荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法
【課題】照射時間を短縮し、単位時間当りの治療患者数を増加する。
【解決手段】イオンビームの入射、加速、出射及び減速の4つの工程からなるパターン運転を周期的に行うシンクロトロン4と、高周波印加電極7とこの高周波印加電極7に高周波電力を印加する高周波電源8との接続を開閉する開閉スイッチ9と、シンクロトロン4の出射工程中にイオンビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内にシンクロトロン4から出射されるイオンビームの量がほぼ一定となるように開閉スイッチ9の開閉タイミングを制御するタイミング制御装置62とを備える。
【解決手段】イオンビームの入射、加速、出射及び減速の4つの工程からなるパターン運転を周期的に行うシンクロトロン4と、高周波印加電極7とこの高周波印加電極7に高周波電力を印加する高周波電源8との接続を開閉する開閉スイッチ9と、シンクロトロン4の出射工程中にイオンビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内にシンクロトロン4から出射されるイオンビームの量がほぼ一定となるように開閉スイッチ9の開閉タイミングを制御するタイミング制御装置62とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射する治療方法が知られている。この治療に用いる粒子線治療装置は、イオンビーム発生装置、ビーム輸送系、及び例えば回転式の照射装置を備えている。イオンビーム発生装置で加速されたイオンビームは、第1ビーム輸送系を経て照射装置に達し、照射装置に備えられた第2ビーム輸送系を通って照射ノズルから患者の患部に照射される。イオンビーム発生装置としては、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段、共鳴の安定限界の外側でイオンビームのベータトロン振動を共鳴状態にする手段、及びイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクタを備えた円形加速器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、イオンビームを用いた治療において、例えば陽子ビームの照射では、陽子が停止するに至ったときに陽子エネルギーの大部分が放出される(=ブラッグピーク)という特性を利用し、陽子ビームのエネルギーを選択することで陽子を患部近傍で停止させてエネルギー(吸収線量)の大部分を患部の細胞にのみ与えるよう図られる。
【0004】
ここで、通常、患部は臓器に存在することから、患者体内奥行き方向(すなわちビームの進行方向)にある程度の厚みをもっている。このような患部の厚み方向寸法全域にわたってイオンビームを効果的に照射するには、厚み方向にある程度広いフラットな吸収線量範囲(拡大ブラッグピーク(spread-out Bragg peak)。以下、SOBPと記載する。)を備えるように、イオンビームを制御しなければならない。
【0005】
このような観点から、従来、段階的に厚みが増大又は減少する分布を備えた形状の構造物をビームの進行方向と垂直な方向に周期的に配置することで、ビームの入射位置に応じてビームが通過する厚さを変更するリッジフィルタが既に提唱されている(例えば、非特許文献1参照。)。このリッジフィルタをビームが通過すると、構造物と構造物の間をイオンビームが通過したときにビームエネルギーは減衰することなく通過するためブラッグピークが体内深くにて生じ、構造物のうち薄い段部を通過したときはビームエネルギーが若干減衰されてブラッグピークが体内中央部にて生じ、構造物のうち厚い段部を通過したときはビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。このように、異なる体内深さのブラッグピークが照射される結果、体表面近くから体内深くまでに至る比較的広いSOBPを得ることができる。
【0006】
また、SOBPを得る別の手段として周回方向に段階的に厚みが増大又は減少する分布を備えた羽根を複数枚有するレンジモジュレーションホイール(以下、RMWという)が既に提唱されている(例えば、非特許文献2参照。)。このRMWをイオンビームの進路に設けてイオンビームの進行方向に垂直な面内で回転させると、羽根と羽根の間をイオンビームが通過したときはビームエネルギーは減衰することなく通過するためブラッグピークが体内深くにて生じ、羽根のうち薄い段部を通過したときはビームエネルギーが若干減衰されてブラッグピークが体内中央部にて生じ、羽根のうち厚い段部を通過したときはビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。RMWの回転によりこのようなブラッグピーク位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、体表面近くから体内深くまでに至る比較的広いSOBPを得ることができる。
【0007】
一方、患部形状に対する線量分布の一致性を向上し周辺臓器への不要線量を極力低減する照射方式のひとつとして、ペンシル状の小径ビームを患部形状に合わせて走査するペンシルビームスキャニング方式がある。この照射方式において、照射領域を微小なターゲット(以下、スポットという)に分割し、そのスポットに予め定められた線量を照射したらビームを停止し、次のスポットへの照射準備が整い次第照射を開始し、そのスポットでの規定線量に達したらビームを停止し、再び次のスポットへの照射準備を行うという照射方式が提案されている(例えば、特許文献2参照。)この場合、深さ方向の制御は、円形加速器を用いる場合には目標エネルギーの設定を順次変更することにより行う。すなわち、患部を深さ方向に複数の層に分け、各層における全てのスポットの照射が終了したら円形加速器の目標エネルギー設定を変更し、層を移動する。同一層内においては、同一エネルギーでビームの照射・停止を繰り返して各スポットの照射を順次行う。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5363008号明細書
【特許文献2】特許第2833602号公報
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)のページ2078、図31(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2078 FIG.31)
【非特許文献2】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)のページ2077、図30(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2077 FIG.30)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者のうちの一部が関与してなされた発明、すなわち、RMWが回転しているときに、シンクロトロンからのイオンビームの出射をON/OFF制御する荷電粒子ビーム出射装置の発明が出願されている。その発明では、RMWを回転させつつ、例えば比較的長い時間、すなわちRMWの広い回転角度の範囲にわたってイオンビームを通過させるようにすればイオンビームの減衰度合いが大きく変動することからSOBPは広くなり、比較的短い時間すなわちRMWの狭い回転角度の範囲にイオンビームを通過させるようにすればイオンビームの減衰度合いがあまり変動しないためSOBPは狭くなる。このように、RMWの回転時にイオンビームの出射をON/OFF制御することで、1つのRMWで多様なSOBPを得られるので、RMWの交換頻度を低減でき、多数の患者に対し、円滑に治療を行うことができる。
【0010】
上記レンジモジュレーションホイールを用いて多様なSOBPを得る方法や、従来技術で述べたペンシルビームスキャニング方式は、前者は円滑な治療をもたらしスループットの高い治療装置を実現可能で、後者は線量集中性をより高めるという意味で照射精度の高い治療装置を実現可能であるため、イオンビームを用いた治療方法の高度化のために期待されている。いずれの照射においてもイオンビームの照射・停止を繰り返す照射方法であり、例えば円形加速器においては安定境界内にある荷電粒子の振動振幅を増大させビームを出射させる高周波電磁界をオン/オフさせることで、オン期間はビーム照射、オフ期間は照射停止という制御が可能になることが知られている。
【0011】
ここで、円形加速器は、イオンを前段の加速器から入射する入射工程、入射したイオンを目標のエネルギーまで加速する加速工程、加速したイオンを照射装置に対して出射する出射工程、及び出射工程終了後にイオンを減速する減速工程からなる一定の運転パターンを周期的に繰り返すように運用される。したがって、イオンビームは上記パターン運転を繰り返す円形加速器から断続的に出射されることになる。イオンビームの出射から次の出射に至るまでの時間間隔を運転周期と呼ぶ。このとき、特許文献1記載の従来の円形加速器では、運転周期が固定されており、その結果、1周期中における出射工程の時間も固定されていた。したがって、上記のRMWを用いて多様なSOBPを得る方法やペンシルビームスキャニング方式のように出射工程中にビームの出射・停止を繰り返す照射を行った場合、1運転周期内に円形加速器から照射装置に出射されるイオンビームの量が出射工程中におけるビーム出射時間が占める比率に応じて減少することになり、患者に対する照射時間が長くなる。その結果、単位時間当りの治療患者数が減少する。
【0012】
本発明の目的は、照射時間を短縮し、単位時間当りの治療患者数を増加することができる荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された荷電粒子ビームを照射装置から出射させる際に、加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に加速器から出射される荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように制御することにある。これにより、レンジモジュレーションホイールを用いて多様なSOBPを得る方法やペンシルビームスキャニングのように出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合においても、1周期内に照射装置から出射されるビーム量が減少することがない。したがって、患者に対する照射時間を短縮でき、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0014】
好ましくは、加速器の出射工程の時間を変更することにより、1周期内に加速器から出射される荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるようにするとよい。
【0015】
また好ましくは、加速器から出射される荷電粒子ビームの強度を変更することにより、1周期内に加速器から出射される荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるようにするとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、照射時間を短縮し、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(実施形態1)
本発明の好適な一実施形態である粒子線出射装置を、図1を用いて説明する。本実施形態の粒子線出射装置は、イオンビーム発生装置1と、イオンビーム発生装置1の下流側に接続されたビーム輸送系2とを有している。
【0019】
イオンビーム発生装置1は、イオン源(図示せず)、前段イオンビーム発生装置3及びシンクロトロン(加速器)4を有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5、及び加速装置6を有する。高周波印加装置5は、シンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極7と高周波電源8とを開閉スイッチ9,10にて接続した構成となっている。加速装置6は、その周回軌道に配置された高周波加速空胴(図示せず)、及び高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は前段イオンビーム発生装置(例えば直線イオンビーム発生装置)3で加速される。前段イオンビーム発生装置3から出射されたイオンビームはシンクロトロン4に入射される。荷電粒子ビームであるそのイオンビームは、シンクロトロン4で、高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。シンクロトロン4内を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギー(例えば60〜250MeV)までに高められた後、高周波電源8からの出射用の高周波が、閉じられた開閉スイッチ9,10を経て高周波印加電極7に達し、高周波印加電極7よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン4に設けられた四極電磁石12及び偏向電磁石13に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。開閉スイッチ9又は10を開いて高周波印加電極7への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止されるようになっている。
【0020】
イオンビーム発生装置1の運転制御は加速器制御装置60によって行われる。この加速器制御装置60は、シンクロトロン4の運転条件を記憶する加速器運転条件記憶部61、及びシンクロトロン4の入射・加速・出射・減速の4つの工程からなるパターン運転のタイミングに関わる制御を行うタイミング制御装置62を有している。照射制御装置70から与えられる照射条件に対応した加速器の運転条件は予め計算や実験によって定められており、加速器制御装置60はその運転条件を加速器運転条件記憶部61から呼び出して各機器の設定を行う。
【0021】
シンクロトロン4から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を経て下流側に輸送される。ビーム輸送系2は、四極電磁石14及び偏向電磁石15と、治療室内に配置された照射装置16に連絡されるビーム経路17と、このビーム経路17にビーム進行方向上流側より配置された四極電磁石18,18、偏向電磁石19,20とを備える。ビーム輸送系2へ導入されたイオンビームは、ビーム経路17を通って照射装置16へと輸送され、治療台21に乗っている患者22の患部に照射される。偏向電磁石15以降の機器は図中の回転軸を中心に患者の周りを回転し、様々な方向からイオンビームを照射可能とする回転ガントリー(図示せず)と呼ばれる装置上に設置されている。
【0022】
本実施形態の照射装置16では、散乱体(図示せず)による照射野拡大とレンジモジュレーションホイール(以下、RMWという)40を用いた拡大ブラッグピーク形成により照射野を形成する。照射装置16の内部には、線量モニタ31(ひとつとは限らない)、RMW40などがビーム軸上に配置されている。
【0023】
RMW40の詳細構造を図2に示す。この図2に示すように、RMW40は、回転軸43、この回転軸43と同心円に配置された円筒部材44、及び回転軸43に取り付けられRMW40の半径方向に伸びた複数の翼(本実施例では3枚)45を有している。これらの翼45はその周方向における幅が径方向外側に行くほど広くなるように(すなわち円筒部材44側が回転軸43側よりも広くなるように)形成されており、径方向外側の端部は円筒部材44の内周面に取り付けられている。また、RMW40の周方向における翼45,45間には、それぞれ開口46が形成されている。すなわち、1つのRMW40には3枚の翼45の相互間に形成された開口46が3つ存在する。これら開口46も周方向における幅が径方向外側に行くほど広くなるように形成されている。
【0024】
上記各翼45は、RMW40の周方向において階段状に配置された複数の平面領域47(すなわち平面領域47は、例えば階段において足を乗せる平面に相当する。)を有しており、ビーム軸の方向におけるRMW40の底面から各平面領域47までの各厚みが異なっている(RMW40の底面から各平面領域47までのレベルが異なる)。ここでは、1つの平面領域47の部分におけるその厚みを、平面領域部分の厚みという。すなわち、翼45は、周方向において翼45の両側に位置する開口46からビーム軸の方向における最も厚みの厚い翼頂部45Aに位置する平面領域47に向かって各平面領域部分の厚みが増加するように形成されている。各平面領域47は回転軸43から円筒部材44に向かって延びており、その周方向における幅も径方向外側に行くほど広くなっている。
【0025】
このように構成されるRMW40には回転角度(回転位相)を検出する角度計(図示せず)が設けられている。この角度計で検出されたRMW40の回転角度は、照射制御装置70の照射制御部71に出力される。
【0026】
ここで、本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置では、RMW40の回転角度に応じてイオンビーム発生装置1からのイオンビームの出射のON/OFFを制御することにより、単一のRMW40で複数のSOBPを得られるように図っている。以下、この詳細について説明する。
【0027】
図3はRMW40の上面図であり、3つのイオンビームの照射条件D,E,Fを例として示している。図4はこれらビーム照射条件D,E,Fを時系列で示した図であり、また図5はこれらビーム照射条件D,E,Fによって得られる線量分布を示す図である。
【0028】
すなわち、開口部46をイオンビームが通過したときにはビームエネルギーは減衰することなく通過するためブラッグピークが体内深くにて生じ、翼45のうち平面領域部分の厚みが比較的薄い平面領域47を通過したときはビームエネルギーが若干減衰されてブラッグピークが体内略中央部にて生じ、翼45のうち平面領域部分の厚みが比較的厚い平面領域47を通過したときはビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。したがって、図3及び図4中照射条件Dに示すようにRMW40の周方向全領域において常にイオンビームの照射がONである場合には、RMW40の回転により上記のようなブラッグピーク位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、図5中線量分布Dのように体表面近くから体内深くまでに至る比較的広いSOBPが得られる。
【0029】
一方、図3及び図4中照射条件Eに示すように、各翼45の厚みが比較的厚い平面領域47(翼頂部45A付近)ではイオンビームの照射をOFFとし、その他の周方向領域ではビーム照射ONとする場合には、ビームエネルギーが大きく減衰され体表面近くの浅い部分で生じるブラッグピーク分布がなくなるため、図5中線量分布Eのように線量分布Dよりも狭いSOBPが得られる。
【0030】
他方、図3及び図4中照射条件Fに示すように、開口46及び各翼45の厚みが比較的薄い平面領域47にてイオンビームの照射をONとし、その他の周方向領域ではビーム照射OFFとする場合には、ビームエネルギーの減衰量が少なく体内深くにて生じるブラッグピーク分布のみとなるため、図5中線量分布Fに示すように線量分布Eよりもさらに狭いSOBPが得られる。本実施形態の粒子線治療装置では、以上のようにRMW40の回転角度に応じてイオンビームの出射のON・OFF制御を行うことにより、単一のRMW40で複数の異なるSOBPを形成する。
【0031】
図1に戻り、照射制御装置70は、照射制御部71及び照射条件記憶部72を有している。治療計画装置73では患者22の患部に対する照射条件を定め、照射条件記憶部72にその内容を記憶させる。照射条件情報の項目には、SOBP(RMW40の種類及びビーム照射領域情報(すなわちRMW40のどの領域(回転角度)でビームをON/OFFするかという情報))が含まれている。このSOBPとRMW40の種類及びビーム照射領域情報との関係については、予め計算及び実験等により求めておく。
【0032】
照射制御部71は、SOBPを形成するためのイオンビーム発生装置1からのイオンビームの出射のON/OFF制御を行う。すなわち、まず照射条件記憶部72に記憶された照射条件情報中のSOBP(ビーム照射領域情報)を読み出す。そして、角度計からRMW40の回転角度を入力し、上記照射条件記憶部72から読み出したビーム照射領域情報に基づいて、RMW40の回転角度がビームON領域の角度となったら加速器制御装置60のタイミング制御装置62へビーム照射オン信号を出力する。
【0033】
一方、シンクロトロン4の運転は、図6に示すように入射、加速、出射、減速の4つの工程からなるパターン運転を周期的に繰り返す。図6は横軸に時間、縦軸にシンクロトロン4の運転パターンを代表する偏向電磁石13で発生する磁場強度を示す。なお、この図6は、上述したイオンビームの出射のON/OFF制御を行わずに出射工程中において常時ビームを出射する場合の偏向電磁石13の磁場強度を示している。ここで、磁場強度B1は入射時のエネルギーのイオンを周回させる磁場に相当し、B2は加速後のエネルギーのイオンを周回させる磁場に相当する。また、Texは周期毎の出射可能時間(出射工程時間)、Tはビームの出射が終了してから次の周期のビーム出射が開始されるまでの時間であり、Tex+Tがシンクロトロン4の1運転周期となる。
【0034】
出射工程においては、図示しない電磁石電源制御装置から加速器制御装置60のタイミング制御装置62に対して出射可能信号が出力される。この出射可能信号のON/OFFのタイミングを上記偏向電磁石13の磁場強度の変化と合わせて図6に示す。タイミング制御装置62は、電磁石電源制御装置から入力される出射可能信号のONと、照射制御装置70の照射制御部71から入力されるビーム照射オン信号とが重なったタイミングにおいて、開閉スイッチ(ビーム出射量調整装置、出射時間調整装置)9を閉じてシンクロトロン4からのイオンビームの出射を行う。
【0035】
また、タイミング制御装置62はビーム照射オン/オフ信号用の積算タイマー(図示せず)を有しており、照射制御部71から出力されるビーム照射信号のオン時間の積算を行う。一方で、タイミング制御装置62は照射制御装置70から入力される照射条件に応じて加速器運転条件記憶部61から読み出した加速器運転条件情報に基づき、出射可能時間を設定する(詳細は後述)。そして、上記照射制御部71から出力されるビーム照射オン信号の積算時間が上記設定した出射可能時間に至った場合には、開閉スイッチ9を開いてシンクロトロン4からのイオンビームの出射を停止させる。
【0036】
以上のような構成である本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置における治療照射の手順を図7を用いて説明する。本フローチャートに表される各手順は、加速器制御装置60及び照射制御装置70によって実行される。それらの手順の実行により、1周期内にシンクロトロン4から出射されるイオンビームの量がほぼ設定量となる制御、すなわち、出射されるそのイオンビーム量がほぼ一定となる制御が行われる。
【0037】
まず、照射制御装置70は、治療計画装置73で定められた患者22の患部に対する照射条件(ビームエネルギー、SOBP等)を照射条件記憶部72に入力し、記憶させる(ステップ81)。そして、照射制御装置70の照射制御部71は、記憶した照射条件に基づいて照射装置16の各機器の運転条件を設定する。また、加速器制御装置60は、照射制御装置70から照射条件を入力し、イオンビーム発生装置1の各機器の運転条件を設定する(ステップ82)。
【0038】
照射制御装置70の照射制御部71は、照射条件記憶部72から照射条件のSOBPに含まれるビーム照射領域情報(RMW40の照射開始角度及び照射停止角度)を読み出す(ステップ83)。そして、照射装置16に設けたRMW40の駆動装置(図示せず)に駆動信号を出力し、RMW40を回転駆動させる(ステップ84)。照射制御部71は、RMW40の回転駆動中は常に角度計からRMW40の回転角度を入力し、この入力した回転角度がRMW40の照射開始角度と一致するかどうかを判定する(ステップ85)。一致した場合、照射制御部71はビーム照射オン信号を加速器制御装置60のタイミング制御装置62に出力する(ステップ86)。一方、角度計から入力したRMW40の回転角度が照射停止角度に一致した場合には、照射制御部71はビーム照射オフ信号を加速器制御装置60のタイミング制御装置62に出力する(ステップ87)。上記ステップ85〜87を繰り返すことにより、RMW40の回転角度に応じたビームON/OFF制御が行われる。
【0039】
一方、上記ステップ83〜87と並行して、加速器制御装置60のタイミング制御装置62は、先のステップ82で入力した照射条件及び設定された運転条件から出射可能時間を設定する(ステップ88)。この出射可能時間の具体的な設定方法について、図8を用いて説明する。
【0040】
この図8に示すように、照射制御部71からタイミング制御装置62に出力されるビーム照射信号の1周期中のON時間の割合(以下、デューティと記載)をa(=A/B)とする。ここでは説明を簡易とするため、ビーム照射信号はON時間をA、1周期の時間をBとする波形を繰り返すものとする。したがって、デューティaはシンクロトロン4の出射工程中におけるビーム出射ON時間の割合とも言える。例えば、前述した図3,図5の照射条件DのようにRMW40の回転に合わせてビームをON/OFFしない場合にはデューティa=1となり、図3,図5の線量分布E,FのようにSOBPを小さくする場合にはデューティaは1よりも小さくなる。すなわちデューティは0<a≦1の範囲になる。タイミング制御装置62は、照射条件のSOBP情報に含まれるRMW40の照射開始角度及び照射停止角度を入力し、これらの情報からデューティaを算出する。そして、実際にビームを出射する時間の積算が出射可能時間Tex(図6参照)となるようにするため、1周期中の出射工程の時間(すなわち出射開始から出射終了までの時間)をTex/aに設定する。これにより、出射可能信号のONと照射制御部71から入力されるビーム照射オン信号とが重なったタイミングにおいてタイミング制御装置62から開閉スイッチ9に出力されるビーム照射オン信号(図8に実際の出射ON信号として示す)の積算時間が出射可能時間Texとなるようになっている。
【0041】
図7に戻り、例えば図示しないコンソールの治療開始ボタンがオペレータにより押されることによって、治療照射が開始される(ステップ89)。まず加速器制御装置60は前段イオンビーム発生装置3に出射開始信号を出力する。これにより、前段イオンビーム発生装置3から出射されたイオンビームがシンクロトロン4に入射される(ステップ90)。このとき、シンクロトロン4の各電磁石の励磁電流は図示しない電磁石電源装置によりイオンビームの入射エネルギーに対応した値に制御されている。そして、シンクロトロン4の各電磁石の励磁電流が高められつつ、シンクロトロン4内を周回するイオンビームは高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によって加速され(ステップ91)、設定されたエネルギーまで高められると、各電磁石に導かれる励磁電流が一定の設定値に保持される(ステップ92)。このとき、図示しない電磁石電源制御装置からタイミング制御装置62に対して出射可能信号が出力される。
【0042】
次に、加速器制御装置60のタイミング制御装置62は、照射制御装置70の照射制御部71からビーム照射オン信号が入力されたかどうかを判定する(ステップ93)。先に説明したステップ86でビーム照射オン信号がタイミング制御装置62に対して出力されていれば、開閉スイッチ9に対してビーム照射オン信号を出力し、開閉スイッチ9を閉成させる。これにより、高周波電源8からの出射用の高周波が閉じられた開閉スイッチ9,10(ここでは開閉スイッチ10が閉成されているものとする)を経て高周波印加電極7に達し、高周波印加電極7よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。シンクロトロン4から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を経て下流側の照射装置16へと輸送され、治療台21に乗っている患者22の患部に照射される(ステップ94)。
【0043】
照射中、照射制御装置70の照射制御部71は常時線量モニタ31から照射中のイオンビームの線量検出値を入力し、その線量値を積算する。そして、この積算した線量値が治療計画装置73で定められた患者22の治療照射に必要な線量満了値に到達したかどうかを判定する(ステップ95)。
【0044】
一方、加速器制御装置60のタイミング制御装置62は、照射制御装置70の照射制御部71から入力されるビーム照射信号のオン時間を積算し、この積算した時間が先のステップ88で設定した出射可能時間に到達したかどうかを判定する(ステップ96)。ビーム照射オン信号の積算時間が出射可能時間に到達していない場合には、ステップ92〜ステップ96を繰り返す。この際に、先のステップ87で照射制御装置70の照射制御部71からタイミング制御装置62にビーム照射オフ信号が入力された場合には、開閉スイッチ9に対してビーム照射オフ信号を出力して開閉スイッチ9を開成させる。これにより、シンクロトロン4からのビーム出射が停止される(ステップ97)。また、照射制御部71からタイミング制御装置62にビーム照射オン信号が再び入力された場合には、開閉スイッチ9に対してビーム照射オン信号を出力して開閉スイッチ9を閉成させ、シンクロトロン4からのビーム出射を再び開始させる。
【0045】
ステップ92〜ステップ97を繰り返すうちに、照射制御部71から入力されるビーム照射オン信号の積算時間が出射可能時間に到達した場合には、直ちに開閉スイッチ9に対してビーム照射オフ信号を出力し、開閉スイッチ9を開成させてシンクロトロン4からのビーム出射を停止させる。そして、図示しない電磁石電源装置によりシンクロトロン4の各電磁石の励磁電流が徐々に下げられつつ、高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力が低下され、イオンビームの減速が行われる(ステップ98)。減速が終了すると(ステップ99)、シンクロトロン4の各電磁石の励磁電流は図示しない電磁石電源装置によりイオンビームの入射エネルギーに対応した値に再び設定され、前段イオンビーム発生装置3から出射されたイオンビームがシンクロトロン4に再び入射される。このようにして次の周期の運転パターンに進み、ステップ90〜ステップ99を再び繰り返す。
【0046】
このようにしてステップ90〜ステップ99を繰り返す間に線量満了となった場合には、照射制御部71はインターロック装置50に照射線量満了信号を出力する。これにより、インターロック装置50は開閉スイッチ10に対してビーム照射オフ信号を出力し、開閉スイッチ10を開成させる。これにより、シンクロトロン4からのビーム出射が停止され、治療照射を終了する(ステップ100)。
【0047】
なお、本実施形態においては、上記したようにタイミング制御装置62によるビームON/OFF制御と線量が満了した場合のインターロック装置50によるビームOFF制御とを、開閉スイッチ及びその動作のための信号の経路について安全性の観点から別系統としているが、これら開閉スイッチ及び信号経路を一つにまとめてもよい。
【0048】
タイミング制御装置62は、荷電粒子ビームの出射可能時間を設定する出射可能時間設定装置、荷電粒子ビームが出射された時間を積算する積算装置、出射時間が出射可能時間に到達したかどうかを判定する判定装置、及び荷電粒子ビームの出射を停止させる出射停止装置として機能する。
【0049】
以上説明した本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置によれば、以下の効果を奏する。
【0050】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置においては、1周期中の出射工程の時間(すなわち出射開始から出射終了までの時間)をTex/aに設定する。このようにしてデューティaに応じて出射工程の時間を延長することにより、出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合であっても、実際のビーム出射の積算時間を出射工程中にビームOFFの制御が行われない場合の出射可能時間Texとほぼ同等にすることができる。その結果、本実施形態のようにRMW40を用いて多様なSOBPを得るためにビームの出射及び出射停止を繰り返す運転を行う場合であっても、1周期内でのシンクロトロン4から出射されるビーム量を減少させることなくほぼ設定量に保つことができる。すなわち、その1周期内に出射されるビーム量はほぼ一定に保たれる。したがって、患者22に対する治療照射に必要な線量のトータルは治療前に定められていることから、1治療照射内におけるシンクロトロン4の運転周期数を低減することができ、照射時間を短縮できる。その結果、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0051】
また本実施形態によれば、荷電粒子ビーム出射装置の線量率を向上することができる。この線量率向上効果は、出射工程中におけるビーム出射ON時間の割合であるデューティaが小さくなるほど大きくなる。このことについて、以下に説明する。
【0052】
1治療照射における患者の患部に対する線量率は、周期一定の場合には、シンクロトロン4から得られる1周期当りのイオン(荷電粒子)の量と1周期の時間によって次式(1)のように記述できる。
【0053】
【数1】
【0054】
本実施形態において、1周期当りのイオンの量をQ[粒子数/周期]、出射可能時間Tex、出射以外の減速・入射・加速に要する時間をTとすると、線量率D1は比例係数Kを用いて次式(2)のように表すことができる。この比例係数Kは照射野の拡大サイズやイオンビームのエネルギー等に依存する数値で、SOBP以外の照射条件が同一の場合には同一の値になる。
【0055】
【数2】
【0056】
一方、比較のために、本実施形態のようにビーム照射信号のON時間の割合であるデューティaに応じた出射可能時間を設定し、その設定時間となるまでビーム出射を行う運転方法を適用しない場合には、1周期当りに出射されるビームの量はデューティaに応じて減少しaQとなる。したがって、その場合の線量率D0は次式(3)のように表される。
【0057】
【数3】
【0058】
本実施形態の運転方法による線量率向上はD1/D0で表され、次式(4)のようになる。
【0059】
【数4】
【0060】
一例として、出射可能時間を0.5秒、出射以外の減速・入射・加速に要する時間を1.5秒とした場合のD1/D0のデューティaに対する依存性を図9に示す。図9よりわかる通り、デューティaが小さいほど線量率比が増大し、本実施形態の運転方法の効果が高いことがわかる。
【0061】
さらに本実施形態によれば、先の図8に示すように、シンクロトロン4の運転周期を延長する分、1運転周期当りのRMW40の角度に応じたビームON/OFFの回数を増加できる。かつ、1周期毎に発生する可能性のある出射工程中の出射開始部・出射終了部における実際に必要なオン時間よりも短い照射を減少することができる。これにより、図5に示したような深部方向分布を時間的に平均化した形で得る場合において、平均化に要する時間をより短縮できるという効果をも得ることができる。
【0062】
なお、デューティaが非常に小さい場合には出射工程時間(出射開始から終了までの時間)が大きく伸びてしまい、加速された荷電粒子のシンクロトロンの周回回数が大きく増加することによって荷電粒子ビームの質が変化してしまうおそれがある。このような可能性を考慮し、出射開始から終了までの時間の上限値を設け、それを超えた場合には出射を停止し減速に移行するように制御してもよい。本上限値は加速器の運転条件毎、もしくはいずれの運転条件においても適用されるものとして予め計算及び実験で求めておく。
【0063】
また、1周期中にシンクロトロン4から得られるイオンビーム量の時間的変動が大きな場合には、高周波出力制御装置63(図11等参照)により、ビーム出射中に高周波印加電極7に印加する高周波の出力が例えば図10のGに示すような時間的変化をするように高周波電源8を制御してもよい。これは、シンクロトロン4からのイオンビームの単位時間当たりの強度が高周波出力の強度に依存して強弱の変化をさせることが可能な性質を利用したものである。さらに、このように高周波出力を変化させるパターンにおいて、上記実施形態1のようにRMW40の回転角度に応じてビームのON/OFF制御を行う場合には、そのビームOFF時間については高周波出力パターンの更新を停止し(すなわち高周波出力を一定とし)、ビームON時間についてのみ高周波出力パターンを更新し(すなわち高周波出力を変化させ)、例えば図10のHに示すような出力パターンとするのが好ましい。このようにすることで、デューティaが変化した場合でも高周波出力の波形(ビームOFF時間を除く)を一定に保つことができ、その上で1周期当りのビームの出射量をほぼ設定量に保つことができる。
【0064】
さらに、上記実施形態1においては1周期毎に出射されるイオンビーム量を一定に保つために照射制御装置70の照射制御部71からのビーム照射オン信号の出力時間を積算し、出射可能時間以内であれば照射を続け、出射可能時間を越えた場合には照射を停止してシンクロトロン4を減速に移行するという手段を採っているが、これに限らず、例えば図1に示す線量モニタ31から得られる1周期あたりに出射されるべきイオンビーム量に相当する線量出力値を予め照射制御部71において設定しておき、1周期毎に検出される線量の積算値がその設定された線量値以内であれば照射を続け、その線量値を超えた場合には照射を停止して減速に移行するという手段を採用してもよい。
【0065】
また、上記実施形態1においてはビーム照射オン信号の出力時間の積算を加速器制御装置60内で実施しているが、これに限らず、加速器制御装置60で設定した出射可能時間を照射制御装置70に対して出力し、照射制御装置70内で周期毎の照射オン時間の積算及び減速への移行判定を実施するようにしてもよい。
【0066】
(実施形態2)
本発明の他の実施形態である実施形態2の荷電粒子ビーム出射装置を、図11を参照して以下に説明する。
【0067】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置は、高周波電源(ビーム出射量調整装置、ビーム強度調整装置)8の高周波電力の出力を制御する高周波出力制御装置63を有する加速器制御装置60’を備える。すなわち、シンクロトロン4では1周期あたりに加速・出射可能なイオンビーム量は周期毎にほぼ一定とすることが可能で、周期毎の出射可能時間(出射工程時間)Texは高周波印加用電極7に印加する出射用高周波電磁界の、シンクロトロン4を周回するイオンに対する寄与によって決まる。この寄与は周回するイオンビームのエネルギーと高周波電磁界のパワーを決める高周波電源8の出力によって決まり、出射可能時間と本出力の関係は予め計算及び実験について決めておくことが可能である。したがって、周期毎の出射可能時間(出射工程時間)Texを一定とした場合には、高周波出力制御装置63により高周波電源8の出力を制御することで、シンクロトロン4の周期毎のビーム出射量を制御することが可能である。本実施形態では、このような運転制御を行う。
【0068】
前述したように、照射制御装置70の照射条件記憶部72に記憶された照射条件中のSOBPには、RMW40の種類及びビーム照射領域情報(すなわちRMW40のどの領域(回転角度)でビームをON/OFFするかという情報))が含まれており、このSOBPとRMW40の種類及びビーム照射領域情報との関係については、予め計算及び実験等により求めてある。本実施形態では、高周波出力制御装置63が照射条件中のRMW40の照射開始角度情報及び照射停止角度情報に基づき、これらの情報からビーム照射信号のON時間の割合であるデューティaを算出する(なお、実施形態1と同様にタイミング制御装置62がデューティaを算出し、それを入力するようにしてもよい)。高周波出力制御装置63は、この算出したデューティaを元に、1周期中に出射されるイオンビームの量がほぼ一定になるように出射用高周波電極7に印加する高周波電源8の出力を増加させるように制御する。なおこのとき、シンクロトロン4の運転周期はビームON/OFFによらず一定となるように、タイミング制御装置62により制御される。
【0069】
以上において、高周波出力制御装置63は、特許請求の範囲各項記載の制御装置を構成するとともに、荷電粒子ビームの強度を設定するビーム強度設定装置を構成するとともに、荷電粒子ビームに印加する高周波出力を制御する高周波出力制御装置を構成する。
【0070】
以上説明した本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置によれば、デューティaに応じて出射用高周波電極7に印加する高周波電源8の出力を増加させるように制御することにより、出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合であっても、1周期内でのシンクロトロン4から出射されるビーム量を減少させることなく、ほぼ設定量に保つことができる。したがって、実施形態1と同様に照射時間を短縮できる。その結果、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0071】
また本実施形態においても、荷電粒子ビーム出射装置の線量率を向上することができる。すなわち、本実施形態の照射においてはシンクロトロン4の運転周期はT+Tex、出射されるイオンビームの量はQとなるため、線量率D2は次式(5)のように表される。
【0072】
【数5】
【0073】
この線量率について本運転方法を適用しない場合の線量率D0との比率D2/D0を求めると字式(6)のようになる。
【0074】
【数6】
【0075】
上式よりわかるように、出射可能時間及びそれ以外の時間によらず線量率向上はデューティaに反比例し、デューティが小さくなるほど線量率が向上することになる。
【0076】
なお、上記実施形態2においては1周期毎に出射されるイオンビーム量を一定に保つために出射用高周波電極7に印加する高周波出力を大きくするという手段を採っているが、例えば1周期毎のシンクロトロン4の状態が不安定な場合などには短時間の内にビームが出射されてしまうことや、出射しきれずに終えてしまう可能性もある。このため、例えば図1に示す線量モニタ31から得られる1周期あたりに出射されるべきイオンビーム量に相当する線量出力値を予め照射制御部71において設定しておき、1周期毎に検出される線量の積算値がその設定された線量値以内であれば照射を続け、その線量値を超えた場合には照射を停止して減速に移行するという手段を採用してもよい。
【0077】
また、シンクロトロン4のビームエネルギー設定値が大きい場合には、本実施形態のような出射を実現するために大きな高周波出力が必要となるため、高周波電源出力が不足する場合も考えられる。このような事態を回避するために、例えば上記実施形態1と実施形態2とを組み合わせた運転、すなわち高周波出力の増加に応じて出射時間を長くするような制御を行い、その上で1周期あたりに出射されるイオンビームの量をほぼ設定量に、すなわち、ほぼ一定に保つように制御してもよい。
【0078】
(実施形態3)
本発明の他の実施形態である実施形態3の荷電粒子ビーム出射装置を、図12を用いて以下に説明する。本実施形態は、スキャニング照射方式の荷電粒子ビーム出射装置に本発明を適用した例である。
【0079】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置は、ペンシル状の小径ビームを患部形状に合わせて走査するペンシルビームスキャニング方式で照射を実施する照射装置16’を有しており、この照射装置16’はビーム走査用電磁石67,68を用いてビーム進行方向と垂直な面内方向にイオンビームを走査する。この照射方式においては、照射領域を微小なターゲット(以下、スポットという)に分割し、そのスポットに予め定められた線量を照射したら照射を停止し、次のスポットへの照射準備が整い次第照射を開始し、そのスポットでの規定線量に達したら照射を停止して再び次のスポットへの照射準備を行うという動作を繰り返し行う。体内深さ方向、すなわちビームの進行方向の移動はシンクロトロン4から出射されるイオンビームのエネルギーを変更することによって行われる。エネルギーを変更する際には、シンクロトロン4の運転を入射から始めて所望のエネルギーまで加速して出射する。スポットごとの線量は線量モニタ32で測定され、スポット毎に線量満了になると照射を停止し、その後ビーム走査用電磁石67,68の準備が整った状態で再び照射を開始する。
【0080】
患部の深さ方向の制御は、加速装置6の高周波電力を設定変更してシンクロトロン4の目標エネルギーの設定を順次変更することにより行う。すなわち、患部を深さ方向に複数の層に分け、各層における全てのスポットの照射が終了したらシンクロトロン4の目標エネルギー設定を変更し、層を移動する。同一層内においては、同一エネルギーでビームの照射・停止を繰り返して各スポットの照射を順次行う。同一エネルギーで照射するスポットに関してはシンクロトロン4の1周期内で照射する。したがって、本実施形態のようにスキャニング方式の照射を行う場合、1周期内での出射工程中にビームのON/OFF制御が行われることになる。
【0081】
本実施形態においては、照射制御部71から上記のスポット毎の線量満了に伴うビーム照射オフ信号と、次スポット照射のためのビーム照射オン信号が生成され、加速器制御装置60”のタイミング制御装置62に出力される。タイミング制御装置62はビーム照射オン・オフ信号用の積算タイマー(図示せず)を有しており、ビーム照射オン信号が入力された時間を積算する。一方で、加速器運転条件の一部である出射可能時間を設定する。この出射可能時間の設定は、前述の実施形態1及び2では周期的なRMW40の回転角度情報から算出したデューティaに基づいて設定するようにしたのに対し、本実施形態ではスポット毎の設定線量やビームの短期的な強度変化、スポット間の設定時間が必ずしも一定にならないことから、治療計画装置73で定められる照射条件(治療計画情報)に基づいて設定する。
【0082】
そして、上記積算したビーム信号オン時間と上記設定した出射可能時間とを比較し、積算時間が出射可能時間内であるような場合に、オン信号に合わせてビーム照射を行う。すなわち、開閉スイッチ9にビーム照射オン信号を出力して開閉スイッチ9を閉成させることにより、高周波電源8からの出射用の高周波が閉じられた開閉スイッチ9,10(ここでは開閉スイッチ10が閉成されているものとする)を経て高周波印加電極7に達し、高周波印加電極7よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を通って照射装置16’に運ばれ、走査用電磁石67,68により走査されて所定の位置のスポットに照射される。
【0083】
スポット線量が満了になると、照射制御部71から入力されるビーム照射オフ信号に合わせて開閉スイッチ9へビーム照射オフ信号を出力する。これにより開閉スイッチ9が開成し、高周波印加電極7への高周波電力の印加が停止されて、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止される。そして、照射制御部71により走査用電磁石67,68の設定が次のスポットに対応した設定に変更され、再びビーム照射オン信号がタイミング制御装置62に出力される。
【0084】
タイミング制御装置62で積算したビーム照射信号オン時間が出射可能時間に到達した場合には、開閉スイッチ9を開いてシンクロトロン4からのビーム出射を停止すると共に、直ちに減速に移行する。
【0085】
一方、体内深度方向について同一のエネルギーで照射可能なスポット(すなわち同一層内の全スポット)を照射し終えた場合にも直ちに減速に移行する。また、患者22に対して1治療照射に必要な線量のトータルは治療前に定められているため、線量モニタ32などで測定されている線量の積算値がその値に達した場合には安全上の観点からの線量満了となり、インターロック装置50を介して開閉スイッチ10を開成して高周波印加電極7への高周波出力が停止され、出射が停止される。
【0086】
以上説明した本実施形態においても1周期内における出射工程の時間を延長するように制御するので、ペンシルビームスキャニング方式によって出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われても、1周期内でのシンクロトロン4から出射されるビーム量を減少させることなく、ほぼ設定量に保つことができる。したがって、実施形態1及び実施形態2と同様に照射時間を短縮でき、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0087】
(実施形態4)
以上述べた実施形態1乃至3では加速器としてシンクロトロンを用いるようにしたが、本発明は加速器としてサイクロトロンを用いた荷電粒子ビーム出射装置にも適用することができる。このサイクロトロンを用いた荷電粒子ビーム出射装置を図13を用いて説明する。
【0088】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置は、実施形態2の荷電粒子ビーム出射装置においてイオンビーム発生装置1をイオンビーム発生装置1Aに、高周波出力制御装置63をイオン源出力制御装置63Aにそれぞれ替え、エネルギー変更装置101を新たに設けた構成を有する。本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の他の構成は実施形態2の荷電粒子ビーム出射装置の構成と同じである。本実施形態でもRMWを用いて照射野を形成し、照射を実施する照射装置16を設けている。
【0089】
イオンビーム発生装置1Aは、サイクロトロン(加速器)4A、イオン源102、イオン源出力調整装置8A、スイッチ9A及びスイッチ10Aを有する。サイクロトロン4Aは加速装置(図示せず)を有する。また、エネルギー変更装置101は、サイクロトロン4A付近でビーム輸送系2に設置される。エネルギー変更装置101は、イオンビームを通過させてエネルギーを損失させる板状の複数のディグレーダ(図示せず)、エネルギーの低くなったイオンビームを偏向する偏向電磁石(図示せず)、偏向電磁石通過後のイオンビームの一部分を切り出すアパーチャ(図示せず)等を備える。エネルギー変更装置101が有する複数のディグレーダは、複数のエネルギーを得るために、それぞれ厚みが異なっている。イオンビームはディグレーダを通過することによってエネルギーが変更される。サイクロトロン4Aは、イオン源102で生成されたイオンビームを加速装置(図示せず)によって加速して出射し続けるため、シンクロトロン4のように入射・加速・出射といった工程を持たない。サイクロトロン4Aから出射されるイオンビームの強度の調整及びイオンビームの出射のON及びOFFは、イオン源102の出力調整、及びON及びOFFによって実施される。
【0090】
加速器制御装置60は、イオン源出力調整装置8Aの出力を制御するイオン源出力制御装置63Aを有する。スイッチ9Aは、RMW40の回転に伴うビーム照射のON/OFF信号を受け取りタイミングを制御するタイミング制御装置62によって、ON/OFFされる。スイッチ10Aは、照射線量の満了や各種インターロック条件によりビームを停止させるインターロック装置50によってON/OFFされる。スイッチ9A及びスイッチ10Aは、イオン源出力調整装置8Aからイオン源102に入力される出力をON/OFFしてイオン源出力をON/OFFする機能を有する。
【0091】
前述したように、照射制御装置70の照射条件記憶部72に記憶された照射条件中のSOBPには、RMW40の種類及びビーム照射領域情報(すなわちRMW40のどの領域(回転角度)でビームをON/OFFするかという情報))が含まれている。このSOBPとRMW40の種類及びビーム照射領域情報との関係については、予め計算及び実験等により求めてある。本実施形態4では実施形態2と同様に、イオン源出力制御装置63Aが照射条件中のRMW40の照射開始角度情報及び照射停止角度情報に基づき、これらの情報からビーム照射信号のON時間の割合であるデューティaを算出する。なお、実施形態1と同様にタイミング制御装置62がデューティaを算出し、それを入力するようにしてもよい。イオン源出力制御装置63Aは、この算出したデューティaを元に、ある一定の期間内、例えばRWMの回転1周期内に出射されるイオンビームの量が設定量になるようにイオン源出力調整装置8Aの出力を増加させるように制御する。
【0092】
以上説明した本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置によれば、デューティaに応じてイオン源102からの出力を増加させるように制御させることにより、RWM40の1回転周期内にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合であっても、1回転周期内でのサイクロトロン4Aから出射されるビーム量を減少させることなく、ほぼ設定量に保つことができる。したがって、本実施形態は、実施形態1及び2と同様に照射時間を短縮できる。その結果、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0093】
また本実施形態においても、荷電粒子ビーム出射装置の線量率を向上することができることを図14を用いて説明する。本実施形態の照射においては、サイクロトロン4Aから出射される出射ビームは周期的ではなくほぼ一定で、その出射電流値をI0とするとRWMの回転に応じてビーム照射をON/OFFしない場合の線量率D0は電流値に比例し以下のように表すことができる(図14(a)参照)。
【0094】
【数7】
【0095】
RMWの回転に応じたビームのON/OFFが行われてそのデューティがaであった場合に、本実施例を適用せずイオン源出力を変更しないまま照射を実施した場合には、線量率D3はデューティaの比率のまま減少し下式のようになる(図14(b)参照)。
【0096】
【数8】
【0097】
本実施例では、デューティaに応じてイオン源出力を増加させ出射ビーム電流値を増加させる、すなわち電流をI0/aとするため、線量率D3’はRMWの回転に応じたビームのON/OFFが実施された場合と変わらず下式のように表され、
【0098】
【数9】
【0099】
本実施例の運転方法を適用しない場合の線量率D3と適用した場合の線量率D3’の比率を求めると、下式のようになる。
【0100】
【数10】
【0101】
上式よりわかるように、出線量率向上はデューティaに反比例し、デューティが小さくなるほど線量率が向上することになる。
【0102】
なお、本実施例においてイオン源出力の増加、すなわち電流値の増加は1/aとしたが、増加後の電流値I0/aがイオン源出力の上限値、出射電流値の上限値となる可能性もあるため、その場合には上限値での照射となる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図2】図1に示すRMWの全体構造を表す斜視図である。
【図3】図2に示すRMWの上面図であり、3種類のイオンビームの照射条件を示した図である。
【図4】図3に示す3種類のビーム照射条件を時系列で示した図である。
【図5】図3に示す3種類のビーム照射条件により得られる線量分布を示す図である。
【図6】図1に示すシンクロトロンの基本運転パターンを示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態の荷電粒子ビーム出射装置におけるビーム照射手順を示すフローチャートである。
【図8】図1に示すシンクロトロンにおいて、出射工程中におけるビームON時間の割合に基づき出射工程時間を延長した運転パターンを示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態による線量率向上効果を説明するための図である。
【図10】シンクロトロンから得られるイオンビームの時間的変動がある場合に、出射用高周波電極に印加する高周波出力の時間変化の一例を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図12】本発明の第3実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図13】本発明の第4実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図14】第3の実施の形態の効果を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0104】
4 シンクロトロン(加速器)
4A サイクロトロン(加速器)
8 高周波電源(ビーム出射量調整装置、ビーム強度調整装置)
9 開閉スイッチ(ビーム出射量調整装置、出射時間調整装置)
16 照射装置
16’ 照射装置
62 タイミング制御装置(制御装置、出射可能時間設定装置、積算装置、判定装置、出射停止装置)
62A タイミング制御装置(制御装置、出射可能時間設定装置、積算装置、判定装置、出射停止装置)
63 高周波出力制御装置(制御装置、ビーム強度設定装置)
63A 高周波出力制御装置(制御装置、ビーム強度設定装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射する治療方法が知られている。この治療に用いる粒子線治療装置は、イオンビーム発生装置、ビーム輸送系、及び例えば回転式の照射装置を備えている。イオンビーム発生装置で加速されたイオンビームは、第1ビーム輸送系を経て照射装置に達し、照射装置に備えられた第2ビーム輸送系を通って照射ノズルから患者の患部に照射される。イオンビーム発生装置としては、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段、共鳴の安定限界の外側でイオンビームのベータトロン振動を共鳴状態にする手段、及びイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクタを備えた円形加速器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、イオンビームを用いた治療において、例えば陽子ビームの照射では、陽子が停止するに至ったときに陽子エネルギーの大部分が放出される(=ブラッグピーク)という特性を利用し、陽子ビームのエネルギーを選択することで陽子を患部近傍で停止させてエネルギー(吸収線量)の大部分を患部の細胞にのみ与えるよう図られる。
【0004】
ここで、通常、患部は臓器に存在することから、患者体内奥行き方向(すなわちビームの進行方向)にある程度の厚みをもっている。このような患部の厚み方向寸法全域にわたってイオンビームを効果的に照射するには、厚み方向にある程度広いフラットな吸収線量範囲(拡大ブラッグピーク(spread-out Bragg peak)。以下、SOBPと記載する。)を備えるように、イオンビームを制御しなければならない。
【0005】
このような観点から、従来、段階的に厚みが増大又は減少する分布を備えた形状の構造物をビームの進行方向と垂直な方向に周期的に配置することで、ビームの入射位置に応じてビームが通過する厚さを変更するリッジフィルタが既に提唱されている(例えば、非特許文献1参照。)。このリッジフィルタをビームが通過すると、構造物と構造物の間をイオンビームが通過したときにビームエネルギーは減衰することなく通過するためブラッグピークが体内深くにて生じ、構造物のうち薄い段部を通過したときはビームエネルギーが若干減衰されてブラッグピークが体内中央部にて生じ、構造物のうち厚い段部を通過したときはビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。このように、異なる体内深さのブラッグピークが照射される結果、体表面近くから体内深くまでに至る比較的広いSOBPを得ることができる。
【0006】
また、SOBPを得る別の手段として周回方向に段階的に厚みが増大又は減少する分布を備えた羽根を複数枚有するレンジモジュレーションホイール(以下、RMWという)が既に提唱されている(例えば、非特許文献2参照。)。このRMWをイオンビームの進路に設けてイオンビームの進行方向に垂直な面内で回転させると、羽根と羽根の間をイオンビームが通過したときはビームエネルギーは減衰することなく通過するためブラッグピークが体内深くにて生じ、羽根のうち薄い段部を通過したときはビームエネルギーが若干減衰されてブラッグピークが体内中央部にて生じ、羽根のうち厚い段部を通過したときはビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。RMWの回転によりこのようなブラッグピーク位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、体表面近くから体内深くまでに至る比較的広いSOBPを得ることができる。
【0007】
一方、患部形状に対する線量分布の一致性を向上し周辺臓器への不要線量を極力低減する照射方式のひとつとして、ペンシル状の小径ビームを患部形状に合わせて走査するペンシルビームスキャニング方式がある。この照射方式において、照射領域を微小なターゲット(以下、スポットという)に分割し、そのスポットに予め定められた線量を照射したらビームを停止し、次のスポットへの照射準備が整い次第照射を開始し、そのスポットでの規定線量に達したらビームを停止し、再び次のスポットへの照射準備を行うという照射方式が提案されている(例えば、特許文献2参照。)この場合、深さ方向の制御は、円形加速器を用いる場合には目標エネルギーの設定を順次変更することにより行う。すなわち、患部を深さ方向に複数の層に分け、各層における全てのスポットの照射が終了したら円形加速器の目標エネルギー設定を変更し、層を移動する。同一層内においては、同一エネルギーでビームの照射・停止を繰り返して各スポットの照射を順次行う。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5363008号明細書
【特許文献2】特許第2833602号公報
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)のページ2078、図31(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2078 FIG.31)
【非特許文献2】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)のページ2077、図30(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2077 FIG.30)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者のうちの一部が関与してなされた発明、すなわち、RMWが回転しているときに、シンクロトロンからのイオンビームの出射をON/OFF制御する荷電粒子ビーム出射装置の発明が出願されている。その発明では、RMWを回転させつつ、例えば比較的長い時間、すなわちRMWの広い回転角度の範囲にわたってイオンビームを通過させるようにすればイオンビームの減衰度合いが大きく変動することからSOBPは広くなり、比較的短い時間すなわちRMWの狭い回転角度の範囲にイオンビームを通過させるようにすればイオンビームの減衰度合いがあまり変動しないためSOBPは狭くなる。このように、RMWの回転時にイオンビームの出射をON/OFF制御することで、1つのRMWで多様なSOBPを得られるので、RMWの交換頻度を低減でき、多数の患者に対し、円滑に治療を行うことができる。
【0010】
上記レンジモジュレーションホイールを用いて多様なSOBPを得る方法や、従来技術で述べたペンシルビームスキャニング方式は、前者は円滑な治療をもたらしスループットの高い治療装置を実現可能で、後者は線量集中性をより高めるという意味で照射精度の高い治療装置を実現可能であるため、イオンビームを用いた治療方法の高度化のために期待されている。いずれの照射においてもイオンビームの照射・停止を繰り返す照射方法であり、例えば円形加速器においては安定境界内にある荷電粒子の振動振幅を増大させビームを出射させる高周波電磁界をオン/オフさせることで、オン期間はビーム照射、オフ期間は照射停止という制御が可能になることが知られている。
【0011】
ここで、円形加速器は、イオンを前段の加速器から入射する入射工程、入射したイオンを目標のエネルギーまで加速する加速工程、加速したイオンを照射装置に対して出射する出射工程、及び出射工程終了後にイオンを減速する減速工程からなる一定の運転パターンを周期的に繰り返すように運用される。したがって、イオンビームは上記パターン運転を繰り返す円形加速器から断続的に出射されることになる。イオンビームの出射から次の出射に至るまでの時間間隔を運転周期と呼ぶ。このとき、特許文献1記載の従来の円形加速器では、運転周期が固定されており、その結果、1周期中における出射工程の時間も固定されていた。したがって、上記のRMWを用いて多様なSOBPを得る方法やペンシルビームスキャニング方式のように出射工程中にビームの出射・停止を繰り返す照射を行った場合、1運転周期内に円形加速器から照射装置に出射されるイオンビームの量が出射工程中におけるビーム出射時間が占める比率に応じて減少することになり、患者に対する照射時間が長くなる。その結果、単位時間当りの治療患者数が減少する。
【0012】
本発明の目的は、照射時間を短縮し、単位時間当りの治療患者数を増加することができる荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された荷電粒子ビームを照射装置から出射させる際に、加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に加速器から出射される荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように制御することにある。これにより、レンジモジュレーションホイールを用いて多様なSOBPを得る方法やペンシルビームスキャニングのように出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合においても、1周期内に照射装置から出射されるビーム量が減少することがない。したがって、患者に対する照射時間を短縮でき、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0014】
好ましくは、加速器の出射工程の時間を変更することにより、1周期内に加速器から出射される荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるようにするとよい。
【0015】
また好ましくは、加速器から出射される荷電粒子ビームの強度を変更することにより、1周期内に加速器から出射される荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるようにするとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、照射時間を短縮し、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(実施形態1)
本発明の好適な一実施形態である粒子線出射装置を、図1を用いて説明する。本実施形態の粒子線出射装置は、イオンビーム発生装置1と、イオンビーム発生装置1の下流側に接続されたビーム輸送系2とを有している。
【0019】
イオンビーム発生装置1は、イオン源(図示せず)、前段イオンビーム発生装置3及びシンクロトロン(加速器)4を有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5、及び加速装置6を有する。高周波印加装置5は、シンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極7と高周波電源8とを開閉スイッチ9,10にて接続した構成となっている。加速装置6は、その周回軌道に配置された高周波加速空胴(図示せず)、及び高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は前段イオンビーム発生装置(例えば直線イオンビーム発生装置)3で加速される。前段イオンビーム発生装置3から出射されたイオンビームはシンクロトロン4に入射される。荷電粒子ビームであるそのイオンビームは、シンクロトロン4で、高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。シンクロトロン4内を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギー(例えば60〜250MeV)までに高められた後、高周波電源8からの出射用の高周波が、閉じられた開閉スイッチ9,10を経て高周波印加電極7に達し、高周波印加電極7よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン4に設けられた四極電磁石12及び偏向電磁石13に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。開閉スイッチ9又は10を開いて高周波印加電極7への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止されるようになっている。
【0020】
イオンビーム発生装置1の運転制御は加速器制御装置60によって行われる。この加速器制御装置60は、シンクロトロン4の運転条件を記憶する加速器運転条件記憶部61、及びシンクロトロン4の入射・加速・出射・減速の4つの工程からなるパターン運転のタイミングに関わる制御を行うタイミング制御装置62を有している。照射制御装置70から与えられる照射条件に対応した加速器の運転条件は予め計算や実験によって定められており、加速器制御装置60はその運転条件を加速器運転条件記憶部61から呼び出して各機器の設定を行う。
【0021】
シンクロトロン4から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を経て下流側に輸送される。ビーム輸送系2は、四極電磁石14及び偏向電磁石15と、治療室内に配置された照射装置16に連絡されるビーム経路17と、このビーム経路17にビーム進行方向上流側より配置された四極電磁石18,18、偏向電磁石19,20とを備える。ビーム輸送系2へ導入されたイオンビームは、ビーム経路17を通って照射装置16へと輸送され、治療台21に乗っている患者22の患部に照射される。偏向電磁石15以降の機器は図中の回転軸を中心に患者の周りを回転し、様々な方向からイオンビームを照射可能とする回転ガントリー(図示せず)と呼ばれる装置上に設置されている。
【0022】
本実施形態の照射装置16では、散乱体(図示せず)による照射野拡大とレンジモジュレーションホイール(以下、RMWという)40を用いた拡大ブラッグピーク形成により照射野を形成する。照射装置16の内部には、線量モニタ31(ひとつとは限らない)、RMW40などがビーム軸上に配置されている。
【0023】
RMW40の詳細構造を図2に示す。この図2に示すように、RMW40は、回転軸43、この回転軸43と同心円に配置された円筒部材44、及び回転軸43に取り付けられRMW40の半径方向に伸びた複数の翼(本実施例では3枚)45を有している。これらの翼45はその周方向における幅が径方向外側に行くほど広くなるように(すなわち円筒部材44側が回転軸43側よりも広くなるように)形成されており、径方向外側の端部は円筒部材44の内周面に取り付けられている。また、RMW40の周方向における翼45,45間には、それぞれ開口46が形成されている。すなわち、1つのRMW40には3枚の翼45の相互間に形成された開口46が3つ存在する。これら開口46も周方向における幅が径方向外側に行くほど広くなるように形成されている。
【0024】
上記各翼45は、RMW40の周方向において階段状に配置された複数の平面領域47(すなわち平面領域47は、例えば階段において足を乗せる平面に相当する。)を有しており、ビーム軸の方向におけるRMW40の底面から各平面領域47までの各厚みが異なっている(RMW40の底面から各平面領域47までのレベルが異なる)。ここでは、1つの平面領域47の部分におけるその厚みを、平面領域部分の厚みという。すなわち、翼45は、周方向において翼45の両側に位置する開口46からビーム軸の方向における最も厚みの厚い翼頂部45Aに位置する平面領域47に向かって各平面領域部分の厚みが増加するように形成されている。各平面領域47は回転軸43から円筒部材44に向かって延びており、その周方向における幅も径方向外側に行くほど広くなっている。
【0025】
このように構成されるRMW40には回転角度(回転位相)を検出する角度計(図示せず)が設けられている。この角度計で検出されたRMW40の回転角度は、照射制御装置70の照射制御部71に出力される。
【0026】
ここで、本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置では、RMW40の回転角度に応じてイオンビーム発生装置1からのイオンビームの出射のON/OFFを制御することにより、単一のRMW40で複数のSOBPを得られるように図っている。以下、この詳細について説明する。
【0027】
図3はRMW40の上面図であり、3つのイオンビームの照射条件D,E,Fを例として示している。図4はこれらビーム照射条件D,E,Fを時系列で示した図であり、また図5はこれらビーム照射条件D,E,Fによって得られる線量分布を示す図である。
【0028】
すなわち、開口部46をイオンビームが通過したときにはビームエネルギーは減衰することなく通過するためブラッグピークが体内深くにて生じ、翼45のうち平面領域部分の厚みが比較的薄い平面領域47を通過したときはビームエネルギーが若干減衰されてブラッグピークが体内略中央部にて生じ、翼45のうち平面領域部分の厚みが比較的厚い平面領域47を通過したときはビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。したがって、図3及び図4中照射条件Dに示すようにRMW40の周方向全領域において常にイオンビームの照射がONである場合には、RMW40の回転により上記のようなブラッグピーク位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、図5中線量分布Dのように体表面近くから体内深くまでに至る比較的広いSOBPが得られる。
【0029】
一方、図3及び図4中照射条件Eに示すように、各翼45の厚みが比較的厚い平面領域47(翼頂部45A付近)ではイオンビームの照射をOFFとし、その他の周方向領域ではビーム照射ONとする場合には、ビームエネルギーが大きく減衰され体表面近くの浅い部分で生じるブラッグピーク分布がなくなるため、図5中線量分布Eのように線量分布Dよりも狭いSOBPが得られる。
【0030】
他方、図3及び図4中照射条件Fに示すように、開口46及び各翼45の厚みが比較的薄い平面領域47にてイオンビームの照射をONとし、その他の周方向領域ではビーム照射OFFとする場合には、ビームエネルギーの減衰量が少なく体内深くにて生じるブラッグピーク分布のみとなるため、図5中線量分布Fに示すように線量分布Eよりもさらに狭いSOBPが得られる。本実施形態の粒子線治療装置では、以上のようにRMW40の回転角度に応じてイオンビームの出射のON・OFF制御を行うことにより、単一のRMW40で複数の異なるSOBPを形成する。
【0031】
図1に戻り、照射制御装置70は、照射制御部71及び照射条件記憶部72を有している。治療計画装置73では患者22の患部に対する照射条件を定め、照射条件記憶部72にその内容を記憶させる。照射条件情報の項目には、SOBP(RMW40の種類及びビーム照射領域情報(すなわちRMW40のどの領域(回転角度)でビームをON/OFFするかという情報))が含まれている。このSOBPとRMW40の種類及びビーム照射領域情報との関係については、予め計算及び実験等により求めておく。
【0032】
照射制御部71は、SOBPを形成するためのイオンビーム発生装置1からのイオンビームの出射のON/OFF制御を行う。すなわち、まず照射条件記憶部72に記憶された照射条件情報中のSOBP(ビーム照射領域情報)を読み出す。そして、角度計からRMW40の回転角度を入力し、上記照射条件記憶部72から読み出したビーム照射領域情報に基づいて、RMW40の回転角度がビームON領域の角度となったら加速器制御装置60のタイミング制御装置62へビーム照射オン信号を出力する。
【0033】
一方、シンクロトロン4の運転は、図6に示すように入射、加速、出射、減速の4つの工程からなるパターン運転を周期的に繰り返す。図6は横軸に時間、縦軸にシンクロトロン4の運転パターンを代表する偏向電磁石13で発生する磁場強度を示す。なお、この図6は、上述したイオンビームの出射のON/OFF制御を行わずに出射工程中において常時ビームを出射する場合の偏向電磁石13の磁場強度を示している。ここで、磁場強度B1は入射時のエネルギーのイオンを周回させる磁場に相当し、B2は加速後のエネルギーのイオンを周回させる磁場に相当する。また、Texは周期毎の出射可能時間(出射工程時間)、Tはビームの出射が終了してから次の周期のビーム出射が開始されるまでの時間であり、Tex+Tがシンクロトロン4の1運転周期となる。
【0034】
出射工程においては、図示しない電磁石電源制御装置から加速器制御装置60のタイミング制御装置62に対して出射可能信号が出力される。この出射可能信号のON/OFFのタイミングを上記偏向電磁石13の磁場強度の変化と合わせて図6に示す。タイミング制御装置62は、電磁石電源制御装置から入力される出射可能信号のONと、照射制御装置70の照射制御部71から入力されるビーム照射オン信号とが重なったタイミングにおいて、開閉スイッチ(ビーム出射量調整装置、出射時間調整装置)9を閉じてシンクロトロン4からのイオンビームの出射を行う。
【0035】
また、タイミング制御装置62はビーム照射オン/オフ信号用の積算タイマー(図示せず)を有しており、照射制御部71から出力されるビーム照射信号のオン時間の積算を行う。一方で、タイミング制御装置62は照射制御装置70から入力される照射条件に応じて加速器運転条件記憶部61から読み出した加速器運転条件情報に基づき、出射可能時間を設定する(詳細は後述)。そして、上記照射制御部71から出力されるビーム照射オン信号の積算時間が上記設定した出射可能時間に至った場合には、開閉スイッチ9を開いてシンクロトロン4からのイオンビームの出射を停止させる。
【0036】
以上のような構成である本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置における治療照射の手順を図7を用いて説明する。本フローチャートに表される各手順は、加速器制御装置60及び照射制御装置70によって実行される。それらの手順の実行により、1周期内にシンクロトロン4から出射されるイオンビームの量がほぼ設定量となる制御、すなわち、出射されるそのイオンビーム量がほぼ一定となる制御が行われる。
【0037】
まず、照射制御装置70は、治療計画装置73で定められた患者22の患部に対する照射条件(ビームエネルギー、SOBP等)を照射条件記憶部72に入力し、記憶させる(ステップ81)。そして、照射制御装置70の照射制御部71は、記憶した照射条件に基づいて照射装置16の各機器の運転条件を設定する。また、加速器制御装置60は、照射制御装置70から照射条件を入力し、イオンビーム発生装置1の各機器の運転条件を設定する(ステップ82)。
【0038】
照射制御装置70の照射制御部71は、照射条件記憶部72から照射条件のSOBPに含まれるビーム照射領域情報(RMW40の照射開始角度及び照射停止角度)を読み出す(ステップ83)。そして、照射装置16に設けたRMW40の駆動装置(図示せず)に駆動信号を出力し、RMW40を回転駆動させる(ステップ84)。照射制御部71は、RMW40の回転駆動中は常に角度計からRMW40の回転角度を入力し、この入力した回転角度がRMW40の照射開始角度と一致するかどうかを判定する(ステップ85)。一致した場合、照射制御部71はビーム照射オン信号を加速器制御装置60のタイミング制御装置62に出力する(ステップ86)。一方、角度計から入力したRMW40の回転角度が照射停止角度に一致した場合には、照射制御部71はビーム照射オフ信号を加速器制御装置60のタイミング制御装置62に出力する(ステップ87)。上記ステップ85〜87を繰り返すことにより、RMW40の回転角度に応じたビームON/OFF制御が行われる。
【0039】
一方、上記ステップ83〜87と並行して、加速器制御装置60のタイミング制御装置62は、先のステップ82で入力した照射条件及び設定された運転条件から出射可能時間を設定する(ステップ88)。この出射可能時間の具体的な設定方法について、図8を用いて説明する。
【0040】
この図8に示すように、照射制御部71からタイミング制御装置62に出力されるビーム照射信号の1周期中のON時間の割合(以下、デューティと記載)をa(=A/B)とする。ここでは説明を簡易とするため、ビーム照射信号はON時間をA、1周期の時間をBとする波形を繰り返すものとする。したがって、デューティaはシンクロトロン4の出射工程中におけるビーム出射ON時間の割合とも言える。例えば、前述した図3,図5の照射条件DのようにRMW40の回転に合わせてビームをON/OFFしない場合にはデューティa=1となり、図3,図5の線量分布E,FのようにSOBPを小さくする場合にはデューティaは1よりも小さくなる。すなわちデューティは0<a≦1の範囲になる。タイミング制御装置62は、照射条件のSOBP情報に含まれるRMW40の照射開始角度及び照射停止角度を入力し、これらの情報からデューティaを算出する。そして、実際にビームを出射する時間の積算が出射可能時間Tex(図6参照)となるようにするため、1周期中の出射工程の時間(すなわち出射開始から出射終了までの時間)をTex/aに設定する。これにより、出射可能信号のONと照射制御部71から入力されるビーム照射オン信号とが重なったタイミングにおいてタイミング制御装置62から開閉スイッチ9に出力されるビーム照射オン信号(図8に実際の出射ON信号として示す)の積算時間が出射可能時間Texとなるようになっている。
【0041】
図7に戻り、例えば図示しないコンソールの治療開始ボタンがオペレータにより押されることによって、治療照射が開始される(ステップ89)。まず加速器制御装置60は前段イオンビーム発生装置3に出射開始信号を出力する。これにより、前段イオンビーム発生装置3から出射されたイオンビームがシンクロトロン4に入射される(ステップ90)。このとき、シンクロトロン4の各電磁石の励磁電流は図示しない電磁石電源装置によりイオンビームの入射エネルギーに対応した値に制御されている。そして、シンクロトロン4の各電磁石の励磁電流が高められつつ、シンクロトロン4内を周回するイオンビームは高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によって加速され(ステップ91)、設定されたエネルギーまで高められると、各電磁石に導かれる励磁電流が一定の設定値に保持される(ステップ92)。このとき、図示しない電磁石電源制御装置からタイミング制御装置62に対して出射可能信号が出力される。
【0042】
次に、加速器制御装置60のタイミング制御装置62は、照射制御装置70の照射制御部71からビーム照射オン信号が入力されたかどうかを判定する(ステップ93)。先に説明したステップ86でビーム照射オン信号がタイミング制御装置62に対して出力されていれば、開閉スイッチ9に対してビーム照射オン信号を出力し、開閉スイッチ9を閉成させる。これにより、高周波電源8からの出射用の高周波が閉じられた開閉スイッチ9,10(ここでは開閉スイッチ10が閉成されているものとする)を経て高周波印加電極7に達し、高周波印加電極7よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。シンクロトロン4から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を経て下流側の照射装置16へと輸送され、治療台21に乗っている患者22の患部に照射される(ステップ94)。
【0043】
照射中、照射制御装置70の照射制御部71は常時線量モニタ31から照射中のイオンビームの線量検出値を入力し、その線量値を積算する。そして、この積算した線量値が治療計画装置73で定められた患者22の治療照射に必要な線量満了値に到達したかどうかを判定する(ステップ95)。
【0044】
一方、加速器制御装置60のタイミング制御装置62は、照射制御装置70の照射制御部71から入力されるビーム照射信号のオン時間を積算し、この積算した時間が先のステップ88で設定した出射可能時間に到達したかどうかを判定する(ステップ96)。ビーム照射オン信号の積算時間が出射可能時間に到達していない場合には、ステップ92〜ステップ96を繰り返す。この際に、先のステップ87で照射制御装置70の照射制御部71からタイミング制御装置62にビーム照射オフ信号が入力された場合には、開閉スイッチ9に対してビーム照射オフ信号を出力して開閉スイッチ9を開成させる。これにより、シンクロトロン4からのビーム出射が停止される(ステップ97)。また、照射制御部71からタイミング制御装置62にビーム照射オン信号が再び入力された場合には、開閉スイッチ9に対してビーム照射オン信号を出力して開閉スイッチ9を閉成させ、シンクロトロン4からのビーム出射を再び開始させる。
【0045】
ステップ92〜ステップ97を繰り返すうちに、照射制御部71から入力されるビーム照射オン信号の積算時間が出射可能時間に到達した場合には、直ちに開閉スイッチ9に対してビーム照射オフ信号を出力し、開閉スイッチ9を開成させてシンクロトロン4からのビーム出射を停止させる。そして、図示しない電磁石電源装置によりシンクロトロン4の各電磁石の励磁電流が徐々に下げられつつ、高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力が低下され、イオンビームの減速が行われる(ステップ98)。減速が終了すると(ステップ99)、シンクロトロン4の各電磁石の励磁電流は図示しない電磁石電源装置によりイオンビームの入射エネルギーに対応した値に再び設定され、前段イオンビーム発生装置3から出射されたイオンビームがシンクロトロン4に再び入射される。このようにして次の周期の運転パターンに進み、ステップ90〜ステップ99を再び繰り返す。
【0046】
このようにしてステップ90〜ステップ99を繰り返す間に線量満了となった場合には、照射制御部71はインターロック装置50に照射線量満了信号を出力する。これにより、インターロック装置50は開閉スイッチ10に対してビーム照射オフ信号を出力し、開閉スイッチ10を開成させる。これにより、シンクロトロン4からのビーム出射が停止され、治療照射を終了する(ステップ100)。
【0047】
なお、本実施形態においては、上記したようにタイミング制御装置62によるビームON/OFF制御と線量が満了した場合のインターロック装置50によるビームOFF制御とを、開閉スイッチ及びその動作のための信号の経路について安全性の観点から別系統としているが、これら開閉スイッチ及び信号経路を一つにまとめてもよい。
【0048】
タイミング制御装置62は、荷電粒子ビームの出射可能時間を設定する出射可能時間設定装置、荷電粒子ビームが出射された時間を積算する積算装置、出射時間が出射可能時間に到達したかどうかを判定する判定装置、及び荷電粒子ビームの出射を停止させる出射停止装置として機能する。
【0049】
以上説明した本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置によれば、以下の効果を奏する。
【0050】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置においては、1周期中の出射工程の時間(すなわち出射開始から出射終了までの時間)をTex/aに設定する。このようにしてデューティaに応じて出射工程の時間を延長することにより、出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合であっても、実際のビーム出射の積算時間を出射工程中にビームOFFの制御が行われない場合の出射可能時間Texとほぼ同等にすることができる。その結果、本実施形態のようにRMW40を用いて多様なSOBPを得るためにビームの出射及び出射停止を繰り返す運転を行う場合であっても、1周期内でのシンクロトロン4から出射されるビーム量を減少させることなくほぼ設定量に保つことができる。すなわち、その1周期内に出射されるビーム量はほぼ一定に保たれる。したがって、患者22に対する治療照射に必要な線量のトータルは治療前に定められていることから、1治療照射内におけるシンクロトロン4の運転周期数を低減することができ、照射時間を短縮できる。その結果、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0051】
また本実施形態によれば、荷電粒子ビーム出射装置の線量率を向上することができる。この線量率向上効果は、出射工程中におけるビーム出射ON時間の割合であるデューティaが小さくなるほど大きくなる。このことについて、以下に説明する。
【0052】
1治療照射における患者の患部に対する線量率は、周期一定の場合には、シンクロトロン4から得られる1周期当りのイオン(荷電粒子)の量と1周期の時間によって次式(1)のように記述できる。
【0053】
【数1】
【0054】
本実施形態において、1周期当りのイオンの量をQ[粒子数/周期]、出射可能時間Tex、出射以外の減速・入射・加速に要する時間をTとすると、線量率D1は比例係数Kを用いて次式(2)のように表すことができる。この比例係数Kは照射野の拡大サイズやイオンビームのエネルギー等に依存する数値で、SOBP以外の照射条件が同一の場合には同一の値になる。
【0055】
【数2】
【0056】
一方、比較のために、本実施形態のようにビーム照射信号のON時間の割合であるデューティaに応じた出射可能時間を設定し、その設定時間となるまでビーム出射を行う運転方法を適用しない場合には、1周期当りに出射されるビームの量はデューティaに応じて減少しaQとなる。したがって、その場合の線量率D0は次式(3)のように表される。
【0057】
【数3】
【0058】
本実施形態の運転方法による線量率向上はD1/D0で表され、次式(4)のようになる。
【0059】
【数4】
【0060】
一例として、出射可能時間を0.5秒、出射以外の減速・入射・加速に要する時間を1.5秒とした場合のD1/D0のデューティaに対する依存性を図9に示す。図9よりわかる通り、デューティaが小さいほど線量率比が増大し、本実施形態の運転方法の効果が高いことがわかる。
【0061】
さらに本実施形態によれば、先の図8に示すように、シンクロトロン4の運転周期を延長する分、1運転周期当りのRMW40の角度に応じたビームON/OFFの回数を増加できる。かつ、1周期毎に発生する可能性のある出射工程中の出射開始部・出射終了部における実際に必要なオン時間よりも短い照射を減少することができる。これにより、図5に示したような深部方向分布を時間的に平均化した形で得る場合において、平均化に要する時間をより短縮できるという効果をも得ることができる。
【0062】
なお、デューティaが非常に小さい場合には出射工程時間(出射開始から終了までの時間)が大きく伸びてしまい、加速された荷電粒子のシンクロトロンの周回回数が大きく増加することによって荷電粒子ビームの質が変化してしまうおそれがある。このような可能性を考慮し、出射開始から終了までの時間の上限値を設け、それを超えた場合には出射を停止し減速に移行するように制御してもよい。本上限値は加速器の運転条件毎、もしくはいずれの運転条件においても適用されるものとして予め計算及び実験で求めておく。
【0063】
また、1周期中にシンクロトロン4から得られるイオンビーム量の時間的変動が大きな場合には、高周波出力制御装置63(図11等参照)により、ビーム出射中に高周波印加電極7に印加する高周波の出力が例えば図10のGに示すような時間的変化をするように高周波電源8を制御してもよい。これは、シンクロトロン4からのイオンビームの単位時間当たりの強度が高周波出力の強度に依存して強弱の変化をさせることが可能な性質を利用したものである。さらに、このように高周波出力を変化させるパターンにおいて、上記実施形態1のようにRMW40の回転角度に応じてビームのON/OFF制御を行う場合には、そのビームOFF時間については高周波出力パターンの更新を停止し(すなわち高周波出力を一定とし)、ビームON時間についてのみ高周波出力パターンを更新し(すなわち高周波出力を変化させ)、例えば図10のHに示すような出力パターンとするのが好ましい。このようにすることで、デューティaが変化した場合でも高周波出力の波形(ビームOFF時間を除く)を一定に保つことができ、その上で1周期当りのビームの出射量をほぼ設定量に保つことができる。
【0064】
さらに、上記実施形態1においては1周期毎に出射されるイオンビーム量を一定に保つために照射制御装置70の照射制御部71からのビーム照射オン信号の出力時間を積算し、出射可能時間以内であれば照射を続け、出射可能時間を越えた場合には照射を停止してシンクロトロン4を減速に移行するという手段を採っているが、これに限らず、例えば図1に示す線量モニタ31から得られる1周期あたりに出射されるべきイオンビーム量に相当する線量出力値を予め照射制御部71において設定しておき、1周期毎に検出される線量の積算値がその設定された線量値以内であれば照射を続け、その線量値を超えた場合には照射を停止して減速に移行するという手段を採用してもよい。
【0065】
また、上記実施形態1においてはビーム照射オン信号の出力時間の積算を加速器制御装置60内で実施しているが、これに限らず、加速器制御装置60で設定した出射可能時間を照射制御装置70に対して出力し、照射制御装置70内で周期毎の照射オン時間の積算及び減速への移行判定を実施するようにしてもよい。
【0066】
(実施形態2)
本発明の他の実施形態である実施形態2の荷電粒子ビーム出射装置を、図11を参照して以下に説明する。
【0067】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置は、高周波電源(ビーム出射量調整装置、ビーム強度調整装置)8の高周波電力の出力を制御する高周波出力制御装置63を有する加速器制御装置60’を備える。すなわち、シンクロトロン4では1周期あたりに加速・出射可能なイオンビーム量は周期毎にほぼ一定とすることが可能で、周期毎の出射可能時間(出射工程時間)Texは高周波印加用電極7に印加する出射用高周波電磁界の、シンクロトロン4を周回するイオンに対する寄与によって決まる。この寄与は周回するイオンビームのエネルギーと高周波電磁界のパワーを決める高周波電源8の出力によって決まり、出射可能時間と本出力の関係は予め計算及び実験について決めておくことが可能である。したがって、周期毎の出射可能時間(出射工程時間)Texを一定とした場合には、高周波出力制御装置63により高周波電源8の出力を制御することで、シンクロトロン4の周期毎のビーム出射量を制御することが可能である。本実施形態では、このような運転制御を行う。
【0068】
前述したように、照射制御装置70の照射条件記憶部72に記憶された照射条件中のSOBPには、RMW40の種類及びビーム照射領域情報(すなわちRMW40のどの領域(回転角度)でビームをON/OFFするかという情報))が含まれており、このSOBPとRMW40の種類及びビーム照射領域情報との関係については、予め計算及び実験等により求めてある。本実施形態では、高周波出力制御装置63が照射条件中のRMW40の照射開始角度情報及び照射停止角度情報に基づき、これらの情報からビーム照射信号のON時間の割合であるデューティaを算出する(なお、実施形態1と同様にタイミング制御装置62がデューティaを算出し、それを入力するようにしてもよい)。高周波出力制御装置63は、この算出したデューティaを元に、1周期中に出射されるイオンビームの量がほぼ一定になるように出射用高周波電極7に印加する高周波電源8の出力を増加させるように制御する。なおこのとき、シンクロトロン4の運転周期はビームON/OFFによらず一定となるように、タイミング制御装置62により制御される。
【0069】
以上において、高周波出力制御装置63は、特許請求の範囲各項記載の制御装置を構成するとともに、荷電粒子ビームの強度を設定するビーム強度設定装置を構成するとともに、荷電粒子ビームに印加する高周波出力を制御する高周波出力制御装置を構成する。
【0070】
以上説明した本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置によれば、デューティaに応じて出射用高周波電極7に印加する高周波電源8の出力を増加させるように制御することにより、出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合であっても、1周期内でのシンクロトロン4から出射されるビーム量を減少させることなく、ほぼ設定量に保つことができる。したがって、実施形態1と同様に照射時間を短縮できる。その結果、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0071】
また本実施形態においても、荷電粒子ビーム出射装置の線量率を向上することができる。すなわち、本実施形態の照射においてはシンクロトロン4の運転周期はT+Tex、出射されるイオンビームの量はQとなるため、線量率D2は次式(5)のように表される。
【0072】
【数5】
【0073】
この線量率について本運転方法を適用しない場合の線量率D0との比率D2/D0を求めると字式(6)のようになる。
【0074】
【数6】
【0075】
上式よりわかるように、出射可能時間及びそれ以外の時間によらず線量率向上はデューティaに反比例し、デューティが小さくなるほど線量率が向上することになる。
【0076】
なお、上記実施形態2においては1周期毎に出射されるイオンビーム量を一定に保つために出射用高周波電極7に印加する高周波出力を大きくするという手段を採っているが、例えば1周期毎のシンクロトロン4の状態が不安定な場合などには短時間の内にビームが出射されてしまうことや、出射しきれずに終えてしまう可能性もある。このため、例えば図1に示す線量モニタ31から得られる1周期あたりに出射されるべきイオンビーム量に相当する線量出力値を予め照射制御部71において設定しておき、1周期毎に検出される線量の積算値がその設定された線量値以内であれば照射を続け、その線量値を超えた場合には照射を停止して減速に移行するという手段を採用してもよい。
【0077】
また、シンクロトロン4のビームエネルギー設定値が大きい場合には、本実施形態のような出射を実現するために大きな高周波出力が必要となるため、高周波電源出力が不足する場合も考えられる。このような事態を回避するために、例えば上記実施形態1と実施形態2とを組み合わせた運転、すなわち高周波出力の増加に応じて出射時間を長くするような制御を行い、その上で1周期あたりに出射されるイオンビームの量をほぼ設定量に、すなわち、ほぼ一定に保つように制御してもよい。
【0078】
(実施形態3)
本発明の他の実施形態である実施形態3の荷電粒子ビーム出射装置を、図12を用いて以下に説明する。本実施形態は、スキャニング照射方式の荷電粒子ビーム出射装置に本発明を適用した例である。
【0079】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置は、ペンシル状の小径ビームを患部形状に合わせて走査するペンシルビームスキャニング方式で照射を実施する照射装置16’を有しており、この照射装置16’はビーム走査用電磁石67,68を用いてビーム進行方向と垂直な面内方向にイオンビームを走査する。この照射方式においては、照射領域を微小なターゲット(以下、スポットという)に分割し、そのスポットに予め定められた線量を照射したら照射を停止し、次のスポットへの照射準備が整い次第照射を開始し、そのスポットでの規定線量に達したら照射を停止して再び次のスポットへの照射準備を行うという動作を繰り返し行う。体内深さ方向、すなわちビームの進行方向の移動はシンクロトロン4から出射されるイオンビームのエネルギーを変更することによって行われる。エネルギーを変更する際には、シンクロトロン4の運転を入射から始めて所望のエネルギーまで加速して出射する。スポットごとの線量は線量モニタ32で測定され、スポット毎に線量満了になると照射を停止し、その後ビーム走査用電磁石67,68の準備が整った状態で再び照射を開始する。
【0080】
患部の深さ方向の制御は、加速装置6の高周波電力を設定変更してシンクロトロン4の目標エネルギーの設定を順次変更することにより行う。すなわち、患部を深さ方向に複数の層に分け、各層における全てのスポットの照射が終了したらシンクロトロン4の目標エネルギー設定を変更し、層を移動する。同一層内においては、同一エネルギーでビームの照射・停止を繰り返して各スポットの照射を順次行う。同一エネルギーで照射するスポットに関してはシンクロトロン4の1周期内で照射する。したがって、本実施形態のようにスキャニング方式の照射を行う場合、1周期内での出射工程中にビームのON/OFF制御が行われることになる。
【0081】
本実施形態においては、照射制御部71から上記のスポット毎の線量満了に伴うビーム照射オフ信号と、次スポット照射のためのビーム照射オン信号が生成され、加速器制御装置60”のタイミング制御装置62に出力される。タイミング制御装置62はビーム照射オン・オフ信号用の積算タイマー(図示せず)を有しており、ビーム照射オン信号が入力された時間を積算する。一方で、加速器運転条件の一部である出射可能時間を設定する。この出射可能時間の設定は、前述の実施形態1及び2では周期的なRMW40の回転角度情報から算出したデューティaに基づいて設定するようにしたのに対し、本実施形態ではスポット毎の設定線量やビームの短期的な強度変化、スポット間の設定時間が必ずしも一定にならないことから、治療計画装置73で定められる照射条件(治療計画情報)に基づいて設定する。
【0082】
そして、上記積算したビーム信号オン時間と上記設定した出射可能時間とを比較し、積算時間が出射可能時間内であるような場合に、オン信号に合わせてビーム照射を行う。すなわち、開閉スイッチ9にビーム照射オン信号を出力して開閉スイッチ9を閉成させることにより、高周波電源8からの出射用の高周波が閉じられた開閉スイッチ9,10(ここでは開閉スイッチ10が閉成されているものとする)を経て高周波印加電極7に達し、高周波印加電極7よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を通って照射装置16’に運ばれ、走査用電磁石67,68により走査されて所定の位置のスポットに照射される。
【0083】
スポット線量が満了になると、照射制御部71から入力されるビーム照射オフ信号に合わせて開閉スイッチ9へビーム照射オフ信号を出力する。これにより開閉スイッチ9が開成し、高周波印加電極7への高周波電力の印加が停止されて、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止される。そして、照射制御部71により走査用電磁石67,68の設定が次のスポットに対応した設定に変更され、再びビーム照射オン信号がタイミング制御装置62に出力される。
【0084】
タイミング制御装置62で積算したビーム照射信号オン時間が出射可能時間に到達した場合には、開閉スイッチ9を開いてシンクロトロン4からのビーム出射を停止すると共に、直ちに減速に移行する。
【0085】
一方、体内深度方向について同一のエネルギーで照射可能なスポット(すなわち同一層内の全スポット)を照射し終えた場合にも直ちに減速に移行する。また、患者22に対して1治療照射に必要な線量のトータルは治療前に定められているため、線量モニタ32などで測定されている線量の積算値がその値に達した場合には安全上の観点からの線量満了となり、インターロック装置50を介して開閉スイッチ10を開成して高周波印加電極7への高周波出力が停止され、出射が停止される。
【0086】
以上説明した本実施形態においても1周期内における出射工程の時間を延長するように制御するので、ペンシルビームスキャニング方式によって出射工程中にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われても、1周期内でのシンクロトロン4から出射されるビーム量を減少させることなく、ほぼ設定量に保つことができる。したがって、実施形態1及び実施形態2と同様に照射時間を短縮でき、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0087】
(実施形態4)
以上述べた実施形態1乃至3では加速器としてシンクロトロンを用いるようにしたが、本発明は加速器としてサイクロトロンを用いた荷電粒子ビーム出射装置にも適用することができる。このサイクロトロンを用いた荷電粒子ビーム出射装置を図13を用いて説明する。
【0088】
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置は、実施形態2の荷電粒子ビーム出射装置においてイオンビーム発生装置1をイオンビーム発生装置1Aに、高周波出力制御装置63をイオン源出力制御装置63Aにそれぞれ替え、エネルギー変更装置101を新たに設けた構成を有する。本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の他の構成は実施形態2の荷電粒子ビーム出射装置の構成と同じである。本実施形態でもRMWを用いて照射野を形成し、照射を実施する照射装置16を設けている。
【0089】
イオンビーム発生装置1Aは、サイクロトロン(加速器)4A、イオン源102、イオン源出力調整装置8A、スイッチ9A及びスイッチ10Aを有する。サイクロトロン4Aは加速装置(図示せず)を有する。また、エネルギー変更装置101は、サイクロトロン4A付近でビーム輸送系2に設置される。エネルギー変更装置101は、イオンビームを通過させてエネルギーを損失させる板状の複数のディグレーダ(図示せず)、エネルギーの低くなったイオンビームを偏向する偏向電磁石(図示せず)、偏向電磁石通過後のイオンビームの一部分を切り出すアパーチャ(図示せず)等を備える。エネルギー変更装置101が有する複数のディグレーダは、複数のエネルギーを得るために、それぞれ厚みが異なっている。イオンビームはディグレーダを通過することによってエネルギーが変更される。サイクロトロン4Aは、イオン源102で生成されたイオンビームを加速装置(図示せず)によって加速して出射し続けるため、シンクロトロン4のように入射・加速・出射といった工程を持たない。サイクロトロン4Aから出射されるイオンビームの強度の調整及びイオンビームの出射のON及びOFFは、イオン源102の出力調整、及びON及びOFFによって実施される。
【0090】
加速器制御装置60は、イオン源出力調整装置8Aの出力を制御するイオン源出力制御装置63Aを有する。スイッチ9Aは、RMW40の回転に伴うビーム照射のON/OFF信号を受け取りタイミングを制御するタイミング制御装置62によって、ON/OFFされる。スイッチ10Aは、照射線量の満了や各種インターロック条件によりビームを停止させるインターロック装置50によってON/OFFされる。スイッチ9A及びスイッチ10Aは、イオン源出力調整装置8Aからイオン源102に入力される出力をON/OFFしてイオン源出力をON/OFFする機能を有する。
【0091】
前述したように、照射制御装置70の照射条件記憶部72に記憶された照射条件中のSOBPには、RMW40の種類及びビーム照射領域情報(すなわちRMW40のどの領域(回転角度)でビームをON/OFFするかという情報))が含まれている。このSOBPとRMW40の種類及びビーム照射領域情報との関係については、予め計算及び実験等により求めてある。本実施形態4では実施形態2と同様に、イオン源出力制御装置63Aが照射条件中のRMW40の照射開始角度情報及び照射停止角度情報に基づき、これらの情報からビーム照射信号のON時間の割合であるデューティaを算出する。なお、実施形態1と同様にタイミング制御装置62がデューティaを算出し、それを入力するようにしてもよい。イオン源出力制御装置63Aは、この算出したデューティaを元に、ある一定の期間内、例えばRWMの回転1周期内に出射されるイオンビームの量が設定量になるようにイオン源出力調整装置8Aの出力を増加させるように制御する。
【0092】
以上説明した本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置によれば、デューティaに応じてイオン源102からの出力を増加させるように制御させることにより、RWM40の1回転周期内にビームの出射及び出射停止が繰り返し行われる場合であっても、1回転周期内でのサイクロトロン4Aから出射されるビーム量を減少させることなく、ほぼ設定量に保つことができる。したがって、本実施形態は、実施形態1及び2と同様に照射時間を短縮できる。その結果、単位時間当りの治療患者数を増加することができる。
【0093】
また本実施形態においても、荷電粒子ビーム出射装置の線量率を向上することができることを図14を用いて説明する。本実施形態の照射においては、サイクロトロン4Aから出射される出射ビームは周期的ではなくほぼ一定で、その出射電流値をI0とするとRWMの回転に応じてビーム照射をON/OFFしない場合の線量率D0は電流値に比例し以下のように表すことができる(図14(a)参照)。
【0094】
【数7】
【0095】
RMWの回転に応じたビームのON/OFFが行われてそのデューティがaであった場合に、本実施例を適用せずイオン源出力を変更しないまま照射を実施した場合には、線量率D3はデューティaの比率のまま減少し下式のようになる(図14(b)参照)。
【0096】
【数8】
【0097】
本実施例では、デューティaに応じてイオン源出力を増加させ出射ビーム電流値を増加させる、すなわち電流をI0/aとするため、線量率D3’はRMWの回転に応じたビームのON/OFFが実施された場合と変わらず下式のように表され、
【0098】
【数9】
【0099】
本実施例の運転方法を適用しない場合の線量率D3と適用した場合の線量率D3’の比率を求めると、下式のようになる。
【0100】
【数10】
【0101】
上式よりわかるように、出線量率向上はデューティaに反比例し、デューティが小さくなるほど線量率が向上することになる。
【0102】
なお、本実施例においてイオン源出力の増加、すなわち電流値の増加は1/aとしたが、増加後の電流値I0/aがイオン源出力の上限値、出射電流値の上限値となる可能性もあるため、その場合には上限値での照射となる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図2】図1に示すRMWの全体構造を表す斜視図である。
【図3】図2に示すRMWの上面図であり、3種類のイオンビームの照射条件を示した図である。
【図4】図3に示す3種類のビーム照射条件を時系列で示した図である。
【図5】図3に示す3種類のビーム照射条件により得られる線量分布を示す図である。
【図6】図1に示すシンクロトロンの基本運転パターンを示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態の荷電粒子ビーム出射装置におけるビーム照射手順を示すフローチャートである。
【図8】図1に示すシンクロトロンにおいて、出射工程中におけるビームON時間の割合に基づき出射工程時間を延長した運転パターンを示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態による線量率向上効果を説明するための図である。
【図10】シンクロトロンから得られるイオンビームの時間的変動がある場合に、出射用高周波電極に印加する高周波出力の時間変化の一例を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図12】本発明の第3実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図13】本発明の第4実施形態の荷電粒子ビーム出射装置の全体概略構成を表す図である。
【図14】第3の実施の形態の効果を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0104】
4 シンクロトロン(加速器)
4A サイクロトロン(加速器)
8 高周波電源(ビーム出射量調整装置、ビーム強度調整装置)
9 開閉スイッチ(ビーム出射量調整装置、出射時間調整装置)
16 照射装置
16’ 照射装置
62 タイミング制御装置(制御装置、出射可能時間設定装置、積算装置、判定装置、出射停止装置)
62A タイミング制御装置(制御装置、出射可能時間設定装置、積算装置、判定装置、出射停止装置)
63 高周波出力制御装置(制御装置、ビーム強度設定装置)
63A 高周波出力制御装置(制御装置、ビーム強度設定装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器と、
前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量を変更するビーム出射量調整装置と、
前記加速器の出射工程中に前記荷電粒子ビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記ビーム出射量調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項2】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器と、
前記加速器の出射工程の時間を変更する出射時間調整装置と、
前記加速器の出射工程中に前記荷電粒子ビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記出射時間調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項3】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器と、
前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を変更するビーム強度調整装置と、
前記加速器の出射工程中に前記荷電粒子ビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記ビーム強度調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項4】
治療計画情報に基づき、前記ビーム出射量調整装置、前記出射時間調整装置、又は前記ビーム強度調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項5】
前記加速器の出射工程中における出射時間と出射停止時間との比率に基づき、前記ビーム出射量調整装置、前記出射時間調整装置、又は前記ビーム強度調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項6】
前記加速器の出射工程中における出射時間と出射停止時間との比率に基づき、前記加速器の前記荷電粒子ビームの出射可能時間を設定する出射可能時間設定装置、前記加速器から前記荷電粒子ビームが出射された時間を積算する積算装置、及び前記積算した出射時間が前記設定した出射可能時間に到達したかどうかを判定する判定装置を有する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項7】
前記判定装置により前記積算した出射時間が前記設定した出射可能時間に到達したと判定された場合に、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させる出射停止装置を備えたことを特徴とする請求項6記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項8】
前記加速器の出射工程中における出射時間と出射停止時間との比率に基づき、前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を設定するビーム強度設定装置、及び前記設定したビーム強度となるように前記加速器中を周回する前記荷電粒子ビームに印加する高周波出力を制御する高周波出力制御装置を有する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項3記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項9】
荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された前記荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように制御することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項10】
荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された前記荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記加速器の出射工程の時間を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項11】
荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された前記荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項12】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、前記荷電粒子ビームを周期的に出射・停止させる加速器と、前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を変更するビーム強度調整装置と、
前記加速器から出射される荷電粒子ビームの出射停止がある周期内*に行われる場合に、その周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記ビーム強度調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器と、
前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量を変更するビーム出射量調整装置と、
前記加速器の出射工程中に前記荷電粒子ビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記ビーム出射量調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項2】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器と、
前記加速器の出射工程の時間を変更する出射時間調整装置と、
前記加速器の出射工程中に前記荷電粒子ビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記出射時間調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項3】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器と、
前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を変更するビーム強度調整装置と、
前記加速器の出射工程中に前記荷電粒子ビームの出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記ビーム強度調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項4】
治療計画情報に基づき、前記ビーム出射量調整装置、前記出射時間調整装置、又は前記ビーム強度調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項5】
前記加速器の出射工程中における出射時間と出射停止時間との比率に基づき、前記ビーム出射量調整装置、前記出射時間調整装置、又は前記ビーム強度調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項6】
前記加速器の出射工程中における出射時間と出射停止時間との比率に基づき、前記加速器の前記荷電粒子ビームの出射可能時間を設定する出射可能時間設定装置、前記加速器から前記荷電粒子ビームが出射された時間を積算する積算装置、及び前記積算した出射時間が前記設定した出射可能時間に到達したかどうかを判定する判定装置を有する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項7】
前記判定装置により前記積算した出射時間が前記設定した出射可能時間に到達したと判定された場合に、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させる出射停止装置を備えたことを特徴とする請求項6記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項8】
前記加速器の出射工程中における出射時間と出射停止時間との比率に基づき、前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を設定するビーム強度設定装置、及び前記設定したビーム強度となるように前記加速器中を周回する前記荷電粒子ビームに印加する高周波出力を制御する高周波出力制御装置を有する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項3記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項9】
荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された前記荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように制御することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項10】
荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された前記荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記加速器の出射工程の時間を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項11】
荷電粒子ビームの入射、加速及び出射工程を含むパターン運転を周期的に行う加速器から出射された前記荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記加速器の出射工程中に出射停止が少なくとも1回行われる場合に、1周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項12】
荷電粒子ビームを照射装置から出射させる荷電粒子ビーム出射装置において、前記荷電粒子ビームを周期的に出射・停止させる加速器と、前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの強度を変更するビーム強度調整装置と、
前記加速器から出射される荷電粒子ビームの出射停止がある周期内*に行われる場合に、その周期内に前記加速器から出射される前記荷電粒子ビームの量がほぼ設定量となるように前記ビーム強度調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−273632(P2009−273632A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127150(P2008−127150)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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