説明

船舶用電動ステアリング装置およびその制御方法

【課題】船舶用電動ステアリング装置において、当て舵を保持するための保舵力を発揮する際に電力を不要とする。
【解決手段】船外機本体7に外部から作用する転舵力に抗して舵角を保持する保舵手段を備えた。保舵手段としては、例えば逆入力遮断クラッチ20を用いた。また、船外機本体7の操舵条件から、船外機本体7の舵角が保持された保舵状態であることを検知し、船外機本体7を操舵する電動モータ12への電力供給を停止するよう制御する。これにより、保舵時には保舵手段により舵角が保持されるため、電動モータ12への電力供給を停止でき、省電力化を測ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駆動手段の動力により操舵を行うようにした船舶用電動ステアリング装置に係り、詳しくは舵角を保持する際における電動駆動手段の電力消費をなくした船舶用電動ステアリング装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボートや船外機付きの舟艇等において、直進時であっても風向きや潮流の影響により浅く舵を切った状態でその舵角を保持しながら航行する場合があり、このような操舵状態が「当て舵」と呼ばれる。この当て舵をする際には、プロペラ反力や水流により舵を直進状態に戻そうとする転舵力が作用するため、この転舵力に抗して所定の舵角を保つために適当な保舵力を加え続ける必要がある。これは旋回航行を続ける場合や舟艇を接岸させる場合等も同様である。
【0003】
電動モータ等の電動駆動手段により操舵を行う電動ステアリング装置においては、上述の保舵力を発生させるために電動駆動手段の駆動力を舵に加えたままの状態にしておく必要があるが、これでは常に電動駆動手段に電力を供給する必要があって電力消費量が大きくなるだけでなく、停電時などの電力不足時にプロペラ反力や水流により舵角がずれる可能性がある。
【0004】
この問題を解決するため、目標転舵角と実転舵角との差に応じた駆動電流を複数の電動モータにそれぞれ流して転舵輪を目標転舵角に転舵制御する複数の転舵制御手段と、転舵輪の転舵が停止したことを検出する停止検出手段と、前記停止検出手段によって転舵輪の転舵が停止したことが検出されたとき、前記複数の転舵制御手段のうちの一部の転舵制御手段による転舵制御を中断して、同転舵輪の転舵が停止したときに一部の転舵制御手段によって電動モータに流されていた駆動電流を減少制御する電流低減手段とを設けたことを特徴とする操舵装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−076413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これでは、複数の電動モータや検出手段が必要となるため、構造が複雑であり、しかも製造コストが嵩むという難点があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、当て舵を保持するための保舵力を発揮する際に電力が不要であり、簡素でコンパクト、かつ安価で信頼性が高く、しかも電力不足時にも保舵力を維持可能な船舶用電動ステアリング装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電動駆動手段の動力により操舵を行う船舶用電動ステアリング装置であって、舵体に外部から作用する転舵力に抗して舵角を保持する保舵手段を備えた船舶用電動ステアリング装置としたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記保舵手段は逆入力遮断クラッチであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記電動駆動手段を電動モータとし、この電動モータの出力を減速手段により減速してから前記舵体に伝達する構成とし、前記保舵手段を前記電動モータと前記減速手段との回転伝達経路における中間に設けたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記保舵手段を前記電動モータのモータ軸に対して同軸的に設けたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の構成に加え、前記減速手段を減速ギヤ列とボールスクリュー装置とを備えて構成し、前記電動モータの回転を前記減速ギヤ列により減速した後に前記ボールスクリュー装置のボールねじ軸に伝達する構造とした上で、電動モータのモータ軸と前記ボールねじ軸の各々の軸方向を船幅方向に沿わせ、かつ船体前後方向に並べて配置したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の構成に加え、前記保舵手段は制御手段の制御により保舵状態とフリー状態との切り替え制御が可能であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に記載の発明は、舵体の操舵条件から、舵体の舵角が保持された保舵状態であることを検知し、舵体を操舵する電動駆動手段への電力供給を停止するよう制御する船舶用電動ステアリング装置の制御方法としたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に記載の発明は、舵体を操作する電動駆動手段への電力供給が停止されると、保舵手段が前記舵体の舵角を保持して保舵状態となるよう制御する船舶用電動ステアリング装置の制御方法としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、当て舵を行う際に外部から作用する転舵力に抗して保舵手段が舵角を保持するため、これまでのように電動駆動手段の動力によって舵角を保持する必要がなくなり、電動駆動手段に供給する電力を省くことができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、保舵手段を機械的に簡素な逆入力遮断クラッチとしたことから、保舵手段の構造を簡素にするともに、電力不足時にも保舵力を維持可能にして信頼性を高めることができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明によれば、保舵手段を電動駆動手段(電動モータ)と減速手段との回転伝達経路における中間に設けたことから、舵体から保舵手段に加わる転舵力、すなわち逆駆動トルクを減速手段により減衰させることができ、これにより保舵手段のトルク容量を小さくできるため、保舵手段を小型化して船舶用電動ステアリング装置をコンパクト化することができる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明によれば、舵体から保舵手段に加わる逆駆動トルクを最小限にして保舵手段を一層小型化し、船舶用電動ステアリング装置を最大限にコンパクト化することができる。
【0019】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、船舶用電動ステアリング装置全体をコンパクトにまとめることができる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明によれば、制御手段により保舵手段を保舵状態とフリー状態とに切り替え制御できるため、保舵手段による舵角保持あるいは解除をより緻密かつ実効的にコントロールすることができる。
【0021】
また、請求項7に記載の発明によれば、当て舵を保持するための保舵力を発揮する際に電力が不要になり、省電力化を達成することができる。
【0022】
また、請求項8に記載の発明によれば、電力不足時にも保舵力を維持することができ、しかも舟艇を使用しない時に舵体を固定させておくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0024】
図1は、本発明の実施の形態1に係る船舶用電動ステアリング装置(請求項1〜5の構成例を開示)の船外機の操舵部付近を示す左側面図であり、図2は同じく平面図である。図1および図2では、向かって左側が舟艇の進行方向となる。
【0025】
図1に示す舟艇の船尾板(トランサム)1には、図2に示すように、ブラケットクランプ2が固定され、このブラケットクランプ2にスイベルブラケット3が水平支軸4(図2参照)回りに回動自在に連結されている。スイベルブラケット3にはピボットシャフト5が回転自在に軸支され、このピボットシャフト5の上下両端に連結アーム6を介して船外機本体7が連結されている。
【0026】
船外機本体7は、ピボットシャフト5を軸にスイベルブラケット3および船尾板1に対して左右に回動することができ、またスイベルブラケット3とともに水平支軸4を軸に上方にチルトアップすることができる。船外機本体7およびスイベルブラケット3をチルトアップさせるのはチルト油圧シリンダ8である。船外機本体7は請求項1に記載した舵体に該当し、船外機本体7がピボットシャフト5を軸に左右に回動することにより舟艇の操舵がなされる。
【0027】
船外機本体7を左右に回動させるのは電動ステアリング装置10である。この電動ステアリング装置10はスイベルブラケット3の上部に内設されたステアリング室11に設置され、電動モータ12の出力を減速ギヤ列13とボールスクリュー装置14とにより減速してからピボットシャフト5と船外機本体7とに伝達する。電動モータ12は請求項1に記載した電動駆動手段に該当し、減速ギヤ列13とボールスクリュー装置14は請求項3に記載した減速手段に該当する。
【0028】
ピボットシャフト5はステアリング室11の後部に鉛直に軸支されており、電動モータ12は固定プレート16によりステアリング室11の前部に固定され、そのモータ軸17の軸方向が船幅方向に沿っている。モータ軸17は、電動モータ12の右側面から突出しており、モータ軸17の中間部には、後に詳述する逆入力遮断クラッチ(例えば、NTN株式会社製の「トルクダイオード(登録商標)」)20が設けられている。
【0029】
一方、ボールスクリュー装置14は、ボールねじ軸21とボールナット22とを備えており、ボールねじ軸21は電動モータ12とピボットシャフト5との間にてその軸方向を船幅方向に沿わせて配置され、左右一対のベアリング23により回転自在に軸支されている。つまり、電動モータ12のモータ軸17とボールねじ軸21とが、ともに船幅方向に沿って平行し、かつモータ軸17が前に、ボールねじ軸21が後に並ぶように配置されている。
【0030】
ボールナット22は図示しない多数の鋼球を介してボールねじ軸21に係合されていて、ボールねじ軸21が回転することによりボールナット22が軸方向に円滑に、かつ遊びを伴うことなく移動する。ボールナット22の下面には短円柱状のスライドピン24が突設されている。一方、ピボットシャフト5の上端付近には転舵アーム26が回動一体に設けられ、その先端に形成された切欠状のスライダ27にボールナット22のスライドピン24が摺動自在にかつ遊びを伴うことなく係合している。なお、ピボットシャフト5には舵角検出センサ28が設けられている。
【0031】
減速ギヤ列13は、電動モータ12のモータ軸17先端に回転一体に設けられたドライブギヤ31と、ステアリング室11の右内側面にベアリング32により軸支された中間ギヤ33と、ボールねじ軸21の右端に回転一体に設けられたドリブンギヤ34とが噛合して構成されている。
【0032】
電動モータ12(モータ軸17)の回転は減速ギヤ列13により2段階に減速されてからボールねじ軸21に伝達され、ボールねじ軸21の回転はボールねじ係合によりさらに減速されてボールナット22を左右に動かす。このボールナット22の動きはスライドピン24とスライダ27との係合により転舵アーム26に伝達され、転舵アーム26の回動によりピボットシャフト5と船外機本体7とがスイベルブラケット3に対し左右に回動して舟艇の操舵がなされるように構成されている。
【0033】
例えば、風向きや潮流の影響により当て舵を行う際には、プロペラ反力や水流により船外機本体7を直進状態に戻そうとする転舵力が作用するが、この電動ステアリング装置10には外部から作用する転舵力に抗して舵角を保持するための保舵手段が備えられている。
【0034】
この保舵手段は機械的構造のみで構成するのが好ましく、この実施の形態1では、電動モータ12のモータ軸17に設けた逆入力遮断クラッチ20がこの保舵手段の一例に該当する。逆入力遮断クラッチ20とは、回転駆動系に介装されて使用される公知の回転伝達部材であり、入力側からの回転(駆動トルク)を出力側に伝達するが、出力側からの回転(逆駆動トルク)は入力側に伝達せずに回転をロックする。
【0035】
この電動ステアリング装置10において保舵手段として用いられている逆入力ロック型の逆入力遮断クラッチ20は、電動モータ12と減速手段(減速ギヤ列13、ボールスクリュー装置14)との回転伝達経路における中間に設置するのが望ましく、できるだけ駆動源である電動モータ12の近くに配置するのが理想的である。このため、この実施の形態1では、逆入力遮断クラッチ20を電動モータ12のモータ軸17に対して同軸的に設けている。
【0036】
電動モータ12が作動すると、先述したようにモータ軸17の回転が転舵アーム26まで減速伝達されて船外機本体7が左右に回動するが、この時に逆入力遮断クラッチ20は電動モータ12の出力を100%減速ギヤ列13側に伝達する。
【0037】
しかし、例えば当て舵を行う際にプロペラ反力や水流により船外機本体7を直進状態に戻そうとする転舵力が作用した場合には、電動モータ12のモータ軸17を回転させようとする逆駆動トルクが加わる。この時、逆入力遮断クラッチ20は出力側の軸の回転をロックし、これにより船外機本体7の回動が固定され、舵角が保持される。
【0038】
このため、舵角を保持する力(保舵力)を発生させるために電動モータ12の駆動力を船外機本体7に加えたままの状態にしておく必要がなく、電動モータ12への電力供給を停止して電力消費量を飛躍的に低減させることができる。
【0039】
具体的には、電動モータ12を制御する制御手段(CPU等)が、舟艇の航行中に操船者による操舵量(例えば、ステアリング回動量)を舵角検出センサ28または図示しないステアリングセンサからリアルタイムに検知し、所定時間(例えば、数秒間)の間に操舵量の変化がなければ保舵状態であると認識して電動モータ12への電力供給を停止するように制御する(請求項7の制御方法)。
【0040】
保舵手段としての逆入力遮断クラッチ20は、純機械的な要素であるため、構造が簡素であるばかりか、故障が起こりにくく、この点で信頼性が高い。しかも、逆入力遮断クラッチ20は、その動作に電力を必要としないため、停電時などの電力不足時にも保舵力を維持することができ、故にプロペラ反力や水流により舵角がずれるという懸念を解消でき、この点でも高い信頼性を得ることができる。
【0041】
さらに、コンパクトな逆入力遮断クラッチ20を保舵手段として用いたことにより、電動ステアリング装置10全体を安価かつコンパクトに構成することができる。特に、逆入力遮断クラッチ20を電動モータ12のモータ軸17に対して同軸的に設けたため、船外機本体7側から作用する転舵力(逆駆動トルク)を減速ギヤ列13およびボールスクリュー装置14により最小限に減衰させることができ、これにより逆入力遮断クラッチ20のトルク容量を小さくして小型化し、電動ステアリング装置10を一層コンパクト化することができる。
【0042】
また、電動モータ12のモータ軸17とボールスクリュー装置14のボールねじ軸21とを、その各々の軸方向を船幅方向に沿わせ、かつ船体前後方向に並べて配置したため、電動ステアリング装置10のレイアウト全体をコンパクト化してステアリング室11内にてスペース効率良く設置することができ、ひいては船外機全体のコンパクト化にも多大に貢献することができる。
[発明の実施の形態2]
【0043】
図3は、本発明の実施の形態2に係る船舶用電動ステアリング装置(請求項6〜8の構成例を開示)の船外機の操舵部付近の平面図である。この図3において、図2に示す船舶用電動ステアリング装置10と同一の構成部分については、同一符号を付してその説明を省く。
【0044】
この電動ステアリング装置40では、電動モータ12のモータ軸17上には保舵手段が設けられておらず、保舵手段はボールスクリュー装置14の近傍に設けられたストッパ油圧シリンダ41とされている。
【0045】
このストッパ油圧シリンダ41は、水平シリンダ42の内部にピストン43が摺動自在に設けられ、このピストン43から延びるピストンロッド44が水平シリンダ42の右端から外部に延出し、U字状に屈曲してボールスクリュー装置14のボールナット22に連結されている。また、水平シリンダ42の内部でピストンの両側に画成される油室45、46を接続するループ通路47が設けられ、油室45、46とループ管47の内部に作動油が充填されている。そして、ループ管47の中間に開閉バルブ48が設置されている。
【0046】
船外機本体7の操舵に伴いボールナット22がボールねじ軸21の軸方向に移動すると、ピストンロッド44を介してピストン43が水平シリンダ42の内部を摺動し、これにより油室45、46内の作動油がループ通路47を経て相互に流通する。しかし開閉バルブ48が閉弁すると油室45、46の作動油が相互に流通できなくなり、ピストン43の動きが固定されるため、ボールナット22の動きも固定されて船外機本体7の舵角が保持(ロック)される。このように、ストッパ油圧シリンダ41は開閉バルブ48の開弁時にフリー状態、閉弁時に保舵状態となる。
【0047】
図4は、電動ステアリング装置40の制御系統を示すブロック図である。その中核となるコントローラ51にはCPU52とドライバ53が内蔵され、ドライバ53はCPU52からの指示を受けて電動モータ12への供給電圧をコントロールする。CPU52は請求項6に記載した制御手段に該当する。
【0048】
CPU52にはステアリングセンサ54と舵角検出センサ28とが接続され、ステアリングセンサ54からは舟艇の操船者による操舵量β*が入力され、舵角検出センサ28からは船外機本体7の実舵角β0が入力される。また、ストッパ油圧シリンダ41の開閉バルブ48はCPU52に電気的に接続されて開閉制御される。すなわち、保舵手段であるストッパ油圧シリンダ41はCPU52の制御により保舵状態またはフリー状態に切り替え制御される。
【0049】
CPU52は、船外機本体7の操舵条件と、ストッパ油圧シリンダ41の作動状況とから、船外機本体7の舵角が保持された保舵状態であることを検知し、電動モータ12への電力供給を停止するよう制御する(請求項7の制御方法)。
【0050】
具体的には、CPU52は舟艇の航行中に操舵量β*と実舵角β0とが等しくなるようにドライバ53を介して電動モータ12を制御するとともに、当て舵が行われる場合等には開閉バルブ48を閉弁してストッパ油圧シリンダ41を保舵状態とし、船外機本体7の舵角を保持すると同時に電動モータ12への電力供給を停止するよう制御する。これにより、電動モータ12の電力消費量を格段に低減させることができる。
【0051】
図5は前記制御時のフローチャートである。制御がスタートすると、ステップS1で実舵角β0が検知され、ステップS2で操舵量β*と実舵角β0との偏差値Δβが算出される。次にステップS3でストッパ油圧シリンダ41による保舵状態であるか否かが判断され、このステップS3がNOならば、以下のステップS4〜S7で開閉バルブ48の開弁、電流算出、電圧算出、PWM出力等が実行されて電動モータ12が駆動される。
【0052】
一方、ステップS3がYESならば、次のステップS8で開閉バルブ48の閉弁指令が出され、さらにステップS9で電動モータ12への電力供給が停止されて駆動力が停止され、制御はスタートに戻る。
【0053】
図6はステップS3の判定部を詳細化したフローチャートである。ステップS3の中ではまずステップS31で目標舵角の変化量β*´が算出され、次にステップS32で目標舵角の変化量β*´が基準値以内であるか否かが判定される。S32がYESならば、ステップS33で偏差値Δβが基準値以内であるか否かが判定され、S33がYESならば、ステップS8に進み、開閉バルブの閉弁指令が出される。また、S32またはS33がNOならば、S4に進む。
【0054】
この電動ステアリング装置40では、CPU52により保舵手段であるストッパ油圧シリンダ41を保舵状態とフリー状態とに切り替え制御できるため、保舵手段による舵角保持あるいは解除をより緻密かつ実効的にコントロールすることができる。
【0055】
図7(A)は従来の保舵手段を備えない船舶用電動パワーステアリング装置における操舵量と必要電力の関係を示すグラフであり、図7(B)は本発明に係るパワーステアリング装置における操舵量と必要電力の関係を示すグラフである。
【0056】
従来では、電動モータの駆動力により操舵と保舵の両方を行っていたため、保舵時にも多大な電力が必要であった(図7(A)のa部およびb部)。しかし、本発明に係るパワーステアリング装置によれば、保舵時における電力をカットできるため(図7(B)のa´部およびb´部)、電力消費量を大幅に低減させることができる。
【0057】
ところで、CPU52は、電動モータ12への電力供給が停止されると、開閉バルブ48を閉弁させ、保舵手段であるストッパ油圧シリンダ41が船外機本体7の舵角を保持して保舵状態となるよう制御する(請求項8の制御方法)。
【0058】
これにより、停電時などの電力不足時にも保舵力を維持することができ、しかも舟艇を使用しない時や、舟艇を他の船により曳航する場合等に舵角を固定させて船体の安定性を良好に保つことができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0059】
なお、上述した実施の形態1、2では、船外機の電動ステアリング装置に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は船外機のみならず、舵やそれに準ずる操舵部(舵体)を備えた舟艇の電動ステアリング装置に幅広く適用することができる。
【0060】
また、上述した実施の形態1、2では、減速手段として減速ギヤ列13とボールスクリュー装置14を用いた場合について説明したが、この構成に限定されるわけではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、一般船舶、プレジャーボート、小型滑走艇、水上オートバイなど各種の船舶類に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1に係る船舶用電動ステアリング装置の船外機の操舵部付近を示す左側面図である。
【図2】同実施の形態1に係る船舶用電動ステアリング装置の船外機の操舵部付近を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る船舶用電動ステアリング装置の船外機の操舵部付近の平面図である。
【図4】電動ステアリング装置の制御系統を示すブロック図である。
【図5】保舵時に電動モータへの電力供給を停止する制御のフローチャートである。
【図6】図5中のステップS3の判定部を詳細化したフローチャートである。
【図7】(A)、(B)はそれぞれ従来技術と本発明とにおける操舵量と必要電力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1……船尾板
2……ブラケットクランプ
3……スイベルブラケット
5……ピボットシャフト
6……連結アーム
7……船外機本体(舵体)
8……チルト油圧シリンダ
10……電動ステアリング装置
11……ステアリング室
12……電動モータ(電動駆動手段)
13……減速ギヤ列(減速手段)
14……ボールスクリュー装置(減速手段)
16……固定プレート
17……モータ軸
20……逆入力遮断クラッチ(保舵手段)
21……ボールねじ軸
22……ボールナット
23……ベアリング
24……スライドピン
26……転舵アーム
27……スライダ
28……舵角検出センサ
31……ドライブギヤ
32……ベアリング
33……中間ギヤ
34……ドリブンギヤ
40……電動ステアリング装置
41……ストッパ油圧シリンダ(保舵手段)
43……ピストン
44……ピストンロッド
45、46……油室
47……ループ通路
48……開閉バルブ
52……CPU(制御手段)
53……ドライバ
54……ステアリングセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動駆動手段の動力により操舵を行う船舶用電動ステアリング装置であって、
舵体に外部から作用する転舵力に抗して舵角を保持する保舵手段を備えたことを特徴とする船舶用電動ステアリング装置。
【請求項2】
前記保舵手段は逆入力遮断クラッチであることを特徴とする請求項1に記載の船舶用電動ステアリング装置。
【請求項3】
前記電動駆動手段を電動モータとし、この電動モータの出力を減速手段により減速してから前記舵体に伝達する構成とし、前記保舵手段を前記電動モータと前記減速手段との回転伝達経路における中間に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の船舶用電動ステアリング装置。
【請求項4】
前記保舵手段を前記電動モータのモータ軸に対して同軸的に設けたことを特徴とする請求項3に記載の船舶用電動ステアリング装置。
【請求項5】
前記減速手段を減速ギヤ列とボールスクリュー装置とを備えて構成し、前記電動モータの回転を前記減速ギヤ列により減速した後に前記ボールスクリュー装置のボールねじ軸に伝達する構造とした上で、電動モータのモータ軸と前記ボールねじ軸の各々の軸方向を船幅方向に沿わせ、かつ船体前後方向に並べて配置したことを特徴とする請求項3または4に記載の船舶用電動ステアリング装置。
【請求項6】
前記保舵手段は制御手段の制御により保舵状態とフリー状態との切り替え制御が可能であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の船舶用電動ステアリング装置。
【請求項7】
舵体の操舵条件から、舵体の舵角が保持された保舵状態であることを検知し、舵体を操舵する電動駆動手段への電力供給を停止するよう制御することを特徴とする船舶用電動ステアリング装置の制御方法。
【請求項8】
舵体を操作する電動駆動手段への電力供給が停止されると、保舵手段が前記舵体の舵角を保持して保舵状態となるよう制御することを特徴とする船舶用電動ステアリング装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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