説明

荷電粒子線装置及び試料作製方法

【課題】試料依存性があるFIB加工において、作業者の個人差の影響を受けることなく、希望の形状に効率良く加工できるようにする。
【解決手段】イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置とその制御装置と、試料の構成元素を検出する元素検出器とその制御装置と、元素検出器で特定された元素に基づいて試料の加工条件を自動設定する中央処理装置とを荷電粒子線装置に実装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームを照射して試料を加工する装置を有する荷電粒子線装置及び当該装置による試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を正確に微細加工するための装置として、集束イオンビーム(FIB: Focused Ion Beam。以下「FIB」という。)加工装置がある。FIB加工装置は、サブミクロンオーダーに集束されたイオンビームを静電偏向走査して試料に照射することにより、目標位置を所望の形状に加工する。
【0003】
イオンビームによる加工には、加工対象とする試料の構成元素等を十分に知っておく必要がある。イオンビームのスパッタリング効率[μm/nA・s]は、構成元素に依存するためである。
【0004】
試料の材料や構造が既知の場合、熟練作業者は、最初にスパッタリング効率を把握し、次に、FIB加工装置のビーム電流、単位面積当たりのビーム滞在時間(以下「Dwell Time」という。)、加工深さの関係等を決定し、試料を加工する。
【0005】
一方、試料の材料や構造が不明確な場合、熟練作業者は、事前に構成元素を分析したり、設計図を確認することにより加工領域を決定し、その後、決定された加工領域を実際に加工する。この作業を繰り返すことにより、熟練作業者は、所望の形状に至るまでの加工手順を組み立てる。
【0006】
しかも、試料の材料や構造が不明確な場合、FIB加工には、エネルギーレベルの低いFIBビームが使用される。このため、その加工速度は低いものになる。また、FIB加工では、加工過程で試料表面に現れる材料と試料形状の変化に応じ、加工条件を逐次変更する必要がある。このため、試料の出来栄えは作業者によることが多い。
【0007】
なお、FIBによる試料の加工の最中にも、エネルギー分散形X線分析装置を用いて試料の構成元素を分析できるようにしたFIB装置がある(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−084951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に示すFIB装置の場合にも、分析結果の観察及びFIB加工に伴う加工条件の変更は、作業者自身が行う必要がある。すなわち、作業者は、加工過程で試料表面に現れる材料と試料形状の変化に応じ、加工条件を逐次変更する必要がある。
【0010】
このように、構成元素に起因した試料依存性を有するFIB加工では、FIB加工中に作業者が分析結果を観察できたとしても、試料表面の状況に応じた最適な加工条件を選択するための知識を作業者が有していなければ、試料を希望する形状に効率良く加工することができない。
【0011】
本発明者は、以上の課題を鋭意検討した結果、試料を希望する形状に効率良く加工するための条件を自動的に設定する機能を有する荷電粒子ビーム装置、及び当該機能による試料作製方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置とその制御装置と、試料の構成元素を検出する元素検出器とその制御装置と、元素検出器で特定された元素に基づいてイオンビーム光学システム装置の加工条件を自動設定する中央処理装置とを有する荷電粒子線装置を提案する。また、本発明は、当該制御装置による加工条件の自動設定を通じ、試料を作製する方法を提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、材料及び構造の両方が未知又は材料だけが未知の複合的な試料を加工する場合にも、特定の材料だけを選択的に加工若しくは残すように加工、又は、試料表面を材料の違いによらず平坦に加工するための加工条件を自動的に設定することができる。これにより、作業者の熟練度等によらず、構成元素等が未知の試料を所望の形状に効率良くFIB加工することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一形態例に係る荷電粒子線装置の構成例を示す図。
【図2】形態例1に係る加工原理を説明する図。
【図3】形態例1に係る試料作製方法を示すフローチャート。
【図4】加工モード及び加工材料選択条件設定用のGUI画面を示す図。
【図5】加工条件の設定及び確認用のGUI画面を示す図。
【図6】加工材料が複数の場合に好適な加工条件の設定及び確認用のGUI画面を示す図。
【図7】FIB加工中に使用する加工パターン確認用のGUI画面を示す図。
【図8】FIB加工中に使用する加工パターン調整用のGUI画面を示す図。
【図9】FIB加工中に時間順次に生成された複数の加工パターンを3次元的に合成した図。
【図10】形態例2に係る加工原理を説明する図。
【図11】形態例2に係る試料作製方法を示すフローチャート。
【図12】形態例3に係る試料作製方法を示すフローチャート。
【図13】形態例4に係る荷電粒子線装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0016】
[実施例1]
[装置構成]
図1に、形態例1に係る荷電粒子線装置の構成例を示す。なお、本形態例に係る荷電粒子線装置は、FIB加工装置である。
【0017】
FIB加工装置は、試料ステージ102と、試料位置制御装置103と、イオン源104と、イオンビーム光学システム装置106と、イオンビーム光学システム制御装置107と、二次電子検出器108と、二次電子検出器制御装置109と、元素検出器110と、元素検出器制御装置111と、中央処理装置112と、表示装置113と、真空容器114とを有する。
【0018】
試料ステージ102、イオンビーム光学システム装置106、二次電子検出器108、元素検出器110は、真空容器114内に配置される。真空容器114の内部は、真空雰囲気に保持されている。
【0019】
試料ステージ102には、加工対象である試料101が載置される。試料ステージ102の位置や向きは、不図示の駆動機構により可変することができる。当該駆動機構は、試料位置制御装置103により制御される。当該制御を通じ、試料101のイオンビームに対する位置や向きが可変される。
【0020】
イオン源104は、試料101の加工に使用するイオンを発生する。イオンビーム光学システム装置106は、所定のビーム径に収束されたイオンビーム105を試料101に照射し、試料101を所望の形状に加工する装置である。イオンビーム光学システム制御装置107は、所定のビーム径に集束されたイオンビーム105の偏向走査等を制御する。
【0021】
二次電子検出器108は、イオンビーム105の照射により試料101から発生する二次電子を検出するデバイスである。当該二次電子の検出強度をイオンビーム105の照射位置に対応付けた画像が二次電子像(SEM像)である。二次電子検出器108における二次電子の検出は、二次電子検出器制御装置109により制御される。なお、二次イオンその他の二次信号の検出により試料表面の像を取得しても良い。
【0022】
元素検出器110は、FIBの照射により発生する信号に基づいて照射位置に存在する元素を特定するデバイスである。当該元素検出器110による元素の検出処理は元素検出器制御装置111により制御される。
【0023】
中央処理装置112は、試料位置制御装置103、イオンビーム光学システム制御装置107、二次電子検出器制御装置109及び元素検出器制御装置111の制御を通じ、前述した各機器を制御する。中央処理装置112は、試料位置制御装置103、イオンビーム光学システム制御装置107、二次電子検出器制御装置109、元素検出器制御装置111に対する制御データを演算し、演算結果を対応する各装置に送信する。中央処理装置112には、例えばパーソナルコンピュータ、ワークステーション等を使用する。中央処理装置112には表示装置113が接続されており、表示装置113にGUIが表示される。操作者は、GUIを通じ、加工条件の入力や確認を。
【0024】
図1に示すFIB加工装置は、材料や構造が未知の試料101を加工対象とする場合でも、元素検出器110で特定された元素に基づいて最適な加工条件を自動的に設定する機能を有し、当該機能に基づいて所望の形状を有する試料101を効率的にFIB加工する。後述するように、加工条件の自動設定機能は、中央処理装置112の処理機能を通じて実現される。
【0025】
[元素検出器]
前述した元素検出器110は、元素の特定が可能な検出器であれば、どのようなデバイスでも基本的に構わない。この形態例の場合、元素検出器110には、イオンビーム105の照射により試料101から弾き出された元素の二次イオンを検出するイオン検出器を使用する。
【0026】
ここで、イオン検出器とは、二次イオン質量分析装置における質量分析部と、イオン検出部とを含めた装置部分を指す。質量分析部の構成の違いにより、イオン検出器は、例えば磁場型、四重極型、飛行時間型、及びこれらの幾つかを組み合わせた複合型等に分類することができる。本明細書におけるイオン検出器は、これら分類のうちのいずれかを意味する。
【0027】
イオン検出器は、試料101の最表面における元素の分布を高分解能で検出することができる。また、中央処理装置112は、イオンビーム照射位置と、その位置で検出された元素分布から元素マッピング像を生成する。
【0028】
[加工条件]
加工条件は、FIB加工の際に用いる条件をいう。加工条件には、例えば加工対象の有無、材料、スパッタリング効率、加工領域、ビーム電流、加工深さ、加工時間、FIB加工パターン、Dwell Time、FIB加工パターンや元素マッピングを表示する際の材料の表示色、試料ステージの座標等が含まれる。
【0029】
FIB加工パターンとは、イオンビーム105によって加工する領域を示す図である。当該パターンは、GUI上に表示される。FIB加工パターンと加工条件は互いに紐付けられている。従って、例えば加工領域が変更されると、FIB加工パターンも連動して変更される。
【0030】
[加工動作]
次に、図1に示すFIB加工装置によるFIB加工動作について説明する。以下の説明では、試料101が材料や構造が特定されていない複合的な試料であり、当該試料101を材料選択的にFIB加工する場合を想定する。
【0031】
図2に、試料101を材料選択的にFIB加工する場合の動作原理を示す。ここで、材料選択的とは、複数の材料のうち一部の材料だけを加工することをいう。なお、加工開始時における試料101の形状は、直方体形状であるものとする。この試料101は、材料や構造が特定されていない第一材料201で表面が覆われており、その内部に材料や構造が特定されていない第二材料202が含まれているものとする。図では、外部から隠れている第二材料202の存在を点線により示している。勿論、この構造は、FIB加工の開始段階では未知である。
【0032】
なお、試料101の1つの面は、イオンビーム105の照射軸と垂直になるように試料位置制御装置103により位置決めされているものとする。すなわち、イオンビーム105で照射される試料表面と、イオンビーム105の偏向走査面とは互いに平行に配置されている。
【0033】
この状態において、FIB加工が開始される。まず、FIB加工装置(具体的には、中央処理装置112。以下同じ。)は、イオンビーム105を照射する試料表面の全体をFIB加工パターン203に設定する。試料表面を構成する元素の分布が不明であるためである。従って、FIB加工の開始時、イオンビーム105は照射面の全体を偏向走査する。なお、事前に取得した二次電子像により試料表面の一部の領域が加工領域に設定されている場合には、当該加工領域の全体がFIB加工パターン203に設定され、当該領域の全体がイオンビーム105によって偏向走査される。
【0034】
FIB加工装置は、このとき弾き出された二次イオンを元素検出器110で検出し、中央処理装置112において元素を分析し、元素マッピング像を作成する。すなわち、中央処理装置112は、試料101の表面を構成する材料の元素を同定し、偏向走査回毎(フレーム毎)の元素マッピング像を作成する。
【0035】
図2の場合、加工開始時点では、第一材料201だけが試料表面に露出している。従って、試料105の表面にある第一材料201が一様に加工される。この第一材料201の加工は、異種材料が試料表面に現われるまで継続される。なお、元素マッピング像が作成されると、FIB加工装置は、当該元素マッピング像に基づいて次回のFIB加工パターン203に設定する。この場合、試料表面に第一材料201が一様に分布しているので、試料表面の全体がFIB加工パターン203に設定される。
【0036】
次に、異種材料が試料表面に現れた場合の動作を説明する。この場合、FIB加工装置は、FIBの偏向走査回毎に作成される元素マッピング像により、第一材料201とは異なる第二材料202の出現とその出現位置を検出する。このとき、FIB加工装置は、第二材料202を加工領域から外すようにFIB加工パターン203を作成する。すなわち、第一材料201だけを選択的に加工するようにFIB加工パターン203を作成する。図2のFIB加工パターン203の場合、白抜きの領域が第二材料202に対応し、その外側の網掛け領域が第一材料201に対応する。
【0037】
このように、FIB加工パターン203は、元素マッピング像の更新に連動し、自動的に更新される。従って、第二材料202の形状や位置が深さによって異なる場合にも、FIB加工装置は、その変化に自動的に対応できる。すなわち、第二材料202だけを加工領域から除外するようにFIB加工パターン203を自動的に作成することができる。この加工領域の自動設定動作は、FIB加工が終了するまで継続的に実行される。図2の場合、円錐台形状の第二材料202が削り残された状態で加工が終了する。このように、形態例に係るFIB加工装置は、試料101の材料や構造が未知の場合にも、自動的に第一材料201だけを選択的に加工することができる。
【0038】
なお、前述の説明では、試料101が第一材料201と第二材料202だけで構成される場合を示したが、第三の材料やそれ以上の種類の材料が試料101に含まれていても良い。この場合も、第一材料201だけを加工対象に選択することができる。
【0039】
また、前述の説明では、第二材料202が一塊として存在しているが、第二材料202が試料表面に複数点在していても良い。また、図2の場合には、第一材料201が試料101の外側を構成し、第二試料202が試料101の内側に存在しているが、その位置関係は反対でも良い。なお、材料の位置関係が反対の場合、FIB加工装置は、外側に位置する第二材料202だけを選択的に加工する。
【0040】
[処理動作の内容]
図3に、材料や構造が特定されていない複合的な試料101を材料選択的にFIB加工する場合における中央処理装置112の処理動作例を示す。なお、以下の説明では、元素検出器110が四重極型のイオン検出器であるものとする。
【0041】
まず、作業者は、材料選択的に試料101をFIB加工したいことを、FIB加工装置(具体的には中央処理装置112)に入力する(ステップ301)。例えば操作者は、加工モードの選択画面において、材料選択加工モードを選択する。
【0042】
この後、作業者は、試料ステージ102を制御し、試料101をイオンビーム105の照射範囲まで移動させる(ステップ302)。この際、作業者は、不図示の周辺装置を通じ、中央処理装置112に試料ステージ102の位置と向きの調整を指示する。一方、中央処理装置112は、指示内容に応じて制御データを生成して試料位置制御装置103に送信し、試料ステージ102を位置決めする。
【0043】
次に、作業者は、イオンビーム105を試料101に照射させ、その照射位置から放出される二次電子を画像化した二次電子像をGUI上で観察する(ステップ303)。このとき、中央処理装置112は二次電子検出器108で検出された二次電子の信号強度を照射座標にマッピングすることにより二次電子像を作成し、作成された二次電子像を画面表示する。
【0044】
次に、作業者は、試料101の二次電子像を観察して目標位置を定め、加工領域を示すFIB加工パターン203を作成して目標位置に重ね合わせる(ステップ304)。ここでのFIB加工パターン203は、図2で説明したように、加工領域の最大範囲を与える。
【0045】
続いて、作業者は、試料101の加工を停止する条件を設定する(ステップ305)。ここで、試料の加工を停止する条件とは、例えば加工時間や加工の深さのことであり、加工条件の設定項目の一つである。この形態例の場合、作業者は、加工深さを選択する。
【0046】
この後、作業者は、FIB加工の開始をFIB加工装置に指示する(ステップ306)。この操作の後、FIB加工装置は、不図示の記憶領域に格納されている加工条件(加工モード、停止条件等)に基づいてイオンビーム105による試料101の加工を開始する。
【0047】
加工を開始したFIB加工装置は、FIB加工しながら試料表面の元素を検出し、元素分析を実行する(ステップ307)。イオンビーム105が照射された座標点の元素分析結果である元素分布図は、イオンビーム105の照射位置の移動に伴い変更される。
【0048】
次に、FIB加工装置は、加工領域を1フレーム分加工すると(すなわち、1つのFIB加工パターン203で設定された領域を加工すると)、元素分布図を各座標点に対応付けて元素マッピング像を作成し、表示装置113に表示する(ステップ308)。なお、作成された元素マッピング像は、次のステップ309の処理でも使用される。
【0049】
FIB加工装置は、元素マッピング像より元素(この形態例の場合、第一材料201)の試料面における分布を特定し、当該元素の分布に基づいてFIB加工パターン203を自動更新する(ステップ309)。このように、元素マッピング像から作成された第一材料201に対するFIB加工パターン203を、この明細書では、第一のFIB加工パターンという。また、第一のFIB加工パターンに紐付けられた加工条件を、第一の加工条件という。
【0050】
このように加工対象とする元素が定まると、その加工領域とスパッタリング効率が自動的に確定する。この後、FIB加工装置は、「Dwell Time」と、ステップ305で指定された「加工深さ」とに基づいて、第一材料201をFIB加工するのに必要な時間(加工時間)を算出する。
【0051】
次に、FIB加工装置は、FIB加工パターンが複数ある場合に対応するため、総加工時間を更新する(ステップ310)。もっとも、この形態例の場合は、加工する材料が第一材料201だけのため、第一材料201の加工時間と総加工時間は一致する。
【0052】
次に、FIB加工装置は、第一の加工条件に基づいて第一材料201のFIB加工を開始し(ステップ311)、元素分析を実行し(ステップ312)、元素マッピング像を作成して表示する(ステップ313)。
【0053】
次に、FIB加工装置は、元素マッピング像に第一材料201のみが含まれているか否か判定する(ステップ314)。
【0054】
ここで、否定結果が得られた場合(この形態例の場合、第二材料202が含まれる場合)、FIB加工装置は、二次電子像のうち第二材料202が存在する領域部分を示す第二のFIB加工パターンを新たに作成する(ステップ315)。この際、第二のFIB加工パターンに紐付けされた第二の加工条件が、第一の加工条件の場合と同様に自動的に設定される。ただし、この形態例の場合、第二材料202は加工対象とはならないため、作成された第二の加工条件は使用されない。
【0055】
この後、FIB加工装置はステップ309に戻り、第一のFIB加工パターンを更新する。具体的には、FIB加工装置は、第一のFIB加工パターン203から第二材料202の領域分を除外することで、第一のFIB加工パターン203を更新する(ステップ309)。この後、FIB加工装置は、改めて総加工時間を算出する。
【0056】
ステップ314で肯定結果が得られた場合、FIB加工装置は、ステップ310で求めた総加工時間が経過したか否かを判定する(ステップ316)。否定結果が得られている間、FIB加工装置は、ステップ311に戻りFIB加工を継続する。そして、ステップ316で肯定結果が得られると、FIB加工装置はFIB加工を停止する。
【0057】
[処理動作の変形例]
図3の場合、加工対象としての第一材料201の決定はステップ309で行っているが、ステップ303で試料101の目標位置を探している段階で実行しても良い。すなわち、二次電子検出器108による二次電子像の作成と並行して、元素検出器110による元素分析と元素マッピング像の作成処理を実行し、その分析結果に基づいて、加工対象としての第一材料201を決定しても良い。このように、1回のイオンビーム105の照射によって二次電子像と元素マッピング像を同時に作成すれば、作業効率を向上することができる。
【0058】
図3のステップ304の場合、二次電子像を用いてFIB加工パターン203を作成しているが、二次電子像に限定されるものではなく、元素マッピング像等を使用しても良い。ただし、イオンビーム105の走査で得られた試料101の像であることが重要である。このように取得された像は、FIB加工で使用するイオンビーム105と同一の偏向走査情報を有している。従って、この種の像を用いれば、FIB加工パターン203に指定する領域と実際の加工位置の間に誤差が生じずに済む。
【0059】
また、ステップ308では、1フレームの加工中に検出された各座標点に対応する元素分布図に基づいて元素マッピング像を作成したが、2フレーム以上の加工中に作成された複数枚の元素マッピング像を平均化した平均元素マッピング画像を使用しても良い。平均元素マッピング画像を用いれば、元素マッピング像の信頼性を高めることができる。
【0060】
また、ステップ308において作成された元素マッピング像に、2つ以上の材料が存在する場合が考えられる。この場合、FIB加工装置は、加工対象とする材料の選択入力を作業者に促し、作業者は、GUIを通じて加工対象を選択する。もっとも、材料の選択は、必ずしも作業者の選択操作によらなくても実行できる。例えば加工材料選択条件を予め設定しておけば、FIB加工装置は、加工対象を自動的に認識することができる。加工材料選択条件とは、例えば選択範囲内で面積が大きい材料やある材料の原子数より大きい材料等である。
【0061】
なお、先の説明の場合、ステップ315で作成された第二のFIB加工パターン203は加工対象から除外されていたが、第二材料202が加工材料選択条件の範囲内であれば、自動的に加工対象となる。
【0062】
また、図3の場合には、第一のFIB加工パターン203によるFIB加工の終了後に第二のFIB加工パターン203を作成する例を説明した。しかし、第一のFIB加工パターン203によるFIB加工の最中にリアルタイムに更新される元素マッピング像を観察している作業者が、作成途中の第二のFIB加工パターン203を加工対象に設定できるようにしても良い。また、イオンビーム105の走査中に、第二のFIB加工パターン203の作成の中止又は廃棄を指示できるようにしても良い。
【0063】
また、前述の説明では言及しなかったが、ステップ309〜ステップ316のFIB加工中に試料ステージ102の位置や向きを制御可能としても良い。例えば加工条件として傾斜角度が設定されている場合、FIB加工装置は、FIB加工中に試料101をイオンビーム105の照射軸に対して傾斜させることができる。この場合、傾斜角がゼロの場合にはイオンビーム105を照射できない領域にある加工対象材料に対してもイオンビーム105を照射してFIB加工することができる。
【0064】
[GUI]
以下、本形態例に係るFIB加工装置で使用するGUIの画面例を説明する。
【0065】
[加工条件設定用のGUI]
図4に、ステップ301とステップ310に関連するGUIの画面例を示す。図4の表示項目は、加工モード選択プルダウン401、加工材料選択条件設定プルダウン402、総加工時間403の3つである。
【0066】
加工モード選択プルダウン401には、選択可能な加工モードがプルダウン形式で表示される。加工モードには、材料を選択的に加工する材料選択加工モードの他、異種材料があっても均一な深さに加工する平坦加工モード等がある。
【0067】
加工材料選択条件設定プルダウン402は、加工モードの詳細条件を個別に設定したい場合に用いられる。詳細条件は、各材料をFIB加工する際に使用する各種の条件に対応する。後述するように、詳細条件の設定画面には、作業者に判断を仰ぐような指定項目が表示される。また、これらの指定項目は、指示入力だけでなく、現在の設定状態を確認するのにも使用できる。この指定項目の表示により、作業者は、設定範囲の間違いや設定忘れ等を減らすことができ、その分、加工の失敗を防ぐことができる。
【0068】
総加工時間403には、1つ又は複数のFIB加工パターン203に対応付けられている個々の加工時間を総合的に計算した結果が表示される。
【0069】
図5に、ステップ304、ステップ309及びステップ315に関連するGUIの画面例を示す。図5に示す加工条件設定画面501は、例えば加工材料選択条件設定プルダウン402の操作時に表示されるようにしても良い。
【0070】
加工条件設定画面501は、FIB加工パターン203に紐付けされた加工条件を設定するための画面である。加工条件設定画面501は、各材料について1つ用意される。
【0071】
加工条件設定画面501の表示項目は、管理ナンバー表示部502と、加工対象切替え表示部503と、加工領域表示部504と、材料設定表示部505と、停止条件設定表示部506と、Dwell Time設定表示部507と、ビーム条件設定表示部508と、加工時間表示部509である。
【0072】
加工対象切替え表示部503のチェックの有無は、対応する材料をFIB加工の対象とするか否かを表している。図5に示すようにチェックが入っている場合、対応する材料はFIB加工の対象である。
【0073】
加工領域表示部504は、各材料の加工領域を指定する場合に使用される。
材料設定表示部505は、加工条件を適用する材料の指定や確認、元素マッピング像等の表示時に材料別に表示色を設定する場合等に用いられる。なお、対応する材料のスパッタリング効率も表示される。
【0074】
停止条件設定表示部506は、FIB加工の停止条件の選択と具体的な数値の入力に使用される。
【0075】
Dwell Time設定表示部507とビーム条件設定表示部508は、作業者による数値の指定入力又は現在値の確認に使用される。加工時間表示部509は、設定された加工条件で材料を加工するのに要する時間が中央処理装置112で計算されて表示される。
【0076】
図5には表していないが、この他に、ステージ傾斜角度、後述する元素分布図の閾値等が表示項目に含まれていても良い。これらの表示項目により、作業者は、FIB加工パターン203毎の加工条件を管理することができる。なお、仮に材料の欄が未入力であったとしても、最初のフレームから材料(元素)が分析された後は、分析された材料名が自動的に入力される。このため、作業者は、試料101に対する知識を有していない場合にも、どのような材料が含まれていたかを確認することができる。
【0077】
なお、材料が複数になった場合に備え、図6に示す一覧表示形式の画面(加工条件設定一覧表示画面601)を用意することが望ましい。一覧表示形式の画面を用意することにより、材料間での各項目の比較が容易になり、試料の全体像を容易に確認することができる。
【0078】
[加工動作中のGUI]
図7に、FIB加工中に表示されるGUIの画面例を示す。図7に示すGUIには、二次電子像表示部701と、元素マッピング像表示部702と、元素分布表示部703とが表示されている。なお、二次電子像表示部701には、二次電子像と同じ縮尺で作成されたFIB加工パターン203が重畳的に表示される。
【0079】
これらの表示部により、作業者は、FIB加工の進行に伴って変化する試料表面の材料とFIB加工パターン203の変化をリアルタイムで確認することができる。また、元素マッピング像表示部702には、主元素しか表示しないものとする。この形態例の場合、主元素とは、元素分布表示部703で所定の閾値より大きい強度が得られた元素をいう。前述のように、元素マッピング像表示部702には、主元素しか表示されないが、元素分布表示部703の表示内容により詳細な元素分布を把握することができる。
【0080】
図8に、FIB加工パターン203を作業者が調整する場合に使用して好適なGUIの画面例を示す。イオンビーム105は、そのスポット径が数十nm程度ある。このため、異種材料の境界部をFIB加工する際に二種類以上の材料に起因した元素が検出されてしまう。すなわち、加工領域の境界があいまいになり、削りすぎる可能性がある。そこで、加工領域の境界を調整できる仕組みの搭載が望ましい。ここでの調整方法には、FIB加工パターン203を調整する方法と、元素マッピング像の作成に使用する閾値を調整する方法がある。
【0081】
前者の方法には、例えば加工材料選択条件設定402に、FIB加工パターンのうち非加工部分との境界として検出されたエッジ位置を加工領域に対して何μm広げるか(可工領域を狭めるか)を設定可能にする方法がある。この他、FIB加工パターン203の境界部801をマウスカーソル802でドラックし、作業者自身が境界位置を直接調整する方法もある。
【0082】
後者の方法には、元素分析表示部703の閾値803の高さ(大きさ)を調整する方法がある。閾値803を下回った元素は加工対象から外され、閾値803を上回った元素が加工対象に設定される。作業者が閾値803の高さ(大きさ)を調整することにより、元素マッピング図表示部702の境界を与えるエッジの形状が変化し、その結果がFIB加工パターン203の形状にも反映される。
【0083】
いずれの方法を用いる場合にも当該調整機能を搭載することにより、FIB加工パターン203に作業者の意思をより反映させた加工が可能となる。
【0084】
図9は、FIB加工パターン203の時間変化を三次元的に表した3次元表示図901である。3次元表示図901は、FIB加工パターン203の時系列合成図に相当する。
【0085】
なお、図9では、FIB加工中に作成されたFIB加工パターン203を全て合成した結果のみを表しているが、各フレームに対応するFIB加工パターン203を順番に重ねることにより、輪切り状の3次元表示としても良い。このような表示とすることで、視覚的にも認識のし易い表示を実現することができる。因みに、各フレームの非加工領域だけを合成した3次元画像を表示しても良い。
【0086】
なお、前述の説明においては、FIB加工パターン203の作成に元素マッピング像を用いているが、必ずしもその必要はない。例えば二次電子像と元素分析結果よりFIB加工パターン203を作成しても良い。このように、元素マッピング像の作成を省略すれば、FIB加工パターン203の作成に要する時間を短縮することができる。また、中央処理装置112の処理負荷も低減することができる。
【0087】
[まとめ]
以上説明したように、本形態例に係るFIB加工装置を用いれば、材料や構造が未知の試料101をFIB加工する場合にも、イオンビーム105の走査回毎のFIB加工パターン203を自動的に作成することができる。これにより、作業者の熟練度や個人差が影響しない材料選択的なFIB加工を実現できる。
【0088】
また、FIB加工中にも、元素分布図、元素マッピング図、FIB加工パターン203等をリアルタイムで表示できるようにしたことにより、全自動化されたFIB加工パターン203の生成動作を監視することができる。
【0089】
また、FIB加工中又は加工終了後に、時系列に生成されたFIB加工パターン203を3次元的に合成できる機能を設けたことにより、FIB加工の手順等を容易に確認することができる。
【0090】
また、FIB加工パターン203に対応する材料が不明な場合にも、FIB加工装置が自動的に元素を検出して設定できるため、作業者の負担を軽減することができる。
【0091】
[形態例2]
本形態例は、材料や構造が特定されていない複合的な試料101を平坦にFIB加工する場合を説明する。なお、本形態例に係るFIB加工装置の構成は、形態例1と同じである。このため、装置構成の説明は省略する。具体的な機能の違いは、加工モードの選択により生じる。
【0092】
[FIB加工動作]
図10に、材料や構造が特定されていない複合的な試料101を平坦にFIB加工する場合の動作原理を示す。この形態例の場合も、試料101の外観形状は形態例1と同じものを想定する。すなわち、試料101は直方体形状であり、その外表面は材料や構造が特定されていない第一材料201で覆われており、その内部に材料や構造が特定されていない第二材料202が含まれているものとする。図では、外部から隠れている第二材料202の存在を点線により示している。勿論、この構造は、FIB加工の開始段階では未知である。
【0093】
また、試料101の1つの面は、イオンビーム105の照射軸と垂直になるように試料位置制御装置103により位置決めされている。すなわち、イオンビーム105で照射される試料表面と、イオンビーム105の偏向走査面とは互いに平行に配置されている。
【0094】
この状態において、FIB加工が開始される。まず、FIB加工装置(具体的には、中央処理装置112。以下同じ。)は、イオンビーム105を照射する試料表面の全体をFIB加工パターン203に設定する。
【0095】
FIB加工装置は、このとき弾き出された二次イオンを元素検出器110で検出し、中央処理装置112において元素を分析し、元素マッピング像を作成する。すなわち、中央処理装置112は、試料101の表面を構成する材料の元素を同定し、偏向走査回毎(加工深さ毎)の元素マッピング像を作成する。
【0096】
図10の場合、加工開始時点では、第一材料201だけが試料表面に露出している。従って、試料105の表面にある第一材料201が一様に加工される。この第一材料201の加工は、異種材料が試料表面に現われるまで継続される。なお、元素マッピング像が作成されると、FIB加工装置は、当該元素マッピング像に基づいて次回のFIB加工パターン203に設定する。この場合、試料表面に第一材料201が一様に分布しているので、試料表面の全体がFIB加工パターン203に設定される。
【0097】
次に、異種材料が試料表面に現れた場合の動作を説明する。この場合、FIB加工装置は、FIBの偏向走査回(フレーム)毎に作成される元素マッピング像により、第一材料201とは異なる第二材料202の出現と出現位置を検出する。このとき、FIB加工装置は、第一材料201のFIB加工パターン203とは別に、第二材料202のFIB加工パターン1001を新たに作成する。
【0098】
ここで、FIB加工装置は、FIB加工パターン203とFIB加工パターン1001の各Dwell Timeを、第一材料201と第二材料のスパッタリング効率比を相殺するように決定する。例えば第二材料202のスパッタリング効率が第一材料201のそれより低い場合、2つの加工パターンを同じDwell TimeでFIB加工すると、第二材料202のFIB加工が第一材料201のそれよりも遅くなる。そこで、この形態例に係るFIB加工装置は、FIB加工が遅れる分だけ第二材料202に対するDwell Timeを長くし、イオンビーム105を1回走査する際の加工量が、2つのパターン間で均等になるように調整する。
【0099】
以後、FIB加工装置は、Dwell Timeが異なる値に設定された2つのFIB加工パターン203及び1001を用い、試料101をFIB加工する。形態例1で説明したように、FIB加工パターン203及び1001の形状は、元素マッピング像の更新に伴って更新される。このため、試料101の深さ位置により元素の分布が変化する場合にも、FIB加工装置は、その変化に応じてFIB加工パターン203及び1001を適応的に変更できる。
【0100】
以上説明したよう、本形態例に係るFIB加工装置の場合には、その加工終了時点において、第一材料201と第二材料202が混在的に出現する試料表面を平坦にFIB加工することができる。
【0101】
なお、図10の場合も、試料101が第一材料201と第二材料202だけで構成される場合を示したが、第三の材料やそれ以上の種類の材料が試料101に含まれていても良い。
【0102】
また、前述の説明では、第二材料202が一塊として存在しているが、第二材料202が試料表面に複数点存在していても良い。また、図10の場合には、第一材料201が試料101の外側を構成し、第二試料202が試料101の内側に存在しているが、その位置関係は反対でも良い。
【0103】
[処理動作の内容]
図11に、材料や構造が特定されていない複合的な試料101の表面が平坦になるようにFIB加工する場合における中央処理装置112の処理動作例を示す。この形態例の場合も、元素検出器110は四重極型のイオン検出器であるものとする。
【0104】
まず、作業者は、材料選択的に試料101をFIB加工したいことを、FIB加工装置(具体的には中央処理装置112)に入力する(ステップ1101)。例えば操作者は、加工モードの選択画面において、平坦加工モードを選択する。
【0105】
以後、ステップ302〜ステップ314までは、形態例1の場合と同様の処理が実行される。このため、当該ステップに対応する処理動作の説明は省略する。
【0106】
この形態例に特有の動作は、ステップ314で否定結果が得られた場合、すなわち試料表面に第一材料201以外の材料(図10の場合、第二材料202)が含まれていた場合に実行される。この場合、FIB加工装置は、二次電子像のうち第二材料202が存在する領域部分を示す第二のFIB加工パターンを新たに作成する(ステップ1102)。本形態例は試料表面の平坦加工を目的とするため、第二材料202は自動的に加工対象に設定される。
【0107】
また、第二のFIB加工パターン1001に紐付けされた第二の加工条件が、第一のFIB加工パターン203に紐付けされた第一の加工条件の加工深さを引き継ぐ場合、FIB加工装置は、元素分析により同定された第二材料202のスパッタリング効率と第一材料201のスパッタリング効率の比を考慮し、第二の加工条件のDwell Timeに反映させる(ステップ1102)。
【0108】
この後、FIB加工装置はステップ309に戻り、第一のFIB加工パターン203を更新する。具体的には、FIB加工装置は、第一のFIB加工パターン203から第二材料202の領域分を除外することで、第一のFIB加工パターン203を更新する(ステップ309)。この後、FIB加工装置は、改めて総加工時間を算出する。
【0109】
FIB加工装置は、ステップ310で求めた総加工時間の経過を確認すると(ステップ316で肯定結果が得られると)、FIB加工を停止する。
【0110】
[処理動作の変形例]
形態例1と共通するステップに対する変形例は、図11に示す処理動作にも適用することができる。なお、前述した第二のFIB加工パターン1001に基づく第二材料202のFIB加工の開始は、第一のFIB加工パターン203に基づく第一材料202のFIB加工中でも良い。すなわち、イオンビーム105の1フレーム分の偏向走査中に、2つのパターンを切り替え、第一材料201と第二材料202を同時並行的にFIB加工しても良い。
【0111】
また、第一材料201だけを対象とする1フレーム分のFIB加工が終了した後に、当該第一材料201に対する次のFIB加工が開始されるまでの間に、第二材料202だけを対象とする1フレーム分のFIB加工を実行しても良い。すなわち、1フレーム毎に第一材料201に対するFIB加工と第二材料202に対するFIB加工を交互に実行しても良い。
【0112】
また、第一材料201に対するFIB加工が所定の深さまで終了した後に、第二材料202に対するFIB加工だけを所定の深さまで実行しても良い。このようなFIB加工は、試料101の深さ方向に対する第一材料201の分布と第二材料202の分布が同じ場合に使用できる。
【0113】
[GUI]
この形態例の場合にも、前述した図4〜図9に示すGUIの表示画面を用いることができる。
【0114】
[まとめ]
以上説明したように、本形態例に係るFIB加工装置を用いれば、材料や構造が未知の試料101をFIB加工する場合にも、イオンビーム105の走査回毎のFIB加工パターン203を自動的に作成することができ、作業者の熟練度や個人差が影響しない平坦加工を実現できる。
【0115】
[形態例3]
本形態例では、作業者の操作負担が形態例1及び2に比して少ないFIB加工装置について説明する。ここでは、材料だけが特定されていない複合的な試料101を、少ない作業量で、選択的加工又は平坦加工できるFIB加工装置について説明する。なお、本形態例に係るFIB加工装置の構成は、形態例1と同じである。このため、装置構成の説明は省略する。
【0116】
[処理動作の内容]
図12に、材料が特定されていない複合的な試料101をFIB加工する場合における中央処理装置112の処理動作例を示す。この形態例の場合も、元素検出器110は四重極型のイオン検出器であるものとする。
【0117】
この形態例に係るFIB加工装置が形態例1及び2に係る装置と異なる点は、作業者が、FIB加工装置に与える加工条件が加工深さだけである点である。
【0118】
まず、作業者は、試料ステージ102の位置と向きを調整し、試料101をイオンビーム105の照射範囲まで移動させる(ステップ1201)。
【0119】
次に、作業者は、イオンビーム105を試料101に照射させ、その照射位置から放出される二次電子を画像化した二次電子像をGUI上で観察する(ステップ1202)。
【0120】
次に、作業者は、試料101の二次電子像を観察して目標位置を定め、その加工領域を示すFIB加工パターン203を作成して目標位置に重ね合わせる(ステップ1203)。ここでのFIB加工パターン203は、前述したように、加工領域の最大範囲を与える。
【0121】
次に、作業者は、不図示の入力装置を通じ、加工停止条件としての「加工深さ」をFIB加工装置に指示する(ステップ1204)。この設定後、作業者は、FIB加工装置に対し、FIB加工の開始を指示する(ステップ1205)。
【0122】
加工を開始したFIB加工装置は、FIB加工しながら試料表面の元素を検出し、元素分析を実行し、分析結果を表示装置113に表示する(ステップ1206)。
【0123】
次に、FIB加工装置は、ビーム電流、Dwell Time、加工深さ、不図示の記憶領域に事前に登録された分析された材料に対応するスパッタリング効率に基づいて、FIB加工時間を算出する(ステップ1207)。このとき、FIB加工装置は、算出されたFIB加工時間をGUI上に表示し、作業者にフィードバックする。
【0124】
最後に、FIB加工装置は、算出した加工時間になるまでFIB加工を継続し(ステップ1208)、設定された加工時間が経過によりFIB加工を終了する。
【0125】
[まとめ]
本形態例に係るFIB加工装置の場合、作業者は、形態例1及び2のように細かい設定を行う必要がない。このため、プログラムの簡素化を実現できる。また、本形態例の場合、元素マッピング像を作成する必要が無い。従って、前述した2つの形態例に比して、全体の加工時間が短くなるメリットがある。
【0126】
[形態例4]
図13に、形態例に係る荷電粒子線装置の他の構成例を示す。図13には、図1との対応部分に同一符号を付して示している。図13に示す荷電粒子線装置は、図1に示すFIB加工装置の構成に、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)装置を追加した複合型の装置構成を有している。
【0127】
SEM装置には、電子を発生する電子源1301と、試料101に電子線1302を照射する電子線光学システム装置1303と、当該装置を制御する電子線光学システム制御装置1304が対応する。なお、電子線光学システム制御装置1304に対する制御データは、中央処理装置112の演算により生成される。
【0128】
この形態例が前述した形態例と異なる点は、元素の分析にSEM装置を使用する点と、電子線1302の照射時に試料101が発生するX線を検出するエネルギー分散形X線分析装置を元素検出器110として使用する点である。
【0129】
このようにSEM装置を用いて元素を分析することにより、元素分析の最中に試料101の加工が進まないという利点がある。また、電子線1302は、イオンビーム105に比してビーム径を小さくできるため、異なる材料の境界部分を正確に検出できるという利点がある。
【0130】
なお、本形態例に係る複合型の荷電粒子線装置を用いて、材料や構造が特定されていない複合的な試料101の材料を選択的に加工する手順又は平坦に加工する処理手順は、図3や図11に示す処理手順とほとんど同様で良い。
【0131】
違いは、ステップ307とステップ312の前に、イオンビーム105で得られる二次電子像と電子線1302で得られる二次電子像を一致させるように荷電粒子線装置を制御する工程と、ステップ308とステップ313の後に、試料ステージ102の位置を元に戻すように制御する工程が必要になる点である。
【0132】
例えば前者の工程は、イオンビーム105が試料101に垂直に照射可能な試料ステージ102の位置から電子線1302が試料101に垂直に照射可能な試料ステージ102の位置に切り替える制御工程をいう。
【0133】
また、材料が特定されていない単一元素の試料101を、深さ指定してFIB加工する場合の処理手順は、図12に示す処理手順と同様の手法を適用できる。
【0134】
[他の形態例]
なお、本発明は上述した形態例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【0135】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0136】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0137】
101…試料
102…試料ステージ
103…試料位置制御装置
104…イオン源
105…イオンビーム
106…イオンビーム光学システム装置
107…イオンビーム光学システム制御装置
108…二次電子検出器
109…二次電子検出器制御装置
110…元素検出器
111…元素検出器制御装置
112…中央処理装置
113…表示装置
114…真空容器
201…第一材料
202…第二材料
203…FIB加工パターン
401…加工モード選択プルダウン
402…加工材料選択条件設定プルダウン
403…総加工時間
501…加工条件設定画面
502…管理ナンバー表示部
503…加工対象切替え表示部
504…加工領域表示部
505…材料設定表示部
506…停止条件設定表示部
507…Dwell Time設定表示部
508…ビーム条件設定表示部
509…加工時間表示部
601…加工条件設定一覧表示画面
701…二次電子像表示部
702…元素マッピング像表示部
703…元素分布表示部
801…境界部
802…マウスカーソル
803…閾値
901…3次元表示図
1001…第二FIB加工パターン図
1301…電子源
1302…電子線
1303…電子線光学システム装置
1304…電子線光学システム制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置と、
前記イオンビーム光学システム装置を制御する第1の制御装置と、
前記イオンビームの照射により試料から発生する信号に基づいて、照射位置の元素を検出する元素検出器と、
前記元素検出器を制御する第2の制御装置と、
前記試料を保持する試料保持機構と、
真空容器と、
前記元素検出器で検出された元素の情報に基づいて、前記試料の加工条件を自動設定する中央処理装置と
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置と、
前記イオンビーム光学システム装置を制御する第1の制御装置と、
前記イオンビームの照射により試料から発生する信号に基づいて、照射位置の元素を検出する元素検出器と、
前記元素検出器を制御する第2の制御装置と、
前記試料を保持する試料保持機構と、
真空容器と、
前記元素検出器で検出された元素の情報に基づいて、前記試料の加工パターンを自動設定する中央処理装置と
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置と、
前記イオンビーム光学システム装置を制御する第1の制御装置と、
電子源で発生された電子線を前記試料に照射する電子線光学システム装置と、
前記電子線光学システム装置を制御する第2の制御装置と、
前記電子線の照射により試料から発生する信号に基づいて、照射位置の元素を検出する元素検出器と、
元素検出器と、
前記元素検出器を制御する第3の制御装置と、
前記試料を保持する試料保持機構と、
真空容器と、
前記元素検出器で特定された元素に基づいて、前記試料の加工条件を自動設定する中央処理装置と
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置と、
前記イオンビーム光学システム装置を制御する第1の制御装置と、
電子源で発生された電子線を前記試料に照射する電子線光学システム装置と、
前記電子線光学システム装置を制御する第2の制御装置と、
前記電子線の照射により試料から発生する信号に基づいて、照射位置の元素を検出する元素検出器と、
元素検出器と、
前記元素検出器を制御する第3の制御装置と、
前記試料を保持する試料保持機構と、
真空容器と、
前記元素検出器で検出された元素の情報に基づいて、前記試料の加工パターンを自動設定する中央処理装置と
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の荷電粒子線装置において、
加工モードの選択が可能である
ことを特徴とする荷電粒子線装置
【請求項6】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
加工材料選択条件を設定でき、加工モードに応じた詳細な加工条件の設定が可能である
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の荷電粒子線装置において、
前記加工条件は、Dwell Timeである
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1又は3に記載の荷電粒子線装置において、
前記加工条件のうち材料の項目が未入力の場合、当該項目に元素検出の結果を自動的に反映する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1又は3に記載の荷電粒子線装置において、
前記加工条件は、加工時間である
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項1又は3に記載の荷電粒子線装置において、
複数の材料に対応する加工条件を、同一画面上に、一覧形式で表示する機能を有する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項2又は4に記載の荷電粒子線装置において、
各照射位置の元素分布を表す図の閾値の調整に伴い、前記加工パターンが変更される
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項2又は4に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料の加工パターンのうち異種材料同士のエッジに対応する部分の形状を、事前に設定されたパラメータに応じ変更する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置と、前記イオンビーム光学システム装置を制御する第1の制御装置と、元素検出器と、前記元素検出器を制御する第2の制御装置と、前記試料を保持する試料保持機構と、真空容器と、中央処理装置とを有する荷電粒子線装置による試料作成方法において、
前記中央処理装置は、前記元素検出器で検出された元素の情報に基づいて前記試料の加工条件を自動設定し、自動設定された加工条件に基づいて前記試料を加工する
ことを特徴とする試料作製方法。
【請求項14】
イオン源で発生されたイオンビームを試料に照射するイオンビーム光学システム装置と、前記イオンビーム光学システム装置を制御する第1の制御装置と、元素検出器と、前記元素検出器を制御する第2の制御装置と、前記試料を保持する試料保持機構と、真空容器と、中央処理装置とを有する荷電粒子線装置による試料作成方法において、
前記中央処理装置は、前記元素検出器で検出された元素の情報に基づいて前記試料の加工パターンを自動設定し、自動設定された加工パターンに基づいて前記試料を加工する
ことを特徴とする試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−252941(P2012−252941A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126235(P2011−126235)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】