説明

落下衝撃試験計測システム

【課題】回転落下する錘体を用いた防護体への衝撃を計測するのに有効な落下衝撃試験計測システム及びそれに適した錘体の提供を目的とする。
【解決手段】傾斜面に沿って錘体を落下させ、落下してきた錘体を防護体にて受けた状態を計測する落下衝撃計測システムであって、錘体は三軸加速度センサと、当該三軸加速度センサにて得られた加速度を記録する加速度記録手段と、当該加速度記録手段を制御するための外部信号を受信する加速度記録信号受信手段とを備え、防護体は衝撃計測手段を備え、計測制御信号送信機からの無線信号にて前記加速度記録手段と衝撃計測手段とを同期制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石や雪崩による災害を最小限に抑えるための防護壁、防護堤、防護柵等(以下、防護体という)の開発に有効な落下衝撃試験計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳や沿岸道路沿いの斜面における落石や崩壊、あるいは雪崩による災害を防ぐには防護体の設置効果の予測や、施工費用の最適化等を図るには予め落石等の落下による衝撃試験及び評価が不可欠である。
このような場合に、従来は落下物の内部に加速度センサーを取り付け、この加速度センサーと外部の計測制御装置をケーブル等の有線を用いて接続していたので単に垂直方向に落下させる場合には計測が可能ではあったが、実際の斜面に沿った落石を想定すると、落下物を回転しながら落下させる必要があり、従来の有線接続では線が絡まったり断線し、計測が困難であった。
【0003】
特許文献1に、三軸加速度センサとマイクロコンピュータを内蔵した完全独立型の無線・光通信併用方式の三次元センシングストーンを開示するが、本公報に開示する技術は鉄道車両走行荷重載荷時のバラスト砕石の三次元的な運動を計測するのが目的であるために、個々の砕石に負荷される荷重は山沿いの落石等に比較して小さいものであり、砕石そのものは回転落下することがないので、本願のような1tonから数十ton以上にも及び大きな落石や雪崩の解析に適用できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−80617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は回転落下する錘体を用いた防護体への衝撃を計測するのに有効な落下衝撃試験計測システム及びそれに適した錘体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る落下衝撃試験計測システムは、傾斜面に沿って錘体を落下させ、落下してきた錘体を防護体にて受けた状態を計測する落下衝撃計測システムであって、錘体は三軸加速度センサと、当該三軸加速度センサにて得られた加速度を記録する加速度記録手段と、当該加速度記録手段を制御するための外部信号を受信する加速度記録信号受信手段とを備え、防護体は衝撃計測手段を備え、計測制御信号送信機からの無線信号にて前記加速度記録手段と衝撃計測手段とを同期制御することを特徴とする。
【0007】
ここで実際の落石の挙動を想定すると、錘体は傾斜面に沿って回転落下する多面体形状であるのが好ましく、錘体は、三軸加速度センサと、計測制御信号送信機からのトリガー信号を無線信号として受信する加速度記録信号受信手段と、当該トリガー信号にて加速度の記録を開始する加速度記録手段とを有しているのがよい。
【発明の効果】
【0008】
錘体に設けた加速度記録手段をONの状態にしてから落下させると防護体に設けた衝撃計測手段の計測開始時間にズレが生じ、計測データの解析時に時間合せが必要となるが、計測チャートにて時間合せするのが必ずしも容易でないが、本発明にあっては、無線信号にて錘体の加速度計測開始時間と、防護体の衝撃計測手段の計測開始時間を同期制御したのでその後の解析が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る計測システムの構成例を示す。
【図2】錘体の落下試験の流れを示し、(a)は落下前、(b)は落下途中、(c)は防護体に衝突した状態を示す。
【図3】錘体に設けられた加速度データの記録例を示し、(a)はX成分、(b)はY成分、(c)はZ成分、(d)はそれらの合成加速度の測定例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る落下衝撃試験計測システムは、無線信号で計測を制御する各種計測システムに適用できるが、以下図面に基づいて斜面に沿って錘体を回転落下させた場合の計測例について説明する。
【0011】
図1にシステム構成例を示す。
錘体10は少なくとも回転落下可能な四面体以上、例えば、八面体〜二十面体の多面体形状を有し、その内部に少なくとも三軸加速度センサ11、加速度記録手段12及び加速度記録信号受信手段13を備える。
また、必要に応じて他の計測手段を備える。
【0012】
防護体20は落石を想定した錘体10を受け止めるものであり、衝撃計測手段21と接続してある。
本実施例では衝撃を受けた衝撃加速度計測手段21aと衝撃による歪みや変位量を計測するための衝撃歪み・変位計測手段21bとを有した例になっているが、これらに限定されるものではない。
【0013】
トランシーバータイプ等の計測制御信号送信機1を有し、この送信機から無線で制御信号Sを錘体10の加速度記録信号受信手段(受信機)21に、例えばトリガー信号として記録開始信号を送信する。
本実施例では同時に当該送信機から制御信号Sが無線で防護体20の衝撃計測手段21に送信される例になっているが、防護体20は回転しないので錘体10と防護体20との計測が同期制御できる範囲にて、衝撃計測手段への指令信号は有線であってもよい。
また、無線信号の周波数に特に制限はないが、近距離でよいことから空中線電力が0.01W以下の特定小電力無線局に相当するトランシーバータイプで充分である。
例えば、421MHz帯,422MHz帯,440MHz帯、あるいは413MHz帯,414MHz帯,454MHz帯が例として挙げられる。
【0014】
本発明に係る計測システムを用いて試験評価した例を図2及び図3に示す。
図2に模式的に示したが、実際には17100kgの多面形状錘体10を斜面平均勾配43°,斜面高さ37mの位置から斜面30を回転落下させた。
斜面30には凹凸があり、錘体10は複雑な上下と回転を繰り返しながら落下し、法尻に向けてスピードを上げながら落下した。
その時の加速度の測定データを図3に示し、Gx成分、Gy成分及びGz成分を合成したところ、図3(d)に示すように約320m/sの合成最大加速度であった。
試験評価に供した防護体20には錘体10の衝突によりどれだけの力を受け、どのように構造が変形するかを計測するための加速度計や変位計、歪み計を取り付けてある。
仮に、錘体10の加速度記録手段の制御(例えばON開始時間)と防護体20に接続した計測機器の制御(例えばON開始時間)とが別々に独立して行われていると、図3に示したチャートからピーク変化時間を読みとり、防護体20の計測データとの整合調整が必要となる。
これに対して、無線による外部信号にて錘体10に設けた計測手段と防護体20に接続した計測手段との制御を同期化することで後でチャート上で整合調整する必要がなくなる。
また、本発明に係る錘体10にあっては、三軸加速度センサと加速度記録手段及び必要に応じて他の計測手段が内蔵され、外部信号にて制御されているので、遠隔操作が可能であり、重量の非常に大きい1ton以上の錘体であっても安全に且つ正確に試験ができる。
さらには、落石の動きを想定し、多面形状の錘体にしたことにより、複雑な動きを伴う衝撃に対する防護体の評価が可能になり、自然現象として生じる落石に合致した解析ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜面に沿って錘体を落下させ、
落下してきた錘体を防護体にて受けた状態を計測する落下衝撃計測システムであって、
錘体は三軸加速度センサと、当該三軸加速度センサにて得られた加速度を記録する加速度記録手段と、当該加速度記録手段を制御するための外部信号を受信する加速度記録信号受信手段とを備え、
防護体は衝撃計測手段を備え、計測制御信号送信機からの無線信号にて前記加速度記録手段と衝撃計測手段とを同期制御することを特徴とする落下衝撃試験計測システム。
【請求項2】
錘体は、三軸加速度センサと、計測制御信号送信機からのトリガー信号を無線信号として受信する加速度記録信号受信手段と、
当該トリガー信号にて加速度の記録を開始する加速度記録手段とを有していることを特徴とする請求項1記載の落下衝撃試験計測システムに用いる錘体。
【請求項3】
錘体は、傾斜面に沿って回転落下する多面体形状からなることを特徴とする請求項2記載の錘体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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