荷電粒子ビーム装置及び試料作製方法
【課題】試料のイオンビーム照射による高精度の薄膜加工と電子ビーム照射による高分解能のSTEM観察の両者を、ほぼ試料を動かすことなく、高スループットで実施する。
【解決手段】FIB照射系16の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系5の照射軸をほぼ直交させ、その交差位置に試料7を配置して、試料のFIB断面加工面をSTEM観察用試料の薄膜面にとる。透過・散乱ビーム検出手段9a,9bは、電子ビーム照射軸上で電子ビーム照射方向からみて試料の後方に配置する。
【解決手段】FIB照射系16の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系5の照射軸をほぼ直交させ、その交差位置に試料7を配置して、試料のFIB断面加工面をSTEM観察用試料の薄膜面にとる。透過・散乱ビーム検出手段9a,9bは、電子ビーム照射軸上で電子ビーム照射方向からみて試料の後方に配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイスの基板から取り出した微細試料を微細加工しながら観察することのできる荷電粒子ビーム装置及びその荷電粒子ビーム装置を用いた試料作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を利用した微細加工の技術は、例えば再公表特許WO99/05506に述べられている。FIBを試料に照射することによりスパッタリング現象を利用した微細加工ができるので、例えば半導体デバイスの基板から微細試料を掘り出すことができる。また、試料のFIB照射部近傍にデポジション用ガスを導入してそのガス雰囲気中でFIB照射すれば、イオンビームアシストデポジション現象によりデポジション膜が形成できる。この膜形成は一種の微細接着に利用できる。デポジション用ガス供給源を備えたFIB試料室内に微細試料を引き上げるためのプローブを設置することにより、FIB加工により掘り出した微細試料をFIBデポジション膜形成によりプローブに固定して試料基板から分離し、引き上げることができる。引き上げた微細試料は、同じ試料室内の試料基板近くに前もって置いてあった微細試料保持部に固定できる。この微細試料保持部は、操作性の観点から透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)や走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)の試料ホルダーへの装着が容易な形状となっている。
【0003】
FIB装置とSTEMの組み合わせに関する技術は、特開2004−228076号公報および特開2002−29874号公報に開示されている。特開2004−228076号公報においては、FIB加工により作製されたSTEM観察用試料は、イオンビーム軸と電子ビーム軸の交点に置かれ、FIBによる追加工とSTEM観察ができることが示されている。STEM試料の薄膜面は、FIBによる追加工に対してはほぼ平行に、STEM観察に対してはほぼ直角に置く必要がある。しかし、この技術ではイオンビーム軸と電子ビーム軸は鋭角(図5では約45度)交差であり、FIB追加工とSTEM観察間でSTEM試料は両軸に垂直な回転軸周辺で回転させることが必要となる。また、特開2002−29874号公報においても、イオンビーム軸と電子ビーム軸は鋭角(図1では約50度)の交差例となっている。
【0004】
一方、TEM試料作製に関する技術が、特開平6−231720号公報に開示されている。そこではFIBで薄膜加工するTEM試料の膜厚を調べるために、その試料断面と垂直な方向から電子ビームを照射し、電子ビーム照射強度と試料を透過した電子ビームとの強度比を検出している。ここでの透過電子ビームは、STEM信号である散乱角のきわめて小さい透過ビームと透過散乱した散乱ビームとを区別した検出は行っておらず、STEM観察観点からの試料膜厚モニターにはなっていない。同種の技術は、特開平8-5528号公報にも開示されている。また、特開平6−231719号公報においては、TEM装置の試料室にTEMの電子ビーム軸と直角方向にFIB照射系を配置し、FIB加工で作製したTEM試料を大気に取り出すことなく、そのままTEM観察できるのが特徴で、FIB追加工時などのスループットの悪さを解決する装置として開示されている。そこでは試料膜厚の制御としてTEM像モニターについても開示されている。
【0005】
また、特開平7−92062号公報では、TEM装置の電子ビーム照射系軸に対しFIB照射系軸を斜め方向(<90度)に取り付け、FIB加工中試料のその場TEM観察例が開示されている。しかし、FIBは試料面に対し斜め入射となっているため、FIB入射軸とほぼ平行に加工作製する断面薄膜試料に比べ、ビーム損傷が深く形成されるという欠点がある。
【0006】
一方、STEM単体装置については、例えば、特開2000−21346号公報に述べられている。試料からの透過電子および散乱電子を検出して輝度信号に用いたビーム走査像は、それぞれ明視野像および暗視野像と呼ばれる。明視野像のコントラスは、照射電子の試料での吸収、回折、および位相ずれが反映する。一方、暗視野像では回折した電子の特定角方向に反射したもののみを輝度信号とするもので結晶粒の大きさなどが明瞭に現れる特徴がある。明視野像と暗視野像のいずれの画像とも、試料を通過したビームで形成した画像(STEM画像)であり、薄膜内構造の解析に非常に有効である。
【0007】
また、STEM装置の照射電子ビームのエネルギーは、従来はTEMと同じく200keV程度と高エネルギーであったが、最近では論文Journal Electron Microscopy 51(1):53-57(2002)に報告されているように、30keVと従来のSEMと同じエネルギー領域でSTEM観察が行われるようになった。電子ビームの照射エネルギーが低下すると薄膜試料の透過能力も低下するため、低エネルギーSTEM装置では一般的にFIB加工で作製する薄膜試料に高精度の膜厚管理が要求されている。
【特許文献1】再公表特許WO99/05506
【特許文献2】特開2004−228076号公報
【特許文献3】特開2002−29874号公報
【特許文献4】特開平6−231720号公報
【特許文献5】特開平8-5528号公報
【特許文献6】特開平6−231719号公報
【特許文献7】特開平7−92062号公報
【特許文献8】特開2000−21346号公報
【特許文献9】特開2003−142021号公報
【非特許文献1】Journal Electron Microscopy 51(1):53-57(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、FIB加工とSTEM観察はこれまでの多くは別々の装置で行っており、FIB装置で加工作製したSTEM用薄膜試料は、一旦、FIB装置から取り出した後に、STEM装置に入れて観察する必要があった。そのため、STEM観察とFIB追加工の繰り返しによって観察個所を更に特定しながらでの薄膜化加工のニーズにはスループットの観点から十分に応えられていなかった。最近、FIB加工とSTEM観察を一体化した装置も出されたが、FIB加工時とSTEM観察時とで試料を回転して、その試料薄膜面をそれぞれの方向に合わせる操作作業が残っていた。
【0009】
STEM像観察の観点からは、十分な像信号強度と高い像コントラストの確保が重要であるが、通常は両立していない(むしろ相反している)。特に暗視野像においては、試料材料(原子番号)、観察部位、および観察対象の試料界面における厚さ方向の一様性などにより最適試料厚さが異なるため、それを高精度に事前推定することが困難である。そのため、加工途中でSTEM像をモニターしながら試料を厚めの方向から最適厚さに少しずつ薄膜化していく作業となっている。
【0010】
本発明が解決しようとする第一の課題は、FIB加工時とSTEM観察時との間での試料回転作業などの省略化(あるいは、最少化)、および加工途中のSTEM像モニターを利用した試料厚さの最適化作業の簡略化により、FIB加工からSTEM観察までを一つの試料室内で高スループットに実現できる装置を提供することにある。
【0011】
一方、低エネルギー(30keV程度)のSTEM観察では、高エネルギー(200keV程度)観察に比べ、ビーム径が太くなる分だけ像分解能が低下する。そこで、作業操作の簡略性やスループットを多少犠牲にしてでもSTEM観察の像分解能を高めたいという装置ユーザも存在する。第二の課題は、このようなSTEM像分解能により重きをおいた装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の第一の課題を解決するためには、FIB加工とSTEM観察の両方が試料をできるだけ動かさずにできるように、イオンビーム照射系、電子ビーム照射系、および透過・散乱ビーム検出手段を試料周辺に配置することである。つまり、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸をほぼ直交させ、その交差位置に試料を配置して、試料のFIB断面加工面をSTEM観察用試料の薄膜面にとるのである。また、透過・散乱ビーム検出手段は、電子ビーム照射軸上で電子ビーム照射方向からみて試料の後方に配置するのである。この配置により、試料をほとんど動かさずにFIB加工とSTEM観察が実現できる。
【0013】
次に、上記の第二の課題を解決するための手段について述べる。FIB加工時とSTEM観察時との間での試料回転作業などの作業省略化(あるいは、最少化)、および加工途中のSTEM像モニターを利用した試料厚さ最適化作業の簡略化である第一の観点からは、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸はほぼ直交している。一方、FIB加工におけるビームの細束化(高加工速度および高加工位置精度化)およびSTEM観察の高像分解能化の観点からは、電子ビーム照射系やイオンビーム照射系の対物レンズが試料にできるだけ近い位置に配置されることが要求される。しかし、両照射系の対物レンズの空間的大きさから試料に近づけられる距離には制限がある。作業操作の簡略性やスループットを多少犠牲にしてでもSTEM観察の像分解能を高めるという条件下では、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸を直角を越えた角度で交差させるのが有効である。この配置によると、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸をほぼ直角に配置した場合より電子ビーム照射系の対物レンズを試料により近づけることができる。
【0014】
電子ビーム照射系の対物レンズが磁界型レンズの場合、その磁界を試料側に漏洩させることにより、実効的に対物レンズを試料に近づけたことになる。これもSTEM観察の高性能化課題を解決するための一手段となる。この漏洩磁界は、FIBが同位体イオンから構成されている場合、磁界内でのイオンビーム軌道を分離するため、試料上でのビーム照射点に分離を起こす。この問題に対しては、分離したビームが試料上で再度、一点に集束するように補償磁場を形成すればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、FIB加工においてはより高い微細加工能力を持たせて薄膜試料を作製し、一方、STEM観察においてはより高分解能のSTEM観察ができる。また、薄膜試料作製において高精度に膜厚管理することができ、FIB加工からSTEM観察までを時系列、あるいは、同時に、一つの試料室内で高スループットに実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明による荷電粒子ビーム装置の第1の実施例の概略構成を示す図、図2は図1のA−A’断面図である。
【0018】
電子ビーム照射系5とイオンビーム照射系16は試料7を照射するように試料室筐体11に取り付けられている。電子ビーム照射系5は、電子銃1から放出させた電子を集束する集束レンズ2、電子ビーム偏向器3、および対物レンズ4からなり、試料7上に電子ビーム6として細く絞り、かつ走査させながら照射する機能を持つ。一方、イオンビーム照射系16は、イオン銃12から放出させたイオンを集束する集束レンズ13、イオンビーム偏向器14、および対物レンズ15からなり、試料7上に集束イオンビーム(FIB)17として細く絞り、かつ特定個所の特定範囲内を走査させながら照射する機能を持つ。図1の実施例では電子ビーム6とイオンビーム17の試料7への両照射軸がほぼ交差し、その交差角はほぼ直角(=90度±1度)である。試料はその交差点30におかれ、イオンビーム照射による薄膜加工と電子ビーム照射によるSTEM観察がほとんど試料を動かすことなく、操作性良く実施できる。
【0019】
FIB加工で試料の一部を薄片化し、その薄片部7a上で電子ビーム6を照射・走査する。薄膜部7aを通過した透過ビーム8aおよび散乱ビーム8bは、それぞれ透過ビーム検出器9aおよび散乱ビーム検出器9bで検出される。その他の検出器としては、二次電子検出手段20と反射電子検出手段25がある。二次電子検出手段20は、FIB加工時に試料7から放出される二次電子19を検出するものである。図1において、二次電子検出手段20は、実際にはイオンビーム照射系16の後側にあって見えないため、便宜上、イオンビーム照射系16のすぐ上部に描いてある。実際は、図1のA−A’断面(電子ビーム6の照射軸に垂直でイオンビーム17の照射軸を含む面)を表す図2に示すように、二次電子検出手段20はこのA−A’断面内に配置される。
【0020】
試料7から二次電子検出手段20に引いた直線を軸50とすると、この軸はA−A’断面内にある。図3は、軸50と電子ビーム6の照射軸を含む断面図である。二次電子検出手段20の二次電子入り口面21の中心は軸50上、つまり、二次電子入り口面21は軸50とイオンビーム17の照射軸とを含む面に対してほぼ面対称となる位置に配置されている。これにより、FIBによる薄膜試料面7aの表面および裏面の加工時にそのそれぞれ面から放出される二次電子19をほぼ同じ収率で収集し、検出することができる。その走査画像は走査イオン顕微鏡像(SIM像)と呼ばれる。試料ホルダー22は、そのホルダー軸23が電子ビームとイオンビームの両照射軸に垂直で、かつ両照射軸の交点30を通る軸上に取られている。試料ホルダー22は試料を傾斜も含めて微動するための試料ステージに26に保持されており、試料ステージに26は試料室筐体11に固定されている。
【0021】
これまでは、二次電子検出面が1枚の場合について説明してきた。しかし、二次電子検出面の枚数は、二次電子収集効率をより高めるために、図3の破線矩形内の記号21aと21bで示すように2枚であっても良い。このような複数配置の場合にも、二次電子入り口面は上記と同様に軸50とイオンビーム17の照射軸とを含む面に対してほぼ面対称位置に配置することが大事である。また、この二次電子検出手段20は電子ビーム照射時に試料7から放出される二次電子19を検出する場合にも使用する。特に、二次電子入り口面21を図3の破線配置のごとくほぼ面対称に2個(あるいは複数)配置した場合は、試料薄膜の表面と裏面から発生する二次電子を分離して検出することも可能となる。電子ビーム照射時においては試料7から二次電子の他に、後方に反射される反射電子24も発生するため、反射電子24を検出するための反射電子検出手段25も備えてある(図1参照)。いずれの検出信号も、ビーム走査信号と同期して描く走査画像の輝度信号に使うことができる。
【0022】
図4は、本発明の荷電粒子ビーム装置のビーム照射系、ビーム制御部、および画像表示手段の全装置構成を説明する図である。図4において、全ての検出手段からの検出信号はビーム制御手段40に取り込まれ、また電子ビーム照射手段5とイオンビーム照射手段16のビーム制御はこのビーム制御手段40から行われる。ビーム制御手段40には、両ビーム照射手段に電圧印加や電流供給する電圧電流源ばかりでなく、計算機も含んでおり、そこでは電圧電流制御や各検出器からの信号処理などのソフト処理も行っている。また、これらの制御や処理用のパラメータ入出力表示、および種々の走査画像の表示などを目的とした画像表示手段41がビーム制御手段40と電気的につながっている。また、種々の走査画像に対しては、その画像平均輝度、コントラスト、信号ノイズ比(SN比)、および像分解能が数値評価されており、画像表示手段41の表示画面内に数値表示あるいはグラフ表示ができる。一般に、薄膜試料が薄くなるにつれ、透過電子ビーム量も増すため、輝度は増し、像分解能は高くなる(分解能数値は小さくなる)。
【0023】
図5(a)は、STEMの明視野像における輝度とコントラストをFIBによる試料の仕上げ時の削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例である。また、図5(b)は、STEMの暗視野像における界面AおよびBを含む領域でのコントラストの削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例である。輝度とコントラストは、粗走査画像(512×512ピクセル)におけるそれぞれ平均輝度およびピクセル輝度ヒストグラムの10%-90%輝度範囲を平均輝度で割った値とした。輝度やコントラストは加工中に取得したSTEM画像から所定のタイミング毎にリアルタイムで計算され、結果が順次グラフに追加してプロットされる。
【0024】
明視野像において、試料の薄膜化を進めていくに従い、図5(a)に示すように輝度およびコントラストとも増大するが、コントラストは途中から飽和し、減少する傾向を示す。コントラストの途中からの飽和、減少傾向についてはその要因は良くわかっていない。図5(b)に示す暗視野像のコントラストにおいて、その最大コントラストをもたらす試料の削り量は、観察する界面領域AとBにより異なっていることがわかる。つまり、特定の界面領域を暗視野像の高コントラスト観察を行う場合、その最適試料厚さは、試料を透過する全ビーム強度をモニターしても判らず、試料の薄膜化を進めながら実際の暗視野像を取得してそのコントラストをモニターすることにより判定できるのである。最適試料厚さに達した後、目的の高精細STEM画像(1024×1024、2048×2048、4096×4096ピクセル)を取得した。
【0025】
走査画像の輝度やコントラストの他、SN比および像分解能のグラフ表示(あるいは数値表示)も可能である。表示グラフには、そのカーブの変化分を見やすくするために、削り量に対してその微分カーブも表示するモードが用意されている。前述の図5(a)および(b)には、輝度やコントラストを削り量に対するプロットの他に、その微分量(任意単位)も右の縦y軸表示でプロットしてある。微分プロットカーブのy=0のラインとの交差点は微分前の原プロットカーブの最大値に相当し、その最大値への到達状況の把握には、この微分プロットカーブが非常に有効となる。グラフプロット表示では、原プロットか原プロットと微分プロットの重畳かが選択できる。
【0026】
以下、輝度、コントラスト、SN比および像分解能に関して、本実施例で用いた算出方法について説明する。画像からこれらを評価する方法は未だ確立されておらず、研究開発が進められている。先ず、輝度は、画像観察者が指定した画像内の特定領域の画素強度の平均値から原点(ビーム照射を止めた時の画素強度平均値)を差し引いた値である。コントラストは特定領域の画素強度のヒストグラムにおける最大90%と最小10%の強度差である。SN比と像分解能は、特開2003−142021号公報に開示されている像評価方法を用いた。つまり、画像の各ピクセル位置毎にその位置を中心とした局所xy領域3x3を切出し、そこでのピクセル強度をzとして、下記式で表される二次曲面をフィットさせる(これにより、係数a〜fが決まる。)。
z=ax2+by2+cxy+dx+ey+f (aからf:係数)
【0027】
画像ノイズが多いとこのフィッティングずれが多くなる。このフィッティングずれの特定領域全体での平均をSN比のN、前述の輝度をSとして、このSとNとの比(=S/N)をSN比とした。像分解能は、前記の局所xy領域3x3に貼り付けた二次曲面の中心での勾配の逆数を局所像分解能の比例量とし、この比例量の特定領域全体での重み付き平均を像分解能(任意単位)とした。重みには勾配の絶対値を採用した。
【0028】
輝度、コントラスト、SN比および像分解能などのグラフ表示は、STEM像を実際に観察しながらのものであり、FIB加工の継続か中止の判断、あるいは追加工の必要性有無の総合的に、あるいは特に有る特定の像評価パラメータ(輝度、コントラスト、SN比および像分解能など)に注目して判断をするのに非常に有効であった。特に、自動加工の観点からは、薄膜試料をFIB粗加工で作製する場合、粗加工の終点検出信号として所望STEM画像の特質(輝度、コントラスト、SN比、および像分解能など)の閾値を予め登録しておくことにより、自動加工も可能になった。輝度、コントラスト、SN比又は像分解能の閾値を登録する機能や、STEM画像の特質が予め登録した閾値に達したか否かを判定する機能、STEM画像の特質が予め登録した閾値に達したと判定されたとき、イオンビームの照射を止めて粗加工を終了する機能等は、ビーム制御手段40に持たせることができる。
【0029】
図6は、画像表示手段41の表示画枠内に明視野像、暗視野像、SIM像および上記の表示グラフを表示する場合の配置例を示している。
【0030】
以下、走査画像の使い方について、まとめておく。SIM像は、FIB加工位置の設定、加工中の加工モニター、加工終了の確認、加工断面の観察などに使用する。一方、電子ビーム照射で得られる信号には、二次電子、反射電子、透過電子、および散乱電子があり、それらの走査像は、それぞれ二次電子像、反射電子像、明視野像、および暗視野像と呼ばれ、前の2つの像がSEM像、残りの2つの像がSTEM像に分類される。STEM像は、試料を通過したビームで形成した画像であり、薄膜内構造の解析に非常に有効である。また、イオン照射軸と電子ビーム照射軸が90度で交差しているため、FIB加工中の試料を横方向からSEM像観察することができる。SEM断面加工で作製する薄膜試料では、そのトップ部がFIBのビーム裾でエッチング損傷を受けることがあるが、このSEM像はこのエッチング損傷のモニター観察に非常に有効である。また、FIB加工とSTEM観察で試料を動かす必要がない。SIM像、SEM像およびSTEM像の組み合わせ観察は、特に、その観察像を見ながら更なる詳細解析個所をFIB加工により追跡していく場合、操作性、スループット性、観察像の質の観点で非常に大きな効果があることを確認した。このSTEM像(あるいはSEM像)観察とFIB加工は、時系列でも、同時でも可能である。これにより、オペレータが走査画像をモニターしながら、FIB加工をいつでも中断、再開することが可能となり、試料の特定個所の高精度の加工と高分解能のSTEM観察が確実に、かつ高スループットに実現できる。
【実施例2】
【0031】
図7は本発明による荷電粒子ビーム装置の第2の実施例の概略構成を示す図、図8は電子ビーム照射軸とイオンビーム照射軸との交差角を説明する図である。本実施例の荷電粒子ビーム装置は、電子ビームの照射軸とイオンビームの照射軸の交差角が90度を超えている例である。
【0032】
本実施例では、電子ビーム6とイオンビーム17の試料7への両照射軸の交差角を110度に取ってある。これによりイオンビーム照射系16の対物レンズ15は、交差角90度の実施例1の場合より約3mm試料に近づけることができ、加工用ビーム性能が同じ電流値換算ではFIB径を約15%細くできた。これは、同じ加工速度条件下でのFIB加工位置精度が約15%改善されることに相当する。ただし、FIB加工とSTEM観察の間で試料7を試料傾斜角度差β(図8参照)分だけ傾斜角移動させる必要がある。FIB加工とSTEM観察間の試料移動が試料傾斜角差βの傾斜角のみの移動で済むように、試料ホルダー22は、図2と同様、そのホルダー軸23は、電子ビームとイオンビームの両照射軸に垂直で、かつ両照射軸の交点30を通る軸上に取られている。試料ホルダー22は試料を傾斜も含めて微動するための試料ステージに26に保持されており、試料ステージに26は試料室筐体11に固定されている。
【0033】
電子ビーム照射系の対物レンズとイオンビーム照射系の対物レンズを試料に接近させたいという観点から、試料近傍の空間を最大に広くするには、両ビーム照射軸の交差角は180度に取るのが良い。しかし、電子ビーム照射軸から180度軸方向には透過・散乱ビーム検出手段9aと9bが配置されるので、180度には取れない。具体的には電子ビーム照射系5の対物レンズ端側の円錐角θebや照射系直径、イオンビーム照射系16の対物レンズ端側の円錐角θibや照射系直径、および透過・散乱ビーム検出手段の大きさなども考慮しながら、移動角度βの増加分とビーム性能改善分とをバランスさせ、両ビーム照射軸の交差角は90度から180度間で設定されるものである。
【実施例3】
【0034】
電子ビーム照射系の対物レンズが磁界型レンズの場合、その磁界を試料側に漏洩させることにより実効的に対物レンズを試料に近づけたことになり、STEM観察の高性能化が図られる。本実施例は、この漏洩磁界型対物レンズに関するもので、図9を用いて説明する。
【0035】
対物レンズ4は漏洩磁界型であり、磁極片4aと励磁コイル4bとからなる。磁界は試料側、つまり、電子ビーム6の照射軸とイオンビーム17の照射軸の交点30側に漏洩させ、電子ビーム6の照射軸上に磁束密度分布35を形成する。漏洩した磁界はイオンビーム17の照射軸上にも存在する。そのイオンビーム17の照射軸上での磁束分布例を図10に示す。FIB加工用イオンビームのイオン種には、通常、ガリウム(Ga)を使用する。Gaは同位体Ga69とGa71を持つため、イオンビーム17の照射軸上での磁束分布は試料上でのビーム・スポットを分離し、ビーム径を実効的に分離方向に大きくする。このビーム径の増加は、加工位置精度を劣化させるため、対策が必要となる。これに対しては以下の手段で対策した。
【0036】
電子ビーム照射系における磁界型対物レンズの磁場分布を詳しく解析すると、電子ビーム照射軸近傍の狭い領域では例えば下向き(或いは上向き)の強い磁場が存在し、対物レンズの外側の広い領域には上向き(或いは下向き)の弱い磁場が存在している。イオンビーム照射軸はこの両者の向きの磁場空間を貫通していることになる。イオンビームスポットの分離課題を解決するためには、イオンビーム光軸上に光軸に垂直な磁場成分が互いに逆向きになる領域を存在させ、その結果として試料上のビーム・スポット位置を磁場が存在しない場合と一致するようにすれば、イオン銃から試料までのイオン光路は、同位体ごとに異なるけれども、試料上でのビーム・スポット位置は一致するという性質を利用した。具体的には、イオンビーム照射系の光軸上に補正磁場発生部を持ち込み、漏洩磁場とこの補正磁場とを合わせた結果として、試料上のビーム・スポット位置を磁場が存在しない場合と一致するように補正磁場を設定するのである。
【0037】
図11に、光軸上に補正磁場発生部27を持ち込んだイオンビーム照射系の実施例を示す。図12は補正磁場発生部の概略図であり、図12(a)は断面図、図12(b)は上面図である。補正磁場発生部27は、一対の対向したコイル61とパーマロイ製の磁路62で構成されている。この磁路62はイオンビーム光軸上で補正磁場を効率よく発生すると同時に、コイル61から外部への漏れ磁場を抑制するための磁気遮蔽体の役割をしている。ここで磁路の材料はパーマロイに限ることなく、純鉄やパーメンダ等透磁率が大きく保磁力が小さい磁性体ならば何でもよい。透磁率が大きいほど外部への漏れ磁場を小さくすることができる。補正磁場発生部27は中心にビーム通路を有して、そのビーム通路をイオンビーム17の照射軸に一致させて配置されている。補正磁場発生部27のビーム通路は、集束レンズ13を通ったイオンビームを全て通す径を有する。
【0038】
本図ではイオンビーム光軸上に発生する補正磁場63の方向は紙面に平行であり、光軸に垂直である。このようにすると、イオン・ビームには紙面と光軸に垂直な方向にローレンツ力が作用するが、この方向はSEMの対物レンズ4からの磁場によるローレンツ力と平行であり、補正磁場の向きと大きさを適切に調整することにより、試料7上のイオンビームの照射スポット位置を、磁場が無い場合の位置に完全に一致させることができる。
【0039】
ここでビーム・スポットは必ずしも円形であることを意味しない、非点収差等の影響によりビーム断面が楕円形、或いは線状になっている場合でも、ここでの議論は等しく成り立つ。本発明でビーム・スポットと言うときはあらゆる形状を含んでいるのである。補正磁場発生部はイオンビーム光軸上のどこにあってもよいが、SEM対物レンズ4の磁場を乱さない程度に試料7から遠ざけるのがよい。また図11の補正磁場発生部27ではコイルが一対の場合を示したが、コイルは2対以上でもよい。2対以上の場合には補正磁場の大きさだけでなく方向も自由に設定することができて好都合である。
【0040】
これにより、試料側に磁界を漏洩させる対物レンズを搭載した電子照射系の採用装置においても、Ga同位体イオンビームを分離することなく試料に照射できるようになり、FIB加工においては試料の特定個所のより高い微細加工能力と、STEM観察における高分解能化を一つの試料室内で両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による荷電粒子ビーム装置の第1の実施例の概略構成を示す図。
【図2】図1のA−A’断面図。
【図3】試料から二次電子検出面に引いた直線軸と電子ビーム照射軸を含む断面における二次電子検出面の配置を説明する概略図。
【図4】本発明のビーム照射系、ビーム制御部、および画像表示手段の全装置構成を説明する図。
【図5】(a)は明視野像における輝度とコントラストをFIBによる試料の仕上げ時の削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例、(b)は暗視野像における界面AおよびBを含む領域でのコントラストの削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例を示す図。
【図6】画像表示手段の表示画枠内に明視野像、暗視野像、SIM像および表示グラフを示した例を示す図。
【図7】本発明による荷電粒子ビーム装置の第2の実施例の概略構成を示す図。
【図8】電子ビーム照射軸とイオンビーム照射軸との交差角を説明する図。
【図9】対物レンズが磁界型レンズでその磁界を試料側に漏洩させた電子ビーム照射系とイオンビーム照射系の組み合わせ説明図。
【図10】電子ビーム照射系の対物レンズから漏洩した磁界のイオンビーム照射軸上での磁束分布例図。
【図11】補正磁場発生部を組み込んだイオンビーム照射系の説明図。
【図12】補正磁場発生部の概略図。
【符号の説明】
【0042】
1:電子銃、2:集束レンズ、3:電子ビーム偏向器、4:対物レンズ、5:電子ビーム照射系、6:電子ビーム、7:試料、7a:試料の薄膜部、8a:透過電子ビーム、8b:散乱電子ビーム、9a:透過電子ビーム検出手段、9b:散乱電子ビーム検出手段、11:試料室筐体、12:イオン銃、13:集束レンズ、14:イオンビーム偏向器、15:対物レンズ、16:イオンビーム照射系、17:イオンビーム、18:排気系、19:二次電子、20:二次電子検出手段、21:二次電子手段の二次電子入り口面、22:試料ホルダー、23:試料ホルダー軸、24:反射電子、25:反射電子検出器、26:試料ステージ、27:補正磁場発生部、30:イオンビームと電子ビームの照射軸の交点、40:ビーム制御手段、41:画像表示手段、42:排気系制御手段、50:試料から二次電子検出面(1枚の場合)に引いた直線軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイスの基板から取り出した微細試料を微細加工しながら観察することのできる荷電粒子ビーム装置及びその荷電粒子ビーム装置を用いた試料作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を利用した微細加工の技術は、例えば再公表特許WO99/05506に述べられている。FIBを試料に照射することによりスパッタリング現象を利用した微細加工ができるので、例えば半導体デバイスの基板から微細試料を掘り出すことができる。また、試料のFIB照射部近傍にデポジション用ガスを導入してそのガス雰囲気中でFIB照射すれば、イオンビームアシストデポジション現象によりデポジション膜が形成できる。この膜形成は一種の微細接着に利用できる。デポジション用ガス供給源を備えたFIB試料室内に微細試料を引き上げるためのプローブを設置することにより、FIB加工により掘り出した微細試料をFIBデポジション膜形成によりプローブに固定して試料基板から分離し、引き上げることができる。引き上げた微細試料は、同じ試料室内の試料基板近くに前もって置いてあった微細試料保持部に固定できる。この微細試料保持部は、操作性の観点から透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)や走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)の試料ホルダーへの装着が容易な形状となっている。
【0003】
FIB装置とSTEMの組み合わせに関する技術は、特開2004−228076号公報および特開2002−29874号公報に開示されている。特開2004−228076号公報においては、FIB加工により作製されたSTEM観察用試料は、イオンビーム軸と電子ビーム軸の交点に置かれ、FIBによる追加工とSTEM観察ができることが示されている。STEM試料の薄膜面は、FIBによる追加工に対してはほぼ平行に、STEM観察に対してはほぼ直角に置く必要がある。しかし、この技術ではイオンビーム軸と電子ビーム軸は鋭角(図5では約45度)交差であり、FIB追加工とSTEM観察間でSTEM試料は両軸に垂直な回転軸周辺で回転させることが必要となる。また、特開2002−29874号公報においても、イオンビーム軸と電子ビーム軸は鋭角(図1では約50度)の交差例となっている。
【0004】
一方、TEM試料作製に関する技術が、特開平6−231720号公報に開示されている。そこではFIBで薄膜加工するTEM試料の膜厚を調べるために、その試料断面と垂直な方向から電子ビームを照射し、電子ビーム照射強度と試料を透過した電子ビームとの強度比を検出している。ここでの透過電子ビームは、STEM信号である散乱角のきわめて小さい透過ビームと透過散乱した散乱ビームとを区別した検出は行っておらず、STEM観察観点からの試料膜厚モニターにはなっていない。同種の技術は、特開平8-5528号公報にも開示されている。また、特開平6−231719号公報においては、TEM装置の試料室にTEMの電子ビーム軸と直角方向にFIB照射系を配置し、FIB加工で作製したTEM試料を大気に取り出すことなく、そのままTEM観察できるのが特徴で、FIB追加工時などのスループットの悪さを解決する装置として開示されている。そこでは試料膜厚の制御としてTEM像モニターについても開示されている。
【0005】
また、特開平7−92062号公報では、TEM装置の電子ビーム照射系軸に対しFIB照射系軸を斜め方向(<90度)に取り付け、FIB加工中試料のその場TEM観察例が開示されている。しかし、FIBは試料面に対し斜め入射となっているため、FIB入射軸とほぼ平行に加工作製する断面薄膜試料に比べ、ビーム損傷が深く形成されるという欠点がある。
【0006】
一方、STEM単体装置については、例えば、特開2000−21346号公報に述べられている。試料からの透過電子および散乱電子を検出して輝度信号に用いたビーム走査像は、それぞれ明視野像および暗視野像と呼ばれる。明視野像のコントラスは、照射電子の試料での吸収、回折、および位相ずれが反映する。一方、暗視野像では回折した電子の特定角方向に反射したもののみを輝度信号とするもので結晶粒の大きさなどが明瞭に現れる特徴がある。明視野像と暗視野像のいずれの画像とも、試料を通過したビームで形成した画像(STEM画像)であり、薄膜内構造の解析に非常に有効である。
【0007】
また、STEM装置の照射電子ビームのエネルギーは、従来はTEMと同じく200keV程度と高エネルギーであったが、最近では論文Journal Electron Microscopy 51(1):53-57(2002)に報告されているように、30keVと従来のSEMと同じエネルギー領域でSTEM観察が行われるようになった。電子ビームの照射エネルギーが低下すると薄膜試料の透過能力も低下するため、低エネルギーSTEM装置では一般的にFIB加工で作製する薄膜試料に高精度の膜厚管理が要求されている。
【特許文献1】再公表特許WO99/05506
【特許文献2】特開2004−228076号公報
【特許文献3】特開2002−29874号公報
【特許文献4】特開平6−231720号公報
【特許文献5】特開平8-5528号公報
【特許文献6】特開平6−231719号公報
【特許文献7】特開平7−92062号公報
【特許文献8】特開2000−21346号公報
【特許文献9】特開2003−142021号公報
【非特許文献1】Journal Electron Microscopy 51(1):53-57(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、FIB加工とSTEM観察はこれまでの多くは別々の装置で行っており、FIB装置で加工作製したSTEM用薄膜試料は、一旦、FIB装置から取り出した後に、STEM装置に入れて観察する必要があった。そのため、STEM観察とFIB追加工の繰り返しによって観察個所を更に特定しながらでの薄膜化加工のニーズにはスループットの観点から十分に応えられていなかった。最近、FIB加工とSTEM観察を一体化した装置も出されたが、FIB加工時とSTEM観察時とで試料を回転して、その試料薄膜面をそれぞれの方向に合わせる操作作業が残っていた。
【0009】
STEM像観察の観点からは、十分な像信号強度と高い像コントラストの確保が重要であるが、通常は両立していない(むしろ相反している)。特に暗視野像においては、試料材料(原子番号)、観察部位、および観察対象の試料界面における厚さ方向の一様性などにより最適試料厚さが異なるため、それを高精度に事前推定することが困難である。そのため、加工途中でSTEM像をモニターしながら試料を厚めの方向から最適厚さに少しずつ薄膜化していく作業となっている。
【0010】
本発明が解決しようとする第一の課題は、FIB加工時とSTEM観察時との間での試料回転作業などの省略化(あるいは、最少化)、および加工途中のSTEM像モニターを利用した試料厚さの最適化作業の簡略化により、FIB加工からSTEM観察までを一つの試料室内で高スループットに実現できる装置を提供することにある。
【0011】
一方、低エネルギー(30keV程度)のSTEM観察では、高エネルギー(200keV程度)観察に比べ、ビーム径が太くなる分だけ像分解能が低下する。そこで、作業操作の簡略性やスループットを多少犠牲にしてでもSTEM観察の像分解能を高めたいという装置ユーザも存在する。第二の課題は、このようなSTEM像分解能により重きをおいた装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の第一の課題を解決するためには、FIB加工とSTEM観察の両方が試料をできるだけ動かさずにできるように、イオンビーム照射系、電子ビーム照射系、および透過・散乱ビーム検出手段を試料周辺に配置することである。つまり、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸をほぼ直交させ、その交差位置に試料を配置して、試料のFIB断面加工面をSTEM観察用試料の薄膜面にとるのである。また、透過・散乱ビーム検出手段は、電子ビーム照射軸上で電子ビーム照射方向からみて試料の後方に配置するのである。この配置により、試料をほとんど動かさずにFIB加工とSTEM観察が実現できる。
【0013】
次に、上記の第二の課題を解決するための手段について述べる。FIB加工時とSTEM観察時との間での試料回転作業などの作業省略化(あるいは、最少化)、および加工途中のSTEM像モニターを利用した試料厚さ最適化作業の簡略化である第一の観点からは、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸はほぼ直交している。一方、FIB加工におけるビームの細束化(高加工速度および高加工位置精度化)およびSTEM観察の高像分解能化の観点からは、電子ビーム照射系やイオンビーム照射系の対物レンズが試料にできるだけ近い位置に配置されることが要求される。しかし、両照射系の対物レンズの空間的大きさから試料に近づけられる距離には制限がある。作業操作の簡略性やスループットを多少犠牲にしてでもSTEM観察の像分解能を高めるという条件下では、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸を直角を越えた角度で交差させるのが有効である。この配置によると、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸をほぼ直角に配置した場合より電子ビーム照射系の対物レンズを試料により近づけることができる。
【0014】
電子ビーム照射系の対物レンズが磁界型レンズの場合、その磁界を試料側に漏洩させることにより、実効的に対物レンズを試料に近づけたことになる。これもSTEM観察の高性能化課題を解決するための一手段となる。この漏洩磁界は、FIBが同位体イオンから構成されている場合、磁界内でのイオンビーム軌道を分離するため、試料上でのビーム照射点に分離を起こす。この問題に対しては、分離したビームが試料上で再度、一点に集束するように補償磁場を形成すればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、FIB加工においてはより高い微細加工能力を持たせて薄膜試料を作製し、一方、STEM観察においてはより高分解能のSTEM観察ができる。また、薄膜試料作製において高精度に膜厚管理することができ、FIB加工からSTEM観察までを時系列、あるいは、同時に、一つの試料室内で高スループットに実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明による荷電粒子ビーム装置の第1の実施例の概略構成を示す図、図2は図1のA−A’断面図である。
【0018】
電子ビーム照射系5とイオンビーム照射系16は試料7を照射するように試料室筐体11に取り付けられている。電子ビーム照射系5は、電子銃1から放出させた電子を集束する集束レンズ2、電子ビーム偏向器3、および対物レンズ4からなり、試料7上に電子ビーム6として細く絞り、かつ走査させながら照射する機能を持つ。一方、イオンビーム照射系16は、イオン銃12から放出させたイオンを集束する集束レンズ13、イオンビーム偏向器14、および対物レンズ15からなり、試料7上に集束イオンビーム(FIB)17として細く絞り、かつ特定個所の特定範囲内を走査させながら照射する機能を持つ。図1の実施例では電子ビーム6とイオンビーム17の試料7への両照射軸がほぼ交差し、その交差角はほぼ直角(=90度±1度)である。試料はその交差点30におかれ、イオンビーム照射による薄膜加工と電子ビーム照射によるSTEM観察がほとんど試料を動かすことなく、操作性良く実施できる。
【0019】
FIB加工で試料の一部を薄片化し、その薄片部7a上で電子ビーム6を照射・走査する。薄膜部7aを通過した透過ビーム8aおよび散乱ビーム8bは、それぞれ透過ビーム検出器9aおよび散乱ビーム検出器9bで検出される。その他の検出器としては、二次電子検出手段20と反射電子検出手段25がある。二次電子検出手段20は、FIB加工時に試料7から放出される二次電子19を検出するものである。図1において、二次電子検出手段20は、実際にはイオンビーム照射系16の後側にあって見えないため、便宜上、イオンビーム照射系16のすぐ上部に描いてある。実際は、図1のA−A’断面(電子ビーム6の照射軸に垂直でイオンビーム17の照射軸を含む面)を表す図2に示すように、二次電子検出手段20はこのA−A’断面内に配置される。
【0020】
試料7から二次電子検出手段20に引いた直線を軸50とすると、この軸はA−A’断面内にある。図3は、軸50と電子ビーム6の照射軸を含む断面図である。二次電子検出手段20の二次電子入り口面21の中心は軸50上、つまり、二次電子入り口面21は軸50とイオンビーム17の照射軸とを含む面に対してほぼ面対称となる位置に配置されている。これにより、FIBによる薄膜試料面7aの表面および裏面の加工時にそのそれぞれ面から放出される二次電子19をほぼ同じ収率で収集し、検出することができる。その走査画像は走査イオン顕微鏡像(SIM像)と呼ばれる。試料ホルダー22は、そのホルダー軸23が電子ビームとイオンビームの両照射軸に垂直で、かつ両照射軸の交点30を通る軸上に取られている。試料ホルダー22は試料を傾斜も含めて微動するための試料ステージに26に保持されており、試料ステージに26は試料室筐体11に固定されている。
【0021】
これまでは、二次電子検出面が1枚の場合について説明してきた。しかし、二次電子検出面の枚数は、二次電子収集効率をより高めるために、図3の破線矩形内の記号21aと21bで示すように2枚であっても良い。このような複数配置の場合にも、二次電子入り口面は上記と同様に軸50とイオンビーム17の照射軸とを含む面に対してほぼ面対称位置に配置することが大事である。また、この二次電子検出手段20は電子ビーム照射時に試料7から放出される二次電子19を検出する場合にも使用する。特に、二次電子入り口面21を図3の破線配置のごとくほぼ面対称に2個(あるいは複数)配置した場合は、試料薄膜の表面と裏面から発生する二次電子を分離して検出することも可能となる。電子ビーム照射時においては試料7から二次電子の他に、後方に反射される反射電子24も発生するため、反射電子24を検出するための反射電子検出手段25も備えてある(図1参照)。いずれの検出信号も、ビーム走査信号と同期して描く走査画像の輝度信号に使うことができる。
【0022】
図4は、本発明の荷電粒子ビーム装置のビーム照射系、ビーム制御部、および画像表示手段の全装置構成を説明する図である。図4において、全ての検出手段からの検出信号はビーム制御手段40に取り込まれ、また電子ビーム照射手段5とイオンビーム照射手段16のビーム制御はこのビーム制御手段40から行われる。ビーム制御手段40には、両ビーム照射手段に電圧印加や電流供給する電圧電流源ばかりでなく、計算機も含んでおり、そこでは電圧電流制御や各検出器からの信号処理などのソフト処理も行っている。また、これらの制御や処理用のパラメータ入出力表示、および種々の走査画像の表示などを目的とした画像表示手段41がビーム制御手段40と電気的につながっている。また、種々の走査画像に対しては、その画像平均輝度、コントラスト、信号ノイズ比(SN比)、および像分解能が数値評価されており、画像表示手段41の表示画面内に数値表示あるいはグラフ表示ができる。一般に、薄膜試料が薄くなるにつれ、透過電子ビーム量も増すため、輝度は増し、像分解能は高くなる(分解能数値は小さくなる)。
【0023】
図5(a)は、STEMの明視野像における輝度とコントラストをFIBによる試料の仕上げ時の削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例である。また、図5(b)は、STEMの暗視野像における界面AおよびBを含む領域でのコントラストの削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例である。輝度とコントラストは、粗走査画像(512×512ピクセル)におけるそれぞれ平均輝度およびピクセル輝度ヒストグラムの10%-90%輝度範囲を平均輝度で割った値とした。輝度やコントラストは加工中に取得したSTEM画像から所定のタイミング毎にリアルタイムで計算され、結果が順次グラフに追加してプロットされる。
【0024】
明視野像において、試料の薄膜化を進めていくに従い、図5(a)に示すように輝度およびコントラストとも増大するが、コントラストは途中から飽和し、減少する傾向を示す。コントラストの途中からの飽和、減少傾向についてはその要因は良くわかっていない。図5(b)に示す暗視野像のコントラストにおいて、その最大コントラストをもたらす試料の削り量は、観察する界面領域AとBにより異なっていることがわかる。つまり、特定の界面領域を暗視野像の高コントラスト観察を行う場合、その最適試料厚さは、試料を透過する全ビーム強度をモニターしても判らず、試料の薄膜化を進めながら実際の暗視野像を取得してそのコントラストをモニターすることにより判定できるのである。最適試料厚さに達した後、目的の高精細STEM画像(1024×1024、2048×2048、4096×4096ピクセル)を取得した。
【0025】
走査画像の輝度やコントラストの他、SN比および像分解能のグラフ表示(あるいは数値表示)も可能である。表示グラフには、そのカーブの変化分を見やすくするために、削り量に対してその微分カーブも表示するモードが用意されている。前述の図5(a)および(b)には、輝度やコントラストを削り量に対するプロットの他に、その微分量(任意単位)も右の縦y軸表示でプロットしてある。微分プロットカーブのy=0のラインとの交差点は微分前の原プロットカーブの最大値に相当し、その最大値への到達状況の把握には、この微分プロットカーブが非常に有効となる。グラフプロット表示では、原プロットか原プロットと微分プロットの重畳かが選択できる。
【0026】
以下、輝度、コントラスト、SN比および像分解能に関して、本実施例で用いた算出方法について説明する。画像からこれらを評価する方法は未だ確立されておらず、研究開発が進められている。先ず、輝度は、画像観察者が指定した画像内の特定領域の画素強度の平均値から原点(ビーム照射を止めた時の画素強度平均値)を差し引いた値である。コントラストは特定領域の画素強度のヒストグラムにおける最大90%と最小10%の強度差である。SN比と像分解能は、特開2003−142021号公報に開示されている像評価方法を用いた。つまり、画像の各ピクセル位置毎にその位置を中心とした局所xy領域3x3を切出し、そこでのピクセル強度をzとして、下記式で表される二次曲面をフィットさせる(これにより、係数a〜fが決まる。)。
z=ax2+by2+cxy+dx+ey+f (aからf:係数)
【0027】
画像ノイズが多いとこのフィッティングずれが多くなる。このフィッティングずれの特定領域全体での平均をSN比のN、前述の輝度をSとして、このSとNとの比(=S/N)をSN比とした。像分解能は、前記の局所xy領域3x3に貼り付けた二次曲面の中心での勾配の逆数を局所像分解能の比例量とし、この比例量の特定領域全体での重み付き平均を像分解能(任意単位)とした。重みには勾配の絶対値を採用した。
【0028】
輝度、コントラスト、SN比および像分解能などのグラフ表示は、STEM像を実際に観察しながらのものであり、FIB加工の継続か中止の判断、あるいは追加工の必要性有無の総合的に、あるいは特に有る特定の像評価パラメータ(輝度、コントラスト、SN比および像分解能など)に注目して判断をするのに非常に有効であった。特に、自動加工の観点からは、薄膜試料をFIB粗加工で作製する場合、粗加工の終点検出信号として所望STEM画像の特質(輝度、コントラスト、SN比、および像分解能など)の閾値を予め登録しておくことにより、自動加工も可能になった。輝度、コントラスト、SN比又は像分解能の閾値を登録する機能や、STEM画像の特質が予め登録した閾値に達したか否かを判定する機能、STEM画像の特質が予め登録した閾値に達したと判定されたとき、イオンビームの照射を止めて粗加工を終了する機能等は、ビーム制御手段40に持たせることができる。
【0029】
図6は、画像表示手段41の表示画枠内に明視野像、暗視野像、SIM像および上記の表示グラフを表示する場合の配置例を示している。
【0030】
以下、走査画像の使い方について、まとめておく。SIM像は、FIB加工位置の設定、加工中の加工モニター、加工終了の確認、加工断面の観察などに使用する。一方、電子ビーム照射で得られる信号には、二次電子、反射電子、透過電子、および散乱電子があり、それらの走査像は、それぞれ二次電子像、反射電子像、明視野像、および暗視野像と呼ばれ、前の2つの像がSEM像、残りの2つの像がSTEM像に分類される。STEM像は、試料を通過したビームで形成した画像であり、薄膜内構造の解析に非常に有効である。また、イオン照射軸と電子ビーム照射軸が90度で交差しているため、FIB加工中の試料を横方向からSEM像観察することができる。SEM断面加工で作製する薄膜試料では、そのトップ部がFIBのビーム裾でエッチング損傷を受けることがあるが、このSEM像はこのエッチング損傷のモニター観察に非常に有効である。また、FIB加工とSTEM観察で試料を動かす必要がない。SIM像、SEM像およびSTEM像の組み合わせ観察は、特に、その観察像を見ながら更なる詳細解析個所をFIB加工により追跡していく場合、操作性、スループット性、観察像の質の観点で非常に大きな効果があることを確認した。このSTEM像(あるいはSEM像)観察とFIB加工は、時系列でも、同時でも可能である。これにより、オペレータが走査画像をモニターしながら、FIB加工をいつでも中断、再開することが可能となり、試料の特定個所の高精度の加工と高分解能のSTEM観察が確実に、かつ高スループットに実現できる。
【実施例2】
【0031】
図7は本発明による荷電粒子ビーム装置の第2の実施例の概略構成を示す図、図8は電子ビーム照射軸とイオンビーム照射軸との交差角を説明する図である。本実施例の荷電粒子ビーム装置は、電子ビームの照射軸とイオンビームの照射軸の交差角が90度を超えている例である。
【0032】
本実施例では、電子ビーム6とイオンビーム17の試料7への両照射軸の交差角を110度に取ってある。これによりイオンビーム照射系16の対物レンズ15は、交差角90度の実施例1の場合より約3mm試料に近づけることができ、加工用ビーム性能が同じ電流値換算ではFIB径を約15%細くできた。これは、同じ加工速度条件下でのFIB加工位置精度が約15%改善されることに相当する。ただし、FIB加工とSTEM観察の間で試料7を試料傾斜角度差β(図8参照)分だけ傾斜角移動させる必要がある。FIB加工とSTEM観察間の試料移動が試料傾斜角差βの傾斜角のみの移動で済むように、試料ホルダー22は、図2と同様、そのホルダー軸23は、電子ビームとイオンビームの両照射軸に垂直で、かつ両照射軸の交点30を通る軸上に取られている。試料ホルダー22は試料を傾斜も含めて微動するための試料ステージに26に保持されており、試料ステージに26は試料室筐体11に固定されている。
【0033】
電子ビーム照射系の対物レンズとイオンビーム照射系の対物レンズを試料に接近させたいという観点から、試料近傍の空間を最大に広くするには、両ビーム照射軸の交差角は180度に取るのが良い。しかし、電子ビーム照射軸から180度軸方向には透過・散乱ビーム検出手段9aと9bが配置されるので、180度には取れない。具体的には電子ビーム照射系5の対物レンズ端側の円錐角θebや照射系直径、イオンビーム照射系16の対物レンズ端側の円錐角θibや照射系直径、および透過・散乱ビーム検出手段の大きさなども考慮しながら、移動角度βの増加分とビーム性能改善分とをバランスさせ、両ビーム照射軸の交差角は90度から180度間で設定されるものである。
【実施例3】
【0034】
電子ビーム照射系の対物レンズが磁界型レンズの場合、その磁界を試料側に漏洩させることにより実効的に対物レンズを試料に近づけたことになり、STEM観察の高性能化が図られる。本実施例は、この漏洩磁界型対物レンズに関するもので、図9を用いて説明する。
【0035】
対物レンズ4は漏洩磁界型であり、磁極片4aと励磁コイル4bとからなる。磁界は試料側、つまり、電子ビーム6の照射軸とイオンビーム17の照射軸の交点30側に漏洩させ、電子ビーム6の照射軸上に磁束密度分布35を形成する。漏洩した磁界はイオンビーム17の照射軸上にも存在する。そのイオンビーム17の照射軸上での磁束分布例を図10に示す。FIB加工用イオンビームのイオン種には、通常、ガリウム(Ga)を使用する。Gaは同位体Ga69とGa71を持つため、イオンビーム17の照射軸上での磁束分布は試料上でのビーム・スポットを分離し、ビーム径を実効的に分離方向に大きくする。このビーム径の増加は、加工位置精度を劣化させるため、対策が必要となる。これに対しては以下の手段で対策した。
【0036】
電子ビーム照射系における磁界型対物レンズの磁場分布を詳しく解析すると、電子ビーム照射軸近傍の狭い領域では例えば下向き(或いは上向き)の強い磁場が存在し、対物レンズの外側の広い領域には上向き(或いは下向き)の弱い磁場が存在している。イオンビーム照射軸はこの両者の向きの磁場空間を貫通していることになる。イオンビームスポットの分離課題を解決するためには、イオンビーム光軸上に光軸に垂直な磁場成分が互いに逆向きになる領域を存在させ、その結果として試料上のビーム・スポット位置を磁場が存在しない場合と一致するようにすれば、イオン銃から試料までのイオン光路は、同位体ごとに異なるけれども、試料上でのビーム・スポット位置は一致するという性質を利用した。具体的には、イオンビーム照射系の光軸上に補正磁場発生部を持ち込み、漏洩磁場とこの補正磁場とを合わせた結果として、試料上のビーム・スポット位置を磁場が存在しない場合と一致するように補正磁場を設定するのである。
【0037】
図11に、光軸上に補正磁場発生部27を持ち込んだイオンビーム照射系の実施例を示す。図12は補正磁場発生部の概略図であり、図12(a)は断面図、図12(b)は上面図である。補正磁場発生部27は、一対の対向したコイル61とパーマロイ製の磁路62で構成されている。この磁路62はイオンビーム光軸上で補正磁場を効率よく発生すると同時に、コイル61から外部への漏れ磁場を抑制するための磁気遮蔽体の役割をしている。ここで磁路の材料はパーマロイに限ることなく、純鉄やパーメンダ等透磁率が大きく保磁力が小さい磁性体ならば何でもよい。透磁率が大きいほど外部への漏れ磁場を小さくすることができる。補正磁場発生部27は中心にビーム通路を有して、そのビーム通路をイオンビーム17の照射軸に一致させて配置されている。補正磁場発生部27のビーム通路は、集束レンズ13を通ったイオンビームを全て通す径を有する。
【0038】
本図ではイオンビーム光軸上に発生する補正磁場63の方向は紙面に平行であり、光軸に垂直である。このようにすると、イオン・ビームには紙面と光軸に垂直な方向にローレンツ力が作用するが、この方向はSEMの対物レンズ4からの磁場によるローレンツ力と平行であり、補正磁場の向きと大きさを適切に調整することにより、試料7上のイオンビームの照射スポット位置を、磁場が無い場合の位置に完全に一致させることができる。
【0039】
ここでビーム・スポットは必ずしも円形であることを意味しない、非点収差等の影響によりビーム断面が楕円形、或いは線状になっている場合でも、ここでの議論は等しく成り立つ。本発明でビーム・スポットと言うときはあらゆる形状を含んでいるのである。補正磁場発生部はイオンビーム光軸上のどこにあってもよいが、SEM対物レンズ4の磁場を乱さない程度に試料7から遠ざけるのがよい。また図11の補正磁場発生部27ではコイルが一対の場合を示したが、コイルは2対以上でもよい。2対以上の場合には補正磁場の大きさだけでなく方向も自由に設定することができて好都合である。
【0040】
これにより、試料側に磁界を漏洩させる対物レンズを搭載した電子照射系の採用装置においても、Ga同位体イオンビームを分離することなく試料に照射できるようになり、FIB加工においては試料の特定個所のより高い微細加工能力と、STEM観察における高分解能化を一つの試料室内で両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による荷電粒子ビーム装置の第1の実施例の概略構成を示す図。
【図2】図1のA−A’断面図。
【図3】試料から二次電子検出面に引いた直線軸と電子ビーム照射軸を含む断面における二次電子検出面の配置を説明する概略図。
【図4】本発明のビーム照射系、ビーム制御部、および画像表示手段の全装置構成を説明する図。
【図5】(a)は明視野像における輝度とコントラストをFIBによる試料の仕上げ時の削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例、(b)は暗視野像における界面AおよびBを含む領域でのコントラストの削り厚さ(任意単位)に対して表示したグラフの例を示す図。
【図6】画像表示手段の表示画枠内に明視野像、暗視野像、SIM像および表示グラフを示した例を示す図。
【図7】本発明による荷電粒子ビーム装置の第2の実施例の概略構成を示す図。
【図8】電子ビーム照射軸とイオンビーム照射軸との交差角を説明する図。
【図9】対物レンズが磁界型レンズでその磁界を試料側に漏洩させた電子ビーム照射系とイオンビーム照射系の組み合わせ説明図。
【図10】電子ビーム照射系の対物レンズから漏洩した磁界のイオンビーム照射軸上での磁束分布例図。
【図11】補正磁場発生部を組み込んだイオンビーム照射系の説明図。
【図12】補正磁場発生部の概略図。
【符号の説明】
【0042】
1:電子銃、2:集束レンズ、3:電子ビーム偏向器、4:対物レンズ、5:電子ビーム照射系、6:電子ビーム、7:試料、7a:試料の薄膜部、8a:透過電子ビーム、8b:散乱電子ビーム、9a:透過電子ビーム検出手段、9b:散乱電子ビーム検出手段、11:試料室筐体、12:イオン銃、13:集束レンズ、14:イオンビーム偏向器、15:対物レンズ、16:イオンビーム照射系、17:イオンビーム、18:排気系、19:二次電子、20:二次電子検出手段、21:二次電子手段の二次電子入り口面、22:試料ホルダー、23:試料ホルダー軸、24:反射電子、25:反射電子検出器、26:試料ステージ、27:補正磁場発生部、30:イオンビームと電子ビームの照射軸の交点、40:ビーム制御手段、41:画像表示手段、42:排気系制御手段、50:試料から二次電子検出面(1枚の場合)に引いた直線軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃から放出した電子を電子ビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射する電子ビーム照射系と、
試料を透過した電子ビームを検出する透過電子検出器と、
試料によって散乱された電子ビームを検出する散乱電子検出器と、
イオン銃から放出したイオンをイオンビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射して試料を加工するイオンビーム照射系と、
前記電子ビームと前記イオンビームの少なくとも一方のビーム照射により試料から放出された二次電子を検出する二次電子検出器と、
前記透過電子検出器、散乱電子検出器及び/又は前記二次電子検出器による検出信号を輝度信号とした試料のビーム走査画像を表示する画像表示手段と、
試料を保持する試料ホルダーとを備え、
前記イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸はほぼ直角に交差し、その交差位置に前記試料ホルダーが配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
電子銃から放出した電子を電子ビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射する電子ビーム照射系と、
試料を透過した電子ビームを検出する透過電子検出器と、
試料によって散乱された電子ビームを検出する散乱電子検出器と、
イオン銃から放出したイオンをイオンビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射して試料を加工するイオンビーム照射系と、
前記電子ビームと前記イオンビームの少なくとも一方のビーム照射により試料から放出された二次電子を検出する二次電子検出器と、
前記透過電子検出器、散乱電子検出器及び/又は前記二次電子検出器による検出信号を輝度信号とした試料のビーム走査画像を表示する画像表示手段と、
試料を保持する試料ホルダーとを備え、
前記イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸は直角を越えた角度で交差し、その交差位置に前記試料ホルダーが配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム装置において、前記電子ビーム照射系は磁界型の対物レンズを有し、前記対物レンズのレンズ磁界が前記試料ホルダーの位置に漏洩していることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項3記載の荷電粒子ビーム装置において、前記対物レンズは磁気ヨークにてレンズ磁場を形成するタイプの対物レンズであり、前記磁気ヨークが前記試料ホルダーに対し前記電子ビームの入射側にのみに配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム装置において、前記試料ホルダーの軸は、前記電子ビームの照射軸と前記イオンビームの照射軸に垂直で、かつ両照射軸の交点を通る軸上にあることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム装置において、前記イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸が形成する平面と直交し、前記イオンビームの照射軸を含む面に対してほぼ面対称に、前記二次電子検出器の二次電子入り口面が配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム装置において、前記画像表示手段は前記イオンビームによる試料走査像と前記電子ビームによる試料走査画像を1枚の表示画枠の中に領域を分けて表示することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子ビーム装置において、前記画像表示手段は、前記電子ビームによる試料走査画像の輝度、コントラスト、SN比、像分解能のうち少なくとも一つを試料の加工の進行とともに時系列的に表示することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
請求項8記載の荷電粒子ビーム装置において、
輝度、コントラスト、SN比又は像分解能の閾値を登録する登録手段と、
前記イオンビームの照射を制御する制御手段を備え、
前記制御部は、前記電子ビームによる試料走査画像の輝度、コントラスト、SN比又は像分解能が前記登録手段によって登録された閾値に達したとき前記イオンビームの照射を停止することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム装置を用いた試料作製方法において、
前記イオンビームによる試料走査画像と前記電子ビームによる試料走査画像を前記画像表示手段に表示する工程と、
前記電子ビームによる試料走査画像の輝度、コントラスト、SN比又は像分解能を演算する工程と、
演算した輝度、コントラスト、SN比又は像分解能が予め設定した閾値に達したとき前記イオンビームの照射による試料の加工を止める工程とを有することを特徴とする試料作製方法。
【請求項1】
電子銃から放出した電子を電子ビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射する電子ビーム照射系と、
試料を透過した電子ビームを検出する透過電子検出器と、
試料によって散乱された電子ビームを検出する散乱電子検出器と、
イオン銃から放出したイオンをイオンビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射して試料を加工するイオンビーム照射系と、
前記電子ビームと前記イオンビームの少なくとも一方のビーム照射により試料から放出された二次電子を検出する二次電子検出器と、
前記透過電子検出器、散乱電子検出器及び/又は前記二次電子検出器による検出信号を輝度信号とした試料のビーム走査画像を表示する画像表示手段と、
試料を保持する試料ホルダーとを備え、
前記イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸はほぼ直角に交差し、その交差位置に前記試料ホルダーが配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
電子銃から放出した電子を電子ビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射する電子ビーム照射系と、
試料を透過した電子ビームを検出する透過電子検出器と、
試料によって散乱された電子ビームを検出する散乱電子検出器と、
イオン銃から放出したイオンをイオンビームとして細く絞り、走査しながら試料上に照射して試料を加工するイオンビーム照射系と、
前記電子ビームと前記イオンビームの少なくとも一方のビーム照射により試料から放出された二次電子を検出する二次電子検出器と、
前記透過電子検出器、散乱電子検出器及び/又は前記二次電子検出器による検出信号を輝度信号とした試料のビーム走査画像を表示する画像表示手段と、
試料を保持する試料ホルダーとを備え、
前記イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸は直角を越えた角度で交差し、その交差位置に前記試料ホルダーが配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム装置において、前記電子ビーム照射系は磁界型の対物レンズを有し、前記対物レンズのレンズ磁界が前記試料ホルダーの位置に漏洩していることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項3記載の荷電粒子ビーム装置において、前記対物レンズは磁気ヨークにてレンズ磁場を形成するタイプの対物レンズであり、前記磁気ヨークが前記試料ホルダーに対し前記電子ビームの入射側にのみに配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム装置において、前記試料ホルダーの軸は、前記電子ビームの照射軸と前記イオンビームの照射軸に垂直で、かつ両照射軸の交点を通る軸上にあることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム装置において、前記イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸が形成する平面と直交し、前記イオンビームの照射軸を含む面に対してほぼ面対称に、前記二次電子検出器の二次電子入り口面が配置されていることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム装置において、前記画像表示手段は前記イオンビームによる試料走査像と前記電子ビームによる試料走査画像を1枚の表示画枠の中に領域を分けて表示することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子ビーム装置において、前記画像表示手段は、前記電子ビームによる試料走査画像の輝度、コントラスト、SN比、像分解能のうち少なくとも一つを試料の加工の進行とともに時系列的に表示することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
請求項8記載の荷電粒子ビーム装置において、
輝度、コントラスト、SN比又は像分解能の閾値を登録する登録手段と、
前記イオンビームの照射を制御する制御手段を備え、
前記制御部は、前記電子ビームによる試料走査画像の輝度、コントラスト、SN比又は像分解能が前記登録手段によって登録された閾値に達したとき前記イオンビームの照射を停止することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム装置を用いた試料作製方法において、
前記イオンビームによる試料走査画像と前記電子ビームによる試料走査画像を前記画像表示手段に表示する工程と、
前記電子ビームによる試料走査画像の輝度、コントラスト、SN比又は像分解能を演算する工程と、
演算した輝度、コントラスト、SN比又は像分解能が予め設定した閾値に達したとき前記イオンビームの照射による試料の加工を止める工程とを有することを特徴とする試料作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−127850(P2006−127850A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312703(P2004−312703)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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