説明

菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法

【課題】菌根菌のアカマツ幼苗への自然感染経路を利用して貧栄養培地にて菌根を形成させ、簡便な手法で短期間に感染苗を大量生産する方法を提供する。
【解決手段】本発明の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法は、(1)アカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えた可及的に栄養分を含まない貧栄養培地に、アカマツ種子を播種する工程と、(2)少なくとも該アカマツ種子から発芽した後に、該アカマツ幼苗の根元付近に菌根菌を接種する工程と、(3)該接種した菌根菌の菌糸が伸長してアカマツ幼苗の一次根及び二次根を覆う工程と、(4)該菌根菌が感染したアカマツ幼苗を移植して順化させる工程と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌した容器にアカマツの種子を無菌播種し、菌根菌のマツタケ、コウタケ、チチタケ等の菌根菌の種菌を接種、感染させて菌根菌感染のアカマツ幼苗を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、菌根菌に属するマツタケに関し、多くの研究者が人工栽培を手掛けているが、未だに成功例がない。この様な人工栽培を困難にさせる第一の理由は、マツタケ菌糸がアカマツの根に菌根を作りアカマツの光合成産物である糖類を菌根を通して直接利用するという特殊な栄養の取り方をしていること、第二はマツタケとアカマツとの共生関係の仕組みがまだ完全に解明できていないこと、第三はマツタケ菌の生育が極めて緩慢なことによる。
【0003】
ところで、マツタケの生産量は全国的に激減する傾向にあり、その原因は1960年代から始まった燃料革命による薪炭生産量の減少でアカマツ林が放置されるようになり、それに伴うマツクイムシによるマツの被害、酸性雨などの大気汚染、地球温暖化等の要因が複合的に重なり、林内の土壌理化学性、土壌微生物相がマツタケ菌の生息する環境に不適なものになった為と思料される。
【0004】
一方、無菌条件下でアカマツ無菌実生苗と菌根菌の菌糸を用いた混合培養によってマツタケ菌感染苗を作出した事例がいくつか報告されている。
(1)液体培地に浸漬したバーミキュライトを培地とする植物培養用フラスコでマツタケ菌糸体とアカマツ苗を混合培養して菌根を合成した(非特許文献1)。
(2)マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に破砕し、得られた菌糸体を含む培養液にアカマツの根を無菌的に浸漬して菌根を合成した(特許文献1)。
(3)試験管の寒天培地へ樹木の無菌幼苗を移植し、ショウロ菌糸を接種して取り出し、大型ビーカーに入れた滅菌済み海砂に移植して菌根を合成した(非特許文献2)。
(4)液体培養したマツタケ菌の粉砕菌糸体をバーミキュライトとミズゴケ混合培地で培養し、アカマツ無菌実生を移植して菌根を合成した。(特許文献3)
【0005】
しかし、上記培養法はいずれも、アカマツ苗の育成と菌根菌の培養を別々の容器で行なった後、培養菌糸が充満する培地へアカマツ無菌苗を移植あるいはアカマツ苗へ培養菌糸を人為的に直接付着させて菌根を合成させる手法であり、特殊な培養容器や煩雑な操作を伴い作業効率が悪く、コンタミの危険性や、順化後の厳しい自然環境の下で共生関係が維持されて菌根が定着し、シロとなって成長するかどうかが不明確で、実用に耐えうる感染苗生産方法とは言い難い。
【特許文献1】特許第3263730号公報(マツタケ菌根の迅速人工合成法)。
【特許文献2】特開2004−129653号公報(マツタケ菌と無菌発芽苗の共培養によるマツタケ菌感染マツ苗の形成方法)。
【非特許文献1】(衛藤慎也(1990)菌根合成によるマツタケ菌感染苗の育成 広島県林試研報、24、1〜6)。
【非特許文献2】2004 玉田克志 宮城県林業試験場業務報告37号10−11
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、やせた土地で栄養源を求めて菌糸を伸ばして宿主の根圏に菌糸伸長域を拡大させるという菌根菌のアカマツの根への自然感染経路に着目し、貧栄養培地等の一定条件下で菌根を形成させ、簡便な手法で短期間に感染苗を大量生産する方法を見出し、本発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法は、(1)アカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えた可及的に栄養分を含まない貧栄養培地に、アカマツ種子を播種する工程と、(2)少なくとも該アカマツ種子が発芽した後に、該アカマツ幼苗の根元付近に菌根菌を接種する工程と、(3)該接種した菌根菌の菌糸が伸長してアカマツ幼苗の一次根及び二次根を覆う工程と、(4)該菌根菌が感染したアカマツ幼苗を移植して順化させる工程と、を備えたことを特徴とする。
請求項2記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法は、貧栄養培地が、ゲル状の物質等であり、請求項3記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法は該ゲル状の物質がジェランガムであることを特徴とする。
請求項4記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法は、菌根菌が、マツタケ菌、コウタケ菌、チチタケ菌のいずれかであることを特徴とする。
請求項5記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法は、菌根菌が、麦芽抽出物、酵母抽出物及びペプトンを含んだ培地で継代培養された菌であることを特徴とする。
請求項6載の菌根菌感染アカマツ幼苗の根元付近に接種する菌根菌の生産方法は、菌根菌が、デンプンを含んだ穀物種子と多孔性を有する細粒とを混合させた培地で培養したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
少なくともアカマツ種子から発芽した後に該アカマツ幼苗の根元付近にマツタケ菌等の菌根菌が接種されると、該菌根菌は発芽したアカマツ幼苗の1次根及び2次根へと下降する。
その過程にあって、その培地がアカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えた可及的に栄養分を含まない貧栄養培地であり、マツタケ菌等の菌根菌は、本来貧栄養に耐え得る性状を備えるので、栄養源を求めて菌糸を伸ばし、上記1次根及び2次根を経て、アカマツ幼苗の光合成で糖類等の栄養を蓄えた根へと至り、菌糸伸長域を拡大して菌根形成を行なう。
このとき、貧栄養培地を、ゲル状物質(例えばジェランガム)とすれば、アカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えたものとすることができ、透明度が高い状態で発芽、1次根及び2次根の伸長、菌根菌の感染を目視することができる。
またこの際、当該マツタケ菌、コウタケ菌、チチタケ菌等の菌根菌が、麦芽抽出物及、酵母抽出物及びペプトンを含んだ培地で培養されたものであると、生育旺盛な活力のある菌糸となり、より貧栄養に耐え得る性状を備えたものとなり、菌根菌の感染率が高まり、より多くの感染苗を得ることができる。
同時に、菌根菌を、オオムギ等のデンプンを含んだ穀物種子と軽石、ゼオライト、大谷石等の多孔性を有する細粒とを混合させた培地で培養すると、菌根菌に十分な酸素を供給することが出来るので生育旺盛で活力のある種菌となり、より貧栄養に耐え得る性状を備えたものとなる。
こうした結果、本発明は、特別な培養装置や道具類、複雑な作業を必要とせず、確実にマツタケ菌等の菌根菌の感染したアカマツ幼苗を量産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、アカマツの種子を無菌発芽させた幼苗に、生育旺盛で活力のあるマツタケ種菌を接種して菌根菌の自然感染経路を利用して短期間に確実にマツタケ菌感染苗を得るもので、その具体的な実施の形態を生産過程の順に従い、図および表に基づいて説明する。
【0010】
図1における第1系列から説明する。
先ず、図1における第1系列を説明すると、アカマツの種子からアカマツ幼苗を育成のために、アカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えた可及的に栄養分を含まない貧栄養培地、例えば透明度の高いゲル状培地・ジェランガムを準備し固化する工程とする。
ここで言う貧栄養培地とは、アカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えた性質を有するが、それ自身はできる限り栄養分を含まない培地をいい、培地基質以外の新たな栄養分を添加することなく、且つ、それ自身もできる限り無機及び有機の植物の成長を促す栄養分を含まない培地を指す。例えば、透明度の高いゲル状の素ジェランガムが挙げられる。しかし、該貧栄養培地は、ジェランガムに限定されるものではない。
ここで、上記貧栄養培地に着目したのは、アカマツの種子は自らが持つ胚乳の栄養分により発芽、根を出し続いて胚軸が伸びて茎葉が展開するが、このアカマツ種子の生育過程において、栄養分を含んだ培地では種子の発芽率、根の発育とも良好でない。そこで、やせた土地で栄養源を求めて菌糸を伸ばして菌糸伸長域を拡大させるという菌根菌の自然感染経路に着目したもので、成長するアカマツの幼苗を支持する機能と保水性を有する培地に成り得る透明度の高いゲル状培地、素ジェランガムを採用した。
具体的には、耐熱容器を準備してイオン交換水1000mlを入れて15gのジェランガムを少量づつ攪拌しながら添加して加熱溶解、完全に溶解したのを確認し、該溶解液10mlをφ18mmの試験管に分注する。その後、該試験管の口部をアルミホイルまたはシリコン栓で蓋をして1.2気圧120℃、15分オートクレーブし、冷却して貧栄養で半透明なゲル、素ジェランガム培地を作成する。

【0011】
次に、図1に示す如く、前記滅菌したジェランガムを入れた試験管にアカマツ種子を播種し、無菌アカマツ幼苗を育成する。
図1は試験管1に貧栄養で透明度の高いゲル状の素ジェランガム培地2の表面に、アカマツ種子3を1粒播種した状態を示す。該アカマツ種子3の種皮は真菌類、バクテリアなどの雑菌で強く付着汚染されており、エチルアルコールで予備殺菌後、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤で殺菌し、滅菌水で数回ゆすいで播種する。その後、21〜25℃、12時間照明の培養室で培養すると該アカマツ種子は自らが持つ胚乳の栄養分により2週間で発芽し、次の図2、図3において、ジェランガム培地2の表面からアカマツの種子は自らが持つ胚乳の栄養分により発芽、根を出し続いて胚軸が伸びて茎葉が展開し、無菌のアカマツ幼苗4が生育する。

【0012】
次に、図1に示す第2系列に基づいて、マツタケ菌糸の採取、継代培養、オオムギからなるマツタケ種菌の生産過程について順に説明する。
先ず、図1に示す如く、マツタケ菌糸を採取し、これは例えばF136で広島県産マツタケのヒダ組織から1/2浜田培地で分離したマツタケ菌糸を、HY培地に移植し、1〜2回継代培養、増殖した該菌糸をマツタケ種菌の接種源とする。表1に、該HY培地の組成とその培地1リットル当たりの含量を示す。

【0013】
【表1】

【0014】
次に、図1の第2系列に示す如く、HY培地にて培養増殖したマツタケ菌糸をオオムギ培地へ繁殖させる工程とする。
オオムギは市販の圧片オオムギを一晩吸水させた後、容積比で20%の軽石またはゼオライトあるいは大谷石の細粒を添加混合した培地とし、上口部の大きな容積450mlの耐熱ガラス容器に300ml充填して60分間の蒸らし操作後、滅菌を1.2気圧、120℃、60分の条件でオートクレーブにて行った。該耐熱ガラス容器の上口部はφ5mmの孔付きキャップで蓋をし、この孔にフィルターを圧着させた構造として、マツタケ菌糸の呼吸に供する。更に、軽石またはゼオライトあるいは大谷石の細粒に関しては、オオムギ培地に膨軟性と通気を持たせることによりマツタケ菌糸の生育中に該培地が締まることなく十分酸素を供給して、活力ある該マツタケ菌糸を育てることに供する。
滅菌後放冷し、図4に示すように、HY培地で40日間継代培養したマツタケ菌糸スラント5を1〜2cm角の大きさに切り取り、該オオムギ7培地中にて、望ましくは該耐熱ガラス容器6の側面に埋め込んで2ケ月培養することによって、培養マツタケ菌糸から活力と感染力の高いマツタケ種菌、所謂オオムギで繁殖したマツタケ菌を育生させる。
該オオムギ7の該耐熱ガラス容器6面側や上表面側において、白色で旺盛に伸びたマツタケ菌糸がオオムギ7の表面を覆うようになったら該白色の菌糸部分を丁寧にピンセットで掻き取り、同じ組成のオオムギ培地に移植した。

【0015】
更に、図1の第3系列に示す如く、前記アカマツ幼苗への該マツタケ菌の接種及び菌根感染過程について説明する。
オオムギ培地で繁殖したマツタケ菌をアカマツ幼苗の根元付近に接種し、アカマツ幼苗へ感染させる菌根形成工程とする。
即ち、図5に示すように、アカマツ幼苗4の一次根8が十分伸長し、二次根9が発生したら無菌幼苗の根元付近に該マツタケ種菌10を1粒接種する。やがて、図5、図6に示すように、該マツタケ種菌10由来のマツタケ菌糸11は、接種2週間ほどでアカマツ幼苗4の生育に従い、貧栄養培地に滲出する根の代謝産物に感応して、アカマツ幼苗4の一次根8及び二次根9に沿って伸び、根の内部組織に侵入し、アカマツ幼苗の根部に充分なマツタケ菌等の菌根菌の菌根が形成される。該マツタケ菌糸11が根に沿って下降する状況を拡大し、図6の点線で示した。更に続けて、該マツタケ菌糸11はアカマツ幼苗4の一次根8及び二次根9へと下降を継続し、遂にはアカマツ幼苗4の一次根8及び二次根9の表面を覆って、根の内部に侵入して菌根が形成される。菌根が形成されると毛細根の発生が抑制される。図7は、成熟した時期の状態で、培養容器内にて菌根形成が行われた状態を表す概略写真である。
即ち、アカマツの種子は、本来やせた土地で栄養源を求めて菌糸を伸ばして菌糸伸長域を拡大させるが、このやせた土地と可及的に同等な条件を備えた貧栄養培地に植えられたアカマツ種子が成長して一次根及び二次根を伸ばすと、根元付近に播種されたマツタケ菌等の菌根菌がアカマツ幼苗の光合成で作成された糖類等の栄養源を求め、あるいは貧栄養培地に隣接して光合成産物のデンプン粒子を蓄えた根組織の生命活動に伴う代謝物質が貧栄養培地へ滲出するのを感知して感染の領域を根組織の表面に拡大し、それにより、アカマツ幼苗の根部に充分なマツタケ菌等の菌根菌の菌根が形成される。
この試みは、従来のマツタケ菌感染苗作成の失敗の原因が、本来マツタケ菌等の菌根菌は栄養の少ないやせた土地でアカマツと共生を行う菌であり、培養菌糸が充満する富培地へアカマツ苗を移植し或いはアカマツ苗へ培養菌糸を直接付着させてしまうと、菌根菌は培地内に豊富にある栄養供給を受けてしまい、やせた土地で栄養源を求めて菌糸を伸ばして菌糸伸長域を拡大させるという菌根菌本来の活動を低減させ結果的に感染の領域を根組織の表面に拡大できないが、一度形成された菌根が順化後に退化消滅すると推察されることに基づく。
この菌根の形成以降、マツタケ菌はアカマツ幼苗の一次根及び二次根と共生を行うようになる。すなわちマツタケ菌はアカマツ幼苗の光合成産物の糖類を貰い、アカマツ幼苗は自身の根が届かない場所の培地もしくは土壌から水分や栄養分をマツタケ菌から貰い、乾燥や養分欠乏に対する抵抗性を互いに高めつつ、共存のサイクルを形成する。
【0016】
このとき、上記マツタケ菌、コウタケ菌、チタケ菌等の菌根菌が、麦芽抽出物、酵母抽出物及びペプトンを含んだ培養液、更にはHY培地で、継代培代されたものであると、活力が高く生育旺盛な種菌となり、より貧栄養に耐え得る性状を備えたものとなり、菌根菌の高い感染率を示す種菌となる。
また、菌根菌を、オオムギ等のデンプンを含んだ穀物種子と軽石、ゼオライト、大谷石等の多孔性を有する細粒とを混合させた培地で培養すると、菌根菌が特に通気を必要とすることから、上記と同様生育旺盛な菌糸となり、より貧栄養に耐え得る活力の高い性状を備えたものとなる。
【0017】
感染後の幼苗が順化できる大きさに育ったら、軽石、赤土細粒の混合用土の鉢に移植、順化する。
順化したアカマツ苗は、岩石の風化土壌を含む砕石を盛った人工の築山に植え込むと数年後には苗木の成長に伴ってシロが形成、拡大し、マツタケ菌感染苗によるマツタケ山の大規模造成が可能となる。
【実施例】
【0018】
この発明の実施例を、上記実施の形態に基づいて製作した。その実施状況を以下に説明する。耐熱容器にイオン交換水1000mlを準備し、15gのジェランガムを少量づつ攪拌しながら添加・溶解しジェランガム溶解液を作製した。該ジェランガム溶解液10mlを試験管に分注し、その口部をアルミホイルで蓋をして1.2気圧,120℃で15分間滅菌し、無栄養で透明度の高いゲル状培地ジェランガムを作製した。該滅菌したジェランガムを入れた試験管に、エチルアルコールで予備殺菌後、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤で殺菌したアカマツ種子を播種し、25℃12時間照明の培養室で培養して2週間で発芽させ、一次根を伸長させて無菌アカマツ幼苗を育成した。採取したマツタケ菌糸を、栄養分を含有するHY培地に移植して継代培養し、マツタケ菌糸を増殖した。その後、吸水したオオムギに容積比で20%の大谷石の細粒を加えて混合し上口部の大きな容積450mlの耐熱ガラス容器に300ml充填して60分間の蒸らし作業を行って、1.2気圧、120℃で60分の条件でオートクレーブにて滅菌して所謂、オオムギ培地とした。前記HY培地で40日間継代培養したマツタケ菌糸スラントを1〜2cm角の大きさに切り取り、該オオムギ培地中の該耐熱ガラス容器の側面に埋め込んで2月培養し、培養マツタケ菌糸から感染力の高いマツタケ種菌を育生繁殖させた。アカマツ幼苗の一次根が伸長し、二次根が発生した無菌幼苗の根元付近に該マツタケ種菌を1粒接種した。接種2週間後にはマツタケ種菌がアカマツ幼苗の一次根に沿って栄養を求めて下降を開始し、遂に、アカマツ幼苗の二次根に至り、最終的に、根の表皮組織から細胞間隙に侵入して菌根を形成した。
【0019】
以上のマツタケ菌糸のアカマツの根への感染は透明度の高いジェランガム培地を通して行われ、肉眼による目視観察が可能であった。感染の事実は、感染によって毛細根の発生が抑制されたこと、根の組織観察により細胞間隙にハルヒネットの存在が観察されたこと、順化後の根に出来るマツタケ特有な形態の菌根の存在が観察されたこと(図8参照)、根の表面に付着する菌糸のDNAの塩基配列、等によって確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、短期間に確実に菌根菌感染苗を作成でき且つコストもかからず、マツタケ菌感染苗の大量生産が可能である。更に、マツタケだけでなく、チチタケ、コウタケ等の菌根菌にも応用が可能である。また、マツタケ菌感染苗によるマツタケ山の大規模造成に効果的であり、菌根菌感染苗は、環境や病虫害への抵抗性が増すので、計画的な菌根菌感染苗の植林によって環境保全や観光産業に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アカマツ種子の播種からアカマツ幼苗を順化させるまでの工程の流れを示す概略図である。
【図2】透明度の高いゲル状培地にアカマツ種子を無菌播種させた状態を示す概略図である。
【図3】試験管内の成長したアカマツ幼苗を示す概略図である。
【図4】オオムギ培地中に移植した培養マツタケ菌糸が周囲のオオムギに伸びて種菌となった状態を示す概略図である。
【図5】置床したオオムギ種菌から伸びたマツタケ菌糸が、アカマツ幼苗の一次根及び二次根へと下降してその表面を覆った状態を示す概略図である。
【図6】図5の一部を更に拡大した略図である。
【図7】培養容器内にてアカマツ無菌苗の一次根及び二次根へのマツタケ菌の感染状態を表す写真図である。
【図8】アカマツ順化苗に形成されたマツタケ特有の菌根を表す写真図である。
【符号の説明】
【0022】
1 試験管
2 ジェランガム培地(貧栄養培地)
3 アカマツ種子
4 アカマツ幼苗
5 マツタケ菌糸スラント
6 耐熱ガラス容器
7 オオムギ
8 一次根
9 二次根
10 マツタケ種菌
11 マツタケ菌糸








【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アカマツ幼苗の根を支持可能で且つ保水性を備えた可及的に栄養分を含まない貧栄養培地に、アカマツ種子を播種する工程と、
(2)少なくとも該アカマツ種子から発芽した後に、該アカマツ幼苗の根元付近に菌根菌を接種する工程と、
(3)該接種した菌根菌の菌糸が伸長してアカマツ幼苗の一次根及び二次根を覆う工程と、
(4)該菌根菌が感染したアカマツ幼苗を移植して順化させる工程と、
を備えたことを特徴とする菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法。
【請求項2】
貧栄養培地が、ゲル状物質である請求項1記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法。
【請求項3】
貧栄養培地のゲル状物質が、ジェランガムである請求項2記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法。
【請求項4】
菌根菌が、マツタケ菌、コウタケ菌、チチタケ菌のいずれかである請求項1〜3のうちいずれかに記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法。
【請求項5】
菌根菌が、麦芽抽出物、酵母抽出物及びペプトンを含んだ培地で継代培養された菌である請求項1〜4のうちいずれかに記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法。
【請求項6】
菌根菌が、デンプンを含んだ穀物種子と多孔性を有する細粒とを混合させた培地で培養した菌である請求項1〜5のうちいずれかに記載の菌根菌感染アカマツ幼苗の生産方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−296977(P2009−296977A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157381(P2008−157381)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000242024)株式会社北研 (17)
【出願人】(508181489)
【Fターム(参考)】