荷電粒子ビーム加速器及びその荷電粒子ビーム加速器を用いた粒子線照射システム
【課題】主電磁石電源のリップルによってはベータトロン振動の安定領域境界が変動し出射されてしまうという課題を解決する荷電粒子ビーム加速器及びその荷電粒子ビーム加速器を用いた粒子照射システムの提供。
【解決手段】周回軌道からのビーム出射は、安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで運転されるとともに、RFKO機器(高周波発生装置)8の高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2で掃引され、かつf1>f2の振幅変調波形で制御される。
【解決手段】周回軌道からのビーム出射は、安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで運転されるとともに、RFKO機器(高周波発生装置)8の高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2で掃引され、かつf1>f2の振幅変調波形で制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン源から低エネルギビームを入射し、周回軌道上で加速した高エネルギビームを出射する荷電粒子ビーム加速器とこの荷電粒子ビーム加速器を用いた粒子線照射システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シンクロトロン等の円形加速器で荷電粒子ビームを周回加速させ、その周回軌道から取り出されたビームが、ビーム輸送系で輸送され、所望の対象物に照射する物理実験や、医療用に供されている。この場合前記円形加速器からのビーム取り出し方法(出射方法)に関して、高周波電界を周回ビームに与えて、ベータトロン振動の振幅を大きくし、安定限界の外に出すことにより出射する方法を用い、出射開始、停止はその高周波電界をON/OFFすることにより実施されている。
上記のことは、例えば特許文献1には、高周波電磁界をビームに与えてベータトロン振動振幅を大きくし、出射する方法が記載されているが、高周波発生装置(RFKO装置)の実用的な周波数制御に関しては記載されてない。
また特許文献2には、前記特許文献1に記載された出射方法を用いて荷電粒子ビームを癌治療や患部の診断に使用する目的で、任意のスポットに照射し、その後出射を止めてビームが次のスポットに来るようにビーム偏向装置を設定し、同出射方法で出射して照射することを繰り返すことが記載されている。
また非特許文献1には、前記特許文献1に記載された方式に対して、出射ビームの時間構造が滑らかで、高速でビーム出射・停止を実現できる方法が記載されている。
さらに非特許文献2には、前記非特許文献1に書かれていることを、より詳細に記載している。
またさらに非特許文献3には、機器の制御方法が詳細に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特許第2596292号公報
【特許文献2】特許第2833602号公報
【非特許文献1】"PROGRESS OF RF-KNOCKOUT EXTRACTION FOR ION THERAPY",欧州加速器会議(EPAC)プロシーディングス(2002年)、pp2738-2741
【非特許文献2】"Fast beam cut-off method in RF-knockout extraction for spot-scanning", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 489 (2002) 59-67.
【非特許文献3】"Advanced RF-KO slow-extraction method for the reduction of spill ripple", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 492 (2002) 253-263.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の出射方式では、周回ビームは常に安定限界領域の境界付近まで占めているため、主偏向電磁石や主四極電磁石の主電磁石電源等の変動により磁場が変動し、安定限界領域の境界が変動すれば出射されてしまうため、主電磁石電源等の出力変動を十分に小さく、すなわち高い安定度の電源とする必要があり、高コスト化の要因となっている。
【0005】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであって、高速出射四極電磁石とRFKO機器との組み合わせ運転によりビーム出射を行うことにより、主電磁石電源変動を起因とするビーム出射をなくする構成を採用して、主電磁石電源安定度のマージンを少なくした低コスト化を可能とした荷電粒子ビーム加速器と、その加速器を用いた粒子線照射システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に関する荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御運転されるRFKO機器と、安定領域境界を変化させる手段とが設けられており、
周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで運転されるとともに、RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、周波数f2側に比較して、周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転されるものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る荷電粒子ビーム加速器は、周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、安定領域境界を変化させる手段が、出射のタイミングで運転されるとともに、RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、周波数f2側に比較して、周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転されるので、主電磁石(主偏向電磁石や主四極電磁石)電源の出力電流変動(リップル)に基因するビーム出射がなされることがないため、主電磁石電源の安定度のマージンを従来より少なくすることが可能となり、電源の低コスト化を可能とし、また出射中の出射ビームの傾きを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1は、荷電粒子ビーム加速器200と、この荷電粒子ビーム加速器200を用いた粒子線照射医療システム500とを示す図である。図において、荷電粒子ビーム加速器200は、入射セプタム3、主偏向電磁石4、主四極電磁石5、高周波加速装置6、六極電磁石7および高周波発生装置であるRFKO機器8、出射四極電磁石9、出射セプタム10によって構成されており、RFKO機器8や出射四極電磁石9は出射制御部30で制御される。RFKO機器8は、FM変調、AM変調の機能を持つ高周波信号発生部と高周波アンプ及びキッカー電極から主に構成される。この荷電粒子ビーム加速器200は、その前段には低エネルギビームの入射系100が設けられている。この入射系100はイオン源1、線形加速器2によって構成されている。また、荷電粒子ビーム加速器200の出射セプタム10から出射された出射ビームは、ビーム輸送系300を通り、医療室に設けられた照射系400の照射装置14および線量モニタ15を通って照射対象体16、例えば患者の腹部に照射される。前記ビーム輸送系300は、偏向電磁石11、スピルモニタ12、照射路偏向電磁石13が設けられており、照射系400は照射装置14、線量モニタ15と照射対象体16とよりなる。なお前記照射路偏向電磁石13は、ビーム輸送系300ではなく照射系400に含まれる場合もある。図1に示す粒子線照射医療システム500は、前記入射系100、荷電粒子ビーム加速器200、ビーム輸送系300、照射系400によって構成される。
【0009】
次に、この実施の形態1の荷電粒子ビーム加速器200の動作について説明する。
粒子線であるイオンビームはイオン源1で発生し、線形加速器2で荷電粒子ビーム加速器200であるシンクロトロンに必要な入射エネルギーまで加速される。入射セプタム3を通して入射されたイオンビームは、主偏向電磁石4により偏向されて周回運動し、主偏向電磁石4と主四極電磁石5により収束力を受け、ビームサイズが広がることなく周回し続ける。ビーム中の荷電粒子は、閉じた軌道である平衡軌道のまわりを振動しながら周回するが、この振動をベータトロン振動と呼び、適切な収束力を与えることで荷電粒子は振幅一定の振動をする。ビーム中の荷電粒子の振幅は、ゼロに近いものから最大振幅まで様々である。また、周回ビームの中心はこの平衡軌道に一致する。また、運動量の異なる荷電粒子は平衡軌道も異なる。
この実施の形態1では、主電磁石としての主偏向電磁石4と主四極電磁石5のそれぞれ各1台の組み合わせが4組配置された構成としている。通常、ビームを水平・垂直方向に収束させるために極性の異なる2種類の四極電磁石が使われるが、この実施の形態1では、主偏向電磁石4は半径方向に磁場強度が変化するか、エッジ角を有することにより垂直方向にも収束力を与える機能を有する偏向電磁石4としており、それにより主四極電磁石5を1種類としている。偏向電磁石4は、原理的に偏向と同時に水平方向には収束力を与える。
入射系100より荷電粒子ビーム加速器200に入射されたビームは、高周波加速装置6で加速されるが、周回軌道が変動しないように主偏向電磁石4及び主四極電磁石5もビームエネルギー(運動量)の増加に合わせて磁場が強められる。加速後は、主偏向電磁石4及び主四極電磁石5の磁場強度は一定とし、高周波加速装置6はOFFとするか、ONとした状態でも加減速しない位相で運転される。これにより、加速後のビームは一定のエネルギーで周回し続ける。
【0010】
次に、ビーム出射について記述する前に、図2に基づいて粒子(イオン)1個1個の振る舞いに付いて簡単に説明する。粒子は、主偏向電磁石4及び主四極電磁石5により決まる収束力により、中心軌道の周りを振動しながら周回する。これをベータトロン振動と言う。この振動数の小数点以下の端数がゼロ、1/2、1/3(又は1−1/3)であれば、電磁石の誤差磁場により共鳴状態となり、ベータトロン振動振幅が増大し、最終的には真空チェンバ等にぶつかり消滅する。それぞれの共鳴を一次共鳴、1/2(二次)共鳴、1/3(三次)共鳴と呼ぶ。端数が1/4、1/5、・・・でも誤差磁場によっては共鳴するが、通常注意すべきは1/3までである。ベータトロン振動数がこの共鳴から遠ざかっている場合、粒子1個1個の運動を位相空間座標(水平x、垂直y座標と進行方向の傾きx’、y’)で見ると、図2に示す楕円の中で移動する。ベータトロン振動数が例えばn.25の場合(nは整数)、最大振幅の粒子は、図2の楕円最外周上を周回ごとに移動し、4周で元の位置に戻る。振幅が小さい粒子は、図2の楕円と相似形の小さな楕円上を4周で元の位置に戻るような運動をする。初期位相の異なる様々な粒子からなるビームの軌跡を描くと、図2の楕円内を埋め尽くす事になる。この楕円の大きさは不変である。
【0011】
次にビーム出射を図3、図4によって説明する。
主四極電磁石5の磁場を変化させることにより水平方向のベータトロン振動を1/3共鳴に近づけるとともに通常六極電磁石7を励磁して、共鳴状態を作りやすくする。ベータトロン振動が増幅しないで安定に周回できる領域をアクセプタンスと呼ぶが、六極磁場の非線形性から、アクセプタンスは位相平面上で図3、図4のように三角形(セパラトリクスと呼ばれ、その最外周をセパラトリクス境界あるいは安定領域境界と呼ぶ)となり、図4で詳述するようにそこから出た粒子は振幅を増大させ、出射セプタム10を超えた粒子は、出射セプタム10で外側に偏向されて、シンクロトロン200の外部に取り出される。
【0012】
主四極電磁石5と六極電磁石7は、セパラトリクスが周回ビームのエミッタンスよりも小さくならない値で一定に保たれる。この状態からビームを出射させるためには、図4(b)のように出射四極電磁石9を励磁してセパラトリクスを狭め、そこから出たビームが取り出される。この出射四極電磁石9は、高速で磁場を変化さすことの出来る電磁石で、空心コイルのみで構成するもの、フェライトコアやケイ素鋼板等の薄鋼板を積層した電磁石など様々なものが考えられる。そして必要なビーム量が取り出された後、図4(c)に示すように出射四極電磁石9の励磁を止めセパラトリクスを初期状態に戻す。この後、周回ビームに高周波発生装置(RFKO機器)8による高周波電界を与えて拡散させ、図4(a)のようにビームが取り出された空間を埋める。その後、出射四極電磁石9をONすれば、先と同様にビームは取り出される。図4の例では、説明を分かりやすくするためセパラトリクス境界までビームが満たされているが、実際には、周回ビームエミッタンスよりも大きくセパラトリクスを設定する。これにより、主電磁石電源リプルによりセパラトリクスの大きさが変動しても、周回ビームがセパラトリクス境界を越えて出射されることはなく、出射四極電磁石9の励磁によってのみ出射される。
出射ビームはビーム輸送系300を通して治療室に導かれ、照射装置14、線量モニタ15を通して患者16に照射される。照射装置14は、ビームを適切な位置に照射するためのスキャナー電磁石や、ビーム位置モニタ、ビームエネルギーを変えるレンジシフタなどから構成される。照射線量は線量モニタ15により正確に測定される。
【0013】
周回ビームのベータトロン振動数は振幅により少し異なる。このため、RFKO機器8による高周波電界は、1回出射後のセパラトリクス内の全ての粒子の振幅を増大させるように例えば周波数f1からf2まで掃引する。ここで、周波数f1は中心付近の粒子を共鳴状態にする周波数で、f2はセパラトリクス境界付近の粒子を共鳴状態にする周波数である。f1とf2の大小関係は、ベータトロン振動数の選び方で異なり、f1>f2の場合もあればf1<f2の場合もある。
この高周波電界の振幅をf1からf2まで一定にして運転した場合、セパラトリクス内の粒子密度は全体的に徐々に減少するため、ある同じ出射ビーム量を得るための出射四極電磁石9の励磁強度は、周回ビームが少なくなるほど強める必要がある。励磁強度が大きく変わると、1回の出射中に出射粒子の傾きが大きく変化することになり、照射点でのビーム位置の変化が無視できなくなる可能性がある。
【0014】
このような問題を無くするために、RFKO機器8による高周波電界の振幅を、図5に示すように変化させる。前述した周波数f1側ほど振幅を大きくすることにより、外側の粒子密度の低下を抑えることができる。この図5に示す例では、振幅を直線的に変化させているが、指数関数的或いは2次、3次関数的に変化させる方式も考えられ、荷電粒子ビーム加速器200であるシンクロトロンのパラメータ或いは運転方法等により変化のさせ方は最適化される。
【0015】
加速ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートを図6に示す。
図6は、周波数掃引を1回だけする方式の例だが、1回に限定されるものではない。また、振幅の変化のさせ方は加速ビームが全て取り出されるまで一定とした例だが、図7に示すように、f1側の振幅を徐々に大きくする方式はより効果的である。この例では、周回ビームの減少にともなってf1側の振幅を直線的に大きくしているが、指数関数的に増加させる方法や2次関数的或いは3次関数的に増大させるなど、シンクロトロンのパラメータ或いは運転方法等によりその変化のさせ方は最適化される。更に、図8に示すように、周回ビーム強度がある程度下がった段階で、上述のような変化のさせ方をする方式も有効である。また、この例ではf2の振幅は一定としているが、これに限定されるものではない。なお、RFKO機器8のパラメータは、出射四極電磁石9が励磁されていない時には出射されない値であることは言うまでもない。
一方、出射四極電磁石9は、出射ビーム強度が一定となるようにフィードバック運転する方式も効果的である。この場合、スピルモニタ12の測定値が設定値と等しくなるように出射四極電磁石9の電源がフィードバック制御される。このようにこの実施の形態1では、主電磁石4、5を励磁する電源の出力電流変動があってもビーム出射がされることはないため、電源の安定度のマージンを少なくすることが可能となり、低コスト化がはかれる。さらに、出射中の出射粒子の傾きの変化を少なくすることが出来る効果がある。
【0016】
ここで、この実施の形態1による上述の荷電粒子ビーム加速器200の出射ビームを利用した粒子線照射医療システム500における照射系400に設けられた照射装置14を用いたスポットスキャニング照射の1例を説明する。
図9は照射装置14の内部構成の一部を記載しており、図1に示した線量モニタ15はこの図9では図示省略している。ビーム位置を平行に移動させる平行スキャナ電磁石21で半径方向の任意の位置にビーム位置を設定できる。この平行スキャナ電磁石21を角度回転させることで2次元の任意の位置にビーム位置を設定できる。ビームの深さ方向の制御はレンジシフタ22の厚みを変えることにより実施される。従って、3次元の任意の位置にビームを照射することができる。照射前の治療計画において、患部を3次元的に分割し、患部全体に一様な線量が与えられるようにそれぞれのスポットに照射する線量(粒子数)を計算する。照射時には、1スポットに必要線量を照射後ビーム出射を一時停止し、次のスポットに照射できるように各機器パラメータを変え、再度ビームを出射し、そのスポットに必要とされるビームを照射する。全てのスポットが照射されるまでこれが続けられる。1スポット当たりの照射時間は出射ビーム強度を一定とした場合、数msから数10msである。全てのスポットがそれぞれ複数回照射される方法もある。なお、この実施の形態2では粒子線照射医療システムの例で説明したが、医療システムに限らず、殺菌や消毒等の粒子線照射システムであってもよい。
【0017】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。
この実施の形態2では、RFKO機器8を構成する図1では図示省略の高周波信号発生部は、第1の高周波信号発生部FM1(RFKO−FM1)と第2の高周波信号発生部FM2(RFKO−FM2)の2台が設けられている。これらの出力波形の1例を図10に示す。
前記第1の高周波信号発生部FM1では第1の周波数F1から第2の周波数F2までの掃引信号を発生し第2の高周波信号発生部FM2では、第3の周波数F3から第4の周波数F4までの掃引信号を発生し、それらを足し合わせた信号を高周波アンプで増幅し、キッカー電極に送られる。F1は中心付近のビームの振幅を増大させる周波数であり、F2は最外周付近の周回ビームの振幅は実効的には増大させない値とし、つまり、ΔF=|F2−F1|は実施の形態1よりは小さくする。F3〜F4は最外周付近の周回ビームの振幅を増大させ出射領域、すなわち安定領域境界まで移動させる値に設定し、出射領域まで振幅を増大された粒子が出射四極電磁石9の励磁により取り出される。
このようなシステムとすることにより、第1の高周波信号発生部F1は連続的な運転ができ、より効果的に中心部付近のビームを拡散でき、最外周付近の粒子密度の低下を抑制することができる。第2の高周波信号発生部F2は出射四極電磁石9を励磁する前だけ運転する。ここで、F2>F1となるパラメータの場合、F3は通常F2よりも小さい値に選ばれるが、F3=F2或いはF3>F2でも効果はある。これは、ある周波数がある振幅の粒子にだけ影響を与えるわけではなく、その周辺の振幅を持つ粒子にも影響を与えるためである。影響は徐々に小さくなる。従って、第2の高周波信号発生部F2は単一周波数でも効果が得られるケースもある。また、この方式では、図11に示すようなF1からF2までの振幅を一定としても、同様の効果が得られる。
【0018】
図12は第1の高周波信号発生部FM1を連続的に、第2の高周波信号発生部FM2は出射四極電磁石9を励磁する前だけ運転する場合のタイミングチャートを示す。図13は周回ビーム強度がある程度減少するまでは第1、第2の高周波信号発生部FM1、FM2は出射四極電磁石9を励磁する前だけ運転し、周回ビーム強度がある程度減少した以降は第1の高周波信号発生部FM1を連続的に運転する例のタイミングチャートである。このような運転により、最外周付近の粒子密度を全取り出し過程を通して一定に近づけることができる。第1の高周波信号発生部FM1からの信号振幅は、周回ビーム強度の減少に応じて変化させれば、より効果が大きくなる。更に、周回ビーム強度の減少に応じて第1の高周波信号発生部FM1と第2の高周波信号発生部FM2の運転パラメータを適切に変化させる方式は、制御は複雑になるが最良のビーム出射が可能となる。
【0019】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3について説明する。
セパラトリクス境界の変化は、出射四極電磁石9の発生磁場の時間変化に凡そ比例する。即ち、周回ビームの密度分布が一様ならば出射ビーム強度は磁場の時間変化に凡そ比例する。一方、周回ビームの密度分布は実際には一様でなく、時間とともに変化してゆく。従って、出射ビーム強度が一定となるように出射四極電磁石9の電源を制御するためには、荷電粒子ビーム加速器200からの出射ビーム強度をモニタする図1に示したスピルモニタ12からの信号が設定値に比べて小さくなった時には電源の出力電流の時間変化が大きくなるようにし、逆に大きくなった時には電源の出力電流の時間変化が小さくなるように制御すればよい。しかし、周回ビームの減少とともにビーム密度は減少するため、同じビーム量を出射するためのセパラトリクス境界の変化は徐々に大きくなってゆき出射ビームの傾きが無視できなくなる場合がある。
【0020】
この実施の形態3では、出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化を出射毎に測定し、その測定値から次のRFKO機器8の運転パラメータを決めることにより、前述の課題を解消している。
図14に運転例を示す。出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化(出射四極磁場波形の時間変化)が所定の値よりも大きくなった時には、出射領域付近の粒子密度が小さくなったことを示すので、内側の粒子を多く移動させるようにRFKO機器8の高周波信号振幅を大きくし、次の出射で出射四極電磁石9の電源出力の時間変化が所定の値に戻っていれば、RFKO機器8の高周波信号振幅は大きくした値で運転される。逆に電源の出力電流の時間変化が小さくなった時には、RFKO機器8の高周波信号振幅が小さくなるように制御する。この実施の形態3によるRFKO機器8の制御、運転を前述した実施の形態1および実施の形態2に組み合わせることにより、より効果的で出射粒子の傾きの少ない効果が得られる。つまり実施の形態1に記載した方式の場合には、図14のようにf1からf2までの振幅の変化率を増減すればよく、また、実施の形態2の方式では、図15に示すように第1の高周波信号発生部FM1の振幅を増減させる。
出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化の測定は、例えば、ビーム出射が開始されてから停止するまでの間の平均値とする。
この実施の形態3では出射毎にRFKO機器8にフィードバック制御する方式としたが、数回の出射の平均値を使う方式でも同様の効果が得られる。
【0021】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3では出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化を測定したが、出射粒子数を分子とし、ビーム出射開始時の出射四極電磁石9の電源の出力電流値とビーム出射停止時の出力電流値の差分を分母とした比を用いても同様の効果が得られる。
【0022】
実施の形態5.
次に、実施の形態5について説明する。
実施の形態1で説明したスポットスキャニング照射においては、スポットにより照射粒子数は約一桁異なる。従って、例えば中間的な照射粒子数が適切に出射できるようにRFKO機器8のパラメータを設定した場合に、最少のスポットが連続的に続くような照射を行うと、1回の出射では外側に移動した一部の粒子しか取り出さないために周回ビームは広がって行き、結果的に出射ビームの傾きが大きくなってゆく。最大のスポット照射が連続的に続く場合は、この逆の現象が生じる。
この実施の形態5は、このような課題を解決するためになされたもので、出射四極電磁石9の電源は出射ビーム強度が一定となるようにフィードバック制御され、1出射時の出射四極電磁石9の電源出力の最大値に応じて、その後のRFKO機器8の高周波信号振幅を制御する。つまり、照射粒子数の少ないスポットへの照射では、出射四極電磁石9の電源出力の最大値は小さく、その値を出射制御部30で読み取り、次に出力されるRFKO機器8の高周波信号振幅を小さくするように設定される。照射粒子数の多いスポットへの照射では、その逆の制御を行う。図16にその運転例を示す。また、図17に制御系の1例を示す。具体的な制御の1例としては、実施の形態1〜3で記載したRFKO機器8の高周波信号振幅の変化のさせ方をベースにして、出射四極電磁石9の電源出力の最大値に応じて、予め決められた割合で高周波信号振幅を増減する。実施の形態3に示した第1の高周波信号発生部FM1と第2の高周波信号発生部FM2の2台用いる方式では、第2の高周波信号発生部FM2は一定にして第1の高周波信号発生部FM1の振幅を変化させる方法、或いは両方を適切に変化させる方法がある。これらはシンクロトロンのパラメータによって適切な方法が選ばれ、傾きの少ない出射ビームが得られる。
【0023】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態5では、1スポットに必要な粒子数が照射されるまで出射四極電磁石9の励磁を強めてゆくことを前提にしたが、周回粒子数が少なくなると、出射四極電磁石9の励磁を非常に大きくしないと必要な粒子数が出射できなくなる場合が想定される。この場合、出射粒子の傾きが大きく変化することになり、問題になる可能性がある。このような状況を避けるためには、出射四極電磁石9の電源出力の上限を設定し、その値で必要な粒子数が照射できなかった時は、必要な粒子数に達するまで出射四極電磁石9の電源とRFKO機器8を繰り返し運転する方式とすればよい。また、RFKO機器8の高周波信号振幅にも上限を設けると、出射粒子の傾きの変化をより小さくすることができ、より効果的な照射が実現できる。
【0024】
実施の形態7.
なお、上記実施の形態1〜3、5、6ではRFKO機器8の高周波は周波数変調機能を使って周波数を掃引する方式としたが、ホワイトノイズやカラードノイズと言われるある周波数範囲を全て含んだ高周波でも、出射四極電磁石9の電源とRFKO機器8の交互の運転でビーム取出しができる。カラードノイズの場合の周波数範囲は、大体、粒子の周回周波数程度からその1/10程度に選ばれる。このような信号では、周回粒子のベータトロン振動振幅をセパラトリクス境界外まで増大させる高周波成分を含むため、1回の運転でセパラトリクス境界外まで周回ビームを移動しないような信号振幅と運転時間に設定する必要がある。粒子のベータトロン振動振幅の増大幅は、高周波信号振幅と時間に関係するためである。
また、周回ビーム強度の変化に対して、出射ビーム強度及び出射ビーム位置が常にほぼ一定となるように、これらの信号振幅をフィードバック制御する方式も有効である。
さらに、カラードノイズの周波数スペクトルの強度分布を周回ビーム強度変化に対して変化させることも有効である。例えば、セパラトリクス内部の粒子を共鳴状態にする周波数成分を徐々に大きくしてゆく。このような方式を採用することでも前述した出射粒子の傾きを少なくすることができる。
【0025】
実施の形態8.
次に、実施の形態8について説明する。
上記実施の形態1〜7では、セパラトリクスの変化が大きすぎると出射ビームの傾きが無視できなくなるため、セパラトリクスの変化を抑制する方法について記載した。この実施の形態8は、セパラトリクスの大きさが変化しても出射ビームの傾きが変化しない方法について記載する。
図18の実線で描いた2つのセパラトリクスA、Bは、セパラトリクスの大きさが変化することで出射ビームの傾きが変わることを示している。これに対して、実線の小さいセパラトリクスBと同じ大きさで破線で描いたセパラトリクスCであれば、出射ビームの傾きは変わらない。このようなセパラトリクス全体の位相平面上での移動は平衡軌道を移動させればよく、3台の偏向電磁石で可能となる。この偏向電磁石は一般にパルス電磁石でバンプ電磁石と呼ばれる。図19に示すように、出射セプタムの周辺に3台のバンプ電磁石20を設置することにより出射セプタム10の位置での平衡軌道の位置と傾き(x、x’)を任意に変える事ができる。また、出射四極電磁石9の電源出力に対するセパラトリクスの大きさの変化は予め計算できるため、出射ビームの傾きが変わらないような出射四極電磁石9の電源出力と3台のバンプ電磁石20の電源出力との関係を予め計算或いは実験で求めておき、それらの電源を同期を取って運転すれば、セパラトリクスの大きさに関係なく出射ビームの傾きを一定とすることができる。
なお、バンプ電磁石は3台としたが、これに限定されるものではなく、1台或いは2台でも満足できる結果が得られるシンクロトロンのパラメータが存在する可能性もある。
【0026】
以上の実施の形態1〜8は主に荷電粒子加速器200に関する点を記載したが、図1に示すようにこの実施の形態1〜8による荷電粒子加速器200を粒子線照射システムに用いることにより、照射時間中に、出射粒子の傾きの変化が少ない、低コストの装置を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明の実施の形態1〜8は、癌等の悪性腫瘍の治療に関する粒子線照射医療システムや、荷電粒子ビーム照射による殺菌、消毒や金属材料等の特性改善さらには物理実験等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1〜7の荷電粒子ビーム加速器と粒子線照射システムを示す図である。
【図2】加速中の荷電粒子ビームのアクセプタンス(セパラトリクス)を説明する図である。
【図3】加速中の荷電粒子ビームのアクセプタンス(セパラトリクス)を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1〜8にかかわるビーム出射方法の説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1のRFKO機器の高周波電界のパターン例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの1例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの他の例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの他の例を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態1のスポットスキャニング照射用の平行スキャナー方式の1例を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態2のRFKO機器の高周波電界のパターン例を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態2のRFKO機器の高周波電界のパターン例を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態2のRFKO機器の運転パターンの1例を示す図である。
【図13】この発明の実施の形態2の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの例を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態3のフィードバック制御した場合の運転パターン例を示す図である。
【図15】この発明の実施の形態3のフィードバック制御した場合の別の運転パターン例を示す図である。
【図16】この発明の実施の形態5のフィードバック制御した場合の別の運転パターン例を示す図である。
【図17】この発明の実施の形態5の出射制御システムを示す図である。
【図18】この発明の実施の形態8のバンプ電磁石による軌道の傾きを調整する方式の説明図である。
【図19】この発明の実施の形態8の荷電粒子ビーム加速器の一部分を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
4 主偏向電磁石、5 主四極電磁石、6 高周波加速装置、7 六極電磁石、
8 RFKO機器、9 出射四極電磁石、14 照射装置、30 出射制御部、
200 荷電粒子ビーム加速器、300 ビーム輸送系、400 照射系、
500 粒子線照射医療システム。
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン源から低エネルギビームを入射し、周回軌道上で加速した高エネルギビームを出射する荷電粒子ビーム加速器とこの荷電粒子ビーム加速器を用いた粒子線照射システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シンクロトロン等の円形加速器で荷電粒子ビームを周回加速させ、その周回軌道から取り出されたビームが、ビーム輸送系で輸送され、所望の対象物に照射する物理実験や、医療用に供されている。この場合前記円形加速器からのビーム取り出し方法(出射方法)に関して、高周波電界を周回ビームに与えて、ベータトロン振動の振幅を大きくし、安定限界の外に出すことにより出射する方法を用い、出射開始、停止はその高周波電界をON/OFFすることにより実施されている。
上記のことは、例えば特許文献1には、高周波電磁界をビームに与えてベータトロン振動振幅を大きくし、出射する方法が記載されているが、高周波発生装置(RFKO装置)の実用的な周波数制御に関しては記載されてない。
また特許文献2には、前記特許文献1に記載された出射方法を用いて荷電粒子ビームを癌治療や患部の診断に使用する目的で、任意のスポットに照射し、その後出射を止めてビームが次のスポットに来るようにビーム偏向装置を設定し、同出射方法で出射して照射することを繰り返すことが記載されている。
また非特許文献1には、前記特許文献1に記載された方式に対して、出射ビームの時間構造が滑らかで、高速でビーム出射・停止を実現できる方法が記載されている。
さらに非特許文献2には、前記非特許文献1に書かれていることを、より詳細に記載している。
またさらに非特許文献3には、機器の制御方法が詳細に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特許第2596292号公報
【特許文献2】特許第2833602号公報
【非特許文献1】"PROGRESS OF RF-KNOCKOUT EXTRACTION FOR ION THERAPY",欧州加速器会議(EPAC)プロシーディングス(2002年)、pp2738-2741
【非特許文献2】"Fast beam cut-off method in RF-knockout extraction for spot-scanning", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 489 (2002) 59-67.
【非特許文献3】"Advanced RF-KO slow-extraction method for the reduction of spill ripple", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 492 (2002) 253-263.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の出射方式では、周回ビームは常に安定限界領域の境界付近まで占めているため、主偏向電磁石や主四極電磁石の主電磁石電源等の変動により磁場が変動し、安定限界領域の境界が変動すれば出射されてしまうため、主電磁石電源等の出力変動を十分に小さく、すなわち高い安定度の電源とする必要があり、高コスト化の要因となっている。
【0005】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであって、高速出射四極電磁石とRFKO機器との組み合わせ運転によりビーム出射を行うことにより、主電磁石電源変動を起因とするビーム出射をなくする構成を採用して、主電磁石電源安定度のマージンを少なくした低コスト化を可能とした荷電粒子ビーム加速器と、その加速器を用いた粒子線照射システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に関する荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御運転されるRFKO機器と、安定領域境界を変化させる手段とが設けられており、
周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで運転されるとともに、RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、周波数f2側に比較して、周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転されるものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る荷電粒子ビーム加速器は、周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、安定領域境界を変化させる手段が、出射のタイミングで運転されるとともに、RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、周波数f2側に比較して、周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転されるので、主電磁石(主偏向電磁石や主四極電磁石)電源の出力電流変動(リップル)に基因するビーム出射がなされることがないため、主電磁石電源の安定度のマージンを従来より少なくすることが可能となり、電源の低コスト化を可能とし、また出射中の出射ビームの傾きを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1は、荷電粒子ビーム加速器200と、この荷電粒子ビーム加速器200を用いた粒子線照射医療システム500とを示す図である。図において、荷電粒子ビーム加速器200は、入射セプタム3、主偏向電磁石4、主四極電磁石5、高周波加速装置6、六極電磁石7および高周波発生装置であるRFKO機器8、出射四極電磁石9、出射セプタム10によって構成されており、RFKO機器8や出射四極電磁石9は出射制御部30で制御される。RFKO機器8は、FM変調、AM変調の機能を持つ高周波信号発生部と高周波アンプ及びキッカー電極から主に構成される。この荷電粒子ビーム加速器200は、その前段には低エネルギビームの入射系100が設けられている。この入射系100はイオン源1、線形加速器2によって構成されている。また、荷電粒子ビーム加速器200の出射セプタム10から出射された出射ビームは、ビーム輸送系300を通り、医療室に設けられた照射系400の照射装置14および線量モニタ15を通って照射対象体16、例えば患者の腹部に照射される。前記ビーム輸送系300は、偏向電磁石11、スピルモニタ12、照射路偏向電磁石13が設けられており、照射系400は照射装置14、線量モニタ15と照射対象体16とよりなる。なお前記照射路偏向電磁石13は、ビーム輸送系300ではなく照射系400に含まれる場合もある。図1に示す粒子線照射医療システム500は、前記入射系100、荷電粒子ビーム加速器200、ビーム輸送系300、照射系400によって構成される。
【0009】
次に、この実施の形態1の荷電粒子ビーム加速器200の動作について説明する。
粒子線であるイオンビームはイオン源1で発生し、線形加速器2で荷電粒子ビーム加速器200であるシンクロトロンに必要な入射エネルギーまで加速される。入射セプタム3を通して入射されたイオンビームは、主偏向電磁石4により偏向されて周回運動し、主偏向電磁石4と主四極電磁石5により収束力を受け、ビームサイズが広がることなく周回し続ける。ビーム中の荷電粒子は、閉じた軌道である平衡軌道のまわりを振動しながら周回するが、この振動をベータトロン振動と呼び、適切な収束力を与えることで荷電粒子は振幅一定の振動をする。ビーム中の荷電粒子の振幅は、ゼロに近いものから最大振幅まで様々である。また、周回ビームの中心はこの平衡軌道に一致する。また、運動量の異なる荷電粒子は平衡軌道も異なる。
この実施の形態1では、主電磁石としての主偏向電磁石4と主四極電磁石5のそれぞれ各1台の組み合わせが4組配置された構成としている。通常、ビームを水平・垂直方向に収束させるために極性の異なる2種類の四極電磁石が使われるが、この実施の形態1では、主偏向電磁石4は半径方向に磁場強度が変化するか、エッジ角を有することにより垂直方向にも収束力を与える機能を有する偏向電磁石4としており、それにより主四極電磁石5を1種類としている。偏向電磁石4は、原理的に偏向と同時に水平方向には収束力を与える。
入射系100より荷電粒子ビーム加速器200に入射されたビームは、高周波加速装置6で加速されるが、周回軌道が変動しないように主偏向電磁石4及び主四極電磁石5もビームエネルギー(運動量)の増加に合わせて磁場が強められる。加速後は、主偏向電磁石4及び主四極電磁石5の磁場強度は一定とし、高周波加速装置6はOFFとするか、ONとした状態でも加減速しない位相で運転される。これにより、加速後のビームは一定のエネルギーで周回し続ける。
【0010】
次に、ビーム出射について記述する前に、図2に基づいて粒子(イオン)1個1個の振る舞いに付いて簡単に説明する。粒子は、主偏向電磁石4及び主四極電磁石5により決まる収束力により、中心軌道の周りを振動しながら周回する。これをベータトロン振動と言う。この振動数の小数点以下の端数がゼロ、1/2、1/3(又は1−1/3)であれば、電磁石の誤差磁場により共鳴状態となり、ベータトロン振動振幅が増大し、最終的には真空チェンバ等にぶつかり消滅する。それぞれの共鳴を一次共鳴、1/2(二次)共鳴、1/3(三次)共鳴と呼ぶ。端数が1/4、1/5、・・・でも誤差磁場によっては共鳴するが、通常注意すべきは1/3までである。ベータトロン振動数がこの共鳴から遠ざかっている場合、粒子1個1個の運動を位相空間座標(水平x、垂直y座標と進行方向の傾きx’、y’)で見ると、図2に示す楕円の中で移動する。ベータトロン振動数が例えばn.25の場合(nは整数)、最大振幅の粒子は、図2の楕円最外周上を周回ごとに移動し、4周で元の位置に戻る。振幅が小さい粒子は、図2の楕円と相似形の小さな楕円上を4周で元の位置に戻るような運動をする。初期位相の異なる様々な粒子からなるビームの軌跡を描くと、図2の楕円内を埋め尽くす事になる。この楕円の大きさは不変である。
【0011】
次にビーム出射を図3、図4によって説明する。
主四極電磁石5の磁場を変化させることにより水平方向のベータトロン振動を1/3共鳴に近づけるとともに通常六極電磁石7を励磁して、共鳴状態を作りやすくする。ベータトロン振動が増幅しないで安定に周回できる領域をアクセプタンスと呼ぶが、六極磁場の非線形性から、アクセプタンスは位相平面上で図3、図4のように三角形(セパラトリクスと呼ばれ、その最外周をセパラトリクス境界あるいは安定領域境界と呼ぶ)となり、図4で詳述するようにそこから出た粒子は振幅を増大させ、出射セプタム10を超えた粒子は、出射セプタム10で外側に偏向されて、シンクロトロン200の外部に取り出される。
【0012】
主四極電磁石5と六極電磁石7は、セパラトリクスが周回ビームのエミッタンスよりも小さくならない値で一定に保たれる。この状態からビームを出射させるためには、図4(b)のように出射四極電磁石9を励磁してセパラトリクスを狭め、そこから出たビームが取り出される。この出射四極電磁石9は、高速で磁場を変化さすことの出来る電磁石で、空心コイルのみで構成するもの、フェライトコアやケイ素鋼板等の薄鋼板を積層した電磁石など様々なものが考えられる。そして必要なビーム量が取り出された後、図4(c)に示すように出射四極電磁石9の励磁を止めセパラトリクスを初期状態に戻す。この後、周回ビームに高周波発生装置(RFKO機器)8による高周波電界を与えて拡散させ、図4(a)のようにビームが取り出された空間を埋める。その後、出射四極電磁石9をONすれば、先と同様にビームは取り出される。図4の例では、説明を分かりやすくするためセパラトリクス境界までビームが満たされているが、実際には、周回ビームエミッタンスよりも大きくセパラトリクスを設定する。これにより、主電磁石電源リプルによりセパラトリクスの大きさが変動しても、周回ビームがセパラトリクス境界を越えて出射されることはなく、出射四極電磁石9の励磁によってのみ出射される。
出射ビームはビーム輸送系300を通して治療室に導かれ、照射装置14、線量モニタ15を通して患者16に照射される。照射装置14は、ビームを適切な位置に照射するためのスキャナー電磁石や、ビーム位置モニタ、ビームエネルギーを変えるレンジシフタなどから構成される。照射線量は線量モニタ15により正確に測定される。
【0013】
周回ビームのベータトロン振動数は振幅により少し異なる。このため、RFKO機器8による高周波電界は、1回出射後のセパラトリクス内の全ての粒子の振幅を増大させるように例えば周波数f1からf2まで掃引する。ここで、周波数f1は中心付近の粒子を共鳴状態にする周波数で、f2はセパラトリクス境界付近の粒子を共鳴状態にする周波数である。f1とf2の大小関係は、ベータトロン振動数の選び方で異なり、f1>f2の場合もあればf1<f2の場合もある。
この高周波電界の振幅をf1からf2まで一定にして運転した場合、セパラトリクス内の粒子密度は全体的に徐々に減少するため、ある同じ出射ビーム量を得るための出射四極電磁石9の励磁強度は、周回ビームが少なくなるほど強める必要がある。励磁強度が大きく変わると、1回の出射中に出射粒子の傾きが大きく変化することになり、照射点でのビーム位置の変化が無視できなくなる可能性がある。
【0014】
このような問題を無くするために、RFKO機器8による高周波電界の振幅を、図5に示すように変化させる。前述した周波数f1側ほど振幅を大きくすることにより、外側の粒子密度の低下を抑えることができる。この図5に示す例では、振幅を直線的に変化させているが、指数関数的或いは2次、3次関数的に変化させる方式も考えられ、荷電粒子ビーム加速器200であるシンクロトロンのパラメータ或いは運転方法等により変化のさせ方は最適化される。
【0015】
加速ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートを図6に示す。
図6は、周波数掃引を1回だけする方式の例だが、1回に限定されるものではない。また、振幅の変化のさせ方は加速ビームが全て取り出されるまで一定とした例だが、図7に示すように、f1側の振幅を徐々に大きくする方式はより効果的である。この例では、周回ビームの減少にともなってf1側の振幅を直線的に大きくしているが、指数関数的に増加させる方法や2次関数的或いは3次関数的に増大させるなど、シンクロトロンのパラメータ或いは運転方法等によりその変化のさせ方は最適化される。更に、図8に示すように、周回ビーム強度がある程度下がった段階で、上述のような変化のさせ方をする方式も有効である。また、この例ではf2の振幅は一定としているが、これに限定されるものではない。なお、RFKO機器8のパラメータは、出射四極電磁石9が励磁されていない時には出射されない値であることは言うまでもない。
一方、出射四極電磁石9は、出射ビーム強度が一定となるようにフィードバック運転する方式も効果的である。この場合、スピルモニタ12の測定値が設定値と等しくなるように出射四極電磁石9の電源がフィードバック制御される。このようにこの実施の形態1では、主電磁石4、5を励磁する電源の出力電流変動があってもビーム出射がされることはないため、電源の安定度のマージンを少なくすることが可能となり、低コスト化がはかれる。さらに、出射中の出射粒子の傾きの変化を少なくすることが出来る効果がある。
【0016】
ここで、この実施の形態1による上述の荷電粒子ビーム加速器200の出射ビームを利用した粒子線照射医療システム500における照射系400に設けられた照射装置14を用いたスポットスキャニング照射の1例を説明する。
図9は照射装置14の内部構成の一部を記載しており、図1に示した線量モニタ15はこの図9では図示省略している。ビーム位置を平行に移動させる平行スキャナ電磁石21で半径方向の任意の位置にビーム位置を設定できる。この平行スキャナ電磁石21を角度回転させることで2次元の任意の位置にビーム位置を設定できる。ビームの深さ方向の制御はレンジシフタ22の厚みを変えることにより実施される。従って、3次元の任意の位置にビームを照射することができる。照射前の治療計画において、患部を3次元的に分割し、患部全体に一様な線量が与えられるようにそれぞれのスポットに照射する線量(粒子数)を計算する。照射時には、1スポットに必要線量を照射後ビーム出射を一時停止し、次のスポットに照射できるように各機器パラメータを変え、再度ビームを出射し、そのスポットに必要とされるビームを照射する。全てのスポットが照射されるまでこれが続けられる。1スポット当たりの照射時間は出射ビーム強度を一定とした場合、数msから数10msである。全てのスポットがそれぞれ複数回照射される方法もある。なお、この実施の形態2では粒子線照射医療システムの例で説明したが、医療システムに限らず、殺菌や消毒等の粒子線照射システムであってもよい。
【0017】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。
この実施の形態2では、RFKO機器8を構成する図1では図示省略の高周波信号発生部は、第1の高周波信号発生部FM1(RFKO−FM1)と第2の高周波信号発生部FM2(RFKO−FM2)の2台が設けられている。これらの出力波形の1例を図10に示す。
前記第1の高周波信号発生部FM1では第1の周波数F1から第2の周波数F2までの掃引信号を発生し第2の高周波信号発生部FM2では、第3の周波数F3から第4の周波数F4までの掃引信号を発生し、それらを足し合わせた信号を高周波アンプで増幅し、キッカー電極に送られる。F1は中心付近のビームの振幅を増大させる周波数であり、F2は最外周付近の周回ビームの振幅は実効的には増大させない値とし、つまり、ΔF=|F2−F1|は実施の形態1よりは小さくする。F3〜F4は最外周付近の周回ビームの振幅を増大させ出射領域、すなわち安定領域境界まで移動させる値に設定し、出射領域まで振幅を増大された粒子が出射四極電磁石9の励磁により取り出される。
このようなシステムとすることにより、第1の高周波信号発生部F1は連続的な運転ができ、より効果的に中心部付近のビームを拡散でき、最外周付近の粒子密度の低下を抑制することができる。第2の高周波信号発生部F2は出射四極電磁石9を励磁する前だけ運転する。ここで、F2>F1となるパラメータの場合、F3は通常F2よりも小さい値に選ばれるが、F3=F2或いはF3>F2でも効果はある。これは、ある周波数がある振幅の粒子にだけ影響を与えるわけではなく、その周辺の振幅を持つ粒子にも影響を与えるためである。影響は徐々に小さくなる。従って、第2の高周波信号発生部F2は単一周波数でも効果が得られるケースもある。また、この方式では、図11に示すようなF1からF2までの振幅を一定としても、同様の効果が得られる。
【0018】
図12は第1の高周波信号発生部FM1を連続的に、第2の高周波信号発生部FM2は出射四極電磁石9を励磁する前だけ運転する場合のタイミングチャートを示す。図13は周回ビーム強度がある程度減少するまでは第1、第2の高周波信号発生部FM1、FM2は出射四極電磁石9を励磁する前だけ運転し、周回ビーム強度がある程度減少した以降は第1の高周波信号発生部FM1を連続的に運転する例のタイミングチャートである。このような運転により、最外周付近の粒子密度を全取り出し過程を通して一定に近づけることができる。第1の高周波信号発生部FM1からの信号振幅は、周回ビーム強度の減少に応じて変化させれば、より効果が大きくなる。更に、周回ビーム強度の減少に応じて第1の高周波信号発生部FM1と第2の高周波信号発生部FM2の運転パラメータを適切に変化させる方式は、制御は複雑になるが最良のビーム出射が可能となる。
【0019】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3について説明する。
セパラトリクス境界の変化は、出射四極電磁石9の発生磁場の時間変化に凡そ比例する。即ち、周回ビームの密度分布が一様ならば出射ビーム強度は磁場の時間変化に凡そ比例する。一方、周回ビームの密度分布は実際には一様でなく、時間とともに変化してゆく。従って、出射ビーム強度が一定となるように出射四極電磁石9の電源を制御するためには、荷電粒子ビーム加速器200からの出射ビーム強度をモニタする図1に示したスピルモニタ12からの信号が設定値に比べて小さくなった時には電源の出力電流の時間変化が大きくなるようにし、逆に大きくなった時には電源の出力電流の時間変化が小さくなるように制御すればよい。しかし、周回ビームの減少とともにビーム密度は減少するため、同じビーム量を出射するためのセパラトリクス境界の変化は徐々に大きくなってゆき出射ビームの傾きが無視できなくなる場合がある。
【0020】
この実施の形態3では、出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化を出射毎に測定し、その測定値から次のRFKO機器8の運転パラメータを決めることにより、前述の課題を解消している。
図14に運転例を示す。出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化(出射四極磁場波形の時間変化)が所定の値よりも大きくなった時には、出射領域付近の粒子密度が小さくなったことを示すので、内側の粒子を多く移動させるようにRFKO機器8の高周波信号振幅を大きくし、次の出射で出射四極電磁石9の電源出力の時間変化が所定の値に戻っていれば、RFKO機器8の高周波信号振幅は大きくした値で運転される。逆に電源の出力電流の時間変化が小さくなった時には、RFKO機器8の高周波信号振幅が小さくなるように制御する。この実施の形態3によるRFKO機器8の制御、運転を前述した実施の形態1および実施の形態2に組み合わせることにより、より効果的で出射粒子の傾きの少ない効果が得られる。つまり実施の形態1に記載した方式の場合には、図14のようにf1からf2までの振幅の変化率を増減すればよく、また、実施の形態2の方式では、図15に示すように第1の高周波信号発生部FM1の振幅を増減させる。
出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化の測定は、例えば、ビーム出射が開始されてから停止するまでの間の平均値とする。
この実施の形態3では出射毎にRFKO機器8にフィードバック制御する方式としたが、数回の出射の平均値を使う方式でも同様の効果が得られる。
【0021】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3では出射四極電磁石9の電源の出力電流の時間変化を測定したが、出射粒子数を分子とし、ビーム出射開始時の出射四極電磁石9の電源の出力電流値とビーム出射停止時の出力電流値の差分を分母とした比を用いても同様の効果が得られる。
【0022】
実施の形態5.
次に、実施の形態5について説明する。
実施の形態1で説明したスポットスキャニング照射においては、スポットにより照射粒子数は約一桁異なる。従って、例えば中間的な照射粒子数が適切に出射できるようにRFKO機器8のパラメータを設定した場合に、最少のスポットが連続的に続くような照射を行うと、1回の出射では外側に移動した一部の粒子しか取り出さないために周回ビームは広がって行き、結果的に出射ビームの傾きが大きくなってゆく。最大のスポット照射が連続的に続く場合は、この逆の現象が生じる。
この実施の形態5は、このような課題を解決するためになされたもので、出射四極電磁石9の電源は出射ビーム強度が一定となるようにフィードバック制御され、1出射時の出射四極電磁石9の電源出力の最大値に応じて、その後のRFKO機器8の高周波信号振幅を制御する。つまり、照射粒子数の少ないスポットへの照射では、出射四極電磁石9の電源出力の最大値は小さく、その値を出射制御部30で読み取り、次に出力されるRFKO機器8の高周波信号振幅を小さくするように設定される。照射粒子数の多いスポットへの照射では、その逆の制御を行う。図16にその運転例を示す。また、図17に制御系の1例を示す。具体的な制御の1例としては、実施の形態1〜3で記載したRFKO機器8の高周波信号振幅の変化のさせ方をベースにして、出射四極電磁石9の電源出力の最大値に応じて、予め決められた割合で高周波信号振幅を増減する。実施の形態3に示した第1の高周波信号発生部FM1と第2の高周波信号発生部FM2の2台用いる方式では、第2の高周波信号発生部FM2は一定にして第1の高周波信号発生部FM1の振幅を変化させる方法、或いは両方を適切に変化させる方法がある。これらはシンクロトロンのパラメータによって適切な方法が選ばれ、傾きの少ない出射ビームが得られる。
【0023】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態5では、1スポットに必要な粒子数が照射されるまで出射四極電磁石9の励磁を強めてゆくことを前提にしたが、周回粒子数が少なくなると、出射四極電磁石9の励磁を非常に大きくしないと必要な粒子数が出射できなくなる場合が想定される。この場合、出射粒子の傾きが大きく変化することになり、問題になる可能性がある。このような状況を避けるためには、出射四極電磁石9の電源出力の上限を設定し、その値で必要な粒子数が照射できなかった時は、必要な粒子数に達するまで出射四極電磁石9の電源とRFKO機器8を繰り返し運転する方式とすればよい。また、RFKO機器8の高周波信号振幅にも上限を設けると、出射粒子の傾きの変化をより小さくすることができ、より効果的な照射が実現できる。
【0024】
実施の形態7.
なお、上記実施の形態1〜3、5、6ではRFKO機器8の高周波は周波数変調機能を使って周波数を掃引する方式としたが、ホワイトノイズやカラードノイズと言われるある周波数範囲を全て含んだ高周波でも、出射四極電磁石9の電源とRFKO機器8の交互の運転でビーム取出しができる。カラードノイズの場合の周波数範囲は、大体、粒子の周回周波数程度からその1/10程度に選ばれる。このような信号では、周回粒子のベータトロン振動振幅をセパラトリクス境界外まで増大させる高周波成分を含むため、1回の運転でセパラトリクス境界外まで周回ビームを移動しないような信号振幅と運転時間に設定する必要がある。粒子のベータトロン振動振幅の増大幅は、高周波信号振幅と時間に関係するためである。
また、周回ビーム強度の変化に対して、出射ビーム強度及び出射ビーム位置が常にほぼ一定となるように、これらの信号振幅をフィードバック制御する方式も有効である。
さらに、カラードノイズの周波数スペクトルの強度分布を周回ビーム強度変化に対して変化させることも有効である。例えば、セパラトリクス内部の粒子を共鳴状態にする周波数成分を徐々に大きくしてゆく。このような方式を採用することでも前述した出射粒子の傾きを少なくすることができる。
【0025】
実施の形態8.
次に、実施の形態8について説明する。
上記実施の形態1〜7では、セパラトリクスの変化が大きすぎると出射ビームの傾きが無視できなくなるため、セパラトリクスの変化を抑制する方法について記載した。この実施の形態8は、セパラトリクスの大きさが変化しても出射ビームの傾きが変化しない方法について記載する。
図18の実線で描いた2つのセパラトリクスA、Bは、セパラトリクスの大きさが変化することで出射ビームの傾きが変わることを示している。これに対して、実線の小さいセパラトリクスBと同じ大きさで破線で描いたセパラトリクスCであれば、出射ビームの傾きは変わらない。このようなセパラトリクス全体の位相平面上での移動は平衡軌道を移動させればよく、3台の偏向電磁石で可能となる。この偏向電磁石は一般にパルス電磁石でバンプ電磁石と呼ばれる。図19に示すように、出射セプタムの周辺に3台のバンプ電磁石20を設置することにより出射セプタム10の位置での平衡軌道の位置と傾き(x、x’)を任意に変える事ができる。また、出射四極電磁石9の電源出力に対するセパラトリクスの大きさの変化は予め計算できるため、出射ビームの傾きが変わらないような出射四極電磁石9の電源出力と3台のバンプ電磁石20の電源出力との関係を予め計算或いは実験で求めておき、それらの電源を同期を取って運転すれば、セパラトリクスの大きさに関係なく出射ビームの傾きを一定とすることができる。
なお、バンプ電磁石は3台としたが、これに限定されるものではなく、1台或いは2台でも満足できる結果が得られるシンクロトロンのパラメータが存在する可能性もある。
【0026】
以上の実施の形態1〜8は主に荷電粒子加速器200に関する点を記載したが、図1に示すようにこの実施の形態1〜8による荷電粒子加速器200を粒子線照射システムに用いることにより、照射時間中に、出射粒子の傾きの変化が少ない、低コストの装置を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明の実施の形態1〜8は、癌等の悪性腫瘍の治療に関する粒子線照射医療システムや、荷電粒子ビーム照射による殺菌、消毒や金属材料等の特性改善さらには物理実験等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1〜7の荷電粒子ビーム加速器と粒子線照射システムを示す図である。
【図2】加速中の荷電粒子ビームのアクセプタンス(セパラトリクス)を説明する図である。
【図3】加速中の荷電粒子ビームのアクセプタンス(セパラトリクス)を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1〜8にかかわるビーム出射方法の説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1のRFKO機器の高周波電界のパターン例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの1例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの他の例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの他の例を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態1のスポットスキャニング照射用の平行スキャナー方式の1例を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態2のRFKO機器の高周波電界のパターン例を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態2のRFKO機器の高周波電界のパターン例を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態2のRFKO機器の運転パターンの1例を示す図である。
【図13】この発明の実施の形態2の周回ビームを全て取り出すまでのタイミングチャートの例を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態3のフィードバック制御した場合の運転パターン例を示す図である。
【図15】この発明の実施の形態3のフィードバック制御した場合の別の運転パターン例を示す図である。
【図16】この発明の実施の形態5のフィードバック制御した場合の別の運転パターン例を示す図である。
【図17】この発明の実施の形態5の出射制御システムを示す図である。
【図18】この発明の実施の形態8のバンプ電磁石による軌道の傾きを調整する方式の説明図である。
【図19】この発明の実施の形態8の荷電粒子ビーム加速器の一部分を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
4 主偏向電磁石、5 主四極電磁石、6 高周波加速装置、7 六極電磁石、
8 RFKO機器、9 出射四極電磁石、14 照射装置、30 出射制御部、
200 荷電粒子ビーム加速器、300 ビーム輸送系、400 照射系、
500 粒子線照射医療システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム加速器であって、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させる手段とが設けられており、
前記周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、前記安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで運転されるとともに、前記RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、前記安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、前記周波数f2側に比較して、前記周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転されることを特徴とする荷電粒子ビーム加速器。
【請求項2】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて周回ビームの強度を計測するモニタが設けられているとともに、前記RFKO機器は、その出力する振幅変調波形が前記モニタの計測する周回ビーム強度の減少に応じて変化させるよう制御、運転されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項3】
荷電粒子ビーム加速器であって、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させる手段とが設けられており、
前記周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、前記RFKO機器に設けられた第1の高周波信号発生部が、周回ビーム中心付近のベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子を共鳴状態にする第1の周波数から、ベータトロン振動振幅の大きい荷電粒子を共鳴状態にする第2の周波数まで掃引する信号を出力するとともに、前記RFKO機器に設けられた第2の高周波信号発生部の出力により、前記第1の高周波信号発生部によって前記ベータトロン振動振幅が大きくなった荷電粒子を、更に共鳴状態にして前記安定領域境界までベータトロン振動振幅を増大させるとともに、この第2の高周波信号発生部は前記安定領域境界を変化させる手段が運転される前にのみ、運転されるよう制御されていることを特徴とする荷電粒子ビーム加速器。
【請求項4】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようにフィードバック制御されており、前記安定領域境界を変化させる手段の出力する安定領域境界の時間変化が所定の値より大きくなった場合に、前記RFKO機器の高周波信号発生部が出力する高周波信号振幅を、ベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子に対して大きくなるようなパラメータで運転され、前記安定領域境界の時間変化が所定値より小さくなった場合には、高周波信号振幅を小さくするようなパラメータで制御、運転されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項5】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようにフィードバック制御されており、前記安定領域境界を変化させる手段の出力する安定領域境界の時間変化が所定の値より大きくなった場合に、前記RFKO機器の第1の高周波信号発生部の出力する高周波信号振幅を、ベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子に対して大きくなるようなパラメータで運転され、前記安定領域境界の時間変化が所定値より大きくなった場合には、前記高周波信号振幅を小さくするようなパラメータで制御、運転されることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項6】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようフィードバック制御されており、直前の前記安定領域境界の時間変化の小さい場合には、前記RFKO機器の高周波信号発生部が出力する高周波信号振幅を小さいパラメータで、また直前の前記安定領域境界の時間変化が大きい場合には、前記高周波信号振幅を大きいパラメータで制御、運転されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項7】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようフィードバック制御されており、直前の前記安定領域境界の時間変化の小さい場合には、前記RFKO機器の第1の高周波信号発生部が出力する高周波信号振幅を小さいパラメータで、また直前の前記安定領域境界の時間変化が大きい場合には、前記高周波信号振幅を大きいパラメータで制御、運転されていることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項8】
前記RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビームの周回周波数〜周回周波数×1/10程度の範囲の周波数帯を含む周波数で制御、運転されることを特徴とする請求項1または請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項9】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えてビーム加速後にビーム出射部付近の平衡軌道を変化させる手段が設けられており、前記平衡軌道を変化させる手段は、前記安定領域境界を変化させる手段が運転されることにより、変化する出射ビームの傾きを補正するよう制御、運転されることを特徴とする請求項1または請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項10】
粒子線照射システムであって、
前記粒子線照射システムには、荷電粒子ビーム加速器と、前記荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と照射系とが備えられており、前記荷電粒子ビーム加速器が、前記請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のものを用いたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項11】
粒子線照射システムであって、前記粒子線照射システムには、荷電粒子ビーム加速器と、前記荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と照射系とが備えられており、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御、運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させ、その変化幅に最大値が設定された手段とが設けられており、
前記照射系にて前記荷電粒子ビーム加速器からの出射ビームをスポットスキャンニング照射を行う際に、前記安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで前記変化幅を最大値として運転されるとともに、前記RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、前記安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、前記周波数f2側に比較して、前記周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転され、1回のスポットスキャンニングで必要なビーム量を前記荷電粒子ビーム加速器が出射出来ない場合は、必要なビーム量を出射するまで前記RFKO機器と前記安定領域境界を変化させる手段の運転を繰り返すよう制御されていることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項12】
粒子線照射システムであって、前記粒子線照射システムには、荷電粒子ビーム加速器と、前記荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と照射系とが備えられており、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、前記ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御、運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させ、その変化幅に最大値が設定された手段とが設けられており、
前記照射系にて前記荷電粒子ビーム加速器からの出射ビームをスポットスキャンニング照射を行う際に、前記安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで前記変化幅を最大値として運転されるとともに、前記RFKO機器に設けられた第1の高周波信号発生部が、周回ビーム中心付近のベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子を共鳴状態にする第1の周波数から、ベータトロン振動振幅の大きい荷電粒子を共鳴状態にする第2の周波数まで掃引する信号を出力するとともに、前記RFKO機器に設けられた第2の高周波信号発生部の出力により、前記第1の高周波信号発生部によって前記ベータトロン振動振幅が大きくなった荷電粒子を、更に共鳴状態にして前記安定領域境界までベータトロン振動振幅を増大させるとともに、この第2の高周波信号発生部は前記安定領域境界を変化させる手段が運転される前にのみ運転されるよう制御され、1回のスポットスキャンニングで必要なビーム量を前記荷電粒子ビーム加速器が出射出来ない場合は、必要なビーム量を出射するまで前記RFKO機器と前記安定領域境界を変化させる手段の運転を繰り返すよう制御されていることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項1】
荷電粒子ビーム加速器であって、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させる手段とが設けられており、
前記周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、前記安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで運転されるとともに、前記RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、前記安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、前記周波数f2側に比較して、前記周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転されることを特徴とする荷電粒子ビーム加速器。
【請求項2】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて周回ビームの強度を計測するモニタが設けられているとともに、前記RFKO機器は、その出力する振幅変調波形が前記モニタの計測する周回ビーム強度の減少に応じて変化させるよう制御、運転されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項3】
荷電粒子ビーム加速器であって、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させる手段とが設けられており、
前記周回ビームの周回軌道からのビーム出射は、前記RFKO機器に設けられた第1の高周波信号発生部が、周回ビーム中心付近のベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子を共鳴状態にする第1の周波数から、ベータトロン振動振幅の大きい荷電粒子を共鳴状態にする第2の周波数まで掃引する信号を出力するとともに、前記RFKO機器に設けられた第2の高周波信号発生部の出力により、前記第1の高周波信号発生部によって前記ベータトロン振動振幅が大きくなった荷電粒子を、更に共鳴状態にして前記安定領域境界までベータトロン振動振幅を増大させるとともに、この第2の高周波信号発生部は前記安定領域境界を変化させる手段が運転される前にのみ、運転されるよう制御されていることを特徴とする荷電粒子ビーム加速器。
【請求項4】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようにフィードバック制御されており、前記安定領域境界を変化させる手段の出力する安定領域境界の時間変化が所定の値より大きくなった場合に、前記RFKO機器の高周波信号発生部が出力する高周波信号振幅を、ベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子に対して大きくなるようなパラメータで運転され、前記安定領域境界の時間変化が所定値より小さくなった場合には、高周波信号振幅を小さくするようなパラメータで制御、運転されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項5】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようにフィードバック制御されており、前記安定領域境界を変化させる手段の出力する安定領域境界の時間変化が所定の値より大きくなった場合に、前記RFKO機器の第1の高周波信号発生部の出力する高周波信号振幅を、ベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子に対して大きくなるようなパラメータで運転され、前記安定領域境界の時間変化が所定値より大きくなった場合には、前記高周波信号振幅を小さくするようなパラメータで制御、運転されることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項6】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようフィードバック制御されており、直前の前記安定領域境界の時間変化の小さい場合には、前記RFKO機器の高周波信号発生部が出力する高周波信号振幅を小さいパラメータで、また直前の前記安定領域境界の時間変化が大きい場合には、前記高周波信号振幅を大きいパラメータで制御、運転されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項7】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えて出射ビームの強度を計測するモニタが設けられており、前記安定領域境界を変化させる手段は、前記モニタの計測する出射ビームの強度が一定となるようフィードバック制御されており、直前の前記安定領域境界の時間変化の小さい場合には、前記RFKO機器の第1の高周波信号発生部が出力する高周波信号振幅を小さいパラメータで、また直前の前記安定領域境界の時間変化が大きい場合には、前記高周波信号振幅を大きいパラメータで制御、運転されていることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項8】
前記RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビームの周回周波数〜周回周波数×1/10程度の範囲の周波数帯を含む周波数で制御、運転されることを特徴とする請求項1または請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項9】
前記荷電粒子ビーム加速器には、加えてビーム加速後にビーム出射部付近の平衡軌道を変化させる手段が設けられており、前記平衡軌道を変化させる手段は、前記安定領域境界を変化させる手段が運転されることにより、変化する出射ビームの傾きを補正するよう制御、運転されることを特徴とする請求項1または請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項10】
粒子線照射システムであって、
前記粒子線照射システムには、荷電粒子ビーム加速器と、前記荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と照射系とが備えられており、前記荷電粒子ビーム加速器が、前記請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のものを用いたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項11】
粒子線照射システムであって、前記粒子線照射システムには、荷電粒子ビーム加速器と、前記荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と照射系とが備えられており、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御、運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させ、その変化幅に最大値が設定された手段とが設けられており、
前記照射系にて前記荷電粒子ビーム加速器からの出射ビームをスポットスキャンニング照射を行う際に、前記安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで前記変化幅を最大値として運転されるとともに、前記RFKO機器に設けられた高周波信号発生部は、周回ビーム中心付近の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f1から、前記安定領域境界内のほぼ最大振幅の荷電粒子を共鳴状態にする周波数f2までの掃引信号を出力し、かつその高周波信号の振幅は、前記周波数f2側に比較して、前記周波数f1側が大きい振幅変調波形であるよう制御運転され、1回のスポットスキャンニングで必要なビーム量を前記荷電粒子ビーム加速器が出射出来ない場合は、必要なビーム量を出射するまで前記RFKO機器と前記安定領域境界を変化させる手段の運転を繰り返すよう制御されていることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項12】
粒子線照射システムであって、前記粒子線照射システムには、荷電粒子ビーム加速器と、前記荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と照射系とが備えられており、前記荷電粒子ビーム加速器には荷電粒子ビームを加速するとともに周回軌道に沿って周回させる手段と、前記ベータトロン振動の安定領域境界の外側で前記荷電粒子のベータトロン振動を共鳴状態にする手段と、前記安定領域境界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させるとともに、周回ビームが前記安定領域境界を越えない範囲での運転パラメータで制御、運転されるRFKO機器と、前記安定領域境界を変化させ、その変化幅に最大値が設定された手段とが設けられており、
前記照射系にて前記荷電粒子ビーム加速器からの出射ビームをスポットスキャンニング照射を行う際に、前記安定領域境界を変化させる手段が出射のタイミングで前記変化幅を最大値として運転されるとともに、前記RFKO機器に設けられた第1の高周波信号発生部が、周回ビーム中心付近のベータトロン振動振幅の小さい荷電粒子を共鳴状態にする第1の周波数から、ベータトロン振動振幅の大きい荷電粒子を共鳴状態にする第2の周波数まで掃引する信号を出力するとともに、前記RFKO機器に設けられた第2の高周波信号発生部の出力により、前記第1の高周波信号発生部によって前記ベータトロン振動振幅が大きくなった荷電粒子を、更に共鳴状態にして前記安定領域境界までベータトロン振動振幅を増大させるとともに、この第2の高周波信号発生部は前記安定領域境界を変化させる手段が運転される前にのみ運転されるよう制御され、1回のスポットスキャンニングで必要なビーム量を前記荷電粒子ビーム加速器が出射出来ない場合は、必要なビーム量を出射するまで前記RFKO機器と前記安定領域境界を変化させる手段の運転を繰り返すよう制御されていることを特徴とする粒子線照射システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−71494(P2008−71494A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246308(P2006−246308)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
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