説明

艶消し表面層を有する加飾性多層成形体

【課題】 耐光性および生産性に優れ、光沢が十分に低減された艶消し表面層を有する加飾性多層成形体を提供すること。
【解決手段】 ポリオルガノシロキサンとアルキルアクリレートとから得られる複合ゴムで変性されたアクリロニトリル−スチレン共重合体および艶消し剤を含有する表面層を有してなる加飾性多層成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用内装材、外装材および住設資材等の建築資材として使用され、艶消し表面層を有する加飾性多層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧破風、化粧胴差し、化粧柱、ベランダ・バルコニー等の手摺り材、笠木等に用いられる外装化粧材や室内のユニットバス、キッチンカウンター部材、幅木等の内装化粧材等として、加飾性多層成形体が多種使用されている。このような加飾成形体として、表面層にPMMA樹脂を用いた耐候性かつ光沢を有する成形体が多用されているが、近年、光沢を低減させた、いわゆる艶消し表面層を有する多層成形体が広く好まれるようになっている。そのような艶消し表面層を有する多層成形体として、特に、木質調および木目調等の艶のない質感を備えた表面層を有する多層成形体の需要が伸びている。
【0003】
艶消し表面層を有する多層成形体を得る方法として、次の3つの方法が知られている。第1の方法は、従来用いられる表面層のPMMA樹脂に、架橋PMMA樹脂からなる艶消し剤やシリカ粉、マイカ粉等の無機系艶消し剤を添加する方法である(特許文献1)。第2の方法は、特に木質調成形体によく用いられる方法であるが、表面層樹脂中に木粉を添加する方法である。通常、木粉は表面層の樹脂100重量部に対して5〜30重量部程度添加され、好ましい木質感を発現させる(特許文献2)。第3の方法は、ABS樹脂、PMMA樹脂を用いて共押出成形した後、後加工として、エンボス加工、サンドブラスト加工等の艶消し加工を行う方法である(特許文献3)。
【特許文献1】特開平9−174735号公報
【特許文献2】特開平8−169092号公報
【特許文献3】特開2004−98334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1の方法においては、艶消し剤を添加しても、光沢を十分に低減さることはできなかった。特に、木質感や木目調等のような顔料の添加を要する質感を表現する場合には、顔料と樹脂との相性等の問題があり、好ましい木質感および木目感を表現するのが難しかった。第2の方法については、表面層に使用する樹脂によっては、当該表面層に添加された木粉が吸湿し、結果的に耐候性が低下した。また、第3の方法においては、成形後の後加工を要するので、生産性が問題となった。
【0005】
本発明は、耐光性および生産性に優れ、光沢が十分に低減された艶消し表面層を有する加飾性多層成形体を提供することを目的とする。
【0006】
本発明はまた、木質感および所望により木目柄を備え、耐光性および生産性に優れ、光沢が十分に低減された艶消し表面層を有する加飾性多層成形体を提供することを目的とする。
【0007】
本明細書中、木質感とは実際の木材表面と同等または近い光沢(艶)および手触り感に関する質感を意味する。
また木目柄とは、木材表面に見られる筋模様、流れ模様を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリオルガノシロキサンとアルキルアクリレートとから得られる複合ゴムで変性されたアクリロニトリル−スチレン共重合体および艶消し剤を含有する表面層を有してなる加飾性多層成形体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加飾性多層成形体は、表面層構成樹脂として特定の共重合体を使用するので、艶消し剤によって表面の光沢を十分に低減でき、艶を有効に消失させ得る。また上記特定の共重合体は顔料の分散性に優れている。このように、本発明において表面層は艶を有効に消失でき、かつ顔料を有効に分散できるため、ブラウン系の顔料を表面層に含有させることによって、良好な木質感を喚起させ得る。さらに、上記特定の共重合体よりメルトフローレート値が低い樹脂中に着色剤が含有されてなる種剤を表面層に含有させることによって、木目柄を発現させ得る。そのような木目柄は、不明瞭すぎず、また明瞭すぎもせず、実際の木材と同等の適度な明瞭さを有している。
本発明の多層成形体は表面層に木粉を含有しないので、耐光性に優れている。
また後処理工程を要しないので、生産性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の加飾性多層成形体は表面層が特定の共重合体および艶消し剤を含有することを特徴とする。
【0011】
表面層を構成する共重合体は、ポリオルガノシロキサンとアルキルアクリレートとから得られる複合ゴムで変性されたアクリロニトリル−スチレン共重合体(以下、単に複合ゴム変成AS樹脂という)である。本発明においては複合ゴム変成AS樹脂を使用するため、艶消し剤によって表面の光沢を十分に低減でき、艶を有効に消失させ得る。他の樹脂、例えば、PMMA樹脂、ASA樹脂を使用すると、たとえ艶消し剤を含有させても、当該艶消し剤が有効に機能せず、表面の光沢を十分に低減できない。
【0012】
本発明に用いられる複合ゴムを構成するポリオルガノシロキサンは、特に限定されるものではないが、好ましくはビニル重合性官能基を含有するポリオルガノシロキサンである。さらに好ましくは、ビニル重合性官能基含有シロキサン単位0.3〜3モル%およびジオルガノシロキサン単位97〜99.7モル%からなり、さらに3個以上のシロキサン結合を有するケイ素原子がポリオルガノシロキサン中に存在する全ケイ素原子に対して1モル%以下であるポリオルガノシロキサンである。ポリオルガノシロキサン中のビニル重合性官能基含有シロキサン単位が0.3モル%未満では、アルキルアクリレートとの複合化が不十分となり、多層成形体表面の光沢を十分に低減できない場合がある。また、ポリオルガノシロキサン中のビニル重合性官能基含有シロキサン単位が3モル%を超えるか、または3個以上のシロキサン結合を有するケイ素原子がポリオルガノシロキサン中の全ケイ素原子に対して1モル%を超える場合には、多層成形体の耐衝撃性が低くなりやすい。特に、多層成形体の耐衝撃性と成形外観の両方を考慮すると、ポリオルガノシロキサン中のビニル重合性官能基含有シロキサン単位は、好ましくは0.5〜2モル%、さらに好ましくは0.5〜1モル%である。
【0013】
ポリオルガノシロキサンの製法としては、特に限定はされないが、乳化重合法を用いるのが好ましく、例えば、ジオルガノシロキサンとビニル重合性官能基含有シロキサンからなる混合物またはさらに必要に応じてシロキサン系架橋剤を含む混合物を乳化剤と水によって乳化させたラテックスを、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーや、高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用して微粒子化した後、酸触媒を用いて高温下で重合させ、次いでアルカリ性物質により酸を中和する方法が挙げられる。重合に用いる酸触媒の添加方法としては、シロキサン混合物、乳化剤および水とともに混合する方法と、シロキサン混合物が微粒子化したラテックスを高温の酸水溶液中に一定速度で滴下する方法等があるが、ポリオルガノシロキサンの粒子径の制御のしやすさを考慮するとシロキサン混合物が微粒子化したラテックスを高温の酸水溶液中に一定速度で滴下する方法が好ましい。
【0014】
ポリオルガノシロキサンの製造に用いるジオルガノシロキサンとしては、3員環以上のジオルガノシロキサン系環状体が挙げられ、3〜7員環のものが好ましい。具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられるが、これらは単独でまたは2種以上混合して用いられる。
【0015】
ビニル重合性官能基含有シロキサンとしては、ビニル重合性官能基を含有し、かつ、ジオルガノシロキサンとシロキサン結合を介して結合しうるものであり、ジオルガノシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を含有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシランおよびδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシランや、さらにγ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。これらビニル重合性官能基含有シロキサンは、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0016】
ポリオルガノシロキサンの製造に用いるシロキサン系架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。ポリオルガノシロキサンの製造の際に用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどのうちから選ばれた乳化剤が挙げられる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸系の乳化剤が好ましい。これらの乳化剤は、シロキサン混合物100重量部に対して0.05〜5重量部程度の量で使用されるのがよい。使用量が少ないと、分散状態が不安定となり、微小な粒子径の乳化状態を保てなくなる場合がある。また、使用量が多いと、この乳化剤に起因する樹脂組成物成形品の着色が甚だしくなることがある。
【0017】
ポリオルガノシロキサン製造の際のシロキサン混合物、乳化剤、水および/または酸触媒を混合する方法としては、高速撹拌による混合、ホモジナイザーなどの高圧乳化装置による混合などがあるが、ホモジナイザーを使用する方法は、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径の分布が小さくなるので好ましい方法である。
【0018】
ポリオルガノシロキサンの重合に用いる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの酸触媒は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。また、これらのうちでは、ポリオルガノシロキサンラテックスの安定化作用にも優れている点で、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0019】
ポリオルガノシロキサンの重合の際の温度は、50℃以上が好ましく、さらに好ましくは80℃以上である。ポリオルガノシロキサンの重合時間としては、酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤および水とともに混合し、微粒子化させて重合する場合には2時間以上、さらに好ましくは5時間以上であり、酸触媒の水溶液中にシロキサン混合物が微粒子化したラテックスを滴下する方法ではラテックスの滴下終了後1時間程度保持することが好ましい。重合の停止は、反応液を冷却し、さらにラテックスを苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性物質で中和することによって行うことができる。このようにして製造されたポリオルガノシロキサンラテックスに、アルキルアクリレートを含浸させた後に重合させることによって、複合ゴムを得ることができる。
【0020】
本発明に用いられる複合ゴム中のポリオルガノシロキサンの量は、特に限定はされないが、1〜20重量%であるのが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる複合ゴムを構成するアルキルアクリレートは、単官能性アルキルアクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートとからなる。単官能性アルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのうちでは、n−ブチルアクリレートが好ましい。
【0022】
多官能性アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのうちで、好ましい多官能性アルキル(メタ)アクリレートの例としては、アリルメタクリレートと1,3−ブチレングリコールジメタクリレートとの組み合わせである。また、多官能性アルキル(メタ)アクリレートの使用量は、単官能性アルキルアクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートからなる成分中0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜5重量%、さらに好ましくは0.2〜1重量%であるのがよい。
【0023】
本発明に有用な、ポリオルガノシロキサンとアルキルアクリレートとから得られる複合ゴムは、ポリオルガノシロキサンのラテックス中へ上記アルキルアクリレート成分を添加し、通常のラジカル重合開始剤を作用させて重合させることによって調製することができる。アクリレート成分を添加する方法としては、ポリオルガノシロキサンのラテックスと一括で混合する方法とポリオルガノシロキサンのラテックス中に一定速度で滴下する方法がある。なお、得られる成形体の耐衝撃性を考慮するとポリオルガノシロキサンのラテックスと一括で混合する方法が好ましい。
【0024】
この複合ゴムの重合に用いられるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることができる。これらのうちでは、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート二水塩)およびt−ブチルハイドロパーオキサイドを組み合わせてなるスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0025】
本発明に用いられる複合ゴムの重量平均粒子径は、特に限定されないが、0.08〜2.0μmであるのが好ましい。重量平均粒子径が0.08μm未満の場合には樹脂組成物の耐衝撃性が低くなることがあり、2.0μmを超える場合には樹脂組成物の顔料着色性が低くなることがある。より好ましい重量平均粒子径は、0.1〜1.5μmである。
【0026】
本発明に用いられる複合ゴム変成AS樹脂は、上記のようにして製造された複合ゴムに、スチレンとアクリロニトリルとを含む単量体混合物をグラフト共重合することによって製造することができる。
グラフト共重合に用いられる単量体の量は、スチレンが65〜85重量%、アクリロニトリルが15〜35重量%であるのが好ましい。
【0027】
グラフト共重合に用いられる単量体混合物には、グラフトポリマーの分子量やグラフト率を調整するための各種連鎖移動剤を添加することができる。グラフト共重合は、複合ゴムのラテックスにスチレンとアクリロニトリルを含む単量体混合物を加え、ラジカル重合技術により一段で、あるいは多段で行うことができる。
【0028】
グラフト共重合体の共重合に用いられる単量体混合物の量は、複合ゴム100重量部に対して80〜140重量部、好ましくは100〜120重量部であるのがよい。グラフト共重合の際、全ての単量体混合物がグラフト成分にならず、一部単独の共重合体として存在していても差し支えない。グラフト共重合体の共重合においては、重合ラテックスを安定化させるために乳化剤を添加することができる。用いられる乳化剤としては、特に限定させるものではないが、好ましい例としてカチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤があり、さらに好ましい例としてはスルホン酸塩乳化剤または硫酸塩乳化剤とカルボン酸塩乳化剤との組み合わせがある。
【0029】
グラフト共重合が終了した後は、ラテックスを酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析し、凝固させることにより複合ゴム変成AS樹脂を分離し、回収することができる。
【0030】
上記のような複合ゴム変成AS樹脂は市販品として入手可能である。
例えば、市販の「ダイヤラックSタイプ」(ユーエムジー・エービーエス株式会社製)が使用可能である。
【0031】
本発明で用いる艶消し剤は、表面層に含有させることによって当該層表面を荒らして光沢を低減できる物質であれば特に限定されるものではなく、建築資材用多層成形体の分野で従来から使用されている有機系または無機系のいずれの艶消し剤も使用可能である。
【0032】
艶消し剤の具体例として、例えば、アクリル系樹脂および粒状ゴム等の有機系艶消し剤、およびシリカ粉、マイカ粉および炭酸カルシウム等の無機系艶消し剤が挙げられる。複合ゴム変成AS樹脂との混合性および押出成形による生産性を考慮すれば、アクリル系樹脂、特に架橋アクリル系樹脂がもっとも好ましい。アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸アルキルの単独重合体;上記メタクリル酸アルキルと、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸イソプロピル等のアクリル酸アルキル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等との共重合体;架橋ポリメチルメタクリレート;ポリメチルメタクリレートと上記アクリル酸アルキル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等との共重合体;ならびにそれらのフッ素化物(フッ素変性アクリル系重合体)等が例示される。耐候性を向上させ、光沢をより有効に低減させる観点から、好ましくはメタクリル酸メチル単独重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸アルキルとスチレン等との共重合体、メタクリル酸メチル系共重合物である。
【0033】
艶消し剤は上記有機系および無機系艶消し剤からなる群から選択される1種類の物質を単独で使用してもよいし、または当該群から選択される2種類以上の物質を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
艶消し剤の含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されないが、実際の木材と同等の木質感を得る観点、特に光沢を有効に低減する観点からは、複合ゴム変成AS樹脂に対して1.0〜40重量%が好ましく、より好ましくは2.0〜30.0重量%、特に4.0〜25.0重量%である。
【0035】
表面層には着色剤を含有させてもよい。着色剤としては耐候性に優れるものが使用され、例えば、一般の無機顔料が使用可能である。無機顔料としては、従来から建築資材用成形体の分野で使用されているものが使用可能であり、特に、多層成形体に木質感を表現する場合には、ブラウン系顔料を使用することが好ましい。
【0036】
着色剤の含有量は特に制限されるものではなく、例えば、複合ゴム変成AS樹脂に対して20重量%以下、特に1.0〜5.0重量%が好適である。
【0037】
表面層には上記着色剤とは別に種剤をさらに含有させることができる。種剤を含有させることによって、実際の木材表面が有する木目柄と同等の適度な明瞭さで木目柄を表現でき、木質感を一層効果的に発現できる。
【0038】
種剤は、前記変性アクリロニトリル−スチレン共重合体(複合ゴム変成AS樹脂)よりメルトフローレート(MFR)値が低い樹脂中に着色剤が含有された着色剤含有樹脂粒子である。種剤用樹脂は複合ゴム変成AS樹脂よりもMFR値が低く、流動性が低いため、押出成形の混練工程で、複合ゴム変成AS樹脂と均一に混合しない。そのため、このような樹脂を含有する種剤を添加することにより、成形体中に不規則で、且つ境界が適度にはっきりしない筋模様を形成して木目柄に似た外観を与えることができる。
【0039】
種剤用樹脂のMFR値(M)は複合ゴム変成AS樹脂のMFR値(M)より小さい限り特に制限されないが、実際の木目柄により近い木目柄を表現する観点から、以下の関係を有することが好ましい;
1≦M−M≦20、特に、2≦M−M≦15。
【0040】
種剤用樹脂の種類としては、複合ゴム変成AS樹脂とある程度の相溶性のある樹脂が好ましい。そのような樹脂として、例えば、複合ゴム変成AS樹脂の他、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体樹脂(ASA樹脂)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA樹脂)等が挙げられる。特に好ましくは、アクリル系熱可塑性樹脂、例えばABS樹脂である。
種剤に含有される着色剤としては、前記着色剤と同様のものが使用可能である。
【0041】
種剤は、種剤用樹脂および着色剤を十分に混合し、溶融・混練した後、冷却し、粉砕することによって得ることができる。
表面層中における種剤の含有量は、木目柄を表現できる限り特に制限されるものではないが、複合ゴム変成AS樹脂に対して0.2〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0042】
表面層には種々の物性を高めるために、従来から合成樹脂に用いられる種々の添加剤、例えば、アクリル系改質剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0043】
表面層の厚さは50〜3000μm、好ましくは150〜1000μmである。表面層が薄すぎると、木質感を出すことが難しい。厚すぎると、効果が変わらない割りには経済的に不利となり、また多層成形体としての加工性も低下する。
【0044】
本発明の多層成形体は上記のような表面層を、基材層上に直接有していても良いし、または基材層上に中間層を介して間接的に有していても良い。
【0045】
基材層は、その材質が特に限定されるものではないが、少なくとも押出成形性を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、AS樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはこれらの混合樹脂等を用いることができる。成形性、強靭性、経済性の面からPVC樹脂、PS樹脂、HIPS樹脂、ABS樹脂が好ましく使用されるが、特に好ましくはABS樹脂である。なお、基材層構成樹脂は製品要求特性に応じて適宜選択して使用すればよい。
【0046】
基材層は、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シラスバルーン、セルロース系材料等の充填材や軽量化材、ガラス繊維やセルロース繊維等の補強材、ポリエチレン、流動パラフィン、脂肪酸アミド等の滑剤、難燃剤、着色剤、加工助剤その他の合成樹脂成形体に添加される各種添加材を含むことができる。
【0047】
また基材層は、近年の環境問題等により、熱可塑性樹脂に対して木粉を多量、例えば30重量%以上、特に40〜80重量%添加した材料からなる成形体または低発泡成形体も開発されているが、そのような熱可塑性樹脂中に木粉を大量に含有させた材料も本発明の基材層構成材料として使用可能である。
【0048】
相当の厚さを持たせた場合でも加工性と軽量性を保持することができるように、基材層は熱可塑性樹脂を低発泡させてもよいが、発泡倍率が高くなると、成形時に金型及びサイジングダイに対し高い発泡圧力にて、押し付けられるため表面光沢が高くなってしまう。好ましくは未発泡基材層である。
【0049】
基材層の厚さは用途によって広い範囲で変えることができ、成形性の観点からは、通常3〜30mmの範囲で自由に設計することができる。
基材層を低発泡押出する場合には、上記の基材層の熱可塑性樹脂に発泡剤を配合する必要がある。発泡剤は押出温度で分解して気体を発生する固体状の発泡剤が好ましく、このような発泡剤として重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アゾジカルボン酸アミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド等を用いることができる。
【0050】
中間層は、基材層と表面層とが接着性を有しない樹脂を用いる場合、接着介在樹脂として用いる場合等、その目的は種々であるが、押出成形が可能であるならば、いかなる熱可塑性樹脂から構成されてよい。熱可塑性樹脂としては、基材層に含有される熱可塑性樹脂と同様の樹脂が挙げられる。
中間層の厚さは通常、0.2〜2.0mmである。
【0051】
本発明の多層成形体は共押出成形法によって成形することができる。特に、生産性、長尺物成形、製品特性の一定性という面から、図1に示すように、多層押出成形法により1個のダイス内で各樹脂を共押出成形して積層することが最も適切である。
【0052】
共押出成形を行う製造方法は、特に限定されるものではなく、従来から合成樹脂の共押出成形体の製造に利用されている方法を適宜利用して、通常の共押出成形方法により行うことができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1〜6および比較例1〜3)
表1に記載の成分からなる基材層および表面層のコンパウンド(樹脂組成物)を、図1に示す共押出成形装置において、それぞれ基材層用押出機(図1中、B)および表面層用押出機(図1中、A)から同時に押出し、ダイス内で積層して押出多層成形体を成形した。押出条件は次の通りである:
基材層用押出機:45φ、二軸押出機(押出温度 180℃)
表面層用押出機:40φ、一軸押出機(押出温度 200℃)
成形体形状:平板(8mm×120mm)
【0054】
【表1】

【0055】
表中の成分は以下に示す通りである。
ABS樹脂;ユーエムジー・エービーエス社製:「サイコラック」
木粉;平均粒径0.2mm
ポリエチレン系滑剤;ポリエチレンワックス
複合ゴム変成AS樹脂;ユーエムジー・エービーエス社製:「ダイヤラックSタイプ」(ライトブラウン色)、MFR=6
PMMA樹脂;三菱レイヨン社製:「アクリペット」、MFR=10
ASA樹脂;ユーエムジー・エービーエス社製:「ダイヤラックAタイプ」
艶消し剤;三菱レイヨン社製:「メタブレン」
【0056】
種剤;
着色ABS樹脂;ユーエムジー・エービーエス社製(ダークブラウン色)、MFR=1
【0057】
(評価)
得られた多層成形体の表面層を目視および手触りにて評価した。
(1A)光沢(艶)
光沢(艶)を目視により評価した。
◎;光沢が十分に低減され、艶がなかった;
○;わずかに艶を有しているものの、実用上問題なかった;
×;明らかに艶を有していた。
【0058】
(1B)触感
触感を手触りにより評価した。
◎;木材表面が有する範囲内の適度な表面粗さを有していた;
○;表面粗さが適度とは言えず、表面がざらざらすぎたり、またはつるつるすぎたりしたが、木材表面が有する範囲内の表面粗さを有しており、実用上問題なかった;
×;表面がつるつるすぎて、プラスチックの触感を有していた。
【0059】
(1C)木質感
上記光沢(艶)および触感より総合的に木質感について評価した。
◎;木材表面と同等の木質感(光沢(艶)および触感)を有していた;上記(1A)および(1B)の評価結果がともに◎であった;
○;◎よりは劣るが、実用上問題のない木質感を有していた;上記(1A)および(1B)の評価結果がともに○以上であり、かつ少なくとも一方が○であった;
×;木質感は有しなかった;上記(1A)および(1B)の評価結果の少なくとも一方が×であった。
【0060】
(2)木目柄
木材特有の年輪模様(木目)を目視により評価した。
◎;木目柄が表現されていた;
×;種剤を用いたが、木目柄が表現されていなかった;
−;種剤を用いなかったので、木目柄が表現されていなかった。
【0061】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の加飾性多層成形体を成形するための共押出成形装置の一例の模式的構成図である。
【符号の説明】
【0063】
A:表面層用押出機、B:基材層用押出機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンとアルキルアクリレートとから得られる複合ゴムで変性されたアクリロニトリル−スチレン共重合体および艶消し剤を含有する表面層を有してなる加飾性多層成形体。
【請求項2】
艶消し剤がアクリル系樹脂、粒状ゴム、シリカ粉、マイカ粉および炭酸カルシウムからなる群から選択される1種類以上の物質である請求項1に記載の加飾性多層成形体。
【請求項3】
樹脂に対して少なくとも木粉が30重量%以上含有されてなる基材層上に表面層を有する請求項1または2に記載の加飾性多層成形体。
【請求項4】
基材層を構成する樹脂がアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂である請求項3に記載の加飾性多層成形体。
【請求項5】
表面層が、変性アクリロニトリル−スチレン共重合体よりメルトフローレート値が低い樹脂中に着色剤が含有された着色剤含有樹脂粒子をさらに含有する請求項1〜4のいずれかに記載の加飾性多層成形体。



【図1】
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【公開番号】特開2006−88436(P2006−88436A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275069(P2004−275069)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】