説明

菊を含有する水性懸濁組成物

【課題】抗酸化力および癌抑制作用を有するポリフェノールの分解を顕著に抑制し、長期間安定に保存することができる水性懸濁組成物を提供すること。
【解決手段】湿式粉砕した菊を含有することを特徴とする水性懸濁組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式粉砕した菊を含有することを特徴とする水性懸濁組成物およびそれを含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
菊の花は、独特の芳香とすぐれた食味を有するため、古来より鑑賞用と食用の両方の目的で栽培されてきた。東北地方では菊の花が食卓を飾ることは一般的であるが、全国的には普及しておらず、季節を飾る一般食品にはいまだ至っていない。また、中国では古くから菊の花を乾燥してお茶とともに味わう習慣があった。
菊は、菊の花部だけでなく、葉部や茎部にもアデニン、コリンおよびアピゲニン等が配糖体の形で含まれており、これらの配糖体は関節炎やリウマチの痛みを除き、胃腸の働きを良くし、からだ全体の調子を整える作用があることが知られている。
近年菊の保存流通の改良などによって、冷凍乾燥した菊花が遠方に運べるようになって、関西でも菊が食卓に登るようになったが、それらの規模はきわめて小さい。
【0003】
菊を加工して飲食品に添加する発明としては、以下(1)および(2)の発明が知られている。
(1)生鮮菊の全草を破砕し、得られた菊破砕物にアルコール発酵用糖源と酵母を加えてアルコール発酵を生起させることを特徴とする菊ワインの製造法(特許文献1参照)。
(2)式I:
【化1】

[式中、R、R、R、RおよびRは、独立してHまたはOHであり、Rは、=CH、CHOHまたはCHOであり、3−4位および5−6位の炭素結合は一重結合あるいは二重結合である]で示されるオイデスマン型セスキテルペン化合物またはその塩を含有する野菊花の抽出物を食品に添加し、血液循環改善機能性食品または眼精疲労改善機能性食品として利用する発明(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−140657
【特許文献2】特開平11−246455
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、抗酸化力および癌抑制作用を有するポリフェノールの分解を顕著に抑制し、長期間安定に保存することができる水性懸濁組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、菊に抗酸化作用および癌抑制作用を有するポリフェノールが含まれていることを突き止め、菊を湿式粉砕して水性懸濁組成物とすることにより、水性懸濁組成物中におけるポリフェノールの分解を顕著に抑制し、長期間安定に保存することができることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)湿式粉砕した菊を含有することを特徴とする水性懸濁組成物、
(2)菊の湿式粉砕が、酸、アルカリまたは食塩の存在下に加熱した後に行われていることを特徴とする前記(1)に記載の水性懸濁組成物、
(3)菊の湿式粉砕が、ビタミン若しくはその塩またはグルコース環を有する化合物の存在下に行われていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の水性懸濁組成物、
(4)菊が、花、葉、茎および茎つけの新枝葉から選択される少なくとも1つの部位であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の水性懸濁組成物、
(5)グルコース環を有する化合物が、サイクロデキストリン、メチルセルロース、トリハロースまたはポリサッカライドであることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の水性懸濁組成物、
(6)加熱温度が、40〜100℃であることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載の水性懸濁組成物、
(7)酸が、酢酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸またはコハク酸であることを特徴とする前記(2)〜(6)のいずれかに記載の水性懸濁組成物、
(8)食品添加剤であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の水性懸濁組成物、
(9)さらに他の水性懸濁組成物を含有することを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の水性懸濁組成物。
(10)他の水性懸濁組成物が、青汁、わさびペーストまたはからしペーストであることを特徴とする前記(9)に記載の水性懸濁組成物、および
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の水性懸濁組成物を含有することを特徴とする食品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る水性懸濁組成物は、抗酸化力および癌抑制作用を有するポリフェノールの分解を顕著に抑制し、長期間安定に保存することができる。このため、本発明に係る水性懸濁組成物は、食品添加剤として有用であり、食品に添加することにより健康食品とすることができる。
【0008】
本発明に係る水性懸濁組成物は、人工着色する必要がなく、美しい天然色を呈する。すなわち、本発明の水性懸濁組成物は、水性懸濁組成物を製造するために用いる菊と同じ色調を有する。例えば、菊“もってのほか”は紫がかったピンク色であるため、この菊を用いて製造した水性懸濁組成物は、紫がかったピンク色である。また、菊“寿”は黄色であるため、この菊を用いて製造した水性懸濁組成物は、黄色である。
【0009】
本発明に係る水性懸濁組成物は、消臭効果を有するため、食品(特に焼酎)に添加することにより、食品の臭みを消すことができ、食品の嗜好性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る水性懸濁組成物は、水性懸濁組成物に含有される菊の濃度%(W/W)が約30〜50%の場合はペースト状態であるか、または約1〜30%の場合はスラリー状態であるのが好ましい。本発明に係る水性懸濁組成物のスラリー状態は、図1に示すように茶カテキンを含む青汁(仁丹製薬製)に似ている。
【0011】
本発明の水性懸濁組成物は、菊を湿式粉砕することにより製造することができる。
本発明に係る菊は特に限定されず、食用菊であることが好ましい。また、東北地方で用いられる菊であることが好ましい。好ましい菊としては、例えば、阿房宮、かしろ、おもいのほか、かきのもと、湯沢菊、蔵王菊、月山菊、岩風、平和の里、もってのほか、寿、緑の寿、延命楽、千歳、山形1〜4号、香4号、弁天、ムラサキ、白根菊、唐松、大面、八戸1〜3号、重四郎、葛巻、壬生早生、金唐松、紫唐松、青森青、上田黄、晩菊、中条、延命菊、三川または新モッテ、早生モッテ、紅モッテ若しくは早生モッテノホカ等のモッテ菊シリーズ等が挙げられる。これらのうち、もってのほかまたは寿が特に好ましい。
【0012】
本発明に係る菊として、菊の花、葉、茎および茎つけの新枝葉から選択される少なくとも1つの部位を用いることが好ましい。
本発明に係る製造工程に供する前の菊は、菊の未加工物であってもよいし、菊の処理物であってもよい。処理物としては、例えば、裁断物、乾燥物または粉砕物等が挙げられる。
本発明に原料として使用される菊は、湿式粉砕される前に前処理されてもよい。そのような前処理としては、加熱処理および冷却処理が挙げられる。
【0013】
加熱処理は、酸、アルカリまたは食塩の存在下で行われるのが好ましい。酸としては、例えば、酢酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸またはコハク酸等の有機酸や塩酸等の無機酸が挙げられる。これらのうち、特に酢酸またはリンゴ酸が好ましい。また、本発明に係る酸は、水溶液として用いることが好ましい。水溶液中の酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.05〜2%(W/W)が好ましく、約0.1〜1%(W/W)がさらに好ましく、約0.2%(W/W)が特に好ましい。
【0014】
アルカリとしては、例えば、重曹(炭酸水素ナトリウム)またはソーダ灰(炭酸ナトリウム)等が挙げられる。これらのうち、特に重曹水が好ましい。また、本発明に係るアルカリは、アルカリ性水溶液として用いることが好ましい。アルカリ性水溶液の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.05〜2%(W/W)が好ましく、約0.1〜1%(W/W)がさらに好ましく、約0.2%(W/W)が特に好ましい。
【0015】
本発明に係る食塩は、食塩水として用いることが好ましい。食塩水の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.05〜2%(W/W)が好ましく、約0.1〜1%(W/W)がさらに好ましく、約0.2%(W/W)が特に好ましい。
菊を上記水溶液とともに加熱するのが好ましい。
【0016】
菊の花を用いる場合には、その花弁だけを用いることが特に好ましい。菊の葉および茎を用いる場合には、葉:茎=約(6〜8):(2〜4)(W/W)の割合で用いること、特に約7:3が好ましい。菊の花を用いる場合には、酸の存在下で加熱することが好ましい。菊の葉および茎を用いる場合には、食塩の存在下で加熱することが好ましい。
【0017】
本発明に係る菊を加熱する手段としては、菊を加熱下に上記水溶液と接触させる手段であれば特に限定されず、公知の手段を用いることができるが、例えば、茹でること、湯通しすることまたは蒸すことにより加熱することが好ましい。また、加熱温度は、特に限定されないが、例えば、約40〜100℃が好ましく、約85〜100℃がさらに好ましく、約95〜100℃が特に好ましい。加熱時間は、特に限定されないが、例えば、約1〜10分であることが好ましく、約2〜4分であることがさらに好ましい。
【0018】
このようにして、加熱処理した菊を次いで冷却することが好ましい。該冷却は可及的短時間に急冷を行うのが好ましい。冷却は、冷却水または氷冷水を用いることが好ましい。その冷却水の温度は、例えば、約0〜10℃であることが好ましい。
【0019】
このようにして冷却された菊を脱水するのが好ましい。脱水を行うための公知の手段としては、例えば、遠心分離または手絞り等が挙げられる。
【0020】
このようにして前処理した菊は、湿式粉砕される。湿式粉砕は、通常は菊を水の存在下に粉砕することにより行われる。該湿式粉砕を行う場合における菊と水の混合割合は、特に限定されないが、菊1質量部に対して、水約0.1〜100質量部が好ましく、水約0.5〜70質量部がさらに好ましく、水約1〜30質量部が特に好ましい。水は、アルコール(例えば、エタノール等)を含有したアルコール水溶液であってもよく、該アルコールの濃度は、例えば、約20〜80%(V/V)であることが好ましく、約50%(V/V)であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明に係る湿式粉砕は、公知の手段を用いて行うことができる。該公知の手段としては、例えば、家庭用ジューサーまたはヘンシェルミキサー等の高剪断力のある混合粉砕機を用いる高速剪断回転手段、コロイダルミキサー等の回転砥石に液と塊を流し込み粉砕分散させる回転砥石手段またはボールミル等の硬い石を回転落とし込みによって粉砕分散させる回転叩解手段等が挙げられる。ここで、本発明に係る水性懸濁組成物をペースト状態として製造する場合には、回転砥石手段を用いて湿式粉砕することが好ましく、本発明に係る水性懸濁組成物をスラリー状態として製造する場合には、高速剪断回転手段または回転叩解手段を用いて湿式粉砕することが好ましい。
【0022】
さらに、湿式粉砕は、ビタミン若しくはその塩またはグルコース環を有する化合物の存在下で行われることが好ましい。すなわち、上記水またはアルコール水は、ビタミン若しくはその塩またはグルコース環を有する化合物を含有していてもよい。
【0023】
本発明に係るビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、パントテン酸、葉酸またはビオチン等が挙げられる。本発明に係るビタミンの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩またはアルミニウム塩等が挙げられる。また、本発明に係るビタミンまたはその塩は、ビタミンまたはその塩を溶かした水溶液として、水の代わりに菊の湿式粉砕に用いることが好ましい。ビタミンまたはその塩を溶かした水溶液の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.01〜0.5%(W/W)が好ましく、約0.05〜0.2%(W/W)がさらに好ましく、約0.1%(W/W)が特に好ましい。本発明に係る水性懸濁組成物に、例えば、ビタミンCまたはその塩等の添加剤を加えることにより、水性懸濁組成物を色あせにくくすることができる。
【0024】
本発明に係るグルコース環を有する化合物としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、サイクロデキストリン、メチルセルロース、トリハロースまたはポリサッカライド等が挙げられる。また、本発明に係るグルコース環を有する化合物は、グルコース環を有する化合物を溶かした水溶液として、水の代わりに菊の湿式粉砕に用いることが好ましい。グルコース環を有する化合物を溶かした水溶液の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.001〜0.2%(W/W)が好ましく、約0.005〜0.15%(W/W)がさらに好ましく、約0.1%(W/W)が特に好ましい。本発明に係る水性懸濁組成物にポリサッカライドを加えることにより、水性懸濁組成物をゲル化することができる。
【0025】
このようにして、本発明の水性懸濁組成物が工業的有利に製造できる。
上記湿式粉砕は、もちろんビタミン類、その塩類またはグルコース環を有する化合物の非存在下で行われてもよい。この場合には、製造された水性懸濁組成物にビタミン類、その塩類またはグルコース環を有する化合物もしくはそれらの水溶液を添加してもよい。添加物はこれらに限られることはない。
【0026】
さらなる添加物としては、例えば、甘味料、着色料、保存料、酸化防止剤、発色剤、防かび剤、膨張剤、調味料、苦味料、栄養強化剤または香料等が挙げられる。
【0027】
甘味料としては、例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出物、キシリトール、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビアまたはソルビトール等が挙げられる。着色料としては、例えば、アナトー色素、ウコン色素、カラメル色素、カロチン色素、クチナシ色素、コチニール色素、食用タール系色素、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、ベニコウジ色素、ベニバナ赤色素またはベニバナ黄色素等が挙げられる。
【0028】
保存料としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、しらこたん白抽出物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウムまたはポリリジン等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロールまたはブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0029】
防かび剤としては、例えば、イマザリル、オルトフェニルフェノール(OPP)、オルトフェニルフェノールナトリウムまたはチアベンダゾール(TBZ)等が挙げられる。膨張剤としては、例えば、グルコノデルタラクトン、硫酸アルミニウムカリウム等が挙げられる。
【0030】
調味料としては、例えば、アミノ酸、核酸、有機酸(例えば、イソシアン酸アリル、クエン酸カルシウム、クエン酸三ナトリウム若しくはグルコン酸カリウム等)または無機塩(例えば、塩化カリウム、リン酸三カリウム若しくはリン酸水素二カリウム等)等が挙げられる。苦味料としては、例えば、カフェイン(抽出物)、ナリンジンまたはニガヨモギ抽出物等が挙げられる。
【0031】
栄養強化剤としては、例えば、ミネラル類(例えば、亜鉛塩類、塩化カルシウム若しくは塩化第二鉄等)またはアミノ酸類(例えば、L−アスパラギン酸ナトリウム、DL−アラニン若しくはL−イソロイシン等)等が挙げられる。香料としては、例えば、合成香料(例えば、アセト酢酸エチル、アセトフェノン若しくはアニスアルデヒド等)または天然香料等が挙げられる。
【0032】
本発明の水性懸濁組成物は、上記の水性懸濁組成物に他の水性懸濁組成物を混合若しくは組み合わせによって他の水性懸濁組成物と併用してよい。他の水性懸濁組成物としては、例えば、青汁、わさびペーストまたはからしペースト等が挙げられる。本発明に係る水性懸濁組成物にわさびペーストまたはからしペーストを含有させることにより、水性懸濁組成物に殺菌力を付与することができる。
【0033】
本発明に係る水性懸濁組成物は、そのまま保存することができる。なお、本発明に係る水性懸濁組成物を長期保存する場合には、該水性懸濁組成物を好ましくは約70〜100℃、さらに好ましくは約85℃で加熱殺菌した後、室温、冷蔵または冷凍で保存することが好ましい。
【0034】
本発明の水性懸濁組成物は、長期間にわたりポリフェノールの分解を顕著に抑制し、長期間、例えば1ヶ年の保存後にポリフェノールは実質的に分解されていないことが確認された。このような優れた効果は、本発明の水性懸濁組成物の固形分を濾過分離した後、フォリン−デニス法(「食品機能研究法」310〜327頁参照;出版社、株式会社光琳;出版年月日、平成12年5月10日)により、ポリフェノールの定量試験を行うことで確認することができる。
【0035】
本発明に係る水性懸濁組成物は、そのまま食することができるのみならず、食品に添加して食することもできる。該食品としては、例えば、うどん、そば、パスタ、ラーメン、ゆば、とうふ、もち、あん、酢の物、吸い物、味噌汁、天ぷら、卵焼き、寿司、茶または焼酎等が挙げられる。本発明に係る水性懸濁組成物を食品に加えるときの水性懸濁組成物の含有量は、特に制限されることはないが、食品に対して、例えば、約1〜80%(W/W)であることが好ましく、約3〜15%(W/W)であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
菊“もってのほか”の花弁20.0grを採取し、98℃に加熱した0.2%(V/V)酢酸水溶液1Lに加えて2分程度茹でた。そして、茹でた菊花弁を酢酸水溶液から取り出し、これを20Lの冷水(0℃、以下同じ。)を入れた容器に加え急冷した。急冷した菊花弁を冷水から取り出し、手絞りによって脱水した。このようにして得られた菊“もってのほか”の花弁を、以下“もってだま”という。アスコルビン酸ナトリウムおよびサイクロデキストリンをそれぞれ0.05%(W/W)となるように200mlの水に溶解し、この水溶液に得られたもってだまを加え、家庭用のジューサーミキサーで粉砕分散させて、“もってのほか”の花弁のスラリー(以下、実施例1のスラリーと略称する。総重量250gr、固形分19.0gr、アスコルビン酸ナトリウム1.0gr、サイクロデキストリン1.0gr)を製造した。得られた“もってのほか”の花弁のスラリーは、花本来の色である紫かかったピンク色であり、1ヶ月後においても、その色は変色、腐食発酵しなかった。
【0037】
次に、実施例1のスラリーを遠心分離機で分離後ろ過し、試料1を得た。試料1を津志田藤二郎による比色定量法(フォリン−デニス法)で分析したところ表1に示す結果を得た。比較の為に、何ら処理を施していない“もってのほか”の花弁(参考例1)を用いた。この自然乾燥物は褐色に変色しており、ポリフェノール含有量は著しく減少していた。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例2]
冬場の菊“山形4号(電照4号)”の花、葉および茎を20grずつ採取し、各々について以下(i)〜(iii)の処理を行った。
(i)花について処理
クエン酸0.1grを入れた80℃の湯500mlに、花20grを2分間湯通しし、花弁だけを掬い上げ、その花弁を氷冷水(0℃、以下同じ。)500mlで氷冷した。そして、花弁を氷冷水から取り出し、手絞りして水25grを含む玉にした。
(ii)葉について処理
食塩0.3grを入れた95℃の熱湯500mlに、葉20grを入れて約5分間茹で、葉を熱湯から取り出し、多量の流水(0℃、以下同じ。)に落とし込み急冷した。急冷した葉を手絞りし、水25grを含むペースト状の葉球を作った。
(iii)茎について処理
食塩0.4grを入れた95℃の熱湯500mlに、茎20grを入れて約5分間茹で、茎を熱湯から取り出し、多量の流水(3℃)に落とし込み急冷した。そして、急冷した茎の茎筋を揃えて束にし、茎の全量が45grになるまで絞り込み、緑の茎束を作った。
次に、青森産乾燥ふのり5grを水100mlに入れ、60℃で10分間加熱した後、アスコルビン酸3grを溶かして粘性のある液体を得た。
上記(i)〜(iii)の処理により得られた花、葉および茎各々に、100%エタノール50grと上記で得られた粘性のある液体5grを加え、家庭用ミキサーを用いて2分程度撹拌し、花、葉および茎の20%スラリーをそれぞれ得た。得られた花、葉および茎の20%スラリーのポリフェノール含有量を比色定量法(フォリン−デニス法)で分析し、得られた結果を表2に示した。いずれのスラリーも菊本来の色と香りを有していた。また、何ら処理を施していない冬場の菊“山形4号(電照4号)”の花、葉および茎についても、比色定量法(フォリン−デニス法)によりポリフェノール含有量を分析し、得られた結果を表2に示した。
【表2】

【0040】
[実施例3]
菊“寿”の花弁100grを採取し、これを95℃に加熱した0.2%(V/V)酢酸水溶液2Lに加え、2分程度茹でた。そして、茹でた菊花弁を酢酸水溶液から取り出し、これを多量の冷水を入れた容器に加え急冷した。急冷した菊花弁を冷水から取り出し、手絞りによって脱水し、“寿”の花弁のペースト(水分約40%(W/W))を得た。このペーストの色調は、黄色であり、菊“寿”の花弁の色と同じであった。そして、水50grにサイクロデキストリン0.3grとアスコルビン酸ナトリウム0.5grを溶かした水溶液に、得られた“寿”の花弁のペースト10grを加え、家庭用のジューサーミキサーで攪拌混合粉砕して、“寿”の花弁のスラリー(実施例3のスラリー)を製造した。
次に、上記と同様の手段で実施例3のスラリーのポリフェノール含有量を測定したところ、カテキン換算で、128mg/100grであった。
【0041】
[実施例4]
63%(V/V)エチルアルコール水溶液60mlにサイクロデキストリン0.3grとアスコルビン酸2grを溶かしたものに、実施例3で得られた“寿”の花弁のペーストを加え、攪拌粉砕して、“寿”の花弁のアルコールスラリー(実施例4のスラリー)を製造した。実施例3および4のスラリーを、1ヶ月間室温で保存したが、色調に変化は見られなかった。
【0042】
[実施例5]
菊“寿”の花弁300grを採取し、これを、dlリンゴ酸1grを溶かして98℃に加熱した0.2%(V/V)酢酸水溶液6Lに加え、2分程度茹でた。そして、茹でた菊花弁を酢酸水溶液から取り出し、これを多量の冷水を入れた容器に加え急冷した。急冷した菊花弁を冷水から取り出し、手絞りによって脱水し、“寿”の花弁のペーストを得た。このペーストの色調も、菊“寿”の花弁の色と同じであった。そして、63%(V/V)エチルアルコール水溶液450mlに、サイクロデキストリン2.5grおよびビタミンC4.0grを溶かした溶液に、得られた“寿”の花弁のペーストを加え、家庭用のジューサーミキサーで攪拌混合粉砕して、“寿”の花弁のスラリー(実施例5のスラリー;750gr)を製造した。
【0043】
得られた“寿”の花弁のスラリー750gr、小麦粉10kgおよび食塩水2%(W/W)2.5Lを混錬して製麺し、麺を製造した。得られた麺は、薄い黄色であった。また、該麺を1年間保存しても色調および味に変化は見られなかった。この麺は、製麺時、乾燥麺時または茹で麺時のいずれの場合においても、色調に変化は無く、カテキン換算でのポリフェノール含有量についても大きな変化は見られなかった。
【0044】
[実施例6]
菊の青い葉だけを80gr採取し、これを食塩5grを溶かした水1Lに加え、2〜3分煮沸した。そして、煮沸した菊の葉を食塩水から取り出し、これを冷水の中に入れて急冷し、遠心分離機により水分を除いた。得られた固形分10grを、アスコルビン酸ナトリウムおよびサイクロデキストリンを0.03%(W/W)となるように含む純水40mlに加え、家庭用ジューサーミキサーにて約2分攪拌分散させて、緑色の菊葉青汁(実施例6のスラリー)を製造した。得られた緑色の菊葉青汁を1ヶ月間室温で保存したが、その色及びポリフェノールの含有量に変化は認められなかった。この緑色の菊葉青汁のポリフェノール量は、カテキン換算で344mg/100grであった。お茶カテキンの青汁(仁丹製薬製)に、この菊葉青汁を加えて、菊葉青汁含有割合を5%(V/V)として飲んだところ、菊の香りが加わりより飲みやすくなった。
【0045】
[実施例7]
菊の葉40grに重曹5grを混合し、プラスティック製の袋に入れてよく揉み、葉を柔らかくして塊にした。これを蒸し器に入れて、蒸気によって約5分間蒸し、緑色を増した柔らかい塊にした。そして、サイクロデキストリン0.2grとアスコルビン酸ナトリウム0.2grを溶かした水60grにこれを加え、家庭用のジューサーミキサーで攪拌分散させて、菊の葉の青汁(実施例7のスラリー)を製造した。この菊の葉の青汁のポリフェノール含有量は、カテキン換算で340mg/100grであった。
【0046】
[実施例8]
また、実施例7で得た菊の葉の塊を、アスコルビン酸ナトリウム0.15gr、サイクロデキストリン0.1grおよびカルボキシメチルセルロース(CMC)0.1grを溶かした63%(V/V)エチルアルコール40mlに加え、すり鉢にて粉砕混合し、菊の葉のペースト約75grを得た。この菊の葉のペーストに、イソシアン酸アリル2mlを加えよく混合し、わさび臭ペースト(実施例8)を製造した。
【0047】
得られたわさび臭ペーストを、約25grずつプラスティック容器に入れ、一つは完全密封し、一つは完全密封後針で穴を10個開け、一つは蓋を閉めずに放置した。1ヵ月後、開放蓋の容器中ではわさび臭ペーストは乾燥していたが、緑色を保ち、わさび臭も残存していた。針穴開きの容器は冷蔵庫内に放置し、わさび臭ペーストは体積の減少が観測されたが、わさび臭ペーストにわさび臭は残存していた。完全密封容器中ではわさび臭ペーストは何ら変化しなかった。
【0048】
[実施例9〜11および参考例2〜5]
菊の花の脇芽として出てきた新芽を、手で折れる範囲で摘み取った。この時、新芽の葉と茎の質量比は7:3であった。この摘み取った新芽を洗浄し、40grずつ5つに分けて、下記の実験#1、#1‘、#1“および#2〜#5を行った。その結果を表3に示す。
#1(参考例2):40grの新芽を冷凍乾燥し、家庭用ミキサーでパン粉を作る要領で粉砕した。この粉砕物のポリフェノール含有量を100として、各実験を行った。
#1‘(参考例3):#1の粉砕物の半分を1ヶ月間室温にて放置し、保存の良否を判定した。
#1“(参考例4):#1の粉砕物の半分に水20mlを加え、ペースト状にした後、容器に入れ1ヶ月保存した。
#2(参考例5):40grの新芽を常温で自然乾燥させ、家庭用ミキサーでパン粉を作る要領で粉砕した。乾燥時にはすでに葉も茎も褐色化していた。
#3(実施例9):40grの新芽を、アスコルビン酸ナトリウムとサイクロデキストリンを0.03%(W/W)となるように溶かした水40mlに加えた。これを家庭用のミキサーで粉砕し、ペースト状態とした後、容器に入れて1ヶ月間室温で保存した。
#4(実施例10):菊の青い葉の代わりに新芽を用いること以外は、緑色の菊葉青汁(実施例6)の製造方法と同様の方法で新芽のペーストを製造した。得られたペーストを容器に入れ1ヶ月間室温で保存した。
#5(実施例11):菊の葉の代わりに新芽を用いること以外は、菊の葉の青汁(実施例7)の製造方法と同様の方法で新芽のペーストを製造した。得られたペーストを容器に入れ1ヶ月間室温で保存した。
【0049】
【表3】

【0050】
上記◎、○、△、×、××および−は、以下の意味を有する。
◎ :優れている
○ :良好
△ :普通
× :やや劣る
××:劣る
− :測定せず
【0051】
結果として、菊の新芽を、アスコルビン酸ナトリウムおよびサイクロデキストリンの存在下で湿式粉砕した場合には、実験#1、#1‘、#1“および#2と比較して、高いポリフェノール含有量を維持できることがわかった。また、実施例6および7の前処理を行うことによって、新芽のペーストの味、香り、色調および保存状態を維持できることがわかった。
上記実施例において、grは、グラムを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る水性懸濁組成物は、抗酸化力および癌抑制作用を有するポリフェノールの分解を顕著に抑制し、長期間安定に保存することができる。このため、本発明に係る水性懸濁組成物は、食品添加剤として有用であり、食品に添加することにより健康食品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、上記実施例6で作成した緑色の菊の葉のスラリーを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式粉砕した菊を含有することを特徴とする水性懸濁組成物。
【請求項2】
菊の湿式粉砕が、酸、アルカリまたは食塩の存在下に加熱した後に行われていることを特徴とする請求項1に記載の水性懸濁組成物。
【請求項3】
菊の湿式粉砕が、ビタミン若しくはその塩またはグルコース環を有する化合物の存在下に行われていることを特徴とする請求項1または2に記載の水性懸濁組成物。
【請求項4】
菊が、花、葉、茎および茎つけの新枝葉から選択される少なくとも1つの部位であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁組成物。
【請求項5】
グルコース環を有する化合物が、サイクロデキストリン、メチルセルロース、トリハロースまたはポリサッカライドであることを特徴とする請求項3または4に記載の水性懸濁組成物。
【請求項6】
加熱温度が、40〜100℃であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の水性懸濁組成物。
【請求項7】
酸が、酢酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸またはコハク酸であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の水性懸濁組成物。
【請求項8】
食品添加剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水性懸濁組成物。
【請求項9】
さらに他の水性懸濁組成物を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水性懸濁組成物。
【請求項10】
他の水性懸濁組成物が、青汁、わさびペーストまたはからしペーストであることを特徴とする請求項9に記載の水性懸濁組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性懸濁組成物を含有することを特徴とする食品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−197345(P2007−197345A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16590(P2006−16590)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(504064157)株式会社ジェイエイあぐりんやまがた (2)
【Fターム(参考)】