説明

落石防止柵支柱用の削孔方法

【課題】 落石防止柵支柱用の削孔機の作動や運搬を落石が予想される斜面の中腹を整地することなく架設できる噛合式軌条運搬車で行うことで、工費の節減や工期の短縮を可能にする。
【解決手段】 落石が予想される目的地まで斜面にラックが貼設される軌条を敷設し、この軌条を走行する運搬車に削孔機、資材及び人員を搭載して目的地まで進行し、目的地において、削孔機を作動させて落石防止柵の支柱の孔を削孔する落石防止柵支柱用の削孔方法において、運搬車が削孔機、資材及び人員を搭載する荷台車と、軌条のラックに強制回転させられるピニオンを噛み合わせて荷台車を牽引する牽引車とからなるものであり、目的地又はその手前までは牽引車及び荷台車が地面に埋設した支持杭で架設される単一の軌条で進行し、目的地では軌条の隣に荷台車の車輪が載る一本又は二本の第二軌条を架設し、この軌条及び第二軌条上で荷台車に削孔機を搭載したままで削孔機を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防止柵の支柱を埋入するための孔を削孔する落石防止柵支柱用の削孔方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
落石が予想される急斜面の下に道路、建物、鉄道等があるときには、落石を受け止める落石防止柵を構築する。この落石防止柵としては、コンクリート製の擁壁を地中深く埋め込んだり、金属製のネットや板(防止壁)を支柱で支えたりするものがある。前者は工事が大掛かりになるとともに、資材も多く必要とする。このため、後者の方法が多く採用されているが、問題となるは、支柱を埋入する孔を掘るための削孔機の運搬、据付け、運転である。
【0003】
落石防止柵は、落石が起こる場所との間隔が短い斜面の中腹に設けるのが落石の衝撃を軽減でき、支柱や防止壁の強度もそれほど要求されずに好ましい。ところが、このような場所に削孔機を運搬したり、据付けたりするためには、平坦地にするために山を切り開いて運搬路や据付け場所を確保する必要がある。しかし、斜面の中腹にこのような工事をするとなると、その施工に経費がかかるとともに、工期も長くなる。下記特許文献1に、地面に簡易なアンカーを立ててこの上に基礎ブロックを構築し、この基礎ブロックに支柱を立てたものが提案されているが、アンカーや基礎ブロックということになれば、ある程度の整地が必要になるし、強度も必要になる。一方、強度の足りないものであれば安定性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−232858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、落石防止柵支柱用の削孔に際し、削孔機の運搬、据付け、運転を斜面の中腹に敢えて整地することなく架設(敷設)できる軌条を走行できる運搬車で行うことで、工費の節減や工期の短縮を可能にしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、落石が予想される目的地まで斜面にラックが貼設される軌条を敷設し、この軌条を走行する運搬車に削孔機、資材及び人員を搭載して目的地まで進行し、目的地において、削孔機を作動させて落石防止柵の支柱の孔を削孔する落石防止柵支柱用の削孔方法において、運搬車が削孔機、資材及び人員を搭載する荷台車と、軌条のラックに強制回転させられるピニオンを噛み合わせて荷台車を牽引する牽引車とからなるものであり、目的地又はその手前までは牽引車及び荷台車が地面に埋設した支持杭で架設される単一の軌条で進行し、目的地では軌条の隣に荷台車の車輪が載る一本又は二本の第二軌条を架設し、この軌条及び第二軌条上で荷台車に削孔機を搭載したままで削孔機を作動させることを特徴とする落石防止柵支柱用の削孔方法を提供したものである。
【0007】
また、本発明は以上の削孔方法において、請求項2に記載した、荷台上で削孔機を据え付ける基礎ベースが左右に移動可能である手段、請求項3に記載した、第二軌条が斜面の中腹で等高線にほぼ沿って敷設される手段、請求項4に記載した、第二軌条が水平に据え付けられるレールベースの両端又は一端に直角に設けられるものであり、レールベースのほぼ中央に軌条が垂直に立設される手段を提供する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によると、削孔機の据付け場所までは単一の軌条を走行する運搬車によればよいから、樹木等の伐採は運搬車が走行できるだけの狭い範囲で足りる。これにおいて、軌条は支持杭で支えるものであるから、斜面のままでも施工できる。また、目的地近辺においては第二軌条を敷設し、これで削孔機を搭載する荷台車を支持するものであるから、車体が安定し、削孔機を荷台車に搭載したままで作動できる。この結果、削孔の能率が上がり、工費の節減、工期の短縮が可能になる。
【0009】
請求項2の手段によれば、荷台車における削孔機のバランスをとることができ、単一の軌条での運搬や作動時の重荷重に対応できる。請求項3の手段によれば、落石防止柵は等高線に沿って構築されるから、その支柱の孔も運搬車を少しずつ移動して連続して削孔することができ、工事を効率的にできる。加えて、軌条や第二軌条も斜面に敷設できるのであるから、落石防止柵を落石が始まる斜面の中腹に構築できることになり、過度の強度の落石防止柵は必要ない。請求項4の手段によれば、軌条及び第二軌条が簡単で精度よく敷設できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】運搬車の側面図である。
【図2】荷台車の背面図である。
【図3】運搬車の側面図である。
【図4】荷台車の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は運搬車の側面図、図2は運搬車のうちの荷台車の背面図であるが、この軌条1は所定間隔で地中に埋設された支持杭2で架設(敷設)されているものである。このときの支持杭2は平坦地に埋入されてもよいが、斜面であっても敷設できる。この場合は、斜面を敢えて整地する必要はない。運搬車3は荷を搭載する荷台車4と、荷台車4を牽引する牽引車5とからなる。なお、軌条1は角パイプ等で構成され、下面にはラック6が貼設されている。
【0012】
この種の牽引車5や荷台車4は従来周知であるので、ここでは詳説は省略するが、要するに、牽引車は5は動力原(本例では内燃機関エンジン)の動力を減速装置で減速して軌条1を上下から挟む上下二輪ずつの駆動輪と転動輪とからなる駆動輪ユニット7を有しているものである。この場合、駆動輪にはピニオン(図示省略)が形成されており、このピニオンがラック6に噛み合っている。なお、駆動輪ユニット7は従来周知のように水平回動と前後揺動が可能になって軌条1の曲がりと勾配に対応できるようになっている。さらに、本例では、牽引車5の後方に運転者を載せる操縦車8を有しているが、両者が一体になったものもある。
【0013】
操縦車8の後方には荷台車4が牽引される。本例では二台の荷台車4を牽引しているが、これは何台であってもよい。荷台車4(操縦車8も同様であるが)は、荷台ベース9の下方に同じく軌条1を上下から挟む都合四輪の転動輪からなる転動輪ユニット10を有し、この転動輪ユニット10で軌条1を挟んで転動する(水平回動と前後揺動ができるのは上記と同じ)。本例の場合、前方の荷台車4に削孔機11を搭載し、後方の荷台車4に必要資材12を搭載している。
【0014】
削孔機11を搭載する荷台車4は荷台ベース9の下に駆動輪ユニット10とは別の第二転動輪ユニット13を有している。第二転動輪ユニット13は軌条1の隣に同じく支持杭2で架設される一本又は二本設けられる後述の第二軌条14上を転動するものであり、第二軌条14上を転動する前後二輪の転動輪15を有するものである(水平回動と前後揺動ができるのは上記と同じ)。なお、転動輪15は第二軌条14に対してかなり幅広に形成されており、脱輪を防いでいる。
【0015】
落石防止柵の支柱のような杭を地中に深く埋入するには、杭をハンマーで叩く打撃系、杭を圧入する圧入系、オーガやドリルで孔をあける掘削系と種々のものがあり、いずれによってもよいが、本例では、予め大きめに形成した孔にセメント等で支柱を強固に固定できる掘削系の削孔機11を例示している。本例の削孔機11はポール等の支持装置16と、支持装置16に吊架されてオーガ等に回転力を付与する駆動装置17と、駆動装置17や資材を昇降させるワイヤやハンドルと言った昇降装置18を有しているものであり、支持装置16を荷台ベース9に立設しているものである。
【0016】
削孔機11を荷台ベース9に据え付けるには、荷台ベース9の中心に軌条1の幅方向(左右方向)に向けて前後二個の固定スリーブ19を取り付け、各固定スリーブ19にそれぞれ取付けバー20を左右に覗かせてスライド可能に挿入し、各取付けバー20に基礎ベース21を載せてこの基礎ベース21に枠体22で囲んだ支持装置16を立設している。したがって、削孔機11を据え付ける基礎ベース21は枠体22と一緒に左右に移動できるようになっている。なお、任意の位置で固定できるボルト等の従来周知の固定構造も設けられている。
【0017】
一方、後方の荷台車4には、削孔機11の運転に必要なエンジン、バッテリー、発電機、制御機構付きの油圧発生装置、空圧発生装置といった種々の附属装置を搭載している。また、この他に、支柱、工具、作業人員を搭載することがある(これらを必要資材12と称する)。
【0018】
以上の軌条1を落石が予想される個所まで延設する。本発明の場合、この軌条1の路線をできるだけ落石が始まる山の中腹まで延設するのが特徴である。落石の衝撃を軽減して支柱や防止壁の強度が低くても足りるようにして工事費の節減と設備の完璧化を図るためである。この運搬車3は噛合式であって登坂力も強いから、軌条1は斜面を上下するように敷設できるが、少なくとも、工事個所では等高線にほぼ沿う、すなわち、最大傾斜線に直角な方向に敷設する。なお、この理由については後述する。
【0019】
目的地の近く又はその手前では(場合によっては全線に亘ってもよい)軌条1の外側に上記した第二軌条14を軌条1よりも低位置で架設(敷設)する。図3はこの場合の運搬車の荷台の側面図、図4は背面図であるが、本例では、第二軌条14を軌条1の両側に二本敷設しているが、一本だけの場合もあり、その場合は多くは谷側に敷設される。加えて、本例では、二本の第二軌条14を渡すレールベース23を設け、レールベース23を第二支持柱24で支えて敷設している。そして、レールベース23のほぼ中心に軌条1を直角に立設し、これをユニットとして構成している。
【0020】
軌条1の支持杭2は垂直に立設する必要があり、第二軌条14も一本であろうが二本であろうが、その上面は水平である必要がある。しかも、軌条1と第二軌条14の高さや幅を設計どおりに合わせなければならない。これを個々に施工するとすれば、施工に手間どることになるが、このようなユニットのレールベース23を用いることでレベル出しが容易になり、施工が簡単になる利点がある。特に、第二軌条14を二本敷設するときは大きな意義がある。なお、レールベース23は第二転動輪ユニット10の転動輪15を下から支持するものであるから、地面を平坦地に整地してその上に直接敷設することもある。
【0021】
次に、以上の各設備によって削孔機11を運搬、据付け、作動させる場合について説明する。落石防止柵を施工する場所(目的地)までは運搬車3は単一の軌条1で進行する。したがって、第二転動輪ユニット13は宙に浮いた状態で走行することになるが、このとき、削孔機11を据え付ける基礎ベース21を左右に動かしてバランスをとる。なお、第二軌条14は一本のときもあるが、二本敷設するときに備えて第二駆動輪ユニット13は左右それぞれに常備しておくのが適する。このように、軌条1は単一な支持杭2で地上に架設されるものであるから、周囲の樹木等の伐採は荷台車4或いはその搭載物が通過できる必要最低限でよいし、地面を敢えて整地する必要もない。この点で、コストも安く、施工期間も短い。
【0022】
目的地近辺では、第二軌条14を設ける。この場合、第二軌条14の前後単は端側が下がった傾斜にしておき、荷台車4の第二転動輪ユニット13の転動輪15が乗り上げ易いようにしておく。なお、転動輪ユニット10は軌条1を上下から挟んでいるものであるから、軌条1と第二軌条14との高低差は転動輪ユニット10と第二転動輪ユニット13との高低差に合わせておく必要がある。
【0023】
運搬車3が目的地に到着したなら、運搬車3を軌条1及び第二軌条14にロックし、削孔機11を搭載したままで作動させる。削孔機11を作動させたり、支柱等を吊り上げたりするときには当然に支持装置16にその反力が生ずるから、これを削孔機11の左右位置を調整しつつ第二軌条14で受け持つことになる。なお、基礎ベース21と地面との間にアウトリガ(図示省略) を介在させれば、この機能をより補完することができる。
【0024】
目的地では、第二軌条14(軌条1も同じ)を等高線にほぼ沿うように敷設することは上述した。落石防止柵は等高線に沿って構築するのが普通であり、それを支える支柱も複数本が等高線に沿って埋入される。そこで、第二軌条14を等高線に沿って敷設しておけば、運搬車3を所定距離移動させて削孔機11を作動させることで、複数本の支柱用の孔を計画どおりに連続して削孔できる。したがって、削孔を効率的にでき、工費の節減、工期の短縮を可能にする。なお、工事に際しては支柱や資材を何回か搬入、搬出する必要もあるが、その都度、この運搬車3で運搬することになる。
【符号の説明】
【0025】
1 軌条
2 支持杭
3 運搬車
4 荷台車
5 牽引車
6 ラック
7 駆動輪ユニット
8 操縦車
9 荷台ベース
10 転動輪ユニット
11 削孔機
12 必要資材
13 第二転動輪ユニット
14 第二軌条
15 転動輪
16 支持装置
17 駆動装置
18 昇降装置
19 固定スリーブ
20 取付けバー
21 基礎ベース
22 枠体
23 レールベース
24 第二支持柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落石が予想される目的地まで斜面にラックが貼設される軌条を敷設し、この軌条を走行する運搬車に削孔機、資材及び人員を搭載して目的地まで進行し、目的地において、削孔機を作動させて落石防止柵の支柱の孔を削孔する落石防止柵支柱用の削孔方法において、運搬車が削孔機、資材及び人員を搭載する荷台車と、軌条のラックに強制回転させられるピニオンを噛み合わせて荷台車を牽引する牽引車とからなるものであり、目的地又はその手前までは牽引車及び荷台車が地面に埋設した支持杭で架設される単一の軌条で進行し、目的地では軌条の隣に荷台車の車輪が載る一本又は二本の第二軌条を架設し、この軌条及び第二軌条上で荷台車に削孔機を搭載したままで削孔機を作動させることを特徴とする落石防止柵支柱用の削孔方法。
【請求項2】
荷台上で削孔機を据え付ける基礎ベースが左右に移動可能である請求項1の落石防止柵支柱用の削孔方法。
【請求項3】
第二軌条が斜面の中腹で等高線にほぼ沿って敷設される請求項1又は2の落石防止柵支柱用の削孔方法。
【請求項4】
第二軌条が水平に据え付けられるレールベースの両端又は一端に直角に設けられるものであり、レールベースのほぼ中央に軌条が垂直に立設される請求項1〜3いずれかの落石防止柵支柱用の削孔方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52338(P2012−52338A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195576(P2010−195576)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(301061632)株式会社モノテック (2)
【出願人】(000134981)株式会社ニッカリ (43)
【Fターム(参考)】