説明

苗用物質供給機構

【課題】苗の丈によらず、苗の根元に確実に物質を供給可能な苗用物質供給機構を提供する。
【解決手段】載置された苗Sを下方に移動させる苗載台31と、移動する苗Sの根元に必要な薬剤(物質)Pを順次供給する薬剤供給装置(物質供給装置)70とを備える植付部(苗用物質供給機構)30であって、薬剤Pを供給するときに、移動する苗Sの上部に当てて苗Sを撓ませ、苗Sの根元付近を開放するための分草板(分草部)60を備える植付部30において、分草板60が平板で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、載置された苗を下方に移動させる苗載台と、移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、物質を供給するときに、移動する苗の上部に当てて苗を撓ませ、苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の苗用物質供給機構としては、たとえば、田植機(自走式車両と植付部)と植付部の後面に取り付けられる薬剤散布機が挙げられる。稲の苗は、苗マットごと田植機の苗載台に載置され、搬送ベルトによって下方に送られる。このとき、苗は、苗載台面に対して起立した状態となるように載置される。そして、苗載台の下部、植付爪が苗を掻き取る直前には、苗の根元に薬剤(必要な物質)を順次供給する。薬剤は、物質供給装置のホッパータンクから散布口を介して供給される。
【0003】
薬剤が供給されるときには、苗の上部は、1本の分草棒(分草部)によって撓んだ状態となっている。この分草棒は、苗載台面の垂直上方で、かつ薬剤を供給する散布口に対して、(苗の搬送される)やや上流側に設けられる。
【0004】
このように構成された田植機においては、苗は搬送ベルトによって苗載台上を順次下方に搬送され、散布口の手前に設けられた分草棒によって苗の上部の移動がブロックされる。苗の下部は引き続き下方に向けて搬送されているので、苗は搬送方向上流側に向けて撓む。これによって、下流側に隣接する起立した苗の根元と、撓んでいる苗の根元との間に開放空間ができ、ここより薬剤が苗の根元に投入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−027895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような構成の田植機では、分草棒が苗の丈の高さの違いに対応できず、苗の種類によっては、十分に苗を撓ませることができず、根元に開放空間を十分に確保することができない場合が生じる。このため、散布口から薬剤を十分に根元に向けて供給することができないという問題があった。そこで、この発明は、苗の丈によらず、苗の根元に確実に物質を供給可能な苗用物質供給機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため請求項1に記載の発明は、載置された苗を下方に移動させる苗載台と、前記移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、
前記物質を供給するときに、前記移動する苗の上部に当てて該苗を撓ませ、該苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構において、
前記分草部が平板で構成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の苗用物質供給機構において、前記分草部が、前記苗の移動方向と反対側に向けて傾いて設けられることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、載置された苗を下方に移動させる苗載台と、前記移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、
前記物質を供給するときに、前記移動する苗の上部に当てて該苗を撓ませ、該苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構において、
前記分草部が2つ以上の棒状部材で構成されることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の苗用物質供給機構において、前記分草部が、前記苗の移動方向と反対側に向けて傾いて設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、載置された苗を下方に移動させる苗載台と、移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、物質を供給するときに、移動する苗の上部に当ててその苗を撓ませ、苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構において、分草部が平板で構成されるので、これまで使用されてきたような棒状の分草部とは異なり、苗の背丈が異なる場合であっても、苗の上部に確実に当接することができる。これによって、苗を確実に搬送方向上流側に向けて撓ませることができ、根元に開放空間を十分に確保することができる。したがって、苗の丈によらず、苗の根元に確実に物質を供給可能な苗用物質供給機構を提供することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、分草部が、苗の移動方向と反対側に向けて傾いて設けられるので、いっそう苗を確実に搬送方向上流側に向けて撓ませることができ、根元に開放空間を十分に確保することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、載置された苗を下方に移動させる苗載台と、移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、物質を供給するときに、移動する苗の上部に当ててその苗を撓ませ、苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構において、分草部が2つ以上の棒状部材で構成されるので、これまで使用されてきたような1本の棒からなる分草部とは異なり、苗の背丈が異なる場合であっても、苗の上部に確実に当接することができる。これによって、苗を確実に搬送方向上流側に向けて撓ませることができ、根元に開放空間を十分に確保することができる。したがって、苗の丈によらず、苗の根元に確実に物質を供給可能な苗用物質供給機構を提供することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、分草部が、苗の移動方向と反対側に向けて傾いて設けられるので、いっそう苗を確実に搬送方向上流側に向けて撓ませることができ、根元に開放空間を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の一例としての田植機の側面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】その植付部の正面図である。
【図4】その側面図である。
【図5】この発明の別の例の植付部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1及び2は、乗用田植機の要部の側面図及び平面図である。乗用田植機の概要は次の通りである。作業者が搭乗する走行車体10の車体フレーム11には、前部にエンジン12と後部にミッションケース13が設けられ、ミッションケース13の前方両側にフロントアクスルケース14を介して水田走行用前輪15が支持されるとともに、ミッションケース13の後部両側にリヤアクスルケース16を介して水田走行用後輪17が支持されている。エンジン12とその近傍の部材はボンネット18で被覆され、ミッションケース13とその近傍の部材はステップ19を有する車体カバー20によって被覆されている。そして、車体カバー20の上部に運転席21が取り付けられ、その運転席21の前方に操向ハンドル22が設けられている。
【0017】
走行車体10の後部には、8条植え用の苗載台31や複数の植付爪32を具備する植付部30が連らなる。この植付部30は、トップリンク33及びロワーリンク34を含む3点昇降リンク機構を用いて、走行車体10に連結されている。そして、走行車体10の後部とロワーリンク34との間に介設された油圧シリンダーの伸縮動作によって、昇降自在に構成されている。また、前高後低に設置された板状の前傾式苗載台31は、下部ガイドレール35及び上部ガイドレール36を介して、中央及び左右の植付伝動ケース37に対して左右往復摺動自在に支持されている。その植付伝動ケース37の下方には、中央及び左右の植付用均平フロート38,39が、植付深さ調節部材を介して支持されている。植付部30を降下させて、このフロート38,39を着地させることにより、苗載台31の上の苗マットから取り出す苗の植付深さを設定するように構成している(図1,2では、苗を省略して描いている)。なお、植付伝動ケース37内では、走行車体10のPTO軸から取り出した駆動力にて回転軸が回転する。
【0018】
図3には、植付部30の正面図を示す。植付部30は、8つの苗載台31(1つの苗載台31が植付時の1条分に相当する)を隣接して並べて一体に備える。各苗載台31の下部底面には、苗を下方へと搬送するための搬送ベルトBを2つ並列に備える。搬送ベルトBはゴム製の無端ベルトからなり、表面には無数の小突起を、裏面には一定間隔で形成された突起を備える。搬送ベルトBは、苗載台31の裏面側にてプラスチック製の一対のギアに係合して回転する。この一方のギアの回転軸には、PTO軸より分岐した駆動軸をギアを介して係合させる。
【0019】
苗載台31の中央部前方には、後に詳述する4つのホッパーユニット73を備える。このホッパーユニット73は、1つで2条分の苗載台31に薬剤(物質)を供給するように構成されている。また、苗載台31の下部前方には、4つの植付伝動ケース37を備え、それぞれの植付伝動ケース37の両端には植付爪32を備える。すなわち、1つの植付伝動ケース37で2条分の苗を植え付けることができるようになっている。苗載台31には、分草板60を備える。この分草板60は苗載台31の幅方向全域にわたって設ける。
【0020】
分草板60は、詳しくは図4(a),(b)に示すように、矩形で一定の厚みを有する金属板(平板)で構成される(分草板60は金属板であることに限定されず、プラスチック板のようなものであってもよい)。この分草板60の両端部は、苗載台31の外縁部31Eに固設されたブラケット61の上端部にピン62などで固定する。なお、分草板60は、苗載台31に載置された苗Sの長手方向Dに対して、角度αをもって設けられることが望ましい(いいかえると、苗Sの移動方向と反対側に角度αをもって傾けて設ける)。この角度αは、分草板60が苗Sの根元を開放し、薬剤Pを苗Sの根元に補給しやすい角度、好ましくは30〜60度とする。また、分草板60の幅Wは、苗載台31に載置する多種の苗Sの背丈の違いによって適宜、設定することが望ましい。たとえば、徒長苗と通常の生育の苗との差を考慮して、W=50mmの分草板60とする。このようにすることで、生育状況の異なる苗を混在させた状態でも確実に分草板60が苗Sの上部に当接して、苗Sの根元を開放し、薬剤を苗Sの根元に供給することができる。
【0021】
植付部30の後部には、薬剤供給装置(物質供給装置)70を取り付ける(この例では、箱施用剤〔殺虫・殺菌剤〕。植付部30と薬剤供給装置70とで物質供給機構を構成する)。詳しくは、植付伝動ケース37へ動力を伝達する伝達部Tと植付伝動ケース37との境界部分からブラケット71を立ち上げ、そのブラケット71の上端に受台72を固設する。この受台72上に4つのホッパーユニット73を載置し、不図示のパッチン錠にて着脱自在に止めつける。ホッパーユニット73は、ホッパータンク74、薬剤繰出ローラ部75、導出パイプ76、散布口77などを備える。ホッパータンク74は、正面視で底面中央がV字状に切れ上がっている。ホッパータンク74の両端の底部には、それぞれ薬剤繰出ローラ部75を備える。薬剤繰出ローラ部75の外殻は、ホッパータンク74と一体に成形される。そして、内側に横溝ローラを回転自在に備える。横溝ローラは、回転しながら、一定量の薬剤を下方に供給するためのものである。この横溝ローラには、PTO軸より分岐した不図示の回転駆動軸を取り付ける。ホッパータンク74と薬剤繰出ローラ部75とが一体成形されることによって、従来から問題となってきた、接続部分における水漏れ(接続部分から雨水などが入り込み、顆粒状の薬剤を湿らせて、薬剤繰出ローラ部75に固まりついてしまうという問題)を回避することができる。
【0022】
各薬剤繰出ローラ部75の下端には、これに連続して導出パイプ76を取り付ける。このように、1つのホッパータンク74に2つの導出パイプ76が取り付けられ、それぞれの導出パイプ74が1条分の苗載台31への薬剤の供給を受け持つ。したがって、1つのホッパータンク74で2条分の苗載台31へ薬剤を供給する。
【0023】
導出パイプ76の下端には、散布口77を連続して設ける。散布口77は、2重構造になっている。すなわち、外側には、円筒状のホイールを備え、内側にはノズルを備える。ホイールの外周には突起を複数有する。この突起は、図にて明らかなように、苗Sと接触するようになっている。そして、田植時に苗載台31が苗Sを繰り出すために幅方向に移動することで突起が苗Sに引っかかり、散布口77の外側のホイールが回転する。したがって、苗載台31が苗Sを繰り出している間は、ホイールは一定速度で回転する。このホイールには針金で構成されたスクレーパの一端が固設されている。スクレーパの他端はノズル内に挿入されている。そして、ホイールが回転することで、スクレーパがノズル内で回転する。このように構成することで、水分がノズル出口に付着し、散布口77より排出される薬剤がこの水分によって散布口77周辺に固まることを防止することができる。
【0024】
次に、このように構成された田植機で苗に薬剤を散布する動作を説明する。苗載台31に載置された苗Sは、搬送ベルトBによって下方に搬送され、分草板60に当接すると上部が搬送方向後方へ撓んで根元部分に空間が形成される。この空間を介してホッパーユニット73より薬剤Pが苗Sの根元へと供給される。そして、撓んだ苗Sは、その先端部分が分草板60の下端から離れると元の起立した状態に戻る。このようにして、苗載台31上の苗Sが次々に下方に搬送され、分草板60に当接したものから順次撓んで、その根元に空間を形成していく。そして、薬剤Pがその根元に供給される。
【0025】
図5(a),(b)には、この発明の別の例を示す。この例では、前述の例のような一枚の分草板に代えて、2本の分草棒80A,80Bを一定の間隔Lをもって平行に備えるものである(分草棒は2本に限定されるものではなく、3本以上であってもよい)。なお、2本の分草棒80A,80Bの間隔Lは、L=50mm程度とする。分草板60を分草棒80A,80Bに代えることで、同様の効果で軽量化された植付部を提供することができる。
【0026】
この例では、苗載台31の外縁部31Eに固設されたブラケット81に分草棒80A,80Bの両端を溶接などにより固設する。なお、苗Sに薬剤Pを散布する動作については、前述の例と同様であるので説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明の苗用物質供給機構は、稲の苗を植えつけるための田植機の後面に取り付けられる薬剤散布機に限定されるものではない。たとえば、建物内に水平に設置されたコンベアを有する苗搬送台に適用してもよい。詳しくは、苗搬送台上に植物の苗を載置し、その苗を搬送移動させながら、薬剤をその苗の根元に供給する場合にも適用しうる。また、苗の根元に供給する物質は薬剤に限定されるものではなく、肥料や殺虫剤などであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
31 苗載台
31E 外縁部
32 植付爪
33 トップリンク
34 ロワーリンク
35 下部ガイドレール
36 上部ガイドレール
37 植付伝動ケース
38,39 フロート
60 分草板
61 ブラケット
62 ピン
70 薬剤供給装置(物質供給装置)
71 ブラケット
72 受台
73 ホッパーユニット
74 ホッパータンク
75 薬剤繰出ローラ部
76 導出パイプ
77 散布口
80A,80B 分草棒
81 ブラケット
B 搬送ベルト
P 薬剤(物質)
S 苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置された苗を下方に移動させる苗載台と、前記移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、
前記物質を供給するときに、前記移動する苗の上部に当てて該苗を撓ませ、該苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構において、
前記分草部が平板で構成されることを特徴とする、苗用物質供給機構。
【請求項2】
前記分草部が、前記苗の移動方向と反対側に向けて傾いて設けられることを特徴とする、請求項1に記載の苗用物質供給機構。
【請求項3】
載置された苗を下方に移動させる苗載台と、前記移動する苗の根元に必要な物質を順次供給する物質供給装置とを備える苗用物質供給機構であって、
前記物質を供給するときに、前記移動する苗の上部に当てて該苗を撓ませ、該苗の根元付近を開放するための分草部を備える苗用物質供給機構において、
前記分草部が2つ以上の棒状部材で構成されることを特徴とする、苗用物質供給機構。
【請求項4】
前記分草部が、前記苗の移動方向と反対側に向けて傾いて設けられることを特徴とする、請求項3に記載の苗用物質供給機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115085(P2011−115085A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274378(P2009−274378)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(391025914)八鹿鉄工株式会社 (131)
【Fターム(参考)】