荷電粒子線の偏向角測定方法及び荷電粒子線装置
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は荷電粒子線の偏向角測定方法及び荷電粒子線装置、更に詳しくいえば、荷電粒子線が磁界あるいは電界等で偏向した荷電粒子線の軌道を求め、荷電粒子線の偏向角を測定したり、それによって磁界あるいは電界分布等を測定する方法及及びそれに使用す荷電粒子線装置に係る。
【0002】
【従来の技術】荷電粒子線の磁界による偏向を利用して、微小空間領域の磁界分布を測定する技術が報告されている。例えば、アイ・イー・イー・イー・トランスアクション・オン・マグネティクス、28巻、2号、1992年、1017−1023頁に報告されているものでは、電子線を使って磁界分布を測定している。ここでは、細く絞った電子線を磁界発生試料面の近傍に通し、その磁界中を通ることによって生じる電子線の偏向量を2次元の位置検出器で検出し、磁界を測定している。得られる偏向量は、電子線が通った経路に存在する磁界の線積分値に相当する。測定の空間分解能は、磁界中を通った電子線の断面積に依存する。
【0003】上記で得られる情報は、空間中の線の部分の情報である。被測定面の磁界分布を求めるには、空間中の面の部分の情報が必要である。このため、上記電子線は、磁界分布の測定面方向に走査され、それぞれの位置での偏向量が細かく測定された。磁界を通過する電子線のサンプリング距離間隔を一定にするために、走査は一定の走査速度で行われ、検出器で検出される偏向量のサンプリングが、一定の時間間隔で行われた。したがって、電子線の入射位置の情報、すなわち被測定面のサンプリング距離間隔は、時間情報に置き換えられたことになる。このように、電子線を走査して空間の被測定面における磁界分布を測定する場合、偏向量は、そのデータを取得された時間で、測定された空間座標との対応付けがなされていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の方法では、走査という手法を用いることにより、測定された位置の情報は、時間の情報に置き換えられていた。しかし、走査は、空間内のサンプリング点数が増えると、一回の走査で取得するデータ数が増え、測定時間が増加する。このため、広い空間の測定や高空間分解能な測定のためにサンプリング点数が増える場合、測定時間が増加し、さらに、荷電粒子線の長時間照射による試料への電荷蓄積や、試料の汚染が発生するめ、試料の正確な情報が得られないという問題が生じていた。
【0005】従って、本発明の目的は、試料への荷電粒子線の照射時間を少なくし、試料への電荷蓄積や、試料の汚染が少ない荷電粒子線を用いた試料の測定方法及び荷電粒子線装置を実現することにある。本発明の他の目的は磁界や電界による荷電粒子線の偏向を測定する信号処理方法を実現することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の荷電粒子線の偏向測定方法は、荷電粒子線を参照試料の有限の大きさを有する面に照射し、上記参照試料の像を結像させて参照像を形成し、上記荷電粒子線の経路でかつ上記参照像の像面の近傍に被測定対象を配置し、上記被測定対象によって歪んだ上記参照像の2次元像を上記被測定対象と参照像の像面との間の距離を変えて複数枚形成し、上記複数枚の2次元試料像の信号を得て、上記2次元試料像のそれぞれの特徴点と、その位置情報を検出し、検出された特徴点の各2次元試料像の像面での位置情報及び上記複数の2次元試料像相互間の距離情報を用いて、上記2次元試料像間の特徴点の相互間を結ぶ線群の中で直線となるものを抽出し、上記抽出された個々の直線を三次元空間における荷電粒子線の個々の軌道とし、上記軌道より上記被測定試料を通過した上記荷電粒子線の上記被測定試料上の位置及び偏向角を求める信号処理を行う。更に、必要によっては、求められた被測定対象上の位置及び偏向角の信号を用いて、被測定対象の特性分布像を画像に表示する画像処理を行う。
【0007】上記被測定対象物は磁界及び電界で、被測定対象の特性分布が磁界や電界の分布が代表的であるが、これらに限定されない。荷電粒子線の代わりに光線や電波、電磁波、音波、超音波等の伝達手段を用い、電界や磁界の代わりに伝達手段に偏向や反射、屈折、吸収、散乱等を与えるものに対しても本発明を実施できる。上記参照試料はその明視野像、暗視野像、格子像あるいは回折像から特徴点が抽出できるコントラストを生じるものであればよい。特徴点は粒子像、特殊パターン上の点等が選ばれる。被測定対象物が磁界の時、空間的に広がりを持つ磁界が、像面まで届かないようにする。
【0008】上記複数の画像情報の特徴点から上記直線を求めるため、次の信号処理を行う。三次元空間に存在する個々の点について、隣接する2次元試料像内に含まれる最近傍の点を求め、着目した特徴点と求められた最近傍の点の2点間を結ぶ線分を求める処理を少なくとも可能性の高い複数の特徴点について行う。抽出された個々の線分は、三次元空間で直線を形成するように補正される。
【0009】また、上記本発明の方法を実施するため、本発明の荷電粒子線装置は、有限の広がりをもつ荷電粒子線を発生する荷電粒子線源と、上記荷電粒子線を上記参照試料に照射する荷電粒子線照射手段と、上記参照試料を通った荷電粒子線を結像させて像面を形成する像面形成手段と、上記像面の近傍に磁界又は電界を発生する被測定試料を保持する試料保持手段と、上記像面を複数の所望の形成位置を変えて複数の試料像として結像させる結像手段と、上記試料像の信号を得る像取得手段と、上記像取得手段の信号を記憶する像記憶手段と、上記像記憶手段の信号を用いて上記被測定試料による上記荷電粒子線の偏向角及びを上記荷電粒子線の上記被測定試料への入射位置を求める信号処理手段で構成される。更に求めた上記偏向角情報及び入射位置の情報を用いて被測定対象の磁界又は電界分布像を得る映像信号処理手段を付加してもよい。
【0010】上記信号処理手段では、上述の測定方法で述べた信号処理が実施される。上記像面形成手段及び結像手段は、電子レンズで構成され、この焦点距離を変化させることにより、像面形成手段によって形成される像面と磁界との間の距離を変化させる。試料保持手段の好ましい形態は磁界を発生するものをその磁界を180度以上回転させる構成とする。像取得手段は光学カメラのように2次元の撮像装置である。上記像取得手段で得られる画像は、像から特徴点の抽出の可能なコントラストが形成される像であり、参照試料の明視野像あるいは暗視野像あるいは格子像あるいは回折像である。上記参照試料の代わりに荷電粒子線のバイプリズムを用いても良い。
【0011】また、本発明の装置は、荷電粒子線現にかえ光線、電波、電磁波、音波、超音波等の一定の広がりをもつビーム発生手段を用いてもよい。この時、被測定物は偏向、反射、屈折、吸収、散乱、減衰等の上記ビームの偏向を生じる場あるいは物質となる。
【0012】
【作用】本発明では、走査を行わず、荷電粒子線源から放射された一定の広がりをもつ荷電粒子線を有限の大きさをもつ参照試料に照射する。参照試料を通った荷電粒子線は散乱するので、これを電子レンズにより収束させ、結像させる。像はその結像の方式や条件により、明視野像、暗視野像、格子像あるいは回折像戸なる。これが参照像となる。次に、荷電粒子線の経路で、かつ上記参照像面の近傍に磁界等の被測定試料を配置するので、磁界等によって荷電粒子線が偏向され参照像が歪む。この様にして歪んだ参照像を磁界と像面の間の距離を変えて複数枚得て、2次元の撮像装置によって2次元画像信号とし、記憶手段に記憶し、その後は信号処理手段の演算処理を行うことになる。これにより、走査が不要になり、被測定試料に荷電粒子線を照射する時間は短縮され、上記解決すべき課題の欄に述べたような、電荷の蓄積や試料の汚染の問題は解決される。
【0013】荷電粒子線の偏向角、磁界及び電界等の強度分布等は以下の原理によって求められる。被測定対象によって偏向された荷電粒子線は被測定対象の存在しない領域で直線である。従って、磁界等の被測定対象を固定し、参照像の歪んだ参照像(試料像)を一軸方向に結像位置を変えて複数個形成すると、上記試料像の平面の2次元と上記一軸方向の一次元とで形成される三次元空間に上記複数の試料像面が平行に配置された状態が想定される。
【0014】複数の試料像の特徴点は、荷電粒子線の試料像面の通過点である。従って、複数の試料像面のそれぞれから一つずつの特徴点を選び、それらを結んだものが一直線状に表れるものは、磁界等によって偏向を受けた荷電粒子線の軌道と見なすことができる。本発明では、まず上記複数の特徴点に対応する直線群を試料像面上の2次元情報及び複数の試料像面間の距離の情報から求め、その各直線群の三次元空間における位置、角度(参照像に対する)及び磁界等の被測定試対象と直線群との交点の位置情報を求める。
【0015】上記直線群の偏向角と直線群の被測定試料面との交点の位置情報が求まれば、被測定試料面の各交点の位置における上記被測定対象の特性が求められる。例えば、被測定対象の特性が磁界で荷電粒子が電子線であれば、電子線の磁界によるローレンツ力による偏向角は磁界の強さに比例するので、被測定試料面での磁界分布が求められる。
【0016】以上の原理は、上記荷電粒子が直進波道で、被測定試料が上記直進波道を偏向する特性をもつ場合にも適用できる。
【0017】
【実施例】図1は本発明による荷電粒子線装置の一実施例の構成を示すブロック図である。 本実施例では、荷電粒子線として電子線を用い、空間の磁界を照射し、磁界による荷電粒子線の偏向によって歪んだ複数の画像から特徴点を抽出し、着目した特徴点と隣接する像から最近傍の特徴点を選びこれを直線で結ぶ処理を行い、電子線の偏向角を求めるとともに、求められた偏向角から空間の磁界分布を測定した。
【0018】電子源11から放射された電子線12は、レンズ13を通り参照試料14に照射される。参照試料14を透過し、散乱した電子は、レンズ15と絞り16を通って像面17に像を形成する。像面17には、参照試料14の散乱コントラスト像(以下参照像と略称)が得られる。参照像は、絞り16の形状や位置により、参照試料14の明暗の特徴点として識別きる明視野像あるいは暗視野像となる。従って、参照試料14はそのコントラスト像に粒子のような明暗のコントラストが複数含まれるように選択される。
【0019】像面17の近傍に測定対象物である磁界23を発生する試料を試料保持手段22で保持し、磁界23を生じさる。磁界23は空間的な広がりがあるが、像面17部には存在しない。像面17に形成された像は、磁界23の影響を受け、磁界23のないときの参照像と比較すると歪んだ像(以下、試料像と略称)となる。像面17に形成された試料像は、レンズ18によって拡大され、カメラ等の撮像手段19によって2次元画像信号に変換される。撮像手段19で得られた2次元画像信号は、記憶手段20に記憶され、処理手段21から読みだされる。なお、図1では磁界23が像面の上側にある場合で示したが、磁界23が像面の下側にある場合でも同様に歪んだ試料像が得られる。この場合、磁界23が同じであれば歪みの方向は逆になる。
【0020】次に、電子レンズ15の焦点距離を変え、試料像の像面17を移動させる。この像面17の移動の様子を模式的に図2に示した。説明の便宜のため、像面17をX−Y面とし、像面17の移動方向をX−Y面に垂直な方向をZ方向とする。像面17がZ方向に移動し、磁界23と像面17との距離がU1からU2に変化すると、像面17に形成される像は変化する。電子線12が磁界23によって偏向を受けていれば歪み、磁界23からの距離が大きくなると歪み量は大きくなる。例えば図1は参照試料14の粒子が、図2の像面17に描かれた白丸(特徴点)で観察されたとする。像面がU1からU2へ連続的に動けば、この白丸はその位置が動いているかのように観察される。また、実際には、像面17の移動に伴い、形成される像の倍率も変化するが、図2では倍率の変化は省略した。像面17の位置を変化させて、さらに、図1のレンズ18の焦点距離も変えて、上述と同様に撮像手段19で2次元画像信号を得る。撮像手段19で得た2次元の画像信号を記憶手段20に記憶する。処理手段21は記憶手段20の情報を使用して以下に説明する信号処理を行う。なお、図2では磁界23の下の像面17を下方に移動させたが、像面17を上方に移動させてもよく、また、磁界23の上側に像面17を形成させて、これを利用してもよい。さらに、像面17の移動が磁界23を横切っても、座標と正負の方向が正しく得られていれば以下の処理ができる。
【0021】図3、図4及び図5は記憶手段20及び処理手段21の情報処理方法を説明するための図である。図3は上述の方法によって像面17の位置を変化させて得られた3枚の試料像を示した。試料像A、B及びCの像面は、上記レンズ18の焦点距離も変えて磁界23に近い方から順に得た像を表す。像面中の白丸の点Ap,Aq…Cr等は参照試料14によって形成される像の中の特徴点(粒子)である。これらの試料像A、B及びCは撮像手段20を介して記憶手段20に2次元の画像信号として格納される。試料像Aは、磁界23のほぼ中心平面から距離S0だけ離れた像面位置で結像させた像であり、試料像Bは、試料像Aから距離S1だけ離れた像面位置で結像させた像であり、試料像Cは、試料像Bから距離S2だけ離れた像面位置で結像させた像である。図3では説明を簡単にするため、試料象A、B及びCには、それぞれ着目した3つの粒子(特徴点)のみを描いた。
【0022】次に、記憶手段20に記憶された試料像A、B及びCの2次元画像信号について、処理手段21で以下の処理を行った。まず、3次元空間を用意し、ここに得られた試料像A、B及びCの画像を図4に示したように距離S1、S2だけ離して配置する。すなわち、試料像内の各粒子の点の位置情報をX,Y,Zの3次元情報として表し、各試料像A、B及びCから特徴的な点を抽出しておく。図4では、特徴点を×印で示した。ここで、試料像Aの特徴点Apに着目して、隣接する試料像Bの中の各特徴点Bp,Bq,Brと試料像Aの特徴点Apの間の距離を計算する。この中で、特徴点Apに最も近い特徴点Bpを探し出す。特徴点ApとBpの2点間を直線で結び、線分を形成させ、さらにこのような処理を試料像Aの他の特徴点Aq,Arの全ての特徴点に対して行う。また同様に試料像Bの特徴点Bq,Brにも着目し、隣接する試料像Cの中から最近傍の点を抽出して、上述と同様に線分を求める信号処理を処理を行う。上述のようにして求められた隣接した試料像間すなわち試料像AとB及び試料像BとCの特徴点間を結んだ線分から、3次元空間全体の中で一本の直線になる線分を求める信号処理を行う。
【0023】図5は3次元空間全体の中で一本の直線になる線分を荷電粒子が磁界23によって偏向された電子線の軌道として、被測定磁界23の強度分布を求める信号処理を説明するための概念的斜視図を示す。試料像Aの位置からZ軸の負方向すなわち電子源側に、距離S0だけ離れた位置に試料面S(計測すべき磁界の位置)を仮想し、上記3次元空間で求められた直線p,m,nを試料面Sまで延長する信号処理を行う。この直線p,m,nを磁界23によって偏向された電子線の軌道とし、上記直線p,m,nが試料面Sと交わる位置を電子線の磁界への入射位置とする。また、3次元空間の直線p,m,nと、電子線12の入射方向との傾きの比較を行い、角度差θを電子線の磁界23による偏向角θとした。
【0024】図6は3枚以上の試料像間の特徴点を結ぶ直線分を求める信号処理の概念斜視図を示す。まず、試料像17Aと17Bとから求められた線分u及びvが試料像17Bと17Cとから求められた線分m及びnとをそれぞれ結び、これらが直線とを構成する要素であるか判定する処理を行う。直線とならないときは、線分u、vを形成する試料像17Aの特徴点Ea,Ebについて、2番目に近い点を試料像17Bの特徴点の中から探す。この結果、特徴点Eaについては特徴点Fb、特徴点Ebについては特徴点Faが選ばれる。この点間を結び、破線の線分を形成させ、線分Ea−Fb及びEb−Faを使って、試料像17Bと17Cとから求められた線分m及びnと3次元空間全体の中で直線になるかどうか調べる。これによって、図6のように点線部を含む直線が形成される。従って、線分u、vの代わりに点線の線分を採用して3次元空間の中で一本の直線として処理する。
【0025】以上の信号処理によって、試料面17Sの2次元平面における電子線の入射位置及びその入射位置での上記磁界23による3次元の偏向角θの情報が得られる。上記入射位置及び偏向角θの情報は、さらに、試料保持手段22の回転機能を用い、各角度での像に対しても上記の処理を繰返して得られる。これらの3次元の偏向角θと位置情報及びコンピュータ断層映像手法の演算処理を用いることにより、試料空間の断面での磁界のベクトル分布像を求める。
【0026】図7は本発明による荷電粒子線装置の他の実施例の構成を示す図である。図において、図1と同一機能構成部分については図1と同じ番号を付し説明を省く。本実施例は画像処理に用いる像として、図1のレンズ15を調整し、像面に回折像を形成し、これを利用したものである。回折像では、規則性のある回折パターンを用い、パターン中の輝点を複数の試料像における特徴点とした。複数の試料像における特徴点を結ぶ直線を求める信号処理及び求めた直線から試料の偏向角、照射線の入射位置、分布像等を求めるの画像処理は、図1の実施例の場合と同じである。
【0027】図8は本発明による荷電粒子線装置の更に他の実施例の構成を示す図である。本実施例は参照試料14の代わりに電子線のバイプリズム81を利用したものである。図8ではバイプリズム81は一つしか描かれていないが、図9に示したように二つのバイプリズム81−1及び81−2が互いに直交するように構成してもよい。バイプリズム81は設置された線状電極24を挟み、線状電極24に平行に平板電極25が配置され、線状電極24と平板電極25とが異なる電位なるように構成される。二つのバイプリズム81−1及び81−2が互いに直交するように構成することによって格子状のパターンが像面17に形成される。被測定試料として磁界を配置すると、上記格子の状のパターンに歪みが発生する。前述の画像処理に用いる特徴点として格子の交わる個所を用いる。この歪みを利用して、上記と同じように電子線の軌道を求める処理ができ、従って被測定試料の磁界分布等の測定、更にそれを画像変換する処理にも用いることができる。
【0028】以上本発明の実施例について説明したが、本発明が上記実施例に限定されるものではない。例えば、参照試料には微少の通過孔をもつマスクを用いてもよい。また、荷電粒子線の代わりに光線や電波、電磁波、音波や超音波等の有限の広がりをもち直進するビームを用い、被測定対象を上記磁界や電界の代わりに上記ビームに偏向や屈折、吸収、散乱、減衰を与えるものでも実施できる。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の測定方法においては、線走査をすること無く広がりをもつ荷電粒子線を用いて複数の画像の特徴点をデータとして抽出し、これを3次元空間に並べて求められる直線を荷電粒子線の軌道とする処理であり、被測定試料に荷電粒子線を照射する時間が短縮でき、蓄積電荷あるいは試料の汚染による測定精度の低下をぼうしできる。また、画像中の特徴点を扱うため、広い領域の磁界の情報を含んだ画像から、微細領域の磁界情報を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による荷電粒子線装置の一実施例の構成図
【図2】図1に示す実施例の動作原理説明のための像面の移動を説明する図
【図3】図1に示す実施例の動作原理説明のための複数の試料像図
【図4】図3の複数の試料像を3次元空間に配置した図
【図5】本発明の偏向角測定方法の一実施例の処理を説明する図
【図6】本発明の偏向角測定方法の他の実施例の処理を説明する図
【図7】本発明による荷電粒子線装置の他の実施例の構成図
【図8】本発明による荷電粒子線装置の更に他の実施例の構成図
【図9】図8の実施例の要部を拡大した斜視図
【符号の説明】
11…電子源 19…撮像手段
12…電子線 20…記憶手段
13…レンズ 21…処理手段
14…参照試料 22…試料保持手段
15…レンズ 23…磁界
16…絞り 81…電子線バイプリズム
17…像面
18…レンズ
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は荷電粒子線の偏向角測定方法及び荷電粒子線装置、更に詳しくいえば、荷電粒子線が磁界あるいは電界等で偏向した荷電粒子線の軌道を求め、荷電粒子線の偏向角を測定したり、それによって磁界あるいは電界分布等を測定する方法及及びそれに使用す荷電粒子線装置に係る。
【0002】
【従来の技術】荷電粒子線の磁界による偏向を利用して、微小空間領域の磁界分布を測定する技術が報告されている。例えば、アイ・イー・イー・イー・トランスアクション・オン・マグネティクス、28巻、2号、1992年、1017−1023頁に報告されているものでは、電子線を使って磁界分布を測定している。ここでは、細く絞った電子線を磁界発生試料面の近傍に通し、その磁界中を通ることによって生じる電子線の偏向量を2次元の位置検出器で検出し、磁界を測定している。得られる偏向量は、電子線が通った経路に存在する磁界の線積分値に相当する。測定の空間分解能は、磁界中を通った電子線の断面積に依存する。
【0003】上記で得られる情報は、空間中の線の部分の情報である。被測定面の磁界分布を求めるには、空間中の面の部分の情報が必要である。このため、上記電子線は、磁界分布の測定面方向に走査され、それぞれの位置での偏向量が細かく測定された。磁界を通過する電子線のサンプリング距離間隔を一定にするために、走査は一定の走査速度で行われ、検出器で検出される偏向量のサンプリングが、一定の時間間隔で行われた。したがって、電子線の入射位置の情報、すなわち被測定面のサンプリング距離間隔は、時間情報に置き換えられたことになる。このように、電子線を走査して空間の被測定面における磁界分布を測定する場合、偏向量は、そのデータを取得された時間で、測定された空間座標との対応付けがなされていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の方法では、走査という手法を用いることにより、測定された位置の情報は、時間の情報に置き換えられていた。しかし、走査は、空間内のサンプリング点数が増えると、一回の走査で取得するデータ数が増え、測定時間が増加する。このため、広い空間の測定や高空間分解能な測定のためにサンプリング点数が増える場合、測定時間が増加し、さらに、荷電粒子線の長時間照射による試料への電荷蓄積や、試料の汚染が発生するめ、試料の正確な情報が得られないという問題が生じていた。
【0005】従って、本発明の目的は、試料への荷電粒子線の照射時間を少なくし、試料への電荷蓄積や、試料の汚染が少ない荷電粒子線を用いた試料の測定方法及び荷電粒子線装置を実現することにある。本発明の他の目的は磁界や電界による荷電粒子線の偏向を測定する信号処理方法を実現することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の荷電粒子線の偏向測定方法は、荷電粒子線を参照試料の有限の大きさを有する面に照射し、上記参照試料の像を結像させて参照像を形成し、上記荷電粒子線の経路でかつ上記参照像の像面の近傍に被測定対象を配置し、上記被測定対象によって歪んだ上記参照像の2次元像を上記被測定対象と参照像の像面との間の距離を変えて複数枚形成し、上記複数枚の2次元試料像の信号を得て、上記2次元試料像のそれぞれの特徴点と、その位置情報を検出し、検出された特徴点の各2次元試料像の像面での位置情報及び上記複数の2次元試料像相互間の距離情報を用いて、上記2次元試料像間の特徴点の相互間を結ぶ線群の中で直線となるものを抽出し、上記抽出された個々の直線を三次元空間における荷電粒子線の個々の軌道とし、上記軌道より上記被測定試料を通過した上記荷電粒子線の上記被測定試料上の位置及び偏向角を求める信号処理を行う。更に、必要によっては、求められた被測定対象上の位置及び偏向角の信号を用いて、被測定対象の特性分布像を画像に表示する画像処理を行う。
【0007】上記被測定対象物は磁界及び電界で、被測定対象の特性分布が磁界や電界の分布が代表的であるが、これらに限定されない。荷電粒子線の代わりに光線や電波、電磁波、音波、超音波等の伝達手段を用い、電界や磁界の代わりに伝達手段に偏向や反射、屈折、吸収、散乱等を与えるものに対しても本発明を実施できる。上記参照試料はその明視野像、暗視野像、格子像あるいは回折像から特徴点が抽出できるコントラストを生じるものであればよい。特徴点は粒子像、特殊パターン上の点等が選ばれる。被測定対象物が磁界の時、空間的に広がりを持つ磁界が、像面まで届かないようにする。
【0008】上記複数の画像情報の特徴点から上記直線を求めるため、次の信号処理を行う。三次元空間に存在する個々の点について、隣接する2次元試料像内に含まれる最近傍の点を求め、着目した特徴点と求められた最近傍の点の2点間を結ぶ線分を求める処理を少なくとも可能性の高い複数の特徴点について行う。抽出された個々の線分は、三次元空間で直線を形成するように補正される。
【0009】また、上記本発明の方法を実施するため、本発明の荷電粒子線装置は、有限の広がりをもつ荷電粒子線を発生する荷電粒子線源と、上記荷電粒子線を上記参照試料に照射する荷電粒子線照射手段と、上記参照試料を通った荷電粒子線を結像させて像面を形成する像面形成手段と、上記像面の近傍に磁界又は電界を発生する被測定試料を保持する試料保持手段と、上記像面を複数の所望の形成位置を変えて複数の試料像として結像させる結像手段と、上記試料像の信号を得る像取得手段と、上記像取得手段の信号を記憶する像記憶手段と、上記像記憶手段の信号を用いて上記被測定試料による上記荷電粒子線の偏向角及びを上記荷電粒子線の上記被測定試料への入射位置を求める信号処理手段で構成される。更に求めた上記偏向角情報及び入射位置の情報を用いて被測定対象の磁界又は電界分布像を得る映像信号処理手段を付加してもよい。
【0010】上記信号処理手段では、上述の測定方法で述べた信号処理が実施される。上記像面形成手段及び結像手段は、電子レンズで構成され、この焦点距離を変化させることにより、像面形成手段によって形成される像面と磁界との間の距離を変化させる。試料保持手段の好ましい形態は磁界を発生するものをその磁界を180度以上回転させる構成とする。像取得手段は光学カメラのように2次元の撮像装置である。上記像取得手段で得られる画像は、像から特徴点の抽出の可能なコントラストが形成される像であり、参照試料の明視野像あるいは暗視野像あるいは格子像あるいは回折像である。上記参照試料の代わりに荷電粒子線のバイプリズムを用いても良い。
【0011】また、本発明の装置は、荷電粒子線現にかえ光線、電波、電磁波、音波、超音波等の一定の広がりをもつビーム発生手段を用いてもよい。この時、被測定物は偏向、反射、屈折、吸収、散乱、減衰等の上記ビームの偏向を生じる場あるいは物質となる。
【0012】
【作用】本発明では、走査を行わず、荷電粒子線源から放射された一定の広がりをもつ荷電粒子線を有限の大きさをもつ参照試料に照射する。参照試料を通った荷電粒子線は散乱するので、これを電子レンズにより収束させ、結像させる。像はその結像の方式や条件により、明視野像、暗視野像、格子像あるいは回折像戸なる。これが参照像となる。次に、荷電粒子線の経路で、かつ上記参照像面の近傍に磁界等の被測定試料を配置するので、磁界等によって荷電粒子線が偏向され参照像が歪む。この様にして歪んだ参照像を磁界と像面の間の距離を変えて複数枚得て、2次元の撮像装置によって2次元画像信号とし、記憶手段に記憶し、その後は信号処理手段の演算処理を行うことになる。これにより、走査が不要になり、被測定試料に荷電粒子線を照射する時間は短縮され、上記解決すべき課題の欄に述べたような、電荷の蓄積や試料の汚染の問題は解決される。
【0013】荷電粒子線の偏向角、磁界及び電界等の強度分布等は以下の原理によって求められる。被測定対象によって偏向された荷電粒子線は被測定対象の存在しない領域で直線である。従って、磁界等の被測定対象を固定し、参照像の歪んだ参照像(試料像)を一軸方向に結像位置を変えて複数個形成すると、上記試料像の平面の2次元と上記一軸方向の一次元とで形成される三次元空間に上記複数の試料像面が平行に配置された状態が想定される。
【0014】複数の試料像の特徴点は、荷電粒子線の試料像面の通過点である。従って、複数の試料像面のそれぞれから一つずつの特徴点を選び、それらを結んだものが一直線状に表れるものは、磁界等によって偏向を受けた荷電粒子線の軌道と見なすことができる。本発明では、まず上記複数の特徴点に対応する直線群を試料像面上の2次元情報及び複数の試料像面間の距離の情報から求め、その各直線群の三次元空間における位置、角度(参照像に対する)及び磁界等の被測定試対象と直線群との交点の位置情報を求める。
【0015】上記直線群の偏向角と直線群の被測定試料面との交点の位置情報が求まれば、被測定試料面の各交点の位置における上記被測定対象の特性が求められる。例えば、被測定対象の特性が磁界で荷電粒子が電子線であれば、電子線の磁界によるローレンツ力による偏向角は磁界の強さに比例するので、被測定試料面での磁界分布が求められる。
【0016】以上の原理は、上記荷電粒子が直進波道で、被測定試料が上記直進波道を偏向する特性をもつ場合にも適用できる。
【0017】
【実施例】図1は本発明による荷電粒子線装置の一実施例の構成を示すブロック図である。 本実施例では、荷電粒子線として電子線を用い、空間の磁界を照射し、磁界による荷電粒子線の偏向によって歪んだ複数の画像から特徴点を抽出し、着目した特徴点と隣接する像から最近傍の特徴点を選びこれを直線で結ぶ処理を行い、電子線の偏向角を求めるとともに、求められた偏向角から空間の磁界分布を測定した。
【0018】電子源11から放射された電子線12は、レンズ13を通り参照試料14に照射される。参照試料14を透過し、散乱した電子は、レンズ15と絞り16を通って像面17に像を形成する。像面17には、参照試料14の散乱コントラスト像(以下参照像と略称)が得られる。参照像は、絞り16の形状や位置により、参照試料14の明暗の特徴点として識別きる明視野像あるいは暗視野像となる。従って、参照試料14はそのコントラスト像に粒子のような明暗のコントラストが複数含まれるように選択される。
【0019】像面17の近傍に測定対象物である磁界23を発生する試料を試料保持手段22で保持し、磁界23を生じさる。磁界23は空間的な広がりがあるが、像面17部には存在しない。像面17に形成された像は、磁界23の影響を受け、磁界23のないときの参照像と比較すると歪んだ像(以下、試料像と略称)となる。像面17に形成された試料像は、レンズ18によって拡大され、カメラ等の撮像手段19によって2次元画像信号に変換される。撮像手段19で得られた2次元画像信号は、記憶手段20に記憶され、処理手段21から読みだされる。なお、図1では磁界23が像面の上側にある場合で示したが、磁界23が像面の下側にある場合でも同様に歪んだ試料像が得られる。この場合、磁界23が同じであれば歪みの方向は逆になる。
【0020】次に、電子レンズ15の焦点距離を変え、試料像の像面17を移動させる。この像面17の移動の様子を模式的に図2に示した。説明の便宜のため、像面17をX−Y面とし、像面17の移動方向をX−Y面に垂直な方向をZ方向とする。像面17がZ方向に移動し、磁界23と像面17との距離がU1からU2に変化すると、像面17に形成される像は変化する。電子線12が磁界23によって偏向を受けていれば歪み、磁界23からの距離が大きくなると歪み量は大きくなる。例えば図1は参照試料14の粒子が、図2の像面17に描かれた白丸(特徴点)で観察されたとする。像面がU1からU2へ連続的に動けば、この白丸はその位置が動いているかのように観察される。また、実際には、像面17の移動に伴い、形成される像の倍率も変化するが、図2では倍率の変化は省略した。像面17の位置を変化させて、さらに、図1のレンズ18の焦点距離も変えて、上述と同様に撮像手段19で2次元画像信号を得る。撮像手段19で得た2次元の画像信号を記憶手段20に記憶する。処理手段21は記憶手段20の情報を使用して以下に説明する信号処理を行う。なお、図2では磁界23の下の像面17を下方に移動させたが、像面17を上方に移動させてもよく、また、磁界23の上側に像面17を形成させて、これを利用してもよい。さらに、像面17の移動が磁界23を横切っても、座標と正負の方向が正しく得られていれば以下の処理ができる。
【0021】図3、図4及び図5は記憶手段20及び処理手段21の情報処理方法を説明するための図である。図3は上述の方法によって像面17の位置を変化させて得られた3枚の試料像を示した。試料像A、B及びCの像面は、上記レンズ18の焦点距離も変えて磁界23に近い方から順に得た像を表す。像面中の白丸の点Ap,Aq…Cr等は参照試料14によって形成される像の中の特徴点(粒子)である。これらの試料像A、B及びCは撮像手段20を介して記憶手段20に2次元の画像信号として格納される。試料像Aは、磁界23のほぼ中心平面から距離S0だけ離れた像面位置で結像させた像であり、試料像Bは、試料像Aから距離S1だけ離れた像面位置で結像させた像であり、試料像Cは、試料像Bから距離S2だけ離れた像面位置で結像させた像である。図3では説明を簡単にするため、試料象A、B及びCには、それぞれ着目した3つの粒子(特徴点)のみを描いた。
【0022】次に、記憶手段20に記憶された試料像A、B及びCの2次元画像信号について、処理手段21で以下の処理を行った。まず、3次元空間を用意し、ここに得られた試料像A、B及びCの画像を図4に示したように距離S1、S2だけ離して配置する。すなわち、試料像内の各粒子の点の位置情報をX,Y,Zの3次元情報として表し、各試料像A、B及びCから特徴的な点を抽出しておく。図4では、特徴点を×印で示した。ここで、試料像Aの特徴点Apに着目して、隣接する試料像Bの中の各特徴点Bp,Bq,Brと試料像Aの特徴点Apの間の距離を計算する。この中で、特徴点Apに最も近い特徴点Bpを探し出す。特徴点ApとBpの2点間を直線で結び、線分を形成させ、さらにこのような処理を試料像Aの他の特徴点Aq,Arの全ての特徴点に対して行う。また同様に試料像Bの特徴点Bq,Brにも着目し、隣接する試料像Cの中から最近傍の点を抽出して、上述と同様に線分を求める信号処理を処理を行う。上述のようにして求められた隣接した試料像間すなわち試料像AとB及び試料像BとCの特徴点間を結んだ線分から、3次元空間全体の中で一本の直線になる線分を求める信号処理を行う。
【0023】図5は3次元空間全体の中で一本の直線になる線分を荷電粒子が磁界23によって偏向された電子線の軌道として、被測定磁界23の強度分布を求める信号処理を説明するための概念的斜視図を示す。試料像Aの位置からZ軸の負方向すなわち電子源側に、距離S0だけ離れた位置に試料面S(計測すべき磁界の位置)を仮想し、上記3次元空間で求められた直線p,m,nを試料面Sまで延長する信号処理を行う。この直線p,m,nを磁界23によって偏向された電子線の軌道とし、上記直線p,m,nが試料面Sと交わる位置を電子線の磁界への入射位置とする。また、3次元空間の直線p,m,nと、電子線12の入射方向との傾きの比較を行い、角度差θを電子線の磁界23による偏向角θとした。
【0024】図6は3枚以上の試料像間の特徴点を結ぶ直線分を求める信号処理の概念斜視図を示す。まず、試料像17Aと17Bとから求められた線分u及びvが試料像17Bと17Cとから求められた線分m及びnとをそれぞれ結び、これらが直線とを構成する要素であるか判定する処理を行う。直線とならないときは、線分u、vを形成する試料像17Aの特徴点Ea,Ebについて、2番目に近い点を試料像17Bの特徴点の中から探す。この結果、特徴点Eaについては特徴点Fb、特徴点Ebについては特徴点Faが選ばれる。この点間を結び、破線の線分を形成させ、線分Ea−Fb及びEb−Faを使って、試料像17Bと17Cとから求められた線分m及びnと3次元空間全体の中で直線になるかどうか調べる。これによって、図6のように点線部を含む直線が形成される。従って、線分u、vの代わりに点線の線分を採用して3次元空間の中で一本の直線として処理する。
【0025】以上の信号処理によって、試料面17Sの2次元平面における電子線の入射位置及びその入射位置での上記磁界23による3次元の偏向角θの情報が得られる。上記入射位置及び偏向角θの情報は、さらに、試料保持手段22の回転機能を用い、各角度での像に対しても上記の処理を繰返して得られる。これらの3次元の偏向角θと位置情報及びコンピュータ断層映像手法の演算処理を用いることにより、試料空間の断面での磁界のベクトル分布像を求める。
【0026】図7は本発明による荷電粒子線装置の他の実施例の構成を示す図である。図において、図1と同一機能構成部分については図1と同じ番号を付し説明を省く。本実施例は画像処理に用いる像として、図1のレンズ15を調整し、像面に回折像を形成し、これを利用したものである。回折像では、規則性のある回折パターンを用い、パターン中の輝点を複数の試料像における特徴点とした。複数の試料像における特徴点を結ぶ直線を求める信号処理及び求めた直線から試料の偏向角、照射線の入射位置、分布像等を求めるの画像処理は、図1の実施例の場合と同じである。
【0027】図8は本発明による荷電粒子線装置の更に他の実施例の構成を示す図である。本実施例は参照試料14の代わりに電子線のバイプリズム81を利用したものである。図8ではバイプリズム81は一つしか描かれていないが、図9に示したように二つのバイプリズム81−1及び81−2が互いに直交するように構成してもよい。バイプリズム81は設置された線状電極24を挟み、線状電極24に平行に平板電極25が配置され、線状電極24と平板電極25とが異なる電位なるように構成される。二つのバイプリズム81−1及び81−2が互いに直交するように構成することによって格子状のパターンが像面17に形成される。被測定試料として磁界を配置すると、上記格子の状のパターンに歪みが発生する。前述の画像処理に用いる特徴点として格子の交わる個所を用いる。この歪みを利用して、上記と同じように電子線の軌道を求める処理ができ、従って被測定試料の磁界分布等の測定、更にそれを画像変換する処理にも用いることができる。
【0028】以上本発明の実施例について説明したが、本発明が上記実施例に限定されるものではない。例えば、参照試料には微少の通過孔をもつマスクを用いてもよい。また、荷電粒子線の代わりに光線や電波、電磁波、音波や超音波等の有限の広がりをもち直進するビームを用い、被測定対象を上記磁界や電界の代わりに上記ビームに偏向や屈折、吸収、散乱、減衰を与えるものでも実施できる。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の測定方法においては、線走査をすること無く広がりをもつ荷電粒子線を用いて複数の画像の特徴点をデータとして抽出し、これを3次元空間に並べて求められる直線を荷電粒子線の軌道とする処理であり、被測定試料に荷電粒子線を照射する時間が短縮でき、蓄積電荷あるいは試料の汚染による測定精度の低下をぼうしできる。また、画像中の特徴点を扱うため、広い領域の磁界の情報を含んだ画像から、微細領域の磁界情報を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による荷電粒子線装置の一実施例の構成図
【図2】図1に示す実施例の動作原理説明のための像面の移動を説明する図
【図3】図1に示す実施例の動作原理説明のための複数の試料像図
【図4】図3の複数の試料像を3次元空間に配置した図
【図5】本発明の偏向角測定方法の一実施例の処理を説明する図
【図6】本発明の偏向角測定方法の他の実施例の処理を説明する図
【図7】本発明による荷電粒子線装置の他の実施例の構成図
【図8】本発明による荷電粒子線装置の更に他の実施例の構成図
【図9】図8の実施例の要部を拡大した斜視図
【符号の説明】
11…電子源 19…撮像手段
12…電子線 20…記憶手段
13…レンズ 21…処理手段
14…参照試料 22…試料保持手段
15…レンズ 23…磁界
16…絞り 81…電子線バイプリズム
17…像面
18…レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】荷電粒子線を参考試料の有限の大きさを有する面に照射し、上記参考試料の像を結像させて像面を形成し、上記荷電粒子線の経路でかつ上記像面の近傍に被測定対象を配置し、上記被測定対象によって歪んだ2次元試料像を上記被測定対象と像面との間の距離を変えて複数枚を平行に形成し、上記2次元試料像の信号を得る第1ステップと、上記複数枚の2次元試料像のそれぞれの特徴点の位置情報を検出する第2ステップと、上記第2ステップで得られた特徴点の位置情報及び上記複数の平行な2次元試料像相互間の距離情報を用いて、上記複数枚の平行な2次元試料像の相互間を結ぶ線群の中で直線となるものを抽出する第3ステップと、上記抽出された個々の直線を3次元空間における荷電粒子線の個々の軌道とし上記軌道より上記被測定対象を通過した上記荷電粒子線の上記被測定対象上の位置及び偏向角を求める信号処理ステップとをもつことを特徴とする荷電粒子線の偏向角測定方法。
【請求項2】上記第3ステップで直線となるものの抽出は、着目した特徴点が含まれる試料像に隣接する他の試料像の特徴点の中から、上記着目した特徴点の最近傍の点を求め、上記着目した特徴点と求められた最近傍の特徴点を結ぶ線分を求める線分抽出処理を行うことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線の偏向角測定方法。
【請求項3】上記線分抽出処理を第1と第2の試料像間及び第2及び第3の試料像間で行い、第2の試料像の着目する特徴点と第1の試料像の特徴点とがなす第1の直線が上記第2の試料像の着目する特徴点と第3の試料像の特徴点とがなす第2の直線とが上記3次元空間内で直線を構成する要素であるかどうか判断する第1処理と、第1処理によって得た第1の直線と第2の直線が直線のときは、上記第1及び第3の試料像間の求めるべき直線とし、第1処理によって第1の直線と第2の直線が直線とならないときは、上記第2の試料像の着目する特徴点と上記第1又は第3の試料像の他の特徴点で結ぶ直線で上記第2の直線又は上記第1の直線と直線をなす第1又は第3の試料像の他の特徴点を求める補正を行って直線を形成させる第2処理を含むことを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子線の偏向角測定方法。
【請求項4】荷電粒子線を発生する荷電粒子線源と、上記荷電粒子線を有限の広がりをもって参照試料に照射する荷電粒子線照射手段と、上記参照試料を通った荷電粒子線を結像させて像面を形成する像面形成手段と、上記像面の近傍で磁界又は電界を発生する被測定試料を保持する試料保持手段と、上記像面を複数の所望の形成位置を変えて複数の試料像として結像させる結像手段と、上記試料像の信号を得る像取得手段と、上記像取得手段の信号を記憶する像記憶手段と、上記像記憶手段の信号を用いて上記被測定試料による上記荷電粒子線の偏向角を求める信号処理手段と、上記個々の軌道から配置された磁界あるいは電界による荷電粒子線の個々の偏向角及び荷電粒子線の磁界あるいは電界への入射位置を求め、上記偏向角及び上記入射位置から空間の磁界分布像あるいは電界分布像を得る信号処理手段を具備したことを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項1】荷電粒子線を参考試料の有限の大きさを有する面に照射し、上記参考試料の像を結像させて像面を形成し、上記荷電粒子線の経路でかつ上記像面の近傍に被測定対象を配置し、上記被測定対象によって歪んだ2次元試料像を上記被測定対象と像面との間の距離を変えて複数枚を平行に形成し、上記2次元試料像の信号を得る第1ステップと、上記複数枚の2次元試料像のそれぞれの特徴点の位置情報を検出する第2ステップと、上記第2ステップで得られた特徴点の位置情報及び上記複数の平行な2次元試料像相互間の距離情報を用いて、上記複数枚の平行な2次元試料像の相互間を結ぶ線群の中で直線となるものを抽出する第3ステップと、上記抽出された個々の直線を3次元空間における荷電粒子線の個々の軌道とし上記軌道より上記被測定対象を通過した上記荷電粒子線の上記被測定対象上の位置及び偏向角を求める信号処理ステップとをもつことを特徴とする荷電粒子線の偏向角測定方法。
【請求項2】上記第3ステップで直線となるものの抽出は、着目した特徴点が含まれる試料像に隣接する他の試料像の特徴点の中から、上記着目した特徴点の最近傍の点を求め、上記着目した特徴点と求められた最近傍の特徴点を結ぶ線分を求める線分抽出処理を行うことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線の偏向角測定方法。
【請求項3】上記線分抽出処理を第1と第2の試料像間及び第2及び第3の試料像間で行い、第2の試料像の着目する特徴点と第1の試料像の特徴点とがなす第1の直線が上記第2の試料像の着目する特徴点と第3の試料像の特徴点とがなす第2の直線とが上記3次元空間内で直線を構成する要素であるかどうか判断する第1処理と、第1処理によって得た第1の直線と第2の直線が直線のときは、上記第1及び第3の試料像間の求めるべき直線とし、第1処理によって第1の直線と第2の直線が直線とならないときは、上記第2の試料像の着目する特徴点と上記第1又は第3の試料像の他の特徴点で結ぶ直線で上記第2の直線又は上記第1の直線と直線をなす第1又は第3の試料像の他の特徴点を求める補正を行って直線を形成させる第2処理を含むことを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子線の偏向角測定方法。
【請求項4】荷電粒子線を発生する荷電粒子線源と、上記荷電粒子線を有限の広がりをもって参照試料に照射する荷電粒子線照射手段と、上記参照試料を通った荷電粒子線を結像させて像面を形成する像面形成手段と、上記像面の近傍で磁界又は電界を発生する被測定試料を保持する試料保持手段と、上記像面を複数の所望の形成位置を変えて複数の試料像として結像させる結像手段と、上記試料像の信号を得る像取得手段と、上記像取得手段の信号を記憶する像記憶手段と、上記像記憶手段の信号を用いて上記被測定試料による上記荷電粒子線の偏向角を求める信号処理手段と、上記個々の軌道から配置された磁界あるいは電界による荷電粒子線の個々の偏向角及び荷電粒子線の磁界あるいは電界への入射位置を求め、上記偏向角及び上記入射位置から空間の磁界分布像あるいは電界分布像を得る信号処理手段を具備したことを特徴とする荷電粒子装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図6】
【図7】
【図8】
【特許番号】特許第3392550号(P3392550)
【登録日】平成15年1月24日(2003.1.24)
【発行日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−295164
【出願日】平成6年11月29日(1994.11.29)
【公開番号】特開平8−153485
【公開日】平成8年6月11日(1996.6.11)
【審査請求日】平成12年3月6日(2000.3.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【参考文献】
【文献】特開 平5−266214(JP,A)
【文献】特開 平5−109380(JP,A)
【文献】特開 平4−299474(JP,A)
【文献】特開 平7−234268(JP,A)
【文献】特開 平4−206132(JP,A)
【文献】特開 平8−45465(JP,A)
【文献】特開 平3−173052(JP,A)
【文献】特開 平7−335172(JP,A)
【文献】特開 平5−47337(JP,A)
【文献】特開 昭49−83485(JP,A)
【文献】特開 昭54−114172(JP,A)
【登録日】平成15年1月24日(2003.1.24)
【発行日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成6年11月29日(1994.11.29)
【公開番号】特開平8−153485
【公開日】平成8年6月11日(1996.6.11)
【審査請求日】平成12年3月6日(2000.3.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【参考文献】
【文献】特開 平5−266214(JP,A)
【文献】特開 平5−109380(JP,A)
【文献】特開 平4−299474(JP,A)
【文献】特開 平7−234268(JP,A)
【文献】特開 平4−206132(JP,A)
【文献】特開 平8−45465(JP,A)
【文献】特開 平3−173052(JP,A)
【文献】特開 平7−335172(JP,A)
【文献】特開 平5−47337(JP,A)
【文献】特開 昭49−83485(JP,A)
【文献】特開 昭54−114172(JP,A)
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