説明

芳香族ブロック共重合体、その分解方法および該分解方法を用いた分析方法

【課題】ポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体の、簡便で、再現性良好な分析方法に係る処理として好適な分解方法を提供する。さらに該分析方法を用いて求められる、特定のポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体を提供する。
【解決手段】[1]下記一般式(1)で表されるセグメントと他のセグメントを含む芳香族ブロック共重合体の、該他のセグメントを選択的に化学分解させる分解方法。


[2]上記化学分解が、塩基性化合物を用いて芳香族ブロック共重合体を分解する方法である上記[1]の分解方法。
[3]上記いずれかの分解方法で処理された、分解処理物の高分子成分の分子量または分子量分散を分析する分析方法。
[4][3]で求められる分子量分散が7以下の芳香族ブロック共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレン構造のセグメントと、他のセグメントとを含む芳香族ブロック共重合体、およびその構造情報を分析する上で、好適な分解方法に関する。さらに詳しくは、特定の化学分解処理にて、該芳香族ブロック共重合体中の、該他のセグメントを選択的に分解する分解方法、該分解方法にて得られた分解物を分析する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロック共重合体は、非特許文献1の記載によれば、「分子内に2種以上の相異する化学構造を有する重合体セグメントが互いに連結してなる重合体」であり、例えば、高分子鎖が剛直なハードセグメントと、高分子鎖が可とう性を有するソフトセグメントとを有するブロック共重合体が、強度と強靭性を併せ持つブロック共重合体として種々開発されている。かかるブロック共重合体は、互いに相反する性質を有する重合体セグメント(以下、「セグメント」と略す)のセグメント鎖長、繰り返し度によって該ブロック共重合体の物性が変動しやすく、安定的な品質のブロック共重合体を得るためには、その製造に係る品質管理に有効な分析技術が重要である。
該ブロック共重合体を製造する方法としては、2種類以上のセグメントとなりうる重合体(セグメント前駆体ポリマー)をそれぞれ重合して得た後、それらを連結する方法や、予め末端に反応性基を有するセグメント前駆体ポリマーを製造し、該前駆体ポリマーに対して、他方のセグメントを誘導するモノマーを遂時重合して得る方法が挙げられる。これらの製造方法においては、製造中間体であるセグメント前駆体ポリマーの段階でポリマー分析を行うことで、ブロック共重合体を構成するセグメントの品質を管理し、最終製品であるブロック共重合体を安定的に製造する手法が通常用いられている。しかしながら、ブロック共重合体を得た後に、それを構成しているセグメントを分析・評価する実用的な方法は、ほとんど開発されていない。
【0003】
ブロック共重合体を構成する各セグメントに係る分析技術の代表例として、スチレン−ブタジエン共重合体では、ポリブタジエンセグメントをオゾン分解することで、ポリスチレンセグメントを解析する手法が提案されている(例えば非特許文献2参照)。しかしながら、オゾンは高反応性であることから、条件を厳密にコントロールしないと、オゾン分解自体の再現性が低く、品質管理を目的とした分析方法としては不十分であった。また、オゾン分解が適用されるのは、ジエン由来のポリマーやポリアルキレンオキシド鎖を有するポリマーに限定され(非特許文献3)、他のポリマーへの適用例はほとんど無いのが現状であった。
ところで近年、機械強度や耐熱性の面から好適であり、膜の形態としたとき、相分離に係る機能性を発現する、芳香族高分子セグメントを有する芳香族ブロック共重合体が、燃料電池用イオン伝導膜、酸素透過膜、イオン交換膜等の用途で注目されている。より高い性能を有する芳香族ブロック共重合体の開発の中で、より精密な構造解析、特にブロック構成や各セグメントを独立に分析する手法が求められていた。しかし、このような芳香族ブロック共重合体は元来分解性が低いことから、熱分解ガスクロマトグラフィーのようにポリマー構造のほとんど全てを高温で分解する手法が通常用いられ、芳香族ブロック共重合体を構成するセグメントを選別して分析する手法は皆無であった。
【0004】
【非特許文献1】化学辞典(普及版)、志田正二編、森北出版、1985年発行
【非特許文献2】Y.Tanaka, et al.: Rubber Chem. Yechnol., 59,16 (1986)
【非特許文献3】新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1994年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記芳香族ブロック共重合体の中でも、芳香環が直接結合してなるポリアリーレンセグメントを有するブロック共重合体は、膜の形態としたとき、化学的、機械的安定性を有することから各種機能性ポリマーへの適用が検討されているが、その製造方法に係るyamamoto重合法やsuzuki重合法は、付加重合法にて得られるポリマーよりも分子量分布が広くなる傾向が強く、とりわけ該芳香族ブロック共重合体製造において、ポリアリーレンセグメントの分子量分布等の構造情報を得るのは、該芳香族ブロック共重合体の品質管理上、重要である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体に関する簡便で、高精度の分析手段において、好適な該芳香族ブロック共重合体の分解方法を提供することにある。また、該分解方法にて該芳香族ブロック共重合体を処理することにより、従来の分析方法と比較して、該芳香族ブロック共重合体の特性を判定するための、より高精度の分析方法を提供する。さらに、本発明は上記の分析方法で求められる特定の分子量分布をもつポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]下記一般式(1)で表されるセグメント1と、下記一般式(2)で表される構造単位および/または一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント2を含む芳香族ブロック共重合体において、セグメント2を選択的に化学分解させる分解方法

(式中、mは5以上の整数を表す。Ar1は、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表し、5以上あるAr1は、互いに同一でも異なっていてもよい。)

(上式中、Ar10、Ar20、Ar21はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。X10、X20は互いに独立に、酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数1〜10のフッ素置換アルキレン基を表し、Y20はスルホニル基、カルボニル基または炭素数1〜20のフッ素置換アルキレン基を表す。)
を提供するものである。
【0008】
さらに、本発明に適用する芳香族ブロック共重合体としては、下記の[2]、[3]が好ましい。
[2]上記芳香族ブロック共重合体が、イオン交換基および/または保護基にてイオン交換基を保護してなる基を有するブロック共重合体である、[1]の分解方法
[3]上記芳香族ブロック共重合体が、上記一般式(1)で表されるセグメントを構成する、5個以上のAr1の一部または全部に、イオン交換基を有するブロック共重合体である、[1]の分解方法
【0009】
さらに、本発明の化学分解において好適な実施様態である、下記[4]〜[7]を提供する。
[4]上記化学分解が、上記芳香族ブロック共重合体の塩基性化合物による分解させる方法である、[1]〜[4]のいずれかの分解方法
[5]上記塩基性化合物が有機アミンを含む、[4]の分解方法
[6]上記塩基性化合物が環状有機アミンを含む、[4]の分解方法
[7]上記塩基性化合物が、ピロリジン、ピペラジンおよびピペリジンからなる群から選ばれる少なくも1種の環状有機アミンを含む、[4]の分解方法
【0010】
さらに、本発明は上記のいずれかの分解方法を用いた、下記[8]〜[10]の分析方法を提供する。
[8]上記いずれかの分解方法によって得られた分解物中の高分子成分の化学構造を同定する、芳香族ブロック共重合体の分析方法
[9]上記いずれかの分解方法によって得られた分解物中の高分子成分の分子量または分子量分散を分析する、芳香族ブロック共重合体の分析方法
[10]分解方法によって得られた分解物の高分子成分の分子量または分子量分散をサイズ排除クロマトグラフィーにて分析する、芳香族ブロック共重合体の分析方法
【0011】
また、本発明は上記いずれかの分解方法を用いて求められる、下記[11]〜[12]を提供する。
[11]上記[1]〜[7]のいずれかの分解方法により、上記セグメント2の総重量に対して、90重量%以上分解させたときの分解物の、高分子成分の分子量分散が7.0以下となる、芳香族ブロック共重合体
[12]上記[1]〜[7]のいずれかに記載の分解方法により、上記セグメント2の総重量に対して、90重量%以上分解させたときの分解物の、高分子成分の分子量分散が5.0以下となる、芳香族ブロック共重合体。
【0012】
上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体は種々の用途に適用することが可能であり、下記[13]〜[20]を提供する。
[13]上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする成形体
[14]上記[13]において膜であることを特徴とする成形体
[15]上記[14]において膜が溶液キャスト法によって製造されることを特徴とする成形体
[16]上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体を熱プレス成形法、射出成形法、押出し成形法、溶融紡糸成形法、カレンダ成形法、ロール成形法、ブロー成形法により成形してなることを特徴とする成形体
[17]上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする繊維
[18]上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする中空体
[19]上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とするビーズ
[20]上記[11]または[12]の芳香族ブロック共重合体と少なくとも触媒を含有することを特徴とする触媒組成物
【発明の効果】
【0013】
本発明の分解方法によれば、化学的安定性、機械強度に優れ、機能性高分子材料として好適に用いることができるポリアリ−レンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体の構造情報を得る上で、簡便な分析方法を提供できる。さらに、該分析方法は、該芳香族ブロック共重合体のセグメント鎖長等の情報を再現性よく、正確に得ることを可能とし、該芳香族ブロック共重合体の安定生産に係る品質管理分析方法としても好適であり、工業的に有用である。
さらに、本発明により得られる特定の分子量分散(Mw/Mn)をもつポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体は、膜などに加工する際に、ヘーズ値が極めて小さく、光学的に透明である膜に加工できるという観点からも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0015】
本発明に適用される芳香族系ブロック共重合体は上記一般式(1)で表されるセグメント1と、上記一般式(2)で表される構造単位および/または一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント2を、各々有するものである。
まず、上記一般式(1)で表されるセグメント1について説明する。Ar1は置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表し、一般式(1)で表されるセグメント中、複数あるAr1は同一でも異なっていてもよい。該2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基、フルオレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。特に、好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0016】
Ar1の置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基であるか、イオン交換基、該イオン交換基を保護基にて保護してなる基が挙げられる。該イオン交換基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基、スルホンイミド基等の酸性基や置換基を有していてもよいアミノ基や4級アンモニウム基等の塩基性基を挙げることができる。また、該イオン交換基を保護基にて保護してなる基としては、例えば、該酸性基をエステル化またはアミド化して保護した基(以下、「保護酸性基」と呼ぶ)、アミノ基をアミド化して保護した基(以下、「保護アミノ基」と呼ぶ)を挙げることができる。
【0017】
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子から選ばれる。
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20の直鎖アルキル基、分岐アルキル基あるいは環状アルキル基、およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェノキシフェノキシ基、ナフトキシフェノキシ基、上記酸性基、上記保護酸性基、上記塩基性基、上記保護アミノ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基が挙げられる。
【0018】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20の直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、あるいは環状アルコキシ基、およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェノキシフェノキシ基、ナフトキシフェノキシ基、上記酸性基、上記保護酸性基、上記塩基性基、上記保護アミノ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基が挙げられる。
【0019】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ピバロイル基、ノニルカルボニル基、ウンデシルカルボニル基、ペンタデシルカルボニル基、ヘプタデシルカルボニル基、ノナデシルカルボニル基等の炭素数1〜20の直鎖アシル基、分岐アシル基あるいは環状アシル基およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェノキシフェノキシ基、ナフトキシフェノキシ基、上記酸性基、上記保護酸性基、上記塩基性基、上記保護アミノ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアシル基が挙げられる。
【0020】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェノキシフェノキシ基、ナフトキシフェノキシ基、上記酸性基、上記保護酸性基、上記塩基性基、上記保護アミノ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基が挙げられる。
【0021】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェノキシフェノキシ基、上記酸性基、上記保護酸性基、上記塩基性基、上記保護アミノ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基が挙げられる。
【0022】
置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基としては、例えばベンゾイル基、ナフトイル基、アントラセニルカルボニル基等のアリールカルボニル基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェノキシフェノキシ基、上記酸性基、上記保護酸性基、上記塩基性基、上記保護アミノ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリールカルボニル基が挙げられる。
【0023】
ここで、酸性基がエステル化された保護酸性基としては一般式で示して、ROC(O)−、ROS(O)2−、(RO)(R’O)P(O)−等が挙げられる。ここで、Rは炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基であり、R’は水素原子であるか、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基である。
また、酸性基がアミド化された保護酸性基としては、一般式で示して、RN(R’)C(O)−、RN(R’)S(O)2−、(RNH)P(O)(OH)−、(RNH)2P(O)−等が挙げられ、R、R’は上記と同義である。
これらの保護酸性基は、加水分解により容易に酸性基に変換することができる。
一方、アミノ基がアミド化された保護アミノ基としては、RCON(R’)−で示され、R、R’は上記保護酸性基の場合と同等の定義である。これらの保護アミノ基も、加水分解により容易にアミノ基に変換することができる。
【0024】
一般式(1)において、mは該セグメントを構成する構造単位の重合度であり、5以上の整数である。このように、mは5以上であると、芳香族ブロック共重合体におけるセグメント1に係る機能が発現しやすい。mは5〜1000の範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。一般式(1)で表されるセグメントの重合度が上記の範囲の芳香族ブロック共重合体は、かかるセグメントの機能を発現しやすいことから、種々の機能性材料に応用可能であり、工業的に有用な材料を提供するものである。このような芳香族ブロック共重合体の製造に対して、本発明の分解方法は、その工業的生産に係る品質管理において、好適な分析方法の提供を可能とする。
【0025】
上記一般式(1)で表されるポリアリーレンセグメントを構成する構造単位としては、例えば、下記(1−1)〜(1−3)等が挙げられ、このような構造単位がm個連結してなるセグメントが挙げられる。

このような構造単位は、上記のように、その芳香環に置換基を有していてもよく、該置換基は上記Ar1の置換基として例示したものが挙げられる。置換基を有している場合、その置換基が芳香族基であると好ましく、下記(1−4)〜(1−19)等が挙げられる。





なお、上記(1−4)〜(1−19)の構造単位において、側鎖の芳香族基はその総炭素数が20を越えない範囲でさらに置換基を有していてもよい。
【0026】
次に、本発明に適用する芳香族ブロック共重合体において、セグメント2について説明する。
該セグメント2は、後述する化学分解において容易に分解されうるセグメントであり、その芳香族ブロック共重合体を構成する主鎖がポリアルキレン鎖または分解に寄与する2価の基によって芳香環が連結された芳香族高分子セグメントである。このように、芳香族ブロック共重合体が機能性高分子膜として機能するためには、膜としての形態を維持できる機械強度が必要であり、上記一般式(1)で表されるセグメント1と、下記一般式(2)で表される構造単位および/または一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント2とからなる芳香族ブロック共重合体が、かかる機械強度に優れ、種々の工業用途に適用されている。

(上式中、Ar10、Ar20、Ar21はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。X10、X20は互いに独立に、酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数1〜10のフッ素置換アルキレン基を表し、Y20はスルホニル基、カルボニル基または炭素数1〜20のフッ素置換アルキレン基を表す。)
【0027】
ここで、Ar10、Ar20、Ar21に係る具体的な例示は、上記一般式(1)のAr1と同等の例示であり、置換基も同等の例示である。
また、X10、X20は、互いに独立に、エーテル結合を形成する酸素原子、またはチオエーテル結合を形成する硫黄原子であるか、炭素数1〜10のアルキレン基あるいは炭素数2〜10のフッ素置換アルキレン基を表すものである。該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、2,2−ブチリデン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、シクロへキシレン基、アダマンタンジイル基等が挙げられ、該フッ素置換アルキレン基としては、ジフルオロメチレン基、テトラフルオロエチレン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、オクタフルオロ−2,2−ブチリデン基等が挙げられる。
【0028】
セグメント2を構成する構造単位である、一般式(2)で表される構造単位を具体的に例示すると、下記の(2−1)〜(2−27)が挙げられる。





【0029】
また、一般式(3)で表される構造単位として好適なものを具体的に例示すると、下記の(3−1)〜(3−18)が挙げられる。





【0030】
セグメント2としては、上記に例示した(2−1)〜(2−27)または(3−1)〜(3−18)のような構造単位が複数連結してなるものである。セグメント2の重合度は5以上であると、ブロック共重合体における他のセグメントに係る機能が発現しやすいことから工業的に有用であり、5〜1000の範囲が好ましい。さらには、セグメント2の重合度としては、5〜500の範囲が好ましく、10〜200の範囲が特に好ましい。当該重合度が上記の範囲である芳香族系ブロック共重合体は機械強度に優れ、機能性高分子膜の用途として工業的に有用であり、該芳香族ブロック共重合体の製造に係る品質管理分析として、本発明の分解方法は好適に用いることができる。
【0031】
さらに、上記他のセグメントとしては、上記一般式(2)と一般式(3)の共重合体の形態でもよく、例えば、一般式(4)で表される構造単位からなるセグメントが挙げられる。

(上式中、Ar10、Ar20、Ar21、X10、X20、Y20は上記と同義である。)
【0032】
一般式(4)で表される構造単位を具体的に例示すると、下記の(4−1)〜(4−16)が挙げられる。



かかる構造単位の重合度は、3〜500の範囲が好ましく、5〜200の範囲が特に好ましい。
【0033】
本発明に適用される芳香族ブロック共重合体の中でも、イオン交換基を有している芳香族ブロック共重合体は、イオン交換材料、イオン伝導材料、分離膜等の分離材料等に適用され、工業的に特に有用である。ここで、該イオン交換基としては、上記の酸性基や塩基性基に加えて、該酸性基や該塩基性基に変換可能な、上記の保護酸性基、保護アミノ基が挙げられる。中でも、該イオン交換基が酸性基あるいは保護酸性基であると、近年開発が活発化している固体高分子型燃料電池用イオン伝導膜材料若しくはその前駆体として有用であり、本発明の分解方法によれば、該芳香族ブロック共重合体の分析方法、とりわけ、その工業的生産における品質管理のみならず、上記イオン伝導膜を開発するための、材料評価としても好適な分析方法を提供することを可能とする。
【0034】
上記イオン交換基としては、特に限定されるものではなく、例えば、−SO3H、−COOH、−PO(OH)2、−SO2NHSO2−、−Ph(OH)(Phはフェニレン基を表す)などの陽イオン交換基、−NH2、−NHR、−NRR’、−N+RR’R’’、−NH3+(R,R’およびR’’はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す)などの陰イオン交換基などが挙げられる。中でも、陽イオン交換基が好ましく、とりわけ−SO3H(スルホン酸基)が好ましい。これらの基は、その一部または全部が対イオンとの塩を形成していてもよい。
【0035】
イオン交換基を有する芳香族ブロック共重合体である場合、特に、イオン交換基を有するセグメントと、イオン交換基を実質的に有さないセグメントとを有するブロック共重合体は、例えば膜の形態としたとき、セグメント単位の相分離が生じ、イオン交換基が密なドメインと、粗なドメインを併せ持つ膜が得られ、種々の機能が期待されるものとなる。かかる芳香族ブロック共重合体としては、下記のセグメントの組合わせが挙げられる。
(i)イオン交換基を有する一般式(1)で表されるセグメント1と、イオン交換基を実質的に有さない一般式(2)で表される構造単位からなるセグメント2からなるブロック共重合体
(ii)イオン交換基を有する一般式(1)で表されるセグメント1と、イオン交換基を実質的に有さない一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント2からなるブロック共重合体
(iii)イオン交換基を有する一般式(1)で表されるセグメント1と、イオン交換基を実質的に有さない一般式(4)で表される構造単位からなるセグメント2からなるブロック共重合体
(iv)イオン交換基を実質的に有さない、一般式(1)で表されるセグメント1と、イオン交換基を有する一般式(2)で表される構造単位からなるセグメント2からなるブロック共重合体
(v)イオン交換基を実質的に有さない、一般式(1)で表されるセグメント1と、イオン交換基を有する一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント2からなるブロック共重合体
(vi)イオン交換基を実質的に有さない、一般式(1)で表されるセグメント1と、イオン交換基を有する一般式(4)で表される構造単位からなるセグメント2からなるブロック共重合体
なお、上記の組合わせの例示において、「イオン交換基を有するセグメント」とは、かかるセグメントを構成する構造単位1個当たりのイオン交換基数で表して、0.5個以上であることを指すものである。一方、「イオン交換基を実質的に有さないセグメント」とは、かかるセグメントを構成する構造単位1個当たりの、イオン交換基数が0.1個以下であることを指すものである。
【0036】
上記の組合わせの中でも、(i)、(ii)または(iii)に示す、一般式(1)で表されるセグメント1にイオン交換基を有する芳香族ブロック共重合体が好ましい。このように、ポリアリーレンセグメントに、イオン交換機能あるいはイオン伝導機能等の機能を付与できるイオン交換基を有する芳香族ブロック共重合体は、化学安定性あるいは機械強度に優れ、工業的にもより有用なものとなる。
【0037】
一般式(1)で表されるセグメント1の中で、イオン交換基を有するセグメントを具体的に例示すると、下記の(i−1)〜(i−11)で表される構造単位を有するセグメントを挙げることができる。Qはイオン交換基であるか、イオン交換基になりうる保護酸性基、保護アミノ基(以下、保護酸性基と保護アミノ基を「保護イオン交換基」と総称する)、イオン交換基を有する基、保護イオン交換基を有する基を表す。

(式中、Qは上記と同義であり、Qが構造単位中、複数ある場合は、互いに同一でも異なっていてもよい。s1は1または2である。s2、s3はそれぞれ、0以上2以下の整数を表わし、s2+s3は1以上の整数である。)
【0038】

(式中、Qは上記と同義である。t1、t2はそれぞれ、0以上2以下の整数を表し、t1+t2は1以上の整数である。)
【0039】

(式中、Qは上記と同義である。u1、u2、u3はそれぞれ、0以上2以下の整数を表し、u1+u2+u3は1以上の整数である。)
【0040】
上記の(i−1)〜(i−11)で表される構造単位に係るQにおいて、イオン交換基を有する基、保護イオン交換基を有する基としては、例えば下記の基を挙げることができる。

(上式中、Q’はイオン交換基あるいは保護イオン交換基であり、p1、p2は1以上6以下の整数であり、*は結合手を表す。)
【0041】
次に、芳香族ブロック共重合体の化学分解について説明する。
ここで、「化学分解」とは、広義の概念として非特許文献1に、「加水分解反応や酸化分解反応などにより、反応性に富んだ部分、結合の弱い部分を切断して高分子化合物を構造選択的に低分子化する方法」と定義されるものであるが、これまで該化学分解を、芳香族ブロック共重合体に適用した例はほとんど見られなかった。本発明者らは、上記一般式(1)で表されるセグメント1と、他のセグメント(セグメント2)を有し、機能性高分子材料に用いられる芳香族ブロック共重合体に対して、特定の反応剤を用いた化学分解が、該芳香族ブロック共重合体に係る各セグメントのセグメント鎖長、セグメント重量構成比等に対して、再現性良好な情報を与える分析方法に応用できることを見出した。すなわち、該セグメント1と該セグメント2を有する、芳香族ブロック共重合体において、化学分解を用いると、セグメント2を選択的に、再現性よく分解することが可能となり、かかる分解方法は、当該芳香族ブロック共重合体の構造情報を得る上で極めて有用であり、かかる分解方法を分析方法に応用することは、本発明者らの独自の知見に基づくものである。
【0042】
化学分解に使用する反応剤としては、酸、アルカリまたはアルコール等があげられる。
該酸としては、塩酸、硝酸等の強酸が挙げられ、該アルカリとしては、苛性ソーダ、アミン類等が挙げられ、該アルコール種としては、メタノール、エタノール等が挙げられるが、中でも高反応性、高選択性の観点からアルカリ(塩基性化合物)が好適である。
【0043】
該アルカリの中でも、アミン類がとりわけ好ましい。本発明者らは、該アミン類を用いると、上記に示した機能性高分子膜用途に好適な芳香族系ブロック共重合体において、一般式(1)に表されるセグメント1が難分解性であり、一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)で表される構造単位からなるセグメント2を選択的に分解することが可能であり、かかるブロック共重合体の中で、一般式(1)で表されるセグメントに係る構造情報を容易に求められることを見出した。
また、該アミン類を用いた化学分解を上記芳香族ブロック共重合体に施すと、一般式(1)で表される難分解性のセグメント1と、易分解性である、上記の一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)で表される構造単位からなるセグメント2との重量分率を求めることも可能である。
ここで、アミンとしては、例えば、ジブチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ピロリジン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、イミダゾリジン等の2級アミンが好適であり、中でもピロリジン、ピペラジン、ピペリジンに代表される環状2級アミンが好ましい。
このように2級アミン、特に環状2級アミンが好適な理由は定かではないが、2級アミンの窒素原子は、アルキル基の電子供与性によって、不対電子の状態が求核反応に好ましい状態をとり、環状にするとさらに立体的効果が作用すると推定される。
【0044】
上記化学分解に係る反応条件について具体的に説明する。
反応温度を決定するにあたっては、対象とする芳香族系ブロック共重合体の熱的安定性などを加味して決定される。
すなわち、本発明の分解方法は、上記化学分解によって芳香族ブロック共重合体の1つのセグメントを選択的に分解することで達成されるものであり、熱分解に係る重合体の分解は極力排除するのがよい。かかる熱分解は、例えば対象とする芳香族ブロック共重合体を、予め、示差熱/熱重量(TG-DTA)測定を行い、熱分解に係る分解温度を決定しておき、該分解温度を、化学分解における反応上限温度として設定する。
また、反応下限温度に関しては、対象とする芳香族ブロック共重合体と、使用する反応剤の種類によって任意に変更できるが、反応温度が著しく低いと、化学分解が長時間を要する傾向があるため、反応温度と反応時間は併せて考慮する必要がある。通常反応時間としては1分〜24時間であることが、品質管理分析として用いる場合、好適であることから、かかる範囲内で化学分解が終了するように、反応温度を決定する。かかる反応温度を決定する手法としては、予備実験を行うことが好適であり、化学分解を経時的にモニタリングして、反応が定常になる終点を求めることで、該化学分解の反応時間と反応温度を決定することができる。ここで、モニタリングの手法としては、サイズ排除クロマトグラフィー(以下、「SEC」と呼ぶ)が好適に使用できる。なお、SECに係る具体的な方法としては、後述する。
このように、反応温度、反応時間を最適化することが可能であるが、通常反応温度としては、0〜200℃、好ましくは50〜180℃、特に好ましくは80〜150℃の範囲であり、反応時間として好ましくは、10分〜20時間、特に好ましくは10分〜15時間である。
【0045】
次に上記反応条件の中で反応溶媒について説明する。
該化学分解は、溶媒の存在下または不在下、どちらでもよいが、通常化学分解反応の再現性をより良好とする点から溶媒を用いることが好ましい。
かかる溶媒として、対象とする芳香族ブロック共重合体と分解剤が副反応を起こさずに溶解するものであると好適である。また、該溶媒の沸点が上記の化学分解に必要とする温度以上であれば、化学分解を常圧(約1気圧)下もしくは加圧下で行なうことが行うことができる。反応性の点では加圧下で行うことが好ましく、設備上簡便であることからは常圧下が好ましい。常圧下で行なう場合、化学分解を施した後、得られた分解物の中で低分子成分と、難分解である上記一般式(1)で表されるセグメント1を有する高分子成分を各々分離してから、後述の分析に供してもよく、このような場合、化学分解終了後の試料を濃縮して、分離精製を行うのであれば、沸点が低いことが、濃縮を容易にする点で好ましく、このような沸点を有する溶媒が好適である。
具体的に溶媒を例示すると、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルなどから、上記の化学分解に用いる反応剤を失活しない範囲で選択することができる。これら溶媒は単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドが、本発明に適用される芳香族ブロック共重合体の溶解性が高く好ましい。
【0046】
上記化学分解にて得られた「低分子成分」と「高分子成分」の区分は、上記SECによる分析において、換算分子量1000の溶出時間を基点として、それよりも早い溶出時間にピークトップを検出する成分を「高分子成分」、それよりも遅い時間にピークトップを検出する成分を「低分子成分」とするものである。なお、SEC分析に係る換算分子量を求める、分子量標準サンプルについては、後述のように、SECが非水系、水系によって各々好適なものを使用することができる。
【0047】
上記のようにして、芳香族ブロック共重合体に化学分解を行った後、処理後の高分子成分を分析することで、該共重合体中の、主として一般式(1)で表されるセグメント1を含む難分解セグメントのセグメントに関する構造情報を同定することができる。本発明の化学分解は再現性良好な結果を与えることから品質管理法として好適に用いることができる。
【0048】
特に、上記高分子成分に対する分析手法としては、SECを用いて分子量分析を行うことが好適である。
分子量分析の中でも、SECを用いる方法は、上記化学分解にて処理(以下、「化学分解処理」と呼ぶこともある)した後、精製操作を行わなくとも、低分子量成分と高分子成分を分離して、該高分子成分の構造情報を分析することが可能であり、より簡便であるため好ましい。また、このようにSECを用いる方法は、精製操作を省略することもできるが、化学分解処理で生じた低分子量成分を除去すると、再現性を得る観点からは、より好ましい。該精製方法としては、溶媒による洗浄や液液抽出法、吸着・分配クロマトグラフィーによる分離、蒸留等の公知の手段を用いるか、これらの手段を組合わせて行うことができる。中でも、低分子量成分と高分子成分が、溶媒に対する溶解性が異なる場合は、溶媒洗浄や液液抽出法が簡便で確実に精製できる点で特に好ましい。
SECの具体的な条件としては、公知の手法から適用される芳香族ブロック共重合体に対する最適なものを求めることができる。また、数平均分子量を測定する際の分子量標準サンプルとしては、SECが非水系(例えば、テトラヒドロフラン溶媒等)である場合はポリスチレン、SECが水系である場合は、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のグリコール類が使用され、これらSECの分子量標準サンプルは市場から容易に入手可能である。
また、SECに適用される検出器としては、使用する芳香族系ブロック共重合体によって種々最適化可能であり、一般に用いられる紫外線吸収検出器、示差屈折率検出器に加え、光散乱検出器や粘度検出器を用いることにより絶対分子量を求めることもできる。
【0049】
また、SECを用いると、高分子成分の構造情報として、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を同時に求めることが可能となり、Mw/Mnで表される分子量分散を求めると、本発明が提供する分析方法の中でも、芳香族ブロック共重合体の工業的生産に係る品質管理分析として、好適な指標となりうる。すなわち、化学安定性や機械強度に優れる、上記一般式(1)で表されるセグメント1の、芳香族ブロック共重合体中に存在する分布に係る構造情報は、かかる芳香族ブロック共重合体の特性を安定的に得る上で、有用な情報であり、特に、上記のように一般式(1)で表されるセグメント1にイオン交換基を有する芳香族ブロック共重合体は、上記Mw/Mnを管理することが、当該芳香族ブロック共重合体の品質を管理する分析方法として、特に有用である。
このように、SECを用いるとMw/Mnを求める上で、MwとMnとを同時に測定することが可能となることから好ましいが、SEC以外の分子量を測定する方法も適用することが可能である。例えば、Mwを求めることができる超遠心法、Mnを求めることができる質量分析法または蒸気圧法等が挙げられ、これらの分析方法を用いて求められる、Mw、MnからMw/Mnを導出することもできる。
【0050】
芳香族ブロック共重合体にある、上記一般式(1)で表されるセグメント1を含む高分子成分がイオン交換基を有している場合は、水に溶解することが多いため、SEC測定時に水を含む移動相溶媒を使用し、高分子量側はポリエチレンオキサイド標準品を低分子量側はポリエチレングリコール標準品を使用して分子量や、分子量分散(Mw/Mn)を算出することが、好ましい。
【0051】
かかるSECを用いる方法は、主として化学分解後の、高分子成分を分析対象とした方法であるが、その他の分析手法を併用することで芳香族ブロック共重合体の未知試料の構造を分析することも可能である。
例えば、化学分解後の難分解セグメントを有する高分子成分を分析する方法については、核磁気共鳴法(NMR法)、質量分析法などを用いればよく、中でも上記高分子成分が溶媒に可溶である場合、NMR法やマトリックス支援レーザー脱離質量分析法(MALDI−TOFMS法)は詳細な構造情報が得られるため特に有用である。
また、化学分解によって生成した低分子量成分を、液体クロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィー法等の分離分析法で分析する方法、該分離分析で分離された分解生成物を同定できるガスクロマトグラフィー−質量分析法、液体クロマトグラフィー−質量分析法等で分析することもできる。
このように、高分子成分の構造情報を得ること、あるいは低分子量成分の情報を得ることで、芳香族ブロック共重合体の構造に係る詳細を把握することもでき、構造に係る分析データと、芳香族ブロック共重合体の性能とを対比して、機能性高分子を設計することも可能である。
【0052】
本発明の分解方法を用いて、芳香族ブロック共重合体にあるセグメント2を選択的に分解させ、上記一般式(1)で表されるセグメント1を含む高分子成分の分子量分散を分析する際、該芳香族ブロック共重合体にあるセグメント2の総重量に対して、90重量%以上のセグメント2を分解させ、残部である分解物の高分子成分を上記SECで分析して求めた分子量分散(Mw/Mn)が、7.0以下である芳香族ブロック共重合体は種々の用途に適用できるため極めて好ましい。分子量分散(Mw/Mn)が7.0を超える場合は、成形体として使用したときに、大きな凝集相を形成する成形体となりやすく、このような成形体は、品質を安定化させて製造するのが困難となる傾向がある。
なお、セグメント2を、その総重量に対して90重量%以上分解させるには、上記好適な分解方法として示した、有機アミン好ましくは環状有機アミンを、分解対象となる芳香族ブロック共重合体に対して過剰に用いて化学分解させることにより達成される。この場合、化学分解に係る反応時間はより長い方が好ましい。さらに、このようなセグメント2の分解率を確認するには、分解物及び化学分解を行う前の芳香族ブロック共重合体の核磁気共鳴(1H−NMR)測定を行い、セグメント2を構成する、上記一般式(2)で表される構造単位または一般式(3)で表される構造単位から、任意の水素原子を選択し、それを基準とし、当該水素原子に基づくプロトン積分値において、本発明の分解方法を行う前後で、そのプロトン積分値の減少率が90%以上であることを指標とすればよい。
【0053】
次に、セグメント2を分解させた後の、分解物の高分子成分に係る分子量分散を求めるSECについて詳述する。
なお、当該SECの検出器としては、セグメント1のAr1が同一の芳香族基である場合は、可視紫外線吸収計または、示差屈折率計を使用する。SEC測定溶液濃度が非常に希薄である場合は、可視紫外線吸収計を使用するほうが感度が高いという利点がある。可視紫外線吸収は、セグメント1が250nmから700nmまでに吸収極大を有する場合は使用が可能であり、セグメント1のモル吸光係数が最大値を100%としたときに、80%以上となる波長を選択することが感度の点でより好ましい。セグメント1のAr1が異なる場合は、示差屈折率計を使用する。セグメント1のAr1が同一の芳香族基かどうか不明な場合は、示差屈折率計を使用する。
【0054】
既述のとおり、本発明の分解方法に適用する好適な芳香族ブロック共重合体は、セグメント1にイオン交換基および/または保護イオン交換基を有するものであるので、上記のようなセグメント1を含む分解物の高分子成分は、通常水に溶解しやすい傾向がある。
この場合、下記のSEC条件1によって、分子量分散を求める。
[SEC条件1]
カラム 東ソー製α−M(内径7.8mm、長さ30cm)
カラム温度 40℃
移動相溶媒 50mM酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル=70/30(体積比)混合液
溶媒流量 0.6ml/min
検出 可視紫外線吸収計または示差屈折率計
分子量算出試料 ポリエチレンオキサイド(高分子量側)、
ポリエチレングリコール(低分子量側)
【0055】
上記セグメント1を含む分解物の高分子成分が、水に難溶または不溶の場合は、下記のSEC条件2により、分子量分散を求める。
[SEC条件2]
カラム 東ソー製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 ジメチルアセトアミドまたはN,N−ジメチルホルムアミド
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
検出 可視紫外線吸収計または示差屈折率計
分子量算出試料 ポリスチレン
なお、SEC条件2において、移動相溶媒が、ジメチルアセトアミドである場合と、N,N−ジメチルホルムアミドである場合とは、通常分子量分散はほぼ同等になる。
【0056】
なお、上記セグメント1を含む分解物の高分子成分が、水、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドのいずれにも難溶または不溶である場合は、下記のSEC条件3により、分子量分散を求めることができる。さらに、上記セグメント1を含む分解物の高分子成分が、ジメチルスルホキシドにも難溶または不溶の場合は、下記のSEC条件4により、分子量分散を求めることができる。
[SEC条件3]
カラム 東ソー製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 60℃
移動相溶媒 ジメチルスルホキシド
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
検出 紫外線吸収(波長300nm)
分子量算出試料 ポリメタクリル酸メチル
[SEC条件4]
カラム 東ソー製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 60℃
移動相溶媒 テトラヒドロキシフラン
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 1mL/min
検出 紫外線吸収(波長300nm)
分子量算出試料 ポリスチレン
【0057】
このように、上記セグメント1を含む高分子成分の分子量分散を求めるには、水を移動相として用いるSEC条件1が優先されるが、水に難溶または不溶の場合は、SEC条件1〜4を既述の順序に従って、移動相たる溶媒に対する溶解度を勘案して決定される。
【0058】
また、本発明が提供する分析方法は、高機械強度が期待できる芳香族ブロック共重合体を提供することを可能とする。
すなわち、本発明の分析方法を用いて、芳香族ブロック共重合体にある、上記一般式(1)で表されるセグメント1を含む高分子成分の分子量分散(Mw/Mn)を求めたとき、該分子量分散が5.0以下である芳香族ブロック共重合体は、高い機械強度が期待されるセグメント1が、該ブロック共重合体中に、ほぼ均一な組成で存在することから、例えば該ブロック共重合体を膜の形態に成形したとき、高機械強度を発現できるセグメント1からなるドメインサイズがより均一となり、かかる膜は機械強度に優れるものとなりうる。この場合も、分解物の高分子成分を分析するSEC条件は上述のとおりである。
【0059】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体を得る方法としては、特に制限はなく、比較的良好な溶解性を保った状態で重合するなどの一般的な方法で行うことができる。かかる良好な溶解性を確保する方法としては、例えば、重合中に存在するポリマーやモノマーに共通した良溶媒を選択する手法や反応濃度を低く保つ手法などの一般的な手法が挙げられる。
【0060】
さらに、かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体を得る方法としては、上記一般式(1)で表されるセグメント1を誘導する前駆体(ポリアリーレンセグメント前駆体)と、他のセグメント(上記一般式(2)で表される構造単位および/または上記一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント)を誘導する前駆体とを結合させて、芳香族ブロック共重合体を製造する際に、該ポリアリーレンセグメント前駆体自体の分子量分散を公知の手法で7.0以下または5.0以下にした後、他のセグメントを誘導する前駆体を結合させる方法によれば、容易に製造することができる。かかる分子量分散を7.0以下または5.0以下にする手法としては、例えば、再沈殿法、クロマト分離法あるいは膜分離法にて、ポリアリーレンセグメント前駆体を分子量分別する方法が挙げられる。このようにして分子量分別を行ったポリアリーレンセグメント前駆体と、他のセグメントを誘導する前駆体を結合させて得られる芳香族ブロック共重合体は、高強度が期待できる機能性高分子材料であり、かかる機能性高分子材料を設計するためにも、本発明の分解方法、ならびに該分解方法を用いた分析方法は好適に用いることができる。
上記のように特定の分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体を得る方法には、合成反応制御により所望の共重合体を合成して得る方法と合成した芳香族ブロック共重合体を分子量分別などにより所望の共重合体のみを分別して得る方法が挙げられるが、これらの手法は、単独で行ってもよいし、複数の手法を組み合わせてもよい。
【0061】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体からなる膜を製造する方法としては、特に制限はないが、例えば、溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)、Tダイから、溶液状態または溶融状態の共重合体を押出し巻き取るTダイ法、環状ダイスを設置した押出し機から溶液状態または溶融状態の共重合体を押出し巻き取る方法、熱プレス法、カレンダもしくはロールを用いた成形法が挙げられる。中でも、溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)やTダイから溶液状態の共重合体を押出し巻き取るTダイ法が好ましく使用される。
【0062】
具体的には、該芳香族ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上などに流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜される。製膜に用いる溶媒は、該芳香族ブロック共重合体を溶解可能であり、その後除去し得るものであれば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素化溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル、または水が好適に用いられる。これらは、単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。環境に配慮すると非プロトン性極性溶媒、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテルまたは水がより好ましく用いられる。中でも、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、またはジメチルスルホキシド(DMSO)がポリマーの溶解性が高くさらに好ましい。
【0063】
膜の厚みは、特に制限はないが、10〜300μmが好ましく、20〜100μmが特に好ましい。膜が薄すぎると実用的な強度が十分でない場合があり、膜が厚すぎると膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスに使用する際に、特性が低下する可能性がある。膜厚は、溶液濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0064】
膜の各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤などを用いることができる。また、混合溶解して共キャストするなどの方法により、他のポリマーを本発明の芳香族ブロック共重合体と複合化することも可能である。さらには、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加することも可能である。これらの公知の方法はいずれも目的とする特性を著しく損なわない範囲で使用できる。
【0065】
本発明の膜は、多孔体でも緻密膜でもよく、支持体と複合化されていてもよい。支持体は、特に制限はなく、金属やガラスなどの無機材料でもポリマーなどの有機材料およびそれらの複合体や積層体でもよく、その一部または全部分が多孔体となっていても構わない。
【0066】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体からなる繊維を製造する方法としては、特に制限はないが、溶液状態より紡糸する方法が好ましく使用される。
具体的には、該芳香族ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液を細いノズルから押出し、溶媒を除去することにより紡糸される。紡糸に用いる溶媒は、該芳香族ブロック共重合体を溶解可能であり、その後除去し得るものであれば特に制限はなく、上記製膜と同様に選択することが可能である。
【0067】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体からなる中空体を製造する方法としては、特に制限はないが、例えばブロー成形法が挙げられ、得られる成形体の形状としては、ボトル、タンク、パイプや中空容器などが挙げられる。
【0068】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体からなる中空体を製造する方法としては、特に制限はないが、例えばブロー成形法が挙げられ、得られる成形体の形状としては、ボトル、タンク、パイプや中空容器などが挙げられる。
【0069】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体からなるビーズを製造する方法としては、特に制限はないが、例えば該芳香族ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液を霧状に噴霧し即座に乾燥させるスプレードライ法や、該芳香族ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液を該芳香族ブロック共重合体が溶解しない溶媒へ滴下する方法などが挙げられる。
【0070】
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体と触媒を含有する触媒組成物における触媒は、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、燃料電池用の触媒としては、白金の微粒子が特に好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられる。
かかる分子量分散を呈する芳香族ブロック共重合体と触媒を含有する触媒組成物の製造方法としては、特に制限はなく、芳香族ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解し、この溶液に触媒を混合して得ることが可能である。
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
なお、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)測定は下記の条件で行い、分子量分散(Mw/Mn)を算出した。例においてSEC分析を行った結果については、条件を区別して表記する。
[SEC条件A1]
GPC測定装置 東ソー製 HLC−8220
カラム 東ソー製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 ジメチルアセトアミド
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
検出 紫外線吸収(波長300nm)
分子量算出試料 ポリスチレン
[SEC条件A2]
GPC測定装置
カラム 東ソー製α−M(内径7.8mm、長さ30cm)
カラム温度 40℃
移動相溶媒 50mM酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル=70/30(体積比)混合液
溶媒流量 0.6ml/min
検出 紫外線吸収(波長300nm)
分子量算出試料 ポリエチレンオキサイド(高分子量側)、
ポリエチレングリコール(低分子量側)
【0073】
膜のヘーズ(曇度)測定は、以下の方法により測定した。
乾燥状態の膜および80℃の水に10分浸漬させた後の湿潤状態の膜を用い、積分球の開口部にPVDCフィルムを貼った直読ヘーズコンピューター(スガ試験機株式会社製)を使用し、拡散反射率(Td)と直線透過率(Tp)を測定し、以下の式(1)により、ヘーズ値を算出した。
ヘーズ(%)=Td/Tt*100 ・・・(1)
Tt:全光線透過率(=Td+Tp)
膜中に大きな凝集相を形成しているとヘーズ値が大きくなる。
【0074】
実施例1
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、ジメチルスルホキシド380ml、トルエン100mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム8.7g(34.9mmol)、末端クロロ型であるポリエーテルスルホン((ビス(4−クロロフェニル)スルホンとビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン)から、ビス(4−クロロフェニル)スルホンを過剰に用いる事により製造した。Mn=2.1×104、Mw=4.4×104[SEC条件1])4.0g、2,2’−ビピリジル14.0g(89.5mmol)を入れて攪拌した。その後バス温を150℃まで昇温し、トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水した後、65℃に冷却した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)23.4g(85.2mmol)を加え、80℃で5時間攪拌した。放冷後、反応液を大量の6mol/Lの塩酸に注ぐことによりポリマーを析出させ濾取した。その後6mol/L塩酸による洗浄・ろ過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行ない、減圧乾燥することにより目的とする下記芳香族ブロック共重合体(ポリフェニレンスルホン酸からなるセグメント1とポリエーテルスルホンからなるセグメント2の芳香族ブロック共重合体)6.6gを得た。この芳香族系ブロック共重合体をポリマーAとする。滴定法にてイオン交換容量を求めた結果、2.6meq/gであった。
ポリマーAを、SEC条件A1で分析した結果、数平均分子量(Mn)は6.9×104、重量平均分子量(Mw)は1.3×105である。

【0075】
上記ポリマーA100mgとN,N−ジメチルホルムアミド15ml、ピペリジン5mlを平底フラスコに加え、冷却還流管を取り付け、サンドバスにて12時間加熱還流させた。その後、内容物をN,N−ジメチルホルムアミドで洗いながらナシ型フラスコに移し、エバポレーターにて濃縮後、攪拌子でアセトン100mlを攪拌している200ml容ビーカーにパスツールピペットを用いて滴下した。得られたスラリーをPTFE製0.45μm径フィルターを用いて吸引ろ過した。
フィルター上の残渣を乾燥させ、得られた固形分の一部をイオン交換水で0.05%(w/v)に溶解し、SEC測定用試料として用いた。SEC条件A2で分析して分子量分散(Mw/Mn)を求めたところ、4.0であった。
【0076】
実施例2
窒素置換した反応容器を使用し、無水塩化ニッケル11.0gとジメチルスルホキシド110gとを混合後、70℃に昇温し2時間攪拌した。これを50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン14.5gを加え、同温度で10分攪拌しニッケル含有溶液を調製した。
窒素置換した反応容器を使用し、下記式


で示されるスミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製;Mw=63,000、Mn=30,000:[SEC条件1])4.94gとジメチルスルホキシド150gを混合後、70℃に昇温し、1時間攪拌した。冷却後、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)10.0gと亜鉛粉末8.3gを加え、モノマー溶液を調製した。モノマー溶液に、前記ニッケル含有溶液を50℃で注ぎ込み、ついで70℃に昇温して2時間重合反応を行い、黒色の重合溶液310gを得た。
水200gを仕込んだ反応容器に得られた重合溶液100gを室温で注ぎ込み、15分攪拌した。析出固体の色目は赤黒色であり変化なかった。析出固体を濾別、十分な水洗を行った。得られた固体を反応容器に仕込み、水40gを加えスラリー液とした後、25.5%硝酸130g中に注加し、1時間室温で攪拌した。析出固体の色目は赤黒色から灰白色となった。析出物を濾過した後、濾上物を水、メタノールで洗浄し、80℃で24時間減圧乾燥して、下記式


で示される繰り返し単位と下記式

で示されるセグメントとを含むポリアリーレン3.9gを灰白色固体として得た。
得られたポリアリーレン3.0gを、臭化リチウム1.4gとN−メチル−2−ピロリドン45gとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応溶液を、6mol/L塩酸150g中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を酸メタノール洗浄、水洗し、90℃で24時間乾燥し、黒色の下記


で示される繰り返し単位と下記

で示されるセグメントを含むポリアリーレン1.8gを収率73%で得た。
滴定法にてイオン交換容量を求めた結果、2.3meq/gであった。
得られたポリマーを、SEC条件A1で分析した結果、数平均分子量(Mn)は1.4×105、重量平均分子量(Mw)は3.4×105であった。これをポリマーBとする。
得られたポリマーBをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶かして溶液として、バーコーターを用いて塗工し、80℃常圧で2時間乾燥した。その後、1.5mol/Lの塩酸に浸漬し、さらにイオン交換水で洗浄することによって膜(膜厚=31μm)を得た。
上記ポリマーB22mgとN,N−ジメチルホルムアミド3ml、ピペリジン1mlとしたこと以外は、例1と同様の方法にて、固形分を得た。SEC条件A2で測定して分子量分散(Mw/Mn)を求めたところ、6.5であった。
【0077】
実施例3
モノマー溶液の調製時に使用するジメチルスルホキシド量を57gに変更すること以外は例2に準じて実験を行い、下記式


で示される繰り返し単位と下記式

で示されるセグメントとを含むポリアリーレン3.9gを灰白色固体として得た。
得られたポリアリーレン3.0gを、臭化リチウム1.4gとN−メチル−2−ピロリドン45gとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応溶液を、6mol/L塩酸150g中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を酸メタノール洗浄、水洗し、90℃で24時間乾燥し、黒色の下記


で示される繰り返し単位と下記

で示されるセグメントを含むポリアリーレン1.7gを収率71%で得た。
滴定法にてイオン交換容量を求めた結果、2.1meq/gであった。得られたポリマーをSEC条件A1で分析した結果、数平均分子量(Mn)は1.2×105、重量平均分子量(Mw)は3.6×105であった。これをポリマーCとする。
得られたポリマーCを用いて例2のポリマーBと同様の方法にて膜(膜厚=18μm)を得た。上記ポリマーC21mgとN,N−ジメチルホルムアミド3ml、ピペリジン1mlとしたこと以外は、例1と同様の方法にて、固形分を得た。SEC条件A2で測定して分子量分散(Mw/Mn)を求めたところ、7.1であった。
【0078】
参考例1
アルゴン雰囲気下、共沸脱水装置を備えたフラスコに、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム5.0g(20.0mmol)、2,2’−ビピリジル7.8g(50mmmol) 、ジメチルスルホキシド 160mL、トルエン80mLを仕込んで攪拌した。内温が140℃になるまで昇温し、その温度で5時間加熱還流する事で、共存する水を共沸脱水により取り除いた。その後、2時間かけてトルエンを留去した後、内温が65℃になるまで放冷した。次いでビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)13.8g(50mmol)を一度(5秒以内)に投入し、内温70℃で5時間加熱攪拌を実施した。放冷後、反応液を20重量倍のメタノールに注加し、得られた沈殿を濾取した。続いて得られた沈殿を6N塩酸に2時間浸漬後、ろ過した。このように塩酸浸漬、ろ過分別の操作を3回繰返した後、粗生成物を大量のアセトンで洗浄し減圧乾燥させることで、下記に示す構造を有するポリフェニレンスルホン酸 3.5gを粉体として得た。
得られたポリマーをSEC条件A2で分析した結果、数平均分子量(Mn)は7.2×104、重量平均分子量(Mw)は2.3×105であった。これをポリマーDとする。

ポリマーAを、上記ポリマーDに変更した以外は同等の実験を行った。例1と同様の方法にて、固形分を得た。SEC条件2により求めたクロマトグラムをポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール標準品にて作成した検量線で数平均分子量(Mn)を求めると7.2×104、重量平均分子量(Mw)を求めると2.3×105であった。
ポリマーDのようなポリアリーレン構造を有するポリマーは、本発明の化学分解処理を施しても、製造後の分子量分析(Mn、Mw)にほとんど差が認められなかった。
【0079】
実施例4、比較例1
実施例2および3で製造した芳香族ブロック共重合体のそれぞれから、ジメチルスルホキシドを溶媒として用い、約10重量%の溶液を調製した、該溶液から溶液キャスト法によって膜を成形した。得られた膜の乾燥時と湿潤時のヘーズ値を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1〜3の芳香族ブロック共重合体は、いずれも本発明の分解方法にてセグメント2を選択的に分解可能であった。参考例1は、ポリアリーレン構造のみを有する芳香族共重合体であり、本発明の分解方法では、分解しないことが明らかとなった。
実施例3の芳香族ブロック共重合体は、分解物の高分子成分の分子量分散が7.1であり、膜としたとき、乾燥時でも湿潤時でも膜のヘーズ値が大きく(比較例1)、膜中に大きな凝集相を形成している可能性を示し、目視でも不均一であった。一方、実施例3の芳香族ブロック共重合体は、膜としたとき、分解物の高分子成分の分子量分散が6.5であり、乾燥時でも湿潤時でも膜のヘーズ値が小さく、極めて良好な透明性を示した(実施例4)。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上詳述したように、本発明によれば、ポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体に関する簡便で、高精度の分析手段を提供する上で好適な、該芳香族ブロック共重合体の分解方法および分析方法が提供される。さらに、本発明の分解手法を用いて得られる特定の分子量分布をもつポリアリーレンセグメントを有する芳香族ブロック共重合体および該芳香族ブロック共重合体からなる成形体や、触媒組成物が提供され、燃料電池用イオン伝導膜、酸素透過膜、イオン交換膜など、各種用途に使用することが可能であり、本発明の産業上の利用価値は頗る大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるセグメント1と、下記一般式(2)で表される構造単位および/または一般式(3)で表される構造単位からなるセグメント2を含む芳香族ブロック共重合体において、セグメント2を選択的に化学分解させる分解方法。

(式中、mは5以上の整数を表す。Ar1は、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表し、5以上あるAr1は、互いに同一でも異なっていてもよい。)

(上式中、Ar10、Ar20、Ar21はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。X10、X20は互いに独立に、酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数1〜10のフッ素置換アルキレン基を表し、Y20はスルホニル基、カルボニル基または炭素数1〜20のフッ素置換アルキレン基を表す。)
【請求項2】
上記芳香族ブロック共重合体が、イオン交換基および/または保護基にてイオン交換基を保護してなる基を有するブロック共重合体である、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
上記芳香族ブロック共重合体が、上記一般式(1)で表されるセグメントを構成する、5個以上のAr1の一部または全部に、イオン交換基および/または保護基にてイオン交換基を保護してなる基を有するブロック共重合体である、請求項2に記載の分解方法。
【請求項4】
上記化学分解が、上記芳香族ブロック共重合体を塩基性化合物によって分解させる化学分解である、請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項5】
上記塩基性化合物が有機アミンを含む、請求項4記載の分解方法。
【請求項6】
上記塩基性化合物が環状有機アミンを含む、請求項4記載の分解方法。
【請求項7】
上記塩基性化合物が、ピロリジン、ピペラジンおよびピペリジンからなる群から選ばれる少なくも1種の環状有機アミンを含む、請求項4記載の分解方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の分解方法によって得られた分解物中の高分子成分の化学構造を同定する、芳香族ブロック共重合体の分析方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の分解方法によって得られた分解物中の高分子成分の分子量および/または分子量分散を分析する、芳香族ブロック共重合体の分析方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の分解方法によって得られた分解物中の高分子成分の分子量および/または分子量分散をサイズ排除クロマトグラフィーにて分析する、芳香族ブロック共重合体の分析方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の分解方法により、上記セグメント2の総重量に対して、90重量%以上分解させたときの分解物中の、高分子成分の分子量分散が7.0以下となる、芳香族ブロック共重合体。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の分解方法により、上記セグメント2の総重量に対して、90重量%以上分解させたときの分解物中の、高分子成分の分子量分散が5.0以下となる、芳香族ブロック共重合体。
【請求項13】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする成形体。
【請求項14】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする膜。
【請求項15】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体を用いて溶液キャスト法にて得られることを特徴とする膜。
【請求項16】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体を熱プレス成形法、射出成形法、押出し成形法、溶融紡糸成形法、カレンダ成形法、ロール成形法、ブロー成形法により成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項17】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする繊維。
【請求項18】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とする中空体。
【請求項19】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体からなることを特徴とするビーズ。
【請求項20】
請求項11または12に記載の芳香族ブロック共重合体と少なくとも触媒を含有することを特徴とする触媒組成物。

【公開番号】特開2008−31452(P2008−31452A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170066(P2007−170066)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】