説明

茶抽出液の製造方法

【課題】カラム式抽出機を用いた茶抽出液の製造方法において、雑味の抽出を抑制しながらタンニンを効率よく抽出し、かつ風味の良好な茶抽出液を製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記の工程;
(S1)カラム式抽出機内に茶葉を仕込む工程と、
(S2)茶葉の全質量に対して0.005質量%以上の細胞壁分解酵素を含む酵素水溶液を当該抽出機に供給する工程と、
(S3)酵素水溶液に茶葉を浸漬して保持する工程と、
(S4)当該抽出機より茶抽出液を排出しながら、抽出水を供給する工程
を含む茶抽出液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶抽出液の製造方法及び当該茶抽出液を用いた容器詰茶飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器詰茶飲料の調製には茶抽出液が用いられている。この茶抽出液は一般にニーダーと呼ばれる開放型の抽出槽内に茶葉及び加熱した抽出水を投入して撹拌した後、茶抽出液を取り出す、いわゆる攪拌抽出により製造される。しかしながら、この方法により得られる茶抽出液は、攪拌により茶葉が細かく破壊されるために雑味が多く、また透明度が低いために外観が劣るという問題があった。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、例えば、コーヒー抽出に用いられるシャワー式のカラム式抽出機を用いて茶抽出液を得る方法が提案されている(特許文献1〜4)。しかしながら、この方法で茶葉の呈味成分の抽出率を高めるべく長時間かけて抽出すると、雑味が抽出されやすくなり、風味が悪化することがあった。
【0004】
一方、茶成分の抽出率を向上させる方法として、細胞壁の構成成分を分解する酵素を用いて攪拌抽出する方法が知られている(特許文献5〜8)。しかしながら、酵素由来のエグ味、酵素反応に要する時間、コスト面において工業的に実施するには不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−50799号公報
【特許文献2】特開平6−178651号公報
【特許文献3】特開平7−23714号公報
【特許文献4】特開2006−197920号公報
【特許文献5】特公昭39−746号公報
【特許文献6】特公昭46−197920号公報
【特許文献7】特開平1−300848号公報
【特許文献8】特開平5−308901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、カラム式抽出機を用いた茶抽出液の製造方法において、雑味の抽出を抑制しながらタンニンを効率よく抽出し、風味の良好な茶抽出液を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、茶葉を仕込んだカラム式抽出機内に、所定濃度の細胞壁分解酵素を含む酵素水溶液を供給し、該酵素水溶液に茶葉を一定時間浸漬させた後、当該抽出機より茶抽出液を排出しながら抽出水を供給することにより、少量の酵素で茶葉の細胞壁を短時間で分解させることが可能になり、その結果雑味の抽出を抑制しながらタンニンの抽出率が高く、かつ風味の良好な茶抽出液が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の工程;
(S1)カラム式抽出機内に茶葉を仕込む工程と、
(S2)茶葉の全質量に対して0.005質量%以上の細胞壁分解酵素を含む酵素水溶液を当該抽出機に供給する工程と、
(S3)酵素水溶液に茶葉を浸漬して保持する工程と、
(S4)当該抽出機より茶抽出液を排出しながら、抽出水を供給する工程
を含む茶抽出液の製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明はまた、上記製造方法により得られた茶抽出液を、そのまま容器に充填するか、又は希釈若しくは濃縮して容器に充填してなる、容器詰茶飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少量の酵素で高濃度のタンニンを含有する風味の良好な茶抽出液を効率よく製造することができる。また、当該茶抽出液を用いることで、苦渋味及びエグ味が抑制され、かつ香味及び甘味が豊富で飲みやすい容器詰茶飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カラム式抽出機内に茶葉を仕込んだ状態を示す図である。
【図2】カラム式抽出機底部より酵素水溶液を供給している状態を示す図である。
【図3】カラム式抽出機底部より茶抽出液を排出しながら、上部より抽出水を供給している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(茶抽出液の製造法)
本発明の茶抽出液の製造方法は、工程S1、S2、S3及びS4を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0013】
[工程S1
工程S1は、カラム式抽出機(以下、「カラム」という)内に茶葉を仕込む工程である。
カラムとしては、内部に茶葉を保持するための茶保持板と、酵素水溶液の供給口と、茶抽出液の排出口とを備えるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、抽出機の上部から抽出水を供給するタイプ、下部から抽出水を供給するタイプ、あるいは双方から抽出水を供給可能なタイプ等が利用できる。
【0014】
具体的には、図1に示す閉鎖型抽出カラムを好適に使用することができる。図1に示すカラム1は、当該カラム1の底部に酵素水溶液を供給するためのバルブ2と、上部に抽出水を供給するためのシャワーノズル3と、茶抽出液の抜き出すためのバルブ4を備えている。シャワーノズル3は、抽出水が茶葉上面に対して均一に噴霧できるようにノズル角度及び高さを調整自在な機構を有するものが好ましい。このようなカラムとしては、例えば、三友機器(株)製のSK−EXT10、SK-EXT−15や、(株)イズミフードマシナリ製のTEX1512、TEX2015等が例示される。
【0015】
茶保持板5としては、茶葉と茶抽出液とを分離できれば特に限定されるものではないが、例えば、金網(メッシュ)が好適である。また、茶保持板5の形状としては、平板状、円錐状、角錐状等の種々のものが例示されるが、強度の観点から円錐状又は角錐状が好ましく、また仕込みの均一性の観点から平板状が好ましい。なお、金網のメッシュサイズは、茶葉と茶抽出液との分離能の観点から、18〜100メッシュであることが好ましい。
【0016】
茶葉としては、例えば、Camellia属、例えば、C.var.sinensis(やぶきた種を含む)、C.var.assamica及びそれらの雑種から選択される茶樹が好適に使用される。その加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に大別することができる。
不発酵茶としては、茎茶、棒茶、芽茶、番茶、碾茶、釜入り茶等の緑茶が例示され、また半発酵茶としては、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶が例示され、更に発酵茶としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、タンニン含有量の観点から、緑茶が好適である。ここで、本明細書において「タンニン」とは、非重合体カテキン類、そのエステル誘導体(例えば、没食子酸エステル)及びそれらの縮合物を包含する概念である。また、「単位茶葉当たりのタンニン含有量」とは、茶葉1gに含まれるタンニン量をいう。
【0017】
カラム内に茶葉を仕込む方法は特に限定されないが、例えば、茶葉をカラム内に投入し、略水平かつ略均一な高さになるように茶葉層上面を平らにならす方法を採用することができる。また、複数の茶葉を使用する場合には、第1の茶葉をカラム内に投入し、略水平かつ略均一な高さになるように茶葉層上面を平らにならし、次いで第1の茶葉を覆うように第2の茶葉をカラム内に投入し、略水平かつ略均一な高さになるように茶葉層上面を平らにならすという操作を繰り返し行ってもよい。なお、複数の茶葉を使用する場合、所望の風味が得られるように各茶葉の仕込み量を適宜決定することができる。
【0018】
[工程S2
工程S2は、カラムに所定濃度の細胞壁分解酵素を含む酵素水溶液を供給する工程である。これにより、細胞壁分解酵素と茶葉とを接触させて、茶葉の細胞壁を分解させることが可能になる。また、本工程においては、図2に示すように、カラム底部から酵素水溶液を供給することが好ましい。これにより、酵素水溶液の供給とともに、上方に向かって茶葉を膨潤させることができる。その結果、膨潤した茶葉の圧密化による閉塞を防止することが可能になる。
【0019】
細胞壁分解酵素としては、茶葉の細胞壁を構成するセルロースを分解できるものであれば特に限定されないが、セルラーゼが好適である。
セルラーゼとしては、例えば、セルクラスト1.5L FG(ノボザイムズ社製)、セルラーゼA「アマノ」30、セルラーゼT「アマノ」90(以上、天野エンザイム社製)、セルロシンAC40(エイチビィアイ社製)、Sternzym LQ5037(樋口商会社製)等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
細胞壁分解酵素の使用量は、茶葉の全質量に対して0.005質量%以上であるが、細胞壁の分解効率の観点から、0.007質量%以上、更に0.009質量%以上、より更に0.015質量%以上、特に0.03質量%以上であることが好ましい。他方、上限値は、酵素由来のエグ味抑制の観点から、0.6質量%、更に0.4質量%、より更に0.2質量%、特に0.1質量%であることが好ましい。
【0021】
本工程においては、細胞壁分解酵素を抽出水に溶解した酵素水溶液を使用する。抽出水としては、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水等が例示される。中でも、味の面からイオン交換水が好適である。また、酵素水溶液には、アスコルビン酸又はその塩(例えば、ナトリウム塩)等の有機酸又はその塩、炭酸水素ナトリウム等の無機酸又はその塩等を添加してもよい。
酵素水溶液の酵素濃度は、下限が0.01g/L、特に0.02g/Lであることが好ましく、また上限が1g/L、更に0.8g/L、より更に0.5g/L、特に0.1g/Lであることが好ましい。
【0022】
酵素水溶液の供給量(WE)は、茶葉の全質量(WT)に対して1〜7倍量、更に2〜6.5倍量、特に3〜6倍量であることが好ましい。このような範囲内とすることで、茶葉の細胞壁を効率よく分解しながら茶葉を膨潤させることができる。
【0023】
酵素水溶液の温度は、酵素の反応効率、タンニンの抽出効率及び風味の観点から、40〜70℃、更に35〜65℃、特に50〜60℃であることが好ましい。また、酵素水溶液のpH(25℃)は、酵素の反応効率の観点から、3〜7、更に4〜6、特に4.5〜5.5であることが好ましい。
【0024】
酵素水溶液のカラム断面積あたりの供給速度は、2.0〜13m/h(m/hour)、更に2.7〜5.7m/h、より更に3.0〜5.3m/h、特に3.3〜4.8m/hであることが好ましい。このような範囲内とすることで、茶葉が均一に膨潤しやすくなり、また操作性が安定して生産性を向上させることができる。
【0025】
ここで、酵素水溶液の供給速度は、カラム断面積当たりの供給速度として、次のように定義される。
[カラム断面積当たりの供給速度(m/h)]=[供給速度(m3/h)]/[カラム断面積(m2)]
【0026】
[工程S3
工程S3は、酵素水溶液に茶葉を浸漬して保持する工程である。これにより、茶葉と細胞質分解酵素とを接触させて茶葉の細胞壁を効率よく分解させることが可能になる。その結果、雑味の抽出を抑制しながらタンニンの抽出効率を高めることができる。
【0027】
本工程においては、茶葉の少なくとも一部が酵素水溶液に浸漬していればよいが、細胞壁の分解効率及びタンニンの抽出効率の観点から、茶葉の全面が酵素水溶液に浸漬していることが望ましい。
本工程においては、茶葉の細胞壁をより確実に分解する観点から、酵素水溶液に茶葉を浸漬した状態を一定時間保持するが、浸漬時間は、細胞壁の分解効率及びタンニンの抽出効率の観点から、3分以上、更に5分以上、特に7分以上であることが好ましい。また、雑味の抽出抑制の観点から、300分以内、更に250分以内、より更に200分以内、より更に100分以内、より更に40分以内、特に30分以内であることが好ましい。
また、本工程においては、カラム内の酵素水溶液の温度を一定に保つように、カラム外周にヒーター等の加熱手段を巻回して加熱してもよく、また外周に水蒸気や熱水を供給するためのジャケットを備えるカラムを用いてもよい。なお、酵素水溶液の温度は、上記において説明したとおりである。
【0028】
[工程S4
工程S4は、カラムより茶抽出液を排出しながら、抽出水を供給する工程である。
茶抽出液を排出は、茶葉の圧密化による閉塞防止の観点から、カラム底部から行うことが好ましい。また、抽出水の供給は、カラム上部から供給することが好ましく、更に茶抽出液の排出と同時に開始することが好ましい。抽出水の供給方法としては、カラム上部から抽出水を茶抽出液の液面に対して均一に供給する観点から、図3に示すように、シャワーノズルを用いることが好ましい。なお、使用する抽出水の種類及び温度は、上記工程S2において説明したとおりである。
茶抽出液の排出速度は、カラム上部から供給する抽出水の速度と略同一とすることが好ましい。具体的には、抽出水のカラム断面積あたりの供給速度が2.0〜13m/h(m/hour)、更に2.7〜5.7m/h、更に3.0〜5.3m/h、特に3.3〜4.8m/hであることが好ましい。このような供給速度とすることで、膨潤した茶葉の圧密化による閉塞をより確実に防止することができる。
【0029】
抽出倍率、すなわち(茶抽出液質量)/(茶葉仕込み質量)は、タンニン濃度及び風味バランスの観点から、10〜70、更に10〜50、特に12〜40であることが好ましい。
【0030】
排出された茶抽出液は、冷却後、必要によりろ過及び/又は遠心分離処理により茶葉、夾雑物等の固形分を分離してもよい。得られた茶抽出液は、室温(25℃)以下、更に15℃以下、特に10℃以下で保存することが好ましい。なお、本発明の製造プロセスにおいては、酵素の失活操作を要しない。
【0031】
このような製造プロセスを採用することにより、雑味の抽出を抑制しながらタンニンを高効率に抽出することが可能になる。その結果、単位茶葉当たりのタンニン含有量が好ましくは40〜100mg/g−茶葉、更に好ましくは60〜95mg/g−茶葉、特に好ましくは80〜90mg/g−茶葉であり、かつ風味の良好な茶抽出液を製造することができる。
【0032】
(容器詰茶飲料)
本発明の製造方法により得られた茶抽出液は、苦渋味及びエグ味が抑制され、かつ香味及び甘味が豊富であるので、茶抽出液をそのまま、必要により希釈又は濃縮して容器詰茶飲料とすることができる。なお、濃縮による高濃度化方法として、例えば、減圧濃縮、逆浸透膜濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥法が例示される。
【0033】
また、本発明の容器詰茶飲料は、上記製造方法により得られた茶抽出液と、非重合体カテキン類とを混合して調製してもよい。非重合体カテキン類としては、例えば、緑茶抽出物の濃縮物又はその精製物が例示される。ここで、「緑茶抽出物の濃縮物」とは、茶葉から熱水又は水溶性有機溶媒により抽出された抽出物を濃縮したものであって、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載の方法により調製したものをいう。なお、「緑茶抽出物の濃縮物」として、例えば、三井農林社製「ポリフェノン」、伊藤園社製「テアフラン」、太陽化学社製「サンフェノン」等の市販品を使用してもよい。また、「緑茶抽出物の精製物」としては、例えば、緑茶抽出物又はその濃縮物を水又は水と水溶性有機溶媒との混合物に懸濁して生じた沈殿を除去し、次いで溶媒を留去したものが例示される。
【0034】
本発明の容器詰茶飲料には、茶由来の成分にあわせて、更に酸化防止剤、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、ガム、油、アミノ酸、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤、苦味抑制剤等の添加剤を単独で又は併用して配合してもよい。
【0035】
本発明の容器詰茶飲料中には、タンニンの一種である非重合体カテキン類を、0.05〜0.7質量%、更に0.09〜0.4質量%、特に0.1〜0.3質量%含有することが好ましい。非重合体カテキン類の含有量がこの範囲内にあると、多量の非重合体カテキン類を容易に摂取しやすく好ましい。ここで、本明細書において「非重合体カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類、及びエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類をあわせての総称を指す。非重合体カテキン類の濃度は、上記8種の合計量に基づいて定義される。
【0036】
本発明の容器詰茶飲料のpH(25℃)は、3〜7が好ましく、更に4〜7、特に5〜7とすることが、味及び非重合体カテキン類の安定性の点で好ましい。
【0037】
本発明の茶抽出液を充填する容器としては、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合化した紙容器、瓶等の通常の包装容器が例示される。
【0038】
また、本発明の容器詰茶飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。さらに、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻すなどの操作も可能である。
【実施例】
【0039】
1.タンニンの測定
タンニン量の測定は酒石酸鉄法により、標準液として没食子酸エチルを用い、没食子酸の換算量として求めた(参考文献:「緑茶ポリフェノール」飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズNo.10)。試料5mLを酒石酸鉄標準溶液5mLで発色させ、リン酸緩衝液で25mLに定溶し、540nmで吸光度を測定し、没食子酸エチルによる検量線からタンニン量を求めた。
酒石酸鉄標準液の調製:硫酸第一鉄・7水和物100mg、酒石酸ナトリウム・カリウム(ロッシェル塩)500mgを蒸留水で100mLとした。
リン酸緩衝液の調製:1/15mol/Lリン酸水素二ナトリウム溶液と1/15mol/Lリン酸二水素ナトリウム溶液を混合しpH7.5に調整した。
【0040】
2.タンニン量の評価
「1.タンニンの測定」で得られた各茶抽出液の単位茶葉当たりのタンニン量を下記の基準で評価した。
評点5:単位茶葉当たりのタンニン量が90mg/g−茶葉以上である。
4:単位茶葉当たりのタンニン量が80mg/g−茶葉以上である。
3:単位茶葉当たりのタンニン量が70mg/g−茶葉以上である。
2:単位茶葉当たりのタンニン量が60mg/g−茶葉以上である。
1:単位茶葉当たりのタンニン量が50mg/g−茶葉以上である。
【0041】
3.風味の評価
各茶抽出液についてパネラー3名による飲用試験を実施し、苦渋味、甘味、香り及びエグ味について下記の基準で評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0042】
苦渋味の評価基準
評点5:苦渋味が少ない
4:苦渋味がやや少ない
3:苦渋味がやや多い
2:苦渋味が多い
1:苦渋味がかなり多い
【0043】
甘味の評価基準
評点5:甘味が強い
4:甘味がやや強い
3:甘味がやや弱い
2:甘味が弱い
1:甘味がかなり弱い
【0044】
香りの評価基準
評点5:香りが強い
4:香りがやや強い
3:香りがやや弱い
2:香りが弱い
1:香りがかなり弱い
【0045】
エグ味の評価基準
評点5:エグ味が少ない
4:エグ味がやや少ない
3:エグ味がやや多い
2:エグ味が多い
1:エグ味がかなり多い
【0046】
総合評価
総合評価は、各茶抽出液の「単位茶葉当たりのタンニン量」及び「風味評価」における評点の合計に基づいて下記の基準で評価した。
A:評点の合計が20点以上であり、好適である。
B:評点の合計が18〜19点であり、良好である。
C:評点の合計が16〜17点であり、可。
D:評点の合計が15〜13点であり、あまり好ましくない。
E:評点の合計が12点以下であり、好ましくない。
【0047】
実施例1
80メッシュの平板型金網を備えた内径97mmの円筒状カラム式抽出機に緑茶葉313gを仕込み、茶葉上面が略水平かつ略均一な高さになるように平らにした。次いで、セルクラスト1.5L FG(ノボザイムズ社製)を茶葉量に対して0.05質量%となるように溶解した55℃の酵素水溶液を抽出機底部から4.2m/hの速度で供給し、茶葉量と酵素水溶液の供給量との比(WE/WT)が5.7に達した時に、酵素水溶液の供給を停止し、10min間その状態を保持しながら茶葉を酵素水溶液に浸漬させた。その後、シャワーノズルから4.2m/hの速度で55℃のイオン交換水を供給しながら、同速度で抽出機底部から茶抽出液を排出した。茶抽出液の質量が仕込み茶葉質量の15倍になったところで排出を終了し、茶抽出液を均一に混合した。得られた茶抽出液の単位茶葉当たりのタンニン量(以下、「抽出タンニン量」という)及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0048】
実施例2
実施例1のセルクラスト1.5L FGの添加量を茶葉量に対して0.01質量%に換えたこと以外は、実施例1と同様の方法により茶抽出液を製造した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0049】
実施例3
実施例1のセルクラスト1.5L FGの添加量を茶葉量に対して0.3質量%に換えたこと以外は、実施例1と同様の方法により茶抽出液を製造した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0050】
実施例4
実施例1のセルクラスト1.5L FGの添加量を茶葉量に対して0.5質量%に換えたこと以外は、実施例1と同様の方法により茶抽出液を製造した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0051】
実施例5
実施例1の茶葉を酵素水に浸漬させる時間を60minに換えたこと以外は、実施例1と同様の方法により茶抽出液を製造した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0052】
実施例6
実施例1の茶葉を酵素水に浸漬させる時間を180minに換えたこと以外は、実施例1と同様の方法により茶抽出液を製造した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0053】
実施例7
実施例1の茶葉を酵素水に浸漬させる時間を300minに換えたこと以外は、実施例1と同様の方法により茶抽出液を製造した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0054】
比較例1
3Lのステンレス製カップに55℃の湯を1000g用意し、茶葉量に対して0.05質量%となるようにセルクラスト1.5L FGを湯中に投入し、略均一になるように攪拌した。次いで、緑茶葉66gを投入し、10minの間、攪拌しながら抽出を行った。茶葉投入から10min経過後、目開き560μm及びメッシュサイズ90μmの金網で茶抽出液をろ過して茶葉を分離した。ろ過後の茶抽出液を均一に混合した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0055】
比較例2
80メッシュの平板型金網を備えた内径97mmの円筒状カラム式抽出機に緑茶葉313gを仕込み、略水平かつ略均一な高さになるように茶葉上面を平らにした。次いで、55℃のイオン交換水を抽出機底部から4.2m/hの速度で供給し、茶葉量とイオン交換水の供給量との比(WE/WT)が5.7に達した時に、抽出器底部からの供給を停止し、10min間その状態を保持しながら茶葉をイオン交換水に浸漬させた。その後、シャワーノズルから4.2m/hの速度で55℃のイオン交換水を供給しながら、茶抽出液を同速度で抽出機底部から排出した。茶抽出液の質量が仕込み茶葉質量の15倍になったところで排出を終了し、茶抽出液を均一に混合した。得られた茶抽出液の抽出タンニン量及び評価結果を、抽出条件とともに表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から、カラム式抽出機を用いる本発明の方法においては、従来の攪拌抽出に比較して、タンニン濃度が1.3倍以上向上することがわかった。
また、茶葉を仕込んだカラム式抽出機に所定濃度の酵素水溶液を供給し、当該酵素水溶液に一定時間茶葉を浸漬して保持した後、茶抽出液を排出するとともに抽出水を供給することで、少量の酵素で短時間に高濃度のタンニンを含有する風味の良好な茶抽出液を効率よく製造できることが確認された。
【0058】
実施例8
実施例1の茶抽出液を飲料中の非重合カテキン類濃度が0.05質量%となるように調整した飲料を食品衛生法に基づく殺菌処理及びホットパック充填を行って容器詰飲料とした。得られた容器詰飲料は、風味が良好で飲みやすい飲料であった。
【符号の説明】
【0059】
1 カラム式抽出機
2 抽出水供給用バルブ
3 シャワーノズル
4 茶抽出液抜き出し用バルブ
5 茶保持板
6 茶葉
7 酵素水溶液
8 シャワー状に供給される抽出水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程;
(S1)カラム式抽出機内に茶葉を仕込む工程と、
(S2)茶葉の全質量に対して0.005質量%以上の細胞壁分解酵素を含む酵素水溶液を当該抽出機に供給する工程と、
(S3)酵素水溶液に茶葉を浸漬して保持する工程と、
(S4)当該抽出機より茶抽出液を排出しながら、抽出水を供給する工程
を含む茶抽出液の製造方法。
【請求項2】
3工程において、茶葉の浸漬時間が3〜300分である、請求項1記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項3】
茶葉として緑茶葉を用いる、請求項1又は2記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られた茶抽出液を、そのまま容器に充填するか、又は希釈若しくは濃縮して容器に充填してなる、容器詰茶飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−284092(P2010−284092A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139052(P2009−139052)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】