説明

芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体

【課題】 高いイオン交換容量および安価で高いプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂や固体高分子形燃料電池用電解質材料に有用な新規な芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
A(−W−B)n (1)
Aは置換基を有していてもよい芳香族環を表し、nは2から6までの整数を表す。WはSおよび/またはSOの連結基である。BはWを介してAに結合する芳香環を表し、この芳香環には−COX、−SOXから選ばれる反応性基を0から5個有し、且つ少なくとも1つの該芳香環には少なくとも1つの該反応性基を有する。Xはハロゲン原子、OR(Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基)、水酸基から選ばれる。)を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はイオン交換樹脂や固体高分子形燃料電池用電解質材料用として、基材樹脂へイオン交換基を導入するためのイオン交換体として有用な芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な陽イオン交換樹脂は、スチレン等のモノビニルモノマーとジビニルベンゼン等のジビニルモノマーとからなる共重合体をスルホン化して得られる。ある一定レベルのイオン交換容量を付与するためには相当量のスルホン化処理が必要であり、高いイオン交換容量を確保するためには高度なスルホン化が必要であった。しかし過度のスルホン化はポリマーの水への溶出が発生したり、水による膨潤に起因する寸法安定性の低下という欠点を有していた。しかしながら、多くの産業分野から充填塔の寸法を小さくでき処理能力を上げることができる高交換容量を有する陽イオン交換体が望まれている。
【0003】
またこれまで、固体高分子形燃料電池用の電解質材料としては、(1)ナフィオン(デュポン社製)等のパーフルオロアルキルスルホン酸高分子(例えば、特許文献1参照)や、(2)ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性高分子の主鎖をスルホン化した高分子(例えば、特許文献2参照)、が知られている。しかしながら、これらの高分子は固体高分子形燃料電池用の電解質材料として、いずれも問題を有していた。すなわち上記(1)はコスト高の上、フッ素系材料のため、使用や廃棄の際のフッ素イオンの環境への負荷が大きい。また上記(2)のポリマーは、プロトン伝導性を向上すべくスルホン酸化率を高めると水溶性となる問題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,282,875号明細書
【特許文献2】米国特許第5,795,496号明細書
【非特許文献1】Electrochemical and Solid−State Letters,Vol.6,No.11,p.A229−A231(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、高いイオン交換容量および安価で高いプロトン伝導性を有する
イオン交換樹脂や固体高分子形燃料電池用電解質材料に有用な新規な芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は高いイオン交換容量および安価で高いプロトン伝導性を有するイオン交換体を開発するために鋭意研究を重ねた結果、上記一般式(1)で表される芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体がその目的に適合しうることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.下記一般式(1)で表される芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
A(−W−B)n (1)
Aは置換基を有していてもよい芳香族環を表し、nは2から6までの整数を表す。WはSおよび/またはSOの連結基である。BはWを介してAに結合する芳香環を表し、この芳香環には−COX、−SOXから選ばれる反応性基を0から5個有し、且つ少なくとも1つの該芳香環には少なくとも1つの該反応性基を有する。Xはハロゲン原子、OR(Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基)、水酸基から選ばれる。)を表す。
【0007】
2.上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−SOXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
3.上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−COXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
4.上記一般式(1)で表される芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合体。
5.上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−SOXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合体。
6.上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−COXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合体。
【発明の効果】
【0008】
高いイオン交換容量および安価で高いプロトン伝導性を有する固体高分子形燃料電池用電解質材料に有用な新規な芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体は文献未載の新規化合物であり、下記一般式(1)で表される構造を有する。
A(−W−B)n (1)
Aは芳香環を表し、反応性基を有する芳香環Bと連結基Wで繋がれている。反応性基は−COX、−SOXなどが挙げられる。ここでXはハロゲン原子、OR(Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基)、水酸基から選ばれる。)を表す。連結基WはSまたは/およびSOであるが、耐酸化性などの化学的安定性や結合している芳香環の反応性基の活性を考慮するとより電子吸引性の大きいSOであることが好ましい。nは1から6までとることができる。
【0010】
本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の例を下記一般式に示す。それぞれnが1から6までの場合の炭素骨格のみを示したが、Wは連結基Sおよび/またはSOを表し、芳香環Bに結合する−COX、−SOXの反応性基は省略してある。nは大きいほどBに導入する反応性基数は増大し、基材樹脂に結合した場合、導入されるイオン交換容量が大きくなって効果的である。Bに導入できる反応性基数は0から5までとり得るが、大きいほど基材樹脂に結合した場合の導入されるイオン交換容量が大きくなって効果的である。また、nが6未満の場合、Aに直接−COX、−SOXの官能基を導入することも可能である。
【0011】
【化1】

【0012】
[合成方法−1]本発明において、連結基WがSである化合物を製造する際の反応として好ましく用いられるのは、芳香族チオール化合物と芳香族ハロゲン化物の芳香族求核置換反応による芳香族ポリスルフィドの合成反応である。また、別の方法としては、芳香族ジクロリドと硫化ナトリウムから芳香族ポリスルフィドを合成する反応を用いることができる。例えば、米国特許第5,795,496号明細書p.133〜134に記載された方法を用いることができる。
【0013】
[合成方法−2]本発明において、連結基WがSO2 である化合物を製造する際の反応として好ましく用いられるのは、上記合成法−1で製造した芳香族スルフィド類を過酸化水素などの酸化剤を用いて酸化する方法である。
また、別の方法としては、水素原子を芳香環に有する芳香族化合物に、芳香族スルホン酸ハライドを親電子置換反応させて芳香族スルホン結合を形成する方法を用いることができる。例えば、米国特許第5,795,496号明細書のp.132〜133に記載された方法を用いることができる。
【0014】
[合成方法−3]本発明において、芳香環Bに−SOXなどの反応性基を導入する際の反応としては、まず芳香環をスルホン酸化し、続いて−OH基をXに置換する。スルホン酸化はスルホン酸化剤による常法を用いることができる。スルホン酸基を導入する方法としては、例えば、上記スルホン酸基を有しない芳香環を、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硫酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの公知のスルホン酸化剤を用いて、公知の条
件でスルホン酸化することができる(本発明において、スルホン酸化とは、−Hなる基の水素原子をSO3 Hで置換する反応を示す。)。
【0015】
このスルホン酸化の反応条件としては、上記スルホン酸基を有しない化合物を、無溶剤下、あるいは溶剤存在下で、上記スルホン酸化剤と反応させる。溶剤としては、例えばn−ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような非プロトン系極性溶剤のほか、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。反応温度は特に制限はないが、通常、−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0016】
上記方法によりスルホン酸基を導入し、続いて例えばXが塩素の場合、塩化チオニルなどの塩素化剤によりスルホニルクロロ化する方法を用いることができる。
このスルホニルクロロ化の反応条件としては、上記スルホン酸化物を、無溶剤下、あるいは溶剤存在下で、上記スルホニルクロロ化剤と反応させる。溶剤としては、例えばn−ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤のほか、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。反応温度は特に制限はないが、通常、−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0017】
本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体は基材の樹脂に結合させることにより高いイオン交換容量を有するイオン交換樹脂を得ることができる。基材の樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEKと略す)、ポリエーテルスルホン(PESと略す)、ポリスルホン(PSfと略す)などの比較的低コストで耐久性に優れたいわゆるエンジニアリングプラスチックが好んで用いられる。本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体は−COX、−SOXの反応性基を1分子あたり2個以上導入することにより、基材の樹脂に一度の導入反応で多数のイオン交換基を導入して高いイオン交換容量を有するイオン交換樹脂を製造できることが特長であるが、加えて基材の樹脂への導入時に樹脂の分子鎖間に架橋結合を導入させることができ、イオン交換樹脂の耐膨潤性や含水時の寸法安定性など物理的機械強度安定性の向上をはかることができる。
【0018】
また本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を基材の樹脂に結合させた高分子電解質材料では、結合させた側鎖のスルホン酸基により高いイオン交換容量を発現するが、高分子の主鎖に直接スルホン酸基が結合していないので、樹脂本来の耐膨潤性や機械的物性が損なわれることはない。
基材の樹脂(以下、単に樹脂という。)に本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を結合させる際の反応の種類は、特に制限されない。例えば、以下の(i)〜(iii)の反応を利用することができる。
樹脂の一般的な化学構造式を下記一般式(2)〜(4)に示す。それぞれ、下記一般式(2)はPEEK、下記一般式(3)はPES、下記一般式(4)PSfである。
【0019】
【化2】

【0020】
(i)樹脂の反応部位が芳香環の水素原子で、Bに結合している反応性基が−COX(Xがハロゲン原子または水酸基)である場合:フリーデル・クラフツ−アシル化反応を用いることができる。
(ii)樹脂の反応部位が芳香環の水素原子で、Bに結合している反応性基が−SOX(Xがハロゲン原子または水酸基)である場合:フリーデル・クラフツ型スルホニル化反応を用いることができる。
(iii)樹脂の反応部位が芳香環の水素原子で、Bに結合している反応性基が−COOHまたは−SOHである場合:脱水縮合反応を用いることができる。
【0021】
また本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を樹脂に結合したイオン交換樹脂は、イオン交換基の空間的配置の自由度が大きく任意に配置することが可能であり、キレート性陽イオン交換樹脂として機能することができる。したがって、多価金属イオンであるカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、およびバリウムなどのカチオンのブラインからの除去、および廃液流れからのニッケル、銅、アンチモン、および亜鉛などの金属の除去に効果的である。
本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体は樹脂に結合させてイオン交換樹脂として使用すること以外に、それ自身の自己縮合反応により高分子量体を得ることができ、これをイオン交換樹脂として用いることができる。この場合も自己縮合反応と同時に架橋結合も導入することができ、耐膨潤性にすぐれた物理的機械強度の高いイオン交換樹脂を製造することが可能である。
【0022】
本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を自己縮合させる際の反応の種類は、特に制限されない。例えば、次の(i)〜(iii)の反応を利用することができる。
(i)Bに結合している反応性基が−COX(Xがハロゲン原子または水酸基)である場合:フリーデル・クラフツ−アシル化反応を用いることができる。
(ii)Bに結合している反応性基が−SOX(Xがハロゲン原子または水酸基)である場合:フリーデル・クラフツ型スルホニル化反応を用いることができる。
(iii)Bに結合している反応性基が−COOHまたは−SOHである場合:脱水縮
合反応を用いることができる。
このようにして得られる本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合物の分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で、1000〜100万、好ましくは1万〜100万、さらに好ましくは2万〜80万、特に好ましくは3万〜40万である。1000未満では、成形フィルムが割れ易く、また強度的性質にも問題がある。一方、100万を超えると、溶液にした場合の溶液粘度が高くなったり、溶融した場合の溶融粘度が高くなるなど、加工性が不良になる問題がある。
【0023】
本発明の本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を結合した樹脂をフィルム化するには、例えば本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を結合した樹脂を溶剤に溶解したのち、塗布によりフィルム状に成形するキャスト法や、溶融成形法などが挙げられる。ここで、キャスト法における溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶剤やメタノールなどのアルコール系溶剤などが挙げられる。
本発明の本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の構造は、例えば、赤外線吸収スペクトルや核磁気共鳴スペクトル(H−NMR、13C−NMR)により確認することができる。また、組成比は元素分析によっても測定でき、カルボン酸やスルホン酸の含量は中和滴定によって測定することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各種の測定項目は、下記のようにして求めた。
[数平均、重量平均分子量]スルホン酸化前の前駆体ポリマーの数平均分子量,重量平均分子量は、溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
[イオン交換容量]得られたポリマーの水洗水が中性になるまで充分に水洗し、乾燥後、所定量を秤量し、2N塩化ナトリウム水溶液に30分間浸漬した後、フェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液にて滴定し、中和点から、イオン交換容量(スルホン酸化当量)を求めた。
【0025】
[プロトン伝導度の測定]100%相対湿度下に置かれた厚み40〜60μmのフィルム状試料を、白金電極に挟み、20℃で複素インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を算出した。
[含水時の寸法変化率]
厚み40〜60μmのフィルム状試料(5cm×4cm)を23℃、相対湿度50%の恒温室で12時間以上放置した後、含水前の縦方向及び横方向の長さを測定する。 その後、80℃熱水に30分間浸漬させ、取り出し後23℃の水中にて、含水後の縦方向及び横方向の長さを測定する。縦、横方向の含水後の長さに対する、それらの含水前後の長さの変化の割合(%)を求め、それらの平均値を含水時の寸法変化率とした。
【0026】
[実施例1]
(1)1,3,5−トリス(フェニルチオ)−ベンゼン(TTB)(式(5))の合成
チオフェノール9.9g(90mmol)をディーンスターク管、冷却管、温度計を備えた三口フラスコにとり、水酸化カリウム4.5gとN,N−ジメチルアセトアミド25ml、トルエン25mlを加えてスターラーで攪拌した。150℃まで昇温し、加熱還流しながら生成する水を除去した。これに1,3,5−トリブロモベンゼン6.3g(20mmol)を加え、160℃で4時間反応させた。薄層クロマトグラフィーで反応が終了したことを確認後、この混合物溶液中から有機物を分離、エタノールを用いた再結晶による精製をして、1,3,5−トリス(フェニルチオ)−ベンゼン(TTB)7.6gを得た(収率95%)。
【0027】
【化3】

【0028】
(2)TTBのトリスルホン酸化物(TTBS3)(式(6))の合成
温度計、滴下ろうと、三方コックをつけた三口フラスコに1,3,5−トリス(フェニルチオ)−ベンゼン(TTB)50.0g(124mmol)とスルホラン120mlを入れ、乾燥窒素で系内を置換した。液温を70℃に保ち、クロロ硫酸47.8g(409mmol)をゆっくり滴下し、その後1.5時間攪拌した。反応の確認は液体クロマトグラフィー[Agilent社製100シリーズ、カラム:GLサイエンス社製、Intersil ODS−3、移動相:10Mギ酸アンモニウム/アセトニトリル、UV検出波長:254nm]にて行なった。TTBのトリスルホン化物[TTBS3、式(6)]53gを含む混合物を得た(収率67%)。
【0029】
【化4】

【0030】
(2)TTBトリスルホン化物のスルホニルクロライド(TTBS3C(式(7)の合成
TTBS3を含む上記の混合物を、温度計、滴下ろうと、三方コックをつけた三口フラスコに入れた。液温を70℃に保ち、滴下ろうとから塩化チオニル12.4g(124mmol)をゆっくり滴下し、2時間攪拌した。反応の確認は液体クロマトグラフィーにて行なった。TTBトリスルホン化物のスルホニルクロライド[TTBS3C、式(7)]
18.5gを含む混合物を得た(収率34%)。
【0031】
【化5】

【0032】
(3)ポリエーテルスルホンへのTTBS3C[式(7)]の導入反応
ポリエーテルスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ社製、Radel A−200)(式3)2.0g、ニトロベンゼン30mlを反応容器に入れ、60℃で加熱溶解しながら乾燥窒素で系内を置換した。このポリマー溶液に上記のTTBS3C[式(7)]11.3g(17.1mmol)を含む混合物を入れ、溶解させた。この溶液に塩化アルミニウム2.54g(18.96mmol)を少量ずつ加え、80℃、20時間で撹拌した。反応溶液をメタノール:塩酸=10:1混合溶液 500mlに投入し、析出した固体を粉砕しながら撹拌した。この固体をろ過したあと、メタノールで数回洗浄し、80℃で真空乾燥して側鎖導入したポリエーテルスルホン(式(8))を得た。収量は2.33gであった。
【0033】
【化6】

【0034】
(4)側鎖導入したポリエーテルスルホンの酸化
上記で得られた側鎖導入したポリエーテルスルホン(式(8))20.0gを200mlのガラス反応容器へ入れ酢酸を800ml、および34%過酸化水素水溶液2gを加え、攪拌しながら徐々に昇温し、90℃で6時間反応を続けた。反応後、放冷し、ポリマーを濾別水洗後、真空乾燥して、側鎖導入したポリエーテルスルホンの酸化物(式(9))19.6g(92%)を得た。
【0035】
【化7】

【0036】
上記の樹脂の固形分量が30wt%となるように、樹脂15gおよびNMPをフラスコに入れて、攪拌しながら80℃で加熱溶解させてポリマーワニスを得た。バーコーター(200μm用)を用い、ガラス基板上に貼り付けたPET薄膜上に塗布後、乾燥器にて80℃、0.5時間予備乾燥させ、塗膜をPET薄膜から剥がした。剥がした塗膜を真空乾燥器で100℃、3時間乾燥した。さらに、塗膜重量の1,000倍量のイオン交換水中に室温で2日間浸漬させることで、NMPを除去したフィルムを得た。次に、フィルムを25℃・50%RH環境に24時間静置することで調湿後、各種物性測定を行った。結果を表1および2に示す。
【0037】
[実施例2]
(1)ヘキサキス(フェニルチオ)−ベンゼン(HTB)(式(10))の合成
チオフェノール19.8g(180mmol)をディーンスターク管、冷却管、温度計を備えた三口フラスコにとり、水酸化カリウム4.5gとN,N−ジメチルアセトアミド50ml、トルエン25mlを加えてスターラーで攪拌した。150℃まで昇温し、加熱還流しながら生成する水を除去した。これにヘキサブロモベンゼン11.0g(20mmol)を加え、160℃で4時間反応させた。薄層クロマトグラフィーで反応が終了したことを確認後、この混合物溶液中から有機物を分離、エタノールを用いた再結晶による精製をして、ヘキサキス(フェニルチオ)−ベンゼン(HTB)11.3gを得た(収率78%)。
【0038】
【化8】

【0039】
(2)HTBのヘキサスルホン酸化物(HTBS6)(式(11))の合成
温度計、滴下ろうと、三方コックをつけた三口フラスコにヘキサキス(フェニルチオ)−ベンゼン(HTB)90.0g(124mmol)とスルホラン120mlを入れ、乾燥窒素で系内を置換した。液温を70℃に保ち、クロロ硫酸95.6g(818mmol)をゆっくり滴下し、その後1.5時間攪拌した。反応の確認は液体クロマトグラフィー[Agilent社製100シリーズ、カラム:GLサイエンス社製、Intersil ODS−3、移動相:10Mギ酸アンモニウム/アセトニトリル、UV検出波長:254nm]にて行なった。HTBのヘキサスルホン化物[HTTBS6、式(11)]81.7gを含む混合物を得た(収率65%)。
【0040】
【化9】

【0041】
(3)HTBヘキサスルホン化物のスルホニルクロライド(HTBS6C(式(12)の合成
HTBS6を含む上記の混合物を、温度計、滴下ろうと、三方コックをつけた三口フラスコに入れた。液温を70℃に保ち、滴下ろうとから塩化チオニル12.4g(124mmol)をゆっくり滴下し、2時間攪拌した。反応の確認は液体クロマトグラフィーにて行なった。HTBヘキサスルホン化物のスルホニルクロライド[HTBS6C、式(12)]27.5gを含む混合物を得た(収率33%)。
【0042】
【化10】

【0043】
(4)ポリエーテルスルホンへのHTBS6C[式(12)]の導入反応
ポリエーテルスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ社製、Radel A−200)(式3)2.0g、ニトロベンゼン30mlを反応容器に入れ、60℃で加熱溶解しながら乾燥窒素で系内を置換した。このポリマー溶液に上記のHTBS6C[式(12)]17.6g(17.0mmol)を含む混合物を入れ、溶解させた。この溶液に塩化アルミニウム2.51g(18.70mmol)を少量ずつ加え、80℃、20時間で撹拌した。反応溶液をメタノール:塩酸=10:1混合溶液 500mlに投入し、析出した固体を粉砕しながら撹拌した。この固体をろ過したあと、メタノールで数回洗浄し、80℃で真空乾燥して側鎖導入したポリエーテルスルホン(式(13))を得た。収量は2.41gであった。
【0044】
【化11】

【0045】
(5)側鎖導入したポリエーテルスルホンの酸化
上記で得られた側鎖導入したポリエーテルスルホン(式(13))20.0gを200mlのガラス反応容器へ入れ酢酸を800ml、および34%過酸化水素水溶液2gを加え、攪拌しながら徐々に昇温し、90℃で6時間反応を続けた。反応後、放冷し、ポリマーを濾別水洗後、真空乾燥して、側鎖導入したポリエーテルスルホンの酸化物(式(14))20.3g(92%)を得た。
【0046】
【化12】

【0047】
上記の樹脂を用いること以外は実施例1と同様の操作をして、フィルムを作製し、各種物性測定を行った。結果を表1および2に示す。
[実施例3]TTBS3の自己縮合体
TTBS3C[式(7)]11.3g(17.1mmol)を含む混合物、ニトロベンゼン30mlを反応容器に入れ、60℃で加熱溶解しながら乾燥窒素で系内を置換した。この溶液に塩化アルミニウム2.54g(18.96mmol)を少量ずつ加え、80℃、20時間で撹拌した。反応溶液をメタノール:塩酸=10:1混合溶液 500mlに投入し、析出した固体を粉砕しながら撹拌した。この固体をろ過したあと、メタノールで数回洗浄し、80℃で真空乾燥してTTBS3の自己縮合体を得た。収量は9.25gであった。GPCによって、ポリスチレン換算の分子量を求めたところ、23000であった。
上記の自己縮合体を用いること以外は実施例1と同様の操作をして、フィルムを作製し、各種物性測定を行った。結果を表1および2に示す。
【0048】
[比較例1]
市販のイオン交換樹脂、ダイヤイオンSK1B(三菱化学(株)製)について上記方法に従ってイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
[比較例2]スルホン化PEEKの合成
二口フラスコにPEEK5g、98%硫酸500mlを入れ、窒素雰囲気下48時間攪拌した後1000mlの水に投入し、洗浄水が中性になるまで洗浄して、110℃で72時間真空乾燥して、スルホン化PEEK5.15gを得た。得られたスルホン化PEEKを用いること以外は実施例1と同様の操作をして、フィルムを作製し、各種物性測定を行った。結果を表2に示す。
【0049】
以上の結果から、本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体を導入したイオン交換樹脂は高いイオン交換容量を有し、また固体高分子形燃料電池用電解質材料としては高いプロトン伝導性を発現しながら寸法安定性に優れることがわかり、本発明の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体がイオン交換樹脂や固体高分子形燃料電池用電解質材料用として、基材樹脂へイオン交換基を導入するためのイオン交換体として有用であることがわかった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は高いイオン交換容量および安価で高いプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂や固体高分子形燃料電池用電解質材料に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
A(−W−B)n (1)
Aは置換基を有していてもよい芳香族環を表し、nは2から6までの整数を表す。WはSおよび/またはSOの連結基である。BはWを介してAに結合する芳香環を表し、この芳香環には−COX、−SOXから選ばれる反応性基を0から5個有し、且つ少なくとも1つの該芳香環には少なくとも1つの該反応性基を有する。Xはハロゲン原子、OR(Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基)、水酸基から選ばれる。)を表す。
【請求項2】
上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−SOXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
【請求項3】
上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−COXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体。
【請求項4】
上記一般式(1)で表される芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合体。
【請求項5】
上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−SOXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合体。
【請求項6】
上記一般式(1)においてBが有する反応性基が−COXである請求項1記載の芳香族スルフィドおよび/またはスルホン誘導体の自己縮合体。

【公開番号】特開2007−39418(P2007−39418A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228121(P2005−228121)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】