説明

芳香剤

【課題】全使用期間にわたって香料組成のバランスを保つとともに使用開始直後と同じレベルの香りを持続することが可能な芳香剤を提供する。
【解決手段】少なくとも香料と、吸水して膨潤する水溶性物質とを含有する成形体からなる芳香剤であって、前記成形体は水との接触によってその接触表面部が吸水して膨潤層を形成し、該膨潤層は水の接触量に応じて層表面から徐々に水中に溶出する構成とする。前記膨潤層の厚みは、レオメーターの針を成形体に一定速度で進入させたときに測定される荷重増加の変曲点あるいは屈曲点に基づき定められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内等、特に、給排水口が存在する洗面所、トイレ又は浴室等において、一定の香りを放出することが可能な芳香剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、安全性や取扱いの容易性の観点から水をキャリアーとする水性ゲル芳香剤が多用されている。このゲル状芳香剤は、通常、ゲル化剤、香料、界面活性剤、媒体としての水等の組成物からなり、加熱して均一に溶融させた後、冷却・固化して調製されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる水性ゲル芳香剤においては、水とともに香料がゲル表面にしみ出して揮散することで香りを発生させている。しかし、キャリアーとして使用している水は極めて揮散速度が速いため、芳香剤としての使用期間が短く、また、使用後期において水の揮散量が減少するとともに香料の揮散量も減少するため、一定の香りが保てないといった問題、低沸点の香料成分が優先的に揮散して香料組成のバランスがくずれやすいといった問題、あるいはゲルから水が分離しやすく著しく商品価値を低下せしめる等、種々の問題を有していた。
【0004】
そこで、本発明は、全使用期間にわたって香料組成のバランスを保つとともに使用開始直後と同じレベルの香りを持続することが可能な芳香剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る芳香剤は、少なくとも香料と、吸水して膨潤する水溶性物質とを含有する成形体からなるものであって、成形体は水との接触によってその接触表面部が吸水して膨潤層を形成し、膨潤層は水の接触量に応じて表面から徐々に水中に溶出し、前記膨潤層の厚みは、レオメーターの針を成形体に一定速度で進入させたときに測定される荷重増加の変曲点あるいは屈曲点に基づき定められることを特徴とするものである。
【0006】
すなわち、本発明者は、上記構成の成形体を使用すれば、当初は安定な固体形態でありながら、必要に応じて水に接触させることでゲル芳香剤のゲル相と同様の機能を有する膨潤層を形成し得ることを見出だして本発明を完成させるに至ったものである。
【0007】
上記成形体は、いったん水に接触させると、その後もしばらくの間は成形体内部に水が浸透していくために膨潤層の厚みは増加する。このようにして形成された膨潤層においては、キャリアーとともに香料が層の表面にしみ出して速やかに外部空気中に揮散し、一定レベルの香りを供給することが可能となる。
【0008】
形成された膨潤層は、もともとの成形体よりも強度が低くなっているため、その厚みは、レオメーターにより測定することが可能である。すなわち、本発明における膨潤層の厚みは、レオメーターとして、サン科学社製モデルCR−300を使用し、そのサンプル受台(幅10mm、深さ4mmの溝を有する)の溝に横方向に跨がるようにして試料となる成形体を設置し、次に針入弾性用アダプター(直径3mmの棒)を溝に架かった部分のサンプルの中央部に当て、続いてサンプル受台を一定速度(10mm/min)で押し上げて荷重変化を測定することにより算出した。
【0009】
具体的には、上記測定条件で測定した結果を、グラフ(横軸:時間、縦軸:荷重)上に表すと、先ず、レオメーターの針が成形体表面に形成された膨潤層に進入し、膨潤層を通過する間は、ほぼ一定勾配で荷重が上昇する。次いで、針が膨潤していない成形体表面に達すると、その時点で荷重が急激に増加する。したがって、グラフ上における荷重の増加割合の変曲点あるいは屈曲点を膨潤層の厚みと判断し、その点までに要した時間から膨潤層の厚みを算出する。
【0010】
上記測定によって得られた膨潤層の厚みは、最大厚みが0.35mm以上であるのが好ましく、さらには1mm以上であるのがより好ましい。最大厚みが0.35mmよりも薄くなると、短時間のうちに層中に含まれる香料が揮散するため一定期間、一定レベルの香りを保つのが困難になるからである。
【0011】
膨潤層に含まれる香料量が減少して香りが弱くなった場合は、再度、成形体を適量の水に接触させることにより、最初に形成された膨潤層は表面から徐々に水中に溶出・除去され、その分だけ成形体内部に水が浸透して新たな膨潤層が形成されることになり、香料組成のバランスをくずすことなく、また、初期のレベルの香りを保つことができる。
【0012】
従って、本発明においては、従来のゲル芳香剤と同様の放香機能を発揮し得るものの、最初からゲル形態を採る必要がないため、運搬・保管時におけるゲルの離水の問題が発生せず、しかも全使用期間において一定レベルの香りを供給可能な従来にない画期的な芳香剤を提供することが可能となる。
【0013】
ここで、水溶性物質とは、水に溶解する性質を有する物質を意味し、本発明においては従来より知られている種々のものを使用することができるが、膨潤層を形成するためには、少なくともその一部に、吸水して膨潤する性質を有する水溶性物質を使用することが必要とされる。このような性質を有するものとしては、例えば、カラギーナン、澱粉、カゼイン、ゼラチン、アラビアゴム、ペクチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ビスコースなどの水溶性高分子や各種の界面活性剤等が挙げられる。
【0014】
また、使用する水溶性物質のうち、少なくとも一部が非イオン系界面活性剤及び/又は陰イオン性界面活性剤であるような構成の芳香剤を採用すれば、多量の香料を均一な状態で成形体中に混合することが可能となり、保存安定性に優れた芳香剤を得ることができる。
【0015】
本発明において使用される非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン付加型非イオン系界面活性剤、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシアルキレンブロックポリマーなど;多価アルコールの脂肪酸エステル型非イオン系界面活性剤、例えば、グリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル;多価アルコールアルキルエーテル;アルカノールアミン類の脂肪酸アミド;ポリオキシアルキレングリコールなどが使用できるが、これらに限るものではない。
【0016】
これらのうち、ポリオキシアルキレンブロックポリマー、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド及びこれらの混合物よりなる群から選択される非イオン系界面活性剤が好ましく、特に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリコール(分子量200〜20000)、炭素数7〜22のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、炭素数7〜22のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、炭素数7〜22のポリオキシエチレンアルキルエーテル、炭素数7〜22の脂肪酸モノ又はジエタノールアミド及びこれらの混合物よりなる群から選択されるものが好ましい。なお、本発明でいう非イオン系界面活性剤には、ポリオキシエチレングリコールのような非イオン系界面活性剤能を有する親水性物質までも含むものである。
【0017】
本発明において使用される陰イオン性界面活性剤としては、スルホネート系、サルフェート系、エーテルサルフェート系、ホスフェート系、スルホサクシネート系、エーテルカルボネート系及びタウレート系陰イオン性界面活性剤よりなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。この陰イオン性界面活性剤は、好ましくは、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩及びこれらの混合物よりなる群から選択され、特に好ましくは炭素数7〜22のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数7〜22のアルカンスルホン酸塩、炭素数7〜22のアルキル硫酸エステル塩、炭素数7〜22のα−オレフィンスルホン酸塩及びこれらの混合物よりなる群から選択されるものである。
【0018】
保形性の向上あるいは水溶性物質の水中へのスムーズな溶出を図ることを目的として、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、デンプン等の水溶性高分子を添加することができる。また、水溶性高分子に限らず、例えば、モンモリロナイト、カオリン、水和シリカ、ケイ酸アルミニウムマグネシウムあるいはヘクトライトなどの膨潤性を有する保形性に優れた不溶性の無機物質を添加することも可能である。不溶性の無機物質を添加する場合は、それ自身は水に溶解することはないが微粉末状のものを使用すれば、膨潤層の溶出の妨げとなることはない。
【0019】
上記界面活性剤は、成形体総重量に対して70〜80重量%含まれることが、成形体の保形性、水に対する溶解性及び膨潤性、成形性などの点から望ましい。非イオン系界面活性剤は、成形体総重量に対して5〜80%含まれるのが好ましく、この量を下回る場合、特に成形体の保形性が低下する。また、上記陰イオン性界面活性剤は、成形体総重量に対して5〜80重量%含まれることが得られる成形体の保形性、溶解性などの点から好ましい。本発明の成形体組成物中に配合される香料は、液体、固体にかかわらず特に限定されることなく使用することができ、成形体総重量に対して5〜20重量%含まれるのが好ましい。香料が少なすぎると、発せられる香りが微弱にすぎるため芳香剤としての有用性に欠け、また、香料が多すぎると成形体の保形性が低下するという不都合が生じる。
【0020】
成形体組成物としては、上記香料及び水溶性物質のほかに、色素、消臭剤、消泡剤、防腐剤あるいは滑沢剤等、香料の揮散を妨げるものでなければ、特に制限なく使用することができる。
【0021】
成形体の製造方法としては、溶融、押出し、打錠及びプレス成形などが挙げられる。どの製造方法を選択するかは、配合成分の形態や香料、無機塩の配合量等を考慮して適宜決定すればよい。
【0022】
以上説明したところの芳香剤の使用方法としては、成形体を水に接触させたのち、そのまま室内に設置し、香りが弱くなるごとに水に接触させる方法、水の入った容器に成形体を上下動可能に設置し、香りが弱くなれば容器内に成形体を水没・揺動させ、その後水面上に引上げる方法、或いは成形体の上方及び/又は下方から散水する方法等を採用することができる。
【0023】
なお、本発明において成形体を膨潤させるために接触させる水としては、成形体の膨潤及び香料の揮散を妨げない限りにおいて、上記装置のように一度使用した水(成形体組成物その他の物質が溶解した状態のもの)を使用することも可能である。
【0024】
さらに、台所、浴室、洗面所あるいはトイレ等の給排水口に芳香剤を設置し、水を使用する度に芳香剤に水が接触するようにしておけば、常時、一定レベルの香りを維持できる優れた芳香剤を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から明らかなように、本発明によると、芳香剤として、水との接触により膨潤層を形成し、さらに膨潤層が水との接触量に応じて徐々に水中に溶出する成形体を使用することにより、全使用期間にわたって香料組成のバランスを保つとともに使用開始直後と同じレベルの香りを持続することが可能な芳香剤を提供することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明に係る芳香剤を実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1、2]表1に示す処方で芳香剤として使用する成形体を調製した。具体的には、所定量のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー及びポリオキシエチレンアルキルエーテルを100〜160℃に加熱して溶解し、その後、60〜80℃で保温しつつ、香料、色素(実施例2のみ)を加えて均一に分散するように混合した。その後、型に流し込み、0〜30℃付近で冷却し、下面直径34mm、上面直径30mm、高さ30mmの円錐状の成形体を得た。
【0028】
[比較例]表1に示す処方で比較例となるゲル状成形体を調製した。具体的には、先ず、イオン交換水に所定量のカラギーナンを加えて撹拌し、均一に分散した時点で一旦90℃まで加熱して70℃まで冷却する。そこへ予め混合しておいたポリオキシエチレンアルキルエーテルと香料とを添加して、さらに十分混合した後に型に流し込み、0〜30℃付近で冷却し、下面直径34mm、上面直径30mm、高さ30mmの円錐状のゲル状成形体を得た。
【0029】
[評価試験]上記実施例1、2及び比較例にて調製した成形体に一定時間ごとに注水することによって試験を実施した。すなわち、実施例1、2及び比較例で調製した各成形体を室内に静置(室温24〜26℃)し、その上部から、25℃、4リットルの水を60秒かけて注ぎ、これを1時間間隔で行い、試験開始から5日目、10日目、20日目のそれぞれの時点における香り強度及び減量を測定することにより、性能を評価した。
【0030】
また、試験開始からしばらくして膨潤層の厚みがほぼ一定になったと思われる時点(5回目の注水実施後)で、レオメーターによる膨潤層の厚み測定を実施した。
【0031】
[膨潤層の厚み測定について]膨潤層の厚みの測定については、前述の測定条件に従って実施した。測定結果のグラフを図1に、そこから得られた膨潤層の厚みを表2にそれぞれ示す。ここで、膨潤層の厚みの算出方法を実施例1を例にして説明すると、図1より、荷重の増加の変曲点は15秒で、サンプル受台は10mm/minの速度で上昇することから、膨潤層の厚みは以下の式より求められる。
(10×15)/60=2.5(mm)
同様にして、実施例2では膨潤層の厚みは2mmとなる。なお、比較例で調製した試料は、架橋型ゲルであるため、注水してもさらなる膨潤層は形成されず、変曲点は見られない。このような架橋型ゲルにおいては、レオメーターの針がある程度進入すると、図1に示すように、構造的に破壊されて急激に荷重低下した後、一定の荷重を示す。
【0032】
[香り強度測定について]香り強度の測定に際しては、各試料をそれぞれ官能専用ボックス(容積:100リットル)に入れて20分間静置させた後、ボックスに設けた開閉窓から内部の香りを熟練した官能試験者5名に嗅いでもらい、下記に示す6段階評価により採点を依頼した。香り強度の測定結果と減量測定結果を合わせて表3に示す。
(香りの評価基準)
5…強い4…やや強い3…普通(ちょうど良い)
2…弱い1…やや弱い0…香りがしない
[評価結果]表3の結果より、成形体表面に十分な厚みの膨潤層が形成された実施例1及び2については試料が存在する間は、ほぼ一定の香り強度を維持しているのに対して、比較例においては、試験開始直後は十分な香り強度を示しているが、時間経過とともに急激に香り強度が低下しているのが判る。これは、実施例1、2ともに、注水によって前の膨潤層が溶出して新たな膨潤層が形成され、香料がスムーズに揮散するためと推察される。
【0033】
また、実施例2では、実施例1よりも香り強度がやや低い評価3で維持され、早く減量が進行しているが、これは色素を配合した影響と思われ、色素の配合により香り強度と使用期間が調整可能であることが判る。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1、2及び比較例における膨潤層の厚み測定の結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも香料と、吸水して膨潤する水溶性物質とを含有する成形体からなる芳香剤であって、前記成形体は水との接触によってその接触表面部が吸水して膨潤層を形成し、該膨潤層は水の接触量に応じて層表面から徐々に水中に溶出し、前記膨潤層の厚みは、レオメーターの針を成形体に一定速度で進入させたときに測定される荷重増加の変曲点あるいは屈曲点に基づき定められる芳香剤。
【請求項2】
前記膨潤層の最大厚みが0.35mm以上であることを特徴とする請求項1記載の芳香剤。
【請求項3】
前記水溶性物質のうち、少なくとも一部が非イオン系界面活性剤及び/又は陰イオン性界面活性剤である請求項1又は2記載の芳香剤。
【請求項4】
前記非イオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、分子量200〜20000のポリオキシエチレングリコール、炭素数7〜22のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、炭素数7〜22のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、炭素数7〜22のポリオキシエチレンアルキルエーテル、炭素数7〜22の脂肪酸モノ又はジエタノールアミド及びこれらの混合物よりなる群から選択される請求項3記載の芳香剤。
【請求項5】
前記陰イオン性界面活性剤が、炭素数7〜22のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数7〜22のアルカンスルホン酸塩、炭素数7〜22のアルキル硫酸エステル塩、炭素数7〜22のα−オレフィンスルホン酸塩及びこれらの混合物よりなる群から選択される請求項3又は4記載の芳香剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−116306(P2006−116306A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301618(P2005−301618)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【分割の表示】特願2000−99802(P2000−99802)の分割
【原出願日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】