説明

色素増感太陽電池における対向電極の製造方法

【課題】基板に合成樹脂などの高温に弱い材料を用いることができ、しかも変換効率が低下するのを防止し得る色素増感太陽電池の対向電極の製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンを水に混合させてなる第1混合溶液およびチタンイソプロポキシドをプロパノールに分散させてなる第2混合溶液を作製し、次に上記第1混合溶液に第2混合溶液を混合させて第3混合液を作製し、次に第3混合液を撹拌しながら約120℃に加熱して溶媒を昇華させることにより酸化チタン粒子が付着したカーボンを作製し、次に上記作製されたカーボンとプロパノールとチタンイソプロポキシドとを混合撹拌してカーボン分散液を作製し、次にこのカーボン分散液を基板上に成膜した後、焼結させる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池における対向電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、色素増感型太陽電池は、ガラス板などの透明基板上に透明導電膜が形成されてなる透明電極と、同様に透明基板の表面に透明導電膜が形成されてなる対向電極と、これら両電極間に配置されるヨウ素系の電解質層と、上記両電極間で且つ上記透明電極の表面に配置される光触媒膜とから構成され、且つこの光触媒膜としては、酸化チタン(TiO)などの金属酸化物を形成した後、ルテニウムなどの光増感色素を染色したものが知られている。
【0003】
ところで、対向電極としては、通常、白金(Pt)またはカーボンが用いられている。白金は、水分存在下でのヨウ化物イオンに対する耐久性とコストの点で問題があり、またカーボンを用いた場合には、変換効率が白金には及ばないという問題があった。
【0004】
これに対して、カーボンにチタンイソプロポキシドを混ぜたものを対向電極に用いたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−302390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載された対向電極の場合、その焼結温度が300〜600℃程度と高く、したがって透明基板として、軽量で且つ安価な合成樹脂を用いることができないという問題があった。なお、低温で焼結を行うと、酸化チタンの微粒子同士の結合性(ネッキング)が弱くなり、電池内部での電子パスが悪くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、基板として、例えば合成樹脂などの高温に弱い材料を用いることができ、しかも変換効率が低下するのを防止し得る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、
カーボンを水に混合させてなる第1混合溶液および光触媒の前駆体をアルコールに分散させてなる第2混合溶液を作製し、
次に上記第1混合溶液に第2混合溶液を液相合成して光触媒の前駆体と水の加水分解反応により生じる光触媒粒子とカーボンとの第3混合液を作製し、
次に上記第3混合液を撹拌しながら加熱して溶媒を昇華させることにより光触媒粒子が付着したカーボンを作製し、
次に上記作製されたカーボンとアルコールと光触媒の前駆体とを混合撹拌してカーボン分散液を作製し、
次にこのカーボン分散液を基板上に成膜した後、焼結させる方法である。
【発明の効果】
【0009】
上記製造方法によると、カーボン分散液中に高分子または樹脂の代替として光触媒の前駆体を混合させることにより、カーボンによる対向電極の作製プロセスにおいて、150℃以下の熱処理が可能となり、対向電極の基板として、約150℃が使用限界温度であるフィルムを使用することができ、しかも変換効率においても、白金の場合に比べて、それほど低下が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る色素増感太陽電池の概略セル構造を示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法により得られた色素増感太陽電池のIV特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法について説明する。
まず、色素増感太陽電池の概略構成を図1に基づき説明する。
【0012】
この色素増感太陽電池には、図1に示すように、負極としての透明電極1と、正極としての対向電極2と、これら両電極1,2間で且つ封止材5により密封配置された電解質層3と、両電極1,2間で且つ透明電極1側に配置される光触媒膜(光触媒層でもある)4とが具備されている。
【0013】
上記透明電極1は、透明基板11およびこの透明基板11の表面に形成(配置)された透明導電膜12から構成されている。
上記透明基板11としては、合成樹脂板、ガラス板などが適宜使用されるが、軽量化および低価格化の点で、ポリエチレン・ナフタレート(PEN)フィルムなどの熱可塑性樹脂が好ましい。なお、ポリエチレン・ナフタレートの他に、ポリエチレン・テレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどを使用することもできる。
【0014】
また、透明導電膜12として、好ましくは、スズ添加酸化インジウム(ITO)が使用され、この他に、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物を含む薄膜を使用することができる。
【0015】
上記電解質層3としては、例えばヨウ素系電解液が使用される。具体的には、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されたものが用いられる。なお、電解質層3は、電解液に限られるものではなく、固体電解質であってもよい。
【0016】
上記固体電解質としては、例えば、DMPImI(ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ化物)が例示され、このほか、LiI、NaI、KI、CsI、CaIなどの金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩などのヨウ化物とIとを組み合わせたもの、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBrなどの金属臭化物、およびテトラアルキルアンモニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩などの臭化物とBrとを組み合わせたものなどを適宜使用することができる。
【0017】
上記光触媒膜4は、光増感色素が吸着された酸化物半導体層により形成されており、その製造に際しては、光触媒微粒子(光触媒粒子)である酸化物半導体を含むペーストを透明電極1の表面に塗布し、乾燥させた後、光増感色素を酸化物半導体に吸着させることにより得られる。
【0018】
また、上記酸化物半導体としては、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)などの金属酸化物が用いられ、光増感色素としては、ビピリジン構造若しくはターピリジン構造を含む配位子を有するルテニウム錯体や鉄錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の金属錯体、またはエオシン、ローダミン、メロシアニン、クマリンなどの有機色素などが用いられる。
【0019】
次に、本発明に係る対向電極2およびその製造方法について説明する。
この対向電極2としては、透明基板の表面にカーボンを付着させたものである。
この製造方法は以下の手順にて行われる。
A.まず、前処理としてカーボンの表面処理を行う。
【0020】
すなわち、1.0gのカーボンを20mlの純水に分散させてなる第1混合溶液と、0.1gのチタンイソプロポキシド(TTIP)(光触媒の前駆体の一例で、例えば四塩化チタンまたは水酸化チタンなどでもよく、また他の金属アルコキシドを用いてもよい。)を20gの2−プロパノール(アルコールの一例で、例えばt−ブタノール、エトキシエタノール、エタノール、メタノールなどでもよい)に分散させてなる第2混合溶液とを、それぞれマグネットスターラーを用いて1時間程度撹拌させる。
【0021】
次に上記第1混合溶液に超音波を当てながら第2混合溶液を少量ずつ滴下して液相合成する。すなわち、チタンイソプロポキシドと水の加水分解反応により生じる酸化チタン粒子とカーボンとの第3混合液を作製する。なお、加水分解反応では、第2混合溶液の滴下直後から反応が進行するため、超音波を付与することにより酸化チタン粒子の凝集が防止される。
【0022】
また、上記滴下時には、ペンシルミキサーなどにより撹拌して反応箇所の一様化(分散化)が図られる。
そして、合成が終わると、すなわち第3混合液が作製されると、マグネットスターラーで撹拌しながら、約120℃に加熱し、溶媒を昇華させカーボン表面に酸化チタン粒子が付いたカーボンを取り出す。
B.次に、2−プロパノールに酸化チタン粒子が付いたカーボンおよびチタンイソプロポキシドを混合させるとともに超音波を当てながら撹拌し、カーボン分散液を作製する。
【0023】
具体的には、2−プロパノールに対してカーボンの重量濃度は0.1〜5重量%(好ましくは、3〜5重量%)とされる。また、カーボンはケッチェンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイトなどが用いられる。また、2−プロパノールに対して、チタンイソプロポキシドの重量濃度は0.1〜5重量%(好ましくは、3〜5重量%)とされる。
【0024】
そして、2−プロパノールに酸化チタン粒子が付いたカーボンおよびチタンイソプロポキシドを混合させてなる混合溶液を60分間攪拌した後、超音波を10分間当て、さらに10分間撹拌し、カーボン分散液を作製する。
【0025】
次に、この作製されたカーボン分散液を、スキージ法により、透明基板であるITOガラス基板上に塗布して成膜する。なお、対向電極2の基板については、透明基板でなくてもよく、例えばステンレス、チタン、銅、シリコンなどの金属製基板を用いることができる。
【0026】
具体的には、その膜厚は1.0〜10.0μm(好ましくは、2.0〜6.0μm)とされる。この膜厚にすると、セル組立時のカーボン膜の剥離を抑止することができる。
また、成膜方法は、スキージ法に限らず、カーボン分散液の粘度に合わせてスピンコート法またはスクリーン印刷法を用いてもよい。なお、スピンコート法では、回転速度は3000〜6000rpmとされ、スクリーン印刷では、メッシュ粗さが1.0〜10.0μmとされる。
【0027】
そして、最後に、スキージ方法により成膜が行われた後、乾燥と焼結を行うことにより、カーボンからなる対向電極が作製される。
具体的に、温度が20〜30℃の範囲、湿度が40〜50%との範囲にされた恒温槽内で10分間の乾燥が行われる。また、焼結は、120〜150℃の温度範囲にて10分間行われる。
【0028】
なお、上記透明電極1の表面に光触媒膜4を形成する方法について説明しておく。
すなわち、光触媒微粒子である酸化チタンをその前駆体である金属アルコキシド(チタンアルコキシドである)溶液に混合してなる混合溶液を、透明電極1の透明導電膜12側の表面に均一にスプレーにより塗布した後、この塗布膜にレーザ光を照射し焼結させて酸化物半導体層を形成する。そして、この酸化物半導体層を光増感色素を含む浸漬液に浸し、同色素を吸着させた後、乾燥させる。この後、焼成すればよい。
【0029】
また、色素増感太陽電池(光電変換素子でもある)を組み立てる場合、表面に光触媒膜4が形成された透明電極1と対向電極2とを位置合わせした後、両電極1,2間を封止材5により密封し、そして透明電極1または対向電極2に予め設けておいた孔や隙間から、液体の電解質を両電極1,2間に注入すればよい。
【0030】
上述した対向電極の製造方法によると、カーボン分散液中に高分子(例えば、ポリフェニリン、ポリアニリンなどのアロマティック高分子、またはポリピロール、ポリチオフェニンなどのヘテロティック高分子)または樹脂(例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂など)の代替としてチタンイソプロポキシドを混合させることにより、カーボンを用いた対向電極の作製プロセスにおいて、150℃以下での熱処理が可能となり、したがって対向電極の基板として、約150℃が使用限界温度であるフィルムを使用することができる。なお、フィルムとしては、PEN(ポリエチレン・ナフタレート)フィルムなどの熱可塑性樹脂が好ましい。PENの他に、ポリエチレン・テレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどを使用するこができる。
【0031】
また、低濃度のチタンイソプロポキシドによる前処理を施すことにより、カーボン表面の酸化チタン粒子と、成膜に使用するチタンイソプロポキシドの酸化チタン粒子とが結合し、基板とカーボンとの密着性が向上する。
【0032】
ここで、本発明に係るカーボン、すなわちチタンイソプロポキシドによる前処理を行ったカーボンからなる対向電極を使用した色素増感太陽電池と、比較例として、チタンイソプロポキシドによる前処理を行わないカーボンからなる対向電極を使用した色素増感太陽電池、および白金による対向電極を使用した色素増感太陽電池とについて、その性能を比較した結果について説明する。
【0033】
下記に示す表1に、短絡電流、開放電圧、曲線因子およびエネルギーの変換効率を示し、また図2にIV特性のグラフを示す。なお、図2のグラフにおいて、実線はチタンイソプロポキシド(TTIP)による前処理を行ったカーボンからなる対向電極を使用したものを示し、チタンイソプロポキシドによる前処理を行わないカーボンからなる対向電極を使用したものを二点鎖線で示し、白金による対向電極を使用したものを破線で示している。
【0034】
【表1】

表1から、本発明に係る対向電極を使用した場合、例えばフィルファクタが0.55〜0.65の範囲であり、白金とほぼ同等の性能であった。また、エネルギーの変換効率についても、白金の場合に比べて、それ程低下していないことが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 透明電極
2 対向電極
3 電解質層
4 光触媒膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンを水に混合させてなる第1混合溶液および光触媒の前駆体をアルコールに分散させてなる第2混合溶液を作製し、
次に上記第1混合溶液に第2混合溶液を液相合成して光触媒の前駆体と水の加水分解反応により生じる光触媒粒子とカーボンとの第3混合液を作製し、
次に上記第3混合液を撹拌しながら加熱して溶媒を昇華させることにより光触媒粒子が付着したカーボンを作製し、
次に上記作製されたカーボンとアルコールと光触媒の前駆体とを混合撹拌してカーボン分散液を作製し、
次にこのカーボン分散液を基板上に成膜した後、焼結させることを特徴とする色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−156023(P2012−156023A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14639(P2011−14639)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】