説明

色彩色差計測方法及びそれを用いた計測装置

【課題】グルタチオンやシステイニルグリシン等のチオール基を有する生理活性物質を簡便、迅速、正確に計測できる色彩色差計測方法及び計測装置を提供する。
【解決手段】金ナノ粒子と、化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液を用い、グルタチオン又はシステイニルグリシンの計測を行う。化学式1中、RとRはそれぞれ独立にアルキル基を表し、RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオン又はシステイニルグリシン等のチオール基含有化合物の定量を行うことができる色彩色差計測方法及びそれを用いた計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分散状態の金ナノ粒子は、表面プラズモン吸収により赤色を呈するとともに、周囲の環境の変化に敏感に反応して凝集し、青色を呈することが知られている。こうした金ナノ粒子は凝集状態が安定であるため、金ナノ粒子の赤色から青色への変化を利用した分析法が種々検討されている。
【0003】
例えば下記非特許文献1では、ホモシステイン、システイン、グルタチオンといったチオール基を有するアミノ酸が存在する条件下での金ナノ粒子の特異的な色調変化に関する検討が行われ、ホモシステインによる色調変化の速度が、システインの2倍、グルタチオンの少なくとも5倍以上であると報告されている。同文献では、この反応性の違いが、ホモシステイン、システイン、グルタチオンの金ナノ粒子への表面被覆とそれに引き続いて生じる架橋構造の形成に関連していると考察している。
【非特許文献1】Analyst, 127, p.462−465(2002).
【0004】
また、下記非特許文献2では、グルタチオンにより誘起される金ナノ粒子の会合(凝集)についての検討が行われ、グルタチオンにより誘起される金ナノ粒子の会合(凝集)によって長波長側に生じる新たなピークは,グルタチオン濃度、ナノ粒子のサイズ、pHに依存すると報告されている。
【非特許文献2】J. Colloid Inter. Science, 313, p.724−734(2007).
【0005】
また、下記非特許文献3では、蛍光分子を複合化した金ナノ複合体とグルタチオンとの反応(ナノ粒子表面での置換反応)により、遊離した蛍光分子が発する蛍光の強度を測定することでグルタチオンの計測が試みられている。
【非特許文献3】Langmuir, 23, p.8815−8819(2007).
【0006】
また、下記非特許文献4では、アプタマー(遺伝物質の一種)を修飾した金ナノ複合体を用いて、質量分析法によりATPやグルタチオンを分析する方法が提案されている。この方法では、金ナノ粒子複合体がATPやグルタチオンをイオン化するマトリックスとして働いていると考察されている。
【非特許文献4】Analytical Chemistry, 79, p.4852−4859(2007).
【0007】
また、下記非特許文献5では、蛍光色素ナイルレッドを修飾した金ナノ粒子複合体を用いて、質量分析法によりグルタチオン等のアミノチオールを分析する方法が提案されている。この方法では、金ナノ複合体がアミノチオールをイオン化するマトリックスとして働いていると考察されている。
【非特許文献5】Analytical Chemistry, 78(5), p.1485−1493(2006).
【0008】
上記の金ナノ粒子や金ナノ粒子複合体は凝集状態が安定であるため、一度凝集した金ナノ粒子を再び分散状態に戻すことは非常に難しいと考えられていた。しかしながら、近年において比較的簡単な手順で金ナノ粒子の再分散を発現できることが報告されるようになり、そうした金ナノ粒子の再分散現象を利用した分析法も提案されている。
【0009】
例えば下記非特許文献6では、グルタチオンやシステインが誘起する金ナノロッドの直線的配列について検討され、グルタチオンやシステインの添加により金ナノロッドの直線的な配列が延び、これにより新たに長波長側に吸収スペクトルが生じること、また、グルタチオンやシステインの濃度が増加するにつれて長波長側に吸収スペクトルは大きくなることが検討されている。そして、この原理に基づいてグルタチオンやシステインの濃度を計測することができることが提案されている。
【非特許文献6】J. Am. Chem. Soc., 127, p.6516−6517(2005).
【0010】
金ナノ粒子の再分散性を利用した研究として、本発明者は、熱応答性高分子を複合化した金ナノ粒子複合体を用い、熱刺激により金ナノ粒子複合体が凝集状態(青色)から分散状態(赤色)に変化することを利用し、グルタチオンのセンシングを行った例(非特許文献7)、及び、その熱応答性高分子を複合化した金ナノ粒子複合体に熱刺激を行い、その再分散性を利用したL−システインの簡易定量法(非特許文献8)について報告している。この再分散現象は熱刺激によって起こるが、その再分散はL−システイン等のようなチオール基含有化合物が共存すると阻害される。
【非特許文献7】日本分析化学会第55年会講演要旨集、p.32(2006年9月6日発行)
【非特許文献8】第67回分析化学討論会講演要旨集、p.208(2006年4月29日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金ナノ粒子をカラーセンサーとする研究はDNAの検出等について研究されているが、金ナノ粒子は安定状態が凝集態様であるためにもともと凝集しやすく、その結果、金ナノ粒子を用いる計測方法は正確さに欠けるという指摘がされている。
【0012】
本発明は、グルタチオン又はシステイニルグリシン等のチオール基含有化合物を簡便、迅速、正確に計測することができる色彩色差計測方法及びそれを用いた計測装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、チオール基含有化合物の分散現象に及ぼす影響について詳細に検討している過程で、特定のポリマーを金ナノ粒子に複合化させた複合体溶液を用いた場合、特に特定のチオール基含有化合物に対し、その定量測定を極めて簡便、迅速、再現性よく行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の第1の観点に係る色彩色差計測方法は、金ナノ粒子と、化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液を用い、グルタチオン又はシステイニルグリシンの計測を行うことを特徴とする。化学式1中、RとRはそれぞれ独立にアルキル基を表し、RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基を表し、x/yは95/5〜70/30であり、nは1〜4である。
【0015】
【化2】

【0016】
この第1の観点に係る発明によれば、金ナノ粒子と上記化学式1で表されるポリマーを複合化した金ナノ粒子複合体は溶液中で略凝集状態となって青色を呈するが、金ナノ粒子複合体はポリマーが金ナノ粒子に化学吸着することにより溶液中で沈降しない。そして、この複合体溶液にグルタチオンやシステイニルグリシン等の特定のチオール基含有化合物を混合することにより、ポリマーが離脱する代わりにグルタチオンやシステイニルグリシン等が金ナノ粒子に吸着し、さらにそのグルタチオンやシステイニルグリシン等が有するカルボキシル基の作用により分散状態になって赤色に変化する。なお、グルタチオンよりもシステイニルグリシンの方が迅速に赤色に変化する。
【0017】
本発明の第2の観点に係る色彩色差計測方法は、金ナノ粒子と上記化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液と、所定量のグルタチオンと、γ−GTPの補酵素とを有する試験溶液に、未知量のγ−GTPを配合し、該γ−GTPが前記グルタチオンを分解して生じたシステイニルグリシンに因る色彩色差を計測することによって、前記γ−GTPの計測を行うことを特徴とする。
【0018】
この第2の観点に係る発明によれば、グルタチオンをシステイニルグリシンに分解する未知量のγ−GTPの計測を、複合体溶液中でのグルタチオンとシステイニルグリシンの色変化のし易さを利用して行うことができる。その結果、例えば血液中から抽出した未知量のγ−GTPを、複合体溶液とグルタチオンを含む溶液中に配合すれば、その色の変化によってγ−GTPの血中濃度の簡易計測が可能となる。
【0019】
本発明の色彩色差計測方法の好ましい態様は、前記化学式1中、RとRはそれぞれメチル基であり、RとRはそれぞれ水素であるように構成する。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の計測装置は、上記本発明に係る色彩色差計測方法を用いる計測装置であって、該色彩色差計測方法で用いる複合体溶液と測定対象物とを収容する容器と、該複合体溶液と測定対象物とを混ぜた後の色彩色差の比較色彩表又は吸光度計とを少なくとも備えることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、色彩色差計測方法で用いる複合体溶液と測定対象物とを収容する容器と、複合体溶液と測定対象物とを混ぜた後の色彩色差の比較色彩表又は吸光度計とを少なくとも備えるので、混ぜた後の溶液の色を比較色彩表と比較し又は吸光度を測定し、測定対象物の濃度を迅速且つ簡易に計測することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の色彩色差計測方法及びそれを用いた計測装置によれば、溶液中で沈降せず、グルタチオンやシステイニルグリシン等の特定のチオール基含有化合物を混合することにより青色(凝集状態から)赤色(分散状態)に変化する金ナノ粒子複合体を用いるので、測定対象物の検出や濃度計測を視覚的に又は簡易吸光度測定結果として捉えることができる。その結果、測定対象物の測定を迅速且つ簡易に行うことができる。なお、従来、L−システイン等のチオール基含有化合物は金ナノ粒子の分散を阻害して色調変化も生じなかったが、本発明によれば、意外にも同じチオール基含有化合物であるグルタチオンやシステイニルグリシンに対して特異的に分散状態とすることができる。すなわち、本発明の色彩色差計測方法は、上記複合体の特異現象を利用し、チオール基含有化合物の色彩色差計測を行うものである。
【0023】
また、本発明によれば、グルタチオンをシステイニルグリシンに分解する未知量のγ−GTPの計測を、複合体溶液中でのグルタチオンとシステイニルグリシンの色変化のし易さを利用して行うことができる。その結果、例えば血液中から抽出した未知量のγ−GTPを、複合体溶液とグルタチオンを含む溶液中に配合すれば、その色の変化によってγ−GTPの血中濃度の簡易計測が可能となる。
【0024】
こうした本発明の色彩色差計測方法及び計測装置によれば、上記特定のチオール基含有化合物であるグルタチオンやシステイニルグリシンの測定が可能となり、医療現場で簡易に測定できるキットの実用化を可能とする。こうしたキットは、家庭内での健康管理にも活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の色彩色差計測方法及びそれを用いた計測装置について、以下に詳しく説明する。
【0026】
[色彩色差計測方法]
本発明の色彩色差計測方法は、金ナノ粒子と、後述の化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液を用いる。そして、この複合体溶液で、グルタチオンやシステイニルグリシン等のチオール基含有化合物の計測を行う。
【0027】
(金ナノ粒子)
金ナノ粒子の形状は、粒形状又は球形状であることが望ましい。本発明の色彩色差計測方法に金ナノ粒子が用いられる理由は、化学的に安定であるともに、入手の点で有利だからである。なお、金ナノ粒子の粒径は、その調製方法に依存し、各種の粒径のものを得ることができるが、例えば後述の実験例では約13nmのものを用いている。本発明に使用可能な金ナノ粒子の粒径の範囲は特に限定されないが、粒径が小さすぎるものは作製が難しく、一方、粒径が大きすぎるものは沈降してしまう場合があるので、それらを考慮して選択する。なお、金ナノ粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)での観察結果から求めることができる。
【0028】
金ナノ粒子は、金ナノ粒子溶液として調製することができる。この金ナノ粒子溶液の調製は、クエン酸ナトリウム還元により行うことができ、具体的には、例えば、所定量のテトラクロロ金酸水溶液に、クエン酸三ナトリウム水溶液を添加して調製する例を挙げることができるが、市販の所定の大きさからなる金ナノ粒子溶液を用いてもよい。
【0029】
(ポリマー)
ポリマーは、下記化学式1で表される。下記の化学式1において、RとRはそれぞれ独立にアルキル基を表し、RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基を表す。また、x/yは95/5〜70/30であり、nは1〜4である。
【0030】
【化3】

【0031】
とRのアルキル基としては、メチル基であることが好ましいが、同様の作用を奏する範囲で炭素数1〜4程度の直鎖状のアルキル基であってもよい。特に下記化学式2に示すように、RとRがそれぞれメチル基であり、RとRがそれぞれ水素であることが好ましい。
【0032】
【化4】

【0033】
化学式2のポリマーの左側の側鎖は、N−イソプロピルアクリルアミド(以下、NIPAAmという。)であり、右側の側鎖は、エチレンイミン鎖の繰り返し単位を含むアクリロイルアミン(以下、ACという。)である。より具体的には、右側の側鎖のエチレンイミン鎖の繰り返し単位であるn=0の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルエチレンジアミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−EDA))という。]となり、n=1の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルジエチレントリアミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−DETA))という。]となり、n=2の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルトリエチレンテトラミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TETA))という。]となり、n=3の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルテトラエチレンペンタミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TEPA))という。]、n=4の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルペンタエチレンヘキサミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))という。]となる。
【0034】
ポリマーの左側の側鎖の繰り返し単位であるxと、右側の側鎖の繰り返し単位であるyとの比は、x/yで、95/5〜70/30の範囲であることが好ましく、特に90/10〜85/15の範囲であることが好ましい。
【0035】
ポリマーの分子量は、重量平均分子量で8000以上100000以下のものを用いることができ、10000以上20000以下のものが好ましい。
【0036】
ポリマーは、化学式1,2における右側の側鎖にエチレンアミン鎖を有するが、そのエチレンアミン鎖にはNH基やNH基が多く、そうした基が金ナノ粒子に吸着して複合体を形成する。その結果、複合体は溶液中で沈殿することなく凝集状態を保持し、複合体溶液は青色を呈している。
【0037】
(分散メカニズム)
図1は、複合体溶液にグルタチオンを混ぜたときの金ナノ粒子の分散メカニズムを示す模式図である。複合体溶液中の複合体は、非特許文献7,8に記載の先行技術のような相転移を伴わず、従来の再分散メカニズムとは本質的に異なっている。すなわち、従来の再分散メカニズムは、複合体に熱刺激を加えることにより熱応答性高分子であるポリマーの相転移が起き、それに伴ってポリマーが吸着している金ナノ粒子が再配列することにより、金ナノ粒子が凝集状態から分散状態へ変化するものと考えられている。
【0038】
ところが、本発明においては、後述の図2に示すMS(マス)スペクトルからもわかるように、金ナノ粒子へのグルタチオンの吸着によって金ナノ粒子からポリマーが脱離することがその原因であると考えられる。すなわち、凝集状態の金ナノ粒子複合体にチオール基を有するグルタチオンを加えると、金ナノ粒子の表面で、ポリマーのアミノ基と交換してグルタチオンが吸着する。グルタチオンは分子サイズが大きく、後述の実施例で検討したpH6〜9においてカルボキシル基が負の電荷を有するために、金ナノ粒子の有効な分散剤として作用するものと考えられる。同様な作用を与えたチオール基含有化合物としては、システイニルグリシンがある。これに対して、L−システインは再現性のない結果を与えたことから、金ナノ粒子の分散剤としては不十分であると考えられる。
【0039】
以上のことから、本発明に係る複合体溶液へのチオール基含有化合物の配合による再分散には、(1)チオール基の存在、(2)分子サイズ及び構造、(3)カルボキシル基やアミノ基間の水素結合、が必要であると考えられる。
【0040】
(1)のチオール基は、金ナノ粒子の表面に吸着し、アミノ基との交換反応を起こすと考えられる。
【0041】
(2)の分子サイズ及び構造については、複合化した金ナノ粒子を安定に再分散させるグルタチオンとシステイニルグリシンとの比較において、グルタチオンよりも低分子量のシステニイルグリシンンのほうがより迅速に金ナノ粒子を凝集状態から分散状態へ変化させることができる。グルタチオンのように分子サイズが大きいと金ナノ粒子の保護効果が大きいものの、ポリマーとの置換が遅い。L−システイン等低分子量のカルボキシル基を有するチオール基含有化合物では金ナノ粒子の保護効果はほとんどなく、反応ははやい。グルタチオンとL−システインの中間のサイズにあるシステイニルグリシンは、金ナノ粒子の保護効果を有し、ポリマーとの置換の反応速度もはやいと考えられる。
【0042】
(3)カルボキシル基の静電反発については、チオール基含有化合物の酸解離したカルボキシル基の静電反発が大きく関与すると考えられる。グルタチオンの二つのカルボキシル基のpKaはpKa=2.16及びpKa=3.55であり、主に検討しているポリマー濃度0.2重量%における複合体溶液のpHが約8であるため、カルボキシル基はCOO−となっている。その一方、NH基、NH基は一部水素イオンが付加して正に帯電している。はじめに金ナノ粒子はクエン酸によりアニオン性の状態であり、静電反発により分散している。この状態にNH基、NH基を有するポリマーを添加することにより、金ナノ粒子表面の電荷が部分的に打ち消されるとともに、NH基、NH基が金に吸着して、金ナノ粒子が凝集する。このとき、金ナノ粒子は、ポリマーで被覆され、凝集した粒子間にポリマーが入りこんだ状態になっている。この状態の金ナノ粒子にチオール基含有化合物であるグルタチオン等を添加すると、チオール基とNH基、NH基とが交換し、チオール基含有化合物が金ナノ粒子の表面に結合する。このとき、金ナノ粒子の表面では官能基が非常に込み合っている状態となっているが、チオール基含有化合物や熱応答性高分子の極性基(官能基)がランダムな状態で存在することはエネルギー的に不利になる。極性基(官能基)が水素結合により配列することで、エネルギー的に不利な状態が解消される。結果として、金ナノ粒子間の距離を広がることになるものと考えられる。
【0043】
以上のチオール基の存在、分子サイズや構造、チオール基含有化合物のカルボキシル基の存在、NH基、NH基を有するポリマーによる非共有結合的な保護効果が金ナノ粒子の再分散に影響するほかに、チオール基含有化合物の他の官能基の電荷や溶液中に存在する化合物の構造や各官能基の電荷等が、全体として金ナノ粒子の再分散に影響している。
【0044】
金ナノ粒子の再分散に影響する他の条件として、金ナノ粒子の濃度、ポリマー濃度、pH、加熱・冷却温度等を挙げることができる。これらの条件は、測定対象物の種類によっても異なるが、例えば、金ナノ粒子の濃度は0.0018〜0.0090重量%の範囲であることが好ましく、ポリマーの濃度は0.1〜0.5重量%の範囲であることが好ましく、両者の比[金ナノ粒子の濃度/ポリマーの濃度]は0.0018/0.5〜0.0090/0.1の範囲であることが好ましい。また、複合体溶液のpHは、後述の実験例では約8前後であるが、6.5〜8.5であることが好ましい。
【0045】
グルタチオンは図1中に示しているが、システイニルグリシンは下記化学式3に示すとおりである。
【0046】
【化5】

【0047】
(γ−GTPの測定)
次に、γ−GTPの色彩色差計測方法について詳しく説明する。γ−GTP(ガンマ−グルタミントランスペプチターゼ)は肝臓の解毒作用に関係している酵素である。過度の飲酒によりその値が上昇することから、肝臓の働きを知る検査項目として一般にも良く知られている。γ−GTPの測定を行うには、医療機関で受診をし、血液検査を受けなければならない。そして検査結果を知るために再度受診しなければならない。簡単な操作で検査項目値が正常範囲にあるかどうかを迅速に判断できれば、初回診療時における診察の判断の助けになるだけでなく、検査結果を知るためだけの再受診という患者の負担を減らすことができる。本発明では、金ナノ粒子が分散状態にあるときには赤色を呈し、凝集状態では青色を呈するという特性を利用し、簡易に目視でグルタチオンやシステイニルグリシンの活性を測定する方法を用いてγ−GTPの測定を実現している。
【0048】
本発明では、例えばポリイソプロピルアクリルアミドにポリアミノ基を導入したポリマーを金ナノ粒子と複合化した本発明に係る金ナノ粒子複合体が、グルタチオンやシステイニルグリシンの存在により自発的に再分散することを見いだしたが、こうした再分散を促進させる効果はシステイニルグリシンの方がグルタチオンに比べて大きい。すなわち、グルタチオンを添加した場合には、金ナノ複合体の溶液の色調はゆっくりと青色(凝集状態)から赤色(分散状態)へと変化するが、システイニルグリシンを添加した場合には、青色から赤色への変化が速やかに起こる。γ−GTPはグルタチオンをシステイニルグリシンとグルタミン酸に分解する酵素であるので、金ナノ複合体の溶液に、グルタチオンと、γ−GTP及びその補酵素を含む酵素溶液とを混合すれば、γ−GTPの作用によりグルタチオンが分解してその量が減り、システイニルグリシンの量が増える。その結果、青色(凝集状態)から赤色(分散状態)への変化が促進される。
【0049】
すなわち、こうした原理に基づいた本発明に係るγ−GTPの色彩色差計測方法は、金ナノ粒子と上記化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液と、所定量のグルタチオンと、γ−GTPの補酵素とを有する試験溶液に、未知量のγ−GTPを配合することにより行う。試験溶液にγ−GTPを配合することにより、未知量のγ−GTPが所定量のグルタチオンを分解し、その結果生じたシステイニルグリシンに因る色彩色差を計測することによって、γ−GTPの計測を行う。この方法、グルタチオンをシステイニルグリシンに分解する未知量のγ−GTPの計測を、複合体溶液中でのグルタチオンとシステイニルグリシンの色変化のし易さを利用して行ったものであり、その結果、例えば血液中から抽出した未知量のγ−GTPを、複合体溶液とグルタチオンを含む溶液中に配合すれば、その色の変化によってγ−GTPの血中濃度の簡易計測が可能となる。
【0050】
なお、測定時間は各溶液の配合量、溶液の加熱温度等の溶液条件を調整することにより規定できるが、溶液の加熱温度が37℃であれば30分〜60分程度の範囲であれば容易に結果を評価でき、簡易測定手段として好ましい。また、定量にあたっては、予め既知量のγ−GTPを用いて測定し、検量線を作成しておくことにより、得られた結果をその検量線に当てはめ、未知量のγ−GTPの定量を行うことができる。
【0051】
以上説明したように、本発明の色彩色差計測方法によれば、溶液中で沈降せず、グルタチオンやシステイニルグリシン等の特定のチオール基含有化合物を混合することにより速やかに赤色(分散状態)に変化する複合体溶液を用いるので、測定対象物の検出や濃度計測を視覚的に又は簡易吸光度測定結果として捉えることができる。その結果、測定対象物の測定を迅速且つ簡易に行うことができる。こうした本発明の色彩色差計測方法によれば、上記特定のチオール基含有化合物であるグルタチオンやシステイニルグリシンの色変化速度の違い基づき、グルタチオンの分解酵素であるγ−GTPの簡易定量も可能となり、医療現場で簡易に測定できるキットの実用化を可能とする。こうしたキットは、家庭内での健康管理にも活用できる。
【0052】
[計測装置]
本発明の計測装置は、上記本発明の色彩色差計測方法を用いる装置であって、その色彩色差計測方法で用いる複合体溶液と測定対象物とを収容する容器と、その複合体溶液と測定対象物とを混ぜた後の色彩色差の比較色彩表又は吸光度計とを少なくとも備える。
【0053】
容器としては、目視により又は吸光度測定によって、収容した溶液の色彩色差の変化を観察又は測定できる透過性容器であればよく、種々の形態とすることができる。一例としては、吸光度測定に用いる石英セルのような形態を挙げることができる。
【0054】
容器は、予め調製された複合体溶液が入っている態様のものでもよいし、測定時に別容器から注いで用いる空容器であってもよい。いずれにしても、測定に用いる複合体溶液は、予め調製された状態で、容器内に又は別容器内に準備されていることが好ましい。
【0055】
複合体溶液の入った容器に測定対象物を入れ、測定対象物を入れない容器をブランクとして比較測定して色彩色差を観察又は測定する。観察は目視により行うが、その際に、比較色彩表を準備し、色変化した容器をその比較色彩表に表された色サンプルと照らし合わせ、測定する容器の色と最も近い色サンプルの情報を適用する。一方、吸光度測定の場合には、吸光度測定用のセル容器を吸光度測定装置にセットして吸光度を測定する。
【0056】
本発明の計測装置は、測定対象物の検出や濃度計測を視覚的に又は簡易吸光度測定結果として捉えることができるので、測定対象物の測定を迅速且つ簡易に行うことができる。
【0057】
さらに、γ−GTPの測定も可能であり、その場合には、容器内に、金ナノ粒子と上記化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液と、所定量のグルタチオンと、γ−GTPの補酵素とを有する試験溶液を入れておき、試験溶液の入った容器に、未知量のγ−GTPを配合して測定に供する。こうした計測装置は、医療現場で簡易に測定できるキットの実用化を可能とするとともに、家庭内での健康管理にも活用できる。
【実施例】
【0058】
以下の実験によって、本発明をさらに詳しく説明する。
【0059】
(実験1:グルタチオンの測定)
10mLメスフラスコに、0.18g−Au/L金ナノ粒子溶液3mL、2wt%poly(NIPAAm)共重合体の水溶液1.0g、水4mLをそれぞれ加えて複合体溶液を調製し、その複合体溶液に、1.0×10−6〜1.0×10−3mol/Lグルタチオン1.0mLを添加し、水で定容(10mL)とした。そして、37℃・15分間反応させた後、25℃で40分間冷却した後、この溶液の色調変化を目視するとともに可視吸収スペクトルを測定した。
【0060】
ここで、poly(NIPAAm)共重合体は、化学式2のポリマーを用い、x/y=90/10、n=1のもの(poly(NIPAAm)−co−DETA)を合成して用いた。
【0061】
図2は、1.0×10−4mol/Lのグルタチオン1.0mLを添加したときに得られた可視吸収スペクトルである。ポリマーを金ナノ粒子に複合化すると、金ナノ粒子複合体は凝集状態となって青色を呈したが、この溶液にグルタチオンを添加すると、図2の結果からも分かるように、30秒から12分に時間が経過するとともに金ナノ粒子は再分散し、溶液の可視吸収スペクトルは長波長側の吸収が減少し、短波長側の吸収が増加してブルーシフトした。また、図示しないが、可視吸収スペクトルの変化する速さは、グルタチオン濃度に依存した。溶液調製から測定までの温度が一定となっている場合、グルタチオンの添加による金ナノ粒子の再分散に伴う色調変化は高い再現性があった。このことから、グルタチオンの添加による金ナノ粒子の再分散に伴う色調変化を利用したグルタチオンのカラーセンシングが可能になる。
【0062】
また、グルタチオンを添加して分散させた金ナノ粒子のMSスペクトルを図3に示した。図3(A)はグルタチオンを添加していないときのMSスペクトルであり、図3(B)はグルタチオンを添加したときのMSスペクトルである。その結果から、金ナノ粒子の表面への、ポリマー中のエチレンアミン残基の付着は観察されなかった。このことは、金ナノ粒子表面において、ポリマー中のエチレンアミン基がグルタチオンにより置換されたことを示している。また、グルタチオンによる金ナノ粒子の再分散は、時間の経過に伴い進行し、この色調が変化する速さは溶液中のグルタチオン濃度が高いほど大きくなった。
【0063】
(実験2:システイニルグリシンの測定)
10mLメスフラスコに、0.18g−Au/L金ナノ粒子溶液3mL、2wt%poly(NIPAAm)共重合体の水溶液1.0g、水4mLをそれぞれ加えて複合体溶液を調製し、その複合体溶液に、1.0×10−6〜1.0×10−3mol/Lシステイニルグリシン1.0mLを添加し、水で定容(10mL)とした、37℃・15分間反応させた後、25℃で40分間冷却した後、この溶液の色調変化を目視するとともに可視吸収スペクトルを測定した。
【0064】
ここで、poly(NIPAAm)共重合体は、化学式2のポリマーを用い、x/y=90/10、n=1のもの(poly(NIPAAm)−co−PEHA)を合成して用いた。
【0065】
図4は、得られた可視吸収スペクトルである。図4の結果からも分かるように、ポリマーを金ナノ粒子に複合化すると、金ナノ粒子複合体は凝集状態となって青色を呈したが、この溶液にシステイニルグリシンを添加すると、溶液を加熱しなくても溶液の色調は青色から赤色に変化した。詳しくは、図4において、符号1は金ナノ粒子溶液であり、符号2は金ナノ粒子複合体溶液であり、符号3は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−6mol/Lのシステイニルグリシンを添加したものであり、符号4は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−5mol/Lのシステイニルグリシンを添加したものであり、符号5は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−4mol/Lのシステイニルグリシンを添加したものであり、符号6は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−3mol/Lのシステイニルグリシンを添加したものである。図4の結果において、吸収ピークが510nm付近にあるものは赤色(分散状態)であり、吸収ピークが630nm付近にあるものは青色(凝集状態)であった。図4の結果から分かるように、poly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))(90:10)金ナノ粒子複合体は、システイニルグリシン濃度を1×10−5〜1×10−3mol/Lとしたとき(符号4〜6)、溶液の色調が青色から赤色まで変化した。このとき、システイニルグリシン濃度が高いほど青色から赤色への色調の変化は迅速であった。また、システイニルグリシン濃度1×10−6mol/L(符号3)においては溶液は青色のままであった。
【0066】
(実験3:グルタチオンとシステイニルグリシンの測定)
エチレンアミン鎖長の長いpoly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))を複合化した金ナノ粒子の再分散ではグルタチオンとシステイニルグリシンによる色調変化の速度に違いが現れた。そこで、濃度依存性について検討した。既に、システイニルグリシンの濃度依存性については図4で検討した。図5はグルタチオン濃度を変え得られた金ナノ粒子複合体の可視吸収スペクトルである。図5において、符号1は金ナノ粒子溶液であり、符号2は金ナノ粒子複合体溶液であり、符号3は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−6mol/Lのグルタチオンを添加したものであり、符号4は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−5mol/Lのグルタチオンを添加したものであり、符号5は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−4mol/Lのグルタチオンを添加したものであり、符号6は金ナノ粒子複合体溶液に1×10−3mol/Lのグルタチオンを添加したものである。図5の結果より、グルタチオンを添加した場合は、1×10−5、1×10−4mol/L(符号4,5)の場合は青紫色に、1×10−3mol/L(符号6)の場合も紫色までしか変化しなかった。実験2で得られた図4の結果と図5の結果を比較すると、グルタチオンよりもシステイニルグリシンの方が色調変化が早いことがわかった。
【0067】
また、図6は、金ナノ粒子複合体に及ぼすグルタチオンとシステイニルグリシンの濃度をそれぞれ1×10−4mol/Lとなるように添加した場合のa*値の経時変化であり、図7は、金ナノ粒子複合体に及ぼすシステイニルグリシンの濃度を1.0×10−4mol/Lとした場合と5.0×10−4mol/Lとした場合のa*値の経時変化である。
【0068】
図6におけるa*値を観察してもグルタチオンとシステイニルグリシンの差は明らかである。また、図7に示すように、システイニルグリシンの濃度が高いほどa*の初期の増加分が大きく、より短い時間で赤色まで変化することを示している。このpoly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))を複合化した金ナノ粒子のシステイニルグリシンとグルタチオンとの再分散の速度差に伴う色調の差は、γ−GTPの計測法の開発を期待させる。
【0069】
ここで、システイニルグリシンとグルタチオンによる再分散の速度の違いについて考察する。両者の違いは主に、分子サイズと構造の違いに起因すると考えられる。システイニルグリシンはグルタチオンのグルタミン酸基が解離したシステインとグリシンからなるジペプチドであり、グルタチオンよりも分子サイズが小さい。それに対してグルタチオンはシステイン、グリシン及びグルタミン酸からなるトリペプチドであるために分子サイズが大きい。そのかさ高さのために、金ナノ粒子に吸着したpoly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))(90:10)のエチレンアミンとチオール基との交換速度がシステイニルグリシンと比べてグルタチオンは遅いと考えられる。また、グルタチオンのチオール基は構造の中心付近に存在するのに対し、システイニルグリシンはチオール基とアミノ基が隣接している。このことから、システイニルグリシンが金ナノ粒子との親和性をより強めていると考えられる。金ナノ粒子に対する親和性が強い官能基(−SH,−NH)が隣接した構造にあるシステイニルグリシンはよりはやくポリマーのエチレンアミンとの置換がおき、グルタチオンはその構造とかさ高さのために、ポリマーのエチレンアミンとの置換が遅く再分散による色調の変化が緩やかに進行すると考えられる。
【0070】
(実験4:γ−GTPの測定)
γ−GTPの活性を計測した。5mLメスフラスコに10wt%poly(NIPAAm)共重合体(poly(NIPAAm)−co−PEHA)の水溶液0.1mL、水1.5mL、0.18g−Au/L金ナノ粒子溶液1.5mLをそれぞれ加えて複合体溶液を調製し、その複合体溶液に、1.0×10−3mol/Lグリシルグリシン(γ−GTPの補酵素)0.5mL、γ−GTP(所定量)を含む試料溶液0.15mL、1.0×10−3mol/Lグルタチオン0.25mLを添加し、水で定容(5mL)とした、37℃・15分間反応させた後、25℃で40分間冷却した後、この溶液の色調変化を目視するとともに可視吸収スペクトルを測定した。
【0071】
図8は、得られた可視吸収スペクトルである。図8の結果からも分かるように、金ナノ粒子複合体溶液にグルタチオンとシステイニルグリシンを配合した試験溶液は、赤色(分散状態)を呈していた。この赤色の試験溶液に、γ−GTPを濃度を変えて添加すると、濃度にしたがって吸収が規則的になり、色彩も規則的に変化している波長領域があった。図9は、得られた可視吸収スペクトルを基にして作成したγ−GTPとa*との関係を示す検量線である。この検量線を利用することにより、測色色差計によってa*を測定してγ−GTPを容易に定量できる。
【0072】
下記式は、γ−GTPによるグルタチオンの分解反応である。γ−GTPにより、グルタチオンが消費され、システイニルグリシンが生成すると金ナノ複合体の再分散が促進されて赤色が強まった。この色調の変化に基づいて、γ−GTPの酵素活性を目視計測できた。
【0073】
【化6】

【0074】
(測定)
可視吸収スペクトルの測定には、光路長1cmプラスチックセルを装備した紫外可視分光光度計(日本分光製、V−560型)を使用した。主にL*a*b*値は、測定した可視吸収スペクトルを基に、色彩計算プログラム(日本分光製、V−500DS)を用いて算出を行った。また、一部のL*a*b*値は、測色色差計(日本電色製、ZE 2000)を用いて測定した。透過率の測定には、光路長1cmプラスチックセルを装備したダブルビーム分光光度計(日立製作所製、U−2000A型)を使用した。赤外吸収スペクトルの測定には、フーリエ変換赤外分光装置(FT−IR、日本分光製、430型)を用いた。pHの測定には、pHメーター(HORIBA製、F−13)を使用した。
【0075】
(金ナノ粒子の調製)
上記核実験で用いた金ナノ粒子溶液の調製は、クエン酸ナトリウム還元により行った。500mL丸底フラスコに1mMテトラクロロ金酸水溶液を250mL入れ、攪拌しながら沸騰させた後、38.8mMクエン酸三ナトリウム水溶液を25mL添加し、溶液の色が淡黄色から深紅色へと変化することを確認した。沸騰させ、室温でさらに攪拌した後、溶液を孔径1μmメンブランフィルターを用いてろ過を行って、0.18g−Au/L金ナノ粒子溶液を調製した。この金ナノ粒子の金粒子は、粒径約13nmであった。
【0076】
(ポリマーの調製)
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルエチレンアミン)の合成を行った。poly(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルジエチレントリアミン)[poly(NIPAAm−co−(AC−DETA))] は、まず、DETAと塩化アクリロイル(AC)よりアクリロイルジエチレントリアミン[以下、AC−DETA]の合成を以下の手順で行った。DETAを含む1,4−ジオキサンの混合溶液(20.63g/200mL)に、ACと1,4−ジオキサンの混合溶液(1.625mL/50mL)を一滴ずつ滴下して反応させた(DETAの物質量:ACの物質量=10:1)。滴下終了後、白色の沈殿を濾別し、少量(約40mL)のメタノールに溶解した。これにKOH−メタノール溶液を加えて攪拌、濾別し、得られた濾液をNIPAAmとの共重合に用いた。500mL三つ口セパラブルフラスコにモノマーの供給比(NIPAAmの物質量:DETAの物質量)がモル比で90:10(mol%)となるようにN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とAC−DETAを含むメタノール溶液を加えた。これに重合促進剤と重合開始剤を添加し、油浴中でフラスコ内の溶液を攪拌しながら窒素雰囲気下で脱酸素を行った。その後、窒素を通気しながら、油浴で60℃とし、窒素雰囲気下で4時間重合を行った。
【0077】
また、エチレンイミン鎖長の異なるエチレンジアミン(EDA)12.02g(0.2mol)、トリエチレンテトラミン(TETA)20.63g(0.2mol)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)37.86g(0.2mol)、ペンタエチレンヘプタミン(PEHA)46.49g(0.2mol)をそれぞれ用いて、NIPAAmの物質量とDETAの物質量がモル比で90:10mol%としたpoly(NIPAAm−co−(AC−DETA))の合成と同様の操作を行い、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルエチレンジアミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−EDA))]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルトリエチレンテトラミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TETA))]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルテトラエチレンペンタミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TEPA))]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルペンタエチレンヘプタミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))]を合成した。
【0078】
重合終了後、生成物を含むメタノール溶液を室温まで冷却する。メタノール100mLに対して2Lの冷ジエチルエーテルを用い、生成物を含むメタノール溶液を冷ジエチルエーテルに1滴ずつゆっくり滴下し、攪拌する。これにより析出したガム状の生成物を回収し、再びメタノール約50mLに溶解する。この精製を2回行った後、得られたポリマーを水に溶解し、溶液を凍結させた。溶液が完全に凍結した後、凍結乾燥を行い、冷暗所に保存した。こうしてポリマーを合成した。
【0079】
(測定対象物)
グルタチオンは関東化学社製特級品を使用し、システイニルグリシン(Fw:178.2)はシグマ社製の85%TLC級のものを使用した。牛の肝臓から得たγ−グルタミルトランスペプチターゼ(γ−GTP)(EC 2.3.2.2)(Activity 6.6U/mg powder、Specific activity 165U/mg protein)は、オリエンタル酵母社製のものを用いた。日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の認証を得た日本・常用酵素標準物質(JC・ERM 050413)は、中間法人HECTEFスタンダードレファレンスセンターより購入した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、グルタチオンやシステイニルグリシン等の計測が可能となり、また、その原理を利用してγ−GTPの計測も可能になり、医療現場で簡易に測定できる測定方法と測定キットの実用化を可能とする。こうした測定キットは、家庭内での健康管理にも活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】金ナノ粒子複合体溶液にグルタチオンを混ぜたときの金ナノ粒子の分散メカニズムを示す模式図である。
【図2】実験1で得られた可視吸収スペクトルである。
【図3】グルタチオンを添加して分散させた金ナノ粒子のMSスペクトルである。
【図4】実験2で得られた可視吸収スペクトルである。
【図5】実験3で得られた可視吸収スペクトルである。
【図6】金ナノ粒子複合体に及ぼすグルタチオンとシステイニルグリシンの濃度をそれぞれ1×10−5Mとなるように添加した場合のa*値の経時変化である。
【図7】金ナノ粒子複合体に及ぼすシステイニルグリシンの濃度を1.0×10−5Mとした場合と5.0×10−5Mとした場合のa*値の経時変化である。
【図8】実験4で得られた可視吸収スペクトルである。
【図9】実験4で得られた可視吸収スペクトルから作成したγ−GTPとa*との関係を示す検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子と、化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液を用い、グルタチオン又はシステイニルグリシンの計測を行うことを特徴とする色彩色差計測方法。
【化1】

(化学式1中、RとRはそれぞれ独立にアルキル基を表し、RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基を表す。x/yは95/5〜70/30であり、nは1〜4である。)
【請求項2】
金ナノ粒子と上記化学式1で表されるポリマーとで構成された複合体溶液と、所定量のグルタチオンと、γ−GTPの補酵素とを有する試験溶液に、未知量のγ−GTPを配合し、該γ−GTPが前記グルタチオンを分解して生じたシステイニルグリシンに因る色彩色差を計測することによって、前記γ−GTPの計測を行うことを特徴とする色彩色差計測方法。
【請求項3】
前記化学式1中、RとRはそれぞれメチル基であり、RとRはそれぞれ水素である、請求項1又は2に記載の色彩色差計測方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の色彩色差計測方法を用いる計測装置であって、該色彩色差計測方法で用いる複合体溶液と測定対象物とを収容する容器と、該複合体溶液と測定対象物とを混ぜた後の色彩色差の比較色彩表又は吸光度計とを少なくとも備えることを特徴とする計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−229147(P2009−229147A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72571(P2008−72571)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発表1(文書をもって発表)・発表文書:講演時使用のスライド(パワーポイントシート)・学術団体:日本分析化学会第56年会・発表場所:徳島大学工学部A会場・発表日時:平成19年9月19日15:30〜15:45 刊行物1・発行所:American Chemical Society・刊行物名:Langmuir 2007,23, 11225−11232・発行日:2007年9月29日
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】