説明

荷電粒子用の結像エネルギフィルタ及びこれを有する分光器

本発明は、入射面と出射面とを有するトロイダルエネルギアナライザ、好ましくは半球アナライザを有する荷電粒子用結像エネルギフィルタに関する。位置及び角度の解像度レベルがより高く、より大きい受光角で動作可能な結像エネルギフィルタ、又は結像エネルギフィルタを有する分光器を提供するために、本発明によれば、荷電粒子用のミラー素子が設けられ、前記出射面を経て前記トロイダルエネルギアナライザから出射する荷電粒子が前記ミラー素子によって前記トロイダルエネルギアナライザへと反射されることによって、前記荷電粒子が反対の進行方向に前記トロイダルエネルギアナライザを再度通過するように構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子用の結像エネルギフィルタ及びこれを有する分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギフィルタは、例えば電子などの荷電粒子のエネルギを判定するために使用される。
【0003】
材料を分析するため、調査対象の材料の電子が電子分光法で励起される。これは例えば、放射される電子によって行うこともできるが、X線放射又は紫外線放射によって行うこともできる。
【0004】
次いで電子の運動エネルギが計測される。その目的のために、所定の運動エネルギを有する励起電子の数を判定できる電子分光計が使用される。
【0005】
荷電粒子用の結像エネルギフィルタは、例えば特許文献1から公知である。
【0006】
このエネルギフィルタは半球形のアナライザ上に構成される。半球形のアナライザは2つの金属半球からなっている。一方は凹面構造であり、他方は凸面構造である。2つの半球の曲率中心点は一致する。2つの半球の間に電界が生成されるように、異なる電圧が両方の半球に印加される。ここで、エネルギフィルタリングされる電子を、入射面を経て2つの半球間の空隙へと注入できる。狭いエネルギ範囲の(透過エネルギとも呼ばれる)運動エネルギを有する電子は、アナライザを完全に透過することができ、出射面の背後に配置された検知器に到達する。エネルギが過度に高い電子は外側の半球に衝突し、一方、エネルギが過度に低い電子は内側の半球に衝突する。
【0007】
半球アナライザは集束式である。すなわち、電子が半球アナライザに入射する正確な角度とは関わりなく、同じエネルギを有する電子は、一次近似で出射孔のほぼ同じポイントに集束する。従って、所与のエネルギの電子を、半球アナライザの出力側で検知することができる。透過エネルギは、内側と外側の半球の間の電界を変更することによって調整可能である。
【0008】
半球アナライザはエネルギフィルタとして動作する。すなわち、荷電粒子のエネルギを判定可能である。励起電子は一般に、異なる角度、及び/又は異なる位置で半球アナライザの入射面に入射する。
【0009】
基本的に、位置及び角度分布によって、荷電粒子の起源に関する結論を引き出すことが可能になる。
【0010】
例えばサンプルが、例えば電子源などの適宜の照射源で照射されると、電子はサンプルの表面から分離可能であり、又は電子源の電子は表面で回折可能である。
【0011】
サンプルの表面が半球アナライザの入射面上に結像されると、電子の位置分布にはサンプル表面の構造に関する情報が含まれる。角度分布によって、原子の幾何学的配置に関する結論を引き出すことが可能である。
【0012】
しかし、出射面が検知器上に直に結像されると、半球アナライザの集束特性により位置及び角度分布が失われる。
【0013】
従って、特許文献1は、前後に接続された2つの半球アナライザを使用することを既に提案している。この場合は、第1の半球アナライザは透過エネルギを有する荷電粒子のみを透過させる役割を果たし、第2の半球アナライザは荷電粒子の位置及び角度分布を復元する。
【0014】
第1の半球アナライザから下流側に配置された半球アナライザの入力へと出射する荷電粒子を結像するため、転送レンズ、すなわち荷電粒子用のレンズが使用される。この手段は、第2の半球アナライザが第1の半球アナライザの結像誤差を修正するので、結像エネルギフィルタをもたらす。
【0015】
しかし、静電形で空間電荷がなく、回転対称の筒状レンズを使用した場合は、色収差(色誤差)及び球面収差(開口誤差)は荷電粒子用の光学結像システムでは基本的に消滅しないことが知られている。転送レンズ特有のこれらの誤差はシステムの動作効率を制限し、より大きい入射角で入射面に入射する電子の結像画質が低すぎるため、公知のシステムは受光角が小さいものになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許第1559126号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、記載した先行技術に鑑みて、本発明の目的は、位置及び角度の解像度レベルがより高く、より大きい受光角で動作可能な結像エネルギフィルタ、又は結像エネルギフィルタを有する分光器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明により、上記の目的は、入射面と出射面とを有するトロイダルエネルギアナライザ、好ましくは半球アナライザを有する荷電粒子用結像エネルギフィルタであって、荷電粒子用のミラー素子が設けられ、出射面を経てトロイダルエネルギアナライザから出射する荷電粒子がミラー素子によってトロイダルエネルギアナライザへと反射されることによって、荷電粒子が反対の進行方向にトロイダルエネルギアナライザを再度通過するように構成される結像エネルギフィルタによって達成される。
【0019】
「反対側の進行方向」と言う表現は、荷電粒子が正確に同じ経路をたどることを意味せず、出射面から入射面に向かってエネルギアナライザを通過することを意味する。好ましい実施形態では、荷電粒子は第1の角度で入射面に入射し、エネルギアナライザを2度通過した後、第2の角度で入射面から出射し、第1の角度と第2の角度は逆方向に等しい。すなわち、入射ビームと入射軸と出射ビームとは1つの平面上にあり、入射角と出射角は等しい。
【0020】
特許文献1に既に記載されているように、半球アナライザを使用することは不可欠ではない。基本的に、例えば円筒形アナライザ又は球形アナライザなどの任意のトロイダルエネルギアナライザも適している。対応する事例は、特許文献1に記載されている。
【0021】
以下、本発明を特に半球アナライザを参照した実施例に関連して記載するものの、その代わり、別の任意のトロイダルエネルギアナライザを使用できることが理解されよう。
【0022】
本発明による適切な荷電粒子用反射ミラーの構成は、第1に、第2のトロイダルエネルギアナライザを省くことを可能にする。その代わりに、荷電粒子はミラーによって第1のトロイダルエネルギアナライザへと反射される。
【0023】
基本的に、反射ミラーをトロイダルアナライザの出射面内に直に配置することが可能である。しかし、荷電粒子用反射ミラーは一般に、無視できないある一定の負の球面収差と色収差とを有する。
【0024】
従って、好ましい実施形態では、出射面とミラー素子との間に転送レンズデバイスが配置される。その際、転送レンズデバイスの収差がミラー素子によって低減されるように、転送レンズデバイスとミラー素子とを配置できる。
【0025】
この点に関して、転送レンズデバイスは、エネルギアナライザの出射面内の中間画像ZBをミラー素子上に横倍率V=ZB/ZB<0でマグニチュードZBの中間画像として結像するように設計される。
【0026】
基本的に、転送レンズデバイスは、特許文献1に記載のものと全く同様に設計することができる。
【0027】
特に好ましい実施形態では、横倍率V=−1である。角倍率Vが負であることが更に好ましく、V=−1であることが最良である。
【0028】
好ましい実施形態では、転送レンズデバイスは、少なくとも2枚の荷電粒子用レンズを有する。
【0029】
ミラー素子は静電ミラーであってよい。しかし基本的には、荷電粒子を反射できるどのミラーでも適している。ミラー素子と転送レンズデバイスとは、転送レンズデバイスの色収差及び/又は球面収差がミラー素子によって低減されるように、特に少なくとも30%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも75%だけ低減されるように互いに適合されることが有利である。従って、本発明によるミラー素子の配置によって、解像度がさほど劣化されずに、転送レンズデバイスの品質需要を軽減することができる。特に転送レンズデバイスの結像誤差は理論的考慮によっては完全に低減することができないので、転送レンズデバイスを高レベルの複雑さと費用を費やして改良するよりも、ミラー素子を適合させることで転送レンズデバイスの結像誤差を修正するほうが基本的に容易であり大幅に安価である。
【0030】
従って、ミラー素子と転送レンズデバイスとの組み合わせによって、転送レンズデバイスを使用する場合に基本的に伴う結像誤差の低減が可能であり、理想的な場合はこれを補償することが可能である。
【0031】
それに加えて、存在することがあり、エネルギアナライザの外部の結像又は転送システムに生ずることがあるいずれかの更に別の結像誤差を、光学特性に作用し易く、従って適応し易い転送レンズデバイスとミラー素子との組み合わせによって低減できる。例えば、荷電粒子がレンズによってエネルギアナライザの入射面に結像されると、そのレンズによって結像誤差が引き起こされるが、この誤差も転送レンズデバイス及び/又はミラー素子による較正動作によって低減され、又は完全に補償されることさえ可能である。
【0032】
本発明により荷電粒子はトロイダルエネルギアナライザの入射面を経て入射し、反射後も再び入射するので、好ましい実施形態では荷電粒子用の分離素子が備えられる。分離素子によって入射粒子を出射粒子から分離できる。
【0033】
特に好ましい実施形態では、分離素子は、荷電粒子用の入射面と、エネルギフィルタ面と、エネルギフィルタリングされた荷電粒子用の出射面とを有する磁気ダイバータによって実施される。磁気ダイバータは、好ましくは20°未満である入射角αで磁気ダイバータの入射面に入射する荷電粒子が、好ましくは20°未満である出射角βで磁気ダイバータのエネルギフィルタ面から出射するように磁気ダイバータによって分散され、好ましくは20°未満である入射角γでトロイダルエネルギアナライザの入射面に入射し、且つトロイダルエネルギアナライザの入射面から出射角δで出射する荷電粒子が、好ましくは20°未満である入射角εで磁気ダイバータのエネルギフィルタ面に入射し、好ましくは20°未満である出射角ζで磁気ダイバータの出射面から出射するように磁気ダイバータによって分散され、好ましくは磁気ダイバータとトロイダルアナライザとの間に1枚又は複数枚のレンズが備えられる。
【0034】
言い換えると、磁気ダイバータはエネルギアナライザに入射するビームをエネルギアナライザから出射するビームから分離するために使用される。磁気ダイバータは当技術分野で公知である。
【0035】
エネルギフィルタ面と言う用語は磁気ダイバータの表面を特定するために、すなわちエネルギフィルタに向けて用いられ、すなわちフィルタリングされない荷電粒子がそこから出射され、エネルギフィルタリング後に再び入射する表面を特定するために用いられる。
【0036】
従って、表面自体は、仮に特別の実施形態ではその場合があるとしても、何らかのエネルギフィルタリング特性を有する必要はない。荷電粒子の曲率半径は、速度、ひいては磁気ダイバータ内のエネルギに依存するので、エネルギフィルタ面上に開口板を配置することによってエネルギフィルタ面自体にエネルギフィルタリング特性を備えることも可能であろう。
【0037】
本発明による結像エネルギアナライザは、基本的に荷電粒子用のどの分光器にも使用できる。好ましくは、エネルギアナライザは、調査対象の荷電粒子が電子である電子分光器に使用される。
【0038】
好ましい実施形態では、分光器は、トロイダルアナライザの入射面を経て出射される荷電粒子を検知する検知器を有しており、検知器は好ましくはCCD検知器である。エネルギフィルタリングされた電子が通過する位置情報を、CCD検知器によって検知できる。この点に関して、検知器は好ましくは、磁気ダイバータの出射面を経て出射される荷電粒子を検知するように配置される。特定の実施形態では、蛍光スクリーンの前に配置される少なくとも1つの4チャネルプレートが使用されるので、CCD検知器はカメラの一部であり、スクリーン上で生じる強度分布が光学照明システムによってCCD検知器上に結像される。
【0039】
加えて、分光器は有利には、サンプル受容手段上に配置されたサンプルによって出射される荷電粒子が、場合によっては好ましくは20°未満である入射角γで光学結像システムを通過後にトロイダルエネルギアナライザの入射面に入射し、又は、磁気ダイバータを有するエネルギフィルタが使用される場合は、好ましくは20°未満である入射角αで磁気ダイバータの入射面に入射するように配置されたサンプル受容手段を有する。
【0040】
加えて、サンプル受容手段上に受容されたサンプル上で放射線と作用するように、好ましくは電子源、X線源、又は紫外線源である放射源を備えることもできる。この配置では、磁気ダイバータは放射線入射面を有することができ、放射源は、好ましくは10°未満である入射角βで放射線入射面に入射し、好ましくは10°未満である出射角θで磁気ダイバータの入射面から出射されるように磁気ダイバータによって分散され、サンプル受容手段へと向けられるように配置されることができる。言い換えると、磁気ダイバータは二重の機能を果たす。一方では、磁気ダイバータは、エネルギアナライザ内を通過する荷電粒子が、エネルギアナライザから出射される荷電粒子から分離されるようにする。他方では、電子ガンから出射する電子(一次電子)をサンプルから発する励起電子から分離するために、磁気ダイバータを使用できる。
【0041】
更に別の好ましい実施形態では、トロイダルアナライザの分散面は、サンプル受容手段と検知器との間に延びる想像線に対して略垂直に配置される。それには、転送レンズデバイス及びミラー素子が検知デバイスから明確に空間的に分離されるので、個々の素子の配置と寸法に関する自由度がより大きくなるという利点がある。
【0042】
好ましい実施形態では、分光器は結像ESCA電子分光器(「化学分析用電子分光法」)である。しかし、その代わりに、本発明によるエネルギフィルタは、結像オージェ電子分光器、LEEM(「低エネルギ電子顕微鏡」)、又は二次イオン顕微鏡であってもよいであろう。
【0043】
更に別の好ましい実施形態では、一般に電子であるサンプル内に生ずる荷電粒子の角分布は、エネルギフィルタリングされる方式で検知器上に結像される。この場合は、分光器はLEED(「低エネルギ電子回折」)又はXPD(X線光電子回折)の形態のものでよい。
【0044】
加えて、本発明によるエネルギフィルタを時間分解計測に使用することができる。
【0045】
本発明の更なる利点、特徴、及び利用可能性は、好ましい実施形態の以下の説明及び関連する図面から明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】転送レンズデバイスの概略図である。
【図2】転送レンズデバイス及びミラー素子の組み合わせの概略図である。
【図3】ミラー素子を有する半球アナライザの概略図である。
【図4】本発明による分光器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、従来技術で知られているような転送レンズデバイスの概略図を示す。転送レンズデバイスは、f−2f−fのデュプレット配置から構成される。この配置によって、マグニチュードGの出射面又は、出射空隙をマグニチュードBのネガ画像として結像できる。このような転送レンズは、例えば特許文献1に記載されているように2つの半球アナライザの間で使用される。転送レンズ系には、画像誤差、特に球面収差及び色収差がある。この場合、これらの画像誤差は、基本的にシェルツァー理論に基づき完全に避けることはできない。
【0048】
画像誤差は、画質、及び分光器の達成可能な透過性に影響を及ぼす。また、転送レンズは拡大しないので、このような転送レンズの画像誤差は、別のレンズ系を使用する場合以上に最終画像に影響を及ぼす。画像誤差のサイズが対応して大きくなると、使用される空間角が大きくなり、公知の分光器では受光角、ひいては透過強度が制限されてしまう。
【0049】
従って、本発明によれば、例えば電子などの荷電粒子を反射するミラー素子が使用され、これはトロイダルエネルギアナライザを通るように荷電粒子を反射する。本発明による配置の実施形態が図2に示されている。これに関して、好ましい実施形態では、ミラー素子2は、転送レンズデバイス3のレンズデュプレットの収差を修正するためにやや湾曲している。
【0050】
基本的に、反射ミラー2をエネルギアナライザの出射部に直に配置することもできよう。しかし、荷電粒子用のほとんどの反射素子自体には、ある一定の負の球面収差及び色収差が伴うことに留意すべきである。しかし、その位置では収差のない最適なミラーが望ましい。別の位置に存在する収差を低減できるので、調整可能な負の収差があるミラーも望ましい。
【0051】
従って、図2に示す配置を使用することが望ましい。
【0052】
図3は、転送レンズ3と反射ミラー2とを有する半球アナライザ30を示す。半球アナライザ30は、入射面4と出射面1とを有する。アナライザの入射面4に入る電子は、内側の半球31と外側の半球32との間の電位差によって分散される。電位差を調整することによって、これらの電子が、エネルギアナライザの出射面1に達するどのようなエネルギを有しているかを確証できる。半球アナライザの集束特性により、半球アナライザの入射面4への入射角が異なる同じエネルギの全ての電子は、出射面1の同じ個所で偏向される。従って、所与のエネルギを有する電子を半球アナライザによって計数できる。電位差を変更することによって、所定数の電子を各エネルギ値と関連付けることができる。
【0053】
それに関連して、位置及び角度情報、すなわち半球アナライザの入射面への入射角に関する情報、及び位置情報は失われるが、ここから荷電粒子の起源の位置に関する結論を引き出すことができることに留意されたい。従って、エネルギアナライザの出射面1から出射される電子は、転送レンズデバイス3によってミラー素子2上に結像され、ここで反射するので、反射した電子は転送レンズデバイス3によってエネルギアナライザの出射面1上に結像される。次いで、電子は逆方向にエネルギアナライザを通過するので、電子はエネルギアナライザの入射面4から矢印方向に出射する。従って、エネルギアナライザは2回通過される。以下に更に記載するように、出射電子は次いで磁界によって入射電子から分離される。
【0054】
転送レンズデバイス3の画像誤差は、補正ミラーとして機能するミラー素子2を使用することによって著しく低減することができる。
【0055】
図4は、本発明による分光器を示す。調査対象のサンプル7がサンプルホルダ内に配置される。サンプルにはX線放射8を照射可能である。その代わりに、又はそれと組み合わせて、電子21を電子ガンからサンプルに加えることもできる。電子ガンからサンプルへと電子21を加えるため、電子が視野レンズ10と界浸レンズ9とによってサンプル上に結像されるように、電子21を分散させる磁気ダイバータ5が備えられる。X線8及び/又は電子21は調査対象のサンプル7の表面と相互作用して、且つそれぞれの設定電位に応じてそこで反射し、又は電子を放出する。
【0056】
電子のエネルギ及びそれらの照射方向又は位置分布によって、サンプルの特性に関する結論を引き出すことが可能になる。従って、放出された電子は界浸レンズ9と視野レンズ10とによって、磁界ダイバータ5内に結像される。この場合は、内側の半球31と外側の半球32とからなる半球アナライザであるエネルギアナライザ30の入射面4上のレンズ6によって電子が結像されるように、磁界ダイバータ5は電子を偏向させる。
【0057】
内側の半球31と外側の半球32との間の電位差、並びにエネルギアナライザの出射スロット1の幅の選択は、出射スロット1から出射されるこれらの電子がどのようなエネルギを有しているかを決定する。これらの電子は、転送レンズデバイス3によってミラー素子2上に結像され、このミラー素子2が電子を反射するので、電子は転送レンズデバイス3によって出射スロット1上に再び結像される。反射した電子は次いで半球アナライザ30を再度通過し、入射面4を経てエネルギアナライザから出射する。電子は次いでレンズ6によって磁界ダイバータ内に集束され、これが電子を検知器15、転送レンズ16、及び中間レンズ17からなる光学伝達装置13内に送る。
【0058】
次いで、電子は検知器18と投影レンズ19とを経て、ここではCCD検知器である検知器20上に結像される。
【0059】
従って、分光器は対物レンズ19、磁界ダイバータ12、光学伝達装置13、投影/検知デバイス14、及びエネルギアナライザ30を備えている。
【0060】
図4では、エネルギアナライザ30の分散面は紙面内にあり、サンプル7と検知器20との間に想像線も配されている。しかし、分散面が紙面に対して垂直であることが望ましく、それは投影/検知デバイス14とミラー素子2とが空間的に分離されるため、個々のコンポーネントの寸法と配置に関する自由度が高まるからである。
【符号の説明】
【0061】
1 出射スロット
2 ミラー素子
3 転送レンズデバイス
4 入射面
5 磁界ダイバータ
6 レンズ
7 サンプル
8 X線放射
9 界浸レンズ
10 視野レンズ
12 磁界ダイバータ
13 光学伝達装置
14 投影/検知デバイス
15 検知器
16 転送レンズ
17 中間レンズ
18 偏向器
19 投影レンズ
20 検知器
21 電子
30 エネルギアナライザ
31 内側の半球
32 外側の半球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射面と出射面とを有するトロイダルエネルギアナライザ、好ましくは半球アナライザを有する荷電粒子用結像エネルギフィルタであって、荷電粒子用のミラー素子が設けられ、前記出射面を経て前記トロイダルエネルギアナライザから出射する荷電粒子が前記ミラー素子によって前記トロイダルエネルギアナライザへと反射されることによって、前記荷電粒子が反対の進行方向に前記トロイダルエネルギアナライザを再度通過するように構成されることを特徴とする、結像エネルギフィルタ。
【請求項2】
転送レンズデバイスが前記出射面と前記ミラー素子との間に配置され、前記転送レンズデバイスが、好ましくはV=ZB/ZB<0、特に好ましくは−0.9〜−1.1、最も好ましくは−1の横倍率を有することを特徴とする、請求項1に記載のエネルギフィルタ。
【請求項3】
前記転送レンズデバイスが、荷電粒子用の少なくとも2枚のレンズを有することを特徴とする、請求項2に記載のエネルギフィルタ。
【請求項4】
前記ミラー素子が静電ミラーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエネルギフィルタ。
【請求項5】
前記ミラー素子と前記転送レンズデバイスとが、前記転送レンズデバイスの色収差及び/又は球面収差が前記ミラー素子によって低減されるように、特に好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも60%だけ低減されるように互いに適合されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載のエネルギフィルタ。
【請求項6】
荷電粒子用の入射面と、エネルギフィルタ面と、エネルギフィルタリングされた荷電粒子用の出射面とを有し、
好ましくは20°未満である入射角αで前記磁気ダイバータの前記入射面に入射する荷電粒子が、好ましくは20°未満である出射角βで前記磁気ダイバータの前記エネルギフィルタ面から出射するように前記磁気ダイバータによって分散され、好ましくは20°未満である入射角γで前記トロイダルエネルギアナライザの入射面に入射し、且つ、
前記トロイダルエネルギアナライザの入射面から出射角δで出射する荷電粒子が、好ましくは20°未満である入射角εで前記磁気ダイバータの前記エネルギフィルタ面に入射し、好ましくは20°未満である出射角ζで前記磁気ダイバータの前記出射面から出射するように磁気ダイバータによって分散され、好ましくは前記磁気ダイバータと前記トロイダルアナライザとの間に界浸レンズが備えられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエネルギフィルタ。
【請求項7】
分光器が、好ましくは電子分光器である請求項1〜6のいずれか一項に記載のエネルギフィルタを備える、荷電粒子用の分光器。
【請求項8】
前記トロイダルアナライザの前記入射面を経て出射される前記荷電粒子を検知する検知器を備え、該検知器が好ましくはCCD検知器であり、特に好ましくは蛍光スクリーンと下流側に配置されたCCD検知器とを有するチャネルプレート増倍管であることを特徴とする、請求項7に記載の分光器。
【請求項9】
請求項6に記載のエネルギフィルタを備えると共に、前記検知器が前記磁気ダイバータの前記出射面を経て出射される前記荷電粒子を検知することを特徴とする、請求項8に記載の分光器。
【請求項10】
サンプル受容手段上に配置されたサンプルによって出射される荷電粒子が、場合によっては好ましくは20°未満である入射角γで光学結像システムを通過後に前記トロイダルエネルギアナライザの前記入射面に入射し、又は、請求項6に記載のエネルギフィルタが使用される場合は、好ましくは20°未満である入射角αで前記磁気ダイバータの前記入射面に入射するように配置された前記サンプル受容手段を有することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の分光器。
【請求項11】
前記サンプル受容手段上に受容されたサンプル上で放射線と作用する放射源、好ましくは電子ガンを備えることを特徴とする、請求項10に記載の分光器。
【請求項12】
請求項6に記載のエネルギフィルタを有し、前記磁気ダイバータが放射線入射面を有し、前記放射源が、好ましくは10°未満である入射角βで前記放射線入射面に入射し、好ましくは10°未満である出射角θで前記磁気ダイバータの前記入射面から出射されるように前記磁気ダイバータによって分散され、前記サンプル受容手段へと向けられるように配置されることを特徴とする、請求項11に記載の分光器。
【請求項13】
前記トロイダルアナライザの前記分散面が、前記サンプル受容手段と前記検知器との間に延びる想像線に対して略垂直に配置されることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の分光器。
【請求項14】
分光器が結像ESCA分光器であることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか一項に記載の分光器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−506238(P2013−506238A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530203(P2012−530203)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062724
【国際公開番号】WO2011/036038
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(512073736)
【Fターム(参考)】