説明

芳香族ポリエステルの製造方法

【課題】重合反応途中の芳香族ポリエステルを重合槽から抜き出してベルトクーラに供給する場合に、抜き出される芳香族ポリエステルの流量変動に対しても容易に追従でき、芳香族ポリエステルを安定して製造することができる方法を提供する。
【解決手段】200℃以上の温度で重合槽11a、11bから抜き出される重縮合反応途中の芳香族ポリエステル12を、ボールバルブ13を通してダブルベルト式クーラ14の入口側ローラ26、28間に流し込み冷却固化するにあたり、ベルト24,25上をローラ26、28の幅方向に拡がる芳香族ポリエステル12を熱画像で検出し、(1)その幅方向への拡がりが所定の範囲内であるとき、前記ボールバルブ13の開度をPID制御により自動制御し、(2)幅方向への拡がりが所定の範囲を外れたとき、前記ボールバルブ13の開度をシーケンスにより自動操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCPプレポリマーである芳香族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステルは、ジカルボン酸、ジオール、ヒドロキシカルボン酸を原料として重縮合させることによって得られる。該原料は、芳香環を少なくとも1個有するものである。一般に、芳香族ポリエステルの重縮合反応過程において、撹拌しながら重縮合を進めていくと反応系の粘度が上昇していき、撹拌負荷が大きくなり、さらに撹拌を続けることが困難になる。そこで、反応の途中で反応物を重合槽から抜取り、冷却固化した後、必要に応じて粉砕して、これを再度加熱して重縮合反応を完結させる方法をとることが多い。
【0003】
このとき、重合槽から抜き取られた重縮合反応途中の芳香族ポリエステルは、表面だけでなく内部まで冷却固化させ、次の工程に供することが品質上好ましい。例えば肉厚のポリマーを冷却すると表面と内部とに温度差が生じ、表面は重縮合反応が止まっても内部はまだ温度が高く、反応が進むので、ポリマーは不均質となり、品質の良好な芳香族ポリエステルを得ることはできない。
【0004】
そこで、特許文献1には、重合槽から重縮合反応途中の芳香族ポリエステルを、流路絞り込み式フィーダを有する定量供給装置に通し、流量を一定に維持しながらダブルベルト式クーラに供給して冷却固化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−256485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のように、重縮合反応途中の芳香族ポリエステルをダブルベルト式クーラに供給する方法では、通常、流量制御にボールバルブを使用している。ボールバルブは、全開時の抵抗が少なく、全閉時の遮断が確実であり、流量の増大・減少の操作を広い範囲で行うことができ、さらに清掃等のメンテナンスも容易であるという利点がある反面、構造上、僅かな弁操作でも流量が大きく変動することから、流量調整には適していないという欠点がある。そのため、芳香族ポリエステルの流量が過大になるとダブルベルト式クーラの入口側のローラの端部から横方向にはみ出して固化し、ダブルベルト式クーラを破損する。逆に流量が過小であると、排出されずに重合槽に残ったモノマーが重合槽内で重合が進行して槽内で固結する。
【0006】
流量が変動する原因としては、重合槽内での樹脂の固化物生成や昇華物の混入、粘度の変動、重合槽内の圧力変動、芳香族ポリエステルのグレードの違い(重合のしやすさ、固化のしやすさの違い等)などが考えられる。
特に、重合槽から抜き出される芳香族ポリエステルは、動きが止まった場合には固まりやすいという性質がある。従って、抜き出しの遅れなどがあると、ベルトクーラに供給するフィーダの内部や放出部で固化が促進され、生成した固化物により抜き出し流量の減少や詰まり、液飛散等が発生しやすい。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、重合反応途中の芳香族ポリエステルを重合槽から抜き出してベルトクーラに供給する場合に、抜き出される芳香族ポリエステルの流量変動に対しても容易に追従でき、芳香族ポリエステルを安定して製造することができる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る芳香族ポリエステルの製造方法は、重合槽から抜き出される重縮合反応途中の芳香族ポリエステルを、ボールバルブを通してベルトクーラ上に流し込み冷却固化するにあたり、ベルトの幅方向への芳香族ポリエステルの拡がりを熱画像で検出し、(1)その幅方向への拡がりが所定の範囲内であるとき、前記ボールバルブの開度をPID制御により自動制御し、(2)幅方向への拡がりが所定の範囲を外れたとき、前記ボールバルブの開度をシーケンスにより自動操作するようにしたことを特徴とする。
【0009】
このような本発明方法においては、流し込まれる前記芳香族ポリエステルをカメラで熱画像として検出すると共に、モニター画面における所定の枠内における前記芳香族ポリエステルの画像の面積を求め、(1)その画像面積が所定の範囲内であるとき、前記ボールバルブの開度をPID制御により自動制御し、(2)その画像面積が所定の範囲を外れたとき、前記ボールバルブの開度をシーケンスにより自動操作するのが好ましい。
【0010】
その場合において、前記枠はローラの幅方向に拡がる前記芳香族ポリエステルの全体を含む範囲であってもよく、あるいは前記枠をローラの幅方向における左右の端部近辺の小区画であってもよい。
【0011】
また、本発明では、前記ボールバルブのPID制御によりる動制御が、比例ゲインを小さくして行われるのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る芳香族ポリエステルの製造方法では、芳香族ポリエステルを重合槽からボールバルブを通して抜き出しベルトクーラ上に流し込んでいる。ボールバルブは、前述のように、構造上、僅かな弁操作でも流量が大きく変動することから、流量調整には適していないという欠点がある。
【0013】
一方、重合槽から抜き出される芳香族ポリエステルは重合槽内で固化しやすく、重合槽内での樹脂の固化物生成や昇華物の混入、粘度の変動、重合槽内の圧力変動、芳香族ポリエステルの重合のしやすさ、固化のしやすさの違いなどのため、突然に急激な流量変動が生じやすい。
【0014】
そこで、本発明では、ボールバルブを通してベルトクーラ上に流し込まれる芳香族ポリエステルのベルト幅方向への拡がりを熱画像で検出し、安定時(すなわち幅方向への拡がりが所定の範囲内であるとき)には、ボールバルブの開度をPID制御により自動制御すると共に、異常時〔すなわち幅方向への拡がり(つまり流量)が所定の範囲外に増大または減少したとき〕には、シーケンスによる自動操作にて前記ボールバルブの開度を速やかに調整するようにしている。これにより、一般には流量調整には適していないと考えられているボールバルブを用いて、芳香族ポリエステルの流量変動に対して迅速に対応でき、製造が安定する。
【0015】
具体的には、前記幅方向への拡がりを熱画像として芳香族ポリエステルの画像の面積で表すことができるので、芳香族ポリエステルの当該画像面積が所定の範囲内であるか否かを容易に且つ迅速に判定できる。
【0016】
その場合、前記枠を、ローラの幅方向に拡がる液体の全体を含む範囲とする場合は、芳香族ポリエステル全体の状態を監視することができるので、比較的安定した制御が可能である。他方、前記枠を、ローラの幅方向における左右の端部近辺の小区画とする場合は、迅速に検出できる。また、かかる方式の場合にはベルトに致命的な影響を与える端部からのはみ出しの有無をより確実に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る芳香族ポリエステルの製造方法、およびこれに使用する抜き出し冷却装置を説明する。図1は本発明方法を適用した抜き出し冷却装置の一実施形態を示す概略説明図、図2は上記重合物抜き出し冷却装置に使用されるベルトクーラの要部斜視図、図3は図2の液体の熱画像を移しているモニターの正面図、図4は図1の抜き出し冷却装置による抜き出し冷却方法を示すブロック図である。
【0018】
図1に示す抜き出し冷却装置10は、プレ重合槽(以下、単に重合槽という)11a、11bと、それらの重合槽の下端から抜き出される重縮合反応途中の芳香族ポリエステル12の流量を制御する流量制御用のボールバルブ13と、その下方に配置されるダブルベルト式クーラ(以下、単にベルトクーラという)14と、このベルトクーラ14の入口側の熱画像を取り込むカメラ15と、このカメラ15で取り込んだ熱画像の解析データを表示するモニター17と、上記解析データが送られるDCS(分散制御システム)を備え流量制御バルブ13の開度を調節する制御手段16とを備えている。
【0019】
本発明における芳香族ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル;p−ヒドロキシ安息香酸や2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸から得られる液晶ポリエステル、さらにこれらとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸とハイドロキノン、レゾルシン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0020】
特に比較的流動温度の高い液晶ポリエステルに適用することが好ましい。具体的には流動温度が周辺温度より高い温度(通常、周辺温度より30℃以上高い温度)であり、例えば温度200℃以上の芳香族ポリエステルに適用することが好ましい。ここで流動温度とは、4℃/分の昇温速度で加熱溶融された樹脂を荷重100kg/cm2 の下で内径1mm、長さ10mmのノズルから押し出すときに、該溶融粘度が48000ポイズを示す点における温度である。
【0021】
この実施形態では、重合槽11a、11bは2基設けており、一方の重合槽11aはベルトクーラ14の入口側の真上に配置され、芳香族ポリエステルを真っ直ぐ落下させるようにしている。他方の重合槽11bはベルトクーラ14の入口側から離れた位置に配置されている。そのため、他方の重合槽11bでは、下端の出口からベルトクーラ14の入口近辺まで、芳香族ポリエステルを移送する傾斜した管路18を設けている。傾斜した管路18の下端側には、流れてくる液状の芳香族ポリエステルを下に向けて落下させるための当て板19が設けられている。
【0022】
2基の重合槽11a、11bは、通常、交互に利用する。すなわち、一方の重合槽11aのボールバルブ13を開き、この重合槽11aから芳香族ポリエステル12を取り出している間に、他方の重合槽11bのボールバルブ13を閉じておき、1バッチ分のモノマーを重合槽11b内に充填し、プレ重合を行なっておく。そして一方の重合槽11aからの芳香族ポリエステル12の取り出しが完了したとき、その一方の重合槽11aのボールバルブ13を閉じて他方の重合槽11bから芳香族ポリエステルを取り出す。このように交互に重合槽11a、11bで処理することにより、効率的な重合・取り出し・冷却処理を行うことができる。
【0023】
また、傾斜した管路18は、芳香族ポリエステル12の移送距離が長くなるため、その間に内部を流れる芳香族ポリエステルの温度が低下して固化しないようにジャケット20を備えている。なお、それぞれの重合槽11a、11bも槽内の温度を所定の温度に維持するため、ジャケット21を備えている。それぞれの重合槽11a、11bの蓋体22には、前段階のアセチル化反応槽からモノマーを流し込むための管路22aが接続される。また、反応中に副生する酢酸は管路22bを経て取り出される。
【0024】
重合槽11a、11bの下端の出口に設けるボールバルブ13は、開閉操作および開度調節を行う。それにより全開時の抵抗が少なく、全閉時の遮断性が高い。さらに広い範囲で開度の調節が可能であり、掃除も容易である。ボールバルブの開度調節は、例えばモータ駆動、エアー駆動などで行うことができる。
【0025】
ベルトクーラ14は、それぞれスチールベルトなどの耐食性を有する金属製の無端ベルトからなる上側ベルト24と下側ベルト25を上下に密接して配置し、上下のベルト24、25間に重縮合反応途中の芳香族ポリエステルを挟んで移送しながら冷却する装置である。上下のベルト24、25は、冷却用の水によって冷却される。上側ベルト24の入口側および出口側は、それぞれ入口側ローラ26および出口側ローラ27に巻き掛けられ、それらの間に張設されている。下側ベルト25は、入口側ローラ28、出口側ローラ29のほか、ガイドローラ30によって略三角形状に張られている。上側ベルト24は図1で反時計方向に循環し、下側ベルト25は時計方向に循環するようにそれぞれモータで駆動される。
ベルト24、25間の隙間は、通常1〜2mm程度がよく、またベルト24、25の長さおよび移動速度は、所望の温度まで液状物の温度を下げるのに最適となるように設定される。
【0026】
重縮合反応途中の液状芳香族ポリエステルは、ベルトクーラ14の入口側のローラ26、28の間(正確にはベルトの間)に供給される。そしてベルトクーラ14の出口側には、冷却固化した芳香族ポリエステルを粗粉砕するための粉砕機31が配置されており、さらにこの粉砕機31から図示されていない微粉砕用の粉砕機に送られる。
【0027】
前述のカメラ15は、図2に示すように、ベルトクーラ14の入口側のローラ26、28間に流し込まれる液状芳香族ポリエステル12の熱画像を取り込むものである。入口側のローラ26、28間で、左右方向のほぼ中心位置に落下した芳香族ポリエステル12は、粘度が高く、しかもベルト24、25によって冷却されるため一層粘度が高くなり、ローラ26、28に巻き掛けられているベルト24、25の間に形成される略三角形状の溝32内を幅方向に拡がりながら流れていく。そしてその途中で芳香族ポリエステル12はベルト24、25の隙間から、ベルト24、25の移動に伴ってベルト間に挟まれるようにして引き込まれ、移動していく。なお、ローラ26、28は円筒状であり、接している部位は断面略三角形状の溝32となっているが、図1に示すように下側のローラ28が上側のローラ26より下方に位置しているので、溝32は浅い。
【0028】
上方から流れ落ちる芳香族ポリエステル12の流量と、ベルト24、25間に流れ込み引き込まれていく芳香族ポリエステル12の流量(搬送量)とがバランスしている場合は、たとえば実線で示す領域R1に溜まっている状態で安定している。この状態から、落下してくる芳香族ポリエステル12の流量が増加すると、二点鎖線R2で示すように、芳香族ポリエステル12の溜まっている領域が幅方向に拡がる。
【0029】
しかし落下してくる芳香族ポリエステル12が急激に増加してベルト24、25に引き込まれる流量とのバランスが大きく崩れると、芳香族ポリエステル12の溜まっている領域R1の端がベルト24、25の幅を超えて拡がり、たとえば駆動機構に付着してその部分で固化し、ダブルベルトクーラ14が破損することになる。この抜き出し冷却装置10では、ベルト24、25上に溜まっている芳香族ポリエステル12の領域R1をカメラ15で検出し、その拡がり状態が所定範囲内であるときは、流量変動に対して、図1の制御手段16がボールバルブ13の開度を小さくしたり、拡げたりしてフィードバック制御を行う。
【0030】
カメラ15が検出する熱画像は、たとえば図3のモニター17の画像に示すように、上から落下する芳香族ポリエステルの縦長の画像33と、ベルト24、25上を拡がる芳香族ポリエステルの横長の画像34、すなわち所定温度以上(例えば200℃以上)の画像34が平面的に見えるだけであり、低温のローラ26、28やベルト24、25は画像として現れない。そのため、芳香族ポリエステル12の輪郭がはっきりしており、熱画像の画像処理(デジタル処理)が容易である。すなわち単なる画像では芳香族ポリエステル12とベルト24、25などとのコントラストがはっきりせず、誤認することがあるが、熱画像としたことにより、例えば200℃以上の芳香族ポリエステル12と冷却ベルト24、25との温度差に基づく明瞭な輪郭が得られるのである。
【0031】
芳香族ポリエステル12の拡がりの大きさを熱画像に基づいて数値化する場合、たとえば枠35内の芳香族ポリエステル12の面積をそのまま制御ないし判別用の数値として用いることもできる。あるいは、モニター17内の画像に検出対象領域を示す矩形状の枠(ターゲット領域)35を設定し、その枠内の重合物の面積を数値化することができる。このような処理は上記DCSを備えた制御手段16に設けたデータ処理用の中央処理装置(CPU)、データを一時保存するランダムアクセスメモリ(RAM)、プログラムなどを格納しておくリードオンリメモリ(ROM)などを中心とするデジタル処理装置で行う。
【0032】
枠(ターゲット領域)の大きさは自由に設定でき、例えば図3に二点鎖線で示すように、芳香族ポリエステル12の広がりの左右方向の端部近辺に小区画の枠36、37を設定し、枠内の芳香族ポリエステルの面積値を用いたり、あるいはこれらの枠36、37の面積に対する、それらの枠内の芳香族ポリエステル12の面積の比率を演算したりすることもできる。ここで面積は、画像の画素数(ピクセル)によって特定できる。また、芳香族ポリエステル12の検出の有無をアラームとして検知することもできる。さらに大きい枠35から得られる数値と小区画の枠36、37から得られる数値、あるいは落下してくる芳香族ポリエステルの幅から得られる数値に基づいて、全体の和をとるか、重みをつけた平均値をとるかすることにより、独自の制御ないし判定用の数値を演算するようにしてもよい。
【0033】
熱画像に基づいて制御用の数値を得た場合、図4に示すように、比較部において前記の数値Xとあらかじめ設定した目標値Pとの偏差eを演算し、その偏差がゼロになるようにボールバルブ13の開度を順次変更していく。すなわち図4の場合は、制御部で、偏差eと、この偏差を時間で積分して所定の積分時定数Tiで除した積分項と、偏差を時間で微分して微分時定数Tdを掛けた微分項との和を求め、比例ゲインKを掛けた値を制御量yとし、この制御量yによってバルブの開度を定める比例積分微分制御(PID制御)を採用している。
【0034】
このとき、PID制御が鋭くなると(すなわち比例ゲインKを大きくすると)、流量変動が大きくなって、ボールバルブ13では制御できなくなる。そこで、PID制御を鈍くし(すなわち比例ゲインKを小さくし)、芳香族ポリエステルの画像面積が所定の範囲を外れたとき、前記ボールバルブ13の開度をシーケンスにより自動操作するようにしている。これにより芳香族ポリエステルの重縮合反応に特有の突発的な変動にも安全に対処することができる。
【0035】
すなわち、芳香族ポリエステルの流量が大きくなって画像面積が所定の範囲を超えたときは、以下のようにシーケンスにより自動操作を行う。
(a)流量が増大した場合、 ボールバルブ13の開度を一定量だけ閉止するようにする。
(b) 流量が減少した場合には、ボールバルブ13の開度を一定量だけ開くようにする。
(c) 流量が異常に増大した場合には、常時監視のインターロックシーケンスによりボールバルブ13を一旦完全に閉じ、抜き出しの最初に戻す。その理由は、ボールバルブ13が50%以上開いている状態で、開度を小さくしても効果がないことの他に、他のシーケンス操作による操作の遅れを防ぐためである。
(d) 流量が異常に減少した場合には、一旦ボールバルブ13の開度を大きくした後(例えば、増やしたい開度の10倍以上を瞬時に開けた後)、すぐに増やしたい開度に戻す、という操作を行う。例えば開度を20.0%から0.3%増やす場合には、開度を20.0%から30.3%に増やし、ついで20.3%まで戻すようにする。このとき、開度30.3%の状態まで瞬時(例えば1秒)に開くのがよい。これは、単に0.3%ずつ開放する場合、引っ掛かっていたと思われる固形物が除去できた時に、流量が異常に増え、少々弁を絞っても止められないためである。インターロックシーケンスでオーバーフローは止められるが、何度も同じ操作が繰り返されて、工程が進まなくなる。
なお、シーケンスによる自動操作では、一定弁開度以下(例えば開度18%以下)にしないのが望ましい。これにより、流量が少ない状態を最短時間に抑え、流路内での固結が最小限になる。
【0036】
次に、前述したPID制御による自動制御とシーケンスによる自動制御とを併用した流量制御の一例を図5に示す。図5は、重合槽からダブルベルト式クーラ14への芳香族ポリエステルの流し込み開始から終了までの間における芳香族ポリエステルの画像面積(ピクセル)の挙動と、それに対する制御バルブ13の開度を示している。この例では、熱画像計測装置として(株)チノー製の商品名「サーモピクス」を使用した。また、ボールバルブ13の自動制御のためのPIDは感度を鈍くして、大きな変動を抑制している。さらに、図3に示す枠35の領域内で自動制御の設定範囲を2500〜5000ピクセルとし、これを外れた場合は、自動操作にてボールバルブ13を開閉するようにした。
【0037】
その結果、重合槽から芳香族ポリエステルの抜き出し開始からA分後およびB分後にそれぞれ突発的な流量変動が発生したが、それ以外では熱画像に基づくバルブの自動制御によって安定に運転されていることがわかる。
なお、抜き出し開始からA分後に突発的流量変動が発生した突発的流量変動は、芳香族ポリエステルの画像面積が5000ピクセルを超えるものであったので、その時点でPID制御による自動制御から、シーケンスによる操作に切り替えてバルブの開度を低くし、流量を設定範囲内に入れ、もとの自動制御に戻した。
さらにB分後の突発的流量変動は、芳香族ポリエステルの画像面積が2500ピクセルを下回るものであったので、その時点で再び自動制御から操作に切り替えてバルブの開度を上げて、流量を設定範囲内に入れ、もとの自動制御に戻した。
【0038】
なお、自動制御の上記設定範囲は一例であり、芳香族ポリエステルのグレード、カメラ15を設置した距離や角度などに応じて大きく異なるので、その都度設定する必要がある。すなわち、自動制御の設定範囲は、モニター画像と実際の状態(実像)とを比較しながら、設定する必要がある。
【0039】
また、冷却手段としては、ダブルベルト式クーラ14に限定されるものではなく、シングルベルト式クーラ、すなわちベルト上に液状物を載置・搬送しながら冷却・固化する形式のクーラであっても本発明は適用可能であり、該シングルベルト式クーラの一端上に流し込まれた芳香族ポリエステルの幅方向への拡がりを熱画像で検出する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の抜き出し冷却装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【図2】その抜き出し冷却装置の要部を示す部分斜視図である。
【図3】重合槽から抜き出された芳香族ポリエステルの熱画像を示す正面図である。
【図4】芳香族ポリエステルの抜き出し量の制御方法を示すブロック図である。
【図5】芳香族ポリエステルの画像面積(ピクセル)の挙動と、それに対するボールバルブ13の開度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
10:抜き出し冷却装置、11a、11b:重合槽、12:芳香族ポリエステル、13:ボールバルブ、14:ダブルベルト式クーラ、15:カメラ、16:制御手段、17:モニター、18:傾斜した管路、19:当て板、20:ジャケット、21:ジャケット、22:蓋体、24:上ベルト、25:下ベルト、26:入口側ローラ、27:出口側ローラ、28:入口側ローラ、29:出口側ローラ、30:ガイドローラ、31:粉砕機、32:溝、33:(芳香族ポリエステルの)縦長の画像、34:(芳香族ポリエステルの)横長の画像、35:枠、36,37:小区画の枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合槽から抜き出される重縮合反応途中の芳香族ポリエステルを、ボールバルブを通してベルトクーラ上に流し込み冷却固化するにあたり、
ベルトの幅方向への芳香族ポリエステルの拡がりを熱画像で検出し、(1)その幅方向への拡がりが所定の範囲内であるとき、前記ボールバルブの開度をPID制御により自動制御し、(2)幅方向への拡がりが所定の範囲を外れたとき、前記ボールバルブの開度をシーケンスにより自動操作することを特徴とする芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
流し込まれる前記芳香族ポリエステルをカメラで熱画像として検出すると共に、モニター画面における所定の枠内における前記芳香族ポリエステルの画像の面積を求め、(1)その画像面積が所定の範囲内であるとき、前記ボールバルブの開度をPID制御により自動制御し、(2)その画像面積が所定の範囲を外れたとき、前記ボールバルブの開度をシーケンスにより自動操作する請求項1記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記枠がベルトクーラの幅方向に拡がる前記芳香族ポリエステルの全体を含む範囲である請求項2記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記枠がベルトクーラの幅方向における左右の端部近辺の小区画である請求項2記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記ボールバルブのPID制御による自動制御が、比例ゲインを小さくして行われる請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
シーケンスによる自動操作では、流量が増大した場合にボールバルブの開度を一定量だけ閉止し、流量が減少した場合にボールバルブの開度を一定量だけ開くようにする請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
シーケンスによる自動操作では、流量が異常に増大した場合に、ボールバルブを一旦完全に閉じた後、抜き出しの最初の状態に戻す請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
シーケンスによる自動操作では、流量が異常に減少した場合に、一旦ボールバルブの開度を大きくした後、すぐに所望の流量となる開度に戻す請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項9】
ボールバルブを所望の流量となる開度の10倍以上まで瞬間的に開けた後、すぐに所望の流量となる開度に戻す請求項8に記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項10】
シーケンスによる自動操作では、流路内での芳香族ポリエステルの固結を最小限にとどめるようにボールバルブを一定開度以下にしない請求項1〜9のいずれかに記載の芳香族ポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−248095(P2008−248095A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91329(P2007−91329)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】