説明

船舶用推進システム

【課題】転舵装置により舵部が回動される場合において、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制しながらハンドルのロックを行うことが可能な船舶用推進システムを提供する。
【解決手段】所定の角度範囲内で回動可能な船外機300と、ハンドルの回動に応じて船外機300を回動させる舵取装置200と、ハンドルの回動角に対応して目標操舵角を設定するとともに、船外機300の回動角度が目標操舵角となるように舵取装置200を駆動する船体側ECU109と、船外機300の回動角度が所定の角度範囲の限界角度以上になったことを検知する実舵角センサ203と、実舵角センサ203により船外機300の回動角度が限界角度以上になったことが検知された場合に、ハンドルの回動をロックするロック機構108とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶用推進システムに関し、特に、ハンドルの回動をロックするロック手段を備えた船舶用推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハンドルの回動をロックするロック手段を備えた船舶用推進システムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1では、ステアリングホイール(ハンドル)の回動角度がセンサにより検出されるとともに、その検出結果に基づいて転舵モータ(転舵装置)が駆動されることにより船外機(舵部)が回動される、いわゆるSBWシステム(ステアバイワイヤシステム)を備えた船舶用推進システムが開示されている。また、上記特許文献1では、ハンドルを一方向に回動させていった場合に、ステアリングホイール(ハンドル)の回動角度がストッパ角(限界角度)になった場合には、反力モータ(ロック手段)によりハンドルの回動方向に対して逆方向(舵を戻す方向)のトルクを加えることにより、ステアリングホイールの回動をロックしている。ステアリングホイールの回動をロックすることにより、船外機が限界角度まで回動したことを操船者に認識させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−203840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したようなSBWシステムでは、ハンドルの回動に対して船外機の回動に遅れが生じてしまう。すなわち、センサにより検出したハンドルの回動角度の検出結果に基づいて目標操舵角を設定し、その後船外機の実舵角が目標操舵角と一致するように転舵装置(転舵モータ)を駆動することにより船外機を回動させている。このとき、転舵装置の応答遅れに起因して、ハンドルの回動に対する船外機の回動に遅れが生じてしまう。このため、ハンドルを一方向に回動させていき、ハンドルの回動角度が限界角度に到達したとしても、船外機の回動角度は限界角度まで達していない場合がある。ハンドルの回動角度が限界角度に到達した時点でハンドルをロックすると、ハンドルがロックされた時点から遅れて船外機の回動角度が限界角度に到達することになる。ハンドルがロックされた時点で船外機の回動角度が限界角度になったと操船者は認識するので、ハンドルがロックされた時点からすぐにハンドルを戻し始めた場合には、船外機の回動角度が限界角度まで到達していないのにも拘わらず舵が戻されてしまう。この場合には、船外機の回動角度が限界角度まで達することなく船が操作されてしまうので、結果的に船の旋回性が悪化してしまうという問題点がある。また、離着岸の際などに舵角比(ハンドルの回動角度の変化量に対する船外機の回動角度の変化量の比)を大きくした場合には、転舵装置の応答遅れも大きくなるので、上記した船の旋回性が悪化してしまうという問題点がさらに顕著になってしまう。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、転舵装置により舵部が回動される場合において、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制しながらハンドルのロックを行うことが可能な船舶用推進システムを提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この発明の一の局面による船舶用推進システムは、回動可能なハンドルと、ハンドルの回動に応じて回動される舵部と、ハンドルの回動に応じて舵部を回動させる転舵装置と、ハンドルの回動角、又は回動角の変化量に対応して目標操舵角を設定するとともに、舵部の回動角度が目標操舵角となるように転舵装置を駆動する制御部と、舵部の回動角度が所定角度以上になったことを検知する第1検知手段と、制御部によって駆動制御され、第1検知手段により舵部の回動角度が所定角度以上になったことが検知された場合に、ハンドルの回動をロックするロック手段とを備えている。
【0008】
この一の局面による船舶用推進システムでは、上記のように、舵部の回動角度が所定の角度範囲の所定角度以上になったことを検知する第1検知手段と、第1検知手段により舵部の回動角度が所定角度以上になったことが検知された場合に、ハンドルの回動をロックするロック手段とを設けている。このように構成することによって、転舵装置により舵部が回動される場合において、ハンドルの回動に対して舵部の回動に遅れが生じてしまう場合にも、舵部の回動角度が所定角度以上になった時点でハンドルがロックされるので、操船者はハンドルがロックされたことによって舵部の回動角度が所定角度以上であることを正しく認識することができる。これにより、操船者は舵部を確実に所定角度まで回動させて船を操作することができるので、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制することができる。以上から、この一の局面による船舶用推進システムでは、転舵装置により舵部が回動される機構において、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制しながらハンドルのロックを行うことができる。
【0009】
上記一の局面による船舶用推進システムにおいて、好ましくは、制御部は、舵部の回動角度が所定角度以上になったことが検知されるまでは、ハンドル角又は目標操舵角の角度に関わらず(ハンドルロックは結局のところハンドル角、目標操舵角には一切関係ないため)ハンドルの回動のロックを行わないようにロック手段を制御するように構成されている。このように構成すれば、目標操舵角が所定角度に達した場合でも、舵部の回動角度が所定角度に達する前のタイミングでハンドルのロックが行われてしまうことを確実に防止することができる。
【0010】
上記舵部の回動角度が所定角度以上になったことが検知されるまではハンドルのロックを行わない構成において、好ましくは、舵部の回動角度が所定角度以上になる前に目標操舵角が所定角度以上になった場合に、制御部は、ハンドルがさらに舵を切る方向に回動された場合にも目標操舵角を所定角度に保持し、ハンドルが舵を戻す方向に回動された場合には、ハンドルの舵を戻す方向への回動に対応するように、目標操舵角を所定角度から変化させるように構成されている。このように構成すれば、所定角度に対応する角度よりも大きくハンドルを切っている状態でハンドルを戻す方向に回動させた場合であっても、ハンドルを戻し始めた時点からハンドルの操作に合わせて舵部の舵を戻すことができる。これにより、舵を戻し始める際に、ハンドルの操作に対する舵の応答遅れが生じることを抑制することができる。
【0011】
上記舵部の回動角度が所定角度以上になったことが検知されるまではハンドルのロックを行わない構成において、好ましくは、舵部の回動角度が所定角度以上になる前に目標操舵角が所定角度以上になった場合に、制御部は、ハンドルが舵を戻す方向に回動された場合には、ハンドルが舵を戻す方向に回動され始めた時点における舵部の回動角度である舵戻し開始角度に目標操舵角を置き換えるとともに、ハンドルの舵を戻す方向への回動に対応するように、目標操舵角を舵戻し開始角度から変化させるように構成されている。このように構成すれば、所定角度に対応する角度よりも大きくハンドルを切っている場合にも、そこからハンドルを戻す方向に回動させた場合には、ハンドルを戻し始めた時点からハンドルの操作に合わせて舵部の舵を戻すことができる。これにより、舵を戻し始める際に、ハンドルの操作に対する舵の応答遅れが生じることを抑制することができる。また、ハンドルを小さく切っており目標操舵角が所定角度まで達していない場合にも、そこからハンドルを戻す方向に回動させた場合には、ハンドルを戻し始めた時点からハンドルの操作に合わせて舵部の舵を戻すことができる。
【0012】
上記一の局面による船舶用推進システムにおいて、好ましくは、ロック手段は、ハンドルの左右の回動に対して抵抗を付与することにより、ハンドルの回動のロックを行うように構成されており、舵部の回動角度が所定角度以上になった場合に、舵を戻す方向にハンドルが回動している状態、または、舵を戻す方向にハンドルが回動しようとしている状態を検知する第2検知手段をさらに備える。このように構成すれば、ハンドルの舵を切る方向および舵を戻す方向の両方向の回動がロック手段によってロックされている場合に、ハンドルを舵を戻す方向に回動させようとしていることを第2検知手段により検知することができる。したがって、第2検知手段による検知情報に基づいて、たとえば、ロック手段によるハンドルのロックを解除することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、制御部は、第2検知手段の検知情報に基づいて、ロック手段によるハンドルの回動のロックを解除するように構成されている。このように構成すれば、操船者がハンドルを舵を戻す方向に回動させた場合には、第2検知手段により検知されたタイミングでロック手段によるハンドルのロックを自動的に解除することができる。これにより、ハンドルの回動方向を指定してロックを行うことができないロック手段を用いてロックを行う場合にも、ハンドルを一度ロックさせた後にハンドルを戻す(舵を戻す方向に回動させる)ことができなくなることを防止することができる。また、ハンドルのロックは実舵角に応じて制御される一方、ハンドルロックの解除はハンドル動作に応じて制御される。このため、操船者は実舵角が実際に所定角度に達する前に実舵角であると誤認識してしまうことを防止できるとともに、操船者の意図に応じてロックを解除して操舵制御することができる。
【0014】
上記ハンドルの左右の回動に対して抵抗を付与することにより、ハンドルの回動のロックを行うロック手段を備えた構成において、好ましくは、ロック手段は、磁性流体と磁場発生部とを含み、磁場発生部に電流が流されることにより磁性流体の粘性が変化されることによってハンドルの左右の回動に対して抵抗を付与するように構成されている。このように構成すれば、磁性流体を用いてハンドルのロックを行うことによって、ロック手段の構造を簡略化することができるとともに、ハンドルをロックする際の消費電力が増大することを抑制することができる。
【0015】
上記一の局面による船舶用推進システムにおいて、好ましくは、第1検知手段は、舵部の回動角度を絶対的な角度として検出するための操舵角センサを含み、ハンドルの回動角の変化量を相対的な角度として検出するためのハンドル角センサをさらに備える。このように構成すれば、相対的な角度を検出するハンドル角センサを用いていることに起因してハンドルの絶対的な回動角度を認識することが困難な場合にも、操舵角センサにより舵部の絶対的な回動角度を認識することができるので、操舵角センサの検知情報に基づいて適切なタイミングでハンドルをロックすることができる。
【0016】
上記一の局面による船舶用推進システムにおいて、好ましくは、舵部は、ハンドルの回動に応じて所定の角度範囲内で回動可能に船体に取り付けられた船外機である。このように構成することによって、転舵装置により舵部が回動される機構において、船外機の回動角度が所定角度以上になった時点でハンドルがロックされるので、操船者はハンドルがロックされたことによって船外機の回動角度が所定角度以上であることを正しく認識することができる。これにより、操船者は船外機を確実に所定角度まで回動させて船を操作することができるので、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムを示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムを示す模式的な平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムを示すブロック図である。
【図4】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムのハンドルのロック機構の構造を示す模式図である。
【図5】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵制御を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図7】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図8】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図9】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作の一例(ロックした後に舵を戻した場合)を説明するためのタイミングチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作の一例(ロックする前に舵を戻した場合)を説明するためのタイミングチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態による船舶用推進システムを示すブロック図である。
【図12】本発明の第2実施形態による船舶用推進システムの舵制御を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の第2実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作の一例(ロックする前に舵を戻した場合)を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
まず、図1〜図4を参照して、本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの構造を説明する。
【0020】
図1〜図3に示すように、第1実施形態による船舶用推進システムは、船体100の船尾101に舵取装置200を介して船外機300が取り付けられることにより構成されている。船体100には、船舶用推進システムの電源のオン、オフを切り換えるメインスイッチ102、スロットル開度およびシフトの切換を指示するためのリモコンレバー103、および、船体100の進行方向を変更するためのハンドル104などが設置されている。リモコンレバー103は、レバー103a(図1参照)を回動させることにより、ニュートラル、前進および後進の切換と、アクセル操作とを行うことが可能である。
【0021】
また、ハンドル104は、操舵するために設けられており、何回でも回転することが可能に構成されている。図4に示すように、ハンドル104には、ハンドル104に連結されてハンドル104と一体的に回転するハンドル軸105が設けられている。ハンドル軸105には、ハンドル104の回動角度(ハンドル軸105の回動角度)を検出するためのハンドル角センサ106と、ハンドル軸105を回転させようとするトルクを検出するためのトルクセンサ107とが設けられている。ハンドル角センサ106は、ハンドル104の回動角度(ハンドル軸105の回動角度)を基準位置に対する相対角で検出することが可能に構成されている。すなわち、ハンドル角センサ106は、基準点(0度位置)が固定されておらず、毎回異なる基準点に対する相対的な角度を検出するように構成されている。トルクセンサ107は、ハンドル軸105を回動させようとするトルクを検知することにより、ハンドル104が舵を切る方向に回動されている(回動されようとしている)か、または、ハンドル104が舵を戻す方向に回動されている(回動されようとしている)かを判定することが可能である。なお、トルクセンサ107は、本発明の「第2検知手段」の一例である。
【0022】
また、第1実施形態では、ハンドル104には、ハンドル104の回動をロックするロック機構108が設けられている。図4に示すように、ロック機構108は、固定的に設置され、ハンドル軸105の下端部が挿入される磁性流体保持部108aと、磁性流体保持部108aに充填された磁性流体108bと、磁性流体108bの外側に巻き回されたコイル108cとを含んでいる。磁性流体108bは、磁場の大きさに応じて粘性が変化する性質を有しており、ロック機構108は、コイル108cに通電することにより磁性流体108bの粘性を変化させてハンドル軸105の動きに抵抗を付加するように構成されている。また、磁性流体保持部108aおよびハンドル軸105には、それぞれ、プレート108dおよび105aが固定されている。このプレート108dおよび105aにより磁性流体108bによる抵抗を効果的に付与することが可能である。なお、ロック機構108は、本発明の「ロック手段」の一例であり、コイル108cは、本発明の「磁場発生部」の一例である。
【0023】
舵取装置200は、ブラケット201を介して船体100の船尾101に取り付けられている。舵取装置200は、操舵時に船外機300を回動させるためのモータ202と、船外機300の回動角度(実舵角)を検出するための実舵角センサ203(図3参照)とを含んでいる。なお、船外機300は、舵を有しておらず、船外機300自体で舵を切る構造になっている。すなわち、船外機300の本体を左右に振る(回動させる)ことによりプロペラ303の向きを変えることによって、そのプロペラ303の推力で船体100が方向を変えるように構成されている。実舵角センサ203は、船外機300の回動角度を絶対角で検出することが可能に構成されている。すなわち、実舵角センサ203は、基準点(0度位置)が固定されており、その基準点に対する角度を検出するように構成されている。なお、舵取装置200は、本発明の「転舵装置」の一例であり、実舵角センサ203は、本発明の「第1検知手段」および「操舵角センサ」の一例である。
【0024】
また、船体100には船体側ECU109が搭載されている。なお、船体側ECU109は、本発明の「制御部」の一例である。マイクロコンピュータを含む船体側ECU109は、ハンドル角センサ106および実舵角センサ203からの信号に基づいて、舵取装置200のモータ202およびロック機構108の駆動を制御するように構成されている。船外機300は、舵取装置200により直進位置(0度)から所定の角度範囲(第1実施形態では、左右にθ(θ=30度)の角度範囲)で回動するように構成されている。ハンドル104が何度回動された場合に、船外機300が何度回動されるかの対応値(舵角比)は予め設定されている。たとえば、船体側ECU109は、ハンドル104が2回転半(900度)回動された場合に、船外機300を30度回動するように舵取装置200を駆動するように構成されている。より詳細には、船体側ECU109は、ハンドル104の回動角度に一定の比率(舵角比)を乗じた値を目標操舵角とし、その目標操舵角となるように、舵取装置200のモータ202を駆動制御している。また、リモコンレバー103による、ニュートラル、前進および後進の切換と、アクセル操作とを指示する信号は、船体側ECU109を介して船外機300の船外機側ECU301に送信されるように構成されている。
【0025】
また、船体側ECU109は、実舵角センサ203により検出された船外機300の回動角度に基づいて、ロック機構108を制御するように構成されている。すなわち、船体側ECU109は、船外機300の回動角度が限界角度θ(θ=30度)よりも小さい場合には、小さい抵抗をハンドル軸105に付与するようにロック機構108を制御するように構成されている。これにより、ハンドル104が適度な重さになるので、操船者はハンドル104を容易に操作することが可能になる。また、船体側ECU109は、船外機300の回動角度が限界角度θになった場合には、大きい抵抗をハンドル軸105に付与してハンドル104をロックするようにロック機構108を制御するように構成されている。これにより、ハンドル104を回動させることが困難となるので、船外機300が限界角度θであることを操船者に知らせることが可能である。なお、限界角度θは、本発明の「所定角度」の一例である。
【0026】
第1実施形態では、ハンドル104を舵を切る方向に回動していった場合に、舵取装置200のモータ202の応答遅れに起因して、目標操舵角が実舵角(船外機300の回動角度)よりも先に限界角度θまで達した場合に、船体側ECU109は、ハンドル104をロックしないようにロック機構108を制御するように構成されている。したがって、目標操舵角が限界角度θに達した後にも、実舵角が限界角度θになるまでは、操船者はハンドル104を舵を切る方向に回動させることが可能である。また、目標操舵角が限界角度θに達した後に操船者がハンドル104を舵を切る方向に回動させた場合、船体側ECU109は、目標操舵角を限界角度θよりも大きい値にはせずに、目標操舵角を限界角度θに保持するように構成されている。また、目標操舵角が限界角度θに保持された状態において、ハンドル104を舵を戻す方向に回動させた場合には、船体側ECU109は、ハンドル104の舵を戻す方向への回動に対応するように、一定の舵角比で目標操舵角を限界角度θから変化させるように構成されている。
【0027】
また、第1実施形態では、船体側ECU109は、船外機300が限界角度θになってハンドル104がロックされた場合に、船外機300の回動角度が小さくなる方向(舵を戻す方向)にハンドル104が回動している場合、または、回動しようとしている場合に、ハンドル104のロックを解除するようにロック機構108を制御するように構成されている。ハンドル104が舵戻し方向に回動している状態(回動しようとしている状態)は、トルクセンサ107からの信号により判断される。
【0028】
また、船外機300は、船体100の船尾101にクランプブラケット201(図2参照)に固定された舵取装置200を介して左右方向に回動可能に取り付けられている。船外機300は、エンジン302と、エンジン302の駆動力により回転するプロペラ303と、前後進切替機構部304とを備えている。前後進切替機構部304は、エンジン302の駆動力をプロペラ303に伝達する伝達状態(前進および後進)と、エンジン302の駆動力をプロペラ303から遮断する遮断状態(ニュートラル)とを切り替えることが可能である。エンジン302の回転および前後進切換機構部4は、船外機側ECU301により制御される。
【0029】
次に、図5〜図8を参照して、本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作時の制御を説明する。なお、図5の制御フローは、船体側ECU109により約5msec以上約10msec以下の時間毎に繰り返されている。
【0030】
まず、図5のステップS1において、相対的な角度を検出するハンドル角センサ106からの信号に基づいて、ハンドル104の回動角の変化量が船体側ECU109により認識される。すなわち、前回のフロー(約5msec以上約10msec以下の時間だけ前の時点)におけるハンドル104の回動角と今回のフローにおけるハンドル104の回動角との差が検出される。そして、ステップS2において、船体側ECU109は、今回の目標操舵角を、「目標操舵角=前回の目標操舵角+ハンドル角変化量×舵角比」として取得する。
【0031】
次に、ステップS3において、船体側ECU109は、取得した目標操舵角が限界角度θよりも大きいか否かを判断する。目標操舵角が限界角度θよりも大きい場合には、ステップS4において、船体側ECU109は、目標操舵角を限界角度θとする。すなわち、目標操舵角を限界角度θに保持する。また、目標操舵角が限界角度θ以下である場合には、ステップS2において取得した目標操舵角のままステップS5に進む。
【0032】
次に、ステップS5において、船体側ECU109は、船外機300の実舵角が目標操舵角になるように舵取装置200のモータ202を駆動制御する。
【0033】
そして、ステップS6において、船体側ECU109は、船外機300の回動角度を絶対角で検出する実舵角センサ203からの信号に基づいて、船外機300の回動角(実舵角)を認識する。
【0034】
そして、ステップS7において、船体側ECU109は、認識した実舵角が所定の角度範囲(0度から左右に30度)の限界角度θ(右または左に30度)であるか否かを判断する。船外機300の回動角度(実舵角)が所定の角度範囲内である場合には、ステップS8において、図6に示すように、ロック機構108により小さい抵抗がハンドル軸105に付与される。すなわち、船体側ECU109は、ロック機構108のコイル108cに小さい電流を流すことにより磁性流体108bの粘性を少し上げるようにロック機構108を制御する。この状態では、操船者はハンドル104を容易に回動させることが可能である。
【0035】
船外機300の回動角度(実舵角)が所定の角度範囲の限界角度θである場合には、ステップS9において、船体側ECU109は、トルクセンサ107からの信号に基づいて、舵戻し方向のトルクが負(0より小さい値)であるか否かを判断する。舵戻し方向のトルクが負である場合には、ハンドル104がさらに舵を切る方向に回動されている状態(されようとしている状態)である。この場合には、ステップS10において、図7に示すように、ロック機構108により大きい抵抗(ロック抵抗)がハンドル軸105に付与されてハンドル104がロックされる。すなわち、船体側ECU109は、ロック機構108のコイル108cに大きい電流を流すことにより磁性流体108bの粘性を大きく上げるようにロック機構108を制御する。ハンドル104がロックされた場合には、操船者はハンドル104を回動させることが困難となる。
【0036】
また、舵を戻す方向のトルクが0または正(0より大きい値)である場合には、ハンドル104が舵を戻す方向に回動されている状態(されようとしている状態)、又はハンドル操作を止めた状態である。この場合には、ステップS11において、図8に示すように、船体側ECU109は、ハンドル104がロックされている場合にそのロックを解除するとともに、ステップS12において、小さい抵抗をハンドル軸105に付与するようにロック機構108を制御する。ハンドル104がロックされていない場合には、船体側ECU109は、そのまま小さい抵抗をハンドル軸105に付与するようにロック機構108を制御する。
【0037】
次に、図9および図10を参照して、本発明の第1実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作の一例について説明する。なお、図9では、実舵角が限界角度θに達した後にハンドル104を戻し始めた例を示しており、図10では、実舵角が限界角度θに達する前にハンドル104を戻し始めた例を示している。
【0038】
実舵角が限界角度θに達した後にハンドル104を戻し始める例については、図9に示すように、操船者がハンドル104を一方向に回動させていった場合に、ハンドル角に比例して目標操舵角が上昇していく。また、目標操舵角に遅れて実舵角が上昇していく。そして、時間T1において、目標操舵角が実舵角よりも先に限界角度θに到達する。この時、実舵角は限界角度θまで到達していないので、ハンドル104のロックは行われない。したがって、さらにハンドル104を舵を切る方向に回動させることが可能である。
【0039】
そして、時間T1以降では、ハンドル104の回動角度は上昇しているが、目標操舵角は限界角度θで保持される。実舵角は、限界角度θに保持された目標操舵角となるように上昇し、時間T2において、実舵角が限界角度θに達する。実舵角が限界角度θに達した場合には、ハンドル104の回動のロックが行われる。これにより、操船者は船外機300の回動角度(実舵角)が限界角度θに達したことを認識する。
【0040】
また、時間T3において、操船者がハンドル104を戻す方向に回動させようとした場合には、ハンドル104のロックが解除されることにより、操船者は容易に舵を戻すことが可能である。時間T3においてハンドル104が舵を戻す方向に回動され始めると、ハンドル104の回動に伴って時間T3から目標操舵角も限界角度θから減少していく。
【0041】
また、実舵角が限界角度θに達した後にハンドルを戻し始める例については、図10に示すように、時間T1までは図9に示した例と同様である。そして、時間T1以降では、ハンドル104の回動角度は上昇しているが、目標操舵角は限界角度θで保持される。実舵角は、限界角度θに保持された目標操舵角となるように上昇する。ここで、図10では、時間T4においてハンドル104を戻し始めている。この場合、時間T4においてハンドル104が舵を戻す方向に回動され始めると、ハンドル104の回動に伴って時間T4から目標操舵角も限界角度θから減少していく。
【0042】
時間T4以降では、ハンドル104が舵を戻す方向に回動されているが、目標操舵角は実舵角よりも大きいので、実舵角はその目標操舵角に向かって上昇している。そして、時間T5において、目標操舵角と実舵角とが等しくなり、時間T5以降は実舵角が目標操舵角となるように減少していく。なお、時間T5の直後では実舵角が角度θまで上昇しているが、これは船外機300の慣性力によるものである。
【0043】
第1実施形態では、上記のように、船外機300の回動角度が所定の角度範囲の限界角度θになったことを検知する実舵角センサ203と、実舵角センサ203により船外機300の回動角度が限界角度θになったことが検知された場合に、ハンドル104の舵を切る方向への回動をロックするロック機構108とを設けている。このように構成することによって、モータ202により船外機300が回動される機構において、ハンドル104の回動に対して船外機300の回動に遅れが生じてしまう場合にも、船外機300の回動角度が限界角度θになった時点でハンドル104がロックされるので、操船者はハンドル104がロックされたことによって船外機300の回動角度が限界角度θであることを正しく認識することができる。これにより、操船者は船外機300を確実に限界角度θまで回動させて船を操作することができるので、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制することができる。以上から、第1実施形態による船舶用推進システムでは、モータ202により船外機300が回動される機構において、船の旋回性が悪化してしまうことを抑制しながらハンドル104のロックを行うことができる。
【0044】
また、第1実施形態では、上記のように、船外機300の回動角度が限界角度θになる前に目標操舵角が限界角度θになった場合にも、船外機300の回動角度が限界角度θになったことが検知されるまでは、ロック機構108によるハンドル104の回動のロックを行わないように構成されている。このように構成することによって、船外機300の回動角度が限界角度θまで達する前のタイミングでハンドル104のロックが行われてしまうことを確実に防止することができる。
【0045】
また、第1実施形態では、上記のように、船外機300の回動角度が限界角度θになる前に目標操舵角が限界角度θになった場合に、ハンドル104がさらに舵を切る方向に回動された場合にも目標操舵角を限界角度θに保持し、ハンドル104が舵を戻す方向に回動された場合には、ハンドル104の舵を戻す方向への回動に対応するように、目標操舵角を限界角度θから変化させるように構成されている。このように構成することによって、限界角度θに対応する角度よりも大きくハンドル104を切っている場合にも、ハンドル104を戻す方向に回動させた場合には、ハンドル104を戻し始めた時点からハンドル104の操作に合わせて船外機300の舵を戻すことができる。これにより、舵を戻し始める際に、ハンドル104の操作に対する舵の応答遅れが生じることを抑制することができる。
【0046】
また、第1実施形態では、上記のように、コイル108cに電流が流されることにより磁性流体108bの粘性が変化されることによってハンドル104の舵を切る方向および舵を戻す方向の両方の回動に抵抗を付与してハンドル104の回動をロックしている。このように構成することによって、磁性流体108bを用いてハンドル104のロックを行うことによって、ロック機構108の構造を簡略化することができるとともに、ハンドル104をロックする際の消費電力が増大することを抑制することができる。
【0047】
また、第1実施形態では、上記のように、船外機300の回動角度が限界角度θになった場合に、舵を戻す方向にハンドル104が回動している状態、または、舵を戻す方向にハンドル104が回動しようとしている状態を検知するトルクセンサ107を設けるとともに、トルクセンサ107の検知情報に基づいて、ロック機構108によるハンドル104の回動のロックを解除している。このように構成することによって、操船者がハンドル104を舵を戻す方向に回動させた場合には、ロック機構108によるハンドル104のロックを解除することができる。これにより、ハンドル104の回動方向を指定してロックを行うことができないロック機構108を用いてロックを行う場合にも、ハンドル104を一度ロックさせた後にハンドル104を戻す(舵を戻す方向に回動させる)ことができなくなることを防止することができる。
【0048】
また、第1実施形態では、上記のように、実舵角センサ203により船外機300の回動角度を絶対的な角度として検出するとともに、ハンドル角センサ106によりハンドル104の回動角の変化量を相対的な角度として検出することによって、相対的な角度を検出するハンドル角センサ106を用いていることに起因してハンドル104の絶対的な回動角度を認識することが困難な場合にも、実舵角センサ203により船外機300の絶対的な回動角度を認識することができるので、実舵角センサ203の検知情報に基づいて適切なタイミングでハンドル104をロックすることができる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による船舶用推進システムについて説明する。この第2実施形態では、ハンドル104を舵を戻す方向に回動させた場合に目標操舵角を限界角度θから戻した上記第1実施形態と異なり、ハンドル104を舵を戻す方向に回動させた場合に目標操舵角をハンドル104を戻し始めた時の実舵角から戻す例について説明する。まず、図3および図11を参照して、本発明の第2実施形態による船舶用推進システムの構造を説明する。
【0050】
図11に示すように、第2実施形態による船舶用推進システムは、図3に示した上記第1実施形態の構成の船体側ECU109を船体側ECU109aに替えた構造を有している。なお、船体側ECU109aは、本発明の「制御部」の一例である。第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、目標操舵角が実舵角(船外機300の回動角度)よりも先に限界角度θまで達した場合に、船体側ECU109aは、ハンドル104をロックしないようにロック機構108を制御するように構成されている。また、目標操舵角が限界角度θに達した後に操船者がハンドル104を舵を切る方向に回動させた場合、船体側ECU109aは、目標操舵角を限界角度θよりも大きい値にはせずに、目標操舵角を限界角度θに保持するように構成されている。
【0051】
また、第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、ハンドル104を舵を戻す方向に回動させた場合には、船体側ECU109aは、ハンドル104を舵を戻す方向に回動させ始めた時点における実舵角(舵戻し開始角度)を検出し、目標操舵角を舵戻し開始角度に変更するとともに、ハンドル104の舵を戻す方向への回動に対応するように、一定の舵角比で目標操舵角を舵戻し開始角度から変化させるように構成されている。
【0052】
なお、上記した船体側ECU109aの構成以外の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0053】
次に、図12を参照して、本発明の第2実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作時の制御を説明する。
【0054】
まず、図12のステップS20において、相対的な角度を検出するハンドル角センサ106からの信号に基づいて、ハンドル104の回動角の変化量が船体側ECU109aにより認識される。
【0055】
次に、第2実施形態では、ステップS21において、船体側ECU109aは、所定の条件を満たすか否かを判断する。この条件は、「目標操舵角=限界角度θ」であり、かつ、「舵を切る方向を正とした場合にハンドル角変化量が<0」であることである。すなわち、目標操舵角が限界角度θになる回動角度以上にハンドル104が回動された状態で、ハンドル104が舵を戻す方向に回動され始めたか否かを判断している。
【0056】
条件が成立した場合には、ステップS22において、船体側ECU109aは実舵角を検出するとともに、ステップS23において、目標操舵角を「目標操舵角=実舵角+ハンドル角変化量×舵角比」とする。すなわち、船体側ECU109aは、モータ202の応答遅れなどによって目標操舵角と実舵角とが異なる場合に、目標操舵角を、ハンドル104が戻され始めた時点における実舵角に置き換える。
【0057】
また、条件が成立しなかった場合には、ステップS24において、船体側ECU109aは、目標操舵角を、「目標操舵角=前回目標操舵角+ハンドル角変化量×舵角比」とする。すなわち、目標操舵角が限界角度θよりも小さい場合(目標操舵角<限界角度θの場合)、ハンドル104が回動されていない場合(ハンドル角変化量=0)、および、ハンドル104が舵を切る方向に回動されている場合(ハンドル角変化量>0)には、前回の目標操舵角に基づいて今回の目標操舵角が決定される。
【0058】
この後、ステップS25〜ステップS34において、上記第1実施形態のステップS3〜ステップS12と同様の処理が行われる。
【0059】
次に、図5、図9、図10、図12および図13を参照して、本発明の第2実施形態による船舶用推進システムの舵切り動作の一例について説明する。なお、図13では、実舵角が限界角度θに達する前にハンドル104を戻し始めた例を示している。また、図13の時間T1、T4およびT5は、それぞれ、図10の時間T1、T4およびT5と同一のタイミングを示している。
【0060】
第2実施形態では、実舵角が限界角度θに達した後にハンドル104を戻し始める例については、図9に示すように、上記第1実施形態と同様に舵切り動作が行われる。すなわち、ハンドル104を戻し始めた時点(時間T3)で、実舵角が限界角度θに達しているので、ハンドル104を戻し始めた時点(時間T3)で、実舵角=目標操舵角=限界角度θとなっている。したがって、図12のステップS23において取得される目標操舵角とステップS24において取得される目標操舵角(図5のステップS2において取得される目標操舵角)とが同じ値となる。このため、ハンドル104を同じように回動させた場合には、第2実施形態の実舵角の変化軌跡は上記第1実施形態と同じになる。
【0061】
また、実舵角が限界角度θに達する前にハンドル104を戻し始める例については、たとえば、図13に示すように舵切り動作が行われる。時間T1までは図9に示した例と同様である。そして、時間T1以降では、ハンドル104の回動角度は上昇しているが、目標操舵角は限界角度θで保持される。実舵角は、限界角度θに保持された目標操舵角となるように上昇する。ここで、図13では、時間T4においてハンドル104を戻し始めている。この場合、時間T4においてハンドル104が舵を戻す方向に回動され始めると、図12のステップS21の条件が成立するので、ステップS23において目標操舵角が実舵角に置き換えられる。これにより、時間T4の時点において、限界角度θまで到達していない時間T4時点の実舵角(舵戻し開始角度θ)の値となるように目標操舵角が変更される。そして、ハンドル104の舵を戻す方向への回動に伴って時間T4から目標操舵角も舵戻し開始角度θから減少していく。目標操舵角が減少することに伴って、実舵角も目標操舵角に追従するように減少していく。なお、時間T4の直後では実舵角が上昇しているが、これは船外機300の慣性力によるものである。第1実施形態では、第2実施形態と同じタイミングである時間T4においてハンドル104を戻し始めた場合に、実舵角がθ(図10参照)まで上昇してから減少している。一方、第2実施形態では、時間T4においてハンドル104を戻し始めた場合に、θよりも小さい角度θ(図13参照)まで上昇してから減少している。すなわち、第2実施形態では、ハンドル104の操作に対する実舵角の変化の応答速度が上記第1実施形態よりも速くなっている。
【0062】
第2実施形態では、上記のように、船外機300の回動角度が限界角度θになる前に目標操舵角が限界角度θになった場合に、ハンドル104が舵を戻す方向に回動された場合には、ハンドル104が舵を戻す方向に回動され始めた時点における船外機300の回動角度である舵戻し開始角度θに目標操舵角を置き換えるとともに、ハンドル104の舵を戻す方向への回動に対応するように、目標操舵角を舵戻し開始角度θから変化させている。このように構成することによって、限界角度θに対応する角度よりも大きくハンドル104を切っている場合にも、そこからハンドル104を戻す方向に回動させた場合には、ハンドル104を戻し始めた時点からハンドル104の操作に合わせて船外機300の舵を戻すことができる。これにより、舵を戻し始める際に、ハンドル104の操作に対する舵の応答遅れが生じることを抑制することができる。また、ハンドル104を小さく切っており目標操舵角が限界角度θまで達していない場合にも、そこからハンドル104を戻す方向に回動させた場合には、ハンドル104を戻し始めた時点からハンドル104の操作に合わせて船外機300の舵を戻すことができる。
【0063】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0064】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、船外機300を回動させて舵を切る構成に本発明の適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、船内外機のようにドライブユニットを回動させて舵を切る構成に適用してもよいし、船内機のように舵を回動させる構成に適用してもよい。
【0065】
また、上記第1および第2実施形態では、ハンドル軸105の相対的な回動量を検知するハンドル角センサ106を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、ハンドル軸105の絶対的な回動量を検知するハンドル角センサを用いてもよい。
【0066】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性流体108bを用いてハンドル軸105の回動に抵抗を付与するロック機構108によってハンドル104の回動をロックした例を示したが、本発明はこれに限らず、ハンドル104に対する抵抗の大きさを切り替えることが可能またはハンドル104に対する抵抗の大きさを調節することが可能な機構であればよい。また、ハンドル104の回動方向を指定してロックすることが可能なロック機構(たとえば、反力モータ)を用いてもよい。
【0067】
なお、上記したハンドル104に対する抵抗の大きさを切り替え、または調節することが可能な機構の一例としては、たとえば、ハンドル側のクラッチ板と、ハウジングなどに固定されたクラッチ板との噛み合いをアクチュエータによって切り替え、または調節することにより、クラッチ板同士の摩擦を利用してハンドルのロックを行うロック機構でもよい。また、ハンドルの回転によりポンプが駆動され、かつ、ポンプの吸込側と吐出側とがオイル通路によって接続されることにより、ハンドルの回動に伴ってオイルがポンプおよびオイル通路を循環する構造において、オイル通路の遮断および開通をアクチュエータによって切り替え可能に構成してもよい。オイル通路を遮断した場合には、ハンドルを回動してもオイルが循環せずポンプの駆動に抵抗が発生するので、ハンドルの回動に抵抗を付与してロックすることが可能である。
【0068】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の「転舵装置」の一例として、モータ203の駆動力により船外機300を回動させる舵取装置200を設けた例を示したが、本発明はこれに限らず、電気的な駆動制御により船外機300(舵部)を回動させる機構であればよい。たとえば、油圧を利用して船外機300を回動させる機構であってもよい。
【0069】
また、上記第1および第2実施形態では、船外機300の回動角度が限界角度θ以上になった場合にハンドル104のロックを行う例を示したが、本発明はこれに限らず、限界角度よりも小さい角度を所定角度として設定しておき、船外機の回動角度が所定角度以上になった場合にハンドルのロックを行ってもよい。たとえば、船外機の回動角度範囲を通常設計される角度範囲(たとえば、第1および第2実施形態では、0≦θ≦30度)よりも広く(たとえば、0≦θ≦45度(限界角度))設計しておき、通常の操船時には、船外機の回動角度が30度(所定角度)以上になった場合にハンドルをロックし、船の旋回性を高めたい状況では、船外機の回動角度が30度以上になってもロックさせずに船外機の回動角度が45度(限界角度)になった場合にハンドルをロックしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
100 船体
104 ハンドル
105 ハンドル軸
106 ハンドル角センサ
107 トルクセンサ(第2検知手段)
108 ロック機構(ロック手段)
108b 磁性流体
108c コイル(磁場発生部)
109 船体側ECU(制御部)
109a 船体側ECU(制御部)
200 舵取装置(転舵装置)
203 実舵角センサ(第1検知手段、操舵角センサ)
300 船外機(舵部)
θ 限界角度
θ 舵戻し開始角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動可能なハンドルと、
前記ハンドルの回動に応じて回動される舵部と、
前記ハンドルの回動に応じて前記舵部を回動させる転舵装置と、
前記ハンドルの回動角、又は回動角の変化量に対応して目標操舵角を設定するとともに、前記舵部の回動角度が前記目標操舵角となるように前記転舵装置を駆動する制御部と、
前記舵部の回動角度が所定角度以上になったことを検知する第1検知手段と、
前記制御部によって駆動制御され、前記第1検知手段により前記舵部の回動角度が前記所定角度以上になったことが検知された場合に、前記ハンドルの回動をロックするロック手段とを備えた、船舶用推進システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記舵部の回動角度が前記所定角度以上になったことが検知されるまでは、前記ハンドルの回動角又は前記目標操舵角の角度に関わらず前記ハンドルの回動のロックを行わないように前記ロック手段を制御するように構成されている、請求項1に記載の船舶用推進システム。
【請求項3】
前記舵部の回動角度が前記所定角度以上になる前に前記目標操舵角が前記所定角度以上になった場合に、前記制御部は、前記ハンドルがさらに舵を切る方向に回動された場合にも前記目標操舵角を前記所定角度に保持し、前記ハンドルが舵を戻す方向に回動された場合には、前記ハンドルの前記舵を戻す方向への回動に対応するように、前記目標操舵角を前記所定角度から変化させるように構成されている、請求項2に記載の船舶用推進システム。
【請求項4】
前記舵部の回動角度が前記所定角度以上になる前に前記目標操舵角が前記所定角度以上になった場合に、前記制御部は、前記ハンドルが舵を戻す方向に回動された場合には、前記ハンドルが前記舵を戻す方向に回動され始めた時点における前記舵部の回動角度である舵戻し開始角度に前記目標操舵角を置き換えるとともに、前記ハンドルの前記舵を戻す方向への回動に対応するように、前記目標操舵角を前記舵戻し開始角度から変化させるように構成されている、請求項2に記載の船舶用推進システム。
【請求項5】
前記ロック手段は、前記ハンドルの左右の回動に対して抵抗を付与することにより、前記ハンドルの回動のロックを行うように構成されており、
前記舵部の回動角度が前記所定角度以上になった場合に、舵を戻す方向に前記ハンドルが回動している状態、または、舵を戻す方向に前記ハンドルが回動しようとしている状態を検知する第2検知手段をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の船舶用推進システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2検知手段の検知情報に基づいて、前記ロック手段による前記ハンドルの回動のロックを解除するように構成されている、請求項5に記載の船舶用推進システム。
【請求項7】
前記ロック手段は、磁性流体と磁場発生部とを含み、前記磁場発生部に電流が流されることにより前記磁性流体の粘性が変化されることによって前記ハンドルの左右の回動に対して抵抗を付与するように構成されている、請求項5または6に記載の船舶用推進システム。
【請求項8】
前記第1検知手段は、前記舵部の回動角度を絶対的な角度として検出するための操舵角センサを含み、
前記ハンドルの回動角の変化量を相対的な角度として検出するためのハンドル角センサをさらに備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の船舶用推進システム。
【請求項9】
前記舵部は、前記ハンドルの回動に応じて所定の角度範囲内で回動可能に船体に取り付けられた船外機である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の船舶用推進システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−235004(P2010−235004A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86404(P2009−86404)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)