説明

芯鞘複合フィラメント糸、それを用いた布帛、中空繊維布帛、及びその製造方法。

【課題】 本発明は、軽量性、保温性をはじめとする機能性に優れたポリアミド中空繊維を生産性良くかつ、高次加工工程での中空つぶれが発生することなく提供するものである。
【解決手段】 芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がポリアミドであり、芯部と鞘部の複合割合が20/80〜60/40重量%であり、かつ鞘部を形成するポリアミドに機能材料が0.5〜10重量%含有され、および/または芯部を形成するポリ乳酸に酸化防止剤が0.01〜1重量%含有されていることを特徴とする芯鞘複合フィラメント糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド中空繊維を用いた保温性、軽量性に優れた布帛に関するものである。更に詳しくは、後工程での溶出処理速度に優れたポリ乳酸とポリアミドからなる複合繊維をポリ乳酸の熱劣化を抑えて生産性よく製造し、これを布帛とした後に溶出処理することにより、仮撚加工や流体噴射加工、製織、編成などの高次加工工程での中空つぶれがない布帛に関するものである。また、ポリアミドに種々の機能材料を添加することにより、様々な機能発現を付加できる。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の一つであるポリアミド繊維は、高強度、耐摩耗性、ソフト性、染色鮮明性などの優れた特徴を持っている。そのため、パンティストッキング、タイツ等のレッグウェア、ランジェリー、ファンデーション等のインナーウェア、スポーツウェア、カジュアルウェア等の衣料用途に好まれて用いられてきている。
【0003】
しかしながら、ポリアミド繊維は元来その表面と内部構造が均一かつ単純であることから、単なる丸断面フィラメント糸では冷たい触感であり、冬季の衣料としての暖かさや保温性が不十分という欠点がある。これらの問題を解決すべく、特許文献1のような繊維内部に中空層を持つ中空繊維により軽量性、保温性といった機能を高める技術が提案されている。
【0004】
ところが、これらの中空繊維は紡糸口金の形状、ポリマー粘度などの工夫以外は通常の溶融紡糸により製造されるため中空率を高くすることが困難であり、しかも、ポリマ自体のモジュラスが低いことから後加工工程において中空部が潰れ易いといった問題が発生していた。また、これらの問題を改善するために単糸を太繊度とするしかなく、布帛の風合いが粗硬なものとなっていた。
【0005】
また、特許文献2および3にはポリエチレンテレフタレートとポリアミドとの芯鞘複合糸を用いて布帛とした後に芯部のポリエチレンテレフタレートの一部をアルカリ溶出処理することによる軽量・保温性布帛が提案されている。しかしながらポリエチレンテレフタレートではアルカリ溶出速度が遅く、溶出に時間がかかりすぎたり、一部が溶出しきれずにムラとなり製品欠点が生じていた。また、溶出速度を上げるためにスルホン化芳香族ジカルボン酸共重合ポリエステルを使用した場合は製糸安定性に欠け、生産性が極めて悪かった。
【0006】
一方、近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。中でも力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。ポリ乳酸は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。また、優れた製糸性、アルカリ原料速度が速いなどの特徴を持っているため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0007】
また、ポリ乳酸繊維の特性を向上させる手法として、汎用プラスチックとの複合紡糸もいくつか提案されている。例えば特許文献4には、ポリアミド系重合体と脂肪族ポリエステルとから構成され、アルカリ減量によりハリ、腰などを付与する複合繊維が提案されている。
【特許文献1】特開平9−217225号公報([0042]段落)
【特許文献2】特公平8−19607号公報(第4頁第17〜39行目)
【特許文献3】特許2569972号公報([0015]〜[0016]段落)
【特許文献4】特開2000−54228号公報([0014]段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、軽量性、保温性に優れたポリアミド中空繊維を生産性良くかつ、高次加工工程での中空つぶれが発生することなく提供するものである。加えて、ポリ乳酸の耐熱性を向上させ、紡糸時における熱劣化を抑制するとともに、ポリアミドに種々の機能材料を添加することにより、様々な機能発現を可能とさせるものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は
(1)芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がポリアミドであり、芯部と鞘部の複合割合が20/80〜60/40重量%であり、かつ鞘部を形成するポリアミドに機能材料が0.5〜10重量%含有されていることを特徴とする芯鞘複合フィラメント糸。
【0010】
(2)芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がポリアミドであり、芯部と鞘部の複合割合が20/80〜60/40重量%であり、かつ芯部を形成するポリ乳酸に酸化防止剤が0.01〜1重量%含有されていることを特徴とする芯鞘複合フィラメント糸
(3)前記記載の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛。
【0011】
(4)前記記載の布帛を加熱アルカリ水溶液で処理し、芯鞘複合フィラメント糸の芯部を溶出することより得られる中空繊維布帛。
【0012】
(5)前記記載の布帛を加熱アルカリ水溶液で処理し、芯鞘複合フィラメント糸の芯部を溶出することを特徴とする中空繊維布帛の製造方法、
により構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、後溶出型ポリアミド中空繊維を生産性よく製造することができ、かつ後工程での溶出性に優れていることから、中空がつぶれることのない軽量性、保温性に優れたポリアミド布帛を提供することができる。加えて、ポリ乳酸の耐熱性を向上させ、紡糸時における熱劣化を抑制できるとともに、ポリアミドに種々の機能材料を添加することにより、様々な機能発現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸は芯鞘構造からなる。その芯部はポリ乳酸からなり、鞘部はポリアミドよりなる。このような芯鞘構造繊維とし、布帛に加工した後芯部のポリ乳酸を溶出処理することにより、高中空率でありかつ後加工でつぶれることのない中空繊維を製造することができる。また、芯鞘の形状は、鞘部が繊維表面を完全に覆っており、芯部が繊維表面に露出していないことが必要である。芯部のポリ乳酸が繊維表面に露出したいわゆるC型断面などでは、製糸工程において糸道ガイドが擦過などにより芯部と鞘部が割れて糸切れの原因となったり、整経、製織、編成などの後工程において毛羽が発生するため適さない。
【0015】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の芯部と鞘部の複合割合は20/80〜60/40重量%である必要がある。芯成分が20重量%未満であると、芯成分を溶出した後でも中空率が低いために軽量性、保温性といった中空繊維の特徴が不充分となる。また、芯成分が60重量%を超えると製糸性が不安定になるとともに、布帛とした後で中空部がつぶれやすくなり、保温性の効果が不充分となる。好ましくは芯部と鞘部の複合割合が25/75〜55/45、さらに好ましくは30/70〜50/50重量%である。
【0016】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の芯部を形成するポリ乳酸とは、-(O-CHCH-CO)n-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよく、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体等を含有していてもよい。
【0017】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の芯部を形成するポリ乳酸には、酸化防止剤が0.01〜1重量%含有されていることが好ましい。ポリ乳酸は鞘部に用いられる一般的なポリアミドと比較して耐熱性が低く、複合糸のように両ポリマーを同温度条件で紡糸する必要がある場合には、ポリ乳酸の方が熱劣化が進みやすく、生産性の悪化を招きやすい。そこで本発明者らは、ポリ乳酸に酸化防止剤を少量含有させることにより、ポリ乳酸の熱劣化を抑制し、より厳しい温度条件での溶融紡糸に耐えうることを見いだしたのである。これにより、ナイロン66のようなポリアミドの中でも比較的融点の高いポリマーとの複合についても可能となる。
【0018】
ここで、酸化防止剤の含有量は0.01〜1重量%であることが好ましい。0.01重量%未満であると添加量が少なすぎて充分な熱劣化抑制効果が得られない。また、1重量%を超えると、紡糸フィルターの詰まりを引き起こすなど生産性が悪化することがある。好ましくは0.02〜0.5重量%である。
【0019】
酸化防止剤の種類に関して特に制限はなく、一般公知のものを使用することができる。一例を挙げるとヒンダードフェノール系、ホスファイト系、硫黄系、リン系、あるいはこれらを複合したものなどによる酸化防止剤である。
【0020】
酸化防止剤を含有せしめる方法としては、ポリ乳酸チップへ酸化防止剤をブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸チップへ高濃度の酸化防止剤を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸へ酸化防止剤を添加し混練する方法、ポリ乳酸の重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ酸化防止剤を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0021】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の鞘部を形成するポリアミドとは、アミド結合を有する熱可塑性重合体のことをいうが、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン46等を挙げることができる。また、前記ポリマーのブレンド物、共重合ポリマーであってもよいが、なかでも繊維形成性、製造コスト、汎用性および芯部のポリ乳酸との融点が近いことなどからナイロン6が好ましい。
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の鞘部を形成するポリアミドには、機能材料が0.5〜10重量%含有されていることが必要である。機能材料を含有せしめることにより、注空繊維本来の持つ軽量性、保温性といった機能に加えて新たな複合機能を付与することができるのである。
【0022】
ここでいう機能材料とは、繊維内部に存在することにより、導電、抗菌、吸湿、蓄熱保温、接触冷感、防透けといった繊維にとって有用な付加機能を発現せしめる化学物質のことであり、単一の化合物である場合や複数の化合物の混合物である場合もある。機能材料は大別して無機機能材料と有機機能材料に分けられる。無機機能材料としては、艶消し効果を持つ酸化チタン、遠赤外線放射機能を持つアルミナ系粒子、カーボンブラック、抗菌機能をもつ銀ゼオライト、マイナスイオン放射機能を持つ微量放射性天然鉱石、トルマリン鉱石などが挙げられる。有機機能材料としては、吸放湿性を高めるポリビニルピロリドン化合物、有機系抗カビ、抗菌剤などが挙げられる。例えば遠赤外線放射機能を持つ機能材料を含有させると、遠赤外線放射による輻射熱と中空部による保温性との相乗効果によって、暖かさを実感できる快適性に優れた布帛を製造することが可能となる。
【0023】
ここで、機能材料の含有量は0.5〜10重量%である必要がある。0.5重量%未満であると添加量が少なすぎて充分な付加機能の発現が得られない。また、10重量%を超えると、繊維の機械特性が著しく低下し、実用に適さない。好ましくは1〜7重量%である。
【0024】
機能材料を含有せしめる方法としては、ポリアミドチップへ機能材料をブレンドし溶融する方法、ポリアミドチップへ高濃度の機能材料を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリアミドへ機能材料を添加し混練する方法、ポリアミドの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ機能材料を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0025】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の断面形状は、鞘部が繊維表面を完全に覆っている必要があるが、外形は丸断面、多角断面、多葉断面、その他公知の断面形状のいずれでもよく、芯部も単芯の他、2芯、3芯といった多芯構造であってもよい。
【0026】
本発明の布帛は、上記芯鞘複合フィラメント糸を常法によって製織、あるいは編成することにより得られるが、布帛を形成する際には芯鞘複合フィラメント糸を主要な構成成分として形成する必要がある。すなわち、芯鞘複合フィラメント糸のみを用いて布帛とするか、布帛が複数種の繊維よりなる場合は、布帛を構成する複数の繊維の中でも混率を1番目もしくは2番目に高くする必要がある。複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合したニットや、複合フィラメント糸をタテ糸またはヨコ糸のみに用いた織物、さらには他の合成繊維あるいは綿などの天然繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
【0027】
本発明の中空繊維布帛は上記布帛を溶出処理によって芯部のポリ乳酸を除去することにより得られる。布帛としては、パンスト、タイツ、靴下などの丸編み、下着、水着向けのトリコット、さらにはスポーツウェア、外衣向けの織物などが挙げられる。丸編み、トリコットなどの場合には、編成、熱セットを施した後に溶出処理をおこない、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また、織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後に溶出処理をおこない、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また、これらの前工程として仮撚りや流体噴射加工などをおこない繊維に嵩高性を持たせることも可能である。
【0028】
芯成分の溶出処理は10〜100g/l、好ましくは20〜80g/lのアルカリ溶液中でおこなう。アルカリ溶液は通常、水酸化ナトリウム溶液を用い、60〜120℃の温度で処理する。100℃以下の場合は常圧下でバッチ式の処理槽にて布帛を攪拌・流動させながら処理し、100℃を超える場合は加圧下で同様に処理を行う。処理時間はポリ乳酸が完全に溶出されるまでの時間おこなえばよいが、コストの面から3時間以内で完全に溶出されるのが好ましい。
【0029】
このように、布帛を構成した後に芯部を溶出処理して中空繊維とすることにより、糸加工、製織、編成などの工程で受ける外力による中空つぶれを防ぐことができる。
【0030】
本発明の中空繊維布帛は衣料品、資材用品、インテリア用品などに好適である。衣料品としては、スキーウェア、スノボウェア、登山服、水着、ランニングウェア、レオタード、スパッツなどのスポーツウェア、およびジャンパー、ブルゾン、ダウンジャケット、コート、レインウェア、ウィンドブレーカーなどのアウターウェア、およびランジェリー、ファンデーション等のインナーウェア、およびパンティストッキング、タイツ、靴下等のレッグウェア、およびTシャツ、Yシャツ、ブラウス、ポロシャツ、キャミソールなどのシャツ類、スカート、パンツなどのボトム、帽子、手袋、スカーフ、裏地などが挙げられる。
【0031】
資材用品としては、日傘、ビーチパラソル、雨傘など傘、テント地、自動車カバー、スクリーン、布団カバー、枕カバー、椅子張り、カーシート、カバン、合成皮革基布などが挙げられる。
【0032】
インテリア用品としてはカーテン、レース、クッション、暗幕などが挙げられる。
【0033】
次に、本発明の芯鞘複合フィラメント糸の製造方法について説明する。本発明の芯鞘複合フィラメント糸は、芯部のポリ乳酸および鞘部のポリアミドをそれぞれ別個に溶融した後に同一の紡糸口金に導いて芯鞘構造となるように複合し、吐出させることにより得られる。ここで、芯部ポリ乳酸には酸化防止剤、および/または鞘部ポリアミドには機能材料を先に述べた方法にてあらかじめ含有せしめておく必要がある。吐出された糸条は、一旦巻き取ることなく直接紡糸延伸法で製造される。直接紡糸延伸法で製造する際、吐出された糸条を冷却風で冷却した後、給油装置にて給油をおこない、流体交絡装置に糸条を通して交絡を生じさせる。しかる後に1000m/分以上の速度で引き取り、130℃以上に加熱したローラーとの間で延伸、熱固定を行い3000m/分以上の速度で巻取る。
【0034】
また、冷却、給油後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で紡糸引取る高速法によって、POYを製糸し、その後、必要に応じて仮撚加工など高次加工を施してもよい。ここで実質延伸しないでとは、理想的には延伸倍率が1倍であることを意味するが、ローラー間での糸のタルミによる巻き付きを無くすこと等を目的として、糸の物性にほとんど影響しない程度のストレッチをかけることまで妨げる趣旨ではなく、1〜1.2倍程度の延伸倍率で有れば差し支えは無いということを意味する。仮撚加工する場合には接触式の熱板使いで芯部のポリ乳酸の融点−70℃〜融点−5℃で実施すればよく、捲縮特性の指標である伸縮復元率(JIS L1090に定める)を高くするには芯部ポリマーであるポリ乳酸の融点−50℃〜融点−5℃、さらに好ましくは融点−30℃〜融点−5℃である。流体噴射加工する場合には常法で実施すればよく、例えば本発明で用いられる複合フィラメント糸どうし、もしくは本発明で用いられる複合フィラメント糸と他の糸をフィード差を付けて送り出し、流体噴射ノズルを通過させて複合、捲縮付与することによりフィード差による糸条ループが形成される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0036】
A.布帛の保温性(CLO値)
20℃、65%RHの環境中で充分に調湿させた試験布帛を、40±0.1℃に設定されたSm2の熱板上に設置し、1分経過後の安定した状態で、熱板から試験布帛を通して環境中に放散する熱損失量を、熱板面積(Sm2)と消費電力(EW)とから求める。この時、熱板からの対流による放熱を防止するため、熱板周辺は上部に開閉口のある樹脂製ケースで覆って無風状態とした。上記実験で得られた熱損失量の値は、次式によりCLO値に換算される。
CLO値=(1/0.155)×(20×S/E)
【0037】
このCLO値は布帛の保温性を示す指標として一般的に用いられているものであり、値が大きい程保温性が優れることを表す。そして、21℃、50%RH以下、気流5cm/秒の室内で安静状態にある人体の平均皮膚温度(33℃)を維持できる布帛の保温性がCL0値1.0で表される。
【0038】
B.紡糸糸切れ
フィラメント糸を製糸するときの、1t当たりの製糸糸切れについて、次の基準をもって製糸性を示した。
◎:糸切れ1回未満、○:糸切れ1以上2回未満、△:糸切れ2以上4回未満、×:糸切れ4回以上。
【0039】
C.芯部溶出性
布帛を5g/lの水酸化ナトリウム溶液中で98℃、180分間処理した後、布帛を構成するフィラメント糸をニコン社製光学顕微鏡で倍率400倍にて観察し、芯部の溶出性を次の基準で判定した。
○:芯部が目視確認で認められず、完全に溶出されている。
×:芯部の一部が残存している。
【0040】
D.機能材料の効果
(a)酸化チタンによる防透け効果
カラースタンダード白板L値(LW)、黒板L値(LB)およびカラースタンダード白板上に静置した時の織物のL値(L)と黒板上に静置したときの織物のL値(L)を、色差計Σ80(日本電色工業(株)製)により測定する。そして、それらL値から、次の算式により、不透明性を求める。
不透明性=100−((L−L)/(LW−LB))×100
【0041】
数値が大きいほど、不透明性に優れているが、下記の通りランク付けした。
◎:90以上
○:80以上90未満
△:70以上80未満
×:70未満
【0042】
(b)PVPによる吸湿性効果
布帛約1gをガラス秤量瓶(風袋重量F)にいれ、乾燥機中110℃2時間の条件で乾燥する。瓶を密封し、デシケーター中で30分間放冷した後、試料の入った秤量瓶の総重量(K)を測定する。次に、20℃65%RHに設定された恒温恒湿槽((株)田葉井製作所製の恒温恒湿槽“レインボー”)に開放状態で入れ、24時間放置する。その後再び密封状態でデシケーター30分間放置後、試料の入った秤量瓶の重量(H)を測定する。引続き、30℃90%RHに設定された恒温恒湿槽に開放状態にした秤量瓶を入れ、24時間後の総重量(S)を同様に測定する。以上の各値から下記式により算出する。
最高吸湿率=[(S−K)/(K−F)]×100(%)
標準吸湿率=[(H−K)/(K−F)]×100(%)
△MR=最高吸湿率−標準吸湿率
【0043】
△MRが大きいほど吸湿性に優れ快適性が良好であることを示すが、下記の通りランク付けした。
◎:△MR4%以上
○:△MR3%以上4%未満
△:△MR2%以上3%未満
×:△MR2%未満
【0044】
E.着用評価
検査者(30人)の着用評価によって繊維製品の軽量感を次の基準で相対評価した。
◎:軽量感が非常によい
○:軽量感がややよい
△:軽量感があまりない
×:軽量感がない。
【0045】
(実施例1)
重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃)を芯部とし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを2.0重量%含有した硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン6(融点225℃)を鞘部として、それぞれ別々に溶融し、お互いの重量比が40/60となるように計量して紡糸口金に導き、ポリ乳酸が芯部、ナイロン6が鞘部となるように複合した後、24ヶの丸孔より溶融吐出した(紡糸温度260℃)。つづいて糸条を冷却風で冷却し、給油、交絡をおこなった後、非加熱ローラーで引き取り、170℃の加熱ローラーとの間で1.5倍に延伸して巻き取り速度4000m/分で巻き取りをおこない、78デシテックス24フィラメントの複合フィラメント糸を得た。上記複合フィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸に用いてタテ密度120本/インチ、ヨコ密度90本/インチのタフタ織物を製織した。製織したタフタ織物を50g/lの水酸化ナトリウム溶液中で浴比1:40、98℃、180分間処理をおこない、芯部の溶出処理をおこなった。つづいて酸性染料Xylene Fast Blue P 2%owfを用い、98℃にて45分間染色処理を施した後、170℃で仕上げセットして布帛を作成した。また、布帛を縫製してウインドブレーカーを作製した。布帛のCLO値、機能材料の効果、および布帛を構成する複合フィラメント糸を光学顕微鏡で観察し、芯部溶出性を測定した結果、ウインドブレーカーの着用評価、さらには複合フィラメント糸を製糸した際の紡糸糸切れについて表1に示した。
【0046】
(実施例2)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を20/80に変えた以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0047】
(実施例3)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を60/40に変えた以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0048】
(実施例4)
ナイロン6中の酸化チタン含有量を0.6重量%とした以外は、実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0049】
(実施例5)
ポリビニルピロリドン(PVP)として、イソプロピルアルコールを溶媒として通常の方法で合成されたPVP(BASF社製“ルビテック”K30スペシャルグレード:以下K30SPと略記する)を用いた。このPVPをエクストルーダー(φ40mm、2条、2軸)を用いて、酸化チタンを含有しない硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン6に練り込み、ガット状に押し出し、冷却後にペレタイズすることで、PVP濃度4.0重量%のマスタポリマチップを作製した。この際、ホッパー、シリンダーに窒素を流すことで、酸素濃度を8%以下とした。
【0050】
上記PVP4.0重量%マスタポリマチップを鞘部ポリマーとして用いる以外は、実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0051】
(実施例6)
PVP濃度を9.0重量%とした以外は、実施例5と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0052】
(実施例7)
ポリL乳酸ペレットに、酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)粉末を0.1重量%ブレンドし芯部ポリマーに用いた。また、酸化チタンを含まない硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン66(融点265℃)を鞘部ポリマーとして用いた。これらを紡糸温度285℃で紡糸する以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0053】
(実施例8)
イルガノックス1010の添加量を0.01重量%とした以外は実施例7と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0054】
(実施例9)
イルガノックス1010の添加量を1.0重量%とした以外は実施例7と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表1に併せて示した。
【0055】
(比較例1)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を10/90に変えた以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に示した。
【0056】
(比較例2)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を70/30に変えた以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0057】
(比較例3)
ナイロン6中の酸化チタン含有量を0.3重量%とした以外は、実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0058】
(比較例4)
PVP濃度を12.0重量%とした以外は、実施例5と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0059】
(比較例5)
イルガノックス1010の添加量を0.005重量%とした以外は実施例7と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0060】
(比較例6)
イルガノックス1010の添加量を1.5重量%とした以外は実施例7と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0061】
(比較例7)
芯部にオルトクロロフェノール極限粘度(IV):0.65のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸温度290℃で紡糸する以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0062】
(比較例8)
芯部に5−スルホキシイソフタル酸をテレフタル酸に対して0.5モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(IV:0.63)を用い、紡糸温度290℃で紡糸する以外は実施例1と同様にして布帛およびウインドブレーカーを得た。結果を表2に併せて示した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1,2の結果から明らかなように、本発明のポリアミド中空繊維布帛は、製糸性、後工程での芯部溶出性が良好であるために生産性に優れるとともに、布帛とした後でも中空つぶれが無く、軽量性、保温性に優れるとともに、機能性の発現に極めて顕著な効果を奏することが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がポリアミドであり、芯部と鞘部の複合割合が20/80〜60/40重量%であり、かつ鞘部を形成するポリアミドに機能材料が0.5〜10重量%含有されていることを特徴とする芯鞘複合フィラメント糸。
【請求項2】
芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がポリアミドであり、芯部と鞘部の複合割合が20/80〜60/40重量%であり、かつ芯部を形成するポリ乳酸に酸化防止剤が0.01〜1重量%含有されていることを特徴とする芯鞘複合フィラメント糸。
【請求項3】
請求項1または2記載の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛。
【請求項4】
請求項3記載の布帛を加熱アルカリ水溶液で処理し、芯鞘複合フィラメント糸の芯部を溶出することより得られる中空繊維布帛。
【請求項5】
請求項3記載の布帛を加熱アルカリ水溶液で処理し、芯鞘複合フィラメント糸の芯部を溶出することを特徴とする中空繊維布帛の製造方法。

【公開番号】特開2006−77353(P2006−77353A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262030(P2004−262030)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】