説明

菓子

【課題】溶融時、高粘性を示すチョコレートなどの食用油脂類をその中心近傍にまで浸透させ、かつ主要材料である果実類や食用花卉類が、その特有の色調や形状を保持している一口サイズの新規な菓子類の提供。
【解決手段】一口サイズの大きさの果実類または食用花卉類の少なくとも中心部近傍まで食用油脂類が浸透している菓子であって、かつ該菓子の外観からどのような果実類または食用花卉類であるかを判別できる形状および色調をもっていることを特徴とする菓子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要原料である果実類や食用花卉類の形状や色調が一見して分かり、かつチョコレートなどの食用油脂類をその中に含有する新規な菓子類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、果実などの乾燥品をチョコレートセンターとして使用している例があるが、乾燥品の周囲をチョコレートなどの食用油脂類で被覆しているため、その中の乾燥品の色調やその他の果実類などに特有の形状を確認できない。そのため購入にあたって不明のまゝ買い、食べて初めて内容物の実体を知るというのが実情であり、果実たとえばいちごの存在をアピールしたい製造者側の意図も消費者に充分伝わらないという問題点があった。
【0003】
被覆果実類菓子の分野では、近年乾燥果実の食感を改良するため、また、そのまゝではもろくて破損しやすく、さらに再び大気中の水分を吸収して果実の痛みを促進するため、凍結乾燥によって乾燥前の水分の1〜20%まで乾燥した後、この水分をアルコールや糖の水溶液などで置換し、表面をチョコレートなどの油脂類で被覆する技術が特許文献1により提案されている。特許文献2では、凍結乾燥後に前記特許文献1におけるアルコールや糖の水溶液の代わりに綿実サラダ油や大豆サラダ油を含浸させ、生の果実らしいしっとり感を与えようと試みている。しかし、これらの技術においては粘度の高いチョコレートのような食用油脂類を果実類の中心部まで浸透させ、全体を固体状にするという意図は全く存在していない。
【0004】
特許文献3には、真空凍結乾燥した果実の外面にツェイン(プロラミンに属する分子量約38000のアルコール可溶性植物タンパク質)の被膜が形成された被覆乾燥物品が開示されており、実施例3には、ホワイトチョコレートとカカオ代用脂とを1:1の割合で混合し、60℃に加温して比較的粘度の低い溶融物に、真空乾燥したイチゴを浸漬したところ、イチゴに練乳をかけた状態の中間製品となり、さらにこれにツェイン濃度10%含水エタノール溶液で被覆した旨開示されている。この記載によれば、チョコレートとカカオ代用脂の混合溶融物に60℃で乾燥イチゴを浸漬しているが、このような果実からみて高温の液に長時間浸漬したのでは、果実本来の特色の色彩と風味が失われてしまうという問題があり、また、これらの技術においては粘度の高いチョコレートのような食用油脂類を果実類の中心まで浸透させようという意図は全く存在していない。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−50855号公報
【特許文献2】特開昭62−11573号公報
【特許文献3】特開平6−284875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、溶融時、高粘性を示すチョコレートなどの食用油脂類をその中心近傍にまで浸透させ、かつ主要材料である果実類や食用花卉類が、その特有の色調や形状を保持している一口サイズの新規な菓子類に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、一口サイズの大きさの果実類または食用花卉類の少なくとも中心部近傍まで食用油脂類が浸透している菓子であって、かつ該菓子の外観からどのような果実類または食用花卉類であるかを判別できる形状および色調をもっていることを特徴とする菓子に関する。
本発明の第2は、前記食用油脂類がチョコレート類である請求項1記載の菓子に関する。
【0008】
本発明における一口サイズの大きさは、その言葉どおりのものであるが、あえて数字的に表現すれば、ほヾ1cm〜27cm、好ましくは1cm〜16cm程度の大きさのものである。一口サイズの果実類としては、具体的には、イチゴ、チェリー、ブドウなどは一粒のまゝで、メロン、リンゴ、もも、パイナップルなどは例えば角切りで、キウイ、バナナ、ビワなどは例えばスライスした形などで使用できる。
【0009】
本発明の菓子は、通常下記の方法に従って製造する。
すなわち、(1)一口サイズの大きさの果実類または食用花卉類を、(イ)減圧下で水を含浸させた後、(ロ)緩慢凍結することにより組織中の空隙を増大し、(2)ついで、これを凍結乾燥し、(3)得られた凍結乾燥物を、常温条件下では固化しているが30〜50℃で溶融する食用油脂類の溶融物中に浸漬して食用油脂を減圧下で凍結乾燥物の内部にまで含浸させた後、(4)常温下で全体を固形状にする。
前記水の含浸量が元の重量の少なくとも5重量%以上であることが好ましい。
前記緩慢凍結は、まず−1〜−10℃の雰囲気下で3時間以上かけて行い、ついで−15℃以下の雰囲気下で十分凍結を行うことが好ましい。
【0010】
食用花卉類としては、比較的肉厚のものがよく、具体的には、菊のがくを含む花部、ランの花部、椿の花弁などを挙げることができる。とくに花弁は浸透にさいし、中心までの距離は短いが、その組織が緻密で、さらに花の外皮組織は皮質的構造からなっているので、前記製造方法の適用が不可欠である。
【0011】
本発明において用いる食用油脂類とは食用油脂または食用油脂を主体とする混合物であって、この溶融物を果実類や食用花卉類に含浸させるに当っては、できるだけ果実類や食用花卉類の変色を最小限に抑えて組織内部に充分含浸させることが必要であり、このためには特別の対策が必要である。果実類および食用花卉類の変色を最小限に抑えた温度における溶融状態では粘度が高いため、通常の凍結乾燥をした程度の果実類や食用花卉類では、食用油脂類をその内部まで充分浸透させることができない。そのため第一に果実類および食用花卉類の組織中に含まれる空気を含む空隙をねらって、あらかじめそこに水を浸入させておき、凍結工程で生ずる果実類や食用花卉類内部の氷結晶の大きさとその量を大とし、凍結乾燥後の空隙をより大きくすることが必要である。
【0012】
果実類や食用花卉類の組織の中には前述のとおり空気を含む空隙が存在する。この空隙を水と置換するには果実類や食用花卉類を水中に埋没させて減圧(例えば約8,000Pa)にし、そのまま常圧にゆっくり戻すことで得られる。さらにその果実類や食用花卉類が所有している以上の水分を加えることで、凍結乾燥後の空隙を大きくすることができる。もちろんこの水にビタミンC、糖類、酸味料、香料等を溶解させることにより、凍結乾燥後の果実類や食用花卉類に、よりそれらしい風味を付加することもできるし、経時変化防止等他の目的のための成分を溶解させることも可能である。
【0013】
前記水の含浸量は、果実類や食用花卉類の元の重量に対して少なくとも5重量%以上、好ましくは少なくとも10重量%以上であり、多ければ多いほど後で食用油脂を浸透させるスペースを多くすることができるので好ましい。通常30重量%程度が上限である。
【0014】
また凍結乾燥後の組織中の空隙を増大させる別の方法として、凍結乾燥前段階での予備凍結のさい、最初に−1℃〜−10℃の凍結庫に入れて緩慢凍結することが好ましい。この緩慢凍結により形成される氷結晶を大きなものとすることができる。緩慢凍結の時間は少なくとも3時間が必要である。この温度条件では果実類や食用花卉類の組織中にはまだ一部に凍結していない部分が残存している可能性があるので、果実類や食用花卉類中の水分をほゞ完全に凍結させるために、緩慢凍結後−15℃以下の凍結庫に移し、少なくとも3時間保つことが好ましい。
【0015】
これら減圧下での水の含浸および緩慢凍結の処置を経た果実類を凍結乾燥すると、前記処置を行わなかったものと比較して、組織内部の氷結晶が大きいので、氷結晶が存在した部分が大きな空隙として残る。このことはその後の工程での油脂類の浸入の改善につながる。乾燥品状態での製品のテクスチャーは大きく変化するが、これは本発明においては本質的なことではなく、その後の油脂類注入において好都合となるものである。
【0016】
前記水の含浸および凍結乾燥は、いずれも減圧下、いわゆる真空下で行うことが好ましい。
水の含浸における圧力は、通常20,000Pa以下、好ましくは8,000Pa以下であり、凍結乾燥における圧力は、通常133Pa以下、好ましくは70Pa以下である。
【0017】
前記常温条件では固化しているが、30〜50℃、好ましくは30〜40℃、とくに好ましくは32〜37℃で溶融する食用油脂類を用いれば、溶融温度が低いので、これに果実類や食用花卉類をかなりの時間浸漬しても果実類や食用花卉類本来の色彩を失うおそれがない。
【0018】
前記食用油脂としては、カカオ脂、綿実油、大豆油、コーン油、落花生油、カポック油、米ヌカ油、ひまわり油、ヤシ油、これらの水添油、ラード、水添ラード、エステル交換ラード、パーム油、水添パーム油、牛脂、水添牛脂、魚鯨硬化油脂などおよびこれらの混合物を挙げることができる。とくにカカオ脂が本発明における代表的な食用油脂であるが、これには、γ体:融点16〜18℃、α体:融点21〜24℃、β′体:融点27〜29℃、β体:融点34〜35℃の4種があるので、これより高融点の他の油脂類などと配合して所定の融点をもつ食用油脂類とすることができる。簡便には市販のホワイトチョコレートの適当な融点のものを選択、使用することができる。使用する食用油脂類の融点は30〜40℃であるが、気候、その他の条件により微妙に調整することが好ましく、とくに32〜37℃が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、はじめて一口サイズの果実類や食用花卉類のほゞ中心部までチョコレートなどの食用油脂類が含浸されており、かつその外観はどんな果実類か、どんな食用花卉類かを判別できる形状と色調を保った新規な菓子の提供に成功した。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げで本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1
一粒約15g、直径約20mm、高さ約25mmの新鮮な女峰種いちごを選択し、これを試料とした。試料いちごを水シャワーで洗浄しヘタを除去した。
この前処理いちごを真空含浸槽に入れ、浮上防止枠を上部に設置し、これに水を満たし、槽を密封した後、真空ポンプで約8,000Paまで吸引し、槽内を約8,000Paに10分間保った後、徐々に解圧して1時間静置した。引き上げたいちごは吸水により約25重量%の重量増加があり、容積も10%ほどの増加が認められた。
ついで、この水含浸いちごを、まず−7℃の凍結庫に入れ、6時間静置し、全体をほゞ緩慢凍結させた後、さらに−25℃の凍結庫に移して3時間静置し、凍結を完了させた。
前記凍結いちごを、真空条件130Pa、温度40℃において36時間かけて凍結乾燥させた。得られた乾燥いちごの水分量は4重量%で、1粒、約1.3gであった。
市販のノンテンパリングタイプのホワイトチョコレート(融点35℃)を含浸容器に入れ、湯煎で38〜39℃に保って溶融状態とし、これに前記乾燥いちごを浮上防止枠を用いて減圧(約8,000Pa)下に30分間埋没、含浸させた後、2時間30分かけてゆっくり常圧にもどした。この間ホワイトチョコレートの温度は38〜39℃に保った。含浸後、いちごを取り出し、表面に付着したホワイトチョコレートを35℃の雰囲気下に10分間保って滴下除去した後、10℃の冷風によりホワイトチョコレートを固化させた。
得られたホワイトチョコレート含浸いちごを横方向にカットしてホワイトチョコレートの浸透状態を観察した。その結果を表1に示す。
なお、この場合、断面径20mmのいちご粒を選んで行った。
【0022】
比較例1
実施例1における水含浸工程を省き、さらに女峰種いちごをそのまゝ−25℃の凍結庫に6時間静置し、速やかに凍結させることで前記緩慢凍結条件と異なる凍結条件を経て凍結乾燥された乾燥いちごを用いてホワイトチョコレートの含浸を試みた。その結果を表1に示す。なお、この場合実施例1とは、原料となるいちご種、いちごの大きさ、凍結乾燥条件、ホワイトチョコレート含浸工程については同等とした。
【0023】
比較例2
実施例1におけるホワイトチョコレート含浸工程において減圧を用いない代りとして、常圧下38〜39℃に保たれたホワイトチョコレートの溶融物中に、浮上防止枠を用いて3時間乾燥いちごを浸漬したさいの浸透状態を観察した。その結果を表1に示す。なお、この場合、実施例1とは、原料となるいちご種、いちごの大きさ、水含浸条件、緩慢凍結条件、凍結乾燥条件については同等とした。
【0024】
比較例3
実施例1における水含浸工程を省いた後、緩慢凍結、凍結乾燥を行った乾燥いちごを用いて、ホワイトチョコレートの含浸を試みた。その結果を表1に示す。
なお、この場合、実施例1とは、原料となるいちご種、いちごの大きさ、緩慢凍結条件、凍結乾燥条件、ホワイトチョコレート含浸工程については同等であった。
【0025】
比較例4
実施例1における緩慢凍結の代りに、女峰種いちごをそのまま−25℃の凍結庫に6時間静置し、速やかに凍結させることで前記緩慢凍結条件と異なる凍結条件を経て凍結乾燥された乾燥いちごを用いて、ホワイトチョコレートの含浸を試みた。その結果を表1に示す。
なお、この場合、実施例1とは、原料となるいちご種、いちごの大きさ、水含浸条件、凍結乾燥条件、ホワイトチョコレート含浸工程については同等であった。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1で得た果実類菓子は、充分内部までホワイトチョコレートが浸透しており、いちごの赤い色調がややかすんで見えるもののいちごの原型を保持し、喫食すると乾燥いちごのように口の中で唾液が吸収されることなく、いちごの風味を豊富に持った柔らかなチョコレートの舌ざわりを呈し、破損および吸湿による変質のない安定な菓子を得ることができた。
また、凍結乾燥したいちごの空隙の90%以上がチョコレートと置換したと見られ、乾燥状態の約10倍、生鮮状態の約90%の重量を呈し、ちょっとした重量感があり、外観から期待通りの違和感のない菓子として喫食できるものとなった。
【0028】
比較例1の目的は、いちご組織中の空隙を増大させる処理、具体的には水含浸処理および緩慢凍結の有無がチョコレート浸透に与える影響を調べるためであった。これら前処理を行った果実は問題なくチョコレートが浸透したが、前処理を行わない果実は、解圧時にチョコレートが浸透する空隙が小さく充分な浸透が行われない代りに、果実表面からチョコレートで押しつぶされ収縮してしまった。この結果から凍結乾燥前に果実類等の組織中空隙を増大させる必要性が分かる。
【0029】
比較例2の目的は、組織中の空隙を増大させる処理、具体的には水含浸処理および緩慢凍結を行った乾燥いちごであれば、チョコレート浸透での減圧工程を省略できるかの確認であった。チョコレート溶融物中に浸漬しただけでは果実中心まで充分浸透しない結果になった。この結果から、チョコレート含浸条件には減圧工程が必須であることが分かる。
【0030】
比較例3および比較例4の目的は、いちご組織中の空隙を増大させる2種類の処理、具体的には水含浸処理および緩慢凍結のどちらか一方だけでもチョコレート浸透が良好かどうかの確認であった。前記2種類の処理両方を行った実施例1よりは、比較例3および比較例4で得た果実類菓子の方がチョコレートの浸透度はやや劣るものの、いちごの原型は保持されており、体積の約60%以上はチョコレートと置換していた。また実施例1でえられたものと同様の舌ざわり、風味を持ち、充分喫食に足るものであった。この結果から、水含浸処理および緩慢凍結の両方の前処理を行った乾燥いちごであれば、目的とする菓子が製造可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一口サイズの大きさの果実類または食用花卉類の少なくとも中心部近傍まで食用油脂類が浸透している菓子であって、かつ該菓子の外観からどのような果実類または食用花卉類であるかを判別できる形状および色調をもっていることを特徴とする菓子。
【請求項2】
前記食用油脂類がチョコレート類である請求項1記載の菓子。

【公開番号】特開2006−141413(P2006−141413A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48749(P2006−48749)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【分割の表示】特願2001−103127(P2001−103127)の分割
【原出願日】平成13年4月2日(2001.4.2)
【出願人】(301016997)株式会社上野忠 (1)
【出願人】(301016986)日本エフディ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】