説明

茶の品質を向上させる方法

【課題】 茶葉の香気を増加させることにより、茶葉の品質を向上することのできる方法並びにその装置を提供することを技術課題とした。
【解決手段】 茶樹から収穫された茶葉に対し、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方を照射することにより、茶葉を萎凋させることなく、直接植物体内の酸化酵素を活性化させることを特徴として成る。この結果、茶葉及び抽出液の香気、抽出液の飲味の向上を図ることができ、茶葉の品質を大幅に向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉の品質を向上させる方法に関し、特に茶葉の香気、味覚を損なうことなく、機能性成分を増大することができ、更に茶葉の表面に生息する細菌を除去することのできる手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
茶は中国にその起源を発し、現在では香りと味を楽しむものとして世界に普及している。茶の種類も多く、代表的なものとして非発酵の緑茶、半発酵のウーロン茶、完全発酵の紅茶などがある。これらの茶は世界で生産されているが、最近は茶の栽培が大規模化し、収量確保のため、薬剤の散布や多肥栽培など、植物体へのストレスを極力少なくして光合成生産物の葉への蓄積を高め、生産性を追求した栽培となっている。
このため、茶の種類を問わず香りが少なくなっていると指摘されている。
【0003】
このような問題を克服しようとして、光照射による香気成分の向上を図る試みがなされた(例えば特許文献1〜3参照)。公開特許文献をからは、収穫された茶葉に紫外線を照射すると、近紫外線(UV−A)及び中紫外線(UV−B)領域での照射効果が見られる一方、殺菌効果の強い遠紫外線(UV−C)領域では、萎凋効果及び香りの向上に関する効果がないことが但し書きにて明確に記載されている。また、蒸工程後の照射では、効果のないことも報告されている(特許文献1参照)。
しかし、紫外線(UV−C)は高エネルギー光線であり、物質を破壊する力も強い。そのため、萎凋を生ずるような時間の照射を行えば、当然茶葉の性質は大きく変化する。しかし、前記特許文献1中には、具体的処理時間は記載されていない。このため、適切な時間を決めて照射した場合の効果も明らかとなっていない。
因みに萎凋工程は、紅茶製造時に行われる紅茶特有のものであり、緑茶やウーロン茶の製造時には行われていない。
【0004】
そもそも光の照射によりなぜ香気成分の増加、または多様化が図られるのかについては明らかでない。
植物は、本来外来の敵、即ち病原菌の攻撃、虫の食害、低温、高温、紫外線または緑色光などのストレスに対して、応答する生体防御の機構がある(例えば非特許文献2、3、4、5参照)。
例えば植物病原体を例に取ると、その攻撃に対しては細胞膜のリセプターを介して、数分でオキシダティブ・バーストと呼ばれる活性酸素の爆発的な生成現象を誘導することが知られている。この現象は、防御物質生産のため2次的なシグナルとなって、連鎖的に酸化酵素の活性化を誘導する。細胞内では、リポキシゲナーゼやパーオキシダーゼなどの酸化酵素が大量にかつ急激に生成され、酸化反応が進む(例えば非特許文献2、3参照)。その結果植物体内では、細胞死や防御物質が生産され、各種のストレスに対する耐性を持つようになる。
このような生体防御反応は、植物に広く見られるものであり、紫外線照射によっても同様な効果がある(例えば非特許文献5参照)。
【0005】
一方、植物由来の「みどりの香り」や「磯の香り」は、ともに酸素の存在下で酸素添加酵素であるリポキシゲナーゼによって、生合成される(例えば非特許文献1参照)。台湾のウーロン茶生産では、昆虫(チャノミドリヒメヨコバイ)の食害を茶葉の香気生成に利用する方法が広く行われている。これは、防御応答を積極的に利用した香気生成法と考えられ、自然のストレスを与えることで、茶葉の香気を向上させる技術である。しかし、タイミングよく昆虫が発生するとは限らず、また、被害が強く出れば効果はなくなるばかりか、香気や品質に悪影響を及ぼす。したがって、簡便で効率的、衛生的に処理できる香気生成促進方法は明らかになっていない。また、光照射による茶葉の表面に生息する微生物に対する除菌効果についても明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−106号
【特許文献2】WO2007/105599
【特許文献3】特開2005−21055
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hatanaka、A .、Kajiwara、T.and Matsui、K. 1995. Z.Naturforshung、50c 、467-472 .
【非特許文献2】N. Doke 、Y. Miura、L.M.Sanchez 、H.J.Park、 T. Noritake、 H. Yoshioka and K. Kawakita(1996). The oxidative burst protects plants against pathogen attack: Mechanism and role as an emergency signal for plant bio-defence. Gene: 179: 45-51
【非特許文献3】吉岡博文(2003)植物免疫としてのオキシダティブバーストを探る.−MAPKカスケードが活性酸素の生成と細胞死を制御する−.化学と生物、41: 639-641.
【非特許文献4】高倍鉄子・三屋史朗・内田明男・高倍知子(2005). 植物の環境ストレス耐性機構とそのシグナル分子過酸化水素水の農業への応用.研究ジャーナル28:3-9.
【非特許文献5】de Capdeville G、 Wilson CL、 Beer SV、 Aist JR (2002). Alternative disease control agents induce resistance to blue mold in harvested 'red delicious' apple fruit. Phytopathology. 92:900-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような背景を考慮して成されたものであり、茶葉の香気を増加させることにより、茶葉の品質を向上することのできる方法並びにその装置を提供することを目的とするものである。
また本発明の他の目的は、茶葉のさわやかな渋みを増加させるカテキン含量を増加させる方法を提供するものである。
更にまた本発明の他の目的は、茶葉の表面に存在する細菌類を除菌する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載の茶の品質を向上させる方法は、茶樹から収穫された茶葉に対し、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方を照射することにより、茶葉を萎凋させることなく、直接植物体内の酸化酵素を活性化させることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載の茶の品質を向上させる方法は、圃場において収穫前の茶葉に対し、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方を照射することを特徴として成るものである。
【0011】
更にまた請求項3記載の茶の品質を向上させる方法は、前記要件に加え、前記UV−C紫外光の照射は、蛍光管が適用された殺菌灯を用いて行うことを特徴として成るものである。
【0012】
更にまた請求項4記載の茶の品質を向上させる方法は、前記請求項2記載の要件に加え、前記殺菌灯にはフッ素樹脂フィルムが適用された飛散防止フィルムを装着することを特徴として成るものである。
【0013】
更にまた請求項5記載の茶の品質を向上させる方法は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記UV−C紫外光の照射は、紫外線ストロボを用いて行うこと特徴として成るものである。
【0014】
更にまた請求項6記載の茶の品質を向上させる方法は、前記請求項2記載の要件に加え、前記緑色光の照射は、自然光を緑色フイルムに透過させて行うことを特徴として成るものである。
【0015】
更にまた請求項7記載の茶の品質を向上させる方法は、前記要件に加え、前記茶葉への光照射量または光照射時間のいずれか一方または双方を、茶葉の性質または状態に応じて加減し、成分の生成または除菌効果を最大化することを特徴として成るものである。
【0016】
更にまた請求項8記載の茶の品質を向上させる方法は、前記請求項1または7記載の要件に加え、前記茶樹から収穫された茶葉に対する、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方の照射は、移送装置において行うことを特徴として成るものである。
【0017】
また請求項9記載の茶の品質を向上させる装置は、製茶工場に設けられる製茶機器及び/または移送装置に対し、UV−C紫外光照射装置または緑色光照射装置のいずれか一方または双方を具えたことを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の要件を手段として、前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0018】
まず請求項1記載の発明によれば、茶の香気成分の生成を促進することができる。また、渋みを増幅させないカテキンの特定成分の生成を促進することができる。更にまた、茶葉の表面に生息する細菌、糸状菌、酵母、酵母様の各微生物を除菌することができる。
この結果、茶葉及び抽出液の香気、抽出液の飲味の向上を図ることができ、茶葉の品質を大幅に向上させることが可能となる。また、最近茶は香りがなくなり茶価の低迷に拍車をかけている状態を克服することができる。なお茶は食品として多様化していく中で、一段と衛生管理が求められている状況の下、除菌効果が加わることから清潔な茶製品を提供することが可能である。
【0019】
また請求項2記載の発明によれば、摘採前の茶葉中の茶の香気成分の生成を促進することができる。また、渋みを増幅させないカテキンの特定成分の生成を促進することができる。更にまた、茶葉の表面に生息する細菌、糸状菌、酵母、酵母様の各微生物を除菌することができる。
この結果、茶葉及び抽出液の香気、抽出液の飲味の向上を図ることができ、茶葉の品質を大幅に向上させることが可能となる。また、最近茶は香りがなくなり茶価の低迷に拍車をかけている状態を克服することができる。なお茶は食品として多様化していく中で、一段と衛生管理が求められている状況の下、除菌効果が加わることから清潔な茶製品を提供することが可能である。
【0020】
更にまた請求項3記載の発明によれば、UV−C紫外光の茶葉への照射を低コストで実施することができる。
【0021】
更にまた請求項4記載の発明によれば、殺菌灯の破損によるガラス片の飛散を防止することができ、更に飛散防止フィルムを、UV−C紫外光に対して十分な耐久性を有しながらも、UV−C紫外光の透過性を十分に有するものとして形成することができる。
【0022】
更にまた請求項5記載の発明によれば、UV−C紫外光を瞬間エネルギーが高いものとして、1秒程度と短い照射時間で、茶の香気成分の生成促進、カテキンの特定成分の生成促進及び茶葉の表面に生息する細菌、糸状菌、酵母、酵母様の各微生物の除菌を実現することができる。
【0023】
更にまた請求項6記載の発明によれば、圃場の茶樹に対する緑色光線の照射を、容易に且つ低コストで行うことができる。
【0024】
更にまた請求項7記載の発明によれば、茶葉を製茶加工して得られる荒茶や製品茶の品質を向上することができる。
【0025】
更にまた請求項8記載の発明によれば、新規または既存の製茶工場において、容易にUV−C紫外光及び緑色光の照射を行うことが可能となる。またUV−C紫外光及び緑色光の照射を均一に行うことができる。
【0026】
更にまた請求項9記載の発明によれば、新規または既存の製茶工場において、容易にUV−C紫外光及び緑色光の照射を行うことが可能となる。また製茶機器及び移送装置を除菌して、蒸し工程後の茶葉の除菌状態を製茶工程全域に亘って維持することができ、茶葉の品質劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】UV−C紫外光照射装置を製茶工場における生葉受入部の移送装置に適用した実施例を示す側面図である。
【図2】UV−C紫外光照射装置及び緑色光照射装置を示す斜視図である。
【図3】UV−C紫外光照射装置及び緑色光照射装置を生葉コンテナに適用した実施例を示す側面図である。
【図4】UV−C紫外光照射装置及び緑色光照射装置を乾燥装置及びその周辺の移送装置に適用した実施例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下本発明を実施するための形態について図示の実施例に基づいて説明する。なお以下に示す実施例に対して、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
なお本発明において、収穫された茶葉とは、適切に管理されている任意の品種の茶樹から収穫された直後の、1番茶、2番茶、3番茶、秋冬番茶等の生葉のことをいう。また、圃場の茶葉とは、管理された茶園に植栽されている任意の品種の茶樹に育成する茶葉のことをいう。
【0029】
また香気成分、カテキン成分または両者の含有量が品質に関係する茶としては、緑茶、紅茶、ウーロン茶、プハール茶等が挙げられ、特に代表的な茶としては、緑茶、紅茶が挙げられる。
【0030】
また本発明に使用するUV−C紫外光とは、一例として波長域が254nm付近をピークとして、313nm、366nmに小さな輝線を持つものである。このようなUV−C紫外光を発する人工光源としては、図2(a)に示すような殺菌灯10(例えばGL20)が挙げられる。またその他の人工光源としては、紫外線LEDがあるが、経済的な観点から、通常は殺菌灯10を採用するのがもっとも好ましい。
なお前記殺菌灯10には、反射板11を併設することにより、殺菌灯10の後方に照射される光を前方に照射させることができる。そしてこれら殺菌灯10と反射板11とを具えてUV−C紫外光照射装置1が構成される。
また前記殺菌灯10には飛散防止フィルム12を装着することが好ましく、この飛散防止フィルム12としては、UV−C紫外光に対して十分な耐久性を有しながらも、UV−C紫外光の透過性を十分に有するものが適用される。具体的には、ポリ塩化3フロロエチレン(PCTFE)やテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を素材として成るフィルムは、254nm付近の透過率が80%以上と高いため、飛散防止フィルム12として採用される。なおこのような飛散防止フィルム12の厚さは、27μm〜100μmとすることが、UV−C紫外光に対する耐久性、UV−C紫外光の透過性、更には飛散防止効果を維持する上で好ましい。
因みに一般的に蛍光灯に用いられる被覆フィルムについては、UV−C紫外光の透過性、UV−C紫外光に対する耐久性が低いため、飛散防止フィルム12としては不適合である。
【0031】
また前記UV−C紫外光照射装置1としては、図2(c)に示すような紫外線ストロボ15を適用した装置(例えばウシオ電機社製、KSF−3000UT)を採用することもできる。この装置は、200nm〜800nmの強い紫外線を含む広範囲の波長域の光線を照射することのできるクセノンフラッシュランプを紫外線ストロボ15として適用して成るものであり、この紫外線ストロボ15を収容するためのハウジング16と、紫外線ストロボ15に電力を供給するための電源ユニット17とを具えて構成されるものである。なお前記ハウジング16内には反射板が具えられ、ハウジング16の底面に設けられる、ガラス板等によって構成された照射面からのUV−C紫外光の照射が、効率的に行われるように構成されている。
【0032】
また本発明に使用する緑色光とは、一例として535nmを中心波長として半値幅20から30nmのものである。このような緑色光を発する人工光源としては、照射強度が10μM/m2 のLED光源が好適に利用できるものであり、図2(a)に示すように例えばレボックス社製の砲弾型のLED20(型番:99523)を基板21上に配置するスペクトロライト(型番:SPL−100)が利用できる。そしてこれらLED20と基板21とを具えて緑色光照射装置2が構成される。
また経済的な観点からは、520〜540nmに主波長を有する緑色蛍光灯も利用可能である。好ましい例として蛍光ランプ(型番:FL20S・G)または、550nmを主波長とするHEFL(ハイブリッド電極蛍光管)を挙げることができる。
【0033】
また本発明に使用する緑色フイルムは、緑色光を選択的に透過させるフィルターとしての機能を有するものである。このような緑色フイルムは、好ましくは530nmを中心として50nmの半値幅の光を透過する機能を有し、前後の波長域の光を吸収するフイルムである。従って、本発明に使用する緑色フイルムを透過した光とは、自然光における300〜800nmの透過スペクトルの全面積に対する透過率の比率が10%以上あればよい。
【0034】
なお前記緑色フイルムの素材は透明なものであれば特に限定されない。例えば、通常農業用に使用されているポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などが挙げられる。厚みは通常20〜200μm、好ましくは30〜100μmが適当である。
【0035】
そして収穫された茶葉あるいは圃場における茶葉に、UV−C紫外光照射装置1を用いてUV−C紫外光を照射することにより、茶の香気成分または良質なカテキンの生成を促進することができる。
また収穫された茶葉あるいは圃場における茶葉に、UV−C紫外光を照射することにより、製茶直後の茶葉の残存細菌数または製造後一定の期間を経て増殖する細菌数を大幅に低減することができる。
また収穫された茶葉あるいは圃場における茶葉に、緑色光照射装置2を用いて緑色光を照射することにより、茶の香気成分の生成を促進することができる。なお圃場の茶葉に緑色光を照射する場合には、緑色フイルムを透過した自然光を照射することにより、同様に茶の香気成分の生成を促進することができる。
【0036】
そしてUV−C紫外光の照射による茶の香気成分の生成促進、または、さわやかな渋みを増加させるカテキンの生成促進効果は、照射時間に依存するため、過不足なく行うことが必要である。特に収穫される茶葉の時期により最適な照射量は異なるので、調整が必要となる。例えばUV−C紫外光照射装置1として殺菌灯10を用いる場合、2番茶期の茶葉では、20Wの殺菌灯10を12cm離して10個連結(傘有り)して構成されたUV−C紫外光照射装置1を用い、茶葉の30cm上方から1〜2分照射するのが好ましい。
【0037】
また緑色光の照射の場合は、例えば535nmの砲弾型のLED20を基板21上に配置して緑色光照射装置2を構成し、その10cm下で、10μM/m2 となるように調整し、この位置に茶葉を置き、30分以上照射することが好ましい。
【0038】
ここで前記UV−C紫外光照射装置1及び緑色光照射装置2の設置態様を例示する。
まずUV−C紫外光及び緑色光を、茶葉を萎凋させることなく、直接植物体内の酸化酵素を活性化させるために照射する場合には、UV−C紫外光照射装置1、緑色光照射装置2は、生茶葉L1に含まれる酵素が不活化される蒸し工程の前段部分に設置される。
図1に示した形態は、UV−C紫外光照射装置1及び緑色光照射装置2を、製茶工場における生葉受入部に設けられた移送装置3におけるコンベヤ30に臨ませて具えたものである。なおUV−C紫外光照射装置1及び緑色光照射装置2を交互に配置するようにしてもよい。
また図1に示した形態では、緑色光照射装置2を、生葉管理装置6に対して生茶葉L1を分配する分配コンベヤ60にも具えるようにした。もちろんUV−C紫外光照射装置1を分配コンベヤ60に具えるようにしてもよい。
因みに茶樹から摘採された生茶葉Lが製茶工場に搬入されてラインに投入されるまでに空き時間が生じてしまうような場合には、図3に示したような生葉コンテナ5に対してUV−C紫外光照射装置1、緑色光照射装置2を設け、ラインに投入される前の段階UV−C紫外光、緑色光の照射を行うようにしてもよい。
【0039】
次にUV−C紫外光及び緑色光を、蒸し工程後の茶葉の除菌状態を維持するために照射する場合には、UV−C紫外光照射装置1、緑色光照射装置2は、生茶葉L1に蒸煮処理が施される蒸し工程の後段部分に設置される。
一例として図4に示した形態は、殺菌灯10が適用されたUV−C紫外光照射装置1を、乾燥装置7におけるスラットコンベヤ70に臨ませて具えたものである。なお図示は省略するが、紫外線ストロボ15が適用されたUV−C紫外光照射装置1を、乾燥装置7におけるスラットコンベヤ70に臨ませて具えるようにしてもよい。因みにスラットコンベヤ70は、その搬送端付近で無端軌道を構成するスラット71が下方に落ち込むように構成されており、無端軌道上の茶葉L1を下方の無端軌道に送り込むように構成されたものである。
なお乾燥装置7に加工茶葉L1を供給するための移送装置3やコンベヤ31に対してUV−C紫外光照射装置1、緑色光照射装置2を具えるようにしてもよい。
【0040】
以下実施例を示して本発明による効果を具体的に説明する。
【実施例1】
【0041】
この実施例では、2番茶期の茶葉を摘採後、図3(a)に示すように直ちに1m×1mのコンテナ5に60kgの生茶葉Lを収容し、20Wの殺菌灯10の間隔を12cm離して10個連結(傘有り)したUV−C紫外光照射装置1を用いて、30cm上方から生茶葉Lを撹拌しながら2分照射した。
その後、生茶葉Lを通常の緑茶製茶方法にしたがって蒸し工程、葉打ち工程、粗揉工程、揉捻工程、中揉工程、精揉工程における処理を行い、機械製茶した。
製茶後の荒茶L2は冷蔵庫に保管し、1ヶ月後に官能評価及びガスクロマトグラフィー(GC/MS)による分析を下記の方法で行った。
また緑色のLED20(535nm、半値幅30nm、光量10μM/m2 )を具えた緑色光照射装置2を用いて、図3(b)に示すように秋芽20gに30分照射した後、簡易製茶し官能評価した。
【0042】
〔官能評価〕
官能評価は一般的に実施されている方法に従った。即ち、茶葉を3g取り、これに90℃の湯を注ぎ、3分後に抽出液の香り、味を比較評価した。評価員としては、多くの茶葉について日常的に評価をしている、パネラー8名に依頼した。
結果は表1に示したように、8名のパネラーのうち6名は、UV−C紫外線処理区はさわやかな香りと、新茶の香りが強く、コク(旨み)も増していると判断し、明確な処理効果が認められた。
【0043】
【表1】

【0044】
また表2に示したように、8名のパネラーの全てが、緑色光線処理区はさわやかな香りと、新茶の香りが強く、コク(旨み)も増していると判断し、明確な処理効果が認められた。
【0045】
【表2】

【実施例2】
【0046】
〔ガスクロマトグラフィー(GC/MS)による香気成分の分析〕
次にこの実施例では実施例1で用いた荒茶L2を用い、香気成分の分析を熱抽出法により行った。具体的には、澤井祐典(2006)「茶に含まれる香気成分の抽出法と分析法」によった。
数値は、処理区と無処理区の相対値で表3に示した。
熱抽出法を用いた分析によると、新茶の成分であるヘキサノール及びヘキサノール・ヘキサネートが増加し、特にヘキサノールは40%以上増加した。また、花の香りであるリナロール、ゲラニオールが増加し、特にリナロールは、無処理に比し2倍となった。更に、コクのある味を醸し出すオクタノールも50%増加した。
このように、UV−C紫外線を照射することで、2番茶であっても香りの高いお茶を効率よく生産できることが明らかとなった。
【0047】
【表3】

【実施例3】
【0048】
〔カテキンの分析〕
次にこの実施例では、80℃に加熱した蒸留水50mlに、乳鉢により粉末にした茶葉(実施例1で用いた荒茶L2)0.5gを投下後、3分間撹拌して抽出して得た抽出液を用いてカテキンの分析を行った。そして1分間放置後、抽出液の上層部をとり、0.54μmフィルターにより濾過したものを、HPLCにより分析した。
結果は表4に示すように、主要なカテキンであるエピガロカテキン、エピカテキンガレートは増加したが、強い渋みを示すエピガロカテキンガレートは、ほとんど増加せず、官能検査でも渋みや苦みの増加は感じられなかった。このことから、UV−C紫外線の照射は、コクと旨みのある茶の製造に有効と考えられる。
【0049】
【表4】

【実施例4】
【0050】
〔UV−C紫外線の除菌効果〕
次に実施例1で用いた荒茶L2にUV−C紫外線を照射し、UV−C紫外線処理区と無処理区において、細菌数の比較を行った。2番茶期の葉は高温多湿の条件であることから、製茶後の菌数の増加が一般に見られる。このため、収穫3ヶ月後に、定法により菌数の測定を行った。
その結果、無処理区が4.5×104 cells/gであったのに対し、処理区は1.3×103 cells/gと10分の1に押さえられ、強い抑制効果が認められた。
このことからUV−C紫外線照射による、茶製造後の細菌等微生物の汚染を防ぐ効果は明らかである。
また、茶の製造工程は、蒸し工程、葉打ち工程、粗揉工程、揉捻工程、中揉工程、精揉工程の6段階に分解されるが、これら行程では、装置の表面、または内表面で増殖している菌類に加工中の茶葉が触れるため、蒸し行程で減少した細菌、糸状菌、酵母様微生物が再汚染する懸念が高い。このため、各工程において使用される葉打ち機、粗柔機、柔稔機、中柔機、精柔機等の機器の中にUV−C紫外光照射装置1を設置し、あるいは各機器間の移送装置3にUV−C紫外光照射装置1を設置し、UV−C紫外光を照射し、装置の内表面を殺菌することで、より除菌効果の高まることが期待される。
【符号の説明】
【0051】
1 UV−C紫外光照射装置
10 殺菌灯
11 反射板
12 飛散防止フィルム
15 紫外線ストロボ
16 ハウジング
17 電源ユニット
2 緑色光照射装置
20 LED
21 基板
3 移送装置
30 コンベヤ
31 コンベヤ
5 生葉コンテナ
6 生葉管理装置
60 分配コンベヤ
7 乾燥装置
70 スラットコンベヤ
71 スラット
L 生茶葉
L1 加工茶葉
L2 荒茶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶樹から収穫された茶葉に対し、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方を照射することにより、茶葉を萎凋させることなく、直接植物体内の酸化酵素を活性化させることを特徴とする茶の品質向上を図る方法。
【請求項2】
圃場において収穫前の茶葉に対し、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方を照射することを特徴とする茶の品質向上を図る方法。
【請求項3】
前記UV−C紫外光の照射は、蛍光管が適用された殺菌灯を用いて行うことを特徴とする請求項1または2記載の茶の品質向上を図る方法。
【請求項4】
前記殺菌灯にはフッ素樹脂フィルムが適用された飛散防止フィルムを装着することを特徴とする請求項2記載の茶の品質向上を図る方法。
【請求項5】
前記UV−C紫外光の照射は、紫外線ストロボを用いて行うことを特徴とする請求項1または2記載の茶の品質向上を図る方法。
【請求項6】
前記緑色光の照射は、自然光を緑色フイルムに透過させて行うことを特徴とする請求項2記載の茶の品質向上を図る方法。
【請求項7】
前記茶葉への光照射量または光照射時間のいずれか一方または双方を、茶葉の性質または状態に応じて加減し、成分の生成または除菌効果を最大化することを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の茶の品質向上を図る方法。
【請求項8】
前記茶樹から収穫された茶葉に対する、UV−C紫外光または緑色光のいずれか一方または双方の照射は、移送装置において行うことを特徴とする請求項1または7記載の茶の品質向上を図る方法。
【請求項9】
製茶工場に設けられる製茶機器及び/または移送装置に対し、UV−C紫外光照射装置または緑色光照射装置のいずれか一方または双方を具えたことを特徴とする茶の品質向上を図る装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−206043(P2011−206043A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188152(P2010−188152)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(599130025)豊田肥料株式会社 (3)
【Fターム(参考)】