説明

色素レーザ用レーザ媒質、色素レーザ発振装置およびレーザ光

【課題】循環冷却が可能な液状でありながら、不燃性の溶媒としてもその影響を受けることなく劣化速度の遅い色素レーザ媒質、並びにそれを用いてレーザ光を発振させる装置を提供する。
【解決手段】蛍光色素を含有するシリカ粒子のコロイド分散物からなる色素レーザ用レーザ媒質。並びに、このレーザ媒質を用いた色素レーザ発振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素レーザ用レーザ媒質、色素レーザ発振装置、およびレーザ光に関し、詳しくは蛍光色素を含有するシリカ粒子のコロイド分散物を用いた色素レーザ用レーザ媒質、当該レーザ媒質を用いた色素レーザ発振装置、および当該色素レーザ発振装置から放出されるレーザ光に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機蛍光色素をレーザ媒質として用いる色素レーザは発振波長の設計自由度が高いという長所を持つ反面、ランタノイドイオンや希ガス気体原子をレーザ媒質とするタイプのレーザと比較して、色素分子の劣化が励起光による温度の上昇によって進行しやすいとう問題点をかかえていた。この蛍光色素分子の劣化を抑制するため、従来、高出力のタイプのレーザ発振装置では蛍光色素分子を適切な媒体中に分散させてその溶液を循環冷却させる方式がとられている。さらに、特許文献1に記載されているように、蛍光色素溶液をレーザ発振させる部分でジェット噴射させ、励起光にさらされる時間を極力短くすることなども行われている。
また、従来、色素レーザは、基本的にパルス発振を行うものである。CW励起に比べ、パルスレーザでは励起の強さが2桁くらい大きく、このため励起される色素の劣化による製品寿命の短さが色素レーザの問題点となっていた。
【0003】
上記のレーザ媒質色素の抗劣化対策を実施するにはレーザ媒質が液状でなければならないが、その場合、媒体分子もしくはその変異体が色素分子に対して有害な相互作用を働き、蛍光色素分子の劣化を進める要因となっていた。特に水は、強力な励起光の照射によって酸化力の強いラジカルが発生しやすく、色素分子を安定に分散させる溶媒としてはふさわしくなかった。そのため、特許文献2などで指摘されているように、色素を劣化させる作用の小さな有機溶媒(エタノールなど)を選択する必要があるが、一般に有機溶媒は可燃性で、レーザ発振システムのように高温部を持つ装置内で使用する場合は故障などの原因で火災を引き起こす危険性を持つなどの問題点を有していた。
【特許文献1】特開平09−275235号公報
【特許文献2】特開平11−204892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
循環冷却が可能な液状でありながら、用いる溶媒にかかわらず劣化速度の遅い色素レーザ媒質、並びにそれを用いてレーザ光を発振させる装置およびレーザ光を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)蛍光色素を含有するシリカ粒子のコロイド分散物からなる色素レーザ用レーザ媒質、
(2)前記蛍光色素が、フルオレセイン化合物、スチルベン化合物、クマリン化合物、ローダミン化合物、オキサジン化合物、DOTC化合物、またはHITC化合物であることを特徴とする(1)項記載の色素レーザ用レーザ媒質、
(3)分散媒として水又は水性溶媒(水溶性有機溶媒と水の混合液)を用いたことを特徴とする(1)または(2)項記載の色素レーザ用レーザ媒質、
(4)前記シリカ粒子の平均粒径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の色素レーザ用レーザ媒質、
(5)前記シリカ粒子が色素を有するコアと色素を有さないシェルからなるコア−シェル構造を持つことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の色素レーザ用レーザ媒質、
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の色素レーザ用レーザ媒質を用いる色素レーザ発振装置、および
(7)(6)記載の装置から放出されたレーザ光
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の色素レーザ用レーザ媒質は、循環冷却が可能な液状でありながら、溶媒の影響を受けることなく、劣化速度を抑制することができる。また、分散媒として低コストかつ無害で不燃性の水を用いることができる。また、用いる色素分子の種類により、400〜950nmの全Si感度波長域(可視+近赤外)を網羅することができる。また、本発明の色素レーザ発振装置は、用いられる色素の劣化が抑えられ、製品の寿命を長くすることができる。
本発明のレーザ光は、可視光波長域を網羅可能なので、光学測定用の光源を始め、視覚的な装飾の光源やホログラム撮影用光源として好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明色素レーザ用レーザ媒質は蛍光色素を含有するシリカ粒子のコロイド分散物からなるものである。
色素レーザ用の蛍光色素としては、特に限定されるものではないが、例えば、フルオレセイン化合物、スチルベン化合物、クマリン化合物、ローダミン化合物、オキサジン化合物、DOTC(ジエチルオキサトリカルボシアニンイオダイド)化合物、HITC(ヘキサメチルインドトリカルボシアニンイオダイド)化合物などが挙げられる。
【0008】
本発明において、「シリカ粒子のコロイド分散物」とは、シリカ(二酸化ケイ素)を主成分(通常50質量%以上の含有量)とするシリカ粒子がコロイド粒子として、液体にコロイド分散しているものである。また、本発明において「コロイドシリカ粒子」とは、上記シリカ粒子のコロイド分散物に含まれるコロイド粒子のことを意味するものである。本発明においては、コロイドシリカ粒子が蛍光色素を含有するものである。本発明において、コロイドシリカ粒子は、好ましくは蛍光物質とシリカ成分とが化学的に結合もしくは吸着してなる粒子である。コロイドシリカ粒子においては、蛍光物質がコロイドシリカ粒子の内部から表面まで前記コロイドシリカ粒子全体に分布していても良いし、吸光物質とシリカ成分とが化学的に結合もしくは吸着してなる粒子を、シリカ成分で被覆したコア−シェル構造を有していても良く、好ましくは色素を有するコアと色素を有さないシェルからなるコア−シェル構造を有しているものである。
【0009】
本発明において、好ましくはコロイドシリカ粒子中には蛍光物質が固定化された状態にあり、コロイドシリカ粒子当たり蛍光色素分子が10から10個以上含まれることが好ましい。
【0010】
本発明においては、通常、分散媒分子がシリカ粒子内部に浸透してくることはなく、分散媒が色素分子に悪影響を与えることはない。したがって最も扱いやすい分散媒を選択することができる。好ましくは水または有機溶媒を用いるものであり、分散媒として、さらに好ましくは低コストかつ無害で不燃性である水であり、特に好ましくは純水である。
また、有機溶媒としては、従来の色素レーザ媒質の媒体として用いられている任意の有機溶媒を用いることができるが、特に、水溶性有機溶媒と水を混合した水性溶媒を用いるのが望ましい。例えば、エチルアルコール、メチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、アセトン等の水溶性有機溶媒を用いる場合は、有機溶媒を水で火災などの危険性のないレベルまで希釈して用いることができる。
本発明においては、シリカ粒子がコロイドの形で液中分散していれば、既存の色素レーザシステム用循環冷却機構において特別な設計変更することなく用いることができる。シリカ粒子の分散方法は特に限定されるものでなく、従来用いられている任意の分散方法を用いることができる。
【0011】
本発明に用いられるコロイドシリカ粒子の平均粒径は、好ましくは10nm以上100nm以下である。コロイドシリカ粒子の粒径が100nm以下であれば可視光波長帯の励起光もしくは蛍光に対するレイリー散乱が小さく、通常光損失によるレーザ発振効率の低下が問題になることもなく好ましい。また、シリカ粒子の平均粒径の下限値は、10nm以上であることが好ましい。その理由は、シリカ粒子の粒径が小さくなりすぎると、粒子の分散性が低下し、粒子同士が凝集しやすくなり、凝集による光損失が大きくなるからである。
また、上記のレイリー散乱の強度は、例えば理化学辞典(第5版)の[レイリー散乱]の項に示されているように、
【0012】
【数1】

【0013】
で与えることができるからである。ここでIは散乱光強度、Iは入射光強度、θは散乱角、Nは単位体積あたりの散乱体の数、αは散乱体の分極率、γは散乱体群からの観測点までの距離、λは光の波長である。散乱体が体積Vの場合
【0014】
【数2】

【0015】
で与えられるので、レイリー散乱の強度は、散乱体の大きさ(粒径)の6乗に比例する。従って、光損失によるレーザ発振効率の低下を抑制する観点で見ると、粒径はより小さいほうが好ましい。図4に、平均粒径が異なる0.2mg/mlのシリカコロイド水溶液の光散乱スペクトルを示す。図4において、曲線31は平均粒径50nm、曲線32は平均粒径100nm、曲線33は平均粒径200nmの、それぞれシリカ粒子が分散されたシリカコロイド水溶液の光散乱スペクトルである。図4に示されるように、シリカ粒子の粒径が小さくなるほど光損失が少なくなっていることがわかる。
【0016】
ただし、粒径が小さくなると分散媒分子との相互作用を持つ粒子表面部(好ましくは、色素分子の大きさ程度の厚さとする)の比率が高まってしまい、分散媒分子の影響による色素劣化の影響が大きくなってしまう。このため、蛍光色素を含有するシリカ粒子を合成した後に粒子表面に色素を含有しないシリカのシェル層を形成し、コア−シェル構造とすることで表面部に含有している色素分子と溶媒分子との相互作用を絶つことが好ましい。
【0017】
従来、色素分子がそのまま分散媒中に分散した状態ではエネルギー遷移という現象が発生してしまうために蛍光波長の異なる複数の色素が混在していると一般に最も長波長の蛍光しか取り出せなかったが、本発明においては、色素分子をコロイドシリカ粒子に閉じ込めることでエネルギー遷移の発生を抑制することができ、異なる波長の蛍光を同時に取り出すことが可能となる。従って、本発明のレーザ媒質を用いることで、単一の共振器系で複数波長のレーザ発振が実現されることになり、波長が十分離れた組み合わせ、例えば、スチルベン、クマリン、ローダミンの組み合わせなどで得られる3原色の蛍光をレーザ発振させれば、単一共振器で白色レーザを発振させることも可能となる。
【0018】
本発明に用いられるコロイドシリカ粒子は、例えば、蛍光色素とシラン化合物とを反応させ、共有結合、イオン結合その他の化学的に結合もしくは吸着させて得られた生成物に1又は2種以上のシラン化合物を重合させることにより調製することができる。本発明に用いられるコロイドシリカ粒子の調製法として、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する前記蛍光色素と、それら活性基と対応して反応する置換基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基)を有するシランカップリング剤とを反応させ、共有結合させて得られた生成物に1又は2種以上のシラン化合物を重合させることにより調製するのが好ましい。
【0019】
例えば、NHSエステル基を持つ蛍光色素分子は、蛍光色素分子とNHSとのエステル化反応により調製することができる。但し市販のものを入手することも可能である。前記アミノ基を有するシランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。中でも、APSが好ましい。
【0020】
次いで前記蛍光色素/シランカップリング剤複合化合物をシリカ化合物と反応さてシリカ粒子を作成することが好ましい。前記シリカ化合物としては、特に制限はないが、テトラエトキシシラン(TEOS)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、及び3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシランを挙げることができる。中でも、TEOS、MPS又はAPSが好ましい。
【0021】
上記により合成されたシリカ粒子を含む溶液を遠心分離や限外ろ過によって洗浄し、溶質である各種シランカップリング剤(蛍光色素/シランカップリング剤複合化合物を含む)を除去して得られたシリカ粒子を、水などの溶媒に常法により分散させ本発明のレーザ媒質としても良いが、前述のように、当該シリカ粒子を、蛍光色素を加えずに再度シリカ原料のシランカップリング剤を投入して合成を再開し、粒子の表面付近に位置する蛍光色素分子を保護するシリカのシェル構造を形成させた、コア−シェル構造のシリカ粒子を作成してコロイドシリカ粒子として用いることが好ましい。このときのシランカップリング剤として、TEOS、MPS又はAPSが好ましい。図5に、本発明のレーザ媒質に用いられるコア−シェル構造を有するコロイドシリカ粒子の一例の走査型電子顕微鏡写真を示す。図5において示されるコロイドシリカ粒子は、平均粒径30nmのシリカナノコロイド粒子であることが示されている。
【0022】
次に本発明の色素レーザ発振装置について説明する。本発明の色素レーザ発振装置は、上記の蛍光色素を含有するシリカコロイド溶液からなる色素レーザ用レーザ媒質を用いるものであれば特に限定されるものではないが、蛍光色素の光吸収帯域に合わせたレーザ光を励起光源とする場合は、図3に示されるようなリング共振器構造のレーザ発振装置を用いるのが望ましい。図3に示されるレーザ発振装置においては、共振器が4つのミラーM(11)、M(12)、M(13)、M(14)で構成されている。ここでは、アルゴンイオンレーザ15からミラー16で反射されたレーザ光によって励起されたレーザ媒質17の流れが上記4つのミラーM(11)〜M(14)で構成される共振光学系の途上に位置しており、共振しているレーザ光の一部が反射率を下げられているミラーM(14)を透過し、外部へと取り出される。共振光学系の途上に光アイソレータ18を配置し、光共振を一方向に限定して、レーザ光の取り出し効率を高めている。また、共振光学系の途上に、薄いファブリ‐ペローエタロン19、厚いファブリ‐ペローエタロン20、及び複屈折フィルタ21からなるキャビティ型共振器を配置し、マルチモード発振を抑制してレーザ光を単一モード発振させている。さらに、共振光学系の途上に一対の透明誘電体板22を配置し、おのおのの光軸に対する角度をミラー対称的に変化させることで共振器長を変化させることができ、レーザの発振波長を連続的に変化させることを可能としている。また、図3で黒矢印は光の流れを示す。
【0023】
本発明の色素レーザ用レーザ媒質は、高濃度コロイド分散物(分散液)の形で密封されたカートリッジに入れられて保存・販売されることが好ましい。また、保存時の光退色を抑制するためにカートリッジは遮光性の材質であることが好ましい。
ユーザーが本発明の色素レーザ用レーザ媒質を使用する際の一例を説明する。まず、レーザ発振装置のタンクを純水で満たし、その中にカートリッジから取り出したコロイド分散液を添加する。しばらくレーザ媒質溶液を循環させることでコロイド分散液をよく撹拌させた後に、励起光を照射してレーザ発振させる。色素の退色や別の色素を用いるためにレーザ媒質を取り替える場合は、まず装置のタンクを満たしている取り替えられるべきコロイド分散液を抜き取り、次に装置内に純水を循環させて装置内のコロイド粒子を洗浄・除去し、最後に新しい色素コロイド分散液を前記の方法で装置内に循環させる。これにより、装置からレーザ光を放出することができる。本発明のレーザ光は、また、色素分子の種類により、400〜950nmの全Si感度波長域(可視+近赤外)を網羅することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
2mgのNHS−フルオレセインと1μlのAPSを、1mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で、室温、1時間反応を行い、フルオレセイン色素/シランカップリング剤複合体溶液を得た。
フルオレセイン/シランカップリング剤複合体溶液40μlと、14%アンモニア水溶液0.8ml、エタノール3.2ml、TEOS40μlを加え、室温で、24時間反応を行った。
【0026】
反応液を10,000×gで60分間遠心分離を行い、上清を除去した。同様の手法でエタノールと純水による洗浄を2回ずつ行い、TEOS、フルオレセイン/シランカップリング剤複合体及び有機溶媒を除去して平均粒径60nmのフルオレセイン含有シリカ粒子を得た。このフルオレセイン含有シリカ粒子1mg相当(乾燥重量換算)を10mlの水に分散させて、シリカ粒子のコロイド分散液を作成した。作成したシリカコロイド分散液について時間による光ルミネッセンス(PL)強度の変化を測定した。結果を図1に示す。合わせて、フルオレセイン分子の1μM(Mはmol/l)水溶液の光ルミネッセンス強度の時間による変化を測定し、図1に示した。図1では、横軸を経過時間とし、開始時の光ルミネッセンス(PL)強度を1とした場合のPL強度比を示すものである。曲線1はシリカコロイド水溶液を、曲線2は分子水溶液のそれぞれ光退色特性を示す。
【0027】
図1の曲線2に示されるように、フルオレセイン分子水溶液は耐光退色性が劣り、従来は、色素レーザ用のレーザ媒質としては用いられなかった。これに対して、シリカコロイド分散液は、曲線1に示されるように耐光退色性に優れ、図3に示すリング共振器構造のレーザ発振装置のレーザ媒質として用いたところ波長520nmレーザ光を放出することができた。
【0028】
実施例2
2.23mgのNHS−ローダミン(TAMRA)と1μlのAPSを、1mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で、室温、1時間反応を行い、ローダミン/シランカップリング剤複合体溶液を得た。
ローダミン/シランカップリング剤複合体溶液40μlと、14%アンモニア水溶液0.8ml、エタノール3.2ml、TEOS40μlを加え、室温で、24時間反応を行った。
【0029】
反応液を10,000×gで60分間遠心分離を行い、上清を除去した。同様の手法でエタノールと純水による洗浄を2回ずつ行い、TEOS、ローダミン/シランカップリング剤複合体及び有機溶媒を除去して平均粒径60nmのフルオレセイン含有シリカ粒子を得た。このフルオレセイン含有シリカ粒子1mg相当(乾燥重量換算)を10mlの水に分散させて、シリカ粒子のコロイド分散液を作成した。作成したシリカコロイド分散液について時間による光ルミネッセンス(PL)強度の変化を測定した。結果を図2に示す。合わせて、ローダミンB分子の1μM(Mはmol/l)水溶液の光ルミネッセンス強度の時間による変化を測定し、図2に示した。図2で、横軸を経過時間とし、開始時の光ルミネッセンス(PL)強度を1とした場合のPL強度比を示すものである。曲線3はシリカコロイド水溶液、曲線4はローダミンB分子水溶液のそれぞれ光退色特性を示す。
【0030】
図2の曲線3に示されるように、シリカコロイド分散液は分子水溶液に比べ、開始40分を経過して以降もPL強度比は耐光退色性に優れ、図3に示すリング共振器構造のレーザ発振装置のレーザ媒質として用いたところ波長580nmレーザ光を放出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の色素レーザ用レーザ媒質の光退色性を示すグラフである。
【図2】実施例2の色素レーザ用レーザ媒質の光退色性を示すグラフである。
【図3】本発明のレーザ発振装置の一例の概略説明図である。
【図4】シリカコロイド分散液の光散乱スペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の色素レーザ用レーザ媒質に用いられるコロイドシリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0032】
1 フルオレセイン含有シリカコロイド分散液からなる色素レーザ用レーザ媒質のPL強度比を示す曲線
2 フルオレセイン分子水溶液のPL強度比を示す曲線
3 ローダミン含有シリカコロイド分散液からなる色素レーザ用レーザ媒質のPL強度比を示す曲線
4 ローダミン分子水溶液のPL強度比を示す曲線
11 ミラーM
12 ミラーM
13 ミラーM
14 ミラーM
15 アルゴンイオンレーザ
16 ミラー
17 レーザ媒質
18 アイソレータ
19 薄いファブリ‐ペローエタロン
20 厚いファブリ‐ペローエタロン
21 複屈折フィルタ
22 透明誘電体板
31 平均粒径50nmのシリカコロイド分散液の光散乱スペクトル
32 平均粒径100nmのシリカコロイド分散液の光散乱スペクトル
33 平均粒径200nmのシリカコロイド分散液の光散乱スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光色素を含有するシリカ粒子のコロイド分散物からなる色素レーザ用レーザ媒質。
【請求項2】
前記蛍光色素が、フルオレセイン化合物、スチルベン化合物、クマリン化合物、ローダミン化合物、オキサジン化合物、DOTC化合物、またはHITC化合物であることを特徴とする請求項1記載の色素レーザ用レーザ媒質。
【請求項3】
分散媒として水又は水性溶媒を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の色素レーザ用レーザ媒質。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均粒径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素レーザ用レーザ媒質。
【請求項5】
前記シリカ粒子が色素を有するコアと色素を有さないシェルからなるコア−シェル構造を持つことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の色素レーザ用レーザ媒質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の色素レーザ用レーザ媒質を用いた色素レーザ発振装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置から放出されたレーザ光。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−147394(P2008−147394A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332414(P2006−332414)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】