説明

色素増感太陽電池の製造方法

【課題】高温で加熱することなく低コストに色素増感太陽電池を製造する。
【解決手段】基板および導電層からなる透明電極に対して、酸化亜鉛粒子を溶媒に分散させた分散液を塗布して前記導電層上に塗膜を形成する。前記塗膜の溶媒を気化させ得る50℃未満の温度で溶媒を蒸発させて、酸化亜鉛粒子からなる金属酸化物層が形成される。この金属酸化物層が形成された透明電極を増感色素が含まれる色素溶液に浸漬させることで、金属酸化物層に増感色素が吸着した半導体層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、シリコン系太陽電池と比べて製造工程がシンプルで低コストであり、軽量、フレキシブル、半透明、色の選択が可能、微弱な光でも発電可能などの各種特徴を有するため、シリコン系太陽電池に代わるものとして研究・開発が盛んに行われている。図1に示すように、色素増感太陽電池10は、光電極12と、対向電極14と、光電極12と対向電極14との間に充填された電解質16とから構成されている。光電極12は、ガラス等の基板18に透明な導電層20が形成された透明電極22と、透明電極22上に形成された金属酸化物層26に増感色素30を吸着して形成される半導体層24とを備えている。前記金属酸化物層26は、透明電極22の導電層20側に溶媒に分散させたチタン等の金属酸化物粒子28(図2参照)を塗布し、例えば400℃〜500℃程度の高温で焼結させて形成される。このように、従来の光電極12は、金属酸化物粒子28を高温で加熱することで金属酸化物層26に電子の通り道となる電子パスを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−282160号公報
【特許文献2】特開2010−33902号公報
【特許文献3】特開2010−33915号公報
【特許文献4】特開2011−142027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、400℃〜500℃の高温で焼結させて金属酸化物層26を形成する方法では、耐熱性を備える透明電極22を採用する必要があり、製造コストが嵩んでしまう。また、透明電極22を高温で加熱することで導電層20の電気抵抗が上昇すると共に、図2に示すように、金属酸化物層26の表面積が減少して、金属酸化物層26への増感色素30の吸着量が減少するので、色素増感太陽電池10の光電変換効率が低下してしまう。そこで、高温で加熱しない色素増感太陽電池10の製造方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸化チタンを含むチタンゾル溶液と界面活性剤とを混合した溶液を透明電極に塗布し、加熱と同時に加圧することで酸化チタンを結合させて光電極を作製する方法が記載されている。特許文献2には、加熱したチタン粒子を衝突させる高速フレーム溶射法やコールドスプレー法で光電極を作製する方法が記載されている。特許文献3には、電析法により透明電極上に金属酸化物層を積層して光電極を作製する方法が記載されている。特許文献4には、酸化チタンの前駆体であるチタンアルコキシド溶液に酸化チタンを混合した混合溶液を透明電極に塗布した後、レーザー光を照射して酸化チタン粒子同士を結合させて光電極を作製する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、グローブボックス等を用いた窒素雰囲気下でチタンゾル溶液を取扱う必要があり、工程が煩雑となる。特許文献2の方法では、高速の火炎でチタン粒子を800〜2000℃に加熱して衝突させるため、特殊な装置が必要であり、工程が煩雑となる。特許文献3の方法では、透明電極を回転させながら電析するための電析浴が必要であり、工程が煩雑であり、高コストとなる。特許文献4の方法では、レーザー照射装置が必要であり、工程も煩雑である。このように、従来の高温で加熱しない色素増感太陽電池の製造方法では、特殊な装置を用いたり煩雑な工程を要する。
【0007】
そこで本発明は、従来の技術に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、簡単かつ低コストに色素増感太陽電池が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願請求項1に係る色素増感太陽電池の製造方法は、
透明電極上に形成された金属酸化物層に増感色素を複合化して形成される半導体層を備えた色素増感太陽電池の製造方法であって、
酸化亜鉛粒子を溶媒に分散した状態で前記透明電極に塗布し、
前記溶媒を気化させ得る50℃未満の温度範囲で溶媒を気化させて、前記酸化亜鉛粒子からなる前記金属酸化物層を形成することを要旨とする。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、溶媒を気化させ得る50℃未満の温度で溶媒を気化させて金属酸化物層を形成するので、高温での加熱処理やその他の煩雑な処理を行う必要がない。従って、高温で加熱するための設備や特殊な装置が不要となり、簡単で低コストに金属酸化物層を形成できる。また、高温での加熱に耐え得る透明電極を採用する必要がないので、透明電極の選択肢が広がる。また、透明電極を高温に加熱しないため、透明電極の電気抵抗の上昇を防止できる。従って、良好な光電変換効率を有する色素増感太陽電池が得られる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記溶媒に分散した前記酸化亜鉛粒子の結晶化度を保った状態で、該酸化亜鉛粒子からなる前記金属酸化物層を形成することを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、金属酸化物層を形成する際に、溶媒に分散した状態の酸化亜鉛粒子の結晶化度が保たれるので、金属酸化物層の表面積が減少しないため、増感色素を多く複合化できる。従って、良好な光電変換効率を有する色素増感太陽電池が得られる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記透明電極を、基板とインジウムスズ酸化物からなる導電層とから構成し、
前記金属酸化物層を、前記導電層上に形成することを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、金属酸化物層の形成に際して、高温の熱処理を要しないので、導電層として熱の影響を受け易いインジウムスズ酸化物を用いることができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記透明電極は、基板としてプラスチックが用いられることを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、金属酸化物層の形成に際して、高温の熱処理を要しないので、基板として耐熱性が低く安価なプラスチックを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法によれば、簡単かつ低コストで色素増感太陽電池を製造し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】色素増感太陽電池の模式図である。
【図2】比較例2の製造方法で製造した色素増感太陽電池における半導体層の一部を拡大したイメージ図である。
【図3】実施例の製造方法で製造した色素増感太陽電池における半導体層の一部を拡大したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明では、図1に示した色素増感太陽電池と同一の構成要素には同一の符号を使用する。本発明に係る色素増感太陽電池10は、光電極12と、光電極12に対向配置された対向電極14と、光電極12および対向電極14の間に所要の間隔を維持させるスペーサ(図示せず)と、光電極12および対向電極14の間に充填された電解質16とを備えている。光電極12は、基板18およびこの基板18上に形成された導電層20からなる透明電極22と、この透明電極22の導電層20上に形成された半導体層25(図3参照)とから構成される。半導体層25は、酸化亜鉛粒子29からなる金属酸化物層27に増感色素30が複合化されている。図3に示すように、金属酸化物層27は、酸化亜鉛粒子29が互いに接触しているものの、酸化亜鉛粒子29同士が高温で焼結させたような結合状態とはなっていない。
【0016】
前記基板18としては、光透過性を有する素材であればよく、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン等のプラスチックや、ガラス等を採用できる。軽さおよびコストの観点から、プラスチックが好ましい。また、シート状のプラスチック等、可撓性を有するフレキシブルな素材を採用すれば、取り扱いの自由度が高くなる。前記導電層20としては、例えば、インジウム/スズ複合化合物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモン/スズ複合化合物(ATO)等を用いることができる。その中でも、光透過性が高く、電気抵抗が低いことから、ITOが好ましい。なお、前記透明電極22としては、前記基板18に導電層20が形成されたものだけでなく、基板18を備えておらず全体が導電層20からなるものであってもよい。
【0017】
前記酸化亜鉛粒子29は、平均粒径1nm〜100μmであることが好ましく、1nm〜1000nmであると更に好ましい。平均粒径が100μm以下であれば、複合化される増感色素30の量を確保するのに充分な表面積を有する金属酸化物層27を形成できる。本発明における平均粒径は、粒子径測定装置(商品名:Zetasaizer Nano ZS シスメックス株式会社製)を用いて動的光散乱法(DLS)により測定した。
【0018】
前記増感色素30としては、起電力を発生させることができるものであればよく、例えば、ルテニウムやオスミウム等の遷移金属錯体、ルテニウムービピリジル錯体、ポルフィリン、フタロシアニン、ジチオラート錯体、シアニン色素、ローダミン、クマリン誘導体、スチルベン誘導体等を採用できる。
【0019】
前記半導体層25の厚みは、1μm〜1000μmの範囲に設定することが好ましい。厚みが1μm以上であれば、好適な光電変換効率を得るのに充分な光を吸収することができる。また、1000μm以下であれば、導電層20から離れた位置で光電変換により発生した電子の再結合による消失が起こり難く、この消失に起因する光電変換効率の低下の影響を受け難い。
【0020】
本発明に係る製造方法では、酸化亜鉛粒子29を溶媒に分散させた状態で透明電極22に塗布し、溶媒を気化させ得る50℃未満の温度範囲で溶媒を気化させて、酸化亜鉛粒子29からなる金属酸化物層27を形成する。そして、この金属酸化物層27に増感色素30を複合化することで半導体層25が形成される。
【0021】
酸化亜鉛粒子29を溶媒に分散させた状態とは、溶媒に酸化亜鉛粒子29を加えてかき混ぜることで得られる分散液の状態を云う。前記酸化亜鉛粒子29を分散する溶媒としては、50℃未満で気化させ得るものであればよく、例えば、アセトニトリル等のニトリル化合物、エタノール等のアルコール、水等、またはこれらの混合溶液を採用できる。溶媒が気化するとは、溶媒が蒸発したり沸騰したりすることを云う。蒸発させ易いため揮発性を有する溶媒が好ましい。
【0022】
導電層20に対して前記分散液を塗布するには、スキージ法、スピンコート法、グラビアコート法、ディップコーティング法等を採用できる。溶媒を気化させ得る50℃未満の温度範囲とは、溶媒の融点以上であって50℃未満であればよい。溶媒を迅速に気化させるという観点からは、なるべく高温にするのが好ましい。50℃未満の温度で溶媒を気化させることで、溶媒に分散した状態の酸化亜鉛粒子29の結晶化度を保った状態の酸化亜鉛粒子29からなる金属酸化物層27が形成される。すなわち、金属酸化物層27をなす酸化亜鉛粒子29は、金属酸化物層27の形成処理前後でその結晶化度に変化がない。酸化亜鉛粒子29の結晶化度を保った状態とは、従来の高温の熱処理により電子パスが形成されるような酸化亜鉛粒子29が焼結した状態ではなく、酸化亜鉛粒子29における非晶質成分に対する結晶質成分の割合が変化しない状態を云う。溶媒を気化させるとは、ヒーターやオーブン等の機器を用いた加熱、放置、送風等により溶媒を蒸発させたり沸騰させたりすることをいう。
【0023】
前記金属酸化物層27に増感色素30を複合化させるとは、金属酸化物層27に増感色素30が化学的に結合したり、金属酸化物層27に増感色素30が物理的に保持されたり、金属酸化物層27に増感色素30が担持される状態を云う。金属酸化物層27に増感色素30を複合化させて半導体層25を形成する方法としては、増感色素30を溶媒に溶解させた色素溶液に対して、前記金属酸化物層27が形成された透明電極22を浸漬させる方法が好ましい。色素溶液の溶媒としては、エタノール、トルエン、アセトニトリル、クロロホルム等の有機溶媒を用いることができる。
【0024】
前記対向電極14としては、白金、金、カーボン、導電性高分子、前記光電極12と同様の導電層20が付された基板18等を採用できる。前記電解質16としては、電子、ホール、イオン等を輸送できる物質であれば特に限定されず、ヨウ素/ヨウ化物、臭素/臭化物等の酸化還元電解質16や、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化銅(CuI)、チオシアン酸銅(CuSCN)、酸化ニッケル(NiO)等のP型半導体を有機溶媒に溶解した溶液を採用できる。前記有機溶媒としては、アセトニトリル、3‐メトキシプロピオニトリル、γ-プチロラクトン、ポリエチレングリコール、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等を採用できる。なお、電解質16は、液体に限られず、ゲル体、固体等であってもよい。
【0025】
前記光電極12と対向電極14との間にスペーサを配設することで、光電極12と対向電極14との間に所要の間隔を安定的に設けることができる。スペーサとしては、ガラス製や合成樹脂製のものを採用できる。光電極12と対向電極14との間に前記電解質16を注入し、光電極12と対向電極14との間に電解質16を充填することにより色素増感太陽電池10が得られる。
【0026】
(実施例1)
実施例1では、透明電極22として、ITOが導電層20として付されたガラス製の基板18を採用し、分散液の溶媒を25℃で蒸発させた色素増感太陽電池10の製造方法について説明する。
【0027】
平均粒径15nm〜35nmの酸化亜鉛粒子29(品番:NANOFINE-50 堺化学工業株式会社製)を、水に対するエタノールの体積比が67%のエタノール水溶液に、酸化亜鉛粒子29とエタノール水溶液との重量比が4:1となるよう加えて混合することで、酸化亜鉛粒子29がエタノール水溶液中に分散した分散液を得た。
【0028】
幅3cm、長さ5cm、厚さ0.7mmに形成された、導電層20として厚さ330nmのITOが付されたガラス製の透明電極22(品番:0005 ジオマテック製)を用意した。この透明電極22を、アセトン、エタノール、イオン交換水の順で超音波洗浄した。透明電極22の導電層20が付された面に対して、中央部に幅5mm、長さ5cm残して市販のメンディングテープでマスキングした。この導電層20の露出部に、前記スキージ法により前記分散液を塗布して塗膜を形成した。そして、塗膜が形成された透明電極22を、25℃で1時間放置し塗膜の溶媒を蒸発させることで厚み3μmの金属酸化物層27を形成した。メンディングテープを剥がした後、金属酸化物層27が形成された透明電極22を幅5mm、長さ3cmとなるよう分割した。
【0029】
金属酸化物層27が形成された透明電極22を、増感色素30としてのN719ルテニウム錯体(品番:Ruthenizer 535-bis SOLARONIX製)をエタノール水溶液に溶解させた色素溶液(色素濃度0.3mM)に室温25℃の条件下で3時間浸漬させた。色素溶液から透明電極22を取出し、エタノールで余分な色素溶液を洗い流して風乾させることで、金属酸化物層27に増感色素30が吸着された半導体層25を備える光電極12が得られる。
【0030】
光電極12と、白金製の対向電極14との間に厚さ50μmのポリテトラフルオロエチレン製のスペーサフィルムを挟んで固定した。光電極12と対向電極14との間に、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、1,2‐ジメチル‐3‐プロピルイミダゾリウムヨージド0.6M、4‐tert‐ブチルピリジン0.5Mとなるようアセトニトリルで調製した電解質16を注入して色素増感太陽電池10を得た。
【0031】
(実施例2)
実施例2では、塗膜が付された透明電極22を電気炉により49℃で1時間加熱した以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池10を得た。
(実施例3)
実施例3では、導電層20としてFTOが付されたガラス製の基板18からなる透明電極22(品番:A110U80 旭硝子製)を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池10を得た。
【0032】
(比較例1)
比較例1では、酸化亜鉛粒子29の代わりに平均粒径9nmの酸化チタン粒子(品番:Ti-Nanoxide HT SOLARONIX製)を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池10を得た。
(比較例2)
比較例2では、塗膜が付された透明電極22を電気炉により400℃で1時間加熱した以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池10を得た。
(比較例3)
比較例3では、塗膜が付された透明電極22を電気炉により500℃で1時間加熱した以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池10を得た。
【0033】
実施例1,2および比較例1,2により製造した色素増感太陽電池10の光電変換効率を、ソーラーシミュレーター(品番:CEP-2000ML 分光計器株式会社製)を用いて、JIS C8913 結晶系太陽電池セル出力測定方法に準拠した方法(AM1.5 放射照度100mW/cm)で測定した。また、導電層20の電気抵抗を、抵抗率計(品番:MCP-T60型 三菱化学アナリテック製)を用いた四探針法で測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、溶媒を気化させ得る50℃未満の温度で塗膜の溶媒を蒸発させた実施例1〜3では、良好な光電変換効率の色素増感太陽電池10が得られた。一方酸化チタン粒子を用いた比較例1では、実施例1および2に比べて光電変換率が低い。これは、酸化チタンの電子移動度が酸化亜鉛に比べて小さいため、金属酸化物層27を形成する際に高温での加熱処理やその他の煩雑な処理を経なくては電子パスが形成されず電子が移動できないためだと推測される。すなわち、実施例の色素増感太陽電池の製造方法によれば、簡単で低コストに金属酸化物層27を形成できる。
【0036】
400℃で加熱した比較例2および500℃で加熱した比較例3では、実施例1〜3に比べて光電変換効率が低い。これは、高温で加熱した比較例2および3では導電層20の電気抵抗の上昇により、光電変換効率が低下したと考えられる。また、導電層20としてITOを用いた実施例1および2は、導電層20としてFTOを用いた実施例3に比べて光電変換効率が高い。これは、導電層20を高温で加熱しないので、熱による電気抵抗の上昇が起き易いITOを用いてもFTOより電気抵抗の小さいITO本来の特性が損なわれないからである。すなわち、実施例の色素増感太陽電池の製造方法によれば、光電極12を高温で加熱しないため導電層20として熱の影響を受け易いITOを採用しても良好な光電変換効率が得られる。また、比較例2の光電変換効率の低さは、高温の熱処理により酸化亜鉛粒子29同士が結合したり酸化亜鉛粒子29の結晶化度が高まることで、金属酸化物層27の表面積が減少し、増感色素30の吸着量が減少したことにも起因すると考えられる。従って、実施例1および2では、酸化亜鉛粒子29を高温で加熱しないので、塗膜における酸化亜鉛粒子29の結晶化度が保たれた状態の酸化亜鉛粒子29からなる金属酸化物層27が形成されていると推測される。このため、実施例の色素増感太陽電池の製造方法によれば、酸化亜鉛粒子29の結晶化度が高まることで金属酸化物層27の表面積が減少しないので増感色素30の吸着量が確保され、良好な光電変換効率が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0037】
18 基板,20 導電層,22 透明電極,25 半導体層,27 金属酸化物層,
29 酸化亜鉛粒子,30 増感色素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極(22)上に形成された金属酸化物層(27)に増感色素(30)を複合化して形成される半導体層(25)を備えた色素増感太陽電池の製造方法であって、
酸化亜鉛粒子(29)を溶媒に分散した状態で前記透明電極(22)に塗布し、
前記溶媒を気化させ得る50℃未満の温度範囲で溶媒を気化させて、前記酸化亜鉛粒子(29)からなる前記金属酸化物層(27)を形成する
ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒に分散した前記酸化亜鉛粒子(29)の結晶化度を保った状態で、該酸化亜鉛粒子(29)からなる前記金属酸化物層(27)を形成する請求項1記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記透明電極(22)を、基板(18)とインジウムスズ酸化物からなる導電層(20)とから構成し、
前記金属酸化物層(27)を、前記導電層(20)上に形成する請求項1または2に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記透明電極(22)は、基板(18)としてプラスチックが用いられる請求項1〜3の何れか一項に記載の色素増感太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−93247(P2013−93247A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235486(P2011−235486)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名: 第3回アジア先端材料シンポジウム事務局 刊行物名: The 3rd Asian Symposium on Advanced Materials Program Book 発行年月日:平成23年9月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成23年度独立行政法人 科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(591202155)熊本県 (17)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100076048
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜幾
【Fターム(参考)】