説明

色素増感型太陽電池およびその製造方法

【課題】外部からの水の侵入、および、内部の電解液の揮発や漏れを防ぎ、かつ温度による熱膨張差に対する影響を受けない色素増感型太陽電池、および、当該色素増感型太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】色素増感型太陽電池1は、少なくとも一方の基板が透明であって、それぞれが導電性基板7から構成され、空隙を有し相互に対面するよう配置される正極2および負極3と、正極2および負極3の外縁で封鎖された正極2および負極3に挟まれる空隙に充填された電解液4と、正極2または負極3の導電性基板7のいずれかに形成された、電解液4が注入可能であって、導電性基板7を貫通している、注入口10を密着封止する封止樹脂6と、を備え、注入口10は、導電性基板7の内部における径の少なくとも一部が導電性基板7の両外面における径よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池および当該色素増感型太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、地球環境にかかる負荷が極めて低いことから、クリーンなエネルギー供給源として、より一層の普及が期待されている。特に、色素増感型太陽電池は、比較的簡単な構造のため、量産し易く、また、低コストかつ低エネルギーで製造できることから注目されている。
【0003】
一般的に、色素増感型太陽電池の構造は、透明導電膜付ガラス基板上に半導体多孔質膜(酸化チタン等)に光増感色素を吸着させた光極(負極)と、透明導電膜付ガラス基板上に還元触媒を形成した対極(正極)とを対面させ、両極間にヨウ素やヨウ化物イオン等の酸化・還元種を含む電解液を充填して構成されている。電解液を注入するための注入口は、この負極または正極のいずれか一方に設けられている。
【0004】
色素増感型太陽電池の作製方法は、まず、いずれかに注入口が設けられた負極および正極を対面させ、外周部が封止された対面セルを作製する。当該対面セルに、注入口から電解液を真空充填後、注入口を樹脂または接着剤等を用いて封止している。
【0005】
一般的には、色素増感型太陽電池の電解液に、電解質を低分子量系有機溶媒に溶解したものが用いられている。このような有機溶媒は、注入口の封止樹脂等の表面または界面を侵す。特に、高温となる屋外環境では、電解液中の有機溶媒により注入口を封止している樹脂等が侵食され、注入口の封止機能が低下する。つまり、注入口での空気や湿気のバリヤー性が低下する。その結果、外部の水が色素増感型太陽電池の内部に侵入し、電池機能が著しく低下する。また、充填している内部の電解液の揮発や漏れも生じ、耐久性が著しく低下する。
【0006】
特許文献1には、電解液の注入口の形状を工夫し、このような問題を解決するための一例が記載されている。詳細には、電解液の注入口の形状が、電解液注入内部から外面に向かって末広がりなテーパー状となっており、封止栓の形状が電解液の注入方向に向かって先細りとされたテーパー状となっている色素増感型太陽電池について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−117698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような色素増感型太陽電池の電解液の注入口および封止栓では、外部の水の侵入による電気機能の低下、および電解液の揮発や漏れによる耐久性については、一般的な色素増感型太陽電池の電解液の注入口よりも改善されている。しかしながら、屋外環境では、水の侵入および電解液の揮発等だけでなく、高温の場合に内部の電解液が熱膨張し、逆に低温の場合に内部の電解液が熱収縮してしまう。このような電解液の熱膨張および熱収縮が生じると、特許文献1に示すような電解液の注入口では封止栓が抜ける、または緩む等の現象が起こってしまう。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、外部からの水の侵入、および、内部の電解液の揮発や漏れを防ぎ、かつ温度による熱膨張差に対する影響を受けない色素増感型太陽電池、および、当該色素増感型太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る色素増感型太陽電池は、少なくとも一方の基板が透明であって、それぞれが導電性基板から構成され、空隙を有し相互に対面するよう配置される正極および負極と、前記正極および前記負極の外縁で封鎖された前記正極および前記負極に挟まれる前記空隙に充填された電解液と、前記正極または前記負極の前記導電性基板のいずれかに形成された、前記電解液が注入可能であって、前記導電性基板を貫通している、注入口を密着封止する封止樹脂と、を備え、前記注入口は、前記導電性基板の内部における径の少なくとも一部が前記導電性基板の両外面における径よりも小さい、ことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記注入口の径は、前記導電性基板の両外面から内部に向かって小さくなっているテーパー状であることを特徴とする。
【0012】
より好ましくは、前記注入口の径は、前記導電性基板の両外面から前記導電性基板の厚さの中心に向かって小さくなっているテーパー状であることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記導電性基板の前記注入口の外側に、前記封止樹脂を前記注入口内に封止するエンドシールをさらに備えることを特徴とする。
【0014】
また、好ましくは、前記封止樹脂は、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、シリコン樹脂またはフッ素樹脂のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の観点に係る色素増感型太陽電池の製造方法は、少なくとも一方の基板が透明であって、それぞれが導電性基板から構成される正極および負極を形成する工程と、前記正極または前記負極の前記導電性基板のいずれかに、前記導電性基板を貫通し、前記導電性基板の内部における径の少なくとも一部が前記導電性基板の両外面における径よりも小さい注入口を形成する貫通工程と、前記正極および前記負極を間に空隙を挟んで対面させ、前記空隙を前記正極および前記負極の外縁で封鎖する工程と、前記注入口から電解液を前記空隙に充填する工程と、前記注入口の外側から封止樹脂を前記注入口に熱プレスすることにより、前記注入口を密着封止する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記貫通工程では、前記導電性基板の両面において、前記注入口が貫通する部分以外をマスキングし、マスキングした後の前記導電性基板の両面からサンドブラスト加工、または、ショットブラスト加工によって、前記注入口を形成することを特徴とする。
【0017】
より好ましくは、前記密着封止する工程において、円柱状または球状の前記封止樹脂を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外部からの水の侵入、および、内部の電解液の揮発や漏れを防ぎ、かつ温度による熱膨張差に対する影響を受けにくい色素増感型太陽電池、および、当該色素増感型太陽電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る色素増感型太陽電池を示す図である。
【図2】実施の形態に係る色素増感型太陽電池の変形例を示す図である。
【図3】実施の形態に係る色素増感型太陽電池の製造方法における、透明導電膜付ガラス基板の注入口の製造方法の一例の第1段階を示す概略図である。
【図4】実施の形態に係る色素増感型太陽電池の製造方法における、透明導電膜付ガラス基板の注入口の製造方法の一例の第2段階を示す概略図である。
【図5】実施の形態に係る色素増感型太陽電池の製造方法における、封止樹脂での密着封止工程を示す図である。
【図6】実施例1と、比較例1および比較例2との揮発量、テープ剥離および接着面表面積に係る対比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
まず、本実施の形態に係る色素増感型太陽電池1の構造について詳細に説明する。図1は、実施の形態に係る色素増感型太陽電池を示す図である。図1に示すように、色素増感型太陽電池(またはそのセル)1は、正極2、負極3、電解液4、外縁封鎖物質5および封止樹脂6から構成されている。
【0022】
正極2および負極3は、光を透過する透明ガラスの表面に透明導電膜が形成されている透明導電膜付ガラス基板7を基に、それぞれが構成されている。正極2は、透明導電膜付ガラス基板7上に、白金または炭素等からなる還元触媒層8が形成されている。負極3は、透明導電膜付ガラス基板7上に、色素が吸着された酸化チタン膜9が形成されている。酸化チタン膜9は、同様の効果を示す物質であれば、他の既知の金属酸化物等でも構わない。電解液4は、色素増感型太陽電池1の用途に応じたイオン性電解質液等が用いられる。例えば、ヨウ素またはヨウ化物イオン等の酸化・還元種を低分子量系有機溶媒に溶解したものが挙げられる。
【0023】
色素増感型太陽電池1において、正極2と負極3は空隙を有し相互に対面するよう配置されている。そして、正極2と負極3の外縁で、空隙が封鎖される。このように正極2および負極3に挟まれた空隙に、電解液4が真空にて充填される。空隙の周りの封鎖は、外縁封鎖物質5で封鎖されており、電解液4の浸出を防止している。外縁封鎖物質5は、例えば、接着剤、樹脂フィルムまたは低融点ガラスフリット等の当該技術分野において任意の物質が用いられる。
【0024】
以上説明したような色素増感型太陽電池の構造は、従来技術とほぼ同様の構造であり、本発明の実施の形態に係る色素増感型太陽電池1の効果的特徴は、以下に述べる構造にある。
【0025】
本実施の形態に係る色素増感型太陽電池1では、図1に示すように、正極2の導電性基板として透明導電膜付ガラス基板7(以下、ガラス基板7と略す場合がある)を用いている。このガラス基板7に、注入口10が形成されている。注入口10は、ガラス基板7を貫通しており、注入口10を通じて電解液4が注入される。注入口10の形状は、注入口10の径が、透明導電膜付ガラス基板7の両外面からガラス基板7の厚さのほぼ中心(内部)に向かって小さくなっており、両外面からのテーパー状となっている。すなわち、図1に示すように、注入口10のガラス基板7の内部における第1の径11aが、ガラス基板7の両外面における第2の径11b、および第3の径11cよりも小さくなっている。
【0026】
透明導電膜付ガラス基板7の厚さは、1.8mmから4.0mmであると好ましい。この理由は、透明導電膜付ガラス基板7の厚さが薄すぎると本実施の形態に係る色素増感型太陽電池1の特徴的効果が薄れ、厚すぎると注入口10が大きくなるため同様に特徴的効果が薄れるためである。
【0027】
電解液4の注入後には、注入口10は、封止樹脂6によって形状を充たすようにほぼ完全に密着封止される。注入口10の外面には、封止樹脂6を注入口10内に、より強く封止しておくためのエンドシール12が、熱プレス等により圧着される。
【0028】
封止樹脂6は、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、シリコン樹脂またはフッ素樹脂が好ましい。紫外線硬化樹脂には、例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、または、ポリスチリルエチルメタクリレートを挙げることができる。熱硬化樹脂には、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、または、ポリイミド樹脂を挙げることができる。
【0029】
このように、本実施の形態に係る色素増感型太陽電池1では、両外面の注入口10の径が透明導電膜付ガラス基板7の厚さのほぼ中心に向かって小さくなっており、両面からのテーパー状となっている。さらには、注入口10の外面にエンドシール12が貼付されている。そのため、片面からのテーパー状より界面を伝って水分が移動し難く、より効果的に外部からの水の侵入、および、内部の電解液4の揮発や漏れを防ぐことができる。そのうえ、温度による熱膨張差に対する影響も受け難くなる。
【0030】
電解液4を注入するための注入口10は、負極3に設けられていてもよい。また、本実施の形態では正極2および負極3のいずれもが透明導電膜付ガラス基板7を基板としている場合について述べたが、そもそも色素増感型太陽電池では、一方のみの電極基板が透明導電性基板であればよい。透明導電性基板としては、透明ガラス表面に透明導電膜を形成した透明導電膜付ガラス、透明樹脂の表面に透明導電膜を形成した透明導電膜付樹脂(板、フィルム)等がある。また、一方の電極が透明導電性基板により構成されている場合、もう一方の電極は不透明な導電性基板でもよい。不透明な導電性基板としては、金属基板、金属膜付ガラス、または金属膜付樹脂(板、フィルム)等でも構わない。この場合、注入口10は、不透明な導電性基板に形成されていても構わない。
【0031】
さらに、図1に示すような両外面から厚さの中心に向かってのテーパー状の注入口10でなくとも、ガラス基板7の厚さの中心でない内部に向かってのテーパー状の注入口10でも構わない。すなわち、透明導電膜付ガラス基板7の内部における注入口10の径の少なくとも一部が、両外面における注入口10の径よりも小さい場合、本発明による効果を生ずる。例えば、図2は、実施の形態に係る色素増感型太陽電池の変形例を示す図である。
【0032】
図2の注入口10は、図1と同様に、注入口10のガラス基板7の内部における第1の径11aが、ガラス基板7の両外面における第2の径11b、および第3の径11cより小さくなっているが、両外面からテーパー状となる形態ではなく、注入口10の内部が凸状となる形態となっている。
【0033】
封止樹脂6の抜け防止またはゆるみ防止のためには、ガラス基板7の内部における注入口10の径が、ガラス基板7の両外面における径より小さければ、注入口10の断面形状は、例えば、円弧であってもよい。ただし、注入口10の断面形状で、傾きが不連続に変化する点(図1の注入口10の屈折点)がある方が望ましい。電解液4の濡れ性によって、注入口10の側面に電解液4がはい上がる傾向があるが、注入口10の断面に屈折点があると、それより外側に電解液4のはい上がりが抑えられる。その結果、封止樹脂6を熱プレスするときに、封止樹脂6と注入口10の内面の間に電解液4が介在するのを抑制できる。また、その他の変形例としては、エンドシール12が形成されていなくても充分に効果を生ずることが実施例により確認されている。
【0034】
次に、本実施の形態の色素増感型太陽電池1の製造方法について、詳細に説明する。
【0035】
透明導電膜付ガラス基板7から構成される正極2および負極3は、当該技術分野において用いられている任意の方法を用いて形成すればよい。一例を簡単に挙げると、正極2は透明導電膜付ガラス基板7上に還元触媒層8を、負極3は透明導電膜付ガラス基板7上に酸化チタン膜9(ナノ粒子ペースト等)および色素を吸着、塗布、印刷(スクリーン印刷法等)、さらには焼成等することによって形成する。
【0036】
図1に示す色素増感型太陽電池1の透明導電膜付ガラス基板7の製造方法について、詳細に説明する。まず、注入口10となる箇所以外、すなわち貫通させる部分以外にマスキングを施す。次いで、マスキングが施された透明導電膜付ガラス基板7の一方の外面から、サンドブラストにより砂等の研磨材を吹き付ける。この際、ガラス基板7を完全に貫通等しないよう、形成する注入口10の完成型を考慮し、調節して研磨材を吹き付ける。このサンドブラストによって、外面の径が大きく、内部に行くに従って径が小さくなるテーパ状の穴が形成される。図3は、実施の形態に係る色素増感型太陽電池の製造方法における、透明導電膜付ガラス基板の注入口の製造方法の一例の第1段階を示す概略図である。
【0037】
今度は反対側に、すなわちもう一方の外面において、第1段階と同様に、マスキングを施す。次いで、マスキングが施されたガラス基板7を、サンドブラストにより砂等の研磨材を吹き付ける。サンドブラストの際における微調整に関しても、第1段階と同様である。貫通孔の最小径が、両外面の径より小さい所定の大きさになったところで、サンドブラスト加工を終了する。このようにして、両外面から厚さの中心に向かってテーパー状となって貫通している注入口10を形成する。図4は、実施の形態に係る色素増感型太陽電池の製造方法における、透明導電膜付ガラス基板の注入口の製造方法の一例の第2段階を示す概略図である。
【0038】
正極2の透明導電膜付ガラス基板7を貫通させ、注入口10とするには、他の物質を用いたエアーブラストまたはレーザー等を用いる方法でも構わない。さらに、本発明に係る色素増感型太陽電池の製造方法では、透明導電膜付ガラス基板7の内部における注入口10の径の少なくとも一部が、透明導電膜付ガラス基板7の両外面における注入口10の径よりも小さくなるよう形成する方法であれば、当該技術分野における任意の方法を用いてよい。
【0039】
例えば、前述の図2のような形状の注入口10を形成する場合には、まず、透明導電膜付ガラス基板7を最も小さい径(図2では、第1の径11a)においてドリル加工またはレーザー加工等で貫通させ、その後、ガラス基板7の厚さを考慮したうえで両外面から孔の周囲をザグリ加工する。
【0040】
形成した正極2および負極3を、間に空隙を挟み、互いに還元触媒層8ならびに色素が吸着された酸化チタン膜9が向かい合うよう対面させる。空隙の周りは、外縁封鎖物質5で封鎖する。その後、注入口10から電解液4を空隙に充填する。
【0041】
図5は、実施の形態に係る色素増感型太陽電池の製造方法における、封止樹脂での密着封止工程を示す図である。まず、注入口10の外側に注入口10全体の体積よりも大きい封止樹脂6を配置する。図5に示すように、この際、封止樹脂6は円柱状または球状の樹脂を用いると好ましく、また、エンドシール12の上方から熱プレス(注入口10を金型に見立てた射出成形)により注入口10を密着封止すると好ましい。これは、両面からのテーパー状の注入口10の形状をより完全に密着封止し易く、また、本発明の色素増感型太陽電池による効果をより高めるためである。
【0042】
以上、実施の形態について説明したが、本発明において「注入口10が透明導電膜付ガラス基板7(導電性基板)を貫通している(透明導電膜付ガラス基板7に形成されている)」とは、電解液4が充填される空隙にまで達して貫通している、ということを意味する。すなわち、正極2または負極3を形成してから注入口10を貫通させる場合、還元触媒層8または酸化チタン膜9も貫通して注入口10が形成される。または、正極2もしくは負極3の作製の際に、注入口10を貫通させる箇所以外に、還元触媒層8または酸化チタン膜9を形成する方法でも構わない。さらには、正極2または負極3を形成する前の透明導電膜付ガラス基板7に注入口10を貫通させ、注入口10が形成された箇所以外に還元触媒層8または酸化チタン膜9を形成すればよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0044】
(実施例1)
本実施例1では、色素増感型太陽電池セルの製造方法について詳細に説明する。
【0045】
まず、スズドープ酸化インジウム(ITO)およびフッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の透明な導電性酸化物からなる透明導電膜を形成し、1.8mmの透明導電膜付ガラス基板を作製した。
【0046】
負極を製造するため、前述の透明導電膜付ガラス基板の透明導電膜上にチタニアペーストをスクリーン印刷で印刷し、500度雰囲気炉にて焼結乾燥を行った。その結果、透明導電膜上に膜厚10μm〜15μmのチタニア層が形成された。その後、色素を吸着させた。
【0047】
正極を製造するため、同様の透明導電膜付ガラス基板の透明導電膜上に触媒としてPtを塗布した。正極の透明導電膜付ガラス基板に、電解液を注入するための注入口を貫通させるため、圧縮空気により投射材を投射する手法エアーブラスト法を用いた。注入口以外の場所を保護するため、直径1.5mmの円状の穴が空いたゴム製マスクを貼って、マスキングを行った。その後、投射材に砂を用い、両外面から同様にサンドブラストを行った。このように、正極の透明導電膜付ガラス基板において、内部が小さく両外面が広いテーパー状の注入口を貫通させた。なお、両外面の注入口の直径は1.5mmであり、内部の注入口の直径は1.0mmであった。
【0048】
その後、負極と正極とを対面させ、電極間および電極外縁にシール材ポリイソブチレン系樹脂を用い、厚さ30μmのギャップを持たせ熱融着してセルとした。次いで、前述した正極の注入口から真空減圧でヨウ素系電解液を注入し、予め球状にしておいた封止樹脂のアクリル樹脂を200度の熱プレスで注入口形状に溶着させた。このように、色素増感型太陽電池セルを製造した。
【0049】
(比較例1)
本比較例1は、注入口を貫通させるために、1.0mm電動ドリルを用いたこと(注入口を円柱状に貫通したこと)以外、前述の実施例1での色素増感型太陽電池セルの製造方法と同様である。
【0050】
(比較例2)
本比較例2は、注入口を貫通させるために、片面からサンドブラストを行ったこと(注入口が内部から外面に向かって末広がりの片面からのテーパー状となったこと)以外、前述の実施例1での色素増感型太陽電池セルの製造方法と同様である。
【0051】
これら実施例1、比較例1および比較例2の色素増感型太陽電池セルを用い、80度〜−20度のサイクル試験を恒温恒湿層にて10サイクル行い、電解液の漏れを揮発によるセルの重量減少率によって測定した。さらに、注入口内の封止樹脂の外表面にテープを貼ることにより、剥離による封止樹脂の密着状態(テープを剥離することにより封止樹脂が外れるか否か)を調べた。
【0052】
図6は、実施例1と、比較例1および比較例2との揮発量、テープ剥離および接着面表面積に係る対比を示す図である。図6に示すように、揮発量(wt%)では、実施例1は0.5%、比較例1は1.0%、比較例2では1.2%となった。テープ剥離による封止樹脂の密着状態では、実施例1の色素増感型太陽電池セルのみ封止されたままだった。接着面表面積とは、それぞれの電解液に接触する側(内側)の注入口の表面積が同一の場合における、封止樹脂の注入口中に接着する面積を表している。これらの結果から、本発明に係る色素増感型太陽電池は、内部の電解液の揮発や漏れを防ぎ、かつ封止樹脂による密着状態が強く、多様な温度による熱膨張差に対する影響を受けにくいことが確認された。さらに、密着状態が強いことから、外部からの水の侵入も、より防止されるということが解る。
【0053】
(実施例2)
本実施例2は、注入口に封止樹脂を溶着後、色素増感型太陽電池セルの外側の封止樹脂の表面に直径7mmの円形のエンドシールを配置し、100度、0.2Mpaの圧力でプレスを行ったこと(封止樹脂を保護したこと)以外、前述の実施例1での色素増感型太陽電池セルの製造方法と同様である。
【0054】
同様に、実施例1および実施例2の色素増感型太陽電池セルを用いて、80度〜−20度のサイクル試験を恒温恒湿層にて10サイクル行い、電解液の漏れを揮発によるセルの重量減少率によって測定した。さらに、注入口内の封止樹脂の外表面にテープを貼ることにより、剥離による封止樹脂の密着状態も調べた。
【0055】
その結果、揮発量(wt%)では、実施例1は0.5%、実施例2では0.2%であった。テープ剥離による封止樹脂の密着状態では、いずれの色素増感型太陽電池セルも封止されたままだった。この結果から、本発明に係る色素増感型太陽電池は、エンドシールによって、さらに効果を高めることが確認された。
【0056】
以上、実施の形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施の形態および実施例に限定されることはなく、本発明の範囲内で種々の実施形態が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 色素増感型太陽電池
2 正極
3 負極
4 電解液
5 外縁封鎖物質
6 封止樹脂
7 透明導電膜付ガラス基板(導電性基板)
8 還元触媒層
9 酸化チタン膜
10 注入口
11a 第1の径
11b 第2の径
11c 第3の径
12 エンドシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の基板が透明であって、それぞれが導電性基板から構成され、空隙を有し相互に対面するよう配置される正極および負極と、
前記正極および前記負極の外縁で封鎖された前記正極および前記負極に挟まれる前記空隙に充填された電解液と、
前記正極または前記負極の前記導電性基板のいずれかに形成された、前記電解液が注入可能であって、前記導電性基板を貫通している、注入口を密着封止する封止樹脂と、
を備え、
前記注入口は、前記導電性基板の内部における径の少なくとも一部が前記導電性基板の両外面における径よりも小さい、
ことを特徴とする、色素増感型太陽電池。
【請求項2】
前記注入口の径は、前記導電性基板の両外面から内部に向かって小さくなっているテーパー状であることを特徴とする、請求項1に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記注入口の径は、前記導電性基板の両外面から前記導電性基板の厚さの中心に向かって小さくなっているテーパー状であることを特徴とする、請求項2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記導電性基板の前記注入口の外側に、前記封止樹脂を前記注入口内に封止するエンドシールをさらに備えることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
前記封止樹脂は、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、シリコン樹脂またはフッ素樹脂のいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
少なくとも一方の基板が透明であって、それぞれが導電性基板から構成される正極および負極を形成する工程と、
前記正極または前記負極の前記導電性基板のいずれかに、前記導電性基板を貫通し、前記導電性基板の内部における径の少なくとも一部が前記導電性基板の両外面における径よりも小さい注入口を形成する貫通工程と、
前記正極および前記負極を間に空隙を挟んで対面させ、前記空隙を前記正極および前記負極の外縁で封鎖する工程と、
前記注入口から電解液を前記空隙に充填する工程と、
前記注入口の外側から封止樹脂を前記注入口に熱プレスすることにより、前記注入口を密着封止する工程と、
を含むことを特徴とする、色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記貫通工程では、前記導電性基板の両面において、前記注入口が貫通する部分以外をマスキングし、マスキングした後の前記導電性基板の両面からサンドブラスト加工、または、ショットブラスト加工によって、前記注入口を形成することを特徴とする、請求項6に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記密着封止する工程において、円柱状または球状の前記封止樹脂を用いることを特徴とする、請求項6または7に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−73893(P2013−73893A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214180(P2011−214180)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度〜23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構最先端研究開発支援プログラム(低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】