説明

芳香族カルボン酸の晶析装置

【課題】 芳香族カルボン酸の晶析工程、特にフラッシュ方式による晶析工程において発生する問題点を改良し、長期安定運転が可能な晶析装置を提供する。
【解決手段】 芳香族カルボン酸を含む液状物から芳香族カルボン酸結晶を析出させて芳香族カルボン酸スラリーを得る晶析槽、晶析槽に該液状物を供給する供給管、晶析槽から芳香族カルボン酸結晶を排出する排出管を有する晶析装置であって、該晶析槽内で発生した気相組成物を処理するための処理装置を備えることを特徴とする晶析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晶析装置に関し、特に芳香族カルボン酸製造プロセスに用いる晶析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸の代表例であるテレフタル酸は、酢酸などの脂肪族カルボン酸と水を含む溶媒を用いて、コバルト、マンガンなどを主体とする重金属触媒、および臭素化合物の存在下、原料であるパラキシレンを、分子状酸素を含有するガスによって加圧下に液相酸化して製造する方法が一般に行われている。テレフタル酸の商業的用途からの要求で、テレフタル酸に含まれる微量不純物を極力削減するために、さらに高温、高圧での追酸化反応工程を設置したり、酸化反応後のテレフタル酸スラリーを分離、乾燥した後に水素化精製する工程を設置したりする方法などが行われている。
【0003】
上記した液相酸化後、追酸化後、または水素化精製後は、いずれも通常は晶析工程を経た後、固液分離・洗浄・乾燥処理が実施されている。該晶析工程は、エネルギー消費量節減の狙いから、一般的には、圧力・温度を急激に低下させるフラッシュ方式が採用されている。フラッシュ方式では、溶媒の一部を蒸発させることで温度を降下させて晶析するので、スラリー濃度が上昇して、晶析槽内または移送配管内で閉塞状態が発生しやすくなる。また、高圧の液状物を晶析槽に供給するため、液状物の圧力により晶析槽の攪拌軸への衝撃や、攪拌槽の振動などが生じ、この結果、攪拌軸の寿命が短縮されたり、軸受、メカニカルシールが損傷したりして長期安定運転の継続が難しくなる等の問題が生じている。
【0004】
これらの問題に対して特許文献1では、攪拌槽内にバッフルを設け、スラリー状の内容物の液面を、バッフルの上端またはそれよりも上方に配する方法を提案している。また、特許文献2では、内挿式放射線液面計を備えるバッフル付スラリー攪拌槽において、上記液面計の下端、またはそれより下方にバッフルの上端を設けて塊状物の生成を抑制する攪拌槽を提案している。また、特許文献3では、晶析槽へのスラリーの供給を減圧弁で制御し、減圧弁の間欠的な開閉操作により、間欠的に衝撃を与えて解消する方法を提案している。しかしながら特許文献1及び2の場合は、晶析槽の上部で発生する問題への対応策であり、特許文献3の場合は晶析槽下部における対応策であるため、いずれも局部的な対策であり、全面的な閉塞問題解決には至ってはいない。
特許文献4では、フラッシュ方式ではなく、低温の水を添加して温度降下させ、スラリー濃度を上昇させずに晶析させる方式を提案している。しかし、該方法ではフラッシュ方式に較べてエネルギー利用の点から効率的でない。
以上の通り、フラッシュ方式による晶析工程で発生する、閉塞や機器の損傷などの問題点を全て解決する方策は未だ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−168673号公報
【特許文献2】特開2004−167311号公報
【特許文献3】特開平8−89706号公報
【特許文献4】特開2000−86577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような背景技術の中、本発明は、芳香族カルボン酸の晶析工程、特にフラッシュ
方式による晶析工程において発生する問題点を改良し、長期安定運転可能な晶析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解消するべく鋭意検討した結果、芳香族カルボン酸を含む液状物から芳香族カルボン酸結晶を析出させるための晶析装置について、その装置構成や装置の機能を最適化することにより長期連続運転が可能になり、製品品質の安定化、機器の損傷防止およびコスト削減ができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明の要旨は、芳香族カルボン酸を含む液状物から芳香族カルボン酸結晶を析出させて芳香族カルボン酸スラリーを得る晶析槽、晶析槽に該液状物を供給する供給管、晶析槽から芳香族カルボン酸スラリーを排出する排出管を有する晶析装置であって、該晶析槽内で発生した気相組成物を処理するための処理装置を備えることを特徴とする晶析装置、に存する。
また、上記本発明の晶析装置において、前記処理装置が気相組成物中に同伴される固体を該気体組成物から分離する設備を備えることが好ましく、更に前記処理装置が、気相組成物と水を向流接触させる方式であることが好ましい。
また、上記本発明の晶析装置において、前記晶析槽がフラッシュ方式であることが好ましく、前記晶析槽が撹拌機とバッフルとを有することも好ましい。
また、上記本発明の晶析装置において、前記排出管の下流に、芳香族カルボン酸結晶の破砕機能、芳香族カルボン酸スラリーの分散機能、混合機能、搬送機能のうち少なくとも1以上の機能を備えることが好ましい。
また、上記晶析槽を2以上有し、異なる晶析槽間を接続する配管に、該配管を加熱する加熱機能を備えることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の他の要旨は、芳香族カルボン酸を含む液状物から芳香族カルボン酸結晶を析出させて芳香族カルボン酸スラリーを得る晶析槽、晶析槽に該液状物を供給する供給管、晶析槽から芳香族カルボン酸スラリーを排出する排出管を有する晶析装置であって、該供給管を複数有することを特徴とする晶析装置、に存する。
また、上記本発明の晶析装置において、前記晶析槽がフラッシュ方式であることが好ましく、前記晶析槽が撹拌機とバッフルとを有することも好ましい。
また、上記本発明の晶析装置において、前記排出管の下流に、芳香族カルボン酸結晶の破砕機能、芳香族カルボン酸スラリーの分散機能、混合機能、搬送機能のうち少なくとも1以上の機能を備えることが好ましい。
また、上記晶析槽を2以上有し、異なる晶析槽間を接続する配管に、該配管を加熱する加熱機能を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、晶析槽においてフラッシュ操作に伴う攪拌槽の振動、攪拌軸への衝撃などが抑制され、攪拌軸下部及び中間軸受、メカニカルシール等の寿命を延ばすことが可能となる。また、晶析槽の気相部へのエントレインメントや、排出ガスへの同伴ロスが減少し、冷却用熱交換器の熱効率が向上し、凝縮液タンクおよび配管中での閉塞が抑制される。更には晶析槽への供給管や晶析槽下流での塊状物による配管閉塞が減少することなどにより、長期安定運転が可能になり、製品品質も安定化し、経済的損失が大幅に削減される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る晶析装置の一実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明が適用される芳香族カルボン酸製造フローの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
芳香族カルボン酸製造工程中における、本発明の晶析装置の設置箇所は限定されないが、通常、下記の2箇所が挙げられる。
(工程1)アルキル芳香族化合物を原料とし、低級脂肪族カルボン酸および水との混合物を溶媒として、触媒の存在下、分子状酸素にて加圧液相酸化し、必要により追酸化して得られた粗製芳香族カルボン酸スラリーを晶析する工程。
(工程2)工程1で得られた粗製芳香族カルボン酸を、水に溶解させて水素添加反応により不純物を還元し、得られた溶液を晶析する工程。
【0013】
[晶析装置]
図1に本発明に係る晶析装置の一実施形態を示す概念図を示す。本発明の晶析装置における晶析の方式は限定されないが、フラッシュ方式の晶析槽であることが好ましい。
晶析槽20は液状物21を供給する供給管22、槽内の液状物を攪拌する撹拌機25とバッフル26、槽内の気相組成物を処理する処理装置30、及び晶析によって得られた芳香族カルボン酸スラリーを槽外へ排出する排出管23を備えた容器である。ここで、液状物21とは、前記工程1においては液相酸化反応で生成した粗製芳香族カルボン酸スラリーを意味し、前記工程2においては水素添加反応により不純物を還元して得られた溶液を意味する。従って、液状物21中には既に芳香族カルボン酸結晶を含んでいても良く、液状物21に溶解していた芳香族カルボン酸が晶析槽20で結晶析出すれば本発明に包含される。
【0014】
排出管23の下流には必要により破砕ポンプ50が設置され、ここで芳香族カルボン酸スラリー中の芳香族カルボン酸結晶は破砕された後、固液分離装置(図示せず)に移送される。排出管23以降の固液分離装置までの移送配管は、通常、閉塞防止策として保温されている。
処理装置30では晶析槽20内で発生した気相組成物が洗浄水31と向流接触し、ガスとともに同伴された固体を分離して晶析槽20内に戻す。処理装置30の下流(図1における上方)には排出された高温ガスの熱利用のために熱交換器60が設置され、凝縮した液状物が凝縮タンク40に貯蔵され、一部パージするべく排水処理工程に移送され(パージ水42)、残りは回収再利用(回収水41)される。
【0015】
本発明の晶析装置を用いて芳香族カルボン酸結晶を晶析させる場合、晶析槽20を複数設けることが好ましい。晶析槽20を複数設ける場合は、全ての晶析槽を上記と同一の構成とする必要は必ずしもないが、最終の晶析槽が本発明の晶析装置の構成であることが好ましい。なお、晶析槽20を複数設ける場合、晶析槽20に供給される液状物21は、前記した、液相酸化反応または追酸化反応で生成した粗製芳香族カルボン酸スラリーや、水素添加反応により不純物を還元して得られた溶液ではなく、他の晶析槽20から排出された液状物(芳香族カルボン酸スラリー)が相当する場合がある。
【0016】
<晶析槽>
晶析槽20の形状は限定されないが、通常は円筒形であり、槽の下部は回転楕円形状であるものが好ましい。晶析槽20の材質は限定されないが、ステンレス鋼、チタン、ニッケル合金などが挙げられる。ステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレス鋼が好ましく、例えば、SUS304、SUS304L、SUS316L、SUS317L、日本冶金工業株式会社製のNAS254N、NAS354N、SANDVIK社製のAvesta(商標)254MOなどが用いられる。ニッケル合金としては、例えば、三菱マテリアル株式会社製のMAT21、MA22、MA276、MCアロイ、MA625、MA600、MA−Xや、ヘインズ社製のハステロイ(商標)C276、C22、B3、C4
などが用いられる。
【0017】
晶析槽20は通常、槽内での液状物濃度の均一化を図るために、撹拌機25を備える。撹拌機25における攪拌翼25cの形状としてはプロペラ、パドル、タービン、平羽根、アンカー、ヘリカルリボンなどが採用できる。均一な攪拌を行う方法としては、攪拌翼25cの複数個設置、攪拌翼25cの適切な選択および攪拌動力の適切な設定が重要である。攪拌翼25cは、2個以上設置するのが望ましいが、1個でも攪拌翼、攪拌動力との組み合わせで、適切な分散力が保持できればよい。なお、撹拌翼25cとしてプロペラや平羽根等を用いる場合は、前記「複数個」および「2個」はそれぞれ「複数段」および「二段」と読み替えることができる。
撹拌機25による攪拌動力は0.1kw/m以上であればよいが、好ましくは0.2kw/m以上であり、また通常4kw/m以下、好ましくは3kw/m以下である。
【0018】
<供給管>
本発明の一つは、一つの晶析槽20に対して供給管22を複数設けることを特徴とする。供給管22の数は限定されず2個以上であれば良いが、通常6個以下、好ましくは5個以下である。
フラッシュ方式の晶析槽の場合、供給管22を通じて高圧の液状物21が低圧の晶析槽20内部にフラッシュされると、圧力差が局部的に発生することで晶析槽20内部でスラリーの濃度分布が不均一になり、塊状物が生成しやすくなる。また、液状物21がフラッシュされる際の高圧の圧力が局所的に晶析槽20の内壁や撹拌機25にかかるため、その衝撃により晶析槽20が振動したり、撹拌機25(特に攪拌翼25c下部や中間軸受・メカニカルシール等)が損傷したりする場合がある。さらには、高圧の液状物21が晶析槽内へ導入されることにより、槽内の液状物の液面に乱れが生じたり、それに伴い熱交換器60側へ揮発する気相組成物(ガス)が増加する場合がある。また、複数の晶析槽を用いる場合には、液状物21としてスラリーを供給する場合があるが、高濃度のスラリーを供給する場合には、供給管が閉塞する場合もある。
【0019】
これらの対策として、一つの晶析槽20に対して供給管22を複数設けることにより、晶析槽20内での塊状物の生成が低減され、晶析槽20の振動や、撹拌機25の損傷を大幅に回避することができ、さらには、熱交換器60側へ揮発するガス量を抑制することができる。また、複数の晶析槽を用いる場合には、液状物21として供給するスラリーによる閉塞を抑制することができる。
なお、晶析槽20を複数設ける場合は、全ての晶析槽について供給管22を複数設ける必要は必ずしもない。熱交換器60側へ揮発するガス量を抑制する目的では、揮発ガスの発生量が多い最終晶析槽を上記構成とすることが好ましい。
供給管の設置位置は限定されないが、通常は界面24(液状物21の液面)以下となるように設けられる。供給管22の材質は限定されないが、晶析槽20と同様のものを用いることが出来る。
【0020】
<バッフル>
晶析槽20には液状物濃度の槽内での均一化を図るために、バッフル26を備えることが好ましい。バッフルとは邪魔板とも呼ばれ、通常、晶析槽20の内壁に溶接で固定された板状物を意味する。バッフル26の形状は限定されないが、平板状、湾曲した板状等が挙げられる。
バッフル26は1つの晶析槽に対して複数設置するのが好ましい。バッフル26の数は限定されないが、少なくとも2枚以上、好ましくは3枚以上であり、10枚以下、好ましくは8枚以下であることが望ましい。バッフルが1枚であると、晶析槽内の液状物の流れが不均一となったり、攪拌効率が低下したりするので好ましくない。バッフル26の設置
位置は、バッフル26の上端を界面24以下に保持しながら、かつ供給口22がバッフル26の高さ範囲内となるように設けることが好ましい。バッフル26を設けることにより、槽内の円周方向の流動を抑えつつ上下方向の流動や乱流度を上げて液状物21の攪拌効率を上げることができる。また、通常、界面24よりも上部の槽内壁面には液状物21の飛沫が付着し、該付着物は乾燥、固化、剥離して槽内に落下すると晶析槽20の出口や排出管23内で閉塞することがあるが、バッフル26を設け、その設置位置を配慮することにより、液状物21の槽内壁面への付着を防止することができる。
バッフル26の材質は限定されないが、晶析槽20と同様のものを用いることが出来る。
【0021】
<遮蔽板>
晶析槽20内の供給管22出口近傍には、遮蔽板(図示せず)を液状物21に垂直に設置すると、フラッシュ方式の晶析槽の場合に衝撃の分散化が出来るので有効である。遮蔽板の設置方法としては、供給管22出口周辺に遮蔽板を支持する棒を複数本、槽壁面に垂直に溶接して立て、供給管22出口から離れた位置で支持棒と遮蔽板とを連結させる。連結する位置は限定されないが、供給管22出口からの距離が晶析槽20半径の半分以内であることが好ましい。遮蔽板は供給管22出口と晶析槽20中央部の攪拌軸25bを結ぶ線に対して垂直に、かつ正対して設置するのが望ましい。遮蔽板の形状は限定されず、丸型、四角型など衝撃を分散できる形であればよいが、丸型が望ましい。遮蔽板が丸型の場合、その直径は供給管22出口の直径より大きく、2倍以上が好ましく、通常5倍以下、4倍以下が好ましい。遮蔽板には、打ち抜き箇所を複数箇所設けるのが好ましい。打ち抜き形状は丸型、四角型、三角型など、衝撃を適切に分散できる形状であれば特に限定されない。遮蔽版の材質は限定されないが、晶析槽20と同一であることが好ましい。
【0022】
<気相組成物を処理するための処理装置>
本発明の一つは、晶析槽20上部の排気ガス放出口に、晶析槽20内で発生した気相組成物を処理するための処理装置30を設けることを特徴とする。ここで、気相組成物とは、ガスと該ガスに同伴される固体とを含む混合物をいう。本発明で使用する処理装置30は限定されないが、気相組成物中に同伴される固体を該気体組成物から分離する設備を備えることが好ましい。また、本発明で使用する処理装置30は、気相組成物と水を向流接触させる方式であることが好ましく、具体的にはスクラバーが該当する。採用されるスクラバーの構造は限定されず、トレイ塔、スプレー塔、充填塔などが使用できるが、トレイ塔またはスプレー塔が好ましい。
【0023】
処理装置30としてトレイ塔を用いる場合、トレイとしてシーブトレイが好ましい。用いられるトレイの数は限定されないが、少なくとも2段以上が好ましく、より好ましくは3段以上であり、通常は6段以下、好ましくは5段以下である。シーブトレイが1段であると、洗浄効果(気相組成物中に同伴される固体を分離する効果)が不十分となる場合がある。トレイ塔上部から洗浄水31を供給し、トレイ塔下部から上昇する気相組成物と向流接触させることにより、気相組成物中に同伴される微粉末等の固体を気相組成物から分離して洗浄水31とともに晶析槽20に落とし込む。気相組成物の線速度は適宜設定されるが、通常0.01m/s〜1m/sであり、洗浄水31と気相組成物との比は概ね5〜20 : 1(重量比)とするのが好ましい。
処理装置30の材質は限定されないが、晶析槽20と同様のものを用いることが出来る。
【0024】
フラッシュ方式による晶析では、液状物21が高圧側から低圧側へ圧力降下することにより、大量のガスが発生する。通常、発生したガスは高温であるため、該ガスからの熱エネルギー回収のために、晶析槽20の下流(図1における上方)に熱交換器60を設置してエネルギー回収する。処理装置30を設けない場合は、ガスに同伴される微粉末等の固
体が熱交換器60のシェル側(熱を与える側)に付着して熱効率を低下させてエネルギーロスを発生させる。また、熱交換による冷却で生じた凝縮液中に固形分が多量に含まれてスラリー状となり、凝縮タンク40内の固形分濃度があがり、凝縮タンク40下流の配管が閉塞したり、冷却水の再利用時に品質面で障害となるなどの問題が生じる。
本発明では、晶析槽20上部に処理装置30を設置することにより、気相組成物中の微粉末などが熱交換器60に付着することが抑制され、凝縮タンク40内や凝縮タンク40下流の配管の閉塞を抑制することが出来る。
なお、晶析槽20を複数設ける場合は、全ての晶析槽に処理装置30を設ける必要は必ずしもないが、揮発するガス量が多い晶析槽に設けることが好ましく、その点で最終晶析槽に設けることが好ましい。
【0025】
<破砕ポンプ>
本発明の晶析装置には、排出管23の下流に、芳香族カルボン酸結晶の破砕機能、芳香族カルボン酸スラリーの分散機能、混合機能、搬送機能のうち少なくとも1以上の機能を備えることが好ましい。これらの機能を達成するための具体的な装置は限定されないが、破砕ポンプ50を設けることが好ましい。晶析槽20によって晶析後の液状物(芳香族カルボン酸スラリー)中には小粒径の結晶が高濃度で存在しているので、晶析槽20内や排出管23内で結晶同士の凝集が起こったり、晶析槽内壁に付着した結晶が成長したり、移送配管内壁にスケーリングしたりする。このように成長した結晶が剥離すると、排出管23以降の配管内で閉塞に至る問題が生じる場合がある。破砕ポンプ50を設けることにより、上記の問題を解消することが出来る。
【0026】
破砕ポンプ50は、破砕機及びポンプを個別に設置し、破砕機で破砕した後にポンプで移送する装置であってもよいが、破砕機能とポンプ機能とを併せ持つ装置を使用する方が効率的である。ここで、ポンプ機能には搬送機能も含む。破砕ポンプ50として破砕機能とポンプ機能とを併せ持つ装置を用いる場合、通常、破砕するための刃を選定することで、粗切り、二次切り、細切りの3段階程度で所定のサイズ以下に破砕し、圧力搬送される。さらには、破砕機能とポンプ機能のほか、分散機能、混合機能のうち1以上を併せ持つ多目的分散ポンプ(高機能スラリーポンプともいう場合がある)を使用することが好ましい。このような装置としては、例えば、三和ハイドロテック株式会社製、スキャッターポンプSD−Kなどが挙げられる。
【0027】
破砕ポンプ50として破砕機能とポンプ機能とを併せ持つ装置を用いる場合、破砕用に回転刃及び固定刃が設置されており、さらにインペラーが搬送用に具備されている。固定刃には一段刃タイプ及び二段刃タイプがあり、破砕サイズはほぼ任意に決められるが、本発明の場合は、通常10mm径以下、好ましくは5mm径以下、より好ましくは4mm径以下に破砕されるように設定した装置であることが好ましい。芳香族カルボン酸結晶の破砕サイズが小さ過ぎると、破砕ポンプの能力が過剰になる傾向にある。一方、破砕サイズが大き過ぎると、結晶の再凝集が起こったり、また破砕ポンプ50より下流における配管内壁で結晶が析出、剥離したりするため、遠心ポンプが閉塞して使用出来ない場合がある。ここで、遠心ポンプとは、破砕ポンプより下流に設置された貯蔵槽に溜めておいた芳香族カルボン酸スラリーを、後述する固液分離装置に移送するために用いるものである。なお、貯蔵槽の芳香族カルボン酸スラリーを遠心ポンプを用いずに固液分離装置に移送することもできる。
破砕ポンプ50の材質は限定されないが、晶析槽20と同様のものを用いることが出来る。
【0028】
破砕ポンプ50の設置箇所は、晶析槽20を複数設ける場合には、晶析槽ごとに排出管23の下流に設置することが望ましいが、必ずしも全てである必要はない。ただし、最終の晶析槽下流には破砕ポンプ50を設置するのが好ましい。また、破砕ポンプ50を直列
に複数設置することもできる。特に硬い塊状物(結晶)が含まれる場合などは効果的である。
また、芳香族カルボン酸結晶が移送配管中でスケーリング・再凝集などにより配管を閉塞させる事態の防止策として、排出管23以降の固液分離装置までの移送配管を加熱することが好ましい。破砕ポンプ50のケーシングを加熱することも好ましい。具体的には、配管内壁面温度が、配管内部を通過する液状物(芳香族カルボン酸スラリー)温度よりも高くなるように、好ましくは10℃以上高くなるように加熱し、通常200℃以上高くならず、好ましくは150℃以上高くならないものとすることが望ましい。配管内壁面温度が低温では、局所的に再凝集が起こり易く、高温では製品品質の悪化やエネルギーのロスになる。
【0029】
配管を加熱するための熱媒は限定されないが、蒸気、ホットオイル、その他工程から発生する熱ガスなどが用いられる。また、断熱材を使用することも好ましく、例えば、ガラスウール及びロックウールなどの無機繊維系断熱材、発泡プラスチック系断熱材などが使用される。さらには、二重管の使用も好ましい。
【0030】
<芳香族カルボン酸の製造方法>
[酸化工程]
次に、本発明の晶析装置を適用した芳香族カルボン酸の製造方法の一例を説明する。
芳香族カルボン酸は、原料のアルキル芳香族化合物を、常圧を上回る圧力下で、低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、触媒として、重金属化合物および必要により臭素化合物を用いて、分子状酸素を含む気体で140〜230℃にて液相酸化することにより芳香族カルボン酸スラリーとして得られる。
【0031】
原料のアルキル芳香族化合物としては、アルキル基を有する芳香族化合物が使用される。芳香族化合物を構成する芳香環は単環であっても、多環であってもよい。上記アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基等をあげることができる。またアルキル基は官能基を有していても良く、例えばアルデヒド基、アシル基、カルボキシル基およびヒドロキシル基等を挙げることができる。アルキル置換芳香族化合物の具体的なものとしては、例えばm−ジイソプロピルベンゼン、p−ジイソプロピルベンゼン、m−シメン、p−シメン、m−キシレン、o−キシレン、p−キシレン、トリメチルベンゼン類などの炭素数1〜4のアルキル基を2〜4個有するアルキルベンゼン類、アルキルナフタレン類、アルキルビフェニル類などである。
またアルキル基を有する芳香族化合物には、アルキル基以外の置換基を有していても良く、具体的には、例えば3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、m−トルイル酸、p−トルイル酸、3−ホルミル安息香酸、4−ホルミル安息香酸、および2−メチル6−ホルミルナフタレン類等をあげることができる。これらの原料は単独または2種以上を併用して用いられる。
【0032】
以下の説明はテレフタル酸の製造方法を一例として図2に基づいて説明する。
図2の酸化反応装置101に原料1としてパラキシレン、溶媒3、触媒4、分子状酸素2を仕込み、連続的に反応する。溶媒3としては、酢酸、プロピオン酸、蟻酸、酪酸等の脂肪族カルボン酸が用いられるが、酢酸を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒3の使用量は、テレフタル酸の場合、原料1に対して1〜10重量倍であると望ましく、2〜8重量倍であると好ましく、3〜6重量倍であるとより好ましい。酢酸の量が少な過ぎると、芳香族カルボン酸スラリーの濃度が高くなり過ぎて閉塞等のトラブルを招いたり、酸化反応における温度制御が困難となる場合がある。酢酸の量が多過ぎると、目的とする芳香族カルボン酸の生産量に対する系内溶媒量が多量となり、設備の大型化の必要性があり、経済的に好ましくない。
溶媒3は、酢酸と水との混合物が好ましく、通常、酢酸100重量部に対して水1〜2
0重量部、好ましくは5〜15重量部を混合した混合物である。
分子状酸素2としては、例えば空気、不活性ガスで希釈された酸素、酸素富化空気等の分子状酸素を含んだガスが用いられる。供給量は原料1に対し、分子状酸素として3〜100倍モルで、実用的には空気が好ましく用いられる。酸化反応装置101の入口での空気の酸素含有率は21体積%である。そして、反応器から排出される排ガス中の酸素濃度は1〜8体積%、好ましくは1.5〜3体積%になるように供給する。
【0033】
触媒4としては、アルキル芳香族化合物を酸化し、芳香族カルボン酸に変換する能力を有するものであれば特に制限はないが、通常、重金属化合物が使用され、必要に応じて触媒助剤として臭素化合物を用いてもよい。重金属化合物における重金属としては、例えばコバルト、マンガン、ニッケル、クロム、ジルコニウム、銅、鉛、ハフニウム、セリウム等をあげることができる。これらは単独で、または組み合わせて用いることができる。特にコバルトとマンガンを組み合わせて用いるのが好ましい。このような重金属の化合物としては、例えば酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセテート塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩、臭化物等をあげることができるが、特に酢酸塩、臭化物が好ましい。
また臭素化合物としては、例えば、分子状臭素、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化コバルト、臭化マンガン等の無機臭素化合物や、臭化メチル、臭化メチレン、ブロモホルム、臭化ベンジル、ブロモメチルトルエン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン等の有機臭素化合物などをあげることができる。これらの臭素化合物も単独で、または2種以上の混合物として用いられる。
テレフタル酸製造の場合は、原料であるパラキシレンを酸化する際に用いる触媒としては、具体的にはコバルト、マンガン及び臭素の組み合わせが挙げられ、特に酢酸コバルト、酢酸マンガン及び臭化水素の組み合わせが好ましい。
本発明において、上記重金属化合物と臭素化合物との組み合わせからなる触媒は、重金属1モルに対して臭素原子0.05〜10モル、好ましくは0.1〜5モルの範囲からなるものが望ましい。このような触媒は、溶媒3中の重金属触媒として、通常10〜10000重量ppm、好ましくは100〜3000重量ppmの範囲で用いられる。
【0034】
酸化反応の温度は、通常140℃〜250℃であり、好ましくは150℃〜230℃である。反応温度が低すぎると反応速度が低下し、反応温度が高すぎると酢酸溶媒の燃焼による損失量が増大する。反応圧力は、少なくとも反応温度において混合物が液相を保持できる圧力以上である必要があり、常圧を上回る圧力である必要がある。具体的には0.2〜6MPa(絶対圧)が好ましく、0.4〜3MPa(絶対圧)がより好ましい。生成した芳香族カルボン酸スラリーを移送しやすくするには、圧力が高いほうがよく、副反応の抑制にもつながるが、反応容器の耐圧強度、設備経費などの点からは圧力が低いほうが好ましい。
反応は、通常連続的に実施され、その反応時間(平均滞留時間)は通常30〜300分であり、好ましくは40〜150分である。反応時間が短すぎると、酸化反応が不十分なため芳香族カルボン酸の品質が低下することがあり、反応時間が長すぎると、酢酸等溶媒の燃焼による損失量が増大し、また酸化反応装置101の容量が増大し、経済的ではない。
溶媒中の水分は、反応により水が副生するので排ガスを凝縮して得られる凝縮液の一部を系外にパージすることで調節する。
【0035】
酸化反応装置101の構造は、攪拌槽でも気泡塔でもよい。攪拌槽を用いる場合は、完全混合型の攪拌槽が好ましい。気泡塔の場合、気泡塔下部から供給された分子状酸素2は、酸化反応に利用された後、多量の溶媒蒸気を同伴した反応ガスとして気泡塔から抜き出される。気泡塔上部に凝縮器を設けて溶媒を主とする排ガスを凝縮させて凝縮液を分離した後、排出される排ガスは排ガス処理工程にて処理する。なお、攪拌槽を用いる場合も排ガス処理方法は同様の方法を適用することができる。
【0036】
排ガス処理工程では、溶媒3などの分離回収、熱エネルギーの回収等を行うことができる。排ガスは酸化反応装置101上部に設置した凝縮器で凝縮(冷却による液化)させることにより、熱エネルギーを回収するとともに凝縮液の一部は酸化反応装置101に戻す。凝縮器を通過した排ガスは、凝縮器の下流(上部)にある高圧吸収塔に導入し、吸収液に排ガス成分を吸収させる。吸収液としては溶媒3と同じ化合物及び/または水などが挙げられ、吸収される成分としては、酸化反応で副生する水、溶媒3、未反応の原料1、副生成物などが挙げられる。ついで該吸収液と凝縮液の残部との混合物は、蒸留分離などにより、水と水以外の成分とを分離する。分離された水以外の成分、すなわち溶媒3、未反応の原料1、副生成物は、酸化反応装置101に戻して再利用する。該水以外の成分は、そのまま酸化反応槽101に戻しても良いが、前記の吸収液として用いてもよく、溶媒3の純度を上げてから再利用してもよい。高圧吸収塔から排出される排ガスは高圧状態を維持しているので、ガスエキスパンダー等で圧力エネルギーを回収した後に、無害化して放出される。(図示せず)
【0037】
本発明で使用される別の実施態様例としては、凝縮器に代えて酸化反応装置101上部に高圧蒸留塔を直結させて、後述する精製工程で固液分離した水を主成分とする分離母液を、該高圧蒸留塔上部に導入して、前記の凝縮器と同様の操作を行っても良い。(図示せず)
なお本発明において、酸化工程では、必要に応じて追加処理を行ってもよい。追加処理とは、上記の酸化反応で得られた芳香族カルボン酸スラリーを、引き続き前記酸化反応条件よりも低温条件、または高温条件の何れかで、原料1を供給せずに、分子状酸素の存在下、1回以上酸化することをいう。追加処理を行う場合は、酸化反応装置を追加する。追酸化の処理条件は、従来公知の条件を適用すればよい。
なお、低温条件で追加処理を行うと、該低温条件での追加処理中に芳香族カルボン酸結晶が析出する。従って、そのような場合には、該低温条件での追加処理に用いる酸化反応装置を晶析槽20とみなし、本発明の晶析装置に適用することもできる。
【0038】
[晶析工程]
酸化反応または追酸化反応を終了して得られた酸化反応スラリーは次いで、前記した本発明の晶析装置102において晶析される。本発明の晶析装置は、この晶析工程に適用できる。晶析は回分または連続のいずれの方式でも良いが、通常は連続方式で複数の晶析槽20によって段階的に降圧させる。晶析槽20の数は、通常は6器以下、好ましくは5器以下である。
本発明の晶析装置における晶析の方式は限定されないが、フラッシュ方式であることが好ましい。フラッシュ方式の場合の放圧圧力は限定されないが、複数の晶析槽を用いる場合は、通常、初期段階の晶析槽では常圧〜20MPaとし、段階的に降下させる。最終の晶析槽の放圧圧力は常圧としてもよい。
【0039】
[固液分離・洗浄工程]
晶析装置から得られた粗製テレフタル酸スラリーはついで固液分離・洗浄装置103にて固液分離され、テレフタル酸ケーキ(芳香族カルボン酸ケーキ8)と母液13に分離される。
固液分離は常圧、減圧、加圧のいずれでも行うことができる。加圧分離の場合、圧力は通常0.01MPa以上とし、好ましくは0.03MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上とする。上限は20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下で、特に好ましくは2MPa以下とする。固液分離装置の上流にポンプなどの加圧装置を設置してさらに加圧して分離することも可能である。
【0040】
固液分離したスラリー固形分には母液が付着しているので、通常は洗浄が必要である。
洗浄液としては固液分離装置中の圧力、温度で液体状態を保持できれば制限されないが、酸化反応で使用する溶媒と相溶性があるものが好ましく、一般的には酢酸水溶液または水が用いられる。洗浄時の圧力は固液分離時の圧力と同等とすることが望ましい。
固液分離及び洗浄を高温・高圧下で行った場合、洗浄後のスラリー固形分は依然として高エネルギー(熱および/または圧力)を有しているので、該エネルギーを乾燥時に活用するのが望ましい。該固形分の付着液を高圧から低圧に開放するフラッシュ蒸発乾燥装置により可能となる。
【0041】
固液分離、洗浄及び乾燥を一つの装置で行える固液分離洗浄乾燥装置により実施することもできる。装置に制限はないが、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルデカンター、水平ベルトフィルター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルターなどを用い、固液分離・洗浄されたスラリー固形分の貯蔵されたホッパー下部にディスチャージバルブを具備させてフラッシュ乾燥させてより低圧の貯層に抜き出す。乾燥が不十分な場合にはさらに公知の乾燥装置を設置して追加処理してもよい。流動層乾燥機、回転型スチームチューブ乾燥機などが好ましく用いられる。
【0042】
分離された母液13は、リサイクル母液およびパージ母液に分岐させる。ここで、母液13には洗浄水も含まれる。母液13の分岐は、常圧を上回る圧力を維持したまま行うことが好ましく、固液分離の操作圧力を実質的に維持した圧力であることがより好ましい。リサイクル母液とパージ母液との分岐割合は、製造工程全体の状況に応じて、任意に調節できるが、通常、リサイクル母液が母液13の50%重量以上、好ましくは70重量%以上である。リサイクル母液の割合を前記下限値以上とすることにより、パージ母液の量が減り、結果的に母液のロスを削減できる利点があり、さらに酸化反応器排ガス中の臭化メチル濃度を低くできる利点がある。またリサイクル母液が母液13の95%重量以下、好ましくは90重量%以下であることが好ましい。リサイクル母液の割合を前記上限値以下とすることにより、系内への不純物の蓄積を抑えることができ、製品の品質を向上できる利点がある。
パージ母液中には、多くの成分が含有されている。これらは、芳香族カルボン酸、未反応原料、副生物、触媒、溶媒、水などである。これら成分の回収・再利用方法は、回収対象物の性質、性状に応じて複数の回収方法が組み合わせて用いられる。
【0043】
[液状物調整工程]
上記した製造方法で得られたテレフタル酸ケーキには酸化中間体、未反応物、不純物などが含有され、そのまま製品として使用できない場合があるので、さらに精製を行うことが好ましい。精製操作としては水素添加による還元反応で主たる不純物である4−カルボキシベンズアルデヒド等をパラトルイル酸等に変化させ、テレフタル酸との水溶性の差を利用して固液分離する方法が行われる。まず、液状物調製槽104において粗製テレフタル酸液状物(粗製芳香族カルボン酸液状物9)を調製する。溶媒5の種類は特に限定されないが、有機物の溶解性、沸点などから水を含むことが望ましく、より好ましくは90重量%が水、さらに好ましくはほぼ100重量%が水である溶媒が好ましい。水の消費量を抑制するために、テレフタル酸製造工程内で生成する水を再利用することが好ましい。
【0044】
液状物中のテレフタル酸結晶の濃度は10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上で、通常40%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下である。低濃度では、装置が大型化し、経済的ではなく、高濃度になると、スラリーの流動性が増大し、特殊機器が必要になり、設備費が増加する。
液状物調整装置104は常圧で運転され、温度は50℃以上、好ましくは70℃以上、通常90℃以下、好ましくは85℃以下である。高温度になり過ぎると、粗製芳香族カルボン酸液状物9を移送する加圧ポンプ(図示せず)でキャビテーションが起こり、うまく移送できなくなり、低温度では熱バランス上不利になる。
攪拌翼としては、プロペラ、パドル、タービン、平羽根、アンカー、ヘリカルリボンなどが採用でき、好ましくはプロペラであり、プロペラを用いた場合、回転数として、好ましくは30〜500rpm、より好ましくは50〜300rpm、さらに好ましくは70〜100rpmが採用される。
さらに、液状物調製装置104内の滞留時間は、10〜60分間、特に15〜30分間とするのが好ましい。滞留時間が短か過ぎると、スラリー濃度の調製が不十分で、長過ぎるのは大きな設備を必要として経済的でない。
加圧ポンプでのキャビテーションや閉塞、さらに、固形分未溶解による精製品質への影響、などの問題点を発生させないために、液状物調製装置104の出口に、自動かきとり式ストレーナーなどの異物除去装置(図示せず)を設置して、4mm径以上の大粒子を分離する方式を採用することで、安定運転が可能になる。
【0045】
[水素化精製工程]
粗製芳香族カルボン酸液状物9は、加熱装置(図示せず)により230℃以上に加熱されて、溶解され、水素添加反応装置105に送られる。加熱装置は、複数の多管式熱交換装置からなり、製造工程から熱回収された蒸気、ホットオイルなどで加熱される。
水素添加反応装置105に供給する粗製芳香族カルボン酸液状物9は、完全溶解状態が望ましいが、水素添加反応装置105内部で触媒を担持した固定相に接触するまでに溶解できる構造になっていればよい。水素添加反応は、活性炭などに担持された貴金属を用いて、固定相に固定化した状態で水素6を導入して反応される。
反応温度は230℃以上、好ましくは250℃以上、また通常330℃以下、好ましくは310℃以下である。水素分圧は通常0.05〜2MPaであり、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム等の単独または混合物等の第8属金属触媒と通常1〜100分間、接触する。この際の圧力は、通常3MPa以上であり、好ましくは5MPa以上である。また通常20MPa以下であり、好ましくは15MPa以下、より好ましくは12MPa以下である。これら第8属金属は、通常、芳香族カルボン酸熱水溶液に不溶性の担体、例えば、活性炭等に担持させて用いられる。これらの中では、特に活性炭に担持させたパラジウムを固定床として用いるのが精製効果の点から好ましい。
【0046】
[晶析工程]
水素添加反応液10は、晶析させてテレフタル酸スラリー液状物を得て、ついで固液分離・洗浄・乾燥して製品を得る。本発明の晶析装置は、この晶析工程に適用できる。晶析槽106は、直列に接続した複数の晶析槽で構成され、段階的に冷却して晶析する。通常2器以上、好ましくは3器以上である。また通常6器以下、好ましくは5器以下である。晶析槽で段階的に温度を低下させて行い、最終の晶析条件は、圧力が通常0.1MPa以上、好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上で、上限は好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下、特に好ましくは0.7MPa以下である。溶解しているパラトルイル酸結晶が析出しない温度・圧力を維持する必要がある。晶析の際にフラッシュして排出される高圧蒸気は、回収して熱エネルギーとして再利用し、凝縮水は一部排水処理後にパージし、残りは再利用する。
【0047】
[固液分離・洗浄工程]
ついでテレフタル酸スラリー液状物11が固液分離・洗浄装置106にて、テレフタル酸と母液及び洗浄液に分離され、テレフタル酸は乾燥され、製品12となる。母液・洗浄液からは、酸化中間体であるパラトルイル酸など有価物を晶析分離により回収して、酸化工程に戻してテレフタル酸に変化させる。該母液の一部を溶媒として再利用したり、さらに該分離母液中に残留する微量不純物を逆浸透膜処理、イオン交換処理などにより濃縮し、透過水の一部を粗製芳香族カルボン酸の溶媒として再利用すると、水使用量及び排水量を低減できる。
固液分離・洗浄装置106における固液分離は常圧、減圧、加圧のいずれでも行いうる
が、エネルギー効率化の観点から上記した最終晶析の圧力を維持したまま、実施するのが好ましい。分離機としては、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルセパレーター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルター、水平ベルトフィルター等、乾燥が不十分な場合にはさらに公知の乾燥装置を設置して追加処理する。乾燥機としては放圧蒸発による加圧乾燥機、通常の流動層乾燥機、回転型スチームチューブ乾燥機などが好ましく用いられる。
【0048】
なお固液分離、洗浄及び乾燥を一つの装置で行える固液分離洗浄乾燥装置により実施することもできる。装置の具体例は、公知の機器で特に制限はないが、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルデカンター、水平ベルトフィルター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルターなどを用い、固液分離・洗浄されたスラリー固形分の貯蔵されたホッパー下部にディスチャージバルブを具備させてフラッシュ乾燥させてより低圧の貯層に抜き出す方式などが採用できる。乾燥ケーキの乾燥が不十分な場合は、流動層乾燥機、回転乾燥機などを用いてさらに乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
高純度テレフタル酸の製造設備において、液相酸化反応器に連続的にパラキシレンおよび、パラキシレンの5重量部の酢酸、パラキシレンの0.5重量部の水、触媒として酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素を供給し、温度190〜195℃、圧力1.0〜1.7MPa、反応時間(平均滞留時間)90分で酸化反応を行った。触媒使用量は、溶媒に対し、コバルト成分およびマンガン成分が金属換算で各々300重量ppm、臭素成分は700ppmとした。分子状酸素による酸化反応を行うためのガスとしては空気を用いた。このとき空気の酸素含有率は21体積%であり、反応器(酸化反応槽)から排出されるガス中の酸素濃度が3〜7体積%になるように、反応器中に圧縮空気を供給した。
【0050】
次いで、得られた酸化反応スラリー液状物を低温追酸化反応槽に移送し、温度180〜190℃、圧力1.0〜1.2MPaにて低温追酸化を行った。
低温追酸化後のスラリー液状物を、直列に設けられた2器の晶析槽で段階的に晶析して、最終的には90℃、圧力0.05MPaで晶析操作を実施し、粗製テレフタル酸スラリーを得た。2器の晶析槽は何れも、パドル型の撹拌翼を有し、2個所の供給口を有し、バッフルを有する、フラッシュ方式の晶析槽を用いた。バッフルは、1器目(低温追酸化反応槽に近い側)は4枚、2器目は5枚とした。また、1器目と2器目の晶析槽を接続する配管は高圧蒸気によって164℃に加熱した(配管内のスラリー液状物の温度は140℃)。
【0051】
得られた粗製テレフタル酸スラリーを、2器目の晶析条件(温度、圧力)を維持したまま、スクリーンボウルデカンターにより、固液分離・洗浄し、粗製テレフタル酸を得た。なお、2器目の晶析槽出口からスクリーンボウルデカンターまでの配管は加圧蒸気によって125℃に加熱した(配管内の粗製テレフタル酸スラリーの温度は90℃)。固液分離された反応母液の75%を酸化反応器へリサイクルし、残りは触媒、酢酸などの有価物を回収した後に、排水処理工程に送って処理後、放流した。
上記条件で連続運転を行った結果、2年以上にわたり、フラッシュ晶析槽に設置された攪拌翼のメカニカルシールまたは攪拌翼下部および中間軸受の損傷はみられなかった。また、各晶析槽への供給管、晶析槽間の配管、2器目の晶析槽から固液分離の装置までの配管は、何れも塊状物による閉塞は発生しなかった。さらに、排出ガスへの同伴ロスの低減を達成することができた。
【0052】
(実施例2)
パラキシレンの液相酸化によって得られた粗製テレフタル酸を精製装置に導入し、液状物調製槽で水と混合して粗製テレフタル酸スラリー状液状物を得た。操作圧力は常圧で、温度は90℃、滞留時間は15分とした。得られた粗製テレフタル酸スラリー状液状物は、加圧ポンプを用いて、複数の直列に連結した液状物加熱溶解装置(多管式熱交換器)を通過させ、蒸気及び熱媒油(ホットオイル)で290℃、8.5MPaまで加熱加圧して、テレフタル酸を完全に溶解させた後、パラジウム−活性炭を固定床として備える精製槽に、水素と共に導入し、不純物の4−カルボキシベンズアルデヒドをパラトルイル酸に変換した。
【0053】
得られたテレフタル酸水溶液は、直列に設けられた5器の晶析槽で段階的に晶析して、最終的には160℃、圧力0.65MPaで晶析操作を実施し、テレフタル酸スラリーを得た。5器の晶析槽は何れも、パドル型の撹拌翼を有し、2個所の供給口を有し、バッフルを5枚有する、フラッシュ方式の晶析槽を用いた。また、5器全ての晶析槽を接続する配管はオイルによって、各配管内のスラリー液状物の温度に対し+20℃〜+150℃の範囲となるように加熱した。
【0054】
得られたテレフタル酸スラリーを、最終晶析槽の晶析条件(温度、圧力)を維持したまま、スクリーンボウルデカンターにより、固液分離・洗浄・乾燥し、テレフタル酸を得た。乾燥機は、流動層乾燥機を用いた。なお、最終晶析槽の出口からスクリーンボウルデカンターまでの配管は高圧蒸気によって164℃に加熱した(配管内のテレフタル酸スラリーの温度は155℃)。
上記条件で連続運転を行った結果、2年以上にわたり、フラッシュ晶析槽に設置された攪拌翼のメカニカルシールまたは攪拌翼下部および中間軸受の損傷はみられなかった。また、各晶析槽への供給管、各晶析槽間の配管、最終の晶析槽から固液分離の装置までの配管は、何れも塊状物による閉塞は発生しなかった。さらに、排出ガスへの同伴ロスの低減を達成することができた。
【0055】
(実施例3)
実施例2と同様にして粗製テレフタル酸を精製装置に導入し、水素化することによって不純物の4−カルボキシベンズアルデヒドをパラトルイル酸に変換した。
得られたテレフタル酸水溶液は、直列に設けられた4器の晶析槽で段階的に晶析して、最終的には160℃、圧力0.63MPaで晶析操作を実施し、テレフタル酸スラリーを得た。4器の晶析槽は何れも、パドル型の撹拌翼を有し、バッフルを5枚有する、フラッシュ方式の晶析槽を用いた。また、各晶析槽には、晶析槽ガス排出管出口上部に3段のシーブトレイを具備するスクラバー(水と向流接触)を設置し、排気ガス中の微粉末を水と向流接触させて洗浄、除去して晶析槽内に戻した。また、4器全ての晶析槽を接続する配管はオイルによって、各配管内のスラリー液状物の温度に対し+20℃〜+120℃の範囲となるように加熱した。
【0056】
得られたテレフタル酸スラリーを、最終晶析槽の晶析条件(温度、圧力)を維持したまま、スクリーンボウルデカンターにより、固液分離・洗浄・乾燥し、テレフタル酸を得た。乾燥機は、流動層乾燥機を用いた。なお、最終晶析槽の出口からスクリーンボウルデカンターまでの配管は高圧蒸気によって164℃に加熱した(配管内のテレフタル酸スラリーの温度は160℃)。
上記条件で連続運転を行った結果、2年以上にわたり、フラッシュ晶析槽に設置された攪拌翼のメカニカルシールまたは攪拌翼下部および中間軸受の損傷はみられなかった。また、各晶析槽への供給管、各晶析槽間の配管、最終の晶析槽から固液分離の装置までの配管は、何れも塊状物による閉塞は発生しなかった。
さらに、テレフタル酸の粒子径や透過率等の製品品質が安定化するとともに、排出ガス
への同伴ロスの低減を達成することができた。
さらには、排出ガスからの熱回収のための熱交換器のシェル側への微粉末付着による熱効率の低下は起こらず、回収される冷却水の純度も良く、再利用における品質上の問題も生じなかった。
【符号の説明】
【0057】
20 晶析槽
21 液状物
22 供給管
23 排出管
24 界面
25 撹拌機
25a モーター
25b 攪拌軸
25c 攪拌翼
26 バッフル
30 処理装置
31 洗浄水
40 凝縮タンク
41 回収水
42 パージ水
50 破砕ポンプ
60 熱交換器
101 酸化反応装置
102 晶析装置
103 固液分離・洗浄装置
104 液状物調製装置
105 水素添加反応装置
106 晶析装置
107 固液分離・洗浄装置
1 原料
2 分子状酸素
3 溶媒
4 触媒
5 溶媒
6 水素
7 粗製芳香族カルボン酸スラリー
8 粗製芳香族カルボン酸ケーキ
9 粗製芳香族カルボン酸液状物
10 水素添加反応液
11 芳香族カルボン酸スラリー
12 芳香族カルボン酸
13 母液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族カルボン酸を含む液状物から芳香族カルボン酸結晶を析出させて芳香族カルボン酸スラリーを得る晶析槽、晶析槽に該液状物を供給する供給管、晶析槽から芳香族カルボン酸スラリーを排出する排出管を有する晶析装置であって、該晶析槽内で発生した気相組成物を処理するための処理装置を備えることを特徴とする晶析装置。
【請求項2】
該処理装置が気相組成物中に同伴される固体を該気体組成物から分離する設備を備えてなる請求項1に記載の晶析装置。
【請求項3】
該処理装置が、気相組成物と水を向流接触させる方式である請求項1または2に記載の晶析装置。
【請求項4】
芳香族カルボン酸を含む液状物から芳香族カルボン酸結晶を析出させて芳香族カルボン酸スラリーを得る晶析槽、晶析槽に該液状物を供給する供給管、晶析槽から芳香族カルボン酸スラリーを排出する排出管を有する晶析装置であって、該供給管を複数有することを特徴とする晶析装置。
【請求項5】
該晶析槽がフラッシュ方式である請求項1〜4の何れか1項に記載の晶析装置。
【請求項6】
該晶析槽が撹拌機とバッフルとを有する請求項1〜5の何れか1項に記載の晶析装置。
【請求項7】
該排出管の下流に、芳香族カルボン酸結晶の破砕機能、芳香族カルボン酸スラリーの分散機能、混合機能、搬送機能のうち少なくとも1以上の機能を備える請求項1〜6の何れか1項に記載の晶析装置。
【請求項8】
晶析槽を2以上有し、異なる晶析槽間を接続する配管に、該配管を加熱する加熱機能を備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の晶析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202552(P2010−202552A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48509(P2009−48509)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】