボスキャップ、フィン等の形状や寸法を変えて示しており、これらの形状や寸法は実際のものとは異なる。また、図3、図4、図10、図11、図14、図15では、見易くするためと、作図や説明の都合上で、見えて当然のプロペラ翼やフィンを省いて示してある。
【0019】
図1及び図2に示すように、この実施の形態の船舶の推進装置1Aは、プロペラボス(プロペラハブ)2とこのプロペラボス2に装着されたプロペラ翼3と、プロペラボス2の後端に接続されたプロペラボスキャップ(プロペラハブキャップ)5Aと、このプロペラボスキャップ5Aに設けたフィン6とからなるスクリュープロペラで構成される。
【0020】
このフィン6は、スクリュープロペラ1Aのプロペラボス2の後側に取り付けるプロペラボスキャップ5Aに設けられると共に、このフィン6はプロペラ翼3の間の後方に配置される。つまり、プロペラ軸Pcの後方向から見たときに、フィン6の根部の前端は、プロペラ翼3の根部の後端同士の間に配置される。また、側面から見たときには、フィン6の根部の前端は、プロペラ翼3の根部の後端より後方に配置される。このフィン6は、正負のキャンバーを有して形成してもよいが、工作上の簡便性と製作コストの削減の面からは、平板形状が最適である。また、このフィン6は、正負のレーキ角をもって取り付けられても良い。このフィン6の形状や配置に関しては周知の技術を使用する。
【0021】
そして、この実施の形態においては、プロペラボスキャップ5Aを次のように形成する。先ず、プロペラボスキャップ5Aを、プロペラ回転軸Pcを回転軸とする回転体で形成する。この回転体は、側面5bに関しては、回転体の母線を滑らかな曲線又は直線で形成すると共に、後方に向かって先細りする形状で形成される。また、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aは端面で形成される。
【0022】
図3に示すように、プロペラボスキャップ5Aの外周面5bを形成する回転体の母線を直線とする場合には、プロペラボスキャップ5Aの形状は円錐台となり、非常に製造し易くなる。
【0023】
また、図4に示すように、母線を滑らかな曲線とする場合でも、前方から後方に向かって滑らかに先細りする形状とし、好ましくは、プロペラ回転軸Pcに垂直な断面において、円錐台の形状からの偏差を0%から20%以内とする。
【0024】
つまり、前端部5fにおける1.2Dcfの点と後端部5aにおける1.2Dcaを結ぶ線分L1よりも小さく、かつ、前端部5fにおける1.0Dcfの点と後端部5aにおける1.0Dcaを結ぶ線分L2よりも大きく形成する。言い換えれば、前端部5fにおける1.2Dcfと後端部5aにおける1.2Dcaで形成する円錐台よりも内側で、前端部5fにおける1.0Dcfと後端部5aにおける1.0Dcaで形成する円錐台よりも外側になるように、即ち、図4の斜線部内になるように、プロペラボスキャップ5Aの外形を形成する。このプロペラボスキャップ5Aの後端部5aを端面で形成する。
【0025】
また、このプロペラボスキャップ5Aの全長Lcをキャップ前端部の直径Dcfの0.28倍〜0.76倍、好ましくは0.34倍〜0.68倍、最も好ましくは0.50倍とし、このプロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを、このプロペラボスキャップ5Aの前端部5fの直径Dcfの0.35倍〜0.95倍、好ましくは、0.42倍〜0.85倍、最も好ましくは0.65倍とする。なお、この前端部5fの直径Dcfは、キャップのフランジ径に相当する。
【0026】
また、図3及び図4に示すように、プロペラボスキャップ5Aの前端部5fの端面は、プロペラボス2の後端面2aに接合する関係から平面形状に形成される。一方、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの端面は、図3に示すように、工作上の観点から平面で形成することが好ましいが、図4に示すように、平面に近い円錐又は回転体等で形成してもよい。この場合でも、後端部5aの周縁部5aoと中心部5acとの前後方向の距離Lcaは、プロペラボスキャップ5Aの全長Lcの20%以内とする。
【0027】
次に、本発明においては、プロペラボスキャップ5Aの全長Lcをキャップ前端部の直径Dcfの0.28倍〜0.76倍、好ましくは0.34倍〜0.68倍、最も好ましくは0.50倍としているが、このことに関して説明する。図5にキャップ長さ(プロペラボスキャップの全長)Lcを変更して行ったプロペラの水槽試験の結果を示す。横軸を「キャップ長さ/キャップ前端部の直径(Lc/Dcf)」で示し、縦軸を、推進器効率のアップ率で示す。
【0028】
アップ率ゼロの元のプロペラボスキャップ5Aは通常の後端側が先細りして順次径が小さくなり最後端でゼロとなる回転体で形成されており、Lc/Dcfを0.80としている。これをアップ率の元(アップ率ゼロ)とし、図3の円錐形状で後端部の端面を平面で形状したプロペラボスキャップ5Aを装着した場合の推進器効率をアップ率で示している。なお、このプロペラボスキャップ5Aに取り付けるフィン6は平板形状としており、キャップ長さ/キャップ前端部の直径(Lc/Dcf)を変化させる場合は、フィン6の長さはキャップの長さに比例した長さとしている。
【0029】
図5から分かるように、プロペラ前進率J(=V/nDp、Vは前進速度、nはプロペラ回転数、Dpはプロペラ直径)をプロペラ設計点のプロペラ前進率とした実験で、Lc/Dcfが0.28倍〜0.76倍の場合にアップ率1.4%で、0.34倍〜0.68倍の場合にアップ率1.8%で、0.50倍の場合に最も大きなアップ率であることが分かる。本発明ではこれらの実験結果を基にLc/Dcfを0.28倍〜0.76倍の範囲Z1にしている。
【0030】
次に、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを前端部5fの直径Dcfの0.35倍〜0.95倍、好ましくは、0.42倍〜0.85倍、最も好ましくは0.65倍とすることに関して説明する。図6に、キャップ長さLcをLc/Dcf=0.71と一定にした状態で、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの直径Dcaを変更してプロペラボスキャップ5Aの形状を変化させて行った実験結果を示す。横軸を「キャップ後端部径/キャップ前端部径(Dca/Dcf)」で示し、縦軸を、推進器効率のアップ率で示す。
【0031】
この図6から、プロペラボスキャップ5Aの形状は、その後端部5aの直径Dcaがその前端部の直径Dcfよりも小さい方が良いことが分かると共に、その比率Dca/Dcfにも最適な範囲があることが分かる。つまり、このプロペラ前進率Jをプロペラ設計点のプロペラ前進率とした実験で、Dca/Dcfが0.35倍〜0.95倍の場合にアップ率1.0%で、0.42倍〜0.85倍でアップ率1.2%で、0.65倍でアップ率1.5%の最も大きなアップ率があることが分かる。本発明ではこれらの実験結果を基にDca/Dcfを0.35倍〜0.95倍の範囲Z2にしている。
【0032】
また、フィン6のプロペラ特性に対する影響を調べるために、フィン6に作用する力を実験で計測したところ、プロペラ翼3に作用する推力TpとトルクQpに対して、フィン6とプロペラボスキャップ5Aに推力Tfがフィン6にトルクQfが小さいながらも作用し、全体としての推力TtとトルクQtが改善されていることが分かっている。
【0033】
更に、数値流体力学計算(CFD(Computational Fluid Dynamics)計算)により、プロペラボスキャップ5Aの後方では、バブ渦が拡散して静圧が上昇し、その結果、この静圧がプロペラボスキャップ5Aの後端部5aの端面を押す力となり、全体としての推力Ttの改善に役立っていることが分かっている。このことから、プロペラボスキャップ5Aの後端部5aの端面が平面又は平面に近い形状であっても、全体としての推力Ttの改善に役立つことが分かる。
【0034】
このプロペラボスキャップ5Aの形状と推進器効率との関係について考えてみると、プロペラ翼3を通過した流れは、縮流されて後方に流れる。このことは、プロペラボスキャップ5Aのある部分では流れの方向がプロペラ軸Pcと平行な同一円筒面上を向いている訳ではなく、キャップフランジ2aから後方では徐々にプロペラ回転軸Pcに向かって小さくなる方向になっていることを意味している。従って、プロペラボスキャップ5Aの側面5bの表面を流れる流れは、この流れの影響を受けることになる。そのため、プロペラボスキャップ5Aの側面5bの形状は、この縮流に沿うように、後端側に縮径する形状にすることがより適している。
【0035】
また、フィン6の取り付け角度(図15のα)やキャンバーに関して考える。図7にプロペラ翼3の根部における翼の形状とキャンバー(Camber)を示す。これと比べるために、図8に、台形キャップの展開形状とプロペラボスキャップ5Aの表面上におけるフィン6の根部の形状を示す。平板のフィン6が、図3に示すような側断面が台形のプロペラボスキャップ5Aに取り付けた場合をA(丸印)で示す。また、図14に示すような従来技術のプロペラボスキャップ5Aに取り付けられた場合をB(菱形)で示す。
【0036】
このプロペラボスキャップ5Aの表面を展開した展開図上でフィン6の根部の形状を見ると、図7に示すプロペラ翼3の根部における翼のキャンバー(Camber)と比べて、図8に示す展開図上では、A,B共に、逆方向のキャンバーが付いている。なお、図7のεの線は、プロペラ翼3の根部におけるピッチ角度(図15のε)を示す線である。
【0037】
図8のαの線は、フィン6の取り付け角度(図15のα)を示す線である。この図8では、フィン6の根部における形状の大部分はこのα線上にあり、プロペラ後流でフィン表面上の流れはこの線上に沿って流れる。フィン6に沿った流れはα線上から図8のように、プロペラ翼3とは逆向きのキャンバーに沿って流れることとなり、このような場合には、フィン6が発生するトルクQfはプロペラ翼3が発生するトルクQpとは逆向きでトルクQpを打ち消す方向に発生する。
【0038】
一方、フィン6が発生する推進力はプロペラ翼3が発生する推力Tpとは逆向きに発生するが、フィン6がハブ渦を拡散してキャップ後方の静圧を上昇させることによりキャップ端部5aの端面を押す力となって、結果としてキャップ5Aとフィン6が発生する推力Tfがプロペラ翼3が発生する推力Tp方向に働き推進器効率の向上をもたらす。
【0039】
図9に示す展開図上に、図10に示すような円筒形状のプロペラボスキャップ5Cの場合をC(丸印)で示し、図11に示すような後端側に拡大していく拡散型のプロペラボスキャップ5Dの場合をD(菱形)で示す。図9に示すように、これらの場合C,Dでは、αの線よりピッチ角度が大きくなってしまい、プロペラ翼3と同じ方向にキャンバーが付くような形状となっている。このような場合には、フィン6が発生するトルクQfはプロペラ翼3が発生するトルクQpと同じ方向、即ち、全体としてのトルクQtを増加する方向に発生し、推進器効率の向上への寄与は小さい。
【0040】
このように、プロペラボスキャップ5Aの形状は、フィン6の取り付け角度が同じであっても、プロペラボスキャップ5Aの表面におけるフィン6の根部に対する流れに関して影響を与えることが分かる。
【0041】
フィン6の取り付け角度として、従来技術のフィン付きのプロペラボスキャップ5と同様に、図16と図17に示すようなレーキ角γを付けても良い。図17は、フィン6のレーキ角γが0で取り付けられた場合と正の角度(+γ)あるいは負の角度(−γ)で取り付けられた場合を示したものである。
【0042】
本発明の船舶の推進装置を備えた船舶は、上記の船舶の推進装置1Aを備えて構成される。この船舶によれば、上記の船舶の推進装置1Aを使用するので推進効率の向上を図ることができる。また、推進装置1Aが僅かであるが軽量化されるので、その分推進軸及び推進軸の支持構造を軽量化できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の船舶の推進装置は、フィン付きプロペラボスキャップを使用したスクリュープロペラで形成される推進装置において、推進器効率を高めることができ、それと共に、工作し易くなり、軽量化できるため、船舶の推進装置として利用できる。
【0044】
また、本発明の船舶の推進装置を備えた船舶は、推進効率の向上を図ることができ、推進装置の軽量化による推進軸及び推進軸の支持構造の軽量化ができるので、数多くの船舶として利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1、1A 船舶の推進装置
2 プロペラボス
2a プロペラボスの後端面
3 プロペラ翼
4 プロペラ回転軸
5、5A、5C、5D プロペラボスキャップ
5a プロペラボスキャップの後端部
5ao 後端部の周縁部
5ac 後端部の中心部
5b プロペラボスキャップの外周面
5f 前端部
6 フィン
Dba プロペラボスのキャップ取り付け端部の直径
Dca プロペラボスキャップの後端部の直径
Dcf プロペラボスキャップの前端部の直径
Dp プロペラ直径
Lc プロペラボスキャップの全長(キャップ長さ)
Lca 後端部の周縁部と中心部との前後方向の距離
Pc プロペラ軸
Qf フィンが発生するトルク
Qp プロペラ翼が発生するトルク
Qt 推進装置が発生するトルク
Tf フィンとキャップが発生する推力
Tp プロペラ翼が発生する推力
Tt 推進装置が発生する推力
α フィンの取り付け角度
γ フィンの取り付けレーキ角度
ε プロペラ翼根部のピッチ角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュープロペラのプロペラボスの後側に取り付けるプロペラボスキャップにフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、
前記プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、
このプロペラボスキャップの全長をキャップ前端部の直径の0.28倍〜0.76倍とし、このプロペラボスキャップのキャップ後端部の直径を、このキャップ前端部の直径の0.35倍〜0.95倍とすることを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項2】
スクリュープロペラのプロペラボスのプロペラ翼の後側にフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、
前記フィンの根部の前端と前記フィンの根部の後端の距離を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.28倍〜0.76倍とし、このフィンの根部の後ろにおける直径を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.35倍〜0.95倍とすることを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項3】
前記プロペラボスキャップをプロペラ回転軸を回転軸とする回転体で形成すると共に、この回転体の母線を直線にして、このプロペラボスキャップを円錐台形状に形成することを特徴とする請求項1記載の船舶の推進装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の船舶の推進装置を備えたことを特徴とする船舶。
【請求項1】
スクリュープロペラのプロペラボスの後側に取り付けるプロペラボスキャップにフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、
前記プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、
このプロペラボスキャップの全長をキャップ前端部の直径の0.28倍〜0.76倍とし、このプロペラボスキャップのキャップ後端部の直径を、このキャップ前端部の直径の0.35倍〜0.95倍とすることを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項2】
スクリュープロペラのプロペラボスのプロペラ翼の後側にフィンを設けると共に、このフィンをプロペラ翼の間の後方に配置した船舶の推進装置において、プロペラボスキャップの後端部を端面で形成するか、又は、前記プロペラボスキャップの後端部の形状を周縁部からプロペラボスキャップの全長の20%の範囲内に収めると共に、
前記フィンの根部の前端と前記フィンの根部の後端の距離を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.28倍〜0.76倍とし、このフィンの根部の後ろにおける直径を、プロペラ翼の後端でのプロペラボス直径の0.35倍〜0.95倍とすることを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項3】
前記プロペラボスキャップをプロペラ回転軸を回転軸とする回転体で形成すると共に、この回転体の母線を直線にして、このプロペラボスキャップを円錐台形状に形成することを特徴とする請求項1記載の船舶の推進装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の船舶の推進装置を備えたことを特徴とする船舶。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−215187(P2010−215187A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66834(P2009−66834)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000144049)株式会社三井造船昭島研究所 (27)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【出願人】(502055377)商船三井テクノトレード株式会社 (5)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000144049)株式会社三井造船昭島研究所 (27)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【出願人】(502055377)商船三井テクノトレード株式会社 (5)
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