説明

艶消塗料用組成物、艶消塗料、艶消塗料用キットおよび塗装物品

【課題】塗料における混和性が良好であり、かつ艶消効果が高い塗膜を形成できる艶消塗料用組成物を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂、およびシランカップリング剤で処理された無機質中空球状体を含有することを特徴とする艶消塗料用組成物。前記無機質中空球状体が、ガラスからなり、無機質中空球状体における、最小粒子径と最大粒子径との差が100μm以上であり、前記フッ素樹脂が、フッ素樹脂エマルションであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は艶消塗料用組成物、該組成物を用いた艶消塗料および艶消塗料用キット、ならびに該艶消塗料用組成物を用いて塗装された塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
土木分野での建造物や、車両等に低光沢の外観を与える塗装を施すことが行われている。従来、このような塗装を施す場合は、いわゆる艶消剤を塗料に添加する方法が一般的である。
艶消剤として珪砂またはシリカを添加した艶消塗料が従来から知られている。
また下記特許文献1、特許文献2には、フッ素樹脂系塗料に中空球状体を含有させた塗料が記載されている。
【特許文献1】特開2000−73001号公報
【特許文献2】特開2001−64544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
艶消塗料にあっては、塗膜の光沢をより低く抑えることが要求されるが、従来の艶消塗料では艶消効果が不充分である。そこで、艶消効果を高くするために、従来の艶消剤を多量に添加しようとすると、艶消剤と塗料成分との混和性が悪くなり、塗料が増粘したり、塗料中に凝集が生じるという問題がある。
【0004】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、塗料における混和性が良好であり、かつ艶消効果が高い塗膜を形成できる艶消塗料用組成物、該組成物を用いた塗料および塗料用キット、ならびに該艶消塗料用組成物を用いて塗装された塗装物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の艶消塗料用組成物は、シランカップリング剤で処理された無機質中空球状体およびフッ素樹脂を含有することを特徴とする。
本発明は、本発明の艶消塗料用組成物と、硬化剤を含有する艶消塗料を提供する。
本発明は、本発明の艶消塗料用組成物と、硬化剤を備える艶消塗料用キットを提供する。
本発明は、最表面層が、本発明の艶消塗料用組成物を用いて形成された塗膜からなる塗装物品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、塗料用組成物における混和性が良好であり、かつ艶消効果が高い塗膜を形成できる艶消塗料用組成物、塗料、および塗料用キットが得られる。
また本発明によれば、最表面層が、艶消効果が高い塗膜からなる塗装物品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[艶消塗料用組成物]
<フッ素樹脂>
本発明の艶消塗料用組成物に使用されるフッ素樹脂は、特に制限なく、種々のフッ素樹脂が使用できる。好適なものとしては、フルオロオレフィンの重合によって得られるフルオロオレフィン系重合体、フルオロオレフィンと共重合可能な単量体との共重合によって得られるフルオロオレフィン系共重合体、およびそれらの重合体の変成体などが挙げられる。
フッ素樹脂は、フッ素樹脂溶液、フッ素樹脂エマルションの形態で使用することが好ましく、溶剤の使用量を少なくできる点からフッ素樹脂エマルションの形態がより好ましい。また、フッ素樹脂エマルションとしては、水中油滴型の水性フッ素樹脂エマルションが安全性、無公害性の点からより好ましい。
【0008】
フッ素樹脂の合成に使用されるフルオロオレフィンとしては、CClF=CF、CHCl=CF、CCl=CF、CClF=CClF、CHF=CCl、CH=CClF、CCl=CClF、CF2=CF2、CF=CHなどのフルオロエチレン類、CFClCF=CF、CFCCl=CF、CFCF=CFCl、CFClCCl=CF、CFClCF=CFCl、CFClCF=CF、CFCCl=CClF、CFCCl=CCl、CClFCF=CCl、CClCF=CF、CFClCCl=CCl、CFClCCl=CCl、CFCF=CHCl、CClFCF=CHCl、CHCCl=CHCl、CHFCCl=CCl、CFClCH=CCl、CFClCCl=CHCl、CClCF=CHCl、CClCF=CHCl、HBrCF=CCl、CF=CFOCF、CF=CFOCなどのフルオロプロピレン類、CFCCl=CFCF、CF=CFCFCClCF、CFCFCF=CClなどの炭素数4以上のフルオロオレフィン類などが挙げられる。
これらのフルオロオレフィンは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
上記のうちで好ましいフルオロオレフィンは、CClF=CFまたはCF=CFである。
【0009】
また、フルオロオレフィンと共重合可能な単量体としては、ビニルエーテル類、イソプロペニルエーテル類、アリルエーテル類、カルボン酸ビニルエステル類、カルボン酸アリルエステル類などが挙げられる。
ビニルエーテル類の具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、α,α’−ジメチルプロピルエーテル、オクチルビニルエーテル、ネオペンチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ナフチルビニルエーテルなどの芳香族ビニルエーテル類、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、9−ヒドロキシノニルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチル−4−ビニロキシメチルシクロヘキサン、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル類などが挙げられる。
イソプロペニルエーテル類の具体例としては、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル、プロピルイソプロペニルエーテル、ブチルイソプロペニルエーテル、シクロヘキシルイソプロペニルエーテルなどのイソプロペニルエーテル類、2−ヒドロキシエチルイソプロペニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルイソプロペニルエーテル、4−ヒドロキシイソプロペニルエーテル、9−ヒドロキシノニルイソプロペニルエーテル、1−ヒドロキシメチル−4−イソプロペノキシメチルシクロヘキサン、3−ヒドロキシ−2−クロロプロピルイソプロペニルエーテルなどのヒドロキシアルキルイソプロペニルエーテル類などが挙げられる。
アリルエーテル類の具体例としては、アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテルなどのアリルエーテル類などが挙げられる。
カルボン酸ビニルエステル類あるいはカルボン酸アリルエステル類としては、酢酸、酪酸、ピバリン酸、クロトン酸、安息香酸、マレイン酸、バーサチック酸などのカルボン酸のビニルあるいはアリルエステル類などが挙げられる。
【0010】
また、上記共重合可能な単量体以外に、上記共重合体にその特徴を失われない範囲で共重合可能な他の単量体を加えることができる。該他の単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのクロロオレフィン類、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類などが挙げられる。
【0011】
本発明におけるフッ素樹脂として水性フッ素樹脂エマルションを用いる場合、該エマルションに含まれるフッ素樹脂は、親水性部位を有することが好ましい。フッ素樹脂がフルオロオレフィン系共重合体である場合、フルオロオレフィンと、親水性部位を有する共重合可能な単量体とを共重合させることにより、親水性部位を有するフッ素樹脂を得ることができる。親水性部位を有する共重合可能な単量体としては、たとえば、親水性部位を有するマクロモノマー等が挙げられる。
本明細書におけるマクロモノマーとは、片末端にラジカル重合性不飽和基を有する低分子量のポリマーまたはオリゴマーのことをいう。すなわち、片末端にラジカル重合性不飽和基を有し、繰返し単位を少なくとも2個有する化合物である。繰返し単位の種類によって異なるが、通常は繰返し単位が100個以下のものが重合性、耐水性などの面から好ましく採用される。
親水性部位を有するマクロモノマーの親水性部位とは、親水性基を有する部位、または親水性の結合を有する部位、およびこれらの組合せからなる部位を表している。親水性基は、イオン性、非イオン性、両性およびこれらの組合せのいずれでもよく、上記親水性部位がイオン性の親水性基を有する部位のみからなる場合は、フッ素樹脂の水性分散液(エマルション)の化学的安定性に問題があるため好ましくなく、非イオン性または両性の親水性基を有する部位と組合せるか、親水性基の結合を有する部位と組合せることが望ましい。
【0012】
親水性部位を有するマクロモノマーの例として、
(1)CH=CHO(CH[O(CHOX(kは1〜10の整数、mは1〜4の整数、nは2〜20の整数、Xは低級アルキル基である。)
(2)CH=CHCHO(CH[O(CHOX(k、m、n、Xは上記(1)のものと同様である。)
(3)CH=CHO(CH(OCHCH[OCHCH(CH)]OX’(pは1〜10の整数、qは2〜20の整数、rは0または1〜20の整数、X’は低級アルキル基であり、オキシエチレン単位およびオキシプロピレン単位はブロック、ランダムのいずれの型で配列されていてもよい。)
(4)CH=CHCHO(CH(OCHCH[OCHCH(CH)]OX’(p、q、r、X’は上記(3)のものと同様であり、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位はブロック、ランダムのいずれの型で配列されていてもよい。)
等の、片末端にラジカル重合性不飽和基を有するポリエーテル類等が挙げられる。
【0013】
親水性部位を有するマクロモノマーとして、片末端がビニルエーテル型の構造を有するものが、フルオロオレフィンとの共重合性に優れているためより好ましい。特に、ポリエーテル鎖部分が、オキシエチレン単位からなるもの、およびオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位からなるものが親水性に優れているため好ましい。また、オキシエチレン単位を少なくとも2個有するものが、安定性等の諸性質を達成するうえで好ましい。また、オキシアルキレン単位の数が上記の範囲より大きすぎると、塗膜の耐水性や耐候性が劣化するおそれがある。
【0014】
親水性部位を有するマクロモノマーは、例えば、ヒドロキシ基を有するビニルエーテルあるいはアリルエーテルに、ホルムアルデヒドを重合させる方法、またはアルキレンオキシドあるいはラクトン環を有する化合物を開環重合させる等の方法により製造できる。
また、親水性部位を有するマクロモノマーとして、親水性のエチレン性不飽和モノマーがラジカル重合した鎖を有し、末端にビニルエーテルあるいはアリルエーテルのごときラジカル重合性不飽和基を有するマクロモノマーであってもよい。このようなマクロモノマーは、山下らがPolym.Bull.,5,335(1981)に述べている方法等により製造できる。すなわち、縮合可能な官能基を有する開始剤および連鎖移動剤の存在下に親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーをラジカル重合させることにより、縮合可能な官能基を有する重合体を製造し、次いでこの重合体の官能基にグリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテルの如き化合物を反応させ、末端にラジカル重合性不飽和基を導入する方法などが例示される。
【0015】
このマクロモノマーの製造に用いられるエチレン性不飽和モノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、2−メトキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ジアセトンアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アクリル酸エチルカルビトール、ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、ブトキシエチルアクリレート、多価アルコールのアクリル酸エステルおよび多価アルコールのメタクリル酸エステルおよびビニルピロリドンなどがある。
また、該マクロモノマーの調製に用いられる開始剤としては、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリアン酸、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩、過酸化カリウム、過酸化アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
【0016】
また、本発明におけるフッ素樹脂として、硬化反応性部位を与える官能基を有するものが好ましい。該官能基は硬化剤と反応して架橋結合を形成するものであればよい。官能基は硬化剤との組み合わせにより、適宜、選択できるが、代表的な例として水酸基、カルボキシ基、加水分解性シリル基、グリシジル基、エポキシ基、アミノ基等が挙げられる。該官能基の導入法としては共重合反応時に官能基を有するモノマーを共重合する方法がある。
該官能基を有するモノマーとしては、例えばヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類、ヒドロキシアルキルクロトン酸エステル等のヒドロキシ基含有カルボン酸エステル類等のヒドロキシ基を有するモノマー、クロトン酸等のカルボキシ基を有するモノマー、トリエトキシビニルシランなどの加水分解性シリル基を有するモノマー、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル、β−メチルグリシジルエーテルなどのグリシジル基を有するモノマー、アミノプロピルビニルエーテルなどのアミノ基を有するモノマーなどが例示される。
【0017】
また重合後に、後反応により官能基を導入することも可能である。この方法としては、例えばカルボン酸ビニルエステルを共重合した重合体をケン化することにより、ヒドロキシ基を導入する方法、ヒドロキシ基を有する重合体に多価カルボン酸あるいはその無水物を反応せしめてカルボキシ基を導入する方法、ヒドロキシ基を有する重合体にイソシアネートアルコキシシランを反応せしめて加水分解性シリル基を導入する方法、ヒドロキシ基を有する重合体にシリル多価イソシアネート化合物を反応せしめてイソシアネート基を導入する方法などが挙げられる。
【0018】
本発明におけるフッ素樹脂としてのフルオロオレフィン系重合体またはフルオロオレフィン系共重合体を得るための重合反応に際して、反応形式は特に限定されることはなく、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などを採用し得る。重合操作の安定性および生成重合体の分離の容易性の点から、水性媒体中での乳化重合、またはイソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブタノールなどのアルコール類、エステル類、1個以上のフッ素原子を含む飽和ハロゲン化炭化水素類、キシレンなどの芳香族炭化水素などを溶媒とする溶液重合などが好ましい。
【0019】
乳化重合の場合は、目的の重合体がフッ素樹脂エマルションの形態で得られる。乳化重合により得られるフッ素樹脂エマルションは低粘度であるため、無機質中空球状体を高充填するうえで好ましい。重合温度は、例えば10〜90℃程度である。反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は、9.8×10〜9.8×10Pa、特に2.0×10〜4.9×10Paが好ましい。
乳化重合では、乳化重合時に乳化剤を使用してもしなくてもよい。用いられる乳化剤の例としては、以下のものが挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、アルキルフェノールエチレンオキシド付加物、高級アルコールエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー等を単独、または混合して使用できる。アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等を単独、または混合して使用できる。
【0020】
乳化重合の開始は、重合開始剤の添加により行なわれる。該重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤を用いることができ、水溶性開始剤が好ましい。水溶性開始剤の具体例としては、過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸塩、過酸化水素、またはこれらと亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤との組合せからなるレドックス開始剤、さらにこれらに少量の鉄、第一鉄塩、硫酸銀などを共存させた系の無機系開始剤、またはジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシドなどの二塩基酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジンの塩酸塩、アゾイソブチロニトリルなどの有機系開始剤が挙げられる。乳化重合において、油溶性の開始剤を使用しもよい。
重合開始剤の使用量は、開始剤の種類、乳化重合条件などに応じて適宜選定可能であるが、通常は乳化重合させるべき単量体100質量部当たり0.005〜0.5質量部が好ましい。また、重合開始剤は一括添加してもよいが、必要に応じて分割添加してもよい。
【0021】
また、乳化物のpHを上昇させる目的で、pH調整剤を用いてもよい。該pH調整剤の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、オルトリン酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、テトラホウ酸ナトリウムなどの無機塩基、およびトリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノール、ジエチルエタノールアミンなどの有機塩基類等が挙げられる。pH調整剤の添加量は、通常、乳化重合媒体100質量部当たり0.05〜2質量部であり、0.1〜2質量部が好ましい。pHが高い方が重合速度が速くなる傾向がある。
乳化重合開始温度は、重合開始剤の種類に応じて適宜最適値が選定されるが、通常は0〜100℃であり、特に10〜90℃が好ましい。
【0022】
乳化重合において、単量体、乳化重合媒体(たとえば水)、乳化剤、重合開始剤などの添加物をそのまま一括仕込みして重合してもよいが、重合開始剤を添加する前に、ホモジナイザー等の撹拌機を用いて前乳化させ、その後に開始剤を添加して重合してもよい。前乳化を行う方法は、エマルション中の分散粒子の粒子径を小さくして分散液(エマルション)の安定性を向上させ、水溶成分の乳化剤を過剰に使用しないことから塗膜の耐水性能を向上させる点で好ましい。また、単量体を分割してあるいは連続して添加してもよく、その際、単量体組成は一定でなくてもよい。
【0023】
本発明で用いられるフッ素樹脂の質量平均分子量(M)は3000以上40000以下が好ましい。
該質量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすると耐候性に優れた塗膜が得られ、上記範囲の上限値以下とすると粘度が適度となり、塗料の製造が容易であり、優れた外観の塗膜が得られる。
本発明で用いられるフッ素樹脂として、フルオロオレフィンと共重合性単量体との共重合体からなるフルオロオレフィン系共重合体がより好ましい。該共重合体中のフルオロオレフィンに基づく重合単位の割合は、塗膜に充分な耐候性を与えるために、20〜70モル%が好ましい。
またフッ素樹脂エマルションを用いる場合、フッ素樹脂エマルションは変成されたものでもよい。該変成フッ素樹脂エマルションとしてはフッ素樹脂エマルションに他のエマルションをブレンドしたものや、フッ素樹脂エマルションをシードとしてアクリルモノマー、ビニルモノマーで重合させて得られるエマルションなどが挙げられる。
【0024】
<無機質中空球状体>
本発明における無機質中空球状体は、一般にバルーンとも呼ばれる。無機質中空球状体は、中空であるため比重が軽く、球状体であるため塗料に高充填し易く、無機質であるため耐衝撃性、寸法安定性に優れる。無機質中空球状体は、一般的に500〜2000℃の高温で発泡させた後、冷却する方法で製造される。
無機質中空球状体の具体例としては、ガラスバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、アルミノシリケートバルーン等が挙げられる。これらの無機質中空球状体は市販品から入手可能である。
特に、強度に優れ、塗料調製過程で破壊され難い点で、ガラスからなる無機質中空球状体(ガラスバルーン)が好ましい。
【0025】
無機質中空球状体の粒子径は、1〜150μmが好ましく、10〜120μmがより好ましい。1μm以上であれば、組成物の増粘を抑えつつ無機質中空球状体を高充填できる、すなわち無機質中空球状体の添加量を多くできる。また、150μm以下であれば塗膜強度の低下を抑えつつ無機質中空球状体を高充填できる。
一般に、市販の無機質中空球状体は粒子径によって選別され、粒度分布の幅が狭くピークが急峻となる状態でパッケージされているので、市販品を使用する場合には、平均粒径が1〜100μm、好ましくは20〜70μmのものを使用するのが好ましい。なお、本明細書にける「平均粒径」の値はレーザー回折法で測定して得られる粒度分布より算出される値である。
【0026】
無機質中空球状体の比重は、製造時の発泡条件に依存する。本発明における無機質中空球状体の比重は0.1〜1.5g/cmが好ましく、0.1〜0.8g/cmがより好ましい。比重が0.1g/cm以上であれば、無機質中空球状体の充分な強度が得られる。1.5g/cm以下であれば、無機質中空球状体を高充填しても良好な塗膜を形成できるとともに、中空度が高いため低光沢な塗膜外観を得るうえで好ましい。
【0027】
本発明において、艶消塗料用組成物に含有させる無機質中空球状体における、最小粒子径と最大粒子径との差が100μm以上であることが好ましい。具体的には、平均粒径が互いに異なる複数種の無機質中空球状体を混合して用いることが好ましい。
艶消塗料用組成物中に粒子径が異なる無機質中空球状体を含有させると、塗膜表面に存在する無機質中空球状体の粒子径が不均一になるため、塗装方法や塗布回数の違いによる塗膜の仕上がりに差異が生じ難く、外観に優れた塗膜をより安定して形成できる。
また、塗膜表面における凹凸形状がより複雑になるため、これによって艶消効果をより向上させることができる。さらに、塗膜表面における無機質中空球状体どうしの隙間をより少なくすることができ、これによっても艶消効果をより向上させることができる。
【0028】
より高い艶消効果、およびより良好な塗膜外観を得るうえで、前記無機質中空球状体における最小粒子径と最大粒子径との差は119μm以上がより好ましい。
該最小粒子径と最大粒子径との差の上限は、上記の粒子径の好ましい範囲(すなわち149μm)内であればよい。塗膜表面の凹凸形状を複雑にしつつ、粗面にしない点からは120μm以下がより好ましい。
また、良好な艶消効果を得るうえで、最終製品である艶消塗料に含有させる無機質中空球状体の全体を100質量%とすると、粒子径が1〜120μmのものが、少なくとも15質量%以上含まれていることが好ましく、15〜30質量%含まれていることがより好ましい。
具体的には、艶消塗料に含有させる無機質中空球状体の全体を100質量%とすると、
粒子径が10μm未満の無機質中空球状体を0〜15質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%、
粒子径が10μm以上40μm未満の無機質中空球状体を45〜60質量%、
粒子径が40μm以上80μm未満の無機質中空球状体を35〜45質量%、
および粒子径が80μm以上120μm未満の無機質中空球状体を0〜10質量%、好ましくは1〜8質量%混合してなる無機質中空球状体を用いることが好ましい。
【0029】
<シランカップリング処理>
本発明の艶消塗料用組成物に含まれる無機質中空球状体は、シランカップリング剤で処理されている。
本発明において、予め、無機質中空球状体の表面にシランカップリング剤をコーティング処理させたものを、艶消塗料用組成物中に含有させてもよく、あるいは艶消塗料用組成物中に無機質中空球状体とシランカップリング剤をそれぞれ添加し、均一に撹拌混合してもよい。本発明の効果の点からは、予めコーティング処理されたものを用いるのが好ましい。
無機質中空球状体表面へのシランカップリング剤のコーティング処理は、無機質中空球状体とシランカップリング剤を混合することにより行なうことができる。該コーティング処理において、無機質中空球状体とシランカップリング剤を混合する際に、分散媒中に分散剤を添加することが好ましい。
該分散剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、高分子系界面活性剤等を用いることができる。
分散剤の配合量は、無機質中空球状体100質量部に対して0.1〜3.0質量部が好ましく、特に0.2〜1.0質量部が好ましい。
【0030】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を適宜用いることができる。具体例としては、ビニルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、メタクリロキシシラン等が挙げられる。これらのうちでメタクリロキシシランがより好ましい。
シランカップリング剤の使用量は、特に制限されず、適宜設定可能である。例えば、無機質中空球状体とシランカップリング剤を含有する、最終製品としての艶消塗料におけるシランカップリング剤の含有率が0.01〜2質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0031】
本発明の艶消塗料用組成物に分散剤を含有させてもよい。無機質中空球状体をフッ素樹脂溶液またはフッ素樹脂エマルションに添加する際に、溶媒または分散媒中に分散剤を存在させることにより、無機質中空球状体の表面と、溶媒または分散媒との親和性をさらに高めることができる。このことは、艶消塗料用組成物の増粘を抑えつつ、無機質中空球状体をより多量に添加するうえで好ましい。
該分散剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、高分子系界面活性剤等を用いることができる。最適な分散剤は、溶媒または分散媒に依存して選定すればよい。
分散剤の配合量は、無機質中空球状体100質量部に対して固形分換算で0.05〜2質量部が好ましく、特に0.1〜1質量部が好ましい。
また、無機質中空球状体のシランカップリング処理において分散剤を使用した場合には、無機質中空球状体に伴って艶消塗料用組成物に添加される該分散剤も、上記艶消塗料用組成物中に含有させる分散剤の一部とする。
【0032】
本発明の艶消塗料用組成物は、必要に応じて造膜助剤、繊維状補強材、着色顔料、親水性付与剤、可塑剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、皮バリ防止剤、消泡剤等を含有してもよい。また、水性分散液の場合、安定性を向上させるためにpH調整剤を添加してもよい。
着色顔料としては、例えば、アゾレーキ系、フタロシアニン系、インジゴ系、ペリレン系、キノフタロン系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、金属錯体等の各着色顔料や、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラック等、通常塗料に使用されるものが例示される。
可塑剤としては、従来公知のもの、たとえばジオクチルフタレートなどの低分子量可塑剤、ビニル重合体可塑剤、ポリエステル系可塑剤などの高分子量可塑剤などが挙げられる。
消泡剤としては、シリカシリコン系、シリコン系、アミド系、金属石ケン系、エステル系、ポリエーテル系、ポリグリコール系または高級アルコール系を主成分とする、液体、エマルション、ペーストまたは固体(粉末も含む)状の消泡剤が挙げられる。
【0033】
前記親水性付与剤としては、親水性無機化合物、親水性有機化合物が挙げられる。
該親水性無機化合物としては、無機ケイ素化合物、無機アルミニウム化合物等のうち、水性媒体に溶解または分散しうるものが好適である。該無機ケイ素化合物の例としては、水ガラスと呼ばれるケイ酸アルカリ塩、水分散性コロイダルシリカ等が挙げられる。また、ケイ酸エステルの加水分解縮合を極性溶媒中で行ない、その後水を加えることにより得られる無機ケイ素オリゴマー化合物の水性分散体も用いることができる。
前記親水性有機化合物としては、ポリオキシエチレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基などを有する高分子化合物、オリゴマーまたは低分子化合物であって、水性媒体に溶解または分散し得るものが好適である。
【0034】
本発明の艶消塗料用組成物は、例えば、フッ素樹脂溶液またはフッ素樹脂エマルションに、シランカップリング剤で処理された無機質中空球状体、および必要に応じてその他の成分を添加し、均一に混合することによって製造できる。
具体的には、シランカップリング剤と、無機質中空球状体と、必要に応じて分散剤および消泡剤を、分散媒中で均一に撹拌して無機質中空球状体分散液を得、該無機質中空球状体分散液をフッ素樹脂溶液またはフッ素樹脂エマルションに添加して均一に混合する方法が好ましい。
無機質中空球状体分散液の分散媒は、使用するフッ素樹脂溶液の溶媒またはフッ素樹脂エマルションの分散媒と同種のものが好ましい。
【0035】
本発明の艶消塗料用組成物には、樹脂成分としてフッ素樹脂以外の他の樹脂を混合することもできる。他の樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。
フッ素樹脂としてフッ素樹脂エマルションを用いる場合、これらの他の樹脂は、水性エマルションの形態で混合することが好ましい。
他の樹脂を混合する場合、艶消塗料用組成物中におけるフッ素樹脂の含有量は、塗膜の耐候性の点からは、樹脂成分の全量のうちの30質量%以上を占めることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、本発明の艶消塗料用組成物は、無機塗料と複合化(混合して用いる、共重合体とする等)することもできる。
【0036】
本発明の艶消塗料用組成物は、フッ素樹脂として自己硬化性のフルオロオレフィン系共重合体を用いた水分散体(エマルション)の場合には、硬化剤を用いずに該艶消塗料用組成物自体を塗料として被塗装物に塗布して塗装を施すことができる。
上記に挙げたフルオロオレフィン系共重合体水分散体(エマルション)のうち、自己硬化性を有するのは、カルボニル基とヒドラジドを有する重合体が分散された分散液、エポキシ基を有する化合物とアミノ基を有する硬化剤が分散された分散液、同一粒子内にエポキシ基を有する化合物とアミノ基を有する化合物を含有する粒子が分散された分散液またはアルコキシシリル基を有する重合体が分散された分散液である。
【0037】
[艶消塗料]
本発明の艶消塗料用組成物および硬化剤を混合することにより本発明の艶消塗料が得られる。
<硬化剤>
本発明で用いられる硬化剤としては、たとえばヘキサメチレンジイソシアネートなどの多価イソシアネート化合物またはそのブロック化物あるいはその乳化分散体、メチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどのメラミン樹脂、メチル化尿素、ブチル化尿素などの尿素樹脂などが挙げられる。硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
艶消塗料における硬化剤の含有量は、硬化剤中のNCO基と艶消塗料用組成物中の樹脂成分の水酸基との比(NCO基/水酸基)が0.5〜2.0の範囲が好ましく、0.8〜1.2の範囲がより好ましい。
【0038】
[艶消塗料用キット]
本発明の艶消塗料用組成物は、これと前記硬化剤とを備えた艶消塗料用キットとして、流通、販売等することができる。
該艶消塗料用キットは、塗装を行う現場で、艶消塗料用組成物と硬化剤を混合して艶消塗料を調製するのに好適である。
【0039】
[塗装物品]
本発明の塗装物品は、被塗装物の最表面層として、本発明の艶消塗料用組成物を用いて形成された塗膜を有する。
本発明における被塗装物は種々のものがあり、たとえば、建築・土木構造物、倉庫、工場、畜舎、体育館等の屋根、屋外タンク、製造プラント、外壁等が挙げられる。
被塗装面の材質は特に限定されるものでなく、たとえば、金属類、ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料、各種プラスチック材料、木材、繊維材料(紙、布等)等の天然材料または合成材料等に適用できる。
【0040】
本発明の塗装物品は、被塗装物の表面に本発明の艶消塗料を塗布し、乾燥させて塗膜を形成することによって得られる。
また、フッ素樹脂として自己硬化性のフルオロオレフィン系共重合体を用いた場合には、本発明の艶消塗料用組成物からなる、硬化剤を含まない艶消塗料を、被塗装物の表面に塗布して塗膜を形成することによっても、本発明の塗装物品が得られる。
乾燥方法は、特に制限されず、たとえば自然乾燥で行うことができる。
【0041】
塗装方法は、種々の方法で行うことができる。たとえばスプレー法、ディップ法、ハケ塗り法、ロールコート法、印刷法などの各種の塗装方法を適用できる。採用する塗装方法に応じて、塗料の粘度を適宜調整するのが好ましい。
塗膜の厚みは、要求される性能に応じて適宜選定できるが、通常10〜1000μmの範囲であり、100〜500μmが好ましい。
【0042】
本発明の艶消塗料用組成物は、無機質中空球状体を含有しているため、塗膜表面が凹凸を有する形状となる。したがって、該凹凸によって光が散乱して光沢が低くなるため、艶消効果が得られる。
また、無機質中空球状体をシランカップリング剤で処理して用いることにより、艶消塗料用組成物における混和性が良好となり、無機質中空球状体の添加による増粘および凝集が抑えられる。したがって、無機質中空球状体を多量に添加して、より高い艶消効果を得ることができる。
また、後述の試験例に示されるように、黒色の艶消塗料用組成物の場合に、黒色塗膜の明度に悪影響を与えることなく、高い艶消効果を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
【0044】
[製造例1]無機質中空球状体分散液の調製
下記表1の配合で無機質中空球状体分散液A、Bを調製した。
まず、水の全量に、シランカップリング剤の全量、分散剤の全量、消泡剤の半量を加え、卓上ディスパー(分散機)で撹拌した。撹拌条件は1000rpm、5分間とした。次いで、撹拌条件2000rpm、20分間で撹拌しつつ、無機質中空球状体(ガラスバルーン)の全量を、徐々に添加した。無機質中空球状体分散液Aを調製する際、3種の無機質中空球状体a、b、cは予め混合したものを用いた。
この後、撹拌条件2000rpm、10分間で撹拌しつつ、消泡剤の残り半量を添加して無機質中空球状体分散液A、Bを得た。
【0045】
使用した材料は以下の通りである。なお、下記無機質中空球状体a〜cの粒度分布は1〜120μmである。
・無機質中空球状体a:CEL−STAR SX−39(商品名、東海工業社製)。
・無機質中空球状体b:CEL−STAR PZ−6000(商品名、東海工業社製)。
・無機質中空球状体c:CEL−STAR Z−27(商品名、東海工業社製)。
・シランカップリング剤:KBM−403(商品名、信越化学工業社製)。
・分散剤:SN ディスパーサント 5027(商品名、サンノプコ社製、固形分濃度20質量%)。
・消泡剤:DK Q1−072(商品名、ダウコーニングアジア社製)
【0046】
【表1】

【0047】
[製造例2]艶消塗料用組成物の調製
下記表2の配合で艶消塗料用組成物を調製した。表2に示す配合の単位は「質量%」である。
すなわち、水性フッ素樹脂エマルションを、卓上ディスパーで撹拌しながら、艶消剤を添加して黒色の艶消塗料用組成物(試料No.1〜8)を得た。撹拌条件は2000rpm、10分間とした。
試料No.1、2では、艶消剤として、上記製造例1で調製した無機質中空球状体分散液A、Bをそれぞれ用いた。
試料No.3〜6では、艶消剤として、上記製造例1で用いた無機質中空球状体a、b、cをシランカップリング剤で処理せずに使用した。
試料No.9は、対照試料として、水性フッ素樹脂エマルションを、艶消剤を添加せずにそのまま用いた。
表2に示す配合の単位は「質量%」である。また表2には、水性フッ素樹脂エマルション(分散媒含む)に対する艶消剤(固形分)の配合比(艶消剤/フッ素樹脂エマルション)を質量比および体積比でそれぞれ示す。
【0048】
使用した材料は以下の通りである。
・水性フッ素樹脂エマルション:ボンフロン水性W#1500 黒(商品名、旭硝子コートアンドレジン社製)
・珪砂:S7号(商品名、東海工業社製)
・シリカ:ミズカシル P−526(商品名、水澤化学工業社製)
【0049】
【表2】

【0050】
[試験例1] 混和性の評価
上記製造例2において、水性フッ素樹脂エマルションに各艶消剤を添加した時の撹拌状態と撹拌後の液(艶消塗料用組成物)を目視にて観察した。その結果を表3に示す。表において、○は異常がなかったことを表す。
【0051】
[試験例2] 光沢度の評価
試験体:以下の方法で試験体を作製した。すなわち、JIS A 5430に規定するフレキシブル板(サイズ;縦150mm×横70mm×厚み4mm)に、下塗としてボンフロン水性用プライマ−Sエナメル(商品名、旭硝子コ−トアンドレジン社製)を、塗着量が100g/mになるようにエアスプレ−で塗布し、JIS K 5600に規定する養生条件(23±2℃、相対湿度50±5%)で2時間乾燥して下塗層を形成した。
次いで、該下塗層上に上記製造例2で得られた各試料を塗着量が100g/mになるようにエアスプレー(口径2mm)で塗布し、下塗層形成時と同じ養生条件で2時間乾燥して第1の上塗層を形成した。
次いで、第1の上塗層上に、第1の上塗層と同じ方法で各試料を塗布し、第1の上塗層を含む塗布2回の合計塗着量を200g/mとした。そして、下塗層形成時と同じ養生条件で7日間乾燥して第2の上塗層を形成し、試験体を得た。
【0052】
測定方法:上記で得た試験体について、デジタル変角光沢計 UGU−6P(商品名、スガ試験機社製)を用いて、60度−60度鏡面(入射光角度60度、反射光角度60度)および85度−85度鏡面(入射光角度85度、反射光角度85度)における光沢度をそれぞれ測定した。該光沢度の測定値が小さい方が低光沢であることを表す。測定結果を表3に示す。
評価方法:60度−60度鏡面および85度−85度鏡面の光沢値がそれぞれ2以下であり、かつ、両光沢値の差が1以内である場合を艶消感が良好であると評価し、○で表す。両光沢値の少なくとも一方が2以上であるもの、および両光沢値の差が1を超えるものを×で表す。評価結果を表3に示す。
【0053】
[試験例3] 明度の評価
試験体:上記試験例2と同じ方法で、試験体を作製した。
測定方法:得られた試験体について、多光源分光測色計 MSC5N(商品名、スガ試験機社製)を用い、C光源、2度視野の条件で明度(L値)を測定した。明度(L値)は低いほどより黒っぽく視認され、高いほどより白っぽく視認されること表す。測定結果を表3に示す。
【0054】
なお、試料No.4および試料No.8は混和性が悪く塗膜が形成できなかったため、光沢度および明度の評価は行わなかった。
試料No.7は塗面が平滑にならず粗面になったため、85度−85度鏡面の光沢値は測定できなかった。また光沢度の評価が悪かったため、明度の評価は行わなかった。
【0055】
【表3】

【0056】
表3の結果に示されるように、シランカップリング剤で処理された無機質中空球状体(ガラスバルーン)を用いた試料No.1およびNo.2は、フッ素樹脂エマルション100体積部に対して、それぞれ58体積部および62体積部のガラスバルーンを添加しても良好な混和性が得られた。また該試料No.1およびNo.2を用いて形成された塗膜は、光沢度が低く高い艶消効果が得られたうえ、試料No.9との明度の差が小さく、黒色塗膜の明度への影響が抑えられていることが認められた。
また試料No.1よりNo.2の方が明度がわずかに高いのは、ガラスバルーンの量が多く、ガラスバルーンによる輝度が影響していると考えられる。試料No.1はNo.2よりガラスバルーンの量が少ないにもかかわらず、同程度の光沢値が得られている。これは平均粒径が異なる複数種のガラスバルーンを混合して用いたことにより艶消し効果が向上したためと考えられる。
これに対して、艶消剤として珪砂およびシリカをそれぞれ用いた試料No.7およびNo.8は、フッ素樹脂エマルションに対する艶消剤の体積比が試料No.1、2よりも小さいにもかかわらず、艶消塗料用組成物における混和性が悪く、増粘または凝集が生じた。
また、艶消剤としてガラスバルーンをシランカップリング剤で処理せずに用いた試料No.3〜6のうち、フッ素樹脂エマルションに対する艶消剤の添加量が少ない試料No.3は良好な混和性が得られたものの、光沢度が高く、艶消効果が劣っていた。一方、艶消剤の添加量を試料No.3より多くした試料No.4〜6は、艶消塗料用組成物の調製時に増粘が生じた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤で処理された無機質中空球状体およびフッ素樹脂を含有することを特徴とする艶消塗料用組成物。
【請求項2】
前記無機質中空球状体が、ガラスからなる請求項1記載の艶消塗料用組成物。
【請求項3】
前記無機質中空球状体における、最小粒子径と最大粒子径との差が100μm以上である請求項1または2記載の艶消塗料用組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が、フッ素樹脂エマルションである請求項1〜3のいずれか一項に記載の艶消塗料用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の艶消塗料用組成物と、硬化剤を含有する艶消塗料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の艶消塗料用組成物と、硬化剤を備える艶消塗料用キット。
【請求項7】
最表面層が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の艶消塗料用組成物を用いて形成された塗膜からなる塗装物品。



【公開番号】特開2007−191570(P2007−191570A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10771(P2006−10771)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000116954)旭硝子コートアンドレジン株式会社 (24)
【Fターム(参考)】