説明

船舶用主機の余剰エネルギー回収システム

【課題】船舶用主機の排気ガスの余剰エネルギーを利用する対象範囲を拡大し、かつ、主機の運転効率を最適なものに維持できるようにエネルギーを回収する船舶用主機の余剰エネルギー回収システムを提供する。
【解決手段】主機1の排気ガスに含まれる余剰エネルギーによって過給機5を介して発電機8を駆動し、この発電機8で発電した電力をインバータ20を介して定周波数電力に変換し船内負荷に利用するとともに、発電機8の出力電力を電動機10あるいは油圧モータ15を介して推進軸2への加勢力として利用し、更に主機1の負荷状況を監視するコントローラ21で電動機10あるいは油圧モータ15を制御して推進軸2に加勢される加勢力を制御することにより過給機5の回転数を制御し、主機1へ供給される空気量を主機1の状態に応じた最適な量に制御する。これにより主機1の運転効率を最適なものに維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶用主機の排気ガスに含まれる余剰エネルギーを過給機によって回収するようにした、船舶用主機の余剰エネルギー回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムの例として、図5および図6に示すシステムがある。因みに、図5は、特許文献1に示す船舶用主機の余剰エネルギー回収システムであり、図6は、特許文献2に示す船舶用主機の余剰エネルギー回収システムである。
【0003】
先ず、図5の従来例1について説明する。
図5において、1は主機であり、この主機1によって駆動される推進軸2に減速機3を介して船舶推進プロペラ(以下、単にプロペラと略称する)4を直結している。
【0004】
5は過給機であり、内部構成については図示しないが、主機1の排気ガスにより駆動される排気タービンおよびこの排気タービンによって駆動され空気を圧縮して前記主機1に送り込む吸気ブロアを備えている。この過給機5の排気タービンから排気されたガスは排気ダクト6によって大気中に放出される。
【0005】
7は過給機5に結合されて排気タービンおよび吸気ブロアと一体的に回転する出力軸である。この出力軸7には発電機(G)8を直接結合し、過給機5によって発電機8を駆動するようになっている。
【0006】
発電機8で発電した電力は電気ケーブル9等の電気回路により電動機(M)10に供給され、これを回転させる。そして、電動機10で発生した駆動力は、前記減速器3の小歯車3bに伝えられ、更に大歯車3aを介して前記推進軸2に伝達され、主機1による推進軸2の駆動力に加勢される。
【0007】
特許文献1に記載のシステムは、このように、過給機5で駆動される発電機8の出力電力により電動機10を駆動し、この電動機10によって減速機3を介して推進軸2に加勢するようにしている。
【0008】
次に、図6の従来例2について説明する。
図6において、図5で説明した構成要素と同じものは同じ番号を付し説明は省略する。
11は過給機5の排気ダクト6から排気される排気ガスを吸気することによって回転駆動される回収タービンであり、その出力軸12によって油圧ポンプ(Hydraulic Pump)13を回転駆動する。油圧ポンプ13は、油圧配管14を介して圧油を油圧モータ(Hydraulic Motor)15に供給し、かつ、回収する。なお、油圧ポンプ13、油圧配管14および油圧モータ15からなる部分を油圧駆動システムと称する。
【0009】
このように、特許文献2に記載のシステムも、回収タービン11で駆動される油圧ポンプ13の圧油によって直接油圧モータ15を駆動し、推進軸2を加勢するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−129935号公報
【特許文献2】実開昭59−130014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上述べた図5および図6に示す従来の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムでは、主機1の排気ガスのエネルギーから電気的あるいは油圧的な駆動力を発生させ、この駆動力を主機1による推進軸2の駆動力に加勢することによって、排気ガスのエネルギーの回収を行っているが、回収エネルギーは全て推進軸を加勢する構成となっているため、回収エネルギーを電気設備、例えば、船舶内のモータや電灯、インバータ等の電気設備で利用することができない。
【0012】
また、回収するエネルギー量を調節する設備を持たないため、過給機5の回転速度が推進軸2に加勢される負荷量によって依存されることとなり、主機1の負荷状態に応じて過給機5から主機1への空気の供給量が最適に行えず、場合によっては主機の運転効率の低下を招く恐れがある。
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するために、船舶用主機の排気ガスの余剰エネルギーを利用する対象範囲を拡大するとともに、主機の運転効率の低下を招かないようにエネルギーを回収する、船舶用主機の余剰エネルギー回収システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、推進軸を介して船舶推進プロペラを駆動する主機と、前記主機の排気ガスによって駆動される排気タービンおよびこの排気タービンによって駆動され空気を圧縮して前記主機に送り込む吸気ブロアを備えた過給機と、前記過給機によって駆動され発電する発電機と、前記発電機で発電した電力を定周波数に変換して船内負荷に定周波数の電力を供給するインバータと、前記発電機で発電した電力によって駆動される電動機と、前記電動機によって駆動される可変容量式油圧ポンプおよび当該可変容量式油圧ポンプから供給される圧油によって駆動され前記推進軸に対して駆動力を加勢する油圧モータを有する油圧駆動システムと、前記主機の負荷状況に応じて前記可変容量式油圧ポンプを制御して過給機にかかる負荷量を制御し過給機から主機へ供給される空気量を制御するコントローラとから構成したことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムにおいて、前記発電機および電動機間に当該電動機の回転速度を制御するインバータを設けると共にこの電動機によって駆動されるポンプを可変容量式油圧ポンプから固定容量式油圧ポンプに代え、コントローラによって前記インバータを制御して前記過給機にかかる負荷量を制御し過給機から主機への空気の供給量を主機の負荷状況の応じた空気量に制御するように構成したことを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項3記載の発明は、請求項1に記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムにおいて、前記推進軸上の減速機に代え油圧モータを設置すると共に前記可変容量式油圧ポンプを減速機を介して前記電動機によって駆動することを特徴とする。
【0017】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムにおいて、前記推進軸上の減速機に代え油圧モータを設置したことを特徴とする。
【0018】
またさらに、請求項5記載の発明は、請求項2あるいは4に記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムにおいて、前記固定容量式油圧ポンプと油圧モータを省略し、前記電動機を直接推進軸上に設置、あるいは減速機を介して推進軸を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、主機の負荷状況に応じて過給機にかかる負荷量を制御するため過給機から主機へ供給される空気の供給量を最適にコントロールでき、主機の運転効率を維持できる効果がある。また、船舶用主機の排気ガスに含まれる余剰エネルギーで推進軸への加勢を行いつつ船内負荷にも電力を供給できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1の構成図。
【図2】本発明の実施形態2の構成図。
【図3】本発明の実施形態3の構成図。
【図4】本発明の実施形態4の構成図。
【図5】従来の第1例の構成図。
【図6】従来の第2例の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[実施形態1]
図1を参照して本発明の実施形態1について説明する。なお、従来例の図5あるいは図6に共通する要素には同一符号を付けて重複する説明は適宜省くものとする。
【0022】
20は過給機5によって駆動され発電機8から出力される電力を定周波数の電力に変換するインバータ、16はインバータ20(第1のインバータともいう)を介して定周波数の電力が供給される船舶内の負荷で、電動機や電灯等の電気設備である。
【0023】
10は発電機8の電力で直接駆動される電動機、17は、前記油圧モータ(Hydraulic Motor)15と共に油圧駆動システムを構成する可変容量式油圧ポンプ(Variable Capacity Hydraulic Pump)であり、前記電動機10によって駆動される。
【0024】
21は主機1の負荷状況を監視し可変容量式油圧ポンプ17を制御するコントローラで、この制御によって可変容量式油圧ポンプ17から油圧ポンプ15へ送られる油圧量が調整され、これに伴い減速器3を介して油圧ポンプ15によって推進軸2に加勢される加勢力が調整される。
【0025】
また、このコントローラ21によって可変容量式油圧ポンプ17が制御されると電動機10、発電機8、過給機5にかかる負荷量、即ち過給機5の回転数も調整され、過給機5から主機1へ供給される空気量が制御される。
【0026】
この時、過給機5から主機1へ供給される空気量が主機1の負荷状態に応じて最適となるようにコントローラ21の設定を行っておけば、常に主機1へは最適な空気が供給され、主機1の運転効率を最適に保つことができる。
尚、主機1の負荷状況は、主機1の回転数、出力トルク、吸気圧、過給機5から主機1へ供給される圧縮圧、風量等を計測することにより把握できる。
【0027】
図1で示す本実施形態1の船舶用主機の余剰エネルギー回収システムは、主機1により推進軸2を介してプロペラ4を駆動する。推進軸2には、油圧モータ15が減速機3を介して接続されている。主機1に設けられた過給機5の出力軸7には発電機8が直結されており、この発電機8から供給される電力により直接電動機10が駆動される。
【0028】
電動機10は出力軸10Sを介して可変容量式油圧ポンプ17を駆動し、可変容量式油圧ポンプ17は回転によって得た圧油を油圧配管14を経て油圧モータ15まで送りこれを駆動する。この可変容量式油圧ポンプ17は主機1の負荷状況を監視しているコントローラ21によって制御され、油圧モータ15へ供給する油の圧力を制御する。その結果、油圧モータ15によって推進軸2に加勢される加勢力が変化するが、これにより電動機10、発電機8、過給機5にかかる負荷量が制御され、過給機5の回転数が制御される。その結果、過給機5から主機1へ供給される空気量が主機の負荷状態に応じた最適な流量に制御され、主機1の運転効率を最適なものに維持できる。
【0029】
このように構成することにより、インバータ20により発電機8の出力電力が定周波数に変換されて船内負荷16へ供給され、また、発電機8の出力電力が電動機10、可変容量式油圧ポンプ17、油圧モータ15、減速機3を介して推進軸2への加勢力として利用されると共にコントローラ21によって可変容量式油圧モータ17を制御して油圧モータ15から推進軸2に加勢される加勢力を制御することによって過給機5の回転数を制御し、主機1へ供給される空気量を主機1の状態に応じた最適な量に制御でき、主機1の運転効率を最適なものに維持できる効果がある。
【0030】
[実施形態2]
図2を参照して本発明の実施形態2について説明する。
図2において、図1で説明したものと同じ構成要素のものは同一符号を付し、重複する説明は適宜省くものとする。
【0031】
18は発電機8および電動機10間を接続する電気回路(電気ケーブル)9の途中に設けられるインバータ(第2のインバータともいう)で、このインバータ18は主機1の負荷状況を監視しているコントローラ21によって制御され、図1と同様に発電機8、過給機5の負荷量が制御される。その結果、過給機5から主機1へ供給される空気量が主機の負荷状態に応じた最適な流量に制御され、主機1はその運転効率を最適なものに維持できる。尚、19は固定容量油圧ポンプ(Fixed Capacity Hydraulic Pump)であり、前記電動機10の出力軸10Sに直結されて駆動され、その圧油によって油圧モータを駆動している。
【0032】
このように構成した余剰エネルギー回収システムも、第1のインバータ20により発電機8の出力電力が定周波数に変換されて船内負荷16へ供給され、また、発電機8の出力電力が第2のインバータ18、電動機10、固定容量式油圧ポンプ19、油圧モータ15、減速機3を介して推進軸2への加勢力として利用されると共にコントローラ21によって第2のインバータ18を制御して油圧モータ15から推進軸2に加勢される加勢力を制御することによって過給機5の回転数を制御し、主機1へ供給される空気量を主機1の状態に応じた最適な量に制御でき、主機1の運転効率を最適なものに維持できる効果がある。
【0033】
[実施形態3]
図3を参照して本発明の実施形態3について説明する。
図3において、図1と同じ構成要素のものは同じ番号を付し、重複した説明は適宜省くものとする。
【0034】
図1と異なる点は、推進軸2上の減速機3に替えて油圧駆動システムの油圧モータ15を設置し、この変更に伴って可変容量油圧ポンプ17を、減速機3を介して電動機10によって駆動するようにした点が異なっている。
【0035】
このように構成しても、インバータ20により発電機8の出力電力が定周波数に変換されて船内負荷16へ供給され、また、発電機8の出力電力が電動機10、減速機3、可変容量式油圧ポンプ17、油圧モータ15、を介して推進軸2への加勢力として利用されると共にコントローラ21によって可変容量式油圧ポンプ17を制御して油圧モータ15から推進軸2に加勢される加勢力を制御することによって過給機5の回転数を制御し、主機1へ供給される空気量を主機1の状態に応じた最適な量に制御でき、主機1の運転効率を最適なものに維持できる効果がある。
【0036】
[実施形態4]
図4を参照して本発明の実施形態4について説明する。
図4において、図2と同じ構成要素のものは同じ番号を付し、重複する説明は適宜省くものとする。
【0037】
図2と異なる点は、図2の実施形態2の場合、推進軸2上に設けていた減速機3を廃止し、油圧モータ15を直接推進軸2に設置した点が異なっている。
このように構成しても、第1のインバータ20により発電機8の出力電力が定周波数に変換されて船内負荷16へ供給され、また、発電機8の出力電力が第2のインバータ18、電動機10、固定容量式油圧ポンプ19、油圧モータ15を介して推進軸2への加勢力として利用されると共にコントローラ21によって第2のインバータ18を制御して油圧モータ15から推進軸2に加勢される加勢力を制御することによって過給機5の回転数を制御し、主機1へ供給される空気量を主機1の状態に応じた最適な量に制御でき、主機1の運転効率を最適なものに維持できる効果がある。
【0038】
尚、図2あるいは図4の構成において、固定容量式油圧ポンプ19、油圧モータ15を省略して電動機10を直接推進軸2に設け、あるいは減速機3を介して推進軸2を駆動するように構成してもよい。
【0039】
以上述べたように、本発明は主機の排気ガスに含まれる余剰エネルギーによって発電した電力を船舶内の電気設備に利用できるだけでなく推進軸の加勢にも利用でき、更に過給機の回転数を制御できるために主機1へ供給される空気量を主機の負荷状態に応じた最適な流量に制御でき、主機1の運転効率を最適なものに維持できる効果がある。
【符号の説明】
【0040】
1…主機、2…推進軸、3…減速機、4…船舶推進プロペラ、5…過給機、6…排気ダクト、7…過給機の出力軸、8…発電機、9…電気ケーブル、10…電動機、14…油圧配管、15…油圧モータ(Hydraulic Motor)、16…船舶内の電気設備、17…可変容量式油圧ポンプ(Variable Capacity Hydraulic Pump)、18…第2のインバータ、19…固定容量式油圧ポンプ(Fixed Capacity Hydraulic Pump)、20…第1のインバータ、21…コントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進軸を介して船舶推進プロペラを駆動する主機と、
前記主機の排気ガスによって駆動される排気タービンおよびこの排気タービンによって駆動され空気を圧縮して前記主機に送り込む吸気ブロアを備えた過給機と、
前記過給機によって駆動され発電する発電機と、
前記発電機で発電した電力をインバータを介して定周波数の電力が供給される船舶内の電気設備と、
前記発電機で発電した電力によって駆動される電動機と、
前記電動機によって駆動される可変容量式油圧ポンプおよび当該可変容量式油圧ポンプから供給される圧油によって駆動され前記推進軸に対して駆動力を加勢する油圧モータを有する油圧駆動システムと、
前記主機の負荷状況に応じて前記可変容量式油圧ポンプを制御して前記過給機にかかる負荷量を制御し過給機から主機へ供給される空気量を制御するコントローラと、
から構成されたことを特徴とする船舶用主機の余剰エネルギー回収システム。
【請求項2】
前記発電機および電動機間に当該電動機の回転数を制御する第2のインバータを設けると共に前記油圧駆動システムの可変容量式油圧ポンプを固定容量式油圧ポンプに代え、前記コントローラによって第2の前記インバータを制御して前記過給機にかかる負荷量を制御し過給機から主機に供給される空気量を主機の負荷状況に応じた空気量に制御することを特徴とする請求項1記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システム。
【請求項3】
前記推進軸上の減速機に代えて油圧モータを設置すると共に前記可変容量式油圧ポンプを減速器を介して前記電動機によって駆動することを特徴とする請求項1に記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システム。
【請求項4】
前記推進軸上の減速器に代えて油圧モータを設置したことを特徴とする請求項2に記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システム。
【請求項5】
前記固定容量式油圧ポンプと油圧モータを省略し、前記電動機を直接推進軸上に設置、あるいは減速機を介して推進軸を駆動することを特徴とする請求項2あるいは請求項4に記載の船舶用主機の余剰エネルギー回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245886(P2012−245886A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119235(P2011−119235)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000195959)西芝電機株式会社 (172)