説明

船舶及びバージ

【課題】円型船型の欠点である前後進時の抵抗の増大を改善し、長所である強力な舵効によるスムーズな回転運動を維持したまま進路の安定性を保持し、船型の極小化により材料費・工費の合理化を図る小中型船型を提供する。また、船舶を分離可能な動力部として利用可能な大型バージを提供する。
【解決手段】上部側外板9が円筒形状を呈し、当該上部側外板9の下方に設けた下部側外板10が六角柱形状を呈し、水平方向に回動可能な推進器23を下部側外板10の対向する稜角を結んだ船体中心線を対称軸として船底の対称位置に設ける。下方開放型のダク17トを船底外板12の全長に亘り設ける。その他スケッグ18,19、防舷材36、船首尾球47、ノズル付き推進器23を設ける。前記船舶を収容可能なU字型の凹部を大型バージの尾部に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関し、より詳しくは水線下平面視外周が六角型を呈する船舶に関するものである。また、当該船舶により押航されるバージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
底部が楕円形状を呈する入渠案内船、タグボートが特許文献1に掲載されている。この船舶は任意方向に曳航、押航可能とすることを目的とするものである。
【0003】
また、本願出願人が特願2008−151345号において提示する、ポンプ水流を利用する推進器を本発明に係る船舶にも利用するものである。
【0004】
特開2002−331992号公報には、プッシャー船とバージの連結装置に関し、シリンダーにより出没自在な連結軸を有するプッシャー船と、プッシャー船の先端が嵌る凹部を有すると共に前記連結軸が嵌る連結溝を有するバージが提示されている。
【特許文献1】特開平10−100987号公報
【特許文献2】特開2002−331992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
古来、平面型状が円型の「ふね」は「たらい舟」として知られているが、これを動力船として発展させ実用化することはなかった。その理由は、水線が円であるため回転しやすく、直進運動は物理的にも困難であること、長さ巾比が1であり、極端な広巾浅吃水船として正面抵抗が大きく造波抵抗成分が大となり、工業製品と成り得ないこと等にある。
【0006】
しかし、長さ巾比が1の船型は、構造物として表面積が最小になると共に構造を単純となしえる。それゆえ使用材料の減少、建造工数の低減、保守費用の低廉化が可能となる。
【0007】
また、昨今360度旋回可能な推力発生装置が実用化され、その良好な操縦性と保針性は優秀な推進器として存在している。
【0008】
そこで円型に内接する六角型の水線下の船体と回動可能な推力発生装置を組み合わせ、その動力源として普及されつつあるハイブリッド型発電システム等を加え、さらに船首尾球の装着等船体型状の改善を行えば平水における中低速で常用される小型船舶において経済性の優れた多用な用途の船舶として発展的に存在しうるのである。
【0009】
そこで本発明は、円型船型の欠点である前後進時の抵抗の増大を改善し、長所である強力な舵効によるスムーズな回転運動を維持したまま進路の安定性を保持し、船型の極小化により材料費・工費の合理化を図る小中型船型を提案するものである。
【0010】
また、本発明の作業船は小型・円型で船体中央部に推力発生機能をもつので、大型バージの分離可能な動力部としてバージの後端に着脱容易に組み込めば、本発明の船舶の弱点である耐航性能は大型バージと一体化することによって向上し、且つ効率的な輸送方式としてバージ輸送の合理的システム化が可能となる。
【0011】
動力装置を持たないバージは、自力で航行するプッシャー船(押船)や曳船で、押航・曳航されて移動するものである。一般的な押航・曳航方法としては、ワイヤーロープによるものや機械的装置で連結するというものがある。曳船がワイヤーロープを用いてバージを曳航する際には、バージを自在に操船することが難しいという難点がある。機械的装置によって曳航・押航する場合、曳・押船とバージはそれぞれに別個に様々な運動を行うため、両者を容易に連結又は離脱させることは困難である。
【0012】
そこで本発明は、請求項1乃至8いずれかに記載の船舶と協同させることで上記問題点を解消することが可能なバージを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る船舶は以下のように構成される。
【0014】
請求項1:上部側外板が円筒形状を呈し、当該上部側外板の下方に設けた下部側外板 が六角柱形状を呈し、水平方向に回動可能な推進器を下部側外板の対向す る稜角を結んだ船体中心線を対称軸として船底の対称位置に設ける。
【0015】
請求項2:請求項1記載の船舶において、船底外板に、船体中心線に沿って下方開放 型のダクトを船底外板の全長に亘り設ける。
【0016】
請求項3:請求項1又は請求項2に記載の船舶において、下部側外板の対向する稜角 を結んだ線が交わる船体中心点のダクト頂部に、ピラーを設ける。
【0017】
請求項4:請求項1乃至3いずれかに記載の船舶において、船底に、その下端が推進 器の下端より下方に位置するスケッグを設ける。
【0018】
請求項5:請求項1乃至4いずれかに記載の船舶において、上部側外板の上端全周に 亘り防舷材を設ける。
【0019】
請求項6:請求項1乃至5いずれかに記載の船舶において、主船体と別個に吃水線の 上下に起倒自在に設置される船首尾像を兼ねた船首尾球を設ける。
【0020】
請求項7:請求項1乃至6いずれかに記載の船舶において、ポンプから吐出される水 流を推力として利用するノズル付き推進器を設ける。
【0021】
請求項8:請求項7記載の船舶において、推進器を船底外板下方において水平方向に 着脱自在に設ける。
【0022】
請求項9:請求項5乃至8いずれかに記載の船舶を収容可能なU字型の凹部をバージ 船の船尾に設ける。
【発明の効果】
【0023】
前記のように構成される本発明が、いかなる効果を奏するかを概説する。
【0024】
平面形状が円型という新規な形態の船を提供でき、しかも回動可能な推進器を対称位置に装備することで、その場旋回が可能となる(請求項1記載の船舶)。
【0025】
ダクトを船底に設けてあることから、前後進時の正面抵抗と縦揺れの減少、進路の安定性を図れる(請求項2記載の船舶)。
【0026】
船体中心点のダクト頂部に、ピラーを設けてあることから、甲板荷重を支持可能となり、剛性を高められる。また、当ピラー内部に少人数用エレベーター、照明用電路、諸配管、通信用ケーブル等を集約できる(請求項3記載の船舶)。
【0027】
船底に、その下端が推進器の下端より下方に位置するスケッグが配置されており、上架時の推進器の保護及び船体重量の支持が可能である(請求項4記載の船舶)。
【0028】
上部外側板の全周に亘り防舷材を設けてあることから、接舷場所を選ばすに押航が可能となる(請求項5記載の船舶)。
【0029】
本発明に係る船舶は平面形状が円型であり、乗員乗客等にとって船首尾がどちらの方向かわからないことが多い。そこで主船体と別個に吃水線の上下に起倒自在に設置される船首尾像を設けた。例えば乗員等に船首位置を知らせる必要があるときには、船首尾像を船首位置にもってきて起立させるのである。そしてこの船首尾像は船首尾球の役目も果たすよう設けられていることから、吃水線下に倒してあるときにはバルバス・バウの役目を果たさせることが可能となるのである。つまりは造波抵抗の減少を図れるのである(請求項6記載の船舶)。
【0030】
ポンプの噴流を利用するため、機械的軸系又は電気的駆動装置によるプロペラ式推進器のように推進器自体に接続されるモータ或いは駆動装置をプロペラハブ内に装備する必要がなく、構造の簡易化が可能である(請求項7記載の船舶)。
【0031】
ポンプの噴流を利用するため、推進器内部に機械的機構或いは電気配線等を敷設する必要がなく、推進器を船底外板外部より着脱自在に設けることができる。これにより設置工事及びメンテナンスが容易となる(請求項8記載の船舶)。
【0032】
本発明に係るバージは、船尾に設けた凹部に請求項5乃至8いずれかに記載の船舶を収容して航行するものである。つまり、ワイヤロープによる牽引や、機械的装置による連結を行わずに、バージと曳船・押船が直接接する態様で舵効を及ぼすものである。ゆえにワイヤロープにより牽引する場合のような操船の難しさ、機械的装置による連結の場合のような、連結・離脱の困難さが生じないのである(請求項9記載のバージ)。
【0033】
以下、より具体的な効果を詳述する。
【0034】
観光船として本発明の船舶を利用する場合、正確に進路を保持し、その場旋回が緩急自在に行いうるので、これを繰り返しつつ計画航路を航走しうる。つまりは客室内観光客は視線を変えることなく360度のパノラマ風景を楽しむことが可能となる。
【0035】
作業船として利用する場合、曳航作業に使用の曳航索の延長線上に船体の中心線を一致させることが容易であるので曳航索の離脱は安全且つ容易であり、曳航装置を船体後端に集中し配置することができるので、船体長さを短縮することが可能で、結果として船型を小型化することが容易となる。
【0036】
一般のZ型又はL型推進軸或いはフォイトシュナイダー推進機2基を装備する曳船と同様な操船も可能であるが、旋回軸を船体中心にもつ本船の場合、さらに軽快な方位角の変更が可能であり、且つ、船殻全周に防舷材を有する場合は自船の接舷場所を選ばず、被曳船の欲する位置に接舷し直ちに必要な推力を発生できる。
【0037】
さらに、上記作業船はバージと連結し使用することが可能である。図8に示すように大型バージ37の船尾部にU字型の凹部38を設け、筒型の上部側外板9を防舷材36を介し嵌入係留すれば、その連結作業は安全、容易で確実なものとなり、さらに大きな舵効を得ることが可能となる。さらに上記船舶の持つ難点、すなわち長さ巾比が小さいという問題点も解消できるものである。つまりバージの凹部に収容された状態では、バージの長さも加味された長さ巾比が得られるため、造波抵抗が小さくなり、且つ耐航性が向上し、港湾内のみならず沿海航路における輸送も可能となるのである。
【0038】
また、バージ押航に当たり、本発明に係る作業船は小型円型で船体中央に推力発生装置を有するので、以下の独特な機能を有するものである。
【0039】
通常無動力の母船バージを押航中の押船が母船バージを操船しようとすると、両者の船体は平面において「く」の字型(右回頭の場合、左回頭の場合はその反対)になろうとする旋回モーメントを必要するので、その両者間の係留装置はその応力に耐える必要性がある。一方、本発明の作業船は図8に示すように円型の船体が母船バージの後端に組み込まれているので、操舵力として母船バージの後尾部を直接に左右に押すものでモーメントは発生しない。したがって、係留装置は作業船が後方に離脱しないようにすることが主体となり装置の簡略化が可能となる。
【0040】
また、本発明に係る作業船は母船バージ後尾部によって三方を囲まれた水面上にあるので、風浪の影響は緩和された状態となり係留装置全体の軽減が可能となる特徴を有する。
【0041】
つづいて、本発明の船型は円及び正六角形の幾何学的平面形状を基礎とし、複雑なアナログ的曲線を必要としないことから、その設計及び工作は容易となる。
【0042】
また、ブロック分割はコンテナサイズを基準とすれば運送もまた簡便なものとなり、現地における組み立て溶接接合により完成することが可能である。
【0043】
さらには、現地での建造或いは修理に際しては、推進器としてノズル付き噴流ポンプ型を用いるときは、船底直下の吐出管部に接合部39を設けておけば装置全体を横方向に移動することで着脱が可能となる。それゆえZ型推進軸を有する推進機構又は電動推進機構をハウジング内に装備する推進機構を着脱する際に必要となるような、大きな下方スペースを必要としないので、造修設備を簡素化できる。このことは湖畔等を利用する場合特に重要な利点となる効果を生む。
【0044】
更に船首・船尾球を設けることにより、船体の長さ・巾比を拡大し、造波抵抗を軽減し、且つ、これを随時起立させ船首尾像として利用するときは、その船舶のキャラクター像として表現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、好ましい実施形態として推力発生装置、殊に吐出流拡大ノズルを装備する推進器を搭載した小型客船について述べ、さらに曳船・押船に使用するタグボート(以下作業船と称する)として利用した場合について補足する。
【0046】
下記において参照される各図の内容は以下の通りである。
【0047】
図1は上甲板平面図であり、図2は上甲板下船体内部平面図、図3は船体縦断面図であり、図4は同上横断面図、図5は甲板室客室甲板平面図であり、図6は同上操縦室甲板平面図、図7は作業船の場合の外観図、図8は作業船として大型バージと連結した場合の平面図であり、図9は大型バージの他の実施例を示した平面図であり、図10は請求項7記載の船舶における推進器の概略構成図であり、図11は船首尾像兼船首尾球の概略側面図である(尚、図7において吃水線より下部は図3と同一であるため省略してある)。
【0048】
本発明の船舶の船型は円型の上甲板と、その下方に接する円筒形の上部側外板と、それに内接する平面視亀甲型(六角形)の下部側外板より成る独特なもので、前後左右対称の船型である。
【0049】
図1乃至図4に示すように、その六角形の稜角の一つを船首1として位置づければ、その長手方向反対側の稜角は船尾2となり、船体中心線3を形成する。残る左右2ヶづつの稜角4,4をそれぞれ左右舷で結ぶ線は自ずから船側外板平行部5を形成することとなり、その中央を結ぶ横軸6は縦軸3の中心点7で直交する。
【0050】
なお、計画吃水線8は長さ・巾比が「1」である円筒型の上部側外板9ではなく亀甲型下部側外板10上に設定すれば、幾何学的に同上比は約「1対1.16」となり造波抵抗上円型水線面を計画吃水とする場合より有利となる。
【0051】
つづいて、その各部構造について述べる。
【0052】
図4に示されるように円型の上甲板11に接する円筒型上部側外板9が下方に延び、計画吃水線の上部においてそれに接する六角柱の下部側外板10が、さらに下方に延び、平坦な船底外板12に固定される。その場合上部側外板9と下部側外板10の間隙はチャインラインを形成しつつ船底部材13によって埋められ、相互に固定され、船体中央部における船殻14が構成される。
【0053】
つづいて、本発明による船舶の前進時の船体抵抗を減少させるため、船殻14の平行部5の前端及び後端付近から船底部材13はチャインライン15を形成しつつ、計画吃水線8上部から上甲板11船首端及び後端に向かって延び、さらに前後進時の抵抗を減ずるため下部側外板10と船底外板12の接合部はナックルライン16として第3図に示すように船底外板12と共にそれぞれ船首尾端に向かって切り上げ浸水面積の減少を計っている。
【0054】
さらに船底外板12には、図4に示すように、船体中心線3に沿って下方開放型のダクト17を、計画吃水線8上部をその頂面として、船底外板12の全長に亘り設け、前後進時の正面抵抗と縦揺れの減少、進路の安定性を図っている。
【0055】
また、図4に示されるように船底にはスケッグ18・19が配置されており、上架時の推進器の保護及び船体重量の支持を図っている。このスケッグ18・19の下端は推進器23の下端より下方に位置するよう設けられる。なお、スケッグ18・19の下端には上下動揺を抑制するための小型水平フィン60を取り付けることが好ましい。
【0056】
また、船体中心点7のダクト17頂部にはピラー20を設け上甲板11及び上部構造21の各甲板荷重を支持している。
【0057】
なお、常用前進時の横揺れの軽減、進路の安定のため、船体平行部5のナックルライン16にはビルヂキール22を付設している。
【0058】
さて、本発明による船舶は推進器として360度回転可能な推進器23を横軸6上の外舷側左右対称位置に配置し、進路の安定を小舵角操船時に於いて確保し、さらに左右推進器の舵角を正逆方向に回転すること、或いは片舷機を停止することにより、進路に於いて軽快な回頭モーメントを迅速に得ることが可能であり、進路に制約がある狭水路等に於いても完全な「その場回頭」を進路上で行うことが可能であり、これは、回転の中心が船体の中心にあり完全なその場旋回が可能な本船型と推進器によってのみ得られる独特な運動性能である。この推進器23としては、汎用のZ型推進軸、フォイトシュナイダー推進器或いはポッド推進器を利用することが可能である。
【0059】
推進器23として、ポンプから吐出される水流を拡大利用するノズル付き推進器23を利用することが、より好ましい。ノズル付き推進器23の駆動用ポンプ24は、図2に示すように前後を隔壁25によって区画された動力室26の内部に配置され、同室内の電力供給装置27の電力により駆動される。その装置は発電原動機28(内燃機関)による発電機又は大容量の2次電池或いはその組み合わせであり、動力室26中央部に統合設置されている。駆動用ポンプ24直下にはシーチェスト29を配置し、吸入管の長さを短縮し吸入管内抵抗の減少を図っている。船底直下の吐出管部40にフランジより成る接合部39を設け、ボルト・ナット等で緊締してある。これによりノズル付き推進器23は容易に着脱可能となる。また、吐出管40には360度旋回可能な操舵機41が介在させてあり、各請求項記載の推進器23は回動可能となるものである。
【0060】
図10に示されるようにノズル付き推進器23は、シーチェスト29より吸入した海水を吐出管40を経て外筒が釣鐘型のノズル42に吐出し、水流を拡大・整流した後排出するものである。ノズル42の内部には内筒として翼型断面を持つリング43が中心線上に位置する砲弾型のコーン44と共に整流板45を介して固定されている。なお、コーン44の内部は中空で底面は開放されている。又、リング43とコーン44は整流板45で相互に固定されている。紡錘型半部型状のハウジング46は釣鐘型ノズル42と、舵軸として利用される吐出管40の外側の水流を整える目的のものである。
【0061】
動力室26内の中心点7より上部構造21内に延びるピラー20の内部には作業用エレベーター、照明用電路、諸配管、通信用ケーブル等が集約され、動力室26内ピラー20周辺に設置された各機器に導設される。
【0062】
図1乃至図6においてこの動力室26直上の上甲板には必要とされるメンテナンス用の開口30及びその囲壁、出入り口室、船員室、甲板倉庫等を設ける。この甲板室直上の客室甲板31には客室及び関連の設備を設け、さらにその上部は操縦室甲板32とし、操船室内33には操船関連装置を集約し、頂部甲板34にはマスト35を設置する。
【0063】
上記各甲板上の甲板室の外型は平面形状を総て亀甲型とすることにより、その稜角の一つが船首である共通の認識が乗員、旅客にとって危急時の案内等安全確保上の必要に応ずるものである。したがって、上記の他、例えば船首尾端稜角部に船首尾像等を付すことも有効である。
【0064】
そこで、以下、図7に示されるような船首像を設けることで、本発明に係る船舶のような広巾浅吃水船型のもつ造波抵抗の制御を行う場合について詳細に説明する。
【0065】
図7、図11において47は船首像で、この場合は「いるか」等の海洋哺乳類の頭部を想定した形状に設けてある。本発明においては当該船首像47を単に船首に固定するのではなく、船首端稜角先端よりさらに大きく中心線上で突出させるため、船首像47を起倒自在に設けてある。すなわち、ダクト17の両側壁にわたり固定された水平支持フィン48には、鋼球49が埋め込まれており、当該鋼球49には船首像47の下端に設けられた球形の溝が遊嵌されている。この鋼球49を中心として下方に倒すことで、船首像47を吃水線8下にほぼ水平に位置せしめることが可能となる。他方で鋼球49を中心として上方に起こすことで、船首像47を格納位置に移動させることが可能となる。
この起倒動作は船首像47の頂部前方に取り付けた小型アイプレート50にワイヤー51を導設し、甲板室52前面に取り付けた小型ウインチ53によりワイヤー51を牽引することで行うものである。かように本発明においては船首像47に船首球としての機能を与えるものである(以下船首球と称する)。
船首像(船首球)47の両側部にはヒレ型のストッパーフィン59が設けてある。船首球47の左右方向の揺れを抑制するためのものである。
【0066】
なお、上甲板11も同様にU型に切断し、その周囲は上甲板11とダクト頂面17aの空間が水密となるよう囲壁54を設けている。ブルワーク55も船首像47の回転を許すよう切断し、さらに波浪が上甲板11に上がらないようU型に図1に示すよう像外側に凹入させている。防舷材36も像47の回転起倒を可能とするよう図1に示すように開放されている。
【0067】
船首像47本体は合成ゴム等弾性体で製作し、船首球47として受ける波浪の衝撃をアイプレート48、ワイヤー51、ウインチ53に与えないことを特徴とし、ウインチ53はワイヤー51の張力を検出すると共に船首球47の先端のポール47aの擧動を観察し、過大な荷重が発生しないよう船首球47自体のトリムの調整を可能としている。この船首像47はその地域の客船としてPR効果のある多様なイメージを持つものから自由に選びキャラクターとし、水面下では船首球47として必要な型状の流線化を行えばPR効果がさらに大きくなることが想定される。さらに図3に示すように船尾像として水中生物の尾部を船首像に対応して必要に応じ同様に使用すれば、船尾球として保針性の向上と複雑な船体後端域の水流の乱れを整流し、抵抗の減少及び省エネルギー効果の増加と共にPR効果もさらに大きくなる。
【0068】
以上の装置は作業船(曳船)の場合についても適用可能である。すなわち巡航時には船首球47として図7に示される水中の所定位置に下ろし省エネルギー航行をし、押航作業に当たっては図11に示す位置に捲き上げれば敏速な旋回行動が可能となる。この場合船首球47は弾性体で形成されているので被曳船の船側外板に損傷を与えることはない。又被曳船の外板がフレアーを持っていても十分対応可能な柔軟性を船首球47に与えることは容易である。この性能は巡航時の衝突事故に対しても自他船の接触による損傷を回避することを可能としている。
【0069】
つづいて本発明による船舶を作業船とする場合には、図7、図8に示すように甲板室各甲板張出し部(ひさし部56)は、取り外し、塔型の上部構造とし、図7に示すように操縦室甲板32から上甲板11上の作業を直視可能とする。また、この場合も各甲板を亀甲型としておけば大型被曳船上から、随伴する本発明の作業船の視認に当たり、その船首尾方向、すなわち船体中心線3の船首尾方向の把握が容易となる。また、他船側方からの視認に当たっては若干の船尾トリムでの常用とブルワーク、マスト等の型状からも判別可能であるが、チャインライン15下方の船底部塗装色と外舷塗装の塗り別け線及び船名、船籍港名等の位置から確認可能で前後の判別は通常の船舶と同様に取り扱いうるのでこの船型の運用上の安全に支障はない。
【0070】
なお、船首尾球7の水中における見掛けの重量は前端及び後端の空気抜き孔57及び疎水孔58より流入する水流により球体の浮力が排水量より若干小さくなる内部構造とし、球体の航海中浮動を制約する構成とし、直立時には疎水孔58より自動的に排水されるものとする。
【0071】
請求項9記載に係るバージは、図8に示されるように、大型バージ37の船尾37aを切り欠くことで、凹部38を設けて成るものである。また、平面形状が図9に示すように、大型バージ37の船尾に、凹部形状を呈する仮設連結治具38aを、凹所38に代え設置すれば汎用の台形の大型バージを連結バージとして転用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】上甲板平面図。
【図2】上甲板下船体内部平面図。
【図3】船体縦断面図。
【図4】同上横断面図。
【図5】甲板室客室甲板平面図。
【図6】同上操縦室甲板平面図。
【図7】作業船の場合の外観図。
【図8】作業船として大型バージと連結した場合の平面図。
【図9】大型バージの他の実施例を示した平面図。
【図10】推進器の一部破断概略構成図。
【図11】船首像(船首球)側面図。
【符号の説明】
【0073】
3・・船体中心線
7・・船体中心点
9・・上部側外板
10・・下部側外板
12・・船底外板
17・・ダクト
18,19・・スケッグ
20・・ピラー
23・・推進器
36・・防舷材
37・・バージ
38・・凹部
47・・船首尾球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部側外板9が円筒形状を呈し、当該上部側外板9の下方に設けた下部側外板10が六角柱形状を呈し、水平方向に回動可能な推進器23を下部側外板10の対向する稜角を結んだ船体中心線3を対称軸として船底の対称位置に設けた船舶。
【請求項2】
船底外板12に、船体中心線3に沿って吃水線付近を頂板とする下方開放型のダクト17を船底外板12の全長に亘り設けた請求項1記載の船舶。
【請求項3】
下部側外板10の対向する稜角を結んだ線が交わる船体中心点7のダクト17頂部に、ピラー20を設けた請求項1又は請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
船底に、その下端が推進器の下端より下方に位置するスケッグ18,19を設けた請求項1乃至3いずれかに記載の船舶。
【請求項5】
上部側外板9の上端全周に亘り防舷材36を設けた請求項1乃至4いずれかに記載の船舶。
【請求項6】
主船体と別個に、吃水線の上下に起倒自在に設置される船首尾像を兼ねた船首尾球47を設けた請求項1乃至5いずれかに記載の船舶。
【請求項7】
推進器23がポンプがら吐出される水流を推力として利用するノズル付き推進器である請求項1乃至6いずれかに記載の船舶。
【請求項8】
ノズル付き推進器23を着脱自在とした請求項7記載の船舶。
【請求項9】
請求項5乃至8いずれかに記載の船舶を収容可能なU字型の凹部38を船尾に設けたバージ37。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−132165(P2010−132165A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310870(P2008−310870)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【特許番号】特許第4305881号(P4305881)
【特許公報発行日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(508173853)