荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法
【課題】安全性を確保しつつビームの照射位置の精度を緩和することができ、加速器やビーム輸送系の調整時間の短縮化を図ることができる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム発生装置3と、この荷電粒子ビーム発生装置3から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石21A,21Bを有する照射装置5とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する第二線量モニタ27と、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの各区画領域における積算照射量を演算し、この演算した積算照射量が予め設定記憶された許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中止させる照射制御装置6とを備える。
【解決手段】荷電粒子ビーム発生装置3と、この荷電粒子ビーム発生装置3から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石21A,21Bを有する照射装置5とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する第二線量モニタ27と、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの各区画領域における積算照射量を演算し、この演算した積算照射量が予め設定記憶された許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中止させる照射制御装置6とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法に係り、特に、陽子や炭素イオン等の荷電粒子ビームを患部に照射して治療する粒子線治療システムに適用するのに好適な荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、標的となる腫瘍細胞に対して放射線を照射することにより、腫瘍細胞を壊死させる方法で治療を行う。この放射線には、X線や粒子線が利用される。X線の場合は、体表付近で与える線量が最も大きく、体内で与える線量が減衰していく。これに対し、粒子線の場合は、停止する直前で与える線量が最も大きく、腫瘍領域に線量を集中して照射できるという点で優れている。そのため、近年、粒子線を利用する粒子線治療システムが広まりつつある。
【0003】
粒子線治療システムでは、一般に、陽子線や炭素線等の荷電粒子ビーム(粒子線)を加速して出射する加速器と、この加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、このビーム輸送系に接続され、標的となる患者の患部へ荷電粒子ビームを照射する照射装置とを備えている。照射装置は、患部に与える線量が周囲と比べて高くなるようにビームを照射し、標的周辺の正常組織への影響を限りなく小さくしなければならない。すなわち、加速器から出射された荷電粒子ビームは、通常、径寸法1〜5mm程度でガウス分布状の線量分布を有しており、その照射領域及び線量分布を整形して標的形状に一致させる必要がある。このような目的を達成するための照射方法としては、散乱体法やスキャニング法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。散乱体法は、散乱体によりビームを径方向に広げかつ線量分布を一様とした後、コリメータで切り取ることにより照射領域を整形する方法である。スキャニング法は、走査電磁石によりビームを進行方向に対し垂直な走査面上で走査して、線量分布が一様な照射領域を整形する方法である。
【0004】
スキャニング方式の照射装置では、走査電磁石の励磁電流を変化させてビームの走査面上位置(照射位置)を制御するが、電磁石のヒステリシス等の様々な要因によりビームの位置がずれる可能性がある。そこで、これに対応するため、ビームの位置を検出するビーム位置モニタと、ビームの設定位置を記憶する記憶装置と、ビーム位置モニタで検出されたビームの検出位置と記憶装置に記憶されたビームの設定位置とを比較し、その誤差が所定の許容範囲内にあるかどうかを判定する異常判定装置とを備えた構成が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、例えばビーム位置の誤差が所定の許容範囲より大きい場合は、異常と判定してインターロック信号を出力し、シンクロトロンの出射装置(高周波印加装置)と高周波電源との間に設けられた開閉スイッチを開き状態として、シンクロトロンからのビーム出射を中止させるようになっている。
【0005】
【非特許文献1】「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスルメンツ(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS)」,1993年8月,第64巻,p.2084〜2089
【特許文献1】2005−296162号公報(段落[0049]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。
上記異常判定装置は、ビーム位置モニタで検出されたビームの検出位置と記憶装置に記憶されたビームの設定位置とを比較し、その誤差(ずれ)が所定の許容範囲より大きい場合にインターロック信号を出力し、開閉スイッチを開き状態として、シンクロトロンからのビーム出射を中止させる。これにより、誤照射を確実に防止し、安全性を確保するようになっている。しかしながら、その一方で、ビーム位置を厳しく管理すると(言い換えれば、所定の許容範囲を小さくすると)、加速器やビーム輸送系等の調整時間が長くなってしまうという課題が生じていた。
【0007】
本発明の目的は、安全性を確保しつつビームの照射位置の精度を緩和することができ、加速器やビーム輸送系の調整時間の短縮化を図ることができる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、予め設定された積算照射量の許容値を記憶する第1の記憶手段と、前記積算照射量演算手段で演算された積算照射量と前記第1の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させる第1のインターロック手段とを備える。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記第1の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶する。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記第1の記憶手段は、前記走査面上の同じ位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射する場合を想定し、その照射回数の段階に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶する。
【0011】
(4)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を、前記積算照射量演算手段の演算結果に基づき演算する一様度演算手段と、予め設定された積算照射量の一様度の許容値を記憶する第2の記憶手段と、前記一様度演算手段で演算された積算照射量の一様度と前記第2の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させる第2のインターロック手段とを備える。
【0012】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記第2の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶する。
【0013】
(6)上記(4)において、好ましくは、前記第2の記憶手段は、飛程が同じビームを複数回に分けて同じ照射位置に照射する場合を想定し、その照射段階に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶する。
【0014】
(7)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、この演算した積算照射量と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させる。
【0015】
(8)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、その演算結果に基づき、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算し、この演算した積算照射量の一様度と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安全性を確保しつつビームの照射位置の精度を緩和することができ、加速器やビーム輸送系の調整時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態である粒子線治療システムを、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施形態における粒子線治療システムの全体構成を表す概略図である。
【0019】
この図1において、粒子線治療システムは、治療ベッド1に固定された患者2の患部2a(後述の図2参照)に例えば陽子線や炭素線等の荷電粒子ビーム(粒子線)を照射して治療を施すものであり、荷電粒子ビーム発生装置3と、この荷電粒子ビーム発生装置3から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系4と、このビーム輸送系4に接続され、荷電粒子ビームを患者2の患部2aに照射する照射装置5とを備えている。また、荷電粒子ビーム発生装置3及びビーム輸送系4を制御する加速・輸送制御装置(図示せず)と、照射装置5を制御する照射制御装置6と、治療計画データ(詳細は後述)を作成する治療計画装置7と、加速・輸送制御装置及び照射制御装置6を統括して制御する中央制御装置8と、照射制御装置6及び中央制御装置8に接続された表示装置9とを備えている。
【0020】
荷電粒子ビーム発生装置3は、イオン源10と、このイオン源10で発生した荷電粒子を加速する前段加速器11(例えば線形加速器)と、この前段加速器11からの荷電粒子ビームをさらに加速するシンクロトロン12(なお、このシンクロトロンに代えて、例えばサイクロトロン等の他の加速器を用いてもよい)とを備えている。シンクロトロン12は、荷電粒子ビームを周回させるための複数の偏向電磁石13及び複数の四極電磁石(図示せず)と、周回する荷電粒子ビームを加速させる加速装置14と、荷電粒子ビームを出射デフレクタ15から出射させる出射装置16とを備えている。加速装置14は、ビームの周回周期と同期して高周波加速空洞(図示せず)に高周波電磁場を発生させ、荷電粒子ビームを加速させる。これにより、ビームエネルギーを設定値(例えば70〜250MeV程度)まで高めるようになっている。
【0021】
出射装置16は、例えば高周波印加電極(図示せず)を有し、この高周波印加電極がインターロック用スイッチ17及び出射用スイッチ18を介し高周波電源19に接続されている。インターロック用スイッチ17は通常閉じ状態にあり、例えば照射制御装置6からのビーム出射開始信号に応じて出射用スイッチ18が閉じ状態に切り替えられると、出射装置16は、高周波電源19からの高周波電力が供給されて、荷電粒子ビームに高周波を印可する。これにより、荷電粒子ビームが周回軌道から離脱して出射用デフレクタ15から出射されるようになっている。一方、インターロック用スイッチ17又は出射用スイッチ18が開き状態にある場合は、荷電粒子ビームが出射されないようになっている。
【0022】
ビーム輸送系4は、複数の偏向電磁石及び複数の四極電磁石を有し、シンクロトロン12から出射された荷電粒子ビームを照射装置5に輸送するようになっている。
【0023】
照射装置5は、ビーム輸送系4の一部であるビーム経路20とともに回転ガントリー(図示せず)に設置されており、この回転ガントリーによって患者2の周囲を回転し任意の方向からのビーム照射を可能としている。また、本実施形態における照射装置5は、走査電磁石により荷電粒子ビームを進行方向に対し垂直な走査面上で走査しつつ、散乱体により径方向寸法を拡大させて照射する方法、言い換えれば、スキャニング法と散乱体法との中間に位置する照射方法(均一走査方法と称す)を採用している。このような照射装置5の構成を図2により説明する。
【0024】
図2は、本実施形態における照射装置5の構成を照射制御装置6とともに表す概略図である。
【0025】
この図2において、照射装置5には、ビーム進行方向(図2中下方向)に沿う順序で、走査電磁石21A,21B、散乱体22、リッジフィルタ23、レンジシフタ24、位置モニタ25、第一線量モニタ26、第二線量モニタ27、コリメータ28、及びボーラス29が設けられている。
【0026】
走査電磁石21A,21Bは、走査電磁石用電源30A,30Bにそれぞれ接続されており、これら走査電磁石電源30A,30Bから走査電磁石21A,21Bへの供給電流を制御する電源制御装置31が設けられている。電源制御装置31は、照射制御装置6からの指令信号に応じて走査電磁石21A,21Bの供給電流をそれぞれ制御し、これによって走査電磁石21A,21Bの励磁磁場をそれぞれ制御する。このように制御された走査電磁石21A,21Bの励磁磁場によって、荷電粒子ビームは、進行方向に対し垂直で互いに直交するX方向(図2中左右方向)及びY方向(図2中紙面に対し垂直方向)にそれぞれ偏向され、走査されるようになっている。
【0027】
散乱体22は、ビーム散乱量に対しエネルギー損失が少ない材料(詳細には、タングステン等の原子番号の大きな物質)からなる板部材で構成されており、ビームの径方向の線量分布をガウス分布としつつビームを径方向に拡大するようになっている。なお、散乱体24によるビーム散乱量はビームエネルギーに依存するため、ビームエネルギーに応じて散乱体24の厚みを変更させなければ、ビームの径寸法をほぼ同じ大きさにすることができない。そのため、図2では便宜上図示していないが、厚みが異なる複数の散乱体22を搭載したターンテーブルが設けられており、照射制御装置6からの指令信号に応じてターンテーブルが回転駆動し、ビームエネルギーに対応して選択された散乱体22がビームの通過位置に配置されるようになっている。
【0028】
リッジフィルタ23は、ビームのエネルギー分布幅を広げて、ビームにおける患部2aの深さ方向(図2中上下方向)の線量分布を一様に拡大する、いわゆる拡大ブラッグピーク形成装置である。このリッジフィルタ23は、複数の楔型構造を有し、ビーム入射位置に応じてビームが透過する厚み寸法が異なっている。これにより、ビーム入射位置に応じてエネルギー損失量が異なるため、複数のエネルギー成分を持つビームが形成される。その結果、患部2aに照射されると異なる深さのブラッグピークが複数形成され、全体として患部2aの深さ方向に一様な線量分布を形成するようになっている。
【0029】
レンジシフタ24は、エネルギー損失に対してビーム散乱量が少ない材料(詳細には、樹脂等の原子番号の小さな物質)からなり厚みが異なる複数の吸収体と、これら吸収体をそれぞれ移動させる吸収体駆動装置とで構成されている。そして、照射制御装置6からの指令信号に応じて吸収体を選択してビームの通過位置に移動させることにより、ビームエネルギーを減衰させて飛程(到達深度)を調整するようになっている。
【0030】
コリメータ28は、荷電粒子ビームを遮蔽する遮蔽体で構成され、この遮蔽体には患部2aの横方向(言い換えれば、ビーム進行方向に対し垂直な方向)形状に対応する貫通穴が形成されている。これにより、荷電粒子ビームの照射範囲を患部2aの横方向形状に合わせて整形するようになっている。
【0031】
ボーラス29は、例えば樹脂製のブロック体が掘削加工されたものであり、ビーム入射位置に応じて厚み寸法が変化している。これにより、ビーム入射位置毎にビーム飛程が調整され、荷電粒子ビームの到達深度を患部2aの深さ形状に合わせるようになっている。
【0032】
前述の図1に戻り、治療計画装置7は、治療計画データ(詳細には、例えば患部2aの形状、照射方向、患部2aを深さ方向に分割した複数の層、及び各層の形状(照射野)等の情報を含むデータ)を作成して中央制御装置8へ出力するようになっている。なお、本実施形態の粒子線治療システムでは、ビームのスポット照射制御(詳細には、照射位置を固定したスポット照射を行い、その照射位置におけるビーム照射量が目標値に達したらスポット照射を停止させ、その後、ビーム照射を中断させた状態で照射位置を移動させる制御)を行なっている。そのため、治療計画データには、各層におけるスポット照射位置、照射順序、各スポット照射位置におけるビーム照射量の目標値等の情報も含まれている。このような治療計画の詳細について図3〜図5を用いて説明する。
【0033】
はじめに深さ方向に一様な線量分布を形成する方法について説明する。一様分布を形成する方法には、前述したリッジフィルタを用いる方法の他に、患部2aを深さ方向に分割しそれぞれの深さに対応した位置にブラッグピークを持つビームを順番に照射していく方法がある。この場合、ブラッグピークの深さが異なるビームの照射は、加速装置のエネルギーや次に説明するレンジシフタの厚みを調整することで実現する。本実施形態の照射方法である均一走査法では、どちらの方法も可能であるが、今後は後者の方法に基づき説明を進める。ただし、リッジフィルタにより深さ方向に一様な線量分布を形成する場合においても本発明は同様に適用できる。
【0034】
図3は、ビームにおける患部2aの深さ方向の線量分布を模式的に表す図である。この図3中実線で示すように、ビームにおける患部2aの深さ方向の線量分布は、ビームの飛程(言い換えれば、ビームエネルギー)に応じた深さ位置でブラッグピークが形成される。したがって、飛程が異なる複数(図3では6つを例示)の荷電粒子ビームを重ね合わせれば、患部2aの深さ方向に線量が一様となる分布(図3中点線で図示)を形成することが可能である。このような観点に基づき、治療計画装置7では、ビームの飛程間隔を(好ましくは、ブラッグピーク幅の2倍程度に)設定し、これに基づき患部2aを深さ方向に分割する複数の層を設定する。
【0035】
また、荷電粒子ビームはブラッグピークの位置より浅い位置にも線量を付与するので、通常、深い層から照射していくように照射順序を設定する。また、患部2aの深さ方向に線量が一様となる分布を形成するため、図3に示すように、長い飛程のビームの照射量よりも短い飛程のビームの照射量を小さくしなければならない。このような観点に基づき、ビームの照射量を設定する。
【0036】
図4は、ビームの径方向の線量分布を模式的に表す図である。この図4中実線で示すように、ビームの径方向の線量分布は、ガウス分布となっている。従って、スポット照射位置が異なる複数(図4では4つを例示)の荷電粒子ビームを重ね合わせれば、線量が一様となる分布(図4中点線で図示)を形成することが可能である。このような観点に基づき、治療計画装置7では、ビームの径寸法及びスポット照射の位置間隔(好ましくは、ガウス分布の標準偏差の1倍程度から2倍程度の間)を設定し、これに基づき各層におけるスポット照射位置(言い換えれば、スポット照射の中心位置)を設定する。具体的には、スポット照射の位置間隔を一定としつつ、例えば図5(a)に示すように格子状にスポット照射位置Si(i=1,2,…)を配置してもよいし、また例えば図5(b)に示すように三角状にスポット照射位置Sj(j=1,2,…)を配置してもよい。若しくは、図示しないが、スポット照射の位置間隔を一定としないで、スポット照射位置を配置してもよい。その後、照射順序及び各スポット照射位置における照射量の目標値を設定する。
【0037】
前述の図1に戻り、中央制御装置8は、治療計画装置7から入力された治療計画データをメモリ32に記憶するとともに、この治療計画データに基づき運転制御データを作成してメモリ32に記憶する。なお、運転制御データには、治療計画データに含まれる情報に基づいて演算された情報だけでなく、メモリ32に予め設定記憶された情報等も含まれている。そして、中央制御装置8は、オペレータからの治療開始の指令に応じて、メモリ32に記憶された運転制御データを加速・輸送制御装置及び照射制御装置6に出力するとともに、加速・輸送制御装置及び照射制御装置6を統括して制御するようになっている。
【0038】
加速・輸送制御装置は、中央制御装置8から入力した運転制御データ(詳細には、患部2aを深さ方向に分割した各層に対応するビームエネルギーの設定値、及びこのビームエネルギーに設定するための電磁石の励磁電流などの制御パラメータを含むデータ)を内部メモリに記憶し、この運転制御データに基づき荷電粒子ビーム発生装置3及びビーム輸送系4を制御するようになっている。
【0039】
照射制御装置6は、中央制御装置8から入力した運転制御データ(詳細には、患部2aを深さ方向に分割した各層に対応するレンジシフタ24の吸収体の組み合わせと、ビームエネルギーに対応する散乱体22の種類と、各層におけるスポット照射位置や照射順序に対応する走査電磁石21A,21Bの励磁電流パターンと、各スポット照射位置における照射量の目標値と、照射位置や照射量の許容値等の情報を含むデータ)をメモリ33(後述の図6参照)に記憶し、この運転制御データに基づき照射装置5等を制御するようになっている。
【0040】
詳しく説明すると、照射制御装置6は、第1の機能(スポット照射制御機能)として、まず、電源制御装置31を介し操作電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御してビームの照射位置を固定し、その後、ビーム出射開始信号を出力して出射用スイッチ18を閉じ状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へ荷電粒子ビームを出射させて、患部2aへのスポット照射を開始する。そして、第一線量モニタ26で検出した単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達したかどうかを判定し、ビーム照射量が目標値に達した場合にビーム出射停止信号を出力して出射用スイッチ18を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのスポット照射を停止させる。その後、患部2aへのビーム照射を中断させた状態で、スポット照射位置を変更するようになっている。
【0041】
また、照射制御装置6は、第2の機能(インターロック制御機能)として、位置モニタ25、第一線量モニタ26、及び第二線量モニタ27の検出結果に応じてインターロック信号を出力するようになっている。
【0042】
図6は、照射制御装置6の上記インターロック制御に係わる機能構成を表すブロック図である。
【0043】
この図6において、照射制御装置6は、上述した運転制御データ等を記憶するメモリ33と、位置モニタ25、第一線量モニタ26、及び第二線量モニタ27からの検出信号を入力する入力部34と、位置モニタ25、第一線量モニタ26、及び第二線量モニタ27からの検出信号にそれぞれ基づき、所定の演算処理を行う演算制御部35と、この演算制御部35で生成したインターロック信号をインターロック装置36に出力するとともに、表示信号を表示装置9に出力する出力部37とを有している。インターロック装置36は、照射制御装置6からのインターロック信号に応じてインターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させるようになっている(前述の図1参照)。
【0044】
照射制御装置6の演算制御部35は、位置モニタ25からの検出信号に基づきビームの照射位置のずれ(目標値との差分)を演算し、この演算した照射位置のずれがメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定し、例えば照射位置のずれが許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0045】
第一線量モニタ26は、ビーム全体の照射量を連続的に検出可能とし、その検出信号を出力するようになっている。そして、演算制御部35は、第一線量モニタ26からの検出信号に基づき単一のスポット照射におけるビーム照射量を演算し、この演算したビーム照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定し、例えばビーム照射量が許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0046】
本発明の要部である第二線量モニタ27は、走査電磁石21A,21Bで走査するビームの走査面Aをビームの断面積Bより小さくなるように区画した複数の区画領域Pi(i=1,2,…)のそれぞれにおける照射量を連続的に検出可能とし(図7参照)、その検出信号を出力するようになっている。そして、演算制御部35は、患部2aの同じ層をビーム照射する間(言い換えれば、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射する間)、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき、照射野に相当する複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。詳細には、メモリ33に記憶された照射野を参照して対応する複数の区画領域を設定し、それら設定された複数の区画領域において検出値(カウント値)をそれぞれ積算する。なお、ビームの径方向の線量分布がガウス分布となっているので、ビームの中心近傍に位置する区画領域では検出値が比較的大きく、ビームの中心から離れた区画領域では検出値が比較的小さくなっている。そして、演算制御部35は、演算した積算照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかをそれぞれ判定し、例えば積算照射量が許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0047】
図8は、本実施形態の粒子線治療システムにおけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。図9は、図8中のステップ130のインターロック制御処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【0048】
まず、ステップ100において、患部2を深さ方向に分割した最初の層に対応するビームの飛程を設定する。加速・輸送制御装置は、荷電粒子ビーム発生装置3を制御して荷電粒子ビームを加速させ、ビームエネルギーを設定値まで高めるとともに、そのビームエネルギーの設定値に対応してビーム輸送系4を準備する。また、照射制御装置6は、照射装置5における散乱体22の種類を選択してビームサイズを調整するとともに、レンジシフタ24の吸収体の組み合わせを制御してビームの飛程を調整するようになっている。その後、ステップ110に進み、照射制御装置6は、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、最初のスポット照射位置を固定する。
【0049】
そして、ステップ120に進み、照射制御装置6は、ビーム出射開始信号を出力して出射用スイッチ18を閉じ状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へ荷電粒子ビームを出射させて、患部2aへのスポット照射を開始する。このとき、照射制御装置6は、位置モニタ25からの検出信号に基づきビームの照射位置のずれを演算し、第一線量モニタ26からの検出信号に基づき単一のスポット照射におけるビーム照射量を演算し、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。そして、ステップ130に進み、照射制御装置6は、それらの演算結果に基づいてインターロック制御処理に移る。
【0050】
インターロック制御処理では、ステップ131において、演算したビーム照射位置のずれがメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えばビーム照射位置のずれが許容値を超えた場合は、ステップ131の判定が満たされ、ステップ132に移る。ステップ132では、インターロック信号をインターロック装置36に出力し、インターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのビーム照射を中止させる。また、表示信号を表示装置9に出力し、ビーム照射を中止したことを報知する表示を行わせる。一方、例えばビーム照射位置のずれが許容値未満である場合は、ステップ131の判定が満たされず、ステップ133に移る。
【0051】
ステップ133では、演算した複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば積算照射量が許容値を超えた場合は、ステップ133の判定が満たされ、上述のステップ132に移って上記同様の手順を行い、患部2aへのビーム照射を中止させる。一方、例えば積算照射量が許容値未満である場合は、ステップ133の判定が満たされず、ステップ134に移る。
【0052】
ステップ134では、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値を超えた場合は、ステップ134の判定が満たされ、上述のステップ132に移って上記同様の手順を行い、患部2aへのビーム照射を中止させる。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値未満である場合は、ステップ134の判定が満たされず、ステップ130のインターロック制御処理が終了して、ステップ140に移る。
【0053】
ステップ140では、照射制御装置6は、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された目標値に達したかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達しない場合は、上述のステップ120に戻り、上記同様の手順を繰り返す。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達した場合は、ステップ150に移る。ステップ150では、ビーム出射停止信号を出力して出射用スイッチ18を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのスポット照射を停止させる。
【0054】
そして、ステップ160に進み、同じ飛程で照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち患部2aの同じ層において他のスポット照射位置があるかどうかを判定する。一般に、最初は他のスポット照射位置があるため、ステップの160の判定が満たされ、上述のステップ110に戻る。ステップ110では、照射制御装置6は、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、次のスポット照射位置に固定する。その後、上述したステップ120〜150の手順が行われる。なお、このとき、照射制御装置6は、ビームの照射位置のずれ及び単一のスポット照射におけるビーム照射量を新たに演算するとともに、複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を、前回の積算照射量に加えながら演算する。そして、ステップ110〜150の手順が繰り返し行われ、患部2aの同じ層において最後の照射スポットが完了すると、ステップ160の判定が満たされなくなり、ステップ170に進む。
【0055】
ステップ170では、飛程を変えて照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち、患部2aにおける照射すべき他の層があるかどうかを判定する。一般に、最初は照射すべき他の層があるため、ステップ170の判定が満たされ、上述のステップ100に戻る。そして、上述したステップ100〜160の手順が繰り返し行われ、さらに最後の層の照射が完了すると、ステップ170の判定が満たされて、患部2aへの照射が終了する。
【0056】
なお、上記において、第二線量モニタ27は、特許請求の範囲記載の走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器を構成する。また、照射制御装置6は、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段を構成し、かつ、予め設定された積算照射量の許容値を記憶する第1の記憶手段を構成し、かつ、積算照射量演算手段で演算された積算照射量と第1の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置から照射装置へのビーム出射を中止させる第1のインターロック手段を構成する。
【0057】
以上のように本実施形態においては、走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域Piのそれぞれにおける照射量を検出する第二線量モニタ27を設け、照射制御装置6は、第二線量モニタ27の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。そして、照射制御装置6は、演算した積算照射量と予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中止させる(インターロック)。これにより、安全性を確保することができるとともに、他のインターロックの作動条件であるビームの照射位置の精度を緩和することができる。その結果、照射位置の精度を確保するためのシンクロトロン12やビーム輸送系4の調整時間を短縮させることができる。
【0058】
なお、上記一実施形態においては、特に説明しなかったが、中央制御装置8では、積算照射量の許容値を、例えばビームの飛程に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた値として設定記憶するようにしてもよい。すなわち、例えば上述の図3に示すようにビームの飛程が長くなるほど照射量が多くなる場合、患部2aに付与する照射量は飛程の長いビームが支配的となって飛程の短いビームの影響が低くなるため、ビームの飛程が短くなるほど前述した許容係数を大きくなるように設定してもよい。また、例えば同じ飛程のビームを同じスポット照射位置に複数回に分けて照射する場合、積算照射量の許容値を、その照射回数段階に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた値として設定記憶するようにしてもよい。すなわち、初期段階や途中段階の積算照射量における許容値は、最終段階の積算照射量における許容値より比較的大きく設定することが可能なため、初期段階になるほど前述した許容係数を大きくなるように設定してもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0059】
本発明の第2の実施形態を図10〜図12により説明する。本実施形態は、積算照射量の一様度を演算し、これに基づいてインターロックを作動させる実施形態である。なお、本実施形態において、上記第1の実施形態と同等の部分は図示及び説明を適宜省略する。
【0060】
本実施形態では、中央制御装置8は、同じスポット照射位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射するように計画するとともに、各スポット照射位置における照射回数段階毎のビーム照射量の目標値及びその許容値を設定し、それらの情報を含む運転制御データをメモリ32に記憶するようになっている。そして、照射制御装置6Aは、中央制御装置8から入力した運転制御データをメモリ33に記憶するとともに、この運転制御データに基づき照射装置5等を制御するようになっている。
【0061】
また、照射制御装置6Aは、患部2aの同じ層をビーム照射する間(言い換えれば、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射する間)、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき、照射野に相当する複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算し、その積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算するようになっている。そして、演算した積算照射量の一様度がメモリ33に記憶された許容値(なお、この許容値は、中央制御装置8で作成された運転制御データに含まれている)を超えたかどうかを判定し、例えば積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0062】
図10は、本実施形態の粒子線治療システムにおけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。また、図11は、図10中のステップ240の第1インターロック制御処理の詳細手順を表すフローチャートであり、図12は、図10中のステップ280の第2インターロック制御処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【0063】
まず、ステップ200において、患部2を深さ方向に分割した最初の層に対応するビームの飛程を設定する。加速・輸送制御装置は、荷電粒子ビーム発生装置3を制御して荷電粒子ビームを加速させ、ビームエネルギーを設定値まで高めるとともに、そのビームエネルギーの設定値に対応してビーム輸送系4を準備する。また、照射制御装置6Aは、照射装置5における散乱体22の種類を選択してビームサイズを調整するとともに、レンジシフタ24の吸収体の組み合わせを制御してビームの飛程を調整するようになっている。そして、ステップ210に進み、照射制御装置6Aは、照射回数段階フラグをi=1に初期設定する。そして、ステップ220に進み、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、最初のスポット照射位置を固定する。
【0064】
そして、ステップ230に進み、照射制御装置6Aは、ビーム出射開始信号を出力して出射用スイッチ18を閉じ状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へ荷電粒子ビームを出射させて、患部2aへのスポット照射を開始する。このとき、照射制御装置6Aは、位置モニタ25からの検出信号に基づきビームの照射位置のずれを演算し、第一線量モニタ26からの検出信号に基づき単一のスポット照射におけるビーム照射量を演算し、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。そして、ステップ240に進み、照射制御装置6Aは、第1インターロック制御処理に移る。
【0065】
第1インターロック制御処理では、ステップ241において、演算したビーム照射位置のずれがメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えばビーム照射位置のずれが許容値を超えた場合は、ステップ241の判定が満たされ、ステップ242に移る。ステップ242では、インターロック信号をインターロック装置36に出力し、インターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのビーム照射を中止させる。また、表示信号を表示装置9に出力し、ビーム照射を中止したことを報知する表示を行わせる。一方、例えばビーム照射位置のずれが許容値未満である場合は、ステップ241の判定が満たされず、ステップ243に移る。
【0066】
ステップ243では、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値を超えた場合は、ステップ243の判定が満たされ、上述のステップ242に移って上記同様の手順を行い、患部2aへのビーム照射を中止させる。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値未満である場合は、ステップ243の判定が満たされず、ステップ240のインターロック制御処理が終了して、ステップ250に移る。
【0067】
ステップ250では、照射制御装置6Aは、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された目標値に達したかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達した場合は、上述のステップ230に戻り、上記同様の手順を繰り返す。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達した場合は、ステップ260に移る。ステップ260では、ビーム出射停止信号を出力して出射用スイッチ18を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのスポット照射を停止させる。
【0068】
そして、ステップ270に進み、最初はi=1なので、同じ飛程で1回目の照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち患部2aの同じ層において1回目の照射すべき他のスポット照射位置があるかどうかを判定する。一般に、最初は他のスポット照射位置があるため、ステップの270の判定が満たされ、上述のステップ220に戻る。ステップ220では、照射制御装置6Aは、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、次のスポット照射位置に固定する。その後、上述したステップ230〜260の手順が行われる。なお、このとき、照射制御装置6Aは、ビームの照射位置のずれ及び単一のスポット照射におけるビーム照射量を新たに演算するとともに、複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を、前回の積算照射量に加えながら演算する。そして、ステップ220〜260の手順が繰り返し行われ、患部2aの同じ層において1回目の最後の照射スポットが完了すると、ステップ270の判定が満たされなくなり、ステップ280に進んで、照射制御装置6Aは、第2インターロック制御処理に移る。
【0069】
第2インターロック制御処理では、ステップ281において、メモリ33に記憶された照射量同一領域を参照して対応する複数の区画領域を設定し、それら設定した複数の区画領域における積算照射量の一様度(詳細には、例えば、積算照射量の最大値と最小値との差を積算照射量の目標値で除した値)を演算する。そして、演算した積算照射量の一様度がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば積算照射量の一様度が許容値を超えた場合は、ステップ281の判定が満たされ、ステップ282に移る。ステップ282では、上述したステップ242と同様、インターロック信号をインターロック装置36に出力し、インターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのビーム照射を中止させる。また、表示信号を表示装置9に出力し、ビーム照射を中止したことを報知する表示を行わせる。一方、例えば積算照射量の一様度が許容値を超えた場合は、ステップ281の判定が満たされず、ステップ280の第2インターロック制御処理が終了して、ステップ290に移る。
【0070】
ステップ290では、i=n(n:最終の照射回数段階)であるかどうかを判定する。最初はi=1であるため、ステップ290の判定が満たされず、ステップ300に移る。ステップ300では、i=i+1が演算される。そして、上述したステップ230〜300の手順が繰り返し行われて、最終の照射回数段階における最後のスポット照射が終了すると、ステップ290の判定が満たされ、ステップ310に移る。
【0071】
ステップ310では、飛程を変えて照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち、患部2aにおける照射すべき他の層があるかどうかを判定する。一般に、最初は照射すべき他の層があるため、ステップ310の判定が満たされ、上述のステップ200に戻る。そして、上述したステップ200〜300の手順が繰り返し行われ、さらに最後の層の照射が完了すると、ステップ310の判定が満たされて、患部2aへの照射が終了する。
【0072】
なお、上記において、照射制御装置6Aは、特許請求の範囲の同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段を構成し、かつ、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を、積算照射量演算手段の演算結果に基づき演算する一様度演算手段を構成し、かつ、予め設定された積算照射量の一様度の許容値を記憶する第2の記憶手段を構成し、かつ、一様度演算手段で演算された積算照射量の一様度と第2の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置から照射装置へのビームの出射を中止させる第2のインターロック手段を構成する。
【0073】
以上のように本実施形態においては、照射制御装置6は、第二線量モニタ27の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算し、その積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算する。そして、照射制御装置6は、演算した積算照射量の一様度と予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中止させる(インターロック)。これにより、安全性を確保することができるとともに、他のインターロックの作動条件であるビームの照射位置の精度を緩和することができる。その結果、照射位置の精度を確保するためのシンクロトロン12やビーム輸送系4の調整時間を短縮させることができる。
【0074】
なお、上記第2の実施形態では、積算照射量の一様度として、照射量同一領域における積算照射量の最大値と最小値との差を積算照射量の目標値で除した値を演算する場合を例にとって説明視したが、これに限られない。すなわち、積算照射量の一様度として、例えば照射量同一領域における積算照射量の標準偏差を演算してもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記第2の実施形態では、特に説明しなかったが、中央制御装置8では、例えばビームの飛程に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を設定記憶するようにしてもよい。すなわち、例えば前述の図3に示すようにビームの飛程が長くなるほど照射量が多くなる場合、患部2aに付与する照射量は飛程の長いビームが支配的となって飛程の短いビームの影響が低くなるため、ビームの飛程が短くなるほど前述した許容値を大きくなるように設定してもよい。また、例えば同じ飛程のビームを同じスポット照射位置に複数回に分けて照射する場合、その照射回数の段階に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を設定記憶するようにしてもよい。すなわち、初期段階や途中段階の積算照射量における許容値は、最終段階の積算照射量における許容値より比較的大きく設定することが可能なため、初期段階になるほど前述した許容値を大きくなるように設定してもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、上記第1の実施形態では、複数の区画領域Piの積算照射量が許容値を超えたときにインターロックを作動させる場合を、上記第2の実施形態では、照射量同一領域における積算照射量の一様度が許容値を超えたときにインターロックを作動させる場合を例にとってそれぞれ説明したが、それらを組み合わせるようにしてもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0077】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、インターロック手段として、シンクロトロン12における出射装置16と高周波電源19との間にインターロック用スイッチ17を設け、このインターロック用スイッチ17を開き状態としてシンクロトロン12からの荷電粒子ビームの出射を中止させる場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えばビーム輸送系4にシャッタを設け、このシャッタを閉じ状態として照射装置5への荷電粒子ビームの出射を中止させるようにしてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、スポット照射制御、すなわち同じ飛程のビームを離散的に照射位置を移動させつつ照射する場合を例にとって説明したが、これに限られず、例えば同じ飛程のビームを連続的に照射位置を移動させつつ照射する場合(言い換えれば、照射位置を変更しつつ患部2aへビーム照射する場合)に適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態における粒子線治療システムの全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における照射装置の構成を照射制御装置とともに表す概略図である。
【図3】ビームにおける患部の深さ方向の線量分布を模式的に表す図である。
【図4】ビームの径方向の線量分布を模式的に表す図である。
【図5】スポット照射制御におけるスポット照射位置の配置例を表す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における照射制御装置のインターロック制御に係わる機能構成を表すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における第二線量モニタの機能を説明するための図である。
【図8】本発明の第1の実施形態におけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。
【図9】図8中のステップ130のインターロック制御の詳細手順を表すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施形態におけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。
【図11】図10中のステップ240の第1インターロック制御の詳細手順を表すフローチャートである。
【図12】図10中のステップ280の第2インターロック制御の詳細手順を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
2a 患部
3 荷電粒子ビーム発生装置
5 照射装置
6 照射制御装置(積算照射量演算手段、第1の記憶手段、第1のインターロック手段)
6A 照射制御装置(積算照射量演算手段、一様度演算手段、第2の記憶手段、第2のインターロック手段)
17 インターロック用スイッチ(第1のインターロック手段、第2のインターロック手段)
21A 走査電磁石
21B 走査電磁石
27 第二線量モニタ(検出器)
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法に係り、特に、陽子や炭素イオン等の荷電粒子ビームを患部に照射して治療する粒子線治療システムに適用するのに好適な荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、標的となる腫瘍細胞に対して放射線を照射することにより、腫瘍細胞を壊死させる方法で治療を行う。この放射線には、X線や粒子線が利用される。X線の場合は、体表付近で与える線量が最も大きく、体内で与える線量が減衰していく。これに対し、粒子線の場合は、停止する直前で与える線量が最も大きく、腫瘍領域に線量を集中して照射できるという点で優れている。そのため、近年、粒子線を利用する粒子線治療システムが広まりつつある。
【0003】
粒子線治療システムでは、一般に、陽子線や炭素線等の荷電粒子ビーム(粒子線)を加速して出射する加速器と、この加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、このビーム輸送系に接続され、標的となる患者の患部へ荷電粒子ビームを照射する照射装置とを備えている。照射装置は、患部に与える線量が周囲と比べて高くなるようにビームを照射し、標的周辺の正常組織への影響を限りなく小さくしなければならない。すなわち、加速器から出射された荷電粒子ビームは、通常、径寸法1〜5mm程度でガウス分布状の線量分布を有しており、その照射領域及び線量分布を整形して標的形状に一致させる必要がある。このような目的を達成するための照射方法としては、散乱体法やスキャニング法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。散乱体法は、散乱体によりビームを径方向に広げかつ線量分布を一様とした後、コリメータで切り取ることにより照射領域を整形する方法である。スキャニング法は、走査電磁石によりビームを進行方向に対し垂直な走査面上で走査して、線量分布が一様な照射領域を整形する方法である。
【0004】
スキャニング方式の照射装置では、走査電磁石の励磁電流を変化させてビームの走査面上位置(照射位置)を制御するが、電磁石のヒステリシス等の様々な要因によりビームの位置がずれる可能性がある。そこで、これに対応するため、ビームの位置を検出するビーム位置モニタと、ビームの設定位置を記憶する記憶装置と、ビーム位置モニタで検出されたビームの検出位置と記憶装置に記憶されたビームの設定位置とを比較し、その誤差が所定の許容範囲内にあるかどうかを判定する異常判定装置とを備えた構成が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、例えばビーム位置の誤差が所定の許容範囲より大きい場合は、異常と判定してインターロック信号を出力し、シンクロトロンの出射装置(高周波印加装置)と高周波電源との間に設けられた開閉スイッチを開き状態として、シンクロトロンからのビーム出射を中止させるようになっている。
【0005】
【非特許文献1】「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスルメンツ(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS)」,1993年8月,第64巻,p.2084〜2089
【特許文献1】2005−296162号公報(段落[0049]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。
上記異常判定装置は、ビーム位置モニタで検出されたビームの検出位置と記憶装置に記憶されたビームの設定位置とを比較し、その誤差(ずれ)が所定の許容範囲より大きい場合にインターロック信号を出力し、開閉スイッチを開き状態として、シンクロトロンからのビーム出射を中止させる。これにより、誤照射を確実に防止し、安全性を確保するようになっている。しかしながら、その一方で、ビーム位置を厳しく管理すると(言い換えれば、所定の許容範囲を小さくすると)、加速器やビーム輸送系等の調整時間が長くなってしまうという課題が生じていた。
【0007】
本発明の目的は、安全性を確保しつつビームの照射位置の精度を緩和することができ、加速器やビーム輸送系の調整時間の短縮化を図ることができる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、予め設定された積算照射量の許容値を記憶する第1の記憶手段と、前記積算照射量演算手段で演算された積算照射量と前記第1の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させる第1のインターロック手段とを備える。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記第1の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶する。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記第1の記憶手段は、前記走査面上の同じ位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射する場合を想定し、その照射回数の段階に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶する。
【0011】
(4)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を、前記積算照射量演算手段の演算結果に基づき演算する一様度演算手段と、予め設定された積算照射量の一様度の許容値を記憶する第2の記憶手段と、前記一様度演算手段で演算された積算照射量の一様度と前記第2の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させる第2のインターロック手段とを備える。
【0012】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記第2の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶する。
【0013】
(6)上記(4)において、好ましくは、前記第2の記憶手段は、飛程が同じビームを複数回に分けて同じ照射位置に照射する場合を想定し、その照射段階に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶する。
【0014】
(7)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、この演算した積算照射量と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させる。
【0015】
(8)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、その演算結果に基づき、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算し、この演算した積算照射量の一様度と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安全性を確保しつつビームの照射位置の精度を緩和することができ、加速器やビーム輸送系の調整時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態である粒子線治療システムを、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施形態における粒子線治療システムの全体構成を表す概略図である。
【0019】
この図1において、粒子線治療システムは、治療ベッド1に固定された患者2の患部2a(後述の図2参照)に例えば陽子線や炭素線等の荷電粒子ビーム(粒子線)を照射して治療を施すものであり、荷電粒子ビーム発生装置3と、この荷電粒子ビーム発生装置3から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系4と、このビーム輸送系4に接続され、荷電粒子ビームを患者2の患部2aに照射する照射装置5とを備えている。また、荷電粒子ビーム発生装置3及びビーム輸送系4を制御する加速・輸送制御装置(図示せず)と、照射装置5を制御する照射制御装置6と、治療計画データ(詳細は後述)を作成する治療計画装置7と、加速・輸送制御装置及び照射制御装置6を統括して制御する中央制御装置8と、照射制御装置6及び中央制御装置8に接続された表示装置9とを備えている。
【0020】
荷電粒子ビーム発生装置3は、イオン源10と、このイオン源10で発生した荷電粒子を加速する前段加速器11(例えば線形加速器)と、この前段加速器11からの荷電粒子ビームをさらに加速するシンクロトロン12(なお、このシンクロトロンに代えて、例えばサイクロトロン等の他の加速器を用いてもよい)とを備えている。シンクロトロン12は、荷電粒子ビームを周回させるための複数の偏向電磁石13及び複数の四極電磁石(図示せず)と、周回する荷電粒子ビームを加速させる加速装置14と、荷電粒子ビームを出射デフレクタ15から出射させる出射装置16とを備えている。加速装置14は、ビームの周回周期と同期して高周波加速空洞(図示せず)に高周波電磁場を発生させ、荷電粒子ビームを加速させる。これにより、ビームエネルギーを設定値(例えば70〜250MeV程度)まで高めるようになっている。
【0021】
出射装置16は、例えば高周波印加電極(図示せず)を有し、この高周波印加電極がインターロック用スイッチ17及び出射用スイッチ18を介し高周波電源19に接続されている。インターロック用スイッチ17は通常閉じ状態にあり、例えば照射制御装置6からのビーム出射開始信号に応じて出射用スイッチ18が閉じ状態に切り替えられると、出射装置16は、高周波電源19からの高周波電力が供給されて、荷電粒子ビームに高周波を印可する。これにより、荷電粒子ビームが周回軌道から離脱して出射用デフレクタ15から出射されるようになっている。一方、インターロック用スイッチ17又は出射用スイッチ18が開き状態にある場合は、荷電粒子ビームが出射されないようになっている。
【0022】
ビーム輸送系4は、複数の偏向電磁石及び複数の四極電磁石を有し、シンクロトロン12から出射された荷電粒子ビームを照射装置5に輸送するようになっている。
【0023】
照射装置5は、ビーム輸送系4の一部であるビーム経路20とともに回転ガントリー(図示せず)に設置されており、この回転ガントリーによって患者2の周囲を回転し任意の方向からのビーム照射を可能としている。また、本実施形態における照射装置5は、走査電磁石により荷電粒子ビームを進行方向に対し垂直な走査面上で走査しつつ、散乱体により径方向寸法を拡大させて照射する方法、言い換えれば、スキャニング法と散乱体法との中間に位置する照射方法(均一走査方法と称す)を採用している。このような照射装置5の構成を図2により説明する。
【0024】
図2は、本実施形態における照射装置5の構成を照射制御装置6とともに表す概略図である。
【0025】
この図2において、照射装置5には、ビーム進行方向(図2中下方向)に沿う順序で、走査電磁石21A,21B、散乱体22、リッジフィルタ23、レンジシフタ24、位置モニタ25、第一線量モニタ26、第二線量モニタ27、コリメータ28、及びボーラス29が設けられている。
【0026】
走査電磁石21A,21Bは、走査電磁石用電源30A,30Bにそれぞれ接続されており、これら走査電磁石電源30A,30Bから走査電磁石21A,21Bへの供給電流を制御する電源制御装置31が設けられている。電源制御装置31は、照射制御装置6からの指令信号に応じて走査電磁石21A,21Bの供給電流をそれぞれ制御し、これによって走査電磁石21A,21Bの励磁磁場をそれぞれ制御する。このように制御された走査電磁石21A,21Bの励磁磁場によって、荷電粒子ビームは、進行方向に対し垂直で互いに直交するX方向(図2中左右方向)及びY方向(図2中紙面に対し垂直方向)にそれぞれ偏向され、走査されるようになっている。
【0027】
散乱体22は、ビーム散乱量に対しエネルギー損失が少ない材料(詳細には、タングステン等の原子番号の大きな物質)からなる板部材で構成されており、ビームの径方向の線量分布をガウス分布としつつビームを径方向に拡大するようになっている。なお、散乱体24によるビーム散乱量はビームエネルギーに依存するため、ビームエネルギーに応じて散乱体24の厚みを変更させなければ、ビームの径寸法をほぼ同じ大きさにすることができない。そのため、図2では便宜上図示していないが、厚みが異なる複数の散乱体22を搭載したターンテーブルが設けられており、照射制御装置6からの指令信号に応じてターンテーブルが回転駆動し、ビームエネルギーに対応して選択された散乱体22がビームの通過位置に配置されるようになっている。
【0028】
リッジフィルタ23は、ビームのエネルギー分布幅を広げて、ビームにおける患部2aの深さ方向(図2中上下方向)の線量分布を一様に拡大する、いわゆる拡大ブラッグピーク形成装置である。このリッジフィルタ23は、複数の楔型構造を有し、ビーム入射位置に応じてビームが透過する厚み寸法が異なっている。これにより、ビーム入射位置に応じてエネルギー損失量が異なるため、複数のエネルギー成分を持つビームが形成される。その結果、患部2aに照射されると異なる深さのブラッグピークが複数形成され、全体として患部2aの深さ方向に一様な線量分布を形成するようになっている。
【0029】
レンジシフタ24は、エネルギー損失に対してビーム散乱量が少ない材料(詳細には、樹脂等の原子番号の小さな物質)からなり厚みが異なる複数の吸収体と、これら吸収体をそれぞれ移動させる吸収体駆動装置とで構成されている。そして、照射制御装置6からの指令信号に応じて吸収体を選択してビームの通過位置に移動させることにより、ビームエネルギーを減衰させて飛程(到達深度)を調整するようになっている。
【0030】
コリメータ28は、荷電粒子ビームを遮蔽する遮蔽体で構成され、この遮蔽体には患部2aの横方向(言い換えれば、ビーム進行方向に対し垂直な方向)形状に対応する貫通穴が形成されている。これにより、荷電粒子ビームの照射範囲を患部2aの横方向形状に合わせて整形するようになっている。
【0031】
ボーラス29は、例えば樹脂製のブロック体が掘削加工されたものであり、ビーム入射位置に応じて厚み寸法が変化している。これにより、ビーム入射位置毎にビーム飛程が調整され、荷電粒子ビームの到達深度を患部2aの深さ形状に合わせるようになっている。
【0032】
前述の図1に戻り、治療計画装置7は、治療計画データ(詳細には、例えば患部2aの形状、照射方向、患部2aを深さ方向に分割した複数の層、及び各層の形状(照射野)等の情報を含むデータ)を作成して中央制御装置8へ出力するようになっている。なお、本実施形態の粒子線治療システムでは、ビームのスポット照射制御(詳細には、照射位置を固定したスポット照射を行い、その照射位置におけるビーム照射量が目標値に達したらスポット照射を停止させ、その後、ビーム照射を中断させた状態で照射位置を移動させる制御)を行なっている。そのため、治療計画データには、各層におけるスポット照射位置、照射順序、各スポット照射位置におけるビーム照射量の目標値等の情報も含まれている。このような治療計画の詳細について図3〜図5を用いて説明する。
【0033】
はじめに深さ方向に一様な線量分布を形成する方法について説明する。一様分布を形成する方法には、前述したリッジフィルタを用いる方法の他に、患部2aを深さ方向に分割しそれぞれの深さに対応した位置にブラッグピークを持つビームを順番に照射していく方法がある。この場合、ブラッグピークの深さが異なるビームの照射は、加速装置のエネルギーや次に説明するレンジシフタの厚みを調整することで実現する。本実施形態の照射方法である均一走査法では、どちらの方法も可能であるが、今後は後者の方法に基づき説明を進める。ただし、リッジフィルタにより深さ方向に一様な線量分布を形成する場合においても本発明は同様に適用できる。
【0034】
図3は、ビームにおける患部2aの深さ方向の線量分布を模式的に表す図である。この図3中実線で示すように、ビームにおける患部2aの深さ方向の線量分布は、ビームの飛程(言い換えれば、ビームエネルギー)に応じた深さ位置でブラッグピークが形成される。したがって、飛程が異なる複数(図3では6つを例示)の荷電粒子ビームを重ね合わせれば、患部2aの深さ方向に線量が一様となる分布(図3中点線で図示)を形成することが可能である。このような観点に基づき、治療計画装置7では、ビームの飛程間隔を(好ましくは、ブラッグピーク幅の2倍程度に)設定し、これに基づき患部2aを深さ方向に分割する複数の層を設定する。
【0035】
また、荷電粒子ビームはブラッグピークの位置より浅い位置にも線量を付与するので、通常、深い層から照射していくように照射順序を設定する。また、患部2aの深さ方向に線量が一様となる分布を形成するため、図3に示すように、長い飛程のビームの照射量よりも短い飛程のビームの照射量を小さくしなければならない。このような観点に基づき、ビームの照射量を設定する。
【0036】
図4は、ビームの径方向の線量分布を模式的に表す図である。この図4中実線で示すように、ビームの径方向の線量分布は、ガウス分布となっている。従って、スポット照射位置が異なる複数(図4では4つを例示)の荷電粒子ビームを重ね合わせれば、線量が一様となる分布(図4中点線で図示)を形成することが可能である。このような観点に基づき、治療計画装置7では、ビームの径寸法及びスポット照射の位置間隔(好ましくは、ガウス分布の標準偏差の1倍程度から2倍程度の間)を設定し、これに基づき各層におけるスポット照射位置(言い換えれば、スポット照射の中心位置)を設定する。具体的には、スポット照射の位置間隔を一定としつつ、例えば図5(a)に示すように格子状にスポット照射位置Si(i=1,2,…)を配置してもよいし、また例えば図5(b)に示すように三角状にスポット照射位置Sj(j=1,2,…)を配置してもよい。若しくは、図示しないが、スポット照射の位置間隔を一定としないで、スポット照射位置を配置してもよい。その後、照射順序及び各スポット照射位置における照射量の目標値を設定する。
【0037】
前述の図1に戻り、中央制御装置8は、治療計画装置7から入力された治療計画データをメモリ32に記憶するとともに、この治療計画データに基づき運転制御データを作成してメモリ32に記憶する。なお、運転制御データには、治療計画データに含まれる情報に基づいて演算された情報だけでなく、メモリ32に予め設定記憶された情報等も含まれている。そして、中央制御装置8は、オペレータからの治療開始の指令に応じて、メモリ32に記憶された運転制御データを加速・輸送制御装置及び照射制御装置6に出力するとともに、加速・輸送制御装置及び照射制御装置6を統括して制御するようになっている。
【0038】
加速・輸送制御装置は、中央制御装置8から入力した運転制御データ(詳細には、患部2aを深さ方向に分割した各層に対応するビームエネルギーの設定値、及びこのビームエネルギーに設定するための電磁石の励磁電流などの制御パラメータを含むデータ)を内部メモリに記憶し、この運転制御データに基づき荷電粒子ビーム発生装置3及びビーム輸送系4を制御するようになっている。
【0039】
照射制御装置6は、中央制御装置8から入力した運転制御データ(詳細には、患部2aを深さ方向に分割した各層に対応するレンジシフタ24の吸収体の組み合わせと、ビームエネルギーに対応する散乱体22の種類と、各層におけるスポット照射位置や照射順序に対応する走査電磁石21A,21Bの励磁電流パターンと、各スポット照射位置における照射量の目標値と、照射位置や照射量の許容値等の情報を含むデータ)をメモリ33(後述の図6参照)に記憶し、この運転制御データに基づき照射装置5等を制御するようになっている。
【0040】
詳しく説明すると、照射制御装置6は、第1の機能(スポット照射制御機能)として、まず、電源制御装置31を介し操作電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御してビームの照射位置を固定し、その後、ビーム出射開始信号を出力して出射用スイッチ18を閉じ状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へ荷電粒子ビームを出射させて、患部2aへのスポット照射を開始する。そして、第一線量モニタ26で検出した単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達したかどうかを判定し、ビーム照射量が目標値に達した場合にビーム出射停止信号を出力して出射用スイッチ18を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのスポット照射を停止させる。その後、患部2aへのビーム照射を中断させた状態で、スポット照射位置を変更するようになっている。
【0041】
また、照射制御装置6は、第2の機能(インターロック制御機能)として、位置モニタ25、第一線量モニタ26、及び第二線量モニタ27の検出結果に応じてインターロック信号を出力するようになっている。
【0042】
図6は、照射制御装置6の上記インターロック制御に係わる機能構成を表すブロック図である。
【0043】
この図6において、照射制御装置6は、上述した運転制御データ等を記憶するメモリ33と、位置モニタ25、第一線量モニタ26、及び第二線量モニタ27からの検出信号を入力する入力部34と、位置モニタ25、第一線量モニタ26、及び第二線量モニタ27からの検出信号にそれぞれ基づき、所定の演算処理を行う演算制御部35と、この演算制御部35で生成したインターロック信号をインターロック装置36に出力するとともに、表示信号を表示装置9に出力する出力部37とを有している。インターロック装置36は、照射制御装置6からのインターロック信号に応じてインターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させるようになっている(前述の図1参照)。
【0044】
照射制御装置6の演算制御部35は、位置モニタ25からの検出信号に基づきビームの照射位置のずれ(目標値との差分)を演算し、この演算した照射位置のずれがメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定し、例えば照射位置のずれが許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0045】
第一線量モニタ26は、ビーム全体の照射量を連続的に検出可能とし、その検出信号を出力するようになっている。そして、演算制御部35は、第一線量モニタ26からの検出信号に基づき単一のスポット照射におけるビーム照射量を演算し、この演算したビーム照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定し、例えばビーム照射量が許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0046】
本発明の要部である第二線量モニタ27は、走査電磁石21A,21Bで走査するビームの走査面Aをビームの断面積Bより小さくなるように区画した複数の区画領域Pi(i=1,2,…)のそれぞれにおける照射量を連続的に検出可能とし(図7参照)、その検出信号を出力するようになっている。そして、演算制御部35は、患部2aの同じ層をビーム照射する間(言い換えれば、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射する間)、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき、照射野に相当する複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。詳細には、メモリ33に記憶された照射野を参照して対応する複数の区画領域を設定し、それら設定された複数の区画領域において検出値(カウント値)をそれぞれ積算する。なお、ビームの径方向の線量分布がガウス分布となっているので、ビームの中心近傍に位置する区画領域では検出値が比較的大きく、ビームの中心から離れた区画領域では検出値が比較的小さくなっている。そして、演算制御部35は、演算した積算照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかをそれぞれ判定し、例えば積算照射量が許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0047】
図8は、本実施形態の粒子線治療システムにおけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。図9は、図8中のステップ130のインターロック制御処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【0048】
まず、ステップ100において、患部2を深さ方向に分割した最初の層に対応するビームの飛程を設定する。加速・輸送制御装置は、荷電粒子ビーム発生装置3を制御して荷電粒子ビームを加速させ、ビームエネルギーを設定値まで高めるとともに、そのビームエネルギーの設定値に対応してビーム輸送系4を準備する。また、照射制御装置6は、照射装置5における散乱体22の種類を選択してビームサイズを調整するとともに、レンジシフタ24の吸収体の組み合わせを制御してビームの飛程を調整するようになっている。その後、ステップ110に進み、照射制御装置6は、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、最初のスポット照射位置を固定する。
【0049】
そして、ステップ120に進み、照射制御装置6は、ビーム出射開始信号を出力して出射用スイッチ18を閉じ状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へ荷電粒子ビームを出射させて、患部2aへのスポット照射を開始する。このとき、照射制御装置6は、位置モニタ25からの検出信号に基づきビームの照射位置のずれを演算し、第一線量モニタ26からの検出信号に基づき単一のスポット照射におけるビーム照射量を演算し、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。そして、ステップ130に進み、照射制御装置6は、それらの演算結果に基づいてインターロック制御処理に移る。
【0050】
インターロック制御処理では、ステップ131において、演算したビーム照射位置のずれがメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えばビーム照射位置のずれが許容値を超えた場合は、ステップ131の判定が満たされ、ステップ132に移る。ステップ132では、インターロック信号をインターロック装置36に出力し、インターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのビーム照射を中止させる。また、表示信号を表示装置9に出力し、ビーム照射を中止したことを報知する表示を行わせる。一方、例えばビーム照射位置のずれが許容値未満である場合は、ステップ131の判定が満たされず、ステップ133に移る。
【0051】
ステップ133では、演算した複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば積算照射量が許容値を超えた場合は、ステップ133の判定が満たされ、上述のステップ132に移って上記同様の手順を行い、患部2aへのビーム照射を中止させる。一方、例えば積算照射量が許容値未満である場合は、ステップ133の判定が満たされず、ステップ134に移る。
【0052】
ステップ134では、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値を超えた場合は、ステップ134の判定が満たされ、上述のステップ132に移って上記同様の手順を行い、患部2aへのビーム照射を中止させる。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値未満である場合は、ステップ134の判定が満たされず、ステップ130のインターロック制御処理が終了して、ステップ140に移る。
【0053】
ステップ140では、照射制御装置6は、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された目標値に達したかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達しない場合は、上述のステップ120に戻り、上記同様の手順を繰り返す。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達した場合は、ステップ150に移る。ステップ150では、ビーム出射停止信号を出力して出射用スイッチ18を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのスポット照射を停止させる。
【0054】
そして、ステップ160に進み、同じ飛程で照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち患部2aの同じ層において他のスポット照射位置があるかどうかを判定する。一般に、最初は他のスポット照射位置があるため、ステップの160の判定が満たされ、上述のステップ110に戻る。ステップ110では、照射制御装置6は、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、次のスポット照射位置に固定する。その後、上述したステップ120〜150の手順が行われる。なお、このとき、照射制御装置6は、ビームの照射位置のずれ及び単一のスポット照射におけるビーム照射量を新たに演算するとともに、複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を、前回の積算照射量に加えながら演算する。そして、ステップ110〜150の手順が繰り返し行われ、患部2aの同じ層において最後の照射スポットが完了すると、ステップ160の判定が満たされなくなり、ステップ170に進む。
【0055】
ステップ170では、飛程を変えて照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち、患部2aにおける照射すべき他の層があるかどうかを判定する。一般に、最初は照射すべき他の層があるため、ステップ170の判定が満たされ、上述のステップ100に戻る。そして、上述したステップ100〜160の手順が繰り返し行われ、さらに最後の層の照射が完了すると、ステップ170の判定が満たされて、患部2aへの照射が終了する。
【0056】
なお、上記において、第二線量モニタ27は、特許請求の範囲記載の走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器を構成する。また、照射制御装置6は、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段を構成し、かつ、予め設定された積算照射量の許容値を記憶する第1の記憶手段を構成し、かつ、積算照射量演算手段で演算された積算照射量と第1の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置から照射装置へのビーム出射を中止させる第1のインターロック手段を構成する。
【0057】
以上のように本実施形態においては、走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域Piのそれぞれにおける照射量を検出する第二線量モニタ27を設け、照射制御装置6は、第二線量モニタ27の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。そして、照射制御装置6は、演算した積算照射量と予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中止させる(インターロック)。これにより、安全性を確保することができるとともに、他のインターロックの作動条件であるビームの照射位置の精度を緩和することができる。その結果、照射位置の精度を確保するためのシンクロトロン12やビーム輸送系4の調整時間を短縮させることができる。
【0058】
なお、上記一実施形態においては、特に説明しなかったが、中央制御装置8では、積算照射量の許容値を、例えばビームの飛程に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた値として設定記憶するようにしてもよい。すなわち、例えば上述の図3に示すようにビームの飛程が長くなるほど照射量が多くなる場合、患部2aに付与する照射量は飛程の長いビームが支配的となって飛程の短いビームの影響が低くなるため、ビームの飛程が短くなるほど前述した許容係数を大きくなるように設定してもよい。また、例えば同じ飛程のビームを同じスポット照射位置に複数回に分けて照射する場合、積算照射量の許容値を、その照射回数段階に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた値として設定記憶するようにしてもよい。すなわち、初期段階や途中段階の積算照射量における許容値は、最終段階の積算照射量における許容値より比較的大きく設定することが可能なため、初期段階になるほど前述した許容係数を大きくなるように設定してもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0059】
本発明の第2の実施形態を図10〜図12により説明する。本実施形態は、積算照射量の一様度を演算し、これに基づいてインターロックを作動させる実施形態である。なお、本実施形態において、上記第1の実施形態と同等の部分は図示及び説明を適宜省略する。
【0060】
本実施形態では、中央制御装置8は、同じスポット照射位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射するように計画するとともに、各スポット照射位置における照射回数段階毎のビーム照射量の目標値及びその許容値を設定し、それらの情報を含む運転制御データをメモリ32に記憶するようになっている。そして、照射制御装置6Aは、中央制御装置8から入力した運転制御データをメモリ33に記憶するとともに、この運転制御データに基づき照射装置5等を制御するようになっている。
【0061】
また、照射制御装置6Aは、患部2aの同じ層をビーム照射する間(言い換えれば、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射する間)、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき、照射野に相当する複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算し、その積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算するようになっている。そして、演算した積算照射量の一様度がメモリ33に記憶された許容値(なお、この許容値は、中央制御装置8で作成された運転制御データに含まれている)を超えたかどうかを判定し、例えば積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合にインターロック信号及び表示信号を出力部37から出力するようになっている。
【0062】
図10は、本実施形態の粒子線治療システムにおけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。また、図11は、図10中のステップ240の第1インターロック制御処理の詳細手順を表すフローチャートであり、図12は、図10中のステップ280の第2インターロック制御処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【0063】
まず、ステップ200において、患部2を深さ方向に分割した最初の層に対応するビームの飛程を設定する。加速・輸送制御装置は、荷電粒子ビーム発生装置3を制御して荷電粒子ビームを加速させ、ビームエネルギーを設定値まで高めるとともに、そのビームエネルギーの設定値に対応してビーム輸送系4を準備する。また、照射制御装置6Aは、照射装置5における散乱体22の種類を選択してビームサイズを調整するとともに、レンジシフタ24の吸収体の組み合わせを制御してビームの飛程を調整するようになっている。そして、ステップ210に進み、照射制御装置6Aは、照射回数段階フラグをi=1に初期設定する。そして、ステップ220に進み、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、最初のスポット照射位置を固定する。
【0064】
そして、ステップ230に進み、照射制御装置6Aは、ビーム出射開始信号を出力して出射用スイッチ18を閉じ状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へ荷電粒子ビームを出射させて、患部2aへのスポット照射を開始する。このとき、照射制御装置6Aは、位置モニタ25からの検出信号に基づきビームの照射位置のずれを演算し、第一線量モニタ26からの検出信号に基づき単一のスポット照射におけるビーム照射量を演算し、第二線量モニタ27からの検出信号に基づき複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算する。そして、ステップ240に進み、照射制御装置6Aは、第1インターロック制御処理に移る。
【0065】
第1インターロック制御処理では、ステップ241において、演算したビーム照射位置のずれがメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えばビーム照射位置のずれが許容値を超えた場合は、ステップ241の判定が満たされ、ステップ242に移る。ステップ242では、インターロック信号をインターロック装置36に出力し、インターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのビーム照射を中止させる。また、表示信号を表示装置9に出力し、ビーム照射を中止したことを報知する表示を行わせる。一方、例えばビーム照射位置のずれが許容値未満である場合は、ステップ241の判定が満たされず、ステップ243に移る。
【0066】
ステップ243では、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値を超えた場合は、ステップ243の判定が満たされ、上述のステップ242に移って上記同様の手順を行い、患部2aへのビーム照射を中止させる。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が許容値未満である場合は、ステップ243の判定が満たされず、ステップ240のインターロック制御処理が終了して、ステップ250に移る。
【0067】
ステップ250では、照射制御装置6Aは、演算した単一のスポット照射におけるビーム照射量がメモリ33に記憶された目標値に達したかどうかを判定する。例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達した場合は、上述のステップ230に戻り、上記同様の手順を繰り返す。一方、例えば単一のスポット照射におけるビーム照射量が目標値に達した場合は、ステップ260に移る。ステップ260では、ビーム出射停止信号を出力して出射用スイッチ18を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのスポット照射を停止させる。
【0068】
そして、ステップ270に進み、最初はi=1なので、同じ飛程で1回目の照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち患部2aの同じ層において1回目の照射すべき他のスポット照射位置があるかどうかを判定する。一般に、最初は他のスポット照射位置があるため、ステップの270の判定が満たされ、上述のステップ220に戻る。ステップ220では、照射制御装置6Aは、電源制御装置31を介し走査電磁石21A,21Bの励磁磁場を制御して、次のスポット照射位置に固定する。その後、上述したステップ230〜260の手順が行われる。なお、このとき、照射制御装置6Aは、ビームの照射位置のずれ及び単一のスポット照射におけるビーム照射量を新たに演算するとともに、複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を、前回の積算照射量に加えながら演算する。そして、ステップ220〜260の手順が繰り返し行われ、患部2aの同じ層において1回目の最後の照射スポットが完了すると、ステップ270の判定が満たされなくなり、ステップ280に進んで、照射制御装置6Aは、第2インターロック制御処理に移る。
【0069】
第2インターロック制御処理では、ステップ281において、メモリ33に記憶された照射量同一領域を参照して対応する複数の区画領域を設定し、それら設定した複数の区画領域における積算照射量の一様度(詳細には、例えば、積算照射量の最大値と最小値との差を積算照射量の目標値で除した値)を演算する。そして、演算した積算照射量の一様度がメモリ33に記憶された許容値を超えたかどうかを判定する。例えば積算照射量の一様度が許容値を超えた場合は、ステップ281の判定が満たされ、ステップ282に移る。ステップ282では、上述したステップ242と同様、インターロック信号をインターロック装置36に出力し、インターロック用スイッチ17を開き状態に切り換え、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中断させて、患部2aへのビーム照射を中止させる。また、表示信号を表示装置9に出力し、ビーム照射を中止したことを報知する表示を行わせる。一方、例えば積算照射量の一様度が許容値を超えた場合は、ステップ281の判定が満たされず、ステップ280の第2インターロック制御処理が終了して、ステップ290に移る。
【0070】
ステップ290では、i=n(n:最終の照射回数段階)であるかどうかを判定する。最初はi=1であるため、ステップ290の判定が満たされず、ステップ300に移る。ステップ300では、i=i+1が演算される。そして、上述したステップ230〜300の手順が繰り返し行われて、最終の照射回数段階における最後のスポット照射が終了すると、ステップ290の判定が満たされ、ステップ310に移る。
【0071】
ステップ310では、飛程を変えて照射すべき他のビームがあるかどうか、すなわち、患部2aにおける照射すべき他の層があるかどうかを判定する。一般に、最初は照射すべき他の層があるため、ステップ310の判定が満たされ、上述のステップ200に戻る。そして、上述したステップ200〜300の手順が繰り返し行われ、さらに最後の層の照射が完了すると、ステップ310の判定が満たされて、患部2aへの照射が終了する。
【0072】
なお、上記において、照射制御装置6Aは、特許請求の範囲の同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段を構成し、かつ、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を、積算照射量演算手段の演算結果に基づき演算する一様度演算手段を構成し、かつ、予め設定された積算照射量の一様度の許容値を記憶する第2の記憶手段を構成し、かつ、一様度演算手段で演算された積算照射量の一様度と第2の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置から照射装置へのビームの出射を中止させる第2のインターロック手段を構成する。
【0073】
以上のように本実施形態においては、照射制御装置6は、第二線量モニタ27の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを走査面上の位置を移動させて照射したときの複数の区画領域Piのそれぞれにおける積算照射量を演算し、その積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算する。そして、照射制御装置6は、演算した積算照射量の一様度と予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、荷電粒子ビーム発生装置3から照射装置5へのビーム出射を中止させる(インターロック)。これにより、安全性を確保することができるとともに、他のインターロックの作動条件であるビームの照射位置の精度を緩和することができる。その結果、照射位置の精度を確保するためのシンクロトロン12やビーム輸送系4の調整時間を短縮させることができる。
【0074】
なお、上記第2の実施形態では、積算照射量の一様度として、照射量同一領域における積算照射量の最大値と最小値との差を積算照射量の目標値で除した値を演算する場合を例にとって説明視したが、これに限られない。すなわち、積算照射量の一様度として、例えば照射量同一領域における積算照射量の標準偏差を演算してもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記第2の実施形態では、特に説明しなかったが、中央制御装置8では、例えばビームの飛程に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を設定記憶するようにしてもよい。すなわち、例えば前述の図3に示すようにビームの飛程が長くなるほど照射量が多くなる場合、患部2aに付与する照射量は飛程の長いビームが支配的となって飛程の短いビームの影響が低くなるため、ビームの飛程が短くなるほど前述した許容値を大きくなるように設定してもよい。また、例えば同じ飛程のビームを同じスポット照射位置に複数回に分けて照射する場合、その照射回数の段階に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を設定記憶するようにしてもよい。すなわち、初期段階や途中段階の積算照射量における許容値は、最終段階の積算照射量における許容値より比較的大きく設定することが可能なため、初期段階になるほど前述した許容値を大きくなるように設定してもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、上記第1の実施形態では、複数の区画領域Piの積算照射量が許容値を超えたときにインターロックを作動させる場合を、上記第2の実施形態では、照射量同一領域における積算照射量の一様度が許容値を超えたときにインターロックを作動させる場合を例にとってそれぞれ説明したが、それらを組み合わせるようにしてもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0077】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、インターロック手段として、シンクロトロン12における出射装置16と高周波電源19との間にインターロック用スイッチ17を設け、このインターロック用スイッチ17を開き状態としてシンクロトロン12からの荷電粒子ビームの出射を中止させる場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えばビーム輸送系4にシャッタを設け、このシャッタを閉じ状態として照射装置5への荷電粒子ビームの出射を中止させるようにしてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、スポット照射制御、すなわち同じ飛程のビームを離散的に照射位置を移動させつつ照射する場合を例にとって説明したが、これに限られず、例えば同じ飛程のビームを連続的に照射位置を移動させつつ照射する場合(言い換えれば、照射位置を変更しつつ患部2aへビーム照射する場合)に適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態における粒子線治療システムの全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における照射装置の構成を照射制御装置とともに表す概略図である。
【図3】ビームにおける患部の深さ方向の線量分布を模式的に表す図である。
【図4】ビームの径方向の線量分布を模式的に表す図である。
【図5】スポット照射制御におけるスポット照射位置の配置例を表す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における照射制御装置のインターロック制御に係わる機能構成を表すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における第二線量モニタの機能を説明するための図である。
【図8】本発明の第1の実施形態におけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。
【図9】図8中のステップ130のインターロック制御の詳細手順を表すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施形態におけるスポット照射制御の制御処理内容を表すフローチャートである。
【図11】図10中のステップ240の第1インターロック制御の詳細手順を表すフローチャートである。
【図12】図10中のステップ280の第2インターロック制御の詳細手順を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
2a 患部
3 荷電粒子ビーム発生装置
5 照射装置
6 照射制御装置(積算照射量演算手段、第1の記憶手段、第1のインターロック手段)
6A 照射制御装置(積算照射量演算手段、一様度演算手段、第2の記憶手段、第2のインターロック手段)
17 インターロック用スイッチ(第1のインターロック手段、第2のインターロック手段)
21A 走査電磁石
21B 走査電磁石
27 第二線量モニタ(検出器)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、
同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、
予め設定された積算照射量の許容値を記憶する第1の記憶手段と、
前記積算照射量演算手段で演算された積算照射量と前記第1の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させる第1のインターロック手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第1の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第1の記憶手段は、前記走査面上の同じ位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射する場合を想定し、その照射回数の段階に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、
同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、
積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を、前記積算照射量演算手段の演算結果に基づき演算する一様度演算手段と、
予め設定された積算照射量の一様度の許容値を記憶する第2の記憶手段と、
前記一様度演算手段で演算された積算照射量の一様度と前記第2の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させる第2のインターロック手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
請求項4記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第2の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
請求項4記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第2の記憶手段は、前記走査面上の同じ位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射する場合を想定し、その照射回数の段階に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、
この演算した積算照射量と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させることを特徴とする荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項8】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、
その演算結果に基づき、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算し、
この演算した積算照射量の一様度と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させることを特徴とする荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、
同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、
予め設定された積算照射量の許容値を記憶する第1の記憶手段と、
前記積算照射量演算手段で演算された積算照射量と前記第1の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させる第1のインターロック手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第1の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第1の記憶手段は、前記走査面上の同じ位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射する場合を想定し、その照射回数の段階に応じて異なる許容係数を積算照射量の目標値に乗じた許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有し、前記走査電磁石を通過した荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器と、
同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を、前記検出器の検出結果に基づき演算する積算照射量演算手段と、
積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を、前記積算照射量演算手段の演算結果に基づき演算する一様度演算手段と、
予め設定された積算照射量の一様度の許容値を記憶する第2の記憶手段と、
前記一様度演算手段で演算された積算照射量の一様度と前記第2の記憶手段で記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させる第2のインターロック手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
請求項4記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第2の記憶手段は、ビームの飛程に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
請求項4記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記第2の記憶手段は、前記走査面上の同じ位置に同じ飛程のビームを複数回に分けて照射する場合を想定し、その照射回数の段階に応じて異なる積算照射量の一様度の許容値を記憶することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、
この演算した積算照射量と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビーム出射を中止させることを特徴とする荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項8】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを偏向して走査面上で走査する走査電磁石を有する照射装置により、荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射方法において、
前記走査面をビーム断面積より小さくなるように区画した複数の区画領域のそれぞれにおける照射量を検出する検出器の検出結果に基づき、同じ飛程のビームを前記走査面上の位置を移動させて照射したときの前記複数の区画領域のそれぞれにおける積算照射量を演算し、
その演算結果に基づき、積算照射量の目標値が同じである複数の区画領域からなる照射量同一領域における積算照射量の一様度を演算し、
この演算した積算照射量の一様度と記憶手段で予め設定記憶された許容値とを比較し、積算照射量の一様度が許容値を超えたと判定した場合に、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記照射装置へのビームの出射を中止させることを特徴とする荷電粒子ビーム照射方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−39219(P2009−39219A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205779(P2007−205779)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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