説明

芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマー

スルホン酸基を有する親水性部分と、スルホン酸基を有さない疎水性部分とを有する芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーであって、前記親水性部分の質量割合は、0.02〜0.35である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマー、当該ブロックコポリマーの製造方法、及び当該ブロックコポリマーを燃料電池で、若しくは水処理用膜として用いる使用に関する。
【0002】
芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーをベースとする固体のポリマー燃料電池に、ポリ電解質を用いること自体は、公知である。適切なコポリマーは、EP-A-1 394 879に記載されている。これはとりわけ、ポリエーテルスルホン(PES)−ポリフェニルスルホン(PPSU)のブロックコポリマーであり、当該ブロックコポリマーは、濃硫酸により室温でスルホン化されたものである。親水性部分対疎水性部分の比の値は、0.6〜2.0の間にあり、親水性部分の質量割合は、0.375超である。
【0003】
US 2004/0138387は、ブロックコポリマー、及び当該ブロックコポリマーを、燃料電池でポリマー電解質として用いる使用に関する。ここでスルホン化は濃硫酸によって、室温から40〜60℃までの温度で行われる。このポリマーはとりわけ、ポリエーテルエーテルスルホンである。
【0004】
EP-A-1 113 517は、ポリマー電解質、及びその製造方法に関する。ここでは例えば、ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシビフェニル、及びジクロロジフェニルスルホンからブロックコポリマーを製造し、それから濃硫酸でスルホン化する。
【0005】
水を脱塩するためにも、似たようなポリマー材料が膜製造に使用される。Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, p1〜7には、水脱塩用の塩素許容性ポリマーが記載されている。これはポリアリーレンエーテルスルホンコポリマーであり、当該コポリマーはジスルホン化されたモノマーと、スルホン化されていないモノマーとから製造される。
【0006】
本発明の課題は、改善された芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを提供することであり、当該ブロックコポリマーは、燃料電池の製造においてポリ電解質として、又は水処理用の膜として使用できるものである。このポリマーは、改善された適用特性若しくは適切な特性プロフィール、とりわけプロトン輸送性、メタノール透過性、及び膨潤性を示すのが望ましい。水処理のためにはさらに、良好な化学耐性、及びにファウリング(Fouling)に対する耐性を示すのが望ましい。
【0007】
この課題は本発明に従って、スルホン酸基を有する親水性部分と、スルホン酸基を有さない疎水性部分とを有するポリエーテルスルホンブロックコポリマーによって解決され、ここで前記親水性部分の質量割合は、ブロックコポリマー全体に対して0.02〜0.35である(2〜35質量%に相当)。
【0008】
この課題はさらに、芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを、濃硫酸によって20〜70℃の範囲の温度でスルホン化する、芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーの製造方法によって解決される。
【0009】
この課題はさらに、前記芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを、燃料電池を製造するためのポリ電解質としての使用、又は水処理用の膜製造のために用いる使用によって解決される。
【0010】
本発明はさらに、上述のように、ポリ電解質として芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを有する燃料電池に関する。
【0011】
本発明はさらに、上述のように、芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを有する水処理用の膜に関する。
【0012】
本発明による芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーは有利なことに、ポリ電解質としても、また膜の製造にも適した機械的及び化学的な適用特性の範囲を有している。
【0013】
好ましいブロックコポリマー、及び当該ブロックコポリマーの製造については、後で詳述する。
【0014】
本発明のブロックコポリマーでは、親水性部分と疎水性部分が、親水性部分がスルホン酸基を有するのに対して、疎水性部分がスルホン酸基を有さない点で異なる。親水性部分の質量割合は、0.02〜0.35、好適には0.05〜0.30である。
【0015】
本発明の1つの実施態様によれば、前記質量割合は0.15〜0.35である。このようなブロックコポリマーは、とりわけポリ電解質として、燃料電池の製造に適している。
【0016】
本発明の他の実施態様によれば、前記質量割合は0.02〜0.25である。これらの質量割合は常に、ブロックコポリマー全体に対する。このようなブロックコポリマーはとりわけ、水処理用の膜製造に適している。
【0017】
本発明によれば親水性部分とは、スルホン酸基を有する部分であると理解される。これに対応して疎水性部分とは、スルホン酸基を有さない部分であると理解される。
【0018】
スルホン酸基を有し、かつ疎水性部分によるブロックコポリマーの製造に適していれば、親水性部分は、任意の芳香族親水性部分からなっていてよい。
【0019】
親水性部分は好適には、スルホン化されたポリフェニレンスルホン(PPSU)成分を含有する。この成分は好適には、一般式(2)
【化1】

のものであり、
前記式中、
R1はC(=O)、又はS(=O)2であり、
Arは二価の芳香族基であり、
mは3〜1500の整数、好適には5〜500の数である。基Arはさらに、EP-A-1 394 879で一般式(2)の構造について記載された意味を有することができる。
【0020】
R1は好ましくは、S(=O)2である。
【0021】
芳香族基Arは好適には、多核芳香族基であり、好適には一般式(3)
【化2】

のビフェニル基である。
【0022】
よって特に好ましいのは、ポリフェニルスルホン基である。
【0023】
一般式(3)のビフェニル基では、フェニル基は基−C(CH32−によって結合されていてよい。
【0024】
一般式(2)の基は、後続のスルホン化によって親水性部分に変わる。特に好ましくは、式(3)中のあらゆるフェニレン基が、スルホン化後にスルホン酸基を有する。スルホン酸基は好ましくは、結合された酸素に対してオルト位に存在する。
【0025】
疎水性部分は好ましくは、ポリエーテルスルホン部分である。疎水性部分は好適には、一般式(1)
【化3】

[式中、nは3〜1500の整数である]
を有する。
【0026】
ポリエーテルスルホンは特に好ましくは、式(4)
【化4】

を有する。
【0027】
本発明によれば、まずブロックコポリマーをポリエーテルスルホン単位とポリフェニルスルホン単位とから製造し、そして得られたブロックコポリマーを、引き続き水性濃硫酸(約98%)で選択的にスルホン化する。この際、好適には、前掲の式(3)の基のみをスルホン化する。
【0028】
本発明による芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを製造する際には、芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを濃硫酸により、20〜70℃の範囲の温度、好適には25〜50℃の温度でスルホン化する。
【0029】
ポリエーテルスルホンブロック、及びポリフェニルスルホンブロックは好ましくは、本発明によるブロックコポリマー中で、ポリマーブロックが10〜100nmのサイズ範囲で相分離を示すように存在する。スルホン化されたブロックコポリマーPES/sPPSUは、ランダムコポリマーと比較して、前記範囲(10〜100nm)で著しい分離を有する。
【0030】
ナノメーター範囲での相分離によって、ブロックコポリマーは同時に、機械的安定性、水/メタノールでの僅かな平面膨潤性(Flaechen-Quellung)、及び高い透水性若しくは高いイオン透過性といった特性を得る。一部対立する特性のこうした組み合わせは、ランダムコポリマーによっては実現できない。例えば、ランダムなPES−PPSUコポリマー(PPSU割合が20%超のもの)は、スルホン化後、激しい膨潤若しくは水への溶解性が原因で、ほとんど、又は全く単離できない。PPSU割合が最大35質量%のブロックコポリマーは、もちろん単離できない。
【0031】
Mは好適には、5〜500の範囲の数である。
【0032】
親水性部分がEP-A-1 394 879に記載の式(7)に相当し、疎水性部分が同文献に記載の式(8)に相当するのが、特に好ましい。
【0033】
本発明によるブロックコポリマーのスルホン酸基は好適には、イオン交換能力が、0.07〜1.43mmol/gであり、特に好適には0.178〜1.07mmol/gである。
【0034】
本発明による芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーの製造は、まずスルホン化されていないブロックコポリマーを合成し、それから当該ブロックコポリマーをスルホン化することによって行う。
【0035】
芳香族ポリエーテルスルホンは、疎水性部分を有するプレポリマーとして使用できる。このプレポリマーは例えば、二価のフェノールのジアルカリ金属塩と、芳香族ジハロゲン化物との反応によって合成でき(これについては例えばR. N. Johnson et al., J. Polym. Sei., A-1 , Vol. 5, 2375 (1967)、及びP-B-46-21458で教示されている)。
【0036】
芳香族ジハロゲン化物には、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−ブロモフェニル)スルホン、ビス(4−ヨウ素フェニル)スルホン、ビス(2−クロロフェニル)スルホン、ビス(2−フルオロフェニル)スルホン、ビス(2−メチル−4−クロロフェニル)スルホン、ビス(2−メチル−4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−クロロフェニル)スルホン、及びビス(3,5−ジメチル−4−フルオロフェニル)スルホンが含まれる。これらは、単独で、又はこれらのうち2つ以上の組み合わせで使用できる。これらの化合物のうち好ましいのは、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、及びビス(4−フルオロフェニル)スルホンである。
【0037】
二価のアルコールには、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンが含まれ、このうちビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンが好ましい。
【0038】
二価フェノールのジアルキル金属塩は、二価フェノールとアルカリ金属化合物との反応によって得られ、このアルカリ金属化合物の例は、例えば炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は水酸化ナトリウムである。
【0039】
ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンのナトリウム塩若しくはカリウム塩と、ビス(4−クロロフェニル)スルホン若しくはビス(4−フルオロフェニル)スルホンとの組み合わせが、二価のフェノールのジアルカリ金属塩と、芳香族ジハロゲン化物との好ましい組み合わせである。
【0040】
二価フェノールのジアルカリ金属塩と、芳香族ジハロゲン化物との反応は、極性溶剤中で行い、その極性溶剤の例は、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びジフェニルスルホンである。反応温度は好適には、140℃〜320℃である。反応時間は好適には、0.5〜100時間である。
【0041】
二価フェノール又は芳香族ジハロゲン化物のいずれかを過剰量で用いることによって、プレポリマーの分子量の制御、並びにブロックコポリマーの合成に使用可能な末端基の形成に繋がる。他方で、二価フェノール又は芳香族ジハロゲン化物をモル当量で使用し、一価フェノール、例えばフェノール、クレゾール、4−フェニルフェノール若しくは3−フェニルフェノールを添加するか、或いは芳香族ハロゲン化物、例えば4−クロロフェニルフェニルスルホン、1−クロロ−4−ニトロベンゼン、1−クロロ−2−ニトロベンゼン、1−クロロ−3−ニトロベンゼン、4−フルオロベンゾフェノン、1−フルオロ−4−ニトロベンゼン、1−フルオロ−2−ニトロベンゼン、又は1−フルオロ−3−ニトロベンゼンを添加する。
【0042】
プレポリマーの重合度は、3〜1500の範囲、好適には5〜500の範囲である。重合度が3未満の場合、このように合成されたブロックコポリマーは、所望の特性をほとんど有さない。重合度が1500超の場合、ブロックコポリマーの合成が困難である。
【0043】
電子抽出基と結合されている芳香族環をスルホン化するのは困難なため、疎水性部分から得られるプレポリマーが、芳香族環自体に結合されている電子抽出基、例えばC(=O)、又はS(=O)2を有するのが好ましい。疎水性部分から得られる好ましいプレポリマーは、化学式(1)
【化5】

[式中、nは3〜1500の整数である]
で示される構造を有する。
【0044】
方法(1)で用いられる、スルホン化されてない疎水性部分から得られるプレポリマーは、好適には芳香族ジハロゲン化物と、芳香族環に電子抽出基をまったく有さない二価のフェノールとから合成される。芳香族環に電子抽出基を有さない二価のフェノールには、ヒドロキノン、レゾルシン、1,5−ジヒドロキシナフタリン、1,6−ジヒドロキシナフタリン、1,7−ジヒドロキシナフタリン、2,7−ジヒドロキシナフタリン、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、及び9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが含まれる。この中で好ましいのは、ヒドロキノン、レゾルシン、1,5−ジヒドロキシナフタリン、1,6−ジヒドロキシナフタリン、1,7−ジヒドロキシナフタリン、2,7−ジヒドロキシナフタリン、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、及び9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンである。
【0045】
芳香族ジハロゲン化物には、疎水性部分のプレポリマー合成に有用なスルホン基を有するもの、及びそれに加えてケトン基を有するもの、例えば4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、及び2,4’−ジフルオロベンゾフェノンが含まれる。大抵の場合に望ましい、スルホン化されていない親水性部分のプレポリマーは、化学式(2)
【化6】

[式中、
R1はC(=O)、又はS(=O)2であり、
Arは二価の芳香族基であり、かつ
mは3〜1500の整数である]
の構造を有するものである。
【0046】
ポリエーテルスルホンは例えば、Sumikaexce(登録商標)という名称で、住友化学株式会社から得られる。ポリアリールエーテルスルホンは例えば、Radel(登録商標)という名称で、Solvay社から得られる。
【0047】
市販のポリマーによる分子量及び末端基の変性は、芳香族ポリエーテルスルホンの合成条件(例えばR. N. Johnson et al., J. Polym. Sei., A-I 1 VoI. 5, 2375 (1967)、又はJP-B-46-21458に記載)と同じ条件下で、二価フェノール若しくは一価フェノールの上記アルカリ金属塩によるエーテル交換によってもたらすことができる。
【0048】
スルホン化されていないブロックコポリマーは、疎水性部分の前述のプレポリマーと、スルホン化されていない親水性部分のプレポリマーとの反応によって合成される。疎水性部分のプレポリマーが、ハロゲン末端基、又はフェノールのアルカリ金属塩の末端基を有するのが好ましい。スルホン化されていない親水性部分のプレポリマーが、相応するハロゲン末端基、又はフェノールのアルカリ金属塩の相応する末端基を有するのが好ましい。これらの反応は、前掲の溶剤中で140〜320℃の反応温度で、0.5〜100時間の反応時間にわたって行う。これらの反応は例えば、Z. Wu et al., Angew. Makromol. Chem., Vol. 173, 163 (1989)、及びZ. Wang et al., Polym. Int., Vol. 50, 249 (2001)に記載されている。
【0049】
このスルホン化されていないブロックコポリマーはまた、ともにフェノールのアルカリ金属塩の末端基を有する2つの部分プレポリマー間の反応によっても、結合材料を同じように使用することにより合成できる。上述のように、芳香族ジハロゲン化物は、化合材料として使用できる。芳香族二フッ化物、例えばビス(2−フルオロフェニル)スルホン、及びビス(4−フルオロフェニル)スルホンは反応性が高いので、化合材料として好ましい。直接連結から得られる生成物は、スルホン化することが可能である。
【0050】
本発明によればスルホン化は、20〜70℃の温度で、硫酸により行う。硫酸は好適には、90〜98質量%、特に98質量%である。この温度範囲では、親水性部分のみが効果的にスルホン化される。と言うのも、芳香族環に結合された電子抽出基を有する疎水性部分は、スルホン化されるべきではないからである。
【0051】
よって完全なスルホン化の場合、スルホン化度は、重縮合時に組み込まれたポリフェニルスルホン(PPSU)部分によって測定される。スルホン化の間に、すべてのPPSUブロックが完全にスルホン化される。スルホン化度の制御は、PES/PPSUブロックコポリマーのモル質量とその部分長によって、非常に良好に調節できる。
【0052】
本発明によるスルホン化されたブロックコポリマーには、ランダムコポリマーと比べて、相分離が激しいという利点がある。ポリマーブロックは好適には、10〜100nmのサイズ範囲で相分離を示す。
【0053】
本発明によるポリマーは、スルホン化されていないポリマーに対して、ゲル透過クロマトグラフィー/分子ふるいクロマトグラフィー(GPC/SEC)により測定される分子量(Mw)の質量平均が、好適には1〜200kg/mol、特に好ましくは5〜100kg/mol、とりわけ好ましくは5〜70kg/molである。この手法は、当業者には充分に知られており、技術常識に相当する。
【0054】
測定条件は以下のように選択した:ポリマーは2g/Lの濃度で、DMAc(ジメチルアセトアミド)中に、塩を0.5%添加しながら溶かした。孔径が0.2μmの標準的な射出フィルターで、溶液の予備濾過を行う。注入量は、80℃のカラム温度で200μLである。分子ふるいクロマトグラフィーは、複数のカラムを組み合わせて行った(選択されたカラムの組み合わせ及び流速で、理論計算床は17200)。シグナルの検知は、示差屈折計(回折指数測定)を用いて行った。較正は、分子量Mが800〜1,820,000gmolのPSS社の狭い分布のPMMA標準を用いて行った。あらゆる測定値は、標準の限界域内にある。
【0055】
本発明はまた、芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを前掲のように、燃料電池の製造のためのポリ電解質として、又は水処理用膜の製造のために用いる使用に関する。ポリ電解質膜を燃料電池で用いることは、一般的に公知である。これについては例えば、EP-A-1 394 879、EP-A-1 113 517、US 2004/0138387、EP-A-1 669 391、及びEP-A-1 855 339を指摘できる。ポリ電解質膜は例えば、本発明によるブロックコポリマーを用いた被膜形成法によって得ることができる。
【0056】
本発明の固体ポリマー燃料(芳香族ポリエーテルスルホンから上記のように製造されたブロックコポリマーから出発する)を有する電池用のポリ電解質膜を得るための被膜形成法は、特には制限されない。例えば、芳香族ポリエーテルスルホンから得られるブロックコポリマーを極性溶剤(例えばジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、又はジフェニルスルホン)に溶かし、この溶液を担体に注ぎ、そして(極性)溶剤を、例えば蒸発によって除去する。被膜の厚さは、5〜200μm、好適には10〜150μmである。5μmよりも薄い被膜は通常、取り扱いが困難である。200μmよりも厚い被膜は、電流生成時の効率が低下した膜を有する燃料電池になってしまうため、好ましくない。
【0057】
望ましい場合には、本発明のポリ電解質膜は、本発明の特性が悪化しない限りにおいて、スルホン酸基の一部について金属塩の形で存在していてよい。この膜はさらに、繊維、多孔質膜などによって強化されていてよい。必要な場合には、ポリ電解質膜は、以下のものと混合可能な無機酸を含有することができる:例えば、リン酸、次亜リン酸、及び硫酸、又はこれらの塩、1〜14個の炭素原子を有するペルフルオロアルキルスルホン酸、又はその塩、1〜14個の炭素原子を有するペリフルオロアルキルカルボン酸、又はその塩、無機物質、例えば白金、シリカゲル、二酸化ケイ素、及びゼオライト、並びに他のポリマーである。
【0058】
燃料電池の製造はそれ自体公知であり、何ら制限を受けることはない。
【0059】
膜電極ユニット(MEE)の製造は、ガス拡散電極(GDE)による加圧によって、又は触媒溶液で直接被覆すること、例えばスクリーン印刷によって行うことができる。これによって触媒で被覆された膜(CCM)が得られる。
【0060】
本発明による芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーはさらに、水処理用の膜を製造するために使用できる。適切な膜の製造は例えば、Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, p1〜7に記載されている。膜の製造はとりわけ、ポリマー溶液を平らな下地、例えばガラス板に注ぎ、その後溶剤を除去することによって行う。溶剤の除去は例えば、加熱によって、又は減圧を適用して行うことができる。
【0061】
水処理用の膜は一般的に、溶解された、及び懸濁された粒子を水から分離可能な半透膜であり、ここで分離工程自体は、圧力又は電気により稼働させることができる。本発明によるポリマーの典型的な(特に制限されないが)膜適用の例は、圧力稼働式膜技術、例えばマイクロ濾過(MF;分離限界は約0.08〜2μm;非常に小さい懸濁粒子、コロイド、バクテリア)、限外濾過(UF;分離限界は約0.0005〜0.2μm;>1000MWの有機粒子、ウィルス、バクテリア、コロイド)、ナノ濾過(NF、分離限界0.001〜0.01μm、300MWの有機粒子、THM前駆体、ウィルス、バクテリア、コロイド、溶解物質)、又は逆浸透(RO、0.0001〜0.001μm、イオン、>100MWの有機物)である。これらすべての膜は、本発明によるポリマーから製造可能である。
【0062】
これらのすべての膜の製造方法は文献から公知であり、例えばM. C. Porter et al., Handbook of Industrial Membrane Technology (William Andrew Publishing/Noyes, 1990)に記載されている。系内において、本発明によるポリマーの最も典型的な(これに制限されることはないが)構成態様は、中空繊維製の濾過モジュール、又は螺旋状膜モジュール(Wickelmembranmodule)である。これらは同様に当業者に公知であり、文献に記載されている(上記参照)。
【0063】
本発明によるポリマーから、水処理の分野での様々な適用で使用可能な膜を製造する方法は、Handbook of Industrial Technology (edited by Mark C. Porter, Pleasanton, California Reprint Edition Noyes Publications, Westwood, New Jersey, USA)の図1−1に記載されている(ただし、これに制限されることはない)。
【0064】
本発明はまた、ポリ電解質として本発明による芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを有する、相応する燃料電池、及び本発明による芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを膜材料として有する、水処理用の膜に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する親水性部分と、
スルホン酸基を有さない疎水性部分と
を有する芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーであって、
前記親水性部分の質量割合が、0.02〜0.35である、前記ブロックコポリマー。
【請求項2】
前記親水性部分の質量割合が、0.15〜0.35であることを特徴とする、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項3】
前記親水性部分の質量割合が、0.02〜0.25であることを特徴とする、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項4】
前記疎水性部分が、ポリエーテルスルホン成分を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項5】
前記ポリエーテルスルホン成分が、一般式(1)の繰り返し単位
【化1】

[式中、nは3〜1500の範囲の数である]
を有することを特徴とする、請求項4に記載のブロックコポリマー。
【請求項6】
前記親水性部分が、スルホン化されたポリフェニレンスルホン成分を含有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項7】
前記スルホン化されたポリフェニレンスルホン成分が、一般式(2)
【化2】

[式中、
R1はC(=O)、又はS(=O)2であり、
Arは二価の芳香族基であり、
mは3〜1500の範囲の数である]
の構造単位をスルホン化することによって得られることを特徴とする、請求項6に記載のブロックコポリマー。
【請求項8】
ポリマーブロックが、10〜100nmのサイズ範囲で相分離を示すことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項9】
芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを、濃硫酸により20〜70℃の範囲の温度でスルホン化することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーの製造方法。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを、燃料電池製造のためのポリ電解質として、又は水処理用膜の製造のために、用いる使用。
【請求項11】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを、ポリ電解質として有する燃料電池。
【請求項12】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の芳香族ポリエーテルスルホンブロックコポリマーを有する、水処理用の膜。

【公表番号】特表2012−530166(P2012−530166A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515462(P2012−515462)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058390
【国際公開番号】WO2010/146052
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】