説明

芳香族ポリイミドおよびその製造方法

【課題】 本発明は、特定の化学的組成からなり極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性とを有する芳香族ポリイミド、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類に由来する構成単位と、4,4’−オキシジフタル酸類に由来する構成単位と、パラフェニレンジアミンに由来する構成単位とからなり、4,4’−オキシジフタル酸類に由来する構成単位が全テトラカルボン酸成分(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類と4,4’−オキシジフタル酸類)の75〜3モル%であって、フィルムでの引張り破断強度が400MPa以上であり且つ引張り破断伸度が35%以上であることを特徴とする芳香族ポリイミドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学的組成からなり極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性とを有する芳香族ポリイミド、及びその製造方法に関する。この芳香族ポリイミドは、より高い強靭性が要求される電気・電子機器、複写機などの部材、或いは極めて高いガスバリア性が要求されるフィルムや中空ビーズなどの材料として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドは、耐熱性、耐薬品性、電気的特性、機械的特性などの特性が優れているので、電気・電子部品などに好適に用いられている。なかでも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとからなる芳香族ポリイミドフィルムは特に線膨張係数が低く機械的強度が高いことから、寸法安定性や機械的強度が要求されるTAB用フレキシブル基板や複写機の定着ベルトなどの用途として好適に用いられている。
特許文献1は、電気・電子機器、電子複写機などの各種精密機器内の回転運動伝達部材であるシームレス管状体の高速回転化に対応して、従来の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとからなるシームレスベルトよりも長期耐久性が改良された芳香族ポリイミドを提案している。この芳香族ポリイミドは、ジアミン成分に3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを好ましくは5モル%以上、特に好ましくは20〜80モル%含有したことを特徴とするものであり、破断強度は低いものであった。
特許文献2は、チップ実装時などの高温に暴露される工程でポリイミドフィルムを通過した酸素や水分により、ポリイミドフィルム上に積層された金属層が劣化され、結果的にポリイミドフィルムと金属層の剥離強度が著しく低下する問題を解決するために、ガスバリア性ポリイミドフィルムを提案している。このガスバリア性ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの片面にガスバリア性を持つSiO層を形成したことを特徴とするものであった。
特許文献3には、絶縁材料として使用されるポリイミドとして、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)及び3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と、4,4’−オキシジアニリン(ODA)又はp−フェニレンジアミンとから製造されるポリイミドコポリマーが開示されている。実施例6には、p−フェニレンジアミンと、s−BPDA及びODPA(s−BPDA:75%、ODPA:25%)から製造されるポリイミドが記載されているが、このポリイミドはエンドキャップ剤としてフタル酸を用いて製造されており、また、イミド化のための加熱処理における最高熱処理温度は300℃であり、十分な物性を有するものではない。
特許文献4、5には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとからなる芳香族ポリイミドフィルムを複写機の定着ベルトに用いる際の製造方法などが記載されている。
また、特許文献6は、タイヤ気室内に充填するための樹脂製中空粒子に関し、その内部を高圧化する方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−307114号公報
【特許文献2】特開2004−255845号公報
【特許文献3】特開平3−157428号公報
【特許文献4】特開2003−89125号公報
【特許文献5】特開2007−240845号公報
【特許文献6】特開2007−69818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述のような芳香族ポリイミドに対するより高い要求特性を達成するために種々検討した結果として得られたものである。すなわち、本発明の目的は、特定の化学的組成からなり極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性とを有する芳香族ポリイミド、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の事項に関する。
1. 下記化学式(1)で示される繰返し単位からなり、フィルムでの引張り破断強度が400MPa以上であり且つ引張り破断伸度が35%以上であることを特徴とする芳香族ポリイミド。
【0006】
【化1】

化学式(1)において、Aは、25〜97モル%が下記化学式(2)で示される4価のユニットであり、75〜3モル%が下記化学式(3)で示される4価のユニットであり、Bは、下記化学式(4)で示される2価のユニットである。
【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
【化4】

【0010】
2. フィルムでの引張り破断強度が500MPa以上であり且つ引張り破断伸度が40%以上であることを特徴とする項1に記載の芳香族ポリイミド。
【0011】
3. フィルムでの引張り破断エネルギーが145MJ/m以上であることを特徴とする項1〜2のいずれかに記載の芳香族ポリイミド。
【0012】
4. フィルムでの水蒸気透過性能(40℃、90RH)が0.04g・mm/m・24hr以下のガスバリア性を有することを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリイミド。
【0013】
5. 下記化学式(5)で示される繰返し単位からなる芳香族ポリアミック酸を325℃の温度で加熱処理することを特徴とする芳香族ポリイミドの製造方法。
【0014】
【化5】

化学式(5)において、Aは、25〜97モル%が前記化学式(2)で示される4価のユニットであり、75〜3モル%が前記化学式(3)で示される4価のユニットであり、Bは、前記化学式(4)で示される2価のユニットである。
【0015】
6. 前記化学式(5)で示される繰返し単位からなる芳香族ポリアミック酸を有機溶媒中に溶解してなる溶液組成物。
【0016】
7. 項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリイミドから主としてなるシームレスベルト。
【0017】
8. 電子写真装置の中間転写、定着、或いは搬送用のシームレスベルトである項7に記載のシームレスベルト。
【0018】
9. 項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリイミドから主としてなる包装材料、或いは封止材料。
【0019】
10. 項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリイミドから主としてなるポリイミド中空ビーズ。
【0020】
11. 内部に高圧気体が封入されている項10に記載のポリイミド中空ビーズ。
【0021】
12. 内部に封入されている気体が窒素である項10に記載のポリイミド中空ビーズ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、特定の化学的組成からなり極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性とを有する芳香族ポリイミド、およびその製造方法を提供することができる。
本発明の芳香族ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類に由来する構成単位(化学式(2))と、4,4’−オキシジフタル酸類に由来する構成単位(化学式(3))と、パラフェニレンジアミンに由来する構成単位(化学式(4))とからなり、4,4’−オキシジフタル酸類に由来する構成単位を全テトラカルボン酸成分(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類と4,4’−オキシジフタル酸類)の75〜3モル%とすることによって、強靭性およびガスバリア性を向上させることができる。さらに、本発明においては、イミド化のための加熱処理温度は、好ましくは325℃以上、特に350℃以上である。このような高温で加熱処理することにより、上記の優れた特性を有するポリイミドを得ることができる。また、加熱処理温度は、好ましくは500℃以下、特に450℃以下である。
本発明の芳香族ポリイミドは、極めて高い強靭性を有するので、電気・電子機器、複写機などの各種精密機器用の部品、例えば複写機などの電子写真装置の中間転写、定着、或いは搬送用のシームレスベルトなどとして好適に用いることができる。
また、本発明の芳香族ポリイミドは、極めて高いガスバリア性を有するので、食品や医療品等の包装材料や、表示素子などの電子デバイス等のパッケージ材料、封止材料、基板材料、中空ビーズなどのガスバリア性材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の芳香族ポリイミドは、前記化学式(1)で示される繰返し単位からなる。換言すれば、本発明の芳香族ポリイミドは、テトラカルボン酸成分が、全テトラカルボン酸成分100モル%中、25〜97モル%、好ましくは30〜95モル%、より好ましくは40〜85モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、及び75〜3モル%、好ましくは70〜5モル%、より好ましくは60〜15モル%の4,4’−オキシジフタル酸類からなり、ジアミン成分がパラフェニレンジアミン類からなる。
【0024】
ここで、テトラカルボン酸類とは、テトラカルボン酸、その酸二無水物及びそのエステル化化合物など、ジアミン類とはジアミン及びジイソシアネートなどの、いずれもポリイミドのテトラカルボン酸成分或いはジアミン成分として用いられる誘導体を表す。また、これらの成分は、本発明の効果の範囲内で、他のテトラカルボン酸類やジアミン類を含んでもよいが、いずれの成分も概ね10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下である。
【0025】
本発明の芳香族ポリイミドは、このような特定の化学組成からなることによって、極めて高い強靭性及び極めて高いガスバリア性を有する。
【0026】
本発明では、強靭性の一つの指標として、フィルムでの引張り破断時における単位体積あたりの破断エネルギーを用いた。すなわち、本発明の芳香族ポリイミドは、単位体積あたりの破断エネルギーが極めて大きい。言い換えれば、本発明の芳香族ポリイミドは、外部から力を受けても容易に破断しない。さらに、本発明では、強靭性の他の指標として、引張り弾性率、引張り破断強度、及び引張り破断伸度を用いた。これらのいずれの機械的特性についても、本発明の芳香族ポリイミドは特に優れたものである。このような特に優れた強靭性は、本発明の特定の化学組成によって達成されたものであり、テトラカルボン酸成分或いはジアミン成分として他のものを用いても達成することはできない。
【0027】
付言すれば、本発明の芳香族ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントと、4,4’−オキシジフタル酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントとが特定の比率で共重合した芳香族ポリイミドであるが、驚くべきことに、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントだけからなる芳香族ポリイミド、及び4,4’−オキシジフタル酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントだけからなる芳香族ポリイミドのいずれと比較してもより高い強靭性を有している。本発明の芳香族ポリイミドは、前記2種のセグメントがブロック共重合したものでもよく、ランダム共重合したものでもよい。
【0028】
本発明の芳香族ポリイミドは、フィルムでの引張り破断強度が400MPa以上、好ましくは450MPa以上、より好ましくは500MPa以上であり、且つ引張り破断伸度が35%以上、好ましくは40%以上である。このような引張り破断強度と引張り破断伸度を有する芳香族ポリイミドは、前記化学式(1)のAが、25〜97モル%、好ましくは30〜95モル%、より好ましくは40〜85モル%の化学式(2)と、75〜3モル%、好ましくは70〜5モル%、より好ましくは60〜15モル%の化学式(3)とからなるときに好適に得ることができる。
【0029】
さらに、本発明の芳香族ポリイミドは、フィルムでの引張り破断エネルギーが好ましくは145MJ/m以上、より好ましくは150MJ/m以上である。このような引張り破断エネルギーを有する芳香族ポリイミドは、前記化学式(1)のAが、25〜97モル%、好ましくは30〜95モル%、より好ましくは30〜85モル%、特に好ましくは40〜85モル%の化学式(2)と、75〜3モル%、好ましくは70〜5モル%、より好ましくは70〜15モル%、特に好ましくは60〜15モル%の化学式(3)とからなるときに好適に得ることができる。
【0030】
このような極めて高い強靭性を有するので、本発明の芳香族ポリイミドは、電気・電子機器、複写機などの各種精密機器用の部品、例えば複写機などの電子写真装置の中間転写、定着、或いは搬送用のシームレスベルトなどとして好適に用いることができる。
本発明のシームレスベルトは、本発明の芳香族ポリイミドから成り、必要に応じて他の添加成分を含有していてもよい。また、本発明のシームレスベルトは、さらに他の樹脂層や金属層を積層したものであってもよい。
本発明のシームレスベルトの厚みは、使用する目的に応じて適宜選択すればよいが、通常20〜200μm程度である。
本発明のシームレスベルトは従来公知の方法、例えば回転成形法、すなわち基材の役割をする円筒形の金型を回転させながら金型(内側乃至外側)表面にポリアミック酸溶液組成物(本発明の溶液組成物)からなる塗膜を形成し、比較的低温で加熱処理して溶媒を揮発させ自己支持性膜(皮膜の流動が発生しない状態、溶媒の除去と共に重合及び一部イミド化反応が進んでいる)を形成し、次いで自己支持性膜をそのまま或いは必要に応じて基材から剥がして加熱処理する方法によって好適に得ることができる。
このシ−ムレスベルトを複写機の中間転写ベルトに使用するときには表面抵抗率が1×1010Ω/m〜1×1014Ω/mの範囲になるようにカーボンブラックなどの導電材を好適に添加される。また定着ベルトに使用するときには熱伝導性を付与するためにシリカ、窒化ホウ素、アルミナなどの充填材が添加されたり、発熱体である金属箔と好適に積層される。
【0031】
さらに、本発明の芳香族ポリイミドは、フィルムでの水蒸気透過性能(40℃、90RH)が0.04g・mm/m・24hr以下、好ましくは0.03g・mm/m・24hr以下のガスバリア性を有する。このようなガスバリア性を有する芳香族ポリイミドは、前記化学式(1)のAが、30〜85モル%、好ましくは40〜85モル%、より好ましくは40〜75モル%の化学式(2)と、70〜15モル%、好ましくは60〜15モル%、より好ましくは60〜25モル%の化学式(3)とからなるときに好適に得ることができる。
本発明の芳香族ポリイミドは、水蒸気に限らず、酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガスなどの他のガスに対しても従来の樹脂材料では得られなかったような優れたガスバリア性を有している。
【0032】
付言すれば、本発明の芳香族ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントと、4,4’−オキシジフタル酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントとが特定の比率で共重合した芳香族ポリイミドであるが、驚くべきことに、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントだけからなる芳香族ポリイミド、及び4,4’−オキシジフタル酸類とパラフェニレンジアミン類とからなるセグメントだけからなる芳香族ポリイミドのいずれと比較してもより高いガスバリア性を有している。本発明の芳香族ポリイミドは、前記2種のセグメントがブロック共重合したものでもよく、ランダム共重合したものでもよい。
【0033】
限定するものではないが、このような極めて高いガスバリア性を有するので、本発明の芳香族ポリイミドは、食品や医療品等の包装材料や、表示素子などの電子デバイス等のパッケージ材料、封止材料、基板材料などとして好適に用いることができる。
さらに、本発明の芳香族ポリイミドは、極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性の両方を有するので、例えば内部に常圧〜高圧の気体を封入したポリイミド中空ビーズとして好適に用いることができる。特に、極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性の両方を兼ね備えているので、高圧の気体を封入した場合に、容易に破裂することがないし短時間で圧力が低下することが少ない。中空ビーズとして極めて高い安定性を有している。封入する気体は、用途に応じて種々の気体を好適に用いることができるが例えば不活性ガス特に窒素などが好ましい。
本発明のポリイミド中空ビーズは、従来公知の方法によって製造することができる。例えば、樹脂中に発泡剤を内包する熱膨張性の粒子を加熱して膨張させる方法(例えば特公昭42−26525号公報、特開昭60−19033号公報、特開2006−213930号公報など)、樹脂溶液中に芯物質となる微細気泡を発生させ微細気泡の気液界面に樹脂膜を形成する方法(例えば特開2007−21315号公報など)、多重ノズルによって気体と樹脂溶液とを管状に吐出しながら押し出しながら高周波で振動を与えて気体を内包した液滴を形成し凝固液中で樹脂を凝固させる方法(例えば特開平10−328556号公報、特開平6−55060号公報など)、樹脂中に液体を内包するマイクロカプセルから内包した液体を抽出して中空にする方法(例えば米国特許第5741478号公報など)などを好適に採用できる。
本発明のポリイミド中空ビーズの平均粒径は、使用する目的に応じて適宜選択すればよいが、通常100nm〜10mm程度、好ましくは1μm〜5mm程度である。
このようなポリイミド中空ビーズは、パンクしたタイヤの走行性維持のためにタイヤ内に充填したり、例えば透過性や画質品質の向上のためにインク組成物中に添加するなどの樹脂組成物中に添加したり、例えば床材などのスラリー状の建材組成物に添加して軽量化や耐久性を改善するなど種々の用途に好適に用いることができる。
【0034】
本発明の芳香族ポリイミドは、前記化学式(5)で示される芳香族ポリアミック酸をイミド化することによって好適に製造することができる。
前記芳香族ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分の25〜97モル%、好ましくは30〜95モル%、より好ましくは30〜85モル%、特に好ましくは40〜85モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、及び75〜3モル%、好ましくは70〜5モル%、より好ましくは70〜15モル%、特に好ましくは60〜15モル%の4,4’−オキシジフタル酸類と、ジアミン成分のパラフェニレンジアミン類とを、イミド化を抑制した条件下で反応させることによって容易に得ることができる。
テトラカルボン酸成分としてはテトラカルボン酸二無水物が、ジアミン成分としてはジアミンが、反応が容易であるので好適に採用される。すなわち、所定量の各テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、有機溶媒中で、イミド化を抑制しアミック酸構造が生成する反応条件、具体的には100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下の反応温度で反応させることによって、前記化学式(5)で示される芳香族ポリアミック酸を容易に得ることができる。イミド化が部分的に起こることもあるが、生成物が有機溶媒中に均一に溶解する範囲内でイミド化を抑制することが重要である。イミド化が進み過ぎると生成物が析出して不均一な組成物になるから、本発明の芳香族ポリイミドを得ることが難しくなる。
また、本発明においては、所定量の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類とパラフェニレンジアミン類とを有機溶媒中で反応させてポリアミック酸溶液を調製し、これとは別に、所定量の4,4’−オキシジフタル酸類とパラフェニレンジアミン類とを有機溶媒中で反応させてポリアミック酸溶液を調製した後、この2種類のポリアミック酸溶液を混合し、必要に応じてさらに反応させることによっても、前記化学式(5)で示される芳香族ポリアミック酸を得ることができる。
【0035】
なお、本発明において、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とのモル比[テトラカルボン酸成分/ジアミン成分]が略等モル、具体的には0.95〜1.05、好ましくは0.97〜1.03になるようにすることが重要である。このモル比の範囲外では、得られるポリイミドの強靭性などが劣るので、本発明の芳香族ポリイミドを得ることは難しい。
【0036】
本発明の芳香族ポリアミック酸を調製する際に用いる有機溶媒は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどのアミド類溶媒、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスホルムアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホンなどの硫黄原子を含有する溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノールなどのフェノール類溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライムなどのジグライム類溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類溶媒、イソホロン、シクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンなどのケトン類溶媒、ピリジン、エチレングリコール、ジオキサン、テトラメチル尿素などの其の他の溶媒、また必要に応じてベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は単独でも、いくつかの溶媒の混合物であっても構わない。
【0037】
本発明の溶液組成物は、このようにして得られる、前記化学式(5)で示される芳香族ポリアミック酸を有機溶媒中に溶解してなるものである。
本発明の溶液組成物には、必要に応じて例えばシリカ、窒化ホウ素、アルミナ、カーボンブラックなどの有機又は無機の充填材、添加剤、消泡剤、顔料又は染料などが好適に配合される。
【0038】
本発明の芳香族ポリイミドは、有機溶媒中に前記化学式(5)で示される芳香族ポリアミック酸が均一に溶解してなる溶液組成物(本発明の溶液組成物)を基材上に塗布し、これを加熱処理して溶媒除去、重合及びイミド化することによって好適に得ることができる。ここで、加熱処理温度は、最高熱処理温度が275℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは325℃以上、特に350℃以上が好適である。最高熱処理温度が275℃未満では、得られる芳香族ポリイミドの強靭性が十分に高くならないことがある。特に、最高熱処理温度を325℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは400℃以上、特に好ましくは400℃超にすることにより、非常に高い強靭性を有する芳香族ポリイミドが得られる。
さらに、本発明の芳香族ポリイミドは、有機溶媒中に前記化学式(5)で示される芳香族ポリアミック酸が均一に溶解してなる溶液組成物(本発明の溶液組成物)を基材上に塗布した後、200℃以下の温度で加熱処理して溶媒を揮発させて自己支持性膜(皮膜の流動が発生しない状態、溶媒の除去と共に重合及び一部イミド化反応が進んでいる)を形成し、次いで、前記自己支持性膜を、必要に応じて基材から剥がしたり、適度の張力を掛けたりしながら、275℃以上、より好ましくは325℃以上の温度範囲で更に加熱処理することによって好適に得ることができる。
その際の基材は、連続生産するためのベルト基材、電子部品(の表面)、シームレスベルトを形成するために通常用いられる円筒状の金型(内側乃至外側表面)などであってもよい。シームレスベルトの場合には、適度な遠心力を生じさせるために前記円筒状の金型を回転させながら成形される。
加熱処理に関しては、ポリイミド膜を製造する際だけでなく、ポリイミドシームレスベルトやポリイミド中空ビーズを製造する際も同様である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
以下の例で使用した化合物の略号は以下のとおりである。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
a−BPDA:2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物、
PMDA:ピロメリット酸二無水物、
PPD:パラフェニレンジアミン、
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル。
【0041】
(引張り破断エネルギーの測定)
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。引張り破断エネルギーは、ASTM D882のA2.1 引張り破断エネルギーの決定法に基づいて算出した。
【0042】
(引張り破断強度の測定方法)
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0043】
(引張り破断伸度の測定方法)
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0044】
(引張り弾性率の測定方法)
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0045】
(溶液組成物の対数粘度)
対数粘度(ηinh)は、ポリアミック酸溶液をポリアミック酸濃度が0.5g/100ミリリットル溶媒となるようにN−メチル−2−ピロリドンに均一に溶解した溶液を調製し、その溶液と溶媒との溶液粘度を30℃で測定して次式で算出した。
【0046】
【数1】

【0047】
(固形分濃度)
ポリアミック酸溶液の固形分濃度は、ポリアミック酸溶液を350℃で30分間乾燥し、乾燥前の重量W1と乾燥後の重量W2とから次式によって求めた値である。
固形分濃度(重量%)={(W1−W2)/W1}×100
【0048】
(溶液粘度)
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃での溶液粘度を測定した。
【0049】
(水蒸気透過性能の測定)
ポリアミック酸溶液から得られたポリイミドフィルムについて、JIS K7129Bに準拠し、40℃、90%RHの水蒸気について水蒸気透過度(単位面積、単位時間あたりの水蒸気の透過量)を測定した。この測定値をポリイミドフィルムの厚みを用いて、単位厚みあたりに換算して求めた。
(窒素透過係数の測定)
ポリアミック酸溶液から得られたポリイミドフィルムについて、JIS K7126−1 GC法に準拠し、23℃にて測定した。
(酸素透過係数の測定)
ポリアミック酸溶液から得られたポリイミドフィルムについて、JIS K7126−1 B法に準拠し、23℃にて測定した。
(炭酸ガス透過係数の測定)
ポリアミック酸溶液から得られたポリイミドフィルムについて、PERMATRAN C−IV型(モコン社)を用いパーマトラン法によって、23℃にて測定した。
【0050】
(ポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性)
ポリアミック酸溶液の溶液安定性は、モノマー濃度20%に調製したポリアミック酸溶液についてE型粘度計にて30℃で溶液粘度の変化を測定することによって評価した。すなわち、調製直後のポリアミック酸溶液の溶液粘度をP1、5℃の雰囲気下で90日間放置後測定した溶液粘度をP2として、次式によって求めた溶液粘度の変化率が、±10%以下のものを○とし、±10%を越えたものを×とした。
変化率(%)={(P2−P1)/P1}×100
【0051】
〔実施例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンの所定量を加え、これにPPDの26.77g(0.248モル)と、s−BPDAの65.55g(0.223モル)及びODPAの7.68g(0・025モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.7重量%、溶液粘度97.5Pa・s、対数粘度1.13のポリアミック酸溶液を得た。
このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、80℃で30分間、100℃で20分間、次いで130℃で60分間脱泡および予備乾燥した後で、ガラス板から剥がしてピンテンターにセットし、常圧下の熱風乾燥機に入れて、100℃、150℃、200℃、250℃および400℃で各3分間加熱処理し、厚さが50μmのポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0052】
〔実施例2〕
PPDの26.67g(0.246モル)と、s−BPDAの58.03g(0.197モル)及びODPAの15.30g(0.049モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0053】
〔実施例3〕
PPDの26.56g(0.246モル)と、s−BPDAの50.58g(0.172モル)及びODPAの22.86g(0.074モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0054】
〔実施例4〕
PPDの26.46g(0.245モル)と、s−BPDAの43.19g(0.147モル)及びODPAの30.36g(0.098モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0055】
〔実施例5〕
PPDの26.36g(0.244モル)と、s−BPDAの35.85g(0.122モル)及びODPAの37.80g(0.122モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0056】
〔実施例6〕
PPDの26.15g(0.242モル)と、s−BPDAの21.34g(0.073モル)及びODPAの52.51g(0.169モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0057】
〔実施例7〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンの所定量を加え、これにPPDの26.88g(0.249モル)と、s−BPDAの73.12g(0.249モル)を加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.4%、溶液粘度100.0Pa・s、対数粘度1.15のポリアミック酸溶液組成物Aを得た。
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてN-メチル−2−ピロリドンの所定量を加え、これにPPDの25.85g(0.239モル)と、ODPAの74.15g(0.239モル)を加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.5%、溶液粘度105.0Pa・s、対数粘度1.31のポリアミック酸溶液組成物Bを得た。
得られたポリアミック酸溶液組成物AおよびBを重量比で95:5の割合で混合した。混合後の溶液組成物のポリアミック酸は、各成分であるs−BPDA、ODPAおよびPPDのモル比(モル%)がs−BPDA/ODPA/PPD=94.93/5.07/100からなる。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、80℃で30分間、100℃で20分間、次いで130℃で60分間脱泡および予備乾燥した後で、ガラス板から剥がしてピンテンターにセットし、常圧下の熱風乾燥機に入れて、100℃、150℃、200℃、250℃および400℃で各3分間加熱処理し、厚さが50μmのポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0058】
〔実施例8〕
ポリアミック酸溶液組成物AおよびBを重量比で70:30の割合で混合したこと以外は実施例7と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0059】
〔実施例9〕
ポリアミック酸溶液組成物AおよびBを重量比で50:50の割合で混合したこと以外は実施例7と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0060】
〔実施例10〕
ポリアミック酸溶液組成物AおよびBを重量比で30:70の割合で混合したこと以外は実施例7と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0061】
〔実施例11〕
最高加熱処理温度の効果
実施例3で用いたものと同様にして得たポリアミック酸溶液組成物を用い、実施例1と同様の方法で、最高加熱処理温度のみを変更して得られたポリイミドフィルムについて、引張り破断強度、引張り破断伸度、引張り弾性率を測定した。
結果を表2に示した。
【0062】
〔実施例12〕
シームレスベルトの製造
実施例3で用いたものと同様にして得たポリアミック酸溶液組成物 30.0gにN−メチル−2−ピロリドン 25.0gを加え十分混合して希釈した。このポリアミック酸溶液組成物を、内径250mm、幅140mmの円筒金型の内側表面に注入し、40rpmで回転しながらスクレーパーで均一に塗布した。次に、室温下、200rpmで1分間回転し、均一な厚みに流延した後、回転数を保持しながら窒素雰囲気下、遠赤セラミックヒーターで金型表面温度を120℃まで昇温し120℃にて30分間保持した。次いで、金型を熱風乾燥機に移しかえ、120℃で5分間、150℃で5分間、190℃で80分間、250℃で10分間、400℃で10分間加熱処理した。冷却後、金型から取り出したシームレスベルトは、発泡(膨れ)などがなく均一で厚みは40μmであった。
【0063】
〔比較例1〕
PPDの26.88g(0.249モル)と、s−BPDAの73.12g(0.249モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表3に示した。
なお、この例は前記実施例7のポリアミック酸溶液組成物Aに対応する。
【0064】
〔比較例2〕
PPDの25.85g(0.239モル)と、ODPAの74.15g(0.239モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表3に示した。
なお、この例は前記実施例7のポリアミック酸溶液組成物Bに対応する。
【0065】
〔比較例3〕
PPDの25.95g(0.240モル)と、s−BPDAの7.06g(0.024モル)及びODPAの66.99g(0.216モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表3に示した。
【0066】
〔比較例4〕
PPDの26.56g(0.246モル)と、a−BPDAの50.58g(0.172モル)及びODPAの22.86g(0.074モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表3に示した。
【0067】
〔比較例5〕
PPDの30.56g(0.283モル)と、PMDAの43.14g(0.198モル)及びODPAの26.30g(0.085モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表3に示した。
【0068】
〔比較例6〕
ODAの40.11g(0.200モル)と、s−BPDAの41.25g(0.140モル)及びODPAの18.64g(0.060モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表3に示した。
【0069】
〔比較例7〕
エンドキャップ剤を用いたポリイミドにおけると最高加熱処理温度の効果
特許文献3の実施例6に準じ、16.34gのp−フェニレンジアミンを348gのジメチルアセトアミドに溶解し、33.10gのs−BPDAと11.63gのODPA及び0.33gのフタル酸を該溶液に添加して反応した。
得られたポリアミック酸溶液は、対数粘度が1.60、固形分濃度が13.9%、30℃における溶液粘度が23.8Pa・sであった。
このポリアミック酸溶液組成物を用いて、特許文献3の実施例6に準じた方法、及び本発明の実施例1の方法に準じた方法(但し最高加熱処理温度は300℃及び400℃)によってポリイミドフィルムを得た。
このポリイミドフィルムの特性等について結果を表4に示した。
表4から明らかなように、エンドキャップ剤を用いたポリイミドでは、最高加熱処理温度を高くしたときでさえ、引張り破断強度と引張り破断伸度などの特性が低いものしか得られなかった。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によって、特定の化学的組成からなり極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性とを有する芳香族ポリイミド、およびその製造方法を提供することができる。本発明の芳香族ポリイミドは、極めて高い強靭性を有するので、電気・電子機器、複写機などの各種精密機器用の部品、例えば複写機などの電子写真装置の中間転写、定着、或いは搬送用のシームレスベルトなどとして好適に用いることができる。また、本発明の芳香族ポリイミドは、極めて高いガスバリア性を有するので、食品や医療品等の包装材料や、表示素子などの電子デバイス等のパッケージ材料、封止材料、基板材料、中空ビーズなどとして好適に用いることができる。さらに、本発明の芳香族ポリイミドは、極めて高い強靭性と極めて高いガスバリア性の両方を有するので、例えば内部に窒素などの高圧気体を封入したポリイミド中空ビーズの材料としてとして特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される繰返し単位からなり、フィルムでの引張り破断強度が400MPa以上であり且つ引張り破断伸度が35%以上であることを特徴とする芳香族ポリイミド。
【化1】

化学式(1)において、Aは、25〜97モル%が下記化学式(2)で示される4価のユニットであり、75〜3モル%が下記化学式(3)で示される4価のユニットであり、Bは、下記化学式(4)で示される2価のユニットである。
【化2】

【化3】

【化4】

【請求項2】
フィルムでの引張り破断強度が500MPa以上であり且つ引張り破断伸度が40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリイミド。
【請求項3】
フィルムでの引張り破断エネルギーが145MJ/m以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の芳香族ポリイミド。
【請求項4】
フィルムでの水蒸気透過性能(40℃、90RH)が0.04g・mm/m・24hr以下のガスバリア性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリイミド。
【請求項5】
下記化学式(5)で示される繰返し単位からなる芳香族ポリアミック酸を325℃の温度で加熱処理することを特徴とする芳香族ポリイミドの製造方法。
【化5】

化学式(5)において、Aは、25〜97モル%が前記化学式(2)で示される4価のユニットであり、75〜3モル%が前記化学式(3)で示される4価のユニットであり、Bは、前記化学式(4)で示される2価のユニットである。
【請求項6】
前記化学式(5)で示される繰返し単位からなる芳香族ポリアミック酸を有機溶媒中に溶解してなる溶液組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリイミドから主としてなるシームレスベルト。
【請求項8】
電子写真装置の中間転写、定着、或いは搬送用のシームレスベルトである請求項7に記載のシームレスベルト。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリイミドから主としてなる包装材料、或いは封止材料。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリイミドから主としてなるポリイミド中空ビーズ。
【請求項11】
内部に高圧気体が封入されている請求項10に記載のポリイミド中空ビーズ。
【請求項12】
内部に封入されている気体が窒素である請求項10に記載のポリイミド中空ビーズ。

【公開番号】特開2008−266641(P2008−266641A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92077(P2008−92077)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】