説明

芳香族ポリカーボネート組成物

本発明は、a)85重量%超の量の芳香族ポリカーボネート、b)少なくとも0.5重量%の量のレーザー直接構造化添加剤、c)少なくとも0.001重量%の量のスルホン酸塩及びd)0〜2.4重量%のゴム状ポリマー(ここで、質量%は成分a)、b)、c)及びd)の合計に対して計算される)を含むポリカーボネート組成物に関する。本発明は更に、ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を増大させるための、芳香族ポリカーボネート及びレーザー直接構造化添加剤を含み、ゴム状ポリマーを実質的に含まない組成物におけるスルホン酸塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー直接構造化添加剤を更に含む芳香族ポリカーボネート組成物に関する。本発明は、そうした組成物を製造する方法、この組成物を含有する成型部品及びそうした成型部品を備える回路キャリア(circuit carrier)にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーと、レーザー照射により活性化されることができ、それによって元素金属核を形成することができるレーザー直接構造化(LDS)添加剤とを含むポリマー組成物は、例えば米国特許第7060421(B2)号明細書及び国際公開第2009/024496(A)号に記載されている。そうしたポリマー組成物は、非導電性部品を製造するためのLDSプロセスにおいて、有利に使用することができ、この非導電性部品上には、導電性経路が配置されるべき位置で上記部品の領域をレーザー放射で照射してプラスチック表面を活性化し、レーザー直接構造化添加剤(複数可)を分解させ、金属核を放出させ、続いて照射された領域をメタライズしてこれらの領域上に金属を蓄積させることによって、導電性トラックが形成される。国際公開第2009/024496(A)号は、電磁波放射により活性化されることができ、それによって元素金属核を形成することができる金属化合物及び2.5〜50質量%のゴム状ポリマーを含有する芳香族ポリカーボネート組成物を記載していて、後者は芳香族ポリカーボネート組成物中にそうした金属化合物が存在することによるポリカーボネートの分解を減少させるために添加されている。しかし、ゴム状ポリマーが相当な量で存在すると、いくつかの用途、特にはんだ付けを必要とする部品等の高温用途においては不利である。国際公開第2009/024496(A)号に示されているように、芳香族ポリカーボネート及びレーザー直接構造化添加剤を含むが、ゴム状ポリマーを含まないか又はごく僅かしか含まない組成物は、ポリカーボネートの分解をもたらし、したがって、例えばノッチ付きアイゾット衝撃強度性能で表されるような強靱性の低下をもたらす。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、改善された強靱性を有する、レーザー直接構造化添加剤を含むがゴム状ポリマーを含まないか又はごく僅かしか含まない芳香族ポリカーボネート組成物を提供することである。
【0004】
この目的は、その芳香族ポリカーボネート組成物が以下の成分:
a)85重量%超の量の芳香族ポリカーボネート、
b)少なくとも0.5重量%の量のレーザー直接構造化添加剤、
c)少なくとも0.001重量%の量のスルホン酸塩、及び
d)0〜2.4重量%のゴム状ポリマー
(ここで、質量%は成分a)、b)、c)及びd)の合計に対して計算される)
を含むことによって達成される。
【0005】
したがって、成分a)、b)、c)及びd)について与えられた量は、成分a)、b)、c)及びd)の総重量に対して相対的である。
【0006】
驚くべきことに、本発明による組成物を用いると、例えばノッチ付きアイゾット衝撃強度で表される強靱性を著しく増大させることができることが見出された。驚くべきことに、ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を、20kJ/m超、更には30kJ/m超、更には40kJ/m超、更には50kJ/m超、更には60kJ/m超の値まで増大させることができることが見出された。
【0007】
本発明による組成物の追加の利点は、このポリカーボネート組成物の成型部品が、3.2mm(±10%)の厚さでUL94 V0レイティングを達成することができ、更には1.6mm(±10%)の厚さでUL94 V0レイティングを達成することができるということである。したがって、本発明による組成物は、レーザー直接構造化プロセスにおいて使用することができると同時に、強靱性等の芳香族ポリカーボネートの固有の特性を相当なレベルまでもたらすことができる難燃性の芳香族ポリカーボネート組成物を提供する。
【0008】
本発明による組成物の追加の利点は、ポリカーボネート組成物の成型部品は140℃超のVicat B50(ISO 306に従って50Nの負荷、50℃/時間の速度で測定したビカット軟化温度)を持つことができることである。したがって、本発明による組成物は、レーザー直接構造化プロセスにおいて使用することができるとともに、Vicatのような芳香族ポリカーボネートの1つ又は複数の固有の特性を提供することができると同時に、強靱性を相当なレベルまでもたらすことができる難燃性の芳香族ポリカーボネート組成物を提供する。
【0009】
したがって、本発明は、ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を20kJ/m超、更には30kJ/m超、更には40kJ/m超、更には50kJ/m超、更には60kJ/m超の値まで増大させるための、芳香族ポリカーボネート及びレーザー直接構造化添加剤を含む(ゴム状ポリマーを実質的に含まない)組成物におけるスルホン酸塩の使用にも関する。本明細書で用いられる、ゴム状ポリマーを実質的に含まないということは、本発明による組成物中のゴム状ポリマーの量が、芳香族ポリカーボネート、レーザー直接構造化添加剤、ゴム状ポリマー及びスルホン酸塩の重量の合計に対して多くて2.4重量%であることを意味する。好ましくは、ゴム状ポリマーの量は2重量%未満、より好ましくは1.5重量%未満、より好ましくは1重量%未満であり、更に好ましくは0重量%のゴム状ポリマーである。
【0010】
本発明によるポリカーボネート組成物は85重量%超の量、好ましくは90重量%超の量で芳香族ポリカーボネートを含有する。適切な芳香族ポリカーボネートは、例えば一般に知られている界面重合プロセス又は溶融重合法によって少なくとも二価のフェノール及びカーボネート前駆体から作製されたポリカーボネートである。適用できる適切な二価フェノールは、そのそれぞれが芳香環の一部を形成する炭素原子と直接結合した2個のヒドロキシ基を含有する、1つ又は複数の芳香環を有する化合物である。そうした化合物の例は、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,4−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、1,1−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2,2−(3,5,3’,5’−テトラクロロ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2−(3,5,3’,5’−テトラブロモ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル)プロパン、(3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、ビス−4−ヒドロキシフェニルスルホン、ビス−4−ヒドロキシフェニルスルフィドである。
【0011】
カーボネート前駆体はカルボニルハロゲン化物、ハロゲンホルメート又は炭酸エステルであってもよい。カルボニルハロゲン化物の例は、塩化カルボニル及び臭化カルボニルである。適切なハロゲンホルメートの例は、ハイドロキノン等の二価フェノール又はエチレングリコール等のグリコールのビス−ハロゲンホルメートである。適切な炭酸エステルの例は、ジフェニルカーボネート、ジ(クロロフェニル)カーボネート、ジ(ブロモフェニル)カーボネート、ジ(アルキルフェニル)カーボネート、フェニルトリルカーボネート等及びそれらの混合物である。他のカーボネート前駆体も使用できるが、カルボニルハロゲン化物、特にホスゲンとしても知られる塩化カルボニルを使用することが好ましい。
【0012】
本発明による組成物中の芳香族ポリカーボネートは、触媒、酸受容体及び分子量を制御するための化合物を用いて調製することができる。
【0013】
触媒の例は、トリエチルアミン、トリプロピルアミン及びΝ,Ν−ジメチルアニリン等の第三アミン、テトラエチルアンモニウムブロミド等の四級アンモニウム化合物並びにメチルトリフェニルホスホニウムブロミド等の四級ホスホニウム化合物である。
【0014】
有機酸受容体の例は、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン等である。無機酸受容体の例は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩及びリン酸塩である。
【0015】
分子量を制御するための化合物の例は、フェノール、p−アルキルフェノール及びパラ−ブロモフェノール等の一価フェノール並びに第二アミンである。
【0016】
そうしたポリカーボネート、その調製法及び特性は、例えばEncycl.Polym.Sci.Eng.、11、648〜718頁(Wiley、New York、1988年)及びKunststoff Handbuch、3/1、117〜297頁(Hanser Verlag、Muenchen、1992年)に詳細に記載されている。
【0017】
本発明による組成物は、ビスフェノールA及びホスゲンから誘導されたポリカーボネートを含有し、且つ任意選択で例えば溶融粘度を制御するため、コモノマーとして1つ、2つ又はそれ以上の反応基を有する他の化合物を少量含有することが好ましい。
【0018】
ポリカーボネート組成物は、その組成物をレーザー直接構造化(LDS)プロセスにおいて使用できるようにするレーザー直接構造化添加剤(成分b))を含有する。LDSプロセスでは、レーザービームにLDS添加剤を曝露してそのLDS添加剤をポリカーボネート組成物の表面に配置し、LDS添加剤から金属核を放出させる。したがってLDS添加剤は、レーザービームに曝露されると金属原子が活性化され、曝露され、レーザービームによって曝露されていない領域では金属原子が曝露されないように選択される。
【0019】
成分b)は、レーザー照射により活性化されることができ、それによってポリカーボネート組成物内で元素金属核を形成することができる。成分b)は、レーザー放射線を吸収した結果として元素形態で金属を遊離する金属含有(無機又は有機)化合物である。放射線を、金属含有化合物で直接吸収させないで、他の物質で吸収させ、次いでこの物質が吸収されたエネルギーを金属含有化合物に移動させそれによって元素金属の遊離をもたらすことも可能である。レーザー放射線は、UV光(100〜400nmの波長)、可視光(400〜800nmの波長)又は赤外光(800〜25000nmの波長)であってもよい。放射線の他の好ましい形態はX線、γ線及び粒子線(電子ビーム、[α]−粒子線及び[β]−粒子線)である。レーザー放射線は好ましくは赤外光放射線、より好ましくは1064nmの波長の赤外光放射線である。本発明において有用なLDS添加剤の例には、例えば酸化銅クロムスピネル、酸化銅モリブデンスピネル、銅塩、例えば水酸化銅リン酸塩(copper hydroxide phosphate)等;リン酸銅及び硫酸銅が含まれる。
【0020】
レーザー照射により活性化され得る成分b)は、好ましくは水性の酸性又はアルカリ性メタライズ浴において不溶性で安定な非導電性で高熱安定性の有機又は無機金属化合物から構成されることが好ましい。特に適切な化合物は、入射光の波長で光の大部分を吸収するものである。この型の化合物は、欧州特許出願公開第1274288(A)号に記載されている。ここで、非金属を含む元素周期表のd及びf族の金属の化合物が好ましい。金属含有化合物は、金属酸化物、特に元素周期表のd金属の酸化物が特に好ましい。少なくとも2つの異なる種類のカチオンを有し、スピネル構造又はスピネル関連構造を有し、且つ本発明の組成物を含有する成型部品の非照射領域において変化しないままであるより高次の金属酸化物が特に適している。本発明の1つの特に好ましい実施形態では、より高次の酸化物はスピネル、特にCuCr等の銅含有スピネルである。適切な銅含有スピネルは市販されており、一例はFerro(DE)からのPK 3095又はJohnson Matthey(DE)からの34E23若しくは34E30である。式CuO又はCuOの銅酸化物も特に適しており、Nanophase Technologies Corporation、Illinois、USAからのNANOARC(R)酸化銅等のナノ粒子をここで使用することが好ましい。本発明の他の特に好ましい実施形態では、より高次のスピネル酸化物はマンガン含有スピネルである。当業者は理解されるように、金属化合物の混合物も使用することができる。
【0021】
好ましくは、金属化合物は化学式AB又はB(AB)Oで表される。式のA成分は2価の原子価を有する金属カチオンであり、カドミウム、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される。式のB成分は3価の原子価を有する金属カチオンであり、カドミウム、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、クロム及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される。
【0022】
本発明のポリマー組成物はその中に金属化合物(複数可)が分散されており、その金属化合物は好ましくは、規定できる結晶形態物内に2つ以上の金属酸化物クラスター構成を含むことが好ましい。全体的な結晶形態物は理想的な(すなわち、夾雑物を含まず(non−contaminated)、派生物を含まない(non−derivative))状態で、以下の一般式:
AB
を有し、ここで、
i.Aは、カドミウム、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム及びそれらの組合せからなる群から選択され、これは、第1の金属酸化物クラスター(「金属酸化物クラスター1」)、典型的には4面体構造の主要カチオン成分を提供し、
ii.Bは、カドミウム、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、クロム及びそれらの組合せからなる群から選択され、これは、第2の金属酸化物クラスター(「金属酸化物クラスター2」)、典型的には8面体構造の主要カチオン成分を提供し、
iii.上記A又はBの中で、2価の原子価を有することが可能である任意の金属カチオンを「A」として使用することができ、3価の原子価を有することが可能である任意の金属カチオンを「B」として使用することができ、
iv.「金属酸化物クラスター1」の幾何学的構成(一般に4面体構造)は「金属酸化物クラスター2」の幾何学的構成(一般に8面体構造)と異なり、
v.A及びBからの金属カチオンは、「逆」スピネル型結晶構造の場合のように、「金属酸化物クラスター2」(一般に8面体構造)の金属カチオンとして使用することができ、
vi.排他的にではないにしても、Oは主として酸素であり;
vii.この「金属酸化物クラスター1」及び「金属酸化物クラスター2」は一緒になって電磁波放射に対して高度の感受性を有する単一の特定可能な結晶型構造を提供する。
【0023】
本発明の組成物中に存在するこれらの成分b)の濃度は、少なくとも0.5質量%、好ましくは少なくとも1質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、更により好ましくは少なくとも4質量%、特に好ましくは5〜最大10質量%である。
【0024】
ポリカーボネート組成物は、スルホン酸塩としてアルカリ及び/又はアルカリ土類金属スルホン酸塩を含むことが好ましい。一実施形態では、組成物はスルホン酸塩としてアルカリ金属スルホン酸塩を含む。好ましくは、組成物はスルホン酸塩としてスルホン酸カリウムを含む。より好ましくは、組成物はスルホン酸塩としてパーフルオロブタンスルホン酸カリウム及び/又はジフェニルスルホンスルホン酸カリウムを含む。さらに好ましくは、組成物はスルホン酸塩としてパーフルオロブタンスルホン酸カリウムを含む。
【0025】
本発明による組成物におけるスルホン酸塩とレーザー直接構造化添加剤との重量比は、好ましくは少なくとも0.01:1、より好ましくは少なくとも0.015:1、更により好ましくは少なくとも0.02:1である。本発明による組成物におけるスルホン酸塩とレーザー直接構造化添加剤との重量比は、好ましくは多くて0.25:1、より好ましくは多くて0.2:1である。
【0026】
この組成物は、ゴム状ポリマーを0〜最大2.4質量%(2.4を含む)の量で含有することができる。好ましくは、ゴム状ポリマーの量は2質量%未満、より好ましくは1.5質量%未満、より好ましくは1質量%未満であり、更により好ましくは0質量%のゴム状ポリマーである。本発明の好ましい実施形態では、組成物はゴム状ポリマーを含有しない。ゴム状ポリマーは、約10℃未満のTを好ましくは有する弾性(すなわち、ゴムのような)ポリマーであるか又はそれを含有する。弾性ポリマーの例には、ポリイソプレン;ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダムコポリマー及びブロックコポリマー、前記ブロックコポリマーの水素化物、アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー及びブタジエン−イソプレンコポリマーのようなブタジエンベースのゴム;エチレン−メタクリレート及びエチレン−ブチルアクリレート、アクリレートエステル−ブタジエンコポリマー、例えばブチルアクリレート−ブタジエンコポリマー等のアクリル酸系弾性ポリマーのようなアクリレートベースのゴム;例えばポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン及びジメチル−ジフェニルシロキサンコポリマー等のポリ有機シロキサンのようなシロキサンベースのゴム;並びにエチレン−プロピレンランダムコポリマー及びブロックコポリマー、エチレンとα−オレフィンとのコポリマー、エチレン−酢酸ビニル等のエチレンと脂肪族ビニルとのコポリマー、及びエチレン−プロピレン−ヘキサジエンコポリマー等のエチレン−プロピレン非共役型ジエンターポリマー、ブチレン−イソプレンコポリマー及び塩素化ポリエチレンのような他の弾性ポリマーが含まれる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による芳香族ポリカーボネート組成物は、酸及び/又は酸塩(スルホン酸塩とは異なる)を更に含むことが好ましい。驚くべきことに、スルホン酸塩と酸及び/又は酸塩(スルホン酸塩とは異なる)とが同時に存在すると、例えばノッチ付きアイゾット衝撃強度性能によって実証されるような強靱性の相乗的増大がもたらされることが見出された。驚くべきことに、スルホン酸塩並びに酸及び/又は酸塩(スルホン酸塩とは異なる)を含む芳香族ポリカーボネートレーザー直接構造化可能な組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を、50kJ/m超、更には60kJ/m超、更には70kJ/m超の値まで増大させることができることが見出された。
【0028】
したがって、本発明は更に、ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を50kJ/m超、更には60kJ/m超、更には70kJ/m超の値まで増大させるための、芳香族ポリカーボネート及びレーザー直接構造化添加剤を含む(ゴム状ポリマーを実質的に含まない)組成物におけるスルホン酸塩並びに酸及び/又は酸塩(スルホン酸塩とは異なる)の使用に関する。
【0029】
一実施形態では、そうした酸又は酸塩は無機酸又は無機酸塩である。一実施形態では、組成物は、リン含有オキシ酸及び/又はその酸塩を含有する。好ましくは、リン含有オキシ酸は一般式H(式中、m及びnはそれぞれ2以上であり、tは1以上である)を有する多価プロトン性リン含有オキシ酸である。そうした酸の例には、これらに限定されないが、以下の式:HPO、HPO及びHPOで表される酸が含まれる。リン含有オキシ酸の非限定的な例は、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、次リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、チオリン酸、フルオロリン酸、ジフルオロリン酸、フルオロ亜リン酸、ジフルオロ亜リン酸、フルオロ次亜リン酸又はフルオロ次リン酸である。本発明の好ましい実施形態では、組成物はHPO、HPO、HPO及び/又はHPO、HPO若しくはHPOの酸塩を含有する。本発明のより好ましい実施形態では、組成物はHPO、HPO及び/又はHPO若しくはHPOの酸塩を含有する。HPOの酸塩の非限定的な例は、モノリン酸亜鉛、モノリン酸カルシウム及びモノリン酸ナトリウムである。好ましくは、成分d)はHPO、HPO、HPO及び/又はHPO、HPO若しくはHPOの酸塩又はそれらの混合物である。より好ましくは、成分d)はHPO、HPO及び/又はHPO若しくはHPOの酸塩又はそれらの混合物である。
【0030】
酸及び酸塩(スルホン酸塩とは異なる)の量は、芳香族ポリカーボネート、レーザー直接構造化添加剤及びスルホン酸塩の総量に対して好ましくは少なくとも0.001重量%、より好ましくは少なくとも0.01重量%、更により好ましくは少なくとも0.015重量%である。酸及び酸塩(スルホン酸塩とは異なる)の量は、芳香族ポリカーボネート、レーザー直接構造化添加剤及びスルホン酸塩の総量に対して多くて2重量%、好ましくは多くて1.5重量%、より好ましくは多くて1重量%である。特に好ましい実施形態では、酸及び酸塩(スルホン酸塩とは異なる)の量は、芳香族ポリカーボネート、レーザー直接構造化添加剤及びスルホン酸塩の総量に対して0.01〜最大1重量%(1を含む)である。
【0031】
本発明によるポリカーボネート組成物は、成分a)、b)、c)及びd)の総重量に対して0〜最大25質量%の1つ又は複数の他の添加剤を更に含むことができる。これらには、慣用的な添加剤、例えば熱分解又は熱酸化分解に対する安定剤、加水分解に対する安定剤、光、特にUV光による分解及び/又は光酸化分解に対する安定剤、例えばPTFE等のアンチドリップ剤、離型剤及び潤滑剤等の加工助剤、顔料及び染料等の着色剤、珪灰石又はケイ酸アルミニウム等の鉱物を含む充填剤が含まれる。そうした添加剤の適切な例及びその慣用的な量は上記Kunststoff Handbuch、3/1に記述されている。
【0032】
ポリマー組成物はガラス繊維等の強化材を更に含むことができる。
【0033】
成分b)、c)及びd)(存在する場合)並びに上記したような任意選択の他の添加剤、並びにまた他の任意の添加剤及び強化材を、1軸押出機又は2軸押出機等の適切な混合装置を用いて芳香族ポリカーボネート中に導入することができ、好ましくは2軸押出機を使用する。好ましくは、芳香族ポリカーボネートペレットを少なくとも成分b)及びc)と一緒に押出機中に導入し、押し出し、次いで水浴中でクエンチし、次いでペレット化する。したがって、本発明は更に、成分a)、b)、c)及び任意選択のd)並びに他の(微粒子)添加剤及び強化材を溶融混合することによって本発明による芳香族ポリカーボネート組成物を製造する方法に関する。
【0034】
本発明は更に、本発明によるポリカーボネート組成物を含有する成型部品に関する。本発明は特に、本発明による組成物を射出成形して製造される成型部品に関する。本発明は更に、本発明による組成物から製造された成型部品を備える物品、特に回路キャリアにも関する。一実施形態では、そうした回路キャリアはアンテナを製造するために使用される。
【0035】
本発明は更に、そうした回路キャリアを製造するための方法に関し、この方法は、本発明によるポリカーボネート組成物を含有する成型部品を用意するステップと、導電性トラックが形成されるべき上記部品の領域をレーザー放射線で照射してLDS添加剤b)を分解させて金属核を放出させるステップと、続いて照射された領域をメタライズするステップとを含む。好ましい実施形態では、レーザーを使用して、接着促進表面を形成しながら、同時に金属核を放出させ部品のアブレーションをもたらす。これは、沈着金属導体トラックの優れた接着強度を実現する簡単な手段を提供する。レーザーの波長は有利には248nm、308nm、355nm、532nm、1064nm、又は更には10600nmである。レーザー照射によって生成された金属核上への他の金属の沈着は、めっきプロセスで行うことが好ましい。上記メタライジングは、成型部品を少なくとも1つの無電解めっき浴に浸漬させて、成型部品の照射領域上に導電性経路を形成することによって実施することが好ましい。無電解めっきプロセスの非限定的な例は、銅めっきプロセス、金めっきプロセス、ニッケルめっきプロセス、銀めっき、亜鉛めっき及びスズめっきである。
【実施例】
【0036】
以下の実施例及び比較実験を参照することにより、本発明が明らかにされる。
【0037】
実施例1〜15及び比較実験A〜M
比較実験CExA〜CExM及び実施例Ex1〜Ex15の組成物を表1に示す成分から調製した。
【0038】
サンプル組成物は全て表2〜6に示した量に従って調製した。量は全て重量百分率である。実験のそれぞれにおいて、サンプルを、共回転型2軸押出機を用いて280℃の温度で押し出した。押出物を顆粒化し、集めた顆粒化物を、約290℃の溶融温度を用いて射出成形してASTMサイズのアイゾットバー(6412.73.2mm)とした。ISO 180/4Aに従って23℃及び0℃の温度でノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定し、成形部品のLVN(極限粘度数(Limited Viscosity Number)、ISO 1628/4)を、ゴム非含有サンプルについて測定した(表2〜4)。表5のサンプルについて、Vicat B50(ISO 306に従った50Nの負荷、50℃/時間の速度でのビカット軟化温度)を測定するためにISOサイズのアイゾットバー(80104mm)を成形し、表6のサンプルについて、UL94 Vレイティング(IEC 60695−11−10標準に従って)を測定するために1.6及び3.2mmの厚さを有するULバーを成形した。
【0039】
表2に比較例(CEx)A〜D及び実施例(Ex)1〜5の組成及び結果を示す。比較実験CExA及びBは、CuCr充填剤を含有しないポリカーボネート組成物にスルホン酸塩(RM65)を添加した場合、材料の衝撃性能に対してほとんど影響がないことを示すための対照サンプルである。サンプルCExC及びDは、CuCr添加剤をCExAのようなポリカーボネート組成物に添加した場合、衝撃性能が著しく低下することを示す比較実験である。衝撃性能が低下する原因は、ポリカーボネートの分子量のパラメーターであるLVNから分かるように、CuCr添加剤の存在によって引き起こされるポリカーボネートの分解で説明することができる。驚くべきことに、実施例Ex1〜Ex5で見られるように、スルホン酸塩(RM65)の添加によってノッチ付きアイゾット衝撃強度が著しく増大することが見出された。比較実験CExC及びDと比較して実施例Ex1〜5のLVNが増大しているため、これは部分的には、ポリカーボネートの分解の減少と関係しているようである。しかし、実施例の次のセットにおいて、この衝撃性能の増大が、分解の減少だけに関係しているわけではないことが示されよう。
【0040】
表3は、比較実験CExGのLVNがCuCr充填剤なしのリファレンス(CExA)とほとんど同じレベルであることから、酸(MZP)の添加によってCuCr充填剤が存在することに起因するポリカーボネートの分解を克服できることを示している。しかし、CExGのノッチ付きアイゾット衝撃強度は、CExD(7〜8kJ/mから12〜14kJ/mに)と比較してごくわずかにしか増大していない。比較実験CExE及びFはCuCr充填剤なしの対照サンプルであり、LVN及びノッチ付きアイゾット衝撃強度に対する酸(MZP)の影響を示している。興味深いことに、酸の添加は、LVNと衝撃強度との両方を低下させる(CExEをCExAと比較)。酸とスルホン酸塩との組合せはこれらの値を更に著しく低下させる(CExFをCExBと比較)。さらに驚くべきことに、後者は、酸とスルホン酸塩との組合せを、CuCr充填剤を含むポリカーボネート化合物に添加した場合、実施例Ex6〜8に見られるように、ノッチ付きアイゾット衝撃強度を著しく改善することに成功している。これらの実施例のLVN値は増大しておらず、したがって衝撃性能の予期しない増大は、分解の減少と関係し得ない。さらに、CuCr添加剤を含有するポリカーボネート組成物でのノッチ付きアイゾット衝撃性能の改善に対して酸(MZP)とスルホン酸塩(RM65)との間の相乗効果が存在し、これは、酸又はスルホン酸塩の百分率の減少を可能にし、良好なノッチ付きアイゾット衝撃値(Ex7及びEx8を参照されたい)を依然として達成できるようにすることが見出された。
【0041】
表4は、表2及び3の実験で使用したパーフルオロブタンスルホン酸カリウムの代わりにジフェニルスルホンスルホン酸カリウムであるKSSの添加によってもノッチ付きアイゾット衝撃が改善される(対照サンプルCExDと比較)ことを例示している。表2及び3の実験の結果と同様に、酸(MZP)とKSSスルホン酸塩との組合せについても相乗効果が観察される。
【0042】
表5は、ゴム状ポリマー(ABS及びMBS)も含むCuCr含有ポリカーボネート組成物の衝撃性能に対するスルホン酸塩の影響を示す。低レベルのゴム状ポリマー(1%)について、スルホン酸塩の添加はやはりノッチ付きアイゾット衝撃性能(Ex13及び14をCExH及びIとそれぞれ比較する)を改善する。しかし、より高く且つより実際的に使用されるゴム状ポリマーのレベル(MBSについては5%、ABSについては35%)では、スルホン酸塩の添加による衝撃性能の改善はもはや認められない。更に、より多くゴム状ポリマーを添加するとビカット軟化温度は低下し、これは、高温を必要とする用途(例えば、はんだ付け)には不利益である。
【0043】
さらに、表6は、表2及び3の比較実験及び実施例のいくつかについてのUL94難燃性能を示す。これは、スルホン酸塩が、UL94を3.2mmの厚さでV0レイティングまで改善できることを示している。スルホン酸塩とPTFEとの組合せも、アイゾット衝撃性能を全く失うことなく1.6mmの厚さでV0レイティングに達することができることを示すために、実施例15を加えた。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
表2〜6の%は、組成物の総量に対する成分の重量%に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)85重量%超の量の芳香族ポリカーボネート、
b)少なくとも0.5重量%の量のレーザー直接構造化添加剤、
c)少なくとも0.001重量%の量のスルホン酸塩、及び
d)0〜2.4重量%のゴム状ポリマー
(ここで、質量%は成分a)、b)、c)及びd)の合計に対して計算される)
を含むポリカーボネート組成物。
【請求項2】
ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)が、20kJ/m超である、請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項3】
ポリカーボネート組成物の成型部品が、3.2mm(±10%)の厚さでUL94 V0レイティングを達成することができる、請求項1又は2に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート組成物の成型部品のVicat B50(ISO 306に従って50Nの負荷、50℃/時間の速度で測定したビカット軟化温度)が、140℃超である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項5】
レーザー直接構造化添加剤として銅含有スピネルを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項6】
スルホン酸塩としてアルカリ及び/又はアルカリ土類金属スルホン酸塩を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項7】
スルホン酸塩としてスルホン酸カリウムを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項8】
スルホン酸塩としてパーフルオロブタンスルホン酸カリウム及び/又はジフェニルスルホンスルホン酸カリウムを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項9】
スルホン酸塩としてパーフルオロブタンスルホン酸カリウムを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項10】
スルホン酸塩とレーザー直接構造化添加剤との重量比が、少なくとも0.01:1である、前記請求項のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項11】
スルホン酸塩とレーザー直接構造化添加剤との重量比が、多くて0.25:1である、前記請求項のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項12】
酸及び/又は酸塩(スルホン酸塩とは異なる)を更に含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項13】
前記酸又は酸塩が無機酸又は無機酸塩である、請求項12に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項14】
前記酸又は酸塩がリン含有オキシ酸又はその酸塩である、請求項12に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項15】
前記リン含有オキシ酸がHPO及び/又はHPOである、請求項12に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物を含有する成型部品。
【請求項17】
請求項16に記載の少なくとも1つの成型部品を備える回路キャリア。
【請求項18】
ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を増大させるための、芳香族ポリカーボネート及びレーザー直接構造化添加剤を含み、ゴム状ポリマーを実質的に含まない組成物におけるスルホン酸塩の使用。
【請求項19】
ポリカーボネート組成物の成型部品の23℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度(ISO 180/4Aに従って3.2mm以下の試料厚さで測定)を増大させるための、芳香族ポリカーボネート及びレーザー直接構造化添加剤を含み、ゴム状ポリマーを実質的に含まない組成物におけるスルホン酸塩並びに酸及び/又は酸塩(スルホン酸塩とは異なる)の使用。
【請求項20】
前記スルホン酸塩がスルホン酸カリウムである、請求項18又は19に記載の使用。
【請求項21】
前記酸が無機酸又は無機酸塩である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記酸がリン含有オキシ酸及び/又はその酸塩である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2013−515118(P2013−515118A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545269(P2012−545269)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070227
【国際公開番号】WO2011/076729
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(510191986)ミツビシ ケミカル ヨーロッパ ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】