説明

芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】 芳香族カルボン酸製造に当たり、製造プロセスで必要とされるエネルギー利用効率を向上させエネルギー消費量を低減させる。
【解決手段】 アルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成し、生成した芳香族カルボン酸をアルキル芳香族化合物から分離し回収する工程および/又は、アルキル芳香族化合物を酸化して得られた芳香族カルボン酸を還元する工程、を含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、該工程群の1以上の工程で使用されるエネルギーの少なくとも一部が、燃料の燃焼によって熱エネルギーと電気エネルギーとを生成するコジェネレーションシステムにより供給されることを特徴とする、芳香族カルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル芳香族化合物を酸化し芳香族カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸はポリエステルの合成原料等として有用であり、通常、アルキル基を有する芳香族化合物(以下、アルキル芳香族化合物と称する。)を酸化することにより製造される。芳香族カルボン酸として代表的なテレフタル酸を例に取ると、酢酸を溶媒とし、コバルト、マンガンを主体とする重金属触媒及び臭素化合物の存在下に、原料としてp−キシレンを用いて、分子状酸素を含有するガスによって加圧下に液相酸化して生成させる方法が工業的に行われている。一方、テレフタル酸のような芳香族カルボン酸は、世界中で商業的に大規模で生産されているので製造時のエネルギー消費量は多量であり、昨今の地球環境への負荷軽減の観点では省エネルギー化が期待されている。
【0003】
近年、環境面、コスト面等への配慮からエネルギー使用量を削減するための提案が行われている。例えば熱エネルギーに関しては、芳香族カルボン酸の製造過程で発生する排ガスの熱エネルギーによって水から蒸気を生成する例、酸化反応工程で得られたテレフタル酸スラリーの温度を低下させずに固液分離を行うことによって、酸化反応工程にリサイクルする溶媒を加熱する熱エネルギーを抑制する例、固液分離後のテレフタル酸ケーキの乾燥時に自らの潜熱および圧力を利用してフラッシュ乾燥する例、などが挙げられる。
【0004】
また、特許文献1には、芳香族カルボン酸を製造する方法において、蒸気タービン、電動機兼用の発電機、反応器に空気を供給する圧縮機、及び排ガスにより回転力を得る膨張機の回転軸を連結する例が記載されている。特許文献1によれば、小さい電力で起動させた後、反応器由来の排ガスや水蒸気により回転力を得るとともに発電を行いつつ徐々に定常運転に移ることで、エネルギーを効率的に回収し電力使用量を低減できることが提案されている。しかしながら、この方法によれば圧縮機の起動時に外部からの多量な電力供給が必要であり、そのために大規模な給電設備を必要とすることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−007608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように副生エネルギーの回収・再利用については種々の提案がなされているが、芳香族カルボン酸の製造において未だ十分なエネルギー利用効率は達成されていない。
テレフタル酸など芳香族カルボン酸は高温、高圧下での反応、精製、分離工程を含みエネルギー多消費型のプロセスであり、また一般に大規模なプラントで製造される。このため必要な電力や蒸気等をプラント内でそれぞれ製造、調達する例も多いが、エネルギー消費量が大きく環境面、コスト面からこれを削減したいとの要望がある。また電力は電力会社で発電したものを送電することも可能であるが、遠隔地からの送電に際しては送電ロスが発生し、エネルギー利用効率が低下する問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明では、芳香族カルボン酸製造に当たり、製造プロセスで必要とされるエネルギー利用効率を向上させ、エネルギー消費量を低減させることを目的とする。更に詳しくは、本発明は、芳香族カルボン酸の製造に必要な熱エネルギーおよび電気エネルギーを高効率で発生させるとともに、芳香族カルボン酸の製造に伴って発生した物質
やそのエネルギーを再度、エネルギー発生源として利用することにより、エネルギー利用効率を向上させることを目的とする。また、本発明では、芳香族カルボン酸製造プロセスで必要とされるエネルギー利用効率を向上させることにより、該製造プロセスからの実質的な炭酸ガス排出量等を抑制し、地球環境保全に貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討の結果、芳香族カルボン酸製造プロセスのエネルギー供給方法として、燃料の燃焼により熱エネルギーと電気エネルギーを同時に生成するコジェネレーションシステムを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
即ち本発明の要旨は、アルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成し、生成した芳香族カルボン酸をアルキル芳香族化合物から分離し回収する工程および/又は、アルキル芳香族化合物を酸化して得られた芳香族カルボン酸を還元する工程、を含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、該工程群の1以上の工程で使用されるエネルギーの少なくとも一部が、燃料の燃焼によって熱エネルギーと電気エネルギーとを生成するコジェネレーションシステムにより供給されることを特徴とする、芳香族カルボン酸の製造方法、に存する。
【0009】
また、上記本発明の製造方法において、前記コジェネレーションシステムにより供給される熱エネルギーと電気エネルギーとの合計量に対する熱エネルギーの比率(キロワット時換算)が30%〜90%の範囲であることが好ましい。
また、上記本発明の製造方法において、前記熱エネルギーが前記工程群の1以上の工程で使用される熱媒油の昇温及び/又は蒸気の生成に使用されることが好ましく、さらに、前記熱エネルギーにより生成した蒸気の少なくとも一部が蒸気タービンに導入され電気エネルギーの生成に使用されることも好ましい。
【0010】
また、上記本発明の製造方法において、前記コジェネレーションシステムがガスタービンエンジンと発電機とを備え、前記ガスタービンエンジンは、燃料を燃焼させて燃焼ガスを発生させる燃焼器、系外から酸素含有ガスを吸入し圧縮し前記燃焼器に供給する圧縮機、及び、前記圧縮機及び前記発電機と同一軸線上にあり前記燃焼ガスを膨張させ前記軸を回転させる膨張機を少なくとも有し、前記発電機が前記軸の回転により電気エネルギーを生成し、前記膨張機の排ガスから熱エネルギーを得ることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明の製造方法において、少なくとも下記の1以上の方法を有することが好ましい。
(1)酸化工程で発生する排ガスの少なくとも一部を膨張機に供給する。
(2)酸化工程で発生する排ガスからの熱交換によって蒸気を生成し、生成した蒸気の少なくとも一部を蒸気タービンに供給する。
(3)圧縮機によって圧縮された酸素含有ガスを酸化工程に供給する。
(4)発電機から発生する排熱を、前記工程群の1以上の工程で使用される熱エネルギーとして利用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族カルボン酸の製造プロセスにおいて、エネルギー利用効率向上により燃料使用量を顕著に削減できる。またこれに伴い各種設備のコンパクト化や機器数の削減を行える利点もある。更に、製造プロセスからの熱や二酸化炭素の発生量抑制により、実質的な炭酸ガス排出量等を抑制し、地球環境への影響の小さいプロセスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の芳香族カルボン酸製造方法に用いるコジェネレーションシステムの一例を説明するための説明図である。
【図2】本発明の芳香族カルボン酸製造方法に用いるコジェネレーションシステムの他の一例を説明するための説明図である。
【図3】本発明の芳香族カルボン酸の製造方法の一例を説明するための説明図である。
【図4】本発明の芳香族カルボン酸の製造方法における水素化精製プロセスの一例を説明するための説明図である。
【図5】本発明の芳香族カルボン酸の製造方法における排ガス処理工程の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を示して説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれらの内容に特定されず、種々変形して実施することができる。
[1]コジェネレーションシステム
本発明の芳香族カルボン酸の製造方法において用いるコジェネレーションシステムは、一次エネルギー(燃料)から熱エネルギーと電気エネルギーという2種以上のエネルギーを発生させるものである。特に、コジェネレーションシステムによれば、一次エネルギーから、少なくとも熱エネルギーと電気エネルギーとを同時にかつ連続的に発生させることができる。
コジェネレーションシステムに用いる燃料としては、芳香族カルボン酸製造プロセスからの排ガス等を用いても、系外(芳香族カルボン酸製造プロセス外)から供給される燃料を用いてもよいが、後者を主成分とすることが好ましい。特に、コジェネレーションシステムから発生させる全エネルギー(キロワット時換算)の50%以上に相当する燃料が系外から供給されることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
【0015】
本発明におけるコジェネレーションシステムは電気エネルギーのみ発生させるよりエネルギー効率が高く、従って設備面及びコスト面で有利なうえ、燃料消費量に比例する二酸化炭素発生量を抑制できる利点がある。また電気や熱を必要とする場所で必要に応じて熱及び電気を発生させることで送電ロスの発生も防ぐことができる。さらに、設備のコンパクト化ができるのでスペースの無駄を省くことができ、エネルギー供給信頼性も高い。なお、必要があれば本発明においてコジェネレーションシステムで発生するエネルギーを芳香族カルボン酸製造プロセス外に供給してもよい。また、本発明では、芳香族カルボン酸の製造においてコジェネレーションシステム以外の他のエネルギー発生源と併用することもできる。
【0016】
本発明によれば、発生した熱エネルギー及び電気エネルギーを有効利用できるため、エネルギー利用効率(キロワット時換算)は50%以上とすることができる。好ましい例によれば60%以上、より好ましい例によれば80%以上、更に好ましい例によれば90%以上とすることができる。なお本明細書においてエネルギー利用効率とは、コジェネレーションシステムで発生させたエネルギー量に対する利用エネルギー量の総和を示すものである。
【0017】
コジェネレーションシステムにより供給される全エネルギー(熱エネルギーと電気エネルギーの合計量)に対する熱エネルギーの比率(キロワット時換算)は30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上である。また熱エネルギーの比率は90%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下である。熱/電気エネルギーの比率をこの範囲とすることで、芳香族カルボン酸の製造プロセスにおける熱/電気エネルギーの消費比率に合致させることができ、エネルギー利用効率が最大限に高まる。従って、コスト面及び環境面で好ましい。
【0018】
コジェネレーションシステムとしては各種の原動機を用いた公知のシステムを使用でき、ガスタービンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの原動機が用いられる。ガスタービンエンジンは一般に熱エネルギー:電気エネルギーの生成比率が約2:1付近、ディーゼルエンジン及びガスエンジンは約1:1付近である。このため、特にガスタービンエンジンを用いると、芳香族カルボン酸の製造プロセスにおける熱エネルギーの比率を前述の好ましい範囲内とするのが容易である。一方、前記範囲を外れると、エネルギー利用効率は低下傾向にある。このように、コジェネレーションシステムは、あらゆる種類の化学品製造工程に容易に適用できるものではなく、また、容易にエネルギー利用効率の向上という利点を享受できるものではないが、特に芳香族カルボン酸の製造プロセスにおいて顕著なエネルギー効率向上を図ることができる。
【0019】
なお、ガスタービンエンジンを用いたコジェネレーションシステムの場合、通常、同エンジンによる発電により電気エネルギーを生成し、ガスタービンエンジンの排ガスから熱エネルギーを得る。ガスタービンエンジンの排ガスは極めて高温であるため熱エネルギーとして高品質であり、エネルギー利用効率も高まる。特に熱エネルギーを熱媒油の昇温や蒸気の生成に使用すると、高温の熱媒油や高圧蒸気が得られ好ましい。
【0020】
コジェネレーションシステムに使用する燃料として系外から供給される燃料を用いる場合、その燃料は可燃性物質であれば限定されないが、燃料油及び/又は燃料ガスを使用することが好ましい。外部から供給する燃料としては、燃料油としては例えば灯油、軽油、A重油など、燃料ガスとしては例えば天然ガス、LNG、LPG、メタン、エタン、プロパン、プロセス外の副生ガスなどを用いうる。燃料として天然ガスなどの二酸化炭素排出量の少ない燃料を選択すると、石炭や重油などを使用する場合に比べて、同一発熱量基準で更に二酸化炭素排出量を20〜30%低減できるので好ましい。
さらに本発明では、前述のとおり、芳香族カルボン酸製造プロセスから排出される排ガスなど、可燃性物質を含有するガスを燃料として一部使用することで、エネルギー効率を上げることができる。
【0021】
また、本発明では、各種木材やとうもろこし、米、麦、サトウキビ、雑草、廃材、その他各種植物等、燃焼可能な固体状物質を燃料として使用することもできる。さらには、バイオマスを用いた燃料を使用することで更に実質的な二酸化炭素排出量を低減できる。バイオマス燃料としては、バイオエタノール、バイオデイーゼル、これらから製造されるメチルターシャリーブチルエーテル、エチルターシャリーブチルエーテル等を使用することができる。その他、燃焼助剤も併用することができ、メタノール、酢酸メチル、水素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の芳香族カルボン酸製造方法に用いるコジェネレーションシステムの一例を図1に示す(例1)。
ガスタービンエンジン4は、圧縮機1、圧縮機起動用の電動機1a、燃焼器2、膨張機(タービン)3から構成されており、これらが一体化されていることが好ましい。膨張機3は通常、圧縮機1と同一軸線上にある。また発電機5とも同一軸線上にある。なお、圧縮機起動用電動機1aは別個に設置していてもよい。

まず圧縮機起動用電動機1aで圧縮機1を起動する。空気ライン11より吸入され吸収式冷凍機6にて冷却された空気は、一定温度で一定量ずつ圧縮機(軸流式圧縮機)1に供給され、圧縮されて燃焼器2へ送られる。圧縮機1においては断熱圧縮方式で空気の圧縮を行うことが望ましい。
【0023】
さらに、本発明において、圧縮機1で圧縮された空気の一部は、後述する芳香族カルボ
ン酸製造プロセスの酸化工程に供給し、酸素源(分子状酸素含有ガスBまたはB’)として用いてもよい。圧縮機1で圧縮された空気を酸化工程に供給することにより、酸素源を供給するための装置を別個に設ける必要が無くなるほか、圧縮機1を起動することにより、直ちに酸素源を供給することが可能となる。
【0024】
燃焼器2では燃料ライン12より供給された燃料と圧縮機1で圧縮された空気を混合燃焼し、高温高圧の燃焼ガスを発生させる。燃焼ガスは膨張機3へ送られ膨張されるが、このとき膨張機3を回転させ、同一軸上にある圧縮機1及び発電機5を回転させる。すなわち、高温高圧の燃焼ガスを膨張機3のタービンに吹き付け、その回転エネルギーによって発電機5を通じて電気エネルギーを取り出す。発電機5で発電された電気エネルギーは電力ライン13を通して芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給される。なお圧縮機1は一旦起動された後は膨張機3により回転されるため、圧縮機起動用電動機1aは停止させてよい。
圧縮機1が備える静翼は、角度可変構造であることが好ましい。負荷の変動に応じて静翼の角度を制御することで圧縮効率や起動特性を向上させることができ、負荷変動にも強いシステムとすることができる。
【0025】
膨張機3からは、上記の通り電気エネルギーが取り出されると同時に、排ガスライン14を通して高温の排ガスがボイラー7へ供給される。水ライン15を通してボイラー7に供給される水は高温の排ガスによって加熱され高圧の蒸気となり、蒸気ライン16を通して芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給される。ボイラー7の出口排ガスは排ガスライン17を通して排出されるが、まだ十分高温であるため更に熱交換器等に送ることで蒸気の発生等に使用しうる。
【0026】
好ましい例としては、ボイラー7で得られた高圧の蒸気を蒸気タービン(図示せず)に導入して電気エネルギーの生成に利用される。このように、本発明におけるコジェネレーションシステムに加えて蒸気タービンを併設すれば、熱エネルギーと電気エネルギーとの供給量の調節が更に容易になるとともに、総エネルギー消費量を抑制することができる。なお、使用後の蒸気は更に芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給し熱源として用いてもよい。
【0027】
ガスタービンエンジンの燃焼器2における燃焼温度は通常500℃以上と高いため、熱エネルギー源として非常に良質である。燃焼温度は、好ましくは800℃以上、より好ましくは1200℃以上である。また通常、燃焼温度は1500℃以下であり、好ましくは1300℃以下である。
膨張機3から排出される排ガスの温度は通常400℃以上であり、好ましくは500℃以上である。排ガスの温度が前記下限値より高いほど熱エネルギーとして良質である。また排ガスの温度は通常800℃以下であり、好ましくは600℃以下である。排ガスの温度を前記の上限値以下とすることで、耐熱性の低い設備が使用可能であるためコストが低減できる。
【0028】
燃焼器2や膨張機3は非常な高温に曝されるため、一部又は全部の材質をセラミックス製とするか、或いはセラミックスコーティングを施すことが望ましい。
膨張機3の出口から排出される排ガスは温度が高く、また通常、燃焼に十分な酸素が残存していることから、ボイラー7の前に排ガス中に燃料を噴射して燃焼させる追い焚きシステムを追加してもよい。追い炊きを行うことで排ガスがより高温となり熱エネルギー量を増大させることができ、より多くの水や熱媒油を加熱でき、又はより多くの蒸気を発生させることができる。しかも燃料供給量を大幅に増加させる必要がない。なお膨張機3の出口排ガス中の酸素濃度は2〜20体積%の範囲であることが望ましい。
【0029】
燃焼器2での燃料の燃焼に用いる気体は酸素含有ガスであれば特に限定されず、例えば空気、酸素富化空気、不活性ガスで希釈された酸素等が用いうるが、低コストである空気が工業的に好ましく用いられる。通常、酸素含有ガスの大部分は圧縮機1から供給される。
本システムの運転安定化及び効率的運転のためには圧縮機1への空気供給量を一定に保つことが望ましい。このため圧縮機1の空気吸入口に温度制御装置を設置して空気の温度を制御し一定に保ち、単位体積当たり空気重量を一定に保つことが好ましい。空気の温度制御にあたっては加熱しても冷却してもよいが、冷却すると単位体積当たり空気重量を大きくでき、その結果吸気できる空気量が増し圧縮効率を上げることができるため好ましい。
【0030】
より好ましくは、圧縮機1へ供給する空気を冷却するために吸収式冷凍機6を用いる。吸収式冷凍機6を用いることは、特に熱帯や亜熱帯地域、夏場の気温が高い温帯地域でガスタービンエンジンを設置する場合に有効である。なお、吸収式冷凍機とは、吸収力の高い液体に冷媒を吸収させることにより低圧で気化させて低温を得る冷凍機を言う。吸収式冷凍機の冷媒−吸収液としては、水−臭化リチウム、アンモニア−水の組合せが広く使用されるが、これに限定されない。吸収式冷凍機の設置により、ガスタービンエンジンの圧縮機1への吸気温度を25℃以下とすることが好ましく、より好ましくは20℃以下、更に好ましくは10℃以下とする。また通常、圧縮機1への吸気温度は0℃以上であり、好ましくは5℃以上である。
【0031】
本発明の芳香族カルボン酸製造方法に用いるコジェネレーションシステムの他の一例を図2に示す(例2)。なお、図2において図1と同様の部位は、同様の符号を付して示し、その説明を省略する。
ガスタービンエンジン4は、圧縮機1、圧縮機起動用の電動機1a、燃焼器2、膨張機(タービン)3から構成されており、これらが一体化されていることが好ましい。膨張機3は通常、圧縮機1と同一軸線上にある。また発電機5とも同一軸線上にある。
【0032】
膨張機3から排ガスライン14を通して高温の排ガスがボイラー7へ供給される。一方、熱媒油ライン18より供給される熱媒油は、必要に応じて油供給タンク8を設けて一旦溜められた後、ボイラー7へ供給され、加熱され高温の熱媒油となった後、熱媒油ライン19を通して芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給される。加熱後の熱媒油温度は通常300〜320℃である。熱媒油は通常、後述する芳香族カルボン酸の製造プロセスにおける高温追酸化工程での加熱や還元工程での加熱等に使用しうる。
【0033】
またボイラー7の出口排ガスは依然として高温高圧であり、排ガスライン17を通して熱交換器9へ供給され、水ライン15’を通して供給される水を加熱して蒸気とする。得られる蒸気は通常0.1〜6MPaの範囲であり、蒸気ライン16’を通して芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給される。
熱媒油としては有機系、無機系、シリコーン系、フッ素系、鉱油系などがあるが、好ましくは有機系熱媒油である。有機系熱媒油は熱安定性が高く、高温領域での使用が可能で、経済性に優れる。有機系熱媒油としては、アルキルベンゼン系、ジベンジル系、アルキルナフタリン系等があり、市販品としては例えば綜研テクニックス株式会社製のSK−OIL(商品名)、NeoSK−OIL(商品名)等がある。
【0034】
例1と例2を比較すると、例1は、より高圧の蒸気が得られ、また蒸気タービンの併用で電気エネルギーをより多く得られる利点がある。一方、例2は例1に比べて熱エネルギーをより有効利用でき、エネルギー利用効率がより高い利点がある。
本発明に用いうるガスタービンエンジンは、圧縮機1、圧縮機起動用の電動機1a、燃焼器2、膨張機3が一体化された構成とすることにより、設備がコンパクトで設置面積も
少なくすることが出来る。また前述の通り熱/電気エネルギーの生成比率が芳香族カルボン酸の製造プロセスにおける熱/電気エネルギーの消費比率に近いうえ、装置の構成や運転条件ぼ制御により更に熱/電気エネルギーの生成比率を近づけることができるため、エネルギー利用効率を最大限に高め得る。更に、ガスタービンエンジンの燃焼温度は極めて高いため熱エネルギー源として非常に良質であり、高温の熱媒油や高圧蒸気が得られる利点がある。
【0035】
また、ガスタービンエンジン起動の際には圧縮機起動用電動機が用いられるが、消費電力は通常、定常運転時の10分の1以下に過ぎず、より好ましい例によれば30分の1以下である。すなわち従来のように芳香族カルボン酸製造装置の起動時に大電力を必要としない。
ガスタービンエンジンとしては従来公知のものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、三菱重工業製のMシリーズ、MFシリーズ、石川島播磨重工業製のLMシリーズ、川崎重工業製のMシリーズ、Lシリーズ、その他GE社製、SIEMENS社製の製品などが挙げられる。なお、蒸気噴射式ガスタービンなどの採用も可能である。ガスタービンエンジンの出力は適用する芳香族カルボン酸製造プロセスの規模等に応じて決定すればよく、特に限定されないが、コジェネレーションシステムとして、発電端出力が3〜50MW/基のものが好ましい。
また排ガスを利用するボイラーは加熱能力(交換熱量)が4〜75MMkcal/h/基(百万kcal/h/基)のものが好ましい。ボイラーの構造は限定されないが、丸ボイラー、水管ボイラー、鋳鉄ボイラー、特殊ボイラーなどが挙げられる。
【0036】
[2]芳香族カルボン酸の製造方法
次に、本発明のコジェネレーションシステムを適用した芳香族カルボン酸の製造方法について説明する。
本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、アルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成し、生成した芳香族カルボン酸をアルキル芳香族化合物から分離し回収する工程および/又は、アルキル芳香族化合物を酸化して得られた芳香族カルボン酸を還元する工程、を含む工程群からなる。そして、前記コジェネレーションシステムにより供給される熱エネルギー及び電気エネルギーは、芳香族カルボン酸製造プロセスにおける前記工程群の1以上の工程で使用される。
【0037】
電気エネルギーはこれら工程群における加圧、撹拌、分離等に、熱エネルギーは加熱、溶解等にそれぞれ使用することができる。特に、熱エネルギーは熱媒油の昇温や蒸気の生成に使用し、これら熱媒油及び蒸気を各工程での昇温に用いることが好ましい。熱及び/または電気エネルギーが使用される工程は芳香族カルボン酸製造プロセスであれば限定されず、後述する酸化工程、固液分離工程、ケーキ洗浄工程、乾燥工程、還元工程(水素化工程)、晶析工程、廃棄物処理工程、触媒回収工程、触媒再生工程、溶媒回収・蒸留工程、排水処理工程、排ガス処理工程などのいずれでもよく、また複数の工程に用いてもよい。中でも、酸化工程や、固液分離工程、還元工程に用いる熱エネルギー及び電気エネルギーとして、コジェネレーションシステムを供給源とすることが好ましい。
【0038】
以下、芳香族カルボン酸の製造方法の第一実施形態について、図3を用いて詳細に説明する。なお本発明は、以下に説明する実施形態に係るものに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施することができる。
[酸化工程]
酸化工程では、酸化反応器111に原料であるアルキル芳香族化合物Aを導入し、溶媒C中でアルキル芳香族化合物Aを分子状酸素含有ガスBにより酸化して芳香族カルボン酸を生成させ、溶媒との混合物であるスラリーDを得る。なお、本発明においてアルキル芳香族化合物Aとは、アルキル基を持つ芳香族化合物だけでなく、一部酸化されたアルキル
基を持つ芳香族化合物も含む概念である。本発明において原料及び溶媒の混合物は、液相、気−液2相、気−液−固3相の様々なケースが挙げられ、限定されない。
【0039】
本発明におけるガスタービンエンジン4を用いて芳香族カルボン酸製造装置を起動する際の運転操作としては、まず圧縮機起動用電動機1aに給電して圧縮機1を起動させ、圧縮機1にて加圧された空気と燃料ライン12より供給された燃料とを燃焼器2内で燃焼し、得られた高温高圧のガスを膨張機3に吹き付けて回転力を得る。一方、圧縮機で圧縮された空気の一部を、酸化反応器111に供給することにより酸化反応が開始される。
酸化反応開始後は、後述する通り、酸化反応によって発生する排ガスを燃焼器2に供給することにより、空気または燃料の一部又は全部を代替することができる。その後、圧縮機起動用電動機1aは停止して定常運転に入る。
この通りガスタービンエンジン4を用いて芳香族カルボン酸製造装置を起動することにより、起動用電力が従来の方法に比べて約10分の一、好ましくは約30分の一とすることができる。
【0040】
本発明が対象とする芳香族カルボン酸の種類は限定されないが、例えばオルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸(ベンゼントリカルボン酸)、2,6−、又は2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。なかでもフタル酸類(オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)の製造の際に本発明を適用することが好ましく、特にテレフタル酸の製造に適用することが好ましい。
【0041】
芳香族カルボン酸の原料となるアルキル芳香族化合物Aとしては、例えば、ジ−及びトリ−アルキルベンゼン類、ジ−及びトリ−アルキルナフタレン類並びにジ−及びトリ−アルキルビフェニル類が挙げられる。好ましくは、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、o−、m−、又はp−ジイソプロピルベンゼン、トリメチルベンゼン類、2,6−又は2,7−ジメチルナフタレン、2,6−ジイソプロピルナフタレン、4,4’−ジメチルビフェニルなどが挙げられる。なかでもメチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基等の炭素数1以上、4以下のアルキル基を2個以上、4個以下有する、単環又は多環の芳香族化合物が、反応性が高く好ましい。また原料アルキル芳香族化合物は一部酸化されたアルキル芳香族化合物(一部酸化アルキル芳香族化合物)を含んでもよく、全てが一部酸化アルキル芳香族化合物であってもよい。
【0042】
一部酸化アルキル芳香族化合物とは、上記アルキル芳香族化合物におけるアルキル基が酸化されて、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基又はヒドロキシアルキル基等に酸化されているものの、目的とする芳香族カルボン酸となる程には酸化されていない化合物である。具体的には、例えば3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、4−カルボキシベンズアルデヒド(以下、適宜「4CBA」と称する。)、p−トルアルデヒド、m−トルイル酸、p−トルイル酸、3−ホルミル安息香酸、4−ホルミル安息香酸及び2−メチル−6−ホルミルナフタレン類等を挙げることができる。
【0043】
原料としてはこれら化合物を単独で、又は2種以上の混合物として用いうる。
以上総合して、アルキル芳香族化合物Aとしてはキシレン類(o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン)が好ましく、特にp−キシレンが好ましい。アルキル芳香族化合物Aとしてp−キシレンを用いる場合、一部酸化アルキル芳香族化合物としては、例えば4CBA、p−トルアルデヒド、p−トルイル酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸としてテレフタル酸が得られる。
【0044】
分子状酸素含有ガスBとしては分子状酸素を含むガスであればよく、例えば空気、酸素富化空気、不活性ガスで希釈された酸素等が用いられる。コストが低い空気が工業的に好
ましい。分子状酸素含有ガスBの供給量は、p−キシレンに対し分子状酸素として通常3〜100倍モルである。空気の酸素含有率は通常、入口で21体積%である。
前記の通り、分子状酸素含有ガスBの供給源として、コジェネレーションシステムの圧縮機1で圧縮された空気を用いることができる。これにより、酸素源を供給するための装置を別個に設ける必要が無くなるほか、圧縮機1を起動することにより、直ちに酸素源を供給することが可能となる。
【0045】
アルキル芳香族化合物Aを酸化する際には、通常、触媒が用いられる。触媒の種類としては、アルキル芳香族化合物を酸化し芳香族カルボン酸を生成する反応を促進する能力を有するものであれば特に制限はない。好ましくは重金属化合物からなる触媒である。重金属化合物に含まれる重金属としては、例えばコバルト、マンガン、ニッケル、クロム、ジルコニウム、銅、鉛、ハフニウム及びセリウム等が挙げられる。これらは単独で、または組み合わせて用いることができるが、特にコバルトとマンガンとを組み合わせて用いることが好ましい。このような重金属の化合物としては、例えば酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナート塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩及び臭化物等を挙げることができる。なかでも酢酸塩及び臭化物が好ましい。
【0046】
触媒は必要に応じて臭素化合物などの触媒助剤を含んでいてもよい。臭素化合物としては、例えば分子状臭素、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化コバルト及び臭化マンガン等の無機臭素化合物や、臭化メチル、臭化メチレン、ブロモホルム、臭化ベンジル、ブロモメチルトルエン、ジブロモエタン、トリブロモエタン及びテトラブロモエタン等を挙げることができる。
【0047】
これらの触媒や触媒助剤はそれぞれ単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。好ましい態様としては、コバルト及び/又はマンガンの化合物を用い、触媒助剤として臭素化合物を用いる態様である。特に好ましくは、酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素の組合せが挙げられる。
重金属化合物と臭素化合物との組合せからなる触媒の場合、重金属原子1モルに対して臭素原子0.05モル以上とするのが好ましく、また臭素原子10モル以下とするのが好ましい。この範囲とすることで触媒活性が高まる。
【0048】
触媒の濃度は、アルキル芳香族化合物の酸化反応を促進し得る範囲であれば特に限定されないが、溶媒中の重金属濃度として通常10ppm以上、好ましくは100ppm以上とする。一方、重金属濃度として通常10000ppm以下とし、好ましくは5000ppm以下とする。重金属濃度を前記下限値以上とすることで反応速度が高まり、前記上限値以下とすることでコストが抑制できるとともに排液や排ガス中の重金属濃度、臭素濃度を低減でき、環境面、安全面で好ましい。
【0049】
溶媒Cは、通常、生成する芳香族カルボン酸の少なくとも一部を溶解しうるものが用いられる。なお、常圧(以下本発明では、常圧とは、特に言及しない限り「0.101MPa」を指すものとする。)では芳香族カルボン酸が不溶又は難溶であっても、酸化反応条件下で少なくとも一部を溶解しうるものであればよい。溶媒Cの常圧における沸点は好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、また好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。下限値以上とすることで取り扱いや回収が容易となり、上限値以下とすることで後工程での固液分離、乾燥が容易となる。
【0050】
溶媒Cの種類は限定されず、水なども用いうる。溶解性などの点からは脂肪族カルボン酸を含有することが好ましく、これらを主成分とすることがより好ましい。酢酸、プロピオン酸、蟻酸及び酪酸を主成分とする溶媒が更に好ましく、なかでも溶解性及び取り扱いの容易性から酢酸を主成分とする溶媒が好ましい。なお、主成分とするとは溶媒の全重量
の60重量%以上を占めることを言う。特に好ましくは酢酸と水との混合物である。酢酸と水との比率は、酢酸100重量部に対して水が通常1重量部以上であり、好ましくは5重量部以上である。また、通常40重量部以下であり、好ましくは25重量部以下である。酢酸100重量部に対する水の比率を前記上限値以下とすることで反応効率を向上させることができ、下限値以上とすることで酢酸の燃焼分解をより低減でき、エネルギー面、経済面での節源が図れ、それぞれ好ましい。
溶媒Cの量は原料や目的反応物の溶解性等により適宜変更可能であるが、アルキル芳香族化合物Aに対して、重量比で1倍量以上が好ましく、5倍量以下が好ましい。
【0051】
アルキル芳香族化合物Aの酸化反応は、加圧状態の反応装置内において、即ち常圧を超える圧力下で行われる。酸化反応器111の圧力は、好ましくは0.2MPa以上(絶対圧。以下同じ。)とし、より好ましくは0.5MPa以上とし、更に好ましくは1MPa以上とする。液相酸化の反応効率を高めるためには、反応温度において溶媒Cとアルキル芳香族化合物Aとの混合物が液相を保持できる圧力以上とすることがより好ましい。また、反応後のスラリーを固液分離装置へ移送しやすくするためにも、酸化反応器111の圧力は高いことが好ましい。一方、酸化反応器111の圧力は通常50MPa以下とする。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができコストが節減できる。
【0052】
酸化反応器111の温度は、通常100℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上とする。温度が前記下限値より高いほど反応速度を高め収率を上げることができる利点がある。また、温度は通常600℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは230℃以下とする。温度が前記上限値より低いほど溶媒の燃焼による損失量を抑えることができる。また副反応や酸化反応系内の化合物の分解を抑制でき、収率の低下が抑えられる利点がある。
【0053】
酸化反応は連続的に行うと生産効率が高まるため好ましい。
酸化反応器111の種類は限定されず、例えば攪拌機付き反応器、気泡塔反応器、プラグフロー型(配管流通型)反応器などいずれでもよい。反応効率を高めるには攪拌機付き完全混合槽型反応器とすることが好ましい。
【0054】
反応ガスMは、必要に応じて凝縮器112にて溶媒Cを主とする凝縮液Nが凝縮分離された後、凝縮器排ガスOとして排出される。凝縮器112は1器でもよいし複数の凝縮器からなってもよい。
酸化反応器111の下部には、通常、分子状酸素含有ガスBの供給口が設けられ、供給された分子状酸素含有ガスBは、アルキル芳香族化合物Aの酸化反応に利用された後、多量の溶媒Cの蒸気を含む反応ガスMとして酸化反応器111の塔頂部より抜き出される。
【0055】
分子状酸素含有ガスBの供給量及び酸素濃度は、凝縮器排ガスO中の酸素濃度が特定範囲となるように制御するのが好ましい。好ましくは凝縮器排ガスO中の酸素濃度が0.5容量%以上、より好ましくは2容量%以上とする。酸素濃度が前記下限値より高いほど反応効率が高まる利点がある。また酸素濃度が好ましくは10容量%以下、より好ましくは7容量%以下となるよう制御する。酸素濃度を前記上限値より低くすることで安全性が高まる。なお、凝縮器112が複数からなる場合は、最終凝縮器の排ガスを凝縮器排ガスOとする。
【0056】
通常、凝縮液Nは水分を含有しており、系内の水分量調整のためにその一部を系外にパージし、残りは酸化反応器111に還流させる。また、凝縮器排ガスOを二つの流れに分
岐させ、一方は系外に排出させ、他方は酸化反応器111に連続的に循環供給させてもよい。排出される排ガスは後述する排ガス処理工程にて処理することができる。
また、溶媒Cとして酢酸などの脂肪族カルボン酸を用いる場合、酸化反応器111中の溶媒Cの水分濃度は以下のようにして好ましい範囲内に調整しうる。即ち、溶媒Cとして純粋な酢酸などの脂肪族カルボン酸を供給し、後述する母液Fや洗浄排液Jの一部を再利用すると共に、水を含む凝縮液Nの一部を系外にパージする量を調節するのである。このようにして、溶媒Cの水分濃度を反応への影響を無視できる程度に抑えうる。
【0057】
或いは、凝縮器112に代えて蒸留塔を用いてもよい。脂肪族カルボン酸と水との分離が可能な蒸留塔を酸化反応器111に連結し、酸化反応器111で発生した反応ガスMを蒸留塔で蒸留する。塔底から得られる水分濃度が低減された脂肪族カルボン酸を酸化反応器111に回収するとともに、塔頂から得られる水を含む成分を例えば系外にパージするなどして、系内の水分量を調整することができる。
【0058】
近年、溶媒Cとして超臨界又は亜臨界状態の水を用い、高温高圧下でアルキル芳香族化合物の酸化反応を行い芳香族カルボン酸を得る方法も提案されている。この方法は、酢酸などの有機溶媒を用いないため環境面、安全面で好ましい。水の臨界点の温度は374.3℃、圧力は22.1MPaであり、超臨界状態の水とは臨界点以上の温度及び圧力下の水である。亜臨界状態の水とは、臨界点以下であって超臨界に類した状態である場合を言い、一般には温度が200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは280℃以上である。また、アルキル芳香族化合物の分解抑制、プロセス装置の耐熱性、エネルギーコスト等の点から通常600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下である。圧力は通常6MPa以上、好ましくは10MPa以上、また通常50MPa以下、好ましくは40MPa以下である。なお、反応に著しい悪影響がない限り他の任意の溶媒を含有してもよい。
【0059】
溶媒Cとして超臨界又は亜臨界状態の水を用いる場合、反応の際には触媒は必須ではないが、芳香族カルボン酸収率を高めるためには触媒を用いることが望ましく、例えば前記した酸化触媒などを用いうる。酸化反応器111は超臨界又は亜臨界状態を保持できる装置であれば特に限定されないが、反応が連続で行える連続フローリアクターが生産性が高く好ましい。溶媒Cとして超臨界又は亜臨界状態の水を用いる場合、高温高圧条件が必要であり従来法に比べてエネルギー所要量が大きいため、本発明を適用するとより効果が高い。
【0060】
酸化工程の一部として、酸化反応器111での酸化反応の後、必要に応じて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理とは、酸化反応器111での酸化反応で得られた反応混合物を、追酸化反応器111’において、アルキル芳香族化合物Aを供給することなく分子状酸素含有ガスB’を供給し酸化処理することである。なお、追酸化処理の条件については、以下に記載する事項以外は酸化反応器111における酸化反応と同様である。
【0061】
追酸化処理の好ましい一例としては、酸化反応器111で得られた反応混合物に、より低温に保持した追酸化反応器111’において追酸化処理を行う(以下、「低温追酸化」という)。アルキル芳香族化合物Aがp−キシレンであれば、追酸化反応器111’の温度は酸化反応器111より1℃以上低温とすることが好ましく、より好ましくは5℃以上低温とする。また20℃以下低温とすることが好ましく、より好ましくは15℃以下低温とする。具体的な温度としては、通常140℃以上、好ましくは160℃以上である。また通常220℃以下、より好ましくは200℃以下である。低温追酸化反応の温度を前記下限値以上とすることにより、芳香族カルボン酸粒子が溶解しやすくなり純度が高まる傾向がある。また温度を前記上限値以下とすることで、着色性の不純物の生成が抑えられる傾向がある。
【0062】
追酸化処理の他の好ましい一例としては、酸化反応器111で得られた反応混合物に、より高温に保持した追酸化反応器111’において追酸化処理を行う(以下、「高温追酸化」という)。アルキル芳香族化合物Aがp−キシレンであれば、追酸化反応器111’の温度は酸化反応器111より1℃以上高温とすることが好ましく、より好ましくは30℃以上高温とする。また150℃以下高温とすることが好ましく、より好ましくは100℃以下高温とする。具体的な温度としては、通常235℃以上、好ましくは240℃以上である。また通常290℃以下、より好ましくは280℃以下である。高温追酸化反応の温度を前記下限値以上とすることにより、芳香族カルボン酸粒子が溶解しやすくなり純度が高まる傾向がある。また温度を前記上限値以下とすることで、着色性の不純物の生成が抑えられる傾向がある。
【0063】
追酸化処理は1回のみ行ってもよいし、2回以上連続して行ってもよい。例えば低温追酸化を2回以上行ってもよいし、低温追酸化と高温追酸化を各1回以上行ってもよいし、高温追酸化を2回以上行ってもよい。好ましくは追酸化処理を1回以上行い、より好ましくは少なくとも低温追酸化を1回行う。
【0064】
追酸化処理も加圧状態、即ち常圧を超える圧力下で行われることが好ましく、反応温度において内部の混合物が液相を保持できる圧力以上とすることがより好ましい。また、反応後のスラリーを固液分離装置へ移送しやすくするためにも追酸化反応器111’の圧力は高いことが好ましい。好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上とする。一方、圧力は通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、更に好ましくは2MPa以下とする。追酸化反応の圧力を前記範囲とすることで、副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。なお、酸化反応器111からスラリーDを効率的に追酸化反応器111’に導入するため、酸化反応器111よりも低い圧力とすることが望ましい。
分子状酸素含有ガスB’の供給量は、体積比で、分子状酸素含有ガスBの供給量の1/10000以上であることが好ましく、また1/5以下であることが好ましい。
【0065】
以上のようにして酸化反応が行われ、酸化反応器111又は追酸化反応器111’から芳香族カルボン酸と溶媒Cとを含むスラリーD又はD’が抜き出される。芳香族カルボン酸は通常固体として、好ましくは結晶として得られ、少なくとも固体の化合物と溶媒を含むスラリーが得られる。なお芳香族カルボン酸の一部が溶媒Cに溶解していてもよい。このスラリーD又はD’は溶媒Cや芳香族カルボン酸の他に、触媒、原料のアルキル芳香族化合物、及び副生成物(例えば、一部酸化アルキル芳香族化合物)などを含みうる。副生成物としては、p−キシレンからテレフタル酸を製造する場合には例えば4CBA、p−トルアルデヒド、p−トルイル酸、酢酸メチル等が挙げられる。
【0066】
以下では便宜上、反応装置が酸化反応器111のみからなり、酸化反応器111から抜き出されるスラリーDを反応装置から抜き出されるスラリーとする場合について説明する。この説明は、追酸化反応器111’から抜き出されるスラリーD’を反応装置から抜き出されるスラリーとした場合にも同様に適用される。
【0067】
[分離・回収工程]
本発明において分離・回収工程とは、生成物である芳香族カルボン酸をアルキル芳香族化合物から分離し回収する工程をいう。この工程は、固液分離工程、ケーキ洗浄工程、乾燥工程等から構成される。
【0068】
[固液分離工程]
固液分離工程では、スラリーDを溶媒と芳香族カルボン酸とに固液分離するために固液分離装置113へ移送する。なお必要に応じて固液分離工程前に晶析工程を加えてもよい。酸化反応器111と固液分離装置113との間には、ポンプや圧力弁を設けて適宜、スラリーDの圧力を調整してもよいが、酸化反応器111から固液分離装置113まで加圧状態を維持したまま移送されるのが好ましい。
【0069】
固液分離装置113は加圧状態でスラリーDを芳香族カルボン酸ケーキEと母液Fとに固液分離する。加圧状態で固液分離を行うと内部エネルギーの大きいケーキが得られ、後のケーキの乾燥工程でケーキ付着液の蒸発を効率的に行うことができる利点がある。また加圧状態の母液Fが得られるため、加圧状態を保ったまま反応装置に移送し溶媒としてリサイクルすれば、再加圧のためのエネルギーを低減できる利点がある。
【0070】
固液分離工程の圧力は、通常0.2MPa以上、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上とする。母液の蒸発抑制のため、その温度における溶媒Cの蒸気圧より高圧とすることが望ましい。一方、圧力は通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、更に好ましくは3MPa以下、特に好ましくは2MPa以下とする。低めの圧力とすることで耐圧性がやや低い装置が使用でき、コストが節減できる。
【0071】
また、固液分離装置の圧力がスラリーDの蒸気圧より0.01MPa以上高いことが好ましく、0.02MPa以上高いことがより好ましい。母液の蒸発抑制のためである。一方、固液分離装置の圧力がスラリーDの蒸気圧より2.0MPa以下高いことが好ましく、1.0MPa以下高いことがより好ましく、0.5MPa以下高いことが更に好ましい。
固液分離装置113としては公知の装置を制限なく使用しうるが、例えば、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルデカンターのような遠心分離機や、水平ベルトフィルター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルター等を用いることができる。
【0072】
[母液リサイクル工程]
固液分離装置113で分離された母液Fは、通常固液分離装置113内の母液槽に一旦蓄積された後、母液タンク120に回収されるが、反応に用いた溶媒が主成分であり、溶解した芳香族カルボン酸や、未反応のアルキル芳香族化合物、触媒、副生成物、水などが含まれている。従って母液Fは酸化反応器111へ移送して、溶媒、未反応原料、触媒を再利用するとともに、含まれる芳香族カルボン酸を反応系内に戻すと、プロセス全体の収率を上げることができ好ましい。固液分離を加圧下で行なう場合、母液Fは加圧状態を維持したまま酸化反応器111へ移送すると再加圧ためのエネルギーが節減でき、好ましい。また、母液タンク120の温度は通常50℃以上、好ましくは70℃以上であり、通常190℃以下、好ましくは180℃以下である。
【0073】
プロセス内に副生成物や触媒などの不純物が蓄積するのを避けるため、母液Fの一部をパージ母液として廃棄処理工程119へ送って処理後廃棄し、残部をリサイクル母液として酸化反応器111へ送ることができる。廃棄処理工程119は、例えば溶媒蒸発工程や触媒回収工程などからなる。
【0074】
[ケーキ洗浄工程]
固液分離装置113で得られた芳香族カルボン酸ケーキEは、そのまま乾燥してもよいが、洗浄装置114で洗浄を行うと、不純物や副生成物、触媒等を除去でき、得られる芳香族カルボン酸の純度が高まるので好ましい。
洗浄装置114では芳香族カルボン酸ケーキEが洗浄液Hにより洗浄され、ケーキに付
着していた母液が除去され不純物濃度が低減された洗浄ケーキGが得られる。洗浄に用いる洗浄液Hは、水や有機溶媒などを用い得、特に制約はないが、酸化反応器111で用いる溶媒Cと相溶するものが好ましい。例えば溶媒Cが酢酸や水を主成分とする溶媒である場合、洗浄液Hとしては酢酸、水、或いは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の比較的蒸発潜熱の小さい酢酸エステル類、又はこれらの混合物を主成分とする溶媒を用いることが好ましい。溶媒Cと主成分が共通するものであると洗浄排液Jの再利用が行い易くより好ましい。溶媒Cが酢酸を主成分とする溶媒である場合、洗浄液Hも酢酸を主成分とする溶媒が好ましく、酢酸を60重量%以上含む溶媒であると好ましく、70重量%以上含む溶媒であることが特に好ましい。
【0075】
洗浄に用いる洗浄液Hの量は、ケーキE中の固形分に対する重量比で、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは4.0以下であり、更に好ましくは3.0以下である。
洗浄装置114の圧力は、固液分離装置113の圧力と同程度の加圧状態とすることが望ましい。加圧状態で洗浄を行うと内部エネルギーの大きいケーキが得られ、後のケーキの乾燥工程でケーキ付着液の蒸発を効率的に行うことができる利点がある。また加圧状態の洗浄排液Jが得られるため、加圧状態を保ったまま反応装置に移送し溶媒としてリサイクルすれば、再加圧のためのエネルギーを低減できる利点がある。洗浄排液タンク121の温度は通常50℃以上であり、好ましくは70℃以上である。また通常190℃以下、好ましくは180℃以下である。また洗浄排液Jの蒸発抑制のため、その温度における洗浄液の蒸気圧より高圧とすることが望ましい。
【0076】
[洗浄排液リサイクル工程]
プロセス内に副生成物や触媒などの不純物が蓄積するのを避けるため、洗浄排液Jの一部は廃棄処理工程119へ送って廃棄し、残部を酸化反応器111へ送って再利用することが好ましい。これにより、プロセス内への不純物の蓄積を抑制することができる。廃棄処理工程119は、例えば溶媒蒸発工程や触媒回収工程などからなる。洗浄を加圧下で行う場合、洗浄排液Jは加圧状態を維持したまま酸化反応器111へ移送すると、再加圧、再加温のためのエネルギーが節減でき、好ましい。
洗浄排液Jのリサイクル率は限定されないが、高いほど洗浄排液中の有価成分を再利用率が高まり、また廃棄処理工程の負荷が減少し廃棄物量も低減できる。
【0077】
また、母液タンク120と洗浄排液タンク121とをまとめて、1つの母液・洗浄排液タンクとしてもよい。その場合、酸化反応器111への移送、溶媒、未反応原料、触媒の再利用や、廃棄処理工程へ移送しての廃棄もまとめて行うことができる。以下、母液タンク120や洗浄排液タンク121に関する説明は、このような母液・洗浄排液タンクをも含むものとする。
母液Fや洗浄排液Jを反応装置に移送する場合、反応装置の中のどの反応器に移送してもよいが、反応効率を高めるために好ましくは酸化反応器111に移送する。
【0078】
[乾燥工程]
固液分離及び洗浄を加圧下で行なう場合、洗浄ケーキGは好ましくは乾燥装置116により乾燥させ、ケーキに残留する付着液を除去して芳香族カルボン酸を得る。通常、芳香族カルボン酸結晶Kとして得られる。乾燥装置116は1つのみでもよいし複数の同一又は異なる装置で構成されていてもよい。
【0079】
乾燥装置116の種類は制限されないが、好ましくは、洗浄ケーキGを高圧状態から低圧状態へ移行させることで洗浄ケーキGに付着している付着液を放圧蒸発させる装置、いわゆるフラッシュ乾燥装置を含むことが好ましい。これによれば更なるエネルギーを加え
ることなく洗浄ケーキGの乾燥が行えるので、エネルギー使用量節減のため好ましい。
【0080】
放圧蒸発が行える乾燥装置としては、例えば、高圧状態から低圧状態への抜き出しが可能なディスチャージバルブを備えた加圧乾燥装置などが挙げられる。高圧状態を保持したまま洗浄ケーキGを蓄えたケーキ保持槽から、ディスチャージバルブを開放して洗浄ケーキGをより低圧の粉体滞留槽へ抜き出し、ケーキ付着液を蒸発除去する。ディスチャージバルブは抜き出し方式が連続式であっても間欠式であってもよく、また乾燥装置はディスチャージバルブを1つ備えていても複数備えていてもよい。バルブの種類は特に限定されないがガスシール性の高いものが好ましく、ボールバルブ、バタフライバルブ、ロータリーバルブ、フラップダンパー、スライドダンパー、スピンドル式バルブ等が用いうる。なお、ディスチャージバルブによる抜き出しの際、粉体滞留槽での洗浄ケーキG滞留量が一定となるようタイミングや回数を調整すると、安定的に工程を進行させやすく好ましい。
【0081】
固液分離工程と洗浄工程とを一つの装置で行える固液分離洗浄装置115(図中、破線囲みの115に相当する。)により、両工程を行ってもよい。また、固液分離工程、洗浄工程及び乾燥工程を一つの装置で行える固液分離洗浄乾燥装置117(図中、破線囲みの117に相当する。)により、これら3つの工程を行ってもよい。工程を簡略化できる利点がある。このような装置としては、例えば、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルデカンターのような遠心分離機や、水平ベルトフィルター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルター等が挙げられる。これらの中でも、特にスクリーンボウルデカンターは耐熱性に優れ、酸化反応器111の温度に近い高温域でも使用可能であるため好ましい。
【0082】
このようにして得られる芳香族カルボン酸結晶Kの乾燥が不十分な場合は、乾燥装置116の後に加熱乾燥装置118などを設けて更に乾燥を行うことが好ましい。含液率がより低減された芳香族カルボン酸結晶K’が得られる。加熱乾燥装置118の種類は特に制限は無いが、乾燥効率やコスト等の点から、流動層乾燥装置、回転型乾燥装置(スチームチューブドライヤー等)などが好ましく用いられる。
【0083】
[還元工程]
以上のような工程により、アルキル芳香族化合物から芳香族カルボン酸が得られる。得られた芳香族カルボン酸はそのまま使用してもよいし、純度を上げるために還元工程に供してもよい。
還元工程としては、水素化精製プロセス(溶解工程、水素化工程、晶析工程、固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程等からなる)が挙げられる。水素化精製プロセスについて、図4を用いて説明する。溶解工程としては、反応器125内で、上述した工程により得られた芳香族カルボン酸結晶K又はK’を溶媒Pに溶解させる。以下では代表して芳香族カルボン酸結晶Kについて述べるが、芳香族カルボン酸結晶K’についても同様に適用される。
【0084】
あるいは予め別の溶解槽で溶解させた後、反応器125に供給してもよい。溶媒Pの100重量部に対して芳香族カルボン酸結晶Kを通常1〜80重量部溶解させる。使用する溶媒Pとしては、芳香族カルボン酸結晶Kが溶解可能なものであればよく、芳香族カルボン酸結晶に化学的な変化を来さないものが用いられる。また溶媒Pの常圧における沸点は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、また好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。溶媒Pの常圧における沸点を前記下限値以上とすることで取り扱いや回収が容易となり、前期上限値以下とすることで後工程での固液分離、乾燥が容易となる。
【0085】
溶媒Pの種類は限定されないが、溶解性や沸点、取り扱い易さから、水を含むことが好
ましく、例えばテレフタル酸を製造する場合には、水を主成分とすることが好ましく、より好ましくは90重量%が水、さらに好ましくは100重量%が水である溶媒が好ましい。
本プロセスでは好ましくは水素化触媒を用いる。例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、オスミウム等の8〜10族金属触媒が用いられる。中でもパラジウムが好ましい。通常、これらは活性炭等に担持させて固定床として用いる。
【0086】
続いて、反応器125内に水素Wを導入し、芳香族カルボン酸結晶に含まれる不純物の少なくとも一部を還元する、水素化工程を行なう。水素化工程を行うにあたっては、芳香族カルボン酸結晶Kの常温における溶解度が小さい場合には、溶媒Pへの溶解度を高めるため、昇温することが好ましい。還元反応の温度としては、通常230℃以上、好ましくは250℃以上である。また通常330℃以下であり、好ましくは310℃以下である。また圧力については、溶媒を液体として維持するために、蒸気圧より高い圧力を必要とし、通常3MPa以上であり、好ましくは5MPa以上である。また通常20MPa以下であり、好ましくは15MPa以下、より好ましくは12MPa以下である。このような水素化工程によって、例えば芳香族カルボン酸としてテレフタル酸を製造する場合には、テレフタル酸結晶中に含まれる4CBAを還元してパラトルイル酸に変換することができる。
【0087】
[晶析工程]
その後、芳香族カルボン酸を再度、必要に応じて晶析させるため、芳香族カルボン酸結晶Kが溶媒Pに溶解した液状組成物Xを晶析槽126へ移送する。晶析槽126において圧力を低下させて冷却することで、主に上記芳香族カルボン酸からなる結晶を晶析させる。晶析槽126は一つのみであるよりも、直列に複数あって晶析を多段階的に行うことが好ましい。晶析は、回分及び連続のいずれであってもよいが、通常は連続で2器以上で段階的に降圧させ、好ましくは3器以上である。また通常6器以下、好ましくは5器以下である。これにより、溶媒Pがフラッシュ蒸発し、系内の温度が低下する。
【0088】
例えば芳香族カルボン酸としてテレフタル酸を製造する場合、4CBAが還元されたパラトルイル酸は、水に対する溶解度がテレフタル酸より高いので、晶析では、テレフタル酸が優先的に析出する。しかし、大気圧まで降下すると、温度が100℃程度となり、パラトルイル酸が共晶するので、最終晶析圧力は、通常0.1MPa以上、好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、特に好ましくは0.5MPa以上である。また、圧力範囲の上限は、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下、特に好ましくは0.7Pa以下である。なお、晶析の際発生する蒸気は、回収して芳香族カルボン酸の製造プロセスで再利用しても良い。
【0089】
複数の晶析槽で晶析を行う場合、第一晶析槽の温度は230〜260℃程度が好ましい。水素化反応工程の温度と同程度かわずかに低い温度とすることで、純度が高く、粒径が大きく、また粒子形状にゆがみが無く揃った形状の結晶が得られる。第二晶析槽の温度は第一晶析槽の温度より20℃以上低いことが好ましく、25℃以上低いことがより好ましい。また60℃以下低いことが好ましく、55℃以下低いことが好ましい。第一晶析槽の温度よりやや低い温度とすることで、粒径が大きく、また粒子形状にゆがみが無く揃った形状の結晶が得られる。必要に応じ、第三晶析槽以降を設けてもよく、通常170℃以下まで、晶析槽同士の温度差をほぼ等間隔として晶析する。これにより、純度が高く、粒径が大きく、粒子形状にゆがみが無く揃った形状の結晶が析出するため、粉体流動性やスラリー性(ポリエステルの製造等の際に良質なスラリーとしやすいこと)に優れた芳香族カルボン酸結晶が得られる。
なお、前述した酸化工程と固液分離工程との間に晶析工程を設ける場合は、上記と同様の操作として行うこともできる。
【0090】
続いて、上記晶析工程を経た液状組成物X’を、例えば固液分離装置113で固液分離し、洗浄装置114で洗浄して乾燥させることにより、純度の高い芳香族カルボン酸結晶Yが得られる。なお、固液分離工程、洗浄工程、及び乾燥工程における方法及び装置は、上述した方法及び装置と同様とすることができる。なお図4において、図3と同様の装置等については同一の符号を付し、ここでの説明を省略する。また、固液分離装置113で分離された母液R、洗浄排液Uは、通常芳香族カルボン酸や中間体、触媒等、有価物を回収後、溶媒リサイクル工程、排出工程等に送られる。また母液Rを図3の酸化反応器111に直結する蒸留塔の塔頂にリサイクルしてもよい。図4におけるQは芳香族カルボン酸ケーキ、Sは不純物濃度が低減された洗浄ケーキを示す。
また、液状組成物X’の固液分離方法としては、母液置換塔を設けて不純物の溶解した母液を溶媒Lで置換し分離操作を容易にしたのち、固液分離を行う方法もある。
【0091】
本発明の芳香族カルボン酸の製造方法では、上記で示した全工程を必須とするものではなく、酸化反応器111で芳香族カルボン酸を生成させ、固液分離装置113に移送し、芳香族カルボン酸を溶媒から分離するものであればよい。また必要に応じて上記以外の装置や配管を設けてもよい。
【0092】
[排ガス処理工程]
以上のような芳香族カルボン酸の製造方法において、好ましくは酸化工程(追酸化反応も含む。)や晶析工程等において排出される排ガスの処理工程を有する。排ガス処理工程について、酸化反応器111の反応ガスMの処理プロセスを例として図3及び図5を用いて説明する。
【0093】
図3の酸化反応器111より抜き出された反応ガスMは、前述の通り凝縮器112にて溶媒Cを主とする凝縮液Nが凝縮分離されたのち凝縮器排ガスOとして排出されるが、このとき凝縮器112では熱交換により蒸気が生成される。この蒸気は、本発明におけるコジェネレーションシステムに適用することができる。すなわち、生成した蒸気は必要に応じて予熱器(図示せず)を通して加熱された後、図5の蒸気ライン251から蒸気タービン221へ導入される。これにより同一軸上に連結された圧縮機220が回転し、空気ライン250より導入された空気が圧縮され、また同じく同一軸上に連結された発電機222で電気エネルギーが生成する。圧縮された空気は酸化工程における分子状酸素含有ガスBまたはB’として利用し、該電気エネルギーは電力ライン253を通して芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給される。なお、252は復水ラインを示す。
【0094】
一方、凝縮器排ガスOは一般に、酸化反応の溶媒として使用される脂肪族カルボン酸、未反応の原料及び酸素、副生成物、一酸化炭素、二酸化炭素などの有用成分を含有する。排ガスOは通常高圧であり、通常、含有するこれら有用成分の分離回収や、圧力や熱などのエネルギー回収などが行われた後、燃焼装置で燃焼され無害化して外部へ放出される。
【0095】
まず凝縮器排ガスOを排ガスライン201から吸収塔211の下部に導入すると共に、上部の溶媒ライン202から溶媒を供給し、脂肪族カルボン酸及びそのエステル類をこの溶媒に溶解吸収させ凝縮器排ガスOから除去する。なお、ここでの溶媒は、溶媒C(酸化反応の溶媒)の意味ではない。吸収塔211の構造は限定されず、充填塔、スプレー塔、濡れ壁塔など各種のものが用いられるが、充填塔が好ましい。このほか、スクラバーなどが使用できる。溶解吸収用の溶媒としては通常、水が使用される。
【0096】
塔上部では先ず脂肪族カルボン酸が吸収され、塔下部では更に該吸収された脂肪族カルボン酸によりエステル類が溶解吸収される。これにより、塔底ライン205を通して回収脂肪族カルボン酸エステル含有液体が、塔中段ライン204を通して回収脂肪族カルボン
酸含有液体が、塔頂ライン203を通して吸収塔出口ガスが、それぞれ排出される。回収脂肪族カルボン酸エステル含有液体は、酸化反応工程に戻し再利用すると更なるエステル類副生を抑制できるため好ましい。
【0097】
回収脂肪族カルボン酸含有液体は、溶媒が水の場合は脱水塔で脱水したのち脂肪族カルボン酸を酸化反応工程に戻して再利用することが好ましい。酸化工程での溶媒のロスを抑制できる。なお脱水等として共沸蒸留塔を使用してもよい。
吸収塔出口ガスは依然として高圧状態を維持しており、その圧力エネルギーを回収し再利用することが好ましい。回収方法としては、排ガスを燃焼処理後各種タービン等でエネルギーを回収する方法や、ガスエキスパンダー等でエネルギー回収後に燃焼処理する方法などが挙げられる。燃焼処理工程でのエネルギーロスを考慮すると後者が望ましいが、コジェネレーションシステムによるエネルギー効率向上の観点からは前者が好ましい。
【0098】
すなわち、高圧の吸収塔出口ガスをコジェネレーションシステムにおける膨張機によってエネルギーを回収することができる。好ましくは、熱交換器212で150〜160℃程度に加熱したのち膨張機(ガスエキスパンダー)213に導入しこれを回転させる。これにより、本発明におけるコジェネレーションシステムに適用することができる。すなわち、同一軸上に連結された圧縮機220が回転し空気ライン250より導入された空気が圧縮され、また同じく同一軸上に連結された発電機222で電気エネルギーが生成し、は電力ライン253を通して芳香族カルボン酸製造プロセスへ供給される。
前記の通り、凝縮器排ガスOは有用成分を分離回収した後に、燃焼装置で燃焼され無害化して外部へ放出されるが、コジェネレーションシステムにおける燃焼器2は、この燃焼装置の位置づけにもなる。すなわち、ガスタービンエンジンの燃焼器2における燃焼温度は前記の通り非常に高温であるので、凝縮器排ガスOに含まれる臭化メチル等の有害成分を無害化することが可能である。
【0099】
膨張機213から排出される出口ガスには一酸化炭素、臭化メチルなどが含まれているので、燃焼装置214及び吸収装置215にて処理したのち大気中に放出する。燃焼装置214における燃焼法としては、触媒を使用しない直接燃焼法、触媒を使用する触媒燃焼法及び蓄熱体を使用する蓄熱燃焼法など公知の方法を用いうるが、なかでも蓄熱燃焼法が好ましい。低濃度の臭化メチル含有排ガスを臭素系ダイオキシン類の発生を抑制しつつ燃焼処理を行うことができ、環境負荷を軽減しうる利点がある。また熱回収率も高く、燃焼用のバーナーの常時使用が不要であり空気など酸素含有ガスを別途供給する必要も無いため、運転コストや設備コスト、使用エネルギーを低減しうる利点もある。
【0100】
焼却装置214の出口ガスには、通常、臭素、臭化水素などの成分が残存するため、吸収装置215にてアルカリ及び還元剤と気液接触させて吸収することが望ましい。アルカリとして好ましくは苛性ソーダ、苛性カリなどが用いられ、還元剤として好ましくは亜硫酸ソーダ、尿素などが用いられるが、これらに限定される必要はない。吸収塔は充填塔、スプレー塔、濡れ壁塔のほか、スクラバーなどが使用できる。吸収装置215の出口ガスは大気放出できる状態であるのを確認したのち排ガスライン216から放出される。
【0101】
なお、他の排ガス処理方法としては、吸収塔211を設ける代わりに酸化反応器111と凝縮器112との間に蒸留塔を設けてもよい。蒸留塔で得られる溶媒C含有留分を反応器111に還流させ、水分を主とする塔頂留分を凝縮器で冷却して凝縮水を蒸留塔に還流させる他、凝縮器からの排ガスは上記凝縮器排ガスOと同様に利用しうる。また凝縮器で熱交換により発生する蒸気も上記と同様に利用しうる。
【0102】
本発明のコジェネレーションシステムにより供給される熱エネルギー及び電気エネルギーが使用される工程は上記した工程に限られず、芳香族カルボン酸製造プロセスであれば
よい。例えば、酸化工程、固液分離工程、母液リサイクル工程、ケーキ洗浄工程、洗浄排液リサイクル工程、乾燥工程、還元工程、晶析工程、廃棄物処理工程、触媒回収工程、触媒再生工程、排水処理工程、排ガス処理工程などのいずれでもよく、また複数の工程に用いてもよい。
またこれら工程で使用された熱や圧力のエネルギーを回収、利用することと併用すればエネルギーが更に有効活用され、更にエネルギー利用効率を高めることができる。
【0103】
以上総合すれば、本発明にかかる芳香族カルボン酸の最適な製造方法の一例は以下の通りとなる。すなわち、酸化工程では反応熱が発生し、該反応熱は酸化工程で得られるスラリーの熱エネルギーおよび圧力エネルギーとなるが、これらのエネルギーは固液分離工程、母液リサイクル工程、ケーキ洗浄工程、洗浄排液リサイクル工程、乾燥工程等に利用することができる。また、これら各工程で不足する少量の熱エネルギーは、コジェネレーションシステムで補う。同様に、還元工程で得られた液状組成物の熱エネルギーおよび圧力エネルギーは、晶析工程、固液分離工程、母液リサイクル工程、ケーキ洗浄工程、洗浄排液リサイクル工程、乾燥工程等に利用することができ、これら各工程で不足する少量の熱エネルギーはコジェネレーションシステムで補う。さらに、酸化工程や晶析工程等で発生する排ガスからの熱回収によって生じた熱エネルギーおよび/または圧力エネルギーは、コジェネレーションシステムまたは蒸気タービンに還元されることにより、電気エネルギーとして回収される。この結果、設備の起動時のみならず、定常運手時に必要とされるエネルギーを最小限に抑えることができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[比較例1]
図3〜図5に示す製造工程を有する、テレフタル酸生産量が75トン/時間のプロセスを用いてp−キシレンからテレフタル酸を製造した。
【0105】
図3の反応器にp−キシレン1重量部、触媒(酢酸コバルト、酢酸マンガンの酢酸溶液及び臭化水素)を含む溶液(溶媒:水を14重量%含む酢酸)2.5重量部、後段の固液分離装置から分離時の圧力と温度を実質的に維持した状態でリサイクルされる母液6.3重量部を供給するとともに、p−キシレンに対し分子状酸素が20倍モルとなるよう圧縮空気を供給し、温度197℃、圧力1.45MPa(絶対圧)で反応時間(平均滞留時間)が90分となるように液面を調整しながら連続的に酸化反応を行った。反応液中のコバルト/マンガン/臭素の濃度はそれぞれ280/280/700重量ppmであった。反応器から排出される反応ガス中の酸素濃度は1.5〜3体積%となるよう調整した。
【0106】
次いで、反応器から抜き出されたスラリーを追酸化反応器に連続的に移送し、圧縮空気を供給し、温度185℃、圧力1.25MPa、反応時間35分で低温追酸化を行った。追酸化反応器から排出される反応ガス中の酸素濃度は1.5〜3体積%となるよう調整した。
追酸化反応器から抜き出されたスラリーを、温度及び圧力を維持したまま、加圧固液分離洗浄乾燥装置であるスクリーンボウルデカンターへ移送しテレフタル酸ケーキと母液とに固液分離した。固液分離の圧力は0.9〜1.0MPa、温度は180〜190℃、回転速度は約2050rpmとした。
【0107】
得られた母液は80重量%を反応器11に戻し、残り20重量%を廃棄処理工程へ送り有価成分を回収したのち排水処理工程を通して排出した。
一方、得られたテレフタル酸ケーキを酢酸に対し10重量%程度の水を含む190〜195℃の洗浄液にて洗浄し、洗浄ケーキ及び洗浄排液を得た。濾過材としては金属バース
クリーンを用い、圧力は0.9〜1.0MPa、温度は190〜195℃とした。得られた洗浄ケーキを圧力0.9〜1.0MPa、約180〜190℃を保ったままケーキ保持槽に保持した後、ディスチャージバルブを開放して常圧の粉体滞留槽へ抜き出し、付着液を放圧蒸発させ乾燥させ脱液ケーキとした。
【0108】
次いで、脱液ケーキを図4に示す還元工程(水素化精製プロセス)に供し、精製を行った。
脱液ケーキを水と混合しスラリー濃度30重量%と調整し、次いで蒸気と熱媒油とにより温度290℃、圧力8.5MPaに加熱加圧した後、パラジウムを活性炭に担持させて固定床とした水素化反応塔に水素と共に導入し水素化精製反応を行った。反応後のテレフタル酸水溶液を晶析槽に連続的に移送し、4段の晶析工程で順次に放圧冷却し晶析させた。晶析後のスラリーを100℃にて精製テレフタル酸ケーキと母液とに分離した。母液は、テレフタル酸や中間体など有価成分を回収したのち排水処理工程を通して排出した。精製テレフタル酸ケーキは水洗し、放圧蒸発により乾燥させ、更に流動層乾燥機により乾燥させ、テレフタル酸結晶を得た。
【0109】
また、酸化反応器及び追酸化反応器からの排ガスは凝縮器を経て統合され、温度45℃、圧力1.16MPaの排ガスとして図5に示す排ガス処理工程により処理された。
即ち排ガスを加圧吸収塔に塔下部から供給しつつ塔上部から水をスプレーし、排ガス中の酢酸等を吸収させ、更に塔下部において排ガス中の酢酸メチル等を酢酸等に溶解吸収させた。吸収された酢酸メチルは塔底部から回収脂肪族カルボン酸エステル含有液体として抜き出し、反応器に戻し再利用した。また酢酸等は塔中段から回収脂肪族カルボン酸含有液体として抜き出し、脱水塔で脱水後、やはり反応器に戻し再利用した。
【0110】
一方、排ガスの残部であるガスは塔頂部から出て熱交換器で155℃に加熱され、膨張機に送られ空気圧縮機の駆動動力の一部に使用された後、圧力0.1MPaのガスとなった。このガスを燃焼装置及び吸収装置に導入し、無害な状態であるのを確認し大気放出した。
以上はテレフタル酸製造における主たる工程について記載したが、他にもベントガス処理工程、触媒回収・再生工程、溶媒回収工程などの工程を含む。
【0111】
これら工程へのエネルギー供給システムとしては、電気エネルギーはディーゼルエンジンを使用した自家発電による。熱エネルギーについては、プロセス蒸気は重油焚き蒸気ボイラーにより生成しており、熱媒油としては重油焚きボイラーにより加熱したホットオイルを用いた。
【0112】
[実施例1]
エネルギー供給システムとして、図2に記載のコジェネレーションシステムを用いて以下の運転を行う以外は、比較例1と同様にしてテレフタル酸を製造する。
発電端出力17MW級のガスタービンエンジン1基を用いたコジェネレーションシステムを採用し、燃料として重油を使用する。コジェネレーションシステムを起動し、当該システム内の発電機により電気エネルギーを発生させる。同時に、膨張機から排出される排ガスのダクト中にダクトバーナーを設置して追い焚きし、得られる高温排ガスをボイラーに導入して出口温度320℃のホットオイルを生成し、ボイラー出口の排ガスを熱交換器に導入して0.15MPaの蒸気及び0.7MPaの蒸気を得る。
【0113】
このようにして得た熱エネルギー及び電気エネルギーをテレフタル酸製造プロセスに供給することで、比較例1と同規模でテレフタル酸を製造することができる。本実施例で供給される熱エネルギー:電気エネルギーの比率は約75:25である(キロワット時換算)。
比較例1の定常運転時のエネルギー供給量の総和を100とすると、実施例1の定常運転時のエネルギー供給量の総和は約80である。即ち比較例1に比べて熱量でエネルギー使用量削減が可能であり、燃料消費量、二酸化炭素の発生量も20%削減することができる。更に、燃料を重油から天然ガスへ切り替えることで、二酸化炭素の発生量を比較例1に比べて30%以上削減することができる。
【0114】
[実施例2]
エネルギー供給システムとして、図2に記載のコジェネレーションシステムおよび図5に示す排ガス処理システムおよび蒸気タービンを用いて以下の運転を行う以外は、比較例1と同様にしてテレフタル酸を製造する。
発電端出力17MW級のガスタービンエンジン1基を用いたコジェネレーションシステムを採用し、燃料としてメタンを使用する。ガスタービンエンジンの膨張機から回転エネルギー及び熱エネルギーを生成させ、回転エネルギーは圧縮機を回転させて、圧縮した空気を酸化反応器に導入し、さらに同一軸線上に設置された発電機にも導入されて発電し、製造工程全体に給電される。一方、熱エネルギーは、膨張機から排出される排ガスのダクト中にダクトバーナーを設置して追い焚きし、得られる高温排ガスをボイラーに導入して出口温度320℃のホットオイルを生成し、ボイラー出口の排ガスは残存エネルギーを熱交換器において圧縮空気及び排ガスなどの予熱などに利用する。
酸化反応器に導入された圧縮空気により引き起こされる酸化反応で発生する反応熱は蒸発する酢酸等溶媒に吸収され、反応器に直結する凝縮器で熱交換により、高圧蒸気が生成される。生成した高圧蒸気は、蒸気タービンを回転させて圧縮機で酸化反応に使用する空気等を圧縮する。同時に同一軸線上に連結してある発電機を回転させ電気エネルギーを回収して製造工程内で再利用する。
【0115】
このようにして得た熱エネルギー及び電気エネルギーをテレフタル酸製造プロセスに供給することで、比較例1と同規模でテレフタル酸を製造することができる。なお、本実施例におけるエネルギーバランスは、供給される熱エネルギー及び電気エネルギーの比率は57:43である。
比較例1の定常運転時のエネルギー供給量の総和を100とすると、実施例2の定常運転時のエネルギー供給量の総和は約95であり、これは、燃料消費量が5%、二酸化炭素排出量は5%削減可能である。これにより、年間約10,000トンの二酸化炭素が削減可能となる。エネルギー供給量の削減に加え、重油からメタンへの代替分も加わり、大幅な二酸化炭素抑制となる。また、圧縮機起動用の電動機への電力供給を行った以外には、外部からの電力供給は行わないプロセスとすることができる。なお、実施例1に較べてエネルギー供給量の総和が高くなるのは、実施例1よりも電気エネルギー比率が高いためである。
【符号の説明】
【0116】
1 圧縮機
1a 圧縮機起動用電動機
2 燃焼器
3 膨張機(タービン)
4 ガスタービンエンジン
5 発電機
6 吸収式冷凍機
7 ボイラー
8 油供給タンク
9 熱交換器
11 空気ライン
12 燃料ライン
13 電力ライン
14、17、20 排ガスライン
15、15’ 水ライン
16、16’ 蒸気ライン
18、19 熱媒油ライン
111 酸化反応器
111’ 追酸化反応器
112 凝縮器
113 固液分離装置
114 洗浄装置
115 固液分離洗浄装置
116 乾燥装置
117 固液分離洗浄乾燥装置
118 加熱乾燥装置
119 廃棄処理工程
120 母液タンク
121 洗浄排液タンク
125 水素化反応器
126 晶析槽
201 排ガスライン
202 溶媒ライン
203 塔頂ライン
204 塔中段ライン
205 塔底ライン
211 吸収塔
212 熱交換器
213 膨張機(ガスエキスパンダー)
214 燃焼装置
215 吸収装置
216 排ガスライン
220 圧縮機
221 蒸気タービン
222 発電機
250 空気ライン
251 蒸気ライン
252 復水ライン
253 電力ライン
A アルキル芳香族化合物
B,B’ 分子状酸素含有ガス
C 溶媒
D,D’ スラリー
E 芳香族カルボン酸ケーキ
F 母液
G 洗浄ケーキ
H 洗浄液
J 洗浄排液
K、K’ 芳香族カルボン酸結晶
M、M’ 反応ガス
N 凝縮液
O 凝縮器排ガス
P 溶媒
Q 芳香族カルボン酸ケーキ
R 母液
S 洗浄ケーキ
T 洗浄液
U 洗浄排液
W 水素
X、X’ 液状組成物
Y、Y’ 芳香族カルボン酸結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成し、生成した芳香族カルボン酸をアルキル芳香族化合物から分離し回収する工程および/又は、アルキル芳香族化合物を酸化して得られた芳香族カルボン酸を還元する工程、を含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、
該工程群の1以上の工程で使用されるエネルギーの少なくとも一部が、燃料の燃焼によって熱エネルギーと電気エネルギーとを生成するコジェネレーションシステムにより供給されることを特徴とする、芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記コジェネレーションシステムにより供給される熱エネルギーと電気エネルギーとの合計量に対する熱エネルギーの比率(キロワット時換算)が30%〜90%の範囲である、請求項1に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
前記熱エネルギーが、前記工程群の1以上の工程で使用される熱媒油の昇温及び/又は蒸気の生成に使用される、請求項1又は2に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記熱エネルギーにより生成した蒸気の少なくとも一部が蒸気タービンに導入され電気エネルギーの生成に使用される、請求項3に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
前記コジェネレーションシステムがガスタービンエンジンと発電機とを備え、
前記ガスタービンエンジンは、燃料を燃焼させて燃焼ガスを発生させる燃焼器、系外から酸素含有ガスを吸入し圧縮し前記燃焼器に供給する圧縮機、及び、前記圧縮機及び前記発電機と同一軸線上にあり前記燃焼ガスを膨張させ前記軸を回転させる膨張機を少なくとも有し、
前記発電機が前記軸の回転により電気エネルギーを生成し、前記膨張機の排ガスから熱エネルギーを得る、請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
少なくとも下記の1以上の方法を有することを特徴とする請求項5に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
(1)酸化工程で発生する排ガスの少なくとも一部を膨張機に供給する。
(2)酸化工程で発生する排ガスからの熱交換によって蒸気を生成し、生成した蒸気の少なくとも一部を蒸気タービンに供給する。
(3)圧縮機によって圧縮された酸素含有ガスを酸化工程に供給する。
(4)発電機から発生する排熱を、前記工程群の1以上の工程で使用される熱エネルギーとして利用する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248079(P2010−248079A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96130(P2009−96130)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】