説明

芝刈り作業車

【課題】芝刈り機の昇降を行う安全性を確保した新規な芝刈り作業車を提供する。
【解決手段】動力源から伝達された動力によって駆動する刈刃を有する芝刈り機と、刈刃に対する動力の伝達または遮断を行うクラッチ機構と、芝刈り機の昇降を行うリフト機構と、クラッチ機構と、前記リフト機構とを作動する作動部とを有し、作動部は、前記芝刈り機を上昇させる場合、芝刈り機が上昇する前に、クラッチ機構によって動力源から刈刃への動力の遮断を行うとともに、当該動力の遮断が行われた後に、リフト機構によって前記芝刈り機を上昇させるようにし、芝刈り機が上昇を開始する際、刈刃駆動を停止させ、安全性を確保する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝刈り作業車に係り、特に、ゴルフ場のグリーンの芝を刈る作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフは、世代を問わず人気のあるスポーツの一つである。ゴルフにおけるプレーの良し悪しは、そのゴルファーの技量に大きく左右されることは勿論であるが、ゴルフ場の芝の手入れ具合によっても大きく左右される。特に、グリーンは、ホールに設けられた最も重要な場所であり、ゴルフ場の顔である。当然、ゴルフ場の管理者もその芝の管理には余念がない。そのため、このようなグリーン上の芝を刈る芝刈り機には、起伏などに影響されず均一な高さで芝を刈り取る能力が要求される。また、自走式の芝刈り機では、回転駆動する駆動車輪が芝を痛めないようにすることも要求される。
【0003】
従来から存在する芝刈り機としては、作業者が地上に立ち芝刈り機を操作するタイプ(例えば、特許文献1参照)、作業者が乗用して芝刈り機を操作する乗用タイプ、或いは、芝刈り作業を無人で行うことができる自立走行タイプ(例えば、特許文献2参照)などが存在する。ところで、このような芝刈り機では、作業を行うことなく単に移動する場合、或いは、作業中であっても旋回する場合には、芝刈り機を地面から上昇させる必要がある。なぜならば、芝刈り機を下降させた状態でこのような動作を行うと、走行の妨げとなったり、刈刃が障害物を巻き込みカッターを傷つけてしまう可能性があるからである。例えば、特許文献3、4には、芝刈り機またはモアの昇降技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−275435号公報
【特許文献2】特開平9−136661号公報
【特許文献3】特開平9−121645号公報
【特許文献4】特開2000−139157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、芝刈り作業時において、芝刈り機上昇開始時に刈刃駆動を停止させるようにし、安全性を確保した芝刈り作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明は、動力源から伝達された動力によって駆動する刈刃を有する芝刈り機と、刈刃に対する動力の伝達または遮断を行うクラッチ機構と、芝刈り機の昇降を行うリフト機構と、クラッチ機構と、リフト機構とを作動する作動部とを有し、作動部は、芝刈り機を上昇させる場合、芝刈り機が上昇する前に、クラッチ機構によって動力源から刈刃への動力の遮断を行うとともに、動力の遮断が行われた後に、リフト機構によって芝刈り機を上昇させる芝刈り作業車を提供する。
【0006】
ここで、本発明において、芝刈り機は車輪を有し、リフト機構は、車輪の車軸を中心として、芝刈り機を回転方向に変位させることによって、芝刈り機の昇降を行うことが好ましい。
【0007】
また、本発明において、リフト機構と作動部とを有する車体部と、芝刈り機と車体部とを連結し、車体部には、固定的に連結されているとともに、芝刈り機には、車輪の車軸を中心として芝刈り機の回転方向の変位を許容するように連結されている連結部とをさらに有していてもよい。
【0008】
また、本発明において、作動部は伸縮自在なシリンダであってもよい。この場合、動力源から刈刃への動力の伝達または遮断は、シリンダの伸縮に応じてクラッチ機構が作動することによって行われる。また、芝刈り機の昇降は、シリンダの伸縮に応じてリフト機構が作動することによって行われる。
【0009】
また、本発明において、シリンダが第1の伸縮動作領域にある場合、芝刈り機は下降状態にあって、動力源から刈刃に動力が伝達され、シリンダが第1の伸縮動作領域とは異なる第2の伸縮動作領域にある場合、芝刈り機は下降状態にあって、動力源から刈刃への動力伝達が遮断され、シリンダが第1の伸縮動作領域および第2の伸縮動作領域とは異なる第3の伸縮動作領域にある場合、芝刈り機は上昇状態にあって、動力源から刈刃への動力伝達が遮断されることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、リフト機構は、芝刈り機に一端が連結された連結部材と、略L字形状を有し、第1の延在端が連結部材の他端に連結されており、第2の延在端がシリンダに連結されたリンクとを有していてもよい。この場合、連結部材は連結ロッドであって、第1の延在端は、連結ロッドの延在方向において所定範囲の摺動が許容された状態で、連結ロッドに連結されていることが望ましい。また、連結部材は連結ワイヤであってもよく、この場合、この連結ワイヤは所定量の弛みが与えられた状態で、芝刈り機と第1の延在端とに連結されていることが望ましい。
【0011】
また、本発明において、駆動源の動力を出力する出力軸に一体的に取付けられた第1の回転部材と、刈刃の回転軸に一体的に取付けられた第2の回転部材と、第1の回転部材と第2の回転部材との間に掛け渡されて、第1の回転部材側から第2の回転部材側に動力を伝達する伝達部材とをさらに有していてもよい。この場合、クラッチ機構は、シリンダの伸縮動作領域に応じて、伝達部材を緊張または弛緩させることにより、第1の回転部材側から第2の回転部材側への動力の伝達または遮断を行うベルトクラッチと、シリンダとベルトクラッチとを連結する連結部材とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、動力源から伝達された動力によって駆動する刈刃を有する芝刈り機と、
前記刈刃に対する動力の伝達または遮断を行うクラッチ機構と、
前記芝刈り機の昇降を行うリフト機構と、
前記クラッチ機構と、前記リフト機構とを作動する作動部とを有し、
前記作動部は、前記芝刈り機を上昇させる場合、前記芝刈り機が上昇する前に、前記クラッチ機構によって前記動力源から前記刈刃への動力の遮断を行うとともに、当該動力の遮断が行われた後に、前記リフト機構によって前記芝刈り機を上昇させるようにし、芝刈り機が上昇を開始する際、刈刃駆動を停止させるため、安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本実施形態にかかる芝刈り作業車の左側面を模式的に示した図であり、図2はその右側面を模式的に示した図である。また、図3は、この芝刈り作業車の前面を模式的に示した図である。なお、図中に示した符号にアルファベット”L”が付されている部材は、芝刈り作業車1の進行方向の左側に設けられている部材を指し、アルファベット”R”が付されている部材は、進行方向の右側に設けられている部材を指す。そして、このような一対の部材を総称する場合には、アルファベット”L,R”を付すことなく、符号のみを記載している。
【0015】
芝刈り作業車1は、ゴルフ場のグリーンの芝を刈る自律走行作業車であって、無人でかつ自動的にゴルフ場の各ホールに設けられたグリーンへ移動して、グリーンの芝を刈り取る。この芝刈り作業車1は、前方の芝刈り機10と、後方の車体部50と、両者を連結する連結部100とで構成されている。
【0016】
図4は、芝刈り機10と車体部50とを連結する連結部100の説明図である。この連結部100は、一方の端部101が車体部50に固定的に連結されているととともに、他方の端部102が軸受103を介して芝刈り機10に連結されている。このため、連結部100に固定的に連結された車体部50側の変位は規制されるが、連結部100に軸受103を介して連結された芝刈り機10側の変位は規制されない。換言すれば、連結部100は、車体部50に対する芝刈り機10の相対的な変位を許容している。軸受103は、後述する車輪11の車軸を中心として、芝刈り機10が回転方向へ変位することを許容する位置に取付けられている。
【0017】
つぎに、芝刈り機10の構成について説明する。図1から図3に示すように、芝刈り機10は、芝刈り機10側の駆動車輪に相当する車輪11と、刈刃13と、エンジン17と、発電機26(図2参照)とを主体に構成されている。芝刈り機10を構成するこれらの要素のうち、重量の大半を占めるエンジン17は、車輪11の車軸の上方にレイアウトされている。そのため、芝刈り機10全体で見た重心は、基本的に、車輪11の車軸の上方に位置する。
【0018】
車軸の左右両側に取付けられた車輪11は、金属製(例えば、アルミニウム製)で、かつ、幅広のローラである。芝刈り機10は、車輪11の操舵機構を備えておらず、芝刈り機10の直進方向と一致する向きに車輪11が固定されている。車輪11として金属製のローラを用いることにより、芝面に対する摩擦係数を小さくできるため、車輪11が芝を掻きむしることを抑制できる。また、幅広のローラを用いることにより、車輪11が芝面と接触する接地面積が増大するため、単位面積当たりの接地面圧が小さくなる。その結果、摩擦係数の低下と接地面積の増大とが相俟って、走行時においても芝を有効に保護することが可能となる。左右の車輪11L,11Rは、それぞれ独立して正逆回転自在であり、車体部50側に搭載された電動モータ53L,53Rによって独立駆動する。
【0019】
芝を刈る刈刃13は、車輪11の前方に設けられており、ロータリカッター14と下刃15とで構成されている。ロータリカッター14は、その回転面にスパイラル状の刃が形成されており、エンジン17の動力によって回転する。このロータリカッター14の後方には、ロータリカッター14に形成された刃と当接するように下刃15が取付けられている。ロータリカッター14の回転時には、ロータリカッター14側の刃が下刃15と交叉することにより、芝の刈り取りが行われる。刈刃13によって刈り取られた芝は、図示しないガイド部材によって前方へと導かれ、刈刃13の前方に設けられたホッパー内に回収される。
【0020】
エンジン17は、刈刃13(ロータリカッター14)を回転させる動力源としての機能を担っている。エンジン17において発生した動力は、動力伝達機構を介してロータリカッター14に伝達され、ロータリカッター14を回転駆動させる。ロータリカッター14に動力を導く動力伝達機構は、回転部材として機能するプーリと、伝達部材として機能するベルトとで構成されている。具体的には、図1に示したように、エンジン17の動力が出力される出力軸には駆動プーリ18が一体的に取付けられており、中間軸(アイドラ軸)には従動プーリ20と駆動プーリ20aとが一体的に取付けられている。出力軸側の駆動プーリ18と中間軸側の従動プーリ20との間には、ゴム製のベルト21が掛け渡されている。また、中間軸側の駆動プーリ20aと、ロータリカッター14の回転軸に一体的に取付けられた従動プーリ16との間には、ベルト22が掛け渡されている。これにより、エンジン17の動力は、駆動プーリ18、ベルト21、従動プーリ20、駆動プーリ20a、ベルト22、従動プーリ16の順序を経た上で、最終的にロータリカッター14に伝達される。
【0021】
また、ロータリカッター14に動力を導く動力伝達機構には、動力の伝達または遮断を行うクラッチ機構が設けられている。図5は、クラッチ機構の概略的な説明図である。このクラッチ機構は、エンジン17の出力軸側の駆動プーリ18と中間軸側の従動プーリ20との間に掛け渡されたベルト21を緊張または弛緩させることにより、動力の伝達・遮断を行う。このようなクラッチ機構としては、例えば、ベルトクラッチ23を用いることができる。ベルトクラッチ23は、基本的に、切替レバー24と、この切替レバー24の所定部位に取り付けられた回転自在なベルトアイドラ25とで構成されている。切替レバー24は、一方の端部に設けられた取付位置Pを中心として、円周方向Xへ回転自在であって、ベルトアイドラ25をベルト21に当接させ、或いは、ベルトアイドラ25をベルト21より離間させる。
【0022】
駆動プーリ18と従動プーリ20との間に掛け渡されたベルト21の引張力(テンション)は、ベルトアイドラ25の位置によって調整される。同図に示すように、切替レバー24がポジションAに位置した状態では、ベルトアイドラ25がベルト21より離間している。この状態では、ベルト21が弛緩しているため、プーリ18,20とベルト21との間に滑りが生じる。したがって、ベルトクラッチ23によって動力伝達が遮断されるため、ロータリカッター14は回転駆動しない。つぎに、切替レバー24をポジションAからポジションBに倒していくと、ベルト21の上面と当接したベルトアイドラ25が、弛み相当だけベルト21を下方に押し下げる。そして、切替レバー24がポジションBに位置した状態では、ベルトアイドラ25がベルト21を押圧する力によって、ベルト21の弛みがなくなって、ベルト21に引張力が付与される。その結果、プーリ18,20とベルト21とが一体的に動作し、ベルトクラッチ23による動力伝達が行われるため、ロータリカッター14が回転駆動する。このように、ベルトクラッチ23による動力の伝達・遮断は、切替レバー24の位置に応じて切替わるが、この切替操作は後述する作動部70によって行われる。
【0023】
発電機26は、エンジン17の動力を利用して電力を生成する。したがって、エンジン17は、ロータリカッター14の動力源としての機能の他に、発電機26を駆動する動力源としての機能も担っている。エンジン17において発生した動力は、ロータリカッター14のそれとは異なる動力伝達機構を介して、発電機26に伝達され、発電機26を駆動させる。
【0024】
図2に示すように、発電機26に動力を導く動力伝達機構は、エンジン17の動力が出力される出力軸に一体的に取付けられた駆動プーリ19(本実施形態では、駆動プーリ18と対向する側)と、発電機26に動力を入力する入力軸に一体的に取付けられた従動プーリ27とを有する。これらのプーリ19,27との間にはベルト28が掛け渡されており、このベルト28を介して駆動プーリ19側の動力が従動プーリ27側に伝達される。
【0025】
刈刃13の前方には、刈刃13の幅と略同一の幅を有する回転自在なローラ29が設けられている。このローラ29は、芝刈り機10の左右両端に設けられた支持部材30によって昇降自在である。芝刈り機10は、上述した2つの車輪11L,11Rおよび1つのローラ29の三個所で接地する。支持部材30を介してローラ29を昇降させることにより、接地面からの刈刃13の高さ、すなわち、芝の刈高さが調節される。また、このローラ29は、芝刈り機10のガイドとしての機能を担っている。例えば、2段グリーンのように起伏に富んだ形状では、ローラ29が地面の起伏に追従して上下し、これに追従して、芝刈り機10の前方も上下する。これにより、芝刈り機10は、地面の起伏に応じて車輪11の車軸を中心として回転方向に変位する。上述したように、連結部100と軸受結合した芝刈り機10は、車輪11の車軸を中心に回転方向の変位が自在である。そのため、地面に対する刈刃13の相対的な高さが維持されるので、刈りムラを起こすことなく、芝を良好に刈ることができる。
【0026】
つぎに、車体部50の構成について説明する。図1および図2に示すように、車体部50は、車体部50側の駆動車輪に相当する車輪51と、電動モータ53と、リフト機構64と、作動部70(図1参照)と、バッテリ71とを主体に構成されている。車体部50を構成するこれらの要素のうち、重量の大半を占めるのは、電動モータ53、作動部70およびバッテリ71である。作動部70は車輪51の車軸の上方に配置され、電動モータ53は車軸の上前方に配置され、バッテリ71は車軸の上後方にレイアウトされている。そのため、車輪51の車軸を基準として、前後に配置された電動モータ53およびバッテリ71の重量バランスがつり合う方向に作用するため、車体部50全体で見た重心は、車輪51の車軸の上方に位置する。
【0027】
車軸の左右両側に取付けられた車輪51は、溝なしのバルーンタイヤである。車体部50は、車輪51の操舵機構を備えておらず、車体部50の直進方向と一致する向きに車輪51が固定されている。それぞれの車輪51は、その最も外側が刈刃13の幅よりも内側に入り込むように取付けられている。車輪51としてのバルーンタイヤは、比較的低い空気圧で用いることができるため、車輪51と芝との接地面積を広げることができる。これにより、単位面積当たりの接地面圧が小さくなるため、車体部50は、グリーンにわだち跡を作ることなく走行することができる。左右の車輪51L,51Rは、それぞれ独立して正逆回転自在であり、電動モータ53L,53Rによって独立駆動する。
【0028】
電動モータ53は、車輪51を駆動する動力源としての機能を担い、左右の車輪51L,51Rを独立駆動する一対の電動モータ53L,53Rで構成されている。左側の電動モータ53Lが発生した動力は、左側の動力伝達機構を介して左車輪51Lに対して伝達され、左車輪51Lを駆動させる。一方、右側の電動モータ53Rが発生した動力は、右側の動力伝達機構を介して右車輪51Rに伝達され、右車輪51Rを駆動させる。
【0029】
図6は、車体部50の後面を模式的に示した図である。それぞれの車輪51に対応する動力伝達機構は、減速機および回転部材として機能するプーリおよびスプロケットと、伝達部材として機能するベルトと、同じく伝達部材として機能するチェーンとで構成されている。具体的には、左車輪51Lの動力伝達機構において、電動モータ53Lの出力軸には駆動プーリ54Lが一体的に取付けられており、減速機55Lの入力軸には従動プーリ56Lが一体的に取付けられている。これらのプーリ54L,56Lとの間にはベルト57Lが掛け渡されており、このベルト57Lを介して駆動プーリ54L側の動力が従動プーリ56L側に伝達される。減速機55Lは、自己の入力軸へ伝達された動力を所定の減速比で減速した後、自己の出力軸へ伝達する。この出力軸の一方の端部(同図における右端部)には駆動スプロケット58Lが一体的に取付られており、左車輪51L側の車軸には従動スプロケット52Lが一体的に取付けられている。これらのスプロケット58L,52Lとの間にはチェーン60Lが掛け渡されており、このチェーン60Lを介して駆動スプロケット58L側の動力が従動スプロケット52L側へ伝達される。なお、右車輪51Rの動力伝達機構も、左車輪51Lの動力伝達機構と同様の構成を有する。
【0030】
左右の電動モータ53は、車体部50を走行させる動力源としての機能の他に、芝刈り機10を走行させる駆動源としての機能も担っている。具体的には、左側の電動モータ53Lにおいて発生した動力は、左側の動力伝達機構を介して左車輪11Lに伝達され、左車輪11Lを駆動させる。同様に、右側の電動モータ53Rにおいて発生した動力は、右側の動力伝達機構を介して右車輪11Rに伝達され、右車輪11Rを駆動させる。
【0031】
上述したように、連結部100の機構によって、車体部50に対する芝刈り機10の相対的な回転変位が許容されている。そのため、車体部50側の電動モータ53から芝刈り機10側の車輪11に対して、この回転変位に依存することなく(換言すれば、ベルトやチェーンの弛みを招くことなく)、動力伝達を行う必要がある。芝刈り機10は自己の車輪11の車軸を中心に回転変位するため、芝刈り機10側の車軸と車体部50との間の相対的な距離は、芝刈り機10の回転変位に拘わらず一定である。したがって、電動モータ53の出力軸側と、車輪11の車軸側との間にベルトを直接的に掛け渡してもよい。しかしながら、車体部50のレイアウトの観点でいえば、ベルトを芝刈り作業車1の最も外側に配置する必要が生じるため、車体部50の大型化を招き易いという不都合がある。また、車体部50側の車輪51のみならず芝刈り機10側の車輪11も同時に駆動させる場合(四輪駆動)、これらの車輪11,51の対地速度を等しくする必要がある。なぜならば、前後の車輪11,51の回転が同期していないと(すなわち、対地速度が等しくないと)、対地速度の相違に起因して、一方の車輪が芝を掻きむしるといった事態が生じ得るからである。
【0032】
そこで、本実施形態では、芝刈り作業車1の利便性を考慮した上で、車両の小型化を重視した動力伝達機構を採用している。図7は、芝刈り機10側の車輪11に動力を伝達する動力伝達機構の説明図である。この動力伝達機構は、回転部材として機能するプーリと、伝達部材として機能するベルトとで構成されている。左車輪11Lの動力伝達機構に関して、減速機55Lの出力軸における他方の端部(図6の左端部)には、駆動プーリ59Lが一体的に設けられている。また、車体部10には従動プーリ61Lが回転自在に取付けられており、芝刈り機10には従動プーリ31Lが回転自在に取付けられている。これらのプーリ59L,61L,31Lとの間にはベルト62Lが略三角形状に掛け渡されており、このベルト62Lを介して駆動プーリ59L側の動力が従動プーリ31L側に伝達される。また、この従動プーリ31Lと一体的に回転する従動プーリ31aLと、左車輪11Lの車軸に一体的に取付けられた従動プーリ12Lとの間には、ベルト32Lが掛け渡されており、これを介して駆動プーリ31aL側の動力が従動プーリ12L側に伝達される。前後の車輪11L,51Lの対地速度は、従動プーリ31L、駆動プーリ31aLおよび従動プーリ12Lの径を適切に設定することによって、一致している。
【0033】
ここで、芝刈り機10の相対的な変位に応じて、芝刈り機10側の従動プーリ31Lと、減速機55L側の駆動プーリ59Lとの軸間距離も変位し得る。このような変位によってベルト62Lが弛むと、芝刈り機10の左車輪11Lに対する動力伝達が妨げられる。そこで、動力伝達を有効に行うために、車体部10側の従動プーリ61Lを変位可能にすることで、軸間距離の変位に起因したベルト62Lの弛みを吸収する。車体部50における従動プーリ61Lの取付位置は、図7に示したように、芝刈り機10の回転によって、芝刈り機10側の従動プーリ31Lの回転中心が描く軌跡上の任意の2点に基づいて決定される。
【0034】
具体的には、軌跡上に位置する所定の2点において、プーリ59L,31Lの軸間距離とプーリ61L,31Lの軸間距離との和が等しくなるような位置に、従動プーリ61Lが配置される。これにより、従動プーリ31Lが2点のいずれかに位置する限り、3つのプーリ59L,61L,31Lの間に掛け渡された三角形状のベルト62Lの張力が維持されるため、動力伝達を有効に行うことが可能となる。所定の2点としては、例えば、芝刈り機10が平地を走行する時の従動プーリ31Lの中心位置と、芝刈り機10が最も上昇したときの従動プーリ31Lの中心位置とが挙げられる。
【0035】
一方、上記2点から従動プーリ31Lの中心位置がずれた場合には、何らかの対策を講じないと、ベルト62Lが弛緩してしまう。そこで、車体部50側の従動プーリ31Lは、テンショナ63によってベルト62Lを外側に押し上げるように常時付勢されている。このテンショナ63の弾性力により、従動プーリ31Lの位置に拘わらず、ベルト62Lに張力が付加される。その結果、ベルト62Lの弛緩を防ぐことができるため、芝刈り機10が変位しても左車輪11Lへの動力伝達を有効に行うことができる。なお、右車輪11Rの動力伝達機構も、左車輪11Lの動力伝達機構と同様の構成を有しており、これらの動力伝達機構は、連結部100を介して左右対称となるようにレイアウトされている。
【0036】
つぎに、芝刈り機10の昇降を行うリフト機構64について説明する。図1に示したように、リフト機構64は、芝刈り機10に連結された連結ロッド65と、この連結ロッド65に一端が取付けられたL字形状のリンク66とで構成されている。このリンク66は、略L字に屈曲した部位に取付軸が設けられており、この取付軸を中心として回転自在である。したがって、略L字状のリンク66の一方の延在端67(以下、「第1の延在端67」という)における前後運動と、他方の延在端68(以下、「第2の延在端68」という)における上下運動とは互いに連動することになる。例えば、第2の延在端68が上方に変位した場合、第1の延在端67は後方に変位するため、第1の延在端67に連結された連結ロッド65が引張られる。その結果、芝刈り機10は、自己の車輪11の車軸を中心として時計方向に回転するため上昇する。これに対して、第2の延在端68が下方に変位した場合、第1の延在端67は前方に変位する。これにより、第1の延在端67に連結された連結ロッド65は、芝刈り機10の自重によって前方へと押し出される。その結果、芝刈り機10は、車輪11の車軸を中心として反時計方向に回転して下降する。
【0037】
リンク66の第1の延在端67は、連結ロッド65の延在方向において所定範囲の摺動が許容された状態で、連結ロッド65に連結されている。このように第1の延在端67を摺動可能に連結する理由は、両者を摺動不可の状態で固定的に連結してしまうと、芝刈り機10の路面追従性(すなわち、回転方向への変位)を阻害してしまうからである。ただし、第1の延在端67の滑りを無制限に許容してしまうと、芝刈り機10の昇降自体を行うことができない。そこで、連結ロッド65の端部に取付けられたロックナット69によって摺動可能な範囲を規制する。第1の延在端67は、これが後方に変位してロックナット69に接触するまでは、連結ロッド65を引張ることなく摺動自在である。そして、ロックナット69に接触した第1の延在端67が更に後方に変位すると、連結ロッド65も後方に引張られるため、芝刈り機10が上昇する。
【0038】
芝刈り機10を昇降するリフト機構64の作動は、車体部50に搭載された作動部70によって行われる。作動部70は、例えば、伸縮自在なシリンダを用いることができるが、特に、本実施形態では、油圧によって伸縮する油圧シリンダを用いている。この油圧シリンダ70は、リフト機構64を作動させるだけではなく、芝刈り機10側のベルトクラッチ23も作動させる。そのため、油圧シリンダ70のピストン側の端部には、リフト機構64の一部を構成するリンク66の第2の延在端68が連結されている。それとともに、このピストン側の端部(本実施形態では、リンク66の第2の延在端68)には、図5に示した動力伝達ワイヤ72の一端が接続されている。このワイヤ72の他端は、上述したベルトクラッチ23の一部を構成する切替レバー24の自由端に接続されている。ワイヤ72としては、例えば、アウタケーブルの中空部内に、軸線方向に変位自在にインナワイヤが収納された構成を用いることが好ましい。
【0039】
バッテリ71は、電動モータ53、油圧シリンダ70を作動する油圧ポンプ95、図8に示すコントローラ80、およびエンジン17を始動するスタータ(図示せず)など、芝刈り作業車1を動作させるのに必要な電気的な構成要素に対して電力を供給する。このバッテリ71には、発電機26によって発電された電力が蓄えられる。
【0040】
コントローラ80は、一例としてマイクロコンピュータであり、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェースを主体に構成されており、車体部50に搭載されている。図8は、コントローラ80の構成を示すブロック図である。このコントローラ80は、その機能的な要素として、推測航法位置検出部81と、ディファレンシャルGPS(以下、「D−GPS」と称する)位置検出部82と、左車輪制御部83と、右車輪制御部84と、昇降制御部85と、クラッチ制御部86とを有する。
【0041】
推測航法位置検出部81およびD−GPS位置検出部82は、芝刈り作業車1が自律走行するのに必要な、自車の走行位置を認識する。推測航法位置検出部81は、ある基準となる地点からの走行履歴を算出することにより、芝刈り作業車1の現在位置を測定する。この走行履歴は、車輪エンコーダ91により測定された走行距離を、地磁気方位センサ92により測定された走行方向の変化に応じて累積したものである。D−GPS位置検出部82は、GPS衛星から発せられた電波と固定局から得られたディファレンシャル情報とに基づいて、現在の走行位置を測定する。GPS衛星からの電波は、受信アンテナ93を介して受信される。一方、固定局からの電波は、受信アンテナ94を介して受信される。周知のように、GPS衛星から発せられた電波のみを用いた自己位置の測定は誤差が大きい。そこで、この測定値における同位相成分の誤差を除去するために、既知の地点に設置された固定局において、この地点の位置観測を行う。そして、この位置観測に基づいて得られた補正情報を芝刈り作業車1にフィードバックする。例えば、ポジション法を用いた場合、芝刈り作業車1側の受信機と固定局側の受信機の双方が捕捉するGPS衛星が同一となるように同期をとり、双方から得られた絶対位置に関する情報を引き算する。このようなD−GPS制御を行うことで、走行車の自己位置を精度よく測定することができる。
【0042】
左車輪制御部83および右車輪制御部84は、芝刈り作業車1の走行制御を行う。左車輪制御部83は、電動モータ53Lの回転量および回転方向を制御することにより、芝刈り機10側の左車輪11Lと車体部50側の左車輪51Lとに関する駆動制御を行う。一方、右車輪制御部84は、電動モータ53Rの回転量および回転方向を制御することにより、芝刈り機10側の右車輪11Rと車体部50側の右車輪51Rとの駆動制御を行う。芝刈り作業車1の直進時において、これらの制御部83,84は、電動モータ53a,53bが同一出力になるように制御する。これにより、左右の車輪11,51の回転数が一致するため、芝刈り作業車が直進する。一方、芝刈り作業車1の旋回時において、制御部83,84は、旋回方向に応じて、電動モータ53a,53bのうちの一方の出力が他方の出力よりも大きくなるように制御する。これにより、一方の車輪(例えば11R,51R)と、他方の車輪(例えば11L,51L)との間に回転差が生じるため、芝刈り作業車1が所望の方向(例えば左側)に旋回する。このように、芝刈り機10と車体部50とで構成される芝刈り作業車1は、芝刈り機10に取付けられた左右の車輪11L,11Rと、車体部50に取付けられた左右の車輪51L,51Rとによって四輪駆動する。
【0043】
昇降制御部85は、芝刈り機10の昇降制御を行う。昇降制御部85は、油圧ポンプ95の圧油の供給量を制御することにより、油圧シリンダ70の伸縮動作量を制御する。また、クラッチ制御部86は、後述する電磁クラッチ73を制御することにより、車体部50側の車輪51に対する動力の伝達・遮断を行う。この電磁クラッチ73に対する制御は、オペレータによって操作される操作スイッチ96によって切替えられる。なお、この操作スイッチ96を操作することによって、昇降制御部85を介して油圧シリンダ70の伸縮動作量を切替えることもできる。
【0044】
図9は、芝刈り作業車1の四輪に関する力学的関係の説明図である。説明の便宜上、同図に示すそれぞれの車輪は、同一部材の車輪から構成されていることとする。左側の車輪11L,51Lと、右側の車輪11R、51Rとの間に回転差を与えた場合(例えば、左車輪の回転数>右車輪の回転数)、この回転差が駆動力の差となって現われる。ここで、左側の車輪11L、51Lに作用する駆動力をFL,右側の車輪11R、51Rに作用する駆動力をFRとし(FL>FR)、これらの駆動力FL,FRが車輪の中央に作用すると仮定する。この場合、前側の車輪11に働く駆動力は旋回中心M’を基準として車体を旋回させる方向に作用し、後側の車輪51に働く駆動力は旋回中心M”を基準として車体を旋回させる方向に作用する。ただし、芝刈り作業車1をベースに考えた場合、その車体が旋回する旋回中心は、基本的に一点に定まる(旋回中心M)。この場合、芝刈り作業車1におけるそれぞれの車輪11,51は、すべり角β相当のサイドフォースSFを受け、横滑りしながら回転駆動する。同図から理解されるように、それぞれの車輪11,51において、サイドフォースSFは、駆動力の作用点から旋回中心Mまでを繋ぐ線(点線)方向に働く、駆動力のすべり角β相当の分力である。このとき、すべり角βが大きくなればサイドフォースSFも大きくなり、このサイドフォースSFが大きくなることで、車輪11,51の横滑りが大きくなる。一般的な車両であれば、このような問題は無視してかまわないが、グリーン上の芝を刈る芝刈り作業車1において、車輪11,51の横滑りが大きすぎると、芝を掻きむしり、芝を傷めてしまう可能性がある。そのため、芝刈り作業車1において、すべり角βが大きくなるような構成は不向きである。
【0045】
本発明者がシミュレーションを行ったところ、芝を傷めないような車輪の旋回条件は、図9に示すような車輪11,51が、例えばゴム製のタイヤである場合、すべり角βが概ね13度以内であればよいとの結果を得た。同図から理解されるように、すべり角βは、旋回中心Mを基準として、車体中心から車輪11,51に対する駆動力が作用する作用点までの開き角である。そのため、ホイルベールLが大きくなる程、或いは、回転半径Rが小さくなる程、すべり角βの値が大きくなる。それとともに、内輪側のすべり角βは、外輪側のすべり角βよりも大きくなる。
【0046】
芝刈り作業車1が芝刈り作業を行う際に、最も小回りを必要とされる状況は、グリーンの外周に沿って芝を刈る場合である。このとき、最低限必要とされる回転半径R、特に、内輪の回転半径Rinは、通常、トレッドBの1.5倍程度であると考えることができる。なぜならば、車輪11,51は刈刃13よりも内側に設けられる関係上、トレッドBも刈刃13の長さに依存するからである。例えば、刈刃13の長さを55cm〜70cm、トレッドBを53cmに設定した場合、大体のグリーンの外周部を刈り取れる計算となる。したがって、許容される最大のホイルベースLは、内輪の回転半径Rinと、ホイルベースLとに基づき、以下の式を満たせばよい。
(数1)
13°≧tan‐1((L/2)/1.5B)
【0047】
数式1に従えば、ホイルベールLがL=3Btan13°以内であれば、芝刈り作業車1は、理論上、芝を傷めずに旋回することができる。ただし、この距離Lは、図9に示す力学的なモデルに基づくものであり、本実施形態のように、前側の車輪11がローラで、後側の車輪51がゴム製のバルーンタイヤである場合には、それらの諸条件をも考慮する必要がある。ただし、このような場合であっても、基本的な考えは同じであり、タイヤのすべり角を基準として、内輪の回転半径に基づき、ホイルベースLの最大値を決定すればよい。本実施形態では、このような考えに基づき、芝刈り機10と車体部50とを極力近づけた状態で連結することにより、車輪11,51を近づけている(すなわち、ホイルベースLを短くしている)。この場合、前方の車輪11L,11Rと、後方の車輪51L,51Rとを実質左右一対の車輪とみなすことができるので、すべり角βの増大(すなわち、サイドフォースSFの増大)を抑制できる。その結果、芝刈り作業車1の走行時においても、芝の保護を図ることができる。
【0048】
つぎに、ベルトクラッチ23およびリフト機構64を作動する油圧シリンダ70の動作について説明する。芝刈り作業時において、芝刈り作業車1は、図1に示すように、芝刈り機10を下降させた状態になる。ただし、作業を行わない単なる移動時、或いは、作業中であっても一端グリーンの外へ出てから旋回するような場合には、芝刈り機10を地面から上昇させる必要がある。なぜならば、芝刈り機10を下降させたままだと、芝刈り機10が走行の妨げとなったり、障害物の巻き込みによって刈刃13が損傷してしまう可能性があるからである。また、芝刈り機10を上昇させる場合には、芝刈り作業車1の前方に刈刃13が露出するため、刈刃13を確実に停止させて、安全性の確保を図る必要がある。そこで、芝刈り機10を上昇させる場合、その昇降動作と同期してベルトクラッチ23を作動させることにより、刈刃13(ロータリカッター14)の駆動状態と停止状態との切替えが行われる。
【0049】
まず、芝刈り作業時には、昇降制御部85によって油圧ポンプ95が制御されて、油圧シリンダ70が延伸した状態となる。ここで、「延伸した状態」とは、油圧シリンダ70が完全に延伸しきった状態のみを指すものではなく、若干の伸縮量で縮んでいる状態も含む。この状態において、油圧シリンダ70のピストン側に連結されたリンク66の第2の延在端68は、下方に位置するとともに、その第1の延在端67は、ロックナット69と離間した前方に位置する。したがって、第1の延在端67は連結ロッド65上を摺動自在な状態にあり、芝刈り機10は自重によって下降状態を維持する。また、動力伝達ワイヤ72のインナワイヤが第2の延在端68によって下方に引張られ、このインナワイヤの引張力により、ベルトクラッチ23がベルト21側へ回転(傾斜)させられる(図5に示すポジションB)。このとき、ロータリカッター14の動力伝達機構の一部を構成するベルト21は緊張した状態となり、刈刃13が回転駆動する。このように、油圧シリンダ70が第1の伸縮動作領域にある場合(本実施形態では、油圧シリンダ70が延伸した状態にある領域)、芝刈り機10は下降状態であって、刈刃13への動力伝達が行われる。
【0050】
芝刈り機10の上昇時には、昇降制御部85によって油圧ポンプ95が制御され、油圧シリンダ70が圧縮する。油圧シリンダ70の圧縮によって、ピストン側に連結されたリンク66の第2の延在端68が上方に回転変位するため、その第1の延在端67は後方へと回転変位する。これにより、第1の延在端67は、ロックナット69の近傍に寄った位置となる。ただし、この状態では、まだ、第1の延在端67は連結ロッド65上を摺動可能な状態のままであり、芝刈り機10の上昇は開始されない。また、第2の延在端68の回転にともない、インナワイヤが弛緩する方向へ作用する。このとき、インナワイヤの弛みと、動力伝達ワイヤ72に設けられた圧縮コイルスプリングのバネ力により、ベルトクラッチ23の切替レバー24がベルト21から離間する方向に変位する。これにより、切替レバー24は、図4に示す反時計回りの方向へ回転し、ポジションAに到達する。このとき、ロータリカッター14の動力伝達機構の一部を構成するベルト21は弛緩した状態となり、ロータリカッター14の駆動が停止する。このように、油圧シリンダ70が上述した第1の伸縮動作領域とは異なる第2の伸縮動作領域にある場合(本実施形態では、第1の伸縮動作領域よりも縮んだ領域)、芝刈り機10は下降状態のままであるが、刈刃13への動力伝達が遮断される。
【0051】
油圧シリンダ70がさらに圧縮すると、第2の延在端68の更なる変位と連動して、第1の延在端67が更に後方へと回転変位し、ロックナット69に当接する。この当接状態から油圧シリンダ70を更に圧縮すると、第1の延在端67がロックナット69を押圧し、ロックナット69を後方へ押し出す。これにより、連結ロッド65が引張られるため、芝刈り機10が時計方向へ回転し、図10に示すように芝刈り機10の前方が上昇する。そして、昇降制御部85によって油圧ポンプ95が制御され、所定の圧縮位置に到達したところで、芝刈り機10の上昇が停止する。また、インナワイヤは既に弛緩状態となっているため、ベルトクラッチ23はベルト21の動力伝達を遮断した状態を維持する。このように、油圧シリンダ70が第1および第2の伸縮動作領域とは異なる第3の伸縮動作領域にある場合(本実施形態では、第2の伸縮動作領域よりも縮んだ領域)、芝刈り機10は上昇状態にあって、刈刃13に対する動力伝達が引き続き遮断される。なお、芝刈り機10と第1の延在端67との連結を連結ロッド65でなく、連結ワイヤで連結しても良い。この場合、油圧シリンダ70の第1および第2の伸縮動作領域において、このワイヤは弛んだ状態で延在端67に連結される。この弛みをもつワイヤの長さは、油圧シリンダ70が第2の伸縮動作領域からさらに圧縮した時、弛みが無くなる長さに設定されている。これにより、上述の連結ロッド65での説明と同様に、刈刃13の回転駆動が停止した後にリフト機構64が作動して、芝刈り機10の上昇が開始する。
【0052】
芝刈り機10の下降時には、上述した上昇時とは逆の動作が行われる。これにより、上昇していた芝刈り機10が下降を開始して地面に接地した後、刈刃13の回転駆動が開始される。
【0053】
なお、例えば、アスファルト路面を走行させるケースのような非作業走行時を想定して、芝刈り作業車1には移動用車輪110を取付けることができる。図11は、移動用車輪110の取付状態における芝刈り作業車1の左側面を模式的に示した図である。具体的には、図4に示すように、芝刈り機10側の車輪11における車軸の延長上に設けられた取付位置33に、移動用車輪110が取付けられる。この移動用車輪110は、少なくとも車輪11の半径よりも大きな車輪を有し、車体部50側の車輪51と同一半径を有することが好ましい。移動用車輪110の取付時には、移動用車輪110の半径(正確には、移動用車輪110と車輪11との半径差)に相当する分だけ、芝刈り機10が上向きになる。これにより、芝刈り機10が地面から離間するため、堅いアスファルト路面などを走行しても、刈刃13や金属製ローラ等の損傷を抑制できる。このように、ユーザの選択によって移動用車輪110を着脱自在にすることにより、芝刈り作業車1の利便性の向上を図ることができる。また、移動用車輪110を取付けた時、芝刈り機10を昇降させるリフト機構64を作動させることで、芝刈り機10はさらに上方に変位する。これにより、芝刈り作業車1は、急激に勾配が変化する路面等においても、芝刈り機10が路面に触れることなく走行することができる。さらに、リフト機構64は、芝刈り機10を上方に変位する際、ベルトクラッチ23を介して刈刃13の駆動を遮断する為、安全性の向上が図られる。この時のリフト機構64の作動は、操作スイッチ96をユーザが操作することで、昇降制御部85による油圧ポンプ95の制御によって行われる。
【0054】
移動用車輪110の取付時において、芝刈り作業車1は、移動用車輪110と、車体部50側の車輪51とで走行することとなる。ただし、芝刈り機10側の車輪11と車体部50側の車輪51とは対地速度が等しくなるように駆動するため、移動用車輪11の取付時において、車輪11よりも大きな半径を有する移動用車輪110と、車輪51との対地速度が相違する。また、移動用車輪110はアスファルト路面などを移動することを目的とするため、ある程度の耐久性を有するものの、車体部50側の車輪51はグリーン上を走行することを目的とするため、柔らかな部材で形成されている。そのため、アスファルト路面などで車体部50側の車輪51を駆動させた場合、車輪51が損傷する恐れがある。そこで、本実施形態では、図6および図8に示すように、車体部50側の車輪51に対する動力の伝達・遮断を行う電磁クラッチ73が設けられている。車輪51に動力を伝達する必要がある状況では、電磁クラッチ73によって動力伝達を許容し、車輪51を駆動させる。これに対して、車輪51に対する動力伝達を遮断する必要がある状況では、電磁クラッチ73によって動力伝達を規制する。これにより、車輪51の駆動が停止し、従動的な回転のみが許容される。その結果、車輪51としてのバルーンタイヤの損傷を軽減することができる。この電磁クラッチ73の作動状態は、コントローラ80のクラッチ制御部86によって制御される。クラッチ制御部86の制御は、操作スイッチ96をユーザが操作することにより行ってもよいが、センサによって自動的に行ってもよい。例えば、移動用車輪110の取付位置33にセンサを設け、このセンサによって移動用車輪110の有無を検出することで、クラッチ制御部86が電磁クラッチ73の制御を行うといった如くである。
【0055】
このように、本実施形態にかかる芝刈り作業車1によれば、左側の車輪11L,51Lを電動モータ53Lで駆動し、右側の車輪11R,51Rを電動モータ53Rで駆動している。そして、それぞれの電動モータ53L,53Rの出力制御を独立して行うことにより、左右の車輪11,51に回転差を与える。これにより、旋回を含めた、芝刈り作業車1の走行制御を行うことが可能となる。なお、芝刈り機10には、刈刃13を駆動するエンジン17が設けられているため、エンジン17において発生した動力で車輪11,51を駆動することも考えられる。しかしながら、このような構成では、エンジン17の動力を2つに分割する機構が必要とり、駆動系の機構が複雑化してしまうという不都合がある。これに対して、本実施形態のように、一対の電動モータ53L,53Rを用いて駆動制御を行えば、比較的簡素な構成で左右輪の独立制御を行うことができる。
【0056】
また、芝刈り機10側に設けられたエンジン17は、刈刃13を駆動するとともに、発電機26も駆動する。そのため、この発電機26において発電された電力をバッテリ71で蓄電し、蓄えられた電力を電動モータ53などに供給すれば、芝刈り作業車1を長時間に亘り使用することができる。その結果、バッテリ71を頻繁に充電する必要がなくなるため、芝刈り作業の効率の向上を図ることができる。
【0057】
また、本実施形態では、芝刈り機10と、車体部50とはそれぞれ独立して構成されており、個々の重心位置は、それぞれの車軸の上方に存在している。これにより、芝刈り作業車1の重量が、それぞれの車輪11,51に全体的に分散されるので、芝に与えるダメージを抑制することができる。また、芝刈り作業車1全体で重心を考えた場合、その重心位置は、芝刈り機10側の車軸と車体部50側の車軸との間に存在する。仮にこの重心が前後に偏っているとすると、地面の起伏に沿って傾いた際に、芝刈り作業車1が転倒してしまうといった事態が想定される。しかしながら、本実施形態では、重心位置が比較的に安定した車両の中央に位置に存在するため、このような事態を抑制することができる。また、自律走行車として機能する芝刈り作業車1では、人が乗車することで、重心位置が変化することはない。そのため、芝刈り作業車1の重心位置を予め定めておけば、芝刈り作業中にその重心位置がずれることはないので、より効果的である。
【0058】
また、芝刈り機10と車体部50とは連結部100を介して連結されている。図1および図4に示すように、連結部100は、芝刈り機10には、左車輪11Lと右車輪11Rとの間で連結し、車体部50には、中央下方で連結している。この連結部100は、芝刈り機10側の車輪11の車軸を中心とした芝刈り機10の相対的な回転変位を許容している。そのため、芝刈り機10の路面に対する追従性を妨げることがないので、芝の刈りムラを抑制することができる。また、芝刈り機10が路面追従をした場合でも、芝刈り機10側の車輪11に対する動力伝達機構において動力伝達が有効に行われるため、芝刈り作業車1の安定的な走行を確保することができる。さらに、この動力伝達機構において、動力伝達部材としてベルトを用いることで、芝刈り作業車1の左右両側に掛け渡されたベルト62L,62Rの張力により、芝刈り機10と車体部50との前後方向における拘束力が向上する。また、連結部100を介して左右対称となるように左右車輪に対する動力伝達機構を配置しておくことで、例えば、凹凸の多い走行環境であっても、車幅方向における拘束力を向上し、また、連結部100に生じるねじれなどを抑制できる。
【0059】
なお、本実施形態にかかる芝刈り作業車1は、車輪11,51で駆動する四輪駆動車であるが、本実施形態はかかる構成に限定されるものではない。例えば、この芝刈り作業車1が芝刈り機10側の車輪11のみで駆動する、或いは、車体部50側の車輪51のみで駆動する二輪駆動車であってもよい。ただし、四輪駆動では、芝刈り作業車1を走行駆動するにあたり、それぞれの車輪11,51に対してトルクを分散させることができるので、走行時に車輪が芝に与えるダメージを低減し、芝を保護することができる。
【0060】
また、本実施形態おいて、油圧シリンダ70は、芝刈り機10の上昇において、芝刈り機10の上昇と、刈刃13への動力の伝達または遮断との双方を行う。芝刈り機10の上昇時には、リフト機構64による芝刈り機10の上昇に先立ち、ベルトクラッチ23が作動して、刈刃13の回転駆動が停止される。そして、刈刃13の回転駆動が停止した後に、リフト機構64が作動して、芝刈り機10の上昇が開始する。したがって、芝刈り機10が上昇を開始する際には、刈刃13の駆動が停止しているので、安全性を確保することができる。
【0061】
なお、上述した実施形態は本発明の好ましい一例ではあって、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において任意に変更可能である。例えば、ロータリカッター14に対する動力伝達機構において、エンジン17において発生した動力は、エンジン17側の駆動プーリ18と、ロータリカッター14側の従動プーリ16との間にベルトを直に掛け渡す構成であってもよい。ただし、このような構成は、芝刈り機10の構造上のレイアウトに起因して、芝刈り機10の最も外側にベルトを掛け渡すこととなり、芝刈り作業車1が大型になってしまう点に留意する必要がある。また、本実施形態では、刈刃13に対する動力の伝達・遮断を行うベルトクラッチ23をベルト21の上端に備えているが、同様の作用を奏するのであれば、ベルトクラッチ23をベルト21の下端に備えてもよい。また、後段のベルト22に対して同様のクラッチ機構を適用してもよい。また、動力伝達機構に用いられる伝達部材として、主にベルトを用いて説明したが、本実施形態の作用・効果を奏する限り、例えば、チェーンといった周知の伝達部材を使用してもよい。
【0062】
また、本発明の芝刈り作業車1は、グリーンの芝を刈る作業車として好ましいが、例えば、グリーンの芝を育成する芝畑、或いは、サッカー場の芝を刈る作業車としても使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態にかかる芝刈り作業車の左側面を模式的に示した図
【図2】芝刈り作業車の右側面を模式的に示した図
【図3】芝刈り作業車の前面を模式的に示した図
【図4】連結部の説明図
【図5】クラッチ機構の概略的な説明図
【図6】車体部の後面を模式的に示した図
【図7】芝刈り機側の車輪に動力を伝達する動力伝達機構の説明図
【図8】コントローラの構成を示すブロック図
【図9】芝刈り作業車の四輪に関する力学的関係の説明図
【図10】芝刈り機の上昇状態における芝刈り作業車の左側面を模式的に示した図
【図11】移動用車輪の取付状態における芝刈り作業車の左側面を模式的に示した図
【符号の説明】
【0064】
1 芝刈り作業車
10 芝刈り機
11 車輪
13 刈刃
14 ロータリカッター
15 下刃
17 エンジン
23 ベルトクラッチ
26 発電機
29 ローラ
30 支持部材
50 車体部
51 車輪
53 電動モータ
55 減速機
63 テンショナ
64 リフト機構
70 作動部
71 バッテリ
73 電磁クラッチ
80 コントローラ
100 連結部
110 移動用車輪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芝刈り作業車において、
動力源から伝達された動力によって駆動する刈刃を有する芝刈り機と、
前記刈刃に対する動力の伝達または遮断を行うクラッチ機構と、
前記芝刈り機の昇降を行うリフト機構と、
前記クラッチ機構と、前記リフト機構とを作動する作動部とを有し、
前記作動部は、前記芝刈り機を上昇させる場合、前記芝刈り機が上昇する前に、前記クラッチ機構によって前記動力源から前記刈刃への動力の遮断を行うとともに、当該動力の遮断が行われた後に、前記リフト機構によって前記芝刈り機を上昇させることを特徴とする芝刈り作業車。
【請求項2】
前記芝刈り機は車輪を有し、
前記リフト機構は、前記車輪の車軸を中心として、前記芝刈り機を回転方向に変位させることによって、前記芝刈り機の昇降を行うことを特徴とする請求項1に記載された芝刈り作業車。
【請求項3】
前記リフト機構と前記作動部とを有する車体部と、
前記芝刈り機と前記車体部とを連結し、前記車体部には、固定的に連結されているとともに、前記芝刈り機には、前記車輪の車軸を中心として前記芝刈り機の回転方向の変位を許容するように連結されている連結部とをさらに有することを特徴とする請求項2に記載された芝刈り作業車。
【請求項4】
前記作動部は伸縮自在なシリンダであって、
前記動力源から前記刈刃への動力の伝達または遮断は、前記シリンダの伸縮に応じて前記クラッチ機構が作動することによって行われ、
前記芝刈り機の昇降は、前記シリンダの伸縮に応じて前記リフト機構が作動することによって行われることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載された芝刈り作業車。
【請求項5】
前記シリンダが第1の伸縮動作領域にある場合、前記芝刈り機は下降状態にあって、前記動力源から前記刈刃に動力が伝達され、
前記シリンダが前記第1の伸縮動作領域とは異なる第2の伸縮動作領域にある場合、前記芝刈り機は下降状態にあって、前記動力源から前記刈刃への動力伝達が遮断され、
前記シリンダが前記第1の伸縮動作領域および前記第2の伸縮動作領域とは異なる第3の伸縮動作領域にある場合、前記芝刈り機は上昇状態にあって、前記動力源から前記刈刃への動力伝達が遮断されることを特徴とする請求項4に記載された芝刈り作業車。
【請求項6】
前記リフト機構は、
前記芝刈り機に一端が連結された連結部材と、
略L字形状を有し、第1の延在端が前記連結部材の他端に連結されており、第2の延在端が前記シリンダに連結されたリンクとを有することを特徴とする請求項5に記載された芝刈り作業車。
【請求項7】
前記連結部材は、連結ロッドであって、
前記第1の延在端は、前記連結ロッドの延在方向において所定範囲の摺動が許容された状態で、前記連結ロッドに連結されていることを特徴とする請求項6に記載された芝刈り作業車。
【請求項8】
前記連結部材は、連結ワイヤであり、所定量の弛みが与えられた状態で、前記芝刈り機と第1の延在端とに連結されていることを特徴とする請求項6に記載された芝刈り作業車。
【請求項9】
前記駆動源の動力を出力する出力軸に一体的に取付けられた第1の回転部材と、
前記刈刃の回転軸に一体的に取付けられた第2の回転部材と、
前記第1の回転部材と前記第2の回転部材との間に掛け渡されて、前記第1の回転部材側から前記第2の回転部材側に動力を伝達する伝達部材とをさらに有し、
前記クラッチ機構は、
前記シリンダの伸縮動作領域に応じて、前記伝達部材を緊張または弛緩させることにより、前記第1の回転部材側から前記第2の回転部材側への動力の伝達または遮断を行うベルトクラッチと、
前記シリンダと前記ベルトクラッチとを連結する連結部材と
を有することを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載された芝刈り作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−148716(P2008−148716A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59219(P2008−59219)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【分割の表示】特願2002−334186(P2002−334186)の分割
【原出願日】平成14年11月18日(2002.11.18)
【出願人】(596047171)コスモ・イーシー株式会社 (12)
【Fターム(参考)】