説明

色素センサおよび記録用セット

【課題】有機分子ガスに対する高感度での検出を可能にする。
【解決手段】ブレンステッド塩基である有機ガスを検出する色素センサについて、強酸性基(a)を有する高分子と、前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素(c)とを、モル比(c/a)が1/10〜1/25となるように含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機色素のプロトン授受反応(acidichromism)を利用した色素センサ、および有機色素を用いたリライタブルな記録用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機化合物が揮発等した有機分子ガス(揮発性有機蒸気;以下VOCともいう)に感応して色変化を呈する色素センサが活発に研究されている。例えば、金属錯体薄膜のベイポクロミズム等の利用が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この金属錯体薄膜以外にも、有機色素のベイポクロミズムを利用したVOCに対する色素センサに関する研究報告がある(例えば、非特許文献1参照)。有機色素を含む薄膜は、数質量%以下の微量な色素を分散したポリマー膜が高速、高感度に応答し、しかも易加工性で柔軟性を有し、軽量、低コストである等の利点があるとされている。
【0004】
また、有機色素のプロトン授受反応を利用した色素センサは、有機色素膜以外には例えば光学機器、電気などが不要であるほか、色の変化によりVOCを視覚上簡便に検知、認識することが可能であるため、目的とするVOCの存在や濃度変化等が関連する分野に広く利用が期待されている。
【0005】
一方、記録に用いる筆記具や各種インク、インクジェット記録用の材料は、従来から様々な種類、機能を有するものが提供されているが、一旦記録された文字や画像等を消去することで同じ領域に簡易に複数回の記録が行なえるリライタブル機能を有するものは少ない。
【特許文献1】特開2003−64091号公報
【非特許文献1】I. M. Raimundo Jr., R. Narayanaswamy, Simultaneous determination of relative humidity and ammonia in air employing an optical fibre sensor and artificial neural network Sensors and Actuators B, 74, 60-68 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、有機色素のプロトン授受反応を利用した色素センサについては、これまでVOCに対する感度をはじめ諸性能が充分に検討されるまでには至っていないのが実情である。
【0007】
また、絵や文字等の画像の記録と消去を繰り返し行なう場合、通常は着色のある、いわゆるインク液が用いられており、例えば吸収性の芯材にインク液を吸収させ毛細管現象等を利用して記録を行なうなど使用形態が特定の形態に限られていたり、あるいはインク液で周囲を汚したり、完全に消えず痕跡が残る、広い面積にわたる記録、消去が行なえない等の制限があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、有機分子ガス(VOC)を高感度に検出することができる色素センサ、並びに記録形態(文字幅や書体、記録面積等)の選択性が広く、記録および消去が簡便であり、きれいに消去できて鮮明な記録を繰り返し行なえる記録用セットを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> ブレンステッド塩基である有機ガスを検出する色素センサであって、
強酸性基を有する高分子と、前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素とを含み、前記カチオン性有機色素(c)および前記強酸性基(a)のモル比(c/a)が1/10〜1/25である色素センサである。
<2> 前記有機ガスが、アミン系誘導体であることを特徴とする前記<1>に記載の色素センサである。
<3> 基材上に、強酸性基を有する高分子、および前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素を、前記カチオン性有機色素(c)および前記強酸性基(a)のモル比(c/a)が1/30〜1/50の比率で含む高分子膜を有する被記録体と、前記カチオン性有機色素に対するブレンステッド塩基である有機物を含有し、前記被記録体の前記カチオン性有機色素を変色させて記録する記録液と、変色された前記カチオン性有機色素にプロトン付加する化合物を含有し、前記記録を消去する消去液と、を備えた記録用セットである。
<4> 前記有機物がアミン系誘導体であって、前記化合物が酸であることを特徴とする前記<3>に記載の記録用セットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機分子ガス(VOC)を高感度に検出することができる色素センサ、並びに、記録形態(文字幅や書体、記録面積等)の選択性が広く、記録および消去が簡便であり、きれいに消去できて鮮明な記録を繰り返し行なえる記録用セットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の色素センサおよび記録用セットについて詳細に説明する。
<色素センサ>
本発明の色素センサは、ブレンステッド(Brφnsted;以下同様)塩基である有機ガスを検出する色素センサであり、強酸性基を有する高分子と、前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素とを含み、前記カチオン性有機色素(c)および前記強酸性基(a)のモル比(c/a)を1/10〜1/25の範囲として構成したものである。
【0012】
本発明の色素センサにおいては、強酸性基を有する高分子に該強酸性基を介してカチオン性有機色素が結合されると共に、カチオン性有機色素には該強酸性基からプロトンが与えられて受容可能な範囲の当量のプロトンが付与されている。このとき、プロトンを与える高分子中の強酸性基のモル量と、この強酸性基とイオン結合して存在するカチオン性有機色素のモル量との比率を前記範囲とするので、プロトンが付与されたカチオン性有機色素(ブレンステッド酸)に対する有機ガス(ブレンステッド塩基)の反応性が向上し、有機ガスに感応して検出する際の検出感度を効果的に高めることができる。
【0013】
本発明の色素センサでは、カチオン性有機色素と強酸性基とのモル比(c/a)を1/10〜1/25とする。モル比c/aが、1/10を超える、すなわちカチオン性有機色素に対する強酸性基の量が少なすぎると、応答速度が低下することになり、また、1/25未満、すなわち強酸性基に対するカチオン性有機色素の量が少なすぎると、色変化が小さく視認による判断が困難になってしまう。
前記モル比c/aの中でも、検出感度をより向上させる観点から、好ましくは1/15〜1/25の範囲である。
【0014】
カチオン性有機色素と強酸性基とのモル比(c/a)を求める場合、例えば、高分子(例えばナフィオン)のスルホ基(スルホン酸基)のモル量、CVのモル量を中和滴定(スルホ基)、分光光度計による比色定量により算出することにより測定される。
【0015】
カチオン性有機色素と強酸性基とのモル比(c/a)を前記範囲に調整するには、例えば、所望の高分子を用いた高分子膜を所望のカチオン性有機色素を含有する色素水溶液に接触させる時間を適切に制御した後、膜に付着したカチオン性有機色素を(例えば純水で)洗浄する方法などにより行なえる。
【0016】
「強酸性基を有する高分子」としては、高分子(例えばその側鎖)にスルホン酸基などの強酸性基を有する高分子化合物であれば、公知の高分子化合物から目的等に合わせて選択することができる。具体的な例として、ナフィオン〔例えばAldrich社製の(商品名)Nafion(登録商標)〕などが挙げられ、溶液状にして用いることができる。
【0017】
中でも、雰囲気中の有機ガスを吸着して除去することができ、その後再生使用できる高分子は、センサのみならず浄化材料として機能する点で望ましく、ナフィオンは好適である。
このような場合は、雰囲気中の有機ガスを吸着して除去し可視化することができる。
【0018】
カチオン性有機色素としては、少なくとも1つのカチオン性基を有する色素化合物であれば、公知の色素化合物から目的等に合わせて選択することができる。具体的な例として、メチレンブルー(MB)、クリスタルバイオレット(CV)、フラビリウム(FV)、サフラニン−O、チオニン、ナイルブルーなどが挙げられる。
【0019】
強酸性基を有する高分子とカチオン性有機色素との比率(高分子:色素)は、「カチオン性有機色素と強酸性基とのモル比(c/a)」が前記範囲内にあれば特に制限はないが、一般には1:10〜1:25が望ましく、1:15〜1:25が好ましい。この比率が前記範囲内にあると、VOCの検出感度が向上し、視認により検知できる色変化が得られる。
【0020】
強酸性基を有する高分子とカチオン性有機色素との関係を、ナフィオンとクリスタルバイオレット(CV)を一例に説明する。
下記スキームに示すように、ナフィオン溶液を例えば基材上に塗布(例、基板にNafion117溶液を約2μm厚にスピンコートで塗布)等して薄膜にした場合、その膜面にはスルホン酸基(−SO-+)が存在し、スルホン酸基の存在する膜面をCV(DH)溶液につけるとカチオン交換反応によりCVがイオン吸着する。そして、スルホン酸基のプロトンが吸着したCVの窒素原子に移動し、CVは2当量のプロトンが付加された強酸性状態(DH3+)となって淡い黄色(yellow)を呈する。このとき、CVは、ナフィオンの−SOとの間で強くイオン結合されている。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明の色素センサは、まず所望の高分子を用い、例えば洗浄後の基材上にスピンコート法等の公知の塗布法などで付与する等して、高分子薄膜を形成し、形成された高分子薄膜を所望のカチオン性有機色素を含有する色素水溶液に接触させ、その後(例えば純水で)洗浄、乾燥させることにより作製できる。
【0023】
高分子薄膜を色素水溶液に接触させる方法は、高分子薄膜を色素水溶液に浸漬する、あるいは色素水溶液を高分子薄膜に噴霧、シャワー等により吹き付ける等の方法が好適である。
また、基材の洗浄は、ナフィオン等の高分子を均一に設けて検出感度を高める観点から、メタノール等のアルコールに浸漬し、好ましくは超音波洗浄して、乾燥させる等が好ましい。
【0024】
高分子薄膜の膜厚については、前記モル比(c/a)を満たす範囲であれば制限はなく、加工が容易で柔軟性を有し、軽量、低コストである等の点で、1〜5μmの範囲が望ましい。
【0025】
本発明の色素センサは、下記反応式(1)〜(2)に示すように、プロトン付加されたカチオン性有機色素(DH3+又はDH2+)に対してプロトン受容体(ブレンステッド塩基)として作用する有機ガス(B)を検出するものである。
【0026】
【化2】

【0027】
反応式(1)は、ブレンステッド塩基が弱塩基の場合であって可逆反応を示すが、ブレンステッド塩基が強塩基の場合には、反応式(1)から更に反応式(2)に移行し、反応が右方向に進んで青紫色(blue-violet)を呈した後は、反応式(2)での左方向への反応は進みにくいために非可逆性を示し、色変化は保持される。
【0028】
以下、本発明の色素センサによる有機ガスの検出について、有機ガスとしてアルコールROH(弱塩基)、アミン誘導体RN(強塩基)をプロトン受容体とした場合を例にさらに詳細に説明する。
【0029】
(アルコールROH)
本発明の色素センサをアルコールROHの蒸気に曝した場合、下記スキームに示すように、プロトン付加されたカチオン性有機色素(DH3+;trication)の窒素原子からアルコールにプロトン移動し、DH2+(dication)となって黄色から緑色に変色する。この色素センサを再び大気中に戻すと、反応は左側に進行して再び黄色に戻り、再び色素センサとして使用可能である。
【0030】
【化3】

【0031】
(アミン誘導体RN)
本発明の色素センサをアミン誘導体RNの蒸気に曝した場合には、下記スキームに示すように、まず上記と同様に黄色から緑色(green)を呈した後さらにプロトン移動(前記反応式(1)〜(2)の2段階移動)してD(monocation)となり、鮮やかな紫色(blue-violet)に変色する。このとき、D(monocation)からDH2+(dication)への逆反応は進みにくく、強いブレンステッド塩基を検出する場合は、例えば大気中に戻しても色変化は戻らず、所定期間の蓄積が可能である。特に希薄なアミン誘導体のガスに対しては、長時間曝すことにより鮮やかな紫色を呈し、その後大気中に戻しても褪色しない「蓄積性」を示す。
なお、上記の呈色反応は水蒸気によっては妨げられるものではない。
【0032】
【化4】

【0033】
被検ガスである有機ガスとしては、例えば、アルコール、エーテル、アルデヒド、カルボン酸、エステルなどの比較的塩基の弱いもの(弱いブレンステッド塩基)、トリエチルアミン、各種アミノ酸、カフェイン(1.3.7-トリメチルキサンチン)、ニコチン((S)-3-(1-メチルピロリジン-2-イル)ピリジン)などのアルキルアミン等のアミン誘導体、アンモニア、ピリジン、アニリン誘導体、インドールなどの比較的塩基の強いもの(強いブレンステッド塩基)の検出が可能である。
中でも、本発明の色素センサは、高感度での検出が可能で色変化(履歴)を保持できる点から、アミン誘導体の検出用センサとして好適である。
【0034】
なお、本発明の色素センサは、高感度であり、有機ガスの検出濃度は1ppm以下の低濃度であってもよく、例えば0.02ppmの低濃度でも検出可能である。
【0035】
また、本発明の色素センサは、後述する酸(例えば希塩酸、希硫酸)などを用いて色変化、除去能力を回復することが可能であり、例えば、極希釈硫酸液のスプレー散布などで除去能力を再現させることで容易に再利用することができる。
【0036】
本発明の色素センサは、低濃度のVOCの検出が可能であり、例えば、魚肉類等の食品類の鮮度ないし腐敗検知用センサ、作業環境や住環境の空気成分モニター用センサ、ガスを吸着した際に呈色することで「センス」する空気中のアミン系ガスの除去装置へのセンサー応用など、広い分野に適用することができる。
【0037】
<記録用セット>
本発明の記録用セットは、基材上に、強酸性基を有する高分子、および前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素を、前記カチオン性有機色素(c)および前記強酸性基(a)のモル比(c/a)が1/30〜1/50の比率で含む高分子膜を有する被記録体と、前記カチオン性有機色素に対するブレンステッド塩基である有機物を含有し、前記被記録体の前記カチオン性有機色素を変色させて記録する記録液と、変色された前記カチオン性有機色素にプロトン付加する化合物を含有し、前記記録を消去する消去液と、を設けて構成されたものであり、同じ領域に記録と消去とを複数回繰り返し行なえるリライタブルタイプの記録用材料である。
【0038】
本発明の記録用セットにおいては、記録がされる被記録体を、強酸性基(a)を有する高分子、および前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素(c)を、モル比(c/a)が1/30〜1/50の比率で含む高分子膜を用いた構成とすることで、プロトン付与されたカチオン性有機色素(ブレンステッド酸)に対する有機物(ブレンステッド塩基)の反応性が向上するので、高感度で発色濃度の高い記録が行なえると共に、記録および消去が簡便であり、きれいに消去できて鮮明な記録を繰り返し行なえる。
【0039】
本発明の記録用セットでは、カチオン性有機色素と強酸性基とのモル比(c/a)を1/30〜1/50とする。モル比c/aが、1/30を超える、すなわちカチオン性有機色素に対する強酸性基の量が少なすぎると、応答速度が低下することになり、また、1/500未満、すなわち強酸性基に対するカチオン性有機色素の量が少なすぎると、色変化が小さく発色濃度が低くなってしまう。
【0040】
〜被記録体〜
被記録体は、基材上に少なくとも一層の高分子膜を有してなり、必要に応じて他の層が積層されていてもよい。高分子膜は、強酸性基を有する高分子の少なくとも一種と、カチオン性有機色素の少なくとも一種とを含み、カチオン性有機色素は前記高分子の強酸性基によりプロトン付加されている。
【0041】
また、高分子膜は、目的等に応じて、更に無機または有機粒子(例えばシリカ粒子)やバインダー成分等の他の成分を用いて構成することができる。例えばインクジェット記録用の記録媒体として構成することも可能であり、この場合にはシリカ粒子及び/又はバインダー成分を用いることが好ましい。
【0042】
前記無機または有機粒子としては、無機粒子として例えば、シリカ粒子、二酸化チタン、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛などの粒子が挙げられ、有機粒子として例えば、乳化重合、分散重合などにより得られるポリマー粒子、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの粒子等が挙げられる。
【0043】
前記バインダー成分としては、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、エーテル結合を有する樹脂、ゼラチン類などを用いることができる。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂である。
【0044】
被記録体を構成する高分子膜に含有する「強酸性基を有する高分子」、カチオン性有機色素の詳細およびこれらの好ましい形態については、既述の本発明の色素センサにおける場合と同様である。また、「強酸性基を有する高分子」とカチオン性有機色素との関係、発色機構についても既述の通りである。
また、無機または有機粒子、並びにバインダー成分の含有量については、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択することができる。
【0045】
被記録体は、所望の基材を洗浄した後、この基材の上に「強酸性基を有する高分子」を含む高分子溶液を、スピンコート法等の公知の塗布法による塗布などにより高分子膜を形成し、形成された高分子膜を所望のカチオン性有機色素を含有する色素水溶液に接触させ、その後(例えば純水で)洗浄、乾燥させることにより作製できる。
【0046】
このときのモル比(c/a)の調整も、既述の色素センサの場合と同様に、例えば高分子膜を色素水溶液に接触さする時間を適切に制御した後、膜に付着したカチオン性有機色素を(例えば純水で)洗浄する方法等によって行なえる。
【0047】
基材としては、特に制限はなく任意の材質、形状のものを目的等に応じて選択することができ、例えば、アルカリガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス等の公知のガラス、ポリエステル等のプラスチックス、あるいは不透明紙、例えば再生PET紙などが挙げられる。具体的には、板材、シート材、フィルム材、造花等が好適であり、ガラス板や紙のような可撓性を持たせる場合はプラスチックフィルムやシートなどが使用できる。
基材の厚みについては、所望に応じて選択すればよく、また、ナフィオン等の高分子膜を均一に設ける観点から、メタノール等のアルコールなどによる洗浄や超音波洗浄が行なわれることが好ましい。
【0048】
また、高分子膜は、基材の片側の表面のみに設けるようにしてもよいし、両側の表面に設けてもよい。
【0049】
〜記録液〜
本発明における記録液は、被記録体の高分子膜中のカチオン性有機色素に対するブレンステッド塩基である有機物の少なくとも一種を含有し、カチオン性有機色素を変色させて所望の画像を顕在化し、記録を行なうものである。記録液は、必要に応じて更に粘度調整剤などの他の成分を用いて構成することができる。
【0050】
「ブレンステッド塩基である有機物」は、カチオン性有機色素(ブレンステッド酸)からのプロトンを受容することができる有機化合物である。かかる有機物には、例えば、アルコール、エーテル、アルデヒド、カルボン酸、エステル、並びにトリエチルアミン、各種アミノ酸などのアルキルアミン等のアミン誘導体などを用いることができ、特に非揮発性のアミノ酸が好ましい。
【0051】
前記「ブレンステッド塩基である有機物」は、溶解可能な溶媒、例えば、水系媒体、有機溶剤に溶解して使用できる。水系媒体には、水および、水と水に相溶性の有機溶剤との混合溶媒などが含まれ、安全性の点で、水系媒体(特に水)が好ましい。また、有機溶剤には、メタノール、エタノール、アセトンなどが含まれる。
本発明においては、使用時の安全性の点で、水溶液が好ましい。
【0052】
記録液中の「ブレンステッド塩基である有機物」の含有濃度としては、2%〜5%が好ましい。
【0053】
〜消去液〜
本発明における消去液は、前記記録液により変色されたカチオン性有機色素にプロトン付加する化合物の少なくとも一種を含有し、被記録体上の記録を消去するものである。
【0054】
「カチオン性有機色素にプロトン付加する化合物」は、前記記録液中の有機物の作用により変色したカチオン性有機色素に再びプロトン付加できる化合物である。かかる化合物には、例えば、希塩酸、希硫酸、希硝酸等の酸などを用いることができる。
【0055】
前記「カチオン性有機色素にプロトン付加する化合物」は、溶解可能な溶媒、例えば、水系媒体、有機溶剤に溶解して使用できる。水系媒体および有機溶剤の詳細および好ましい態様については、記録液と同様であり、使用時の安全性の点で水溶液が好ましい。
【0056】
消去液中の「カチオン性有機色素にプロトン付加する化合物」の含有濃度としては、0.1mol/l〜1mol/lが好ましく、0.1mol/l〜0.2mol/lがより好ましい。
【0057】
記録液および消去液は、例えば、任意の断面径の吸収性芯材に吸収させたり、筆に付ける等、任意の使用形態を選択することができ、所望とする絵や文字などの画像を記録し、消去することができる。
【0058】
さらに、本発明の記録用セットは、被記録体をインクジェット記録用に構成すると共に、記録液および消去液をインクジェットヘッドに装填して吐出するインクジェット記録液として用いることもできる。
【0059】
本発明の記録用セットは、所望サイズの被記録体の高分子膜の膜上に、高分子膜の組成に対応させて調製された記録液を、例えば筆につけあるいはヘッドから吐出して所望の画像を描くと、記録液で描かれた領域のみ変色を起こして文字や絵柄などの画像を記録できる。記録後、画像部分に重ねて消去液を、例えば別の筆につけあるいはヘッドから吐出して塗ると、塗った部分のみが消色して画像消去することができる。
また、消去後は、さらに消去部分に重ねてあるいは重ねないで、記録液で描くと最初に記録した場合と同様の色相、色濃度の画像が得られる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0061】
(実施例1):色素センサの作製
市販のポリエステルシートを50mm×50mmに切り取り,メタノール中に1時間浸して洗浄後、乾燥させた。このポリエステルシートの一方の表面に、5%のNafion117溶液(Aldrich社製)1.0±0.1gを滴下し、スピナー(K359SD−270A、共和理研社製)によりスピンコートして薄膜(Nafion薄膜)とした。このとき、スピンの回転速度および時間は、「回転数200r.p.m.×15秒間」+「回転数600r.p.m.×10秒間」+「回転数1200r.p.m.×10秒間」と段階的に制御した。
【0062】
次に、形成されたNafion薄膜を80℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。乾燥したNafion薄膜を色素水溶液(クリスタルバイオレット(CV)を5.0×10−4mol/l含有)に3秒間浸した後、純水で洗浄し、ドライヤーにより熱風乾燥した。
【0063】
ここで、Nafion薄膜の表面に付着したCVの量について、Nafion薄膜のスルホン酸基のモル量とCVのモル量とを中和滴定(スルホ基)と分光光度計による比色定量により求めたところ、それぞれ1.46×10−6mol、8.40×10−8molであった。これらの値から、CV(c)とスルホン酸基(a)のモル比(c/a)は1/17.4であった。
【0064】
〈試験1〉
乾燥後、これを25mm×10mm片に切って色素センサとした。
なお,未使用の色素センサは、空気中の微量アンモニアやアミン系ガスによる着色を避けるため、バイアル瓶に入れて軽く蓋をし(又はチャック付ポリ袋(ポリエチレン製)に入れて)密封して室温(25℃)で保存した。
【0065】
得られた色素センサを、図1に示すように、生マグロ片2gと共に容積60cmの容器内に入れて密閉し、室温(25℃)下で経時での色素センサの色変化を観察して腐敗検知を試みた。このとき、水蒸気の存在で色素センサは黄色から緑色に変色がみられるため、生マグロ片を入れた容器とは別に、水蒸気と共に同容積の容器内に入れた色素センサの色変化をリファレンス(25℃)とした。
【0066】
その結果、図1のように、5時間程度で生マグロの容器内の色素センサに色変化〔緑色(dication)→紫色(monocation)〕が生じはじめ、7.5時間程度で完全に紫色に変色した。この色変化に伴ない、腐敗臭がみられた。
一方、湿った脱脂綿を入れたリファレンス側の色素センサは、水蒸気により淡緑色のままであった。
【0067】
以上から、魚肉類など食品類の腐敗の有無、進行度を検知等する簡易センサとして好適に利用できることがわかる。
【0068】
〈試験2〉
約1.0Lの容器内(温度20℃、湿度50〜60%RH)にトリエチルアミン(TEA)を導入(濃度=0ppm、0.6ppm、1.2ppm、2.9ppm、5.8ppm、12ppm)した中に、上記の色素センサを入れて経時での色変化を観察した。色変化は、全面積に対する紫色に変色した面積の割合を目視により求め、これを感度を評価する指標とした。結果は図2に示す。
図2に示すように、低濃度のTEA雰囲気中での検出も可能であり、高感度であった。
【0069】
〈試験3〉
化学試料を用いる室内(アミン及びアミド含有濃度約0.03ppm、気温22℃)に、上記の色素センサを置き、経時での色変化を観察した。その結果、図3に示すように、約6〜10時間経過したところで黄色から紫色への変色が見られ、21時間でほぼ全領域が紫色に変色した。なお、変色が端から進行するのは、アミン等ガスが色素センサで吸着除去されて濃度差が生じているためと推測される。
以上のように、極低濃度の雰囲気でも検出が可能であり、高い感度を有していた。
【0070】
以上から、作業環境や住環境などを調査、モニタ等する環境用の簡易センサ、ガスを吸着した際に呈色することで「センス」する空気中のアミン系ガスの除去装置へのセンサ応用として好適に利用できることがわかる。
本発明の色素センサは、アミン系ガス濃度0.02ppm〜5%以上での吸着が確認されており、低濃度から高濃度での吸着作用で、吸着済み領域から次第に呈色して、基材全体に呈色域が及ぶことで除去能力の終止を確かに知ることができる。この場合、既述の基材を適宜選べるので、フィルム状、棒状、あるいは造花などの種々の形状が可能である。また、基材の色、呈色材を選択することで、色の組合せが可能である。勿論、極希釈硫酸液のスプレー散布などで除去能力を再現させることで、除去装置を異動せずに稼動を容易
に再開することができる。
【0071】
(実施例2):記録用セットの作製
市販のポリエステルシートを50mm×50mmに切り取り、メタノール中に1時間浸して洗浄後、乾燥させた。なお、ポリエステルシート以外にも、所望の適当な不透明紙、例えば再生PET紙などを用いてもよい。
【0072】
洗浄、乾燥後のポリエステルシートの一方の表面に、20%のNafion117溶液(Aldrich社製)1.0±0.1gを滴下し、スピナー(K359SD−270A、共和理研社製)によりスピンコートして薄膜(Nafion薄膜)とした。このとき、スピンの回転速度と時間は、「回転数200r.p.m.×15秒間」+「回転数600r.p.m.×10秒間」+「回転数1200r.p.m.×10秒間」と段階的に制御した。
【0073】
次に、形成されたNafion薄膜を80℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。乾燥したNafion薄膜を色素水溶液(クリスタルバイオレット(CV)を5.0×10−4mol/l含有)に60秒間浸した後、純水で洗浄し、ドライヤーにより熱風乾燥した。このようにして、リライタブル基板を作製した。
【0074】
ここで、Nafion薄膜の表面に付着したCVの量について、Nafion薄膜のスルホン酸基のモル量とCVのモル量とを中和滴定(スルホ基)と分光光度計による比色定量により求めたところ、それぞれ1.03×10−6mol、2.94×10−8molであった。これらの値から、CV(c)とスルホン酸基(a)のモル比(c/a)は1/35であった。
【0075】
次に、リシン(アミノ酸)を、メタノールと水との1:1混合溶媒に溶解して、約3%の着色液(記録液)を調製した。
これとは別に、0.2mol/lの希塩酸水溶液を準備し、消色液(消去液)とした。
【0076】
そして、上記の着色液を小筆につけ、上記より得たリライタブル基板に塗ったところ、所望の絵や文字を鮮やかな紫色で描くことができた。続いて、別の小筆に上記の消色液をつけ、描かれた絵や文字に重ねて塗ったところ、これらの絵などを簡単に痕跡なく完全に消すことができた。
消色液が乾燥した後、再び着色液を小筆につけて消色した領域に塗ったところ、初めと同様の鮮やかな絵や文字を描くことができた。さらに、別の小筆にて消色液を描かれた絵等に重ねて塗ったところ、やはり簡単に痕跡なく完全に消去することができた。このように、10回以上の書き換えを行なった後も画質は劣らなかった。
また、描いた絵や文字は、アミンガスに汚染されず、空気下に保管しても1週間以上安定に保持できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】試験1の試験方法および試験1における色素センサの色変化を示す図である。
【図2】試験2におけるTEA濃度と色変化との関係を説明するための説明図である。
【図3】試験3における希薄濃度下での色変化による検出を説明するための説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレンステッド塩基である有機ガスを検出する色素センサであって、
強酸性基を有する高分子と、前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素とを含み、前記カチオン性有機色素(c)および前記強酸性基(a)のモル比(c/a)が1/10〜1/25である色素センサ。
【請求項2】
前記有機ガスが、アミン系誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の色素センサ。
【請求項3】
基材上に、強酸性基を有する高分子、および前記高分子と結合し、前記強酸性基によりプロトン付加されたカチオン性有機色素を、前記カチオン性有機色素(c)および前記強酸性基(a)のモル比(c/a)が1/30〜1/50の比率で含む高分子膜を有する被記録体と、
前記カチオン性有機色素に対するブレンステッド塩基である有機物を含有し、前記被記録体の前記カチオン性有機色素を変色させて記録する記録液と、
変色された前記カチオン性有機色素にプロトン付加する化合物を含有し、前記記録を消去する消去液と、
を備えた記録用セット。
【請求項4】
前記有機物がアミン系誘導体であって、前記化合物が酸であることを特徴とする請求項3に記載の記録用セット。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−8761(P2008−8761A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179557(P2006−179557)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】