説明

蒸気タービンバルブ

【課題】本発明の目的は、耐磨耗性に優れた蒸気タービンバルブを提供することにある。
【解決手段】本発明の蒸気タービンバルブは、フェライト鋳鋼に肉厚3〜5mmのステライト板を摩擦撹拌接合した弁座または弁棒からなる。また、前記バルブにおいて、ステライト層は等軸晶であり、鋳造組織を含まない。また、前記バルブにおいて、ステライト表層からフェライト鋳鋼方向の2mmまでステライト層に鉄の混入が重量で3%以下である。また、前記バルブにおいて、ステライト層とフェライト鋳鋼の希釈層が1〜2mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンにおける蒸気流量を調整する蒸気タービンバルブに係り、特に、弁座または弁棒の耐摩耗性を向上した蒸気タービンバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、蒸気の流入を遮断または制御する目的で、主蒸気止め弁,蒸気加減弁,再熱蒸気止め弁,再熱蒸気加減弁,インターセプト弁などが設置されている。弁座や弁棒の接触・摺動部には、12Crフェライト鋳鋼が使用されているが、基材のみでは耐摩耗性が不足している。そこで弁座の接触部では、コバルト基合金(ステライト)の肉盛溶接によって、弁棒の摺動部では、窒化処理等によってそれぞれ耐摩耗性を向上させることが行われている。
【0003】
特許文献1には、12Cr鋼の蒸気タービンバルブの接触・摺動面に、ステライト(コバルト基合金)を肉盛溶接することにより、耐摩耗性・耐酸化性を向上した蒸気弁が開示されている。
【0004】
特許文献2には、焼結ステライトのシート部材を拡散溶接,摩擦溶接,鍛接,高温ろう接した、きのこ状弁の製造方法が開示されている。
【0005】
ステライトを肉盛溶接により肉盛する場合には、残留応力に起因する割れが起きることが多い。また肉盛溶接や摩擦圧接では、ステライトの溶融温度以上で溶接されるため、溶接後の金属組織は鋳造組織と同様の組織形態になる。このような組織形態においては、溶融状態から凝固する際にデンドライトが晶出し、デンドライト間隙には共晶炭化物やホウ化物が析出する。その結果、析出した共晶炭化物やホウ化物が選択的に腐食することにより、運転中に腐食部分を起点とする割れが発生する問題がある。割れが発生した場合、再度補修肉盛溶接,応力除去焼鈍、及び旋盤加工仕上げを行う必要があり、コストも高くなる。
【0006】
一方、窒化処理では耐磨耗性は向上するが、耐酸化性が低下する問題がある。蒸気加減弁が高温蒸気により酸化すると、運転時間とともに生成した酸化スケールによって摺動部の間隙が減少し、定期検査ごとにスケールを除去しなければ、摺動部が固着してしまう。
【0007】
以上のように、従来の技術は、いずれもタービン部材の耐摩耗性とコストを満足すると言えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−221105号公報
【特許文献2】特開昭60−166710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐磨耗性に優れた蒸気タービンバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の蒸気タービンバルブは、フェライト鋳鋼に肉厚3〜5mmのステライト板を摩擦撹拌接合した弁座または弁棒からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐摩耗性に優れた蒸気タービンバルブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例の接合状態を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例における蒸気タービン弁座の斜視図である。
【図4】本発明の実施例における蒸気タービンバルブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の蒸気タービンバルブは、フェライト鋳鋼に肉厚3〜5mmのステライト板を摩擦撹拌接合した弁座または弁棒からなることを特徴としている。
【0014】
摩擦攪拌接合方法は、被接合材よりも実質的に硬い材質の円柱状部材よりなる攪拌ツールを回転させながら、被接合材の接合部に挿入し、この攪拌ツールを回転させながら移動することによって、攪拌ツールと被接合材との間で発生する摩擦熱により接合する方法である。
【0015】
摩擦攪拌接合は、攪拌ツールと被接合材との摩擦熱により被接合材を軟化させ、攪拌ツールの回転に伴う塑性流動現象を利用したものであり、被接合材を溶かして溶接するアーク溶接方法などとは異なる原理に基づいている。
【0016】
本発明においては、ステライトの溶融温度に達しない温度での固相拡散接合であるため、溶接後の金属組織は等軸晶となり、鋳造組織を含まない。そのため、残留応力や共晶炭化物等の選択腐食による溶接割れや運転時の割れが防止可能となる。
【0017】
また、ステライト層とフェライト鋳鋼の希釈層を1〜2mmにすることにより、ステライト層への鉄の混入が少なくなり、耐摩耗性の減少が抑制できる。好ましくは、ステライト表層からフェライト鋳鋼方向の2mmまでのステライト層に、鉄の混入が重量で3%以下であれば、充分な耐摩耗性を有する。
【0018】
本発明は、板材の突き合わせによる摩擦撹拌接合とは異なり、摩擦撹拌接合と同時に、ステライト表層の組織を微細化する摩擦撹拌処理の効果も有する。従って、ステライト表面が高強度化され、耐摩耗性のさらなる向上が可能となる。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施例の接合状態を示す断面図である。図2は本発明の実施例を示す斜視図である。
【0021】
フェライト鋳鋼1を基材とする弁座または弁棒の表面に、厚さ3〜5mmのステライトの板を固定し、先端にピン状のプローブ4を有する撹拌ツール5を回転させながら挿入し、撹拌ツールを回転させながら移動することにより、攪拌ツールとステライト及びフェライト鋳鋼との摩擦熱により軟化させ、攪拌ツールの回転に伴う塑性流動現象を利用して接合する。
【0022】
フェライト鋳鋼とステライト板の間には、希釈層3が形成されるが、固相拡散により接合されているため、接合後の組織は等軸晶となり、鋳造組織を含まない。そのため、残留応力や共晶炭化物等の選択腐食による溶接割れや運転時の割れが防止できる。
【0023】
摩擦攪拌接合の施工条件として、高温でも高硬度となる金属間化合物Co3(Al,W)を利用したCo基合金からなる撹拌ツールを使用する。あるいはPCBN等の高硬度セラミックスを使用してもよい。主軸の回転数は、200〜1200rpm、接合速度は20〜400mm/minとすることが好ましい。
【0024】
施工方法として、攪拌ツールまたは撹拌処理位置を図2のx,y方向に移動させることにより、全面を接合することが可能であるが、撹拌ツールの径に対して接合面積が広い場合には、接合中のステライト板の曲がりを防止するため、先に部分的に摩擦撹拌スポット溶接を行い、その後に等間隔の格子状あるいは全面を接合することも可能である。
【0025】
さらに攪拌接合後には、接合部分を熱処理する加熱手段や、摩擦攪拌後に生成したステライト表面の凹凸を除去する切削手段を設けても良い。
【実施例1】
【0026】
図3は、本発明における蒸気タービン弁座の斜視図である。12Crフェライト鋳鋼からなる弁座31に、板厚3mmのステライト#6からなるステライト層32を固定し、前記の攪拌ツールを用いて摩擦攪拌接合した。図3では弁座及びステライト板を回転させて弁座の円周状に施工したが、装置の構成によっては、弁座及びステライト板を固定して攪拌ツールを回転させながら弁座の円周状に移動して施工することもできる。
【0027】
ここで弁座の材料は、フェライト鋳鋼であれば8〜13Cr鋼でも良く、またステライト板は、ステライト#21等、Co基合金であれば上記に限定されないことは言うまでもない。
【0028】
主軸の回転数は、200〜1200rpm、接合速度は20〜400mm/minで施工した結果、摩擦攪拌接合後の表面は平滑となり、ピンホールやボイド等の欠陥及び溶接割れは生じなかった。
【実施例2】
【0029】
図4は、本発明における蒸気タービンバルブの断面図を示す。本実施例の蒸気タービンバルブは、弁座31と弁体33と、弁座を弁体に対して上方向に移動させる弁棒7と弁棒7を支持する衛帯筐9とフェライト鋳鋼1から構成されている。図4は蒸気弁が閉じた状態を示しており、弁棒及び弁体が弁座から離れることによって、流入口11から流入した蒸気が弁体と弁座の間を流れる。
【0030】
本実施例では、弁座31の弁体33との接触部分に、ステライト層32を摩擦攪拌接合により施工した。弁座及び弁体の接触部分は、円周状の線接触であるため、実施例1と同様に施工した弁座について、旋盤加工により表面の凹凸を切削した後、組立施工した。
【符号の説明】
【0031】
1 フェライト鋳鋼
2 ステライト板
3 希釈層
4 プローブ
5 攪拌ツール
7 弁棒
31 弁座
32 ステライト層
33 弁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト鋳鋼に肉厚3〜5mmのステライト板を摩擦撹拌接合した弁座または弁棒からなることを特徴とする蒸気タービンバルブ。
【請求項2】
請求項1において、ステライト層は等軸晶であり、鋳造組織を含まないことを特徴とする蒸気タービンバルブ。
【請求項3】
請求項1において、ステライト表層からフェライト鋳鋼方向の2mmまでステライト層に鉄の混入が重量で3%以下であることを特徴とする蒸気タービンバルブ。
【請求項4】
請求項1において、ステライト層とフェライト鋳鋼の希釈層が1〜2mmであることを特徴とする蒸気タービンバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−107593(P2012−107593A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258462(P2010−258462)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】