説明

色素化合物、色素化合物の製造方法、およびこれを用いたエレクトロクロミック装置

【課題】色純度が高く、精密な色制御が可能で、鮮鋭かつ明瞭なフルカラー画像表示に寄与可能なイエローの色素化合物と、その色素化合物に好適な製造方法と、これを用いたエレクトロクロミック装置を提供する。
【解決手段】支持基板1、6上に少なくとも透明電極2、7が形成されている一対の電極構造体11、12が、透明電極2、7同士が対面するように、電解質層5を挟持して配置されており、一対の透明電極2、7のうちの、少なくとも一方の上に、所定の構造のピリジン化合物よりなる色素化合物(有機EC色素3)が吸着されている多孔質電極4が形成されたエレクトロクロミック装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色効率、応答速度、表示色純度に優れた、表示装置用途として好適な色素化合物と、この色素化合物の製造方法、およびこれを用いたエレクトロクロミック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、明るく色純度に優れ、かつ省消費電力で、フルカラー表示への応用が容易な表示色素材料やこれを用いた表示素子への要望が高まってきており、従来においては、CRT、LCD、PDP、ELD等の発光型素子に関する多くの技術の提案がなされている。
しかしながら、上記従来公知の各種発光型素子は、ユーザーが発光を直視する形式で使用するものであるため、長時間閲覧すると視覚的な疲労を引き起こすという問題があった。
また、携帯電話等のモバイル機器は、屋外で使用される場合が多く、例えば太陽光下では、発光が相殺されることにより視認性が悪化してしまうという問題が生じていた。
更に、LCDは、発光型素子の中でも特に需要が拡大している技術であり、大型、小型の、様々なディスプレイ用途に用いられているが、視野角が狭く、見やすさの観点からは改善すべき課題を有している。
【0003】
ところで、反射型表示素子に関しては、電子ペーパーの需要向上により、従来から様々な技術の提案がなされている。
例えば、反射型LCDや電気泳動方式が挙げられる。
反射型LCDとしては、二色性色素を用いたG−H型液晶方式や、コレステリック液晶等が知られている。これらの方式は、従来の発光型LCDと比較して、バックライトを使用しないため、省消費電力という利点を有しているが、視野角依存性があり、また光反射効率も低いため、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
他方、電気泳動方式は、溶媒中に分散された電荷を帯びた粒子が、電界によって移動する現象を利用した方式であり、省消費電力で、視野角依存性がないという利点を有しているが、フルカラー化を行う場合には、カラーフィルターを利用する並置混合法を適用する必要があるため、反射率が低下し、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
【0004】
また、近年においては、自動車の調光ミラーや時計等に、エレクトロクロミック(以下、ECと略称する。)素子を用いたものが提案されている。
このEC素子は、偏光板等が不要であり、視野角依存性が無く、発色型で視認性に優れ、構造が簡易でかつ大型化も容易で、更には材料の選択によって多様な色調の表示が可能であるという利点を有している。
【0005】
具体的なEC素子を用いた表示装置の例としては、対の透明電極の少なくとも一方に半導体ナノ多孔質層を設け、この半導体ナノ多孔質層にEC色素を担持させた構成の表示装置について提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
これらの表示装置は、開回路を構成して電極間の電子の移動を遮断し酸化還元状態を保持するだけで表示状態を静止できるので、表示画像を維持するための電力が不要であり、消費電力が極めて低いという点で優れている。
【0006】
また従来から、四級化されたピリジン環を含む構造を有する色素化合物が知られているが、このような色素化合物を合成する方法としては、ピリジン化合物とハロゲン化されたアルキルホスホン酸エステルとを反応させ、その後工程で、塩酸や臭化水素酸等を用いて、ホスホン酸エステルを加水分解し、ホスホン酸構造を形成させる方法が提案されていた(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−248242号公報
【特許文献2】特開2003−270670号公報
【特許文献3】特表2006−519222
【非特許文献1】Solar Energy Materials and Solar Cells 55(1998)215−223
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3、及び非特許文献1に提案されている色素化合物の合成方法においては加水分解工程を有しているため、目的とするエレクトロクロミック色素化合物によっては、好適な構造として抽出できない場合があり、今後において、様々な構造の色素化合物に対応するべく製造方法の改善が望まれていた。
【0009】
また、引用文献1、2に提案されている表示装置においては、ビオロゲンと称されるビピリジン化合物を表示用色素としているが、これは青色の発消色を可逆的に行うものであるため、元々フルカラー表示を行うことを前提していないものである。
フルカラー表示用として必要とされるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)に発色するEC色素を用いた表示装置については、従来、技術開示がなされておらず、更には、従来の表示装置は色純度が低く、精密かつ鮮明な画像表示を行うという点においては、今後の課題とされていた。
【0010】
そこで本発明においては、上述したような従来技術の問題に鑑みて、フルカラー画像形成に寄与し得る色素として、イエローの発消色が可能な有機エレクトロミック色素化合物に関する提案を行うこととし、更には、かかる色素化合物に好適な製造方法について検討を行い、色純度が高く、鮮明な画像形成が可能で、かつ繰り返し耐久性にも優れたエレクトロクロミック装置を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明においては、下記一般式(1)で表される色素化合物を提供する。
【0012】
【化1】

【0013】
但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【0014】
請求項2の発明においては、2,5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールと、下記一般式(2)で表わされる化合物とを反応させる工程を具備する、下記一般式(1)で表わされる色素化合物の製造方法を提供する。
【0015】
【化2】

【0016】
ただし、上記一般式(2)において、Xはヨウ素または臭素を表している。
Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【0017】
【化3】

【0018】
但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【0019】
請求項3の発明においては、支持基板上に少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体(表示電極構造体と対向電極構造体)が、前記透明電極同士が対面するように電解質層を挟持して配置されており、前記一対の電極構造体を構成する透明電極のうち、少なくとも表示電極構造体の透明電極上に、下記一般式(1)の色素化合物が吸着された多孔質電極が形成されており、前記一対の電極構造体間に電圧を印加することにより、イエローの可逆的な発消色を行うことを特徴とするエレクトロクロミック装置を提供する。
【0020】
【化4】

【0021】
但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【0022】
請求項4の発明においては、支持基板上に少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体(表示電極構造体と対向電極構造体)が、前記透明電極同士が対面するように電解質層を挟持して配置されており、前記一対の電極構造体を構成する透明電極のうちの、少なくとも表示電極構造体の上に、下記一般式(1)で表わされる化合物が吸着された多孔質電極が形成されており、前記一対の電極構造体間に電圧を印加することにより、イエローの可逆的な発消色を行うエレクトロクロミック素子と、下記一般式(1)で表わされる化合物に替えて、電圧印加によりシアンの可逆的な発消色を行う色素化合物を適用したエレクトロクロミック素子と、下記一般式(1)で表わされる化合物に替えて、電圧印加によりマゼンタの可逆的な発消色を行う色素化合物を適用したエレクトロクロミック素子とが積層されており、全体としてフルカラー画像を表示することを特徴とするエレクトロクロミック装置を提供する。
【0023】
【化5】

【0024】
但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、明瞭な発消色を多数回繰り返し安定して表示することが可能な、フルカラー画像形成に好適な色素化合物と、かかる色素化合物に好適な製造方法と、この色素を適用した、応答速度、発色効率に優れ、色純度が高く、精密な画像制御が可能なエレクトロクロミック装置が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の色素化合物と、この色素化合物の製造方法、及びこの色素化合物を用いたエレクトロクロミック装置について図を参照して具体的に説明する。
但し、本発明は、以下の例に限定されるものではなく、従来公知の構成を適宜付加することができ、本発明の要旨を何ら逸脱しないものとする。
【0027】
図1に、本発明の色素化合物を表示用色素として用いたエレクトロクロミック装置の一例の概略断面図を示す。
エレクトロクロミック装置10は、支持基板1上に、透明電極2と、後述する本発明に係る色素化合物である有機EC色素3が担持された多孔質電極4とを具備する構成の表示電極構造体11と、支持基板6上に透明電極7と多孔質電極8とを具備する構成の対向電極構造体12とが、電解質層5を介して対向配置された構成を有している。
なお、図1においては、対向する透明電極2、7のいずれにも多孔質電極4、8が形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、必要に応じて一方の電極にのみ多孔質電極を形成させ、この多孔質電極に有機EC色素3を担持させた構成としてもよい。以下、構成要素について順次説明する。
【0028】
支持基板1、6には、耐熱性に優れ、かつ平面方向の寸法安定性の高い材料が好適であり、具体的には、ガラス材料、各種透明性樹脂を適用する。
前記透明性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0029】
透明電極2、7は、所定の透明電極材料層として形成されたものとする。
透明電極形成用材料としては、例えば、In23とSnO2との混合物、いわゆるITO膜や、SnO2またはIn23をコーティングした膜等が挙げられる。
また、上記ITO膜や、SnO2 またはIn23をコーティングした膜にSn、Sb、F等をドーピングしても良く、その他MgOやZnO等も適用できる。
【0030】
多孔質電極4、8は、後述する有機EC色素の高い担持機能を確保するために、表面積が大きい材料により構成することが好適である。例えば、表面及び内部に微細孔を有した多孔質形状、ロット形状、ワイヤ形状、メソポーラス形状、集合粒子状等となっているものが挙げられる。
多孔質電極4、8の材料としては、例えば、金属、真性半導体、カーボン等が適用できるが、酸化物半導体、複合酸化物半導体、有機半導体などが透過率が高く好適である。
金属としては、例えば、Au、Ag、Pt、Cu等が挙げられ、真性半導体としては、例えば、Si、Ge、Te等が挙げられる。酸化物半導体としては、例えば、TiO2、SnO2、Fe23、SrTiO3、WO3、ZnO、ZrO2、Ta25、Nb25、V25、In23、CdO、MnO、CoO、TiSrO3、KTiO3、Cu2O、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等が挙げられる。
複合体酸化物半導体としては、例えば、SnO2−ZnO、Nb25−SrTiO3、Nb25−Ta25、Nb25−ZrO2、Nb25−TiO2、Ti−SnO2、Zr−SnO2、Sb−SnO2、Bi−SnO2、In−SnO2等が挙げられ、特にTiO2、SnO2、Sb−SnO2、In−SnO2が好適である。
有機半導体としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0031】
次に、本発明の色素化合物である有機EC色素3について説明する。
有機EC色素3は、多孔質電極4の表面及び内部の微細孔に担持されているものとし、本発明においては、特に、下記一般式(1)で示される化合物を適用する。
【0032】
【化6】

【0033】
但し、一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。これは弗素イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化燐酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、燐酸イオン、硼弗化水素酸イオン、四弗硼素酸イオン等の無機酸イオン、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ナフタレンジスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンカルボン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、アルキル硫酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオン、テトラシアノキノジメタンイオン等の有機酸イオンから選択されるものとする。
Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【0034】
上記一般式(1)に示す色素化合物の製造方法について説明する。
上記一般式(1)の色素化合物は、2,5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールと、下記一般式(2)で表わされるヨウ素化あるいは臭素化されたアルキルホスホン酸類とを、適当な溶媒中で反応させることによって得られる。
なお、合成の際には、下記一般式(2)の化合物は、2,5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールの2倍モル〜10倍モル用いることが好ましく、2.2倍モル〜4倍モルが特に好ましい。
合成の際に適用する一般式(2)の化合物の比率が上記数値範囲よりも小さいと、未反応の2,5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールが残存してしまい、一方、上記数値範囲を超えると、目的物の精製が困難になることが確かめられており、また、合成上の経済性の面から好ましくない。
【0035】
【化7】

【0036】
但し、上記一般式(2)において、Xはヨウ素または臭素を表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【0037】
上記合成工程においては、従来公知の極性溶媒を適用する。
例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒が挙げられ、特にN,N−ジメチルホルムアミドが好適なものとして挙げられる。
反応温度は、室温〜還流温度が好ましく、更には、70℃〜120℃が好適である。温度が低すぎると反応が充分に進行しなくなり、他方、高すぎると生成物の品質が劣化するためである。
反応後、生成物を反応溶媒中で析出させ、これを濾過し、洗浄処理、あるいは再結晶処理等の精製処理を施し、目的とする色素化合物の純品が得られる。
【0038】
なお、上記一般式(1)の色素化合物においては、前記但し書きに示す各種官能基のうち、適宜選定した構造の全てについて合成でき、またいずれにおいても本発明の目的である、明瞭かつ鮮鋭で、繰返し特性が良好な発消色表示が可能であることが確かめられた。
【0039】
上記一般式(1)は、2価として表記されているが、発色の際には、還元反応により1価のラジカル状態となる。
この色素化合物は、1価の状態に安定化させることができ、表示装置用のイエロー発色色素として極めて有用である。
上記一般式(1)で表されるピリジン化合物の具体例を下記式(3)〜(8)に示す。
【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
【化11】

【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【0046】
次に、上記色素化合物を多孔質電極4に担持する方法について説明する。
多孔質電極4の表面に色素化合物を吸着させる具体的な方法として、スピンコート等の塗布法や、担持させる化合物の溶液に浸す自然吸着法等が挙げられ、特に、自然吸着法が好適である。
【0047】
自然吸着法としては、色素化合物を所定の溶媒に溶解して溶液を作製し、予め乾燥処理を施した多孔質電極4付き透明電極を浸漬する方法や、上記色素化合物の溶液を多孔質電極4に塗布する方法が挙げられる。
上記一般式(1)に示す本発明の色素化合物は、化学構造中にホスホン酸基を有しているため、多孔質電極4に確実に吸着させることができる。
【0048】
色素化合物を溶解する溶媒としては、従来公知のものが適用でき、例えば、水、アルコール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。特に溶解度の観点から、水が好適である。
【0049】
なお、図1には、本発明の色素化合物である有機EC色素3が表示電極構造体11側の多孔質電極4のみに担持されている構成例を示したが、本発明は、このような構成に限定されない。
すなわち、対向電極構造体12側の多孔質電極8にも所定の有機EC色素が担持されている構成としてもよい。この場合には、発色反応と消色反応とが、酸化反応、還元反応のうち、それぞれ逆の反応で生じるように材料選定することが必要である。
例えば、表示電極側の多孔質電極4に担持させた色素化合物が還元反応によってラジカル状態となり発色する場合には、対向電極側の多孔質電極8には定常状態で多孔質電極4に担持させたピリジン色素と同色調であり、酸化反応によって発色する色素化合物を選定する。
このように、両電極構造体11、12において色素化合物を担持させることにより、最終的に得られるエレクトロクロミック装置において、発色明瞭化、及び鮮明度の向上が図られる。
【0050】
電解質層5は、溶媒に支持電解質が溶解された構成を有している。
支持電解質としては、例えばLiCl、LiBr、LiI、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiCF3SO3等のリチウム塩や、例えばKCl、KI、KBr等のカリウム塩や、例えばNaCl、NaI、NaBr等のナトリウム塩や、例えば、ほうフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ほうフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライド等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
電解質層5には、必要に応じて公知の酸化還元化合物を添加してもよい。酸化還元物質としては、例えばフェロセン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、フェニレンジアミン誘導体等が適用できる。
溶媒としては、上記支持電解質を溶解し、かつ上述した色素化合物(有機EC色素3)を溶解しないものを選択する。例えば、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、ガンマブチロラクトン、3−メトキシプロピオニトリル等から適宜選定する。
【0051】
また、電解質層5には、いわゆるマトリックス材を適用してもよい。
マトリックス材は、目的に応じて適宜選択でき、例えば、骨格ユニットがそれぞれ、−(C−C−O)n−、−(CC(CH3)−O)n−、−(C−C−N)n−、若しくは−(C−C−S)n−で表されるポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。
なお、これらを主鎖構造として、適宜枝分かれ構造を有していてもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等も好適である。
【0052】
電解質層5は、高分子固体電解質層としてもよい。
なお、この場合、マトリックス材のポリマーに所定の可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤としては、マトリックスポリマーが親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合物が好適であり、疎水性の場合には、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン、及びこれらの混合物が好適である。
【0053】
次に、図1に示すエレクトロクロミック装置10を用いた表示方法について説明する。
エレクトロクロミック装置10において、多孔質電極4の表面には、定常状態において可視域に吸収をもたない有機EC色素である、一般式(1)に示すピリジン化合物が担持されている。
エレクトロクロミック装置10を構成する対の電極構造体11、12に、所定のリード線を結線し表示装置として構成する。所定のリード線を通じて電極間に所定の電圧を印加すると、多孔質電極4とこれに担持された有機EC色素3との間に電子の授受がなされ、有機EC色素に電気化学的な還元反応が起き、ラジカル状態となってイエローに発色する。
【0054】
なお、本発明のエレクトロクロミック装置は、図1に示した単色表示の構成に限定されるものではなく、多色表示可能な装置構成に応用できる。
すなわち、上述した図1に示す構成の表示装置をイエロー表示用の第一の表示素子とし、これと、一般式(1)で表わされる化合物に替えて電圧印加によりシアンの可逆的な発消色を行う色素化合物を適用した第二の表示素子と、一般式(1)の化合物に替えて電圧印加によりマゼンタの可逆的な発消色を行う色素化合物を適用した第三の表示素子とを組み合わせて三層積層させた構成とすることにより、全体としてフルカラー表示を可能としたエレクトロクロミック装置が得られるのである。
【実施例】
【0055】
次に、本発明のエレクトロクロミック装置についての具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明する。
【0056】
〔実施例1〕
(色素化合物(有機EC色素:上記式(3)の化合物)を合成する。)
イソチアニド6.86g(0.05mol)と、イソニコチン酸12.3g(0.1mol)とを混合し、塩化ホスホリル25mlを加え、120℃で5時間加熱還流を行った。
反応液を氷水で0℃に冷却しながら水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
得られた沈殿物をろ過し、水で洗浄した。
得られた粉末を0℃に冷却しながら塩酸に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
その後、沈殿物を濾過し、メタノールを用いて再結晶し、これにより無色結晶の2,5−ビス(4−ピリジル)1,3,4−オキサジアゾールが、4.31g(収率38.5%)得られた。NMR測定を行ったところ、1H-NMR (DMSO) δ: 8.87 (2H, d, J = 5.4 Hz), 8.07 (2H, d, J = 5.1 Hz).となり、上記化合物の生成が確認された。
【0057】
2雰囲気下、 2−ブロモエチルホスホン酸ジエチル19.6g(0.08mol)にドライクロロホルム80mlを加え、0℃でブロモトリメチルシラン40ml(0.24mol)を加えた。
0℃で1時間攪拌した後、室温に戻し、更に2時間攪拌した。
更に、ブロモトリメチルシラン14ml(0.08mol)を加え、40℃で5時間加熱攪拌した。
その後、溶媒を留去し、水40mlとメタノール40mlを加え、30℃で10時間攪拌した。
その後、メタノールを留去し、ジクロロメタンで洗浄し、水を留去し、乾燥処理を施すことによって薄桃色粉末の2−ブロモエチルホスホン酸が、13.94g(収率92.2%)得られた。NMR測定を行ったところ、1H-NMR (D2O) δ: 3.37 (2H, dt, J = 14.6, 6.2 Hz), 2.21 (2H, dt, J = 18.1, 8.0 Hz).となり、上記化合物の生成が確認された。
【0058】
2,5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾール1.3g(5.8mmol)をDMF14mlに溶かし、2−ブロモエチルホスホン酸3.3g(17.5mmol)を加え、100℃で24時間過熱攪拌した。
生じた沈殿物を濾過し、DMF30mlを加え、100℃で30分間攪拌し、熱濾過を行い、アセトンで洗浄処理を施し、目的とする上記式(3)の化合物である淡黄色粉末を3.1g(収率88.8%)得た。NMR測定を行ったところ、1H-NMR (D2O) δ: 9.15 (4H, d, J = 5.9 Hz), 8.71 (4H, d, J = 5.6 Hz), 4.89-4.76 (4H, m), 2.38-2.30 (4H, m).となり、上記化合物の生成が確認された。
【0059】
(表示電極構造体の作製)
厚さ1.1mmのガラス製の支持基板1上に、平面的に15Ω/□のFTO膜(透明電極2)を形成した。
次に、pH=約1.0の塩酸水溶液に1次粒径20nmの酸化チタンを15重量%分散させたスラリーに、ポリエチレングリコールを5重量%の割合で溶解させて塗料を作製した。この塗料を、上記FTO膜上にスキージ法によって塗布した。
次に、ホットプレート上で80℃、15分間の乾燥処理を行い、さらに、電気炉で500℃、1時間焼結を行い、膜厚5μmの酸化チタン多孔質電極4が形成されたFTO基板が得られた。
【0060】
(有機EC色素の多孔質電極への吸着)
上記酸化チタン膜よりなる多孔質電極4が形成されたFTO基板を、上述のようにして作製した所定のピリジン化合物(EC色素)の5mM水溶液に24時間浸漬させ、酸化チタン電極に色素(有機EC色素膜)を吸着させた。
その後、エタノール溶液で洗浄処理、乾燥処理を行った。
【0061】
(対向電極構造体の作製)
厚さ1.1mmのガラス製の支持基板6上に、平面的に15Ω/□のFTO膜(透明電極7)を形成した。
次に、酸性水溶液に1次粒径20nmのアンチモンドープされた酸化スズを20重量%分散させたスラリーに、ポリエチレングリコールを5重量%の割合で溶解させて塗料を作製した。この塗料を、上記FTO膜上にスキージ法によって塗布した。
次に、ホットプレート上で80℃、15分間の乾燥処理を行い、さらに、電気炉で500℃、1時間焼結を行い、膜厚12μmのアンチモンドープ酸化スズ多孔質電極8が形成されたFTO基板が得られた。
【0062】
(電解質層用の溶液の調製)
電解質層5形成用溶液は、ガンマブチロラクロンに、過塩素酸リチウムを0.1mol/L溶解させ、脱水、脱気したものを適用した。
【0063】
(電極構造体の貼り合わせ)
上述のようにして作製した表示電極構造体(色素吸着酸化チタン多孔質電極付き基板)と、対向電極構造体(アンチモンドープ酸化スズ多孔質電極付き基板)とを、厚さ50μmの熱可塑性フィルム接着剤を用いて、90℃で貼り合わせた。
この際、後述の工程により、電解液を注入できるように、一部分に注入口を形成した。
【0064】
(電解質溶液の注入)
前記電解液を、注入口から真空注入した。
その後、注入口をエポキシ系の熱硬化樹脂で封止することにより、電解質層を挟持した状態で対向した電極構造体を具備するエレクトロクロミック装置が完成した。
【0065】
このエレクトロクロミック装置の、表示電極と対向電極の間に、−1.6Vの電圧を印加すると、直ちにイエローに発色した。図2に発色時のスペクトルを示した。なお表示変更の応答速度は約150msであり、実用上充分に良好な速度であった。
さらに、電極間に0.5Vを印加すると再び直ちに透明となった。表示変更の応答速度は約90msであった。
さらに、この例におけるエレクトロクロミック装置の表示電極と対向電極の間に、−1.6Vと0.5Vを交互に1Hzで100万回繰返し印加したが、100万回電圧印加を繰り返した後においても初期の状態とスペクトル形状の変化が殆ど見られず、実用上充分に優れた耐久性を有していることが確認された。
【0066】
〔比較例〕
この例においては、上記実施例1とは異なる方法により、上記式(3)に示す色素化合物を合成することを試みた。
イソチアニド6.86g(0.05mol)と、イソニコチン酸12.3g(0.1mol)に塩化ホスホリル25mlを加え、120℃で5時間加熱還流した。
反応液を氷水で0℃に冷却しながら水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
得られた沈殿物を濾過し、水で洗浄した。
得られた粉末を0℃に冷却しながら塩酸に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
沈殿物をろ過し、メタノールを用いて再結晶することにより、無色結晶の2,5−ビス(4−ピリジル)1,3,4−オキサジアゾールが、4.31g(収率38.5%)得られた。NMR測定を行ったところ、1H-NMR (DMSO)δ: 8.87 (2H, d, J = 5.4 Hz), 8.07 (2H, d, J = 5.1 Hz).となり、上記化合物の生成が確認された。
【0067】
2,5−ビス(4−ピリジル)1,3,4−オキサジアゾール0.2g(0.89mmol)に2−ブロモエチルホスホン酸ジエチル2mlを加え、90℃で1日加熱攪拌した。
アセトンで数回洗浄処理を行い、水20mlと塩酸10mlを加え、1日加熱攪拌した。
その後、溶媒を留去し、アセトンで洗浄することにより、薄緑色粉末が0.21g得られた。
得られた粉末をLC-MS、1H-NMR解析したところ、上記式(3)の化合物の生成は確認されなかった。
【0068】
また、上記比較例によって作製された薄緑色粉末を用いて、上記実施例1と同様の方法によりエレクトロクロミック装置を作製し、電極間に電圧を印加したが、全く発色は起こらなかった。
【0069】
上記実施例1と比較例の結果から、本発明方法に示した工程に従うことにより、上記一般式(1)に示した色素化合物を合成することができるのであり、これを表示用色素として適用すると、極めて応答反応に優れ、鮮鋭な色調で、安定に可逆的な発消色表示を行うことができるイエロー発色のエレクトロクロミック装置が得られるのである。
【0070】
〔実施例2〕
色素化合物(有機EC色素)として、下記式(9)、式(10)で示す化合物を適用して、その他は上記実施例1と同様にして、マゼンタ発色のエレクトロクロミック素子、及びシアン発色のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0071】
【化14】

【0072】
【化15】

【0073】
上記実施例1に従って作製されるイエロー発色のエレクトロクロミック素子と、上記マゼンタ発色のエレクトロクロミック素子と、シアン発色のエレクトロクロミック素子とを組み合わせ、三層積層構造とし、それぞれの素子を構成する両電極間に独立して電圧を印加して制御することにより、フルカラー表示すなわち任意の混色表示が行われ、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー、ブラック等の所望の可逆的な発消色を行うことができるエレクトロクロミック装置が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明のエレクトロクロミック装置の一例の概略断面図を示す。
【図2】式(3)の色素化合物を適用した場合の発色時の可視吸収スペクトルを示す。
【符号の説明】
【0075】
1 6……支持基板、2……透明電極、3……有機EC色素、4,8……多孔質電極、5……電解質層、10……エレクトロクロミック装置、11……表示電極構造体、12……対向電極構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される色素化合物。
【化1】


但し、一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【請求項2】
2,5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールと、
下記一般式(2)で表わされる化合物とを反応させる工程を行うことを特徴とする下記一般式(1)で表わされる色素化合物の製造方法。
【化2】


ただし、上記一般式(2)において、Xはヨウ素または臭素を表している。
Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【化3】


但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【請求項3】
支持基板上に少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体(表示電極構造体と対向電極構造体)が、前記透明電極同士が対面するように電解質層を挟持して配置されており、
前記一対の電極構造体を構成する透明電極のうちの、少なくとも表示電極構造体の上に、下記一般式(1)で表わされる化合物が吸着された多孔質電極が形成されており、
前記一対の電極構造体間に電圧を印加することにより、イエローの可逆的な発消色を行うことを特徴とするエレクトロクロミック装置。
【化4】


但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。
【請求項4】
支持基板上に少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体(表示電極構造体と対向電極構造体)が、前記透明電極同士が対面するように電解質層を挟持して配置されており、前記一対の電極構造体を構成する透明電極のうち、少なくとも表示電極構造体側の透明電極上に、下記一般式(1)で表わされる色素化合物が吸着された多孔質電極が形成されており、前記一対の電極構造体間に電圧を印加することにより、イエローの可逆的な発消色を行うエレクトロクロミック素子と、
下記一般式(1)で表わされる色素化合物に替えて、電圧印加によりシアンの可逆的な発消色を行う色素化合物を適用したエレクトロクロミック素子と、
下記一般式(1)で表わされる化合物に替えて、電圧印加によりマゼンタの可逆的な発消色を行う色素化合物を適用したエレクトロクロミック素子とが積層されており、
全体としてフルカラー画像を表示することを特徴とするエレクトロクロミック装置。
【化5】


但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=2を満たす整数であり、Yb-はb価アニオンを表している。Rは置換されていても良い炭化水素基である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−179725(P2008−179725A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15377(P2007−15377)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】