説明

蒸気ボイラへの薬剤供給方法

【目的】蒸気ボイラの安定的な運転を補助するための薬剤をボイラ給水へ供給するに当り、薬剤が効果的にかつ経済的に蒸気ボイラへ作用するよう、当該薬剤の供給量を制御する。
【構成】給水経路41を通じて蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水に対して薬剤供給装置60から薬剤を供給するための方法では、先ず、蒸気ボイラ20における伝熱管の厚さ等の評価用項目の判定値を制御装置70に入力し、この判定値と、予め制御装置70に記録された対応する評価用項目の基準値との差を数量的に求める。そして、当該差に基づいて、薬剤供給装置60からボイラ給水への薬剤の供給量を制御装置70により加減する。ここで用いられる薬剤は、例えば、腐食抑制剤、スケール抑制剤またはキャリオーバ抑制剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気ボイラへの薬剤供給方法、特に、ボイラ給水を加熱して蒸気を発生する蒸気ボイラの運転において、蒸気ボイラの安定的な運転を補助するための薬剤を供給装置からボイラ給水へ供給するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ給水を加熱して蒸気を発生する蒸気ボイラは、ボイラ給水の水質の影響を受けて腐食の発生、スケールの付着、および、キャリオーバの発生等が起こり、安定的な運転が損なわれることがある。このため、蒸気ボイラの運転では、通常、ボイラ給水に対し、これらの不具合の発生を抑制するための薬剤を添加している。
【0003】
ボイラ給水に対する薬剤の添加量は、通常、ボイラ給水の水質に応じて制御している。例えば、蒸気ボイラの腐食抑制剤であるpH調整剤をボイラ給水へ供給する場合、このpH調整剤の供給量は、ボイラ給水の全炭酸濃度に応じて加減している(例えば、特許文献1、2)。また、蒸気ボイラでのスケール付着を抑制するスケール抑制剤をボイラ給水へ供給する場合、このスケール抑制剤の供給量は、ボイラ給水の全炭酸濃度とシリカ濃度とに応じて加減している(例えば、特許文献3、4)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−28395公報
【特許文献2】特開2004−28396公報
【特許文献3】特開2004−85144公報
【特許文献4】特開2004−85145公報
【0005】
しかし、蒸気ボイラは、蒸気生成能力に応じて仕様が様々である。例えば、蒸気ボイラの循環比、熱負荷、内部圧力、ボイラ水温度および伝熱管の厚さは、蒸気ボイラにおける腐食、スケール付着およびキャリオーバの発生傾向に関係する仕様項目であるが、これらの仕様は蒸気ボイラの種類により異なる。このため、ボイラ給水の水質に応じて薬剤の供給量を制御すると、薬剤による十分な効果が得られずに蒸気ボイラの安定的な運転が困難になる可能性があり、また、薬剤の過剰供給が生じて蒸気ボイラ運転の経済性が損なわれる可能性もある。
【0006】
本発明の目的は、蒸気ボイラの安定的な運転を補助するための薬剤をボイラ給水へ供給するに当り、薬剤が効果的にかつ経済的に蒸気ボイラへ作用するよう、当該薬剤の供給量を制御することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ボイラ給水を加熱して蒸気を発生する蒸気ボイラの運転において、蒸気ボイラの安定的な運転を補助するための薬剤を供給装置からボイラ給水へ供給するための方法に関する。この供給方法は、基準となる蒸気ボイラを設定し、当該基準蒸気ボイラにおける仕様項目群から選択された少なくとも一つの評価用項目の評価値と、当該評価値に基づいて設定された基準蒸気ボイラにおける薬剤の最適供給量とを制御装置に記録する工程Aと、薬剤を供給する処方対象蒸気ボイラにおける評価用項目の判定値を制御装置に入力し、制御装置において、入力された判定値と記録された評価値との差を数量的に求める工程Bと、工程Bにおいて求めた差に基づいて、供給装置からボイラ給水へ供給する薬剤の供給量を制御装置により制御する工程Cとを含んでいる。
【0008】
そして、工程Cでは、上記差が蒸気ボイラの安定的な運転が阻害されやすい側にある場合は供給量を上記差の数量に応じて最適供給量よりも多く設定し、上記差が蒸気ボイラの安定的な運転が阻害されにくい側にある場合は供給量を上記差の数量に応じて最適供給量よりも少なく設定する。
【0009】
この供給方法をより具体的に説明すると、先ず、基準蒸気ボイラは、予め任意に選択されたものである。そして、その仕様項目群は、当該基準蒸気ボイラを構成する部材の仕様項目や基準蒸気ボイラの運転条件の仕様項目等であって、蒸気ボイラの安定的な運転に影響を与える仕様項目(評価用項目)からなる。仕様項目の具体例としては、例えば、循環比、熱負荷、内部圧力、ボイラ水温度および伝熱管の厚さの各項目を挙げることができる。
【0010】
基準蒸気ボイラにおいては、その安定的な運転を妨げる事象(以下、「安定運転阻害事象」と云う場合がある)、例えば、腐食発生、スケール付着若しくはキャリオーバ発生と、上述の仕様項目との関連性から、仕様項目群から選択された少なくとも一つの評価用項目の評価値に基づいて、蒸気ボイラの安定的な運転を補助するための薬剤(すなわち、安定運転阻害事象を抑制するための薬剤)の最適供給量を設定する。ここで、評価値は、評価用項目を数値化したものであり、処方対象蒸気ボイラにおける同項目の数値(判定値)を評価する際の基準値となるものである。
【0011】
そして、本発明の供給方法は、工程Aにおいて、上述の基準蒸気ボイラにおいて選択した評価用項目の評価値と、上述の最適供給量とを制御装置に記録する。
【0012】
一方、薬剤を供給する処方対象蒸気ボイラは、本発明の供給方法により薬剤を供給する蒸気ボイラである。本発明の供給方法では、工程Bにおいて、この処方対象蒸気ボイラにおける評価用項目、すなわち、基準蒸気ボイラにおいて選択した評価用項目と同じ評価用項目の判定値を上述の制御装置に入力する。判定値は、処方対象蒸気ボイラの評価用項目を数値化したものである。そして、制御装置において、入力された判定値と工程Aにおいて記録された評価値との差を数量的に求める。これにより、処方対象蒸気ボイラは、基準蒸気ボイラと対比した場合において、安定的な運転が阻害されやすいか否かの傾向が判明する。例えば、評価用項目が伝熱管の厚さである場合、上述の差(判定値−評価値)がマイナスのとき(すなわち、処方対象蒸気ボイラの伝熱管の厚さが基準蒸気ボイラの伝熱管の厚さよりも小さい場合)は、処方対象蒸気ボイラは基準蒸気ボイラよりも伝熱管において腐食による破損が発生しやすく、また、スケール付着による膨出や変形が発生しやすいことが判明する。逆に、上述の差がプラスのとき(すなわち、処理対象蒸気ボイラの伝熱管の厚さが基準蒸気ボイラの伝熱管の厚さよりも大きい場合)は、処方対象蒸気ボイラは基準蒸気ボイラよりも伝熱管において腐食による破損が発生しにくく、また、スケール付着による膨出や変形が発生しにくいことが判明する。
【0013】
そこで、本発明の供給方法は、工程Cにおいて、工程Bにおいて求めた上述の差に基づいて、供給装置からボイラ給水へ供給する薬剤の供給量を制御装置により制御する。ここで、上述の差が蒸気ボイラの安定的な運転を阻害しやすい側にあるとき(例えば、伝熱管の厚さが上述のようにマイナスのとき)は、ボイラ給水へ供給する薬剤の供給量を上述の差の数量に応じて最適供給量よりも多く設定する。この結果、処方対象蒸気ボイラは、薬剤の供給不足が回避され、安定的な運転が可能になる。一方、上述の差が蒸気ボイラの安定的な運転を阻害しにくい側にあるとき(例えば、伝熱管の厚さが上述のようにプラスのとき)は、ボイラ給水へ供給する薬剤の供給量を上述の差の数量に応じて最適供給量よりも少なく設定する。この結果、処方対象蒸気ボイラは、薬剤の過剰供給が回避され、経済的に安定的な運転をすることができる。
【0014】
本発明において、評価用項目の評価値および判定値は、絶対的評価で数値化したもの(例えば伝熱管の厚さが評価用項目の場合、当該厚さの具体的な測定値)であってもよいし、相対的評価で数値化したもの(例えば同様の場合、伝熱管の厚さを腐食による破損のしやすさおよびスケール付着による膨出や変形のしやすさに応じて段階的なレベルで表現した数値)であってもよい。但し、絶対的評価で数値化するか、相対的評価で数値化するかは、評価値と判定値との差を求める必要のあることから、評価値と判定値とで統一する必要がある。
【0015】
本発明の供給方法において供給される薬剤は、安全運転阻害事象を抑制し、蒸気ボイラの安定的な運転を補助するためのものであり、例えば、腐食抑制剤、スケール抑制剤およびキャリオーバ抑制剤から選ばれた少なくとも一つである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る蒸気ボイラへの薬剤供給方法は、上述の工程を含むため、蒸気ボイラが安定的にかつ経済的に運転されるよう、薬剤の供給量を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係る供給方法を実施可能な蒸気ボイラ装置を説明する。図1において、蒸気ボイラ装置1は、熱交換器、蒸気釜、リボイラ若しくはオートクレーブ等の蒸気使用設備である負荷装置2に対して蒸気を供給するためのものであり、給水装置10、蒸気ボイラ20、復水配管30および薬剤供給装置60を主に備えている。
【0018】
給水装置10は、蒸気ボイラ20へボイラ給水を供給するためのものであり、ボイラ給水を貯留するための給水タンク40と、ボイラ給水として用いる補給水を給水タンクへ供給するための補給経路50とを主に備えている。給水タンク40は、その底部から蒸気ボイラ20へ延びる給水経路41を有している。給水経路41は、蒸気ボイラ20に連絡しており、給水タンク40内に貯留されたボイラ給水を蒸気ボイラ20へ送り出すための給水ポンプ42を有している。
【0019】
補給経路50は、注水路51を有している。この注水路51は、水道水、工業用水若しくは地下水等の水源から供給される原水が貯留されている原水タンク(図示せず)から給水タンク40へ補給水を供給するためのものであり、給水タンク40へ向けて軟水化装置52および脱酸素装置53をこの順に有している。
【0020】
軟水化装置52は、原水タンクからの補給水をナトリウム型陽イオン交換樹脂により処理し、補給水に含まれる硬度分、すなわち、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをナトリウムイオンに置換して軟化水へ変換するためのものである。
【0021】
脱酸素装置53は、軟水化装置52において処理された補給水中の溶存酸素を除去するためのものであり、通常、分離膜を用いて溶存酸素を除去する形式のもの、処理水を減圧環境下において溶存酸素を除去する形式のもの、若しくは、処理水を加熱して溶存酸素を除去する形式のものなどの公知の各種の形式のものが用いられる。
【0022】
蒸気ボイラ20は、貫流ボイラであり、図2に示すように、給水経路41から供給されるボイラ給水を貯留可能な環状の貯留部21、貯留部21から起立する多数の伝熱管22(図2では二本のみ示している)、伝熱管22の上端部に設けられた環状のヘッダ23、ヘッダ23から負荷装置2へ延びる蒸気供給配管24およびバーナーなどの燃焼装置25を主に備えている。燃焼装置25は、ヘッダ23側から貯留部21方向へ燃焼ガスを放射し、伝熱管22を加熱可能である。
【0023】
伝熱管22は、非不動態化金属を用いて形成されている。非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、非不動態化金属の範疇に属する。
【0024】
復水配管30は、負荷装置2から給水タンク40へ延びており、スチームトラップ31を有している。スチームトラップ31は、蒸気と水とを分離するためのものである。復水配管30は、通常、給水タンク40内に貯留されたボイラ給水に対して空気を巻き込まないようにするため、外気と隔絶されるよう施工されているのが好ましい。具体的には、復水配管30は、先端部がボイラ給水内に配置されているのが好ましく、給水タンク40の底部近傍に配置されているのが特に好ましい。復水配管30は、蒸気ボイラ20の伝熱管22と同じく、非不動態化金属を用いて形成されている。
【0025】
薬剤供給装置60は、給水経路41と連絡しており、給水タンク40から蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水中へ薬剤を供給するためのものである。薬剤供給装置60は、薬剤を貯留するための薬剤タンク61と、薬剤タンク61から給水経路41へ延びる供給路62と、供給路62に設けられた供給ポンプ63と、制御装置70とを有している。供給ポンプ63は、薬剤タンク61に貯留された薬剤を供給路62を通じて給水経路41へ送り出すものであり、流量制御が可能なものである。
【0026】
ここで用いられる薬剤は、蒸気ボイラ20の腐食、より具体的には伝熱管22の腐食を抑制するための薬剤(以下、「腐食抑制剤」と云う)である。腐食抑制剤としては、例えば、ボイラ給水によるボイラ水のpHを腐食の発生しにくい範囲に調節可能なpH調整剤(例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物)、ボイラ水から溶存酸素を除去する脱酸素剤(例えば、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩)、伝熱管22の表面に皮膜を形成させる皮膜形成剤(例えば、クエン酸塩やケイ酸塩等)などが用いられる。
【0027】
制御装置70は、供給ポンプ63を制御するための電子情報処理組織であり、図3に示すように、中央制御装置71と、読出専用記録装置72、書換可能記録装置73および入出力ポート74を主に備えている。中央制御装置71は、制御装置70全体の動作を制御するためのものである。読出専用記録装置72は、主に、薬剤供給装置60の動作プログラムを記録している。書換可能記録装置73は、各種の電子データを一時的に記録するためのものである。さらに、入出力ポート74は、制御装置70において情報の入出力をするためのものであり、入力側に情報を手入力するための入力装置75を有し、また、出力側に供給ポンプ63が連絡している。
【0028】
次に、上述の蒸気ボイラ装置1の動作を説明する。
蒸気ボイラ装置1の運転では、先ず、原水タンクから注水路51を通じて給水タンク40へ補給水を供給し、この補給水をボイラ給水として給水タンク40に貯留する。
【0029】
この際、原水タンクからの補給水は、先ず、軟水化装置52において処理され、軟化水になる。この結果、補給水は、蒸気ボイラ20においてスケールを生成させにくくなる。軟水化装置52において軟化水となった補給水は、次に、脱酸素装置53において脱酸素処理される。これにより、補給水は、蒸気ボイラ20において伝熱管22等の腐蝕を促進する溶存酸素が除去される。
【0030】
以上の結果、給水タンク40には、脱酸素処理された軟化水がボイラ給水として貯留されることになる。
【0031】
給水タンク40に補給水が貯留された状態で給水ポンプ42を作動させると、給水タンク40に貯留された補給水、すなわちボイラ給水は、給水経路41を通じて蒸気ボイラ20へ供給される。蒸気ボイラ20へ供給されたボイラ給水は、貯留部21においてボイラ水として貯留される。このボイラ水は、各伝熱管22を通じて燃焼装置25により加熱されながら各伝熱管22内を上昇し、徐々に蒸気になる。そして、各伝熱管22内において生成した蒸気は、ヘッダ23において集められ、蒸気供給配管24を通じて負荷装置2へ供給される。
【0032】
負荷装置2へ供給された蒸気は、負荷装置2を通過して復水配管30へ流れ、そこで潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ31において蒸気と水とが分離されて高温の復水になる。このようにして生成した復水は、復水配管30を通じて給水タンク40へ回収されて貯留された補給水と混合され、ボイラ給水として再利用される。この際、給水タンク40に貯留されたボイラ給水は、高温の復水により加熱されるので、蒸気ボイラ20での加熱負担が軽減される。したがって、蒸気ボイラ装置1は、蒸気ボイラ20を稼動するための燃料コストを抑制することができ、経済的に運転することができる。
【0033】
上述のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、蒸気ボイラ20は、ボイラ水の水質の影響を受け、伝熱管22に腐食が発生しやすい。この腐食は、伝熱管22に孔空き等の損傷を与え、蒸気ボイラ20の安定的な運転を妨げる。
【0034】
そこで、蒸気ボイラ装置1は、運転中において、給水経路41内を蒸気ボイラ20へ流れるボイラ給水に対し、薬剤供給装置60から腐食抑制剤を供給する。
【0035】
次に、図4に示す動作フローチャートに従い、薬剤供給装置60からの腐食抑制剤の供給方法を説明する。この供給方法は、制御装置70の読出専用記録装置72に記録された動作プログラムに基づいて実行される。
【0036】
工程A
先ず、ステップS1において、基準蒸気ボイラにおける仕様項目群から選択された評価項目の評価値と、当該評価値に基づいて設定された基準蒸気ボイラにおける腐食抑制剤の最適供給量とを入力装置75から入力する。
【0037】
ここで、基準蒸気ボイラは、上述の蒸気ボイラ20と構成が同じであるが各部の仕様が異なる同種の蒸気ボイラ装置から選択された標準的なものであり、上述の蒸気ボイラ20とは別のものである。当該基準蒸気ボイラでは、その伝熱管の腐食に関連する各種の仕様項目群から任意の仕様項目を少なくとも一つ選択し、選択した仕様項目を評価用項目とする。この実施の形態では、評価用項目として、循環比、熱負荷、内部圧力、ボイラ水温度および伝熱管の厚さの五つの項目を評価用項目として選択する。
【0038】
基準蒸気ボイラにおいて選択した評価用項目は、ボイラ水中の塩化物イオンや硫酸イオン等のイオン成分濃度および残留溶存酸素濃度などの基準蒸気ボイラの腐食を促進する因子(腐食促進因子)との関係における腐食進行への寄与を数値的に評価し、評価値を設定する。
【0039】
ここで、評価値は、絶対的評価による数値(例えば、伝熱管22の厚さの測定値)であってもよいし、相対的評価による数値(10段階評価の何段目)であってもよい。上述の五つの評価用項目は、絶対的評価による数値として得ることもできるが、相対的評価による数値として得ることもできる。
【0040】
この実施の形態では、便宜上、各評価用項目の評価値が相対的評価によるものとし、また、各評価値が10段階評価(数値が大きい程、腐食への寄与が大きい)の5であることにする。
【0041】
基準蒸気ボイラにおける腐食抑制剤の最適供給量は、上述の五つの評価用項目との関係で腐食抑制剤の供給量と蒸気ボイラの腐食抑制効果との対応関係を基準蒸気ボイラにおいて実験的に調べ、その実験結果から予め求めておくことができる。因みに、最適供給量は、単位時間当たりの最適供給量を意味する。
【0042】
動作プログラムは、ステップS1で入力された情報をステップS2において記録する。そして、続くステップS3では、ステップS2で記録した情報を加工する。ここでは、先ず、図5に示すように、ステップS2において記録された情報に基づくレーダーチャートを作成する。このレーダーチャートは、基準蒸気ボイラ装置における上述の各評価用項目の評価値を表示したものである。図において、Aは循環比、Bは熱負荷、Cは内部圧力、Dはボイラ水温度、Eは伝熱管の厚さの各評価用項目を示している。このレーダーチャートにおいて、各評価用項目の評価値は、10段階評価の5に位置する。次に、ステップS3では、このレーダーチャートにおいて各評価用項目の評価値を結んだ正五角形の面積(以下、「基準面積」と云う)を計算する。この基準面積は、基準蒸気ボイラにおける腐食抑制剤の最適供給量と対応するため、次のステップS4において記録される。
【0043】
工程B
次のステップS5において、動作プログラムは、蒸気ボイラ装置1の蒸気ボイラ20(処方対象蒸気ボイラ)に関する情報入力を待つ。蒸気ボイラ20における、基準蒸気ボイラにおいて選択したものと同じ評価用項目の判定値をオペレータが入力装置75から入力すると、動作プログラムは、次のステップS6において、入力された判定値を記録する。
【0044】
ステップS5において入力する判定値は、蒸気ボイラ20の各評価用項目毎に調べたものであり、基準蒸気ボイラの評価値と同様に、10段階評価で判定されたものである。
【0045】
次のステップS7において、動作プログラムは、ステップS6で記録した情報を加工する。ここでは、先ず、ステップS6において記録された情報に基づくレーダーチャートを作成する。このレーダーチャートは、蒸気ボイラ20における各評価用項目の判定値を表示したものであり、図5と同様のものである。次に、ステップS7では、このレーダーチャートにおいて各評価用項目の判定値を結んだ五角形の面積(以下、「判定面積」と云う)を計算する。この判定面積は、基準蒸気ボイラとは仕様が異なる蒸気ボイラ20における腐食抑制剤の最適供給量と対応するため、次のステップS8において記録される。そして、動作プログラムは、次のステップS9において、ステップS8で記録した判定面積とステップS4において記録した基準面積との差X(判定面積−基準面積)を計算する。
【0046】
工程C
動作プログラムは、続くステップS10において、給水経路41を通じて給水タンク40から蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水への腐食抑制剤の供給量(単位時間当りの供給量)を計算する。ここで、供給量は、基準蒸気ボイラにおける最適供給量に差Xに対応する供給量を加減した量に設定される。そして、次のステップS11は、供給ポンプ63を作動させ、ステップS10において計算した供給量で、薬剤タンク61から供給路62を通じて給水経路41へ腐食抑制剤を供給する。この結果、蒸気ボイラ20は、腐食抑制剤が作用し、腐食が抑制される。
【0047】
例えば、蒸気ボイラ20において、各評価用項目の判定値が次のような場合、そのレーダーチャートは図6に示すようなものになり、差Xはプラス値になる。図6において、A〜Fは図5と同じである。
【0048】
循環比:判定値7
熱負荷:判定値8
内部圧力:判定値6
ボイラ水温度:判定値5
伝熱管の厚さ:判定値6
【0049】
この場合、蒸気ボイラ20は、基準蒸気ボイラに比べて伝熱管22の腐食が進行しやすい状態にあるため、腐食抑制剤の供給量が最適供給量に対して差Xに対応する供給量を加えた量に設定される。この結果、蒸気ボイラ20は、腐食抑制剤の供給不足になるのが回避され、伝熱管22の腐食が効果的に抑制される。
【0050】
一方、蒸気ボイラ20において、各評価用項目の判定値が次のような場合、そのレーダーチャートは図7に示すようなものになり、差Xはマイナス値になる。図7において、A〜Fは図5と同じである。
【0051】
循環比:判定値3
熱負荷:判定値5
内部圧力:判定値4
ボイラ水温度:判定値4
伝熱管の厚さ:判定値2
【0052】
この場合、蒸気ボイラ20は、基準蒸気ボイラに比べて伝熱管22の腐食が進行しにくい状態にあるため、腐食抑制剤の供給量が最適供給量に対して差Xに対応する供給量を減じた量に設定される。この結果、蒸気ボイラ20は、腐食抑制剤の過剰供給が回避され、伝熱管22の腐食を経済的に抑制することができる。
【0053】
因みに、差Xが0の場合、蒸気ボイラ装置1は、最適供給量で腐食抑制剤が供給される。
【0054】
オペレータが薬剤供給装置60の停止操作をした場合、動作プログラムは、ステップS12において停止指令を発し、薬剤供給装置60からの薬剤供給を停止する。
【0055】
[変形例]
(1)上述の実施の形態は、ボイラ給水へ腐食抑制剤を供給する場合を例に説明したが、ボイラ給水へ供給する薬剤が蒸気ボイラ20の安定的な運転を補助するための他の薬剤、例えば、伝熱管22にスケールが付着するのを抑制するための薬剤(以下、「スケール抑制剤」と云う)若しくは蒸気ボイラ20から負荷装置2へ供給される蒸気にボイラ水が混入する現象であるキャリオーバを抑制するための薬剤(以下、「キャリオーバ抑制剤」と云う)などの場合も本願発明を同様に実施することができる。
【0056】
この場合に用いられるスケール抑制剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸またはその塩、リン酸またはその塩、ポリアクリル酸やポリマレイン酸などのポリカルボン酸またはその塩などであり、また、キャリオーバ抑制剤は、例えば、ポリグリコール類、ポリアミド類、シリコン類、アルギン酸塩およびマンヌロン酸塩などである。
【0057】
(2)上述の実施の形態では、給水経路41に対して一つの薬剤供給装置60を配置したが、給水経路41に対して薬剤供給装置60を複数配置し、各薬剤供給装置60から異なる種類の薬剤を供給するようにすることもできる。この場合、各薬剤の供給量は、蒸気ボイラ20における評価用項目の判定値に基づいて薬剤毎に設定する。
【0058】
(3)上述の実施の形態では、評価用項目として上述の五つの項目を選択しているが、評価用項目は、その他にも、例えば、稼働率、伝熱管の材質、伝熱管内の水位、ボイラ水の電気伝導率などを選択することができる。また、選択する評価用項目は、一つでもよい。但し、評価用項目は、できるだけ多く選択する方が、薬剤の供給量をより適切に制御する上で好ましい。
【0059】
(4)上述の実施の形態では、蒸気ボイラ20として貫流ボイラを用いているが、蒸気ボイラ20として他の形態のものを用いた場合も本発明を同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の一形態に係る供給方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の概略図。
【図2】前記蒸気ボイラ装置において用いられる蒸気ボイラの一部断面概略図。
【図3】前記蒸気ボイラ装置において用いられる制御装置の概略図。
【図4】前記制御装置の動作フローチャート。
【図5】基準蒸気ボイラ装置に関する評価用項目の評価値を表したレーダーチャート。
【図6】前記実施の一形態における評価用項目の判定値の一例を表したレーダーチャート。
【図7】前記実施の一形態における評価用項目の判定値の他の例を表したレーダーチャート。
【符号の説明】
【0061】
20 蒸気ボイラ
41 給水経路
60 薬剤供給装置
70 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ給水を加熱して蒸気を発生する蒸気ボイラの運転において、前記蒸気ボイラの安定的な運転を補助するための薬剤を供給装置から前記ボイラ給水へ供給するための方法であって、
基準となる蒸気ボイラを設定し、当該基準蒸気ボイラにおける仕様項目群から選択された少なくとも一つの評価用項目の評価値と、当該評価値に基づいて設定された前記基準蒸気ボイラにおける前記薬剤の最適供給量とを制御装置に記録する工程Aと、
前記薬剤を供給する処方対象蒸気ボイラにおける前記評価用項目の判定値を前記制御装置に入力し、前記制御装置において、入力された前記判定値と記録された前記評価値との差を数量的に求める工程Bと、
前記差に基づいて、前記供給装置から前記ボイラ給水へ供給する前記薬剤の供給量を前記制御装置により制御する工程Cとを含み、
前記工程Cでは、前記差が前記蒸気ボイラの安定的な運転が阻害されやすい側にある場合は前記供給量を前記差の数量に応じて前記最適供給量よりも多く設定し、前記差が前記蒸気ボイラの安定的な運転が阻害されにくい側にある場合は前記供給量を前記差の数量に応じて前記最適供給量よりも少なく設定する、
蒸気ボイラへの薬剤供給方法。
【請求項2】
前記仕様項目群は、循環比、熱負荷、内部圧力、ボイラ水温度および伝熱管の厚さの各評価用項目からなる、請求項1に記載の蒸気ボイラへの薬剤供給方法。
【請求項3】
前記薬剤は、腐食抑制剤、スケール抑制剤およびキャリオーバ抑制剤のうちから選ばれた少なくとも一つである、請求項1または2に記載の蒸気ボイラへの薬剤供給方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−170112(P2008−170112A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5244(P2007−5244)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)