説明

芳香族アミン変性物、レドックス触媒、燃料電池用電極触媒および燃料電池

【課題】安定性に優れた触媒として用いることが可能な芳香族アミン変性物の提供。
【解決手段】式(1)で表される芳香族アミン化合物の重合体及び金属成分を含有する組成物に、加熱、放射線照射及び放電よりなる群から選ばれる処理を施して得られる芳香族アミン変性物であって、前記重合体は、前記化合物のある分子における芳香環と結合するアミノ基を形成する窒素原子と、前記化合物の他の分子における芳香環を形成する炭素原子とを、分子間で結合させることにより得られた重合体である前記芳香族アミン変性物。[化1]


(式中Arは、置換基を有する単環式芳香族炭化水素環、置換基を有してもよい単環式芳香族複素環、又は置換基を有してもよい多環式芳香環を表し;Rは、水素原子、ハロゲノ基等であり;芳香環を形成する少なくとも1つの炭素原子は、水素原子又はハロゲノ基を有し;nは1以上の整数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アミン変性物、レドックス触媒、燃料電池用電極触媒及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、実用化に向けて開発が進められている固体高分子形燃料電池や直接メタノール型燃料電池においては、電極近傍に白金又は白金合金を用いた触媒(以下、「白金触媒」と言う。)が用いられている。この白金触媒は、電極(カソード電極及びアノード電極)における水素と酸素との反応を促進する役割を担っている。
【0003】
しかし、白金触媒は、白金のコストが高い、埋蔵量が限られているため将来的に資源が枯渇する可能性があるという課題がある。また白金触媒は、一酸化炭素により容易に被毒し活性を失ってしまう。これらのことから、近年では、白金に代替可能であり、なおかつ高い安定性を有する触媒材料が求められている。
【0004】
例えば、遷移金属であるコバルトを含むコバルトポルフィリンの加熱による変性物を上記触媒として用いることが提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tatsuhiro Okada,et.al.J.Electrochem.Soc.,Vol.145,815−822(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、非特許文献1に記載された変性物では、安定性が不十分であり、その結果、それを用いた燃料電池は、長期間に渡り安定に発電することが困難であった。即ち、上記非特許文献1に記載された変性物を用いて形成した触媒は、電極触媒として使用した場合に触媒活性が低下しやすく、そのため、満足する信頼性を有する燃料電池を形成することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、安定性に優れた触媒として用いることが可能な芳香族アミン変性物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、
式(1)で表される芳香族アミン化合物の重合体及び金属成分を含有する組成物に、
加熱、放射線照射及び放電よりなる群から選ばれる処理を施して得られる芳香族アミン変性物であって、
前記重合体は、前記化合物のある分子における芳香環と結合するアミノ基を形成する窒素原子と、前記化合物の他の分子における芳香環を形成する炭素原子とを、
分子間で結合させることにより得られた重合体である前記芳香族アミン変性物
を提供する。
【化1】

(式中、Arは、置換基を有する単環式芳香族炭化水素環、置換基を有してもよい単環式芳香族複素環、又は置換基を有してもよい多環式芳香環を表し;置換基を2つ以上有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよく;芳香環を形成する少なくとも1つの炭素原子は、水素原子又はハロゲノ基を有し;Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり;nは1以上の整数であり、nが2以上の場合、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。)
【0009】
本発明においては、前記nが、1又は2であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記Arが、前記置換基を有してもよい多環式芳香環であることが好ましい。中でも、前記多環式芳香環が、ナフタレンであることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記金属成分が、コバルト及び鉄のいずれか一方、又は両方を含むことが好ましい。
【0012】
本発明において、前記芳香族アミン化合物を、酸化重合により重合させることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記処理が、250℃〜1100℃の加熱であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上述の芳香族アミン変性物を用いるレドックス触媒を提供する。
【0015】
また、本発明は、上述の芳香族アミン変性物を用いる燃料電池用電極触媒を提供する。
【0016】
また、本発明は、上述の芳香族アミン変性物を用いる燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安定性に優れた触媒として用いることが可能な芳香族アミン変性物を提供することができる。本発明の芳香族アミン変性物は、安定した触媒能(酸素還元能)を有し、特に燃料電池用電極触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な一実施態様の燃料電池のセルについての縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明の芳香族アミン変性物は、
式(1)で表される芳香族アミン化合物の重合体及び金属成分を含有する組成物に、
加熱、放射線照射及び放電よりなる群から選ばれる処理を施して得られる芳香族アミン変性物であって、
前記重合体は、前記化合物のある分子における芳香環と結合するアミノ基を形成する窒素原子と、前記化合物の他の分子における芳香環を形成する炭素原子とを、
分子間で結合させることにより得られた重合体である前記芳香族アミン変性物である。
【0021】
【化2】

(式中、Arは、置換基を有する単環式芳香族炭化水素環、置換基を有してもよい単環式芳香族複素環、又は置換基を有してもよい多環式芳香環を表し;置換基を2つ以上有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよく;芳香環を形成する少なくとも1つの炭素原子は、水素原子又はハロゲノ基を有し;Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり;nは1以上の整数であり、nが2以上の場合、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。)
【0022】
[芳香族アミン化合物]
まず、本発明で用いる芳香族アミン化合物について説明する。芳香族アミン化合物は、上述の式(1)で表され、後述する重合体の原料として用いるものである。
【0023】
nの値として好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜3であり、更に好ましくは1又は2であり、特に好ましくは2である。
【0024】
芳香族アミン化合物が有する一級又は二級のアミノ基は、後述する重合反応において、芳香環が有する炭素原子と分子間結合を生じる反応点として作用する。したがって、nの値が2以上である場合には、後述の重合反応において生成する重合体が架橋構造を有するものとなり、含有させる金属成分を保持しやすくなる。
【0025】
上記ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。このようなハロゲノ基は、後述する重合反応において、アミノ基が有する窒素原子と分子間結合を生じる反応点として用いることもできる。
【0026】
上記ヒドロキシ基は、後述する重合反応で得られる重合体を、架橋された重合体とするための架橋点として用いることができる。
【0027】
上記炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基が挙げられる。
【0028】
上記直鎖又は分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基が挙げられる。
【0029】
上記環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基が挙げられる。
【0030】
上記アルケニル基としては、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基において、いずれか一つの炭素原子間の単結合(C−C)が、二重結合(C=C)に置換されたものが例示でき、二重結合の位置は限定されない。
このようなアルケニル基の好ましいものとしては、例えば、エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基が挙げられる。
【0031】
上記アルキニル基としては、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基において、いずれか一つの炭素原子間の単結合(C−C)が、三重結合(C≡C)に置換されたものが例示でき、三重結合の位置は限定されない。
このようなアルキニル基の好ましいものとしては、例えば、エチニル基が挙げられる。
【0032】
前記アルコキシ基としては、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基あるいは前記環状のアルキル基が酸素原子に結合した1価の基が例示できる。
【0033】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基が挙げられる。
【0034】
上記1価の複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基が挙げられる。
【0035】
上記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニル−1−プロピル基が挙げられる。
【0036】
本明細書において、芳香環に結合する置換基は、特記しない限り、上述した基を示す。
【0037】
式(1)中のArは、置換基を有する単環式芳香族炭化水素環、置換基を有してもよい単環式芳香族複素環、又は置換基を有してもよい多環式芳香環を表す。
【0038】
前記置換基を有する単環式芳香族炭化水素環としては、前記置換基を有するベンゼンが例示される。
【0039】
前記置換基を有してもよい単環式芳香族複素環としては、ピロール、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアゾール、及び、これらにおける水素原子の一部又は全部が前記置換基で置換された化合物が例示される。
【0040】
前記置換基を有してもよい多環式芳香環としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ベンゾピレン、ペリレン、クリセン、ペンタセン、ピセン、コロネン、コランヌレン、トリフェニレン、オバレン、キノリン、イソキノリン、キノリジン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、1,8−ナフチリジン、アクリジン、アントラキノンが例示される。前記多環式芳香環は、置換基を有してもよい。前記多環式芳香環として、より好ましくは置換基を有してもよいナフタレン、置換基を有してもよいアントラセンであり、特に好ましくは、置換基を有してもよいナフタレンである。
【0041】
式(1)で表される芳香族アミン化合物としては、以下の構造式で表される芳香族アミン化合物が例示される。これらの環上の水素原子は、前記置換基で置換されていてもよい。
【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
本発明の芳香族アミン変性物をレドックス触媒として用いる場合、酸素還元能は、変性物に含まれる窒素原子の量が多いほど高くなることが期待される。そのため、アミノ基を複数有する芳香族アミン化合物や、環内に窒素原子を有する複素環を有する芳香族アミン化合物を、重合体の原料として用いることが好ましい。
【0049】
また、後述する重合体が架橋構造を有していると、重合体の分子鎖の運動が規制されるため、後述するように重合体に金属成分を含有させた場合に、重合体が有する窒素原子の位置が金属成分の近傍に固定されやすくなる。そのため、変性物を形成した場合に金属成分の近傍に窒素原子が配置されやすく、触媒活性が高くなることが期待される。この観点から、原料として用いる芳香族アミン化合物は、架橋構造が可能な反応点を複数有する構造であることが好ましい。具体的には、アミノ基を複数(nが2以上)有する芳香族アミン化合物や、架橋点としてのヒドロキシ基を有する芳香族アミン化合物を、重合体の原料として用いることが好ましい。
【0050】
[重合体]
次に、本発明で用いる重合体の重合方法について説明する。本発明に用いる重合体は、上述の式(1)で表される芳香族アミン化合物を出発原料として、酸化重合や、パラジウム触媒等の金属触媒を用いたC−Nカップリングによる重合反応によって得ることができる。このとき、1種類の芳香族アミン化合物を用いてもよいし、複数種の芳香族アミン化合物を用いてもよい。
【0051】
まず、酸化重合について説明する。酸化重合としては、化学酸化重合、電解酸化重合等の方法を用いることができる。
化学酸化重合に用いる酸化剤としては、第2鉄塩、過硫酸塩、過酸化水素、オゾン、臭素、ヨウ素、重クロム酸塩、硫酸セリウム(IV)アンモニウム、二酸化マンガン等が挙げられる。
第2鉄塩としては、過塩素酸第2鉄、過ヨウ素酸第2鉄、ホウフッ化第2鉄、ヘキサフルオロリン酸第2鉄、硫酸第2鉄、硝酸第2鉄、塩化第2鉄、p−トルエンスルホン酸第2鉄が例示できる。
過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが例示できる。
重クロム酸塩としては、重クロム酸カリウム、重クロム酸ナトリウムが例示できる。
これらの酸化剤の中では、塩化第2鉄、過塩素酸第2鉄、過塩素酸第2鉄、ホウフッ化第2鉄、ヘキサフルオロリン酸第2鉄、過硫酸アンモニウム、過酸化水素が好ましい。
【0052】
用いる酸化剤の量は、式(1)で表される芳香族アミン化合物に対して、モル数で、0.1倍〜5倍が好ましく、0.1倍〜2倍がより好ましく、0.5倍〜2倍が特に好ましい。
【0053】
電解酸化重合を用いる場合には、式(1)で表される芳香族アミン化合物を含む溶液中に作用極及び対極となる一対の電極板を浸漬し、両極間に該化合物の酸化電位以上の電圧を印加するか、又は該化合物が重合するのに充分な電圧が確保できるような条件の電流を通電すればよい。例えば、定電流法、定電位法、定電圧法、電位走査法、電位ステップ法が挙げられるが、通電電気量を制御するためには、定電流法、定電位法が好ましい。定電位法を用いる場合、その電圧は、標準水素電極電位(NHE)に対して、0.5〜10Vが好ましく、0.6〜5.0Vがより好ましく、0.7〜2.0Vが特に好ましい。この電解酸化重合には、作用極及び対極としてステンレススチール、白金、カーボン、ITO等の良導電性物質からなる板、多孔質材等を用いることができる。
【0054】
前記電界酸化重合を用いる場合、電解溶液中の式(1)で表される芳香族アミン化合物の濃度は、制限されないが、0.01mol/L〜3mol/Lが好ましく、0.02mol/L〜2mol/Lがより好ましく、0.05mol/L〜1mol/Lが特に好ましい。また、電解溶液には、支持電解質として可溶性塩等を添加してもよい。
【0055】
前記可溶性塩としては、アルカリ金属のハロゲン化物及び硝酸塩、テトラアルキルアンモニウムのハロゲン化物、テトラアルキルアンモニウム過塩素酸塩、アルキルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、テトラアルキルアンモニウムヘキサフロオロリン酸塩が例示される。
【0056】
次に、金属触媒を用いたC−Nカップリングによる重合方法について説明する。
金属触媒としては、パラジウム触媒を用いることができ、該触媒を用いたC−Nカップリングによる重合方法としては、例えば、Macromol. Rapid Commun. 2009, 30, 997-1001に記載されている方法を用いることができる。具体的には、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)及び下記式:
【0057】
【化9】

(式中、Phはフェニル基、Cyはシクロヘキシル基、t−Buはtert−ブチル基を表す。)
で表される配位子を触媒として、下記式:
【0058】
【化10】

(式中、t−Buはtert−ブチル基を表し、nは繰り返し単位数を表す。)
に示すように、t−BuONa等の塩基存在下におけるアミノ基とハロゲノ基を有する芳香族化合物のアミノ化反応により、分子間でC−N結合を形成させることで、目的とする重合体を得ることができる。
【0059】
上述の酸化重合又はC−Nカップリングによる重合に用いる溶媒としては、水、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、酢酸、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン等が挙げられるが、式(1)で表される芳香族アミン化合物が溶解し得る溶媒が好ましい。これらの溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0060】
本発明における重合において、反応温度は、通常、−50℃〜200℃であり、好ましくは−50℃〜100℃であり、より好ましくは−20℃〜100℃であり、特に好ましくは−20℃〜50℃である。反応時間は、通常、1分〜1週間であり、好ましくは5分〜24時間であり、特に好ましくは1時間〜12時間である。なお、反応温度及び反応時間は、式(1)で表される芳香族アミン化合物及び重合方法の種類によって設定する。
【0061】
本発明における重合により得られる重合体の分子量は、制限されないが、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、通常、1×10〜1×10であり、好ましくは2×10〜1×10であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常、2×10〜1×10であり、好ましくは3×10〜2×10である。数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた分析等の通常知られた方法により測定することができる。
【0062】
[金属成分]
次に、本発明で用いる組成物の調製方法について説明する。組成物は、上記重合体に金属成分を含有させることで得られる。
本発明の金属成分としては、元素の周期表の第4周期〜第6周期に属する金属が好ましい。周期表の第4周期〜第6周期に属する金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、好ましくは、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステンであり、より好ましくは、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅であり、特に好ましくは、鉄、コバルトである。
【0063】
前記金属成分は、無電荷の金属原子であっても、荷電している金属イオンであってもよい。金属イオンとして用いる場合、前記金属として例示した金属の酢酸塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩等を用いることが好ましい。
【0064】
金属成分として、前記金属が一種のみ含まれていても二種以上含まれていてもよい。
【0065】
組成物における金属成分の含有量の下限は、好ましくは0.1質量%であり、より好ましくは0.2質量%であり、更に好ましくは0.5質量%である。同様に、組成物における金属成分含有量の上限は、好ましくは50質量%であり、より好ましくは40質量%であり、更に好ましくは30質量%である。
【0066】
金属成分を導入する方法は、前記金属塩を添加する方法、スパッタ法等を用いることができる。金属塩を添加する場合、式(1)で表される芳香族アミン化合物を重合させた後、金属塩を添加してもよいし、又は、前記金属塩を酸化剤として用いて、酸化重合による重合体生成時に添加してもよい。
【0067】
例えば、金属成分として鉄及びコバルトを用いる場合、式(1)で表される芳香族アミン化合物を重合させた重合体に、塩化鉄(FeCl)や硫酸コバルト(CoSO)を添加することにより金属成分を導入する。
【0068】
重合体が架橋構造を有する場合には、重合反応により得られる重合体と金属成分とを効率良く混合することができるので、重合時において重合系内に金属成分を存在させておき、金属成分を内包した状態で重合体を得ることが好ましい。
【0069】
本発明における重合は、導電性担体の存在下で行ってもよい。
【0070】
前記導電性担体としては、限定されないが、例えば、ノーリット(NORIT社製)、ケッチェンブラック(Lion社製)、バルカン(Cabot社製)、ブラックパール(Cabot社製)、アセチレンブラック(Chevron社製)(いずれも商品名)等のカーボンブラック、黒鉛をはじめ、C60やC70等のフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボン繊維等の炭素材料、及び導電性高分子が挙げられる。また、これらの2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
導電性高分子とは、金属的又は半金属的な導電性を示す高分子物質の総称である。導電性高分子としては、「導電性ポリマー」(吉村進一著、共立出版)、「導電性高分子の最新応用技術」(小林征男監修、シーエムシー出版)に記載されている、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリパラフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリカルバゾール及びその誘導体、ポリインドール及びその誘導体、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリ−p−フェニレンスルフィド及びその誘導体、並びに前記導電性高分子に対応する単量体(モノマー)の共重合体等が挙げられる。共重合体は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0072】
処理前における導電性担体の量として、好ましくは10質量%〜90質量%であり、より好ましくは20質量%〜80質量%であり、特に好ましくは30質量%〜70質量%である。
【0073】
また、組成物における重合体の含有量の下限は、好ましくは10質量%であり、より好ましくは20質量%であり、更に好ましくは30質量%である。組成物における重合体の含有量の上限は、好ましくは80質量%であり、より好ましくは70質量%であり、更に好ましくは60質量%である。
【0074】
即ち、組成物において金属成分を除く成分(重合体及び導電性担体)の含有量の下限は、好ましくは50質量%であり、より好ましくは60質量%であり、更に好ましくは70質量%である。組成物において金属成分を除く成分の含有量の上限は、好ましくは99.9質量%であり、より好ましくは99.8質量%であり、更に好ましくは99.5質量%である。
【0075】
また、本発明における重合は、置換されてもよいチオフェン、ピロール、フラン、セレノフェン共存下で行ってもよい。置換基としては、前記置換基が例示される。
【0076】
[変性処理]
次に、本発明に用いる変性処理について説明する。本発明において変性処理とは、加熱、放射線照射又は放電のいずれかの方法により、上記重合体に金属成分を含有させた組成物を処理することを意味する。ここで、変性処理は、処理前後の質量減少率が1質量%〜90質量%であり、かつ、処理後の炭素含有率が5質量%以上となるまで行うことが好ましい。
【0077】
変性処理を行う際には、前処理として、15℃〜200℃、0.13MPa以下において、前記組成物を6時間以上乾燥させることが好ましい。前処理には、真空乾燥機等を用いることができる。この前処理を行っておくことで、変性処理による質量減少であるか、溶媒除去による質量減少であるかの判断が一層容易となり、より適切な変性処理を行うことが可能となる。
【0078】
変性処理は、例えば、水素、ヘリウム、窒素、アンモニア、酸素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、アセトニトリル、一酸化炭素、二酸化炭素、水(水蒸気)又はこれらの混合ガスの雰囲気下で行うことができる。
【0079】
変性処理が加熱である場合、加熱温度の下限は、通常、250℃であり、好ましくは300℃であり、より好ましくは400℃であり、特に好ましくは500℃である。また、加熱温度の上限は、通常、1600℃であり、好ましくは1400℃であり、より好ましくは1200℃であり、特に好ましくは1100℃である。
【0080】
変性処理が加熱である場合、加熱は、水素、一酸化炭素等の還元雰囲気下;酸素、二酸化炭素、水蒸気等の酸化雰囲気;窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の不活性ガス雰囲気;アンモニア、アセトニトリル等の含窒素化合物のガス又は蒸気下;、又はこれらの混合ガスの存在下であることが好ましく、水素、又は、水素と前記不活性ガスとの混合雰囲気下;、酸素、又は、酸素と前記不活性ガスとの混合雰囲気下;窒素、ネオン、アルゴン、又は、これらのガスの混合雰囲気下であることがより好ましい。
【0081】
変性処理が加熱である場合、加熱に係る圧力は、0.5気圧〜1.5気圧の常圧付近が好ましい。
【0082】
変性処理が加熱である場合、変性処理は、例えば、ガスを密閉した状態又はガスを通気させた状態において、室温から徐々に温度を上昇させ目的温度に到達した後、すぐに降温させることにより行ってもよいが、耐久性をより向上させることができるので、目的温度に到達した後、温度を維持することにより行うことが好ましい。目的とする温度到達後に温度を維持する時間は、好ましくは1時間〜100時間であり、より好ましくは1時間〜40時間であり、更に好ましくは1時間〜10時間であり、特に好ましくは1時間〜5時間である。
【0083】
変性処理が加熱である場合、加熱を行う装置には、管状炉、オーブン、ファーネス、IHホットプレート等を用いることができる。
【0084】
変性処理が放射線照射である場合、変性処理を行う組成物に、α線、β線、中性子線、電子線、γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、電波、レーザー等の電磁波又は粒子線を照射するが、X線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、レーザーを照射することが好ましく、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、レーザーを照射することがより好ましい。
【0085】
変性処理が放電である場合、変性処理を行う組成物に、通常、コロナ放電若しくはグロー放電、又は、プラズマ処理(低温プラズマ処理を含む)を行うが、低温プラズマ処理を行うことが好ましい。
【0086】
前記の放射線照射、放電の方法は、通常、高分子フィルムの表面改質処理に用いられる機器、処理方法に準じて行うことができ、例えば、文献(日本接着学会編、「表面解析・改質の化学」、日刊工業新聞社、2003年12月19日発行)に記載されているものを用いることができる。
【0087】
前記放射線照射又は放電の処理を行う際の処理時間は、限定されないが、好ましくは10時間以内であり、より好ましくは3時間以内であり、更に好ましくは1時間以内であり、特に好ましくは30分以内である。
【0088】
重合体に金属成分を含有させた組成物に前記変性処理を施すことにより、本発明の芳香族アミン変性物を得ることができる。
【0089】
[レドックス触媒]
本発明の芳香族アミン変性物をレドックス触媒として用いる場合、酸素還元触媒、水素酸化触媒、燃料電池用電極触媒、過酸化水素の分解触媒、芳香族化合物の酸化重合触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサー等が挙げられる。特に、燃料電池用電極触媒、酸素還元触媒として用いることが好ましい。
【0090】
本発明の芳香族アミン変性物を、燃料電池用電極触媒として用いる場合、カソード用電極触媒及び/又はアノード用電極触媒として用いることができるが、カソード極用電極触媒として用いることが好ましい。
【0091】
[燃料電池]
次に、本発明の芳香族アミン変性物を備えた燃料電池の好ましい一実施態様について、添付の図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の好適な一実施態様の燃料電池のセルについての縦断面図である。図1では、燃料電池10は、電解質膜12(プロトン伝導膜)と、これを挟む一対の触媒層14a,14bとから構成された膜−電極接合体20を備えている。燃料電池10は、膜−電極接合体20の両側に、これを挟むようにガス拡散層16a,16b及びセパレータ18a,18b(セパレータ18a,18bは、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝(図示せず)が形成されていると好ましい)を順に備えている。なお、電解質膜12、触媒層14a,14b及びガス拡散層16a,16bとからなる構造体は、一般的に、膜−電極−ガス拡散層接合体(MEGA)と呼ばれることがある。
【0092】
触媒層14a、14bは、燃料電池における電極層として機能する層であり、これらの一方がアノード電極層となり、他方がカソード電極層となる。かかる触媒層14a、14bには、電極触媒とナフィオン(登録商標)に代表されるプロトン伝導性を有する電解質とを含む。
【0093】
前記電解質膜(プロトン伝導膜)としては、例えば、Nafion NRE211、Nafion NRE212、Nafion112、Nafion1135、Nafion115、Nafion117(いずれもデュポン社製)、フレミオン(旭硝子社製)、アシプレックス(旭化成社製)(いずれも商品名、登録商標)を用いることができる。
【0094】
ガス拡散層16a,16bは、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進する機能を有する層である。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されることが好ましい。前記多孔質材料としては、多孔質性のカーボン不織布、カーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるために好ましい。
【0095】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されている。前記電子伝導性を有する材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレスが挙げられる。
【0096】
次いで、燃料電池10の好適な製造方法を説明する。
まず、電解質を含む溶液と電極触媒とを混合してスラリーを形成させる。これを、カーボン不織布やカーボンペーパーの上にスプレーやスクリーン印刷法により塗布し、溶媒等を蒸発させることで、ガス拡散層16a,16b上に触媒層14a,14bが形成された積層体を得る。得られた一対の積層体をそれぞれの触媒層が対向するように配置するとともに、その間に電解質膜12を配置し、これらを圧着することにより、MEGAが得られる。このMEGAを、一対のセパレータ18a,18bで挟み込み、これらを接合させることで、燃料電池10が得られる。この燃料電池10は、ガスシール等で封止することもできる。
なお、ガス拡散層16a,16b上への触媒層14a,14bの形成は、例えば、ポリイミド、ポリ(テトラフルオロエチレン)等の基材の上に、前記スラリーを塗布し、乾燥させて触媒層を形成させた後、これをガス拡散層に熱プレスで転写することにより行うこともできる。
【0097】
また、燃料電池10は、固体高分子形燃料電池の最小単位であるが、単一の燃料電池10(セル)の出力は限られている。そこで、必要な出力が得られるように複数の燃料電池10を直列に接続して、燃料電池スタックとして使用することが好ましい。
【0098】
本発明の燃料電池は、燃料が水素である場合は固体高分子形燃料電池として、また、燃料がメタノールである場合は直接メタノール型燃料電池として動作させることができる。
【0099】
本発明の電極触媒は、燃料電池用電極触媒、空気電池用電極触媒、電解用触媒、として用いることができるが、燃料電池用電極触媒として用いることが好ましい。本発明の電極触媒を用いた燃料電池は、例えば、自動車用電源、家庭用電源、携帯電話、携帯用パソコン等のモバイル機器用小型電源として有用である。
【0100】
以上、本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各原料や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
【0102】
<実施例1>
・変性物(A1)の調製
変性物(A1)を以下の方法で調製した。
100mlのナス型フラスコに0.98gの塩化鉄(III)6水和物(和光純薬社製)及び0.30gのケッチェンブラックEC300(ライオン社製)を入れ、15mlのメタノールを加えた。
その後、得られた混合物を氷浴にて冷却し、0.506gの1,5−ジアミノナフタレン(東京化成社製、製品コードD0101)をメタノールに溶解したメタノール溶液を滴下し重合反応を行った。滴下終了後、硫酸コバルト0.30g(和光純薬社製)を加えた後、室温にて6時間攪拌を行った。エバポレーターを用いて溶媒を留去した後、得られた混合物を室温にて200Paの減圧下で12時間乾燥させた。
次いで、得られた混合物(変性前混合物)を、石英を炉心管とする管状炉を用いて、200ml/分の窒素気流下において、900℃で1時間加熱、放冷後、0.1Mの塩酸溶液で超音波を30分間照射し、ろ過した後、室温にて200Paの減圧下で一晩乾燥することにより、変性物(A1)を得た。
【0103】
変性前混合物及び変性物(A1)の元素分析値
変性前混合物;Co:1.16質量%、Fe:11.1質量%、C:32.52質量%、H:2.48質量%、N:4.28質量%。
変性物(A1);Co:0.73質量%、Fe:3.91質量%、C:73.26質量%、H:1.19質量%、N:3.27質量%。
【0104】
・カソード用触媒インク(A2)の調製
0.05gの変性物(A1)に0.32mlの水を加えた後、1.04gの5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、製品番号274704)と2.75mlのエタノールを加えた後、超音波を30分間照射することでカソード用触媒インク(A2)を得た。
【0105】
・アノード用触媒インクの調製
20質量%白金が担持された白金担持カーボン(EC−20−PTC、エレクトロ・ケム社製)0.2gに1.28mLの水を加えた後、市販の5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物、アルドリッチ社製:製品番号274704)1.6gを滴下し、11.0mLのエタノールを加えた後、超音波を30分間照射することでアノード用触媒インクを得た。
【0106】
・膜−電極接合体(A3)の作製
まず、燃料電池のガス拡散層に相当する、片面に撥水処理を行ったカーボンペーパー(AvCarb(登録商標)、GDS2120カーボンファイバーペーパー、バラード社製)を3.0cm角に切り出した。
次いで、カーボンペーパーの撥水処理をしている面に、スプレー法にて前記カソード用触媒インク(A2)を塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cmに、ステージ温度は80℃に設定した。同様の操作を行って重ね塗りをした後、カソード用触媒インク(A2)を塗布したカーボンペーパーをステージ上に15分間放置し、溶媒を除去して、4.0mg/cmの変性物(A1)とナフィオン(登録商標)とが配置されたガス拡散層付きカソード電極(カソード用触媒層付きカーボンペーパー)を得た。
また、同様にして、前記アノード用触媒インクをカーボンペーパーにスプレー塗布し、2.0mg/cmの白金担持カーボンとナフィオン(登録商標)が配置されたガス拡散層付きカソード電極(カソード用触媒層付きカーボンペーパー)を得た。
【0107】
前記カソード用触媒層付きカーボンペーパー、前記アノード用触媒層付きカーボンペーパー及び電解質膜(Nafion(登録商標)、NRE212、デュポン社製)を用いて、該カーボンペーパーの触媒層が電解質膜に接するように順次積層し、140℃、9.8MPaの条件で3分間熱プレスを施し、ガス拡散層付き膜−電極接合体(A3)を得た。
【0108】
・燃料電池セル(A4)の作製及びその発電性能評価
前記ガス拡散層付き膜−電極接合体(A3)の両側に、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータを配置し、その外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締めることによって、有効膜面積9cmの燃料電池セル(A4)を組み立てて作製した。
【0109】
この燃料電池セル(A4)を80℃に保ちながら、アノードに加湿水素、カソードに加湿空気を供給した。この際、セルのガス出口における背圧が0.1MPaGとなるようにした。水素及び空気の加湿は、水を貯めたバブラーに各ガスを通すことで行った。水素用バブラーの水温は80℃、空気用バブラーの水温は80℃とした。ここで、水素のガス流量は100ml/分、空気のガス流量は400ml/分とした。
【0110】
燃料電池セル(A4)の0.4Vにおける初期電流密度は、0.23A/cmであり、運転1時間後の電流密度は0.23A/cmであった。運転10時間後も電流密度に変化はなかった。更に、運転50時間後においても電流密度に変化がないことを確認した。
【0111】
<比較例1>
・変性物(B1)の調製
5,10,15,20−テトラキス(4−メトシキフェニル)−ポルフィンコバルト(II)(アルドリッチ社製)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン社製)を質量比1:4で混合し、メタノール中、室温で15分間攪拌後、エバポレーターで溶媒を留去した後、室温にて200Paの減圧下で12時間乾燥させた。得られた混合物を、石英を炉心管とする管状炉を用いて、200ml/分の窒素気流下において、600℃で2時間加熱、放冷後、0.1Mの塩酸溶液で超音波を30分間照射し、ろ過した後、室温にて200Paの減圧下で一晩乾燥することにより、変性物(B1)を得た。
【0112】
・カソード用触媒インク(B2)の調製
0.05gの変性物(B1)に0.32mlの水を加えた後、0.80gの5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、製品番号274704)と2.75mlのエタノールを加え、得られた混合物に超音波を1時間照射した後、スターラーで5時間攪拌して、カソード用触媒インク(B2)を得た。
【0113】
・膜−電極接合体(B3)の作製
実施例1において、カソード用触媒インク(A2)の代わりにカソード用触媒インク(B2)を用いた以外は実施例1と同様にして、拡散層付き膜−電極接合体(B3)を作製した。膜−電極接合体(B3)のカソード側には、1.8mg/cmの変性物(B1)とナフィオン(登録商標)とが配置されており、アノード側には、2.1mg/cmの白金担持カーボンとナフィオン(登録商標)とが配置されている。
【0114】
・燃料電池セル(B4)の作製及びその発電性能評価
実施例1において、ガス拡散層付き膜−電極接合体(A3)の代わりにガス拡散層付き膜−電極接合体(B3)を用いた以外は実施例1と同様にして、燃料電池セル(B4)を作製し、その評価を行った。
【0115】
燃料電池セル(B4)の0.4Vにおける初期電流密度は、0.12A/cmであり、運転1時間後の電流密度は0.057A/cmであった。
【0116】
本発明の芳香族アミン変性物は、燃料電池の電極触媒の形成材料に用いた場合、従来のものよりも長時間に渡って物性に変化が見られず、高い安定性を示した。以上により、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0117】
10 燃料電池
12 電解質膜(プロトン伝導膜)
14a,14b 触媒層
16a,16b ガス拡散層
18a,18b セパレータ
20 膜−電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される芳香族アミン化合物の重合体及び金属成分を含有する組成物に、
加熱、放射線照射及び放電よりなる群から選ばれる処理を施して得られる芳香族アミン変性物であって、
前記重合体は、前記化合物のある分子における芳香環と結合するアミノ基を形成する窒素原子と、前記化合物の他の分子における芳香環を形成する炭素原子とを、
分子間で結合させることにより得られた重合体である前記芳香族アミン変性物。
【化1】

(式中、Arは、置換基を有する単環式芳香族炭化水素環、置換基を有してもよい単環式芳香族複素環、又は置換基を有してもよい多環式芳香環を表し;置換基を2つ以上有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよく;芳香環を形成する少なくとも1つの炭素原子は、水素原子又はハロゲノ基を有し;Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり;nは1以上の整数であり、nが2以上の場合、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記nが、1又は2である請求項1に記載の芳香族アミン変性物。
【請求項3】
前記Arが、前記置換基を有してもよい多環式芳香環である請求項1又は2に記載の芳香族アミン変性物。
【請求項4】
前記多環式芳香環が、ナフタレンである請求項3に記載の芳香族アミン変性物。
【請求項5】
前記金属成分が、コバルト及び鉄のいずれか一方、又は両方を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族アミン変性物。
【請求項6】
前記芳香族アミン化合物を、酸化重合により重合させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族アミン変性物。
【請求項7】
前記処理が、250℃〜1100℃の加熱である請求項1〜6のいずれか1項に記載の芳香族アミン変性物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香族アミン変性物を用いるレドックス触媒。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香族アミン変性物を用いる燃料電池用電極触媒。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香族アミン変性物を用いる燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12579(P2012−12579A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118069(P2011−118069)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】