説明

芳香族系ポリエステル分解能力を有する微生物およびこれを用いた芳香族系ポリエステルの分解方法

リゾピウム属に属しそして芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物および、当該微生物を用いた芳香族系ポリエステルの分解方法、この方法によれば、安全且つ安価にそして比較的速やかに芳香族ポリエステルを分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物および、当該微生物を用いた芳香族系ポリエステルの分解方法に関する。
【背景技術】
近年、脂肪族系ポリエステルは一般的な土壌微生物やリパーゼ等の既知酵素によって分解されることから、生分解性のポリマーとして研究開発が行われている。
また、テレフタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸等の芳香族成分を有するポリエステルであっても、含有される芳香族成分が少量であったり、耐熱性が著しく低下していたりする場合には、一般土壌中や活性汚泥中の微生物や既知酵素により生分解可能であることが知られている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある。)のように芳香族成分を主成分とする芳香族系ポリエステルを分解する微生物及び酵素はほとんど知られておらず、わずかに、PET繊維やPET織布を酵素で処理することにより、親水性の向上などの表面改質を行うことが提案されている(特表2000−502412号公報および特表2001−502014号公報参照)。しかしながら、PETが分解されていることを明確に示すデータはない。
このようなことから、PETを分解する際には高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に代表される強塩基性下で加熱処理する方法が一般的である。
【発明の開示】
本発明の目的は、芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物および、当該微生物を用いた芳香族系ポリエステルの分解方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、生物機能によって芳香族系ポリエステルを分解する方法について鋭意検討した結果、芳香族系ポリエステルを分解する微生物の単離に成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、
リゾビウム属に属しそして芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物によって達成される。
さらに本発明の他の目的は、
リゾビウム属に属しそして芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物を芳香族系ポリエステルに接触させて該芳香族系ポリエステルを分解させることを特徴とする、芳香族系ポリエステルの分解方法によって達成される。
本発明によれば、芳香族系ポリエステルを分解する能力、例えば特異的に分解する能力を有する微生物を用いることにより、安全かつ安価で比較的速やかに、芳香族系ポリエステルを温和な条件で分解することができる。
【図面の簡単な説明】
図1はRhizobium sp.OKH−03の走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「SEM−2400」)により撮影した写真(倍率20,000倍)である。
図2は実施例1の操作によって最終的に得られたPETフィルムの表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「SEM−2400」)により撮影した写真図(倍率500倍)である。
図3は比較例1の操作によって最終的に得られたPETフィルムの表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「SEM−2400」)により撮影した写真図(倍率500倍)である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、芳香族系ポリエステルとは、芳香族成分を繰り返し単位として例えばエチレンテレフタレートとして50重量%以上含むポリエステルであればよい。とりわけエチレンテレフタレート繰り返し単位を95重量%以上含むことが特に好ましい。このときに、共重合してよい成分としては、例えばテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸及びその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール等が例示される。
この芳香族系ポリエステルの形状としては、例えば繊維状、フィルム状、塊状、これらの混合体など、どのような形態をもっていてもよい。
本発明の微生物は、リゾビウム属に属しそして芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物であればどのようなものでもよいが、特に、リゾビウムsp.OKH−03(菌寄託番号FERM P−19483)であることが好ましい。
上記の菌株は、本発明者らが日本国内の土壌から新たに分離した菌株であり、以下の菌学的性質を有する。また、その菌株(桿菌)のSEM写真を図1に示した。

また、化学分類学的性質・リボソーマルDNAの配列は配列番号1に示すとおりである。
これら性質に基づき、バージイズ・マニュアル・オブ・システマティックバクテリオロジー等と照らし合わせた結果、リゾビウム属に属する微生物であることが確認されたが、同属に属する公知の菌株に該当しなかったので、この菌株を新規な菌株として、2003年8月11日付けで、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に寄託した(受託番号は、FERM P−19483である。)。リゾビウム属に属する微生物はバイオセーフティーレベルIであり病原性が無いことから、この菌株を用いることにより、生物学的にも安全に作業を行うことが可能である。
次に、リゾビウム属に属し、芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物の単離方法について説明する。
芳香族系ポリエステルを分解する微生物は、土壌中やその他の場所にも存在していると考えられるので、土壌、海洋等をサンプリングし、これを公知の方法で選別すれば、芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物が単離できる。特に、芳香族系ポリエステル廃棄物集積所やゴミ箱などからサンプリングすることが好ましい。
ついで、培地としては芳香族系ポリエステルを唯一の炭素源として含有するものを用いる(以下、この培地を芳香族系ポリエステル培地と記載することがある。)。
他の窒素源、ミネラル源等としては、例えば硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムの如き無機アンモニウム塩、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸マグネシウムの如き金属塩及びその水和物を用いることができる。
培養の方法としては、例えば振盪培養、静置培養等が挙げられる。微生物の混合系から特定の微生物を取得するには振盪培養が好ましく、なかでも栄養源を限定して培養を行う集積培養法を併用することが特に好ましい。
土壌等からサンプリングしたサンプルを、前記培地で培養し、所定期間毎に培地を添加して有用細菌を集積させる。
培養期間に特に制限はないが、例えば1〜2ヶ月程度が好ましい。次いで集積培養液中の芳香族系ポリエステルを採取し、微生物の芳香族系ポリエステル分解活性を評価する。評価方法としては特に制限はないが、例えば走査型電子顕微鏡による表面観察は簡便で確実性も高いため好ましい。
上記芳香族系ポリエステル分解能力を有するサンプルを適宜希釈し、LE寒天培地(LE培地に更に寒天を添加した培地)等に塗末し、コロニーを形成して単離を行う(一次選別)。
次いで、一次選別された菌株から、さらに芳香族系ポリエステル分解能の高い菌株を選別する(二次選別)。すなわち上記菌体を対数増殖期まで増殖させ、集菌した大量の菌体を芳香族系ポリエステル培地中に植菌する等の方法で培養した後、これらの芳香族系ポリエステル分解能を確認することにより、芳香族系ポリエステル分解能力を有する菌株を得ることができる。
芳香族系ポリエステル分解能を有する菌株を単独もしくは組み合わせて用いれば、芳香族系ポリエステルを安全かつ安価に分解することが可能になる。
該分解方法は、前記微生物と芳香族系ポリエステルとを接触させることによって容易に行うことができる。
ここで、前記微生物と芳香族系ポリエステルとの接触は、前記微生物が存在する水溶液中に分解対象とする芳香族系ポリエステルを浸漬させることにより行うことが好ましい。
該水溶液としては、芳香族系ポリエステルのみが唯一の炭素源となるような培地を用いればよく、特段制限を設けるものではないが、芳香族系ポリエステル以外の有機栄養源の存在量が0.2重量%以下であり、LE培地を用いることが好ましく、このLE培地に無機化合物を添加した培地を用いることがより好ましい。ここでいうLE培地とはレタスと卵の黄身の抽出液からなる培地であり、次の方法で作成することができる。110℃で5時間乾燥させたレタスの葉3gと、ゆで卵の卵黄3gを別々にイオン交換水1Lで10分間煎じ、室温まで冷却した後に、濾紙で濾過する。これらの濾液を混合したものをLE培地とする。
ここで添加する無機化合物としては、例えば硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムの如き無機アンモニウム塩、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸マグネシウムの如き金属塩及びその水和物が挙げられる。
また、微生物と芳香族系ポリエステルとを接触させる温度条件としては、40℃未満、例えば20〜37℃の範囲が好ましく、更に好ましくは25〜35℃、特に好ましくは30℃である。
また、接触させるときのpHは6〜9の範囲が好ましい。pHをこの範囲にするために、例えば水溶液に芳香族系ポリエステルを浸漬させて接触させる場合には、該水溶液中に、塩酸、硫酸の如き無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの如き無機塩基及びその水溶液を用いて調整すればよい。また、りん酸緩衝液の如き各種緩衝液を用いて調整してもよい。
最も好ましい条件は、20〜37℃、pHが6〜9の範囲にあるLE培地中で本発明の微生物と芳香族系ポリエステルとを接触させることである。しかしながら、他の方法であっても微生物と芳香族系ポリエステルとが接触し、芳香族系ポリエステルが分解されうるのであれば採用することができる。
また、本発明の微生物と芳香族系ポリエステルとの接触の際に、微生物を芳香族系ポリエステルに吸着させ、芳香族系ポリエステル表面にバイオフィルムを形成させることが好ましい。ここでいうバイオフィルムとは微生物とその排出物からなる層状物質のことであり、これによって本微生物が芳香族系ポリエステルに強固に接着し、且つ、芳香族系ポリエステルを分解する場を形成している。
また、本発明の微生物と芳香族系ポリエステルとを接触させる期間は少なくとも24時間あればよいが、目標とする芳香族系ポリエステルの分解量に応じて、任意の期間を設定すればよい。なお、接触期間が2週間以上に及ぶ場合には2週間ごとに水溶液を新しいものに交換することが望ましい。
このような方法により、自然界においてはほとんど分解することの無い芳香族系ポリエステルの分解を0.5〜4ケ月程度の短期間で行うことができる。分解物として二酸化炭素が生成することが確認されている。
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれによりなんら限定を受けるものではない。
[実施例1]
芳香族系ポリエステルとして、0.1規定の塩酸水溶液に3時間浸漬した後、70重量%エタノール水溶液に12時間以上浸漬し、無菌状態下で乾燥させることにより滅菌処理した寸法1.4cm×2.0cm、重量60.7mgのPETフィルムを準備した。このPETフィルムを表2に記載の成分よりなるpH7.0の水溶液培地10ml、更にリゾビウムsp.OKH−03(寄託番号FERM P−19483)を含む培養液1mLと一緒に、シリコン栓をつけた内径18mmの試験管に封入した。

好気条件を保った状態で、横振り振盪培養機を用いて30℃、300ストローク/分の条件で振盪し、2週間毎に試験管内の溶液を新規なものと交換しながら、延べ55日間振盪培養を行った。
試験管内からPETフィルムを取り出し、70重量%エタノール水溶液中で20分間超音波処理することにより、フィルム表面に付着した菌体及び菌体排出物からなるバイオフィルムを除去した。
次いで、このPETフィルムを室温、真空下で24時間乾燥させた後に、重量を測定したところ、分解処理後のPETフィルムの重量は56.2mgであり、減量率は7.4%、分解速度は0.015mg/cm・日であった。分解処理後は図2に示すとおり、電子顕微鏡による目視観察でも表面が分解されていることが確認された。
比較例1
実施例1において、リゾビウムsp.OKH−03(寄託番号FERM P−19483)を含む培養液を添加しなかったこと以外は、同様の操作を行ったところ、PETフィルムの重量は60.7mgであり、有意な重量減少は認められなかった。また、図3に示すとおり、電子顕微鏡による目視観察でも表面は分解されていないことが確認された。
【配列表】

【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾビウム属に属しそして芳香族系ポリエステルを分解する能力を有する微生物。
【請求項2】
リゾビウムsp.OKH−03と命名されそしてFERM P−19483として寄託された請求項1記載の微生物。
【請求項3】
請求項1に記載の微生物を芳香族系ポリエステルに接触させて該芳香族系ポリエステルを分解させることを特徴とする、芳香族系ポリエステルの方法。
【請求項4】
芳香族系ポリエステルが、エチレンテレフタレート繰り返し単位を95重量%以上含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
微生物と芳香族系ポリエステルとの接触をLE培地中で行う請求項3記載の方法。
【請求項6】
微生物と芳香族系ポリエステルとの接触を20℃〜37℃の範囲で行う請求項3記載の方法。
【請求項7】
微生物と芳香族系ポリエステルとの接触をpH6〜9の範囲で行う請求項3記載の方法。
【請求項8】
微生物と芳香族系ポリエステルとの接触を、微生物が芳香族系ポリエステルの表面にバイオフィルムを形成した状態で行う、請求項3記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/019439
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513362(P2005−513362)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012307
【国際出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】