説明

苗移植機

【課題】整地ロータを備える苗移植機において、圃場端における機体旋回に伴う圃場面の荒れを効果的に整地することにより、圃場端植付けを含む苗植付作業の能率を確保することができる苗移植機を提供する。
【解決手段】苗移植機は、伝動部(18)を介して走行動力を受ける圃場走行用の走行部(11)を備える支持機体(2)と、その後部に昇降可能に設けられて苗株の植付けを行う苗植付部(4)と、この苗植付部(4)の直前位置で植付け全幅について回転動作によって圃場面を整地する整地ロータ(27a,27b)とを備えて構成され、上記整地ロータ(27a,27b)は、前側に位置する支持機体(2)側に支持可能に伝動部(18)から変速動力を伝達する伝動支持部(72)を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機体の後部に設ける苗植付部の前側位置の圃場面の凹凸を整地ロータで均しながら、苗植付部で苗の植付作業を行う苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引用文献1及び2に示す苗移植機は、圃場走行可能な作業機体、整地ロータ、苗植付部をこの順に配置し、整地ロータと苗植付部を一体的に昇降支持することにより、苗株植付け時は、植付け圃場面位置まで両者を共に下降させて両者を稼動させ、前側の整地ロータが整地動作によって圃場面の凹凸を均しつつ苗植付部が苗株の植付けを行い、非植付け時は、例えば、圃場端における方向転換走行時は、両者の動作を停止して非作業位置まで一体上昇させることで、圃場区画における往復植付け作業を効率よく進め、次工程である圃場縁に沿う周回植付け作業を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−118778号公報
【特許文献2】特開2005−124442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圃場端には機体旋回時にタイヤの旋回痕が残り、この圃場端で周回植付け走行を行なう際に、整地ロータではこのタイヤの旋回痕を均しきれず圃場面に凹凸が残ることがあり、タイヤの旋回痕の凹部では苗の植え付けが浅くなり、苗が水流で流され易くなると共に、凸部では苗の植え付けが深くなり、茎部まで土中に入り込んで生育しにくくなり、圃場端での苗植付作業の能率低下を招くという問題があった。
また、整地ロータは、全体が一体的に回転し、全走行幅に及んで一様の整地動作をするので、圃場条件や作業条件による部分的な対応ができないことから、部分的に苗の植付け損ないによる欠株が生じたり、植え付けた苗が流されるという問題があった。
【0005】
解決しようとする問題点は、圃場走行可能な支持機体に後部昇降式の苗植付部を備えるとともに、苗植付部の直前位置に整地ロータを備える苗移植機において、圃場端における機体旋回に伴う圃場面の荒れを効果的に整地することにより、圃場端植付けを含む苗植付作業の能率を確保することができ、さらに、圃場の部分的な荒れについてもきめ細かく対応することができる苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、作業機体(2)に左右の伝動ケース(18,18)から駆動力を受けて駆動回転する左右の走行輪(11,11)を設け、該作業機体(2)の後部に苗株の植付けを行う苗植付部(4)を昇降可能に設け、該苗植付部(4)の前側位置の圃場面を整地する左右一対の整地回転体(27a,27a)を設けた苗移植機において、前記左右の伝動ケース(18,18)に左右の整地回転体(27a,27a)に個別に駆動力を伝動すると共に左右の整地回転体(27a,27a)を支持する左右の伝動支持部材(72,72)を設けたことを特徴とする苗移植機とした。
【0007】
上記苗移植機は、伝動支持部材(72,72)を介して苗植付部(4)の前側位置で整地回転体(27a,27a)を支持するとともに、伝動支持部材(72,72)から左右の整地回転体(27a,27a)に駆動力を供給することにより、苗植付部の上下動にかかわらず左右の整地回転体(27a,27a)を随時接地させることができる。
【0008】
請求項2の発明は、前記左右の整地回転体(27a,27a)にそれぞれ整地伝動ケース(73,73)の基部側を設け、前記左右の整地回転体(27a,27a)の左右間で且つ該整地伝動ケース(73,73)の端部側に中央の整地回転体(27b,27b)をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
上記苗移植機は、左右の整地回転体(27a,27a)から駆動力を伝動する整地伝動ケース(73,73)を介して中央の整地回転体(27b,27b)を設けたことにより、左右の整地回転体(27a,27a)及び中央の整地回転体(27b,27b)のうち左右どちらか一方側だけを停止させることや左右の回転速度に差をつけて整地動作を行なうことができる。
【0009】
請求項3の発明は、前記左右の伝動ケース(18,18)の機体後側に左右の整地回転体(27a,27a)に駆動力を供給する左右の伝動支持部材(72,72)を設け、左右の伝動ケース(18,18)の機体左右側に前記左右の走行輪(11,11)を軸着する駆動軸(11a)を夫々設けたことを特徴とする請求項2記載の苗移植機とした。
上記苗移植機は、左右の伝動ケース(18,18)から左右の整地回転体(27a,27a)と左右の走行輪(11,11)に駆動力を供給することができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、左右の伝動ケース(18,18)から駆動力を左右の整地回転体(27a,27a)に伝動する伝動支持部材(72,72)で左右の整地回転体(27a,27a)を支持し、この左右の整地回転体(27a,27a)を苗植付部(4)の前側位置に配置したことにより、苗植付部(4)の上下動にかかわらず左右の整地回転体(27a,27a)を随時接地させることができ、圃場の土質や深浅等の圃場条件にかかわらず圃場面が平らに均されるので、苗が確実に圃場に植え付けられ、植え付けた苗が水流で流されて別の場所で生育することや欠株が生じることが防止され、後工程の除草作業や農薬等の薬剤散布作業、収穫物の収穫作業等が効率よく行なわれる。
また、圃場端での旋回時に苗植付部(4)を上昇させても、左右の整地回転体(27a,27a)は圃場面に接触したまま整地動作を継続するため、左右の整地回転体(27a,27a)で機体旋回時に生じた圃場端のタイヤの旋回痕を均して圃場面の凹凸を均すことができるので、圃場端での苗の植付作業が能率よく行われると共に、タイヤの旋回痕の凹部に植え付けられた苗が浮き上がり、苗が水流で流されて別の場所で生育することや欠株が生じることが防止されるので、後工程の除草作業や農薬等の薬剤散布作業、収穫物の収穫作業等が効率よく行なわれる。
さらに、タイヤの旋回痕の凸部に苗が茎部まで植え込まれ、日光が当たりにくく生育不良を起こしてしまうことを防止できるので、収穫物の収量が安定する。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、左右の整地回転体(27a,27a)から駆動力を伝動する整地伝動ケース(73,73)を介して中央の整地回転体(27b,27b)を設けたことにより、左右どちらか一方側だけを停止させることや左右の回転速度に差をつけて整地動作を行なうことができるので、植付作業中の圃場面の状態や作業速度、苗の植付本数等の作業条件に合わせて適切な圃場の慣らし作業を選択することができ、作業能率が向上する。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加え、左右の伝動ケース(18,18)から左右の整地回転体(27a,27a)と左右の走行輪(11,11)に駆動力を供給することにより、伝動系を簡潔に構成することができるので、構成部品の数が削減されると共にメンテナンス性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明適用例の苗移植機の側面図
【図2】図1の苗移植機の平面図
【図3】苗植付部の拡大側面図
【図4】苗植付部の下部構成の平面図
【図5】整地ロータの伝動系の構成展開図
【図6】整地ロータの拡大縦断面図(a)および側面図(b)
【図7】防波板取付部の平面図
【図8】走行系の油圧回路図
【図9】整地ロータの要部平面図
【図10】ロータ制御のフローチャート
【図11】ロータ制御のブロック図
【図12】後輪清掃部の側面図(a)、要部平面図(b)および(c)要部背面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
本発明の整地ロータを適用した苗移植機は、その側面図および平面図を図1、図2にそれぞれ示すように、左右の前輪10,10と左右の後輪11,11とによる走行部および、エンジン20と一体に変速動力を伝動するミッションケース12、左右の前輪10,10を伝動支持する左右の前輪ファイナルケース13,13、左右の後輪11,11を伝動支持する左右の後輪ギアケース18,18等の伝動部を備えて圃場走行可能に支持機体2を構成し、この支持機体2の後部に昇降リンク3によって昇降動作可能に設けられて苗株の植付けを行う苗植付部4と、この苗植付部4の直前位置に回転動作によって圃場面を整地する左右のサイドロータ27a,27aと、該左右のサイドロータ27a,27aの左右間に左右一対の中央のセンタロータ27b,27bとを備えて構成される。
【0015】
左右の前輪ファイナルケース13,13は、ミッションケース12の側方で左右の前輪10,10を伝動支持し、左右の後輪ギアケース18,18は、機体左右側に左右の後輪11,11を軸着する車軸(11a,11a)を機体左右側に突出させて設け、該ミッションケース12から左右それぞれの変速動力を受ける。また、前記苗植付部4は、機体後部の植付伝動軸26から動力を受ける伝動ケース50を備え、苗載台51に作業者が苗を供給するとともに、植付条別に並列配置した苗植付装置52で載置された苗株の圃場への植付けを行う。
【0016】
整地ロータ27a,27bは、苗植付部4の拡大側面図と同苗植付部の下部構成の平面図を図3、図4にそれぞれ示すように、ロータ軸70a,70aに複数の整地体を設けて構成した左右のサイドロータ27a,27aと、該左右のサイドロータ27a,27aの左右間で且つ機体前側中央部に左右並設した軸受70c,70cに左右個別に支軸70b,70bを軸支した左右一対のセンタロータ27b,27bと、前記左右のサイドロータ27a,27aと左右一対のセンタロータ27b,27bを連結支持する左右の整地チェーンケース73,73とから構成する。該整地チェーンケース73,73は、左右のサイドロータ27a,27aから駆動力を受けてセンタロータ27b,27bに駆動力を供給する構成部材であり、図示は省略するが駆動スプロケット、従動スプロケット、テンションスプロケット及び伝動チェーンを内装したものである。
なお、上記に加えて、整地チェーンケース73,73にクラッチ機構を内装し、センタロータ27b,27bへの伝動を切り替え可能に構成してもよい。
【0017】
前記左右のサイドロータ27a,27a及びセンタロータ27b,27bの伝動系は、その構成展開図を図5、平面図を図9に示すように、前記ミッションケース12に機体後方に向かって延びる左右のドライブシャフト18a,18aの基部を取り付け、該左右のドライブシャフト18a,18aの端部を前記左右の後輪ギアケース18,18の機体前側に取り付ける。そして、該左右の後輪ギアケース18,18の機体後側に前記左右のサイドロータ27a,27aに駆動力を伝動する左右の整地ドライブシャフト72,72の基部を設け、該左右の整地ドライブシャフト72,72の端部に第1ベベルギア72v,72vをそれぞれ軸着し、該第1ベベルギア72v,72vを左右のサイドロータ27a,27aのロータ軸70a,70aに軸着した第2ベベルギア70v,70vと噛み合わせる。
【0018】
さらに、前記左右のロータ軸70a,70aの機体内側端部に整地チェーンケース73,73の機体後側を取り付けると共に、該整地チェーンケース73,73の機体前側に左右の支軸70c,70cの機体外側端部を取り付けることにより、前記左右の後輪ギアケース18,18で後輪11,11と左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bに駆動力を供給可能な構成となる。
【0019】
上記の左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bを備えた苗移植機は、整地ドライブシャフト72,72で苗植付部4の苗を植え付ける直前位置で左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bを支持することにより、圃場端での旋回時等に苗植付部4を上昇させても左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bを圃場面に接触したままにすることができるので、湿田(土中に水気が多い田)や深田(水を張ると水面から底までが比較的深い田)等の圃場条件にかかわらず確実に圃場面を平らに均すことができ、苗が確実に圃場に植え付けられ、植え付けた苗が水流で流されて別の場所で生育することや欠株が生じることが防止され、後工程の除草作業や農薬等の薬剤散布作業、収穫物の収穫作業等が効率よく行なわれる。
【0020】
また、圃場端での旋回時にも前記左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bで整地動作を継続することができるので、機体旋回によって生じる圃場端のタイヤの旋回痕を平らに均すことにより、圃場端での苗の植付作業が能率よく行われると共に、タイヤの旋回痕の凹部に植え付けられた苗が浮き上がり、苗が水流で流されて別の場所で生育することや欠株が生じることが防止されるので、後工程の除草作業や農薬等の薬剤散布作業、収穫物の収穫作業等が効率よく行なわれる。
また、タイヤの旋回痕の凸部に苗が茎部まで植え込まれ、日光が当たりにくく生育不良を起こしてしまうことを防止できるので、収穫物の収量が安定する。
【0021】
さらに、前記苗植付部4に整地ロータを支持するフレームを設け、このフレームで左右及び中央の整地ロータを支持する従来の構成と比べて、左右のサイドロータ27a,27a及びセンタロータ27b,27b、整地ドライブシャフト72,72、左右の整地チェーンケース73,73、等の重量が苗植付部4にかからないので、機体の前後バランスが改善されるため、苗植付部4が重い場合に機体前部が浮き上がる事態を回避するとともに、後輪11,11の支持荷重の低減によって圃場に残されるタイヤの旋回痕が深くなることを抑えることができ、苗の植付が正常に行なわれず苗が浮き上がることや生育不良となることが防止される。
【0022】
また、前記左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bは、機体左右方向中央部で左右に分割される構造であるため、土質や深浅等の圃場条件や、作業速度や植付間隔等の作業条件に合わせることができるので、左右どちらか一側の整地ドライブシャフト72,72への伝動を切って左右一方のサイドロータ27aとセンタロータ27bを停止させることや、左右の整地ドライブシャフト72,72の回転数を左右で異ならせて機体左右一側のサイドロータ27aとセンタロータ27bと機体左右他側のサイドロータ27aとセンタロータ27bの回転速度に差をつけることができるので、圃場条件や作業条件の変化に柔軟に対応することができ、作業能率が向上する。
【0023】
また、前記左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27に駆動力を伝動する左右の整地ドライブシャフト72,72の駆動力の供給源を左右の走行輪11,11の駆動力の供給源である左右の後輪ギアケース18,18としたことにより、伝動系の複雑化を回避することができるので、構成部品の数が削減されると共にメンテナンス性が向上する。
【0024】
上記構成の左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bの回転数の増減について説明する。
苗移植機が圃場を直進しながら圃場に苗を植え付ける際には、左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bで苗の植付位置の圃場面を平らに均し、圃場端で旋回する際に苗植付部4の苗の植付動作を停止させると共に上昇させる際には、左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bで苗移植機の旋回時に圃場に生じるタイヤの旋回痕を平らに均すことにより、苗の植付部が略均等な高さとなるので、苗の植付深さが略一定に定まり、苗が浮かび上がって流されることや、深く植え付けられることにより生育不良を起こすことが防止される。
【0025】
また、圃場端での旋回時でも左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bが駆動回転しながら圃場面に接触するので、機体旋回に伴う大きなタイヤの旋回痕を消しながら旋回することができ、苗が浮かび上がって流されることや、深く植え付けられることにより生育不良を起こすことが防止される。
【0026】
通常、苗移植機による苗の植え付け作業は、機体の旋回スペースを確保する必要があるため、圃場端を最後に植え付ける。その際、本件のように6条の苗移植機であれば、左右及び中央の苗植付装置52,52,52のうち圃場内側の苗植付装置52を部分クラッチ(図示省略)を切って停止させ、中央及び機体外側の苗植付装置52,52で植え付ける。
圃場の端部は耕運機で掘り起こす際、あるいは代掻きの際に作業機または作業道具が届きにくい場所であり、他の場所よりも土質が硬くなる傾向がある。このような圃場端に植え付け作業を行う際には、苗移植機の旋回時に生じたタイヤの旋回痕を整地ロータ27a,27bで鎮圧しながら作業をする必要がある。
【0027】
しかしながら、タイヤの旋回痕の凸部は硬く、通常の整地ロータ27a,27bの回転数では鎮圧して凹部に土を移動させきれず、そのまま凹部に苗が植え付けられ、植付深さが浅く水流や風に苗が流されてしまうことや、凸部に苗が茎葉部まで植え付けられ、日照不足による生育不良を起こすことがあった。
【0028】
この問題を解決すべく、図10のフローチャートと図11のブロック図に示すように、部分クラッチ(図示省略)に各々の入切を検出する入切センサ201L,201C,201Rを設け、該入切センサ201L,201C,201Rの信号を受ける制御装置200を設ける。そして、前記入切センサ201L,201C,201Rのうちいずれか一つの信号が途絶すると制御装置200が左右の伝動ケース18,18の左右のサイドロータ27a,27aへの出力を増大させる信号を発し、該左右のサイドロータ27a,27aを高速回転させる。
また、部分クラッチを全て「入」にし、入切センサ201L,201C,201Rの全ての信号を受けると、制御装置200は左右の伝動ケース18,18のサイドロータ27a,27aへの出力を低減させる信号を発し、該左右のサイドロータ27a,27aを通常回転数に戻す構成とする。
このとき、左右のサイドロータ27a,27aから左右の整地チェーンケース73,73を介して回転するセンタロータ27b,27bの回転は、左右のサイドロータ27a,27aに連動して増減する。
【0029】
上記構成により、圃場端のように土質が硬い場所であっても、高速回転させた左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bを接触させることにより、凸部を高速で凹部に押し出して均すことができるので、圃場の凹凸をより確実に均すことができ、植付深さが浅い苗が水流や風に流されることが防止されると共に、苗の植付深さが深くなりすぎることが防止される。
【0030】
逆に、圃場端以外の土質が柔らかい場所では、左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bを高速回転させると泥が舞い上げられて圃場面の視認性を妨げてしまうと共に、機体後方から左右に広がる泥水が苗を押し流してしまうことがあるので、左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bの回転数を減少させることにより、左右のサイドロータ27a,27aとセンタロータ27b,27bが泥を巻き上げることが防止され、圃場面の視認性が悪化しにくく、作業者は苗の植付状態を目視確認を行なえ、問題のある箇所を把握できると共に、泥水による苗の押し流しを防止できる。
【0031】
(ロータ構成)
整地ロータ27a,27bの詳細構成については、その縦断面図(a)と側面図(b)を図6に示すように、円板101の両面の周縁寄りに複数の分周板102…を等角度間隔で周回配置した分周ホイール103を構成し、この分周ホイール103を水抜きに必要な距離をとって互いに隣接して複数個を並列し、ロータ軸を中心に貫通して一体に構成する。
【0032】
このように構成した整地ロータ27a,27bは、従来の構成である分周板102のみの分周ホイールの間に円板101を配置したものと比較して、分周板102の内方に形成される懐部の軸線方向長さを大きく確保することができるので、夾雑物のすき込み性を確保しつつ、泥水の抜けを改善することができる。
【0033】
(防波部)
図7に示すように、苗植付部4の下部で且つ左右両側部に七ロータ27a,27bの回転によって生じた波が隣接条に向かうことを防止する左右の防波板111,111を設け、該防波板111,111に向けて機体左右両外側の苗植付装置52,52の植付駆動軸52a,52aを延設し、該植付駆動軸52a,52aの外側端部に泥の後方への流れを促す水車112を軸着した水車回転軸113をそれぞれ軸着すると共に、該水車112を防波板111,111の中間位置の内側部に近接させて設けて構成する。
【0034】
この構成により、水車112が植付駆動軸52a,52aから駆動力を受けて回転すると、泥を機体後方に流す水流が発生するため、防波板111,111に押す上げられる圃場の泥を水流で機体後方に送ることができるので、持ち上げられた泥が機体の抵抗となって余分な負荷を掛けることが防止され、効率の良い作業走行ができ、作業時間の短縮と燃料の節減が図られる。
また、持ち上げた泥が植え付けられた苗にかかることを防止できるので、苗が泥に埋められて枯れてしまうことが防止され、収穫物の収量が安定する。
さらに、左右の防波板111,111を設けたことにより、この泥水が既に苗の植え付けを完了した側の条に流れることを防止できるので、苗が泥水の水流で流されることが防止され、収穫量が安定する。
【0035】
なお、図7で示すように、苗植付装置52同士を連結軸114で連結し、該連結軸114に水車112を軸着する構成としてもよい。
本願は左と中央の苗植付装置52,52、及び中央と右の苗植付装置52,52をそれぞれ連結軸114で連結し、左右の連結軸114,114に水車112をそれぞれ軸着する構成であり、左右の水車回転軸113,113と植付駆動軸52aと左右の連結軸114,114とが平面視で一直線に左右の防波板111,111の左右間に設けられる構成としている。
上記構成により、左右の防波板111,111に押し上げられる泥だけでなく、苗植付装置52,52,52の植付動作により持ち上げられる泥を機体後方に流すことができるので、持ち上げた泥が植え付けられた苗を埋めて枯らしてしまうことが防止され、収穫物の収量が安定する。
【0036】
(後輪清掃部)
図12(a)(b)(c)で示すように、左右の後輪11,11には、等分周配置のラグ11b…の間に付着した泥を削ぎ落とすために、前記左右の伝動ケース18,18の後部に泥落しフレーム190,190を機体後側に向けて取り付け、該左右の泥落しフレーム190,190の内側に左右の伝動ケース18,18から駆動力を受けて回転する左右の伝動シャフト191,191を配置する。そして、該左右の伝動シャフト191,191の後端部にそれぞれ第1泥落しベベルギア191v,191vを軸着し、前記左右の泥落しフレーム190,190の後部側を貫通させて下方に延出させると共に回転自在に設けた左右の受動シャフト192,192の上端部にそれぞれ第2泥落しベベルギア192v,192vを軸着し、前記第1泥落しベベルギア191v,191vと噛みあわせる。
【0037】
さらに、該左右の受動シャフト192,192の下端部に後輪11のラグ11b…に付着した泥を左右後側から掻き取る泥落しディスク193,193をそれぞれ軸着することにより、左右の泥落し装置194,194が構成される。
【0038】
上記構成により、左右の後輪11,11に付着した泥を泥落し装置194,194で落としながら走行することができるので、圃場から路上に出た際に、走行に伴い落下する泥の量を減少させることができ、落ちた泥を路上から取り除く作業にかかる時間が軽減され、作業者の労力が軽減される。
【0039】
(油圧回路)
走行回路には、図8に示すように、パイロットリリーフ131を設け、一定圧以上に達した場合に、サージ吸収装置133により一定時間についてタンク132にリークするように構成することにより、HST23のオイル流量が短時間に変化して一定圧に達した時に、リリーフ弁131を開放してオイルタンク132に戻されることから、サージ圧による油圧回路の破損を防止し、圧力の高まり易い発進停止時の高圧化を防止して発進停止の際のショックを緩和することができる。
【0040】
以上の説明に加え、本発明を適用した苗移植機の全体的な細部構成について補足すると以下のとおりである。
この苗移植機1は、前掲の図1および図2に示すように、支持機体である走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0041】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギアケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギアケース18,18から機体左右側方向に突出する後輪車軸11aに後輪11,11が取り付けられている。
【0042】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及びHST23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギアケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。
【0043】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は一部格子状になっており(図2参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台38,38が機体よりも側方に張り出す位置と内側に収納した位置とに回動可能に設けられている。
【0044】
昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、他端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0045】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口51a…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a…に供給すると苗送りベルト51b…により苗を下方に移送する苗載台51、苗取出口51a…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52…、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ(図示せず)等を備えている。苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。該センターフロート55及び左右のサイドフロート56,56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、センターフロート55及び左右のサイドフロート56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に複数の苗植付装置52…により苗が植付けられる。前記センターフロート55及び左右のサイドフロート56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎い角センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0046】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を複数の繰出部61…から一定量づつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62…で前記センターフロート55及び左右のサイドフロート56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず)まで導き、該施肥ガイドの前側に設けた作溝体69…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥構内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62…に吹き込まれ、施肥ホース62…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【符号の説明】
【0047】
1 苗移植機
2 支持機体(走行車体)
3 昇降リンク装置
4 苗植付部
10 前輪(走行部)
11 後輪(走行部)
11a 駆動軸
12 ミッションケース
13 前輪ファイナルケース
18 後輪ギアケース(伝動ケース)
18a ドライブシャフト
20 エンジン
25c ロータ軸
27a サイドロータ(左右の整地ロータ)
27b センタロータ(中央の整地ロータ)
52 苗植付装置
70a ロータ軸
70b ロータ軸
70c 軸受
72 伝動支持部
73 チェーンケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機体(2)に左右の伝動ケース(18,18)から駆動力を受けて駆動回転する左右の走行輪(11,11)を設け、該作業機体(2)の後部に苗株の植付けを行う苗植付部(4)を昇降可能に設け、該苗植付部(4)の前側位置の圃場面を整地する左右一対の整地回転体(27a,27a)を設けた苗移植機において、
前記左右の伝動ケース(18,18)に左右の整地回転体(27a,27a)に個別に駆動力を伝動すると共に左右の整地回転体(27a,27a)を支持する左右の伝動支持部材(72,72)を設けたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記左右の整地回転体(27a,27a)にそれぞれ整地伝動ケース(73,73)の基部側を設け、前記左右の整地回転体(27a,27a)の左右間で且つ該整地伝動ケース(73,73)の端部側に中央の整地回転体(27b,27b)をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記左右の伝動ケース(18,18)の機体後側に左右の整地回転体(27a,27a)に駆動力を供給する左右の伝動支持部材(72,72)を設け、左右の伝動ケース(18,18)の機体左右側に前記左右の走行輪(11,11)を軸着する駆動軸(11a)を夫々設けたことを特徴とする請求項2記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−160692(P2011−160692A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25144(P2010−25144)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】